説明

マイクロ磁気ツールの製造方法及びマイクロ磁気ツールデバイスの製造方法

【課題】従来のバイオチップ内で使用される磁気ツールは金属製であり、機械加工の限界より精密形状のマイクロ磁気ツールの作成は困難であり、また磁気ツールに柔軟性をもたせることは困難であった。
【解決手段】本発明は硬化性樹脂と磁性微粒子を混合し、リソグラフィー技術で微細加工された型に流して固めることにより、多様な形状をマイクロスケールで量産することが可能になった。この技術により磁気駆動の回転子、併進運動を行うバルブ、細胞などの微粒子の送り出し機構など多岐な形状・機能を持つマイクロスケールの磁気ツールやマイクロ磁気アクチュエーターが製作可能になる。この磁気ツールは樹脂の特性、種類や混合濃度変化で柔軟性をもたせることが可能であり、硬さを変えることが可能である。また表面コーティング処理を行うことで、硬化性樹脂もしくはガラスもしくはプラスチック製流路内において、磁気ツールが流路などに付着することを防止することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本研究は、医療分野、品種改良といったバイオ系産業分野においてバイオチップ内の細胞の機能化や評価を自動化する装置や、細胞や菌などの微小物体のソーティング、分離、培養や、試薬の混合、攪拌、合成などに用いられるマイクロ磁気ツールの製造方法とマイクロ磁気ツールデバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来バイオチップ内での卵子、細胞や菌などのバイオ操作は顕微鏡から得られる画像情報に基づいて行われることがほとんどであったが、人的にバイオチップを操作することによる外乱の影響を防ぐために、チップ内で非接触での操作手法が必要となり、近年マイクロ流路内で磁力を使用した様々な操作方法が着目されている。磁力は生体粒子に対して影響が少ないと考えられているためバイオ操作に適している。
【0003】
バイオチップ内での磁力の使用例として、バイオチップ外部に設置した磁石を操作することでマイクロ流路内に組み込んだ磁性体をコントロールし、バルブ、ポンプ、攪拌子、フィルター、ソーターなどに応用する例があり、バイオチップ内の流体環境や単一細胞をコントロールする新しい技術として着目されている。このように磁力を使用したマイクロデバイスは電気泳動などの電気の力を使用したデバイスや流体力や光ピンセットなどの駆動力を利用したデバイスに比べて、構造が単純で安価であり、マイクロチップに集積することが容易でかつディスポーザブル化が可能である。(例えば特許文献1及び非特許文献1)。
【0004】
しかしながら前記の従来の研究においては、加工精度の限界より、バイオチップ内の精度の高い微小磁気ツールの開発は単純な形状のみに限られており、また金属の場合は水中で錆びやすく、細胞を傷つける可能性があり、また細胞と付着しやすいという欠点があった。本発明は、マイクロ磁気ツールの製造方法及びマイクロ磁気ツールデバイスの製造方法に関するもので、磁気ツールを非接触に駆動することで、バイオチップ内の閉じた空間で卵子、細胞、菌などの微小物体を1個ずつ送ることができるローディング技術やバルブ機能や溶液の攪拌、反応を実現できる。また、従来、磁性バルブの応用例としては、膜を使用したものが報告されている(例えば非特許文献1)が、膜の変形を利用するだけであって、磁性体の形状を精密に加工するものではなく、応用範囲が狭く、実際磁気ツールを駆動するといった多様な動きをするものは見当たらない。本発明は、磁気ツールの回転や併進運動といった複雑な動きが可能で、稼動範囲も大きくできるといった利点があり、応用範囲が広い。
【0005】
【特許文献1】特開2006−325429号公報
【非特許文献1】W.C.Jackson,H.D.Tran,M.J.O’Brien,E.Rabinovich,G.P.Lopez,“Rapid prototyping of active microfluidic components based on magnetically modified elastomeric materials”,J.Vac.Sci.Technol.B 19(2),596−599(02January2001);doi:10.1116/1.1350840.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、機械加工によるマイクロ磁性体金属を利用したバイオチップ内のツールは存在しているが、その加工精度には限界があり、バイオチップの中で機能を持つ精度の高い微小磁気ツールの開発は困難を極めた。本発明の目的は従来の技術と比較して、水中でも錆び難くフォトリソグラフィ技術によりその大量生産性・柔軟性・形状の多様性・加工精度の向上を満たす新しいマイクロ磁気ツールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討したところ、硬化性樹脂と磁性微粒子の混合物を使用し、フォトリソグラフィ技術を利用することにより、上記課題を解決できることを見出し、この知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明によれば、フォトリソグラフィ技術によって複雑形状のパターンを型に転写し、そこに硬化性樹脂もしくはゲルと磁性微粒子の混合物を塗布し作成されるマイクロ磁気ツールの作成方法であって、(a)シリコンウェハなどの基板上のフォトレジストにパターンが転写された型に硬化性樹脂を流し込んで型を作成し、その型の表面を付着防止のためにプラズマ活性化及びポリエチレングリコールもしくは界面活性剤等により処理する準備工程と、(b)前記硬化性樹脂の型に硬化性樹脂もしくはゲルと磁性微粒子の混合物を塗布し、必要に応じて加熱、光照射もしくは自然放置させ、硬化後に磁気ツールを取り出す製造工程を有することを特徴とするマイクロ磁気ツールの製造方法が得られる。
【0009】
また本発明によれば、フォトリソグラフィ技術によって複雑形状のパターンを型に転写し、そこに硬化性樹脂もしくはゲルと磁性微粒子の混合物を塗布し作成されるマイクロ磁気ツールの作成方法であって、(a)シリコンウェハなどの基板上のフォトレジストに転写された型に硬化性樹脂もしくはゲルと磁性微粒子の混合物を塗布し加熱、光照射もしくは自然放置させる製造工程と、(b)前記の型を剥離剤に入れ、必要に応じて攪拌子で攪拌しながら加熱し、型を溶かすことで大量のマイクロ磁気ツールを同時に取り出す量産工程を特徴とするマイクロ磁気ツールの製造方法が得られる。
【0010】
また本発明によれば、複雑形状のパターンを型に転写し、そこに硬化性樹脂ともしくはゲルと磁性微粒子の混合物を塗布し作成されるマイクロ磁気ツールの作成方法であって、(a)硬化性樹脂もしくはゲルと磁性微粒子製の膜もしくはシートを作成する工程と、(b)前記の膜もしくはシートにフォトリソグラフィ技術もしくは放電加工もしくは機械加工などの微細加工により作成された型を利用してミクロな形状をパンチしてマイクロ磁性ツールを取り出す工程を有することを特徴とするマイクロ磁気ツールの製造方法が得られる。
【0011】
また本発明によれば、前記に記載の磁気ツール製造工程において、磁気ツールの表面をプラズマ活性化し、ガラス粉末を磁気ツールに塗布後加熱して磁気ツールの表面にガラス粉末をコーティングし、余分なガラス粉末は超音波洗浄で取り除く磁気ツール表面付着防止工程を特徴とするマイクロ磁気ツールの製造方法が得られる。
【0012】
また本発明によれば、前記に記載の磁気ツール製造工程において、磁気ツールの表面を薄膜形成技術により付着防止用薄膜を表面に形成する工程を特徴とするマイクロ磁気ツールの製造方法が得られる。
【0013】
また本発明によれば、前記に記載の磁気ツール製造工程において、磁気ツールの表面をCガスのプラズマにより表面をテフロン加工する磁気ツール表面付着防止工程を特徴とするマイクロ磁気ツールの製造方法が得られる。
【0014】
また本発明によれば、前記に記載の方法によって製造された磁気ツールとともに作成される旋回流を利用した細胞ローディングの製造方法であって、(a)硬化性樹脂もしくはガラスもしくはプラスチック製流路を円錐状に型取り下層の流路とともに接続する三次元流路の製作工程と、(b)流路の上層に回転磁気ツールを導入し、ツールの落下防止のための硬化性樹脂もしくはガラスもしくはプラスチック製フィルムを挟む工程と、(c)硬化性樹脂もしくはガラスもしくはプラスチック製流路の側面からテフロンチューブにより流体を導入させる工程と、(d)前記円錐型流路と上層にある硬化性樹脂もしくはゲルと磁性微粒子製回転子を用いることで流路内に旋回流を発生させ側面より導入された個々の細胞を下流流路へ間隔を開けてローディングすることを特徴とするマイクロ磁気ツールデバイスの製造方法が得られる。
【0015】
また本発明によれば、前記に記載の方法によって製造された磁気ツールの一種であるT型バルブと回転磁気ツール利用した細胞ローディングの製造方法であって、(a)硬化性樹脂もしくはガラスもしくはプラスチック製流路と直行する分岐路にT字型の磁気マイクロツールを入れるためのT字型流路を設けることで、上下に動くバルブ機能を持つ流路と、(b)前記のバルブ機能を持った流路の下流部に設けた円形のチャンバーにおいて、放射状に手が伸びている回転子の先端部分を直角に曲げたものを入れ、チャンバー内に入る細胞がそこに1個ずつ入る特徴を持つ回転磁気ツールと、(c)前記円形流路のチャンバー内の出口付近の流路の一部を内側に突出させることにより、回転子の手がそこに引っかかり、回転子自身の柔らかさにより湾曲し、その曲げの力で細胞が押されて下流部へと送られる機能を持つマイクロ磁気ツールデバイスの製造方法が得られる。
【発明の効果】
【0016】
チップ内で閉じた空間で細胞とともにマイクロ磁気ツールを駆動できることにより、細胞を1個ずつ送ることができるローディング技術やバルブ機能を実現できる。また、チップ内部でマイクロ磁気ツールを攪拌子として回転させることで攪拌、混合や反応が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明のマイクロ磁気ツールの好ましい実施形態について、実施例に基づき添付の図面に基づいて詳細に説明する。各図の説明において同一の符号には同じものを示す。なお、処理する細胞として卵子(卵細胞)を例にとって以下に説明するが、本発明はこれに限られるものではなく、本発明のマイクロ磁気ツールは、体細胞等の任意の動物細胞、植物細胞、ES細胞、微生物、菌、DNA分子、ナノチューブ、ナノ材料等の微小物体や試薬の攪拌、混合や反応などについても使用することができる。以下実施例に基づき、本発明に用いる利用例を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない、
【実施例】
【実施例1】
【0018】
フォトリソグラフィ技術を用いた磁性マイクロツールの製造方法を説明する。図1はシリコンウェハ上の圧膜フォトレジスト(例えばSU8)にパターニングされたマイクロ磁気ツール(ポジパターン)を示す図である。シリコンウェハ(図1中の1)上に圧膜レジストを塗布し、複雑なパターンをマスクに描いて紫外線により転写を行い露光・現像することによって図1に示すようなパターンが浮かび上がった。今回はポジのマスクを使用しているため、図1の2に示すパターンは凸となっており、その圧膜レジストの段差は約150μmであった。図2は硬化性樹脂(例えばPDMS(ポリジメチルシロキサン))を型に流し込む様子を示す図である。図2に示すように硬化性樹脂(図2中の3)を流し込み、オーブン80℃で15分ベークすることで、複雑なパターンが転写された硬化性樹脂型が完成した。図2中の4はシリコンウェハの層、5は圧膜レジストの層を示し、6はプラスチック容器をそれぞれ示す。図3は硬化性樹脂(例えばPDMS)を型より剥離させ、硬化性樹脂のネガの型を作る図であり、図4は硬化性樹脂に硬化性樹脂もしくはゲルと磁性微粒子(例えばマグネタイト)の混合物を塗布し、最終的にマイクロ磁気ツールを取り出す図である。図3の(a)(b)に示すように、圧膜レジストの型から硬化性樹脂を剥がし、図3・図4の7に示すように硬化性樹脂性で複雑なパターンが転写され、パターン部分が凹となった型が完成した。そこに硬化性樹脂と磁性微粒子であるマグネタイトの混合物(図4中の9)を塗布するが、後で硬化性樹脂同士が剥離しやすいように、ここで硬化性樹脂の型の表面をプラズマで6分間活性化させた。さらにポリエチレングリコール溶液を表面に塗布した後で、硬化性樹脂と磁性微粒子の混合物を塗布し、残留部分はナイフ等で表面をなぞるように除去した。混合物が導入された型の両脇に磁石をおいて、個々の磁性微粒子の磁極の向きを統一させた。その後OHPシート(図4中の8)を被せて110℃のホットプレートで10分ベークした後、メタノール溶液を表面に塗布しながら針を使用して個々の磁気ツール付近を押すことでマイクロ磁気ツールを浮き上がらせて剥がした(図4中の9)。この手法は直径約1mm以上の比較的大きなサイズのマイクロ磁気ツールの製造方法に適しているが限定されるものではない。
【実施例2】
【0019】
図5はシリコンウェハ上の圧膜レジスト(例えばKMPRフォトレジスト)にパターニングされたマイクロ磁気マイクロツール(ネガパターン)を示す図である。フォトリソグラフィ技術を用いた磁性マイクロツールの製造方法を説明する。シリコンウェハ(図5中の1)上に圧膜レジスト(例えばKMPR)を塗布し、複雑なパターンをマスクに描いて紫外線により転写を行い露光・現像することによって図5に示すようなパターンが浮かび上がった。図6はシリコンウェハ上に硬化性樹脂(例えばPDMS)と磁性微粒子(例えばマグネタイト)の混合物を塗布する様子を示す図である。今回(図6中の10)はネガのマスクを使用しているため、図5の2に示すパターンは凹となっており、その圧膜レジスト(例えばKMPR)の段差は約150μmであった。そこに硬化性樹脂(例えばPDMS)と磁性微粒子であるマグネタイトの混合物(図6中の9)を塗布し、そのまま110℃のホットプレートで10分ベークした。図7は図6の混合物が圧膜レジストの剥離剤(例えばPGリムーバー)でレジストが溶けて浮き、磁気マイクロツールが攪拌子に付着していく様子を示す図である。その後、型を圧膜レジストの剥離剤(例えばPGリムーバー)(図7中の11)につけて市販の攪拌子(図7中の12)を入れて攪拌しながら温度75度に上げていくと図7に示すように、マイクロ磁気ツールがウェハ表面にある圧膜レジスト(例えばKMPR)(図7中の10)が溶けることによって、市販の攪拌子にくっつくように集中し付着していく。図8は回収されるマイクロ磁気ツールの図である。その後攪拌子に集中したマイクロ磁気ツールをDI水(図8中の13)の中で解きながら洗浄し、磁気ツールのみ取り出す。この手法は直径約1mm以下の比較的小さなサイズのマイクロ磁気ツールや内部をくり抜くようなパターンのマイクロ磁気ツールの製造方法に適しているが限定されるものではない。尚、ここで用いた攪拌子は磁性を有するものであれば何でもよく、電磁石でもよい。
【実施例3】
【0020】
フォトリソグラフィ技術を用いた磁性マイクロツールの製造方法を示す。硬化性樹脂(例えばPDMS)と磁性微粒子(例えばマグネタイト)の混合物より薄い膜やシートを作成し、そこにフォトリソグラフィ技術により作成された型を利用してミクロな形状にパンチしてマイクロ磁気ツールを取り出した。
【実施例4】
【0021】
実施例1から3によって製造されたマイクロ磁気ツールを硬化性樹脂(例えばPDMS)製の流路中に導入する際に問題となる付着性を回避するためにガラス粉末を磁気ツールに塗布する方法を説明する。磁気ツールの表裏両面の表面を3分間プラズマ活性化させ、ガラス粉末をまぶした後、再度磁気ツールの表裏両面の表面を3分間プラズマ活性化させた。その後110℃のホットプレートで表面を加熱させることでガラス粉末を磁気ツールに完全にボンディングさせた。実験後表面に付着している余分なガラス粉末を超音波洗浄で1分洗浄することによって製造した。
【実施例5】
【0022】
実施例1から3によって製造されたマイクロ磁気ツールを硬化性樹脂(例えばPDMS)製の流路中に導入する際に問題となる付着性を回避するために金属製薄膜を磁気ツール表面に形成させる方法を示す。実施例1から3で出来上がった磁気ツールをスパッタリング装置に置いて、表裏両面にプラチナなどをスパッタリングすることで、表面が付着し難いマイクロ磁気ツールを製造した。
【実施例6】
【0023】
実施例1から3によって製造されたマイクロ磁気ツールを硬化性樹脂(例えばPDMS)製などの流路中に導入する際に問題となる付着性を回避するためにテフロンを磁気ツール表面に形成させる方法を示す。実施例1から3で出来上がった磁気ツールをCガスのプラズマに10秒のみかける。表裏両面にテフロン加工をすることで、表面の色や性能などが変化し難いマイクロ磁気ツールを製造した。
【実施例7】
【0024】
実施例1から6によって製造されたマイクロ磁気ツールを用いて細胞をローディングするためのマイクロ磁気デバイスを製造する方法を示す。図9は旋回流タイプの細胞ローディングシステムの全体図である。図9中9はマイクロ磁性攪拌子、14は駆動させるための磁石、15はテフロンチューブ、16はマイクロ攪拌子が下部へ落下しないように、硬化性樹脂(例えばPDMS)製の膜をチャンバーの第1層と第2層の間に挟んだものである。円錐形状の流路を円錐型金属より硬化性樹脂(例えばPDMS)に型取り、それを上層と下層の硬化性樹脂(例えばPDMS)層の穴(テーパーのついた金属性の鋭いパンチ(例えば生検トレパンであるバイオプシパンチ)で穴を開けたもの)と流路の間に挟みこみ、旋回流を発生させるための三次元流路を製造した。図9中17はカバーガラスであり、硬化性樹脂(例えばPDMS)製流路を密閉させるために用いる。カバーガラスと硬化性樹脂(例えばPDMS)の接着面の両面はプラズマにより活性化させ、ホットプレート110℃で10分間ボンディングさせて接着させる。図10は旋回流タイプの細胞ローディングシステムの旋回流発生チャンバー拡大図である。図10の18は旋回流が発生するチャンバー内を示しており、これにより底面に滞留した細胞の詰まり防止や、チャンバーに導入された細胞の間隔を開けて送ることが可能になった。また細胞が流路内で詰まることなくスムーズに細胞等をチップ内に投入するために、テーパーのついた金属性の鋭いパンチ(例えば生検トレパンであるバイオプシパンチ)を硬化性樹脂(例えばPDMS)の上層側面から刺し流路をくり抜き、そこにテフロンチューブを刺して、バイオチップ側面から細胞を導入した。
【実施例8】
【0025】
実施例1から6によって製造されたマイクロ磁気ツールを用いて細胞をローディングするためのマイクロ磁気デバイスを製造する方法を示す。図11はT字バルブと回転子タイプの細胞ローディングシステムの全体図である。図11中9は放射状に手が伸びている回転子の先端部分を直角に曲げたタイプのマイクロ磁性ツールで、図11中20は円形流路のチャンバー内の出口付近の流路の一部を内側に突出させたものである。また図11中19はT字型磁気マイクロツールを入れるためのT字型流路である。硬化性樹脂(例えばPDMS)製流路と直行する分岐路にT字型の磁気マイクロツールを入れるためのT字型流路を設け、T字型磁気ツールが上下に動くことでバルブ機能を持つ流路が製作された。これにより導入される細胞の間隔を制御することができる。図12は回転子タイプの細胞ローディングシステムのメカニズムを示す図である。下流部に設けた円形のチャンバーにおいて、放射状に手が伸びている回転子の先端部分を直角に曲げたものを入れ、チャンバー内に入る細胞がそこに1個ずつ入る特徴を持つ回転磁気ツールと、前記円形流路のチャンバー内の出口付近の流路の一部を内側に突出させることにより、回転子の手がそこに引っかかり(図12中(a))、回転子自身の柔らかさにより湾曲し(図12中(b))、その曲げの力で細胞が押されて下流部へと送られる(図12中(c))機能を持つマイクロ磁気ツールデバイスの製造方法を開発した。
【産業上の利用可能性】
【0026】
様々な機能を持たせたマイクロ磁気ツールの応用として、微粒子の投入やローディング技術が関連する。つまり卵細胞などの細胞をバイオチップの中で詰まらせることなく、1個1個送ることができる。また、バルブ機能により、投入された卵細胞の輸送間隔をコントロールすることが可能である。磁気ツールの材料に樹脂を利用することで、成形性がよくなるだけでなく、柔軟性をだすことで細胞を傷つける可能性がなくなる。フォトリソグラフィを利用することで大量生産に適する。また、磁気ツールの表面を処理することで、磁気ツール表面の付着を防止できるため、バイオチップ内の流体中で確実に動作する機能素子への様々な応用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】シリコンウェハ上の圧膜レジスト(例えばSU8フォトレジスト)にパターニングされたマイクロ磁気ツール(ポジパターン)を示す図である。
【図2】硬化性樹脂(例えばPDMS)を型に流し込む様子を示す図である。
【図3】硬化性樹脂(例えばPDMS)を型より剥離させ、硬化性樹脂(例えばPDMS)のネガの型を作る図である。
【図4】硬化性樹脂(例えばPDMS)に硬化性樹脂(例えばPDMS)もしくはゲルと磁性微粒子(例えばマグネタイト)の混合物を塗布し、最終的にマイクロ磁気ツールを取り出す図である。
【図5】シリコンウェハ上の圧膜レジスト(例えばKMPRフォトレジスト)にパターニングされたマイクロ磁気ツール(ネガパターン)を示す図である。
【図6】シリコンウェハ上に硬化性樹脂(例えばPDMS)と磁性微粒子(例えばマグネタイト)の混合物を塗布する様子を示す図である。
【図7】図6の混合物が圧膜レジストの剥離剤(例えばPGリムーバー)でレジストが溶けて浮き、磁気マイクロツールが攪拌子に付着していく様子を示す図である。
【図8】回収されるマイクロ磁気ツールの図である。
【図9】旋回流タイプの細胞ローディングシステムの全体図である。
【図10】旋回流タイプの細胞ローディングシステムの旋回流発生のチャンバー拡大図である。
【図11】T字バルブと回転子タイプの細胞ローディングシステムの全体図である。
【図12】T字バルブと回転子タイプの細胞ローディングシステムのメカニズムを示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1 シリコンウェハ(上から見た図)。
2 圧膜レジスト(例えばSU8やKMPR)のパターン(上から見た図)。
3 硬化性樹脂(例えばPDMS)。
4 シリコンウェハ(横から見た図)。
5 圧膜レジスト(例えばSU8)のパターン(横から見た図)。
6 樹脂を流し込む際に入れるプラスチック製容器。
7 パターンが転写された硬化性樹脂の型(横から見た図)。
8 OHPフィルム。
9 硬化性樹脂と磁性粒子の混合物。
10 圧膜レジスト(例えばKMPR)のパターン(横から見た図)。
11 圧膜レジストの剥離剤(例えばPGリムーバー)。
12 攪拌子。
13 DI水。
14 電磁石。
15 側面導入用テフロンチューブ。
16 マイクロツール落下防止用である薄膜の硬化性樹脂。
17 カバーガラス。
18 旋回流の模式図。
19 T字磁性バルブ。
20 チャンバー内突出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトリソグラフィ技術によって複雑形状のパターンを型に転写し、そこに硬化性樹脂もしくはゲルと磁性微粒子の混合物を塗布し作成されるマイクロ磁気ツールの作成方法であって、(a)シリコンウェハなどの基板上のフォトレジストにパターンが転写された型に硬化性樹脂を流し込んで型を作成し、その型の表面を付着防止のためにプラズマ活性化及びポリエチレングリコールもしくは界面活性剤等により処理する準備工程と、(b)前記硬化性樹脂の型に硬化性樹脂もしくはゲルと磁性微粒子の混合物を塗布し、加熱、光照射もしくは自然放置させて硬化後に磁気ツールを取り出す製造工程を有することを特徴とするマイクロ磁気ツールの製造方法。
【請求項2】
フォトリソグラフィ技術によって複雑形状のパターンを型に転写し、そこに硬化性樹脂もしくはゲルと磁性微粒子の混合物を塗布し作成されるマイクロ磁気ツールの作成方法であって、(a)シリコンウェハなどの基板上のフォトレジストに転写された型に硬化性樹脂もしくはゲルと磁性微粒子の混合物を塗布し加熱、光照射もしくは自然放置させ硬化させる製造工程と、(b)前記の型を剥離剤に入れ型を溶かすことで大量のマイクロ磁気ツールを同時に取り出す量産工程を特徴とするマイクロ磁気ツールの製造方法。
【請求項3】
複雑形状のパターンを型に転写し、そこに硬化性樹脂ともしくはゲルと磁性微粒子の混合物を塗布し作成されるマイクロ磁気ツールの作成方法であって、(a)硬化性樹脂もしくはゲルと磁性微粒子製の膜もしくはシートを作成する工程と、(b)前記の膜もしくはシートにフォトリソグラフィ技術もしくは放電加工もしくは機械加工などの微細加工により作成された型を利用してミクロな形状をパンチしてマイクロ磁気ツールを取り出す工程を有することを特徴とするマイクロ磁気ツールの製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の磁気ツール製造工程において、磁気ツールの表面をプラズマ活性化し、ガラス粉末を磁気ツールに塗布後加熱して磁気ツールの表面にガラス粉末をコーティングし、余分なガラス粉末は超音波洗浄で取り除く磁気ツール表面付着防止工程を特徴とするマイクロ磁気ツールの製造方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の磁気ツール製造工程において、磁気ツールの表面を薄膜形成技術により付着防止用薄膜を表面に形成する工程を特徴とするマイクロ磁気ツールの製造方法。
【請求項6】
請求項1から3のいずれかに記載の磁気ツール製造工程において、磁気ツールの表面をCガスのプラズマにより表面をテフロン加工する磁気ツール表面付着防止工程を特徴とするマイクロ磁気ツールの製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかの方法によって製造された磁気ツールとともに作成される旋回流を利用した細胞ローディングの製造方法およびそのデバイスであって、(a)硬化性樹脂もしくはガラスもしくはプラスチック製流路を円錐状に型取り下層の流路とともに接続する三次元流路の製作工程と、(b)流路の上層に回転磁気ツールを導入し、ツールの落下防止のための硬化性樹脂もしくはガラスもしくはプラスチック製フィルムを挟む工程と、(c)硬化性樹脂もしくはガラスもしくはプラスチック製流路の側面からテフロンチューブにより流体を導入させる工程と、(d)前記円錐型流路と上層にある硬化性樹脂もしくはゲルと磁性微粒子製回転子を用いることで流路内に旋回流を発生させ側面より導入された個々の細胞を下流流路へ間隔を開けてローディングすることを特徴とするマイクロ磁気ツールデバイスの製造方法。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかの方法によって製造された磁気ツールの一種であるT型バルブと回転磁気ツール利用した細胞ローディングの製造方法およびそのデバイスであって、(a)硬化性樹脂もしくはガラスもしくはプラスチック製流路と直行する分岐路にT字型の磁気マイクロツールを入れるためのT字型流路を設けることで、上下に動くバルブ機能を持つ流路と、(b)前記のバルブ機能を持った流路の下流部に設けた円形のチャンバーにおいて、放射状に手が伸びている回転子の先端部分を直角に曲げたものを入れ、チャンバー内に入る細胞がそこに1個ずつ入る特徴を持つ回転磁気ツールと、(c)前記円形流路のチャンバー内の出口付近の流路の一部を内側に突出させることにより、回転子の手がそこに引っかかり、回転子自身の柔らかさにより湾曲し、その曲げの力で細胞が押されて下流部へと送られる機能を持つマイクロ磁気ツールデバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−148677(P2008−148677A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−357260(P2006−357260)
【出願日】平成18年12月16日(2006.12.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名:第15回MAGDAコンファレンス実行委員会 刊行物名:第15回MAGDAコンファレンス講演論文集 ページ数:p.410−413 発行年月日:2006年11月1日 研究集会名:第15回MAGDAコンファレンスin桐生 電磁現象及び電磁力に関するコンファレンス 主催者:日本AEM学会 開催日:2006年11月1日−2日
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(595112823)
【出願人】(507018403)
【出願人】(507018425)
【Fターム(参考)】