説明

マグネトロンスパッタ装置、インライン式成膜装置、磁気記録媒体の製造方法、磁気記録再生装置

【課題】ターゲット表面に生じるエロージョンを高度に均一化し、ターゲットの寿命を高める。
【解決手段】ターゲットの表面上に磁場を発生させる磁気回路11は、磁化方向が軸線と平行となる筒状の第1のマグネット40と、第1のマグネット40の内側に同心円状に配置されて、第1のマグネット40とは磁化方向が反平行となる筒状又は柱状の第2のマグネット41とを有し、且つ、これら第1及び第2のマグネット40,41の軸線とターゲットの軸線とが互いに平行となる状態で、ターゲットの表面と平行な面内で回転自在とされると共に、第1のマグネット40と第2のマグネット41との間で発生する磁場Mの、ターゲットの表面における磁束密度の垂直成分Bzが0[T]となる点を結ぶBz=0ラインが、ターゲットの表面と平行な面内において、複数の変曲点C1,C2を有する曲線L1を描くようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減圧雰囲気下で被処理基板に対して成膜等の処理を行うマグネトロンスパッタ装置、そのようなマグネトロンスパッタ装置を備えたインライン式成膜装置、そのようなインライン式成膜装置を用いた磁気記録媒体の製造方法、並びに、そのような方法により製造された磁気記録媒体を備える磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスク装置、可撓性ディスク装置、磁気テープ装置等の磁気記録装置の適用範囲は著しく増大され、その重要性が増すと共に、これらの装置に用いられる磁気記録媒体について、その記録密度の著しい向上が図られつつある。特に、HDD(ハードディスクドライブ)では、MRヘッドやPRML技術などの導入以来、面記録密度の上昇は更に激しさを増し、さらに、近年ではGMRヘッドやTuMRヘッドなども導入され、1年に約100%ものペースで面記録密度が増加を続けている。
【0003】
一方、HDDの磁気記録方式として、いわゆる垂直磁気記録方式が従来の面内磁気記録方式(磁化方向が基板面に平行な記録方式)に代わる技術として、近年急速に利用が広まっている。この垂直磁気記録方式では、情報を記録する記録層の結晶粒子が基板に対して垂直方向に磁化容易軸を持っている。磁化容易軸とは、磁化の向き易い方向を意味し、一般的に用いられているCo合金の場合、Coのhcp構造の(0001)面の法線に平行な軸(c軸)である。垂直磁気記録方式は、このような磁性結晶粒子の磁化容易軸が垂直方向にあることにより、高記録密度が進んだ際にも、記録ビット間の反磁界の影響が小さく、静磁気的にも安定しているという特徴がある。
【0004】
垂直磁気記録媒体は、非磁性基板上に下地層、中間層(配向制御層)、記録磁性層、保護層の順に成膜されるのが一般的である。また、保護層まで成膜した上で、表面に潤滑膜を塗布形成する場合が多い。また、多くの場合、軟磁性裏打ち層と呼ばれる磁性膜が下地層の下に設けられている。下地層や中間層は、記録磁性層の特性をより高める目的で形成される。具体的には、記録磁性層の結晶配向を整えると同時に、磁性結晶の形状を制御する働きがある。
【0005】
上述した磁気記録媒体は、主にスパッタリング法を用いて形成された複数の薄膜を積層して構成されている。このため、磁気記録媒体は、このような磁気記録媒体を構成する各薄膜を成膜する複数のチャンバ(処理装置)を、ゲートバルブを介して一列に接続したインライン式成膜装置を用いて製造されるのが一般的である。そして、このインライン式成膜装置では、処理対象となる基板が、各チャンバ内に順次搬送され、各チャンバ内で所定の薄膜が成膜される。したがって、インライン式成膜装置では、基板を一巡させることにより、基板上にチャンバの数に応じた数の薄膜を成膜することができる。
【0006】
また、インライン式成膜装置では、上述したスパッタリングのための処理装置として、マグネトロンスパッタ装置が好適に用いられている。具体的に、このマグネトロンスパッタ装置は、反応容器内に配置された基板に対向させてターゲットを配置し、このターゲット表面付近に磁場を発生させるため、ターゲットの背面に磁気回路を配置し、不活性ガス雰囲気中でこれら基板とターゲット間に高周波(RF)等の高電圧を印加し、この高電圧で電離した電子と不活性ガスとを衝突させてプラズマを形成し、プラズマ中の陽イオンによりスパッタリングされたターゲット粒子を基板表面に堆積させて成膜処理を行うものである。また、ターゲットの背面に配置される磁気回路は、一般的にはターゲットの表面に対して垂直な方向に磁化方向を持つマグネットを内側に置き、この磁石とは逆向きの磁化方向をもつマグネットを外側におくことにより構成されている。
【0007】
ところで、マグネトロンスパッタ装置では、ターゲットの表面に生ずるエロージョン(浸食)が、ターゲット表面側に生じる磁場に依存した不均一な形状で進行することがある。すなわち、エロージョンは、磁場のターゲットに対する水平方向成分が存在するターゲット表面上の領域に発生し、磁場の同成分が大きい所ほど深い形状となる。
【0008】
ターゲットの寿命は、エロージョンの進行が強い部分で決定されることとなる。このため、エロージョンを均一化して、ターゲットの利用効率を向上させることが試みられている。例えば、エロージョンを均一化する方法の一つとして、ターゲットの裏面に配置する磁気回路を適切な状態とすることが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−157875号公報
【特許文献2】特開2001−279439号公報
【特許文献3】特開2008−106330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述したエロージョン対策を行っても、いまだターゲットの表面には他の部分よりも早くエロージョンが進行する領域が存在し、これがターゲットの寿命を短くしている。また、ターゲット表面の不均一なエロージョン形状に起因して、漏洩磁場が不均一となり、その結果、放電状態を安定的に維持することが困難となったり、磁性膜の磁気特性の面内分布が悪化したりするなどの不具合が発生する。特に、後者は、益々の高記録密度化が要求され、磁性層が薄膜化している磁気記録媒体においては、解決すべき重要な課題となっている。
【0011】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、ターゲット表面に生じるエロージョンを高度に均一化し、ターゲットの寿命を高めると共に、スパッタリングによりターゲットから叩き出されたターゲット粒子を被処理基板上に堆積して薄膜を形成する際の面内分布の均一性を高めることを可能としたマグネトロンスパッタ装置、そのような処理装置を備えたインライン式成膜装置、そのようなインライン式成膜装置を用いた磁気記録媒体の製造方法、並びに、そのような方法により製造された磁気記録媒体を備える磁気記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明者は鋭意研究を行った結果、磁気回路によって発生する磁場の、ターゲット表面における磁束密度の垂直成分Bzが0[T]となる点を結ぶBz=0ラインが、ターゲット表面と平行な面内において、特定の曲線を描くことで、ターゲット表面に生じるエロージョンを高度に均一化し、ターゲットの寿命を著しく高めることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の手段を提供する。
(1) 被処理基板が配置される反応容器と、
前記反応容器内を減圧排気する減圧排気手段と、
前記被処理基板を処理する処理手段とを備え、
前記処理手段は、前記被処理基板に対向してターゲットを保持するバッキングプレートと、前記バッキングプレートの前記ターゲットとは反対側に位置して前記ターゲットの表面上に磁場を発生させる磁気回路とを有し、
前記磁気回路は、磁化方向が軸線と平行となる筒状の第1のマグネットと、前記第1のマグネットの内側に同心円状に配置されて、前記第1のマグネットとは磁化方向が反平行となる筒状又は柱状の第2のマグネットとを有し、且つ、前記第1及び第2のマグネットの軸線と前記ターゲットの軸線とが互いに平行となる状態で、これら第1及び第2のマグネットが前記ターゲットの表面と平行な面内で回転自在とされると共に、
前記第1のマグネットと前記第2のマグネットとの間で発生する磁場の、前記ターゲットの表面における磁束密度の垂直成分Bzが0[T]となる点を結ぶBz=0ラインが、前記ターゲットの表面と平行な面内において、極座標(r,θ)で表される曲線の相似形を描くと共に、
前記極座標(r,θ)で表される曲線は、横軸をθ(0≦θ≦2π)、縦軸をrとしたグラフにおいて、θ=πにおいて変曲点を有し、且つ、この変曲点を夾んで軸対称となる位置に少なくとも1つ以上の変曲点を有して、これら変曲点を結ぶ直線又は曲線を描くことを特徴とするマグネトロンスパッタ装置。
(2) 前記第1のマグネットには、その内側面から突出された少なくとも1つ以上の突出部が、少なくとも前記バッキングプレートと対向する一端側から軸線方向に亘って設けられていることを特徴とする前項(1)に記載のマグネトロンスパッタ装置。
(3) 前記第2のマグネットの前記突出部と対向する位置には、当該突出部を内側に臨ませる少なくとも1つ以上のスリットが設けられていることを特徴とする前項(2)に記載のマグネトロンスパッタ装置。
(4) 前記第2のマグネットには、その外側面から突出された少なくとも1つ以上の突出部が、少なくとも前記バッキングプレートと対向する一端側から軸線方向に亘って設けられていることを特徴とする前項(1)〜(3)の何れか一項に記載のマグネトロンスパッタ装置。
(5) 前記第1のマグネットの前記突出部と対向する位置には、当該突出部を内側に臨ませる少なくとも1つ以上のスリットが設けられていることを特徴とする前項(4)に記載のマグネトロンスパッタ装置。
(6) 前記第1及び第2のマグネットの互いに対向する位置には、外側に向かって凸となる少なくとも1つ以上の角部が設けられていることを特徴とする前項(1)〜(5)の何れか一項に記載のマグネトロンスパッタ装置。
(7) 前記磁気回路は、前記第1及び第2のマグネットと共に磁路を形成するヨークを有し、このヨークは、前記第1及び第2のマグネットの前記バッキングプレートと対向する面とは反対側の面に突き合わされた状態で取り付けられていることを特徴とする前項(1)〜(6)の何れか一項に記載のマグネトロンスパッタ装置。
(8) 前記第1のマグネットと前記第2のマグネットとが略同一の体積を有することを特徴とする前項(1)〜(7)の何れか一項に記載のマグネトロンスパッタ装置。
(9) 複数のチャンバと、
前記複数のチャンバ内で被処理基板を保持するキャリアと、
前記キャリアを前記複数のチャンバの間で順次搬送させる搬送機構とを備え、
前記複数のチャンバのうち少なくとも1つは、前項(1)〜(8)の何れか一項に記載の処理装置によって構成されていることを特徴とするインライン式成膜装置。
(10) 前項(9)に記載のインライン式成膜装置を用いて、非磁性基板の上に少なくとも磁性層を形成する工程を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
(11) 前項(10)に記載の方法により製造された磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体を記録方向に駆動する媒体駆動部と、
前記磁気記録媒体に対する記録動作と再生動作とを行う磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドを磁気記録媒体に対して相対移動させるヘッド移動手段と、
前記磁気ヘッドへの信号入力と前記磁気ヘッドから出力信号の再生とを行うための記録再生信号処理手段とを備えることを特徴とする磁気記録再生装置。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、ターゲット表面の不均一なエロージョンの発生を防ぎ、ターゲットの利用効率を向上させると共に、被処理基板の表面にスパッタリングにより薄膜を形成する際の面内分布の均一性を高めることが可能である。したがって、このようなマグネトロンスパッタ装置を用いた場合には、磁気特性の面内分布の少ない磁性膜等を均一に成膜することが可能であり、これによって高記録密度化に対応した磁気記録媒体を得ると共に、そのような磁気記録媒体を備えた磁気記録再生装置を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を適用したマグネトロンスパッタ装置の一例を示す一部切欠き断面図である。
【図2】図1に示すマグネトロンスパッタ装置の正面図である。
【図3】図1に示すマグネトロンスパッタ装置が備えるガス流入管の平面図である。
【図4】図1に示すマグネトロンスパッタ装置が備えるキャリア及び搬送機構を搬送方向と直交する方向から見た側面図である。
【図5】図1に示すマグネトロンスパッタ装置が備えるキャリア及び搬送機構を搬送方向側から見た側面図である。
【図6】図6は、処理ユニットの構成を示す断面図である。
【図7】図7は、磁気回路の構成を示す斜視図である。
【図8】図8は、磁気回路によって発生する磁場及びBz=0ラインを模式的に示す平面図である。
【図9】図9は、磁気回路によって発生する磁場及びBz=0ラインを模式的に示す側面図である。
【図10】図10は、Bz=0ラインを極座標上の曲線L1で示す特性図である。
【図11】図11は、極座標(r,θ)で表される曲線L1の横軸をθ(0≦θ≦2π)、縦軸をrに変換して示すグラフである。
【図12】図12は、本発明のBz=0ラインを極座標上の曲線L2,L3で示す特性図である。
【図13】図13は、図12に示す曲線L2,L3の横軸をθ(0≦θ≦2π)、縦軸をrに変換して示すグラフである。
【図14】図14は、本発明のBz=0ラインを極座標上の曲線L4で示す特性図である。
【図15】図15は、図14に示す曲線L4の横軸をθ(0≦θ≦2π)、縦軸をrに変換して示すグラフである。
【図16】図16は、磁気回路の変形例を示す平面図である。
【図17】本発明を適用したインライン式成膜装置の一例を示す構成図である。
【図18】図17に示すインライン式成膜装置において2つの処理基板に対して交互に処理する場合を示す側面図である。
【図19】本発明を適用して製造される磁気記録媒体の一例を示す断面図である。
【図20】本発明を適用して製造されるディスクリート型の磁気記録媒体の一例を示す断面図である。
【図21】磁気記録再生装置の一構成例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
本実施形態では、本発明を適用したマグネトロンスパッタ装置を備えるインライン式成膜装置を用いて、ハードディスク装置(磁気記録再生装置)に搭載される磁気記録媒体を製造する場合を例に挙げて説明する。
【0017】
(マグネトロンスパッタ装置)
先ず、図1に示す本発明を適用したマグネトロンスパッタ装置1の一例について説明する。
本発明を適用したマグネトロンスパッタ装置1は、後述する複数のチャンバの間で成膜対象となる基板(被処理基板)Wを順次搬送させながら成膜処理等を行うインライン式成膜装置において、1つの処理チャンバを構成するものである。
【0018】
具体的に、このマグネトロンスパッタ装置1は、図1に示すように、被処理基板Wが配置される反応容器2を備え、この反応容器2内には、被処理基板Wを保持するホルダ3が取り付けられたキャリア4と、このキャリア4を搬送する搬送機構5とが配置されている。
【0019】
なお、このマグネトロンスパッタ装置1では、2枚の被処理基板Wの両面に対して同時に成膜処理等を行うことが可能である。また、図1において図示されていないものの、キャリア4には2つのホルダ3が搬送方向に直線上に並んで取り付けられている。また、2つのホルダ3は、被処理基板Wを縦置き(被処理基板Wの主面が重力方向と平行となる状態)に保持している。
【0020】
反応容器2は、図1及び図2に示すように、その内部を高真空状態とするため、耐圧性を有する隔壁によって気密に構成された真空容器(チャンバ)であり、互いに対向する正面側隔壁6aと背面側隔壁6bとの間には、扁平状の内部空間7が形成されている。そして、被処理基板Wを保持するキャリア4は、この内部空間7の中央部に、搬送機構5は、このキャリア4の下方に、それぞれ配置されている。
【0021】
また、反応容器2の搬送方向の前後には、隣接する反応容器(チャンバ)との間でキャリア4を通過させる基板搬出入口(図示せず)と、これらの基板搬出入口を開閉する一対のゲートバルブ2Aとが設けられている。すなわち、反応容器2は、隣接するチャンバとはゲートバルブ2Aを介して接続されている。
【0022】
マグネトロンスパッタ装置1は、反応容器2の正面側隔壁6a及び背面側隔壁6bに、それぞれキャリア4に保持された被処理基板Wの両面に対して成膜処理等を行う処理ユニット(処理手段)1Aを備えている。
【0023】
処理ユニット1Aは、上記ホルダ3に保持された2つの被処理基板Wの両面にそれぞれ対向して配置されている。具体的に、反応容器2内には、キャリア4に保持された2つの被処理基板Wの両面にそれぞれ対向するように、計4つのバッキングプレート8が配置されている。そして、これら4つのバッキングプレート8の被処理基板Wと対向する面(表面)には、ターゲットTが取り付けられている。また、各バッキングプレート8は、図示を省略する高周波電源(又はマイクロ波電源)と接続されており、この高周波電源からバッキングプレート8を介してターゲットTに高周波電圧を印加することが可能となっている。
【0024】
処理ユニット1Aは、図1及び図3に示すように、反応容器2内にガスを導入するガス導入管(ガス導入手段)9を備えている。このガス導入管9は、円盤状の被処理基板Wに対応してリング状に形成された環状部9aを有し、この環状部9aに接続された連結部9bを介してガス供給源10と接続されている。また、ガス導入管9の環状部9aは、被処理基板WとターゲットTとの間に形成される反応空間Rの周囲を囲むように配置されている。さらに、この環状部9aの内周部には、複数のガス放出口9cが周方向に並んで設けられており、ガス導入管9は、これら複数のガス放出口9cからその内側にある被処理基板Wに向かって、ガス供給源10から供給されたガスGを放出することが可能となっている。
【0025】
なお、ガス放出口9cの口径については、各ガス放出口9cから放出されるガスGの量を一定とするため、各ガス放出口9cの口径を変化させた構成とすることが好ましい。具体的には、各ガス放出口9cから放出されるガスGの量が一定となるように、連結部9bからの距離に応じて、ガス放出口9cの口径を大きくすることが好ましい。
【0026】
また、ガス導入管9とガス供給源10との間の配管には、図示を省略する調整バルブが設けられている。マグネトロンスパッタ装置1では、この調整バルブの開閉を制御すると共に、この調整バルブを介してガス導入管9に供給されるガスGの流量を調整することが可能となっている。
【0027】
処理ユニット1Aは、各バッキングプレート8のターゲットTとは反対側に位置して、それぞれ磁場を発生させる磁気回路(磁気発生手段)11を備えている。また、各磁気回路11は、駆動モータ12の回転軸12aに取り付けられて、この駆動モータ12によりターゲットTの表面と平行な面内で回転駆動される。
【0028】
反応容器2の正面側隔壁6a及び背面側隔壁6bには、この反応容器2の内側に臨む開口部13が設けられている。この開口部13は、上記ホルダ3に保持された2つの被処理基板Wの両面にそれぞれ対向する位置に、上述したターゲットTが取り付けられたバッキングプレート8、ガス導入管9、並びに磁気回路11が取り付けられた駆動モータ12を含む処理ユニット1Aを配置するのに十分な大きさで長円状(レーストラック状)に形成されている。
【0029】
また、正面側隔壁6a及び背面側隔壁6bには、この開口部13の周囲を気密に封止する筒状のハウジング14が取り付けられており、上記処理ユニット1Aは、このハウジング14の内側に保持されると共に、被処理基板WとターゲットTとの対向間隔を調整するため、ハウジング14内で移動可能に支持されている。これにより、成膜条件の最適化のため、被処理基板WとターゲットTとの対向間隔を容易に調整することが可能となっている。なお、正面側隔壁6a及び背面側隔壁6bは、メンテナンス等の際に反応容器2を開放するため、反応容器2に対して開閉自在に取り付けられている。
【0030】
マグネトロンスパッタ装置1は、図1に示すように、反応容器2内を減圧排気する減圧排気手段として、反応容器2の上方に配置された第1の真空ポンプ15と、反応容器2の下方に配置された第2の真空ポンプ16とを備えている。
【0031】
第1の真空ポンプ15は、反応容器2の上方に配置された上部ポンプ室17Aを介して取り付けられたターボ分子ポンプである。このターボ分子ポンプは、潤滑油を使用しない構成のため、清浄度(クリーン度)が高く、また、排気速度が大きいため、高い真空度が得られる。さらに、反応性の高いガスを排気するのに適している。
【0032】
上部ポンプ室17Aは、耐圧性を有する隔壁によって気密に構成されており、反応容器2の上部に取り付けられて、この反応容器2の内部空間7と連続した内部空間7Aを形成している。そして、第1の真空ポンプ15は、この上部ポンプ室17Aの両側面にそれぞれ対向した状態で取り付けられている。
【0033】
一方、第2の真空ポンプ16は、反応容器2の下方に配置された下部ポンプ室17Bを介して取り付けられたクライオポンプである。クライオポンプは、極低温を作り出し、内部の気体を凝縮又は低温吸着することで高い真空度が得られ、特に、排気速度やクリーン度の点においてターボ分子ポンプよりも優れている。
【0034】
下部ポンプ室17Bは、耐圧性を有する隔壁によって気密に構成されており、反応容器2の内部空間7とは反応容器2の底壁6cに形成された孔部6dを介して連通されている。そして、第2の真空ポンプ16は、この下部ポンプ室17Bの側面に接続されている。
【0035】
マグネトロンスパッタ装置1では、これら第1の真空ポンプ15及び第2の真空ポンプ16の駆動を制御しながら、反応容器2内を減圧したり、反応容器2内に導入されたガスを排気したりすることが可能となっている。
【0036】
なお、本実施形態では、反応容器2の両側面に2つの第1の真空ポンプ15と、反応容器2の下方に1つの第2の真空ポンプ16とが配置された構成となっているが、これら真空ポンプ15,16の配置や数については適宜変更して実施することが可能である。例えば、反応容器2内を減圧排気するのに要する時間は、真空ポンプ15,16の数が多くなるほど短縮されるものの、第1及び第2の真空ポンプ15,16の数が余り多くなると、マグネトロンスパッタ装置1の大型化や消費電力の増大を招くため、このような観点から第1及び第2の真空ポンプ15,16の数を決定することが望ましい。
【0037】
また、上記第2の真空ポンプ16に使用されるクライオポンプは、外部に排出する構造のターボ分子ポンプとは異なり、内部に溜め込む構造のため、一定期間ごとにメンテナンスする必要がある。また、反応容器2内に導入されるガスが反応性の高いガスである場合には、上述したターボ分子ポンプからなる第1の真空ポンプ15を用いて、反応容器2の外部へと排気することが望ましい。これにより、反応後のガスが反応空間7の下方に流れて、上記搬送機構5を構成するベアリング28,30等の金属部品が腐食してしまうことを防ぎつつ、反応容器2内をクリーンな状態に保つことが可能である。なお、上記第2の真空ポンプ16には、クライオポンプの代わりに、ターボ分子ポンプを用いることも可能である。
【0038】
キャリア4は、図1及び図4に示すように、板状を為す支持台18の上部に2つのホルダ3が支持台18と平行に取り付けられた構造を有している。ホルダ3は、被処理基板Wの厚さの1〜数倍程度の厚さを有する板材3aに、被処理基板Wの外径よりも僅かに大径となされた円形状の孔部3bが形成されて、この孔部3bの内側に被処理基板Wを保持する構成となっている。
【0039】
具体的に、ホルダ3の孔部3bの周囲には、被処理基板Wを支持する複数の支持アーム19が弾性変形可能に取り付けられている。これら複数の支持アーム19は、孔部3bの内側に配置された被処理基板Wの外周部を、その外周上の最下位に位置する下部側支点と、この下部側支点を通る重力方向に沿った中心線に対して対称となる外周上の上部側に位置する一対の上部側支点との3点で支持するように、板材3aの孔部3bの周囲に所定の間隔で3つ並んで設けられている。
【0040】
各支持部材19は、L字状に折り曲げられた板バネからなり、その基端側がホルダ3に固定支持されると共に、その先端側が孔部3bの内側に向かって突出された状態で、それぞれホルダ3の孔部3bの周囲に形成されたスリット3c内に配置されている。また、各支持部材19の先端部には、図示を省略するものの、それぞれ被処理基板Wの外周部が係合される溝部が設けられている。
【0041】
そして、ホルダ3は、これら3つの支持アーム19に被処理基板Wの外周部を当接させながら、各支持アーム19の内側に嵌め込まれた被処理基板Wを着脱自在に保持することが可能となっている。なお、ホルダ3に対する被処理基板Wの着脱は、下部側支点の支持アーム19を下方に押し下げることにより行うことができる。
【0042】
搬送機構5は、図1、図4及び図5に示すように、キャリア4を非接触状態で駆動する駆動機構20と、搬送されるキャリア4をガイドするガイド機構21とを有している。
駆動機構20は、キャリア4の下部にN極とS極とが交互に並ぶように配置された複数の磁石22と、その下方にキャリア4の搬送方向に沿って配置された回転磁石23とを備え、この回転磁石23の外周面には、N極とS極とが二重螺旋状に交互に並んで形成されている。
【0043】
駆動機構20には、回転磁石22の周囲を囲む真空隔壁24が設けられており、この真空隔壁24によって反応容器2の内部空間7とは隔離された空間(大気側)に回転磁石22を配置している。また、真空隔壁24は、複数の磁石22と回転磁石23とが磁気的に結合されるように透磁率の高い材料で形成されている。
【0044】
回転磁石22は、回転モータ25により回転駆動される回転軸26と互いに噛合されるギア機構27を介して連結されている。これにより、回転モータ25からの駆動力を回転軸26及びギア機構27を介して回転磁石23に伝達しながら、この回転磁石23を軸回りに回転することが可能となっている。
【0045】
そして、この駆動機構20は、複数の磁石22と回転磁石23とを非接触で磁気的に結合させながら、回転磁石23を軸回りに回転させることにより、キャリア4を回転磁石23の軸方向に沿って直線駆動する。
【0046】
ガイド機構21は、水平軸回りに回転自在に支持された複数の主ベアリング28を有し、これら複数の主ベアリング28は、キャリア4の搬送方向に直線上に並んで設けられている。一方、キャリア4は、支持台18の下部側に複数の主ベアリング28が係合される溝部が形成されたガイドレール29を有している。
【0047】
また、ガイド機構21は、垂直軸回りに回転自在に支持された一対の副ベアリング30を有し、これら一対の副ベアリング30は、その間にキャリア4を挟み込むように対向して配置されている。さらに、これら一対の副ベアリング30は、複数の主ベアリング28と同様に、キャリア4の搬送方向に直線上に複数並んで設けられている。
【0048】
そして、このガイド機構21は、ガイドレール29の溝部に複数の主ベアリング28を係合させた状態で、これら複数の主ベアリング28の上を移動するキャリア4を案内すると共に、一対の副ベアリング30の間でキャリア4を挟み込むことによって、移動中にキャリア4が傾くことを防止している。
【0049】
なお、主ベアリング28及び副ベアリング30は、機械部品の摩擦を減らし、スムーズな機械の回転運動を確保するため、転がり軸受によって構成されている。そして、この転がり軸受は、図示を省略するものの、反応容器2内に設けられたフレームに固定された支軸に回転自在に取り付けられている。
【0050】
以上のような構造を有するマグネトロンスパッタ装置1では、磁気回路11がターゲットTの表面に磁場を発生させながら、バッキングプレート8を介してターゲットTに高周波電圧を印加し、ガス導入管9から導入されたガスをイオン化して、ターゲットTの周囲(反応空間R)にプラズマを発生させながら、このプラズマ中のイオンをターゲットTの表面に衝突させることにより、ターゲットTから叩き出されたターゲット粒子を被処理基板W上に堆積して薄膜を形成することが可能である。
【0051】
なお、このマグネトロンスパッタ装置1では、上記ターゲットTが取り付けられたバッキングプレート8を配置する代わりに、カソード電極を配置した場合、被処理基板Wにバイアス電圧を印加し、ガス導入管9から導入されたガスをイオン化して、被処理基板Wの周囲(反応空間R)にプラズマを発生させながら、このプラズマに被処理基板Wの表面を曝すことにより、曝露領域の改質を行うことも可能である。
【0052】
ところで、本発明を適用したマグネトロンスパッタ装置1では、上記磁気回路11によって発生する磁場の、ターゲットTの表面における磁束密度の垂直成分Bzが0[T]となる点を結ぶBz=0ラインが、ターゲットTの表面と平行な面内において、特定の曲線を描くことで、ターゲットTの表面に生じるエロージョンを高度に均一化し、ターゲットTの寿命を著しく高めることが可能となっている。
【0053】
(磁気回路)
具体的に、本発明を適用したマグネトロンスパッタ装置1の特徴部分である磁気回路11の構成について説明する。
この磁気回路11は、図6及び図7に示すように、磁化方向が軸線と平行となる筒状の第1のマグネット(外側磁石)40と、第1のマグネット40の内側に同心円状に配置されて、この第1のマグネット40とは磁化方向が反平行となる筒状の第2のマグネット(内側磁石)41とを有している。これら第1及び第2のマグネット40,41の互いに対向する位置には、外側に向かって凸となる角部40a,41bが、周方向に等間隔に3つ並んで設けられている。そして、これら第1及び第2のマグネット40,41の角部40a,40bの間は、外側に向かって湾曲した側面を形成している。
【0054】
また、第1のマグネット40の角部40aの間には、その内側面から突出された突出部42が、周方向に等間隔に3つ並んで設けられている。これら突出部42は、少なくともバッキングプレート8と対向する一端側から軸線方向に亘って設けられている。また、これら突出部42は、第1のマグネット40の内側面からその中心に向かって一定の幅及び高さで突出形成されている。
【0055】
これに対応して、第2のマグネット41の突出部42と対向する位置には、それぞれ突出部42を内側に臨ませるスリット43が、周方向に等間隔に3つ並んで設けられている。これらスリット43は、突出部42よりも大きい幅を有して、突出部42と平行に、少なくともバッキングプレート8と対向する一端側から軸線方向に亘って切り欠き形成されている。
【0056】
なお、本実施形態では、各突出部42が第1のマグネット40の一端と他端との間に亘って直線状に突出形成されている。また、各突出部42の先端は、第1のマグネット40の中心よりも手前に位置している。これに対応して、各スリット43は、第2のマグネット41の一部を分断するように、この第2のマグネット41の一端と他端との間に亘って直線状に切り欠き形成されている。これにより、第1のマグネット40の内側面から突出された各突出部42は、各スリット43の間から第2のマグネット41の内側に臨んで配置されると共に、その先端は第2のマグネット41の中心よりも手前に位置している。
【0057】
磁気回路11は、第1及び第2のマグネット40,41と共に磁路を形成するヨーク44を有している。このヨーク44は、板状の軟磁性体からなり、第1及び第2のマグネット40,41の他端側の開口部を閉塞するように、これら第1及び第2のマグネット40,41のバッキングプレート8と対向する面(表面)とは反対側の面(裏面)に突き合わされた状態で取り付けられている。また、ヨーク44は、磁気回路11の回転中心を中心として、第1のマグネット40よりも外側に張り出した円形状とすることで、磁気回路11の回転をより安定したものとすることができる。
【0058】
これにより、上記磁気回路11が構成されると共に、第1及び第2のマグネット40,41の一端側からは、図8及び図9に示すように、これら第1のマグネット40と第2のマグネット41との間で弧状の漏洩磁界(磁場)Mが全周に亘って発生することになる。
【0059】
また、磁気回路11は、第1及び第2のマグネット40,41の軸線とターゲットTの軸線とが互いに平行となる状態で、上記駆動モータ12の回転軸12aに取り付けられることによって、ターゲットTの表面と平行な面内で回転自在となっている。なお、上記処理ユニット1Aは、ターゲットTの表面付近に水平成分の磁場Mを発生させるため、ターゲットTと磁気回路11との対向間隔を調整することが可能となっている。
【0060】
また、第1のマグネット40と第2のマグネット41とは、略同一の体積を有することが好ましい。これら第1のマグネット40と第2のマグネット41との体積を等しくすることで、上述した第1のマグネット40と第2のマグネット41との間で発生する漏洩磁界以外の漏洩磁界を低減し、ターゲットTの表面に生ずるエロージョンを均一化すると共に、エロージョンの形状を高いレベルで制御することが可能である。
【0061】
以上のような構造を有する磁気回路11では、第1のマグネット40と第2のマグネット41との間で発生する磁場Mの、ターゲットTの表面における磁束密度の垂直成分Bzが0[T]となる点を結ぶ軌跡(以下、Bz=0ラインという。)が、ターゲットTの表面と平行な面内において、例えば図8に示すような複数の変曲点C1,C2を有する曲線L1を描くことになる。
【0062】
本発明を適用したマグネトロンスパッタ装置1では、上記磁気回路11によって発生する磁場MのBz=0ラインが、このような形状の曲線Lを描くことで、ターゲットTの表面の不均一なエロージョンの発生を防ぎ、ターゲットTの利用効率を向上させると共に、被処理基板Wの表面にスパッタリングにより薄膜を形成する際の面内分布の均一性を高めることが可能である。
【0063】
(Bz=0ライン)
ここで、本発明のBz=0ラインについて説明する。
本発明のBz=0ラインは、ターゲットTの表面と平行な面内において、極座標(r,θ)で表される曲線の相似形を描くと共に、この極座標(r,θ)で表される曲線が、横軸をθ(0≦θ≦2π)、縦軸をrとしたグラフにおいて、θ=πにおいて変曲点を有し、且つ、この変曲点を夾んで軸対称となる位置に少なくとも1つ以上の変曲点を有して、これら変曲点を結ぶ直線又は曲線を描くことを特徴とする。
【0064】
なお、極座標(r,θ)において、「r」は、XY座標平面上の原点(0,0)から伸びる半直線(動径という。)の距離を表し、「θ」は、Y軸の正の部分を始線として、この始線と動径とのなす角(偏角という。)の反時計回りに測った角度を表す。
【0065】
具体的に、本発明のBz=0ラインは、ターゲットTの表面と平行な面内において、極座標(r,θ)で原点(0,0)を磁気回路11の回転中心としたときに、図10に示すような極座標(r,θ)上の曲線L1として表すことができる。
【0066】
なお、図10に示す極座標(θ,r)では、θ=0となる方向を座標平面上の0時の方向とし、この0時の方向から反時計回りにθが0〜2π[rad]となる範囲でr[mm]を取るものとする。また、この極座標(r,θ)で表される曲線L1について、横軸をθ(0≦θ≦2π)、縦軸をrに変換したグラフを図11に示す。
【0067】
本発明のBz=0ラインを表す曲線L1は、図10に示すように、θ=0(2π),2/3π,4/3πとなるとき、それぞれrが反時計回りに減少から増加に転じる変曲点(尖点)C1と、θ=1/3π,π,5/3πとなるとき、rが反時計回りに増加から減少に転じる変曲点(尖点)C2とを有し、且つ、互いに隣接する変曲点C1,C2の間を外側に凸となる曲線(弧線)で結んだ形状を有している。また、各変曲点C1,C2は、磁気回路11の回転中心(原点)を通らず、曲線L1は、この磁気回路11の回転中心(原点)を通る縦軸に対して線対称な形状を有している。さらに、この曲線L1は、磁気回路11の回転中心(原点)に対して点対称な形状を有している。
【0068】
そして、本発明のBz=0ラインを表す曲線L1は、図11に示すグラフにおいては、θ=πにおいて変曲点C2を有し、且つ、この変曲点C2を夾んで軸対称となる位置に2つの変曲点C1と1つの変曲点C2を有して、これら変曲点C1,C2を結ぶ直線(折れ線)で表すことができる。
【0069】
本発明では、Bz=0ラインがこのような曲線L1を描くことで、ターゲットTのエロージョンを均一なものとすることができる。また、本発明では、Bz=0ラインが磁気回路11の回転中心を通らないため、ターゲットTの中心におけるエロージョンが過度に進行せず、その結果、ターゲットTの寿命を高めることができる。特に、磁気記録媒体を製造する場合は、中央に開口部のある円盤状の被処理基板Wを使用するため、ターゲットの中央付近のエロージョンを低減することで、ターゲットの寿命を著しく高めることが可能である。
【0070】
なお、上記変曲点C1,C2が原点(0,0)を通る場合は、Bz=0ラインが磁気回路11の回転中心を常に通過することになり、ターゲットTの中心におけるエロージョンが過度に進行するため、好ましくない。
【0071】
以上のように、本発明を適用したマグネトロンスパッタ装置1では、ターゲットTの表面における不均一なエロージョンの発生を防ぎ、ターゲットTの利用効率を向上させると共に、被処理基板Wの表面にスパッタリングにより薄膜を形成する際の面内分布の均一性を高めることが可能である。したがって、このようなマグネトロンスパッタ装置1を用いた場合には、磁気特性の面内分布の少ない磁性膜等を成膜することが可能であり、これによって高記録密度化に対応した磁気記録媒体を得ると共に、そのような磁気記録媒体を備えた磁気記録再生装置を提供することが可能である。
【0072】
なお、本発明は、上記実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0073】
具体的に、本発明では、Bz=0ラインが描く曲線L1の形状を変更することで、ターゲットTの中心におけるエロージョン範囲を制御することができる。例えば、本発明では、図12及び図13に示すように、Bz=0ラインを上記曲線L1に補正を加えた曲線L2,L3として表すことができる。
【0074】
すなわち、図13に示すグラフにおいて、曲線L2は各変曲点C1,C2の間で上に凸の弧線を描くため、図12に示す曲線L2の形状は、曲線L1よりも外側で湾曲した形状となる。一方、図13に示すグラフにおいて、曲線L3は各変曲点C1,C2の間で下に凸の弧線を描くため、図12に示す曲線L3の形状は、曲線L1よりも内側で湾曲した形状となる。
【0075】
このように、本発明では、Bz=0ラインが描く曲線の形状を調整することで、スパッタリング時に被処理基板W上に堆積する膜の分布をリニアに変化させることが可能である。したがって、本発明では、装置ファクター等の影響により被処理基板Wの面内の膜厚分布に差が生じた場合でも、上述したBz=0ラインが描く曲線の形状を補正することで、この面内分布の均一性を改善することが可能である。
【0076】
また、本発明のBz=0ラインが描く曲線の形状については、上記曲線L1〜L3の形状に限らず、上記本発明の条件を満たす範囲で適宜変更して実施することが可能である。例えば、本発明のBz=0ラインは、ターゲットTの表面と平行な面内において、極座標(r,θ)で原点(0,0)を磁気回路11の回転中心としたときに、図14に示すような極座標(r,θ)上の曲線L4として表すことも可能である。
【0077】
この本発明のBz=0ラインを表す曲線L4は、図14に示すように、θ=1/2π,3/2πとなるとき、それぞれrが反時計回りに減少から増加に転じる変曲点(尖点)C1と、θ=0(2π),πとなるとき、rが反時計回りに増加から減少に転じる変曲点(尖点)C2とを有し、且つ、互いに隣接する変曲点C1,C2の間を外側に凸となる曲線(弧線)で結んだ形状を有している。また、各変曲点C1,C2は、磁気回路11の回転中心(原点)を通らず、曲線L4は、この磁気回路11の回転中心(原点)を通る縦軸に対して線対称な形状を有している。
【0078】
そして、本発明のBz=0ラインを表す曲線L4は、図15に示すグラフにおいては、θ=πにおいて変曲点C1を有し、且つ、この変曲点C1を夾んで軸対称となる位置に1つの変曲点C2と1つの変曲点C1を有して、これら変曲点C2,C1を結ぶ直線(折れ線)で表すことができる。
【0079】
本発明では、Bz=0ラインがこのような曲線L4を描くことで、ターゲットTの表面における不均一なエロージョンの発生を防ぎ、ターゲットTの利用効率を向上させると共に、被処理基板Wの表面にスパッタリングにより薄膜を形成する際の面内分布の均一性を高めることが可能である。
【0080】
また、本発明では、上記図7〜図9に示す磁気回路11の構成に必ずしも限定されるものではなく、上記本発明のBz=0ラインを描くため、磁気回路11を構成する第1及び第2のマグネット40,41、並びに突出部42及びスリット43の形状等については、適宜変更して実施することが可能である。
【0081】
例えば、図16(a)に示す磁気回路11Aのように、上記筒状の第2のマグネット41の代わりに、スリット43Aが設けられた柱状の第2のマグネット41Aを上記第1のマグネット40の内側に同心円状に配置した構成とすることも可能である。
【0082】
また、図16(b),(c)に示す磁気回路11B,11Cのように、上記スリット43が設けられた第2のマグネット41の代わりに、上記スリット43を省略した筒状又は柱状の第2のマグネット41B,41Cを上記第1のマグネット40の内側に配置した構成とすることも可能である。
【0083】
また、図16(d),(e)に示す磁気回路11D,11Eのように、上記突出部42が設けられた第1のマグネット40と、上記スリット43が設けられた第2のマグネット41の代わりに、上記突出部42を省略した第1のマグネット41Dの内側に、外側面から突出部42が突出された第2のマグネット41Dを配置した構成や、スリット43が設けられた第1のマグネット41Eの内側に、外側面から突出部42が突出された第2のマグネット41Eを配置した構成とすることも可能である。
【0084】
(インライン式成膜装置)
次に、図17に示す上記マグネトロンスパッタ装置1を備えたインライン式成膜装置50の構成について説明する。
このインライン式成膜装置50は、図17に示すように、基板移送用ロボット室51と、基板移送用ロボット室51上に設置された基板移送用ロボット52と、基板移送用ロボット室51に隣接する基板取付用ロボット室53と、基板取付用ロボット室53内に配置された基板取付用ロボット54と、基板取付用ロボット室53に隣接する基板交換室55と、基板交換室55に隣接する基板取外用ロボット室56と、基板取外用ロボット室56内に配置された基板取外用ロボット57と、基板交換室55の入側と出側との間に並んで配置された複数の処理チャンバ58〜70及び予備チャンバ71と、複数のコーナー室72〜75と、基板交換室55の入側から出側に至る各チャンバ58〜71及びコーナー室72〜75の間で順次搬送される複数の上記キャリア4とを備えて概略構成されている。
【0085】
また、基板交換室55の入側から出側に至る各室の間には、開閉自在なゲートバルブ76〜93が設けられている。各チャンバ58〜71は、これらゲートバルブ76〜93を閉状態とすることで、それぞれ独立した密閉空間を形成することが可能となっている。
【0086】
基板移送用ロボット52は、成膜前の非処理基板Wが収納されたカセット(図示せず。)から、基板取付用ロボット室54に被処理基板Wを供給すると共に、基板取外用ロボット室56から成膜後の被処理基板Wを回収するためのものである。また、基板移送用ロボット室51と基板取付用及び基板取外用ロボット室53,56の間には、それぞれ開閉自在なゲート部94,95が設けられている。さらに、基板交換室55と基板取付用及び基板取外用ロボット室53,56との間にも、それぞれ開閉自在なゲート部96,97が設けられている。
【0087】
基板取付用ロボット54は、基板交換室55内にあるキャリア4に成膜前の被処理基板Wを取り付ける一方、基板取外用ロボット57は、基板交換室55内にあるキャリア4から成膜後の被処理基板Wを取り外す。
【0088】
複数の処理チャンバ58〜70及び予備チャンバ71は、基本的に上記マグネトロンスパッタ装置1の反応容器2と同様の構成を有しており、各処理チャンバ58〜70の両側面には、上記キャリア4に保持された被処理基板Wに対する処理内容に応じた処理ユニット1Aが配置されている。また、各チャンバ58〜71には、図示を省略するものの、上述した真空ポンプが接続されており、これら真空ポンプの動作によって各チャンバ58〜71を個別に減圧排気することが可能となっている。また、各コーナー室72〜75には、キャリア4の移動方向を変更するための回転機構(図示せず。)が設けられている。
【0089】
そして、このインライン式成膜装置50では、基板交換室55の入側から出側に至る各チャンバ58〜71及びコーナー室72〜75の間で複数のキャリア4を順次搬送させながら、各キャリア4に保持された被処理基板W(図17において図示せず。)に対して成膜処理等を行うことが可能となっている。
【0090】
なお、本実施形態では、上記キャリア4のホルダ3に保持された2つの被処理基板Wを同時に処理することが可能であるが、一方のホルダ3に保持された被処理基板Wのみに処理を行う構成である場合には、例えば図18中の実線で示すように、キャリア4の一方のホルダ3Aに保持された被処理基板W1に対して処理を行った後、図18中の破線で示すように、反応容器2内でキャリア4の位置をずらし、キャリア4の他方のホルダ3B(図17中に破線で示す。)に保持された被処理基板W2に対して処理を行う。これにより、キャリア4のホルダ3に保持された2つの被処理基板W1,W2に対して交互に処理を行うことが可能である。
【0091】
(磁気記録媒体の製造方法)
次に、本発明を適用した磁気記録媒体の製造方法について説明する。
本発明を適用した磁気記録媒体の製造方法は、上記インライン式成膜装置50を用いて、キャリア4に保持された被処理基板Wとなる非磁性基板を複数の処理チャンバ58〜70の間で順次搬送させながら、この非磁性基板の両面に、軟磁性層、中間層、記録磁性層により構成される磁性層と、保護層とを順次積層する。さらに、上記インライン式成膜装置50を用いた後は、図示を省略する塗布装置を用いて、成膜後の被処理基板Wの最表面に潤滑膜を成膜することによって、磁気記録媒体を製造する。
【0092】
本発明を適用した磁気記録媒体の製造方法では、上記インライン式成膜装置50を用いることによって、磁気記録媒体の生産能力を高めると共に、高品質の磁気記録媒体を製造することが可能である。
【0093】
(磁気記録媒体)
具体的に、上記インライン式成膜装置50を用いて製造される磁気記録媒体は、例えば図19に示すように、上記被処理基板Wとなる非磁性基板100の両面に、軟磁性層101、中間層102、記録磁性層103及び保護層104が順次積層された構造を有し、更に最表面に潤滑膜105が形成された構造を有している。また、軟磁性層81、中間層82及び記録磁性層83によって磁性層106が構成されている。
【0094】
非磁性基板100としては、例えば、Al−Mg合金などのAlを主成分としたAl合金基板、ソーダガラスやアルミノシリケート系ガラス、結晶化ガラスなどのガラス基板、シリコン基板、チタン基板、セラミックス基板、樹脂基板等の各種基板を挙げることができるが、その中でも、Al合金基板や、ガラス基板、シリコン基板を用いることが好ましい。また、非磁性基板100の平均表面粗さ(Ra)は、1nm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5nm以下であり、さらに好ましくは0.1nm以下である。
【0095】
磁性層106としては、面内磁気記録媒体用の水平磁性層と、垂直磁気記録媒体用の垂直磁性層とに大別することができるが、より高い記録密度を実現するためには垂直磁性層を用いることが好ましい。また、磁性層106には、Coを主成分とするCo合金を用いることが好ましい。具体的に、垂直磁性層の場合には、例えば、軟磁性のFeCo合金(FeCoB、FeCoSiB、FeCoZr、FeCoZrB、FeCoZrBCuなど)、FeTa合金(FeTaN、FeTaCなど)、Co合金(CoTaZr、CoZrNB、CoBなど)等からなる軟磁性層101と、Ru等からなる中間層102と、60Co−15Cr−15Pt合金や70Co−5Cr−15Pt−10SiO合金からなる記録磁性層103とを積層したものなどを用いることができる。また、軟磁性層81と中間層82との間に、Pt、Pd、NiCr、NiFeCrなどからなる配向制御膜を介在させてもよい。一方、水平磁性層の場合には、例えば、非磁性のCrMo下地層と強磁性のCoCrPtTa磁性層とを積層したものなどを用いることができる。
【0096】
また、磁性層106は、使用する磁性合金の種類と積層構造に合わせて、十分な磁気ヘッドの出入力特性が得られるような厚みで形成する必要がある。一方、磁性層106は、再生時に一定以上の出力を得るため、ある程度の厚みが必要となるものの、記録再生特性を表す諸パラメータは出力の上昇と共に劣化するのが通例であるため、これらを考慮して最適な厚みを設定する必要がある。具体的に、磁性層106の全体の厚みは、3nm以上20nm以下とすることが好ましく、より好ましくは5nm以上15nm以下である。
【0097】
保護層104には、磁気記録媒体において通常使用される材料を用いればよく、そのような材料として、例えば、炭素(C)、水素化炭素(HXC)、窒素化炭素(CN)、アルモファスカーボン、炭化珪素(SiC)等の炭素質材料や、SiO、Zr、TiNなどを挙げることができる。また、保護層104は、2層以上積層したものであってもよい。保護層104の厚みは、10nmを越えると、磁気ヘッドと磁性層106との距離が大きくなり、十分な入出力特性が得られなくなるため、10nm未満とすることが好ましい。
【0098】
潤滑膜105は、例えば、フッ素系潤滑剤や、炭化水素系潤滑剤、これらの混合物等からなる潤滑剤を保護層104上に塗布することにより形成することができる。また、潤滑膜105の膜厚は、通常は1〜4nm程度である。
【0099】
また、磁気記録媒体に対しては、上記インライン式成膜装置50を用いて、記録磁性層103に反応性プラズマ処理やイオン照射処理を施し、記録磁性層103の磁気特性の改質を行うことができる。例えば図20に示す磁気記録媒体は、記録磁性層103に形成された磁気記録パターン103aが非磁性領域103bによって分離されてなる、いわゆるディスクリート型の磁気記録媒体である。
【0100】
このディスクリート型の磁気記録媒体については、例えば、磁気記録パターン103aが1ビットごとに一定の規則性をもって配置されたパターンドメディアや、磁気記録パターン103aがトラック状に配置されたメディア、磁気記録パターン103aがサーボ信号パターン等を含んだメディアなどを挙げることができる。
【0101】
また、ディスクリート型の磁気記録媒体は、その記録密度を高めるために、記録磁性層103のうち、磁気記録パターン103aとなる部分の幅L1を200nm以下、非磁性化領域103bとなる部分の幅L2を100nm以下とすることが好ましい。また、この磁気記録媒体のトラックピッチP(=L1+L2)は、300nm以下とすることが好ましく、記録密度を高めるためにはできるだけ狭くすることが好ましい。
【0102】
このようなディスクリート型の磁気記録媒体は、記録磁性層103の表面にマスク層を設け、このマスク層に覆われていない箇所を反応性プラズマ処理やイオン照射処理等に曝す。これにより、記録磁性層103の一部の磁気特性を改質し、好ましくは磁性体から非磁性体に改質した非磁性領域103bを形成することによって得ることができる。
【0103】
ここで、記録磁性層103の磁気特性の改質とは、記録磁性層103をパターン化するために、記録磁性層103の保磁力、残留磁化等を部分的に変化させることを言い、その変化とは、保磁力を下げ、残留磁化を下げることを言う。
【0104】
具体的に、記録磁性層103の磁気特性を改質する際は、反応性プラズマや反応性イオンに曝した箇所の記録磁性層103の磁化量を、当初(未処理)の75%以下、より好ましくは50%以下、保磁力を当初の50%以下、より好ましくは20%以下とすることが好ましい。これにより、磁気記録を行う際の書きにじみを無くし、高い面記録密度を得ることができる。
【0105】
また、磁気特性の改質は、すでに成膜された記録磁性層103を反応性プラズマや反応性イオン等に曝し、磁気記録トラックやサーボ信号パターンを分離する箇所(非磁性領域103b)を非晶質化することによっても実現することができる。
【0106】
ここで、記録磁性層103を非晶質化するとは、記録磁性層103の結晶構造を改変することを言い、記録磁性層103の原子配列を、長距離秩序を持たない不規則な原子配列の状態とすることを言う。具体的に、記録磁性層103を非晶質化する際は、記録磁性層103の原子配列を粒径2nm未満の微結晶粒がランダムに配列した状態とすることが好ましい。なお、このような記録磁性層103の原子配列状態は、X線回折や電子線回折などの分析手法によって、結晶面を表すピークが認められず、ハローのみが認められる状態として確認することが可能である。
【0107】
(磁気記録再生装置)
上記磁気記録媒体を用いた磁気記録再生装置としては、例えば図21に示すようなハードディスクドライブ装置(HDD)を挙げることができる。この磁気記録再生装置は、上記磁気記録媒体である磁気ディスク200と、磁気ディスク200を回転駆動させる媒体駆動部201と、磁気ディスク201に対する記録動作と再生動作とを行う磁気ヘッド202と、磁気ヘッド202を磁気ディスク200の径方向に移動させるヘッド駆動部203と、磁気ヘッド202への信号入力と磁気ヘッド202から出力信号の再生とを行うための信号処理系204とを備えている。
【0108】
この磁気記録再生装置では、上記ディスクリートトラック型の磁気記録媒体を磁気ディスク200として用いた場合に、この磁気ディスク200に磁気記録を行う際の書きにじみを無くし、高い面記録密度を得ることが可能である。すなわち、上記ディスクリートトラック型の磁気記録媒体を用いることで、記録密度の高い磁気記録再生装置を得ることが可能となる。
【0109】
また、この磁気記録再生装置では、記録トラックを磁気的に不連続に加工することにより、従来はトラックエッジの磁化遷移領域の影響を排除するために再生ヘッド幅を記録ヘッド幅よりも狭くして対応していたものを、両者をほぼ同じ幅にして動作させることができ、これによって十分な再生出力と高いSNRを得ることが可能となる。
【0110】
また、この磁気記録再生装置では、磁気ヘッド202の再生部をGMRヘッド又はTMRヘッドで構成することによって、高記録密度においても十分な信号強度を得ることが可能となる。さらに、磁気ヘッド202を従来より低く浮上させる、具体的には、この磁気ヘッド202の浮上量を0.005μm〜0.020μmの範囲とすることで、出力の向上により高いSNRを得ることができ、大容量で信頼性の高い磁気記録再生装置とすることが可能となる。
【0111】
さらに、最尤復号法による信号処理回路を組み合わせると、更なる記録密度の向上を図ることが可能となる。例えば、トラック密度100kトラック/インチ以上、線記録密度1000kビット/インチ以上、1平方インチ当たり100Gビット以上の記録密度で記録・再生する場合にも、十分なSNRを得ることが可能となる。
【実施例】
【0112】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0113】
本実施例では、本発明のマグネトロンスパッタ装置を備えるインライン式成膜装置を用いて実際に磁気記録媒体を製造した。
具体的に、本実施例では、直径110mm、厚さ8mmのターゲットを使用し、ターゲットの裏側に配置される磁気回路には、図7に示す形状のものを用いた。すなわち、この磁気回路によるBz=0ラインは、上記図8に示す形状の曲線を描くことになる。
【0114】
この磁気回路は、直径110mm、厚さ8mmのステンレス板(SS300)からなるヨークの一面に、高さ30mm、幅5mm〜8mmのNdFeB系の焼結磁石からなる第1及び第2のマグネットを取り付けたものであり、第1のマグネットと第2のマグネットとをほぼ同じ体積とし、ターゲット側から見たとき第1のマグネットがN極、第2のマグネットがS極となるように互いを同心円状に配置した。また、磁気回路からターゲットの表面までの距離は17.7mmとし、磁気回路の回転数は60rpmとした。なお、被処理基板を夾んで対向する磁気回路については、互いのBz=0ラインの位相をπだけずらすようにした。
【0115】
磁気記録媒体を製造する際は、先ず、洗浄済みのガラス基板(コニカミノルタ社製、基板の外径:65mm、基板の厚み:1.27mm、中心孔の口径:20mm)を、基板ホルダが取り付けられたキャリアに保持し、インライン式成膜装置(アネルバ社製C−3040)のチャンバ内に収容して、到達真空度1×10−5Paとなるまでチャンバ内を排気した後、このガラス基板の上に、Crターゲットを用いて層厚10nmの密着層を成膜した。また、この密着層の上に、Co−20Fe−5Zr−5Ta{Fe含有量20at%、Zr含有量5at%、Ta含有量5at%、残部Co}のターゲットを用いて、層厚25nmの軟磁性層を成膜し、この上にRu層を層厚0.7nmで成膜した後、さらにCo−20Fe−5Zr−5Taの軟磁性層を層厚25nmで成膜して、これを軟磁性下地層とした。
【0116】
次に、軟磁性下地層の上に、Ni−6W{W含有量6at%、残部Ni}ターゲット、Ruターゲットを用いて、それぞれ5nm、20nmの層厚で順に成膜し、これを配向制御層とした。Ru層は、スパッタ圧力を0.8Paとして層厚10nmで成膜後、スパッタ圧力を1.5Paとして層厚10nmで成膜した。
【0117】
次に、配向制御層の上に、(Co15Cr16Pt)91−(SiO)6−(TiO)3{Cr含有量15at%、Pt含有量18at%、残部Coの合金を91mol%、SiOからなる酸化物を6mol%、TiOからなる酸化物を3mol%}の組成の磁性層をスパッタ圧力を2Paとして層厚9nmで成膜した。
【0118】
次に、磁性層の上に、(Co30Cr)88−(TiO)12からなる非磁性層を層厚0.3nmで成膜した。
【0119】
次に、非磁性層の上に、(Co11Cr18Pt)92−(SiO)5−(TiO)3からなる磁性層をスパッタ圧力を2Paとして層厚6nmで成膜した。
【0120】
次に、磁性層の上に、Ruからなる非磁性層を層厚0.3nmで成膜した。
【0121】
次に、非磁性層の上に、Co20Cr14Pt3B{Cr含有量20at%、Pt含有量14at%、B含有量3at%、残部Co}からなるターゲットを用いて、スパッタ圧力を0.6Paとして磁性層を層厚7nmで成膜した。
【0122】
次に、CVD法により層厚3.0nmの保護層を成膜し、次いで、ディッピング法によりパーフルオロポリエーテルからなる潤滑層を成膜し、磁気記録媒体を作製した。
【0123】
そして、この磁気記録媒体について、米国GUZIK社製のリードライトアナライザRWA1632及びスピンスタンドS1701MPを用いて、その記録再生特性、すなわちS/N比、記録特性(OW)、及び熱揺らぎ特性の各評価を行った。なお、磁気ヘッドには、書き込み側にシングルポール磁極を用い、読み出し側にTMR素子を用いたヘッドを使用した。
【0124】
S/N比については、記録密度750kFCIとして測定した。
【0125】
一方、記録特性(OW)については、先ず、750kFCIの信号を書き込み、次いで100kFCIの信号を上書し、周波数フィルターにより高周波成分を取り出し、その残留割合によりデータの書き込み能力を評価した。
【0126】
一方、熱揺らぎ特性について、70℃の条件下で記録密度50kFCIにて書き込みを行った後、書き込み後1秒後の再生出力に対する出力の減衰率を(So−S)×100/(So)に基いて算出した。なお、この式中において、Soは書き込み後、1秒経過時の再生出力、Sは10000秒後の再生出力を表す。
【0127】
また、本実施例で得られた磁気記録媒体の記録再生特性を、最外周のトラック、最内周のトラック、中周のトッラクについて評価した。その結果、S/Nが平均で17.9dB、OWが平均で37.5dB、熱揺らぎが平均で0.3%であったが、各特性のトラック間バラツキはS/Nで3%以内、OWで2%以内、熱揺らぎで0.05%以内であり、面内分布はほとんど認められなかった。また、ターゲット表面に生ずるエロージョンの分布は、2万枚の磁気記録媒体の製造において、全てのターゲットの断面におけるエロージョンの幅が±2mm以内であった。また、同様の試験を繰り返した際のエロージョンの発生の再現性は±0.5mm以内であった。
【符号の説明】
【0128】
1…マグネトロンスパッタ装置 1A…処理ユニット 2…反応容器 2A…ゲートバルブ 3…ホルダ3 4…キャリア 5…搬送機構 6a…正面側隔壁 6b…背面側隔壁 6c…底壁 6d…孔部 7…内部空間 8…バッキングプレート(カソード電極) 9…ガス導入管(ガス導入手段)10…ガス供給源 11…磁気回路(磁界発生手段) 12…駆動モータ 13…開口部 14…ハウジング 15…第1の真空ポンプ(減圧排気手段) 16…第2の真空ポンプ(別の減圧排気手段) 17…ポンプ室 18…支持台 19…支持アーム 20…駆動機構 21…ガイド機構 22…磁石 23…回転磁石 24…真空隔壁 25…回転モータ 26…回転軸 27…ギア機構 28…主ベアリング 29…ガイドレール 30…副ベアリング W…被処理基板 T…ターゲット R…反応空間 G…ガス H…吸引口
40…第1のマグネット 41…第2のマグネット 42…突出部 43…スリット 44…ヨーク M…磁場 L1〜L4…Bz=0ラインを表す曲線
50…インライン式成膜装置 51…基板移送用ロボット室 52…基板移送用ロボット 53…基板取付用ロボット室 54…基板取付用ロボット 55…基板交換室 56…基板取外用ロボット室 57…基板取外用ロボット 58〜70…処理チャンバ 71…予備チャンバ 72〜75…コーナー室 76〜93…ゲートバルブ 94〜97…ゲート部
100…非磁性基板 101…軟磁性層 102…中間層 103…記録磁性層 103a…磁気記録パターン 103b…非磁性化領域 104…保護層 105…潤滑膜 106…磁性層 107…マスク層 108…レジスト層 109…スタンプ
200…磁気ディスク 201…媒体駆動部 202…磁気ヘッド 203…ヘッド駆動部 204…信号処理系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理基板が配置される反応容器と、
前記反応容器内を減圧排気する減圧排気手段と、
前記被処理基板を処理する処理手段とを備え、
前記処理手段は、前記被処理基板に対向してターゲットを保持するバッキングプレートと、前記バッキングプレートの前記ターゲットとは反対側に位置して前記ターゲットの表面上に磁場を発生させる磁気回路とを有し、
前記磁気回路は、磁化方向が軸線と平行となる筒状の第1のマグネットと、前記第1のマグネットの内側に同心円状に配置されて、前記第1のマグネットとは磁化方向が反平行となる筒状又は柱状の第2のマグネットとを有し、且つ、前記第1及び第2のマグネットの軸線と前記ターゲットの軸線とが互いに平行となる状態で、これら第1及び第2のマグネットが前記ターゲットの表面と平行な面内で回転自在とされると共に、
前記第1のマグネットと前記第2のマグネットとの間で発生する磁場の、前記ターゲットの表面における磁束密度の垂直成分Bzが0[T]となる点を結ぶBz=0ラインが、前記ターゲットの表面と平行な面内において、極座標(r,θ)で表される曲線の相似形を描くと共に、
前記極座標(r,θ)で表される曲線は、横軸をθ(0≦θ≦2π)、縦軸をrとしたグラフにおいて、θ=πにおいて変曲点を有し、且つ、この変曲点を夾んで軸対称となる位置に少なくとも1つ以上の変曲点を有して、これら変曲点を結ぶ直線又は曲線を描くことを特徴とするマグネトロンスパッタ装置。
【請求項2】
前記第1のマグネットには、その内側面から突出された少なくとも1つ以上の突出部が、少なくとも前記バッキングプレートと対向する一端側から軸線方向に亘って設けられていることを特徴とする請求項1に記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項3】
前記第2のマグネットの前記突出部と対向する位置には、当該突出部を内側に臨ませる少なくとも1つ以上のスリットが設けられていることを特徴とする請求項2に記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項4】
前記第2のマグネットには、その外側面から突出された少なくとも1つ以上の突出部が、少なくとも前記バッキングプレートと対向する一端側から軸線方向に亘って設けられていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項5】
前記第1のマグネットの前記突出部と対向する位置には、当該突出部を内側に臨ませる少なくとも1つ以上のスリットが設けられていることを特徴とする請求項4に記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項6】
前記第1及び第2のマグネットの互いに対向する位置には、外側に向かって凸となる少なくとも1つ以上の角部が設けられていることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項7】
前記磁気回路は、前記第1及び第2のマグネットと共に磁路を形成するヨークを有し、このヨークは、前記第1及び第2のマグネットの前記バッキングプレートと対向する面とは反対側の面に突き合わされた状態で取り付けられていることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項8】
前記第1のマグネットと前記第2のマグネットとが略同一の体積を有することを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項9】
複数のチャンバと、
前記複数のチャンバ内で被処理基板を保持するキャリアと、
前記キャリアを前記複数のチャンバの間で順次搬送させる搬送機構とを備え、
前記複数のチャンバのうち少なくとも1つは、請求項1〜8の何れか一項に記載の処理装置によって構成されていることを特徴とするインライン式成膜装置。
【請求項10】
請求項9に記載のインライン式成膜装置を用いて、非磁性基板の上に少なくとも磁性層を形成する工程を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法により製造された磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体を記録方向に駆動する媒体駆動部と、
前記磁気記録媒体に対する記録動作と再生動作とを行う磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドを磁気記録媒体に対して相対移動させるヘッド移動手段と、
前記磁気ヘッドへの信号入力と前記磁気ヘッドから出力信号の再生とを行うための記録再生信号処理手段とを備えることを特徴とする磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2010−257516(P2010−257516A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105130(P2009−105130)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】