説明

マイクロデバイスの流体制御方法及びマイクロデバイス

【課題】磁気障壁通路又は反磁気障壁流路に沿って流す流体の流体制御を簡単な構成で高精度に行うことができる。
【解決手段】基板12に配設された細線状の磁性体材料22に対して外部磁場を印加することにより磁性体材料22に沿った磁気障壁通路を形成し、該磁気障壁通路に沿って磁性流体A,Bを流通させる。この流通において、磁性体材料22の途中を断線させる断線工程と、断線した通路断線部34を通路断片36で結線させる結線工程と、により、磁気障壁通路に沿って流れる磁性流体A,Bの流通を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロデバイスの流体制御方法及びマイクロデバイスに係り、特に、磁気障壁により流体通路を形成し、該流体通路に流体を流通させる際に、流通を制御するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の化学システムにおいては、化学操作を行うデバイス(装置)のミクロ化、集積化が注目されている。デバイスのミクロ化、集積化によって、化学操作を行う操作時間の大幅な短縮と高効率化、あるいは化学操作に使用する試薬量・廃液量の低減、更には省スペース、携帯性などのさまざまなメリットをもたらし、「オンデマンド、オンサイト化学プロセス」を可能にする。このようなデバイスは、マイクロリアクター、マイクロミキサー、マイクロデバイス、マイクロチップ等と称され、以下総称してマイクロデバイスということにする。
【0003】
このマイクロデバイスは、半導体集積化回路のように基板上に化学プロセスを行う構造を集積・微細化した形で形成することができる。通常、マイクロデバイスは、基板上に数十〜数百ミクロンの径の溝(マイクロ流路)を作製したもので、マイクロ流路内の小空間において混合、反応、分離、検出などの化学操作を行う。しかし、このような微細なマイクロ流路を基板に形成するには、例えばガラス基板にエッチング加工を行う等の微細加工技術が必要であり、高い加工精度を必要とすると共に手間がかかる作業であった。また、化学操作を行うには、マイクロ流路に流す流体の流通を制御する必要もあり、微細なマイクロ流路にバルブを付ける高度な加工技術を必要とする。
【0004】
ところで、微細溝であるマイクロ流路に流体、特に高粘性の流体を流すと、流体とマイクロ流路壁面との摩擦抵抗、あるいは流体同士の摩擦抵抗により、流体の滑らかな流通が妨げられるという問題がある。このことから、流体の流通における摩擦抵抗を発生させないマイクロチップとして、特許文献1及び特許文献2に開示される「磁気障壁により形成される液体通路を有するマイクロリアクター」が提案されている。この、マイクロリアクターは、外部磁場がマイクロ流路内の磁性流体に与える磁場効果により発生する磁気障壁により、マイクロ流路内で固体壁の影響を受けずに流体を送液する技術であり、マイクロ流路を溝として形成する必要がない。
【0005】
磁気障壁により形成された磁気障壁通路は、磁性をもつ材料でできており、これは基板上又は基板内に埋め込んで使用する。そして、導入部より、送液する流体が正の磁化率をもつ流体であれば、この状態で外部磁場を加えると、磁性流体はこの磁気障壁通路上にしか存在できないため、あたかも磁気の壁が生じ、存在領域が限定される。以後、磁気障壁通路上に形成される磁気の壁を磁気障壁と呼ぶ。
【0006】
磁気通路形成材料として、反磁性体の材料を用いると、水などの反磁性流体を固体壁の存在なく送液することが可能である。即ち、磁気障壁通路は、フラットな基板上で液体の流通を行うことが可能になり、従来のように基板に溝を穿設しなくても液の送液、及び保持を行うことができる。
【0007】
また、磁性流体は外部磁場に応答し、反発、もしくは引力を受ける。この送液される磁性液体(試料液体)はそれとは磁化率の異なる磁性液体(環境液体)で覆われる必要がある。磁化率の異なるこれらの液は外部磁場に対する応答性が異なるため、2液は容易には混合されず、分離し、その状態を保つことができる。外部磁場が印加されなければ、この2種類の磁性流体は混ざり合うが、磁場印加中は混ざり合わずに界面が形成される。送液は流路上流と下流のヘッド差による。
【特許文献1】特開2002−239366号公報
【特許文献2】特開2004−82118号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述したように、マイクロデバイスにおいて化学操作を行うには、単に流体を流通させればよいのではなく、流体を流したり、遮断したりする流通制御が必要であり、このことは磁気障壁で形成した通路の場合も同様である。
【0009】
特許文献1及び2では、かかる流体の流通制御に関しては、何ら開示されておらず、実装置として使用するには不十分である。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、磁気障壁通路又は反磁気障壁流路に沿って流す流体の流体制御を簡単な構成で高精度に行うことができるマイクロデバイスの流体制御方法及びマイクロデバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、基板に配設された細線状の磁性体材料に対して外部磁場を印加することにより前記磁性体材料に沿った磁気障壁通路を形成し、該磁気障壁通路に沿って磁性流体を流通させるマイクロデバイスの流体制御方法において、前記磁性体材料の途中を断線させる断線工程と、前記断線した通路断線部を結線させる結線工程と、により、前記磁気障壁通路に沿って流れる磁性流体の流通を制御することを特徴とするマイクロデバイスの流体制御方法を提供する。
【0012】
請求項1によれば、基板に配設された細線状の磁性体材料に対して外部磁場を印加することにより磁性体材料に沿った磁気障壁通路を形成される。そして、磁性流体はこの磁気障壁通路上にしか存在できない。これにより、あたかも磁気の壁で形成された通路を流れるが如く磁性流体が流通する。従って、ここで用いる磁気障壁通路とは、従来の溝状に形成されたマイクロ流路のように固体壁によって通路を形成するのではなく、磁気の壁によって磁性流体の流通をガイドする通路を形成することを意味する。
【0013】
磁性流体を流す推進力としては、磁性流体が流れる上流位置と下流位置とのヘッド差(位置エネルギー)を利用することができる。ヘッド差を形成するには、例えば磁性体材料の供給位置に磁性流体を供給する供給管を立設してヘッド差をつけたり、磁気障壁通路の上流側が下流側よりも高くなるように傾斜させたりすることで達成できる。
【0014】
そして、請求項1では、磁性体材料の途中を断線させる断線工程と、断線した通路断線部を結線させる結線工程とにより、磁気障壁通路に沿って流れる磁性流体の流通を制御するようにした。即ち、磁性体材料が断線した通路断線部には、磁性流体は流れることができないので、この通路断線部で磁性流体の流れが遮断される。そして、通路断線部を結線すれば、磁性流体は再び流れることができる。従って、断線工程と結線工程を行うことで、あたかも磁性流体が流れる配管途中に設けたバルブを開閉するのと同じことを行うことができるので、磁性流体の流通を制御することができる。
【0015】
請求項2は請求項1において、前記磁性体材料は、複数種の磁性流体を供給する流体供給通路と、該複数の流体供給通路が合流した流体操作通路とを有すると共に、前記それぞれの流体供給通路について前記断線工程と結線工程を行うことを特徴とする。
【0016】
請求項2によれば、複数種の磁性流体を供給する流体供給通路において断線工程と結線工程を行うことで、流体操作通路において例えば複数種の磁性流体の塊が交互に流れるプラグフローを行うことができる。これにより、複数種の磁性流体同士の混合効率を向上できる。
【0017】
本発明の請求項3は前記目的を達成するために、基板に配設された細線状の反磁性体材料の周囲に存在する磁性環境流体に対して外部磁場を印加することにより前記反磁性体材料に沿った反磁気障壁通路を形成し、該反磁気障壁通路に沿って反磁性流体を流通させるマイクロデバイスの流体制御方法において、前記反磁性体材料の途中を断線させる断線工程と、前記断線した通路断線部を結線させる結線工程と、により、前記反磁気障壁通路に沿って流れる反磁性流体の流通を制御することを特徴とするマイクロデバイスの流体制御方法を提供する。
【0018】
請求項3は反磁性流体(例えば水)を流通させる場合である。即ち、反磁性体材料の周囲に存在する磁性環境流体に外部磁場を印加することで、反磁性体材料に沿った部分だけが反磁性流体が流れるための反磁気障壁通路として形成される。反磁性流体はこの反磁気障壁通路上にしか存在できないので、あたかも反磁気の壁で形成された通路を流れるが如く反磁性流体が流通する。
【0019】
そして、請求項3では、反磁性体材料の途中を断線させる断線工程と、断線した通路断線部を結線させる結線工程とを行うようにしたので、請求項1と同様の理由から反磁性流体の流通を制御することができる。
【0020】
請求項4は請求項3において、前記反磁性体材料は、複数種の反磁性流体を供給する流体供給通路と、該複数の流体供給通路が合流した流体操作通路とを有すると共に、前記それぞれの流体供給通路について前記断線工程と結線工程を行うことを特徴とする。
【0021】
請求項4によれば、複数種の反磁性流体を供給する流体供給通路において断線工程と結線工程を行うことで、流体操作通路において例えば複数種の反磁性流体の塊が交互に流れるプラグフローを行うことができる。これにより、複数種の反磁性流体同士の混合効率を向上できる。
【0022】
本発明の請求項5は前記目的を達成するために、基板に配設された細線状の磁性体材料に対して外部磁場を印加することにより前記磁性体材料に沿った磁気障壁通路を形成し、該磁気障壁通路に沿って磁性流体を流通させるマイクロデバイスにおいて、前記磁性体材料の途中に形成され、該磁性体材料が所定長さの空間距離を有して断線した通路断線部と、前記通路断線部に対して出し入れ自在に設けられ、前記空間距離と同じ長さを有する磁性体材料の通路断片と、前記通路断片を前記通路断線部に出し入れすることにより、前記磁性体材料を断線及び結線する出し入れ手段と、を備えたことを特徴とするマイクロデバイスを提供する。
【0023】
請求項5は、請求項1の方法発明を装置発明として構成したものである。即ち、磁性体材料の途中に、該磁性体材料が所定長さの空間距離を有して断線した通路断線部を形成し、この通路断線部に空間距離と同じ長さの磁性体材料の通路断片を出し入れ手段で出し入れするようにした。即ち、通路断片を通路断線部から出した(退避させた)状態では、この通路断線部分で磁性流体の流れが遮断される。そして、退避させた通路断片を通路断線部に入れて通路断線部分を結線すれば、磁性流体は再び流れることができる。従って、磁性流体の流通を制御することができる。
【0024】
ここで、反磁性体材料の通路断片は、反磁性体材料と同一であることが好ましいが、磁性の近い通路断片を使用することもできる。また、出し入れ手段としては、手動で行ってもよいが、例えば通路断片を圧電素子等で出し入れする自動出し入れ手段を設けることが好ましい。
【0025】
請求項6は請求項5において、前記通路断片の長さは0.5〜1mmの範囲であることを特徴とする。
【0026】
請求項6によれば、通路断片の長さが0.5〜1mmであるので、磁性流体の遮断及び流通(遮断解除)を高精度に制御できる。
【0027】
本発明の請求項7は前記目的を達成するために、基板に配設された細線状の反磁性体材料の周囲に存在する磁性環境流体に対して外部磁場を印加することにより前記反磁性体材料に沿った反磁気障壁通路を形成し、該反磁気障壁通路に沿って反磁性流体を流通させるマイクロデバイスにおいて、前記反磁性体材料の途中に形成され、該反磁性体材料が所定長さの空間距離を有して断線した通路断線部と、前記通路断線部に対して進退自在に設けられ、前記空間距離と同じ長さを有する反磁性体材料の通路断片と、前記反磁性体材料の通路断片を前記通路断線部に進退させることにより、前記反磁性体材料を断線及び結線する進退手段と、を備えたことを特徴とするマイクロデバイスを提供する。
【0028】
請求項7は、請求項3の方法発明を装置発明として構成したものである。即ち、反磁性体材料の途中に、該反磁性体材料が所定長さの空間距離を有して断線した通路断線部を形成し、この通路断線部に空間距離と同じ長さの反磁性体材料の通路断片を出し入れ手段で出し入れするようにした。即ち、通路断片を通路断線部から出した(退避させた)状態では、この通路断線部で反磁性流体の流れが遮断される。そして、退避させた通路断片を通路断線部に入れて通路断線部分を結線すれば、反磁性流体は再び流れることができる。従って、反磁性流体の流通を制御することができる。ここで、通路断片は、反磁性体材料と同一であることが好ましいが、磁性の近い通路断片を使用することもできる。また、出し入れ手段としては、手動で行ってもよいが、例えば通路断片を圧電素子等で出し入れする自動出し入れ手段を設けることが好ましい。
【0029】
請求項8は請求項7において、前記通路断片の長さは0.5〜1mmの範囲であることを特徴とする。
【0030】
請求項6と同様の理由から、反磁性流体の遮断及び流通(遮断解除)を高精度に制御できる。
【0031】
上記における磁性流体又は反磁性流体としては、液体、気体、気体を溶解する液体、固体粒子が分散する液体及び気体のように、磁気障壁通路又は反磁気障壁通路を通過可能な全ての流体を含む。また、外部磁場とは、磁性体材料の外部に設けた磁力発生装置、例えば永久磁石や電磁石により生じた磁場をいう。また、磁場の向きは上下方向、水平方向、斜め方向、更に曲線状の複雑な方向も可能であり、適宜選択できる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、磁気障壁通路又は反磁気障壁流路に沿って流す流体の流通や遮断を簡単な構成で高精度に行うことができる。即ち、磁気障壁通路又は反磁気障壁流路を形成する磁性体材料又は反磁性体材料の通路断線部に、通路断片を出し入れすることにより、配管に設けたバルブと同様に通路開閉機能を発現することができる。また、通路断片の出し入れの程度を厳密に決めることで、流体の流通・遮断制御のみならず流量制御も行うことができる。
【0033】
更には、通路断線部に通路断片を出し入れする周期を制御することで、通路断線部の後段に送液する流体量を決めることができるので、流体を秤量する効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、添付図面に従って、本発明に係るマイクロデバイスの流体制御方法及びマイクロデバイスの好ましい実施の形態について詳説する。
【0035】
図1は、本発明に係るマイクロデバイス10の構成の一例について説明する概念図である。図2は、流体の流れ方向に沿った側面断面図である。なお、本実施の形態では、2種類の磁性流体A,Bを合流させて反応、混合等の化学操作を行うマイクロデバイスの例で説明する。ここで、磁性流体とは強磁性流体、常磁性流体の何れかを意味する。
【0036】
これらの図に示すように、基板12の上に、内部に空洞部14Aを有する蓋部材14が固定され、基板12の下面にはN極の磁石16が設けられ、蓋部材14の上面にはS極の磁石18が設けられる。これにより、マイクロデバイス10の本体部20が形成される。外部磁場装置である磁石16、18は、電磁石と永久磁石とのいずれをも使用できるが、印加する外部磁場の強度は、0.01T(テスラー)〜1T(テスラー)の極めて強い磁場を発生できることが好ましく、0.1T(テスラー)〜1T(テスラー)の範囲であることが一層好ましい。
【0037】
また、基板12の表層部には、Y字形状をした細線状の磁性体材料22が埋設される。磁性体材料22は、強磁性又は常磁性を有する材料であり、鉄ワイヤーを好適に使用できる。なお、磁性体材料22は基板12に埋設しないで、基板12上に設けることもできる。細線状の磁性体材料22の太さ(径)は1mm以下であることが好ましく、500μm以下であることが一層好ましい。
【0038】
そして、細線状の磁性体材料22に対して上述の外部磁場装置で外部磁場を印加することにより磁性体材料22に沿った磁気障壁通路を形成し、該磁気障壁通路に沿って磁性流体を流通させることができる。
【0039】
基板12及び蓋部材14の材料としては、各種樹脂板、より具体的には、ポリジメチルスルホキシド(PDMS)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、紫外線硬化樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等が採用できる。
【0040】
また、上記のほかにも、耐熱、耐圧及び耐溶剤性、加工容易性等の要求に応じて、金属、ガラス、セラミックス、プラスチック、シリコン、及びテフロン(登録商標)等の樹脂を好適に使用でき、特に、ポリスチレン樹脂、PMMA樹脂、石英ガラス、パイレックス(登録商標)ガラスが好ましい。また、磁性体材料22を基板12上に設ける場合には、磁性体材料22の上をフッソ樹脂、シリコン樹脂、アクリル樹脂等の不活性なフィルムで被覆することが好ましい。
【0041】
ここで、Y字形状をした磁性体材料22の各部分の名称として、図3に示すように、2つの流体導入部22A,22B、2本の流体供給通路22C,22D、1つの流体合流部22E、1本の流体操作通路22F(反応、混合等の化学操作を行う通路)、1つの流体排出部22Gとに区分けする。なお、本実施の形態では、Y字形状をした磁性体材料22を使用したため、流体供給通路が2本になるが、3本以上でもよい。
【0042】
2種類の磁性流体A,Bを導入する一対の流体導入管24A,24Bが、その先端を流体導入部22A,22Bまで延設させた状態で、本体部20に立設され、流体導入管24A,24Bにはマイクロシリンジ26A,26Bにより磁性流体A,Bが導入される。流体導入管24A,24Bから導入する磁性流体の流量は、0.01mL/分〜10mL/分の微小量の範囲であることが好ましい。
【0043】
一方、流体排出部22Gには、その先端が本体部20から外部に延設された排出管28が設けられ、2種類の磁性流体A,Bが反応又は混合して得られた処理流体が排出管28を介して外部に排出される。磁気障壁通路を流れる磁性流体A,Bは、摩擦抵抗を殆ど受けずに流れるので、流体排出時に抵抗を受けると、流体の流通が停滞してしまう。従って、排出管28の径を太くして排出抵抗を小さくすることが好ましい。
【0044】
また、本体部20には、蓋部材14の空洞部14Aに環境流体を流入して空洞部14Aを満たすことにより、磁性体材料22の周囲に反磁性環境を形成するための環境流体導入管30及び空気抜き管32が連結される。なお、環境流体が空気である場合には、蓋部材14の空洞部14Aに空気を流入する必要はない。
【0045】
また、図3に示すように、 磁性体材料22の流体供給通路22C,22Dには、該磁性体材料22が所定長さの空間距離Lを有して断線した通路断線部34が設けられ、この通路断線部34に対して空間距離Lと同じ長さを有する磁性体材料22の通路断片36が出し入れ自在に配置される。これにより、図4(A)に示すように、通路断片36を通路断線部34に入れた状態では、磁性体材料22は結線された状態を形成する。また、図4(B)に示すように、通路断片36を通路断線部34から出すことにより、磁性体材料22が断線した状態を形成する。この場合、磁性体材料22の断線及び結線を確実に行うには、通路断片36の長さ(空間距離L)が0.5〜1mmの範囲であることが好ましい。
【0046】
この磁性体材料22の断線及び結線を行うには、例えば、図3に示すように、通路断片36を支持するアーム38を設けて、このアームを手動あるいは自動で移動させることができる。しかし、図5に示すように、0.5〜1mmの長さの磁性体材料22の通路断片36を埋め込んだブロック40を形成すると共に、通路断線部34を含み、ブロック40と嵌合する空洞部42を基板12に形成する。通路断片36の両端はブロック40の両側面から露出している。そして、空洞部42に対してブロック40を矢印b方向に押し込んで空洞部42の奥壁42Aに突き当てると、磁性体材料22が結線されるようにする。また、空洞部42に対してブロック40を矢印a方向に引き抜くことで、磁性体材料22が断線するようにする。これにより、高精度な断線及び結線を実現できる。
【0047】
通路断片36による磁性体材料22の断線及び結線を繰り返す周期は、100Hz以下であることが好ましい。ここで、断線及び結線の周期とは、断線と結線を1サイクルとしたときの1分間におけるサイクル数であり、周期が大きくなるほど、断線と結線の間隔が短くなる。
【0048】
ブロック40を自動的に出し入れするための駆動力を付与する出し入れ手段としては、例えば、マイクロなピストンシリンダ、圧電素子、形状記憶合金とヒータを組み合わせ等のように、ブロック40を微小距離移動させることができる手段を好適に用いることができる。
【0049】
また、図示しないが、磁気障壁通路を流通する磁性流体A,Bが非粘性流体のように振る舞うことを利用し、マイクロデバイス10と既存の混合手法である、例えば表面弾性波、自然対流、超音波等とを組み合わせることもできる。
【0050】
次に、上記の如く構成されたマイクロデバイス10の流体制御方法を図6及び図7を使用して説明する。ここでは、流体制御の一例として、Y字の磁性体材料22の流体操作通路22Fに磁性流体Aのプラグ(塊)と磁性流体Bのプラグ(塊)とが交互に流通するプラグフローの例で説明する。
【0051】
先ず、基板12に配設されたY字状の磁性体材料22に対して外部磁場を印加することにより、磁性体材料22に沿った磁気障壁通路を形成する。この場合、蓋部材14の空洞部14A内に供給する環境流体としては、水等の反磁性流体を使用できる。そして、図6(A)に示すように、磁性体材料22における2本の流体供給通路22C,22Dに形成した通路断線部34から通路断片36を出した状態にして断線させておく。この状態でマイクロシリンジ26A,26Bを使用して磁性流体A,Bをそれぞれの流体導入管24A,24Bに導入する(ステップ1)。これにより、流体供給通路22C,22Dに導入された磁性流体A,Bは、ともに通路断線部34の手前で流れが停止する。
【0052】
次に、図6(B)に示すように、流体供給通路22Cの通路断線部34に通路断片36を入れて結線すると共に、流体供給通路22Dは断線状態のまま維持する(ステップ2)。これにより、流体操作通路22Fには磁性流体Aのみが流れる。
【0053】
次に、図6(C)に示すように、磁性流体Aの流体供給通路22Cを断線し、磁性流体Bの流体供給通路22Dを結線する(ステップ3)。これにより、流体操作通路22Fには磁性流体Bのみが流れる。
【0054】
上記ステップ2とステップ3を繰り返すことにより、図7にように、流体操作通路22Fには磁性流体Aと磁性流体Bとが交互に流れるプラグフローが形成される。このように、プラグフローを形成することで、磁性流体Aと磁性流体Bとの接触面積を大きくできるので、混合性能を向上できる。また、断線及び結線の周期を大きくすることで、小さなプラグを形成できる。
【0055】
なお、上記の実施の形態では、磁性流体を流す例で説明したため、磁気障壁通路を形成する材料として磁性体材料22を使用したが、水のように反磁性流体(磁化率の低い流体)を流す場合には、反磁性体材料を使用すると共に環境流体として磁性流体を使用し、磁石により環境流体に外部磁場を印加することで反磁気障壁通路を形成する。
【0056】
反磁性体材料としては、例えば銅、ビスマス等を好適に使用できる。環境流体を形成する磁性流体としては強磁性又は常磁性の流体を使用できる。例えば、環境流体として、空気又は磁化率が水よりも高い水溶液もしくは油とする。ここで、油とは水に不溶な液を指す。なお、空気のような気体は、酸素分圧を高めた方がより低い磁場で効果的な反磁気障壁通路を作ることができるため、環境流体として酸素濃度が高い空気を使用することも好ましい。
【実施例】
【0057】
次に、図1に示したマイクロデバイスを用いて、2種類の磁性流体A,Bを流通させると共に、2本の流体供給通路22C,22Dに設けたそれぞれの通路断片36を通路断線部34に対して交互に出し入れすることで、磁性流体A,Bを流体操作通路22Fにおいて混合する実施例を説明する。
【0058】
Y字形状に形成された磁性体材料22の太さ(径)は、1mmとすると共に、通路断片36の長さを1mmとした。また。磁性流体A,Bは、常磁性流体である硫酸ニッケル水溶液(濃度1.4mol/L)を用い、環境流体として反磁性流体である水を用いた。また、磁性流体A,Bを可視的に区別できるように、磁性流体Aには赤色の色素を含有させて赤色に着色した。一方、磁性流体Bには青色の色素を含有させた青色に着色した。
【0059】
一対の流体導入管24A、24Bからは、マイクロシリンジ26A,26Bを用いて赤色の磁性流体Aと青色の磁性流体Bとを1mL/分の流量で導入し、それぞれの流体供給通路22C,22Dに設けた通路断線部34に対して通路断片36を交互に出し入れした。通路断片36を出し入れする周期は50Hzで行った。これにより、流体操作通路22Fには、赤色の磁性流体Aと青色の磁性流体Bとが交互に形成されたプラグフローが形成された。
【0060】
比較例として、それぞれの流体供給通路22C,22Dに通路断線部34及び通路断片36を設けずに、一対の流体導入管24A、24Bからは、マイクロシリンジ26A,26Bを用いて赤色の磁性流体Aと青色の磁性流体Bとを1mL/分の流量で導入した。
【0061】
そして、実施例と比較例とについて、排出管28から排出された排出液の混合度合を目視にて対比した結果、実施例は比較例よりも赤色と青色の混合が十分行われていた。
【0062】
このように、通路断片36を通路断線部34に出し入れして磁性流体Aと磁性流体Bとのプラグフローを形成することで、磁性流体Aと磁性流体Bとの混合を顕著に促進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係るマイクロデバイスの全体斜視図
【図2】マイクロデバイスの磁気障壁通路に沿った側面断面図
【図3】Y字形状の磁性体材料の各部分の名称を説明する説明図
【図4】磁性体材料の断線・結線を説明する説明図
【図5】通路断片の通路断線部に出し入れする態様の一例を示す概念図
【図6】本発明のマイクロデバイスの流体制御方法の一例を説明する説明図
【図7】本発明のマイクロデバイスの流体制御方法の結果を説明する説明図
【符号の説明】
【0064】
10…マイクロデバイス、12…基板、14…蓋部材、16、18…磁石(外部磁気装置)、20…マイクロデバイスの本体部、22…磁性体材料、22A,22B…流体導入部、22C,22D…流体供給通路、22E…流体合流部、22F…流体操作通路、22G…流体排出部、24A,24B…流体導入管、26A,26B…マイクロシリンジ、28…排出管、30…環境流体導入管、32…空気抜き管、34…通路断線部、36…通路断片、38…アーム、40…通路断片を有するブロック、42…空洞部、A…磁性流体、B…磁性流体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に配設された細線状の磁性体材料に対して外部磁場を印加することにより前記磁性体材料に沿った磁気障壁通路を形成し、該磁気障壁通路に沿って磁性流体を流通させるマイクロデバイスの流体制御方法において、
前記磁性体材料の途中を断線させる断線工程と、
前記断線した通路断線部を結線させる結線工程と、により、前記磁気障壁通路に沿って流れる磁性流体の流通を制御することを特徴とするマイクロデバイスの流体制御方法。
【請求項2】
前記磁性体材料は、複数種の磁性流体を供給する流体供給通路と、該複数の流体供給通路が合流した流体操作通路とを有すると共に、前記複数の流体供給通路について前記断線工程と結線工程を行うことを特徴とする請求項1のマイクロデバイスの流体制御方法。
【請求項3】
基板に配設された細線状の反磁性体材料の周囲に存在する磁性環境流体に対して外部磁場を印加することにより前記反磁性体材料に沿った反磁気障壁通路を形成し、該反磁気障壁通路に沿って反磁性流体を流通させるマイクロデバイスの流体制御方法において、
前記反磁性体材料の途中を断線させる断線工程と、
前記断線した通路断線部を結線させる結線工程と、により、前記反磁気障壁通路に沿って流れる反磁性流体の流通を制御することを特徴とするマイクロデバイスの流体制御方法。
【請求項4】
前記反磁性体材料は、複数種の反磁性流体を供給する流体供給通路と、該複数の流体供給通路が合流した流体操作通路とを有すると共に、前記それぞれの流体供給通路について前記断線工程と結線工程を行うことを特徴とする請求項3のマイクロデバイスの流体制御方法。
【請求項5】
基板に配設された細線状の磁性体材料に対して外部磁場を印加することにより前記磁性体材料に沿った磁気障壁通路を形成し、該磁気障壁通路に沿って磁性流体を流通させるマイクロデバイスにおいて、
前記磁性体材料の途中に形成され、該磁性体材料が所定長さの空間距離を有して断線した通路断線部と、
前記通路断線部に対して出し入れ自在に設けられ、前記空間距離と同じ長さを有する磁性体材料の通路断片と、
前記通路断片を前記通路断線部に出し入れすることにより、前記磁性体材料を断線及び結線する出し入れ手段と、を備えたことを特徴とするマイクロデバイス。
【請求項6】
前記通路断片の長さは0.5〜1mmの範囲であることを特徴とする請求項5のマイクロデバイス。
【請求項7】
基板に配設された細線状の反磁性体材料の周囲に存在する磁性環境流体に対して外部磁場を印加することにより前記反磁性体材料に沿った反磁気障壁通路を形成し、該反磁気障壁通路に沿って反磁性流体を流通させるマイクロデバイスにおいて、
前記反磁性体材料の途中に形成され、該反磁性体材料が所定長さの空間距離を有して断線した通路断線部と、
前記通路断線部に対して出し入れ自在に設けられ、前記空間距離と同じ長さを有する反磁性体材料の通路断片と、
前記通路断片を前記通路断線部に出し入れすることにより、前記反磁性体材料を断線及び結線する進退手段と、を備えたことを特徴とするマイクロデバイス。
【請求項8】
前記通路断片の長さは0.5〜1mmの範囲であることを特徴とする請求項7のマイクロデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−82831(P2009−82831A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−256757(P2007−256757)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】