説明

マルチバンドフィルタ

多層基板上に構成され、バンドパスフィルタ(BP)及びハイパスフィルタ(HP)を含む並列回路からなるバンドストップフィルタが提案される。両方のフィルタは、前記基板へ集積化されたLC要素のかたちで、少なくとも部分的に実現される。さらに、回路部品は、前記基板上にディスクリート部品として配置され得る。前記バンドパスフィルタを有するフィルタ分岐内には、電気音響共振器(R)が、グランドへの横断分岐内に配置される。前記フィルタにより、広い阻止帯域が得られる一方、1つの通過帯域又は複数の通過帯域は、複数の無線帯域を含み得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2つの移動体無線帯域のための、送信及び受信が可能な通過帯域を有するマルチバンドフィルタに関する。さらに、上記フィルタは、第3無線送信システムのための阻止帯域を有する。
【背景技術】
【0002】
複数の移動体無線帯域のためのマルチバンドフィルタは、異なる周波数範囲を有する。これらの異なる周波数範囲が通過可能となるためには、これらの周波数範囲に割り当てられる帯域が、1つの広い通過帯域であるか、又は複数の狭い通過帯域である必要がある。
【0003】
特許文献1〜3には、2つのバンドパスフィルタを含む並列回路からなるマルチバンドフィルタが開示されている。特許文献4には、3つのバンドパスフィルタによって形成される並列回路を含む広帯域パスバンドフィルタが開示されている。さらに、マルチバンドフィルタは、通信フィルタ回路の特殊な設計によって得られる。
【0004】
特許文献5には、高域バンドパスフィルタ及び低域バンドパスフィルタを含み、分離した4つの出力に応じて、4つの異なる周波数範囲に入力信号を分配するマルチプレクサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,815,052号明細書
【特許文献2】米国特許第6,043,725号明細書
【特許文献3】米国特許第6,115,592号明細書
【特許文献4】米国特許第5,184,096号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第1,347,573号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
既知のマルチバンドフィルタの問題の1つは、広い通過帯域が、阻止帯域から十分離れたところにのみ得られることである。あるいは、既知のマルチバンドフィルタは、阻止帯域に向かって平らになる側面(フランク)を有する送信範囲のみを有する。その結果、これらのフィルタは、阻止帯域と第1の通過帯域との間に、過度に大きな送信幅を含む。
【0007】
よって、異なる移動体無線帯域のために、阻止帯域上に位置する少なくとも2つの通過帯域を有するマルチバンドフィルタ、特に、阻止帯域と通過帯域との間に小さく改良された送信幅を備えるマルチバンドフィルタを明示することが、本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、この課題は、請求項1の特徴を含むバンドストップフィルタによって解決される。本発明の有利な形態は、その他の請求項から得られる。
【0009】
互いに並列に接続される第1及び第2フィルタ分岐を有するバンドストップフィルタが提案される。第1部分フィルタは、第1フィルタ分岐内に配置される。第1部分フィルタは、バンドパスフィルタを含む。バンドパスフィルタは、第1通過帯域を有する。第2部分フィルタは、第2フィルタ分岐内に配置される。第2部分フィルタは、ハイパスフィルタを含む。ハイパスフィルタは、第2通過帯域を有する。第2通過帯域は、周波数に関して、第1通過帯域の上に配置される。第1及び第2フィルタ分岐は、入力ポートと出力ポートとの間で電気的に並列に接続されることによって、各々の場合において、共通の信号入力及び共通の信号出力と電気的に接続される。両方のポートの各々は、2つの電気的端子を含み得る。それらの1つは、接地することができる。さらに、横断分岐は、第1フィルタ分岐から横断して、グランド、インピーダンス要素、そして特に横断分岐内に配置される共振器と接続することができる。このような構造から、第1通過帯域の下に形成された阻止帯域を有するバンドストップフィルタが生成される。このバンドストップフィルタは、急勾配の側面を有する第1通過帯域への送信を受ける。第2通過帯域は、第1通過帯域の上に形成される。
【0010】
バンドストップフィルタは、少なくとも2つの構造化金属平面を有する多層基板上に構成される。この場合、バンドパスフィルタ及びハイパスフィルタは、多層基板中に少なくとも部分的に集積化されたLC要素から構成される。LC要素の適切な設計、且つ、共振器の共振周波数の対応する位置が得られれば、低い挿入損失や高い抑制が生じる近傍の阻止帯域、及び、第1通過帯域に関する小さな送信幅に関連して、各々の場合において5%以上という極めて高い比帯域幅を有する複数の通過帯域を含むことができる。さらに、少なくとも部分的に基板へ集積化されたバンドストップフィルタは、コンパクトで、製造コストが低い。
【0011】
少なくとも500のQ(quality factor)を有する電気音響共振器がインピーダンス要素として使用される場合には、阻止帯域と第1通過帯域との間の急勾配の側面にとって有利である。共振器は、その共振周波数が第1通過帯域の上端と略一致するようなものが好ましい。
【0012】
共振器が高い極零分離を有すれば、特に広い第1通過帯域が得られる。電気音響共振器の場合、分離の全ては、共振器のピエゾ電気材料の、より大きくより高い連結部である。リチウムナイオベート及びポタシウムナイオベートは、例えば電気音響共振器のための高度な連結材料として使用することができる。
【0013】
しかしながら、電気音響共振器と直列に接続されるインダクタンスにより、電気音響共振器の極零分離を増加することも可能である。したがって、一形態では、グランドに関する横断分岐内において、共振器は、インダクタンスと直列に接続される。この場合、リチウムタンタレートも、ピエゾ電気材料と同様、適切である。
【0014】
電気音響共振器は、SAW(surface acoustic wave)共振器、BAW(bulk acoustic wave)共振器、又はセラミックマイクロ波共振器であってもよい。これらの各々は、高いQを実現し得る。
【0015】
バンドパスフィルタ及びハイパスフィルタを構成するLC要素に関しては、少なくとも1つの部分が、基板内の集積化された要素として、低コストで実現される。それらのQは、例えば50以下である。したがって、LC要素の各部は、キャパシタ及び/又はコイルのかたちで、特に集積化されたLC要素を有する基板表面に実装され、ディスクリート要素として実現される。例えば、基板内へ集積化された要素のかたちで、比較的小さな製造許容誤差で生産され得るキャパシタを実現しながら、インダクタンスの少なくとも一部をディスクリートコイルとして実現することが有利である。
【0016】
提案されるマルチバンドフィルタの1つの可能な適用例では、阻止帯域が、470MHz〜750MHzの帯域と一致し、DVB−H(digital video broadcast-handheld)システムのために用意される。一方、送信帯域及び受信帯域のための第1及び第2通過帯域は、1GHz〜2GHzの範囲で働く従来の移動体無線システムに割り当てられる。したがって、このように設計されたバンドストップフィルタは、少なくとも824MHz〜960MHzの範囲の第1通過帯域、及び1710MHz〜2170MHzの範囲の第2通過帯域を有する。ハイパスフィルタを有する第2フィルタ分岐の入力側及び出力側に配置された直列キャパシタンスによって、及び第1フィルタ分岐の入力及び出力における直列インダクタンスによって、2つのフィルタ分岐のうち1つのみが送信可能となる。一方、他の各分岐は、開回路を構成することができる。
【0017】
しかしながら、ハイパスフィルタ(第2部分フィルタ)のカットオフ周波数を第1通過帯域の範囲内へシフトすることも可能である。このことの効果は、1GHzの範囲内の周波数がバンドストップフィルタに適用されるとき、第1及び第2フィルタ分岐の両方が、電力(power)を送ることができることである。しかしながら、2GHzの範囲内の信号は、もっぱら、第2フィルタ分岐内で送信される。一方、第1部分フィルタは、開回路を構成する。ハイパスフィルタのカットオフ周波数の適切な選択を通じて、僅かに上昇した抑制と共にほんの僅かな落ち込みを第1通過帯域の上に有する非常に広い送信帯域を実現し、いわゆる低挿入損失で、再び最適な約1300MHzで送信することが可能になる。
【0018】
通過帯域は、実際には、もっぱら類似の寸法のバンドパスフィルタ及びハイパスフィルタのLC要素により創造される。第1フィルタ分岐に関する横断分岐内へ配置されたインピーダンス要素によって、第1通過帯域から阻止帯域へ急勾配となる送信が実現される。一実施形態では、およそ750MHzに至るまでは少なくとも−13dBの抑制で、700MHz以下では少なくとも−25dB以上の抑制で、妨害する。
【0019】
第1フィルタ分岐内の適切なバンドパスフィルタの1つは、少なくとも第1及び第2直列インダクタンスと、第1及び第2直列キャパシタンスと、そこを横断して接地される第1並列インダクタンスと、を含む。バンドパスフィルタは、さらに、第3直列インダクタンスと、第2並列インダクタンスと、を任意に含んでもよい。第1及び第2並列インダクタンスは、それぞれ第2フィルタ分岐を横断する専用の分岐内に配置され、キャパシタンスと直列に接続し、各横断分岐内に同様に配置することができる。
【0020】
第2フィルタ分岐内の適切なハイパスフィルタの1つは、第1及び第2直列キャパシタンスと、接地される横断分岐内の2つの直列キャパシタンスの間に配置されるインダクタンスと、を含んでもよい。ハイパスフィルタの横断分岐内のインダクタンスは、さらに、横断分岐内に同様に配置されるキャパシタンスと直列に接続されてもよい。
【0021】
例えば移動体無線システムの送信分岐内にある場合に、高電力がバンドストップフィルタに適用されれば、共振器は、特に電力耐久性(power strength)を有し、1ワット以上の電力供給に相当する損害を受けることなく、30dBm以上の信号に耐えることができる。
【0022】
共振器の電力耐久性は、例えばシングルポートとして形成される。SAW共振器の数は、縦列(直列)接続(cascading)によって増加してもよい。例えば直列接続された2つの共振器を2重に縦列接続することによって、電力耐久性を4倍にすることができる。この場合、そのように縦列接続された共振器のインピーダンスは、4倍相当の共振器領域によって、縦列接続しない共振器と比較して、不変のままでもよい。
【0023】
共振器が信号出力付近の第1フィルタ分岐内に配置されるとき、又は共振器を有する横断分岐が第1フィルタ分岐内に一定間隔になるように配置され、バンドストップフィルタが対応する極性と接続されるとき、共振器も、より低電力の適用を受ける。
【0024】
SAW共振器が第1フィルタ分岐に関する横断分岐内で用いられる場合、リフレクタを省略して、1ポート共振器として形成することができる。この場合、追加のチップ領域が節約され、バンドストップフィルタ全体のための基板領域も同様に低減される。
【0025】
提案されるバンドストップフィルタは、特に第1及び第2通過帯域内に送信路及び受信路を有する携帯電話(mobile telephones)で使用することができる。また、フィルタがアンテナと送信増幅器との間の送信路内で用いられる場合、送信増幅器内においてノイズに起因して生じ得る阻止帯域内にある干渉信号は、バンドストップフィルタによって取り除くことができる。阻止帯域内の信号の高い抑制は、第1又は第2通過帯域内での同時的な電話動作の結果として、同様に移動体無線装置内に実現されるDVB−H(= digital video broadcast-handheld)の受信分岐が干渉なく動作することを可能にする。
【0026】
このようなバンドストップフィルタがない場合、DVB−H周波数範囲内にある送信増幅器内のノイズが、DVB−Hシステムのために必要とされる第2アンテナへ送信されたり、受信の質を減少させる原因となったり、又はDVB−H受信との干渉の原因となったりすることがあり得るだろう。したがって、バンドストップフィルタは、電力増幅器とアンテナとの間の1つ又は複数の送信分岐内に配置されることが好ましい。バンドストップフィルタとアンテナとの間で、アンテナスイッチ、デュプレクサ、もしくはダイプレクサの少なくとも1つによって、又はこれらの組み合わせによって、さらに送信分岐及び受信分岐に分岐してもよい。
【0027】
有利な発展形の1つでは、ブリッジ回路がバンドストップフィルタのために用意される。そのブリッジ回路によって、バンドストップフィルタが移動体無線路(ここでは送信路)から取り除かれ、そしてDVB−Hが作動しなれば、ブリッジ接続される。バンドストップフィルタの追加のフィルタ要素の結果として生じる可能性がある電気的な損失は、それによって、DVB−Hが作動する期間に制限され得る。ブリッジ回路は、ブリッジ路を開閉する追加のスイッチを有してもよい。
【0028】
以下、提案されるバンドストップフィルタは、代表的な実施形態及びその関連図面に基づき、より詳細に説明される。これらの図は、純粋に図式的に実際の寸法ではなく示され、単に発明の説明のために提供されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】バンドストップフィルタの第1実施形態を示す図である。
【図2】第2実施形態を示す図である。
【図3】第3実施形態を示す図である。
【図4】第4実施形態を示す図である。
【図5】図1〜図4に示したバンドストップフィルタの送信動作を示す図である。
【図6】分離して考えられる第1及び第2のフィルタ分岐の送信動作を示す図である。
【図7】多層基板上に実現したバンドストップフィルタを示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、提案されたバンドストップフィルタの第1実施形態を示している。第1フィルタ分岐FZ1及び第2フィルタ分岐FZ2は、第1端子T1と第2端子T2との間において並列に接続されている。バンドパスフィルタBPは、第1フィルタ分岐FZ1内に配置されている。上記バンドパスフィルタは、直列に接続される第1インダクタンスL1、第1キャパシタンスC1、第3キャパシタンスC3、及び第5インダクタンスL5を含む。第1キャパシタンスC1と第3キャパシタンスC3との間には、第2インダクタンスL2が、グランドに関する横断分岐内に配置されている。第3キャパシタンスC3と第5インダクタンスL5との間には、共振器Rと、これと直列に接続される第4インダクタンスL4とが、グランドへの横断分岐内に配置されている。ここでの番号付けは、各回路素子タイプの対応する番号の存在を意味しない。さらに、この番号付けは、異なる素子又は回路点を含め、全体にわたってカウントアップする。
【0031】
2つのフィルタ分岐FZ1及びFZ2は、多層基板上に実現される。この場合、全てのキャパシタンスは、互いに隣り合う基板の金属平面から構成される金属領域のかたちで多層基板内に集積化されたキャパシタンスとして存在し得る。同様に、インダクタンスLの部分は、多層基板内に集積化された部分として実現され得る。しかしながら、少なくともインダクタンスの部分は、それぞれのケースにおいてディスクリートデバイスとして実現され、好ましくは多層基板の表面に実装される。
【0032】
共振器Rは、好ましくは電気音響共振器、例えばSAW共振器である。SAW共振器は、例えばフリップチップ技術により、ベアダイとして同様に多層基板の表面上に配置され、基板内に集積化された相互接続部と電気的に接続される。
【0033】
第2フィルタ分岐内に実現されたハイパスフィルタHPは、第6キャパシタンスC6と第8キャパシタンスC8とを有する。これら第6キャパシタンスC6と第8キャパシタンスC8との間には、グランドへの横断分岐内に第7インダクタンスL7が配置される。
【0034】
図2は、提案されたバンドストップフィルタの別の実施形態を示している。本実施形態では、第1実施形態とは異なり、横断分岐のハイパスフィルタ内において、直列に接続される第7インダクタンスL7、第7キャパシタンスC7が、接地される。追加の回路素子(第7キャパシタンス)に基づいて、残りの回路素子のディスクリート値は、新たに最適化される。これは、ハイパスフィルタHPの回路素子だけではなく、バンドパスフィルタBP内の回路素子も、さらなるディスクリート値をとり得ることを意味する。このようにして、両方のフィルタの各々は、対応して設計された第2フィルタの回路素子によって適合され得る。逆も、また同様である。この1つの事実によれば、回路素子のディスクリート値の場合、等価回路ダイアグラムの見地から同一であるバンドパスフィルタについて第1実施形態で選ばれ得る値に関して、相対的に大きな違いも生じ得る。
【0035】
図3は、提案されたバンドストップフィルタの別の実施形態(第3実施形態)を示している。本実施形態は、第2実施形態から生じ、さらなるキャパシタンスを有する。このキャパシタンスは、第2キャパシタンスC2として、グランドへの通信横断分岐内で、第2インダクタンスL2と直列に接続される。ハイパスフィルタHPは、回路配置に関して第2実施形態から変化はなく、また、バンドパスフィルタBPの回路素子の配置も同様に第2実施形態から変化はないが、それらのディスクリート値は変化する。
【0036】
図4は、バンドストップフィルタの第4実施形態を示している。本実施形態では、回路素子の配置は、第3実施形態に係るハイパスフィルタHPのそれと変わらない。対比してみると、バンドパスフィルタBPは、第1フィルタ分岐FZ1内に、直列に接続される第1インダクタンスL1、第1キャパシタンスC1、第4インダクタンスL4、第7キャパシタンスC7、及び第7インダクタンスL7を有する。グランドへの横断分岐内では、第1キャパシタンスC1と第4インダクタンスL4との間において第2キャパシタンスC2と第2インダクタンスL2とが直列に接続される。第4インダクタンスL4と第7キャパシタンスC7との間のグランドへの第1横断分岐は、そこに配置される第5インダクタンスL5を含む。第2横断分岐と直接的に近接する、グランドへの第3横断分岐内には、共振器R及び第6インダクタンスL6が直列に接続して配置される。この場合も、バンドストップフィルタを最適化するときは、横断回路素子のディスクリート値が、他の実施形態の場合とは異なるように変更されるだけでなく、フィルタの全ての構成要素が、第2フィルタの回路素子と全く同様に適合され、又は、新たに最適化されることが有利である。
【0037】
図5は、SパラメータS21のかたちで、第4実施形態のシミュレーションされた送信機能を示している。ダイアグラムは、阻止帯域SP、第1通過帯域D1、及び第2通過帯域D2を描いている。ここで、これらの帯域は、阻止帯域SPがDVB−Hシステムの周波数範囲と一致するように選ばれる。D1は、1GHzの移動体無線帯域の全周波数を含み、D2は、2GHzの移動体無線帯域の全周波数を含む。
【0038】
第1〜第4実施形態の送信カーブ1〜4のいずれもが、この意図したアプリケーションの仕様を満たすことは明らかである。第1通過帯域D1と第2通過帯域D2との間の送信機能におけるわずかな落ち込みは、そこには移動体無線帯域が存在しないため、所望のアプリケーションにとって無害である。
【0039】
バンドストップフィルタ、特に阻止帯域SP、さらには第1及び第2通過帯域D1及びD2の仕様に関しては、回路素子L及びCの適切な設計により、また、共振器Rの適切な周波数により、異なる問題に対して個別に最適化することが可能になる。
【0040】
図6は、再度、第1実施形態に係るバンドストップフィルタの送信機能BSを示している。この送信機能BSは、シミュレーションにおいて、分離して考えられるハイパスフィルタHP及びバンドパスフィルタBPの部分的な送信機能と比較される。その部分的な送信機能から、ハイパスフィルタHPが、第2通過帯域D2における最小の挿入損失を伴って、送信することは明らかである。しかしながら、第1通過帯域D1内においてもなお、さらに大きなエネルギーを送信し得る。なぜなら、第1通過帯域D1の上端に、ハイパスフィルタHPのカットオフ周波数があるからである。カットオフ周波数は、第2通過帯域D2における最も低い挿入損失であるポイントに関して、対応したハイパスフィルタHPが3dBの抑制を有する周波数である。孤立したバンドパスフィルタBPは、大きなミスマッチを示す。部分的な送信機能は、本質的に、送信機能全体のうち、阻止帯域に向かって左側側面を生成する。
【0041】
それにもかかわらず、並列に接続される、これら2つのフィルタ(バンドパスフィルタ、ハイパスフィルタ)の結果として、バンドストップフィルタについて図6に示される送信カーブBSが得られる。これは、両方のフィルタ分岐が、互いにマッチしていることを示している。したがって、外的なマッチング要素は、もはや必要ではない。
【0042】
図7は、提案されたバンドストップフィルタについて、回路部品の一実施例を示す部分概略断面図である。ここで、このフィルタは、多層基板SU上に構成される。多層基板SUは、先に示した実施形態における2つの内部金属平面M1及びM2を有する。この基板は、好ましくはセラミック、特にLTCCセラミック(低温同時焼成セラミック)からなる。しかしながら、多層基板が、他のセラミック、又は充填された絶縁性プラスチックプリント回路基板材料からなることも、適宜可能である。
【0043】
導体トラック及び金属領域は、金属平面M1、M2内に配置され、めっきされたスルーホールを介して相互に接続され得る。基板SUの表面には、ディスクリート部品としての共振器Rなどが、いずれも、フリップチップデザインのように、基板表面に配置された接着性コンタクトにより接続されている。この共振器は、SAW共振器として、ここに示される。しかしながら、この共振器は、BAW又はマイクロ波セラミック共振器としても形成され得る。
【0044】
ここで、インダクタンスLは、別のディスクリート回路部品として、同様に基板SUの表面に配置され、SMDデバイス(= surface mounted device)として、基板内の回路と電気的に接続される。キャパシタンスCは、図7に示されるように、例えば互いに隣り合う金属平面M1、M2に配置された2つの金属領域により実現される。さらに、インダクタンスは、金属性を示すインダクタンス、及びめっきされたスルーホールのかたちで実現され得る。特に、高いインダクタンス値は、相対的に長い導体トラックにより、特に電気的に適した長さ、すなわちインダクタンスと比例する長さを有する曲がりくねった導体トラック、又は複数の金属平面上に実現されるスパイラル又はコイル等により、満足され得る。
【0045】
好ましくは、その内側及びその上に実現される基板SU及びバンドストップフィルタ回路は、基板裏面に配置される外部コンタクトAK、AK’により、接触して接続されている。
【0046】
以下、バンドストップフィルタの所望の送信動作を得るための最適化により第1実施形態の回路素子がどのように設計されるかについて、具体的な値を示す。ここで、インダクタンス値はnHで示され、キャパシタンス値はpFで示される。
L1=28.62
C1= 1.65
L2= 0.80
C3=12.42
L4= 6.21
L5= 7.34
C6= 3.05
L7= 4.12
C8= 3.12
【0047】
第1実施形態に関し、共振器Rの共振周波数は、例えばそれが阻止帯域SPの上部側面の領域内に位置するように、選ばれる。これは、共振器Rと直列に接続される第4インダクタンスL4が共振周波数の低い方へシフトされるという事実に基づくものである。このインダクタンスがなければ、共振器について相応の低い共振周波数を選ぶことが必要になると考えられる。
【0048】
この例では、773MHzの共振周波数、801MHzの反共振周波数、4.44pFの静電容量のリチウムタンタレートSAW共振器が用いられる。
【0049】
適合する方法により、図2〜図4に示される代表的な実施形態の回路素子のディスクリート値を、適切な最適化の手法により決定することができる。しかしながら、先に示したシミュレーションの結果、提供されるバンドストップフィルタが所望の特性を有することが証明される。特に、通過帯域全体の幅がそこでは大きく、バンドストップフィルタが低い抑制を有する。
【0050】
上記通過帯域全体は、複数の異なる移動体無線帯域又は他の無線アプリケーションを収容するのに適している。さらに、提供されるバンドストップフィルタは、阻止帯域に向かって急勾配の側面を示す。阻止帯域内に、約10%の比帯域幅の遷移帯域幅が達成され得る。同様に、各阻止帯域は、大きな幅により区別される。阻止帯域の比帯域幅は、DVB−Hシステムの仕様に従って、例えば510MHzの中心周波数について約55%の比帯域幅である。その結果、従来得られなかった特性を得ることのできるバンドストップフィルタが示される。これらの特性は、集積化されたLC素子のかたちで少なくとも部分的に実現されるバンドパスフィルタ及びハイパスフィルタの新しい組み合わせによって獲得できる。
【0051】
本発明は、上記実施形態において説明された各回路に限定されない。各回路部品の追加や省略によって、上記各フィルタを変更することができることは明らかである。さらに、原則として、LC回路は、バンドパスフィルタやハイパスフィルタとして知られており、提案されるバンドストップフィルタに使用することができる。この場合、公知の又は新たに設計されたバンドパスフィルタやハイパスフィルタの異なる組み合わせも可能である。
【符号の説明】
【0052】
BP バンドパスフィルタ
BS バンドストップフィルタ
C1、C2 キャパシタンス
FZ1、FZ2 第1及び第2フィルタ分岐
HP ハイパスフィルタ
L1、L2 インダクタンス
R 共振器
1〜4 例1〜例4の送信カーブ
T1、T2 端子
D1、D2 第1及び第2通過帯域
SP 阻止帯域
AK 外部コンタクト
M 金属平面
SU 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集積化された構造化金属平面(M)を有する多層基板(SU)上に構成され、
入力ポート及び出力ポートを有し、
入力ポートと出力ポートとの間で並列に接続された2つのフィルタ分岐(FZ)を有し、
第1フィルタ分岐(FZ1)内に配置され、第1通過帯域(D1)のためのバンドパスフィルタ(BP)を含む第1部分フィルタを有し、
第2フィルタ分岐(FZ2)内に配置され、前記第1通過帯域の上に設けられた第2通過帯域(D2)を有するハイパスフィルタ(HP)を含む第2部分フィルタを有し、
接地される横断分岐が、前記第1フィルタ分岐内に設けられ、共振器(R)が前記横断分岐内に配置され、
阻止帯域(SP)が前記第1通過帯域の下に形成され、
バンドパスフィルタ及びハイパスフィルタは、前記多層基板内で少なくとも部分的に集積化されたLC要素(L、C)から構成される、
バンドストップフィルタ。
【請求項2】
前記共振器(R)は、電気音響共振器であり、少なくとも500のQ(quality factor)を有する、
請求項1に記載のバンドストップフィルタ。
【請求項3】
前記横断分岐内の前記共振器(R)は、インダクタンス(L)と直列に接続される、
請求項1又は2に記載のバンドストップフィルタ。
【請求項4】
前記バンドパスフィルタ(BP)及び前記ハイパスフィルタ(HP)の全ての前記C要素は、前記基板(SU)内に集積化され、
前記L要素は、少なくとも部分的には、前記基板(SU)上に配置された、ディスクリートインダクタンス又はディスクリートコイルから実現される、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のバンドストップフィルタ。
【請求項5】
前記共振器(R)の共振周波数は、前記阻止帯域(SP)の上部側面(フランク)の領域内にある、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のバンドストップフィルタ。
【請求項6】
前記第2フィルタ分岐(FZ2)内の、各直列キャパシタンス(C)は、前記フィルタ分岐の入力側及び出力側に配置される、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のバンドストップフィルタ。
【請求項7】
前記第1フィルタ分岐(FZ1)内の前記バンドパスフィルタ(BP)は、少なくとも、
第1及び第2直列インダクタンス(L)と、
第1及び第2直列キャパシタンス(C)と、
そこを横断して接地される第1並列インダクタンスと、
を含む、
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のバンドストップフィルタ。
【請求項8】
前記バンドパスフィルタ(BP)は、
第3直列インダクタンスと、
第2並列インダクタンスと、
をさらに含む、
請求項7に記載のバンドストップフィルタ。
【請求項9】
前記第1又は第2並列インダクタンスは、前記第1フィルタ分岐(FZ1)に関する横断分岐内に配置され、そこでキャパシタンスと直列に接続される、
請求項7又は8に記載のバンドストップフィルタ。
【請求項10】
前記ハイパスフィルタ(HP)のカットオフ周波数は、前記第1通過帯域(D1)付近にあるように選択され、前記第1通過帯域からの±20%の相対的な間隔を有する、
請求項1乃至9のいずれか一項に記載のバンドストップフィルタ。
【請求項11】
前記ハイパスフィルタ(HP)の前記カットオフ周波数は、前記第1通過帯域(D1)の範囲内にあるように選択される、
請求項1乃至10のいずれか一項に記載のバンドストップフィルタ。
【請求項12】
前記第2フィルタ分岐内の前記ハイパスフィルタは、
少なくとも1つの前記第1及び第2直列キャパシタンスと、
それらの間で前記接地される前記横断分岐内に配置された前記インダクタンスと、
を含む、
請求項1乃至11のいずれか一項に記載のバンドストップフィルタ。
【請求項13】
前記ハイパスフィルタの前記横断分岐内の前記インダクタンスは、前記キャパシタンスと直列に接続される、
請求項12に記載のバンドストップフィルタ。
【請求項14】
少なくとも470MHz〜750MHzの間に阻止帯域を有し、
少なくとも824MHz〜960MHzの間の範囲を含む第1通過帯域を有し、
少なくとも1710MHz〜2170MHzの間の範囲を含む第2通過帯域を有する、
請求項1乃至13のいずれか一項に記載のバンドストップフィルタ。
【請求項15】
前記共振器は、少なくとも2重に縦列(直列)接続されたSAW共振器として形成され、前記基板上に配置される、
請求項1乃至14のいずれか一項に記載のバンドストップフィルタ。
【請求項16】
前記共振器は、リチウムタンタレートよりも高い連結性を有する基板材料からなるチップ内のSAW共振器として形成される、
請求項1乃至15のいずれか一項に記載のバンドストップフィルタ。
【請求項17】
第1及び第2通過帯域内で働く少なくとも1つの移動体無線システムごとに送信路及び受信路を有し、前記送信路内で発せられ送信路とアンテナとの間の前記阻止帯域にある干渉ノイズを取り除くために、前記阻止帯域内の別の信号を受信するように設計されている、携帯電話のフィルタ回路内での請求項1乃至16のいずれか一項に記載のバンドストップフィルタの使用。
【請求項18】
1GHz〜2GHzの範囲で働き、対応して設計された送信路及び受信路を有し、それら送信路及び受信路がアンテナに接続され、さらに、前記送信路の1つのDVB−H周波数範囲内にある干渉信号を取り除くために、DVB−H信号を受信するように設計されている、携帯電話内での請求項1乃至16のいずれか一項に記載のバンドストップフィルタの使用。
【請求項19】
1GHz〜2GHzの範囲で働き、対応して設計された送信路及び受信路を有し、それら送信路及び受信路がアンテナに接続され、さらに、DVB−Hが携帯電話内で作動しなれば、前記バンドストップフィルタがブリッジ接続されたブリッジ回路と接続される前記送信路の1つのDVB−H周波数範囲内にある干渉信号を取り除くために、DVB−H信号を受信するように設計されている、携帯電話内での請求項1乃至16のいずれか一項に記載のバンドストップフィルタの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−530153(P2010−530153A)
【公表日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509807(P2010−509807)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【国際出願番号】PCT/EP2008/056510
【国際公開番号】WO2008/145659
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(300002160)エプコス アクチエンゲゼルシャフト (318)
【氏名又は名称原語表記】EPCOS  AG
【住所又は居所原語表記】St.−Martin−Strasse 53, D−81669 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】