説明

モータ内蔵ローラ

【課題】機械的機構によってローラ本体を任意のタイミングで停止させることができるモータ内蔵ローラを提供することを目的とする。
【解決手段】モータ内蔵ローラ1は、従来技術と同様にローラ本体2にモータ3と減速機5が内蔵されたものであり、減速機5の第一段目の遊星歯車列中に係合部材60が設けられている。係合部材60は、「く」の字状のアーム部80を有し、アーム部80の両端にローラ81,82が設けられたものである。モータ3を停止した状況でローラ本体2側を回転させると、係合部材60に遊星歯車21が公転して衝突し、係合する。その結果、減速機5がロックする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローラ本体内にモータと減速機が内蔵されてローラ本体が自転するモータ内蔵ローラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ローラコンベアの駆動ローラやベルトコンベアの駆動プーリ、あるいは巻き上げ装置の主要部品として、ローラ本体内にモータ部と減速機が内蔵されたモータ内蔵ローラが広く知られている(特許文献1)。
モータ内蔵ローラは、モータと減速機がローラ本体内に内蔵されているのでこれらの設置場所を必要とせず、省スペースの効果があるばかりでなく、コンベア等の構成も極めて単純なものとなり、コンベア等の組み立て上も好ましいものである。
【特許文献1】実開昭59−40220号公報他
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところでモータ内蔵ローラを前記したコンベアや巻き上げ装置に使用する場合、任意のタイミングでローラ本体の回転を停止したいという要求がある。
例えばローラコンベアにおいては、搬送物を任意の位置で停止させたい場合があり、この様な場合にはモータ内蔵ローラのローラ本体を任意のタイミングで停止させる必要がある。
【0004】
ローラ本体を任意のタイミングで停止させる方策としては、例えばローラ本体を外側から挟み込む構造のブレーキをモータ内蔵ローラに装着することが考えられる。
あるいはローラ本体内に電気的に動作するブレーキを内蔵させる方策も考えられる。
【0005】
しかしながら、前者の方策によると、コンベア装置の全体形状が大きなものとなってしまう問題がある。そのため前者の方策を採用すると、モータ内蔵ローラの利点たる省スペース化が失われてしまうという不満がある。
また前者の方策によっても後者の方策によってもブレーキを制御するための電気回路が必要であるという問題がある。
【0006】
そこで本発明は、従来技術の上記した問題点に注目し、機械的機構によってローラ本体を任意のタイミングで停止させることができるモータ内蔵ローラを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するための請求項1に記載の発明は、筒状のローラ本体にモータと減速機とが内蔵され、前記減速機は遊星歯車列を備え、遊星歯車列は、太陽歯車と遊星歯車と軌道用内歯車とを有し、軌道用内歯車は太陽歯車の外側に位置し、遊星歯車は太陽歯車及び軌道用内歯車の双方と係合して太陽歯車の回りを公転し、遊星歯車の公転力がローラ本体に伝達されるモータ内蔵ローラにおいて、係合部材が設けられ、係合部材は減速機の一部と係合離脱可能であり、且つ係合部材はモータの回転に応じて移動することを特徴とするモータ内蔵ローラである。
【0008】
本発明のモータ内蔵ローラには、遊星歯車列を備えた減速機が内蔵されている。従って本発明のモータ内蔵ローラは、モータが回転すると、この回転力が減速機で減速されてローラ本体に伝動され、ローラ本体が回転する。
また本発明のモータ内蔵ローラでは、係合部材が設けられ、係合部材は減速機の一部と係合離脱可能である。そのため係合部材が係合すると、減速機がロック状態となる。
即ちモータが停止している状態の時にローラ本体が回転すると、ローラ本体の回転によって遊星歯車等の部材が公転し、係合部材と衝突して係合部材が減速機の一部と係合する。そのためモータが停止している状態の時にローラ本体が回転すると、減速機がロックし、ローラ本体の回転が阻止される。
これに対してモータが回転すると、モータの回転に応じて係合部材が移動し、係合部材の係合が解除される。そのためモータが回転している間は、モータの減速機は円滑に機能し、ローラ本体が回転する。
【0009】
請求項2に記載の発明は、係合部材は遊星歯車または遊星歯車と共に公転する部材と、軌道用内歯車又は軌道用内歯車に固定された部材との間に係合離脱可能であることを特徴とする請求項1に記載のモータ内蔵ローラである。
【0010】
本発明のモータ内蔵ローラでは、係合部材は遊星歯車または遊星歯車と共に公転する部材と、軌道用内歯車又は軌道用内歯車に固定された部材との間に係合離脱することができる。そのためモータが停止している状態の時にローラ本体が回転すると、ローラ本体の回転によって遊星歯車が公転し、係合部材と衝突して係合部材が係合する。その結果、モータが停止している状態の時にローラ本体が回転すると、減速機がロックし、ローラ本体の回転が阻止される。
【0011】
請求項3に記載の発明は、太陽歯車にモータの出力が伝達され、係合部材は、太陽歯車側から回転力を受けて移動することを特徴とする請求項1又は2に記載のモータ内蔵ローラである。
【0012】
本発明のモータ内蔵ローラでは、太陽歯車にモータの出力が伝達される。ここで「太陽歯車にモータの出力が伝達される」とはモータの出力軸が太陽歯車に接続されている様な場合だけに限らず、太陽歯車とモータとの間に動力伝動部材や他の減速機等が介在されている様な場合も含む。
本発明のモータ内蔵ローラでは、公知のモータ内蔵ローラと同様にモータの回転力が太陽歯車に伝動され、さらに太陽歯車の回転が遊星歯車に伝動して遊星歯車が公転する。
従ってモータが停止している状態からモータが起動すると、まず太陽歯車が回転し、その後に遊星歯車が公転することとなる。ここで本発明の本発明のモータ内蔵ローラでは、係合部材は、太陽歯車側から回転力を受けて移動するので、係合部材は遊星歯車の公転に先行して移動する。その結果、係合部材の係合が解除され、ローラ本体が回転する。
一方、モータが停止している状態の時にローラ本体が回転すると、遊星歯車等の公転速度(角速度)が係合部材の移動速度を上回り、係合部材は遊星歯車等と係合する。
【0013】
請求項4に記載の発明は、係合部材はアーム部を有し、アーム部の一部は太陽歯車と同軸上にあり、アーム部は太陽歯車に押圧されていることを特徴とする請求項3に記載のモータ内蔵ローラである。
【0014】
本発明のモータ内蔵ローラでは、アーム部の一部は太陽歯車と同軸上にあり、アーム部は太陽歯車に押圧されている。そのため太陽歯車が回転すると、これに連れてアーム部が回転し、係合部材が移動する。
【0015】
請求項5に記載の発明は、係合部材はローラを有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のモータ内蔵ローラである。
【0016】
本発明のモータ内蔵ローラでは、係合部材としてローラを採用している。そのため他の部材との係合離脱が円滑である。
【0017】
請求項6に記載の発明は、複数の遊星歯車を備え、各遊星歯車は軸部を介して板状部材に取り付けられ、軌道用内歯車は筒状部を有し、係合部材は前記軸部と筒状部との間に嵌まり込む状態で両者に係合することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のモータ内蔵ローラである。
【0018】
本発明のモータ内蔵ローラでは係合部材は前記軸部と筒状部との間に嵌まり込む状態で両者に係合する。そのため歯車を傷めない。
【発明の効果】
【0019】
本発明のモータ内蔵ローラでは、モータの回転を停止した状態でローラ本体側が回転すると、減速機が係合部材によってロックされる。そのため本発明のモータ内蔵ローラは、モータの回転を停止すると直ちにローラ本体の回転が停止し、ローラ本体を任意のタイミングで停止させることができる。また本発明のモータ内蔵ローラは、機械的機構によってモータ内蔵ローラを停止させるので、ブレーキ用の電気配線等は不要である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下さらに、本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の具体的実施形態のモータ内蔵ローラの断面図である。図2は、図1のモータ内蔵ローラの機構図である。
【0021】
本実施形態のモータ内蔵ローラ1は、減速機5の第一段目の遊星歯車列中に係合部材60が設けられている点に特徴があるが、特徴部分の説明に先立って、公知のモータ内蔵ローラと共通する部分の構成を簡単に説明する。
【0022】
本実施形態のモータ内蔵ローラ1は、従来技術と同様にローラ本体2にモータ3と減速機5が内蔵されたものであり、ローラ本体2の内部は図2の様に大きくモータ部Aと減速機部Bに分かれている。
ここでローラ本体2は両端が開口した金属製の筒体である。そしてローラ本体2の両端には閉塞部材6,7が取り付けられており、ローラ本体2の両端は閉塞部材6,7によって塞がれている。
【0023】
ローラ本体2の両端からは、固定軸10,11が突出している。固定軸10,11の内、図面右側の固定軸11は、単なる棒状の部材であり、図面右側の閉塞部材7に対して2連の軸受け12によって回転可能に取り付けられている。すなわち固定軸11は棒状であり、閉塞部材7に片持ち状に取り付けられ、且つ閉塞部材7に対して回転可能である。固定軸11は、単に閉塞部材7から外側に突出するものに過ぎず、ローラ本体2の内側には延びていない。
【0024】
これに対して図面左側に図示した固定軸10は、ローラ本体2の内外を連通するものであり、ローラ本体2の内部側にも大きな体積を占める。すなわち固定軸10は、閉塞部材6に軸受け15を介して回転可能に取り付けられており、ローラ本体2の内外を連通する。固定軸10は、ローラ本体2の内部において拡径しており、その外周部に図2の様に内筒部材8が一体的に取り付けられている。
そして内筒部材8の内部には、図2の様にモータ3と減速機5が内蔵されている。
【0025】
モータ3は、公知のモータ内蔵ローラと同様に、固定子13と回転子14により構成される。ここで固定子13は鉄心に収められたコイルである。固定子13は、内筒部材8に内挿されて内筒部材8と一体的に取りつけられている。
一方回転子14は、内筒部材8の中心にあり、その一端は、軸受け16を介して図面左側の固定軸10に回転可能に支持されている。
【0026】
減速機5は、2段の遊星歯車列であり、図2の様に、第一太陽歯車20、第1遊星歯車21、第一軌道用内歯車61、連動歯車22、第2遊星歯車23、第二軌道用内歯車62、出力部材24によって構成されている。本実施形態では、連動歯車22が遊星歯車を公転させる腕と二段目の遊星歯車列における太陽歯車を兼ねている。
また第一連めの遊星歯車列に後記する係合部材60が設けられている。
第一太陽歯車20は、モータ3の回転子14(モータ3の出力軸59)に連結されており、第一及び第二軌道用内歯車61,62は、内筒部材8の内側に内挿されて固定されている。
【0027】
そして減速機5の出力部材24の回転が、ローラ本体2に伝動されてローラ本体2が回転する。
すなわち出力部材24が連結部材32に接続される。連結部材32はピン50を介してローラ本体2に取り付けられており、出力部材24の回転は、連結部材32及びピン50を経由してローラ本体2に伝わる。
【0028】
本実施形態のモータ内蔵ローラ1は、第一段目の遊星歯車列中に係合部材60が設けられている点に特徴があり、以下、この点について説明する。
図3は、図1のモータ内蔵ローラで採用する減速機の一部とモータの一部を示す斜視図である。図4は、図3と同様に減速機の一部とモータの一部を示す斜視図であり、減速機の内部構造を図示するものである。図5は、減速機の一部の分解斜視図である。図6は、減速機の第一段目部分の断面図である。
【0029】
即ち本実施形態で採用する減速機5は、図2,3の様に2段の遊星歯車列65,66によって構成されている。より具体的には、第一太陽歯車20、第1遊星歯車21、第一軌道用内歯車61及び連動歯車22の一部によって第一段目の遊星歯車列65が構成され、連動歯車22の一部、第2遊星歯車23、第二軌道用内歯車62及び出力部材24によって第二段目の遊星歯車列66が構成されている。
また第一段目の遊星歯車列65に係合部材60が設けられている。
【0030】
第一段目の遊星歯車列65を構成する第一太陽歯車20は、図4,5に示す様な形状をしており、中心部に孔64が設けられている。
第1遊星歯車21は、本実施形態では、4個の歯車21abcdによって構成されている。各歯車には、いずれも中心孔が設けられている。4個の歯車21abcdの内、歯車21abは全長が他の歯車21cdに比べて短い。
【0031】
連動歯車22は、円板状の板状部材70の一面に4個の軸部71,72,73,74が設けられ、他面側に第二太陽歯車75が一体的に形成されている。
連動歯車22に一面側に設けられた軸部71,72,73,74の内、二つの軸部73,74は全体的に太さが一様である。これに対して残る軸部71,72は、根元部分に大径部76が形成されている。大径部76の太さは、遊星歯車21の歯底円の径と略等しい。
【0032】
連動歯車22の板状部材70の一面側の中心にはピン79が設けられている。ピン79は、板状部材70の中心に孔を設け、当該孔に嵌入したものである。
板状部材70の一面側であって、前記したピン79の周辺部にはピン79を中心とする環状の凹部84が設けられている。
【0033】
第一軌道用内歯車61は、外径形状が円筒形であり、一方の開口端近傍の内面に歯車77が形成されている。第一軌道用内歯車61の内面の一部には歯車は形成されていない。即ち第一軌道用内歯車61の内面の一部は平滑な円筒面部78となっている。
【0034】
係合部材60は、図5の様に全体が「く」の字状のアーム部80を有し、アーム部80の両端にローラ81,82が設けられたものである。ローラ81,82は、軸83によってアーム部80に取り付けられており、軸83を中心として自由回転する。アーム部80の中心にはボス部85があり、ボス部85の中心に孔87が設けられている。
【0035】
本実施形態で採用する減速機5の第一段目の遊星歯車列65は、連動歯車22の板状部材70の一方の面に設けられた軸部71,72,73,74に遊星歯車21が装着され、その4個の遊星歯車21の中心に第一太陽歯車20が配されたものである。なお4個の遊星歯車21の内、全長の長い遊星歯車21cdは太さが一様な軸部73,74に装着され、全長の短い遊星歯車21abは、根元部分に大径部76が形成された軸部71,72に装着されている。
【0036】
そして第一太陽歯車20とその周囲の遊星歯車21は互いに嵌合し、各遊星歯車21は外側に設けられた第一軌道用内歯車61と係合している。
また第一太陽歯車20の先端部分と連動歯車22の板状部材70の間に図5,6の様に係合部材60が設けられている。
係合部材60は、ボス部85が板状部材70の凹部84に嵌まり込み、板状部材70に設けられたピン79が係合部材60のボス部85に設けられた孔87に挿入されている。
また板状部材70の凹部84には、波板状の押圧部材86が設けられている。押圧部材86は、中央に孔90が設けられた円板状であり、全体が波打っていて厚さ方向に弾性力を発揮する。なお押圧部材86は皿ばねやつる巻きバネであってもよい。
【0037】
前記した係合部材60は、中心部(ボス部85)が第一太陽歯車20の先端部分に接した状態となっている。ただし係合部材60の中心と第一太陽歯車20の先端部分との間は滑りを許容し、係合部材60は、第一太陽歯車20に対して自由回転することもできる。
前記した様に、係合部材60は、中心部(ボス部85)が第一太陽歯車20の先端部分に接した状態となっているので、係合部材60のアーム部80は、第一太陽歯車20から動力伝達を受けることができる。
【0038】
特に係合部材60と連動歯車22の板状部材70の間に押圧部材86が設けられており、係合部材60は押圧部材86によって常時太陽歯車側に付勢・押圧されている。
従って第一太陽歯車20が回転すると係合部材60のアーム部80はこれに連れて回転しようとする。ただし前記した様に係合部材60は、第一太陽歯車20に対して自由回転可能であるから、係合部材60は必ずしも第一太陽歯車20と一体的に回転するわけではない。
また係合部材60のアーム部80は遊星歯車21側からも回転力を受ける。ただし前記した様に係合部材60は、自由回転可能であるから、係合部材60は必ずしも遊星歯車列65の公転と同期的に回転するわけではない。
【0039】
本実施形態では、係合部材60は第一太陽歯車20側と遊星歯車列65側の双方から回転力を受け得るがいずれに対しても自由回転可能であり、必ずしも両者と同期的には回転しない。
ただしモータ内蔵ローラ1が定常的に回転している場合は、係合部材60と第一太陽歯車20間の接触力及び係合部材60と遊星歯車列65側との接触力との関係により、係合部材60は遊星歯車列65の公転と略同期的に回転する。
しかしながら、モータ3が停止している状態で遊星歯車21側が公転すると、遊星歯車列65は係合部材60の回転に先行して回転を開始する。即ちモータ3が停止している状態で遊星歯車列65側が公転すると、遊星歯車列65が先に回転を開始し、係合部材60の回転開始時期は、遊星歯車列65に対して遅れる。
【0040】
これに対してモータ内蔵ローラ1が停止している状態で、モータ3が回転を開始すると、係合部材60は、遊星歯車列65の公転に先行して回転を開始する。即ちモータ内蔵ローラ1が停止している状態で、モータ3を起動すると、まず第一太陽歯車20が回転し、この回転力が係合部材60と遊星歯車列65とに伝達されるが、係合部材60は遊星歯車列65の公転に先立って回転を開始する。
【0041】
次に本実施形態のモータ内蔵ローラ1の機能について説明する。本実施形態のモータ内蔵ローラ1は、モータ3の回転子14が回転すると、減速機5の入力軸たる第一太陽歯車20が回転し、所定の減速比で減速されて減速機5の出力軸31が回転する。そして出力軸31の回転力は、連結部材32に伝動され、さらにローラ本体2に伝動され、ローラ本体2が固定軸10,11に対して回転する。
【0042】
図7は、モータが時計方向に回転している状況における図3のA−A断面図である。
モータ3が回転している状況においては、係合部材60は第一太陽歯車20側と遊星歯車21側の双方から回転力を受け、力のバランスから係合部材60は遊星歯車列65における遊星歯車21の公転と同期的に回転する。
即ち第一段の遊星歯車列65では、第一太陽歯車20が回転すると、これに係合する遊星歯車21が自転し、さらに遊星歯車21は、外側に設けられた第一軌道用内歯車61との係合関係によって第一太陽歯車20の回りを公転する。
従って係合部材60は遊星歯車列65側から回転力を受ける。
【0043】
一方、係合部材60は第一太陽歯車20とも接触しているから、係合部材60は、第一太陽歯車20からも回転力を受ける。
第一太陽歯車20の回転速度と遊星歯車列65の回転速度とを比較すると、第一太陽歯車20の回転速度の方が速いが、係合部材60と第一太陽歯車20及び遊星歯車列65との動力伝達は摩擦力に依存し、滑りが大きいから、結果的に係合部材60は遊星歯車列65と同期的に回転することとなる。
【0044】
そのためローラ81,82が遊星歯車21の公転を妨げることはない。
また係合部材60の回転は、遊星歯車列65と完全一体ではないから、ローラ81,82が遊星歯車21に接触することもあるが、ローラ81,82は自由回転可能であり、且つローラ81,82が接触するのは、軸部71,72の大径部76であるから、ローラ81,82は円滑に自転し、遊星歯車21の公転を妨げることはない。
【0045】
これに対してモータ3が停止している状況においては、係合部材60が遊星歯車の軸部(正確には連動歯車22の板状部材70に設けられた軸部71,72,73,74)と第一軌道用内歯車61(正確にはと第一軌道用内歯車61の円筒面部)との間に噛み込み、減速機5をロックする。
【0046】
モータ3を停止した状況においては、係合部材60は原則的に回転しない。しかしこの状態でローラ本体2側を回転させると、回転力は前記したルートを逆に伝動し、遊星歯車列65が公転する。
そのため停止状態の係合部材60に遊星歯車21が公転して衝突する。
例えば図7の状態において、遊星歯車21が矢印A方向に回転すると、遊星歯車21bが図面右側のローラ82と衝突する(正確には大径部76)。そしてローラ82が遊星歯車21bの軸部(正確には大径部76)と第一軌道用内歯車61(正確には第一軌道用内歯車61の円筒面部78)との間に噛み込み、係合部材60の係合によって減速機5がロックする。
本実施形態では、係合部材60のローラ82が噛み込むのは、連動歯車22の板状部材70に設けられた軸部72と第一軌道用内歯車61の円筒面部78の間であり、いずれも歯車が形成されていない部位である。従って係合部材60の係合によって減速機5が傷つくことはない。
【0047】
また図7の状態において、遊星歯車21が矢印B方向に回転すると、遊星歯車21aが図面左側のローラ81と衝突する(正確には大径部76)。そしてローラ81が遊星歯車21aの軸部(正確には大径部76)と第一軌道用内歯車61(正確には第一軌道用内歯車61の円筒面部78)との間に噛み込み、係合部材60の係合によって減速機5がロックする。
【0048】
実際上、モータ3を回転させてローラ本体2が回転している状況において、モータ3の回転を停止すると、ローラ本体2が惰性で回転する。その時、前記した様な状況が発生し、ローラ本体2の回転によって遊星歯車21が公転し、係合部材60と衝突して係合部材60のローラ81,82のいずれかが遊星歯車21abの軸部71,72と第一軌道用内歯車61との間に係合し、減速機5をロックさせる。
そのため実際上は、モータ3を回転させてローラ本体2が回転している状況において、モータの回転を停止すると、直ちに減速機5がロックされ、ローラ本体2が停止する。
【0049】
なおこの状態から再度モータ3を回転させると、前記した様に係合部材60のローラ81,82は、遊星歯車21よりも早期に回転を開始するので、係合部材60は遊星歯車21の軸部71,72,73,74と第一軌道用内歯車61との間から離脱する。そのため減速機5のロック状態が解除され、減速機5は円滑に機能し、ローラ本体2が固定軸10,11に対して回転する。
【0050】
以上説明した実施形態では、第一段目の遊星歯車列65に係合部材60を設けたが、第二段目以降の遊星歯車列に係合部材を設けてもよい。また複数段の遊星歯車列に係合部材を設けてもよい。
上記した実施形態では、係合部材60のローラ81,82を遊星歯車21の軸部71,72,73,74と第一軌道用内歯車61との間に噛み込ませ、係合部材60の係合によって減速機5をロックさせたが、係合部材を係合させる対象はこの構成に限定されるものではなく、例えば太陽歯車20と遊星歯車21の間に係合部材を係合させて遊星歯車21の公転を阻止してもよい。
本実施形態では、歯車を傷つけない様に、連動歯車22の板状部材70に設けられた軸部71,72,73,74と第一軌道用内歯車61の円筒面部78の間に係合部材60を係合させたが、歯車が設けられた部位に直接係合部材を係合させてもよい。
【0051】
また本実施形態では、歯車を傷つけない様に、軸部71,72に大径部76を設け、歯の存在しない大径部76に係合部材60を係合させたが、遊星歯車21そのものに歯が欠落した部位を設け、当該欠落部に係合部材60を係合させてもよい。即ち遊星歯車21と一体的に軸部を設け、当該軸部に係合部材60を係合させてもよい。
【0052】
本実施形態では、係合部材60にローラ81,82を設けたがローラ81,82は必須ではない。本実施形態では、ローラ81,82の個数は2個であるが、1個でもよく、逆に3個以上であってもよい。
また本実施形態では、二つのローラ81,82の内の一方だけが遊星歯車側と当接または係合するが、双方のローラが同時に遊星歯車側と当接または係合する構成としてもよい。
本実施形態では、一つのアーム部80の両端にローラ81,82を取り付けつけたものを例示したが、一端にローラを設け、他端側を太陽歯車に押圧するものであってもよい。またこの様なアームを複数重ねて太陽歯車側に押圧してもよい。
【0053】
本実施形態では、係合部材60のアーム部80を「く」の字形に成形した。この理由は、係合部材60の両端を遊星歯車21に近づけるためである。
即ち本実施形態では、「く」の字形に成形したアーム部80で、特定の二つの遊星歯車21a,21bを挟み、アーム部80の両端にローラ81,82を設けた。そのため一方のローラ81は常に一方の遊星歯車21aに近接した位置であって遊星歯車21aに対して反時計回りの位置にある。
【0054】
他方のローラ82は常に他方の遊星歯車21bに近接した位置であって遊星歯車21bに対して時計回りの位置にある。
従って係合部材60が停止した状態で、遊星歯車列65が時計回りに回転すると、ローラ82に、近接する遊星歯車21bが直ちに衝突する。逆に遊星歯車列65が反時計回りに回転すると、ローラ81に、近接する遊星歯車21aが直ちに衝突する。
この様に本実施形態では、係合部材60の先端同士と回転中心とで構成される角度を180度以外の角度としたので、遊星歯車列65が回転した際に短時間でローラ81,82が係合する。
【0055】
また本実施形態では、係合部材60のローラ81,82によって二つの遊星歯車21a,21bを挟んだが、三個以上の遊星歯車を挟む構造でもよく、一つの遊星歯車を挟む構造でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の具体的実施形態のモータ内蔵ローラの断面図である。
【図2】図1のモータ内蔵ローラの機構図である。
【図3】図1のモータ内蔵ローラで採用する減速機の一部とモータの一部を示す斜視図である。
【図4】図3と同様に減速機の一部とモータの一部を示す斜視図であり、減速機の内部構造を図示するものである。
【図5】減速機の一部の分解斜視図である。
【図6】減速機の第一段目部分の断面図である。
【図7】モータが時計方向に回転している状況における図3のA−A断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1 モータ内蔵ローラ
2 ローラ本体
3 モータ
5 減速機
20 第一太陽歯車
21 遊星歯車(第1遊星歯車)
60 係合部材
61 第一軌道用内歯車
65,66 遊星歯車列
70 板状部材
71,72,73,74 軸部
80 アーム部
81,82 ローラ
86 押圧部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のローラ本体にモータと減速機とが内蔵され、前記減速機は遊星歯車列を備え、遊星歯車列は、太陽歯車と遊星歯車と軌道用内歯車とを有し、軌道用内歯車は太陽歯車の外側に位置し、遊星歯車は太陽歯車及び軌道用内歯車の双方と係合して太陽歯車の回りを公転し、遊星歯車の公転力がローラ本体に伝達されるモータ内蔵ローラにおいて、係合部材が設けられ、係合部材は減速機の一部と係合離脱可能であり、且つ係合部材はモータの回転に応じて移動することを特徴とするモータ内蔵ローラ。
【請求項2】
係合部材は遊星歯車または遊星歯車と共に公転する部材と、軌道用内歯車又は軌道用内歯車に固定された部材との間に係合離脱可能であることを特徴とする請求項1に記載のモータ内蔵ローラ。
【請求項3】
太陽歯車にモータの出力が伝達され、係合部材は、太陽歯車側から回転力を受けて移動することを特徴とする請求項1又は2に記載のモータ内蔵ローラ。
【請求項4】
係合部材はアーム部を有し、アーム部の一部は太陽歯車と同軸上にあり、アーム部は太陽歯車に押圧されていることを特徴とする請求項3に記載のモータ内蔵ローラ。
【請求項5】
係合部材はローラを有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のモータ内蔵ローラ。
【請求項6】
複数の遊星歯車を備え、各遊星歯車は軸部を介して板状部材に取り付けられ、軌道用内歯車は筒状部を有し、係合部材は前記軸部と筒状部との間に嵌まり込む状態で両者に係合することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のモータ内蔵ローラ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−326703(P2007−326703A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161059(P2006−161059)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(592026819)伊東電機株式会社 (71)
【Fターム(参考)】