マグネトロンスパッタリング用ターゲットおよびその製造方法
【課題】マグネトロンスパッタリング時の漏洩磁束量を従来よりも増加させる。
【解決手段】解決手段の第1態様は、Coを有するマグネトロンスパッタリング用ターゲットであって、Coを含む磁性相12と、Coを含む非磁性相16と、酸化物相14と、を有し、該磁性相12と該非磁性相16と該酸化物相14とが互いに分散しており、該磁性相12はCoおよびCrを主成分として含み、該磁性相12におけるCoの含有割合は、76at%以上80at%以下である。解決手段の第2態様は、Coを有するマグネトロンスパッタリング用ターゲットであって、Coを含む磁性相12と、Coを含む非磁性相16と、を有し、該磁性相12と該非磁性相16とが互いに分散しており、該非磁性相16はPtを主成分として含むPt−Co合金相であり、該Pt−Co合金相におけるCoの含有割合は、0at%より大きく13at%以下である。
【解決手段】解決手段の第1態様は、Coを有するマグネトロンスパッタリング用ターゲットであって、Coを含む磁性相12と、Coを含む非磁性相16と、酸化物相14と、を有し、該磁性相12と該非磁性相16と該酸化物相14とが互いに分散しており、該磁性相12はCoおよびCrを主成分として含み、該磁性相12におけるCoの含有割合は、76at%以上80at%以下である。解決手段の第2態様は、Coを有するマグネトロンスパッタリング用ターゲットであって、Coを含む磁性相12と、Coを含む非磁性相16と、を有し、該磁性相12と該非磁性相16とが互いに分散しており、該非磁性相16はPtを主成分として含むPt−Co合金相であり、該Pt−Co合金相におけるCoの含有割合は、0at%より大きく13at%以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強磁性金属元素を有するマグネトロンスパッタリング用ターゲットおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネトロンスパッタリングでは、ターゲットの裏面に磁石を配置し、ターゲットの表面側に漏れ出る漏洩磁束によりプラズマを高密度に集中させる。これにより、安定した高速スパッタリングを可能としている。
【0003】
このため、マグネトロンスパッタリングに用いられるターゲットには、ターゲットの表面側に漏れ出る漏洩磁束の量を多くすることが求められる。
【0004】
例えば、特許文献1では、Co−Cr二元系合金相、Pt相および非磁性酸化物相を均一分散させて比透磁率を低下させて、漏洩磁束の量を多くしたターゲットが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−1860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、マグネトロンスパッタリング時の漏洩磁束量をさらに増加させることが求められている。
【0007】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、マグネトロンスパッタリング時の漏洩磁束量を従来よりも増加させることができるマグネトロンスパッタリング用ターゲットおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、強磁性金属元素を有するマグネトロンスパッタリング用ターゲットであって、前記強磁性金属元素を含む磁性相と、前記強磁性金属元素を含む非磁性相と、を有しており、前記磁性相と前記非磁性相とが互いに分散していることを特徴とするマグネトロンスパッタリング用ターゲットにより、前記課題を解決したものである。
【0009】
ここで、「磁性相と非磁性相とが互いに分散している」とは、磁性相が分散媒、非磁性相が分散質となっている状態、および非磁性相が分散媒、磁性相が分散質となっている状態を含み、さらに磁性相と非磁性相とが混ざり合っているがどちらが分散媒で、どちらが分散質とは言えない状態も含む概念である。
【0010】
また、「磁性相」とは、磁性を有している相(通常の磁性体と比べて磁性が十分に小さい相を除く)のことであり、「非磁性相」とは、磁性がゼロの相だけでなく、通常の磁性体と比べて磁性が十分に小さい相も含む概念である。
【0011】
本発明によれば、強磁性金属元素を含む非磁性相を設けることにより、ターゲット全体における強磁性金属元素の量を一定に保ったまま、前記強磁性金属元素を含む磁性相に含まれる該強磁性金属元素の量を減少させることができ、ターゲット全体の磁性を減少させることができる。これにより、ターゲットに含まれる強磁性金属元素の含有量を減少させずに、マグネトロンスパッタリング時に、ターゲット表面からの漏洩磁束の量を増加させることができ、マグネトロンスパッタリングを良好に行うことができる。
【0012】
前記強磁性金属元素は、例えばCoであり、この場合、前記ターゲットを用いてマグネトロンスパッタリングを行うと、磁気記録特性に優れた磁気記録媒体を得やすい。
【0013】
また、前記ターゲットが酸化物相をさらに有しており、該酸化物相と前記磁性相と前記非磁性相とが互いに分散している場合、前記ターゲットを用いてマグネトロンスパッタリングを行うと、垂直磁気記録媒体を得ることができる場合がある。該酸化物相は、例えば、SiO2、TiO2、Ti2O3、Ta2O5、Cr2O3、CoO、Co3O4、B2O5、Fe2O3、CuO、Y2O3、MgO、Al2O3、ZrO2、Nb2O5、MoO3、CeO2、Sm2O3、Gd2O3、WO2、WO3、HfO2、NiO2のうちの少なくとも1種を含む。
【0014】
前記磁性相は、例えばCoおよびCrを主成分として含むことができ、この場合、該磁性相におけるCoの含有割合は、76at%以上80at%以下であることが好ましい。また、該磁性相は、酸化物相を微細に分散させやすくする点で、Ptをさらに含むことも好ましい。
【0015】
前記非磁性相は、Ptを主成分として含むPt−Co合金相であることが好ましく、この場合、該Pt−Co合金相は、Coを13at%以下含むことがより好ましい。
【0016】
前記ターゲットの中には、磁気記録層の形成に好適に用いることができるものがある。
【0017】
前記ターゲットは、例えば、強磁性金属元素を含む磁性金属粉末と、微細な1次粒子が凝集して2次粒子を形成している酸化物粉末とを、該酸化物粉末の2次粒子の粒径が所定の粒径以下になるまで混合分散して第1の混合粉末を得る工程と、前記第1の混合粉末と、強磁性金属元素を含む非磁性金属粉末とを、該非磁性金属粉末が均一となるように混合分散して第2の混合粉末を得る工程と、を有することを特徴とするマグネトロンスパッタリング用ターゲットの製造方法により製造することができる。
【0018】
また、前記ターゲットは、例えば、強磁性金属元素を含む非磁性金属粉末と、微細な1次粒子が凝集して2次粒子を形成している酸化物粉末とを、該酸化物粉末の2次粒子の粒径が所定の粒径以下になるまで混合分散して第1の混合粉末を得る工程と、前記第1の混合粉末と、強磁性金属元素を含む磁性金属粉末とを、該磁性金属粉末が均一となるように混合分散して第2の混合粉末を得る工程と、を有することを特徴とするマグネトロンスパッタリング用ターゲットの製造方法により製造することもできる。
【0019】
ここで、磁性金属粉末とは、磁性を有している粉末(通常の磁性体と比べて磁性が十分に小さい粉末を除く)のことであり、非磁性金属粉末とは、磁性がゼロの粉末だけでなく、通常の磁性体と比べて磁性が十分に小さい粉末も含む概念である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ターゲットに含まれる強磁性金属元素の含有量を減少させずに、マグネトロンスパッタリング時に、ターゲット表面からの漏洩磁束の量を増加させることができ、マグネトロンスパッタリングを良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態に係るターゲットのミクロ構造を示す一例の金属顕微鏡写真
【図2】Co−Cr合金において、Coの含有割合と磁性との関係を示すグラフ図
【図3】Pt−Co合金において、Coの含有割合と磁性との関係を示すグラフ図
【図4】実施例1の小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真(低倍率)
【図5】実施例1の小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真(高倍率)
【図6】比較例1の小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真(低倍率)
【図7】比較例1の小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真(高倍率)
【図8】比較例2の小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真(低倍率)
【図9】比較例2の小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真(高倍率)
【図10】実施例2の小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真(低倍率)
【図11】実施例2の小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真(高倍率)
【図12】実施例3の小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真(低倍率)
【図13】実施例3の小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真(高倍率)
【図14】実施例4の小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真(低倍率)
【図15】実施例4の小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真(高倍率)
【図16】比較例3の小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真(低倍率)
【図17】比較例3の小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真(高倍率)
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係るマグネトロンスパッタリング用ターゲットは、強磁性金属元素を有するマグネトロンスパッタリング用ターゲットであって、前記強磁性金属元素を含む磁性相と、前記強磁性金属元素を含む非磁性相と、を有しており、前記磁性相と前記非磁性相とが互いに分散したミクロ構造を有することを特徴とする。
【0023】
本発明では、強磁性金属元素を含む非磁性相を設けることにより、ターゲット全体における強磁性金属元素の量を一定に保ったまま、磁性相に含まれる強磁性金属元素の量を減少させることができる。これにより磁性相の磁性を弱めることができ、マグネトロンスパッタリング時に、ターゲット表面からの漏洩磁束の量を増加させることができ、マグネトロンスパッタリングを良好に行うことができる。
【0024】
また、本発明に係るマグネトロンスパッタリング用ターゲットは、強磁性金属元素を有するので、磁気記録媒体の作製に用いることができる。本実施形態に適用可能な強磁性金属元素は、特に限定されず、例えばCo、Fe、Niを用いることができる。強磁性金属元素としてCoを用いた場合、保磁力の大きい記録層(磁性層)を形成することができ、ハードディスクの作製に好適なターゲットとすることができる。
【0025】
以下では、磁気記録層の作製に好適に用いることができるCo−Cr−Pt−SiO2ターゲットを本発明の実施形態として取り上げ、具体的に説明する。
【0026】
1.ターゲットの構成成分
本実施形態に係るターゲットの構成成分は、Co−Cr−Pt−SiO2である。Co、Cr、Ptは、スパッタリングによって形成される磁気記録層のグラニュラ構造において、磁性粒子(微小な磁石)となる。SiO2は、グラニュラ構造において、磁性粒子(微小な磁石)を仕切る非磁性マトリックスとなる。
【0027】
ターゲット全体に対する金属(Co、Cr、Pt)の含有割合およびSiO2の含有割合は、目的とする磁気記録層の成分組成によって決まり、ターゲット全体に対する金属(Co、Cr、Pt)の含有割合は90〜94モル%、ターゲット全体に対するSiO2の含有割合は6〜10モル%である。
【0028】
Coは強磁性金属元素であり、磁気記録層のグラニュラ構造の磁性粒子(微小な磁石)の形成において中心的な役割を果たす。Coの含有割合は金属(Co、Cr、Pt)全体に対して60〜70at%である。
【0029】
Crは、所定の組成範囲でCoと合金化することによりCoの磁気モーメントを低下させる機能を有し、磁性粒子の磁性の強さを調整する役割を有する。Crの含有割合は金属(Co、Cr、Pt)全体に対して18〜24at%である。
【0030】
Ptは、所定の組成範囲でCoと合金化することによりCoの磁気モーメントを増加させる機能を有し、磁性粒子の磁性の強さを調整する役割を有する。Ptの含有割合は金属(Co、Cr、Pt)全体に対して1〜6at%である。
【0031】
なお、本実施形態では酸化物としてSiO2を用いたが、用いる酸化物はSiO2に限定されず、例えば、SiO2、TiO2、Ti2O3、Ta2O5、Cr2O3、CoO、Co3O4、B2O5、Fe2O3、CuO、Y2O3、MgO、Al2O3、ZrO2、Nb2O5、MoO3、CeO2、Sm2O3、Gd2O3、WO2、WO3、HfO2、NiO2のうちの少なくとも1種を含む酸化物を用いることもできる。
【0032】
2.ターゲットのミクロ構造
本実施形態に係るターゲットのミクロ構造は、図1(実施例1のターゲットの厚さ方向断面の高倍率の金属顕微鏡写真)を例にとって示すように、マトリックスであるCo−Cr合金相(Coの含有割合は76at%以上80at%以下)中にSiO2相およびPt−Co合金相(Coの含有割合は0at%より大きく13at%以下)が分散した構造である。図1において、符号10は本実施形態に係るターゲット、符号12はマトリックス合金相(Co−Cr合金相(Coの含有割合は76at%以上80at%以下))、符号14は酸化物相(SiO2相)、符号16は分散合金相(Pt−Co合金相(Coの含有割合は0at%より大きく13at%以下))である。
【0033】
Co−Cr合金相(Coの含有割合は76at%以上80at%以下)は磁性相、Pt−Co合金相(Coの含有割合は0at%より大きく13at%以下)およびSiO2相は非磁性相である。
【0034】
ここで、Co−Cr合金相において、Coの含有割合を76at%以上80at%以下としている理由について説明する。
【0035】
下記の表1は、Co−Cr合金において、Coの含有割合を振って測定した磁性の評価尺度の引張応力(後述するように引張応力の値が大きいほど磁性が強くなる)についての実験結果であり、図2は、下記の表1をグラフにしたもので、Co−Cr合金において、Coの含有割合と磁性との関係を示すグラフ図であり、横軸がCoの含有割合、縦軸が磁性の評価尺度の引張応力である。
【0036】
【表1】
【0037】
表1、図2に示すように、Co−Cr合金において、CoとCrの合計に対するCoの含有割合を80at%以下とすることによりCo−Cr合金の磁性を大きく減少させることができる。ただし、Coの含有割合が76at%を下回ると、ターゲット全体としてのCo量が少なくなってしまい、スパッタリングによって得られる層を磁気記録層として使用することはできなくなる。このため、本実施形態においては、Co−Cr合金相におけるCoの含有割合を76at%以上80at%以下として、スパッタリングによって得られる層を磁気記録層として使用することできる範囲内で、ターゲット全体の磁性を減少させて、良好なマグネトロンスパッタリングができるようにしている。
【0038】
次に、Pt−Co合金相において、Coの含有割合を0at%より大きく13at%以下としている理由について説明する。
【0039】
下記の表2は、Pt−Co合金において、Coの含有割合を振って測定した磁性の評価尺度の引張応力(後述するように引張応力の値が大きいほど磁性が強くなる)についての実験結果であり、図3は、下記の表2をグラフにしたもので、Pt−Co合金において、Coの含有割合と磁性との関係を示すグラフ図であり、横軸がCoの含有割合、縦軸が磁性の評価尺度の引張応力である。
【0040】
【表2】
【0041】
表2、図3に示すように、Pt−Co合金において、PtとCoの合計に対するCoの含有割合を13at%以下とすることにより、Pt−Co合金の磁性をほとんど零のレベルにしたまま、合金中にCoを含有させることができる。ただし、Coの含有割合が零では、ターゲット10全体におけるCoの量を一定に保ったまま、Co−Cr合金相におけるCoの含有割合を減少させることができず、ターゲット全体の磁性を減少させることができない。そこで、本実施形態においては、Pt−Co合金相におけるCoの含有割合を0at%より大きく13at%以下として、ターゲット10全体におけるCoの量を一定に保ったまま、Co−Cr合金相におけるCoの含有割合を減少させ、ターゲット全体の磁性を減少させて、良好なマグネトロンスパッタリングができるようにしている。
【0042】
なお、表1、表2、図2、図3のデータは、本発明者が測定して得たデータであり、具体的には下記のようにして測定した。表1、図2のデータの場合、CoとCrを体積が1cm3になるように配材してアーク溶解し、底面積が0.785cm2である円盤状のサンプルを組成比を変えて作製した。そして、この円盤状のサンプルの底面を、残留磁束密度が500ガウスの磁石(材質フェライト)に付着させた後、底面と垂直な方向に引っ張り、磁石から離れたときの力を測定した。この力を底面積0.785cm2で除して引張応力を求め、これを磁性の評価尺度とし、表1の数値、図2の縦軸とした。表2、図3のデータの場合、PtとCoを体積が1cm3になるように配材した以外は、表1、図2のデータの場合と同様にしてデータの取得を行った。
【0043】
以上説明したように、本実施形態に係るターゲット10では、Coを含む非磁性相であるPt−Co合金相(Coの含有割合は0at%より大きく13at%以下)を設けることにより、ターゲット10全体におけるCoの量を一定に保ったまま、磁性相であるマトリックスのCo−Cr合金相に含まれるCoの量を減少(Coの含有割合を76at%以上80at%以下にまで減少)させることができ、ターゲット10全体の磁性を減少させることができる。これにより、ターゲットに含まれる強磁性金属元素の含有量を減少させずに、マグネトロンスパッタリング時に、ターゲット表面からの漏洩磁束の量を増加させることができ、マグネトロンスパッタリングを良好に行うことができる。
【0044】
なお、本実施形態に係るターゲットのミクロ構造は、磁性相(Co−Cr合金相)が分散媒であり、非磁性相(Pt−Co合金相)および酸化物相(SiO2相)が分散質であり、磁性相(Co−Cr合金相)中に非磁性相(Pt−Co合金相)および酸化物相(SiO2相)が分散した構造となっているが、どの相も分散媒および分散質のどちらかに限定されているわけではなく、どの相も分散媒および分散質のどちらにもなることができる。
【0045】
3.ターゲットの製造方法
本実施形態に係るターゲット10は、以下のようにして製造することができる。
【0046】
(1)所定の組成(Coの含有割合が76at%以上80at%以下)となるようにCo、Crを秤量し、合金溶湯を作製して、ガスアトマイズを行い、所定の組成(Coの含有割合が76at%以上80at%以下)のCo−Cr合金アトマイズ磁性粉末を作製する。また、所定の組成(Coの含有割合が0at%より大きく13at%以下)となるようにCo、Ptを秤量し、合金溶湯を作製して、ガスアトマイズを行い、所定の組成(Coの含有割合が0at%より大きく13at%以下)のCo−Pt合金アトマイズ非磁性粉末を作製する。
【0047】
(2)Co−Cr合金アトマイズ磁性粉末とSiO2粉末とを混合分散して、第1の混合粉末を作製する。SiO2粉末は、微細な1次粒子が凝集して2次粒子を形成している。混合分散の程度は、SiO2の2次粒子径が所定の径(例えば、10μm)以下になるまで行う。
【0048】
(3)第1の混合粉末とCo−Pt合金アトマイズ非磁性粉末とを均一になるまで混合分散して、第2の混合粉末を作製する。なお、混合分散は、各粒子径が小さくならない程度に止める。
【0049】
(4)第2の混合粉末を真空ホットプレスして成形し、ターゲットを作製する。
【0050】
上記製造方法の特徴は、原料粉末を2段階で混合することにある。即ち、1段階目の混合では、SiO2の2次粒子径が所定の径以下になるまで混合を行うのに対して、2段階目の混合では、混合分散を、各粒子径が小さくならない程度に止めている。
【0051】
1段階目の混合でSiO2の2次粒子径が所定の径以下になるまで混合を行うことにより、得られるターゲット中においてSiO2は十分に微細に分散し、スパッタリング時のアーキング等の不具合の発生を抑えることができる。
【0052】
一方、2段階目の混合は、混合分散を、各粒子径が小さくならない程度に止めているので、2段階目の混合でのみ混合されるCo−Pt合金アトマイズ非磁性粉末の粒径は小さくならない。このため、真空ホットプレスを行っても、Co−Cr合金アトマイズ磁性粉末とCo−Pt合金アトマイズ非磁性粉末との間でCoの拡散移動は起こりにくく、Co−Pt合金アトマイズ非磁性粉末中のCo量が変動してしまうことを防止することができる。これにより、得られるターゲット中のCo−Pt合金相中のCo量が13at%を超えることを防止することができ、Co−Pt合金相の磁性を小さく保つことができ、マグネトロンスパッタリング時に、ターゲット表面からの漏洩磁束の量を増加させることができる。
【0053】
なお、1段階目の混合で、Co−Pt合金アトマイズ非磁性粉末とSiO2粉末とを(SiO2の2次粒子径が所定の径(例えば、10μm)以下になるまで)混合分散して、第1の混合粉末を作製し、2段階目の混合で、第1の混合粉末とCo−Cr合金アトマイズ磁性粉末とを均一になるまで混合分散(各粒子径が小さくならない程度に止める)して、第2の混合粉末を作製してもよい。
【0054】
また、本実施形態に係るターゲット10では、酸化物粉末(SiO2粉末)を混合して混合粉末を得ていたが、本発明に係るターゲットで酸化物相を有していないものを製造する場合は、強磁性金属元素を含む磁性金属粉末と強磁性金属元素を含む非磁性金属粉末とを、各粒子径が小さくならない程度に混合分散して混合粉末を得て、得られた混合粉末を真空ホットプレス法等を用いて成形すればよい。
【0055】
4.変形例
以上説明した実施形態では、マトリックスをCo−Cr合金相としたが、Co−Cr合金相に替えて、Ptを含むCo−Cr−Pt合金相をマトリックスとしてもよい。
【0056】
Ptは、Co−Cr−Pt合金中にSiO2を微細に分散させる機能を有するので、Co−Cr合金相に替えて、Ptを含むCo−Cr−Pt合金相とすることにより、マトリックス(Co−Cr−Pt合金)中にSiO2を微細に分散させることが容易となる。
【0057】
なお、マトリックスをCo−Cr−Pt合金相とした本変形例においても、前記実施形態と同様に、ターゲット全体に対する金属(Co、Cr、Pt)の含有割合は90〜94モル%、ターゲット全体に対するSiO2の含有割合は6〜10モル%、金属(Co、Cr、Pt)全体に対するCoの含有割合は60〜70at%、金属(Co、Cr、Pt)全体に対するCrの含有割合は18〜24at%、金属(Co、Cr、Pt)全体に対するPtの含有割合は1〜6at%である。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
実施例1として作製したターゲット全体の組成は、92(65Co−17Cr−18Pt)−8SiO2であり、以下のようにして作製を行うとともに評価を行った。
【0059】
合金組成がCo:78.75at%、Cr:21.25at%となるように各金属を秤量し、1700℃まで加熱してCo−21.25at%Cr合金溶湯とし、噴射温度1700℃でガスアトマイズを行ってCo−21.25at%Cr合金粉末を作製した。また、合金組成がPt:90at%、Co:10at%となるように各金属を秤量し、1850℃まで加熱してPt−10at%Co合金溶湯とし、噴射温度1850℃でガスアトマイズを行ってPt−10at%Co合金粉末を作製した。作製した2種類のアトマイズ合金粉末(Co−21.25at%Cr合金粉末、Pt−10at%Co合金粉末)をそれぞれ150メッシュのふるいで分級して、粒径がφ106μm以下の2種類のアトマイズ合金粉末(Co−21.25at%Cr合金粉末、Pt−10at%Co合金粉末)を得た。
【0060】
得られたCo−21.25at%Cr合金粉末818.31gにSiO2粉末93.00gを添加して混合分散を行い、第1の混合粉末を得た。詳細には、用いたSiO2粉末は、中心径0.6μmの1次粒子が凝集して、粒径がφ100μm程度の2次粒子を形成していたが、この2次粒子の径が10μm以下になるまで、ジルコニアボールを用いたボールミルで混合分散を行い、第1の混合粉末とした。
【0061】
第1の混合粉末848.47gに分級後のPt−10at%Coアトマイズ合金粉末601.53gを添加して混合分散を行い、第2の混合粉末を得た。詳細には、各粉末(Co−21.25at%Cr合金粉末、SiO2粉末、Pt−10at%Co合金粉末)の粒径が小さくならない範囲内で、各粉末が均一に分散するように混合分散を行い、第2の混合粉末とした。
【0062】
作製した第2の混合粉末を、焼結温度:1190℃、圧力:20MPa、時間:60min、雰囲気:5×10-2Pa以下の条件でホットプレスを行い、小型焼結体(φ30mm、厚さ5mm)を得た。得られた焼結体の密度をアルキメデス法により測定したところ、9.023(g/cm3)であった。理論密度は9.17(g/cm3)であるので、相対密度は98.4%であった。
【0063】
図4および図5に、得られた小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真を示す。図4は低倍率の写真で、図5は高倍率の写真である。
【0064】
図4および図5において、白色の球状の部分がPt−10at%Co合金相であり、黒色の部分がSiO2相であり、それら以外の部分がマトリックスのCo−21.25at%Cr合金相である。
【0065】
次に、作製した第2の混合粉末を用いて、小型焼結体を作製したときと同様の条件でホットプレスを行い、実際の製品形状に近い大型焼結体(φ162mm(チャック部を含めるとφ165mm)、厚さ6.35mm(チャック部の厚さは1.68mm))を得た。得られた焼結体の密度を、寸法および重量から計算したところ、9.087(g/cm3)であった。理論密度は9.17(g/cm3)であるので、相対密度は99.1%であった。
【0066】
得られた大型焼結体について、ASTM F2086−01に基づき、漏洩磁束についての評価を行った。磁束を発生させるための磁石には馬蹄形磁石(材質:アルニコ)を用いた。この磁石を漏洩磁束の測定装置に取り付けるとともに、ホールプローブにガウスメータを接続した。ホールプローブは、前記馬蹄形磁石の磁極間の中心の真上に位置するように配置した。
【0067】
まず、測定装置のテーブルにターゲットを置かずに、テーブルの表面における水平方向の磁束密度を測定し、ASTMで定義されるSource Fieldを測定したところ860(G)であった。
【0068】
次に、ホールプローブの先端を、ターゲットの漏洩磁束測定時の位置(テーブル表面からターゲットの厚さ+2mmの高さ位置)に上昇させ、テーブル面にターゲットを置かない状態で、テーブル面に水平な方向の漏洩磁束密度を測定し、ASTMで定義されるReference fieldを測定したところ561(G)であった。
【0069】
次に、ターゲット表面の中心と、ターゲット表面のホールプローブ直下の点の間の距離が43.7mmになるようにターゲットをテーブル面に配置した。そして、中心位置を移動させずにターゲットを反時計回りに5回転させた後、中心位置を移動させずにターゲットを0度、30度、60度、90度、120度回転させ、それぞれの位置で、テーブル面に水平な方向の漏洩磁束密度を測定した。得られた5つの漏洩磁束密度の値をReferennce fieldの値で割って100を掛けて漏洩磁束率(%)とした。5点の漏洩磁束率(%)の平均をとり、その平均値をそのターゲットの平均漏洩磁束率(%)とした。下記の表3に示すように、平均漏洩磁束率は63.0%であった。
【0070】
【表3】
【0071】
(比較例1)
比較例1として作製したターゲット全体の組成は、92(65Co−17Cr−18Pt)−8SiO2であり、実施例1と同じであるが、分散相がPt−Co合金ではなくPt単体となっている。また、マトリックスであるCo−Cr合金相の組成も実施例1とは異なっている。比較例1のターゲットを、以下のようにして作製を行うとともに評価を行った。
【0072】
組成のみを変更した以外は実施例1と同様にアトマイズおよび分級を行って、2種類のアトマイズ粉末(Co−20.73at%Cr合金粉末、Pt粉末)を得た。なお、Co−20.73at%Crアトマイズ合金粉末を得る際の加熱温度および噴射温度は1700℃であり、Ptアトマイズ粉末を得る際の加熱温度および噴射温度は2100℃であった。
【0073】
得られた分級後のCo−20.73at%Cr合金粉末839.29gにSiO2粉末93.00gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、第1の混合粉末を得た。
【0074】
第1の混合粉末868.01gに分級後のPtアトマイズ粉末581.99gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、第2の混合粉末を得た。
【0075】
得られた第2の混合粉末を、実施例1と同様の条件でホットプレスを行い、実施例1と同様の形状の小型焼結体および大型焼結体を作製した。作製した小型焼結体の密度をアルキメデス法により測定したところ、9.005(g/cm3)であった。理論密度は9.17(g/cm3)であるので、相対密度は98.2%であった。また、作製した大型焼結体の密度を、寸法および重量から計算したところ、8.996(g/cm3)であった。理論密度は9.17(g/cm3)であるので、相対密度は98.1%であった。
【0076】
図6および図7に、作製した小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真を示す。図6は低倍率の写真で、図7は高倍率の写真である。
【0077】
図6および図7において、白色の球状の部分がPt相であり、黒色の部分がSiO2相であり、それら以外の部分がマトリックスのCo−20.73at%Cr合金相である。
【0078】
作製した大型焼結体について、実施例1と同様にして、漏洩磁束についての評価を行った。下記の表4に示すように、平均漏洩磁束率は57.0%であった。
【0079】
【表4】
【0080】
(比較例2)
比較例2として作製したターゲット全体の組成は、92(65Co−17Cr−18Pt)−8SiO2であり、実施例1と同じであるが、マトリックスであるCo−Cr合金相の組成、分散相であるPt−Co合金相の組成が実施例1とは異なっており、以下のようにして作製を行うとともに評価を行った。
【0081】
合金組成のみを変更した以外は実施例1と同様にアトマイズおよび分級を行って、2種類のアトマイズ合金粉末(Co−26.56at%Cr合金粉末、Pt−50at%Co合金粉末)を得た。なお、Co−26.56at%Crアトマイズ合金粉末を得る際の加熱温度および噴射温度は1700℃であり、Pt−50at%Co合金粉末を得る際の加熱温度および噴射温度は1650℃であった。
【0082】
得られた分級後のCo−26.56at%Cr合金粉末650.45gにSiO2粉末93.00gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、第1の混合粉末を得た。
【0083】
第1の混合粉末692.19gに分級後のPt−50at%Coアトマイズ合金粉末757.81gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、第2の混合粉末を得た。
【0084】
得られた第2の混合粉末を、焼結温度を1210℃とした以外は実施例1と同様の条件でホットプレスを行い、実施例1と同様の形状の小型焼結体および大型焼結体を作製した。作製した小型焼結体の密度をアルキメデス法により測定したところ、9.161(g/cm3)であった。理論密度は9.17(g/cm3)であるので、相対密度は99.9%であった。また、作製した大型焼結体の密度を、寸法および重量から計算したところ、9.161(g/cm3)であった。理論密度は9.17(g/cm3)であるので、相対密度は99.9%であった。
【0085】
図8および図9に、作製した小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真を示す。図8は低倍率の写真で、図9は高倍率の写真である。
【0086】
図8および図9において、白色の球状の部分がPt−50at%Co合金相であり、黒色の部分がSiO2相であり、それら以外の部分がマトリックスのCo−26.56at%Cr合金相である。
【0087】
作製した大型焼結体について、実施例1と同様にして、漏洩磁束についての評価を行った。下記の表5に示すように、平均漏洩磁束率は50.7%であった。
【0088】
【表5】
【0089】
(実施例2)
実施例2として作製したターゲット全体の組成は、92(65Co−17Cr−18Pt)−8SiO2であり、実施例1と同じであるが、マトリックスである合金相にPtが1.06at%含まれている点が実施例1とは異なっている。実施例2のターゲットを以下のようにして作製を行うとともに評価を行った。
【0090】
合金組成のみを変更した以外は実施例1と同様にアトマイズおよび分級を行って、2種類のアトマイズ合金粉末(Co−21at%Cr−1.06at%Pt合金粉末、Pt−10at%Co合金粉末)を得た。なお、Co−21at%Cr−1.06at%Ptアトマイズ合金粉末を得る際の加熱温度および噴射温度は1700℃であり、Pt−10at%Co合金粉末を得る際の加熱温度および噴射温度は1850℃であった。
【0091】
得られた分級後のCo−21at%Cr−1.06at%Pt合金粉末850.00gにSiO2粉末93.11gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、第1の混合粉末を得た。
【0092】
第1の混合粉末877.10gに分級後のPt−10at%Coアトマイズ合金粉末572.90gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、第2の混合粉末を得た。
【0093】
得られた第2の混合粉末を、焼結温度を1170℃とした以外は実施例1と同様の条件でホットプレスを行い、実施例1と同様の形状の小型焼結体および2つの大型焼結体を作製した。作製した小型焼結体の密度をアルキメデス法により測定したところ、8.994(g/cm3)であった。理論密度は9.17(g/cm3)であるので、相対密度は98.1%であった。また、作製した2つの大型焼結体の密度を、寸法および重量から計算したところ、9.030(g/cm3)と9.045(g/cm3)であった。理論密度は9.17(g/cm3)であるので、相対密度は98.5%と98.6%であった。
【0094】
図10および図11に、作製した小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真を示す。図10は低倍率の写真で、図11は高倍率の写真である。
【0095】
図10および図11において、白色の球状の部分がPt−10at%Co合金相であり、黒色の部分がSiO2相であり、それら以外の部分がマトリックスのCo−21at%Cr−1.06at%Pt合金相である。
【0096】
作製した2つの大型焼結体について、実施例1と同様にして、漏洩磁束についての評価を行った。下記の表6、表7に示すように、平均漏洩磁束率は62.7%と62.7%であり、両者をさらに平均した平均漏洩磁束率は62.7%であった。
【0097】
【表6】
【0098】
【表7】
【0099】
(実施例3)
実施例3として作製したターゲット全体の組成は、92(65Co−17Cr−18Pt)−8SiO2であり、実施例2と同じであるが、マトリックスである合金相にPtが5.3at%含まれている点が実施例2とは異なっている(その結果、マトリックス合金相に含まれるCr量も若干少なくなっており、20at%となっている)。実施例3のターゲットを以下のようにして作製を行うとともに評価を行った。
【0100】
合金組成のみを変更した以外は実施例1と同様にアトマイズおよび分級を行って、2種類のアトマイズ合金粉末(Co−20at%Cr−5.3at%Pt合金粉末、Pt−10at%Co合金粉末)を得た。なお、Co−20at%Cr−5.3at%Ptアトマイズ合金粉末を得る際の加熱温度および噴射温度は1700℃であり、Pt−10at%Co合金粉末を得る際の加熱温度および噴射温度は1850℃であった。
【0101】
得られた分級後のCo−20at%Cr−5.3at%Pt合金粉末1000.00gにSiO2粉末94.91gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、第1の混合粉末を得た。
【0102】
第1の混合粉末998.89gに分級後のPt−10at%Coアトマイズ合金粉末451.11gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、第2の混合粉末を得た。
【0103】
得られた第2の混合粉末を、焼結温度を1150℃、圧力を250kg/cm2とした以外は実施例1と同様の条件でホットプレスを行い、実施例1と同様の形状の小型焼結体および2つの大型焼結体を作製した。作製した小型焼結体の密度をアルキメデス法により測定したところ、8.902(g/cm3)であった。理論密度は9.17(g/cm3)であるので、相対密度は97.1%であった。また、作製した2つの大型焼結体の密度を、寸法および重量から計算したところ、8.944(g/cm3)と8.964(g/cm3)であった。理論密度は9.17(g/cm3)であるので、相対密度は97.5%と97.8%であった。
【0104】
図12および図13に、作製した小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真を示す。図12は低倍率の写真で、図13は高倍率の写真である。
【0105】
図12および図13において、白色の球状の部分がPt−10at%Co合金相であり、黒色の部分がSiO2相であり、それら以外の部分がマトリックスのCo−20at%Cr−5.3at%Pt合金相である。
【0106】
得られた2つの大型焼結体について、実施例1と同様にして、漏洩磁束についての評価を行った。下記の表8、表9に示すように、平均漏洩磁束率は60.8%と60.9%であり、両者をさらに平均した平均漏洩磁束率は60.9%であった。
【0107】
【表8】
【0108】
【表9】
【0109】
(実施例4)
実施例4として作製したターゲット全体の組成は、92(65Co−17Cr−18Pt)−8SiO2であり、実施例2と同じであるが、分散相であるPt−Co合金相に含まれるCo量が5at%であり、実施例2の10at%よりも少なくなっている(その結果、マトリックス合金相に含まれるCo量が若干増えるとともにCr量が若干少なくなっており、マトリックス合金相においてCr量は20.74at%となっている)。実施例4のターゲットを以下のようにして作製を行うとともに評価を行ったが、実施例4のターゲットとしては小型焼結体のみを作製した。
【0110】
合金組成のみを変更した以外は実施例1と同様にアトマイズおよび分級を行って、2種類のアトマイズ合金粉末(Co−20.74at%Cr−1.06at%Pt合金粉末、Pt−5at%Co合金粉末)を得た。なお、Co−20.74at%Cr−1.06at%Ptアトマイズ合金粉末を得る際の加熱温度および噴射温度は1700℃であり、Pt−5at%Co合金粉末を得る際の加熱温度および噴射温度は1850℃であった。
【0111】
得られた分級後のCo−20.74at%Cr−1.06at%Pt合金粉末860.00gにSiO2粉末93.01gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、第1の混合粉末を得た。
【0112】
第1の混合粉末893.42gに分級後のPt−5at%Coアトマイズ合金粉末566.58gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、第2の混合粉末を得た。
【0113】
得られた第2の混合粉末を、焼結温度を1180℃とした以外は実施例1と同様の条件でホットプレスを行い、実施例1と同様の形状の小型焼結体を作製した。作製した小型焼結体の密度をアルキメデス法により測定したところ、8.935(g/cm3)であった。理論密度は9.17(g/cm3)であるので、相対密度は97.4%であった。
【0114】
図14および図15に、作製した小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真を示す。図14は低倍率の写真で、図15は高倍率の写真である。
【0115】
図14および図15において、白色の球状の部分がPt−5at%Co合金相であり、黒色の部分がSiO2相であり、それら以外の部分がマトリックスのCo−20.74at%Cr−1.06at%Pt合金相である。
【0116】
(実施例5)
実施例5は、ターゲット全体の組成および各相の組成については実施例4と同じであるが、実施例4では小型焼結体のみを作製したのに対し、実施例5では大型焼結体のみを作製した。また、実施例5ではホットプレス圧力が250kgf/cm2であり、実施例4の200kgf/cm2よりも大きくなっている。実施例5のターゲットを以下のようにして作製を行うとともに評価を行った。
【0117】
実施例4と同様にしてアトマイズ、分級および混合分散を行って、2種類のアトマイズ合金粉末(Co−20.74at%Cr−1.06at%Pt合金粉末、Pt−5at%Co合金粉末)、第1の混合粉末および第2の混合粉末を得た。なお、Co−20.74at%Cr−1.06at%Ptアトマイズ合金粉末を得る際の加熱温度および噴射温度は1700℃であり、Pt−5at%Co合金粉末を得る際の加熱温度および噴射温度は1850℃であった。
【0118】
得られた第2の混合粉末を、圧力を250kg/cm2とした以外は実施例4と同様の条件でホットプレスを行い、実施例1と同様の形状の2つの大型焼結体を作製した。作製した2つの大型焼結体の密度を、寸法および重量から計算したところ、9.086(g/cm3)と9.075(g/cm3)であった。理論密度は9.17(g/cm3)であるので、相対密度は99.1%と99.0%であった。
【0119】
作製した2つの大型焼結体について、実施例1と同様にして、漏洩磁束についての評価を行った。下記の表10、表11に示すように、平均漏洩磁束率は56.1%と55.9%であり、両者をさらに平均した平均漏洩磁束率は56.0%であった。
【0120】
【表10】
【0121】
【表11】
【0122】
(比較例3)
比較例3として作製したターゲット全体の組成は、92(65Co−17Cr−18Pt)−8SiO2であり、実施例1と同じであるが、マトリックス合金相にPtが含有されている点、分散相であるPt−Co合金相にCoが54.80at%と多量に含まれている点が実施例1とは異なっている。比較例3のターゲットを以下のようにして作製を行うとともに評価を行った。
【0123】
合金組成のみを変更した以外は実施例2と同様にアトマイズおよび分級を行って、2種類のアトマイズ合金粉末(Co−22at%Cr−10at%Pt合金粉末、Pt−54.80at%Co合金粉末)を得た。なお、Co−22at%Cr−10at%Ptアトマイズ合金粉末を得る際の加熱温度および噴射温度は1700℃であり、Pt−54.80at%Co合金粉末を得る際の加熱温度および噴射温度は1650℃であった。
【0124】
得られた分級後のCo−22at%Cr−10at%Pt合金粉末976.97gにSiO2粉末93.00gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、第1の混合粉末を得た。
【0125】
第1の混合粉末996.19gに分級後のPt−54.80at%Coアトマイズ合金粉末453.81gを添加した以外は実施例2と同様にして混合分散を行い、第2の混合粉末を得た。
【0126】
得られた第2の混合粉末を、焼結温度を1210℃とした以外は実施例1と同様の条件でホットプレスを行い、実施例2と同様の形状の小型焼結体および大型焼結体を作製した。作製した小型焼結体の密度をアルキメデス法により測定したところ、8.922(g/cm3)であった。理論密度は9.17(g/cm3)であるので、相対密度は97.3%であった。また、作製した大型焼結体の密度を、寸法および重量から計算したところ、9.097(g/cm3)であった。理論密度は9.17(g/cm3)であるので、相対密度は99.2%であった。
【0127】
図16および図17に、作製した小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真を示す。図16は低倍率の写真で、図17は高倍率の写真である。
【0128】
図16および図17において、白色の球状の部分がPt−54.80at%Co合金相であり、黒色の部分がSiO2相であり、それら以外の部分がマトリックスのCo−22at%Cr−10at%Pt合金相である。
【0129】
作製した大型焼結体について、実施例1と同様にして、漏洩磁束についての評価を行った。下記の表12に示すように、平均漏洩磁束率は49.6%であった。
【0130】
【表12】
【0131】
(考察)
平均漏洩磁束率を測定した実施例1〜3、5、比較例1〜3についての測定結果を下記の表13にまとめて示す。
【0132】
【表13】
【0133】
本発明の範囲内の実施例1〜3、5は、分散合金相であるPt−Co合金相において、Coを原子数比で13at%以下含んでいる。このため、ターゲット全体におけるCo量を一定に保ちつつマトリックス合金相に含まれるCo量を減少させることができ、ターゲットの平均漏洩磁束率を低減させることができる。
【0134】
実施例1と比較例1とを比較すると、ターゲット全体の組成は同じ(ターゲット全体におけるCo量は同じ)であり、金属(Co、Cr、Pt)の合計量に対するCoの原子数比は65at%で同じである。しかしながら、実施例1は分散合金相の組成がPt−10at%Coであるのに対し、比較例1は分散合金相の組成がPt100at%(Pt単体)であり、実施例1の分散合金相にはCoが含まれているのに対し、比較例1の分散合金相にはCoが含まれていない。このため、マトリックス合金相におけるCoとCrの比率が、実施例1ではCo:Cr=78.75:21.25であるのに対し、比較例1ではCo:Cr=79.27:20.73となっており、実施例1の方が比較例1よりもマトリックス合金相におけるCoの比率が小さくなっている。このため、実施例1の方が比較例1よりもマトリックス合金相の磁性が小さくなっている。
【0135】
一方、分散合金相の磁性は、実施例1のPt−10at%Co合金であっても、比較例1のPt単体であってもどちらもほとんどゼロであり、差は極めて小さく、ターゲット全体としての磁性はマトリックス合金相の磁性で決まると考えられる。
【0136】
このため、マトリックス合金相におけるCoの比率がより小さい実施例1の方が、ターゲット全体としての磁性も比較例1より小さくなり、この結果、平均漏洩磁束率も、実施例1の方が比較例1よりも大きくなったと考えられる。
【0137】
次に、実施例2、3、5の実験結果について説明する。実施例2、3、5は、ターゲット全体の組成が同じであり、また、いずれにおいても分散合金相(Pt−Co合金相)がCoを13at%以下含んでいる。しかしながら、マトリックス合金相の組成は異なっており、マトリックス合金相におけるCoとCrの比率は、実施例2ではCo:Cr=78.78:21.22であり、実施例3ではCo:Cr=78.88:21.12であり、実施例5ではCo:Cr=79.04:20.96であり、Crに対するCoの比率は、実施例2が一番小さく、実施例3が次に小さく、実施例5が次に小さくなっている。このため、マトリックス合金相の磁性は、実施例2が一番小さく、実施例3が次に小さく、実施例5が次に小さくなっている。
【0138】
一方、実施例2、3、5の分散合金相(Pt−Co合金相)におけるCoの含有量はそれぞれ10at%、10at%、5at%であり、図3に示すように、実施例2、3、5の分散合金相(Pt−Co合金相)の磁性はいずれもほとんどゼロであり、差は極めて小さく、ターゲット全体としての磁性はマトリックス合金相の磁性で決まると考えられる。
【0139】
このため、ターゲット全体としての磁性は、実施例2が一番小さく、実施例3が次に小さく、実施例5が次に小さくなり、この結果、平均漏洩磁束率は、実施例2が一番大きく、実施例3が次に大きく、実施例5が次に大きくなったと考えられる。
【0140】
次に、比較例2、3の実験結果について説明する。比較例2、3は、ターゲット全体の組成は実施例1と同じであるが、マトリックス合金相におけるCrの含有割合が26.56at%、22at%と実施例1〜3、5と比べて大きく、また、分散合金相であるPt−Co合金相におけるCoの含有割合が50at%、54.80at%と実施例1〜3、5と比べて極めて大きくなっている。
【0141】
図3に示すように、Pt−Co合金相におけるCoの含有割合が50at%、54.80at%と大きくなると、Co単体よりも磁性が強くなる。このため、比較例2、3は、マトリックス合金相におけるCrの含有割合が26.56at%、22at%と実施例1〜3、5と比べて大きく、マトリックス合金相の磁性が実施例1〜3、5よりも小さくなっていても、ターゲット全体としての磁性は実施例1〜3、5よりも大きくなり、その結果、平均漏洩磁束率は、実施例1〜3、5よりも小さくなったと考えられる。
【0142】
なお、実施例5と比較例1を比べると、マトリックス合金相におけるCoの含有割合は実施例5の方が比較例1よりも少ないが、平均漏洩磁束率は実施例5の方が比較例1よりも小さくなっている。これは、図3に示すようにPtはCoの磁性を増加させる働きをするところ、実施例5ではマトリックス合金相にPtが1.06at%含まれているため、マトリックス合金相におけるCoの含有割合は実施例5の方が比較例1よりも少ないが、マトリックス合金相の磁性は実施例5の方が比較例1よりも強くなり、平均漏洩磁束率は実施例5の方が比較例1よりも小さくなったと考えられる。したがって、比較例1のマトリックス合金相にPtが実施例5と同程度(1at%程度)含まれていれば、平均漏洩磁束率は実施例5の方が比較例1よりも大きくなったと考えられる。
【符号の説明】
【0143】
10…ターゲット
12…マトリックス合金相(Co−Cr合金相)
14…酸化物相(SiO2相)
16…分散合金相(Pt−Co合金相)
【技術分野】
【0001】
本発明は、強磁性金属元素を有するマグネトロンスパッタリング用ターゲットおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネトロンスパッタリングでは、ターゲットの裏面に磁石を配置し、ターゲットの表面側に漏れ出る漏洩磁束によりプラズマを高密度に集中させる。これにより、安定した高速スパッタリングを可能としている。
【0003】
このため、マグネトロンスパッタリングに用いられるターゲットには、ターゲットの表面側に漏れ出る漏洩磁束の量を多くすることが求められる。
【0004】
例えば、特許文献1では、Co−Cr二元系合金相、Pt相および非磁性酸化物相を均一分散させて比透磁率を低下させて、漏洩磁束の量を多くしたターゲットが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−1860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、マグネトロンスパッタリング時の漏洩磁束量をさらに増加させることが求められている。
【0007】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、マグネトロンスパッタリング時の漏洩磁束量を従来よりも増加させることができるマグネトロンスパッタリング用ターゲットおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、強磁性金属元素を有するマグネトロンスパッタリング用ターゲットであって、前記強磁性金属元素を含む磁性相と、前記強磁性金属元素を含む非磁性相と、を有しており、前記磁性相と前記非磁性相とが互いに分散していることを特徴とするマグネトロンスパッタリング用ターゲットにより、前記課題を解決したものである。
【0009】
ここで、「磁性相と非磁性相とが互いに分散している」とは、磁性相が分散媒、非磁性相が分散質となっている状態、および非磁性相が分散媒、磁性相が分散質となっている状態を含み、さらに磁性相と非磁性相とが混ざり合っているがどちらが分散媒で、どちらが分散質とは言えない状態も含む概念である。
【0010】
また、「磁性相」とは、磁性を有している相(通常の磁性体と比べて磁性が十分に小さい相を除く)のことであり、「非磁性相」とは、磁性がゼロの相だけでなく、通常の磁性体と比べて磁性が十分に小さい相も含む概念である。
【0011】
本発明によれば、強磁性金属元素を含む非磁性相を設けることにより、ターゲット全体における強磁性金属元素の量を一定に保ったまま、前記強磁性金属元素を含む磁性相に含まれる該強磁性金属元素の量を減少させることができ、ターゲット全体の磁性を減少させることができる。これにより、ターゲットに含まれる強磁性金属元素の含有量を減少させずに、マグネトロンスパッタリング時に、ターゲット表面からの漏洩磁束の量を増加させることができ、マグネトロンスパッタリングを良好に行うことができる。
【0012】
前記強磁性金属元素は、例えばCoであり、この場合、前記ターゲットを用いてマグネトロンスパッタリングを行うと、磁気記録特性に優れた磁気記録媒体を得やすい。
【0013】
また、前記ターゲットが酸化物相をさらに有しており、該酸化物相と前記磁性相と前記非磁性相とが互いに分散している場合、前記ターゲットを用いてマグネトロンスパッタリングを行うと、垂直磁気記録媒体を得ることができる場合がある。該酸化物相は、例えば、SiO2、TiO2、Ti2O3、Ta2O5、Cr2O3、CoO、Co3O4、B2O5、Fe2O3、CuO、Y2O3、MgO、Al2O3、ZrO2、Nb2O5、MoO3、CeO2、Sm2O3、Gd2O3、WO2、WO3、HfO2、NiO2のうちの少なくとも1種を含む。
【0014】
前記磁性相は、例えばCoおよびCrを主成分として含むことができ、この場合、該磁性相におけるCoの含有割合は、76at%以上80at%以下であることが好ましい。また、該磁性相は、酸化物相を微細に分散させやすくする点で、Ptをさらに含むことも好ましい。
【0015】
前記非磁性相は、Ptを主成分として含むPt−Co合金相であることが好ましく、この場合、該Pt−Co合金相は、Coを13at%以下含むことがより好ましい。
【0016】
前記ターゲットの中には、磁気記録層の形成に好適に用いることができるものがある。
【0017】
前記ターゲットは、例えば、強磁性金属元素を含む磁性金属粉末と、微細な1次粒子が凝集して2次粒子を形成している酸化物粉末とを、該酸化物粉末の2次粒子の粒径が所定の粒径以下になるまで混合分散して第1の混合粉末を得る工程と、前記第1の混合粉末と、強磁性金属元素を含む非磁性金属粉末とを、該非磁性金属粉末が均一となるように混合分散して第2の混合粉末を得る工程と、を有することを特徴とするマグネトロンスパッタリング用ターゲットの製造方法により製造することができる。
【0018】
また、前記ターゲットは、例えば、強磁性金属元素を含む非磁性金属粉末と、微細な1次粒子が凝集して2次粒子を形成している酸化物粉末とを、該酸化物粉末の2次粒子の粒径が所定の粒径以下になるまで混合分散して第1の混合粉末を得る工程と、前記第1の混合粉末と、強磁性金属元素を含む磁性金属粉末とを、該磁性金属粉末が均一となるように混合分散して第2の混合粉末を得る工程と、を有することを特徴とするマグネトロンスパッタリング用ターゲットの製造方法により製造することもできる。
【0019】
ここで、磁性金属粉末とは、磁性を有している粉末(通常の磁性体と比べて磁性が十分に小さい粉末を除く)のことであり、非磁性金属粉末とは、磁性がゼロの粉末だけでなく、通常の磁性体と比べて磁性が十分に小さい粉末も含む概念である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ターゲットに含まれる強磁性金属元素の含有量を減少させずに、マグネトロンスパッタリング時に、ターゲット表面からの漏洩磁束の量を増加させることができ、マグネトロンスパッタリングを良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態に係るターゲットのミクロ構造を示す一例の金属顕微鏡写真
【図2】Co−Cr合金において、Coの含有割合と磁性との関係を示すグラフ図
【図3】Pt−Co合金において、Coの含有割合と磁性との関係を示すグラフ図
【図4】実施例1の小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真(低倍率)
【図5】実施例1の小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真(高倍率)
【図6】比較例1の小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真(低倍率)
【図7】比較例1の小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真(高倍率)
【図8】比較例2の小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真(低倍率)
【図9】比較例2の小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真(高倍率)
【図10】実施例2の小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真(低倍率)
【図11】実施例2の小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真(高倍率)
【図12】実施例3の小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真(低倍率)
【図13】実施例3の小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真(高倍率)
【図14】実施例4の小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真(低倍率)
【図15】実施例4の小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真(高倍率)
【図16】比較例3の小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真(低倍率)
【図17】比較例3の小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真(高倍率)
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係るマグネトロンスパッタリング用ターゲットは、強磁性金属元素を有するマグネトロンスパッタリング用ターゲットであって、前記強磁性金属元素を含む磁性相と、前記強磁性金属元素を含む非磁性相と、を有しており、前記磁性相と前記非磁性相とが互いに分散したミクロ構造を有することを特徴とする。
【0023】
本発明では、強磁性金属元素を含む非磁性相を設けることにより、ターゲット全体における強磁性金属元素の量を一定に保ったまま、磁性相に含まれる強磁性金属元素の量を減少させることができる。これにより磁性相の磁性を弱めることができ、マグネトロンスパッタリング時に、ターゲット表面からの漏洩磁束の量を増加させることができ、マグネトロンスパッタリングを良好に行うことができる。
【0024】
また、本発明に係るマグネトロンスパッタリング用ターゲットは、強磁性金属元素を有するので、磁気記録媒体の作製に用いることができる。本実施形態に適用可能な強磁性金属元素は、特に限定されず、例えばCo、Fe、Niを用いることができる。強磁性金属元素としてCoを用いた場合、保磁力の大きい記録層(磁性層)を形成することができ、ハードディスクの作製に好適なターゲットとすることができる。
【0025】
以下では、磁気記録層の作製に好適に用いることができるCo−Cr−Pt−SiO2ターゲットを本発明の実施形態として取り上げ、具体的に説明する。
【0026】
1.ターゲットの構成成分
本実施形態に係るターゲットの構成成分は、Co−Cr−Pt−SiO2である。Co、Cr、Ptは、スパッタリングによって形成される磁気記録層のグラニュラ構造において、磁性粒子(微小な磁石)となる。SiO2は、グラニュラ構造において、磁性粒子(微小な磁石)を仕切る非磁性マトリックスとなる。
【0027】
ターゲット全体に対する金属(Co、Cr、Pt)の含有割合およびSiO2の含有割合は、目的とする磁気記録層の成分組成によって決まり、ターゲット全体に対する金属(Co、Cr、Pt)の含有割合は90〜94モル%、ターゲット全体に対するSiO2の含有割合は6〜10モル%である。
【0028】
Coは強磁性金属元素であり、磁気記録層のグラニュラ構造の磁性粒子(微小な磁石)の形成において中心的な役割を果たす。Coの含有割合は金属(Co、Cr、Pt)全体に対して60〜70at%である。
【0029】
Crは、所定の組成範囲でCoと合金化することによりCoの磁気モーメントを低下させる機能を有し、磁性粒子の磁性の強さを調整する役割を有する。Crの含有割合は金属(Co、Cr、Pt)全体に対して18〜24at%である。
【0030】
Ptは、所定の組成範囲でCoと合金化することによりCoの磁気モーメントを増加させる機能を有し、磁性粒子の磁性の強さを調整する役割を有する。Ptの含有割合は金属(Co、Cr、Pt)全体に対して1〜6at%である。
【0031】
なお、本実施形態では酸化物としてSiO2を用いたが、用いる酸化物はSiO2に限定されず、例えば、SiO2、TiO2、Ti2O3、Ta2O5、Cr2O3、CoO、Co3O4、B2O5、Fe2O3、CuO、Y2O3、MgO、Al2O3、ZrO2、Nb2O5、MoO3、CeO2、Sm2O3、Gd2O3、WO2、WO3、HfO2、NiO2のうちの少なくとも1種を含む酸化物を用いることもできる。
【0032】
2.ターゲットのミクロ構造
本実施形態に係るターゲットのミクロ構造は、図1(実施例1のターゲットの厚さ方向断面の高倍率の金属顕微鏡写真)を例にとって示すように、マトリックスであるCo−Cr合金相(Coの含有割合は76at%以上80at%以下)中にSiO2相およびPt−Co合金相(Coの含有割合は0at%より大きく13at%以下)が分散した構造である。図1において、符号10は本実施形態に係るターゲット、符号12はマトリックス合金相(Co−Cr合金相(Coの含有割合は76at%以上80at%以下))、符号14は酸化物相(SiO2相)、符号16は分散合金相(Pt−Co合金相(Coの含有割合は0at%より大きく13at%以下))である。
【0033】
Co−Cr合金相(Coの含有割合は76at%以上80at%以下)は磁性相、Pt−Co合金相(Coの含有割合は0at%より大きく13at%以下)およびSiO2相は非磁性相である。
【0034】
ここで、Co−Cr合金相において、Coの含有割合を76at%以上80at%以下としている理由について説明する。
【0035】
下記の表1は、Co−Cr合金において、Coの含有割合を振って測定した磁性の評価尺度の引張応力(後述するように引張応力の値が大きいほど磁性が強くなる)についての実験結果であり、図2は、下記の表1をグラフにしたもので、Co−Cr合金において、Coの含有割合と磁性との関係を示すグラフ図であり、横軸がCoの含有割合、縦軸が磁性の評価尺度の引張応力である。
【0036】
【表1】
【0037】
表1、図2に示すように、Co−Cr合金において、CoとCrの合計に対するCoの含有割合を80at%以下とすることによりCo−Cr合金の磁性を大きく減少させることができる。ただし、Coの含有割合が76at%を下回ると、ターゲット全体としてのCo量が少なくなってしまい、スパッタリングによって得られる層を磁気記録層として使用することはできなくなる。このため、本実施形態においては、Co−Cr合金相におけるCoの含有割合を76at%以上80at%以下として、スパッタリングによって得られる層を磁気記録層として使用することできる範囲内で、ターゲット全体の磁性を減少させて、良好なマグネトロンスパッタリングができるようにしている。
【0038】
次に、Pt−Co合金相において、Coの含有割合を0at%より大きく13at%以下としている理由について説明する。
【0039】
下記の表2は、Pt−Co合金において、Coの含有割合を振って測定した磁性の評価尺度の引張応力(後述するように引張応力の値が大きいほど磁性が強くなる)についての実験結果であり、図3は、下記の表2をグラフにしたもので、Pt−Co合金において、Coの含有割合と磁性との関係を示すグラフ図であり、横軸がCoの含有割合、縦軸が磁性の評価尺度の引張応力である。
【0040】
【表2】
【0041】
表2、図3に示すように、Pt−Co合金において、PtとCoの合計に対するCoの含有割合を13at%以下とすることにより、Pt−Co合金の磁性をほとんど零のレベルにしたまま、合金中にCoを含有させることができる。ただし、Coの含有割合が零では、ターゲット10全体におけるCoの量を一定に保ったまま、Co−Cr合金相におけるCoの含有割合を減少させることができず、ターゲット全体の磁性を減少させることができない。そこで、本実施形態においては、Pt−Co合金相におけるCoの含有割合を0at%より大きく13at%以下として、ターゲット10全体におけるCoの量を一定に保ったまま、Co−Cr合金相におけるCoの含有割合を減少させ、ターゲット全体の磁性を減少させて、良好なマグネトロンスパッタリングができるようにしている。
【0042】
なお、表1、表2、図2、図3のデータは、本発明者が測定して得たデータであり、具体的には下記のようにして測定した。表1、図2のデータの場合、CoとCrを体積が1cm3になるように配材してアーク溶解し、底面積が0.785cm2である円盤状のサンプルを組成比を変えて作製した。そして、この円盤状のサンプルの底面を、残留磁束密度が500ガウスの磁石(材質フェライト)に付着させた後、底面と垂直な方向に引っ張り、磁石から離れたときの力を測定した。この力を底面積0.785cm2で除して引張応力を求め、これを磁性の評価尺度とし、表1の数値、図2の縦軸とした。表2、図3のデータの場合、PtとCoを体積が1cm3になるように配材した以外は、表1、図2のデータの場合と同様にしてデータの取得を行った。
【0043】
以上説明したように、本実施形態に係るターゲット10では、Coを含む非磁性相であるPt−Co合金相(Coの含有割合は0at%より大きく13at%以下)を設けることにより、ターゲット10全体におけるCoの量を一定に保ったまま、磁性相であるマトリックスのCo−Cr合金相に含まれるCoの量を減少(Coの含有割合を76at%以上80at%以下にまで減少)させることができ、ターゲット10全体の磁性を減少させることができる。これにより、ターゲットに含まれる強磁性金属元素の含有量を減少させずに、マグネトロンスパッタリング時に、ターゲット表面からの漏洩磁束の量を増加させることができ、マグネトロンスパッタリングを良好に行うことができる。
【0044】
なお、本実施形態に係るターゲットのミクロ構造は、磁性相(Co−Cr合金相)が分散媒であり、非磁性相(Pt−Co合金相)および酸化物相(SiO2相)が分散質であり、磁性相(Co−Cr合金相)中に非磁性相(Pt−Co合金相)および酸化物相(SiO2相)が分散した構造となっているが、どの相も分散媒および分散質のどちらかに限定されているわけではなく、どの相も分散媒および分散質のどちらにもなることができる。
【0045】
3.ターゲットの製造方法
本実施形態に係るターゲット10は、以下のようにして製造することができる。
【0046】
(1)所定の組成(Coの含有割合が76at%以上80at%以下)となるようにCo、Crを秤量し、合金溶湯を作製して、ガスアトマイズを行い、所定の組成(Coの含有割合が76at%以上80at%以下)のCo−Cr合金アトマイズ磁性粉末を作製する。また、所定の組成(Coの含有割合が0at%より大きく13at%以下)となるようにCo、Ptを秤量し、合金溶湯を作製して、ガスアトマイズを行い、所定の組成(Coの含有割合が0at%より大きく13at%以下)のCo−Pt合金アトマイズ非磁性粉末を作製する。
【0047】
(2)Co−Cr合金アトマイズ磁性粉末とSiO2粉末とを混合分散して、第1の混合粉末を作製する。SiO2粉末は、微細な1次粒子が凝集して2次粒子を形成している。混合分散の程度は、SiO2の2次粒子径が所定の径(例えば、10μm)以下になるまで行う。
【0048】
(3)第1の混合粉末とCo−Pt合金アトマイズ非磁性粉末とを均一になるまで混合分散して、第2の混合粉末を作製する。なお、混合分散は、各粒子径が小さくならない程度に止める。
【0049】
(4)第2の混合粉末を真空ホットプレスして成形し、ターゲットを作製する。
【0050】
上記製造方法の特徴は、原料粉末を2段階で混合することにある。即ち、1段階目の混合では、SiO2の2次粒子径が所定の径以下になるまで混合を行うのに対して、2段階目の混合では、混合分散を、各粒子径が小さくならない程度に止めている。
【0051】
1段階目の混合でSiO2の2次粒子径が所定の径以下になるまで混合を行うことにより、得られるターゲット中においてSiO2は十分に微細に分散し、スパッタリング時のアーキング等の不具合の発生を抑えることができる。
【0052】
一方、2段階目の混合は、混合分散を、各粒子径が小さくならない程度に止めているので、2段階目の混合でのみ混合されるCo−Pt合金アトマイズ非磁性粉末の粒径は小さくならない。このため、真空ホットプレスを行っても、Co−Cr合金アトマイズ磁性粉末とCo−Pt合金アトマイズ非磁性粉末との間でCoの拡散移動は起こりにくく、Co−Pt合金アトマイズ非磁性粉末中のCo量が変動してしまうことを防止することができる。これにより、得られるターゲット中のCo−Pt合金相中のCo量が13at%を超えることを防止することができ、Co−Pt合金相の磁性を小さく保つことができ、マグネトロンスパッタリング時に、ターゲット表面からの漏洩磁束の量を増加させることができる。
【0053】
なお、1段階目の混合で、Co−Pt合金アトマイズ非磁性粉末とSiO2粉末とを(SiO2の2次粒子径が所定の径(例えば、10μm)以下になるまで)混合分散して、第1の混合粉末を作製し、2段階目の混合で、第1の混合粉末とCo−Cr合金アトマイズ磁性粉末とを均一になるまで混合分散(各粒子径が小さくならない程度に止める)して、第2の混合粉末を作製してもよい。
【0054】
また、本実施形態に係るターゲット10では、酸化物粉末(SiO2粉末)を混合して混合粉末を得ていたが、本発明に係るターゲットで酸化物相を有していないものを製造する場合は、強磁性金属元素を含む磁性金属粉末と強磁性金属元素を含む非磁性金属粉末とを、各粒子径が小さくならない程度に混合分散して混合粉末を得て、得られた混合粉末を真空ホットプレス法等を用いて成形すればよい。
【0055】
4.変形例
以上説明した実施形態では、マトリックスをCo−Cr合金相としたが、Co−Cr合金相に替えて、Ptを含むCo−Cr−Pt合金相をマトリックスとしてもよい。
【0056】
Ptは、Co−Cr−Pt合金中にSiO2を微細に分散させる機能を有するので、Co−Cr合金相に替えて、Ptを含むCo−Cr−Pt合金相とすることにより、マトリックス(Co−Cr−Pt合金)中にSiO2を微細に分散させることが容易となる。
【0057】
なお、マトリックスをCo−Cr−Pt合金相とした本変形例においても、前記実施形態と同様に、ターゲット全体に対する金属(Co、Cr、Pt)の含有割合は90〜94モル%、ターゲット全体に対するSiO2の含有割合は6〜10モル%、金属(Co、Cr、Pt)全体に対するCoの含有割合は60〜70at%、金属(Co、Cr、Pt)全体に対するCrの含有割合は18〜24at%、金属(Co、Cr、Pt)全体に対するPtの含有割合は1〜6at%である。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
実施例1として作製したターゲット全体の組成は、92(65Co−17Cr−18Pt)−8SiO2であり、以下のようにして作製を行うとともに評価を行った。
【0059】
合金組成がCo:78.75at%、Cr:21.25at%となるように各金属を秤量し、1700℃まで加熱してCo−21.25at%Cr合金溶湯とし、噴射温度1700℃でガスアトマイズを行ってCo−21.25at%Cr合金粉末を作製した。また、合金組成がPt:90at%、Co:10at%となるように各金属を秤量し、1850℃まで加熱してPt−10at%Co合金溶湯とし、噴射温度1850℃でガスアトマイズを行ってPt−10at%Co合金粉末を作製した。作製した2種類のアトマイズ合金粉末(Co−21.25at%Cr合金粉末、Pt−10at%Co合金粉末)をそれぞれ150メッシュのふるいで分級して、粒径がφ106μm以下の2種類のアトマイズ合金粉末(Co−21.25at%Cr合金粉末、Pt−10at%Co合金粉末)を得た。
【0060】
得られたCo−21.25at%Cr合金粉末818.31gにSiO2粉末93.00gを添加して混合分散を行い、第1の混合粉末を得た。詳細には、用いたSiO2粉末は、中心径0.6μmの1次粒子が凝集して、粒径がφ100μm程度の2次粒子を形成していたが、この2次粒子の径が10μm以下になるまで、ジルコニアボールを用いたボールミルで混合分散を行い、第1の混合粉末とした。
【0061】
第1の混合粉末848.47gに分級後のPt−10at%Coアトマイズ合金粉末601.53gを添加して混合分散を行い、第2の混合粉末を得た。詳細には、各粉末(Co−21.25at%Cr合金粉末、SiO2粉末、Pt−10at%Co合金粉末)の粒径が小さくならない範囲内で、各粉末が均一に分散するように混合分散を行い、第2の混合粉末とした。
【0062】
作製した第2の混合粉末を、焼結温度:1190℃、圧力:20MPa、時間:60min、雰囲気:5×10-2Pa以下の条件でホットプレスを行い、小型焼結体(φ30mm、厚さ5mm)を得た。得られた焼結体の密度をアルキメデス法により測定したところ、9.023(g/cm3)であった。理論密度は9.17(g/cm3)であるので、相対密度は98.4%であった。
【0063】
図4および図5に、得られた小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真を示す。図4は低倍率の写真で、図5は高倍率の写真である。
【0064】
図4および図5において、白色の球状の部分がPt−10at%Co合金相であり、黒色の部分がSiO2相であり、それら以外の部分がマトリックスのCo−21.25at%Cr合金相である。
【0065】
次に、作製した第2の混合粉末を用いて、小型焼結体を作製したときと同様の条件でホットプレスを行い、実際の製品形状に近い大型焼結体(φ162mm(チャック部を含めるとφ165mm)、厚さ6.35mm(チャック部の厚さは1.68mm))を得た。得られた焼結体の密度を、寸法および重量から計算したところ、9.087(g/cm3)であった。理論密度は9.17(g/cm3)であるので、相対密度は99.1%であった。
【0066】
得られた大型焼結体について、ASTM F2086−01に基づき、漏洩磁束についての評価を行った。磁束を発生させるための磁石には馬蹄形磁石(材質:アルニコ)を用いた。この磁石を漏洩磁束の測定装置に取り付けるとともに、ホールプローブにガウスメータを接続した。ホールプローブは、前記馬蹄形磁石の磁極間の中心の真上に位置するように配置した。
【0067】
まず、測定装置のテーブルにターゲットを置かずに、テーブルの表面における水平方向の磁束密度を測定し、ASTMで定義されるSource Fieldを測定したところ860(G)であった。
【0068】
次に、ホールプローブの先端を、ターゲットの漏洩磁束測定時の位置(テーブル表面からターゲットの厚さ+2mmの高さ位置)に上昇させ、テーブル面にターゲットを置かない状態で、テーブル面に水平な方向の漏洩磁束密度を測定し、ASTMで定義されるReference fieldを測定したところ561(G)であった。
【0069】
次に、ターゲット表面の中心と、ターゲット表面のホールプローブ直下の点の間の距離が43.7mmになるようにターゲットをテーブル面に配置した。そして、中心位置を移動させずにターゲットを反時計回りに5回転させた後、中心位置を移動させずにターゲットを0度、30度、60度、90度、120度回転させ、それぞれの位置で、テーブル面に水平な方向の漏洩磁束密度を測定した。得られた5つの漏洩磁束密度の値をReferennce fieldの値で割って100を掛けて漏洩磁束率(%)とした。5点の漏洩磁束率(%)の平均をとり、その平均値をそのターゲットの平均漏洩磁束率(%)とした。下記の表3に示すように、平均漏洩磁束率は63.0%であった。
【0070】
【表3】
【0071】
(比較例1)
比較例1として作製したターゲット全体の組成は、92(65Co−17Cr−18Pt)−8SiO2であり、実施例1と同じであるが、分散相がPt−Co合金ではなくPt単体となっている。また、マトリックスであるCo−Cr合金相の組成も実施例1とは異なっている。比較例1のターゲットを、以下のようにして作製を行うとともに評価を行った。
【0072】
組成のみを変更した以外は実施例1と同様にアトマイズおよび分級を行って、2種類のアトマイズ粉末(Co−20.73at%Cr合金粉末、Pt粉末)を得た。なお、Co−20.73at%Crアトマイズ合金粉末を得る際の加熱温度および噴射温度は1700℃であり、Ptアトマイズ粉末を得る際の加熱温度および噴射温度は2100℃であった。
【0073】
得られた分級後のCo−20.73at%Cr合金粉末839.29gにSiO2粉末93.00gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、第1の混合粉末を得た。
【0074】
第1の混合粉末868.01gに分級後のPtアトマイズ粉末581.99gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、第2の混合粉末を得た。
【0075】
得られた第2の混合粉末を、実施例1と同様の条件でホットプレスを行い、実施例1と同様の形状の小型焼結体および大型焼結体を作製した。作製した小型焼結体の密度をアルキメデス法により測定したところ、9.005(g/cm3)であった。理論密度は9.17(g/cm3)であるので、相対密度は98.2%であった。また、作製した大型焼結体の密度を、寸法および重量から計算したところ、8.996(g/cm3)であった。理論密度は9.17(g/cm3)であるので、相対密度は98.1%であった。
【0076】
図6および図7に、作製した小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真を示す。図6は低倍率の写真で、図7は高倍率の写真である。
【0077】
図6および図7において、白色の球状の部分がPt相であり、黒色の部分がSiO2相であり、それら以外の部分がマトリックスのCo−20.73at%Cr合金相である。
【0078】
作製した大型焼結体について、実施例1と同様にして、漏洩磁束についての評価を行った。下記の表4に示すように、平均漏洩磁束率は57.0%であった。
【0079】
【表4】
【0080】
(比較例2)
比較例2として作製したターゲット全体の組成は、92(65Co−17Cr−18Pt)−8SiO2であり、実施例1と同じであるが、マトリックスであるCo−Cr合金相の組成、分散相であるPt−Co合金相の組成が実施例1とは異なっており、以下のようにして作製を行うとともに評価を行った。
【0081】
合金組成のみを変更した以外は実施例1と同様にアトマイズおよび分級を行って、2種類のアトマイズ合金粉末(Co−26.56at%Cr合金粉末、Pt−50at%Co合金粉末)を得た。なお、Co−26.56at%Crアトマイズ合金粉末を得る際の加熱温度および噴射温度は1700℃であり、Pt−50at%Co合金粉末を得る際の加熱温度および噴射温度は1650℃であった。
【0082】
得られた分級後のCo−26.56at%Cr合金粉末650.45gにSiO2粉末93.00gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、第1の混合粉末を得た。
【0083】
第1の混合粉末692.19gに分級後のPt−50at%Coアトマイズ合金粉末757.81gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、第2の混合粉末を得た。
【0084】
得られた第2の混合粉末を、焼結温度を1210℃とした以外は実施例1と同様の条件でホットプレスを行い、実施例1と同様の形状の小型焼結体および大型焼結体を作製した。作製した小型焼結体の密度をアルキメデス法により測定したところ、9.161(g/cm3)であった。理論密度は9.17(g/cm3)であるので、相対密度は99.9%であった。また、作製した大型焼結体の密度を、寸法および重量から計算したところ、9.161(g/cm3)であった。理論密度は9.17(g/cm3)であるので、相対密度は99.9%であった。
【0085】
図8および図9に、作製した小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真を示す。図8は低倍率の写真で、図9は高倍率の写真である。
【0086】
図8および図9において、白色の球状の部分がPt−50at%Co合金相であり、黒色の部分がSiO2相であり、それら以外の部分がマトリックスのCo−26.56at%Cr合金相である。
【0087】
作製した大型焼結体について、実施例1と同様にして、漏洩磁束についての評価を行った。下記の表5に示すように、平均漏洩磁束率は50.7%であった。
【0088】
【表5】
【0089】
(実施例2)
実施例2として作製したターゲット全体の組成は、92(65Co−17Cr−18Pt)−8SiO2であり、実施例1と同じであるが、マトリックスである合金相にPtが1.06at%含まれている点が実施例1とは異なっている。実施例2のターゲットを以下のようにして作製を行うとともに評価を行った。
【0090】
合金組成のみを変更した以外は実施例1と同様にアトマイズおよび分級を行って、2種類のアトマイズ合金粉末(Co−21at%Cr−1.06at%Pt合金粉末、Pt−10at%Co合金粉末)を得た。なお、Co−21at%Cr−1.06at%Ptアトマイズ合金粉末を得る際の加熱温度および噴射温度は1700℃であり、Pt−10at%Co合金粉末を得る際の加熱温度および噴射温度は1850℃であった。
【0091】
得られた分級後のCo−21at%Cr−1.06at%Pt合金粉末850.00gにSiO2粉末93.11gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、第1の混合粉末を得た。
【0092】
第1の混合粉末877.10gに分級後のPt−10at%Coアトマイズ合金粉末572.90gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、第2の混合粉末を得た。
【0093】
得られた第2の混合粉末を、焼結温度を1170℃とした以外は実施例1と同様の条件でホットプレスを行い、実施例1と同様の形状の小型焼結体および2つの大型焼結体を作製した。作製した小型焼結体の密度をアルキメデス法により測定したところ、8.994(g/cm3)であった。理論密度は9.17(g/cm3)であるので、相対密度は98.1%であった。また、作製した2つの大型焼結体の密度を、寸法および重量から計算したところ、9.030(g/cm3)と9.045(g/cm3)であった。理論密度は9.17(g/cm3)であるので、相対密度は98.5%と98.6%であった。
【0094】
図10および図11に、作製した小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真を示す。図10は低倍率の写真で、図11は高倍率の写真である。
【0095】
図10および図11において、白色の球状の部分がPt−10at%Co合金相であり、黒色の部分がSiO2相であり、それら以外の部分がマトリックスのCo−21at%Cr−1.06at%Pt合金相である。
【0096】
作製した2つの大型焼結体について、実施例1と同様にして、漏洩磁束についての評価を行った。下記の表6、表7に示すように、平均漏洩磁束率は62.7%と62.7%であり、両者をさらに平均した平均漏洩磁束率は62.7%であった。
【0097】
【表6】
【0098】
【表7】
【0099】
(実施例3)
実施例3として作製したターゲット全体の組成は、92(65Co−17Cr−18Pt)−8SiO2であり、実施例2と同じであるが、マトリックスである合金相にPtが5.3at%含まれている点が実施例2とは異なっている(その結果、マトリックス合金相に含まれるCr量も若干少なくなっており、20at%となっている)。実施例3のターゲットを以下のようにして作製を行うとともに評価を行った。
【0100】
合金組成のみを変更した以外は実施例1と同様にアトマイズおよび分級を行って、2種類のアトマイズ合金粉末(Co−20at%Cr−5.3at%Pt合金粉末、Pt−10at%Co合金粉末)を得た。なお、Co−20at%Cr−5.3at%Ptアトマイズ合金粉末を得る際の加熱温度および噴射温度は1700℃であり、Pt−10at%Co合金粉末を得る際の加熱温度および噴射温度は1850℃であった。
【0101】
得られた分級後のCo−20at%Cr−5.3at%Pt合金粉末1000.00gにSiO2粉末94.91gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、第1の混合粉末を得た。
【0102】
第1の混合粉末998.89gに分級後のPt−10at%Coアトマイズ合金粉末451.11gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、第2の混合粉末を得た。
【0103】
得られた第2の混合粉末を、焼結温度を1150℃、圧力を250kg/cm2とした以外は実施例1と同様の条件でホットプレスを行い、実施例1と同様の形状の小型焼結体および2つの大型焼結体を作製した。作製した小型焼結体の密度をアルキメデス法により測定したところ、8.902(g/cm3)であった。理論密度は9.17(g/cm3)であるので、相対密度は97.1%であった。また、作製した2つの大型焼結体の密度を、寸法および重量から計算したところ、8.944(g/cm3)と8.964(g/cm3)であった。理論密度は9.17(g/cm3)であるので、相対密度は97.5%と97.8%であった。
【0104】
図12および図13に、作製した小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真を示す。図12は低倍率の写真で、図13は高倍率の写真である。
【0105】
図12および図13において、白色の球状の部分がPt−10at%Co合金相であり、黒色の部分がSiO2相であり、それら以外の部分がマトリックスのCo−20at%Cr−5.3at%Pt合金相である。
【0106】
得られた2つの大型焼結体について、実施例1と同様にして、漏洩磁束についての評価を行った。下記の表8、表9に示すように、平均漏洩磁束率は60.8%と60.9%であり、両者をさらに平均した平均漏洩磁束率は60.9%であった。
【0107】
【表8】
【0108】
【表9】
【0109】
(実施例4)
実施例4として作製したターゲット全体の組成は、92(65Co−17Cr−18Pt)−8SiO2であり、実施例2と同じであるが、分散相であるPt−Co合金相に含まれるCo量が5at%であり、実施例2の10at%よりも少なくなっている(その結果、マトリックス合金相に含まれるCo量が若干増えるとともにCr量が若干少なくなっており、マトリックス合金相においてCr量は20.74at%となっている)。実施例4のターゲットを以下のようにして作製を行うとともに評価を行ったが、実施例4のターゲットとしては小型焼結体のみを作製した。
【0110】
合金組成のみを変更した以外は実施例1と同様にアトマイズおよび分級を行って、2種類のアトマイズ合金粉末(Co−20.74at%Cr−1.06at%Pt合金粉末、Pt−5at%Co合金粉末)を得た。なお、Co−20.74at%Cr−1.06at%Ptアトマイズ合金粉末を得る際の加熱温度および噴射温度は1700℃であり、Pt−5at%Co合金粉末を得る際の加熱温度および噴射温度は1850℃であった。
【0111】
得られた分級後のCo−20.74at%Cr−1.06at%Pt合金粉末860.00gにSiO2粉末93.01gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、第1の混合粉末を得た。
【0112】
第1の混合粉末893.42gに分級後のPt−5at%Coアトマイズ合金粉末566.58gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、第2の混合粉末を得た。
【0113】
得られた第2の混合粉末を、焼結温度を1180℃とした以外は実施例1と同様の条件でホットプレスを行い、実施例1と同様の形状の小型焼結体を作製した。作製した小型焼結体の密度をアルキメデス法により測定したところ、8.935(g/cm3)であった。理論密度は9.17(g/cm3)であるので、相対密度は97.4%であった。
【0114】
図14および図15に、作製した小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真を示す。図14は低倍率の写真で、図15は高倍率の写真である。
【0115】
図14および図15において、白色の球状の部分がPt−5at%Co合金相であり、黒色の部分がSiO2相であり、それら以外の部分がマトリックスのCo−20.74at%Cr−1.06at%Pt合金相である。
【0116】
(実施例5)
実施例5は、ターゲット全体の組成および各相の組成については実施例4と同じであるが、実施例4では小型焼結体のみを作製したのに対し、実施例5では大型焼結体のみを作製した。また、実施例5ではホットプレス圧力が250kgf/cm2であり、実施例4の200kgf/cm2よりも大きくなっている。実施例5のターゲットを以下のようにして作製を行うとともに評価を行った。
【0117】
実施例4と同様にしてアトマイズ、分級および混合分散を行って、2種類のアトマイズ合金粉末(Co−20.74at%Cr−1.06at%Pt合金粉末、Pt−5at%Co合金粉末)、第1の混合粉末および第2の混合粉末を得た。なお、Co−20.74at%Cr−1.06at%Ptアトマイズ合金粉末を得る際の加熱温度および噴射温度は1700℃であり、Pt−5at%Co合金粉末を得る際の加熱温度および噴射温度は1850℃であった。
【0118】
得られた第2の混合粉末を、圧力を250kg/cm2とした以外は実施例4と同様の条件でホットプレスを行い、実施例1と同様の形状の2つの大型焼結体を作製した。作製した2つの大型焼結体の密度を、寸法および重量から計算したところ、9.086(g/cm3)と9.075(g/cm3)であった。理論密度は9.17(g/cm3)であるので、相対密度は99.1%と99.0%であった。
【0119】
作製した2つの大型焼結体について、実施例1と同様にして、漏洩磁束についての評価を行った。下記の表10、表11に示すように、平均漏洩磁束率は56.1%と55.9%であり、両者をさらに平均した平均漏洩磁束率は56.0%であった。
【0120】
【表10】
【0121】
【表11】
【0122】
(比較例3)
比較例3として作製したターゲット全体の組成は、92(65Co−17Cr−18Pt)−8SiO2であり、実施例1と同じであるが、マトリックス合金相にPtが含有されている点、分散相であるPt−Co合金相にCoが54.80at%と多量に含まれている点が実施例1とは異なっている。比較例3のターゲットを以下のようにして作製を行うとともに評価を行った。
【0123】
合金組成のみを変更した以外は実施例2と同様にアトマイズおよび分級を行って、2種類のアトマイズ合金粉末(Co−22at%Cr−10at%Pt合金粉末、Pt−54.80at%Co合金粉末)を得た。なお、Co−22at%Cr−10at%Ptアトマイズ合金粉末を得る際の加熱温度および噴射温度は1700℃であり、Pt−54.80at%Co合金粉末を得る際の加熱温度および噴射温度は1650℃であった。
【0124】
得られた分級後のCo−22at%Cr−10at%Pt合金粉末976.97gにSiO2粉末93.00gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、第1の混合粉末を得た。
【0125】
第1の混合粉末996.19gに分級後のPt−54.80at%Coアトマイズ合金粉末453.81gを添加した以外は実施例2と同様にして混合分散を行い、第2の混合粉末を得た。
【0126】
得られた第2の混合粉末を、焼結温度を1210℃とした以外は実施例1と同様の条件でホットプレスを行い、実施例2と同様の形状の小型焼結体および大型焼結体を作製した。作製した小型焼結体の密度をアルキメデス法により測定したところ、8.922(g/cm3)であった。理論密度は9.17(g/cm3)であるので、相対密度は97.3%であった。また、作製した大型焼結体の密度を、寸法および重量から計算したところ、9.097(g/cm3)であった。理論密度は9.17(g/cm3)であるので、相対密度は99.2%であった。
【0127】
図16および図17に、作製した小型焼結体の厚さ方向断面の金属顕微鏡写真を示す。図16は低倍率の写真で、図17は高倍率の写真である。
【0128】
図16および図17において、白色の球状の部分がPt−54.80at%Co合金相であり、黒色の部分がSiO2相であり、それら以外の部分がマトリックスのCo−22at%Cr−10at%Pt合金相である。
【0129】
作製した大型焼結体について、実施例1と同様にして、漏洩磁束についての評価を行った。下記の表12に示すように、平均漏洩磁束率は49.6%であった。
【0130】
【表12】
【0131】
(考察)
平均漏洩磁束率を測定した実施例1〜3、5、比較例1〜3についての測定結果を下記の表13にまとめて示す。
【0132】
【表13】
【0133】
本発明の範囲内の実施例1〜3、5は、分散合金相であるPt−Co合金相において、Coを原子数比で13at%以下含んでいる。このため、ターゲット全体におけるCo量を一定に保ちつつマトリックス合金相に含まれるCo量を減少させることができ、ターゲットの平均漏洩磁束率を低減させることができる。
【0134】
実施例1と比較例1とを比較すると、ターゲット全体の組成は同じ(ターゲット全体におけるCo量は同じ)であり、金属(Co、Cr、Pt)の合計量に対するCoの原子数比は65at%で同じである。しかしながら、実施例1は分散合金相の組成がPt−10at%Coであるのに対し、比較例1は分散合金相の組成がPt100at%(Pt単体)であり、実施例1の分散合金相にはCoが含まれているのに対し、比較例1の分散合金相にはCoが含まれていない。このため、マトリックス合金相におけるCoとCrの比率が、実施例1ではCo:Cr=78.75:21.25であるのに対し、比較例1ではCo:Cr=79.27:20.73となっており、実施例1の方が比較例1よりもマトリックス合金相におけるCoの比率が小さくなっている。このため、実施例1の方が比較例1よりもマトリックス合金相の磁性が小さくなっている。
【0135】
一方、分散合金相の磁性は、実施例1のPt−10at%Co合金であっても、比較例1のPt単体であってもどちらもほとんどゼロであり、差は極めて小さく、ターゲット全体としての磁性はマトリックス合金相の磁性で決まると考えられる。
【0136】
このため、マトリックス合金相におけるCoの比率がより小さい実施例1の方が、ターゲット全体としての磁性も比較例1より小さくなり、この結果、平均漏洩磁束率も、実施例1の方が比較例1よりも大きくなったと考えられる。
【0137】
次に、実施例2、3、5の実験結果について説明する。実施例2、3、5は、ターゲット全体の組成が同じであり、また、いずれにおいても分散合金相(Pt−Co合金相)がCoを13at%以下含んでいる。しかしながら、マトリックス合金相の組成は異なっており、マトリックス合金相におけるCoとCrの比率は、実施例2ではCo:Cr=78.78:21.22であり、実施例3ではCo:Cr=78.88:21.12であり、実施例5ではCo:Cr=79.04:20.96であり、Crに対するCoの比率は、実施例2が一番小さく、実施例3が次に小さく、実施例5が次に小さくなっている。このため、マトリックス合金相の磁性は、実施例2が一番小さく、実施例3が次に小さく、実施例5が次に小さくなっている。
【0138】
一方、実施例2、3、5の分散合金相(Pt−Co合金相)におけるCoの含有量はそれぞれ10at%、10at%、5at%であり、図3に示すように、実施例2、3、5の分散合金相(Pt−Co合金相)の磁性はいずれもほとんどゼロであり、差は極めて小さく、ターゲット全体としての磁性はマトリックス合金相の磁性で決まると考えられる。
【0139】
このため、ターゲット全体としての磁性は、実施例2が一番小さく、実施例3が次に小さく、実施例5が次に小さくなり、この結果、平均漏洩磁束率は、実施例2が一番大きく、実施例3が次に大きく、実施例5が次に大きくなったと考えられる。
【0140】
次に、比較例2、3の実験結果について説明する。比較例2、3は、ターゲット全体の組成は実施例1と同じであるが、マトリックス合金相におけるCrの含有割合が26.56at%、22at%と実施例1〜3、5と比べて大きく、また、分散合金相であるPt−Co合金相におけるCoの含有割合が50at%、54.80at%と実施例1〜3、5と比べて極めて大きくなっている。
【0141】
図3に示すように、Pt−Co合金相におけるCoの含有割合が50at%、54.80at%と大きくなると、Co単体よりも磁性が強くなる。このため、比較例2、3は、マトリックス合金相におけるCrの含有割合が26.56at%、22at%と実施例1〜3、5と比べて大きく、マトリックス合金相の磁性が実施例1〜3、5よりも小さくなっていても、ターゲット全体としての磁性は実施例1〜3、5よりも大きくなり、その結果、平均漏洩磁束率は、実施例1〜3、5よりも小さくなったと考えられる。
【0142】
なお、実施例5と比較例1を比べると、マトリックス合金相におけるCoの含有割合は実施例5の方が比較例1よりも少ないが、平均漏洩磁束率は実施例5の方が比較例1よりも小さくなっている。これは、図3に示すようにPtはCoの磁性を増加させる働きをするところ、実施例5ではマトリックス合金相にPtが1.06at%含まれているため、マトリックス合金相におけるCoの含有割合は実施例5の方が比較例1よりも少ないが、マトリックス合金相の磁性は実施例5の方が比較例1よりも強くなり、平均漏洩磁束率は実施例5の方が比較例1よりも小さくなったと考えられる。したがって、比較例1のマトリックス合金相にPtが実施例5と同程度(1at%程度)含まれていれば、平均漏洩磁束率は実施例5の方が比較例1よりも大きくなったと考えられる。
【符号の説明】
【0143】
10…ターゲット
12…マトリックス合金相(Co−Cr合金相)
14…酸化物相(SiO2相)
16…分散合金相(Pt−Co合金相)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性金属元素を有するマグネトロンスパッタリング用ターゲットであって、
前記強磁性金属元素を含む磁性相と、前記強磁性金属元素を含む非磁性相と、を有しており、
前記磁性相と前記非磁性相とが互いに分散していることを特徴とするマグネトロンスパッタリング用ターゲット。
【請求項2】
請求項1において、
前記強磁性金属元素は、Coであることを特徴とするマグネトロンスパッタリング用ターゲット。
【請求項3】
請求項2において、
前記ターゲットは酸化物相をさらに有しており、該酸化物相と前記磁性相と前記非磁性相とが互いに分散していることを特徴とするマグネトロンスパッタリング用ターゲット。
【請求項4】
請求項3において、
前記酸化物相は、SiO2、TiO2、Ti2O3、Ta2O5、Cr2O3、CoO、Co3O4、B2O5、Fe2O3、CuO、Y2O3、MgO、Al2O3、ZrO2、Nb2O5、MoO3、CeO2、Sm2O3、Gd2O3、WO2、WO3、HfO2、NiO2のうちの少なくとも1種を含むことを特徴とするマグネトロンスパッタリング用ターゲット。
【請求項5】
請求項3または4において、
前記磁性相は、CoおよびCrを主成分として含むことを特徴とするマグネトロンスパッタリング用ターゲット。
【請求項6】
請求項5において、
前記磁性相におけるCoの含有割合は、76at%以上80at%以下であることを特徴とするマグネトロンスパッタリング用ターゲット。
【請求項7】
請求項6において、
前記磁性相は、Ptをさらに含むことを特徴とするマグネトロンスパッタリング用ターゲット。
【請求項8】
請求項2〜7のいずれかにおいて、
前記非磁性相は、Ptを主成分として含むPt−Co合金相であることを特徴とするマグネトロンスパッタリング用ターゲット。
【請求項9】
請求項8において、
前記Pt−Co合金相は、Coを13at%以下含むことを特徴とするマグネトロンスパッタリング用ターゲット。
【請求項10】
請求項1〜9において、
前記ターゲットは、磁気記録層の形成に用いられることを特徴とするマグネトロンスパッタリング用ターゲット。
【請求項11】
強磁性金属元素を含む磁性金属粉末と、微細な1次粒子が凝集して2次粒子を形成している酸化物粉末とを、該酸化物粉末の2次粒子の粒径が所定の粒径以下になるまで混合分散して第1の混合粉末を得る工程と、
前記第1の混合粉末と、強磁性金属元素を含む非磁性金属粉末とを、該非磁性金属粉末が均一となるように混合分散して第2の混合粉末を得る工程と、
を有することを特徴とするマグネトロンスパッタリング用ターゲットの製造方法。
【請求項12】
強磁性金属元素を含む非磁性金属粉末と、微細な1次粒子が凝集して2次粒子を形成している酸化物粉末とを、該酸化物粉末の2次粒子の粒径が所定の粒径以下になるまで混合分散して第1の混合粉末を得る工程と、
前記第1の混合粉末と、強磁性金属元素を含む磁性金属粉末とを、該磁性金属粉末が均一となるように混合分散して第2の混合粉末を得る工程と、
を有することを特徴とするマグネトロンスパッタリング用ターゲットの製造方法。
【請求項1】
強磁性金属元素を有するマグネトロンスパッタリング用ターゲットであって、
前記強磁性金属元素を含む磁性相と、前記強磁性金属元素を含む非磁性相と、を有しており、
前記磁性相と前記非磁性相とが互いに分散していることを特徴とするマグネトロンスパッタリング用ターゲット。
【請求項2】
請求項1において、
前記強磁性金属元素は、Coであることを特徴とするマグネトロンスパッタリング用ターゲット。
【請求項3】
請求項2において、
前記ターゲットは酸化物相をさらに有しており、該酸化物相と前記磁性相と前記非磁性相とが互いに分散していることを特徴とするマグネトロンスパッタリング用ターゲット。
【請求項4】
請求項3において、
前記酸化物相は、SiO2、TiO2、Ti2O3、Ta2O5、Cr2O3、CoO、Co3O4、B2O5、Fe2O3、CuO、Y2O3、MgO、Al2O3、ZrO2、Nb2O5、MoO3、CeO2、Sm2O3、Gd2O3、WO2、WO3、HfO2、NiO2のうちの少なくとも1種を含むことを特徴とするマグネトロンスパッタリング用ターゲット。
【請求項5】
請求項3または4において、
前記磁性相は、CoおよびCrを主成分として含むことを特徴とするマグネトロンスパッタリング用ターゲット。
【請求項6】
請求項5において、
前記磁性相におけるCoの含有割合は、76at%以上80at%以下であることを特徴とするマグネトロンスパッタリング用ターゲット。
【請求項7】
請求項6において、
前記磁性相は、Ptをさらに含むことを特徴とするマグネトロンスパッタリング用ターゲット。
【請求項8】
請求項2〜7のいずれかにおいて、
前記非磁性相は、Ptを主成分として含むPt−Co合金相であることを特徴とするマグネトロンスパッタリング用ターゲット。
【請求項9】
請求項8において、
前記Pt−Co合金相は、Coを13at%以下含むことを特徴とするマグネトロンスパッタリング用ターゲット。
【請求項10】
請求項1〜9において、
前記ターゲットは、磁気記録層の形成に用いられることを特徴とするマグネトロンスパッタリング用ターゲット。
【請求項11】
強磁性金属元素を含む磁性金属粉末と、微細な1次粒子が凝集して2次粒子を形成している酸化物粉末とを、該酸化物粉末の2次粒子の粒径が所定の粒径以下になるまで混合分散して第1の混合粉末を得る工程と、
前記第1の混合粉末と、強磁性金属元素を含む非磁性金属粉末とを、該非磁性金属粉末が均一となるように混合分散して第2の混合粉末を得る工程と、
を有することを特徴とするマグネトロンスパッタリング用ターゲットの製造方法。
【請求項12】
強磁性金属元素を含む非磁性金属粉末と、微細な1次粒子が凝集して2次粒子を形成している酸化物粉末とを、該酸化物粉末の2次粒子の粒径が所定の粒径以下になるまで混合分散して第1の混合粉末を得る工程と、
前記第1の混合粉末と、強磁性金属元素を含む磁性金属粉末とを、該磁性金属粉末が均一となるように混合分散して第2の混合粉末を得る工程と、
を有することを特徴とするマグネトロンスパッタリング用ターゲットの製造方法。
【図2】
【図3】
【図1】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図3】
【図1】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−255088(P2010−255088A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132419(P2009−132419)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【特許番号】特許第4422203号(P4422203)
【特許公報発行日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000217228)TANAKAホールディングス株式会社 (146)
【復代理人】
【識別番号】100144299
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 崇
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【特許番号】特許第4422203号(P4422203)
【特許公報発行日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000217228)TANAKAホールディングス株式会社 (146)
【復代理人】
【識別番号】100144299
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 崇
【Fターム(参考)】
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