説明

マイクロTAS用基板の表面処理方法および装置並びにマイクロTAS用基板の表面処理用マスク

【課題】マイクロチップ用基板に紫外光を照射し、検査体を変質させることなく、基板の表面を良好に改質することを可能とすること。
【解決手段】検査体31を載置した基板(ワーク)30をワークステージ40上に保持させ、その上にマスク20を載せて、光照射ユニット10から紫外光を照射して基板表面を活性化させる。マスク20には、凹部が形成されその内面に遮光手段20cが設けられ、この凹部と基板30で閉空間が形成され、検査体31が閉空間の中に配置される。このため、検査体31に紫外光が照射されることがなく、また、紫外光をワーク30に照射する際に発生するオゾンや酸素原子に上記検査体31は暴露されることがない。このため、検査体31に変質といった不具合が発生することがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は表面処理方法および表面処理装置及び表面処理用のマスクに関し、特に、マイクロTAS基板に光を照射して表面処理を行う方法および装置並びにマイクロTASの表面処理に用いられるマスクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、例えばシリコン、シリコーン、ガラスなどよりなる小さな基板上に、半導体微細加工の技術によってマイクロスケールの分析用チャネルなどを形成したマイクロチップよりなるマイクロリアクタを用いて微量の試薬の分離、合成、抽出、分析などを行う手法が注目されている。
このようなマイクロリアクタを用いた反応分析システムは、マイクロ・トータル・アナリシス・システム(以下、「マイクロTAS」あるいは「μTAS」という。)と称されており、μTASによれば、試薬の体積に対する表面積の比が大きくなることなどから高速かつ高精度の反応分析を行うことが可能となり、また、コンパクトで自動化されたシステムを実現することが可能となる。
【0003】
マイクロTAS用チップ(以下マイクロチップという)では、マイクロチャンネルとも呼ばれる流路に、試薬が配置された反応領域など、各種機能を有する領域を設けることにより、様々な用途に適したチップを構成できる。マイクロチップの用途としては、遺伝子解析、臨床診断、薬物スクリーニングなどの化学、生化学、薬学、医学、獣医学の分野における分析、あるいは、化合物の合成、環境計測などが代表的である。
マイクロチップは、典型的には一対の基板が対向して接着された構造を有し、少なくとも1つの上記基板の表面に微細な流路(例えば、幅10〜数100μm、深さ10〜数10μm程度)が形成されている。これまでマイクロチップには、製造が容易であり、光学的な検出も可能であることから、主にガラス基板が用いられている。また、最近では、軽量でありながらガラス基板に比べて破損しにくく、かつ、安価な、樹脂基板を用いたマイクロチップの開発が進められている。
【0004】
マイクロチップ用基板を貼り合わせる方法としては、接着剤を使用する方法、熱融着による方法が考えられる。しかしながら、両者は以下の理由により好ましくない。
接着剤を使用する場合、接着剤が微小流路に染みだして流路が閉塞したり、微小流路の一部が狭くなって流路が不均一となったり、また流路壁面の均質な特性を乱れの発生といった問題が発生する。
また、熱融着の場合、加熱溶融温度以上で融着すると加熱段階で流路がつぶれてしまうとか、流路が所定の断面形状に保持できないなどの問題が生じ、熱融着による接着では、マイクロチップの高機能化が困難となる。
そこで、近年は、紫外光を基板表面に照射させて、基板表面を活性化させた後に、貼り合わせる方法が採用されつつある。
例えば、特許文献1においては、マイクロチップ用基板の貼り合わせに際し、ポリジメチルシロキサン(Polydimethylsiloxane:PDMS)などのシリコーンからなる基板に波長172nmに輝線を有するエキシマランプからの光を照射して当該表面に改質処理(酸化処理)を施し、表面に水酸基が存在する基板(例えば、ガラス基板)を上記シリコーン基板の被改質処理表面に密着させて、両基板を接合する方法が提案されている。
また、マイクロチップ用基板として樹脂基板とガラス基板とを使用する場合、2枚の樹脂基板を使用する場合においても、少なくとも一方の基板表面に例えば波長172nmに輝線を有するエキシマランプからの光を照射した後、両基板を接合する方法が知られている。
例えば、樹脂基板と樹脂基板とを貼り合わせる際は、樹脂表面に波長300nm以下(例えば波長172nm)の光を照射することにより、樹脂表面の高分子主鎖を切断してラジカルを生成したり、表面に反応性の高い官能基の生成することにより、樹脂表面自体を化学反応を起こし易い状態にして2枚の樹脂を積層する。この状態で加圧したり加熱したりすることにより、詳細なメカニズムは必ずしも明らかではないが、上記官能基を介する何らかの結合が各樹脂の照射面間に生じ接合される。
なお、大気中にて樹脂基板に波長172nmの光のような波長200nm以下の真空紫外光を照射する場合、大気中の酸素から酸素原子が生じ、また、樹脂表面に存在する有機物等の汚染物質の化学的結合が切断される。そして、このような汚染物質と酸素原子とが結合することにより、汚染物質は樹脂基板上から除去される。すなわち、樹脂基板のクリーニングがなされ、その後、樹脂表面の酸化や官能基の生成等がなされる。
【0005】
このように、マイクロチップ用基板表面に紫外光を照射することにより、マイクロチップ用基板表面を他のマイクロチップ用基板と接合可能な状態に活性化(例えば、クリーニング、酸化、高分子主鎖の切断、官能基の生成等)させることができる。
また、マイクロチップは一対の基板を貼り合わせて構成するが、用途によっては、検査体(例えば、唾液、血液、(がん)細胞、抗体など)を、マイクロチップ用基板を貼り合わせる前に一方の基板に予め設置される場合がある。
例えば特許文献2には、基板に細胞固定用の疎水性樹脂パターンを形成して細胞を固定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−187730号公報
【特許文献2】特許第4247737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、2枚のマイクロチップ用基板を貼り合わせる場合、両基板のうちの少なくとも一方の基板の表面に、当該表面を活性化させる光である紫外光を照射し、その後、両者を積層して貼り合わせるという方法が有効となる。
ここで、2枚のマイクロチップ用基板のうち、一方の基板に検査体(例えば、抗体や細胞)を予め設置している場合に、当該基板に対しても紫外光を照射し活性化させる場合がある。
この場合は、検査体に紫外光が照射されると、検査体が変質してしまい、検査体に関する所望の分析が困難となる。例えば、抗体に紫外光が照射されると、抗体が不活性化(失活)し、抗原を含む検体が抗体に到達したとしても抗原との結合反応を起こさない。
【0008】
このような不具合を解消するために、例えば、マイクロチップ用基板に設置されている検査体に紫外光が照射されないように遮光することが考えられる。すなわち、図8に示すように、紫外光を放出する光源と検査体が載置されているマイクロチップ用基板との間にマスクを配置することが考えられる。
図8では、例として、マイクロチップ用基板100(ワーク)の表面の一部に金めっき101が施され、当該金めっき部分に抗体103が配置されている場合を示している。マスク104は、検査体(この場合は抗体103)のマイクロチップ用基板100における設置パターンに対応して、検査体に紫外光が照射されないようにパターニングされている。すなわち、紫外光はマスク104の遮光手段105により、マイクロチップ用基板100上の抗体103を照射することなく、抗体が存在しない基板表面に照射され、その結果当該基板表面は活性化される。
【0009】
しかしながら、大気中に設置されたマイクロチップ用基板上に対して紫外光を照射すると、大気中の酸素と紫外光とが反応して、オゾンや(励起一重項)酸素原子が発生する。すなわち、マスクの遮光部分以外を透過した紫外光と空気中の酸素とが反応して、オゾンや酸素原子が発生するわけである。この現象は紫外光として波長200nm以下の真空紫外光を使った場合は顕著に発生する。
オゾンや酸素原子は反応性が高く、マイクロチップ用基板上に設置された検査体とも反応する。検査体が抗体や細胞であるとき、オゾンや酸素原子と抗体や細胞が接触すると、当該抗体や細胞は変質してしまう。
そのため、検査体である抗体や細胞に関する所望の分析が困難となる。これらの不具合は、ライフタイムの短い酸素原子よりもオゾンによる影響が特に大きい。例えば、抗体とオゾンや酸素原子とが反応すると、抗体が失活し、抗原を含む検体が抗体に到達したとしても抗原との結合反応を起こさない。
このようなオゾンや酸素原子による不具合を防ぐためには、マイクロチップ用基板を酸素が存在しない雰囲気に設置して紫外光を照射すればよいが、このような雰囲気を実現するためには、マイクロチップ用基板を、内部に酸素が存在しない専用のチャンバ内に設置する必要があり大掛かりとなる。
【0010】
本発明は上記したような事情を鑑みなされたものであって、その課題は、マイクロチップ用基板を貼り合わせるため、大気中において表面に検査体が載置されたマイクロチップ用基板に紫外光を照射する場合において、検査体を変質させることなく、マイクロチップ用基板の表面を良好に改質することが可能な方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明においては、血液、細胞、組織などの生体由来の検査体や抗生物質、農薬などの検査体など、紫外光やオゾンにより変質(例えば失活、分解、死亡)する検査体が載置されたマイクロチップ用基板(マイクロTAS用基板)を表面処理するに際し、上記検査体を紫外光照射により生ずるオゾンなどに曝されない閉空間内に載置し、且つ、上記検査体に紫外光が照射されないように遮光して、上記基板表面を活性化する。
このため、紫外光を照射する光照射ユニットと上記検査体との間に、少なくとも一部に遮光部を有するマスクを配置し、該マスクと検査体が載置された基板とにより上記検査体が収納される閉空間を形成し、上記遮光部により、または上記遮光部と上記基板とにより検査体に紫外光が照射されないように遮光して基板に紫外光を照射する。
これにより、検査体を変質させることなく、マイクロチップ用基板の表面を活性化することができる。
すなわち、本発明においては、次のようにして前記課題を解決する。
(1)紫外光又はオゾンにより変質する検査体が載置されたマイクロチップ用基板の表面処理方法であって、記検査体が閉空間の中に配置されるようにマスクを上記基板に被せ、
上記検査体が載置された閉空間内を遮光しつつ、当該基板表面を光照射により活性化させる。
(2)上記(1)において、マスクに凹部を形成し、かつ、凹部の内表面に遮光膜を形成する。
(3)上記(1)において、上記光を波長200nm以下の真空紫外光とする。
(4)紫外光又はオゾンにより変質する検査体が載置されたマイクロチップ用基板の表面処理装置において、上記検査体が載置された基板を保持するステージと、基板表面を活性化させるための光を照射する光照射ユニットと、少なくとも一部に遮光部材が形成されたマスクと、このマスクを上記基板上に搬送させるとともに、当該検査体が閉空間の中に配置されるように設定するためのマスク搬送機構とから、マイクロチップ用基板の表面処理装置を構成する。
(5)上記(4)において、上記マスクに凹部を形成し、かつ、凹部の内表面に遮光膜を形成する。
(6)上記(4)において、上記光を波長200nm以下の真空紫外光とする。
(7)紫外光又はオゾンにより変質する検査体が載置され、光照射される基板に対して被されるように設置されるマイクロチップ用基板の表面処理用マスクにおいて、該マスクを、少なくとも一部に凹部を有し、当該マスクが上記基板に対して設置されたときに、マスクの凹部と基板とにより閉空間が構成され、この凹部の内表面に遮光手段が形成されるように構成する。
(8)上記(7)において、マスクの凹部を、平板状部材から突起した壁部により構成する。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、以下の効果を得ることができる。
(1)マスクと検査体が載置された基板とにより上記検査体が収納される閉空間を形成し、マスクに形成された遮光部により、または該遮光部と基板とにより検査体に真空紫外光等の紫外光が照射されないように遮光しているので、検査体には真空紫外光は照射されることがなく、また、ワークを大気中に保持していても、真空紫外光をワークに照射する際に発生するオゾンや酸素原子に上記検査体は暴露されることがない。このため、ワークに設置された検査体は、真空紫外光が照射されることやオゾンや酸素原子に暴露されることに起因する変質といった不具合が発生することがない。
(2)ワークを大気中に保持しており、検査体が内包される閉空間外の領域では、真空紫外光の照射により発生するオゾンや酸素原子が発生する。このため、ワークの閉空間外の領域のクリーニングを行うことができ、また、ワーク表面における閉空間外の領域の活性化(表面改質)をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態である光処理装置の構成例を示す図である。
【図2】図1においてワークとマスクを拡大して示した図である。
【図3】マイクロチップ用基板を貼り合わせて形成したマイクロチップの一例を示す図である。
【図4】ワークを表面処理する際の装置の動作例を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施例のワークの貼り合わせ工程を説明する図である。
【図6】本発明の第2の実施例のワークの貼り合わせ工程を説明する図である。
【図7】検査体が載置されたマイクロチップ用基板(ワーク)側に凹部を設けた場合を示す図である。
【図8】紫外光を放出する光源と検査体が載置されているマイクロチップ用基板との間にマスクを配置した場合の問題点を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1(a)は本発明の実施形態である光処理装置の構成例を示す図である。
ワーク30はマイクロチップ用の基板であり、例えば、COC樹脂からなる。このワーク30には検査体31が予め載置されており、同図では略されているが、もう一方のワークが貼り合わされてマイクロチップが形成される。
光照射ユニット10は、ワーク30の表面に、波長300nm以下の紫外光(UV光)を照射して、ワーク30の表面を改質するためのものである。光照射ユニット10は、少なくとも1本以上のランプ11aと、ランプ11aから放出される紫外光をワーク30側(図1では下方向)に反射する反射ミラー11bと、これらを内包するランプハウス10aとからなる。
ランプ11aは、紫外光のうち、特に、波長200nm以下の真空紫外光(VUV光)を放射するものが好ましく、例えば、波長172nmの単色光を放出するキセノンエキシマランプが採用される。光照射ユニット10の各ランプ11aの点灯制御は、ランプ点灯装置12により行われる。すなわち、ランプ点灯装置12はランプの点灯・消灯を制御したり、ランプ11aへの供給電力の値を調整することにより、ランプ11aから放出される172nm光の強度を調整する機能等を有する。
【0015】
ワークステージ40にはワーク30(マイクロチップ用基板)が載置される。
なお、装置が大気中に設置される場合、光照射ユニット10からワーク30に照射される紫外光、特に真空紫外光は大気中で著しく減衰してしまう。よって、大気中においては、光照射ユニット10とワーク30表面とはある程度接近している必要がある。
ワークステージ40にはワーク30の位置を決める位置決め機構(不図示)が設けられる。また、ワークステージ40は上下方向だけでなく、水平方向や回転方向に移動可能な機構も有する。
マスク20はマスク搬送機構21によりワーク30上に搬送される。マスク搬送機構21は公知のものであり、例えば、真空チャック部22によりマスク20を保持して搬送し、ワーク30上にマスク20を設置後、真空チャック部22の真空チャックを解除して紫外光の照射エリアから退避する。このようなマスク搬送機構20は、マスク搬送機構駆動部23によって移動可能、かつ、真空チャック部22に真空を供給可能であるように構成される。マスク搬送機構駆動部23の駆動は、マスク搬送機構駆動制御部24によって制御される。
また、ワーク30をワークステージ40に搬入、設置、搬出を行う場合、周知のワーク搬送機構(不図示)を用いる。ここで、周知のワーク搬送機構は、ワークを捕捉後、ワークを反転させる機能、反転させたワークを搬送し、所定の位置にワークを載置する機能を有するものとする。
【0016】
図2はワークステージ40上のワーク30とマスク20を拡大して示した図である。
図2(a)に示すようにマスク20は、ワーク30(以下ではマイクロチップ用基板30ともいう)に設置された検査体31を包囲可能な凹部を有する。具体的には、平板部分20bの紫外光を受光する面の裏面(ワーク30と対向する面)に突起構造の壁部20aを設けたものであり、このマスク20は、検査体31が載置されたワーク30と上記壁部20aとが接触するように設置される。
この状態において、マスク20とワーク30との間には、マスク20の平板部分20b、マスク20の壁部20a、ワーク30とからなる閉空間が構成される。この閉空間内にワーク30に設置された検査体31が全て内包される。マスク20は紫外光を透過するものであって、検査体31と反応することなく、かつ、遮光手段を施しやすいものが適用される。例えば、石英ガラスが使われる。
【0017】
閉空間を構成するマスク20の凹部(平板部分20b、壁部20aで囲まれる部分)には、紫外光の遮光手段20cが構成される。具体的には、例えば、クロムなどの遮光膜が上記閉空間を構成するマスク20の上記凹部(平板部分、壁部)に施される。
なお、上記遮光手段20cは必ずしも上記閉空間を形成するマスク凹部内の全面に設ける必要はなく、要するに上記閉空間に紫外光が到達しないように遮光すればよい。
上記構成により、ワーク30に載置された検査体31を内包する閉空間には、紫外光が到達することはない。このため、抗体や細胞などの検査体31にも当然のことながら紫外光は照射されない。さらに、閉空間に紫外光が到達しないので、閉空間内に大気が存在したとしてもオゾンや酸素原子が発生することはない。さらに、検査体31は閉空間に配置されているので、閉空間外からオゾンや酸素原子が進入することもない。そして、検査体31が載置された部分以外のワークの表面は良好に光照射することができ、当該表面を活性化できる。
図2(b)は同図(a)のA−A断面図である。ワーク30(マイクロチップ用基板)上には、例えば金めっき32が施され、その上に検査体31(抗体)が載置される。マスク20には、上記検査体31が載置される金めっき32が形成された領域を囲むように例えばU字状に壁部20aが形成されており、この壁部20aの内面には遮光手段20cが設けられる。なお、図2(b)には示されていないが、マスク20の光照射ユニット10に対向する面にも遮光手段が設けられる。
【0018】
図3は上記マイクロチップ用基板(第1のワーク30)に第2のマイクロチップ用基板(第2のワーク50)を貼り合わせて、マイクロチップ60を構成した状態を示す図である。
同図に示すように、第1のワーク30(マイクロチップ用基板)は、例えば、ガラス基板である。上図に示す例では、4箇所の領域を有する金めっき32のパターンが施されている。金めっき32のパターン上に検査体31として例えば抗体31aが設置される。
第2のワーク(第1のワーク30に貼り合わせる第2のマイクロチップ用基板)50は、例えば、COC樹脂からなる樹脂基板である。第2のワーク50の一方の面には、例えば、幅10〜数100μm、深さ10〜100μm程度の微細な溝部51から構成される流路が形成されている。
図3に示すように、第1のワーク30の検査体31が設置されている面と、第2のワーク50の溝部51が形成されている面とを貼り合わせることにより、内部に抗体31aが配置された微細な流路を有するマイクロチップ60が形成される。
【0019】
第2のワーク(第2のマイクロチップ用基板)50の流路が施されている面と反対側の面には、検体(または試薬)流入口52と検体(または試薬)流出口53が設けられている。上記流入口52、流出口53は溝部51と連通している。
上図に示す例では、流路はU字型となるように形成されており、上記流入口52、流出口53は、U字型流路51の端部にそれぞれ連通している。
流入口52から流入する検体は、流路51を通り、金めっき上に載置された4つの抗体31aと接触後、流出口53から排出される。
抗体31aが載置された上記第1のワーク30(マイクロチップ用基板)上に、上記のようにマスク20を被せて、その表面に紫外光を照射することにより、マイクロチップ用基板30の表面を接合可能な状態に活性化することができ、これに上記第2のワーク50(第2のマイクロチップ用基板)を被せることで、抗体31aが設置された状態で、第1のワーク30と第2のワーク50を貼り合わせることでき、マイクロチップ60を形成することができる。
【0020】
以下、第1のワーク30に対して光処理を施し、第2のワーク50を貼り合わせる本発明の実施例について説明する。
1.第1の実施例
以下、表面プラズモン共鳴分析用ワークの貼り合せ工程の例について、図4、図5により本発明の第1の実施例を説明する。図4は図1に示した装置の動作を説明する図、図5は本実施例の貼り合わせ工程を説明する図である。
(1)図5(a)に示すように、第1のワーク30に金めっきパターン32を形成する。
(2)図5(b)に示すように、金めっきパターン32が形成された第1のワーク30を抗体溶液にディッピングする。金めっき32上には、抗体31a(抗原受容体)が固定される。
(3)図5(c)に示すように、抗体31aが固定された第1のワーク30にマスク20を載置する。マスク20は、第1のワーク30に設置した際、マスク20の平板部分20b、マスクの壁部20a、第1のワーク30によって閉空間が構成されるような構造をしている。
マスク20は、第1のワーク30に設置された抗体31aが上記閉空間内に全て内包されるように位置合わせを行ったうえで第1のワーク30の上に被せられる。
すなわち、図4(a)に示すように、光照射ユニット駆動制御部14により光照射ユニット駆動部13を駆動して光照射ユニット10を退避させ、マスク搬送機構21の真空チャック部22でマスク20を保持して、ワークステージ40上に載置された第1のワーク30上に搬送する。そして、ワークステージ40を移動させて(又はマスク搬送機構21によりマスクを移動させて)、マスク20と第1のワーク30の位置合わせを行ない、図4(b)に示すように、マスク20を第1のワーク30の上に載せる。
【0021】
(4)ついで、図4(c)に示すように、真空チャック部22によるマスク20の真空チャックを解除して、マスク搬送機構21の真空チャック部22を退避させ、光照射ユニット駆動制御部14により光照射ユニット駆動部13を駆動して光照射ユニット10をマスク20上に移動させる。
そして、図5(d)に示すように、光照射ユニット10から放出される紫外光、特に真空紫外光がマスクを介して第1のワーク30に照射される。
閉空間を構成するマスク部分(平板部分20b、壁部20a)には、真空紫外光を遮光する遮光手段20c(例えば、クロムなどの遮光膜)が施されているので、閉空間に内包された検査体(抗体31a)には、当該真空紫外光が照射されず、閉空間内に大気が存在してもオゾンや酸素原子が発生しない。更には、大気中にて真空紫外光を第1のワーク30に照射することにより、マスク20と第1のワーク30との間で発生するオゾンや酸素原子は、上記閉空間内には進入できないので、閉空間内の抗体31aはオゾンや酸素原子に暴露されない。
【0022】
(5)一方、第1のワーク30における閉空間外の領域には、真空紫外光が照射される。第1のワーク30が大気中に設置されている場合、真空紫外光が照射される領域にはオゾンや酸素原子が発生し、このオゾンや酸素原子と第1のワーク30における閉空間外の領域上の汚染物質とが反応して、当該汚染物質が除去される。例えば、上記した抗体溶液にディッピング後に残留した抗体の残渣等も取り除かれる。
すなわち、本発明のマスクを用いて第1のワーク30に真空紫外光を照射すると、検査体(抗体31a)には真空紫外光は照射されず、また、第1のワーク30を大気中に保持していても、真空紫外光を第1のワーク30に照射する際に発生するオゾンや酸素原子に上記検査体は暴露されない。よって、第1のワーク30に設置された検査体(抗体31a)は、真空紫外光が照射されることやオゾンや酸素原子に暴露されることに起因する変質といった不具合が発生しない。
一方、第1のワーク30を大気中に保持する場合、検査体が内包される閉空間外の領域では、真空紫外光の照射により発生するオゾンや酸素原子が発生する。そして、第1のワーク30における閉空間外の領域のクリーニングが行われる。
更に、クリーニングが終了後も真空紫外光を照射することにより、第1のワーク30の表面における閉空間外の領域の活性化(表面改質)が行われる。
【0023】
(6)ここで、上記した光照射ユニットから放出される真空紫外光を第1のワーク30に照射する工程は、具体的には以下のように行われる。
すなわち、第1のワーク30上にマスク20を設置後、ランプ点灯装置12により光照射ユニット10のランプ11aが点灯され、波長172nmの真空紫外光がマスク20を介して第1のワーク30に照射される。ここで、ランプ点灯装置12は、第1のワーク30の表面の光照射領域(閉空間以外の領域)における放射照度が所定の値(上記光照射領域をクリーニングし、活性化するのに十分な値)となるように、ランプ11aへの供給電力を制御する。そして所定の照射時間経過後、ランプ点灯装置12はエキシマランプ11aを消灯する。ここでランプ点灯装置12はランプ点灯時間の設定も行うことができるものとする。なお上記した所定の照射時間とは、エキシマランプ11aが点灯して上記した第1のワーク30表面の光照射領域に真空紫外光が照射されてから当該光照射領域が酸素原子によりクリーニングされ、その後、活性化するまでの時間である。
以上で第1のワーク30に対する光処理は終わる。
【0024】
(7)第1のワーク30に対する光処理が終わったら、図5(e)に示すように、マイクロチップを構成するもう一方の基板(第2のワーク50)にも、光照射を行い、当該ワーク50の表面を活性化させる。なお、この工程は抗体31aを設置した第1のワーク30に対する光照射よりも先に行ってもよいし、光照射ユニット10を増設させて両基板を同時に照射させてもよい。
(8)次に、図5(f)に示すように、第1のワーク30からマスク20を退避させる。なお、マスク20の退避は、第1のワーク30への光照射が終了後、第2のワーク50への光照射の前に実施することもできる。この場合は、第1のワーク30への光照射終了後の残留オゾンや酸素原子の検査体への影響や、第2のワーク50への光照射時に発生するオゾンや酸素原子の検査体への影響を十分に考慮する必要がある。なお、光照射により生成される酸素原子の影響は、当該酸素原子のライフタイムが短いため、オゾンと比較すると小さい。
(9)次に、図5(g)に示すように、第1のワーク30と第2のワーク50とを積層し、加圧によってこれらを接合してマイクロチップを形成する。第2のワーク50に構成されている溝部51(流路)は、貼り合わせた際、第1のワーク30に設置された抗体31aを内包するように予め設計されている。よって、両ワーク30,50を積層する場合、流路と抗体との位置がずれないように位置合わせが必要となる。
【0025】
以上の工程で作られたマイクロチップは、内部の流路に、細菌、ウイルスや微生物に感染した細胞等の検体が注入される。抗体は、検体を抗原として認識し結合する。抗体の特性分析としては、例えば、このような結合特性が評価される。この評価には、例えば、表面プラズモン共鳴法が用いられる。すなわち、金めっき32が施された側のマイクロチップ表面(金めっきが施されたワーク30の裏面)より、金めっき32に対して電磁波を照射する。そして、電磁波が全反射するときに発生するエバネッセント波(近接場)と、表面プラズモンとによる表面プラズモン共鳴を発生させ、共鳴条件(電磁波の入射角)を観測し、観測データをもとに上記した結合特性を評価する。
【0026】
2.第2実施例
次に、本発明の光処理方法の第2の実施例を説明する。具体的には、細胞固定用の疎水性樹脂パターンが形成されるワークの貼り合せ工程を例として本発明を説明する。
(1)図6(a)に示すように、マイクロチップ用基板(第1のワーク30)には細胞固定用の疎水性樹脂パターン30aが形成される。第1のワーク30はポリスチレンなどの疎水性樹脂を採用し、この疎水性樹脂にアクリルアミドなどの単量体よりなる親水性重合材料を塗布し、親水性樹脂層30bを形成する。
その後、親水性重合材料をパターニングして、疎水性樹脂の一部を露出させ、疎水性樹脂パターン30aを形成する。この形成方法は例えば前記特許文献2に開示される。
(2)図6(b)に示すように、この疎水性樹脂パターン30aに滴下等の方法により細胞31bを固定する。以上のような工程で、検査体31(細胞31b)が載置された第1のワーク30が用意される。
(3)次に、前記図4(a)(b)に示したように、本発明のマスク20を第1のワーク30上に載置する。この状態で、図6(c)に示すように、第1のワーク30に固定された細胞31bは、マスク20と第1のワーク30とが作る閉空間内に内包される。
【0027】
(4)前記図4(c)に示すように、光照射ユニット10をマスク20上に移動させ、図6(d)に示すように、光照射ユニット10のランプを点灯する。これにより、例えば波長172nmの真空紫外光がマスク20を介して第1のワーク30に照射される。
ここで、ランプ点灯装置12は、第1のワーク30の表面の光照射領域(閉空間以外の領域)における放射照度が所定の値(上記光照射領域を活性化するのに十分な値)となるように、ランプへの供給電力を制御する。そして所定の照射時間経過後、ランプ点灯装置12はランプを消灯する。なお上記した所定の照射時間とは、ランプが点灯して上記した第1のワーク30の表面の光照射領域に真空紫外光が照射されてから当該光照射領域が活性化するまでの時間である。なお、細胞検査用第1のワーク30の貼り合わせの場合、細胞体は滴下にて第1のワーク30に固定されるので、細胞固定前に第1のワーク30が洗浄されている場合は、第1のワーク30への真空紫外光照射による第1のワーク30のクリーニングは必要としない。
【0028】
(5)次に、図6(e)に示すように光照射ユニット10により第2のワーク50に真空紫外光を照射し、第2のワークの表面を活性化(表面改質)させる。
(6)次に、図6(f)に示すように、マスク20を第1のワーク30から取り外す。
(7)そして、図6(g)に示すように、第1のワーク30上に、第2のワーク50を積層させて加圧により両者を貼り合わせる。これにより両者の貼り合せが完了してマイクロチップが完成する。
このようにして作られたマイクロチップの内部の溝部51(流路)に試薬が注入される。試薬は、例えば蛍光染色剤である。そして、蛍光分析等の手法により、染色された細胞の状態が分析される。
【0029】
上記実施例では、光源として真空紫外光を放射するキセノンエキシマランプを使っていたが、真空紫外光を放射するランプとして、その他のランプ、例えば低圧水銀ランプなどを使ってもよい。また、高圧水銀ランプやメタルハライドランプのように紫外光を放射するランプを使うこともできる。
また、上記実施例では、マスクに凹部を形成する実施例について説明したが、検査体が載置されたマイクロチップ用基板(ワーク)側に凹部を形成することもできる。この場合、マスクは平板形状であって、当該マスクを凹部が形成されたワークに被せることで、検査体が載置された領域を閉空間とすることができる。さらに、この場合は、閉空間を形成するマスクとワークの内表面に遮光手段を設けることとなる。
図7に上記のように検査体が載置されたマイクロチップ用基板(ワーク)側に凹部を設け、マスクと組み合わせることで閉空間が形成されるように構成した実施例を示す。同図(a)はマスクとワークとを組み合わせる前の状態を示し、(b)は両者を組み合わせた状態を示す。
同図に示すように、ワーク300に凹部301が形成され、この凹部301の底面に金めっき32が施され、その上に抗体31aが設置される。マスク200は平板状であり、凹部301の全域を覆うように遮光手段20cが設けられる。
【0030】
ここで、遮光部材20cは、マスク200とワーク300の両方に設けることも可能ではあるが、通常、ワーク300に遮光手段を設けることは製造上の困難を伴う。そこで、図7に示すように、マスク200に、凹部301から構成される閉空間よりも大きい遮光手段20cを設けて、斜めに入射する光が閉空間内に到達しないようにすることができる。この場合、ワーク300は、石英ガラスのように真空紫外光を透過する材料ではなく、硼珪酸ガラスのように真空紫外光を吸収する材料を用いることが望ましい。
なお、マスク200とワーク300の両方に凹部を設けて、両者の凹部同士を重ねることで閉空間を形成することも可能である。
【0031】
以上の説明では、凹部がU字状の場合について説明したが、本発明において、凹部の形状や寸法は特に限定されるものではない。ただし、検査体が載置された領域以外については、ワーク表面を活性化させることが必要となるため、閉空間の大きさが検査体と同一もしくは僅かに大きい程度になることが望ましい。
また、上記実施例では、遮光手段としてクロムによる遮光膜を説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、黒色樹脂、モリブデン、タングステンなどを適用することもできる。
【符号の説明】
【0032】
10 光照射ユニット
10a ランプハウス
11a UVランプ
11b 反射ミラー
12 ランプ点灯装置
13 光照射ユニット駆動部
14 光照射ユニット駆動制御部
20,200 マスク
20a 壁部
20b 平板部分
20c 遮光手段
21 マスク搬送機構
22 真空チャック部
23 マスク搬送機構駆動部
24 マスク搬送機構駆動制御部
30,300 第1のワーク(マイクロチップ用基板)
31 検査体
31a 抗体
32 金めっき
50 第2のワーク(マイクロチップ用基板)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外光又はオゾンにより変質する検査体が載置されたマイクロTAS用基板の表面処理方法であって、
上記検査体が閉空間の中に配置されるようにマスクを上記基板に被せ、
上記検査体が載置された閉空間内を遮光しつつ、当該基板表面を光照射により活性化させることを特徴とするマイクロTAS用基板の表面処理方法。
【請求項2】
前記マスクには凹部が形成され、かつ、凹部の内表面に遮光膜が形成されたことを特徴とする請求項1に記載のマイクロTAS用基板の表面処理方法。
【請求項3】
前記光は波長200nm以下の真空紫外光であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロTAS用基板の表面処理方法。
【請求項4】
紫外光又はオゾンにより変質する検査体が載置されたマイクロTAS用基板の表面処理装置であって、
上記検査体が載置された基板を保持するステージと、
基板表面を活性化させるための光を照射する光照射ユニットと、
少なくとも一部に遮光部材が形成されたマスクと、
このマスクを上記基板上に搬送させるとともに、当該検査体が閉空間の中に配置されるように設定するためのマスク搬送機構と、
から構成されたことを特徴とするマイクロTAS用基板の表面処理装置。
【請求項5】
前記マスクには凹部が形成され、かつ、凹部の内表面に遮光膜が形成されたことを特徴とする請求項4に記載のマイクロTAS用基板の表面処理装置。
【請求項6】
前記光は波長200nm以下の真空紫外光であることを特徴とする請求項4に記載のマイクロTAS用基板の表面処理装置。
【請求項7】
紫外光又はオゾンにより変質する検査体が載置され、光照射される基板に対して被されるように設置されるマイクロTAS用基板の表面処理用マスクであって、
少なくとも一部に凹部を有し、当該マスクが上記基板に対して設置されたときに、マスクの凹部と基板とにより閉空間が構成されるとともに、この凹部の内表面に遮光手段が形成されることを特徴とするマイクロTAS用基板の表面処理用マスク。
【請求項8】
前記マスクの凹部は、平板状部材から突起した壁部により構成されることを特徴とする請求項7のマイクロTAS用基板の表面処理用マスク。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−220963(P2011−220963A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93112(P2010−93112)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】