説明

メラニン形成を阻害するためのKif13A阻害剤およびAP−1阻害剤の使用

本発明は、AP−1アダプター複合体のサブユニットの少なくとも1つの阻害剤、AP−1と相互作用するキネシン、特にKif13Aの少なくとも1つの阻害剤、またはAP−1アダプター複合体のサブユニットと前記キネシンとの間の相互作用の少なくとも1つの阻害剤、並びに、色素性疾患の処置のための薬物を製造するためのおよび色素脱失剤としてのその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラニン細胞におけるメラニン色素の合成を減少させる組成物およびその使用に関する。
【0002】
発明の技術的背景
ヒトにおいて、色素沈着は、最も顕著には皮膚、毛髪および虹彩色素上皮におけるメラニン色素の合成および分布から生じる。従って、皮膚、毛髪および眼の色は、主に存在する色素のタイプおよびその濃度に依存する。この色素沈着は、多くの内因性または外因性因子、例えば紫外線照射への曝露によって調節される。
【0003】
メラニンは、チロシン(ユーメラニン)から形成されるモノマーまたはチロシンおよびシステイン(フェオメラニン)の付加もしくは縮合によってメラニン細胞によって産生される巨大分子である。メラニンが合成される機序、すなわちメラニン形成は、特に複雑であり、そして様々な酵素、主にチロシナーゼおよびチロシン関連タンパク質(チロシナーゼ関連タンパク質−1またはTyrp−1)が関与している。メラニン形成中、これらの酵素は、特にチロシンからDOPA(ジヒドロキシフェニルアラニン)への変換、そしてその後、ドーパキノンへの変換を触媒する。この分子から、2つの代謝経路により、ユーメラニンまたはフェオメラニンの合成が可能となる。
【0004】
メラニン形成は、メラニン細胞に含まれる特殊な細胞内小器官であるメラノソームで行なわれる。メラノソームは形態学的に記載された最初の細胞小器官であるが(Seiji et al., 1963)、そのタンパク質組成およびその生合成は依然として比較的あまり知られていない。
【0005】
メラノソームの成熟は、形態学的基準に基づいて4つの段階に分解できる。段階Iは、様々な量の管腔内膜を有する膜によって区切られた区画に相当する。段階IIは、特徴的なタンパク質様の条線を有する楕円体の構造である。これらの条線は、メラニン濃縮、毒性合成中間体の排除、およびケラチノサイトへのメラニンの移動を促進する際に重要な役割を果たす(Seiji et al., 1963)。メラニンは、条線に沿った高電子密度の沈着物によって段階IIIから検出される。段階IVは、内部条線がもはや見えない高電子密度の構造である。この段階は、ケラチノサイトへと移動する準備のできた成熟メラノソームに相当する(Van Den Bossche et al., 2006)。
【0006】
生合成のプロセスの間に、「色素化された」成熟メラノソーム(段階IIIおよびIV)は、メラニン合成に重要な酵素、および周辺へのその輸送に必要とされるエフェクターの添加によって得られる(Raposo et al., 2001)。メラニン形成に関与する酵素はこのようにゴルジ装置で合成され、その後、プレメラノソーム中に移動する。この移動に関与する機序は依然として比較的あまり知られていない。このタイプの移動は、輸送小胞において酵素を補充する役割を有するヘテロテトラマーであるアダプタータンパク質(AP)複合体の関与を特に必要とする。これらの複合体には4つあり、AP−1からAP−4と命名されている。本発明者らは、以前に、AP−3複合体が、メラノソームへのチロシナーゼの移動に関与していたことを示した。しかしながら、AP−3の欠失は色素沈着を消失させず、Tyrp−1の輸送に影響を及ぼさない。彼らはまた、AP−1アダプター複合体が、チロシナーゼおよびTyrp−1の細胞質ドメインのアミノ酸配列と相互作用できることを観察したが、メラニン形成におけるこの複合体の正確な機能を解明することはできなかった(Theos et al., 2005)。それと平行して、Kif13Aと称されたキネシンが、AP−1のサブユニットと相互作用できることも示された(Nakagawa et al., 2000)。この相互作用は、メラノソームを欠失した細胞株において観察された。従って、メラニン細胞の細胞株におけるこのような相互作用の存在、並びにメラニン形成におけるその役割は確立されていない。
【0007】
メラニン細胞機能不全は色素沈着異常をもたらし得る。色素沈着低下が、色素脱失症、特に白皮症および白斑症から生じ得る。逆に、局所的な色素沈着過剰は、特発性肝斑または良性メラニン細胞活動亢進および増殖から生じ得、これらは例えば老人性色素斑(老人性黒子)を引き起こす。色素沈着過剰はまた、災難に因り、例えば光感作または病変後瘢痕によって引き起こされ得る。
【0008】
これらの色素沈着過剰は、局所経路によって投与される色素脱失物質によって処置することができる。色素脱失分子は皮膚メラニン細胞に作用し、そしてメラニン形成の1つ以上の段階に干渉する。公知の色素脱失物質は、特に、ヒドロキノンおよびその誘導体、アスコルビン酸およびその誘導体、胎盤抽出物、コウジ酸、アルブチン、イミノフェノール(WO 99/22707)、カルニチンとキノンの組合せ(DE 19806947)、アミノ−フェノールアミド誘導体(FR 2772607)、およびベンゾチアゾール誘導体(WO 99/24035)である。
【0009】
これらの物質は、特にその不安定性、高濃度でそれらを使用する必要性、その非特異的作用またはその毒性、刺激性もしくはアレルギー特性に因り、様々な欠点を提示し得る。従って、局所経路によって色素沈着過剰を処置または予防するための効果的で無害な色素脱失物質が、化粧品学および皮膚科学の分野において非常に求められている。
【0010】
ここ数年間において、メラニン細胞の機能不全によって引き起こされる疾病を処置するための新規なアプローチが出現している。特にアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用が考えられた。実際に、文書WO 99/25819は、白斑症および他の色素脱失症を処置するためにテネイシンの発現を調節することによって、色素沈着を増加させるために使用したオリゴヌクレオチドを記載し、文書FR 2804960は、色素沈着過剰を処置するためにチロシナーゼまたはTyrp−1の発現を調節するためのアンチセンスオリゴヌクレオチドを記載した。
【0011】
発明の要約
本発明の目的は、メラニン形成に対して特異的な作用を有し、局所経路による投与に適した製剤において安定である、無毒性で非刺激性で非アレルギー性である、新規な色素脱失剤を提供することである。
【0012】
本発明は、第一に、AP−1アダプター複合体と相互作用するキネシン阻害剤、特にKif13Aの少なくとも1つの阻害剤、AP−1アダプター複合体のサブユニットの阻害剤、またはAP−1アダプター複合体のサブユニットもしくはAP−1複合体と、AP−1複合体と相互作用するキネシンとの間の相互作用の阻害剤を含む、薬学的または化粧品組成物に関する。本発明の第一の好ましい態様において、前記阻害剤は、キネシンKif13Aの阻害剤である。本発明の第二の好ましい態様において、前記阻害剤は、AP−1アダプター複合体のサブユニットの阻害剤である。本発明の第三の好ましい態様において、前記阻害剤は、AP−1アダプター複合体のサブユニットまたはAP−1複合体と、AP−1複合体と相互作用するキネシン、特にキネシンKif13Aとの間の相互作用の阻害剤である。特定の態様において、前記阻害剤は、小分子、アプタマー、抗体、核酸またはドミナントネガティブペプチドである。好ましくは、前記阻害剤は、アプタマー、抗体、核酸またはドミナントネガティブペプチド(dominant negative peptide)である。
【0013】
好ましい態様において、本発明は、AP−1アダプター複合体のサブユニットまたはAP−1アダプター複合体と相互作用するキネシン、特にKif13Aをコードする遺伝子またはmRNAと特異的にハイブリダイゼーションでき、このタンパク質の発現を減少または抑制することができる配列を含むまたはからなる少なくとも1つの核酸を含む薬学的または化粧品組成物に関する。本発明の第一の好ましい態様において、前記の少なくとも1つの核酸は、AP−1アダプター複合体と相互作用するキネシン、特にKif13Aをコードする遺伝子またはmRNAと特異的にハイブリダイゼーションでき、このタンパク質の発現を減少または抑制することができる配列を含むまたはからなる。本発明の第二の好ましい態様において、前記の少なくとも1つの核酸は、AP−1アダプター複合体のサブユニットをコードする遺伝子またはmRNAと特異的にハイブリダイゼーションできる配列、および、このタンパク質の発現を減少または抑制することを含むまたはからなる。好ましくは、前記核酸は、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはiRNA、好ましくはsiRNAである。前記核酸は、15〜50ヌクレオチド、好ましくは15〜30ヌクレオチドを有し得る。好ましい態様において、前記核酸は、配列番号1〜6および11〜24の配列間で選択される配列を含む。
【0014】
前記組成物は、エラク酸;アルブチン;レゾルシノール;ビタミンC;パントテネート;コウジ酸;胎盤抽出物;メラニン細胞刺激ホルモン(MSH)、そのレセプターまたは副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)と直接的にまたは間接的に干渉する分子;ポリオール、例えばグリセリン、グリコールまたはプロピレングリコール;ビタミン;角質溶解剤および/または剥離剤、例えばサリチル酸;α−ヒドロキシ酸、例えば乳酸またはリンゴ酸;アスコルビン酸;レチノイン酸;レチンアルデヒド;レチノール;パルミテート、プロピオネートまたはアセテート;抗糖化剤および/または抗酸化剤、例えばトコフェロール、チオタウリン、ハイポタウリン、アミノグアニジン、チアミンピロホスフェート、ピリドキサミン、リジン、ヒスチジン、アルギニン、フェニルアラニン、ピリドキシン、アデノシントリホスフェート;抗炎症剤;鎮静剤およびその混合物;化学的または物理的な太陽フィルターおよびデオキシリボ核酸またはリボ核酸、およびその誘導体からなる群より好ましくは選択される、1つ以上の他の活性物質をさらに含み得る。好ましい態様において、この組成物は、局所使用に適応される。
【0015】
別の局面において、本発明は、色素性疾患を処置または予防するための薬物の調製のための本発明による薬学的または化粧品組成物の使用に関する。好ましい態様において、色素性疾患は色素沈着過剰である。
【0016】
別の局面において、本発明は、化粧品薬剤としての本発明による薬学的または化粧品組成物の使用に関する。好ましくは、化粧品薬剤は色素脱失剤である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】図1Aは、siRNA−対照、siRNA−AP−1(μ1A)、siRNA−AP−3(β3A)またはsiRNA−Kif13Aでトランスフェクトされたメラニン細胞の細胞溶解液のウェスタンブロット実験によって得られた結果を示す。使用した一次抗体は抗Kif13Aである。
【図1B】図1Bは、メラニン細胞の細胞溶解液から作られた抗Kif13A抗体または抗γ−アダプチン抗体(AP−1)を用いた免疫沈降の結果を示す。ウェスタンブロットを可視化するために使用した一次抗体は抗Kif13Aである。
【図1C】図1Cは、siRNA−対照またはsiRNA−Kif13Aでトランスフェクトされたメラニン細胞のタンパク質抽出物のウェスタンブロット実験によって得られた結果を示す。キネシンKif13AおよびAP−1複合体サブユニットμ1Aの発現レベルは、基準としてβ−チューブリンの発現を使用することによってここで定量的に評価される。
【図2】図2は、siRNA−対照またはsiRNA−Kif13Aでトランスフェクトされたメラニン細胞におけるメラニンの比率を提示する図を示す。siRNA−対照でトランスフェクトされたメラニン細胞におけるメラニンの量を、100%に等しいと捉える。メラニンの量は、492nmの波長における細胞溶解液の吸光度を測定することによって決定された。
【図3】図3は、siRNA−対照またはsiRNA−Kif13Aでトランスフェクトされたメラニン細胞の切片の電子顕微鏡写真を示す。
【図4】図4は、siRNA−対照またはsiRNA−μ1Aでトランスフェクトされたメラニン細胞のタンパク質抽出物のウェスタンブロット実験によって得られた結果を示す。AP−1複合体のμ1およびγ−アダプチンサブユニットの発現は、基準としてβ−チューブリン発現レベルを使用することによってここで定量的に評価される。
【図5A】図5Aおよび5Bは、siRNA−対照、siRNA−μ1AまたはsiRNA−γ−アダプチンで(図5A)、あるいはsiRNA−γ−アダプチンおよびsiRNA−μ1Aの組合せ(図5B)でトランスフェクトされたメラニン細胞の中で、白い細胞、すなわち、成熟した色素化されたメラノソームを含まないメラニン細胞の比率を提示する図を示す。これらの測定は、光学顕微鏡(位相差)を使用して直接計測することによって行なわれた。
【図5B】図5Aおよび5Bは、siRNA−対照、siRNA−μ1AまたはsiRNA−γ−アダプチンで(図5A)、あるいはsiRNA−γ−アダプチンおよびsiRNA−μ1Aの組合せ(図5B)でトランスフェクトされたメラニン細胞の中で、白い細胞、すなわち、成熟した色素化されたメラノソームを含まないメラニン細胞の比率を提示する図を示す。これらの測定は、光学顕微鏡(位相差)を使用して直接計測することによって行なわれた。
【図6】図6は、siRNA−対照、siRNA−μ1A、またはsiRNA−γ−アダプチンとsiRNA−μ1Aの組合せでトランスフェクトされたメラニン細胞におけるメラニンの比率を提示する図を示す。siRNA−対照でトランスフェクトされたメラニン細胞におけるメラニンの量を、100%に等しいと捉える。メラニンの量は、492nmの波長における細胞溶解液の吸光度を測定することによって決定された。
【図7】図7は、siRNA−対照およびsiRNA−μ1Aでトランスフェクトされたメラニン細胞の切片の電子顕微鏡写真を示す。写真上のローマ数字は、細胞中に存在するメラノソーム成熟段階に相当する。
【0018】
発明の詳細な説明
本発明者らは、驚くべき方法で、メラニン色素の合成を、メラニン細胞において、AP−1アダプター複合体のサブユニットの阻害剤またはAP−1と相互作用するキネシンの阻害剤を用いて、特にAP−1アダプター複合体のサブユニットの発現またはAP−1と相互作用するキネシンの発現を遮断する核酸を用いて減少させることができることを示した。彼らは実際に、このような核酸が、プレメラノソームへ向けたゴルジ装置のメラニン形成酵素の輸送を破壊し、従ってこれらの細胞小器官の成熟を遮断できるだけでなく、メラニン形成酵素の発現も減少させることができることを観察した。従って、本発明者らは、このタイプの核酸が、メラニン形成の様々な段階に対して作用することによってメラニン細胞におけるメラニンの合成を減少または阻害でき、従って、新規で特に効果的な色素脱失剤を構成することを明らかにした。
【0019】
本発明は、第一に、AP−1アダプター複合体と相互作用するキネシン、特にKif13Aの少なくとも1つの阻害剤、AP−1アダプター複合体のサブユニットの阻害剤、または、AP−1アダプター複合体のサブユニットもしくはAP−1複合体と、AP−1複合体と相互作用するキネシンとの間の相互作用の阻害剤に関する。
【0020】
本文書で使用した用語「AP−1」は、トランスゴルジネットワークにおいて作用するAP−1アダプター複合体をいう。junおよびfosファミリーのメンバーである遺伝子によってコードされるタンパク質からなる同じ名称の転写因子と混同すべきではない。AP−1アダプター複合体は、4つのサブユニット、すなわちγ、β1、σ1およびμ1からなり、これらのサブユニットのいずれか1つの不活性化は、複合体を不安定化し、それを不機能にするに十分である(Braun, 2007)。
【0021】
本発明の第一の好ましい態様において、前記阻害剤は、AP−1と相互作用するキネシン、特にキネシンKif13Aの阻害剤である。
【0022】
本発明は、AP−1と相互作用するキネシン、特にKif13Aの任意のタイプの阻害剤に関する。前記阻害剤は、キネシンの活性または発現を減少させることができる任意の分子であり得る。前記阻害剤は、小分子、アプタマー、抗体、核酸またはドミナントネガティブペプチドであり得るが、これらに限定されるわけではない。
【0023】
用語「小分子」は、1,000ダルトン未満の分子、特に有機または無機化合物をいう。小さなキネシン阻害性分子は、アセプロマジン、クロルフェネタジン、クロルプロマジン、N−メチルクロルプロマジン、シアメマジン、フルフェナジン、メパジン、メトトリメプラジン、メトキシプロマジン、ノルクロルプロマジン、ペラジン、ペルフェナジン、フェノチアジン、プロクロルペラジン、プロメタジン、プロピオマジン、プタペラジン(putaperazine)、チエチルペラジン、チオプロパゼート、チオリダジン、トリフルオペラジン、トリフルプロマジン並びに、特許出願および特許WO 01/98278、WO 02/057244、WO 02/079169、WO 02/057244、WO 02/056880、WO 03/050122、WO 03/050064、WO 03/049679、WO 03/049678、WO 03/049527、WO 03/079973、US 6,890,933、WO 2008/070739、WO 2006/060737、WO 2006/119146およびUS 6,777,200に記載された阻害性分子を含むが、これらに限定されるわけではない。
【0024】
1つの態様において、前記阻害剤は、アプタマー、抗体、核酸またはドミナントネガティブペプチドである。ここで使用したような用語「ドミナントネガティブペプチド」は、AP−1と相互作用し、その活性を抑制もしくは減少することのできるキネシンの少なくとも一部分を含むペプチドをいう。好ましくは、ドミナントネガティブペプチドは、AP−1と相互作用するキネシンの一部、すなわちキネシンの尾部に相当する部分のみから構成される。従って、このペプチドは、AP−1複合体と相互作用できるが、キネシンの頭部に相当するセグメントがなければ、微小管に沿って移動することができず、よってその機能を満たすことができない。
【0025】
キネシンKif13Aのためのいくつかのネガティブドミナントペプチドがすでに記載されている。特に、Kif13Aのドミナントネガティブペプチドは、キネシンの尾部に相当するKif13Aタンパク質の部分のみを発現させることによって得られた。
【0026】
本発明の好ましい態様において、キネシン阻害剤は、AP−1と相互作用するキネシン、特にKif13Aをコードする遺伝子またはmRNAと特異的にハイブリダイゼーションでき、このタンパク質の発現を減少または抑制することができる配列を含むまたはからなる核酸である。このような核酸は、より十分に以下に記載されている。
【0027】
本発明の第二の好ましい態様において、前記阻害剤は、AP−1アダプター複合体のサブユニットの阻害剤である。本発明は、AP−1アダプター複合体のサブユニットの1つの任意のタイプの阻害剤である。AP−1アダプター複合体のサブユニットの1つの阻害剤によって、AP−1アダプター複合体のサブユニットの1つの活性または発現を減少することのできる任意の分子を意味する。前記阻害剤は、小分子、アプタマー、抗体、核酸またはドミナントネガティブペプチドであり得るが、これらに限定されるわけではない。好ましくは、前記阻害剤はアプタマー、抗体、核酸またはドミナントネガティブペプチドである。特に、γおよびμ1サブユニットの阻害剤が好ましい。
【0028】
用語「小分子」は、1,000ダルトン未満の分子、特に有機または無機化合物をいう。
【0029】
AP−1アダプター複合体のサブユニットのためのいくつかのネガティブドミナントペプチドがすでに記載されている。特に、μ1サブユニットのネガティブドミナント突然変異体は、チロシンと結合するポケットに突然変異を導入することによって得られ、そしてWonderlich et al. (2008, J. Biol. Chem., vol. 283, 3011-3022)に記載されている。
【0030】
前記阻害剤は、AP−1のサブユニットの1つの特異的抗体であり得る。これらの抗体のいくつか、例えばγサブユニットまたはβ1サブユニットの特異的抗体(Sigma-Aldrich)は市販されている。
【0031】
本出願において、阻害剤はまた、AP−1アダプター複合体のサブユニットが、複合体の他のサブユニットに結合するのを減少または防ぐことのできる任意の分子、すなわち、AP−1複合体の形成を減少または防ぐことのできる任意の分子も意味する。例えば、阻害性分子は、AP−1のサブユニットの1つに結合されて、前記のサブユニットが、AP1の他のサブユニットの1つ以上に結合するのを防ぐコンフォメーション変化を引き起こすことができ、これによりAP−1複合体の形成を遮断することができる。それはまた、サブユニット間の相互作用のドメインを遮蔽することもできる。
【0032】
本発明の好ましい態様において、AP−1アダプター複合体の阻害剤は、AP−1アダプター複合体のサブユニットをコードする遺伝子またはmRNAと特異的にハイブリダイゼーションでき、このタンパク質の発現を減少または抑制できる配列を含むまたはからなる核酸である。このような核酸は、より十分に以下に詳述されている。
【0033】
本発明の第三の好ましい態様において、前記阻害剤は、AP−1アダプター複合体のサブユニットもしくはAP−1複合体と、AP−1複合体と相互作用するキネシン、特にキネシンKif13Aとの間の相互作用の阻害剤である。本発明は、AP−1アダプター複合体のサブユニットまたはAP−1複合体と、AP−1複合体と相互作用するキネシンとの間の相互作用の任意のタイプの阻害剤に関する。好ましくは、キネシンはKif13Aである。好ましくは、AP−1のサブユニットはβ1サブユニットである。キネシンKif13Aの尾部は、AP−1複合体のβ1サブユニットと相互作用する(Nakagawa et al., 2000)。前記阻害剤は、キネシンとAP−1複合体との間の相互作用を減少または抑制することができる任意の分子であり得る。前記阻害剤は、小分子、アプタマーまたは抗体であり得るが、これらに限定されるわけではない。好ましくは、前記阻害剤は、Kif13Aと相互作用するβ1サブユニットのドメインに対して、またはβ1サブユニットと相互作用するキネシンKif13Aの尾部のドメインに対する抗体である。前記抗体は分子のどれか一方に結合し、これにより、Kif13AとAP−1複合体の間の相互作用を遮断する。さらに、前記阻害剤はまた、Kif13Aと相互作用するβ1サブユニットのドメインまたはβ1サブユニットと相互作用するキネシンKif13Aの尾部のドメインを再現するデコイであり得、このデコイが、これらの2つの要素の間の相互作用においてKif13AまたはAP−1と競合する。
【0034】
本発明に使用したような用語「抗体」は、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、組換え抗体およびその断片を含む。抗体断片は、例えば、F(ab)2、Fab、Fab’またはsFv断片を意味する。特定の態様において、抗体は、IgG、IgM、IgA、IgDまたはIgE、好ましくはIgGまたはIgMであり得る。抗体を産生するための方法は、当業者に周知である。
【0035】
ここで使用したような用語「アプタマー」は、AP−1複合体のサブユニットまたはAP−1と相互作用するキネシン、特にKif13Aに特異的に結合することのできる核酸またはペプチドの分子を意味する。好ましい態様において、アプタマーは、5〜120ヌクレオチドを一般的に含む、核酸、好ましくはRNAである(Osborne et al., 1997)。それらは、インビトロで、SELEX(Systematic Evolution of Ligands by Exponential Enrichment)として知られるプロセスに従って選択されることができる。
【0036】
本明細書において、用語「核酸」、「核酸配列」、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「ヌクレオチド配列」は、同義語として使用され、そしてデオキシリボヌクレオチドおよび/またはリボヌクレオチドの配列をいう。
【0037】
本文書で使用した用語「iRNA」または「干渉RNA」は、特定のメッセンジャーRNAと干渉し、これによりその分解またはタンパク質へのその翻訳の減少をもたらす、一本鎖または二本鎖の任意のRNAをいう。この用語は、小さい干渉RNA(siRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、一本鎖RNA(ssRNA)、ショートヘアピンRNA(shRNA)、DNAに指向するiRNA(ddiRNA)およびミクロRNA(miRNA)を含む。
【0038】
本文書において、用語「ハイブリダイズ」は、ワトソン・クリック水素結合が相補的な塩基の間で2本の核酸鎖に対して確立されて二本鎖を形成できることを意味する。本文書において、用語「特異的にハイブリダイゼーションできる」は、本発明に従って使用される核酸が、AP−1のサブユニットまたはAP−1と相互作用するキネシンをコードする遺伝子または転写物と高度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイゼーションできることを意味する。高度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、文献に、例えばSambrook et al., (1989)、Maniatis et al., (1982またはその近年の刊行物の1つ)およびAusubel et al., (1995)に広く記載されており、これらの条件は、適切な公知の技術に従って、ヌクレオチド断片のサイズに従って当業者により適合されることができる。純粋に説明するために、高度にストリンジェントな条件は有利には以下の通りである。2本の鎖(特にDNA−DNA、RNA−RNAまたはDNA−RNA)の間のハイブリダイゼーションは、2段階で行なわれる:(a)5×SSC(1×SSCは、0.15M NaCl/0.015Mクエン酸ナトリウムに相当する)、50%ホルムアミド、7%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、10×デンハート液、5%硫酸デキストランおよび1%サケ精子DNAを含むリン酸緩衝液(20mm、pH7.5)中で42℃で3時間プレハイブリダイゼーション;(b)プローブのサイズに依存した温度で(例えば、100ヌクレオチドを超えるサイズのプローブでは42℃)20時間ハイブリダイゼーションし、その後、2×SSC/2%SDS溶液を用いて20℃で20分間の洗浄を2回、0.1×SSC/0.1%SDS溶液を用いて20℃で20分間の洗浄を1回。最後の洗浄は、100ヌクレオチドより長いプローブでは0.1×SSC/0.1%SDS溶液を用いて60℃で30分間行なわれる。
【0039】
本発明の脈絡の中で、用語「AP−1のサブユニットまたはAP−1と相互作用するキネシンをコードする遺伝子」は、AP−1のγ、β1、σ1およびμ1サブユニットの1つ、またはAP−1と相互作用するキネシン、特にKif13Aをコードするゲノム配列を示すために使用される。この用語は、遺伝子の5’非コード領域(この領域は開始コドンを含む)、コード領域、および3’非コード領域を含む。用語「AP−1のサブユニットをコードする遺伝子」は、AP−1のγ、β1、σ1およびμ1サブユニットの1つをコードするゲノム配列を示すために使用される。この用語は、遺伝子の5’非コード領域(この領域は開始コドンを含む)、コード領域、および3’非コード領域を含む。用語「AP−1と相互作用するキネシンをコードする遺伝子」は、AP−1と相互作用するキネシン、特にKif13Aをコードするゲノム配列を示すために使用される。この用語は、遺伝子の5’非コード領域(この領域は開始コドンを含む)、コード領域、および3’非コード領域を含む。
【0040】
本発明の範囲内で、用語「AP−1のサブユニットまたはAP1と相互作用するキネシンをコードするmRNA」は、対応するタンパク質をコードする遺伝子の転写から生じたリボヌクレオチド配列を示すために使用される。この用語は、3’および5’非翻訳領域(3’−UTRおよび5’−UTR)、エキソン、および場合により、スプライシングされていないイントロンを含む。用語「AP−1のサブユニットをコードするmRNA」は、対応するタンパク質をコードする遺伝子の転写から生じたリボヌクレオチド配列を示すために使用される。用語「AP−1と相互作用するキネシンをコードするmRNA」は、対応するタンパク質をコードする遺伝子の転写から生じたリボヌクレオチド配列を示すために使用される。より特定すると、用語「キネシンKif13AをコードするmRNA」は、キネシンKif13Aをコードする遺伝子の転写から生じたリボヌクレオチド配列を示すために使用される。
【0041】
ゲノム配列およびタンパク質は、GeneIDデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Genbank/index.html)におけるその番号によって同定することができる。従って、AP−1のγ、β1、σ1およびμ1サブユニットのGeneIDアクセッション番号は、それぞれ、GeneID164、GeneID162、GeneID1174、GeneID8907であり、ヒトキネシンKif13AのGeneIDアクセッション番号はGeneID63971である。
【0042】
用語「メラニン(melanin)」、「メラニン(melanins)」および「メラニン色素」は、本明細書において同義語として使用される。それらはメラノソームで合成されるようである様々な色素を含み、これにはユーメラニンおよびフェオメラニンが含まれる。
【0043】
本文書において、用語「薬学的組成物」は、薬学的に許容される担体および/または賦形剤を含む本発明による組成物をいう。
【0044】
本文書において、用語「化粧品組成物」は、化粧品的に許容される担体および/または賦形剤を含む本発明による組成物をいう。
【0045】
用語「色素脱失剤」は、本明細書において、メラニン細胞においてメラニンの合成を阻害または減少でき、従って皮膚を明るくすることのできる活性薬剤をいう。
【0046】
本発明による阻害剤は、メラニン細胞に導入されると、AP−1の1つ以上のサブユニットまたはAP−1と相互作用するキネシン、特にKif13Aの発現または活性の減少または抑制を誘導できるか、あるいは、AP−1アダプター複合体のサブユニットまたはAP−1複合体と、AP−1複合体と相互作用するキネシン、特にキネシンKif13Aとの相互作用の減少または抑制を誘導でき、その結果は、メラニン色素の合成の有意な減少である。
【0047】
好ましい態様において、本発明に従って使用される核酸は、メラニン細胞に導入されると、AP−1の1つ以上のサブユニットまたはAP−1と相互作用するキネシン、特にKif13Aの発現の減少または抑制を誘導でき、その結果は、メラニン色素の合成の有意な下降である。特定の態様において、本発明に従って使用される核酸は、メラニン細胞に導入されると、AP−1の1つ以上のサブユニットの発現の減少または抑制を誘導でき、その結果は、メラニン色素の合成の有意な下降である。別の特定の態様において、本発明に従って使用される核酸は、メラニン細胞に導入されると、AP−1と相互作用するキネシン、特にKif13Aの発現の減少または抑制を誘導でき、その結果は、メラニン色素の合成の有意な下降である。これらの核酸は、転写または翻訳レベルで作用し得る。
【0048】
発現の「減少」によって、例えば、遺伝子発現産物の30%、50%、70%、80%、90%または95%の減少を意味する。
【0049】
本発明に従って使用される核酸は、DNA、RNAまたはDNA/RNAキメラであり得る。それらは一本鎖または二本鎖の形態またはその両方の混合物であり得る。それらは、場合により、少なくとも1つの修飾されたまたは非天然のヌクレオチド、例えば、修飾された塩基を含むヌクレオチド、例えばイノシン、メチル−5−デオキシシチジン、ジメチルアミノ−5−デオキシウリジン、デオキシウリジン、ジアミノ−2,6−プリン、ブロモ−5−デオキシウリジンまたはハイブリダイゼーションを可能とする任意の他の修飾された塩基を含み得る。本発明に従って使用される核酸はまた、ヌクレオチド間結合のレベルで、例えばホスホロチオエート、H−ホスホネートまたはアルキル−ホスホネート、あるいは骨格のレベルで、例えばαオリゴヌクレオチド、2’−O−アルキルリボースまたはPNA(ペプチド核酸)(M. Egholm et al., 1992)、修飾され得る。これらの核酸は、当業者に公知の全ての方法、例えば化学合成、ライブラリースクリーニング、インビボ転写、またはDNA組換えもしくは増幅技術によって調製することができる。
【0050】
本発明の特定の態様において、核酸は、細胞に導入されると、細胞内の標的遺伝子の発現を阻害する干渉RNA(ddiRNA)の産生を誘導するDNAであり得る。この技術は、DNA指向性干渉RNAとして当業者には公知である。
【0051】
別の好ましい態様において、核酸は、RNA、好ましくは干渉RNA(iRNA)である。これらのRNAは、天然、合成、または組換え技術によって産生され得る。それらはまた、例えば、ヌクレアーゼに対するその抵抗性を増加させ、よって細胞中でのその寿命を増加させることのできる修飾されたヌクレオチドまたは化学修飾を含み得る。RNA干渉は、転写後レベルで標的遺伝子の発現を特異的に阻害することを可能とする当業者に周知の現象である。多くの特許および特許出願が、遺伝子発現を阻害するためのiRNA分子の使用を記載し;例は、文書WO 99/32619、US 20040053876、US 20040102408およびWO 2004/007718を含む。好ましくはiRNA分子は、約15〜50ヌクレオチド長、好ましくは約15〜30ヌクレオチド長の二本鎖のsiRNA分子である。
【0052】
本発明の代替的な態様において、AP−1のサブユニットまたはAP−1と相互作用するキネシン、特にKif113Aの発現を減少または抑制するのに使用される核酸は、アンチセンス核酸である。特定の方法において、AP−1のサブユニットの発現を減少または抑制するのに使用される核酸は、アンチセンス核酸である。別の特定の方法において、AP−1と相互作用するキネシン、特にKif113Aの発現を減少または抑制するために使用される核酸は、アンチセンス核酸である。このアンチセンス核酸は、AP−1のサブユニットまたはAP−1と相互作用するキネシンをコードするセンス核酸の全てまたは一部に相補的であり得る。特定の方法において、アンチセンス核酸は、AP−1のサブユニットをコードするセンス核酸の全てまたは一部に相補的であり得る。別の特定の方法において、アンチセンス核酸は、AP−1と相互作用するキネシンをコードするセンス核酸の全てまたは一部と相補的であり得る。それは、例えば、mRNAに相補的であり得る。アンチセンス核酸は、一般に、AP−1のサブユニットまたはAP−1と相互作用するキネシンの転写物の少なくとも一部に相補的なヌクレオチド配列を含み、古典的なワトソン・クリック相互作用によってこれらの転写物に選択的にハイブリダイゼーションする。特定の方法において、アンチセンス核酸は、一般に、AP−1のサブユニットの転写物の少なくとも一部に相補的なヌクレオチド配列を含む。別の特定の方法において、アンチセンス核酸は、一般に、AP−1と相互作用するキネシンの転写物の少なくとも一部に相補的なヌクレオチド配列を含む。従って、アンチセンス阻害性核酸は、AP−1のγ、β1、σ1およびμ1サブユニットをコードするまたはAP−1と相互作用するキネシンをコードする転写物に結合し、そして例えば、mRNAの場合には対象の転写物の5’末端において細胞翻訳機序へのアクセスを遮断し、タンパク質へのその翻訳を妨害し、インビボにおいて対象の転写物の発現の抑制を可能とすることができる(Kumar et al., 1993)。特定の方法において、アンチセンス阻害性核酸は、AP−1のγ、β1、σ1およびμ1サブユニットをコードする遺伝子の転写物に結合することができる。別の特定の方法において、アンチセンス阻害性核酸は、AP−1と相互作用するキネシン、特にKif113Aをコードする遺伝子の転写物に結合することができる。このようなポリヌクレオチドは、例えば、特許EP 0092574に記載されている。好ましくは、アンチセンス核酸は、AP−1のサブユニットまたはAP−1と相互作用するキネシン、特にKif113AをコードするmRNAに相補的である。特定の方法において、アンチセンス核酸は、AP−1のサブユニットをコードするmRNAと相補的である。別の特定の方法において、アンチセンス核酸は、AP−1と相互作用するキネシン、特にKif113AをコードするmRNAと相補的である。阻害性核酸がアンチセンス型である場合、対象の転写物をコードする配列の全てまたは一部、あるいは3’または5’非コード配列の全てまたは一部を網羅することができる。好ましくは、アンチセンス阻害性核酸は、リボソーム結合配列および翻訳開始配列と相補的である。阻害性核酸は、一般に、少なくとも10リボヌクレオチド、例えば10、15、20、25、30、35、40、45、または50リボヌクレオチド長、好ましくは15〜30リボヌクレオチド長の長さを有する。
【0053】
本発明に従って使用されるアンチセンス核酸は、化学合成法によって、または当業者に公知の組換えDNA技術によって合成することができる。アンチセンスDNAまたはRNAは、特に、化学的に合成できるか、鎖状の鋳型(例えばPCRによって)または環状の鋳型(例えばウイルスまたは非ウイルスベクター由来)のインビトロでの転写によって産生されるか、またはウイルス性もしくは非ウイルス性ベクターからインビボでの転写によって産生することができる。アンチセンス核酸を、その安定性、ヌクレアーゼに対するその抵抗性、その特異性またはその薬理学的特性を高めるために修飾することができる。例えば、アンチセンス核酸は、センス核酸とアンチセンス核酸の間に形成された二本鎖の安定性を高めるために使用される修飾されたヌクレオチドを含むことができる。
【0054】
別の態様において、阻害性核酸はリボザイムである。リボザイムは、リボヌクレアーゼ活性を有し、従って、それらが相補的であるmRNAなどの一本鎖核酸を切断できる触媒RNA分子である。AP−1のサブユニットまたはAP−1と相互作用するキネシンをコードする転写物の特定のリボザイムを、当業者に周知の方法に従って設計、合成および産生することができる(例えば、Fanning and Symonds, 2006を参照)。リボザイムは一般的に2つの異なる領域を有する。対象の転写物、AP−1のサブユニットまたはAP−1と相互作用するキネシンをコードする遺伝子の転写物に対してある特異性を有する第一領域(従って、後者AP−1に結合できる)、一方で、第二領域は、リボザイム上に、対象の転写物の切断、ライゲーションおよびスプライシングのその触媒活性を付与する。特定の方法において、第一領域は、対象の転写物、AP−1のサブユニットをコードする遺伝子の転写物にある特異性を有する。別の特定の方法において、第一領域は、対象の転写物、AP−1と相互作用するキネシン、特にKif113Aをコードする遺伝子の転写物にある特異性を有する。様々なタイプのリボザイム、例えばハンマーヘッドリボザイムまたは環状リボザイム、ヘアピンリボザイムまたはラッソ(lasso)リボザイムなどを使用することができる。
【0055】
本発明に従って使用する干渉RNAまたはアンチセンス核酸を、それらをコードする前駆体またはDNA分子の形態で投与することができる。
【0056】
本発明に従って使用される核酸は、一般に、15〜50ヌクレオチドの長さ、好ましくは15〜30ヌクレオチド長を有する。
【0057】
本発明において、核酸は、AP−1複合体のサブユニットまたはAP−1と相互作用するキネシン、特にKif113Aをコードする遺伝子または転写物に特異的にハイブリダイゼーションすることができる。1つの態様において、核酸は、AP−1複合体のサブユニットをコードする遺伝子または転写物に特異的にハイブリダイゼーションすることができる。別の態様において、核酸は、AP−1と相互作用するキネシン、特にKif113Aをコードする遺伝子または転写物に特異的にハイブリダイゼーションすることができる。それにも関わらず、本発明による核酸は、特異的にハイブリダイゼーションするために標的配列と100%の相補性を有する必要はない。特に、少なくとも約90%に等しい相補度を有する核酸が、特異的にハイブリダイゼーションすることができる。好ましくは、本発明の核酸と標的配列の間の相補度は、95%、96%、97%、98%、99%または100%に等しい。
【0058】
好ましい態様において、本発明に従って使用される核酸は、AP−1アダプター複合体のサブユニットまたはキネシンKif13Aをコードする遺伝子またはmRNAと特異的にハイブリダイゼーションできる1つ以上の配列を含むまたはからなる。好ましくは、核酸は、配列番号1〜6および11〜24の配列間で選択された1つ以上の配列を含むまたはからなる。特定の態様において、本発明に従って使用される核酸は、AP−1アダプター複合体のサブユニットをコードする遺伝子またはmRNAと特異的にハイブリダイゼーションできる1つ以上の配列を含むまたはからなる。好ましくは、核酸は、配列番号5、6および11〜24の配列間で選択された1つ以上の配列を含むまたはからなる。より好ましくは、核酸は、AP−1のμ1Aまたはγ−アダプチンサブユニットをコードする遺伝子またはmRNAと特異的にハイブリダイゼーションできる1つ以上の配列を含むまたはからなる。別の特定の態様において、本発明に従って使用される核酸は、キネシンKif13Aをコードする遺伝子またはmRNAと特異的にハイブリダイゼーションできる1つ以上の配列を含むまたはからなる。好ましくは、核酸は、配列番号1〜4の配列間で選択された1つ以上の配列を含むまたはからなる。
【0059】
特に好ましい態様において、本発明に従って使用される核酸は、以下の対の1つによって形成された二本鎖干渉RNAの分子を含むまたはからなる:配列番号1および2、配列番号3および4、配列番号5および6、配列番号11および12、配列番号13および14、配列番号15および16、配列番号17および18、配列番号19および20、配列番号21および22、並びに配列番号23および24。特定の態様において、本発明に従って使用される核酸は、以下の対の1つによって形成された二本鎖干渉RNAの分子を含むまたはからなる:配列番号1および2、並びに配列番号3および4。別の特定の態様において、本発明に従って使用される核酸は、以下の対の1つによって形成された二本鎖干渉RNAの分子を含むまたはからなる:配列番号5および6、配列番号11および12、配列番号13および14、配列番号15および16、配列番号17および18、配列番号19および20、配列番号21および22、並びに配列番号23および24。
【0060】
本発明は、AP−1アダプター複合体のサブユニットの少なくとも1つの阻害剤、AP−1アダプター複合体と相互作用するキネシン、特にKif113Aの阻害剤、またはAP−1アダプター複合体のサブユニットもしくはAP−1複合体と、AP−1複合体と相互作用するキネシンの間の相互作用の阻害剤、特に本出願で定義したような任意の阻害剤を含む、薬学的または化粧品組成物に関する。
【0061】
好ましい態様において、本発明は、AP−1アダプター複合体のサブユニット、またはAP−1アダプター複合体と相互作用するキネシン、特にKif113Aをコードする遺伝子またはmRNAと特異的にハイブリダイゼーションでき、本出願に記載のようにこのタンパク質の発現を減少または抑制することができる配列を含むまたはからなる少なくとも1つの核酸を特に含む、薬学的または化粧品組成物に関する。特定の態様において、薬学的または化粧品組成物は、AP−1アダプター複合体のサブユニットをコードする遺伝子またはmRNAと特異的にハイブリダイゼーションでき、本出願に記載のようにこのタンパク質の発現を減少または抑制することのできる配列を含むまたはからなる少なくとも1つの核酸を含む。別の特定の態様において、薬学的または化粧品組成物は、AP−1アダプター複合体と相互作用するキネシンをコードする遺伝子またはmRNAと特異的にハイブリダイゼーションでき、本出願に記載のように、このタンパク質の発現を減少または抑制することができる配列を含むまたはからなる少なくとも1つの核酸を含む。好ましくは、キネシンはキネシンKif13Aである。
【0062】
好ましい態様において、前記組成物は、その製剤が局所投与に適合された薬学的または化粧品組成物である。組成物中に使用される阻害剤は、有効量で存在する。使用する阻害剤のタイプにより、有効量は、AP−1アダプター複合体のサブユニットまたはAP−1アダプター複合体と相互作用するキネシン、特にKif113Aの発現または活性を減少または抑制するか、あるいは、AP−1アダプター複合体のサブユニットもしくはAP−1複合体と、AP−1複合体と相互作用するキネシンとの間の相互作用を減少または抑制する量である。
【0063】
好ましい態様によると、阻害剤が核酸である場合、組成物中に使用される核酸は、有効量で、例えば、組成物の全重量の0.00001%〜10%、好ましくは0.0003%〜3%(w/w)の範囲で存在する。
【0064】
本出願で使用したような用語「有効量」は、メラニン合成の有意な減少を可能とする、本発明に従って使用される阻害剤の量である。好ましい態様において、本出願で使用される用語「有効量」は、メラニン合成の有意な減少を可能とする本発明に従って使用される核酸の量である。この減少は、特に、皮膚の色の可視的変化を引き起こし得る。この減少は、例えば、非処理細胞に存在するメラニンの量の5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%または50%であり得る。それは、実施例に記載または当業者に公知の方法の1つによって測定することができる。
【0065】
本発明による組成物は、同一または異なるタイプおよび同一または異なる標的を有するいくつかの阻害剤を含み得る。それは、AP−1アダプター複合体のサブユニットの阻害剤、またはAP−1アダプター複合体と相互作用するキネシン、特にKif113Aの阻害剤、またはAP−1アダプター複合体のサブユニットもしくはAP−1複合体と、AP−1複合体と相互作用するキネシンとの間の相互作用の阻害剤を含み得る。それは、類似した性質(例えば核酸のみ)または異なる性質(例えばアプタマー、抗体および/または核酸)の阻害剤を含み得る。好ましい態様において、この組成物は、AP−1アダプター複合体のサブユニット、またはAP−1アダプター複合体と相互作用するキネシン、特にKif113Aをコードする遺伝子またはmRNAと特異的にハイブリダイゼーションでき、本出願に記載のように、このタンパク質の発現を減少または抑制することができる配列を含む、いくつかの核酸を含み得る。それはまた、AP−1の同じサブユニット、またはAP−1の異なるサブユニット、またはAP−1と相互作用する同じキネシン、またはAP−1と相互作用する異なるキネシンを標的化する、いくつかの阻害性核酸の組合せを含み得る。特定の態様において、前記組成物は、AP−1アダプター複合体のサブユニットをコードする遺伝子またはmRNAと特異的にハイブリダイゼーションでき、本出願に記載のように、このタンパク質の発現を減少または抑制できる、配列を含む、いくつかの核酸を含み得る。それはまた、AP−1の同じサブユニット、またはAP−1の異なるサブユニットを標的化するいくつかの阻害性核酸の組合せも含み得る。別の特定の態様において、前記組成物は、AP−1アダプター複合体と相互作用するキネシン、特にKif113Aをコードする遺伝子またはmRNAと特異的にハイブリダイゼーションでき、本出願に記載のように、このタンパク質の発現を減少または抑制することができる、配列を含む、いくつかの核酸を含み得る。それはまた、AP−1と相互作用する同じキネシン、またはAP−1と相互作用する異なるキネシンを標的化する、いくつかの阻害性核酸の組合せも含み得る。
【0066】
本発明による組成物は、さらに、所望の効果を強化することを目的とした追加の活性物質、例えば、エラク酸;アルブチン;レゾルシノール;ビタミンC;パントテネート;コウジ酸;胎盤抽出物;メラニン細胞刺激ホルモン(MSH)、そのレセプターまたは副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)と直接的にまたは間接的に干渉する分子;ポリオール、例えばグリセリン、グリコールまたはプロピレングリコール;ビタミン;角質溶解剤および/または剥離剤、例えばサリチル酸;α−ヒドロキシ酸、例えば乳酸またはリンゴ酸;アスコルビン酸;レチノイン酸;レチンアルデヒド;レチノール;パルミテート、プロピオネートまたはアセテート;抗糖化剤および/または抗酸化剤、例えばトコフェロール、チオタウリン、ハイポタウリン、アミノグアニジン、チアミンピロホスフェート、ピリドキサミン、リジン、ヒスチジン、アルギニン、フェニルアラニン、ピリドキシン、アデノシントリホスフェート;抗炎症剤;鎮静剤およびその混合物;化学的または物理的な太陽フィルターおよびデオキシリボ核酸またはリボ核酸、およびその誘導体を含み得る。
【0067】
本発明による組成物は、局所適用に通常使用される任意の生薬形態、特に含水アルコール水溶液または油溶液、水中油滴型または油中水滴型または複合エマルション、水性または油性ゲル、液体、ペースト状または固体状の無水生成物、ナノスフィアおよびナノカプセルなどのポリマー相中の油分散液、またはフランス特許FR 2534487に記載のような良好なイオン性および/または非イオン性脂質小胞の形態で生じ得る。
【0068】
特に、本発明による組成物は、リポソームに封入された、特許出願に記載された、少なくとも1つの阻害剤、好ましくは阻害性核酸を含むことができる。
【0069】
本発明によると、「リポソーム」は、人工的に製造され、リン脂質層からなり、互いに水性区画によって分離された小胞を意味する。それらは細胞膜の構造と非常に近い構造を有し、これにより、それらが含む活性成分を放出しながらそれらと合体することができる。本発明により使用されるリポソームは、多重膜リポソームまたはMLV(多重膜小胞)、小さな一枚膜リポソームまたはSUV(小さな一枚膜小胞)、あるいは大きな一枚膜リポソームまたはLUV(大きな一枚膜小胞)であり得る。リポソームはまた、壁がリン脂質からなっているのではなく、むしろ非イオン性脂質からなっている非イオン性リポソームでもあり得る。
【0070】
本発明による組成物は、ほぼ液体であり得、白色または着色したクリーム、ポマード、ミルク、ローション、セラム、ペーストまたは発泡体の外見を有する。場合により、エアゾールの形態で皮膚に適用することができる。それはまた、固体形態、粉状、または粉状ではない、例えば棒形態でも提供され得る。それはさらに、顔または手の円形の小さな領域上に局所適用するための、パッチ、ペンシル、ブラシ、およびアプリケーターとして提供され得る。それは、皮膚ケア製品および/またはメーキャップ製品として使用することができる。
【0071】
期待されるように、本発明による組成物はまた、皮膚科学および化粧品の分野における通常の補助剤、例えば、親水性または親油性ゲル化剤、親水性または親油性活性成分、保存剤、抗酸化剤、溶媒、香料、添加物、フィルター、色素、消臭剤および着色剤も含むことができる。これらの様々な補助剤の量は、関連分野で古典的に使用されている量である。これらの補助剤は、その性質に従って、油相、水相、脂質小胞および/またはナノ粒子に導入することができる。
【0072】
本発明の化粧品または皮膚科学的組成物がエマルションである場合、油相の比率は、組成物の全重量に比較して、5重量%〜80重量%、好ましくは5重量%〜50重量%の範囲であり得る。組成物中にエマルションの形態で使用される油、乳化剤および共乳化剤は、関連分野で古典的に使用されるものから選択される。乳化剤および共乳化剤は、組成物の全重量に比較して、0.3重量%〜30重量%、好ましくは0.5重量%〜20重量%の範囲の比率で組成物中に存在する。
【0073】
本発明による阻害剤と、特に本発明による核酸と組み合わせて使用できる油の例は、鉱物油、例えば石油ゼリー;植物起源の油、例えばアボカド油または大豆油;動物起源の油、例えばラノリン;合成油、例えばペルヒドロスクアラン;シリコーン油、例えばシクロメチコンおよびフッ素化油、例えばパーフルオロポリエーテルを含む。脂肪物質として有用なのはまた、脂肪アルコール、例えばセチルアルコール、脂肪酸またはワックス、例えばカルナバワックスまたはオゾケライトである。
【0074】
本発明による核酸と組み合わせて使用できる乳化剤および共乳化剤の例は、脂肪酸とポリエチレングリコールのエステル、例えばPEG−20ステアレート、および脂肪酸とグリセリンのエステル、例えばグリセリルステアレートを含む。
【0075】
本発明による阻害剤、特に核酸と組み合わせて使用できる親水性ゲル化剤の例は、カルボキシビニルポリマー(カルボマー)、アクリルコポリマー、例えばアクリレート/アルキルアクリレートコポリマー、ポリアクリルアミド、ポリサッカリド、天然ゴムおよびクレーを含む。親油性ゲル化剤として、例えば、修飾されたクレー、例えばベントン、脂肪酸の金属塩、疎水性シリカまたはポリエチレンを使用することができる。
【0076】
本発明はさらに、化粧品剤としての本発明による組成物の使用に関する。好ましい態様において、化粧品剤は色素脱失剤である。
【0077】
本発明は、色素性疾患の処置に使用するための、AP−1アダプター複合体のサブユニットの少なくとも1つの阻害剤、AP−1アダプター複合体と相互作用するキネシンの阻害剤、特にKif113Aの阻害剤、またはAP−1アダプター複合体のサブユニットもしくはAP−1複合体と、AP−1複合体と相互作用するキネシンとの間の相互作用の阻害剤を含む、薬学的または化粧品組成物に関する。特定の態様によると、前記阻害剤は、小分子、アプタマー、抗体、核酸またはドミナントネガティブペプチドであり得るが、これらに限定されるわけではない。
【0078】
好ましい態様において、本発明は、色素性疾患の処置のための、AP−1アダプター複合体のサブユニットをコードまたはAP−1アダプター複合体と相互作用するキネシン、特にKif113A、をコードする遺伝子またはmRNAに特異的にハイブリダイゼーションでき、そしてこのタンパク質の発現を減少または抑制することができる配列を含む少なくとも1つの核酸を含む薬学的組成物に関する。特定の方法において、本発明は、色素性疾患の処置のための、AP−1アダプター複合体のサブユニットをコードする遺伝子またはmRNAと特異的にハイブリダイゼーションでき、そしてこのタンパク質の発現を減少または抑制することができる配列を含む少なくとも1つの核酸を含む薬学的組成物に関する。別の特定の方法において、本発明は、色素性疾患の処置のための、AP−1アダプター複合体と相互作用するキネシン、特にKif113Aをコードする遺伝子またはmRNAと特異的にハイブリダイゼーションでき、そしてこのタンパク質の発現を減少または抑制することができる配列を含む少なくとも1つの核酸を含む薬学的組成物に関する。
【0079】
本発明はまた、色素性疾患を処置または予防するための薬物の調製のための、本発明による薬学的組成物の使用に関する。
【0080】
本発明はまた、本発明による化粧品または薬学的組成物を、色素脱失しようとする皮膚に適用することからなる、ヒト皮膚を色素脱失および/または漂白する化粧品的または薬学的方法、あるいは、色素性疾患の処置または予防を主題として有する。
【0081】
処置しようとする色素性疾患は、色素沈着過剰または色素沈着低下症であり得る。局所的な色素沈着過剰は、あるメラニン細胞の障害から生じ得、そしてメラニンの蓄積によって特徴づけられる。処置しようとする色素性疾患は、色素沈着過剰、例えば特発性肝斑(妊娠または経口避妊薬の摂取に関連していない)、肝斑(また褐色斑または妊娠性肝斑とも呼ばれる)、光線性黒子(老人性黒子、老人性斑点、日光性斑点、加齢性斑点または黒子とも呼ばれる)、ざ瘡による色素性後遺症、擦過傷、火傷、瘢痕、皮膚症および/または接触性アレルギーに起因する炎症性色素沈着、イナゴツナギ皮膚炎、ツタウルシに起因する色素沈着、そばかす、母斑、例えば先天性巨大母斑、ベッカー母斑またはスピッツ母斑であり得る。色素沈着過剰は、遺伝的に決定できるか、または代謝起源または薬物関連起源のものであり得る。それらは、偶然に、例えば光増感または病変後の瘢痕によって引き起こされ得る。色素性疾患はまた、色素沈着低下症、例えば白斑としても表現され得る。好ましい態様において、処置しようとする色素性疾患は色素沈着過剰である。好ましくは、色素沈着過剰は、肝斑、特発性肝斑または老人性黒子である。
【0082】
色素沈着過剰の場合、処置の目的は、色素沈着過剰領域を色素脱失し、従って、これらの特異的な色素性疾患に関連した可視的な症状を減少または抑制することである。
【0083】
色素沈着低下症の場合、処置の目的は、残りの色素性領域を色素脱失することによって皮膚の色を標準化することであり得る。
【0084】
予防の目的は、色素沈着過剰の場合、色素沈着過剰領域の出現を回避し、色素沈着低下症の場合、皮膚の色の不均衡の出現を回避することである。
【0085】
以下の実施例は、説明として提示され、限定するものではない。
【0086】
実施例
材料および方法
細胞、抗体および試薬
ヒトメラニン細胞の細胞株MNT−1を、以前に記載されているように(Raposo et al., 2001)培養液中に維持する。
【0087】
この実施例で使用した抗体を以下に列挙する:
− 抗β−チューブリンウサギポリクローナル抗体(ab6046, Abcam(登録商標))
− ウサギ抗μ1A(AP−1のサブユニット)ポリクローナル抗体(Dr. Linton Traub, University of Pittsburg);
− マウス抗γ−アダプチンモノクローナル抗体(クローン100/3;SIGMA(登録商標));
− 培養液TA99(Mel−5)(アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション、Manassas、VA、USA)の上清から得られたマウス抗Tyrp1モノクローナル抗体(チロシナーゼ関連タンパク質−1);
− 抗チロシナーゼポリクローナル抗体(ab15175, Abcam(登録商標));
− 抗Pmel17モノクローナル抗体(HMB50, Labvision(登録商標));
− ウサギ抗Kif13Aポリクローナル抗体(Bethyl Laboratories, Montgomery, USA);
− ウサギポリクローナルおよびマウスモノクローナル抗セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)抗体(Jackson Immunoresearch(登録商標));および
− テキサスレッドと結合させたウサギ抗マウス抗体(Invitrogen(登録商標))。
【0088】
この実施例で使用した抗体以外の試薬を以下に列挙する:
− コロイド状金粒子に結合したプロテインA(ユトレヒト大学細胞顕微鏡センター、オランダ);
− プロテインGアガロース(Invitrogen(登録商標)、カタログ参照15920-010);
− NuPAGE Bis-Tris 4-12%ゲル、NuPAGE 3-8% トリス−アセテートゲル、MES-SDS移動および転写緩衝液を含む、ウェスタンブロット用のキット(Invitrogen(登録商標));
− PVDFメンブラン(Millipore(登録商標))上でHRP活性を可視化するための、ECLキット「ウェスタンブロッティング検出試薬」(Amersham(登録商標));
− パラホルムアルデヒド(PFA)およびウシ血清アルブミン(BSA)(Sigma(登録商標));
− サポニン((Carlo Erba Reagents(登録商標));および
− 蛍光顕微鏡カバーガラスをのせるためのDAPIを含む「ProLong(登録商標) Gold Antifade Reagent」媒体。
【0089】
干渉RNA配列
【表1】

【0090】
RNA干渉
1×10個の細胞を、2日間、10cmの培養皿に接種し、その後、予め加熱したPBSで2回洗浄し、その後、インキュベーター中の4mlのOptiMem培地(Invitrogen(登録商標))で40分間培養した。
【0091】
10μlの20μM siRNAを840μlのOptiMem培地と混合し、この混合物を20分間室温でインキュベートすることによって溶液Aを得た。50μlのオリゴフェクタミン(登録商標)(Invitrogen(登録商標))を150μlのOptiMem培地と混合し、この混合物を20分間室温でインキュベートすることによって溶液Bを得た。
【0092】
その後、溶液AおよびBを混合し、20分間室温で放置した。その後、この混合物を、インキュベーター中で4時間保持していた細胞上にのせた。その後、40%ウシ胎児血清(FCS)を有する5mlの完全培地を細胞に加えた。24時間後、細胞を回収し、1.5×10細胞/ウェルの濃度で6ウェルプレートに接種した。この同じプロトコルを、容量を適合させることによって次の日も繰り返した。
【0093】
ウェスタンブロット
RNA干渉後、細胞をPBSで2回洗浄し、その後、氷上で1ウェルあたり200μlの溶解緩衝液(50mMトリス、150mM NaCl、10mM EDTA、1%トリトン、1%プロテアーゼ阻害剤、pH8)と共に15分間インキュベートした。その後、細胞を剥がし、遠心分離にかけ(15,000rpm、4℃)、そして上清を回収した。全タンパク質の量を、BCAプロテインアッセイキット(Pierce(登録商標))によって測定した。10mgの各上清をゲル上にのせ、200Vで35分間泳動を行なった。その後、ゲルを、30Vで1時間かけてPVDFメンブラン(Millipore(登録商標))に転写した。その後、メンブランを、PBS/0.1%Tween/5%BSA緩衝液を用いて1時間室温で飽和させ、WB緩衝液(PBS/0.1%Tween)中で希釈した一次抗体と共に45分間インキュベートし、WB緩衝液で10分間3回濯ぎ、WB緩衝液中で希釈したHRPと結合させた対応する二次抗体と共に45分間インキュベートし、WB緩衝液中で10分間3回濯いだ。その後、HRP活性を、ECLキット(ウェスタンブロット検出試薬)(Amersham(登録商標))を使用して明らかにした。
【0094】
蛍光顕微鏡
カバーガラス上に予め接種した細胞(0.5×10個の細胞/カバーガラス)を、予め加熱したPBSで2回洗浄し、その後、PBS/4%PFA溶液で10分間かけて固定した。PBSを用いて室温で2回洗浄した後、反応しなかった過剰PFAを、50mMグリシン/PBSを用いて10分間処理することによって中和した。その後、非特異的結合部位を、2mg/mlBSAを補充したPBSで3分間の洗浄を2回することによって飽和させ、細胞を、透過緩衝液(PBS/2%BSA/0.05%サポニン)を用いて透過化した。その後、カバーガラスを、透過緩衝液で希釈した25μlの一次抗体と45分間室温で接触させておき、そして過剰の抗体を、透過緩衝液を用いて3分間の洗浄を2回することによって排除した。その後、カバーガラスを、透過緩衝液で希釈した25μlの二次抗体と共に45分間室温でインキュベートした。
【0095】
透過緩衝液で3分間の洗浄を2回行ない、続いてPBSで1回洗浄した後、カバーガラスを、15μlの封入培地(ProLong(登録商標) Gold Antifade Reagent with DAPI、Invitrogen(登録商標))と共に顕微鏡スライドにのせ、観察時における蛍光の消失を減弱させた。
【0096】
免疫沈降
メラニン細胞を、コンフルエントになるまで75cmのフラスコ中で培養し、その後、溶解緩衝液(50mMトリス、150mM NaCl、10mM EDTA、1%トリトン、1%プロテアーゼ阻害剤、pH7.3)を用いて20分間4℃で溶解した。その後、細胞を剥がし、そして遠心分離(15,000rpm、4℃)にかけ、そして上清を収集した。プロテインGアガロースと結合させたビーズを溶解緩衝液中で洗浄し、これらのビーズの20mlを、回転下で1時間かけて4℃で溶解液と共にインキュベートした。その後、溶解液を4,000rpmで遠心分離にかけ、そして上清を収集し、その後、1μgウサギ抗体(Kif13A対照)またはマウス抗CD9抗体(AP−1γ−アダプチン対照)と共に1時間かけて予めインキュベートしておいた洗浄したビーズと共にインキュベートした。その後、溶解液を4,000rpmで遠心分離にかけ、そして、上清を、1μgのウサギ抗体(Kif13a対照)、抗Kif13a抗体(Kif13a)、マウス抗CD9抗体(AP−1γ−アダプチン対照)またはマウス抗γ−アダプチン抗体(AP−1 γ−アダプチン)と共に2時間かけて4℃で回転下で予めインキュベートしておいた洗浄したビーズ20μlと接触させておくことによって免疫沈降を行なう。その後、溶解液を4,000rpmで遠心分離にかけ、上清を収集し、そしてウェスタンブロット解析のためにゲル上にのせた。
【0097】
電子顕微鏡
6ウェルプレートに予め接種し、「対照」siRNAおよびsiRNA−Kif13AまたはsiRNA−μ1Aで処理したメラニン細胞を、0.2M pH7.4リン酸緩衝液中で4時間かけて室温で、2%PFAの混合物および2%グルタルアルデヒドの混合物(従来型顕微鏡)または2%PFAと0.5%グルタルアルデヒドの混合物(免疫染色)のいずれかを用いて固定した。
【0098】
従来型顕微鏡:0.2Mカコジル酸ナトリウム緩衝液中で数回洗浄した後、細胞を、2%オスミウム酸(OsO)溶液を用いて45分間かけて固定した。蒸留水で濯いだ後、細胞を、漸増濃度のエタノールを用いて脱水し、その後、Epon 812樹脂で覆った。48時間かけて60℃で重合した後、超微細片を採取し、5分間かけて4%酢酸ウラニルを用いて対比し、その後、電子顕微鏡(Philips CM120, FEI Company(登録商標))下で観察した。KeenViewカメラ(SIS(登録商標)、ドイツ)を用いて画像を撮影した。
【0099】
免疫染色:0.1Mグリシンを含む0.2Mリン酸緩衝液中で数回洗浄した後、細胞を、Raposo et al. (1997)による文書で以前に記載のように凍結超薄切片法用に調製した。
【0100】
簡潔には、細胞ペレットを最初に10%ゼラチンで覆った。4℃で凝固させた後、1mmの塊を切り、2時間かけて2.3Mスクロース中に注入した。細胞の塊をその支持体上で凍結させ、超微細凍結切片を、凍結超薄切片作成装置(Leica(登録商標)、オーストリア)を用いて作成した。電子顕微鏡グリッド上に回収した切片を、抗Tyrp1および抗Pmel17抗体を用いて免疫染色した。これらの抗体を、コロイド状金粒子に結合させたプロテインAを用いて可視化した。切片を対比させ、酢酸ウラニルとメチルセルロースの混合物中で覆い、その後、電子顕微鏡(Philips CM120, FEI Company(登録商標))下で観察した。KeenViewカメラ(SIS(登録商標)、ドイツ)で画像を撮影した。
【0101】
メラニンの定量
RNA干渉後、細胞をPBS中で2回洗浄し、150μlのメラニン緩衝液(50mMトリス、2mM EDTA、150mM NaCl、1%プロテアーゼ阻害剤、pH7.4)と共にインキュベートした。その後、それらを剥がし、1つの画分に収集し、その後、20秒間最大強度で超音波をあてた。その後、10μlを採取し、タンパク質を定量し(BCAプロテインアッセイキットを用いて、Pierce)、そして200μgのタンパク質を採取し、15,000rpmで15分間かけて4℃で遠心分離にかけた。上清を排除し、ペレットを500μlのエタノール/エーテル(1:1)溶液で洗浄した。最後に、ペレットを、230μlの2M NaOh/20%DMSO溶液を用いて55℃で可溶化した。一旦可溶化すると、200μlを採取して、492nmにおける吸光度を測定した。
【0102】
白い細胞の定量
定量は、免疫蛍光のために調製した細胞上で落射蛍光顕微鏡を使用して行なった。細胞を位相差で観察し、そして色素化された成熟メラノソームの存在(黒)または非存在(白)を定量した。
【0103】
実施例1
siRNA−AP−1(μ1A)、siRNA−Kif13AおよびsiRNA−AP−3(β3A)でトランスフェクトされたメラニン細胞の細胞溶解液のウェスタンブロット実験により、Kif13Aの発現は、AP−1またはAP−3の不活性化によって破壊されないことを示すことができた(図1A)。他方で、siRNA−Kif13Aでトランスフェクトされたメラニン細胞においては、Kif13Aの発現が完全に抑制され(図1Aおよび1C)、一方で、AP−1のμ1Aサブユニットの発現は破壊されなかった。従って、これらの結果は、メラニン細胞においてこのタンパク質を不活性化するsiRNAの効力および特異性を示す。
【0104】
さらに、メラニン細胞において行なわれた免疫沈降実験は、Kif13Aタンパク質が、γ−アダプチンAP−1サブユニットと共沈降すること、そして、従って非メラニン細胞株で以前に観察されたKif13AとAP−1の間の相互作用(Nakagawa et al., 2000)がメラニン細胞の細胞株においても存在する(図1B)ことを示すことができた。
【0105】
siRNA−対照でトランスフェクトされた細胞中に存在する量と比較した、siRNA−Kif13Aでトランスフェクトされたメラニン細胞中のメラニンの相対量を、492nmの波長における細胞溶解液の吸光度の測定によって決定した(図2)。図2に提示される結果は、siRNA−Kif13Aの使用が、siRNA−対照でトランスフェクトされた細胞と比較して、合成されたメラニンの量の約40%の減少をもたらすことを可能とすることを示す。
【0106】
電子顕微鏡下での観察を、従来型の電子顕微鏡(図3)または抗Tyrp1抗体を用いた免疫染色(データは示さず)のいずれかで、siRNA−Kif13AまたはsiRNA−対照でトランスフェクトされたメラニン細胞上で行なった。
【0107】
従来型電子顕微鏡の実験は、siRNA−対照でトランスフェクトされたメラニン細胞が、大量のメラニン(図3において黒で)を有する多くのメラノソームを含むことを示すことを可能とした。他方で、siRNA−Kif13Aでトランスフェクトされたメラニン細胞は全くまたは殆ど色素を含んでいなかった。
【0108】
siRNA−対照でトランスフェクトされた細胞では、免疫染色により、Tyrp1タンパク質の濃縮された多くの成熟段階IIIまたはIVメラノソームが判明した。他方で、siRNA−Kif13Aでトランスフェクトされた細胞では、成熟メラノソームは見られず、Tyrp1酵素が、エンドソーム特徴を有する小胞構造中に分散されていた。
【0109】
従って、キネシンKif13Aの不活性化は、プレメラノソームにおいてメラニン形成酵素の移動を妨害し、従って、これらの細胞小器官の成熟を遮断し、これにより結果としてメラニンの合成ができなくなる。
【0110】
結論
これらの実験によって得られた結果は最初に、特異的siRNAの使用は、メラニン細胞におけるキネシンKif13Aを不活性化することを観察することを可能とした。
【0111】
得られた結果はまた、キネシンKif13Aの特異的siRNAの使用が、
− メラニン細胞において産生されるメラニンの量、
− 色素化された成熟メラノソームを含むメラニン細胞の量、および
− メラニン細胞における成熟メラノソーム(段階IIIまたはIV)の比率
を有意に減少させることを可能とすることを示す。
【0112】
これらの実験によって、本発明者らは、AP−1と相互作用するキネシン、特にキネシンKif13Aの特異的siRNAが、メラニン色素の産生に対して有意な作用を及ぼし、従って、色素脱失剤として効果的に使用することができることを示した。
【0113】
実施例2
トランスフェクトされたメラニン細胞のウェスタンブロット実験(図4)は、AP−1のμ1Aサブユニットの発現が、siRNA−対照でトランスフェクトされたメラニン細胞と比較して、siRNA−μ1Aでトランスフェクトされたメラニン細胞において強く減少していることを示すことを可能とした。この発現の下降はまた、AP−1アダプター複合体の不安定化の結果、AP−1の別のサブユニットであるγ−アダプチンの発現の減少も伴った。従って、これらの結果は、AP−1の唯1つのサブユニットの不活性化がこの複合体を完全に不安定化するに十分であることを確認する。さらに、驚くべき様式で、siRNA−μ1Aでトランスフェクトされ従ってAP−1に欠陥を有する細胞において、Tyrp−1酵素の発現はより低い強度で減少していたが、メラニン形成の鍵となる酵素であるチロシナーゼの発現は強く減少していることが観察された。
【0114】
従って、これらの結果は、AP−1の唯1つのサブユニットの不活性化はアダプター複合体の不安定化および不活性化に十分であるが、メラニン形成の基本的な酵素の発現も妨害することを示す。
【0115】
トランスフェクトされたメラニン細胞の中の白い細胞、すなわち色素化された成熟メラノソームを含まない細胞の定量は、光学顕微鏡(位相差)下で直接計測することによって行なわれ(図5Aおよび5B)、si−RNA−対照でトランスフェクトされた細胞に存在する量と比較したこれらの細胞中のメラニンの比率を、492nmの波長における細胞溶解液の吸光度を測定することによって決定した(図6)。図5A、5Bおよび6は、siRNA−対照、siRNA−1μA、siRNA−γ−アダプチン、またはsiRNA−1μAとsiRNA−γ−アダプチンの組合せでトランスフェクトされたメラニン細胞で得られた結果を示す。図5Aおよび5Bで提示された結果は、siRNA−1μA、siRNA−γ−アダプチン(図5A)または両方同時(図5B)の使用は、siRNA−対照でトランスフェクトされたメラニン細胞との比較によって、トランスフェクトされたメラニン細胞間での白い細胞の比率を有意に増加させることを可能としたことを示す。siRNA−1μAのみでトランスフェクトされた細胞ではこの増加は24%に達した。これらの結果は図6に提示される結果により確認され、ここでは、siRNA−1μA、siRNA−γ−アダプチンまたは両方同時のトランスフェクションは、siRNA−対照でトランスフェクトされた細胞との比較によって、細胞中で合成されたメラニンの量を顕著に減少させることを可能としたように思われる。この減少は、siRNA−1μAでトランスフェクトされた細胞において40%超に達し得る。
【0116】
従って、これらの結果は、1つ以上のsiRNAによるAP−1複合体の1つ以上のサブユニットの不活性化は、メラニン細胞におけるメラニンの合成を有意に減少させることを可能とすることを示す。
【0117】
電子顕微鏡下での観察を、従来型顕微鏡(図7)または抗Tyrp1抗体を用いた免疫染色を用いて(データは示さず)のいずれかで、siRNA−μ1AまたはsiRNA−対照でトランスフェクトされたメラニン細胞で行なった。
【0118】
従来型電子顕微鏡を用いた実験は、siRNA−対照でトランスフェクトされたメラニン細胞が、大量のメラニン(図7で黒で)を含む多くのメラノソームを含んでいたことを示すことを可能とした。他方で、siRNA−μ1Aでトランスフェクトされたメラニン細胞は、全くまたは殆ど色素を含んでいなかった。
【0119】
siRNA−対照でトランスフェクトされた細胞における免疫染色により、Tyrp1タンパク質の濃縮された多くの成熟段階IIIまたはIVメラノソームが判明した。他方で、siRNA−μ1Aでトランスフェクトされた細胞(従って、AP−1アダプター複合体は不活性化されていた)は、未成熟の段階IまたはIIメラノソームしか含まなかった。これらの細胞中には成熟メラノソームは見られなかった。Tyrp1酵素は常に抗体によって検出されたが、エンドソーム特徴を有し色素を欠失していた小胞構造中にしか存在しなかった。
【0120】
従って、これらの観察は、AP−1複合体の不活性化は、プレメラノソームにおいてメラニン形成の酵素の移動を妨害し、従って、これらの細胞小器官の成熟を遮断し、これにより結果としてメラニンの合成ができなくなることを示す。
【0121】
結論
これらの実験によって得られた結果は、まず第一に、特異的siRNAの使用がメラニン細胞におけるAP−1複合体を不活性化することを観察することを可能とした。さらに、AP−1アダプター複合体の唯1つのサブユニットの不活性化が、前記複合体を不安定化し従って不活性化するのに十分であることが示された。
【0122】
得られた結果はまた、AP−1アダプター複合体のサブユニットの特異的siRNAの使用が、
− メラニン細胞において産生されるメラニンの量、
− 色素化された成熟メラノソームを含むメラニン細胞の量、および
− メラニン細胞における成熟(段階IIIまたはIV)メラノソームの比率
を有意に減少させることを可能とすることを示す。
【0123】
これらの実験によって、本発明者らは、AP−1アダプター複合体のサブユニットの特異的siRNAが、メラニン色素の産生に対して有意な効果を及ぼし、従って、色素脱失剤として効果的に使用されることができることを示した。
【0124】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのキネシンKif13A阻害剤、AP−1アダプター複合体のサブユニットの阻害剤、および/またはAP−1アダプター複合体のサブユニットもしくはAP−1複合体とキネシンKif13Aとの間の相互作用の阻害剤を含む、薬学的または化粧品組成物。
【請求項2】
前記阻害剤が、キネシンKif13A阻害剤であることを特徴とする、請求項1の組成物。
【請求項3】
前記阻害剤が、AP−1アダプター複合体のサブユニットの阻害剤であることを特徴とする、請求項1の組成物。
【請求項4】
前記阻害剤が、AP−1アダプター複合体のサブユニットもしくはAP−1複合体とキネシンKif13Aとの間の相互作用の阻害剤であることを特徴とする、請求項1の組成物。
【請求項5】
前記阻害剤が、小分子、アプタマー、抗体、核酸またはドミナントネガティブペプチドであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項の組成物。
【請求項6】
前記阻害剤が、アプタマー、抗体、核酸またはドミナントネガティブペプチドであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項の組成物。
【請求項7】
前記阻害剤が、AP−1アダプター複合体のサブユニットまたはキネシンKif13Aをコードする遺伝子またはmRNAと特異的にハイブリダイゼーションでき、そして前記タンパク質の発現を減少または抑制することができる配列を含む核酸であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項の組成物。
【請求項8】
前記核酸が、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはiRNA、好ましくはsiRNAであることを特徴とする、請求項7の組成物。
【請求項9】
前記核酸が、15〜50ヌクレオチド、好ましくは15〜30ヌクレオチドの配列を有する、請求項5〜8の組成物。
【請求項10】
前記核酸が、配列番号1〜6および11〜24の配列からなる群より選択される配列を含むことを特徴とする、請求項5〜9のいずれか1項の組成物。
【請求項11】
エラク酸;アルブチン;レゾルシノール;ビタミンC;パントテネート;コウジ酸;胎盤抽出物;メラニン細胞刺激ホルモン(MSH)、そのレセプターまたは副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)と直接的にまたは間接的に干渉する分子;ポリオール、例えばグリセリン、グリコールまたはプロピレングリコール;ビタミン;角質溶解剤および/または剥離剤、例えばサリチル酸;α−ヒドロキシ酸、例えば乳酸またはリンゴ酸;アスコルビン酸;レチノイン酸;レチンアルデヒド;レチノール;パルミテート、プロピオネートまたはアセテート;抗糖化剤および/または抗酸化剤、例えばトコフェロール、チオタウリン、ハイポタウリン、アミノグアニジン、チアミンピロホスフェート、ピリドキサミン、リジン、ヒスチジン、アルギニン、フェニルアラニン、ピリドキシン、アデノシントリホスフェート;抗炎症剤;鎮静剤およびその混合物;化学的または物理的な太陽フィルターおよびデオキシリボ核酸またはリボ核酸、およびその誘導体からなる群より好ましくは選択される、1つ以上の他の活性物質をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項の組成物。
【請求項12】
局所経路による投与に適合されていることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項の組成物。
【請求項13】
色素性疾患を処置または予防するための薬物の調製のための、請求項1〜12のいずれか1項の薬学的組成物の使用。
【請求項14】
前記色素性疾患が色素沈着過剰であることを特徴とする、請求項13の使用。
【請求項15】
化粧品薬剤としての、請求項1〜12のいずれか1項の組成物の使用。
【請求項16】
前記化粧品薬剤が、色素脱失剤であることを特徴とする、請求項15の使用。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図1C】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2011−518214(P2011−518214A)
【公表日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−505573(P2011−505573)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【国際出願番号】PCT/FR2009/050737
【国際公開番号】WO2009/141541
【国際公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(595040744)サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク (88)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【出願人】(500026533)アンスティテュ・キュリ (20)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT CURIE
【Fターム(参考)】