説明

マイクロ機械素子の特性測定方法、画像投影装置及び画像補正方法

【課題】静電気力で動作させるマイクロ機械素子における帯電量の変化に起因する駆動特性の変化を測定することを目的とする。
【解決手段】駆動電極10a〜10cを片側極性の電圧制御により動作させる静電駆動式のマイクロ機械素子1に対し、基準電極電圧を変化させることにより、擬似的に逆極性駆動を行って、マイクロ機械素子上の電荷の帯電量に起因する駆動特性の変化量を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば回折格子型のマイクロ機械素子などの、駆動電極を片側極性の電圧制御により動作させる静電駆動式のマイクロ機械素子の特性測定方法、画像投影装置及び画像補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
静電気力で動作させるマイクロ機械素子、いわゆるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)が種々開発されている。例えば、特許文献1においては、一対の電極のみを用いて揺動部材の振動周波数及び機械的共振周波数を個別に制御することが可能なMEMSアクチュエータを提案している。
【0003】
また、特許文献2においては、静電アクチュエータなどの可動素子に駆動信号を与えて変位させ、変位検出部でその変位を検出し、較正部が駆動信号と変位との関係を自己較正するマイクロアクチュエータが提案されている。
【0004】
更に、特許文献3においては、強誘電体薄膜とその裏面に形成された下部電極と強誘電体薄膜の上面に形成された上部電極で構成される表示素子が提案され、上部電極に電荷を供給し、静電引力により強誘電体薄膜に引き寄せて光の反射のオン/オフを行う技術が開示されている。
【0005】
また、画像投影装置の光変調素子として、回折格子型のMEMS、例えばGLV(Grating Light Valve)が用いられている。この回折格子型の光変調素子は、例えば共通電極上に、反射膜を表面に備えるリボン状の固定電極と駆動電極(可動電極)とが支持部に支えられて張架され、駆動電極と、固定電極及び共通電極との間に電位差を生じさせ、静電気力を利用して駆動電極を共通電極側に移動させて回折格子を駆動している。つまりこの光変調素子では、その駆動方法として共通電極及び固定電極に基準電圧を印加又は接地し、駆動電極に駆動電圧を印加することにより、駆動電極の沈み込み量を制御することによって、回折光の角度を変化させ、光変調を行っている。
【0006】
特許文献4には、このようなGLV等の回折格子型光変調素子を用いる場合に、駆動電極や固定電極の形状や表面状態、また駆動回路特性にばらつきが存在することを考慮して、各素子の測定変調特性を用いてユニフォーミティ(均一性)補正データを得る技術が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2007−245246号公報
【特許文献2】WO2004/041710号公報
【特許文献3】特開2001−147654号公報
【特許文献4】特開2004−157522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したような静電気力で動作させるマイクロ機械素子においては、動作時に帯電することで特性に経時変化が生じてしまうという問題がある。例えば上述した回折格子型の光変調素子において、共通電極や固定電極、また駆動電極に電荷が帯電した場合は、駆動電圧を駆動電極に印加しても、設定された電極間の電位差に対して異なった電位差が発生することになる。このため、駆動電極が設計通りに共通電極側に向かって移動(変形)しなくなってしまい、所望の光変調を行うことができなくなるという問題が生じる。
【0009】
この問題に対して、光源のパワーが一定であれば変調後の出力をモニタすることにより帯電量を検出することが可能となる。しかしながら、実際のシステムにおいては、温度や駆動装置の状態などの各種条件によって、光源の出力は数%程度のオーダーで変動するため、正確な帯電量を検出することは困難である。
【0010】
また、別の手段としてGLVのような光の回折光を用いた変調装置では、駆動電極に印加する駆動電圧を上げていくと最大効率駆動電圧が存在するため、その電圧を検出することにより帯電量を検出することも可能である。しかし、現実問題としては駆動電極に対して比較的大きな電圧を印加すると、駆動電極にかかる静電気力が駆動電極を支持する支持部の強度限界を超えて、駆動電極が共通電極とくっついてしまうスナップダウンという現象を引き起こす恐れがある。このような現象が起こると修復が不可能であり、装置全体が不良品となってしまう。このため、最大効率駆動電圧を印加することによって帯電量を測定することは望ましくない。
【0011】
以上の問題に鑑みて、本発明は、静電気力で動作させるマイクロ機械素子における帯電量の変化に起因する駆動特性の変化量を測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明によるマイクロ機械素子の特性測定方法は、駆動電極を片側極性の電圧制御により動作させる静電駆動式のマイクロ機械素子に対し、基準電極電圧を変化させることにより、擬似的に逆極性駆動を行って、マイクロ機械素子上の電荷の帯電に起因する駆動特性の変化量を測定する。
【0013】
また、本発明による画像投影装置は、光源と、駆動電極を片側極性の電圧制御により動作させる静電駆動式のマイクロ機械素子より成る光変調素子を備える光変調装置と、この光変調装置により変調された画像信号に対応する光を投影する投影光学部と、光変調装置によって変調された光の強度を測定する測定部と、測定部により測定された光強度特性を用いて画像補正データを作成する演算部と、を有する。そして更に、画像信号に対応する駆動電圧を前記画像補正データにより補正して光変調素子に出力する映像回路部と、光変調素子の変調特性の変化量を測定する際には基準電極電圧を変化させて擬似的な逆極性駆動を行うパターン発生部と、を備える駆動回路と、を有する構成とする。
【0014】
本発明の画像補正方法は、駆動電極を片側極性の電圧制御により動作させる静電駆動式のマイクロ機械素子に対し、印加する基準電極電圧を変化させることにより擬似的に逆極性駆動を行って、マイクロ機械素子上の電荷の帯電に起因する駆動特性の変化量を測定する。そして、この駆動特性の変化量を用いて画像補正データを作成し、画像信号に対応する駆動電圧を、前記画像補正データを用いて補正してマイクロ機械素子に出力する。
【0015】
上述したように、本発明においては、駆動電極を片側極性の電圧制御により動作させる静電容量式のマイクロ機械素子、いわゆるMEMSに印加する基準電極電圧を変化させることにより、擬似的に逆極性駆動を行うものである。静電気力で動作させる静電容量式のマイクロ機械素子では、帯電量を測定するために高い電圧を印加すると、帯電量が多くなっていると素子が破壊されてしまう可能性がある。しかしながら上述したように、擬似的に逆極性駆動を行うことで、このようなマイクロ機械素子の破壊を回避しつつ、素子上の帯電量が増加することによる駆動特性の変化量を良好に測定することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、静電気力で動作させるマイクロ機械素子における帯電量の変化に起因する駆動特性の変化量を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下本発明を実施するための最良の形態の例を説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
図1は、本発明の実施の形態に係るマイクロ機械素子の特性測定方法を実現する画像投影装置の一例の概略構成図である。この画像投影装置100は、例えば赤色帯域、緑色帯域及び青色帯域の光源21R,21G及び21Bを備え、これら各色の光源から出射される光をマイクロ機械素子である光変調装置によって画像信号に対応して変調して投影するものである。図1に示すように、各光源21R,21G及び21Bの出射光路上に、光源から出射される光を集光して適切な光束に整形する光学系22R,22G及び22B、駆動回路110R,110G及び110Bから出力される駆動電圧によって画像信号に対応して光を変調する光変調装置23R,23G及び23B、プリズム等より成り各色光の光軸を合成する光合成部24が配置される。光合成部24の出射光路上に、オフナーリレーミラーやシュリーレンフィルタ等より成る空間フィルタ25、可動ミラー等の光路切り替え部26を介してガルバノミラー、ポリゴンミラー等より成る走査光学部30が配置される。光路切り替え部26の反射光路上には積分球等の測定系27が配置され、フォトダイオード等の受光部28により変調光の光量が検出される。そして、走査光学部30による走査光路上に投射レンズ等を含む投射光学部32が配置されて、外部に画像光Lが投影される。受光部28において検出された光量は測定部121に出力され、更に演算部124に出力される。測定部121、演算部124及び上述の駆動回路110R,110G及び110Bは制御部120により制御され、演算部124において後述する方法に基づいて測定部121で得られた測定データから駆動特性の変化量、この場合光変調特性の変化量が算出され、この変化量に基づいて補正信号が駆動回路110R,110G及び110Bに出力される。
【0018】
上述の光変調装置23R,23G及び23Bとしては、例えば1次元回折格子型光変調素子であるGLVを備える光変調装置が用いられる。このGLV型の光変調素子の要部の模式的な構造を図2に示す。この光変調素子1は、条帯(リボン)状の駆動電極10a,10b、10c及び固定電極11a,11b,11cと、共通電極12とより構成される。これら各電極は、図示しないシリコン等の半導体基板上に設けられ、共通電極12はポリシリコン薄膜等より成る。また駆動電極10a〜10c及び固定電極11a〜11cは、共通電極12の上方に支持、張架されて成り、例えばSiNから成る誘電体材料層(下層)とCuを添加したAlから成る光反射層(上層)との積層構造として構成される。図示の例においては、1つの光変調素子1に3本の駆動電極10a〜10cと3本の固定電極11a〜11cとを設ける例を示し、この構成で1画素(ピクセル)に対応する光変調を行う。1ピクセルに対応する電極の本数はこれに限定されず、所望の回折光強度が得られればよく、駆動電極、固定電極それぞれの本数として1〜3本程度とすることができる。
【0019】
駆動電極10a〜10c及び固定電極11a〜11cの代表的な寸法としては例えば、各電極の幅は3〜4μm、隣接する電極間のギャップは約0.6μm、電極の長さは200〜400μm程度である。
図示の例のように隣接する6本の固定電極10a〜10c,11a〜11cが1画素分とすると、1画素分の幅は約25μmとなる。例えば、実用化されつつある1080画素を表示するGLV型の光変調素子においては、図2の横方向(各電極10a〜10c,11a〜11cの幅方向)に沿って、1080画素分のリボン状電極が並置配列される構成となる。
【0020】
そして図2に示すように、駆動電極10a〜10cは駆動電源13に接続され、固定電極11a〜11c及び共通電極12もそれぞれ制御電源14及び15に接続され、所定の電圧が印加されるようになされる。駆動電極10a〜10cに駆動電圧が印加されず固定電極11a〜11c及び共通電極12と同電位とされる状態では、図3に示すように、駆動電極10a〜10cと固定電極11a〜11cとの上面反射膜がほぼ同一面上に位置し、入射光Liは主に通常の反射光Lr(0次光)として出射される。
【0021】
一方、駆動電極10a〜10cに所定の駆動電圧を印加した状態では、駆動電極10a〜10cと共通電極12の間に静電気力が生じ、図4に示すように、駆動電極10a〜10cは上下方向(図示の例では下向き)に移動又は変形し、その上面反射膜の高さが変位する。一方、固定電極11a〜11cは常に共通電極12と同じ電位として位置を一定とし、移動又は変形しない。この状態で回折格子として機能し、入射光Liに対して0次光Ldに加えて±1次回折光Ld+1及びLd−1が回折される。
ここで例えば、波長が532nmである入射光に対して、駆動電極10a〜10cの上面と固定電極11a〜11cの上面との間隔Zがλ/4引き下げられる場合、すなわち駆動電極10a〜10cがλ/4=133nm変位するときは、入射光と0次光が干渉して打ち消し合い、1次回折光、3次回折光等の回折効率が最大となる。
【0022】
ここで前述の図1に示す画像投影装置100において、空間フィルタ25により±1次回折光以外の回折光を取り除くことによって、1次回折光が変調光として出射される。そして駆動電極10a〜10cに印加する電圧として、固定電極11a〜11c及び共通電極12と同じ電位を最小駆動電圧とし、駆動電極10a〜10cの移動距離がλ/4となる電位を最大駆動電圧として駆動電圧を制御する。駆動電圧を最大駆動電圧と最小駆動電圧との間で細かく制御することにより、精度よく回折光強度を変化させて、画像信号に対応した光の変調を行うことができる。
【0023】
この光変調素子による光変調特性を図5に示す。図5においては、駆動電極10a〜10cに印加する電位と固定電極11a〜11c及び共通電極12の電位との電位差を横軸とし、これに対する光変調度(相対値)を縦軸として示す。通常は、固定電極11a〜11c及び共通電極12に基準電圧を印加し、駆動電極10a〜10cに、基準電圧から(基準電圧+駆動電圧)の範囲の電圧を印加する。そしてその電位差により発生する静電気力を利用して、駆動電極10a〜10cの下方への変位量(沈み込み量)を制御する。図5においては基準電圧を0Vとする場合で、電位差が0〜Vopの範囲で、駆動電極10a〜10cの変位量が0からλ/4まで変化し、変調度が0〜1(相対値)の範囲で変化する。図5から明らかなように、この光変調素子は、片側極性電圧制御により駆動電極を動作させる静電駆動式のマイクロ機械素子であることがわかる。ここで、駆動電極10a〜10cや固定電極11a〜11cに電荷が帯電した場合、光変調特性全体が上にシフトするような状態となる。
【0024】
このように、素子に電荷が帯電した場合は最大の変調度となる設定電位差を測定することにより、帯電量を割り出すことは可能である。しかしながら、正確にその電位差を測定するには十分に大きな電位差が得られる駆動電圧を印加する必要があり、駆動電極10a〜10cの変位量が強度限界を超えてしまうと電極構造の破壊に至る可能性がある。
そこで、本実施の形態においては、固定電極11a〜11cと共通電極12に設定する基準電圧に、所定の値を加算した値を用いて特性変動量を測定する。
【0025】
具体的には、例えば駆動電極10a〜10cに印加する最大駆動電圧をVm、光変調動作時に固定電極11a〜11c及び共通電極12に印加する基準電圧をVrとするとき、固定電極11a〜11c及び共通電極12に設定する測定用基準電圧Vaを、
Va≒Vr+(Vm−Vr)/2・・・(1)
とする。
【0026】
図6にこのように測定用基準電圧Vaを設定した場合の駆動電圧に対する電位差(駆動電極と固定電極との電位差)の変化を示す。図6に示す例では、最大駆動電圧Vmが20V、基準電圧Vrが0Vの場合であり、測定用基準電圧Vaは+10Vとなる。このように、測定用基準電圧を上記式(1)に示すように設定することによって、駆動電圧に対する電位差の変化は図6中矢印aで示すように破線から実線にシフトする。この場合、電位差に対する光変調特性も、図5に示すような片側極性から軸対称な変調特性にシフトする。この様子を図7に示す。図7において横軸は駆動電圧を示し、図6に示す電位差に対応する。また図7中破線は元の変調特性であり、測定用基準電圧Vaを印加しない場合は駆動電圧が正の領域では片側極性である。これに対し上記式(1)に示す測定用基準電圧を採用することで、図7中矢印bで示すように、駆動電圧が正の領域でも電位差が−から+に変化し、片側極性から実線で示す軸対称の光変調特性にシフトする。
【0027】
図8においては、基準電圧Vrが0Vの場合であり、最大駆動電圧Vmが20Vの場合に、上記式(1)から測定用基準電圧Vaを+10Vとしたときの駆動電圧に対する光変調度(相対値)を示す。図8に示すように、このように測定用基準電圧を設定する場合は変調度の変化量が小さくなるが、前述の図1に示す測定部121における測定ゲインを上げる方法や、通常時よりも駆動電極10a〜10cに印加する駆動電圧を高くする方法を採ることでこの問題は解消される。
【0028】
なお、上述の例においては上記式(1)から測定用基準電圧Vaを+10Vとした場合を説明したが、測定用基準電圧Vaは上記式(1)の右辺から求められる値から僅かにずれた近似値としても、同様の効果が得られる。すなわちこの場合、Vaとして+10Vから+0.1V程度ずれた値としても、同様に片側極性からほぼ軸対称の光変調特性にシフトすることが可能である。また、例えば+10V以下の値としても、十分なS/N比が得られれば特性の変動量を検出することは可能である。つまり、測定用基準電圧Vaとしては、使用するマイクロ機械素子の駆動特性の変化量の測定に求められる精度が得られる範囲であれば、適宜上記式(1)の右辺から求められる値の近似値を用いることが可能である。
【0029】
そして本実施の形態では、電位差を変化させて図5で示す光変調特性を取得したのち、4次のフィッティング計算を行なって、軸中心を求める。測定データを
y=a+ax+a+a+a・・・(2)
で最小二乗法にて計算する場合、
XA=Y・・・・(3)
A=X−1Y・・・(4)
として、以下の数1〜数3を用いて、数2の係数a〜aを求める。
【0030】
【数1】

【0031】
【数2】

【0032】
【数3】

【0033】
また、図8に示す軸対称となる光変調特性は、基準電圧と駆動電圧の電位差が0になる電位差を軸中心として軸対称となるため、遇関数となる。このことから求めるフィッティング式を
y=c+c(x−b)+c(x−b)・・・(5)
とすると、
b=−a/(4a)・・・(6)
となる。このbにより、軸中心の電位差が求まる。
【0034】
なお、本実施の形態においては4次関数のフィッティングを行ったが、偶関数であればフィッティングは可能である。上述した回折格子型の静電駆動式マイクロ機械素子においては、4次関数を用いることが望ましい。
【0035】
このような演算及び演算に基づく駆動処理を行うために、図1に示す画像投影装置100において、駆動回路110R,110G及び110Bや演算部124等を図9に示す構成とすることが望ましい。この場合、図9に示すように、駆動回路110(図1における110R,110G及び110Bに対応する)にはパターン発生部11と映像回路部112が設けられ、図示しないが測定部121からの切り替え信号によって、駆動電極駆動部113から光変調装置23(図1における23R,23G及び23Bに対応する)の駆動電圧に印加する電圧が切り替えられる。共通電極/固定電極駆動部114も同様に測定部121からの切り替え信号(図示せず)により、光変調装置23の共通電極及び固定電極に印加する電圧が切り替えられる。また、光変調装置23によって変調された光Ldが受光部28によって検出されて測定部121に入力され、測定部121のADコンバータ123に入力され、演算部124に測定された光変調特性が出力される。演算部124において、測定部121からの測定データ(測定用基準電圧を用いた場合の光変調特性)に基づいて上述した演算処理がなされ、補正データが記憶部125に記憶される。補正データに基づいて、駆動回路110の映像回路部112に補正信号が出力される。制御部120はこれら駆動回路110、測定部121及び演算部124を制御する。
【0036】
次に、本発明の実施の形態に係るマイクロ機械素子の特性測定方法を実現する測定シーケンスについて図10〜図13を参照して説明する。この例は、前述の図2〜図5に示す回折格子型の光変調素子に適用するもので、1088ピクセル分の光変調素子を有する光変調装置を用いた画像投影装置における特性測定シーケンスとなる。
【0037】
図10に示すように、測定シーケンスとして、先ず前述した共通電極12及び固定電極10a〜10cに印加する測定用基準電圧を設定する(ステップS11)。そして図1に示す画像投影装置100を測定可能状態に設定する(ステップS12)。すなわちこの場合、積分球等の測定系27へ光路切り替え部26等によって光路を切り替え、受光部28のフォトディテクター等のセンサゲイン変更や、図9に示す駆動回路110においてパターン発生部111への切り替え等を行う。そして後述する図11において詳細に説明するように、駆動特性として光変調特性、すなわち駆動電極電圧に対する光変調度のデータ測定を行う(ステップS13)。その後、前述の式(2)〜(5)、数1〜数3に示すフィッティング計算を行う(ステップS15)。なお、本実施の形態においては、ステップS13のデータ測定処理にて1024階調×1088ピクセル分の変調度特性データD1を測定し、図9に示す演算部124の記憶部125に保存する。更にその保存したデータを読み出しフィッティング計算を行って(ステップS15)、帯電量の変化に伴って変動する1088ピクセル分の変調特性情報D2を保存する。しかし、測定データをファイルに保存することは重要ではなく、1ピクセル毎に測定しフィッティング計算を行ったとしても同様の結果を得ることができる。
【0038】
データ測定(ステップS13)の詳細なシーケンスを図11に示す。この例では、先ずパターン発生部111の設定を行う(ステップS21)。具体的には、駆動電極に印加する電圧を最小駆動電圧から最大駆動電圧まで変化させるパターンとなる。図12にこのパターンの一例を示す。図12Aにおいては、従来の駆動電圧パターンの一例を波形V1として示す。この場合、基準電圧を0Vとする例で、0Vから駆動最大電圧までの漸次増加する2ピークの印加パターンを、1ピクセルP,2ピクセルP,・・・1088ピクセルP1088まで周期的に繰り返す場合を示す。この場合、電位差は0Vから駆動最大電圧に相当する電位差まで変化し、片側極性の電圧制御である。
【0039】
本発明においては、上述したように基準電圧と最大駆動電圧から測定用基準電圧Vaを設定する。したがって、最小駆動電圧(例えば0V)から最大駆動電圧まで印加するとき、図12Bにおいて波形V2として示すように、(0−Va)から(駆動最大電圧−Va)まで電位差を変化させるパターンとなる。これにより、見かけ上両側極性の電圧制御となる。このパターンを1ピクセルp,2ピクセルp,・・・1088ピクセルp1088と2ピークずつ順次発生させる。なお、ピークの数は2つに限定されるものではなく、測定精度を向上させるために3ピーク以上としてもよく、逆に十分な測定精度が得られる場合は1ピークでもよい。
【0040】
そして、各光変調素子より変調されて出力される光を上述した図1に示す積分球等の測定系27に設置される受光部28において検出し、出力された電圧から図9に示すADコンバータにてデータサンプリングを行う(図11中のステップS22)。サンプリングしたデータから必要な情報、すなわち駆動電圧に対する変調度を、フィルタ処理を通して抽出する(ステップS23)。そして1088ピクセル目まで測定したか判断し(ステップS24)、NOであれば再度データサンプリング(ステップS22)に戻る。1088ピクセル目まで測定が終わったら(ステップS24のYES)、測定データを保存する(ステップS25)。このデータは、1024階調×1088ピクセル分のデータD1として格納される。このデータ測定は、赤色光源、緑色光源及び青色光源に対して全て行い、全色測定が終わったか判断し(ステップS27)、全色終わっていなければ(ステップS27のNO)ステップS21のパターン設定に戻る。全色測定が終わっていれば(ステップS27のYES)終了する。
【0041】
また、図10に示すステップS16のフィッティング計算のシーケンスを図13に示す。フィッティング計算シーケンスでは、保存した1024階調×1088ピクセル分の測定データD1(図11のステップS25で保存)を1ピクセル目から読み出し(ステップS31)、前述の式(2)〜式(6)、数1〜数3で説明したフィッティング演算を用いて対称軸の電圧を算出する。1088ピクセル目まで測定したか判断し、NOの場合は再度データを読み込む。1088ピクセル目まで測定したら(ステップS34のYES)、1088ピクセル分の変調特性情報D2を保存する(ステップS35)。
以上のステップにより、本発明の実施の形態に係るマイクロ機械素子の特性測定方法を実施することができる。
【0042】
なお、上記の例では1088ピクセル分の測定を行う例を示すが、これに限定されるものではなく、例えば画像投影用ではなく光学的な位置調整のみに両端の8ピクセルを利用する、という場合は画像投影に用いる1080ピクセル分のみ行ってもよい。その他、例えば1088のうち半分の544ピクセルを2回に分けて行うことも可能である。この測定は画像投影の度に行ういわゆるリアルタイムで行う必要はないが、リアルタイムで行ってもよく、また一定期間(数週間とか数ヶ月、又は1年など)毎に実施するようにしてもよい。
【0043】
回折格子型の光変調装置を用いる画像投影装置においては、上記特許文献4(特開2004−157522号公報)に開示されているように、ユニフォーミティ補正データを用いて光変調を行っている。このユニフォーミティ補正データは、上述したように各ピクセルに対応する光変調素子の寸法形状のばらつきや駆動回路の特性等に起因する光変調特性の変動量を補正したデータであり、素子特性として保存され、実際に画像投影の際に利用されている。この一例を図14に示す。この例では、図14Aに示すように、補正前の駆動信号vとして、駆動電圧Vinに対して、目標輝度Yが設定されている。
【0044】
各光変調素子の寸法形状のばらつきや駆動回路の特性等により、図14Aに示す光変調特性が、図14Bに示すように変動する。図14Bにおいては、一例としてl番目のピクセルの変調特性を実線Yl、m番目のピクセルの変調特性を破線Ym、n番目のピクセルの変調特性を一点鎖線Ynとして示す。目標輝度Yに対応する駆動信号v’として、それぞれVinからVout_l,Vout_m,Vout_nに駆動電圧がシフトしてしまう。この特性の変化を補正しないと画像上の輝度の変化となり、画質の劣化を引き起こす。このため、上記特許文献4に記載の方法では、このような変調特性のずれを補正するLUT(Look Up Table:入力輝度に対する出力輝度の割当テーブル)を予め作成しておき、このLUTに基づいて各光変調素子の駆動を行うようにしている。
【0045】
本発明においては、このように予め素子の寸法形状や駆動回路特性等に基づいて作成されたユニフォーミティ補正データを用いる場合と同様に、使用後に帯電によって特性が変動した場合に補正を行うものである。なお、特性の変動は帯電に起因するものでなくても測定可能である。
【0046】
そして本発明においては、前述のシーケンスにしたがって帯電量の変動に起因する変調特性の変化を測定することにより、保存されている駆動電圧に対する輝度の変調特性に対し、各ピクセルにおいて駆動電圧を所定量シフトする補正テーブルを作成する。この補正の手順を、図15を参照して説明する。図15においては、駆動電圧に対する輝度の変化を示し、破線Ybは例えば上述したユニフォーミティ補正等が予めなされた駆動電圧に対する輝度の変調特性である。この破線Ybで示す特性が、帯電等が生じると実線Yaで示す変調特性にシフトしてしまう。このため、補正前に設定された駆動信号Vout_bでは目標輝度Yが得られない。
これに対し、上述の方法により補正した駆動信号Vout_aを用いることにより、目標輝度Yが達成される。したがって、ピクセル毎に駆動信号を補正する補正テーブルを作成しておき、この補正テーブルに基づいて光変調を行うことにより、電荷の帯電による画質の劣化を防ぐことが可能となる。
【0047】
なお、この駆動電圧のシフト量そのものが、帯電量に起因する帯電電圧の変化量に相当する。すなわち本発明においては、マイクロ機械素子の駆動特性の変化量として、例えば輝度に対応する駆動電圧の変化量を測定することによって、いわば各マイクロ機械素子の帯電量を帯電電圧という形で間接的に測定することとなる。
【0048】
以上説明したように、本発明によれば、回折格子型の光変調素子などのマイクロ機械素子において、その故障の危険を招くことなく、帯電等に起因する高精度な特性変動の測定が可能となる。
また、測定された帯電量に起因する変調特性情報により、素子の変調特性の変化を補正することが可能になり、光変調素子の場合はこれを用いる画像投影装置において、画質の劣化を防ぐことが可能となる。
更に、定期的に帯電に起因する特性の変動を測定することができることから、素子の特性の情報収集ならびに故障検出機能を実現することが可能となる。
【0049】
なお、本発明は上述の実施形態例において説明した構成に限定されるものではなく、例えばマイクロ機械素子として上述した回折格子型の光変調素子以外のセンサー素子や表示素子など静電駆動方式のマイクロ機械素子であればよい。また、回折格子型の光変調素子としても、前述の図2〜図4に示す構成に限定されることなく、駆動電極及び固定電極が幅方向に傾斜したいわゆるブレーズ型のGLV等、種々の構成の光変調素子を用いる場合に適用可能である。また、画像投影装置及び画像補正方法においても、その他本発明構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施の形態に係る画像投影装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る画像投影装置に用いる光変調装置の要部の概略斜視構成図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る画像投影装置に用いる光変調装置の要部の概略断面構成図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る画像投影装置に用いる光変調装置の要部の概略断面構成図である。
【図5】片側極性の電圧制御により動作するマイクロ機械素子の一例の特性図である。
【図6】本発明の実施の形態に係るマイクロ機械素子の特性測定方法の説明図である。
【図7】本発明の実施の形態に係るマイクロ機械素子の特性測定方法の説明図である。
【図8】本発明の実施の形態に係るマイクロ機械素子の特性測定方法の説明図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る画像投影装置の要部のブロック構成図である。
【図10】本発明の実施の形態に係るマイクロ機械素子の特性測定方法の測定シーケンスを示す図である。
【図11】本発明の実施の形態に係るマイクロ機械素子の特性測定方法の測定シーケンスを示す図である。
【図12】Aは従来の駆動電圧の一例を示す波形図、Bは本発明の実施の形態に係るマイクロ機械素子の特性測定方法において用いる駆動電圧の波形図である。
【図13】本発明の実施の形態に係るマイクロ機械素子の特性測定方法の測定シーケンスを示す図である。
【図14】Aは補正前の駆動信号に対する輝度の変調特性を示す図、Bは補正後の駆動信号に対する輝度の変調特性を示す図である。
【図15】駆動信号に対する輝度の変調特性が帯電により変化する様子を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1.光変調素子、10a,10b,10c.駆動電極、11a,11b,11c.固定電極、12.共通電極、13,14,15.駆動電源、21R,21G,21B.光源、22R,22G,22B.光学系、23,23R,23G,23B.光変調装置、24.光合成部、25.空間フィルタ、26.光路切り替え部、30.走査光学部、32.投影光学部、100.画像投影装置、110.駆動回路、111.パターン発生部、112.映像回路部、113.駆動電極駆動部、114.共通電極/固定電極駆動部、121.測定部、124.演算部、125.記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動電極を片側極性の電圧制御により動作させる静電駆動式のマイクロ機械素子に対し、
基準電極電圧を変化させることにより、擬似的に逆極性駆動を行って、前記マイクロ機械素子上の電荷の帯電に起因する駆動特性の変化量を測定する
マイクロ機械素子の特性測定方法。
【請求項2】
前記マイクロ機械素子が回折格子型の光変調素子であり、
前記駆動特性の変化量として、駆動電圧に対する光変調特性の変化量を測定する請求項1に記載のマイクロ機械素子の特性測定方法。
【請求項3】
前記回折格子型の光変調素子は、回折格子を構成する表面反射膜を有する駆動電極及び固定電極と、回折格子の不動作時に前記駆動電極及び固定電極と対向する共通電極とを有し、
前記光変調特性の変化量を測定する際に、前記固定電極及び前記共通電極に対し設定する測定用基準電圧値として、光変調動作時に前記固定電極及び前記共通電極に印加する基準電圧に所定の値が加算された電圧値を用いる請求項2に記載のマイクロ機械素子の特性測定方法。
【請求項4】
前記駆動電極に印加する最大駆動電圧をVm、光変調動作時に前記固定電極及び前記共通電極に印加する基準電圧をVrとするとき、前記固定電極及び前記共通電極に設定する測定用基準電圧Vaを、
Va≒Vr+(Vm−Vr)/2
として、前記光変調特性の変化量を測定する請求項3に記載のマイクロ機械素子の特性測定方法。
【請求項5】
光源と、
駆動電極を片側極性の電圧制御により動作させる静電駆動式のマイクロ機械素子より成る光変調素子を備える光変調装置と、
前記光変調装置により変調された画像信号に対応する光を投影する投影光学部と、
前記光変調装置によって変調された光の強度を測定する測定部と、
前記測定部により測定された光強度特性を用いて画像補正データを作成する演算部と、
画像信号に対応する駆動電圧を前記画像補正データにより補正して前記光変調素子に出力する映像回路部と、前記光変調素子の変調特性の変化量を測定する際には基準電極電圧を変化させて擬似的な逆極性駆動を行うパターン発生部と、を備える駆動回路と、を有する
画像投影装置。
【請求項6】
静電容量式のマイクロ機械素子より成る光変調素子が、回折格子型の光変調素子である請求項5に記載の画像投影装置。
【請求項7】
駆動電極を片側極性の電圧制御により動作させる静電駆動式のマイクロ機械素子に対し、印加する基準電極電圧を変化させることにより擬似的に逆極性駆動を行って、前記マイクロ機械素子上の電荷の帯電に起因する駆動特性の変化量を測定し、
前記駆動特性の変化量を用いて画像補正データを作成し、
画像信号に対応する駆動電圧を、前記画像補正データを用いて補正して前記マイクロ機械素子に出力する
画像補正方法。
【請求項8】
前記マイクロ機械素子が、回折格子型の光変調素子であり、
前記光変調素子に、回折格子として機能する駆動電極及び固定電極と、共通電極とを設け、
前記固定電極と前記共通電極とに、駆動特性変化量測定用の測定用基準電圧を印加して、光変調特性を測定し、
前記測定用基準電圧を印加した際の光変調特性を偶関数に近似して係数を求め、
前記近似した偶関数を用いて、前記画像補正データを作成する請求項7に記載の画像補正方法。
【請求項9】
前記偶関数を4次関数とする請求項8に記載の画像補正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−125576(P2010−125576A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−305570(P2008−305570)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】