説明

マイクロナノバブル発生方法、マイクロ流路の洗浄方法、マイクロナノバブル発生システム、及び、マイクロリアクター

【課題】新規なマイクロナノバブル発生方法、マイクロナノバブル発生システム及び前記マイクロナノバブル発生システムを有するマイクロリアクターを提供すること。また、洗浄性及び/又は殺菌性に優れたマイクロ流路の洗浄方法を提供すること。
【解決手段】マイクロ流路内に液体を導入する工程、及び、マイクロ流路壁の全部又は一部に形成された半径10〜1,000nmの貫通孔を有する多孔壁の外部から、加圧ガス供給手段によりマイクロ流路内にガスを供給することにより、前記液体にマイクロナノバブルを含有させる工程を含むことを特徴とするマイクロナノバブル発生方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロナノバブル発生方法、マイクロ流路の洗浄方法、マイクロナノバブル発生システム、及び、マイクロリアクターに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業ではマイクロバブルによる洗浄効果が期待されている。
特許文献1には、マイクロバブル発生装置によって発生させたマイクロバブルを液体中に通気混入し、加圧雰囲気中で液体中にガスが高濃度に溶解するようにした高圧高濃度ガス溶解液となし、これを必要に応じてより減圧するか、又は、大気圧の水若しくは溶液などの液体中に放出することにより、溶解した気体を超微細な気泡として液体中に発生させ、これを拡散、浮遊する状態にしたことを特徴とする超微細気泡の混在するリアクター用気液混合溶液が開示されている。前記リアクター用気液混合溶液に含まれるマイクロバブルの電気的特性により浮上分離作用を利用した洗浄・除菌などを効率的に行うことができる。この他にもマイクロバブル発生装置を用いて除菌及び脱臭された水(オゾン水)を生成した例や(特許文献2)、超微細気泡を上水殺菌消毒、上下水膜処理、健康・医療機器分野や、湖沼や養殖場の水質浄化、工場・畜産等の各種排水処理、及び、機能水製造などに利用可能とした例(特許文献3)が開示されている。
【0003】
微細加工を利用して作られ、等価直径が500μm以下の微小な流路で反応を行う装置であるマイクロリアクターに代表される微小な素子や装置は、例えば、物質の分析、合成、抽出、分離を行う技術に応用した場合、少量多品種、高効率、低環境負荷などの多くの利点が得られるため、近年、様々な分野への応用が期待されている。
マイクロリアクターは、ガラス・プラスチック・金属・シリコーンなどの材質により製造されることが多い。
従来のマイクロ流路の洗浄方法としては、圧力をかけて水などの溶媒を流し、付着物を押し流す方法や、マイクロリアクター本体を超音波洗浄機にいれ、シリンジなどで圧力をかけながら洗浄する方法が知られている。また、一例として反応後のマイクロ化学デバイスに酸化剤水溶液を通液することを特徴とするマイクロ化学デバイスの洗浄方法が挙げられる(特許文献4)。
【0004】
【特許文献1】特開2005−152763号公報
【特許文献2】特開2006−167612号公報
【特許文献3】特開2006−272232号公報
【特許文献4】特開2005−144634号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、新規なマイクロナノバブル発生方法、マイクロナノバブル発生システム及び前記マイクロナノバブル発生システムを有するマイクロリアクターを提供することである。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、洗浄性及び/又は殺菌性に優れたマイクロ流路の洗浄方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、以下の手段により解決された。
<1> マイクロ流路内に液体を導入する工程、及び、マイクロ流路壁の全部又は一部に形成された半径10〜1,000nmの貫通孔を有する多孔壁の外部から、加圧ガス供給手段によりマイクロ流路内に直接ガスを供給することにより、前記液体にマイクロナノバブルを含有させる工程を含むことを特徴とするマイクロナノバブル発生方法、
<2> 超音波発振子によりマイクロ流路内の液体に超音波を当てる工程を含む<1>に記載のマイクロナノバブル発生方法、
<3> マイクロ流路内に液体を導入する工程、マイクロ流路壁の全部又は一部に形成された半径10〜1,000nmの貫通孔を有する多孔壁の外部から、加圧ガス供給手段によりマイクロ流路内に直接ガスを供給することにより、前記液体にマイクロナノバブルを含有させることにより洗浄液を調製する洗浄液調製工程、並びに、前記洗浄液を前記マイクロ流路と同一又は異なるマイクロ流路に通過させてマイクロ流路内の洗浄及び/又は殺菌を行う工程を含むことを特徴とするマイクロ流路の洗浄方法、
<4> 前記マイクロ流路が、食品加工装置、医薬品加工装置及び化学反応装置よりなる群から選ばれた装置に形成されたマイクロ流路である<3>に記載のマイクロ流路の洗浄方法、
<5> 前記マイクロナノバブルが、空気、酸素及びオゾンよりなる群から選ばれた少なくとも1つのガスを含む<3>又は<4>に記載のマイクロ流路の洗浄方法、
<6> 前記洗浄液が、pH6〜9の、マイクロナノバブルを含有する水である<3>〜<5>いずれか1つに記載のマイクロ流路の洗浄方法、
<7> マイクロ流路壁の全部又は一部に形成された半径10〜1,000nmの貫通孔を有する多孔壁、及び、前記多孔壁の外部からマイクロ流路内に直接ガスを供給する加圧ガス供給手段よりなることを特徴とするマイクロナノバブル発生システム、
<8> 前記多孔壁が、陽極酸化したアルミニウム皮膜である<7>に記載のマイクロナノバブル発生システム、
<9> <7>又は<8>に記載のマイクロナノバブル発生システムを有するマイクロリアクター。
【発明の効果】
【0007】
前記<1>に記載の発明によれば、新規なマイクロナノバブル発生方法を提供することができる。
また、前記<2>に記載の発明によれば、<1>に記載の発明において、より効率よくマイクロナノバブルを発生させるマイクロナノバブル発生方法を提供することができる。
前記<3>に記載の発明によれば、本構成を有さない場合に比べて、洗浄性及び/又は殺菌性の高いマイクロ流路の洗浄方法を提供することができる。
また、前記<4>に記載の発明によれば、<3>に記載の発明において、洗浄性及び/又は殺菌性の高いマイクロ流路の洗浄方法の好適な用途を提供することができる。
また、前記<5>に記載の発明によれば、<3>又は<4>に記載の発明において、より洗浄性及び/又は殺菌性の高いマイクロ流路の洗浄方法を提供することができる。
また、前記<6>に記載の発明によれば、<3>〜<5>いずれか1つに記載の発明において、より洗浄性及び/又は殺菌性の高いマイクロ流路の洗浄方法を提供することができる。
また、前記<7>に記載の発明によれば、新規なマイクロナノバブル発生システムを提供することができる。
また、前記<8>に記載の発明によれば、<7>に記載の発明において、新規なマイクロナノバブル発生システムを提供することができる。
前記<9>に記載の発明によれば、新規なマイクロナノバブル発生システムを有するマイクロリアクターを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のマイクロナノバブル発生方法は、マイクロ流路内に液体を導入する工程、及び、マイクロ流路壁の全部又は一部に形成された半径10〜1,000nmの貫通孔を有する多孔壁の外部から、加圧ガス供給手段によりマイクロ流路内に直接ガスを供給することにより、前記液体にマイクロナノバブルを含有させる工程を含むことを特徴とする。なお、本発明において前記多孔壁及び前記加圧ガス供給手段を併せて「マイクロナノバブル発生システム」ともいう。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
<マイクロ流路>
本発明において、マイクロ流路とは微小な流路であって、その幅が数μm〜数千μm(「数μm以上、数千μm以下」と同義。以下、他の数値範囲の表記において特に断りのない限り同様とする。)のものである。なお、本発明において、マイクロ流路とはマイクロスケールの流路をいうが、ミリスケールの流路も含む意である。
流路幅は目的により適宜選択することができるが、10〜1,000μmであることが好ましく、20〜500μmであることがさらに好ましい。
【0010】
本発明において、マイクロ流路は、マイクロスケールであるので、寸法及び流速がいずれも小さく、マイクロ流路を流れる流体のレイノルズ数は2,300以下となる。従って、マイクロスケールの流路を有する本発明のマイクロ流路デバイスは、乱流支配ではなく層流支配の装置である。
ここで、レイノルズ数(Re)は、下記式で表されるものであり、2,300以下のとき層流支配となる。
Re=uL/ν (u:流速、L:代表長さ、ν:動粘性係数)
【0011】
本発明において、マイクロ流路は、複数の流体が層流を形成して送流されていてもよい。その場合にはマイクロリアクターは複数の流体導入口から2以上の流体が送流され、層流を形成する合流部を有することが好ましい。また、本発明において、マイクロ流路は、1つ以上の排出口を有し、層流に対応した複数の排出口を設けることも好ましい。
【0012】
本発明において、マイクロ流路は、基材によって外部と隔離された微小な径を有する流路であり、基材は、基板であっても良いし、管状であっても良いが、基板状であることが好ましい。
また、マイクロ流路の断面形状は特に制限されず、いかなる形状を使用することもできる。マイクロ流路の流路軸に直交する面の断面形状としては、円形、楕円形、半円形、四角形、三角形、その他の多角形、及び、だるま形状等が挙げられるが、本発明はこれに限定されない。これらの中でも、作製の容易さから、マイクロ流路の断面形状は四角形(矩形)であることが好ましい。
【0013】
また、本発明において、流路軸形状は特に限定されず、直線状、曲線状等のいかなる形状でも良い。ここで、流路軸形状とは、マイクロ流路における流体の流れ方向の軸の形状を意味する。
上述の通り、流路軸形状は特に限定されないが、一定の面積に対して流路長を確保するためには、マイクロ流路の方向を変える曲がり部を形成することが好ましい。
【0014】
マイクロ流路の形成方法としては、特に制限はなく、例えば、公知の方法を用いることができる。マイクロ流路は、例えば、微細加工技術により作製することができる。微細加工方法としては、例えば、電鋳法、X線を用いたLIGA技術を用いる方法、フォトリソグラフィー法によりレジスト部を構造体として使用する方法、レジスト開口部をエッチング処理する方法、マイクロ放電加工法、YAGレーザーやUVレーザー等を使用するレーザー加工法、ダイアモンドのような硬い材料で作られたマイクロ工具を用いるエンドミル等の機械的マイクロ切削加工法がある。これらの技術は単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。
【0015】
<多孔壁>
マイクロ流路壁の全部又は一部に形成された半径10〜1,000nmの貫通孔を有する多孔壁について説明する。
「マイクロ流路壁」とはマイクロ流路の周囲を仕切る材料を意味する。また、「多孔壁」とは、対向する2つの表面を有する材料の両表面間を貫通する孔(貫通孔)を多数有する材料を意味する。
【0016】
前記多孔壁は、気体のみを貫通孔を通じて透過させ、液体は貫通孔が有する表面張力により透過させない。
貫通孔を通じて水を透過させるために必要な圧力を計算した例を以下に示す。下記に示すヤング・ラプラスの式から、水が貫通孔を透過するために必要な圧力を計算した(Proceeding of MicroTAS2006 P245−247、Proceeding of Ted−Cof 2001 JSME)。
B=2γ・cosθ/R
(PB;表面張力と釣り合う圧力、γ;表面張力、R;貫通孔の半径)
計算では液体を水と仮定し、水の表面張力を72.75nN/mとした。また、多孔壁の材質をアルミナと仮定し、アルミナの撥水角を30°として計算した。結果を表1に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
例えば貫通孔の半径が100nmである場合には、表1の結果から約1.36MPa(約13.4atm)以上加圧しなければ水は貫通孔を透過することができない。
【0019】
多孔壁に形成された貫通孔の半径は、10〜1,000nmであり、10〜500nmが好ましく、10〜100nmがより好ましい。貫通孔の半径が1,000nmより大きい場合、特に大気圧である1.01×10-1MPaよりも表面張力の釣り合う圧力が低い場合(ヤング・ラプラスの式より半径が1.24μmよりも大きい場合)には貫通孔を通じて液体が漏れやすい。また、貫通孔の半径が10nm未満である場合には、ナノバブルを発生する際に非常に大きな圧力が必要となり、扱いにくい。また、貫通孔径が流路壁面など貫通孔が形成されていない面の表面粗さ(一般的に薄膜部材の表面荒さはRa=数〜数nm程度)と同程度となると、前記ヤング・ラプラスの式の精度が狂うため設計どおりに液面の侵食を制御できなくなる。
【0020】
多孔壁は陽極酸化などで得られる多孔質体が好ましく、陽極酸化アルミナ(ポーラスアルミナ)、及び、陽極酸化シリコン(ポーラスシリコン)などがより好ましい。また、孔径のサイズや制御性などから、陽極酸化アルミナがより望ましい。それ以外では、既存材料に細孔加工を施した部材などが好ましい。また、流路形成のプロセスも考慮し、常温接合が容易となるAuやCuといった軟質金属を表面にコート/担持させることが好ましい。
多孔壁と接合又は接着されて流路を形成する部材は後述する常温接合に好適な材料であることが好ましい。具体的には、Au、Al、Ni、Cu等の金属、ステンレスのような合金、ガラス、セラミックス、シリコン等の非金属が挙げられ、さらに好ましい形態としては、各部材の張り合わせ面にAuやCuのような塑性変形しやすい金属をコートしたガラス板等の板部材・薄膜がある。
また、成形が容易で、吸着効果があり、接着剤等なしで圧接させるだけで多孔壁と接続できることからポリジメチルシロキサン等も好ましく用いることができる。
【0021】
多孔壁の作製方法としては、公知の方法を用いることができ限定されるものではないが、フォトリソグラフィー等の微細パターン形成技術をはじめとする半導体加工技術、スパッタリング法、陽極酸化、ゾル−ゲル法、熱安定性の異なる2種類以上の有機ポリマーを混合分散させ、より熱不安定な有機ポリマーのみ分解させる方法、ブロック共重合有機ポリマーの部分的熱分解法等が挙げられ、中でも、規則的な貫通孔を作製できることからフォトリソグラフィー等の半導体加工技術、スパッタリング法、陽極酸化が好ましく、陽極酸化がより好ましい。
陽極酸化は、ナノサイズの貫通孔を有する構造体を制御よく大面積に形成することができるため好ましい。前記ナノサイズの貫通孔を有する構造体としては、例えば、陽極酸化したアルミニウム皮膜(以下、「陽極酸化アルミニウム皮膜」ともいう。)が知られている。
【0022】
本発明において、多孔壁は陽極酸化アルミニウム皮膜により形成されていることが好ましい。陽極酸化アルミニウム皮膜はアルミニウム板又は基板上に形成されたアルミニウム膜を酸性電解質中で陽極酸化することにより得られる。
この陽極酸化アルミニウム皮膜は、半径数nm〜数百nmの柱状の貫通孔が数十nm〜数百nmの間隔(セルサイズ)で平行に配列するという、特異的な幾何学的構造を有する。この柱状の貫通孔は、細孔間隔が数十nm以上の場合では、高いアスペクト比を有し、断面の径の一様性にも優れている。この貫通孔の半径及び間隔は、陽極酸化に使用する酸の種類、電圧を調整することにより制御が可能である。例えば陽極酸化の電圧を低下させると貫通孔の間隔を低減できる。
また、同様な細孔はシリコンに対しても形成できる。
【0023】
陽極酸化アルミニウム皮膜の厚み(貫通孔の深さ)は、陽極酸化の時間を制御することにより制御が可能である。本発明においては、陽極酸化アルミニウム皮膜の厚み(貫通孔の深さ)は10〜500μmが好ましく、20〜400μmがより好ましく、30〜300μmがさらに好ましい。
【0024】
陽極酸化アルミニウム皮膜の作製方法の一例を以下に説明する。
陽極酸化に先立ち、前処理として高純度のアルミ箔(99.99%、Aldrich社製)を、超音波洗浄装置を用いてアセトン中で脱脂した後、窒素雰囲気下において400℃で3時間加熱処理した。さらに熱処理後のアルミ箔を、HClO4(70%):CH3CH2OH(95%)=1:5の溶液中、温度8℃、電圧18V(>150mA/cm2)で電解研磨した。
前記前処理後のアルミ箔は二度にわたって陽極酸化した(以下、「一次酸化」、「二次酸化」という。)。一次酸化を行っただけの場合では、表面に形成された孔は不規則であるが、この不規則な孔階を取り除いた後、二次酸化を行うことで規則的に配列した陽極酸化アルミニウム皮膜を形成することができる。陽極酸化は1〜20Vの間は15重量%硫酸電解質、100〜150Vの間は0.3Mリン酸電解質、その他の範囲においては0.3Mシュウ酸電解質を使用した。一次酸化後に不規則に成長した陽極酸化アルミニウム皮膜は、クロム酸(1.8重量%)とリン酸(6重量%)を使って60℃で加熱することにより除去した。二次酸化後、残留アルミニウムは飽和塩化水銀溶液を用いて取り除き、さらに形成された孔の底部に残った薄膜(障壁層)はリン酸(5重量%)を用いて取り除くことによって貫通孔を形成した。陽極酸化アルミニウム皮膜の作製方法については詳しくは「陽極酸化アルミニウムのナノ粒子分級体及び触媒担体としての応用」(Materials Integration,Vol.18,No.1(2005),pp.48〜53)を参照することができる。
その他、多孔壁としてポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート等の高分子フィルムに多数の貫通孔を設けたモノトランフィルム((株)ナック製)等も好ましく用いることができる。
【0025】
<加圧ガス供給手段>
本発明のマイクロナノバブル発生方法は、加圧ガス供給手段によりマイクロ流路内にガスを供給することにより、前記液体にマイクロナノバブルを含有させる工程を含む。
「加圧ガス供給手段」としては、多孔壁を通じてマイクロ流路内にガスを供給することができるものであれば限定されるものではないが、加圧及び/又は減圧手段を備えたチャンバを好ましく例示できる。チャンバが加圧手段のみでなく、減圧手段を有する場合には、多孔壁を通じてマイクロ流路内の液体を脱気する操作も可能となるため好ましい。
加圧ガス供給は、例えば、多孔壁を有するマイクロ流路を備えたマイクロリアクターをチャンバ内に設置してチャンバ内を密閉した後、チャンバ内に任意のガスを充填し、チャンバ内の圧力を、マイクロ流路内の圧力以上に設定することにより、多孔壁を通じて流路内に前記任意のガスをマイクロナノバブルとして供給することができる。前記ガスは半径10〜1,000nmの貫通孔を通過してマイクロ流路内の液体中にバブリングして供給されるため、貫通孔の半径に応じた半径を有するマイクロナノバブルを形成することができる。
【0026】
前記液体にマイクロナノバブルを含有させる工程は、さらに超音波発振子によりマイクロ流路内の液体に超音波を当てる工程を含むことが好ましい。例えば、図5に示すように、マイクロ流路が形成された基板の裏面(流路が形成された面の反対側)に超音波発振子15を設置することにより、マイクロ流路内に送流される液体に超音波を当てることが好ましい。超音波発振子15は脱着可能であることが好ましい。
液中に溶存するガスが飽和状態である場合には超音波により発生したキャビテーションによって液体中に溶解していたガスが析出し気泡を形成するため好ましい。
【0027】
<マイクロナノバブル>
本発明において、マイクロナノバブルとはマイクロバブルとナノバブルの総称であり、平均直径が数nm〜数百μmであることが好ましく、数nm〜数十μmがより好ましく、数nm〜数百nmのナノバブルであることがさらに好ましい。
マイクロナノバブルには強い洗浄効果及び/又は殺菌効果が認められるが、一般的にその効果はマイクロバブルに比してナノバブルの方が強い。ヤング・ラプラスの式(Δp=2σ/r、Δp;pi(気泡内部の圧力)−p0(外圧)、σ;界面張力、r;気泡の半径)によれば、直径100nmのナノバブルでは、気泡内外の圧力差が30atmになる。従ってナノバブルが物体に接触する際に崩壊すると、数十気圧のジェットを生じるため、物体表面の洗浄効果が期待できる。
また、異なる二相の界面での自由エネルギーの過剰量が界面での吸着力であるため、マイクロバブルよりもさらに比表面積が大きくトータルの自由エネルギーが大きいナノバブルは、より効率よく水中の汚れを吸着する。従ってナノバブルは水中の汚れ成分の除去に有効であると考えられる。
さらにナノメートルオーダーの水の液滴に関する分子動力学の計算結果によると、水の水素結合の相互作用により水素原子が気体側に存在する確率が高いことが予想されている。これはナノバブルにも適用されると考えられ、水素原子が気体側、つまり気泡の内側に存在する確率が高いと考えられる。即ち直径が数nmの気泡では気液界面の極性が揃うと考えられる。従ってナノバブルにより石鹸と同様な電気分離を気液界面に実現することができ、界面の静電効果により洗浄促進効果や静電気的な殺菌効果を持つことが期待できる。
また、気相−液相の反応においては、マイクロナノバブルは液体中に溶解及び/又は分散しやすいため溶液中の成分との反応が容易であり反応性が高い。本発明のマイクロナノバブル発生方法においては、目的に応じて任意のガス及び任意の液体を用いることができる。
【0028】
マイクロナノバブルの供給量は目的に応じて調整することができ、限定されるものではないが、マイクロ流路内に導入された液体の単位体積に対して0.1〜30体積%に相当するマイクロナノバブルを供給することが好ましく、7〜14体積%に相当するマイクロナノバブルを供給することがより好ましい。上記の数値の範囲内であると活性が高いナノバブル水が得られるため好ましい。
【0029】
<マイクロ流路の洗浄方法>
本発明のマイクロナノバブル発生方法により得られたマイクロナノバブルを含む液体は、洗浄液としてマイクロ流路内の洗浄に用いることができる。本発明のマイクロ流路の洗浄方法は、前記マイクロナノバブル発生方法により、マイクロナノバブルを含有する洗浄液を調製する洗浄液調製工程、並びに、前記洗浄液をマイクロ流路に通過させてマイクロ流路内の洗浄及び/又は殺菌(以下、「洗浄及び/又は殺菌」を「洗浄等」ともいう。)を行う工程を含むことを特徴とする。
【0030】
本発明によればマイクロ流路内にマイクロナノバブルを含有する洗浄液を導入して洗浄等を行うため、マイクロ流路を有する装置を分解することなく洗浄等が可能である。また、本発明の洗浄方法によりマイクロ流路を適宜繰り返して洗浄等することにより、マイクロ流路を長期間繰り返し使用することができるようになるため好ましい。
【0031】
洗浄液調製工程に用いる液体としては、水、酸、アルカリ水溶液、及び、アルコールの分散液等が挙げられ、中でも水が好ましく、pH7〜8の水であることがより好ましい。洗浄に用いる流体の温度は、特に、限定されないが、汚染物質を除去するのに適した温度を選ぶことが好ましい。また、マイクロリアクター構成材料を損傷しない温度を選ぶことは言うまでもない。
【0032】
<ガス>
また、前記洗浄液調製工程において、マイクロナノバブルとなるガス、すなわち加圧ガス供給手段により供給されるガスは、マイクロ流路の洗浄等を目的とする場合には空気、酸素、及び、オゾン等よりなる群から選ばれた少なくとも1つのガスであることが好ましく、酸素又はオゾンであることがより好ましく、オゾンであることがさらに好ましい。
【0033】
<洗浄方法の用途>
本発明のマイクロ流路の洗浄方法は、例えば、食品加工装置、医薬品加工装置及び化学反応装置よりなる群から選ばれた装置に形成されたマイクロ流路の洗浄方法に好適に用いることができる。
【0034】
<マイクロリアクター>
本発明のマイクロリアクターは、前記マイクロナノバブル発生システムを有する。
本発明に用いることができるマイクロリアクターは、マイクロナノバブル発生システムを備えたマイクロ流路を少なくとも1つ有するものであり、さらに流路の分岐や合流部分、他のマイクロ流路等を有していてもよい。また、洗浄手段として、マイクロナノバブル発生システムの他に、シリンジやポンプ等により流体に圧力をかける手段や、超音波洗浄等の公知の洗浄手段を併用してもよい。
また、本発明に用いることができるマイクロリアクターは、その用途に応じて、マイクロナノバブル発生システムを備えたマイクロ流路以外にも、反応、混合、分離、精製、分析、他の方法による洗浄等の機能を有する部位を有していてもよい。
【0035】
本発明に用いることができるマイクロリアクターには、必要に応じて、例えば、マイクロリアクターに流体を送液するための液体導入口や、マイクロリアクターから流体を排出するための排出口などを設けてもよい。
【0036】
また、本発明に用いることができるマイクロリアクターは、その用途に応じて、複数を組合わせたり、反応、混合、分離、精製、分析等の機能を有する装置や、送液装置、回収装置、他のマイクロリアクター等を組み合わせ、マイクロ化学システムを好適に構築することができる。
【0037】
マイクロリアクターの大きさは、使用目的に応じ適宜設定することができるが、1〜100cm2の範囲が好ましく、10〜40cm2の範囲がより好ましい。また、マイクロリアクターの厚さは、0.5〜30mmの範囲が好ましく、1.0〜15mmの範囲がより好ましい。
【0038】
<マイクロリアクターの製造方法>
本発明のマイクロリアクターの製造方法について説明する。
マイクロ流路が形成された基板と多孔壁を有する基板とを接続する方法としては、公知の方法を用いることができ限定されるものではないが常温接合であることが好ましい。
常温接合とは、室温で原子同士を直接接合することをいい、真空中で接合する部材の表面の酸化膜や不純物などを、中性原子ビーム、イオンビーム、FAB(Fast Atom Bombardment)処理等によって除去して清浄化した後、これらの活性化した清浄面同士を当接させることで部材間を接合させる接合方法である。
常温接合によれば、構成層の形状や厚みの変化が少なく高精度なマイクロリアクターが得られるため好ましい。また、加熱の必要がないため熱膨張係数の異なる材料同士であっても、簡便に強固な接合が得られる。
常温接合に用いられる材料としては、Al、Ni、Cu、ステンレス(SUS)等の金属やセラミックス、シリコン等の非金属が挙げられる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例で詳しく説明するが、本発明は下記各実施の形態に限定されず、その発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々な変形が可能である。また、発明の要旨を逸脱しない範囲内で各実施の形態の構成要素を任意に組み合わせることができる。
【0040】
<炭酸水素ナトリウムの製造>
NaCl+NH3+H2O+CO2→NH4Cl+NaHCO3↓ (a)
(a)の反応は、アンモニアソーダ法(別名ソルベー法ともいう炭酸ナトリウムの製造方法)を途中で止めた反応である。
(a)の反応後は、NaHCO3の析出粒子を層流による拡散で十分洗浄し、薬用・食用等の用途に用いる。
【0041】
NaCl水溶液、NH4OH水溶液、CO2の混合に、3合流路を有するマイクロリアクターを用いた場合と(実施例1及び2)、Y字型流路を有するマイクロリアクターを用いてNaCl水溶液とNH4OH水溶液とを混合し、洗浄の際にも用いる多孔壁を有する蓋よりCO2を流路内に供給した場合(実施例3)について以下に説明する。
【0042】
(実施例1)
(1)3合流路を有するマイクロリアクターの構成
図1〜3に示す3合流路を有するマイクロリアクター10について説明する。
マイクロリアクター10の基材としては、図1に示す基材11aにはステンレス基板(表面に厚さ30μmのAuメッキ(不図示))、50mm×30mm×3mmを用いて、流体導入口を有するマイクロ流路12a〜12d、排出口を有するマイクロ流路12e〜12f、及び、基材11aを貫通する排気孔12hを有するマイクロ流路12gをエッチングにより形成した。
マイクロ流路12a〜12fは流路幅250μm、深さ100μmとし、マイクロ流路12gは流路幅500μm、深さ100μmとした。
【0043】
図2に示す蓋11bには図4(a)〜(c)に示す陽極酸化したアルミニウム皮膜のうち、(b)のもの(貫通孔の半径50nm、厚み100μm)を用いた。陽極酸化アルミニウム皮膜の作製方法は先に述べた通りである。陽極酸化は電解液として1重量%リン酸溶液を用いて印可電圧150Vで10時間処理することにより行った。
蓋11bとしては、図2に示すようにマイクロ流路12a〜12fの流体導入口、排出口に対応する流体導入口13a〜13d並びに排出口13e及び13fを形成したものを用いた。またマイクロ流路12bを通じてCO2ガスを供給する際に、流路が合流するまでに多孔壁を通じてCO2ガスが漏れないように、蓋11bは多孔壁を部分的に有するものを用いた。
図3に示す蓋11cとしては、全面が多孔壁のもの(モノトランフィルム(株式会社ナック製))を用いた。
【0044】
次に、マイクロ流路が形成された基材11aを真空槽内の下部ステージに配置し、陽極酸化アルミニウム皮膜の蓋11bを真空層内の上部ステージに配置した。続いて、真空槽内を排気して高真空状態あるいは超高真空状態にした。次に、下部ステージを上部ステージに対して相対的に移動させて蓋11bの直下に基材11aを流体導入口及び排出口の位置が一致するように対向させて位置させた。次に、基材11aの表面、及び、蓋11bの表面にアルゴン原子ビームを照射して表面を清浄化した。
次に、上部ステージを下降させ、所定の荷重(100kgf/cm2)で基材11aと蓋11bとを所定の時間(例えば、5分間)押圧することにより、基材11aと蓋11bとを常温接合した。本実施の形態では、基材11aと蓋11cについては接着剤にて張り合わせを行った。
【0045】
(2)炭酸水素ナトリウムの製造
マイクロリアクター10を用いて、以下の操作により炭酸水素ナトリウムを製造した。実施例1においては、マイクロ流路12bを通じて導入した気体−液体合流後のCO2が多孔壁の蓋を通じて抜けないように、蓋11bを下側にして設置して用いた。
マイクロ流路12bの流体導入口13bよりCO2ガスを流速(10〜60ml/h)で送流した。同時にマイクロ流路12aの流体導入口13aよりNH4OH水溶液(0.1mol/l)を、マイクロ流路12cの流体導入口13cよりNaCl水溶液(0.01mol/l)を、シリンジポンプにて流速(10〜60ml/h)で送液した。
図3に示すように蓋11bに形成された流体導入口13bから導入され、マイクロ流路12bから送り込まれたCO2ガスは、基材11a中央部に形成された排気孔12h及び蓋11cの多孔壁を透過して流路外部に排出された。
式(a)に示す反応後は、炭酸水素ナトリウムの析出粒子を、12dの流体導入口13dよりシリンジポンプを用いて流速(50〜250ml/h)で導入された蒸留水により形成された層流により十分洗浄し、洗浄された炭酸水素ナトリウムの粒子を含む液をマイクロ流路12fの末端の排出口13fにて回収した。
【0046】
(3)マイクロ流路の洗浄
図5に示すようにチャンバ内に使用後のマイクロリアクターを設置し、チャンバ内に酸素を充填した後、チャンバ内の圧力を15MPaに調整した。
マイクロ流路12a〜12dより洗浄液16(組成:pH=約8の蒸留水)をシリンジポンプにて流速(60〜2,400ml/h)で送液した。洗浄液16には多孔壁を通じてマイクロナノバブル状の酸素が供給された。マイクロナノバブル17を含有した洗浄液16の流れが安定するまで送液した結果、マイクロ流路内の汚れ(不図示)や流路壁面への付着物(不図示)を取り除くことができた。
【0047】
(実施例2)
実施例1において、基材11aと蓋11bの接合を常温接合ではなく接着剤を用いた接着により行った以外は実施例1と同様にマイクロリアクターを作製した(不図示)。
基材11aとして実施例1と同様にして流路を形成したSUS板を用意し、蓋11bとして陽極酸化アルミニウム皮膜の蓋を用意した。基材11aと蓋11bとを対向させ、アライメントを行った後に、ディスペンサーを用いて瞬間接着剤(ロックタイトワイド、セメダイン(株)製)を、基材11a側の流路以外の部分にまんべんなく塗布した。対向させた基材11aと蓋11bとを圧接させ、大気中で1時間乾燥させることにより実施例2のマイクロリアクターを得た。実施例1と同様の操作を行った結果、実施例1と同様の結果が得られた。
【0048】
(比較例1)
マイクロナノバブルを発生させなかった以外は実施例1と同様の条件で洗浄を行った。マイクロ流路内の堆積物は少し除去できたが、流路壁面に付着したものは取り除くことができなかった。
【0049】
(実施例3)
(1)Y字型流路を有するマイクロリアクター
図6及び図7に示すY字型流路を有するマイクロリアクター30について説明する。
マイクロリアクター30において、図6に示すマイクロ流路形成面を有する基材31aとしてはPDMS樹脂(ポリジメチルシロキサン)製の基板(40mm×25mm×1.0mm)を用い、マイクロ流路32a〜32eの流路幅は5,000μm、深さ300μmとし、マイクロ流路32fの流路幅は800μm、深さ350μmとした。
PDMS樹脂には吸着効果があるため、接着剤なしで圧接させるだけで封止できる。従って接着剤等による流路の閉塞が少ない。
また、蓋31bには陽極酸化したシリコン基板(ポーラスシリコン、孔径5〜50nm、厚み300μm)にマイクロ流路32a〜32eに形成された流体導入口及び排出口に対応する箇所に穴を設けたものを用いた。
前記基材31aの流路形成面と蓋31bとを実施例1と同様にして常温接合し、実施例3のY字型流路を有するマイクロリアクター30とした。
本流路は比較的大きいので、もっとも簡便な「型抜き」で形成した。
【0050】
(2)炭酸水素ナトリウムの製造
マイクロリアクター30を用いて、下記の操作により炭酸水素ナトリウムを製造した。
Y字型流路のマイクロリアクター30を、蓋31bを上面にしてチャンバ内に設置し、チャンバ内をCO2ガスで充填し、チャンバ内の圧力を1〜10MPaに調整した。
マイクロ流路32aよりNH4OH水溶液(0.1mol/l)を、マイクロ流路32bよりNaCl水溶液(0.1mol/l)を、シリンジポンプにて流速(6ml/h〜60ml/h)で送液した。
式(a)に示す反応後は、炭酸水素ナトリウムの析出粒子を、マイクロ流路32cを通じてシリンジポンプにて流速(6〜60ml/h)で導入された蒸留水により形成された層流により十分洗浄し、洗浄された炭酸水素ナトリウムを含む液をマイクロ流路32eの末端に形成された排出口にて回収した。
【0051】
実施例3の場合、常に蓋31bには外部から圧力がかかっているので、蓋31bからの液漏れが生じないため、孔径は水分子が通れるサイズ(マイクロバブルに近くなるような大きなサイズである1,240nm以上)でも良い。また、蓋31bを通過したCO2がマイクロナノバブル状となるので、水溶液に含まれる成分との反応性も優れており、実施例1のマイクロリアクター10と比較して実施例3の構成が好ましい。
【0052】
(3)マイクロ流路の洗浄
使用後のマイクロリアクター30をチャンバ内に設置して、チャンバ内に酸素を充填した後、チャンバ内の圧力を12MPa以上に調整した。
マイクロ流路32a〜32cの液体導入口より洗浄液(組成:pH=約8の蒸留水)をシリンジポンプにて流速(60〜600ml/h)で送液した。
洗浄液の流れが安定するまで送液した結果、流路内の汚れ(不図示)や流路壁面への付着物(不図示)を取り除くことができた。
【0053】
(実施例4)
塩化ナトリウム水溶液を電気分解して得た水酸化ナトリウム水溶液に、二酸化炭素を反応させても、炭酸水素ナトリウムを得ることができる。
2NaCl+2H2O→2NaOH+Cl2↑+H2↑ (b)
NaOH+CO2→NaHCO3↓ (c)
この場合、式(b)の反応は減圧チャンバ内にマイクロリアクターを置くことで、Cl2やH2といった反応生成ガスのみを多孔質の蓋を通して分離し、選択的に除去できる。
式(c)の反応においては、多孔質の蓋より高圧CO2を流路内に供給することができる。
【0054】
(1)I字型流路のマイクロリアクター
図8及び図9に示すI字型流路のマイクロリアクター40について説明する。
マイクロリアクター40の基材40aとしては表面に金メッキをコートしたガラス基板(5mm×3mm×1mm)を用いた。マイクロ流路42aの流路幅は250μm、深さ300μmとし、ドライエッチングで形成した。マイクロ流路42aを挟んでマイクロ流路内に金製の電気分解用電極44a及び44bを設けた。
【0055】
また、蓋40bにはベーマイト処理済アルミニウム箔、蓋40cには陽極酸化したアルミニウム箔(孔径60nm、厚み300μm)を用い、基材40aのマイクロ流路を形成した面と、蓋40b及び40cとを常温接合・転写して実施例4のI字型流路のマイクロリアクター40とした。
【0056】
実施例4において使用した陽極酸化アルミニウム皮膜は下記のようにして作製した。
1.Siウェハ上にPDMS樹脂を厚さ100μm〜10mm程度となるようにスピンコートし、硬化させ、PDMS層(離型層)を形成した。
2.アルミ箔をウェハ上にロール圧接でしわがないようにPDMS層に張り合わせた。
3.アルミ箔上にネガフィルムレジストを張合せパターニング(露光、現像)した。
4.アルミ箔のレジスト開口部のみを選択的に陽極酸化(処理時間:20min)した。
5.レジスト剥離した(注:陽極酸化アルミニウム部分は陽極酸化反応で少し体積が増加した。)。
6.アルミ箔を塩酸で選択エッチングした。
【0057】
(2)炭酸水素ナトリウムの製造
I字型流路のマイクロリアクター40を用いて、下記の操作により炭酸水素ナトリウムを製造した。
(式(b)の工程)
I字型流路のマイクロリアクター40を、蓋面を上面にしてチャンバ内に設置し、チャンバ内の圧力を減圧雰囲気(10-3Pa)に調整した。マイクロ流路42aにNaCl水溶液(0.1mol/l)を、シリンジポンプにて流速(6〜60ml/h)で送液し、電極44aと電極44bとの間に電圧4.5〜7.0Vをかけた。上記反応(b)により、マイクロ流路42aの末端に形成された排出口46bからNaOH水溶液を回収した。
(式(c)の工程)
実施例4のI字型流路のマイクロリアクター40を、蓋面を上面にしてチャンバ内に設置し、チャンバ内をCO2ガスで充填し、チャンバ内の圧力を加圧雰囲気(15MPa)に調整した。流体導入口46aから、先に回収したNaOH水溶液を、シリンジポンプにて流速(60〜600ml/h)で送液し、マイクロ流路内の流体にマイクロナノバブル状のCO2ガスを供給した。式(c)の反応後は、炭酸水素ナトリウムを含む水溶液を排出口46bにて回収した。
式(b)及び式(c)の反応に用いた実施例4のI字型流路のマイクロリアクターを2個連結して式(b)と式(c)の反応を連続的に行ってもよく、上記のように式(b)の反応を行ってNaOH水溶液を回収した後、同じマイクロリアクターを用いて式(c)の反応を行ってもよい。
【0058】
(3)マイクロ流路の洗浄と滅菌
使用後のマイクロリアクター40を蓋40b及び40cを上側にしてチャンバ内に設置し、チャンバ内に酸素を充填した後、チャンバ内の圧力を15MPaに調整した。マイクロ流路42aに洗浄液(組成:pH=約8の蒸留水)をシリンジポンプにて流速(60〜600ml/h)で送液した。洗浄液には多孔壁を通じてマイクロナノバブル状の酸素が供給された。マイクロナノバブルを含有した洗浄液の流れが安定するまで送液した結果、マイクロ流路内の汚れ(不図示)や流路壁面への付着物(不図示)を取り除くことができた。
【0059】
(実施例5)
実施例1〜4で得られた炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)を加熱し、式(d)に示す反応により炭酸ナトリウム(Na2CO3)を得た(アンモニアソーダ法の完結)。
2NaHCO3→Na2CO3+H2O+CO2↑ (d)
【0060】
(1)I字型流路のマイクロリアクター
図10〜図13に示すI字型流路のマイクロリアクター50について説明する。
図10〜図13に示すマイクロリアクター50の基材50aとしては、表面に金メッキを施したSUS製の板材(40mm×30mm×2.5mm)を用いた。マイクロ流路52の流路幅は500μm、深さ300μmとし、ステンレスのハーフエッチングにより作製した。
また、蓋50bにはアルミニウム薄板(厚み400μm)を用い、蓋50cには陽極酸化したアルミニウム薄板(孔径500nm〜1.2um、厚み400μm)を用い、基材50aのマイクロ流路が形成された面と、蓋50b及び蓋50cとを同時に常温接合した。
マイクロ流路52にヒータ53を設置し、実施例5のI字型流路のマイクロリアクター50とした。
【0061】
(2)炭酸ナトリウムの製造
I字型流路のマイクロリアクター50を用いて、下記の操作により炭酸ナトリウムを製造した。
I字型流路のマイクロリアクター50を、蓋50b及び50cを上側にしてチャンバ内に設置し、チャンバ内の圧力を減圧雰囲気(10-3Pa)に調整した。また、ヒータ53を120℃に設定した。
図10及び図12に示すように、マイクロ流路52に実施例1〜4で得られたNaHCO3分散液54を、シリンジポンプにて流速(6〜60ml/h)で送液した。加熱により発生した二酸化炭素ガス56は、蓋50cの多孔壁を通じてマイクロ流路外に放出された。
式(d)に示す反応後は、炭酸ナトリウムを含む水溶液をマイクロ流路52末端の排出口にて回収した。
【0062】
(3)マイクロ流路の洗浄
使用後の実施例5のマイクロリアクター50をチャンバ内に設置し、チャンバ内に酸素を充填した後、チャンバ内の圧力を加圧雰囲気(13MPa)に調整した。
図11及び図13に示すようにマイクロ流路52末端から、炭酸ナトリウム製造時とは逆方向に洗浄液55(組成:pH=約8の蒸留水)をシリンジポンプにて流速(100〜600ml/h)で送液した。洗浄液には多孔壁を通じてマイクロナノバブル状の酸素57が供給された。
洗浄液55の流れが安定するまで送液した結果、流路内の汚れ(不図示)や流路壁面への付着物(不図示)を取り除くことができた。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明のマイクロナノバブル発生方法等に用いることができる3流路が合流した合流流路を有するマイクロリアクターの一例を示す概略図である。
【図2】本発明のマイクロナノバブル発生方法等に用いることができる3流路が合流した合流流路を有するマイクロリアクターの多孔壁を形成する蓋の一例を示す概略図である。
【図3】図1に示すマイクロリアクターのa−a’断面を表す概略図である。
【図4】本発明のマイクロナノバブル発生方法等に用いることができる多孔壁の拡大図である。
【図5】本発明のマイクロナノバブル発生方法等の一例を示す概略図である。
【図6】本発明のマイクロナノバブル発生方法等に用いることができるY字型の合流流路を有するマイクロリアクターの一例を示す概略図である。
【図7】本発明のマイクロナノバブル発生方法等に用いることができるY字型の合流流路を有するマイクロリアクターのマイクロ流路32fの断面の一部を示す概略図である。
【図8】本発明のマイクロナノバブル発生方法等に用いることができるI字型の流路を有するマイクロリアクターの一例を示す概略図である。
【図9】本発明のマイクロナノバブル発生方法等に用いることができるI字型の流路を有するマイクロリアクターの多孔壁を形成する蓋の一例を示す概略図である。
【図10】本発明のマイクロナノバブル発生方法等に用いることができるI字型の流路を有するマイクロリアクターの反応動作時のマイクロ流路断面を示す概略図である。
【図11】本発明のマイクロナノバブル発生方法等に用いることができるI字型の流路を有するマイクロリアクターの洗浄動作時のマイクロ流路断面を示す概略図である。
【図12】本発明のマイクロナノバブル発生方法等に用いることができるI字型の流路を有するマイクロリアクターの反応動作時の一例を示す概略図である(基材50aと蓋50cとを重ねて表記した)。
【図13】本発明のマイクロナノバブル発生方法等に用いることができるI字型の流路を有するマイクロリアクターの洗浄動作時の一例を示す概略図である(基材50aと蓋50cとを重ねて表記した)。
【符号の説明】
【0064】
10:マイクロリアクター
11a:基材
11b、11c:蓋
12a〜12g:マイクロ流路
12h:排気孔
13a〜13d:流体導入口
13e、13f:排出口
14:流体(NaCl aq+NH4 aq)
15:超音波発振子
16:洗浄液
17:マイクロナノバブル
30:マイクロリアクター
31a:基材
31b:蓋
32a〜32f:マイクロ流路
40:マイクロリアクター
40a:基材
40b、40c:蓋
42a:マイクロ流路
44a、44b:電気分解用電極
46a:流体導入口
46b:排出口
50:マイクロリアクター
50a:基材
50b、50c:蓋
52:マイクロ流路
53:ヒータ
54:NaHCO3分散液
55:洗浄液
56:発生した二酸化炭素ガス
57:マイクロナノバブル状の酸素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ流路内に液体を導入する工程、及び、
マイクロ流路壁の全部又は一部に形成された半径10〜1,000nmの貫通孔を有する多孔壁の外部から、加圧ガス供給手段によりマイクロ流路内に直接ガスを供給することにより、前記液体にマイクロナノバブルを含有させる工程を含むことを特徴とする
マイクロナノバブル発生方法。
【請求項2】
超音波発振子によりマイクロ流路内の液体に超音波を当てる工程を含む請求項1に記載のマイクロナノバブル発生方法。
【請求項3】
マイクロ流路内に液体を導入する工程、
マイクロ流路壁の全部又は一部に形成された半径10〜1,000nmの貫通孔を有する多孔壁の外部から、加圧ガス供給手段によりマイクロ流路内に直接ガスを供給することにより、前記液体にマイクロナノバブルを含有させることにより洗浄液を調製する洗浄液調製工程、並びに、
前記洗浄液を前記マイクロ流路と同一又は異なるマイクロ流路に通過させてマイクロ流路内の洗浄及び/又は殺菌を行う工程を含むことを特徴とする
マイクロ流路の洗浄方法。
【請求項4】
前記マイクロ流路が、食品加工装置、医薬品加工装置及び化学反応装置よりなる群から選ばれた装置に形成されたマイクロ流路である請求項3に記載のマイクロ流路の洗浄方法。
【請求項5】
前記マイクロナノバブルが、空気、酸素及びオゾンよりなる群から選ばれた少なくとも1つのガスを含む請求項3又は4に記載のマイクロ流路の洗浄方法。
【請求項6】
前記洗浄液が、pH6〜9の、マイクロナノバブルを含有する水である請求項3〜5いずれか1つに記載のマイクロ流路の洗浄方法。
【請求項7】
マイクロ流路壁の全部又は一部に形成された半径10〜1,000nmの貫通孔を有する多孔壁、及び、前記多孔壁の外部からマイクロ流路内に直接ガスを供給する加圧ガス供給手段よりなることを特徴とする
マイクロナノバブル発生システム。
【請求項8】
前記多孔壁が、陽極酸化したアルミニウム皮膜である請求項7に記載のマイクロナノバブル発生システム。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のマイクロナノバブル発生システムを有するマイクロリアクター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−101299(P2009−101299A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275991(P2007−275991)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】