説明

マット製品、マット製品を製造する方法、排気ガス処理装置および消音装置

【課題】従来のマット材に比べて、無機繊維の飛散がより生じにくく、かつ実際に排気ガス処理装置等に適用した際に、装置から排出される有機成分量の少ないマット製品を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明では、無機繊維を含むマット材を有するマット製品であって、前記マット材は、全長Lmを有し、全長Lrを有する包装材の内部空間に収容され、前記包装材の内部空間は、外部環境と気体連通されており、前記包装材の全長Lrは、前記マット材の全長Lmよりも長く、これにより前記マット材は、全長方向に沿って、前記内部空間内を移動することが可能であることを特徴とするマット製品が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機繊維を含むマット材に関し、特に、車両等の排気ガス処理装置および消音装置に使用されるマット材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の台数は、今世紀に入って飛躍的に増加しており、それに比例して、自動車の内燃機関から排出される排気ガスの量も急激な増大の一途を辿っている。特にディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる種々の物質は、汚染を引き起こす原因となるため、現在では、世界環境にとって深刻な影響を与えつつある。
【0003】
このような事情の下、各種排気ガス処理装置が提案され、実用化されている。一般的な排気ガス処理装置は、エンジンの排気ガスマニホールドに連結された排気管の途上に筒状部材(ケーシング)を設け、その中に、排気ガスの入口および出口用の開口面を有し、内部に微細な気孔を多数有する排気ガス処理体を配置した構造となっている。排気ガス処理体の一例としては、触媒担持体、およびディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)等の排気ガスフィルタがある。例えばDPFの場合、上述の構造により、排気ガスが排気ガス処理体の入口開口面から出口開口面を通って排出される間に、気孔の周囲の壁に微粒子がトラップされ、排気ガス中から微粒子を除去することができる。
【0004】
このような排気ガス処理体とケーシングの間には、通常保持シール材が設置される。保持シール材は、車両走行中等における排気ガス処理体とケーシングの当接による破損を防ぎ、さらにケーシングと排気ガス処理体との隙間から排気ガスがリークすることを防止するために用いられる。また、保持シール材は、排気ガスの排圧により排気ガス処理体が脱落することを防止する役割を有する。さらに排気ガス処理体は、反応性を維持するため高温に保持する必要があり、保持シール材には断熱性能も要求される。これらの要件を満たす部材としては、アルミナ系繊維等の無機繊維を含むマット材がある。
【0005】
このマット材は、排気ガス処理体の開口面を除く外周面の少なくとも一部に巻き付けられ、テーピング等によって排気ガス処理体と一体固定化されることにより、保持シール材として機能する。その後、この一体品は、ケーシング内に圧入されて排気ガス処理装置が構成される。
【0006】
なお、マット材は、刺激性のある微細な無機繊維(例えば、直径約3μm〜8μm程度の無機繊維)を多量に含んでいる。従って、例えば、作業者によるマット材のハンドリング中に、マット材から周囲に無機繊維が飛散すると、作業環境が悪化するという問題がある。
【0007】
そこでこのようなハンドリング時の無機繊維の飛散の問題を抑制するため、通常の場合、マット材は、ニードリング処理され、さらにその後、有機バインダによる含浸処理がなされる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−302875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述のような、ニードリング処理と有機バインダによる含浸処理とを組み合わせたマット材においても、マット材のハンドリング時には、マット材から微細な無機繊維がある程度飛散してしまうことは避けられない。
【0010】
また、このような有機バインダが含浸されたマット材を、排気ガス処理装置の保持シール材として使用した場合、排気ガス処理装置の実際の使用の際、特に初期使用時に、排気ガスの熱によってマット材に含まれる有機成分が熱分解し、これが装置外に排出されてしまうという問題が生じる。近年、排気ガス中の有機成分に対する規制は、益々厳しくなってきており、このような有機成分の排出は、できる限り抑制することが望ましい。
【0011】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、従来のマット材に比べて、無機繊維の飛散がより生じにくく、かつ実際に排気ガス処理装置等に適用した際に、装置から排出される有機成分量の少ないマット製品を提供することを目的とする。また、そのようなマット製品を製造する方法、ならびにそのようなマット製品を備える排気ガス処理装置および消音装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、無機繊維を含むマット材を有するマット製品であって、
前記マット材は、全長Lmを有し、全長Lrを有する包装材の内部空間に収容され、
前記包装材の内部空間は、外部環境と気体連通されており、
前記包装材の全長Lrは、前記マット材の全長Lmよりも長く、これにより前記マット材は、全長方向に沿って、前記内部空間内を移動することが可能であることを特徴とするマット製品が提供される。
【0013】
当該マット製品において、前記包装材の内部空間は、接合部により取り囲まれていても良い。
【0014】
また、本発明において、前記接合部は、前記マット材の厚さ方向と平行な方向から見た場合、
実質的に長方形、正方形、円形、もしくは楕円形の形状を有し、または
一組の対向する辺のそれぞれに凹部および凸部を有する、実質的に長方形の形状を有しても良い。
【0015】
また、前記接合部は、前記マット材の厚さ方向と平行な方向から見た場合、前記マット材と実質的に等しい形状、および前記マット材よりも大きな寸法を有しても良い。
【0016】
また、当該マット製品において、前記内部空間は、前記包装材のいずれかの箇所に設けられた1または2以上の開口部により、外部環境と気体連通されていても良い。
【0017】
また、前記1または2以上の開口部は、前記接合部の一部が開口することにより形成されても良い。
【0018】
また、前記開口部は、0.1mm〜5.0mmの範囲の寸法を有しても良い。
【0019】
また、当該マット製品において、前記マット材の全長Lmに対する前記包装材の全長Lrの割合は、110%〜130%の範囲であっても良い。
【0020】
また、前記マット材および前記包装材は、それぞれ、幅WmおよびWrを有し、
前記マット材の幅Wmに対する前記包装材の幅Wrの割合は、100%〜130%の範囲であっても良い。
【0021】
また、当該マット製品において、前記包装材は、有機材料を含むフィルムで構成されても良い。
【0022】
また、当該マット製品において、前記フィルムは、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリプロピレンおよびポリエチレンからなる群から選定された、少なくとも一つの材料を含んでも良い。
【0023】
また、前記包装材に含まれる有機成分の量は、前記マット材の重量と前記包装材の重量の総和に対して、9wt%未満であっても良い。
【0024】
また、当該マット製品において、前記マット材は、第1の表面、および該第1の表面と反対側の第2の表面を有し、
前記包装材は、前記第1の表面と対向する第1の側、および前記第2の表面と対向する第2の側を有し、
前記包装材の前記第1の側および第2の側の外側表面は、実質的に異なる摩擦係数を有しても良い。
【0025】
また、当該マット製品において、前記包装材の前記第1の側および第2の側の外側表面は、異なる材料で構成されても良い。
【0026】
この場合、前記包装材の少なくとも前記第1の側の外側表面は、不織布で構成されていても良い。
【0027】
また、当該マット製品において、前記包装材の前記第1の側の外側表面は、ミクロ的な凹凸を有しても良い。
【0028】
また、当該マット製品において、前記包装材は、少なくとも前記第2の側の外側表面に、マクロ的な凹凸を有しても良い。
【0029】
また、前記外側表面には、エンボス加工、コロナ加工および波形加工のうちの少なくとも一つの処理がされていても良い。
【0030】
また、前記マット材は、実質的に有機成分を含まなくても良い。
【0031】
また、前記マット材は、アルミナ繊維、ムライト繊維、シリカアルミナ繊維、ガラス繊維、ロックウールおよび生体溶解性繊維で構成された群から選定された、少なくとも一つを含んでも良い。
【0032】
また、前記マット材は、複数のマット材を積層して構成されても良い。
【0033】
また、本発明では、無機繊維を含むマット材を有するマット製品を製造する方法であって、
無機繊維を含み、全長Lmを有するマット材を準備するステップと、
前記マット材を、全長Lrを有する包装材の内部空間に収容するステップであって、前記包装材の内部空間は、外部環境と気体連通されており、前記包装材の全長Lrは、前記マット材の全長Lmよりも長く、これにより前記マット材は、全長方向に沿って、前記内部空間内を移動することが可能である、ステップと、
を有することを特徴とする、マット製品を製造する方法が提供される。
【0034】
当該方法において、前記マット材を、全長Lrを有する包装材の内部空間に収容するステップは、
前記マット材を取り囲む接合部が形成されるように、前記包装材を接合するステップを有しても良い。
【0035】
また、当該方法において、前記接合部は、前記マット材の厚さ方向と平行な方向から見た場合、前記マット材と実質的に等しい形状、および前記マット材よりも大きな寸法を有しても良い。
【0036】
また、当該方法において、前記内部空間は、前記包装材のいずれかの箇所に設けられた1または2以上の開口部により、外部環境と気体連通されても良い。
【0037】
また、本発明では、
排気ガスの流通する2つの開口面を有する排気ガス処理体と、
前記排気ガス処理体の開口面を除く外周面の少なくとも一部に巻き付けて使用される保持シール材と、
該保持シール材が巻き回された前記排気ガス処理体を収容する筒状部材と、
で構成される排気ガス処理装置であって、
前記保持シール材は、前述のいずれかのマット製品で構成されることを特徴とする排気ガス処理装置が提供される。
【0038】
ここで、前記排気ガス処理体は、触媒担持体または排気ガスフィルタであっても良い。
【0039】
また、本発明では、インナーパイプと、該インナーパイプの外方を覆うアウターシェルと、前記インナーパイプとアウターシェルの間に設置された吸音材とを有する吸音装置であって、
前記吸音材は、前述のいずれかのマット製品で構成されることを特徴とする消音装置が提供される。
【0040】
さらに、本発明では、
排気ガスの流通する2つの開口面を有する排気ガス処理体と、
前記排気ガス処理体の開口面を除く外周面の少なくとも一部に巻き付けて使用される保持シール材と、
該保持シール材が巻き回された前記排気ガス処理体を収容する筒状部材と、
で構成される排気ガス処理装置であって、
前記保持シール材は、無機繊維を含むマット材を有するマット製品で構成され、
前記マット材は、全長Lmを有し、全長Lrを有する包装材の内部空間に収容され、
前記包装材の内部空間は、外部環境と気体連通されており、
前記包装材の全長Lrは、前記マット材の全長Lmよりも長く、これにより前記マット材は、全長方向に沿って、前記内部空間内を移動することが可能であり、
前記マット材は、第1の表面、および該第1の表面と反対側の第2の表面を有し、
前記包装材は、前記第1の表面と対向する第1の側、および前記第2の表面と対向する第2の側を有し、
前記包装材の前記第1の側の外側表面は、前記第2の側の外側表面に比べて、より大きな摩擦係数を有し、
前記保持シール材は、前記包装材の前記第1の側の外側表面が前記排気ガス処理体の側となるようにして、前記排気ガス処理体に巻き回されることを特徴とする排気ガス処理装置が提供される。
【0041】
また、本発明では、
インナーパイプと、該インナーパイプの外方を覆うアウターシェルと、前記インナーパイプとアウターシェルの間に設置された吸音材とを有する吸音装置であって、
前記吸音材は、無機繊維を含むマット材を有するマット製品で構成され、
前記マット材は、全長Lmを有し、全長Lrを有する包装材の内部空間に収容され、
前記包装材の内部空間は、外部環境と気体連通されており、
前記包装材の全長Lrは、前記マット材の全長Lmよりも長く、これにより前記マット材は、全長方向に沿って、前記内部空間内を移動することが可能であり、
前記マット材は、第1の表面、および該第1の表面と反対側の第2の表面を有し、
前記包装材は、前記第1の表面と対向する第1の側、および前記第2の表面と対向する第2の側を有し、
前記包装材の前記第1の側の外側表面は、前記第2の側の外側表面に比べて、より大きな摩擦係数を有し、
前記吸音材は、前記包装材の前記第1の側の外側表面が前記インナーパイプの側となるようにして、前記インナーパイプに巻き回されることを特徴とする吸音装置が提供される。
【発明の効果】
【0042】
本発明では、従来のマット材に比べて、無機繊維の飛散がより生じにくく、かつ実際に排気ガス処理装置等に適用した際に、装置から排出される有機成分量が有意に抑制されたマット製品を提供することが可能となる。また、そのようなマット製品を製造する方法、ならびにそのようなマット製品を備える排気ガス処理装置および消音装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明によるマット製品の一例を模式的に示した上面図である。
【図2】本発明によるマット製品を保持シール材として使用して、排気ガス処理装置を構成するときの構成図である。
【図3】マット材を排気ガス処理体に巻き回す際の状態を模式的に示した図である。
【図4】本発明による排気ガス処理装置の一構成例を示す図である。
【図5】本発明による消音装置の一構成例を示す図である。
【図6】本発明によるマット製品の製造方法のフローを示した図である。
【図7】実施例1に係るサンプルの形態を示した上面図である。
【図8】無機繊維の飛散性試験装置の一部を概略的に示した図である。
【図9】実施例1、2および比較例1〜4に係る各サンプルの無機繊維飛散率を示したグラフである。
【図10】実施例1、2および比較例1〜4に係る各サンプルの放出有機成分量を示したグラフである。
【図11】実施例1および比較例3、4に係る各サンプルの抜き荷重低下率の測定結果を示したグラフである。
【図12】実施例3に係るサンプルの包装材の表面の電子顕微鏡写真である。
【図13】実施例4に係るサンプルにおける包装材の熱処理を施工した主表面の電子顕微鏡写真である。
【図14】実施例4に係るサンプルにおける包装材の熱処理を施工していない主表面の電子顕微鏡写真である。
【図15】排気ガス処理体の外周面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面と共に説明する。
【0045】
図1には、本発明によるマット製品の形態の一例を示す。
【0046】
図1に示すように、本発明によるマット製品100は、マット材30と、包装材120とを有する。
【0047】
マット材30は、全長Lm(X方向)と幅Wm(Y方向)を有し、「実質的に矩形状」となるように形成される。マット材30の短辺70および71には、それぞれ嵌合凸部50および嵌合凹部60が設置されている。また、マット材30の短辺71の嵌合凹部60に隣接する位置には、2つの凸部61が形成されている。ただし本発明において、マット材の短辺70、71は、図1の形状に限られるものではなく、例えば、図のような嵌合部を全く有さないものや、各短辺が、それぞれ、嵌合凸部50および嵌合凹部60を複数有するもの等も使用できる。なお、本願において、「実質的に矩形状」とは、図1に示すような、マット材30の短辺に、1組以上の嵌合凸部50と嵌合凹部60を有する矩形を含む概念である。さらに、「実質的に矩形状」には、マット材30のコーナー部が、90゜以外の角度を有する形状(例えば、曲率を有するもの)も含まれる。
【0048】
図1から明らかなように、本発明では、マット材30は、全体が包装材120で覆われているという特徴を有する。換言すれば、マット材30は、包装材120の内部空間130に収容されている。内部空間130において、マット材30に占有されていない残りの部分(すなわち隙間)には、空気が含まれている。なお包装材120の全長は、Lrであり、幅は、Wrである。
【0049】
マット材30と包装材120のこのような配置関係は、例えば、マット材30の全体を覆うように、1または2以上のシート状の包装材120を配置した後、図1に示すように、マット材30の周囲輪郭よりも一回り大きな寸法に沿って、接合部135が形成されるように、包装材120の端部同士を接合することにより得ることができる。あるいは、入口および内部空間を有する包装材120の中にマット材30を入れ、その後、入口を封止することにより、マット材30の全体を包装材120で覆っても良い。その他、様々な方法で、図1のようなマット製品100、すなわち全体が包装材で覆われたマット材を得ることができることは、当業者には明らかである。
【0050】
さらに、本発明のマット製品100は、以下の2つの特徴的構成を有する。
(i)包装材120は、通気性を有する。すなわち、包装材120の内部空間130は、外環境と気体連通されている。内部空間130と外環境の気体連通方法は、特に限られないが、図1の例では、接合部135の矢印A〜Dの各位置に、微細な1または2以上の開口部が形成されており、これにより、内部空間130と外環境の気体連通が可能となっている。開口部の形状は、特に限られないが、例えば、実質的に円もしくは楕円状、またはスリット(線)状であっても良い。開口部が円もしくは楕円状の場合、その直径(楕円の場合は、最大直径)は、例えば、0.1mm〜10mmの範囲であっても良い。また、開口部がスリット状の場合、その寸法は、0.1mm〜10mmの範囲であっても良い。
(ii)包装材120の全長Lr(X方向の長さ)は、マット材30の全長Lmよりも長くなっているとともに、マット材30は、包装材120の内部空間130内で、位置が固定されてはいない。従って、マット材30は、内部空間130内において、少なくともX方向には、ある程度フレキシブルに移動することができる。これは、マット材30および包装材120が、X方向において、相互に対して位置を移動することができることを意味する。
【0051】
例えば、図1の例では、マット材30の短辺70の輪郭部と、包装材120の接合部135の間には、間隔d1が存在し、マット材30の短辺71の輪郭部と、包装材120の接合部135の間には、間隔d2が存在している。すなわち、包装材の全長Lrは、Lr=Lm(マット材の全長)+d1+d2となっている。従って、マット材30は、内部空間130内で、X方向に、最大d1+d2の距離だけ移動することができる。
【0052】
次に、前述のような特徴的構成を有する本発明によるマット製品100の効果について説明する。図2には、本発明に係るマット製品を保持シール材として含む排気ガス処理装置の分解構成図を示す。
【0053】
図2に示すように、本発明によるマット製品100は、排気ガス処理装置の保持シール材240として使用される場合、長辺の方向が巻回方向(図1のX方向)となるようにして使用される。またマット製品100が、保持シール材240として触媒担持体等の排気ガス処理体220に巻き付けられた際には、図2に示すように、マット材30の嵌合凸部50と嵌合凹部60が嵌合され、マット製品100が排気ガス処理体220に固定される。その後、保持シール材240が巻き回された排気ガス処理体220は、圧入等により、金属等で構成された筒状のケーシング212内に圧入され、装着される。なお、図2では、マット材30を包装する包装材120は、省略されていることに留意する必要がある。
【0054】
ここで、従来のマット材は、刺激性のある微細な無機繊維(例えば、直径3μm〜8μm程度の無機繊維)を多量に含んでいる。従って、例えば、作業者によるマット材のハンドリング中に、マット材から周囲に無機繊維が飛散してしまい、作業環境が悪化するという問題が生じ得る。そこでこのようなハンドリング時の無機繊維の飛散の問題を抑制するため、通常の場合、マット材は、ニードリング処理され、さらにその後、有機バインダによる含浸処理がなされる。
【0055】
しかしながら、そのようなニードリング処理と有機バインダによる含浸処理とを組み合わせたマット材においても、マット材が外環境に対して露出されている以上、マット材のハンドリング時に、マット材から微細無機繊維がある程度飛散してしまうことは避けられない。また、このような有機バインダが含浸されたマット材を、排気ガス処理装置の保持シール材として使用した場合、排気ガス処理装置の実際の使用の際、特に初期使用時に、排気ガスの熱によってマット材に含まれる有機成分が熱分解し、これが装置外に排出されてしまうという問題が生じる。近年、排気ガス中の有機成分に対する規制は、益々厳しくなってきており、このような有機成分の排出は、できる限り抑制することが望ましい。
【0056】
これに対して、本発明によるマット製品100は、前述のように、マット材30の全体が包装材120で覆われている。また、内部空間130と外環境の気体連通用の開口部は、極めて微細な寸法を有するため、ここからの無機繊維の飛散は、ほとんど無視することができる。従って、マット材30は、外環境に対して実質的に隔離されており、これにより、マット材30からの外部への無機繊維の飛散を有意に抑制することができる。
【0057】
さらに、本発明は、前述の(i)、(ii)の特徴を有する。
【0058】
ここで(i)の特徴、すなわち包装材120の内部空間130が外環境と気体連通されているという特徴により、以下の効果が得られる。前述のように、マット製品100を排気ガス処理装置の保持シール材240として使用する場合、マット製品100は、排気ガス処理体220に巻き付けられる。ここで包装材の内部空間が密閉されている場合、マット製品100の巻き回し操作の際に、包装材の内部空間の内部圧力が上昇し、包装材が破断または破損する可能性がある。一般に、そのような包装材の破損の際には、内部空間から外環境に向かって、大きな圧力が生じ、これにより、微細な無機繊維が外環境に放出されてしまう。また、一度そのような包装材の破損が生じると、その後は、破損部分から微細な無機繊維が飛散してしまう可能性が高くなる。これに対して、(i)の特徴を有する本発明の場合、マット製品100の巻き回し操作の際に、包装材120の内部空間130の内部圧力の上昇が有意に抑制される。従って、本発明による(i)の構成により、マット製品100では、包装材120の破損の問題、さらには無機繊維の飛散の問題が有意に抑制される。
【0059】
また、本発明では、前述の(ii)の特徴、すなわち包装材120とマット材30が、少なくとも巻回方向(X方向)に沿って、相互に対して位置を移動することができるという特徴により、以下の効果が得られる。マット製品100を排気ガス処理体220に巻き回す際、図3に示すように、マット材30の第1の表面側(排気ガス処理体220と接する側)31と第2の表面側(ケーシング212と接する側)32では、周長差により、マット材の伸び量に変化が生じる。これに伴い、包装材においても、マット材の第1の表面側31と対向する側と、第2の表面側32と対向する側とでは、伸び量が異なることになる。しかしながら、通常の場合、包装材120は、ある程度の嵩高さを有するマット材30に比べて、伸びる限界量が少ない。従って、包装材120とマット材30の巻回方向(図1のX方向)の長さ、すなわち両者の全長が実質的に等しい場合、あるいは、マット材30が包装材120の内面に密着、固着されているなど、マット材30の位置が内部空間に対して固定されている場合は、マット製品100の巻き回し操作を行った際に、包装材120は、マット材30の伸びに追従できずに、破断してしまう危険性が高くなる。包装材120にこのような破断が生じた場合、包装材120の破断部分から、微細な無機繊維が飛散してしまうという問題が生じ得る。
【0060】
これに対して、前述の(ii)の特徴を有する本発明の場合、包装材120は、巻回方向(X方向)に沿って、マット材30に対して位置を移動することができるため、マット製品100の巻き回し操作の際に、包装材120がマット材30の伸びに追従できずに破損してしまうという問題が、有意に抑制される。従って、本発明によるマット製品100では、(ii)の構成により、包装材120の破損の問題、さらには無機繊維の飛散の問題が有意に抑制される。
【0061】
このように、本発明によるマット製品100では、ハンドリングの際に、包装材120の破損が生じ難く、無機繊維の飛散を有意に抑制することが可能となる。
【0062】
また、本発明によるマット製品100では、仮に包装材120を有機材料で構成したとしても、その厚みを極端に厚くしない限り(例えば、数mm以上など)、包装材120による有機成分の放出量は、従来の有機バインダが含浸されたマット材における有機成分の放出量に比べて、有意に少なくなる。例えば、後述のように、包装材120を、マット材よりも一回り大きな寸法を有し、厚さが10μmの高密度ポリエチレンで構成した場合、従来の有機バインダを含むマット材(予想含有量5〜10wt%)に比べて、放出有機成分量は、1/3以下〜1/6以下まで抑制される。
【0063】
以上のように、本発明では、従来のマット材に比べて、無機繊維の飛散がより生じにくく、かつ実際に排気ガス処理装置等に適用した際に、装置から排出される有機成分量の少ないマット製品を提供することができる。
【0064】
ここで、本発明によるマット製品100に含まれるマット材30は、無機繊維を含むものであれば、いかなる方法で作製された、いかなる形状、寸法、材質および/または構造のマット材であっても良い。マット材30は、例えば、ニードリング処理によって作製されたマット材であっても良い。
【0065】
また、包装材120は、前述の(i)、(ii)の特徴が確保される限り、いかなる形状、寸法、材質、形態および/または構造のものであっても良い。
【0066】
包装材120(および/またはその内部空間)は、マット材の厚さ方向と平行な方向から見た際に、例えば、実質的に、矩形、正方形、円形、または楕円形等、様々な形状であっても良い。また、例えば、包装材120(および/またはその内部空間)は、マット材30の形状と同一の形状であっても良い(ただし、寸法は異なる)。例えば、包装材120(および/またはその内部空間)は、図1に示したように、対向する一対の辺のそれぞれに凹部と凸部を有する、実質的に長方形状の形状であっても良い。
【0067】
包装材120が実質的に矩形状の場合、包装材120の幅Wrの寸法は、マット材の幅Wm以上であれば、特に限られない。例えば、図1のように、包装材120の幅Wrは、マット材の幅Wmに、d3(マット材30のX方向に沿った一つの長辺の端部からの距離)およびd4(マット材30のX方向に沿った別の長辺の端部からの距離)を加えた寸法であっても良い。
【0068】
あるいは、マット材の幅Wmに対する包装材120の幅Wrの比(Wr/Wm)は、マット材の全長Lmに対する包装材120の全長Lrの比(Lr/Lm)と同程度であっても良い。この場合、包装材120は、マット材の厚み方向と平行な方向から見た場合、実質的にマット材30と相似形で、マット材30に比べて、全体的に一回り大きい寸法となる。なお、比Lr/Lmは、1.1〜1.3の範囲であることが好ましい。比Lr/Lmが1.1未満では、前述の(i)の効果が相対的に弱くなる。また、比Lr/Lmが1.3を超えると、そのようなマット材を備える排気ガス処理装置の使用時に、外部に放出される有機成分量が増加する。なお、比Wr/Wmは、例えば、1.0〜1.3の範囲であり、この比は、例えば、1.2である。
【0069】
また包装材120は、例えば、有機材料、金属材料、または無機材料で構成されても良い。包装材120が有機材料で構成される場合、そのような有機材料としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、およびパルプ等が挙げられる。また、包装材120が金属材料で構成される場合、そのような金属材料としては、アルミニウム箔、ステンレス箔等が挙げられる。また、包装材120が無機材料で構成される場合、そのような無機材料としては、酸化物フィルム、不燃材等が挙げられる。
【0070】
包装材120を構成する材料の形態は、特に限られず、例えば、シート状、フィルム状、または薄膜状であっても良く、あるいは不織布のような合成繊維を無織布工程で配列させた形態であっても良い。また、包装材120は、網目(隙間)が十分に微細なネット状の形態であっても良い。
【0071】
また、包装材120は、面内で、伸び異方性を有する材料で構成されても良い。例えば、幅方向(図1のY方向)に比べて全長方向(X方向)の伸びが大きな材料を、包装材120に使用した場合、巻回方向に伸びやすく、圧入方向に伸びにくい保持シール材を提供することが可能になる。この場合、保持シール材を排気ガス処理体220に巻き回す操作が容易となるとともに、保持シール材のケーシング212への圧入が容易となる。
【0072】
また包装材120は、全体が必ずしも単一の材料で構成される必要はなく、場所により、材質が異なるように構成されても良い。
【0073】
例えば、包装材120のマット材30の第1の表面側31(排気ガス処理体220に巻回した際に、内側となる側)に対向する第1の部分と、包装材120のマット材30の第2の表面側32(排気ガス処理体220に巻回した際に、外側となる側)に対向する第2の部分とで、摩擦係数の異なる材料を使用しても良い。
【0074】
例えば、第1の部分は、排気ガス処理体220に対する保持力を高めるため、摩擦係数の大きな材料を使用し、第2の部分は、ケーシング212内面に対する滑りを良くするため、摩擦係数の小さな材料を使用しても良い。この場合、排気ガス処理体220に対して良好な保持力を有する保持シール材が得られるとともに、保持シール材のケーシングへの圧入が容易となる。従って、排気ガス処理体220に対して良好な保持力を有する排気ガス処理装置を、より容易に製作することが可能となる。
【0075】
包装材120の第1の部分と第2の部分とで摩擦係数を変えるための材料組み合わせとしては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)と高密度ポリエチレン(HDPE)の組み合わせがある。一般に、HDPEは、LDPEに比べて、表面の摩擦係数が小さいことが知られている。従って、包装材120の第1の部分にLDPEを使用し、包装材120の第2の部分にHDPEを使用することにより、前述の効果(排気ガス処理体220に対して、良好な保持力を発揮するとともに、ケーシング212への圧入が容易となるマット製品)を得ることができる。
【0076】
この他、例えば、包装材120の第1の部分にLDPEまたはHDPEを使用し、包装材120の第2の部分に、一般にLDPEまたはHDPEよりも摩擦係数の小さいPETを使用しても良い。
【0077】
さらに別の材料組み合わせ例として、前述のような有機材料(例えばポリエチレン)と不織布の組み合わせがある。通常、不織布は、前述のような有機材料に比べて、より多くの微細な凹凸(以下に示す「ミクロ的な凹凸」の一形態でもある)を有するため、摩擦係数が比較的大きいという特徴を有する。従って、不織布を包装材120の第1の部分に使用することによっても、前述の効果を得ることができる。なお、不織布には、例えば、有機繊維を含み、スパンボンド法で製造されたもの、乾式法で製造されたもの、および湿式法で製造されたもの(紙類を含む)が含まれる。
【0078】
なお、第1の部分と第2の部分とで摩擦係数が異なる包装材120は、材料を変える場合の他、該包装材の形態を調整することによっても、得ることができる。例えば、前記第2の部分において、包装材120をエンボス加工、波形加工またはコロナ加工し、表面に凹凸を形成した場合、そのような表面では、摩擦係数が有意に低下する。従って、このような包装材120の形態の制御によっても、包装材とケーシング212界面での摩擦が小さくなり、マット材が巻き回された排気ガス処理体のケーシング内への圧入を、容易に行うことが可能となる。
【0079】
また、これとは逆に、包装材120の第1の部分に「ミクロ的な凹凸」を形成することにより、包装材120の第2の部分に比べて、この第1の部分の摩擦係数を高めても良い。
【0080】
ここで「ミクロ的な凹凸」とは、凹凸の最上部と最下部の高さの差異(以下、単に「凹凸差」と称する)がおおよそ500μm以下、例えば200μm以下の微細な凹凸を意味する。従って、この「ミクロ的な凹凸」は、前述のようなエンボス加工、波形加工またはコロナ加工によって、表面に形成される凹凸(いわゆる「マクロ的な凹凸」)とは異なり、より微細な凹凸を表す。
【0081】
一般に、表面の「マクロ的な凹凸」は、この表面と接触する接触部材との間の接触面積を低下させ、これにより接触部材の摩擦を低下させる効果を発揮する。従って、「マクロ的な凹凸」の場合、凹凸差は、おおよそ1mm以上である。)これに対して、表面の「ミクロ的な凹凸」は、この表面と接触する接触部材の表面が有する凹凸と相互作用し(例えば、相互に係合し)、接触部材の摩擦抵抗を高める働きを有する。例えば、排気ガス処理体220は、ミクロレベルでは、露出表面が多数の凹凸を有している。そのため、包装材120の「ミクロ的な凹凸」を有する表面が排気ガス処理体220と当接された場合、両者の凹凸表面の相互作用により、界面の摩擦抵抗が上昇する。
【0082】
このような「ミクロ的な凹凸」を、包装材120の第1の部分に構成することにより、排気ガス処理体220とマット製品の間の摩擦抵抗が大きくなり、これにより、マット製品に、排気ガス処理体220に対する良好な保持力を提供することができる。
【0083】
このような「ミクロ的な凹凸」は、これに限られるものではないが、例えば、包装材120の第1の部分を熱処理等で表面改質することにより、形成されても良い。例えば、HDPEで構成された包装材120を適正に熱処理した場合、通常、凹凸差が10μm〜500μmの範囲の「ミクロ的な凹凸」を有する、高摩擦表面が得られる。
【0084】
また、包装材120の内部空間と外環境とを気体連通させる手段(例えば、開口部)の位置、数、形状、寸法等が特に限られないことは、当業者には明らかであろう。ただし、微細無機繊維の飛散防止の観点からは、包装材120に設けられる開口部は、マット材30の第1および第2の側31、32と常時接触する可能性の高い、前述の第1および第2の部分以外の箇所に設けることが好ましい。また、その寸法は、ある程度小さいことが好ましい。例えば、図1に示すA〜Dの4箇所の位置に、開口部として、直径0.1mm〜5mmの範囲の微細な円形の穴を形成した場合、無機繊維の外部への飛散を十分に少なくすることができる。
【0085】
なお、上記説明では、マット材の厚さ方向における包装材の寸法Hrについては、特に説明していない。しかしながら、この寸法Hrは、マット材の厚さよりも長ければ、極端な寸法でない限り(例えば幅Wrを超える寸法など)、特に制限はないことは、明らかであろう。実際には、ハンドリングおよびコスト等の観点から、そのような寸法Hrは、マット材の厚さの1.05〜3倍程度であろう。
【0086】
このような本発明によるマット製品は、例えば、排気ガス処理装置410の保持シール材として使用することができる。図4には、本発明による排気ガス処理装置410の一構成例を示す。
【0087】
排気ガス処理装置410は、保持シール材240が外周面に巻き回された排気ガス処理体220と、該排気ガス処理体を収容するケーシング212と、該ケーシングの入口側および出口側のそれぞれに接続された、排気ガスの入口管420および出口管440とを有する。この図の例では、入口管420および出口管440は、ケーシング212と接続される位置で径が拡張されるように、テーパ形状となっている。また、この図の例では、排気ガス処理体220は、排気ガスの入口と出口用の開口面を有し、ガス流と平行な方向に多数の貫通孔を有する触媒担持体である。触媒担持体は、例えばハニカム状の多孔質炭化珪素等で構成される。ただし、本発明の排気ガス処理装置410は、このような構成に限られるものではない。例えば、排気ガス処理体220を貫通孔の一部が目封じされたDPFとすることも可能である。
【0088】
ここで、保持シール材240は、本発明によるマット製品100、すなわち包装材120で覆われたマット材30で構成されている。このような排気ガス処理装置では、保持シール材を排気ガス処理装置に取り付ける際に、無機繊維の飛散が有意に抑制される。
【0089】
また、本発明の排気ガス処理装置410では、使用の際(特に初期使用の際)に、排気ガスからの熱によって分解放出される有機成分の量を有意に抑制することができるという効果が得られる。
【0090】
次に、本発明によるマット製品の別の適用例を説明する。図5には、本発明によるマット製品を備える消音装置を示す。この消音装置は、例えば自動車等のエンジンの排気管の途中に設けられる。消音装置570は、インナーパイプ572(例えばステンレス鋼等の金属製)と、その外方を覆うアウターシェル576(例えばステンレス鋼等の金属製)と、両者の間に設置された吸音材574とを有する。通常の場合、インナーパイプ572の表面には、小孔が穿設されている。このような消音装置570では、インナーパイプ572の内部に排気ガスを流通させた際に、吸音材574により、排気中に含まれる騒音成分を減衰させることができる。
【0091】
ここで、吸音材574には、前述の本発明によるマット製品を使用することができる。吸音材574に本発明によるマット製品を使用することにより、吸音材574を消音装置570に取り付ける際に生じ得る、無機繊維の飛散を有意に抑制することができる。また、本発明の消音装置570では、使用の際(特に初期使用の際)に、排気ガスからの熱によって分解放出される有機成分の量を有意に抑制することができるという効果が得られる。
【0092】
(本発明によるマット製品の製造方法)
以下、本発明のマットマット製品100の製造方法の一例を説明する。なお、以下に記載の方法以外の方法で、マット製品100を製造しても良いことは、当業者には明らかである。
【0093】
図6には、本発明によるマット製品を作製する方法のフロー図を示す。本発明によるマット製品を作製する方法は、無機繊維を含み、全長Lmを有するマット材を準備するステップ(ステップS110)と、前記マット材を、全長Lrを有する包装材の内部空間に収容するステップであって、前記包装材の内部空間は、外部環境と気体連通されており、前記包装材の全長Lrは、前記マット材の全長Lmよりも長く、これにより前記マット材は、全長方向に沿って、前記内部空間内を移動することが可能である、ステップ(ステップS120)と、を有する。以下、両ステップについて詳しく説明する。
【0094】
(ステップS110)
まず、無機繊維を含むマット材を製作する。
【0095】
なお以下の説明では、ニードリング処理法により、マット材を作製する方法について説明する。ただし、本発明によるマット材は、その他の方法で作製されても良いことは、当業者には明らかである。また、以下の説明では、無機繊維としてアルミナとシリカの混合物を用いるが、無機繊維材料は、これに限られるものではなく、例えばアルミナまたはシリカのみで構成されても良い。
【0096】
アルミニウム含有量70g/l、Al/Cl=1.8(原子比)の塩基性塩化アルミニウム水溶液に、例えばアルミナ−シリカ組成比が60〜80:40〜20となるようにシリカゾルを添加し、無機繊維の前駆体を調製する。特にアルミナ−シリカ組成比は、70〜74:30〜26程度であることがより好ましい。アルミナ組成比が60%以下では、アルミナとシリカから生成されるムライトの組成比率が低くなるため、完成後のマット材の熱伝導度が高くなる傾向にある。
【0097】
次にこのアルミナ系繊維の前駆体にポリビニルアルコール等の有機重合体を加える。その後この液体を濃縮し、紡糸液を調製する。さらにこの紡糸液を使用して、ブローイング法により紡糸する。
【0098】
ブローイング法とは、エアーノズルから吹き出される空気流と紡糸液供給ノズルから押し出される紡糸液流とによって、紡糸を行う方法である。エアーノズルからのスリットあたりのガス流速は、通常40〜200m/sである。また紡糸ノズルの直径は通常0.1〜0.5mmであり、紡糸液供給ノズル1本あたりの液量は、通常1〜120ml/h程度であるが、3〜50ml/h程度であることが好ましい。このような条件では、紡糸液供給ノズルから押し出される紡糸液は、スプレー状(霧状)となることなく十分に延伸され、繊維相互で溶着されにくいので、紡糸条件を最適化することにより、繊維径分布の狭い均一なアルミナ繊維前駆体を得ることができる。
【0099】
紡糸が完了した前駆体を積層して、積層状シートを製作する。さらに積層状シートに対してニードリング処理を行う。ニードリング処理とは、ニードルを積層状シートに抜き差しして、シートの肉薄化を行う処理である。ニードリング処理には、通常ニードリング装置が用いられる。
【0100】
通常、ニードリング装置は、突き刺し方向(通常は上下方向)に往復移動可能なニードルボードと、積層状シートの表面および裏面の両面側に設置された一対の支持板とで構成される。ニードルボードには、積層状シートに突き刺すための多数のニードルが、例えば約25〜5000個/100cmの密度で取り付けられている。また各支持板には、ニードル用の多数の貫通孔が設けられている。従って、一対の支持板によって積層状シートを両面から押さえつけた状態で、ニードルボードを積層状シートの方に近づけたり遠ざけたりすることにより、ニードルが積層状シートに抜き差しされ、繊維の交絡された多数の交絡点が形成される。
【0101】
また、別の構成として、ニードリング装置は、2組のニードルボードを備えても良い。各ニードルボードは、それぞれの支持板を有する。2組のニードルボードを、それぞれ、積層状シートの表面および裏面に配設して、各支持板で積層状シートを両面から固定する。ここで、一方のニードルボードには、ニードリング処理時に他方のニードルボードのニードル群と位置が重ならないように、ニードルが配置されている。また、それぞれの支持板には、両方のニードルボードのニードル配置を考慮して、積層状シートの両面側からのニードリング処理時に、ニードルが支持板に当接しないように、多数の貫通孔が設けられている。このような装置を用いて、2組の支持板で積層状シートを両面側から挟み、2組のニードリングボードで積層状シートの両側からニードリング処理が行われても良い。このような方法でニードリング処理を行うことにより、処理時間が短縮される。
【0102】
次に、このようにニードリング処理の施された積層状シートを常温から加熱し、最高温度1250℃程度で連続焼成することで、所定の坪量(単位面積当たりの重量)のマット材が得られる。
【0103】
一般に、マット材のハンドリング性を向上させるため、得られたマット材には、樹脂のような有機バインダが含浸される。有機バインダとしては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ゴム系樹脂、スチレン系樹脂などが使用できる。例えばアクリル系(ACM)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)樹脂等を用いることができる。有機バインダの含有量(マット材の総重量に対する有機バインダの重量)は、例えば、1.0〜10.0重量%の範囲である。ただし、マット材に含浸される有機バインダは、そのようなマット材を備える排気ガス処理装置を使用した際に、装置から排出される有機成分量を増加させる一因となる。本発明では、装置から排出される有機成分量が少ないことを特徴の一つとしており、そのような観点からは、有機バインダは、マット材に含浸しない方がより好ましいといえる。
【0104】
このようにして製造されたマット材は、所定の形状に裁断される(例えば図1に示す形状)。
【0105】
(ステップS120)
次に、裁断されたマット材は、包装材の中に収容される。マット材を包装材中に収容する方法は、特に限られない。例えば、マット材よりも大きな単一のシート材で、マット材全体を覆い、その後、シート材の端部同士を接合することにより、マット材を包装材中に収容しても良い。あるいは、マット材よりも大きな寸法を有する2枚のシート材の間にマット材を配置し、シート材の端部同士を接合することにより、マット材を包装材中に収容しても良い。この他にも様々な方法を用いて、マット材が包装材中に収容されても良い。なおマット材を包装材中に収容する際には、少なくとも前述の(ii)の特徴が得られるようにして、マット製品を構成する必要があることに留意する必要がある。
【0106】
次に、マット材が収容された包装材の内部空間が外部環境と気体連通される。これは、例えば、包装材のいずれかの位置に開口部を形成すること(あるいは、予め形成しておくこと)により実施されても良い。あるいは、前述のようなマット材を包装材中に収容する工程の際に、意図的にシート材の接合部に不完全部分(すなわちシート材同士が完全に塞がれていない部分)を形成し、この不完全部を利用することにより、内部空間と外部環境とを気体連通しても良い。その他にも様々な方法を利用して、内部空間と外部環境とを気体連通しても良いことは、当業者には明らかである。
【0107】
なお、開口部を形成することにより、内部空間と外部環境とを気体連通させる場合は、形成された開口部を介して、無機繊維が外部に放出されないよう留意する必要がある。このため、開口部は、前述のシート材同士の接合部のような、マット材と直接接触する頻度の少ない包装材の位置に形成することがより好ましい。また、同様の理由から、開口部の寸法(開口部が円の場合は、直径)は、例えば0.1mm〜5.0mmの範囲であることが好ましく、例えば、1mm〜2mmである。
【0108】
このような工程を経て、包装材の内部空間にマット材を収容することができる。なお、包装材の外表面の一部には、両面テープを設置しても良い。例えば、包装材の排気ガス処理体と接する表面側に、両面テープを設置した場合、本発明によるマット製品を排気ガス処理体に巻回して固定する際に、排気ガス処理体と包装材とが仮留めされ、マット製品の巻回操作を容易に行うことが可能となる。
【実施例】
【0109】
以下、本発明の効果を実施例により説明する。
【0110】
(実施例1)
まず、アルミニウム含有量70g/l、Al/Cl=1.8(原子比)の塩基性塩化アルミニウム水溶液に、アルミナ系繊維の組成がAl:SiO=72:28となるように、シリカゾルを配合し、アルミナ系繊維の前駆体を形成した。次に、アルミナ系繊維の前駆体に、ポリビニルアルコールを添加した。さらに、この液を濃縮して紡糸液とし、この紡糸液を用いてブローイング紡糸処理で紡糸した。搬送キャリアガス(空気)流量は、52m/sであり、紡糸液の供給速度は、5.3ml/hである。
【0111】
その後、アルミナ系繊維の前駆体を折りたたんだものを積層して、アルミナ系繊維の原料シートを製作した。
【0112】
次に、この原料シートに対して、ニードリング処理を行った。ニードリング処理は、80個/100cmの密度でニードルが設置されたニードルボードを、原料シートの一方の側にのみ配設し、原料シートの片面側から行った。
【0113】
その後、得られた原料マットを常温から最高温度1250℃で、1時間、連続焼成した。さらに、このようにして得た厚さ7.3mm、坪量1400g/mのマット材を100mm×100mmの寸法に切断した。なお、この実施例では、マット材への有機バインダの含浸処理は、実施していない。
【0114】
次に、得られたマット材を包装材内に収容するため、以下の操作を行った。マット材と同一の形状で、マット材よりも一回り大きな寸法(縦120mm×横120mm)のPET製のシート(厚さ6.2μm)を2枚準備する。2枚のシートを位置が揃うように積層し、両シートの間に、マット材を、該マット材がシートの中央部に配置されるように設置する。この状態で、シーラー装置(白光株式会社製FV−801)を用いて、2枚のシートの端部同士を、全周にわたって熱融着させた。これにより、図7に示すような、包装材120S内にマット材30Sが収容されたマット製品のサンプル600が得られた。次に、マット材を取り囲むようにして形成された、マット材の寸法よりも一回り大きな寸法の接合部135Sの数カ所(図7の矢印E〜Hの位置)に、気体連通用の穴を形成した。穴の直径は、約1mm〜約5mmの範囲とした。
【0115】
このようにして得られたマット製品のサンプルを、実施例1とする。
【0116】
(実施例2)
実施例1と同様の方法により、実施例2に係るマット製品サンプルを製作した。ただし実施例2では、包装材の材料として、厚さが10μmの高密度ポリエチレンを使用した。その他の製造条件は、実施例1の場合と同様である。
【0117】
(比較例1)
実施例1と同様の方法により、比較例1に係るマット材を製作した。ただし比較例1では、焼成後のマット材の露出表面全体に、スプレーで、有機バインダを吹き付けた。有機バインダには、アクリル系ラテックスエマルジョンを使用した。有機バインダの吹き付け量(目標値)は、マット材(有機バインダを含む)の全重量に対して5wt%とした。なお比較例1では、包装材は使用していない。
【0118】
以上の工程により、比較例1に係るマット材のサンプルが得られた。
【0119】
(比較例2)
比較例1と同様の方法により、比較例2に係るマット材を製作した。ただし比較例2では、焼成後のマット材に、有機バインダを含浸させた。有機バインダには、アクリル系ラテックスエマルジョンを使用した。有機バインダの含浸量(目標値)は、マット材(有機バインダを含む)の全重量に対して10wt%とした。なお比較例2では、包装材は使用していない。
【0120】
以上の工程により、比較例2に係るマット材のサンプルが得られた。
【0121】
(比較例3)
比較例1と同様の方法により、比較例3に係るマット材を製作した。ただし比較例3では、焼成後のマット材に、有機バインダを含浸させた。有機バインダには、アクリル系ラテックスエマルジョンを使用した。有機バインダには、アクリル系ラテックスエマルジョンを使用した。有機バインダの含浸量(目標値)は、マット材(有機バインダを含む)の全重量に対して11.5wt%とした。
【0122】
得られたマット材の片面(100mm×100mmの表面の一つ)に、厚さが80μmのポリエチレン製フィルムを貼り付けた。
【0123】
以上の工程により、比較例3に係るマット材のサンプルが得られた。
【0124】
(比較例4)
比較例1と同様の方法により、比較例4に係るマット材を製作した。ただし比較例4では、以下の方法で、得られたマット材に対して、有機フィルムによる減圧パック処理を実施した。
【0125】
まず、2枚の有機フィルム(寸法110mm×110mm)の間に、マット材を配置した。有機フィルムには、PET層/SiO蒸着層(100nm)/PET層の3層構造のものを使用した。有機フィルムの総厚さは、100μmである。次に、上下の2枚の有機フィルムの外周部を、前述のシーラー装置を用いて熱溶着した。なお、この際には、有機フィルム内の空間を500mmHgの真空度で減圧した。これにより、マット材の各露出表面に、有機フィルムが「真空」密着された。なお、比較例4において、マット材自身には、有機バインダは、含まれていない。
【0126】
以上の工程により、比較例4に係るマット材のサンプルが得られた。
【0127】
表1には、実施例1、2および比較例1〜4に係るサンプルの仕様をまとめて示した。
【0128】
【表1】

(無機繊維の飛散性試験)
前述の各サンプルを用いて無機繊維の飛散性試験を行った。試験装置の一部を図8に示す。
【0129】
飛散性試験は以下のように実施した。図8に示すように、2個のクリップ730を用いて、各サンプル601(包装材は、図示されていない)を試験装置710から突出したアーム枠740(全長915mm、幅322mm)の先端に固定する。アーム枠740は、他方の先端が試験装置710の垂直枠750と接続されている。垂直枠750は、土台枠部分751の上に、直立するように設置されている。また、垂直枠750は、図8のXZ平面に延伸する主平面(Z方向の高さ(土台枠部分751の高さを除く)1016mm×X方向の長さ322mm)を有する。図8において、垂直枠750を構成する2本の金属柱753のX方向の幅は、25mmで、Y方向の幅は、25mmである。アーム枠740は、垂直枠750の上端(図示されていない)に接続された先端部を支点として、垂直枠の主表面に対して垂直な平面(YZ平面)上で回転することができる。この回転は、垂直枠の主表面から、少なくとも、この主表面に対して90゜以下の角度範囲で行うことができる。試験の際に、アーム枠740を鉛直方向に対して90゜の角度(すなわち水平状態)に保持した状態から落下させると、アーム枠740は、YZ平面に沿って、矢印の向きに90゜回転し、これに伴って、サンプル760も矢印の向きに回転する。アーム枠740は、最終的に垂直枠750の金属柱753に衝突する。このときの衝撃によって、サンプル601から無機繊維の一部が飛散する。試験後、サンプル601をクリップ130から静かに取り外す。その後、以下の式を用いて、無機繊維の飛散率を求めた:

無機繊維の飛散率(%)={(試験前のサンプルの重量−試験後のサンプルの重量)/(試験前のサンプルの重量)}×100 式(1)

前述の表1および図9には、各サンプルに対して得られた飛散性試験の結果を示す。これらの結果から、実施例1および2に係るサンプルでは、比較例1〜3と比べて、無機繊維の飛散率が有意に抑制されていることがわかる。なお、比較例4では、マット材の全露出面が有機フィルムで真空密着されているため、無機繊維の飛散率は、マット材を包装材内に収容した実施例1、2に係るサンプルと同様、低い値を示した。
【0130】
(放出有機成分量の測定)
前述の実施例1〜2、および比較例1〜4に係る各サンプルを用いて、高温保持の際に、それぞれのサンプルから放出される有機成分量の測定を行った。放出有機成分量は、以下のようにして測定した。
【0131】
まず各サンプルを110℃で1時間乾燥させた後、サンプルの重量(mg)を測定する(焼成前重量)。次にサンプルを600℃で1時間焼成する。その後、室温まで降温し、再度重量(mg)を測定する(焼成後重量)。得られた値を用いて、以下の式

放出有機成分量(%)=
{(焼成前重量−焼成後重量)/(焼成前重量)}×100 式(2)

から、サンプルの放出有機成分量を求めた。
【0132】
前述の表1および図10には、各マット材に対して得られた放出有機成分量の測定結果をまとめて示す。これらの結果から、実施例1、2に係るサンプルでは、比較例1〜4に係るサンプルに比べて、放出有機成分量が有意に抑制されていることがわかる。特に、比較例4のサンプルと比較すると、実施例1、2のサンプルでは、放出有機成分量が約10分の1まで低下した。
【0133】
このように、本発明では、従来のマット材に比べて、無機繊維の飛散がより生じにくく、排出される有機成分量の少ないマット材を提供することができることがわかった。
【0134】
(抜き荷重評価試験)
前述の実施例1、比較例2および比較例3のサンプルを用いて、抜き荷重評価試験を行った。ただし、これらのサンプルでは、マット材を図1に示す形状に切断した。マット材の全長Lmは、270mmであり、幅Wmは、85mmである。また、実施例1のサンプルでは、マット材よりも一回り大きな寸法の包装材(全長Lr=290mm、幅Wr=85mm)内にマット材を収容し、図1に示す形状のマット製品を調製した。
【0135】
抜き荷重評価試験には、インストロン社製インストロン5567測定装置を使用した。この装置は直径40mmφのヘッドを有し、このヘッドによって加えることのできる最大荷重は、30kNである。
【0136】
抜き荷重は、次の方法で測定した。まず、各サンプルを外径が80mmφの円柱状排気ガス処理体(全長95mm)の外周面に巻き回し、マット材の端部の凸部と凹部を嵌合して、サンプルを排気ガス処理体の外周面に固定する。次に、このサンプルが巻き回された排気ガス処理体を、排気ガス処理体の2つの開口面が露出されるようにして、内径88mmφ、全長115mmの円筒状ケース内に設置する。なお、ケースは、昇温が可能な機構、例えばヒータを備えている。
【0137】
次に、このケースを、立てた状態(すなわち排気ガス処理体の開口面が水平になる状態)で測定装置に設置し、上方から鉛直方向に沿って、測定装置のヘッドを下降させ、ヘッドを排気ガス処理体の開口面に接触させる。この状態で、ヘッドを0.05mm/分の速度で、鉛直方向に沿って下方に移動させ、サンプルと排気ガス処理体の間に剪断力を加える。このような操作で、ヘッドが移動する際に生じる荷重値を連続的に測定する。
【0138】
なお、本評価試験では、測定荷重値が一定となった段階(排気ガス処理体に対してサンプルが移動し始めた状態:このときの測定荷重値を「初期荷重値」という)で、ケースの昇温を開始し、測定荷重値の温度変化を測定した。昇温速度は、15℃/分とした。
【0139】
このような測定では、一般に、測定荷重値は、最初に時間(および温度)とともに低下し、最小値に達した後、逆に増加する傾向を示す。この挙動は、次のように説明できる。温度が上昇し、サンプルに含まれる有機成分が溶融し始めると、この融液のため、サンプルと排気ガス処理体の間の摩擦力が減少する。従って、最初の段階では、測定荷重値は、徐々に低下する。ただし、さらに昇温が進むと、サンプルに由来する有機成分の融液が蒸発し始める。従って、融液量の低下とともに、サンプルと排気ガス処理体の間の摩擦力は、再度向上し、これに伴い、測定荷重値が増加する。その後、有機成分が完全に蒸発すると、測定荷重値は、ほぼ一定の値となる。
【0140】
以上のような測定において、得られた測定荷重値の変化から、以下の式を用いて、各サンプルの抜き荷重低下率を算出した。
【0141】
抜き荷重低下率(%)=
{(初期荷重値(N)−最小荷重値(N))/(初期荷重値(N))}×100 式(3)
結果を図11に示す。この結果から、実施例1のサンプルでは、他のサンプルに比べて、抜き荷重低下率が小さいことがわかった。これは、実施例1のサンプルでは、サンプルに含まれる有機成分量が少なく、マット材と排気ガス処理体の間に、有機成分の融液が存在している期間が短いためであると考えられる。すなわち、本発明のマット製品では、高温下での包装材の溶融により、マット材と排気ガス処理体の間に有機成分の融液が生じても、マット材の排気ガス処理体に対する保持力が大きく低下する前に、融液が速やかに消失し、マット材の保持力の低下が有意に抑制されたものと考えられる。
【0142】
従って、本発明によるマット製品を排気ガス処理装置の保持シール材として使用した場合、排気ガス処理体に対して保持シール材の位置ずれが生じにくい排気ガス処理装置を提供することが可能となるという追加の効果が得られる。
【0143】
(実施例3)
実施例1と同様の方法により、実施例3に係るマット製品サンプルを製作した。ただし実施例3では、図1に示す形状のマット材を使用した(Lm=270mm、Wm=85mm)。また、実施例3では、包装材の材料として、PET製シート(厚さ6.2μm)と不織布シート(厚さ約340μm)の2枚のシートを準備した。これらのシートは、マット材の形状に合わせて、マット材よりも一回り大きな寸法に切断した(Lr=290mm、Wr=90mm)。不織布シートには、LDPE(リニアLDPE)/PET/LDPE(リニアLDPE)の3層構造のものを使用した。
【0144】
2枚のシートを位置が揃うように積層し、両シートの間に、マット材を、該マット材がシートの中央部に配置されるように設置した。この状態で、シーラー装置(白光株式会社製FV−801)を用いて、2枚のシートの端部同士を、全周にわたって熱融着させた。
【0145】
その後、接合部の図1の矢印A〜Dの位置に、気体連通用の穴を形成した。穴の直径は、約1mm〜約5mmの範囲とした。
【0146】
その他の製作条件は、実施例1の場合と同様である。
【0147】
図12には、得られたマット製品サンプルの不織布シートの表面電子顕微鏡写真を示す。この図から、本マット製品の不織布シート側の主表面は、不織布繊維による多数の微細な凹凸を有することがわかる。
【0148】
(実施例4)
実施例3と同様の方法により、実施例4に係るマット製品サンプルを製作した。ただし実施例4では、包装材の材料として、2枚のHDPE製シート(Lr=290mm、Wr=90mm×厚さ約15μm)を使用した。
【0149】
その後、実施例3と同様の方法により、2枚のHDPE製シートを熱融着させ、気体連通用の穴を有する包装材内に、マット材が収容されたマット製品サンプルを得た。
【0150】
次に、包装材の一方の主表面(元の1枚のHDPE製シート部分)全体を熱処理した。熱処理は、ヒートドライヤを用いて、この表面に30秒間、熱風を送ることにより行った。これにより、包装材の一方の主表面に、ミクロ的な凹凸を有する表面が形成された。
【0151】
図13および図14には、実施例4に係るサンプルにおける包装材のそれぞれの主表面の電子顕微鏡写真を示す。図13は、包装材の熱処理された主表面の状態を表しており、図14は、包装材の熱処理されていない主表面の状態を表している。両図の比較から明らかなように、熱処理によって、HDPE製シートの表面には、ミクロ的な凹凸(凹凸差約100μm〜300μm程度)が形成されていることがわかる。なお、一つの凸部の幅は、約100μm〜300μm程度であった。
【0152】
(保持力評価試験)
前述の実施例3、4のサンプルを用いて、保持力評価試験を行った。
【0153】
保持力評価試験は、次の方法で実施した。まず、各サンプルを、外径が80mmφの円柱状排気ガス処理体(全長95mm)の外周面に巻き回し、マット材の端部の凸部と凹部を嵌合して、サンプルを排気ガス処理体の外周面に固定した。
【0154】
この際に、実施例3のサンプルでは、不織布の側が内側となるように、また実施例4のサンプルでは、熱処理を実施した主表面側が内側となるようにして、サンプルを排気ガス処理体に巻き回し、固定した。なお、いずれの場合も、サンプルは、排気ガス処理体の一方の端部からこれに近接するサンプルの端部までの距離が、排気ガス処理体の他方の端部からこれに近接するサンプルの端部までの距離がほぼ等しくなるようにして、排気ガス処理体に固定した。
【0155】
図15には、使用した排気ガス処理体の外周面の電子顕微鏡写真を示す。排気ガス処理体の外周面は、多数の極めて微細な凹凸を有することがわかる。
【0156】
このサンプルが巻き回された排気ガス処理体を、内径88mmφ、全長115mmの円筒状ケース内に手動で圧入し、排気ガス処理体が所定の位置まで挿入された時点における、サンプルの所定の位置からのずれ量を測定した。この試験では、測定されたずれ量が少ない程、サンプルは、排気ガス処理体に対して、良好な保持力を有すると言える。
【0157】
測定の結果、実施例3のサンプルでは、ずれ量は、3mmであった。また、実施例4のサンプルでは、ずれ量は、5mmであった。このことから、包装材の排気ガス処理体と接する側の摩擦係数を大きくすることにより、排気ガス処理体に対して、良好な保持力が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明のマット製品および排気ガス処理装置は、車両等に使用される排気ガス処理装置の保持シール材等に利用することができる。
【符号の説明】
【0159】
30 マット材
31 第1の表面側
32 第2の表面側
50 嵌合凸部
60 嵌合凹部
70 マット材の短辺
71 マット材の短辺
100 マット製品
120 包装材
130 内部空間
135 接合部
212 ケーシング
220 排気ガス処理体
240 保持シール材
410 排気ガス処理装置
420 入口管
440 出口管
570 消音装置
572 インナーパイプ
574 吸音材
576 アウターシェル
600 実施例1に係るサンプル
601 試験サンプル
710 飛散性試験用の試験装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維を含むマット材を有するマット製品であって、
前記マット材は、全長Lmを有し、全長Lrを有する包装材の内部空間に収容され、
前記包装材の内部空間は、外部環境と気体連通されており、
前記包装材の全長Lrは、前記マット材の全長Lmよりも長く、これにより前記マット材は、全長方向に沿って、前記内部空間内を移動することが可能であることを特徴とするマット製品。
【請求項2】
前記包装材の内部空間は、接合部により取り囲まれていることを特徴とする請求項1に記載のマット製品。
【請求項3】
前記接合部は、前記マット材の厚さ方向と平行な方向から見た場合、
実質的に長方形、正方形、円形、もしくは楕円形の形状を有し、または
一組の対向する辺のそれぞれに凹部および凸部を有する、実質的に長方形の形状を有することを特徴とする請求項2に記載のマット製品。
【請求項4】
前記接合部は、前記マット材の厚さ方向と平行な方向から見た場合、前記マット材と実質的に等しい形状、および前記マット材よりも大きな寸法を有することを特徴とする請求項2に記載のマット製品。
【請求項5】
前記内部空間は、前記包装材のいずれかの箇所に設けられた1または2以上の開口部により、外部環境と気体連通されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載のマット製品。
【請求項6】
前記1または2以上の開口部は、前記接合部の一部が開口することにより形成されることを特徴とする請求項5に記載のマット製品。
【請求項7】
前記開口部は、0.1mm〜5.0mmの範囲の寸法を有することを特徴とする請求項5または6に記載のマット製品。
【請求項8】
前記マット材の全長Lmに対する前記包装材の全長Lrの割合は、110%〜130%の範囲であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載のマット製品。
【請求項9】
前記マット材および前記包装材は、それぞれ、幅WmおよびWrを有し、
前記マット材の幅Wmに対する前記包装材の幅Wrの割合は、100%〜130%の範囲であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一つに記載のマット製品。
【請求項10】
前記包装材は、有機材料を含むフィルムで構成されることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一つに記載のマット製品。
【請求項11】
前記フィルムは、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリプロピレンおよびポリエチレンからなる群から選定された、少なくとも一つの材料を含むことを特徴とする請求項10に記載のマット製品。
【請求項12】
前記包装材に含まれる有機成分の量は、前記マット材の重量と前記包装材の重量の総和に対して、9wt%未満であることを特徴とする請求項10または11に記載のマット製品。
【請求項13】
前記マット材は、第1の表面、および該第1の表面と反対側の第2の表面を有し、
前記包装材は、前記第1の表面と対向する第1の側、および前記第2の表面と対向する第2の側を有し、
前記包装材の前記第1の側および第2の側の外側表面は、実質的に異なる摩擦係数を有することを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一つに記載のマット製品。
【請求項14】
前記包装材の前記第1の側および第2の側の外側表面は、異なる材料で構成されていることを特徴とする請求項13に記載のマット製品。
【請求項15】
前記包装材の少なくとも前記第1の側の外側表面は、不織布で構成されていることを特徴とする請求項14に記載のマット製品。
【請求項16】
前記包装材の前記第1の側の外側表面は、ミクロ的な凹凸を有することを特徴とする請求項13乃至15のいずれか一つに記載のマット製品。
【請求項17】
前記包装材は、少なくとも前記第2の側の外側表面に、マクロ的な凹凸を有することを特徴とする請求項13乃至16のいずれか一つに記載のマット製品。
【請求項18】
前記外側表面には、エンボス加工、コロナ加工および波形加工のうちの少なくとも一つの処理がされていることを特徴とする請求項17に記載のマット製品。
【請求項19】
前記マット材は、実質的に有機成分を含まないことを特徴とする請求項1乃至18のいずれか一つに記載のマット製品。
【請求項20】
前記マット材は、アルミナ繊維、ムライト繊維、シリカアルミナ繊維、ガラス繊維、ロックウールおよび生体溶解性繊維で構成された群から選定された、少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1乃至19のいずれか一つに記載のマット製品。
【請求項21】
前記マット材は、複数のマット材を積層して構成されることを特徴とする請求項1乃至20のいずれか一つに記載のマット製品。
【請求項22】
無機繊維を含むマット材を有するマット製品を製造する方法であって、
無機繊維を含み、全長Lmを有するマット材を準備するステップと、
前記マット材を、全長Lrを有する包装材の内部空間に収容するステップであって、前記包装材の内部空間は、外部環境と気体連通されており、前記包装材の全長Lrは、前記マット材の全長Lmよりも長く、これにより前記マット材は、全長方向に沿って、前記内部空間内を移動することが可能である、ステップと、
を有することを特徴とする、マット製品を製造する方法。
【請求項23】
前記マット材を、全長Lrを有する包装材の内部空間に収容するステップは、
前記マット材を取り囲む接合部が形成されるように、前記包装材を接合するステップを有することを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記接合部は、前記マット材の厚さ方向と平行な方向から見た場合、前記マット材と実質的に等しい形状、および前記マット材よりも大きな寸法を有することを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記内部空間は、前記包装材のいずれかの箇所に設けられた1または2以上の開口部により、外部環境と気体連通されていることを特徴とする請求項22乃至24のいずれか一つに記載の方法。
【請求項26】
排気ガスの流通する2つの開口面を有する排気ガス処理体と、
前記排気ガス処理体の開口面を除く外周面の少なくとも一部に巻き付けて使用される保持シール材と、
該保持シール材が巻き回された前記排気ガス処理体を収容する筒状部材と、
で構成される排気ガス処理装置であって、
前記保持シール材は、請求項1乃至21のいずれか一つに記載のマット製品で構成されることを特徴とする排気ガス処理装置。
【請求項27】
前記排気ガス処理体は、触媒担持体または排気ガスフィルタであることを特徴とする請求項26に記載の排気ガス処理装置。
【請求項28】
インナーパイプと、該インナーパイプの外方を覆うアウターシェルと、前記インナーパイプとアウターシェルの間に設置された吸音材とを有する吸音装置であって、
前記吸音材は、請求項1乃至21のいずれか一つに記載のマット製品で構成されることを特徴とする消音装置。
【請求項29】
排気ガスの流通する2つの開口面を有する排気ガス処理体と、
前記排気ガス処理体の開口面を除く外周面の少なくとも一部に巻き付けて使用される保持シール材と、
該保持シール材が巻き回された前記排気ガス処理体を収容する筒状部材と、
で構成される排気ガス処理装置であって、
前記保持シール材は、無機繊維を含むマット材を有するマット製品で構成され、
前記マット材は、全長Lmを有し、全長Lrを有する包装材の内部空間に収容され、
前記包装材の内部空間は、外部環境と気体連通されており、
前記包装材の全長Lrは、前記マット材の全長Lmよりも長く、これにより前記マット材は、全長方向に沿って、前記内部空間内を移動することが可能であり、
前記マット材は、第1の表面、および該第1の表面と反対側の第2の表面を有し、
前記包装材は、前記第1の表面と対向する第1の側、および前記第2の表面と対向する第2の側を有し、
前記包装材の前記第1の側の外側表面は、前記第2の側の外側表面に比べて、より大きな摩擦係数を有し、
前記保持シール材は、前記包装材の前記第1の側の外側表面が前記排気ガス処理体の側となるようにして、前記排気ガス処理体に巻き回されることを特徴とする排気ガス処理装置。
【請求項30】
インナーパイプと、該インナーパイプの外方を覆うアウターシェルと、前記インナーパイプとアウターシェルの間に設置された吸音材とを有する吸音装置であって、
前記吸音材は、無機繊維を含むマット材を有するマット製品で構成され、
前記マット材は、全長Lmを有し、全長Lrを有する包装材の内部空間に収容され、
前記包装材の内部空間は、外部環境と気体連通されており、
前記包装材の全長Lrは、前記マット材の全長Lmよりも長く、これにより前記マット材は、全長方向に沿って、前記内部空間内を移動することが可能であり、
前記マット材は、第1の表面、および該第1の表面と反対側の第2の表面を有し、
前記包装材は、前記第1の表面と対向する第1の側、および前記第2の表面と対向する第2の側を有し、
前記包装材の前記第1の側の外側表面は、前記第2の側の外側表面に比べて、より大きな摩擦係数を有し、
前記吸音材は、前記包装材の前記第1の側の外側表面が前記インナーパイプの側となるようにして、前記インナーパイプに巻き回されることを特徴とする吸音装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−101308(P2010−101308A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113805(P2009−113805)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】