説明

モーターサイクルブレーキシステム

【課題】
【解決手段】本発明は、前輪ブレーキ回路(4)へと導入されるマスターブレーキシリンダーの圧力の二重測定のための適切な手段(3)が設けられている液圧モーターサイクルブレーキシステムに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の導入部に従うモーターサイクルブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
欧州特許出願公開第1277635A2号明細書は、このタイプのモーターサイクルブレーキシステムを開示している。このブレーキシステムは、液圧により作動可能な前輪及び後輪ブレーキ回路を有し、一組の、足により操作可能なあるいは手動操作可能なマスターブレーキシリンダーを有する。制動スリップ制御のために、2つのマスターブレーキシリンダーの駆動とは無関係に2つのブレーキ回路において圧力を増強するために、前輪及び後輪ブレーキ回路に、ポンプに加えて、電磁的に駆動可能な入口及び出口バルブが設けられている。
【0003】
前輪ブレーキ回路において、入口バルブとマスターブレーキシリンダーとの間に、前輪ブレーキ回路へと供給されるマスターブレーキシリンダーの圧力を検出する第1の圧力センサが配置されている。後輪ブレーキ回路に接続されている後輪ブレーキにおける車輪ブレーキ圧が第2の圧力センサによって検出される。加えて、後輪ブレーキを作動させるマスターブレーキシリンダーの近傍に、後輪ブレーキ回路におけるマスターブレーキシリンダーの圧力を検出する圧力センサを設けることが可能である。
【特許文献1】欧州特許出願公開第1277635A2号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術のモーターサイクルにおいて、前輪ブレーキ回路に接続されているマスターブレーキシリンダーの駆動の検出を可能とするためには、第1の圧力センサが適切に機能することが特に重要であり、このために、第1の圧力センサで生じ得る誤差については、確実に認識されなければならない。前輪ブレーキ回路においてマスターブレーキシリンダーの圧力を確実に検出することで、ブレーキ力分布特性曲線に従い、後輪ブレーキにおける液圧が増強され得る。
【0005】
上述した観点に鑑み、本発明の目的は、前輪ブレーキへと導入されるマスターブレーキシリンダーの圧力の確実な検出が確保されるように、この技術分野で知られているこのタイプのモーターサイクルブレーキシステムを改良することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、請求項1の特徴部を備える上述したタイプのモーターサイクルブレーキシステムにおいて達成される。
【0007】
従属請求項及び以下の実施形態の説明から、図面を参照して、本発明のさらなる特徴及び効果を理解することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は、本発明のモーターサイクルブレーキシステムを示す概略図である。このブレーキシステムは、液圧により作動可能な前輪及び後輪ブレーキ回路4,10を有し、前輪ブレーキ回路4に接続され、手動の力により比例して作動可能な各1つのマスターブレーキシリンダー7と、後輪ブレーキ14に設けられ、足の力に比例して作動可能なマスターブレーキシリンダー13と、を有する。
【0009】
制動スリップ制御のために、前輪及び後輪ブレーキ回路4,10に電磁的に作動可能な入口及び出口バルブ6,12が装着されており、入口バルブ6は、基準位置で開であり、前輪及び後輪ブレーキ回路4,10のブレーキラインへと介挿されており、これらブレーキラインは、夫々、対応するマスターブレーキシリンダー7,13を前輪あるいは後輪ブレーキ5,14へと接続している。出口バルブ12は、基準位置で閉であり、夫々、各ブレーキ回路の戻りライン15に介挿されており、これら戻りライン15は、前輪あるいは後輪ブレーキ5,14を夫々1つの低圧アキュムレーター16と、二回路ポンプ9の吸引側とに接続しており、このポンプ9は戻り原理(return principle)に従い作動される。ポンプ9は、2つのブレーキ回路に介挿されているノイズ減衰チャンバー17を介してブレーキライン18に接続されており、必要に応じて、前輪あるいは後輪ブレーキ5,14から夫々放出されたブレーキ液の戻りを確保する。
【0010】
上述された前輪ブレーキ回路4の特徴に加えて、後輪ブレーキ回路10は電磁的に作動可能な分離バルブ19を有し、分離バルブ19は、基準位置で開であり、マスターブレーキシリンダー13と入口バルブ6との間でブレーキライン18に介挿されている。さらに、切替バルブ20を介してポンプ9に至る吸引導管21が、分離バルブ19とマスターブレーキシリンダー13との間で、後輪ブレーキ回路10のブレーキライン18に接続されており、この結果、分離バルブ19が電気的に作動されて閉位置に保持されている間、後輪ブレーキ回路10において駆動するポンプ要素が、後輪ブレーキ14における圧力の増強のために、切替バルブ20が電気的に作動されている状態で、マスターブレーキシリンダー13及びマスターブレーキシリンダー13に接続されている供給タンク22から圧力液体を得て後輪ブレーキ14へと供給することが可能である。
【0011】
前輪ブレーキ回路4に供給されるマスターブレーキシリンダーの圧力を検出するために、前輪ブレーキ回路4のブレーキライン18において、入口バルブ6の上流に、第1の圧力センサ1が配置されている。後輪ブレーキ回路10における車輪ブレーキ圧を検出するために、入口バルブ6の下流で、後輪ブレーキ回路に第2の圧力センサ2が接続されている。
【0012】
入口バルブ6は、何時でも、二回路ブレーキシステムのブレーキライン18で生成されたブレーキ圧を制限することが可能である。車輪ブレーキにおけるブレーキ圧は出口バルブ12を用いて低下され、出口バルブ12は2つの低圧アキュムレーター16へと電磁的に開放可能である。
【0013】
マスターブレーキシリンダー7によって前輪ブレーキ回路4へと導入された圧力を正確に検出するために、本発明は、前輪ブレーキ回路(4)における液圧の二重測定のための適切な手段(3)を提供し、このために、モーターサイクルブレーキシステムに第3の圧力センサ(3)が配置されており、第3の圧力センサ(3)は、第1の圧力センサ3に加えて、前輪ブレーキ回路(5)における液圧を検出する。
【0014】
便宜上、第3の圧力センサ3として、引用した従来技術から理解され、従来、後輪ブレーキ回路においてマスターブレーキシリンダーの圧力を検出していた圧力センサが用いられるため、好ましいことに、モーターサイクルブレーキシステムで用いられる圧力センサの総数は同一に保たれる。
【0015】
有利なことに、第3の圧力センサ3は、前輪ブレーキ回路4において第1の圧力センサ1に直列して接続されている。これによる効果は、第1及び第3の圧力センサ1,3の対応した適切な配置により、マスターブレーキシリンダーの圧力と前輪ブレーキ圧との両方を必要に応じて検出することが可能となることである。従って、第3の圧力センサ3は前輪ブレーキ5と入口バルブ6との間で前輪ブレーキ回路4に接続されており、一方、第1の圧力センサ1は、入口バルブ6と、前輪ブレーキ回路4に接続されているマスターブレーキシリンダー7との間で前輪ブレーキ回路4に接続されている。
【0016】
マスターブレーキシリンダーの圧力は、前輪ブレーキ回路4において2つの圧力センサ1,3によって二重に検出され、後輪ブレーキ回路10に設けられているポンプ9の電気的な駆動を変化させるための指令(command)を示しており、前輪ブレーキ回路4に接続されているマスターブレーキシリンダー8のみが駆動された場合に、後輪ブレーキ回路10において、入口及び出口バルブ6,12との共同により、分離及び切替バルブ19,20によって、制御ユニット8に記憶されている電子的なブレーキ力分布特性曲線に従い自動的に圧力が増強される。
【0017】
第1、第2及び第3の圧力センサ1,2,3からの信号を演算するために電子制御ユニット8に論理回路が設けられており、後輪ブレーキ回路10において、圧力センサからの信号を用いた演算結果に基づいて、電気的に駆動可能なポンプ9によって、液圧が生成される。
【0018】
さらに、電子制御ユニット8は信頼性回路(plausibility circuit)を有し、この信頼性回路において、後輪ブレーキ回路10における圧力の増強のためにポンプ9が駆動される前に、名目値をなす第1の圧力センサ1からの信号が第3の圧力センサ3からの信号と比較される。
【0019】
制御ユニット8は、ブレーキユニット11の一体的な要素を形成し、好ましくは、ブレーキユニット11に一体化されている3つの圧力センサ1,2,3、並びに、電気的な接続のためにセンサに一体化されている入口及び出口バルブ6,11に差し込まれている。そして、ブレーキユニット11は、特にコンパクトな構成により、バッテリーの近傍でモーターサイクルのフレームに固定されている。
【0020】
ここで選択されているような第3の圧力センサ3の配置により、前輪ブレーキ5における圧力についての情報に基づいて、制動スリップ制御作動中のブレーキ圧制御の快適さを向上すると共に、入口及び出口バルブ6,12により生成された圧力制御パルスによる、(手動により)制御されるマスターブレーキシリンダーへの液圧の反作用を最小化することが可能である。
【0021】
主に、以下があてはまる。
【0022】
1.前輪あるいは後輪のロック状態は、車輪回転速度センサ(不図示)及び制御ユニット8におけるそれらの信号を用いた演算によって確実に検出される。前輪あるいは後輪ブレーキ回路4,10に配置されている入口バルブ6は、前輪あるいは後輪ブレーキ回路4,10でのさらなる圧力の増大を停止するために、制御ユニット8によって電磁的に閉塞される。
【0023】
2.ロック状態を緩和するために、前輪あるいは後輪ブレーキ回路4,10においてさらに圧力を低下させる必要がある場合、低圧アキュムレーター16に接続可能な常時閉の出口バルブ12を開放することでこれを達成する。出口バルブ12は、車輪の加速度が規定の程度を越えて再度増大されるとすぐに閉塞される。圧力低下位相においては、対応する入口バルブ6は閉塞したままに保持され、前輪あるいは後輪ブレーキ回路4,10で生成されたマスターブレーキシリンダーの圧力は前輪あるいは後輪ブレーキ回路4,10に伝達され得ない。
【0024】
3.得られたスリップ値が前輪あるいは後輪ブレーキ回路4,10での再度の圧力増強を可能とするものである場合には、入口バルブ6は、制御ユニット8に一体化されているスリップ制御装置の要求に応じて、時間的に制限された方式で開放される。ポンプ9は圧力の増強に必要なだけの液体を供給する。
【0025】
制動スリップ制御以外では、後輪ブレーキ回路10に接続されているマスターブレーキシリンダー13が(足の力に比例して)駆動された場合には、液圧回路のコンセプトに基づき、後輪ブレーキ14の力比例加圧のみが生じ、即ち、前輪ブレーキ回路4は、前輪ブレーキ回路4に接続されているマスターブレーキシリンダー7が(手動の力に比例して)駆動されるまで、加圧されずに保持される。
【0026】
本モーターブレーキシステムの別の特別な特徴としては、前輪ブレーキ回路が力に比例して駆動された場合に、後輪ブレーキも適切なポンプの駆動により制動されることが考えられる。このために、ポンプ9は、マスターブレーキシリンダー7,13から電気的に開放された切替バルブ20を介して圧力液体を除去し、後輪ブレーキ14へと提供する。この際、分離バルブ19は、電気的な作動方式により閉位置に保持され、これにより、マスターブレーキシリンダー13へのポンプ圧の逃げが確実に防止される。
【0027】
開示されているモーターサイクルブレーキシステムで選択されている形態は、特に安全かつ快適な駆動を提供すると共に、ロック圧力制御における圧力制御特性を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のモーターサイクルブレーキシステムを示す概略図。
【符号の説明】
【0029】
1…圧力センサ、2…圧力センサ、3…圧力センサ、4…前輪ブレーキ回路、5…前輪ブレーキ、6…入口バルブ、7…マスターブレーキシリンダー、8…制御ユニット、9…ポンプ、10…後輪ブレーキ回路、11…ブレーキユニット、12…出口バルブ、13…マスターブレーキシリンダー、14…後輪ブレーキ、15…戻りライン、16…低圧アキュムレーター、17…ノイズ減衰チャンバー、18…ブレーキライン、19…分離バルブ、20…切替バルブ、21…吸引導管、22…供給リザーバ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液圧により作動可能な前輪及び後輪ブレーキ回路を有するモーターサイクルブレーキシステムであって、両ブレーキ回路を互いに独立して駆動するための2つのマスターブレーキシリンダーと、制動スリップ制御のために各ブレーキ回路に設けられている1つの入口及び出口バルブと、前輪ブレーキ回路に供給され得るマスターシリンダーの圧力を検出する第1の圧力センサと、後輪ブレーキ回路に接続されている後輪ブレーキにおいて車輪ブレーキ圧を検出する第2の圧力センサと、前輪及び後輪ブレーキ回路へ圧力を供給するための各1つのポンプと、を具備し、後輪ブレーキ回路において駆動されるポンプにより供給される圧力が、前輪ブレーキ回路に接続されているマスターブレーキシリンダーの力比例駆動に応じて、後輪ブレーキ回路に適用可能である、モーターサイクルブレーキシステムにおいて、
前輪ブレーキ回路(4)における力比例ブレーキ作動について、マスターブレーキシリンダー(7)から導入され得る液圧の二重測定のための手段(3)が設けられている、ことを特徴とするモーターサイクルブレーキシステム。
【請求項2】
手段は、前輪ブレーキ回路(4)に配置されている第3の圧力センサ(3)である、
ことを特徴とする請求項1に記載のモーターサイクルブレーキシステム。
【請求項3】
第3の圧力センサ(3)は第1の圧力センサ(1)と直列に前輪ブレーキ回路(4)に接続されており、第3の圧力センサ(3)は前輪ブレーキ(5)と入口バルブ(6)との間で前輪ブレーキ回路(4)に接続されており、第1の圧力センサ(1)は、入口バルブ(6)と、前輪ブレーキ回路(4)に接続されているマスターブレーキシリンダー(7)との間で前輪ブレーキ回路(4)に接続されている、
ことを特徴とする請求項3に記載のモーターサイクルブレーキシステム。
【請求項4】
前輪ブレーキ(5)における圧力が維持あるいは低下される制動スリップ制御相において、第3の圧力センサ(3)によって、ブレーキ圧の制御の質を向上するために、前輪ブレーキ圧が検出可能である、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のモーターサイクルブレーキシステム。
【請求項5】
第3の圧力センサ(3)の位置が、後輪ブレーキ回路(10)におけるマスターブレーキシリンダー接続部から前輪ブレーキ回路(4)における車輪ブレーキ接続部へと変更されている、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のモーターサイクルブレーキシステム。
【請求項6】
第1及び第3の圧力センサ(1,3)からの信号が、前輪ブレーキ回路(4)において液圧を二重検出するために用いられ、後輪ブレーキ(14)におけるポンプ(9)の補助による追加の圧力増強を変化させるための指令として用いられる、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のモーターサイクルブレーキシステム。
【請求項7】
第1、第2及び第3の圧力センサ(1,2,3)からの信号を演算するために、電子制御ユニット(8)に論理回路が設けられており、圧力センサからの信号の演算結果に応じて、電気的に作動可能なポンプ(9)により、後輪ブレーキ回路(10)において液圧が生成可能である、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のモーターサイクルブレーキシステム。
【請求項8】
電気制御ユニット(8)は信頼性回路を有し、この信頼性回路において、第1の圧力センサ(1)からの信号を追加の圧力センサ(3)からの信号と比較可能である、
ことを特徴とする請求項7に記載のモーターサイクルブレーキシステム。
【請求項9】
制御ユニット(8)はブレーキユニット(11)の一体的な構成要素を形成しており、このために、制御ユニット(8)は、好ましくは、ブレーキユニット(11)に一体化されている3つの圧力センサ(1,2,3)、並びに、電気的な接続のためにセンサーに一体化されている入口及び出口バルブ(6,12)に差し込まれている、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のモーターサイクルブレーキシステム。
【請求項10】
ブレーキユニット(11)は、バッテリーの近傍でモーターサイクルのフレームに固定されている、
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載のモーターサイクルブレーキシステム。

【図1】
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【公表番号】特表2008−515702(P2008−515702A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−535140(P2007−535140)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【国際出願番号】PCT/EP2005/054881
【国際公開番号】WO2006/040261
【国際公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(500030596)コンチネンタル・テベス・アーゲー・ウント・コンパニー・オーハーゲー (126)
【Fターム(参考)】