説明

モータ制御装置

【課題】装置を追加することなく、停電が発生した場合でも、軸支持運転を比較的長時間保つことができるモータ制御装置を提供する。
【解決手段】停電検出器55が停電を検出したとき、駆動側制御回路11では、切替スイッチ56によって回転角速度指令値ω*を零に切り替えることにより、ベアリングレスモータ1を減速させ且つ駆動側のインバータ13を介してベアリングレスモータ1から直流リンク回路46側へベアリングレスモータ1の発電電力を回生するように駆動側のインバータ13を制御し、この回生電力が直流リンク回路46を介して軸支持側のインバータ14へ供給される構成とする。また、リミッタ下限値調整回路51では、電圧検出器54で検出される直流リンク電圧値VDCが直流リンク電圧設定値VDC*よりも低下したときに負の下限設定値を出力し、可変リミッタ57では、この負の下限設定値を可変リミッタ57の下限設定値として設定する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電磁力によって軸支持を行なうモータであるベアリングレスモータ又は磁気軸受モータに適用されるモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータの軸受としては機械的な軸受が一般的である。しかし、機械的な軸受は、摩擦が発生するため潤滑剤が必要であり、また、摩耗するため定期的な交換が必要である。そのため、機械的な軸受を備えたモータは真空中や有害な気体中での使用や、医療機器用や超高速駆動用としての利用に制約があった。
【0003】
この問題を解決するため、電磁力によって軸支持を行なうモータが開発されてきた。このようなモータには、磁気軸受モータとベアリングレスモータとがある。
【0004】
磁気軸受モータは磁気軸受を採用したモータであり、この磁気軸受の電磁石により軸支持力(電磁力)を発生させる方式のものであり、軸と軸受が接触しないため潤滑剤が不要であり、また、摩耗しないことからメンテナンスフリーである。そのため、磁気軸受モータは腐食性の高い気体中でも使用することができ、モータの適用範囲を広げることができた。しかし、磁気軸受モータは軸支持用の電磁石を固定子とは別の位置に追加的に備える必要があり、装置の大型化やコストの増加などを招くという問題点を有している。
【0005】
一方、ベアリングレスモータも磁気軸受モータと同様に電磁力により軸支持を行うモータである。しかし、ベアリングレスモータは、1つの固定子に電動機巻線と軸支持巻線の2種類の巻線を備えているところが磁気軸受モータとは異なっており、前記軸支持巻線に通電することよって軸支持力となる電磁力を発生させ、且つ、前記電動機巻線に通電することによって回転力となる電磁力を発生させる。
このようにベアリングレスモータでは、電動機の機能と磁気軸受の機能とを一体化したことにより、ベアリングレスモータ単体で回転子の回転と軸支持の両方を行うことができるため、磁気軸受の利点に加えて、装置の小型化やコストダウンが可能である。従って、ベアリングレスモータは、更に幅広い分野への適用に向け、研究開発が進められている。
【0006】
ここで、ベアリングレスモータの従来の制御装置について説明する。図3は従来のベアリングレスモータ制御装置の構成を示す図、図4は前記ベアリングレスモータ制御装置に備えた駆動側のインバータの構成を示す図である。
【0007】
図3に示すように、ベアリングレスモータ1は固定子2と回転子3を有している。固定子2には電動機巻線(図示省略)と軸支持巻線(図示省略)とが設けられている。ベアリングレスモータ1は、例えば2極電動機・4極支持構造となっている。
また、ベアリングレスモータ1には、永久磁石型同期電動機(PMモータ)や誘導電動機などが採用される。ベアリングレスモータ1がPMモータである場合、回転子3には永久磁石が設けられる。
【0008】
固定子2には静止座標系のα軸が交差する部分にギャップセンサ4が設けられ、静止座標系のβ軸が交差する部分にギャップセンサ5が設けられており、回転子3にはロータリーエンコーダ6が接続されている。
ロータリーエンコーダ6では回転子3の回転角度に応じた検出信号を出力し、角度検出器7ではこのロータリーエンコーダ6の検出信号を処理して回転子3の回転角度θを求める。
ギャップセンサ4では、固定子2と回転子3との間のギャップを検出して、回転子3のα軸方向の軸変位を示す検出軸変位値αを得る。
ギャップセンサ5では、固定子2と回転子3との間のギャップを検出して、回転子3のβ軸方向の軸変位を示す検出軸変位値βを得る。
【0009】
そして、このベアリングレスモータ1の制御装置は、駆動側のインバータ13を使用して固定子2の電動機巻線に電力を供給する駆動側制御回路11と、軸支持側のインバータ14を使用して固定子2の軸支持巻線に電力を供給する軸支持側制御回路12とを有している。
駆動側制御回路11は、トルクを出力して回転軸(回転子3)を回転させることにより、前記回転軸に接続された負荷(図示省略)を回転駆動する制御システムである。
軸支持側制御回路12は、軸変位を検出して軸支持力を発生させることにより、回転軸(回転子3)を浮上させる制御システムである。
【0010】
図4に示すように、インバータ13は複数のスイッチング素子18(図示例ではIGBT)と、これらのスイッチング素子18のそれぞれに並列に接続したダイオード19とを有してなるものである。図示は省略するが、インバータ14も、インバータ13と同様の構成である。
【0011】
まず、駆動側制御回路11について詳述する。
図3に示すように、速度検出器21では、角度検出器7で求めた回転角度θを時間で微分して回転角速度ωを求める。
偏差演算器22では、速度検出器21で求めた回転角速度ωと、回転角速度指令値ω*との偏差(ω*−ω)を演算して、角速度偏差Δωを求める。
PIアンプ23では、偏差演算器22で求めた角速度偏差ΔωをPI(比例・積分)演算することにより、q軸のトルク電流指令値imq*を得る。
一方、d軸の励磁電流指令値imd*は零とする。このようにしたのは、後ほど説明する軸支持変調式((1)式)で用いる係数(KA,KB,KC,KD)が、トルク電流値imqだけでなく励磁電流値imdにも依存するためであり、励磁電流指令値imd*=0とすることによって制御の複雑さを防ぐのが目的である。
【0012】
電流検出器24では、インバータ13から固定子2の電動機巻線へ出力されるインバータ出力電流を検出する。
dq変換器25では電流検出器24で検出されるインバータ出力電流をdq変換することにより、実際のq軸のトルク電流値imqとd軸の励磁電流値imdとを求める。
偏差演算器26では、dq変換器25で求めた実際のトルク電流値imqと、PIアンプ23で得たトルク電流指令値imq*との偏差(imq*−imq)を演算して、トルク電流偏差Δimqを求める。
電流制御器(ACRアンプ)27では、偏差演算器26で求めたトルク電流偏差Δimqを基にq軸電圧指令値Vq*を得る。
偏差演算器28では、dq変換器25で求めた実際の励磁電流値imdと、励磁電流指令値imd*との偏差(imd*−imd)を演算して、励磁電流偏差Δimdを求める。
電流制御器(ACRアンプ)29では、偏差演算器28で求めた励磁電流偏差Δimdを基にd軸電圧指令値Vd*を得る。
【0013】
dq逆変換器30では、電流制御器27で得たq軸電圧指令値Vq*及び電流制御器29で得た軸電圧指令値Vd*をdq逆変換して、三相の電圧指令値Vu*,Vv*,VW*を求める。
PWM変調器31では、dq逆変換器30で求めた三相の電圧指令値Vu*,Vv*,VW*をPWM変調し、このPWM変調した信号をゲート制御信号Gmとしてインバータ13へ送る。
【0014】
駆動側のインバータ13と軸支持側のインバータ14は、共通の直流リンク回路46を介してAC/DC変換器15に接続されている。
電源(図示せず)から電源系統45を介して供給される三相の交流電力はAC/DC変換器15で直流電力に変換され、電解コンデンサ16,17で平滑化された後、インバータ13,14に供給される。
インバータ13では、PWM変調器31で生成したゲート制御信号Gmに基づいて、AC/DC変換器15から供給される直流電力を、電圧指令値Vu*,Vv*,VW*に応じた電圧の三相交流電力に変換し、この三相交流電力を固定子2の電動機巻線に供給する。
かくして、ベアリングレスモータ1(回転子3)の回転角速度ωが、回転角速度指令値ω*に応じた回転角速度となるように制御される。
【0015】
なお、図示は省略するが、AC/DC変換器15で変換された直流電力は、駆動側制御回路11及び軸支持側制御回路12の制御回路を作動させための電力として、これらの制御回路11,12へも供給されるようになっている。
【0016】
次に、軸支持側制御回路12について詳述する。
図3に示すように、偏差演算器32では、ギャップセンサ4で検出した検出軸変位値αと、軸変位指令値α*との偏差(α*−α)を演算して、軸変位偏差Δαを求める。
偏差演算器33では、ギャップセンサ5で検出した軸変位指令値β*と、検出軸変位値βとの偏差(β*−β)を演算して、軸変位偏差Δβを求める。
軸変位指令値α*は、静止座標系のα軸方向に関してモータ回転軸(回転子3)がモータ中心に位置するような指令値であり、軸変位指令値β*は、静止座標系のβ軸方向に関してモータ回転軸(回転子3)がモータ中心に位置するような指令値である。
PIDアンプ34では、偏差演算器32で求めた軸変位偏差ΔαをPID(比例・積分・微分)演算することにより、軸支持力指令値Fα*を得る。
PIDアンプ35では、偏差演算器33で求めた軸変位偏差ΔβをPID(比例・積分・微分)演算することにより、軸支持力指令値Fβ*を得る。
【0017】
しかし、ベアリングレスモータ1では、駆動側の磁気と軸支持側の磁気とが磁気的に干渉するため、軸支持力指令値Fα,Fβと軸支持電流値iα,iβは一対一の対応関係にならない。
【0018】
そこで、軸支持変調式演算器36では、PIDアンプ34,35で得た軸支持力指令値Fα*,Fβ*と、角度検出器7で求めた回転角度θと、PIアンプ23で得たトルク電流指令値imq*とを入力とし、更に予め設定したトルク電流指令値imq*と比例係数KA,KB,KC,KDとの関係を表すテーブルデータ(図示省略)から、PIアンプ23で得たトルク電流指令値imq*に応じた比例係数KA,KB,KC,KDを呼び出して、下記の軸支持変調式((1)式)を用いて演算することにより、磁気的干渉を打ち消しつつモータ回転軸(回転子3)を支持するための軸支持電流指令値iα*,iβ*を求める。これにより、駆動側と軸支持側の磁気的な干渉を打ち消すことができる。
【0019】
【数1】

【0020】
電流検出器37では、インバータ14から固定子2の軸支持巻線へ出力されるインバータ出力電流を検出する。
3相2相変換器38では、電流検出器37で検出されるインバータ出力電流を3相2相変換することにより、実際の軸支持電流値iα,iβを求める。
偏差演算器39では、3相2相変換器38で求めた実際の軸支持電流値iαと、軸支持変調式演算器36で求めた軸支持電流指令値iα*との偏差(iα*−iα)を演算して、軸支持電流偏差Δiαを求める。
電流制御器(ACRアンプ)40では、偏差演算器39で求めた軸支持電流偏差Δiαを基にα軸電圧指令値Vα*を得る。
偏差演算器41では、3相2相変換器38で求めた実際の軸支持電流値iβと、軸支持変調式演算器36で求めた軸支持電流指令値iβ*との偏差(iβ*−iβ)を演算して、軸支持電流偏差Δiβを求める。
電流制御器(ACRアンプ)42では、偏差演算器41で求めた軸支持電流偏差Δiβを基にβ軸電圧指令値Vβ*を得る。
【0021】
2相3相変換器43では、電流制御器40で得たα軸電圧指令値Vα*及び電流制御器42で得たβ軸電圧指令値Vβ*を2相3相変換して、三相の電圧指令値Vx*,VY*,VZ*を求める。
PWM変調器44では、三相の電圧指令値Vx*,VY*,VZ*をPWM変調し、このPWM変調した信号をゲート制御信号Gsとしてインバータ14へ送る。
インバータ14では、PWM変調器31で生成したゲート制御信号Gmに基づいて、AC/DC変換器15から供給される直流電力を、電圧指令値Vx*,VY*,VZ*に応じた電圧の三相交流電力に変換し、この三相交流電力を固定子2の軸支持巻線に供給する。
かくして、ベアリングレスモータ1のモータ回転軸(回転子3)が、α軸方向及びβ軸方向に関してモータ中心に位置するように制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開2004−120886号公報
【特許文献2】特開2000−97235号公報
【特許文献3】特開平9−242754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
ベアリングレスモータ1の運転中に停電が発生した場合、駆動側では回転子3の回転が停止して負荷が停止してしまい、軸支持側ではモータ回転軸(回転子3)を軸支持(磁気浮上)させることができなくなってモータ回転軸(回転子3)がタッチダウンしてしまう。即ち、保護用に設けた機械的な軸受にモータ回転軸が接触してしまう。
【0024】
しかし、ベアリングレスモータ1は、その特徴を活用するため、タッチダウン(モータ回転軸の接触)が許されない用途での使用が検討されている。例えば、タッチダウン(モータ回転軸の接触)が発生すると、腐食性のある気体中でベアリングレスモータ1を使用した場合には、その接触部分からモータ回転軸の腐蝕が始まってしまう恐れがあり、医療用や食品製造用にベアリングレスモータ1を使用した場合には、モータ回転軸の接触によって発生した塵が製品に混入してしまうことが考えられる。
このため、タッチダウン(モータ回転軸の接触)が許されない用途でベアリングレスモータ1を使用する場合、停電が発生したときでも、軸支持側の軸支持運転を優先して継続し、停電が発生してから、復電や電源の切り替えまでの間も、モータ回転軸の軸支持(磁気浮上)を保たなければならない。
なお、この対策として、瞬低補償装置やUPSなどの導入が考えられるが、そのためには装置を追加しなければならず、コストが増加してしまう。
【0025】
従って、本発明は上記の事情に鑑み、瞬低補償装置などの装置を追加することなく、停電が発生した場合でも、ベアリングレスモータなどの軸支持運転を比較的長時間保つことができるモータ制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記課題を解決する第1発明のモータ制御装置は、電磁力によって軸支持を行なうモータ(1)であるベアリングレスモータ又は磁気軸受モータに適用されるモータ制御装置であって、
電源系統(45)を介して供給される交流電力を直流電力に変換するAC/DC変換器(15)と、
前記モータ(1)の電動機巻線に交流電力を供給する駆動側のインバータ(13)と、
前記モータ(1)の軸支持巻線に交流電力を供給する軸支持側のインバータ(14)と、
前記AC/DC変換器(15)に対して前記駆動側のインバータ(13)と前記軸支持側のインバータ(14)とを並列に接続する共通の直流リンク回路(46)と、
速度検出手段(6,7,21)によって検出される前記モータ(1)の回転角速度(ω)と、回転角速度指令値(ω*)との偏差(Δω)に応じたトルク電流指令値(imq*)に基づいて生成するゲート制御信号(Gm)により、前記駆動側のインバータ(13)を制御する駆動側制御回路(11)と、
軸変位検出手段(4,5)で検出される軸変位値(α,β)と、軸変位指令値(α*,β*)との偏差(Δα,Δβ)に応じた軸支持力指令値(Fα*,Fβ*)に基づいて生成するゲート制御信号(Gs)により、前記軸支持側のインバータ(14)を制御する軸支持側制御回路(12)と、
を有するモータ制御装置において、
前記電源系統(45)の電源電圧を検出する電圧検出器(52)と、
前記電圧検出器(52)で検出される前記電源電圧に基づいて、停電を検出する停電検器(55)とを設け、
且つ、前記駆動側制御回路(11)には、前記停電検出器(55)の停電検出信号に基づいて前記回転角速度指令値(ω*)を零に切り替える切替スイッチ(56)を設けて、
前記停電検出器(55)が停電を検出したとき、前記駆動側制御回路(11)では、前記切替スイッチ(56)によって前記回転角速度指令値(ω*)を零に切り替えることにより、前記モータ(1)を減速させ且つ前記駆動側のインバータ(11)を介して前記モータ(1)から前記直流リンク回路(46)側へ前記モータ(1)の発電電力を回生するように前記駆動側のインバータ(13)を制御し、この回生電力が前記直流リンク回路(46)を介して前記軸支持側のインバータ(14)へ供給される構成としたことを特徴とする。
【0027】
また、第2発明のモータ制御装置は、第1発明のモータ制御装置において、
前記直流リンク回路(46)の直流リンク電圧値(VDC)を検出する他の電圧検出器(54)を設け、
且つ、前記駆動側制御回路(11)には、トルク電流指令値(imq*)の下限値を制限する可変リミッタ(57)と、リミッタ下限値調整回路(51)とを設けて、
前記リミッタ下限値調整回路(51)では、前記他の電圧検出器(54)で検出される直流リンク電圧値(VDC)が直流リンク電圧設定値(VDC*)よりも低下したときに負の下限設定値を出力し、前記可変リミッタ(57)では、この負の下限設定値を可変リミッタ(57)の下限設定値として設定する構成としたことを特徴とする。
【0028】
また、第3発明のモータ制御装置は、電磁力によって軸支持を行なうPMモータ(1)であるベアリングレスモータ又は磁気軸受モータに適用されるモータ制御装置であって、
電源系統(45)を介して供給される交流電力を直流電力に変換するAC/DC変換器(15)と、
前記PMモータ(1)の電動機巻線に交流電力を供給する駆動側のインバータ(13)と、
前記PMモータ(1)の軸支持巻線に交流電力を供給する軸支持側のインバータ(14)と、
前記AC/DC変換器(15)に対して前記駆動側のインバータ(13)と前記軸支持側のインバータ(14)とを並列に接続する共通の直流リンク回路(46)と、
速度検出手段(6,7,21)によって検出される前記PMモータ(1)の回転角速度(ω)と、回転角速度指令値(ω*)との偏差(Δω)に応じたトルク電流指令値(imq*)に基づいて生成するゲート制御信号(Gm)により、前記駆動側のインバータ(13)を制御する駆動側制御回路(11)と、
軸変位検出手段(4,5)で検出される軸変位値(α,β)と、軸変位指令値(α*,β*)との偏差(Δα,Δβ)に応じた軸支持力指令値(Fα*,Fβ*)に基づいて生成するゲート制御信号(Gs)により、前記軸支持側のインバータ(14)を制御する軸支持側制御回路(12)と、
を有するモータ制御装置において、
前記電源系統(45)の電源電圧を検出する第1の電圧検出器(62)と、
前記電圧検出器(62)で検出される前記電源電圧に基づいて、停電を検出する停電検器(65)と、
前記停電検出器(65)が停電を検出したとき、前記駆動側制御回路(11)のゲート制御信号(Gm)を停止するAND回路(68)と、
前記直流リンク回路(46)の直流リンク電圧値(VDC)を検出する第2の電圧検出器(64)と、
前記直流リンク回路(46)において前記駆動側のインバータ(13)の入力側に設けたコンデンサ(16)と、
前記直流リンク回路(46)に設けたチョッパ回路(66)と、
前記第2の電圧検出器(64)で検出される前記直流リンク電圧値(VDC)が、直流リンク電圧設定値(VDC*)となるように前記チョッパ回路(66)を制御するチョッパ制御回路(61)とを有し、
前記停電検出器(65)が停電を検出したとき、前記AND回路(68)が前記駆動側制御回路(11)から駆動側のインバータ(13)へのゲート制御信号(Gm)の供給を停止し、前記駆動側のインバータ(13)のスイッチング素子(18)に並列接続されたダイオード(19)を介して前記PMモータ(1)から前記直流リンク回路(46)側へ前記PMモータ(1)の発電電力が回生され、この回生電力が、前記コンデンサ(16)に蓄積され、前記チョッパ制御回路(61)の制御により前記直流リンク電圧値(VDC)が前記直流リンク電圧設定値(VDC*)となるように昇圧チョッパ動作をする前記チョッパ回路(66)を介して、前記軸支持側のインバータ(14)へ供給される構成としたことを特徴とする。
【0029】
また、第4発明のモータ制御装置は、第3発明のモータ制御装置において、
前記停電検出器(65)が停電を検出したとき、前記直流リンク回路(46)から前記駆動側制御回路(11)への電力供給を停止する構成としたこと特徴とする。
【0030】
また、第5発明のモータ制御装置は、第3又は第4発明のモータ制御装置において、
前記停電検出器(65)が停電を検出する前にも、前記チョッパ制御回路(61)の制御によって、前記直流リンク電圧値(VDC)が前記直流リンク電圧設定値(VDC*)となるように前記チョッパ回路(66)にチョッパ動作をさせる構成としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
第1発明のモータ制御装置によれば、停電検出器(55)が停電を検出したとき、駆動側制御回路(11)では、切替スイッチ(56)によって回転角速度指令値(ω*)を零に切り替えることにより、モータ(1)を減速させ且つ駆動側のインバータ(11)を介してモータ(1)から直流リンク回路(46)側へモータ(1)の発電電力を回生するように駆動側のインバータ(13)を制御し、この回生電力が直流リンク回路(46)を介して軸支持側のインバータ(14)へ供給される構成としたことを特徴としているため、瞬低補償装置などの設備を追加することなく、停電が発生した場合でも、モータ(1)の軸支持運転を比較的長時間保つことができる。
従って、復電や電源の切り替えに時間がかかっても、タッチダウン(モータ回転軸の接触)によるモータ回転軸の腐蝕や塵の発生を防止することができるため、タッチダウン(モータ回転軸の接触)が許されない用途でのモータの使用が可能となる。
【0032】
第2発明のモータ制御装置によれば、リミッタ下限値調整回路(51)では、他の電圧検出器(54)で検出される直流リンク電圧値(VDC)が直流リンク電圧設定値(VDC*)よりも低下したときに負の下限設定値を出力し、可変リミッタ(57)では、この負の下限設定値を可変リミッタ(57)の下限設定値として設定する構成としたことを特徴としているため、直流リンク電圧値(VDC)が低下した場合のみ可変リミッタ(57)の下限設定値が零よりも下がって電力の回生が行なわれるようになり、電力の回生が過剰になって直流リンク電圧値(VDC)が異常上昇するのを防止することができる。
【0033】
第3発明のモータ制御装置によれば、停電検出器(65)が停電を検出したとき、AND回路(68)が駆動側制御回路(11)から駆動側のインバータ(13)へのゲート制御信号(Gm)の供給を停止し、駆動側のインバータ(13)のスイッチング素子(18)に並列接続されたダイオード(19)を介してPMモータ(1)から直流リンク回路(46)側へPMモータ(1)の発電電力が回生され、この回生電力が、コンデンサ(16)に蓄積され、チョッパ制御回路(61)の制御により前記直流リンク電圧値(VDC)が前記直流リンク電圧設定値(VDC*)となるように昇圧チョッパ動作をするチョッパ回路(66)を介して、軸支持側のインバータ(14)へ供給される構成としたことを特徴としているため、瞬低補償装置などの設備を追加することなく、停電が発生した場合でも、モータ(1)の軸支持運転を比較的長時間保つことができる。
従って、復電や電源の切り替えに時間がかかっても、タッチダウン(モータ回転軸の接触)によるモータ回転軸の腐蝕や塵の発生を防止することができるため、タッチダウン(モータ回転軸の接触)が許されない用途でのモータの使用が可能となる。
しかも、第1発明に比べて、停電が発生した場合の特別な制御が不要となり、制御回路を簡単化することができる。
【0034】
第4発明のモータ制御装置によれば、停電検出器(65)が停電を検出したとき、直流リンク回路(46)から駆動側制御回路(11)への電力供給を停止する構成としたこと特徴としているため、その分、消費電力を抑えて軸支持運転の持続時間を更に延長することができる。
【0035】
第5発明のモータ制御装置によれば、停電検出器(65)が停電を検出する前にも、チョッパ制御回路(61)の制御によって、直流リンク電圧値(VDC)が直流リンク電圧設定値(VDC*)となるようにチョッパ回路(66)にチョッパ動作をさせる構成としたことを特徴としているため、通常時(停電発生前)の運転においても、チョッパ回路(66)により、直流リンク電圧値(VDC)を一定に保つことで、瞬低発生時の軸支持側への影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の形態例1に係るベアリングレスモータ制御装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態例2に係るベアリングレスモータ制御装置の構成を示す図である。
【図3】従来のベアリングレスモータ制御装置の構成を示す図である。
【図4】前記ベアリングレスモータ制御装置に備えた駆動側のインバータの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態例を図面に基づき詳細に説明する。
【0038】
<実施の形態例1>
図1に本発明の実施の形態例1に係るベアリングレスモータ制御装置の構成を示す。なお、図1において従来のベアリングレスモータ制御装置(図3,図4)と同様の部分については、同一の符号を付し、重複する詳細な説明は省略する。
【0039】
図1に示すように、本実施の形態例1のベアリングレスモータ制御装置は、誘導電動機などのベアリングレスモータ1に適用されるものであり、AC/DC変換器15の入力側の電源系統45に電圧検出器52が設けられ、AC/DC変換器15の出力側の直流リンク回路46に電圧検出器54が設けられている。電圧検出器52には停電検出器55が接続されている。
また、本ベアリングレスモータ制御装置では、駆動側制御回路11に切替スイッチ56と、可変リミッタ57と、リミッタ下限値調整回路51とが設けられている。リミッタ下限値調整回路51は偏差演算器58と、ゲイン調整器59と有している。切替スイッチ56は偏差演算器22の前段(入力側)に設けられ、可変リミッタ57はPIアンプ23の次段(出力側)に設けられている。
【0040】
電圧検出器52では、電源系統45を介してAC/DC変換器15に供給される三相交流電力の電圧値(電源電圧値)を検出する。
停電検出器55では、電圧検出器52で検出される電源電圧値と、停電検出のための電圧設定値とを比較して、停電の発生により、前記電源電圧値が低下して前記電圧設定値以下になると、停電検出信号を出力する。
【0041】
切替スイッチ56は、回転角速度指令値をω*(例えば定格値などの零でない値)から零に切り替えるためのスイッチである。切替スイッチ56では、通常時(停電検出前)、回転角速度指令値ω*を選択して、偏差演算器22へ出力する一方、停電検出器55から停電検出信号を入力したときには回転角速度指令値をω*から零に切り替えて、偏差演算器22へ出力する。
【0042】
電圧検出器54では、直流リンク回路46における直流電圧値である直流リンク電圧値VDCを検出する。
偏差演算器58では、電圧検出器54で検出した直流リンク電圧値VDCと、この直流リンク電圧値VDCが低下したか否か(即ち可変リミッタ57の下限設定値を零よりも下げるか否か)を判定するための直流リンク電圧設定値VDC*との偏差(VDC*−VDC)を演算して、直流リンク電圧偏差ΔVDCを求める。
ゲイン調整器59では、偏差演算器58で求める直流リンク電圧偏差ΔVDCに調整ゲインG(負の値)を掛けることにより(G×ΔVDC)、直流リンク電圧偏差ΔVDCに応じた可変リミッタ57の下限設定値を得る。
従って、直流リンク電圧値VDCが十分大きい場合(直流リンク電圧設定値VDC*よりも大きい場合)、リミッタ下限値調整回路51(ゲイン調整器59)で得られる下限設定値は正になる一方、停電が発生して直流リンク電圧値VDCが低下した場合(直流リンク電圧設定値VDC*よりも小さくなった場合)、リミッタ下限値調整回路51(ゲイン調整器59)で得られる下限設定値は負になる。
【0043】
可変リミッタ57では、通常、その下限設定値(トルク電流指令値(imq*)の下限値を制限する値)が零に設定されている。そして、可変リミッタ57では、リミッタ下限値調整回路51(ゲイン調整器59)から負の下限設定値を入力したとき、この下限設定値を可変リミッタ57の下限設定値として設定する。即ち、このときには直流リンク電圧値VDCの低下に応じて可変リミッタ57の下限設定値が低下する。
【0044】
このため、直流リンク電圧値VDCが低下がった場合(直流リンク電圧設定値VDC*よりも低下した場合)にのみ、可変リミッタ57の下限設定値が零よりも下がって電力の回生を行なうことができる。
なお、可変リミッタ57の上限値については、特に規定する必要はなく、駆動側制御回路11の制御に支障のない任意の値に設定すればよい。
【0045】
直流リンク電圧値VDCが十分大きい場合には、可変リミッタ57の下限設定値が零に設定されているため、例えば回転角速度ωの上昇などにより、偏差演算器22で求められる角速度偏差Δωが負になってPIアンプ23で得られるトルク電流指令値imq*が負になったとしても、可変リミッタ57から出力されるトルク電流指令値imq*は負にはならない。このため、インバータ13を介してベアリングレスモータ1から直流リンク回路46側へ電力の回生が行なわれることはなく、過剰な電力回生によって直流リンク電圧値VDCが異常上昇するのを防止することができる。
【0046】
一方、停電の発生により、直流リンク電圧値VDCが直流リンク電圧設定値VDC*よりも下がると、可変リミッタ57の下限設定値が零よりも下がる(負になる)。そして、このときに前記停電を検出した停電検出器55から停電検出信号が出力され、この停電検出信号に基づき切替スイッチ56で回転角速度指令値がω*から零に切り替えられ、偏差演算器22で求められる角速度偏差Δωが負になってPIアンプ23で得られるトルク電流指令値imq*が負になると、可変リミッタ57から出力されるトルク電流指令値imq*も負になる。このため、停電発生時には、インバータ13を介してベアリングレスモータ1から直流リンク回路46側への発電電力の回生が行なわれるようになる。
【0047】
従って、停電が発生すると、直流リンク電圧値VDCは一旦低下し、ベアリングレスモータ1の回転数も低下するが、ベアリングレスモータ1からの電力の回生によって直流リンク電圧値VDCは上昇する。そして、駆動側のインバータ13と軸支持側のインバータ14とが共通の直流リンク回路46を介してAC/DC変換器15に並列に接続されているため、即ち、駆動側のインバータ13と軸支持側のインバータ14の直流リンク回路46が共通であるため、駆動側のインバータ13を介して回生された電力が、軸支持側のインバータ14を介してベアリングレスモータ1(固定子2)の軸支持巻線に供給される。また、このときの回生電力は駆動側制御回路11及び軸支持側制御回路12の制御回路にも供給される。
このため、停電が発生しても、ベアリングレスモータ1の回転が停止するまでの間は、軸支持側制御回路12によるベアリングレスモータ1の軸支持運転を維持することができるようになる。
つまり、本ベアリングレスモータ制御装置は、停電発生時に、回転角速度指令値をω*から零に切り替えることによって、ベアリングレスモータ1を意図的に減速させ、そのときの回生電力を利用して軸支持運転を行なうことにより、タッチダウン(モータ回転軸の接触)を防ぐように制御する方式となっている。
【0048】
なお、本実施の形態例1のベアリングレスモータ制御装置のその他の構成については、従来のベアリングレスモータ制御装置(図3,図4)と同様である。
【0049】
以上のように、本実施の形態例1のベアリングレスモータ制御装置によれば、電源系統45を介して供給される交流電力を直流電力に変換するAC/DC変換器15と、ベアリングレスモータ1の電動機巻線に交流電力を供給する駆動側のインバータ13と、ベアリングレスモータ1の軸支持巻線に交流電力を供給する軸支持側のインバータ14と、AC/DC変換器15に対して駆動側のインバータ13と軸支持側のインバータ14とを並列に接続する共通の直流リンク回路46と、速度検出手段としてのロータリーエンコーダ6,角度検出器7及び速度検出器21によって検出されるベアリングレスモータ1の回転角速度ωと、回転角速度指令値ω*との偏差Δωに応じたトルク電流指令値imq*に基づいて生成するゲート制御信号Gmにより、駆動側のインバータ13を制御する駆動側制御回路11と、軸変位検出手段としてのギャップセンサ4,5で検出される軸変位値α,βと、軸変位指令値α*,β*との偏差Δα,Δβに応じた軸支持力指令値Fα*,Fβ*に基づいて生成するゲート制御信号Gsにより、軸支持側のインバータ14を制御する軸支持側制御回路(12)とを有するモータ制御装置において、電源系統45の電源電圧を検出する電圧検出器52と、電圧検出器52で検出される電源電圧に基づいて停電を検出する停電検器55とを設け、且つ、駆動側制御回路11には、停電検出器55の停電検出信号に基づいて前記回転角速度指令値ω*を零に切り替える切替スイッチ56を設けて、停電検出器55が停電を検出したとき、駆動側制御回路11では、切替スイッチ56によって回転角速度指令値ω*を零に切り替えることにより、ベアリングレスモータ1を減速させ且つ駆動側のインバータ13を介してベアリングレスモータ1から直流リンク回路46側へベアリングレスモータ1の発電電力を回生するように駆動側のインバータ13を制御し、この回生電力が直流リンク回路46を介して軸支持側のインバータ14へ供給される構成としたことを特徴としているため、瞬低補償装置などの設備を追加することなく、停電が発生した場合でも、ベアリングレスモータ1の軸支持運転を比較的長時間保つことができる。
従って、復電や電源の切り替えに時間がかかっても、タッチダウン(モータ回転軸の接触)によるモータ回転軸の腐蝕や塵の発生を防止することができるため、タッチダウン(モータ回転軸の接触)が許されない用途でのベアリングレスモータ1の使用が可能となる。
【0050】
また、本実施の形態例1のベアリングレスモータ制御装置によれば、直流リンク回路46の直流リンク電圧値VDCを検出する電圧検出器54を設け、且つ、駆動側制御回路11には、トルク電流指令値imq*の下限値を制限する可変リミッタ57と、リミッタ下限値調整回路51とを設けて、リミッタ下限値調整回路51では、電圧検出器54で検出される直流リンク電圧値VDCが直流リンク電圧設定値VDC*よりも低下したときに負の下限設定値を出力し、可変リミッタ57では、この負の下限設定値を可変リミッタ57の下限設定値として設定する構成としたことを特徴としているため、直流リンク電圧値VDCが低下した場合のみ可変リミッタ57の下限設定値が零よりも下がって電力の回生が行なわれるようになり、電力の回生が過剰になって直流リンク電圧値VDCが異常上昇するのを防止することができる。
【0051】
<実施の形態例2>
図2に本発明の実施の形態例2に係るベアリングレスモータ制御装置の構成を示す。なお、図2において従来のベアリングレスモータ制御装置(図3,図4)と同様の部分については、同一の符号を付し、重複する詳細な説明は省略する。
【0052】
図2に示すように、本実施の形態例2のベアリングレスモータ制御装置が適用されるベアリングレスモータ1には永久磁石型同期電動機(PMモータ)を採用されており、その回転子3には永久磁石(図示省略)が設けられている。
【0053】
また、本ベアリングレスモータ制御装置では、AC/DC変換器15の入力側の電源系統45に電圧検出器62が設けられ、AC/DC変換器15の出力側の直流リンク回路46に電圧検出器64、チョッパ回路66及び電圧検出器67が設けられている。
チョッパ回路66には、チョッパ制御回路61が接続されている。電圧検出器62には停電検出器65が接続されている。
チョッパ制御回路61は、偏差演算器69と、電圧制御器(AVRアンプ)70と、偏差演算器71と、電流制御器(ACRアンプ)72と、PWM変調器73と、NOT回路74とを有している。
更に、本ベアリングレスモータ制御装置には、正論理と負論理が混在するAND回路68も設けられている。
【0054】
チョッパ回路66は、スイッチング素子75,76(図示例ではIGBT)と、コイル77と、ダイオード78,79とを有してなるものである。スイッチング素子75とコイル77は直列に接続されている。スイッチング素子76は、スイッチング素子75とコイル77の間に接続され、電解コンデンサ16に対して並列になっている。また、ダイオード78,79はスイッチング素子75,76にそれぞれ並列に接続されている。
【0055】
電圧検出器64では、直流リンク回路46における直流電圧値である直流リンク電圧値VDCを検出する。
電流検出器67では、直流リンク回路46における直流電流値である直流リンク電流値IDCを検出する。
【0056】
偏差演算器69では、電圧検出器64で検出した直流リンク電圧値VDCと、所定値(例えば定格値)の直流リンク電圧設定値VDC*との偏差(VDC*−VDC)を演算して、直流リンク電圧偏差ΔVDCを求める。
電圧制御器70では、偏差演算器69で求める直流リンク電圧偏差ΔVDCを基に直流リンク電流指令値IDC*を得る。
偏差演算器71では、電圧制御器70で得た直流リンク電流指令値IDC*と、電流検出器67で検出した直流リンク電流値IDCとの偏差(IDC*−IDC)を演算して、直流リンク電流偏差ΔIDCを求める。
電流制御器72では、偏差演算器71で求める直流リンク電流偏差ΔIDCを基に直流リンク電圧指令値VDC**を得る。
PWM変調器73では、電流制御器72で得られる直流リンク電圧指令値VDC**をPWM変調し、このPWM変調した信号をゲート制御信号G2としてスイッチング素子76へ送る。
また、NOT回路74では、PWM変調器73でPWM変調した信号を反転し、この反転した信号をゲート制御信号G1としてスイッチング素子75へ送る。
【0057】
チョッパ制御回路61のゲート制御信号G1,G2によってチョッパ回路66では、スイッチング素子75,76がON/OFFすることにより、直流リンク電圧VDCが直流リンク電圧設定値VDC*となるように降圧チョッパ動作や昇圧チョッパ動作を行う。即ち、直流リンク電圧VDCを一定に保つ。このため、例えば電源系統45に瞬低が発生したときでも、軸支持側のインバータ14に与える影響を低減することができる。
そして、詳細は後述するが、停電発生時にも、チョッパ制御回路61の制御により、チョッパ回路66が、直流リンク電圧VDCが直流リンク電圧設定値VDC*となるように昇圧チョッパ動作をして、直流リンク電圧VDCを一定に保つ。
なお、常にチョッパ回路66にチョッパ動作をさせるのではなく、停電検出器65が停電を検出する前には、常にゲート制御信号G1をON状態してスイッチング素子75をON(導通)状態とし、常にゲート制御信号G2をOFF状態にしてスイッチング素子76をOFF(非導通)状態にしておくようにしてもよい。この場合には、停電検出器65が停電を検出したときにのみ、チョッパ制御回路61の制御により、チョッパ回路66が、直流リンク電圧VDCが直流リンク電圧設定値VDC*となるように昇圧チョッパ動作をして、直流リンク電圧VDCを一定に保つ。
【0058】
電圧検出器62では、電源系統45を介してAC/DC変換器15に供給される三相交流電力の電圧値(電源電圧値)を検出する。
停電検出器65では、電圧検出器62で検出される電源電圧値と、停電検出のための電圧設定値とを比較して、前記電源電圧値が前記電圧設定値以下になる前(停電検出前)は“0”をAND回路68へ出力する一方、停電の発生により、前記電源電圧値が低下して前記電圧設定値以下になると、停電検出信号としての“1”をAND回路68へ出力する。
【0059】
AND回路68では、停電検出器65から“0”を入力している間(即ち停電検出器65による停電検出前)は、PWM変調器31で生成したゲート制御信号Gmを駆動側インバータ13へ出力する一方、停電検出器65から“1”を入力すると(即ち停電検出器65が停電を検出すると)、出力が“0”となり、ゲート制御信号Gmを完全に停止する。即ち、ゲート制御信号Gmが駆動側のインバータ13に送られるのを阻止する。
【0060】
停電発生時にゲート制御信号Gmを停止しても、ベアリングレスモータ1はPMモータであるため発電することができ、しかも、駆動側のインバータ13においてスイッチング素子18に並列接続されたダイオード19(図4参照)が整流器として動作するため、このダイオード19を介してベアリングレスモータ1から直流リンク回路46側へ発電電力を回生することができる。
【0061】
この回生電力(回生エネルギー)は直流リンク回路46の電解コンデンサ16に蓄積され、チョッパ回路66を介して軸支持側のインバータ14へ供給される。このとき、ベアリングレスモータ1の回転数が低下して回生電力(回生エネルギー)が減少しても、チョッパ回路66の昇圧チョッパ動作による直流リンク電圧VDCの昇圧によって、軸支持側のインバータ14への電力供給を維持することができる。
従って、軸支持側のインバータ14からベアリングレスモータ1(固定子2)の軸支持巻線への三相交流電力の供給を維持して、軸支持側制御回路12によるベアリングレスモータ1の軸支持運転を維持することができる。
【0062】
また、図示は省略するが、停電検出器65によって停電を検出したとき、遮断器などの電力供給停止手段によって、直流リンク回路46から駆動側制御回路11への電力供給を停止するようになっている。即ち、停電検出器65によって停電を検出したときには、回生電力が駆動側制御回路11へ供給されないようにしている。
【0063】
以上のように、本実施の形態例2のベアリングレスモータ制御装置によれば、電源系統45を介して供給される交流電力を直流電力に変換するAC/DC変換器15と、PMモータであるベアリングレスモータ1の電動機巻線に交流電力を供給する駆動側のインバータ13と、ベアリングレスモータ1の軸支持巻線に交流電力を供給する軸支持側のインバータ14と、AC/DC変換器15に対して駆動側のインバータ13と軸支持側のインバータ14とを並列に接続する共通の直流リンク回路46と、速度検出手段としてのロータリーエンコーダ6,角度検出器7及び速度検出器21によって検出されるベアリングレスモータ1の回転角速度ωと、回転角速度指令値ω*との偏差Δωに応じたトルク電流指令値imq*に基づいて生成するゲート制御信号Gmにより、駆動側のインバータ13を制御する駆動側制御回路11と、ギャップセンサ4,5で検出される軸変位値α,βと、軸変位指令値α*,β*との偏差Δα,Δβに応じた軸支持力指令値Fα*,Fβ*に基づいて生成するゲート制御信号Gsにより、軸支持側のインバータ14を制御する軸支持側制御回路12とを有するモータ制御装置において、電源系統45の電源電圧を検出する電圧検出器62と、電圧検出器62で検出される電源電圧に基づいて停電を検出する停電検器65と、停電検出器65が停電を検出したとき、駆動側制御回路11のゲート制御信号Gmを停止するAND回路68と、直流リンク回路46の直流リンク電圧値VDCを検出する電圧検出器64と、直流リンク回路46において駆動側のインバータ13の入力側に設けた電界コンデンサ16と、直流リンク回路46に設けたチョッパ回路66と、電圧検出器64で検出される直流リンク電圧値VDCが直流リンク電圧設定値VDC*となるようにチョッパ回路66を制御するチョッパ制御回路61とを有し、停電検出器65が停電を検出したとき、AND回路68が駆動側制御回路11から駆動側のインバータ13へのゲート制御信号Gmの供給を停止し、駆動側のインバータ13のスイッチング素子18に並列接続されたダイオード19を介してベアリングレスモータ1から直流リンク回路46側へベアリングレスモータ(PMモータ)1の発電電力が回生され、この回生電力が、電界コンデンサ16に蓄積され、チョッパ制御回路61の制御により直流リンク電圧値VDCが直流リンク電圧設定値VDC*となるように昇圧チョッパ動作をするチョッパ回路66を介して、軸支持側のインバータ14へ供給される構成としたことを特徴としているため、瞬低補償装置などの設備を追加することなく、停電が発生した場合でも、ベアリングレスモータ1の軸支持運転を比較的長時間保つことができる。
従って、復電や電源の切り替えに時間がかかっても、タッチダウン(モータ回転軸の接触)によるモータ回転軸の腐蝕や塵の発生を防止することができるため、タッチダウン(モータ回転軸の接触)が許されない用途でのベアリングレスモータ1の使用が可能となる。
しかも、上記実施の形態例1に比べて、停電が発生した場合の特別な制御が不要となり、制御回路を簡単化することができる。
【0064】
また、本実施の形態例2のベアリングレスモータ制御装置によれば、停電検出器65が停電を検出したとき、直流リンク回路46から駆動側制御回路11への電力供給を停止する構成としたこと特徴としているため、その分、消費電力を抑えて軸支持運転の持続時間を更に延長することができる。
【0065】
また、本実施の形態例2のベアリングレスモータ制御装置によれば、停電検出器65が停電を検出する前にも、チョッパ制御回路61の制御によって、直流リンク電圧値VDCが直流リンク電圧設定値VDC*となるようにチョッパ回路66にチョッパ動作をさせる構成としたことを特徴としているため、通常時(停電発生前)の運転においても、チョッパ回路66により、直流リンク電圧値VDCを一定に保つことで、瞬低発生時の軸支持側への影響を低減することができる。
【0066】
なお、上記実施の形態例1,2では本発明のモータ制御装置をベアリングレスモータに適用した場合ついて説明したが、必ずしも、これに限定するものではなく、本発明のモータ制御装置は磁気軸受モータにも適用することができる。なお、図示は省略するが、磁気軸受モータの場合、モータの回転は、駆動側制御回路により制御される駆動側のインバータから固定子の電動機巻線へ電力を供給することによって行われる一方、軸支持運転は、軸支持側制御回路により制御される軸支持側のインバータから、固定子とは別の位置に備えた軸支持用の電磁石の巻線(軸支持巻線)へ電力が供給されることによって行われる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は電磁力によって軸支持を行なうモータであるベアリングレスモータ又は磁気軸受モータに適用されるモータ制御装置に関するものであり、停電が発生した場合でも、ベアリングレスモータ又は磁気軸受モータの軸支持運転を比較的長時間保つことができるようにする場合に適用して有用なものである。
【符号の説明】
【0068】
1 ベアリングレスモータ
2 固定子
3 回転子
4,5 ギャップセンサ
6 ロータリーエンコーダ
7 角度検出器
11 駆動側制御回路
12 軸支持側制御回路
13 駆動側のインバータ
14 軸支持側のインバータ
15 AC/DC変換器
16,17 電解コンデンサ
18 スイッチング素子(IGBT)
19 ダイオード
21 速度検出器
22 偏差演算器
23 PIアンプ
24 電流検出器
25 dq変換器
26 偏差演算器
27 電流制御器(ACRアンプ)
28 偏差演算器
29 電流制御器(ACRアンプ)
30 dq逆変換器
31 PWM変調器
32,33 偏差演算器
34,35 PIDアンプ
36 軸支持変調式演算器
37 電流検出器
38 3相2相変換器
39 偏差演算器
40 電流制御器(ACRアンプ)
41 偏差演算器
42 電流制御器(ACRアンプ)
43 2相3相変換器
44 PWM変調器
45 電源系統
46 直流リンク回路
51 リミッタ下限値調整回路
52 電圧検出器
54 電圧検出器
55 停電検出器
56 切替スイッチ
57 可変リミッタ
58 偏差演算器
59 ゲイン調整器
61 チョッパ制御回路
62 電圧検出器
64 電圧検出器
65 停電検出器
66 チョッパ回路
67 電流検出器
68 AND回路
69 偏差演算器
70 電圧制御器(AVRアンプ)
71 偏差演算器
72 電流制御器(ACRアンプ)
73 PWM変調器
74 NOT回路
75,76 スイッチング素子(IGBT)
77 コイル
78,79 ダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁力によって軸支持を行なうモータ(1)であるベアリングレスモータ又は磁気軸受モータに適用されるモータ制御装置であって、
電源系統(45)を介して供給される交流電力を直流電力に変換するAC/DC変換器(15)と、
前記モータ(1)の電動機巻線に交流電力を供給する駆動側のインバータ(13)と、
前記モータ(1)の軸支持巻線に交流電力を供給する軸支持側のインバータ(14)と、
前記AC/DC変換器(15)に対して前記駆動側のインバータ(13)と前記軸支持側のインバータ(14)とを並列に接続する共通の直流リンク回路(46)と、
速度検出手段(6,7,21)によって検出される前記モータ(1)の回転角速度(ω)と、回転角速度指令値(ω*)との偏差(Δω)に応じたトルク電流指令値(imq*)に基づいて生成するゲート制御信号(Gm)により、前記駆動側のインバータ(13)を制御する駆動側制御回路(11)と、
軸変位検出手段(4,5)で検出される軸変位値(α,β)と、軸変位指令値(α*,β*)との偏差(Δα,Δβ)に応じた軸支持力指令値(Fα*,Fβ*)に基づいて生成するゲート制御信号(Gs)により、前記軸支持側のインバータ(14)を制御する軸支持側制御回路(12)と、
を有するモータ制御装置において、
前記電源系統(45)の電源電圧を検出する電圧検出器(52)と、
前記電圧検出器(52)で検出される前記電源電圧に基づいて、停電を検出する停電検器(55)とを設け、
且つ、前記駆動側制御回路(11)には、前記停電検出器(55)の停電検出信号に基づいて前記回転角速度指令値(ω*)を零に切り替える切替スイッチ(56)を設けて、
前記停電検出器(55)が停電を検出したとき、前記駆動側制御回路(11)では、前記切替スイッチ(56)によって前記回転角速度指令値(ω*)を零に切り替えることにより、前記モータ(1)を減速させ且つ前記駆動側のインバータ(11)を介して前記モータ(1)から前記直流リンク回路(46)側へ前記モータ(1)の発電電力を回生するように前記駆動側のインバータ(13)を制御し、この回生電力が前記直流リンク回路(46)を介して前記軸支持側のインバータ(14)へ供給される構成としたことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記直流リンク回路(46)の直流リンク電圧値(VDC)を検出する他の電圧検出器(54)を設け、
且つ、前記駆動側制御回路(11)には、トルク電流指令値(imq*)の下限値を制限する可変リミッタ(57)と、リミッタ下限値調整回路(51)とを設けて、
前記リミッタ下限値調整回路(51)では、前記他の電圧検出器で検出される直流リンク電圧値(VDC)が直流リンク電圧設定値(VDC*)よりも低下したときに負の下限設定値を出力し、前記可変リミッタ(57)では、この負の下限設定値を可変リミッタ(57)の下限設定値として設定する構成としたことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
電磁力によって軸支持を行なうPMモータ(1)であるベアリングレスモータ又は磁気軸受モータに適用されるモータ制御装置であって、
電源系統(45)を介して供給される交流電力を直流電力に変換するAC/DC変換器(15)と、
前記PMモータ(1)の電動機巻線に交流電力を供給する駆動側のインバータ(13)と、
前記PMモータ(1)の軸支持巻線に交流電力を供給する軸支持側のインバータ(14)と、
前記AC/DC変換器(15)に対して前記駆動側のインバータ(13)と前記軸支持側のインバータ(14)とを並列に接続する共通の直流リンク回路(46)と、
速度検出手段(6,7,21)によって検出される前記PMモータ(1)の回転角速度(ω)と、回転角速度指令値(ω*)との偏差(Δω)に応じたトルク電流指令値(imq*)に基づいて生成するゲート制御信号(Gm)により、前記駆動側のインバータ(13)を制御する駆動側制御回路(11)と、
軸変位検出手段(4,5)で検出される軸変位値(α,β)と、軸変位指令値(α*,β*)との偏差(Δα,Δβ)に応じた軸支持力指令値(Fα*,Fβ*)に基づいて生成するゲート制御信号(Gs)により、前記軸支持側のインバータ(14)を制御する軸支持側制御回路(12)と、
を有するモータ制御装置において、
前記電源系統(45)の電源電圧を検出する第1の電圧検出器(62)と、
前記電圧検出器(62)で検出される前記電源電圧に基づいて、停電を検出する停電検器(65)と、
前記停電検出器(65)が停電を検出したとき、前記駆動側制御回路(11)のゲート制御信号(Gm)を停止するAND回路(68)と、
前記直流リンク回路(46)の直流リンク電圧値(VDC)を検出する第2の電圧検出器(64)と、
前記直流リンク回路(46)において前記駆動側のインバータ(13)の入力側に設けたコンデンサ(16)と、
前記直流リンク回路(46)に設けたチョッパ回路(66)と、
前記第2の電圧検出器(64)で検出される前記直流リンク電圧値(VDC)が、直流リンク電圧設定値(VDC*)となるように前記チョッパ回路(66)を制御するチョッパ制御回路(61)とを有し、
前記停電検出器(65)が停電を検出したとき、前記AND回路(68)が前記駆動側制御回路(11)から駆動側のインバータ(13)へのゲート制御信号(Gm)の供給を停止し、前記駆動側のインバータ(13)のスイッチング素子(18)に並列接続されたダイオード(19)を介して前記PMモータ(1)から前記直流リンク回路(46)側へ前記PMモータ(1)の発電電力が回生され、この回生電力が、前記コンデンサ(16)に蓄積され、前記チョッパ制御回路(61)の制御により前記直流リンク電圧値(VDC)が前記直流リンク電圧設定値(VDC*)となるように昇圧チョッパ動作をする前記チョッパ回路(66)を介して、前記軸支持側のインバータ(14)へ供給される構成としたことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のモータ制御装置において、
前記停電検出器(65)が停電を検出したとき、前記直流リンク回路(46)から前記駆動側制御回路(11)への電力供給を停止する構成としたこと特徴とするモータ制御装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のモータ制御装置において、
前記停電検出器(65)が停電を検出する前にも、前記チョッパ制御回路(61)の制御によって、前記直流リンク電圧値(VDC)が前記直流リンク電圧設定値(VDC*)となるように前記チョッパ回路(66)にチョッパ動作をさせる構成としたことを特徴とするモータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−200524(P2010−200524A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43732(P2009−43732)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】