説明

ミシン

【課題】針棒の下端周辺に設けた構成部品の有無に関わらず、縫製対象物上の針落ち点周辺部位を確実に確認可能なミシンを提供する。
【解決手段】ミシンは、移送装置で縫製対象物を保持する保持体60をX軸方向とY軸方向に移動しながら、針棒に装着した縫針で縫製を行う。ミシンは、所定の場合、移送装置を制御して、縫針が刺さる縫製対象物上の予定位置である針落ち点が縫針の直下(針穴502の真上)の本来の位置からX軸プラス方向に所定距離X0離れた位置に保持体60を移動する。ミシンは、保持体60を所定距離X0移動した後の縫製対象物上の針落ち点を、仮想針落ち点として視認可能な状態で示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針落ち点を示す縫製データに従って縫製対象物に模様の縫製が可能なミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
ミシンで縫製を行う作業者は、模様の位置決め等の為に、縫製対象物上の針落ち点周辺を視認したい場合がある。針落ち点は、ミシンの縫針が下降して縫製対象物(加工布等)に刺さる縫製対象物上の予定位置であり、縫製時に縫針の直下に位置する。作業者がミシンに顔を近づけて針落ち点周辺を直接視認する必要を無くす為に、撮像手段を設けたミシンがある。例えば特許文献1のミシンは、縫製時に糸切れが発生した場合、撮像手段で縫製対象物上の針落ち点周辺の画像を撮像し、表示装置に表示する。作業者は、糸切れ後に縫製対象物に対する針落ち点の位置を調整する時、該画像を確認すればよい。故に、作業者は、直接ミシンの針落ち点周辺を覗き込む必要がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−233753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ミシンは通常、針落ち点の上方である針棒の下端周辺に様々な構成部品を有する。該構成備品は、例えば、縫針、縫製対象物を上から押さえる押え足、押え足の穴に挿通した上糸を抜くワイパ等である。特許文献1のミシンが表示する画像は前記構成部品を含む場合がある。該画像の針落ち点となる位置に前記構成部品が表示されることで、作業者は画像中で縫製対象物上の針落ち点を確認しにくい場合がある。
【0005】
本発明の目的は、針棒の下端周辺に設けた構成部品の有無に関わらず、縫製対象物上の針落ち点周辺部位を確実に確認可能なミシンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1のミシンは、縫針を下端に装着する針棒と、前記針棒の下方に設け、縫製対象物を保持する保持体を水平移動可能な移動機構とを備えたミシンにおいて、前記移動機構を制御することで、前記縫針が刺さる前記縫製対象物上の予定位置である針落ち点が前記縫針の直下の本来の位置から所定方向に所定距離離れた位置に前記保持体を移動する移動制御手段と、前記移動制御手段により前記保持体を前記所定距離移動した後の前記縫製対象物上の前記針落ち点を、仮想針落ち点として視認可能な状態で示す指示手段とを備えたことを特徴とする。
【0007】
針落ち点が縫針の直下の本来の位置にある場合、縫針が作業者の視界に入るので、作業者は針落ち点を確認しにくい場合がある。前記ミシンでは、移動制御手段が移動機構を制御して、針落ち点が縫針直下の本来の位置から所定方向に所定距離だけ離れた位置に位置するように、縫製対象物を移動する。つまり、ミシンは、縫針が針落ち点を視認する妨げとならない位置に、針落ち点を移動することができる。更に、指示手段が移動後の縫製対象物上の針落ち点を仮想針落ち点として視認可能な状態で示すので、作業者は、縫針直下の本来の位置から移動した後の仮想針落ち点の位置を容易に視認できる。故に、作業者は、針棒の下端に縫針があっても、縫製対象物上の針落ち点周辺部位を確実に確認できる。ミシンが針棒の下端周辺に縫針以外の構成部品を有する場合も同様である。
【0008】
請求項2のミシンにおいて、前記保持体が水平移動可能な可動範囲は、前記保持体に対応する縫製可能範囲に対して少なくとも前記所定距離だけ前記所定方向に大きいことを特徴とする。該場合、ミシンは、縫製対象物を保持する保持体の可動範囲を縫製可能範囲よりも大きくすることで、縫製可能範囲を狭めることなく針落ち点を移動することができる。
【0009】
請求項3のミシンにおいて、前記指示手段は、前記保持体が保持する前記縫製対象物を撮影可能な撮影手段と、前記撮影手段が撮影した前記縫製対象物の画像に前記仮想針落ち点を示すマークを重ねた合成画像を生成し、表示手段に前記合成画像を表示する表示制御手段とを含むことを特徴とする。該場合、表示手段が仮想針落ち点を示すマークを重ねた縫製対象物の合成画像を表示するので、作業者は合成画像の仮想針落ち点のマーク周辺部分を視認することで、縫製対象物上の針落ち点周辺部位を容易に確認できる。
【0010】
請求項4のミシンにおいて、前記所定距離は、前記撮影手段と前記仮想針落ち点における前記縫製対象物との間に前記縫針又は前記ミシンの他の構成部品が重ならなくなるまでの前記所定方向における移動距離以上であることを特徴とする。該場合、前記ミシンは、移動後の縫製対象物上の針落ち点(仮想針落ち点)を含む範囲を確実に撮影して、縫針や他の構成部品と重ならない位置に仮想針落ち点がある合成画像を表示できる。
【0011】
請求項5のミシンにおいて、前記指示手段は、前記縫製対象物上に前記仮想針落ち点を視認可能に投影する投影手段を含むことを特徴とする。該場合、作業者は、投影手段が縫製対象物上に投影した仮想針落ち点を確認することで、縫製対象物上の針落ち点周辺部位を容易に確認できる。
【0012】
請求項6のミシンにおいて、前記投影手段は、前記縫製対象物上の前記仮想針落ち点にレーザ光をスポット照射するレーザポインタであることを特徴とする。該場合、作業者は、縫製対象物上にスポット照射したレーザ光の周辺を確認することで、縫製対象物上の針落ち点周辺部位を容易に確認できる。ミシンは、レーザポインタをミシンに設けるという簡便な構成で、該効果を達成できる。
【0013】
請求項7のミシンは、前記所定方向と前記所定距離を予め記憶する記憶手段を更に備えたことを特徴とする。該場合、ミシンは、記憶手段が所定方向と所定距離を記憶しているので、作業者が保持体を移動する方向、距離を都度設定する手間を省くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ミシン1の斜視図である。
【図2】ミシン1の前端部7の拡大斜視図である。
【図3】ミシン1の前端部7の右側面図である。
【図4】ミシン1の電気的構成を示すブロック図である。
【図5】操作箱30の正面図である。
【図6】通常モード、仮想針落ち点モードの座標系601、602の説明図である。
【図7】メイン処理のフローチャートである。
【図8】縫製データ作成処理のフローチャートである。
【図9】等分処理のフローチャートである。
【図10】模様板68の説明図である。
【図11】模様板68を使用した縫製データ作成処理時の座標系602の説明図である。
【図12】縫製データ作成処理時の合成画像36の一例である。
【図13】合成画像36の別の一例である。
【図14】合成画像36の更に別の一例である。
【図15】縫製処理のフローチャートである。
【図16】中断時処理のフローチャートである。
【図17】中断時処理時の合成画像36の一例である。
【図18】試験送り処理のフローチャートである。
【図19】変形例のミシン110の前端部7の右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態のミシン1について説明する。図1の左斜め下側、右斜め上側、左斜め上側、右斜め下側は夫々ミシン1の前側、後側、左側、右側である。
【0016】
図1を参照し、ミシン1の全体構造について説明する。図1に示す如く、ミシン1は、ベッド部2、脚柱部3、アーム部4を備える。ベッド部2はテーブル95に載置する。ベッド部2は前後方向に延び、内部に垂直釜(図示略)等を備える。脚柱部3はベッド部2後側から鉛直上方に延びる。脚柱部3は内部にミシンモータ112(図4参照)等を備える。アーム部4は脚柱部3上端からベッド部2の上面に対向して前方に延び、前端に前端部7を備える。アーム部4は内部に主軸、針棒駆動機構(図示略)等を備える。針棒10は、前端部7の下端から下方へ延びる。縫針11は針棒10の下端に装着する。
【0017】
ミシン1は、ベッド部2の上方に作業台5と移送装置6を備える。作業台5は、針板501を備える。針板501は、針棒10に装着した縫針11の直下の位置に、縫針11が挿通可能な針穴502を有する。移送装置6は、移送板61、昇降部62、押え板63、移送板保持部64、X軸移動機構(図示略)、腕部65、Y軸移動機構(図示略)を備える。
【0018】
移送板61は水平方向に配置した板部材であり、平面視矩形状の開口を有する。移送板保持部64は左右方向に延び、移送板61をX軸方向(左右方向)に移動可能に支持する。X軸移動機構は、ベッド部2の内部に設けてある。X軸移動機構は、X軸モータ114(図4参照)を駆動源として、移送板61をX軸方向(左右方向)へ移動する。移送板保持部64に連結する腕部65は、脚柱部3内に設けたY軸移動機構に接続する。Y軸移動機構は、Y軸モータ116(図4参照)を駆動源として、腕部65をY軸方向(前後方向)へ移動する。移送板保持部64は、腕部65の移動に伴ってY軸方向(前後方向)へ移動する。移送板保持部64が支持する移送板61は、移送板保持部64と共に移動する。移送板保持部64は、昇降部62を昇降可能に支持する。押え板63は昇降部62下端に連結する矩形枠状の板部材である。押え板63の開口は、移送板61の開口と略同一形状である。作業者は縫製対象物(例えば加工布)を移送板61上に載置する。昇降部62が下方に移動すると、押え板63は下降する。押え板63と移送板61は、縫製対象物を上下から挟んで保持する。以下、移送板61と押え板63を総称して保持体60という。
【0019】
ミシン1はテーブル95上に設けた操作パネル8と、操作パネル8に接続した操作箱30を備える。操作パネル8、操作箱30は夫々、各種情報、各種指示を入力する為のキーと、情報表示用のディスプレイを備える。作業者は情報又は指示を入力する場合、操作パネル8又は操作箱30を使用する。ミシン1は、テーブル95下方に制御装置100(図4参照)を格納する制御箱(図示略)を備える。操作パネル8はコード(図示略)を介して制御箱に接続する。操作箱30はケーブル9を介して操作パネル8に接続可能である。操作箱30については後述する。
【0020】
図2、図3を参照し、アーム部4の前端部7周辺、特に、針棒10下端部周辺にあるミシン1の構成部品の構成と配置について説明する。ミシン1は、該構成部品として縫針11、押え足13、ワイパ14、保護部材145(図3では図示略)を備える。前述したように、縫針11を装着した針棒10は、前端部7下端から下方へ延びる。ミシンモータ112(図4参照)は主軸(図示略)を回転駆動する。針棒駆動機構(図示略)は、主軸の回転駆動に伴って針棒10を上下動する。
【0021】
図2、図3に示す如く、前端部7は、針棒10の左方(図3の背面側)に、下方へ延びる押え棒12を備える。押え足13は押え棒12下端部に装着する。押え足駆動機構(図示略)は、主軸の回転駆動に伴う針棒10の上下動に同期して、押え棒12を上下動する。押え足13は、縫針11が縫製対象物から抜ける時に上方から縫製対象物を押えることで、縫製対象物が上方へ浮き上がるのを防止する。押え足13の先端部は円筒状の筒部131である。縫針11は、筒部131の貫通穴を通って縫製対象物に刺さる。
【0022】
前端部7は、針棒10の左方(図3の背面側)且つ押え棒12の前方(図3の左側)にワイパ14を備える。ワイパ14は、細軸状の部材であり、先端に鉤状の糸払部141を有する。取付部140は前端部7下端から下方に延びる。螺子142は、ワイパ14の糸払部141と反対側を取付部140に対して前後方向に回動可能に固定する。糸払部141は、先端が縫針11が位置する右側に向けて屈曲する。図3に実線で示す如く、揺動機構(図示略)は、未使用時にワイパ14を待機位置に保持する。糸払部141は、待機位置で最も上方に位置する。図3に点線で示す如く、押え足13の筒部131はワイパ14の使用時に下方に移動し、縫針11下端から離間する。ワイパ14は螺子142で取付部140に固定した部分を中心に右側面視時計回りに回動する。糸払部141は縫針11下端と筒部131上端の間を横切るように移動する。縫針11上昇後に上糸55が縫製対象物に入り込んだままの場合、糸払部141は、移動時に上糸55を引っ掛けて縫製対象物から引き抜くことができる。
【0023】
保護部材145は、二箇所で略直角に屈曲した細軸状の部材である。保護部材145の一端は、押え足13の基端部前側に固定する。保護部材145は押え足13の基端部前側から縫針11よりも前方へ延びて右方へ屈曲し、縫針11よりも右側で後方へ屈曲する。保護部材145の他端は、縫針11の後ろまで延びる。保護部材145は縫製時に縫針11に作業者が触れることを防止する為の部材である。
【0024】
図2、図3を参照し、アーム部4の前端部7に設けた上糸55を案内する為の構成と、上糸55の経路について説明する。図2、図3に示す如く、前端部7は右側面上方に副糸調子器15と糸調子器16を備える。糸調子器16は、副糸調子器15下方に設ける。糸調子器16は、一対の糸調子皿161間に挟んだ上糸55に加わる張力を調節する。副糸調子器15は糸調子器16と共に上糸55に加わる張力を調節する。鉤状の糸案内17は、糸調子器16の前方に設ける。糸案内17は、糸調子器16を経由した上糸55を上方に折り返して案内する。前端部7は、右側面の糸調子器16よりも前方に溝25を備える。溝25は上下方向に延びる。天秤19は溝25内に設ける。天秤19は針棒10の上下動に伴い溝25に沿って上下動する。輪状の糸案内18は糸調子器16の上方に設ける。糸案内18は、糸案内17が上方に折り返した上糸55を天秤19に案内する。輪状の糸案内20は溝25下部の前側に設ける。糸案内20は、天秤19を経由した上糸55を下方に案内する。針棒10は下端に糸案内(図示略)を備える。針棒10の糸案内は貫通穴を有し、糸案内20が案内した上糸55を下方にある縫針11の針孔111に案内する。
【0025】
上糸55の糸駒は、テーブル95(図1参照)に設けた糸駒立て(図示略)に載置する。上糸55は、糸駒から、副糸調子器15、糸調子器16、糸案内17、糸案内18、天秤19、糸案内20、針棒10下端の糸案内の貫通穴を経由し、針孔111に挿通する。
【0026】
図3を参照し、前端部7に設けた糸切れ検出器40について説明する。ミシン1は、糸案内20から針棒10下端の糸案内(図示略)に至る上糸55の経路の後方(図3の右側)に、糸切れ検出器40を備える(図2では図示略)。糸切れ検出器40は、例えば、上糸55の糸切れを検出可能な光学式の検出器である。本実施形態の糸切れ検出器40は、特開昭63−270092号が開示する上糸検知器と同様の構成を有する。具体的には、糸切れ検出器40は、固定部41、先端部42、光ファイバ43、検知部45を備える。固定部41は、先端部42が上糸55の経路に対して真横から対向するように、先端部42を前端部7に固定する。固定部41は、糸案内17の下方に位置する。検知部45は、例えばアーム部4の裏側に取り付ける。検知部45は、投光器46(例えば発光ダイオード)、受光器47(例えばフォトトランジスタ)、投光用の駆動回路、受光信号の増幅器、糸切れ検知信号を生成する回路等を備える。先端部42は、光ファイバ43を介して夫々投光器46、受光器47に接続する投光部、受光部(図示略)を備える。先端部42は、投光部を中心として受光部を外周に配した同軸型、投光部と受光部を併設した二軸型の何れの形式でもよい。
【0027】
検知部45の投光器46が投光した光は、光ファイバ43を介して先端部42の投光部に到達する。投光部は、伝達した光を上糸55に向けて照射する。上糸55は投光部からの照射光を反射する。受光部は上糸55からの反射光を受光する。受光部が受光した光は、光ファイバ43を介して検知部45の受光器47に到達する。前端部7は、上糸55を挟んで先端部42に対向する前方位置に、誤検出を防ぐ為の黒色の遮蔽板を備えてもよい(図示略)。検知部45は、受光信号に応じた上糸検知信号を生成する。天秤19は、上方に移動する時、上糸55を引っ張る状態となる位置(上昇位置)がある。故に、ミシン1は、天秤19が上昇位置にある時の上糸検知信号が上糸55を検知した信号か否かに基づき、上糸55の糸切れを検出できる。
【0028】
図3を参照し、前端部7に設けたイメージセンサ50について説明する。図3に示す如く、イメージセンサ50は、ミシン1のフレーム(図示略)に設けた支持部51に固定する。イメージセンサ50は、周知のCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)であり、撮影した画像の画像データを出力する。イメージセンサ50のレンズ(図示略)は、縫針11の直下にある針穴502の右方の所定範囲を撮影可能な方向に向いている。イメージセンサ50の撮影範囲については後述する。
【0029】
図4を参照し、ミシン1の電気的構成について説明する。図4に示す如く、ミシン1の制御装置100は、CPU101、ROM102、RAM103、不揮発性メモリ104、入出力インターフェース(I/F)106、駆動回路113、115、117、通信I/F127を備える。CPU101、ROM102、RAM103、不揮発性メモリ104は、バス105を介して入出力I/F106に電気的に接続する。CPU101は、ミシン1の制御を司り、ROM102が記憶する各種プログラムに従って、縫製に関わる各種演算及び処理を実行する。ROM102は、各種プログラム、各種初期設定パラメータ、複数の模様(縫目線、縫目模様、刺繍模様等)の縫製データ等を記憶する。縫製データについては後述する。RAM103は、CPU101の演算結果、ポインタ、カウンタ等を一時的に記憶する。不揮発性メモリ104は、後述の縫製データ作成処理(図8、図9参照)でCPU101が作成した縫製データ、作業者が入力した各種設定情報等を記憶する。
【0030】
駆動回路113、115、117は、入出力I/F106に電気的に接続する。駆動回路113はミシンモータ112に電気的に接続する。CPU101は、駆動回路113を介してミシンモータ112を制御する。ミシンモータ112は主軸を回転駆動する。駆動回路115はX軸モータ114に電気的に接続する。駆動回路117はY軸モータ116に電気的に接続する。CPU101は、駆動回路115、117を介してX軸モータ114、Y軸モータ116を制御する。X軸モータ114、Y軸モータ116は何れもパルスモータである。X軸モータ114、Y軸モータ116は夫々、X軸移動機構、Y軸移動機構を駆動することで、保持体60をX軸方向、Y軸方向に移動する。CPU101は、縫製時に、縫製データに基づきミシンモータ112を駆動して主軸を回転駆動することで、針棒10、押え棒12の上下動と垂直釜の回転を制御する。CPU101は、ミシンモータ112の駆動と同時に、縫製データに基づきX軸モータ114、Y軸モータ116を駆動して、保持体60の位置を制御する。ミシン1は該動作で縫製対象物上に縫製を行う。
【0031】
通信I/F127は入出力I/F106に電気的に接続する。通信I/F127は、例えばシリアル通信用のインターフェースである。ミシン1は、通信I/F127を介して外部機器に接続可能である。本実施形態では、操作箱30はミシン1に接続する。尚、図1に示す如く、操作箱30は、ケーブル9で接続した操作パネル8を介して、通信I/F127に接続してある。
【0032】
起動スイッチ121、回転位置検出器122、操作パネル8、糸切れ検出器40、イメージセンサ50は夫々、制御装置100の入出力I/F106に電気的に接続する。起動スイッチ121は、テーブル95下方に設置し、制御装置100にコードで接続するペダル式のスイッチである。作業者は、ミシン1の各種動作(例えば縫製実行)を開始する時に起動スイッチ121を踏み込む。回転位置検出器122は、ミシンモータ112(主軸)の回転位置、回転速度を検出可能な周知の検出器(例えば、エンコーダ)である。操作パネル8、糸切れ検出器40、イメージセンサ50については前述の通りである。
【0033】
図1、図4、図5を参照して、操作箱30について説明する。図1、図5に示す如く、操作箱30は、作業者が手で把持可能な大きさを有する箱状の筐体31を備える。筐体31は、前面の略上半分を占める液晶ディスプレイ(以下、LCDという)32と、前面の略下半分に設けたキー群33を備える。キー群33は、作業者が各種情報、指示を入力する為のものである。キー群33は、四方向矢印キー34、数字キー、機能キー等を含む。LCD32は、各種情報を画像表示する。本実施形態の縫製データ作成時には、作業者は操作箱30のキー群33を用いて所望の模様に関する情報、指示を入力する。LCD32は該入力に応じた画像、ミシン1が送信するデータに基づく画像を表示する。
【0034】
図4に示す如く、操作箱30の制御装置300は、CPU301、ROM302、RAM303、入出力I/F306、通信I/F307、駆動回路308を備える。CPU301、ROM302、RAM303は、バス305を介して入出力I/F306に電気的に接続する。CPU301は、操作箱30の制御を司り、ROM302が記憶する各種プログラムとミシン1が送信したデータに従って、LCD32への画像表示、キー群33からの入力受付等の処理を実行する。RAM303は、CPU301の演算結果、ポインタ、カウンタ等を一時的に記憶する。通信I/F307は入出力I/F306に電気的に接続する。通信I/F307は、例えばシリアル通信用のインターフェースである。操作箱30は、通信I/F307を介してミシン1に接続する。駆動回路308は、入出力I/F306に電気的に接続する。駆動回路308はLCD32に電気的に接続する。CPU301は、駆動回路308を介してLCD32に情報を表示する。前述のキー群33は、入出力I/F306に電気的に接続する。
【0035】
図6を参照し、本実施形態における縫製データ、保持体60の可動範囲、ミシン1の縫製可能範囲、イメージセンサ50の撮影範囲について説明する。縫製データは、模様を縫製する為の複数の針落ち点の位置を、縫針11の位置と保持体60の位置との相対位置で示す。針落ち点は、針棒10と共に縫針11が下方に移動した時、縫針11が刺さる縫製対象物上の予定位置である。図6に示す如く、本実施形態では、針落ち点の位置は、保持体60に対して設定する座標系601の座標データで示す。縫製データは、模様を縫製する為の多数の針落ち点の座標データを縫製順に並べたデータである。
【0036】
座標系601は、X軸モータ114、Y軸モータ116(図4参照)の座標系である。本実施形態では、座標系601はワールド座標系と予め対応付ける。ワールド座標系は空間全体を示す座標系であり、撮影対象物の重心等の影響を受けることのない座標系である。座標系601では、X軸プラス方向はミシン1の左から右に向かう方向であり、Y軸プラス方向はミシン1の前から後に向かう方向である。本実施形態では、座標系601の原点O(X,Y,Z)=(0,0,0)は、保持体60(より詳細には押え板63の開口内側の領域)の中心点が縫針11(図1参照)の直下にある位置と定める。保持体60の該位置を実原点位置という。該位置は、保持体60の中心点が針穴502の真上にある位置と言い換えることもできる。
【0037】
本実施形態の移送装置6は、縫製中に保持体60をZ方向(ミシン1の上下方向)に移動しない。故に、縫製対象物の厚みを無視できる場合、縫製対象物の上面は常にZ=0である。つまり、針落ち点の座標データのZ座標は常にゼロである。CPU101は、縫製データに従って縫製を行う場合、縫製順に針落ち点の座標系601の座標データを読み出す。CPU101は、該座標データが示す位置が縫針11の直下に位置するように、X軸モータ114、Y軸モータ116の駆動を制御する。具体的には、CPU101は、座標データが示す位置に応じた数のパルスをX軸モータ114、Y軸モータ116に与えることで、保持体60を移動する。
【0038】
本実施形態では、ミシン1は、特定の場合、座標系601とは異なる座標系602を設定して使用する。特定の場合とは、例えば、ミシン1が作業者の所望の模様の縫製データを作成する場合、又は縫製中に発生した異常に起因して縫製が中断した場合である。該場合、作業者は、縫製対象物上の針落ち点周辺を視認したい場合がある。しかし、針落ち点が縫針11の直下にあるので、針棒10下端周辺の構成部品が視認を妨げる可能性がある。故に、ミシン1は、針落ち点が縫針11の直下の本来の位置から離れるように、保持体60を所定方向に所定距離移動して、移動後の針落ち点(以下、仮想針落ち点という)の位置を視認可能な状態で指示する。ミシン1は、保持体60の移動後に仮想針落ち点の位置を指示する為に、座標系602を設定し、座標系602の座標データに従って動作する。以下、座標系601の座標データに従ってミシン1が動作するモードを、通常モードという。座標系602の座標データに従ってミシン1が動作するモードを、仮想針落ち点モードという。
【0039】
座標系602は、座標系601と同様、X軸モータ114、Y軸モータ116の座標系であり、ワールド座標系と対応する。但し、図6に示す如く、座標系602の原点O'(X,Y,Z)=(0,0,0)は、実原点位置から所定方向に所定距離離れた位置に移動した状態の保持体60の中心点に設定する。保持体60の該位置を仮想原点位置という。所定方向と所定距離は、仮想針落ち点、イメージセンサ50、針棒10の下端部周辺にある構成部品の関係に基づき設定する。具体的には、所定方向と所定距離は、次の条件を満たすように設定する。該条件は、任意の方向において、イメージセンサ50と仮想針落ち点上の縫製対象物との間に縫針11又は他の構成部品(本実施形態では、押え足13、ワイパ14、保護部材145)が重ならなくなるまでの移動距離以上であることである。本実施形態では、所定方向と所定距離は予め設定し、ROM102又は不揮発性メモリ104に記憶する。故に、作業者は処理の都度設定を行う手間を省くことができる。
【0040】
本実施形態の所定方向はX軸プラス方向(図6の右方向)、所定距離はX0(例えば10mm程度)とする。つまり、本実施形態の座標系602は、座標系601をX軸プラス方向にX0オフセットした座標系に等しい。保持体60が仮想原点位置にある時、座標系602では、縫針11の直下(針穴502の真上)にある点P0の座標は、(−X0,0,0)で表すことができる。座標系601の任意の点の座標は、X座標の値にX0を加算することで、座標系602の点の座標に変換できる。座標系602の任意の点の座標は、X座標の値からX0を減算することで、座標系601の点の座標に変換できる。故に、ミシン1は、実際の針落ち点と仮想針落ち点との間の座標変換が可能である。
【0041】
イメージセンサ50は、縫針11の直下に位置する針穴502(図1参照)から、前述の所定方向に所定距離離れた位置(本実施形態では、X軸プラス方向にX0離れた位置)を撮影可能である。イメージセンサ50の撮影範囲53は、該位置を中心とする矩形範囲である。図6に示す如く、保持体60が仮想原点位置にある時の撮影範囲53は、座標系602の原点O'を中心とする矩形範囲である。詳細は後述するが、本実施形態のミシン1は、イメージセンサ50(図3参照)が撮影した画像に仮想針落ち点の位置を示すマークMを重ねた合成画像36を生成する。ミシン1は、合成画像36を操作箱30のLCD32に表示することで、仮想針落ち点の位置を指示する(図5参照)。前述のように、仮想針落ち点は、イメージセンサ50と仮想針落ち点における縫製対象物との間に構成部品が重ならないように設定する。故に、イメージセンサ50が出力する画像データに基づく画像(撮影画像)は、構成部品を含まないか、仮想針落ち点の邪魔にならない程度の一部分を含む画像となる。
【0042】
保持体60の内側の領域のうち、ミシン1が縫製を行うことができる範囲を縫製可能範囲という。縫針11と保持体60の干渉を防止する為、縫製可能範囲は、保持体60の内側の領域よりも小さく設定する。ミシン1は、仮想針落ち点モードで使用する座標系602を基準に第一縫製可能範囲612を設定する。図6に示す如く、第一縫製可能範囲612は、例えば座標系602の原点O'を中心としてX軸方向、Y軸方向に対称な領域である。ミシン1の縫製可能範囲は、通常、保持体60の可動範囲と等しい。しかし、座標系602が座標系601をX軸プラス方向にX0オフセットしたものなので、ミシン1は第一縫製可能範囲612をそのまま保持体60の可動範囲とした場合、不都合が生じる。例えば、座標系602の点P1(X1,Y1,0)に対応する座標系601の点P1'(X1−X0,Y1,0)は保持体60の可動範囲内にないので、実際の針落ち点として使用することができない。該不都合を解消する為に、保持体60の可動範囲は、仮想針落ち点モードの第一縫製可能範囲612に対して、所定方向とは反対方向に所定距離(本実施形態では、X軸マイナス方向にX0)大きく設定する。座標系601の第二縫製可能範囲611は、該可動範囲に等しく設定する。これにより、ミシン1は、保持体60の可動範囲内で縫製可能な領域を有効に活用することができる。
【0043】
図7〜図18を参照し、ミシン1のメイン処理について説明する。図7のメイン処理は、作業者がミシン1の電源スイッチ(図示略)をONにすると、CPU101がROM102からメイン処理用のプログラムを読み出して実行する。CPU101は、作業者が電源スイッチをOFFにした場合、メイン処理を終了する。
【0044】
CPU101は、指示の入力を検知しない間は待機する(S1:NO、S2:NO、S3:NO、S4:NO)。前述の通り、作業者は、操作パネル8又は操作箱30を介して指示を入力する。CPU101は、縫製データ作成処理の実行指示の入力を検知した場合(S1:YES)、縫製データ作成処理を実行する(S10、図8、図9)。CPU101は、縫製処理実行の指示の入力を検知した場合(S1:NO、S2:YES)、縫製処理を実行する(S20、図15、図16)。CPU101は、試験送り処理実行の指示の入力を検知した場合(S1:NO、S2:NO、S3:YES)、試験送り処理を実行する(S30、図18)。CPU101は、その他の指示の入力を検知した場合(S1:NO、S2:NO、S3:NO、S4:YES)、指示の種類に応じたその他の処理を実行する。その他の処理は、例えば縫製速度の調節、押え足13の上昇量の設定等であるが、詳細な説明は省略する。CPU101は、縫製データ作成処理(S10)、縫製処理(S20)、試験送り処理(S30)、その他の処理(S40)の後、処理をS1の指示入力の判断に戻す。
【0045】
図8〜図14を参照し、縫製データ作成処理について説明する。縫製データ作成処理は、図7に示すS1で、CPU101が縫製データ作成処理の実行指示の入力を検知した場合に実行する。縫製データ作成処理では、作業者は、操作箱30(図5参照)のキー群33を操作して模様の針落ち点の位置を順に設定することで、縫製データを作成する。キー群33の操作に連動して、ミシン1は仮想針落ち点モードで動作し、保持体60を移動する。作業者は、任意の位置に自由に針落ち点を設定することもできるが、図10に示す模様板68を使用して針落ち点を設定することもできる。
【0046】
模様板68は、保持体60の押え板63と略同一の外形を有する板である。模様板68は、縫製する模様に対応する形状に切り抜いた溝69を有する。特に精度の高い縫製が必要な場合、作業者は、縫製対象物の針落ち点近傍を押える為に模様板68を移送板61と押え板63の間に挟んで縫製を実行する。溝69は仮想針落ち点モードの第一縫製可能範囲612内に位置する。模様板68の溝69に対応する模様の縫製データを作成する場合、作業者は、模様板68を移送板61と押え板63の間に挟んで、溝69に沿って針落ち点の位置を設定していく。以下、作業者が模様板68を用いて開始点SPから終了点EPまで順に針落ち点NPを設定し、ポケットの縫目模様の縫製データを作成する例を用いて、縫製データ作成処理の流れを説明する。
【0047】
図8に示す如く、CPU101は最初にX軸モータ114、Y軸モータ116を駆動して、保持体60を仮想原点位置(図6参照)に移動する(S101)。具体的には、CPU101は、周知の原点センサ(図示略)を用いて保持体60を実原点位置(図6参照)に移動する。CPU101は、保持体60を更に所定方向に所定距離(本実施形態では、X軸プラス方向にX0)移動することで、仮想原点位置に移動する。CPU101は、第一縫製可能範囲612(図11参照)を設定する(S102)。
【0048】
CPU101は、イメージセンサ50が出力する画像データを取得して、仮想針落ち点の位置を示すマークMを重ねた合成画像36(図5参照)を生成し、操作箱30のLCD32に表示する処理を開始する(S103)。マークMは視認しやすい印であればよく、色、形状は特に限定しない。本実施形態では、マークMは、十字に丸を重ねた印である。図11に示す如く、この時のイメージセンサ50の撮影範囲53は、原点O'を中心とする矩形範囲であり、仮想針落ち点は原点O'に位置する。故に、LCD32は、図5に示す合成画像36を表示する。
【0049】
図3に示す如く、イメージセンサ50は縫製対象物の表面に対して斜め上方から縫製対象物を撮影する。故に、CPU101は、イメージセンサ50による撮影画像を真上から見た画像に視点変換した上で、合成画像36を生成する。CPU101は、合成画像36におけるマークMの表示位置を、座標系602における仮想針落ち点の座標をLCD32の画面上の座標に変換することで算出する。画像の視点変換方法、ワールド座標系の三次元座標を二次元座標に変換する方法は周知なので説明を省略するが、例えば特開2009−172122号公報に記載の方法を採用することができる。CPU101は、視点変換は行わずに撮影画像をそのまま合成画像で使用してもよい。前述の通り、撮影画像は構成部品が仮想針落ち点の視認を妨げない画像なので、作業者は、合成画像36から縫製対象物上の仮想針落ち点の位置を容易に認識できる。
【0050】
CPU101は、操作箱30の四方向矢印キー34(図5参照)から保持体60の移動指示の入力があったか否かを判断する(S104)。四方向矢印キー34の右方向キー、左方向キー、上方向キー、下方向キーは、夫々座標系602のX軸プラス方向、X軸マイナス方向、Y軸プラス方向、Y軸マイナス方向への移動指示に対応する。CPU101は、作業者が何れかのキーを一回押下する度、保持体60をキーに対応する方向へ所定距離移動する指示の入力があったと判断する。該所定距離は、予めROM102又は不揮発性メモリ104に記憶した初期設定値でもよいし、作業者が設定した縫目ピッチでもよい。
【0051】
CPU101は、移動指示の入力を検知した場合(S104:YES)、X軸モータ114、Y軸モータ116を駆動して、保持体60を移動指示に応じた位置に移動する(S105)。CPU101は、移動に応じて仮想針落ち点の座標を更新してRAM103に記憶する。CPU101は、移動に伴い、イメージセンサ50が出力する画像データを新たに取得してマークMを重ねた合成画像36を生成し、LCD32の表示を更新する(S105)。CPU101は処理をS106に進める。CPU101は、移動指示の入力を検知しない場合(S104:NO)、そのまま処理をS106に進める。
【0052】
CPU101は、キー群33(図5参照)の開始点設定キー(図示略)から開始点の設定指示の入力があったか否かを判断する(S106)。開始点は、模様の縫製を開始する最初の針落ち点である。CPU101は、開始点の設定指示の入力を検知しない場合(S106:NO)、処理をS104の判断に戻す。図11の縫目模様の例では、作業者は、仮想針落ち点の位置が開始点SPの位置に一致するまで、保持体60の移動指示を入力する。故に、CPU101は、作業者が押下した四方向矢印キー34のキーに応じて保持体60を移動する処理を繰り返す(S104〜S106)。前述のように、仮想針落ち点モードでは撮影画像中の構成部品は仮想針落ち点に重ならないので、作業者は、合成画像36を見ながら保持体60を所望の位置まで容易に移動することができる。
【0053】
仮想針落ち点の位置が開始点SPに一致し、合成画像36が図12に示す状態となると、作業者は、キー群33の開始点設定キーを押下する。CPU101は、開始点の設定指示の入力を検知する(S106:YES)。この時点でRAM103が記憶する仮想針落ち点の座標は、仮想針落ち点モードの座標系602の座標である。故に、CPU101は、座標系602の座標を縫製時の通常モードの座標系601の座標に変換し、実開始点の位置を示す座標としてRAM103に記憶する(S107)。CPU101は、開始点の設定指示時点の仮想針落ち点の座標系602の座標を、仮想開始点の座標としてRAM103に記憶する。CPU101は、仮想針落ち点のマークMに加え、仮想開始点の位置を黒丸で示すマークVSを重ねた合成画像36(図13参照)を生成し、LCD32の表示を更新する(S108)。
【0054】
CPU101は、指示の入力を検知しない間は待機する(S111:NO、S113:NO、S117:NO、S130:NO)。CPU101は、移動指示の入力を検知した場合(S111:YES)、保持体60を移動してLCD32の画像を更新する(S112)。CPU101は処理をS113に進める。CPU101は、移動指示の入力を検知しない場合(S111:NO)、そのまま処理をS113に進める。S111、S112の処理は、S104、S105の処理と同様である。
【0055】
CPU101は、キー群33の針落ち点設定キー(図示略)からの針落ち点設定指示の入力を検知した場合(S113:YES)、この時点でRAM103が記憶する仮想針落ち点の座標系602の座標を座標系601の座標に変換し、実針落ち点の位置を示す座標としてRAM103に記憶する(S114)。CPU101は、仮想針落ち点の座標系602の座標を、設定済みの仮想針落ち点の座標としてRAM103に記憶する。CPU101は、仮想針落ち点のマークM、仮想開始点のマークVSに加え、設定済みの仮想針落ち点の位置をマークVSよりも小さい黒丸で示すマークVNを重ねた合成画像36(図13参照)を生成し、LCD32の表示を更新する(S115)。CPU101は、処理をS111の判断に戻す。
【0056】
作業者は、一点ずつ針落ち点を順に設定する場合、四方向矢印キー34のキーを操作して、所望の位置で針落ち点設定キーを押下する作業を繰り返す。該作業に応じて、CPU101は、実開始点に続けて実針落ち点の座標を順に設定してRAM103に記憶していく(S111〜S115)。該場合、図13に示す如く、LCD32は、撮影画像にマークVS、複数のマークVN、マークMを重ねた合成画像36を表示する。
【0057】
CPU101は、キー群33の等分開始点設定キー(図示略)からの等分開始点の設定指示の入力を検知した場合(S117:YES)、等分処理を実行する(S120、図9)。等分開始点は、直線上の特定の範囲に針落ち点を設定する場合の始点である。図9に示す如く、等分処理では、CPU101は、等分開始点の設定指示の入力時における仮想針落ち点の座標を等分開始点の座標として仮設定し、RAM103に記憶する(S121)。CPU101は、移動指示の入力を検知した場合(S122:YES)、保持体60を移動してLCD32の画像を更新する(S123)。CPU101は処理をS124に進める。CPU101は、移動指示の入力を検知しない場合(S122:NO)、そのまま処理をS124に進める。S122、S123の処理は、S104、S105の処理と同様である。
【0058】
CPU101は、キー群33の等分終了点設定キー(図示略)からの等分終了点の設定指示の入力があったか否かを判断する(S124)。等分終了点は、直線上の特定の範囲に針落ち点を均等配置する場合の終点である。CPU101は、等分終了点の設定指示の入力を検知した場合(S124:YES)、この時点の仮想針落ち点の座標を等分終了点の座標として仮設定し、RAM103に記憶する(S125)。CPU101は、等分ピッチの入力を受け付ける(S126)。等分ピッチは、等分開始点と等分終了点を結ぶ線分を均等に分割する時に使用する長さである。作業者は、キー群33を用いて所望の等分ピッチを入力する。CPU101は、S126の処理を省略し、保持体60移動時に使用する所定距離を等分ピッチとして使用してもよい。
【0059】
CPU101は、等分開始点と等分終了点を結ぶ線分を、等分ピッチに近い長さで均等分割する。CPU101は、分割点の各々の座標系602の座標を、座標系601の座標に変換する。CPU101は、変換後の座標を、等分開始点に対応する点から順に、実針落ち点の座標としてRAM103に記憶する(S127)。CPU101は、分割点の各々の座標系602の座標を、設定済みの仮想針落ち点の座標としてRAM103に記憶する。CPU101は、仮想針落ち点のマークM、仮想開始点のマークVSに加え、設定済みの仮想針落ち点の位置を示すマークVNを重ねた合成画像36(図14参照)を生成し、LCD32の表示を更新する(S128)。LCD32は、S128で、マークVSの中心点とマークMの中心点を結ぶ線分L上にマークVNを均等配置した合成画像36を表示する。CPU101は、図9の等分処理を終了し、処理を図8の縫製データ作成処理に戻す。図8に示す如く、CPU101は、等分処理の後(S120)、処理をS111に戻す。
【0060】
作業者は、仮想針落ち点の位置が終了点EPの位置に一致するまで、針落ち点の設定指示を入力する。図8に示す如く、CPU101は、入力した指示に応じて、前述のように一点ずつ針落ち点を順に設定する処理(S111〜S115)、直線上の特定の範囲に針落ち点を均等配置する処理(S117〜S120)を実行する。仮想針落ち点の位置が終了点EPに一致すると、作業者は、キー群33の終了点設定キー(図示略)を押下する。CPU101は、終了点(最後の針落ち点)の設定指示の入力を検知する(S130:YES)。CPU101は、この時点でRAM103が記憶する仮想針落ち点の座標系602の座標を座標系601の座標に変換し、実終了点の位置を示す座標としてRAM103に記憶する(S141)。CPU101は、仮想針落ち点の座標系602の座標を、仮想終了点の座標としてRAM103に記憶する。CPU101は、撮影画像にマークM、マークVS、マークVN、仮想終了点を示すマーク(図示略)を重ねた合成画像36を生成し、LCD32の表示を更新する(S142)。CPU101は、RAM103に順に記憶した実開始点、実針落ち点、実終了点の座標のデータを模様の縫製データとして、模様の識別番号と対応付けて不揮発性メモリ104(図4参照)の所定の記憶領域に記憶する(S143)。CPU101は、縫製データ作成処理を終了し、処理を図7のメイン処理に戻す。
【0061】
図15〜図17を参照し、縫製処理について説明する。縫製処理は、図7に示すS2で、CPU101が縫製処理の実行指示の入力を検知した場合に実行する。縫製処理では、ミシン1は、縫製中は通常モードで動作する。しかし、ミシン1は、縫製中に発生した異常で縫製が中断すると、動作を仮想針落ち点モードに切替える。ミシン1は、縫製が再開すると、再度通常モードで動作する。以下では、図10の縫目模様の縫製を行う例を用いて、縫製処理の流れを説明する。
【0062】
CPU101は最初にX軸モータ114、Y軸モータ116を駆動して、原点センサ(図示略)を用いて保持体60を実原点位置(図6参照)に移動する(S201)。CPU101は、第二縫製可能範囲611(図6参照)を設定する(S202)。前述した通り、第二縫製可能範囲611は、縫製データを作成した時の第一縫製可能範囲612に比べてX軸マイナス方向にX0大きい。
【0063】
作業者は、操作パネル8(図1参照)のキーを用いて縫製対象の模様の識別番号を選択する。CPU101は、作業者が選択した模様の識別番号の入力を受け付ける(S203)。CPU101は、該識別番号に対応する縫製データをROM102又は不揮発性メモリ104からRAM103に読み出す(S204)。CPU101は、起動スイッチ121(図4参照)からの縫製開始の指示の入力がない間は待機する(S205:NO)。作業者が起動スイッチ121を踏み込むと、CPU101は縫製開始の指示の入力があったと判断し(S205:YES)、通常モードで模様の縫製を実行する(S206)。具体的には、CPU101は、S204で取得した縫製データが含む針落ち点の座標データを、縫製順に従って読み出す。CPU101は、座標系601において、処理対象針落ち点の座標データが示す位置が縫針11の直下に位置するように、X軸モータ114、Y軸モータ116の駆動を制御する。CPU101は、ミシンモータ112を駆動して主軸を回転駆動することで、針棒10、押え棒12の上下動と垂直釜の回転を制御する。ミシン1は、CPU101がX軸モータ114、Y軸モータ116の駆動とミシンモータ112の駆動を同時に制御することで縫製対象物に縫目模様を形成する。
【0064】
CPU101は、縫製が完了したか否か判断する(S207)。CPU101は、縫製順が最後の針落ち点の座標データを処理した場合、縫製が完了したと判断する(S207:YES)。CPU101は、縫製処理を終了し、処理を図7のメイン処理に戻す。CPU101は、縫製順が最後の針落ち点の座標データを処理していない場合、縫製が完了していないと判断する(S207:NO)。CPU101は、糸切れ検出器40が上糸55の糸切れを検出したか否かを判断する(S211)。具体的には、CPU101は、回転位置検出器122の出力信号に基づき、天秤19が前述の上昇位置にあるか否かを判断する。天秤19が上昇位置にある場合、CPU101は、糸切れ検出器40が出力した上糸検知信号を確認する。上糸検知信号は、糸切れ検出器40が上糸55を検出できない場合、上糸55を検出した場合に比べて低レベルの信号となる。CPU101は、上糸検知信号が低レベルの信号である場合、糸切れ検出器40が上糸55の糸切れを検出したと判断する。糸切れ検出器40が糸切れを検出していない場合(S211:NO)、CPU101は、操作パネル8の所定のキーから縫製中断指示の入力があったか否かを判断する(S212)。縫製中断指示は、例えば作業者が縫製を中断する必要がある異常を発見した場合に入力する。CPU101は、縫製中断指示の入力を検知していない場合(S212:NO)、処理をS206に戻し次の針落ち点の座標データに従って縫製を実行する。
【0065】
糸切れ検出器40が糸切れを検出した場合(S211:YES)、CPU101は、縫製動作を停止する(S213)。糸切れ検出器40が糸切れを検出していない場合であっても、縫製中断指示の入力があった場合(S211:NO、S212:YES)、CPU101は縫製動作を停止する(S213)。具体的には、CPU101は、ミシンモータ112、X軸モータ114、Y軸モータ116の駆動を停止する。CPU101はエラー番号を操作パネル8のディスプレイに表示する(S214)。エラー番号は、エラーの種類(本実施形態では、糸切れと縫製中断指示)に応じて予め定める。CPU101は、作業者がエラーを確認したことを示す情報の入力がない間は待機する(S215:NO)。作業者が操作パネル8のキーを用いて確認入力を行うと、CPU101は入力を検知する(S215:YES)。
【0066】
CPU101は、回転位置検出器122からの出力信号に基づき、縫針11が針上位置にある状態で停止中であるか否かを判断する(S217)。針上位置は、縫針11の先端が縫製対象物よりも上にある位置である。縫針11が針上位置にない場合(S217:NO)、縫針11は縫製対象物に刺さった状態である。故に、CPU101は、縫針11が針上停止位置に到達するまでミシンモータ112を駆動して主軸を回転する(S218)。針上停止位置は、縫針11が針上位置にある状態で停止する規定位置である。CPU101は中断時処理を行う(S220、図16)。縫針11が針上位置にある場合(S217:YES)、CPU101はそのまま中断時処理を行う(S220、図16)。
【0067】
図16に示す如く、中断時処理では、CPU101は最初に仮想針落ち点モードに移行する(S221)。つまり、S221以降、ミシン1は、座標系602の座標データに基づき動作する。S213で縫製動作を停止した時点の針落ち点の座標は、座標系601の座標である。故に、CPU101は、S221で該座標を座標系602の座標に変換することで、仮想針落ち点の座標を特定する。CPU101は、X軸モータ114、Y軸モータ116を駆動することで保持体60を仮想針落ち点の座標が示す位置に移動する。CPU101は、イメージセンサ50が出力する画像データを取得して、仮想針落ち点の位置を示すマークMを重ねた合成画像36(図17参照)を生成し、操作箱30のLCD32(図5参照)に表示する処理を開始する(S222)。
【0068】
図17に示す例は、開始点SPを縫製の開始点として、続く三つの針落ち点に縫針11を刺して縫目T1を形成した後、糸切れが発生したことでミシン1が縫製動作を停止した場合の合成画像36である。糸切れが発生してから、糸切れ検出器40が該糸切れを検出してミシンモータ112、X軸モータ114、Y軸モータ116が停止するまでの間に、CPU101は複数の針落ち点の座標データを処理する。故に、糸切れが発生した時点の針落ち点と、実際にミシンモータ112、X軸モータ114、Y軸モータ116が停止した時点の針落ち点の間は、縫目が存在しない。図17のマークMは、ミシンモータ112、X軸モータ114、Y軸モータ116が停止した時点の仮想針落ち点を示す。図17に示す如く、合成画像36は、処理済みの針落ち点を同様に座標変換して特定した処理済みの仮想針落ち点を示すマークPPを含んでもよい。合成画像36において、針棒10下端部周辺の構成部品は仮想針落ち点視認の妨げにならない。故に、作業者は、ミシン1が既に形成した縫目T1と、仮想針落ち点の位置を容易に確認できる。
【0069】
CPU101は、起動スイッチ121からの縫製再開指示の入力を検知していない場合(S226:NO)、一針後退指示の入力があったか否かを判断する(S227)。一針後退指示は、縫製再開時に処理対象となる針落ち点の座標データを、縫製中断時の針落ち点の一つ前の針落ち点の座標データに変更する指示である。図17の例の場合、作業者は二つ前の針落ち点から縫製を再開する必要があるので、操作箱30のキー群33(図5参照)の一針後退キー(図示略)を押下して指示を入力する。CPU101は、一針後退指示の入力を検知した場合(S227:YES)、縫製中断時の針落ち点の一つ前の針落ち点の座標を座標系602の座標に変換し、RAM103に記憶する。CPU101は、変換後の座標が示す位置に保持体60を移動する(S228)。CPU101は、一つ前の仮想針落ち点に対応する位置にマークMを配置した合成画像36を生成し、LCD32に表示する(S229)。CPU101は処理をS226の判断に戻す。図17の例の場合、CPU101は、一針後退指示の入力に応じてS226〜S228の処理を更に一回行う。その結果、保持体60は、糸切れが発生した三つ目の縫目T1の縫い終わりの仮想針落ち点の位置まで戻る。
【0070】
CPU101は、一針後退指示の入力を検知していない場合(S227:NO)、一針前進指示の入力があったか否か判断する(S231)。一針前進指示は、縫製再開時に処理対象となる針落ち点の座標データを、縫製中断時の針落ち点の一つ後の針落ち点の座標データに変更する指示である。CPU101は、一針前進指示の入力を検知した場合(S231:YES)、縫製中断時の針落ち点の一つ後の針落ち点の座標を座標系602の座標に変換し、RAM103に記憶する。CPU101は、変換後の座標が示す位置に保持体60を移動する(S232)。CPU101は、一つ後の仮想針落ち点に対応する位置にマークMを配置した合成画像36を生成し、LCD32に表示する(S233)。CPU101は処理をS226の判断に戻す。
【0071】
CPU101は、一針後退指示又は一針前進指示に応じた処理を行った後、起動スイッチ121からの縫製再開指示の入力を検知すると(S226:YES)、LCD32への合成画像36の表示を停止する(S241)。CPU101は、通常モードへ移行する(S242)。つまり、S242以降、ミシン1は、座標系601の座標データに基づき動作する。S226でCPU101が縫製再開指示の入力を検知した時点でRAM103が記憶する仮想針落ち点の座標は、座標系602の座標である。故に、CPU101は、S242で該座標を座標系601の座標に変換することで、縫製再開時の処理対象の針落ち点の座標を特定する。CPU101は、X軸モータ114、Y軸モータ116を駆動することで保持体60を実際の針落ち点の座標が示す位置に移動する。つまり、針落ち点は、縫針11直下の本来の位置に移動する。
【0072】
CPU101は、縫製データにおいて、縫製再開時の処理対象の針落ち点の縫製順を特定し、特定した針落ち点の座標データに従って、縫製を再開する(S243)。CPU101は中断時処理を終了し、処理を縫製処理(図15)のS207に戻す。CPU101は、縫製が完了するまで、縫製順が縫製再開時の針落ち点より後の針落ち点が順に縫針11の直下に位置するように保持体60を移動して、縫製を行う。最後の針落ち点の座標データに基づく縫製が完了すると(S207:YES)、縫製処理は終了する。CPU101は、処理を図7のメイン処理に戻す。
【0073】
図18を参照し、試験送り処理について説明する。試験送り処理は、前述の縫製データ作成処理(図8参照)で作成した縫製データに従って保持体60のみを移動する処理である。つまり、針棒10、押え棒12、垂直釜は駆動しない。作業者は、縫製データに従ってミシン1が動作した場合、縫針11が保持体60及び模様板68(図10参照)と干渉するか否かを確認する為に、試験送り処理の実行を指示する。作業者は、保持体60が縫製対象物を保持しない状態で試験送り処理の実行を指示する。試験送り処理は、図7に示すS3で、CPU101が試験送り処理の実行指示の入力を検知した場合に実行する。試験送り処理では、ミシン1は、通常モードで動作する。保持体60は、針落ち点が縫針11の直下(針穴502の真上)の本来の位置となるように移動する。
【0074】
図18に示す如く、試験送り処理のS31〜S35までの処理は、縫製処理(図15)のS201〜S205の処理と同じなので、説明を省略する。CPU101は、試験送り開始指示の入力を検知した場合(S35:YES)、X軸モータ114、Y軸モータ116を駆動することで保持体60を処理対象の針落ち点の座標データが示す位置に移動する(S36)。ミシンモータ112は駆動しない。CPU101は、縫製順が最後の座標データを処理するまで、縫製順に従って順に座標データを処理対象とし、保持体60の移動を繰り返す(S37:NO)。最後の座標データの処理が完了すると(S37:YES)、試験送り処理は終了する。CPU101は、処理を図7のメイン処理に戻す。作業者は、保持体60が移動する間、針穴502が押え板63開口から常時見えていれば、縫製データに問題がないと判断できる。作業者は、模様板68を使用する場合、溝69から針穴502が常時見えていれば、縫製データに問題がないと判断できる。
【0075】
以上説明した如く、本実施形態のミシン1によれば、CPU101が移送装置6を制御して、針落ち点が縫針11直下の本来の位置から所定方向に所定距離だけ離れた位置に位置するように、縫製対象物を保持する保持体60を移動する。ミシン1は、縫針11が針落ち点を視認する妨げとならない位置に、針落ち点を移動することができる。更に、CPU101は、イメージセンサ50の撮影画像に仮針落ち点を示すマークMを重ねた合成画像36をLCD32に表示する。つまり、ミシン1は、移動後の縫製対象物上の針落ち点を仮想針落ち点として視認可能な状態で示す。故に、作業者は、縫針11直下の本来の位置から移動した後の仮想針落ち点の位置を容易に視認できる。作業者は、針棒10の下端に縫針11があっても、縫製対象物上の針落ち点周辺部位を確実に確認できる。ミシン1は、針棒10の下端周辺に縫針11以外の構成部品である押え足13、ワイパ14、保護部材145を有する。しかし、保持体60が移動する所定方向と所定距離は、イメージセンサ50と構成部品の関係を考慮して定めるので、該構成部品は、画像中で仮想針落ち点視認の邪魔にならない。
【0076】
本実施形態では、移送装置6は、本発明の「移動機構」に相当する。図8の縫製データ作成処理、図16の中断時処理において、X軸モータ114、Y軸モータ116を駆動して保持体60を移動する処理を行うCPU101は、「移動制御手段」に相当する。図8の縫製データ作成処理、図16の中断時処理において、イメージセンサ50と、LCD32に合成画像36を表示する処理を行うCPU101は、「指示手段」に相当する。イメージセンサ50は「撮影手段」に相当する。LCD32は「表示手段」に相当する。LCD32に合成画像36を表示する処理を行うCPU101は、「表示制御手段」に相当する。ROM102、不揮発性メモリ104は、「記憶手段」に相当する。
【0077】
本発明は、前述の実施形態の他に種々の変更が可能である。図19を参照し、一変形例に係るミシン110について説明する。図19において、図3のミシン1と同じ構成は、同じ符号を付す。以下では、ミシン1と異なるミシン110の構成と処理についてのみ説明する。図19に示す如く、ミシン110は、ミシン1の糸切れ検出器40とイメージセンサ50に代えて、糸異常検出器70とレーザポインタ90を備える。
【0078】
糸異常検出器70は、上糸55の糸切れと目飛びT2を検出可能な検出器である。目飛びT2とは、複数の針落ち点のうち何れかに対応する縫目が形成できていない状態である。糸異常検出器70は、案内片71、検出部75、吸引パイプ76を備える。案内片71は、前端部7右側面の糸案内20から針棒10に至る上糸55の経路上に設けた直方体形状の部材である。案内片71は、上下方向に延びる貫通穴711と、貫通穴711に接続する開口部712を有する。開口部712は、貫通穴711の中間部から後方(図19の右側)に延びて案内片71の背面に開口する。検出部75は光電スイッチであり、開口部712の後方で上下方向に対向する発光部751(例えば、発光ダイオード)と受光部752(例えばフォトトランジスタ)を備える。吸引パイプ76の先端部77は、検出部75を挟んで開口部712後方に配置する。吸引パイプ76は、負圧供給装置(図示略)に接続する。負圧供給装置は、ミシン110の縫製動作に伴って動作し、吸引パイプ76を介して所定の負圧で上糸55を開口部712から吸引する。負圧供給装置は該動作で上糸55に張力を付与する。
【0079】
ミシン110は、正常な縫目T1を所定の縫目ピッチdで形成する。正常な縫目T1は、上糸55と下糸が絡み合うことで形成する。しかし、目飛びT2が発生した場合、上糸55が下糸と絡まないので、上糸55は弛む。故に、目飛びT2が発生した場合、吸引パイプ76を介して貫通穴711に働く負圧は、上糸55の弛み部分55Aを開口部712から吸引パイプ76側へ引き出す。弛み部分55Aは屈曲変形して検出部75の発光部751と受光部752の間に進入する。検出部75は、弛み部分55Aの進入を検知することで、目飛びT2の発生を検出できる。糸切れが発生した場合も、目飛びT2の場合と同様上糸55は弛むので、検出部75は糸切れの発生を検出できる。ミシン110のCPU101は、検出部75の出力信号に基づき、上糸55の糸切れ、目飛びT2が発生したか否かを判断できる。
【0080】
ミシン110では、CPU101は、縫製処理(図15)のS211で、糸異常検出器70が糸切れ又は目飛びを検出したか否かを判断する。糸異常検出器70が糸切れ又は目飛びを検出した場合(S211:YES)、CPU101は縫製動作を停止し(S213)、仮想針落ち点モードに移行する(図16のS221)。故に、作業者は、糸切れと同様の異常である目飛びの発生時にも仮想針落ち点モードで縫製再開時の針落ち点を適切に調整し、縫製を再開できる。尚、CPU101は、エラーの確認入力検知後(S215:YES)、目飛びの場合に糸を切る処理を追加する。
【0081】
レーザポインタ90は、レーザ光線をスポット照射することで一点又は非常に狭い領域を指し示す周知の機器である。レーザポインタ90は、前述の実施形態のミシン1のイメージセンサ50(図3参照)の支持部51と同じ位置にある支持部91でミシン110に固定する。レーザポインタ90の指示位置(レーザ光線の光点)は、縫製対象物上で縫針11直下(針穴502の真上)の位置から所定方向に所定距離離れた位置である。該所定方向と所定距離は、ミシン1のイメージセンサ50と同様、任意の方向において、レーザポインタ90と仮想針落ち点上の縫製対象物との間に縫針11又は他の構成部品が重ならなくなるまでの移動距離以上であればよい。
【0082】
レーザポインタ90は、作業者が直接視認可能な光点で、縫製対象物上の一点を仮想針落ち点として指示することができる。故に、作業者は、ミシン110が仮想針落ち点モードで動作する時、縫製対象物上の光点を視認しながら、ミシン1の場合と同様の作業を行うことができる。ミシン110はレーザポインタ90で仮想針落ち点を指示するので、前述の実施形態のような画像表示を行う必要がない。故に、ミシン110では、縫製データ作成処理(図8)、等分処理(図9)、縫製処理(図16)で行う画像表示に関する処理は全て省略できるので、簡便な構成でミシン1と同様の効果を得ることができる。
【0083】
変形例では、レーザポインタ90は、本発明の「指示手段」、「投影手段」に相当する。
【0084】
以下、前述の実施形態に加えうるその他の変更を例示する。仮想針落ち点を視認可能な状態で示す指示手段は、前述のイメージセンサ50、レーザポインタ90の他、プロジェクタでもよい。プロジェクタは、レーザポインタ90と同様、仮想針落ち点を縫製対象物上に直接投影できる。故に、レーザポインタ90と同様の効果を奏することができる。イメージセンサ50は、CCDカメラ等、CMOSセンサ以外の撮影素子であってもよい。イメージセンサ50の撮影範囲は、針穴502から所定方向に所定距離離れた位置を含めばよく、必ずしも該位置を中心としなくてよい。
【0085】
ミシン1は、仮想針落ち点モードと通常モードを自動的に切替えるが、作業者の指示に応じて切替えてもよい。ミシン1は、前述の例(縫製処理と試験送り処理)の他に、通常モードで動作する処理があってもよいし、縫製データ作成処理、中断時処理の他にも、仮想針落ち点モードで動作する処理があってもよい。ミシン1が仮想針落ち点モードで保持体60を移動する所定方向と所定距離は、予め記憶せず、作業者が処理の都度設定してもよい。
【0086】
保持体60は、縫製対象物を保持可能な構成であればよく、移送板61と押え板63で縫製対象物を上下から挟む構成に限らない。枠状の外枠と、外枠の内側に嵌合可能な内枠を備え、外枠と内枠の間に縫製対象物を挟んで保持する構成でもよい。
【0087】
糸切れや目飛びの検出方法は、実施形態や変形例で例示した方法以外の任意の方法を採用可能である。ミシン1は、上糸55の経路上で糸切れを物理的に検出する検出器を備えてもよい。例えば、特開2010−233753に記載の糸取りバネと糸切れセンサが採用可能である。前述の例では、縫製中に糸切れを検出した場合、目飛びを検出した場合、作業者が縫製中断指示を入力した場合、ミシンは縫製を中断し、仮想針落ち点モードで動作する。しかし、ミシンは、上記三つの場合のうち、少なくとも一つに該当する場合のみを処理対象としてもよい。例えばミシンは、糸切れを検出した場合のみ、縫製を中断し、仮想針落ち点モードで動作してもよい。
【0088】
エラーの報知は、エラー番号の表示でなく、ブザーによる警告音発信やランプの発光で行ってもよい。エラーの報知は行わなくてもよい。ミシンは、エラー報知後の確認入力待機はせず、そのまま縫製を中断し、仮想針落ち点モードで動作してもよい。
【0089】
実施形態では、操作箱30はミシン1と別体である。故に、CPU101は、詳細には、合成画像36をLCD32に表示する為に、操作箱30に合成画像36の画像データを送信する。操作箱30のCPU301は、駆動回路308を介して合成画像36をLCD32に表示する。しかし、合成画像36を表示する表示手段は、操作パネル8に設けてもよいし、ミシン1の本体(例えば、アーム部4の上部)に設けてもよい。情報、指示を入力する手段も、操作パネル8、操作箱30に限らない。ミシン1の本体が入力手段を備えてもよい。
【符号の説明】
【0090】
1 ミシン
6 移送装置
10 針棒
11 縫針
32 LCD
50 イメージセンサ
60 保持体
101 CPU
102 ROM
104 不揮発性メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縫針を下端に装着する針棒と、
前記針棒の下方に設け、縫製対象物を保持する保持体を水平移動可能な移動機構とを備えたミシンにおいて、
前記移動機構を制御することで、前記縫針が刺さる前記縫製対象物上の予定位置である針落ち点が前記縫針の直下の本来の位置から所定方向に所定距離離れた位置に前記保持体を移動する移動制御手段と、
前記移動制御手段により前記保持体を前記所定距離移動した後の前記縫製対象物上の前記針落ち点を、仮想針落ち点として視認可能な状態で示す指示手段とを備えたことを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記保持体が水平移動可能な可動範囲は、前記保持体に対応する縫製可能範囲に対して少なくとも前記所定距離だけ前記所定方向に大きいことを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記指示手段は、
前記保持体が保持する前記縫製対象物を撮影可能な撮影手段と、
前記撮影手段が撮影した前記縫製対象物の画像に前記仮想針落ち点を示すマークを重ねた合成画像を生成し、表示手段に前記合成画像を表示する表示制御手段とを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のミシン。
【請求項4】
前記所定距離は、前記撮影手段と前記仮想針落ち点における前記縫製対象物との間に前記縫針又は前記ミシンの他の構成部品が重ならなくなるまでの前記所定方向における移動距離以上であることを特徴とする請求項3に記載のミシン。
【請求項5】
前記指示手段は、前記縫製対象物上に前記仮想針落ち点を視認可能に投影する投影手段を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のミシン。
【請求項6】
前記投影手段は、前記縫製対象物上の前記仮想針落ち点にレーザ光をスポット照射するレーザポインタであることを特徴とする請求項5に記載のミシン。
【請求項7】
前記所定方向と前記所定距離を予め記憶する記憶手段を更に備えたことを特徴とする請求項1〜6の何れか一つに記載のミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−74970(P2013−74970A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216070(P2011−216070)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】