説明

モータ制御装置

【課題】ブラシレスモータの始動時における立ち上がりの応答性を向上させる。
【解決手段】制御ユニットにてモータの停止指令が伝達されると(S121)、S122にて今回の停止指令が通常の停止指令であるか否かを判定する。通常の停止指令である場合にはS125にて通常停止制御を実行する。通常停止制御では、目標モータ回転数を停止指令伝達時の値から徐々に減少させることにより回転数制御を継続しつつモータの実回転数Nを徐々に低下させる。S126では、モータの実回転数Nと所定回転数Ns(例えば0rpm付近の値)とを比較し、N≦Nsか否かを判定する。N≦Nsとなった時点でS127に進み、ロータ位置決め処理を行う。ロータ位置決め処理では、例えば、特定の相巻線に通電してロータをわずかに回転させることにより、ロータ磁極位置を予め定めた位置まで移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスモータの位置センサレス駆動制御を行うモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載の電動アクチュエータ等の駆動源としては、効率性などの観点から永久磁石ブラシレスモータが多く採用されている。このブラシレスモータの駆動制御を行うためには、モータのロータ磁極位置(ロータ位置情報)を検出する必要がある。ロータ磁極位置を検出する手法の一例としては、ロータ位置検出用の位置センサ(例えばホール素子)を設置することが挙げられる。しかしながら、位置センサの設置に伴ってコストが増大することや、位置センサが厳しい温度環境下に設置される場合には位置センサの検出精度の低下及び耐久性の低下が懸念されることなどから、位置センサを用いない、いわゆる「位置センサレス駆動制御」を行うための技術が種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、3相ブラシレスモータの駆動制御において、モータの中・高速運転時に各相の逆起電圧(誘起電圧)を検出し、これをロータの位置情報として位置センサレス駆動制御を行うことを開示している。
【0004】
また、特許文献2は、モータの低速運転時に誘起電圧が比較的小さい場合であっても位置センサレス駆動制御を行うことが可能なモータ駆動システムを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−284682号公報
【特許文献2】特開2009−189176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述のような位置センサレス駆動制御により駆動されるブラシレスモータでは、モータ始動時に、いわゆる「ロータの位置決め」を行った後にモータ運転を開始する。ここで、ロータの位置決めとは、モータ始動時のロータ磁極位置を確実に押さえるために、例えば、ロータをわずかに回転させてロータ磁極位置を予め定めた位置に移動させることである。
【0007】
上述のようなブラシレスモータでは、毎始動時にロータの位置決めを行うため、このロータ位置決めに要する時間が、モータ始動時の立ち上がりの応答性を低下させる要因になっていた。
【0008】
本発明は、このような実状に鑑み、ブラシレスモータの始動時における立ち上がりの応答性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのため本発明に係るモータ制御装置は、永久磁石を有するロータと複数の相巻線を有するステータとを備えるブラシレスモータの位置センサレス駆動制御を行う。また、モータ制御装置は、複数の相巻線への通電を制御することによりロータの位置決めを行うロータ位置決め手段を備える。そして、このロータ位置決め手段は、ブラシレスモータの駆動停止時から始動までの間にロータの位置決めを行う。
ここで、本発明における「始動」とは、本発明に係るモータ制御装置がそれまでの停止指令状態から回転指令状態に切り替わる段階を意味する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ブラシレスモータの駆動停止時から始動までの間にロータの位置決めを行うことにより、モータの始動に先立ってロータの位置決めを完了させることができるので、モータ始動時の立ち上がりの応答性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態を示す車両用変速装置におけるオイル供給システムの概略図
【図2】上記第1実施形態におけるモータ制御装置を示すブロック図
【図3】ブラシレスモータ、駆動回路及びフィードバック制御器の回路構成図
【図4】モータ初期診断ルーチンを示すフローチャート
【図5】モータ始動ルーチンを示すフローチャート
【図6】モータ駆動停止ルーチンを示すフローチャート
【図7】ロータ位置決め時の通電量とオイル温度との関係を示す図
【図8】本発明の第2実施形態におけるモータ駆動停止ルーチンを示すフローチャート
【図9】上記第2実施形態における駆動停止時の目標回転数と停止時間との関係を示す図
【図10】本発明の第3実施形態を示す車両用変速装置におけるオイル供給システムの概略図
【図11】上記第3実施形態におけるロータの位置保持ルーチンを示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。尚、ここでは車両用変速装置におけるオイル供給システムを例にとってブラシレスモータの駆動制御を説明するが、これに限るものではない。
【0013】
図1は、本発明の第1実施形態を示す車両用変速装置におけるオイル供給システムの概略図である。
車両の動力源であるエンジン(内燃機関)1の出力軸は、トルクコンバータ2を介して、変速装置3に接続されている。
【0014】
変速装置3は、クラッチ4と無段変速機5とを含んで構成される。
クラッチ4は、湿式多板クラッチにより構成され、作動油の油圧制御によって締結・解放が制御される。
【0015】
尚、ここでいうクラッチ4は、詳しくは、前後進切換機構における摩擦係合要素である。前後進切換機構は、例えば、エンジン出力軸と連結したリングギア、ピニオン及びピニオンキャリア、変速機入力軸と連結したサンギアからなる遊星歯車機構と、変速機ケースをピニオンキャリアに固定する後退ブレーキと、変速機入力軸とピニオンキャリアを連結する前進クラッチと、を含んで構成され、車両の前進と後退とを切換える。この場合、前後進切換機構における摩擦係合要素である前進クラッチ及び後退ブレーキが、クラッチ4に相当する。また、クラッチ4には、必要により、その温度TCを検出する温度センサ6が配置され得る。
【0016】
無段変速機5は、プライマリプーリ5a及びセカンダリプーリ5bと、これらプーリ間に巻き掛けたベルト5cとを含み、プライマリプーリ5aの回転は、ベルト5cを介して、セカンダリプーリ5bへ伝達され、セカンダリプーリ5bの回転は、駆動車輪(図示せず)へ伝達される。
【0017】
この無段変速機5においては、プライマリプーリ5aの可動円錐板、及び、セカンダリプーリ5bの可動円錐板を、それぞれの作動油の油圧制御によって軸方向に移動させて、各プーリ5a,5bとベルト5cとの接触位置半径を変えることにより、プライマリプーリ5aとセカンダリプーリ5bとのプーリ比(回転比)を変化させて、変速比を無段階に変化させることができる。
【0018】
変速装置3のケース底部のオイルパン7にはオイルが貯留されており、このオイルが機械式オイルポンプ8により吸入加圧され、調圧機構9を介して、クラッチ4及びプーリ5a,5bの各油圧アクチュエータに作動油として供給される。
【0019】
機械式オイルポンプ8は、変速装置3のケース内に設けられて変速装置3の入力軸により駆動される。従って、機械式オイルポンプ8は実質的には動力源であるエンジン1により駆動される。
【0020】
調圧機構9は、供給各部(クラッチ4及びプーリ5a,5b)ごとに、リリーフ機能を有する電磁弁を備え、後述する制御ユニット(C/U)20の制御下で、機械式オイルポンプ8の吐出圧を供給各部の目標圧に調圧して、供給各部に供給する。これにより、車両の前後進の切換えと変速比の制御とがなされる。
【0021】
制御ユニット20はマイクロコンピュータを内蔵しており、車両の運転状態を示す各種のセンサ出力信号を入力し、これらセンサ出力信号に基づいて変速制御信号を演算し、演算した変速制御信号を調圧機構9に出力する。
【0022】
機械式オイルポンプ8は、調圧機構9を介してクラッチ4及びプーリ5a,5bに作動油としてオイルを供給する他、変速装置3の各部に潤滑及び冷却用のオイルを供給する。供給されたオイルはオイルパン7に戻されて循環する。尚、オイルパン7内には、オイルの温度(油温)TFを検出する油温センサ12が配置されている。
【0023】
一方、動力源であるエンジン1により駆動される機械式オイルポンプ8とは別に、電動オイルポンプ10が設けられている。
電動オイルポンプ10は、クラッチ4でのいわゆる「スリップ」等に起因する摩擦熱の発生を軽減すべく、クラッチ4に冷却用のオイルを供給するために設けられている。ここで、クラッチ4のスリップによる発熱量を推定する手法としては、例えば、エンジン出力軸の回転数と変速機入力軸の回転数とを検出し、これら回転数の差に基づいてクラッチ4におけるスリップ量及び/又はスリップ時間を算出し、この算出値に基づいてクラッチ4の発熱量QCを推定する手法を挙げることができる。
【0024】
電動オイルポンプ10は、オイルパン7に貯留されたオイルを吸入加圧してクラッチ4に供給する。電動オイルポンプ10は、エンジン1の停止中、従って機械式オイルポンプ8の停止中にクラッチ4に冷却用オイルを供給することが可能である。また、電動オイルポンプ10は、機械式オイルポンプ8の運転中であっても、クラッチ4への冷却用オイルの供給不足を補うために作動し得る。電動オイルポンプ10によりクラッチ4に供給された冷却用オイルもオイルパン7に戻されて循環する。
【0025】
電動オイルポンプ10は、その駆動源としてブラシレスモータ11を備え、このブラシレスモータ11によってポンプ部を回転駆動するオイルポンプである。電動オイルポンプ10のポンプ部は、いわゆる内接歯車式ポンプ(例えばトロコイドポンプ)であり、インナーロータとアウターロータとからなるポンプロータをハウジングに収納して構成される。尚、本実施形態では、電動オイルポンプ10のポンプ部として内接歯車式ポンプを用いて説明しているが、当該ポンプ部はこれに限らず、あらゆる形式のポンプを用いることが可能である。
【0026】
ブラシレスモータ11は、3相永久磁石ブラシレスモータであり、複数の永久磁石の磁極を有するロータと3相巻線(複数の相巻線)を有するステータとにより構成される。
制御ユニット20は、ブラシレスモータ11の3相巻線への通電を制御することで、電動オイルポンプ10の吐出量・吐出圧を制御する。また、制御ユニット20は、本発明に係るモータ制御装置として機能して、ブラシレスモータ11の駆動制御を行う。
【0027】
図2は、制御ユニット20によるブラシレスモータ11(電動オイルポンプ10)の制御機能を示すブロック図である。
指令・目標値演算部21は、車両の各種センサからの検出信号(クラッチ状態信号、油温度信号、バッテリ電圧信号などの検出信号)を入力する。ここで、クラッチ状態信号としては、例えば、上述のクラッチ温度TCに対応する信号、又は、上述の推定されたクラッチ発熱量QCに対応する信号を挙げることができる。指令・目標値演算部21は、入力したクラッチ状態信号に応じて(換言すれば、クラッチの冷却要求の有無に応じて)ブラシレスモータ11の回転/停止の切換えを行うべく、後述するフィードバック制御器22に、回転・停止指令を出力する。更に、指令・目標値演算部21は、上述の入力信号に基づいて、電動オイルポンプ10の駆動源であるブラシレスモータ11の回転数(又はモータ電流)の目標値を演算する。
【0028】
フィードバック制御器22は、指令・目標値演算部21からの指令(回転・停止指令)及び目標値(目標モータ回転数又は目標モータ電流)を入力すると共に、制御量であるブラシレスモータ11の実回転数N又は実モータ電流、及び、ブラシレスモータ11の駆動回路(インバータ)13の実電源電流Ibを入力する。実電源電流Ibは、電流センサ23によって検出し、ブラシレスモータ11の実回転数Nは、センサによって直接計測する他、駆動回路13からブラシレスモータ11の相電圧を入力して検出することも可能である。
【0029】
そして、フィードバック制御器22は、上記指令を踏まえつつ、ブラシレスモータ11の実回転数N(実モータ電流)を、目標回転数(目標モータ電流)に近づけるように印加電圧の指令値を決定し、この印加電圧の指令値に基づきパルス幅変調されたPWM信号を生成し、駆動回路13に出力する。
【0030】
次に、ブラシレスモータ11における位置センサレス駆動制御の概要を図3を用いて説明する。
図3は、ブラシレスモータ11と駆動回路13とフィードバック制御器22との回路構成を示す。
【0031】
駆動回路13は、電源ライン13aとアースライン13bとの間に並列に接続されたU相アーム13u、V相アーム13v及びW相アーム13wを有する。U相アーム13uは、直列接続されたスイッチング素子Tu1,Tu2を有し、V相アーム13vは、直列接続されたスイッチング素子Tv1,Tv2を有し、W相アーム13wは、直列接続されたスイッチング素子Tw1,Tw2を有している。また、各スイッチング素子Tu1,Tu2,Tv1,Tv2,Tw1,Tw2のコレクタ−エミッタ間には、それぞれ、エミッタ側からコレクタ側へ電流を流す整流素子Du1,Du2,Dv1,Dv2,Dw1,Dw2が接続されている。各相アームの中間点は、ブラシレスモータ11の各相巻線(図示せず)の各相端に接続されている。すなわち、ブラシレスモータ11のU,V,W相の3つの相巻線の一端が中点(図示せず)に共通接続され、U相巻線の他端がスイッチング素子Tu1,Tu2の中間点に、V相巻線の他端がスイッチング素子Tv1,Tv2の中間点に、W相巻線の他端がスイッチング素子Tw1,Tw2の中間点にそれぞれ接続されている。
【0032】
ブラシレスモータ11の各相巻線の端子電圧は、フィードバック制御器22内の位置検出回路24に送られる。この位置検出回路24では、各相巻線で誘起される誘起電圧(非通電相電圧)に基づいてロータ磁極位置を推定する。フィードバック制御器22は、位置検出回路24にて推定されたロータ磁極位置(ロータ位置情報)に基づいて駆動回路13の各スイッチング素子にPWM信号を出力することにより、駆動回路13の動作を制御する。このようにして、ブラシレスモータ11の位置センサレス駆動制御が実現される。
【0033】
ところで、ブラシレスモータ11にて位置センサレス駆動制御を行う場合には、モータ始動時にロータ磁極位置を確実に押さえるために、ロータの位置決め処理を行う必要がある。ここにおいて、ロータの位置決め処理では、例えば、特定の相巻線に通電してロータをわずかに回転させることにより、ロータ磁極位置を予め定めた位置まで移動させる。従来は、例えば、モータ始動時に指令・目標値演算部21からフィードバック制御器22へ回転指令が伝達された後にロータの位置決め処理を行っていたので、ロータ位置決め処理に要する時間が、モータ始動時の立ち上がりの応答性を低下させる要因になっていた。そこで、本実施形態では、モータ始動時に指令・目標値演算部21からフィードバック制御器22へ回転指令が伝達される前にロータの位置決め処理を行うことにより、モータ始動時の立ち上がりの応答性を向上させている。以下、本実施形態におけるブラシレスモータ11の始動時及び駆動停止時の駆動制御について、図4〜図6を用いて説明する。
【0034】
図4は、ブラシレスモータ11の初期診断ルーチンを示すフローチャートである。図5は、ブラシレスモータ11の始動ルーチンを示すフローチャートである。図6は、ブラシレスモータ11の駆動停止ルーチンを示すフローチャートである。
【0035】
まず、モータ初期診断ルーチンについて説明する。
制御ユニット20は、電動オイルポンプ10の電源投入時に、図4に示すモータ初期診断ルーチンを実行する。
【0036】
図4に示すように、ステップS101にて電動オイルポンプ10の電源投入が確認されると、ステップS102に進み、回転許可フラグをリセットする(具体的にはOFFにする)。ここで、回転許可フラグとは、後述する図5に示すモータ始動ルーチンにて始動制御(ステップS113)に入るためのトリガとして機能するものである。
【0037】
次に、ステップS103にて初期診断を行う。この初期診断では、モータ駆動制御系における各種検出回路等が正常に動作するか否かを判定する。この初期診断時には、モータの各相巻線に電流を流すことはなく、従って、モータのロータは静止したままである。尚、本実施形態では、モータのロータを静止させた状態にて初期診断を行っているが、これに加えて、またはこれに代えて、モータのロータ回転時に初期診断を行うようにすることも可能である。
【0038】
ステップS103における初期診断の結果、各種検出回路等の動作が正常ではないと判定されると、ステップS104からステップS105へと進み、回転許可フラグをOFFとしたままで、本ルーチンを終了する。
【0039】
一方、ステップS103における初期診断の結果、各種検出回路等の動作が正常であると判定されると、ステップS104からステップS106へと進み、モータのロータの位置決め処理が行われる。このロータの位置決め処理では、例えば、特定の相巻線に通電してロータをわずかに回転させることにより、ロータ磁極位置を予め定めた位置まで移動させる。
【0040】
ところで、オイル温度TFが高くなるほど、オイルの粘性が低下するので、電動オイルポンプ10のポンプロータとそれに接触するオイルとの間のフリクションが低下する。このため、モータのロータ位置決め時におけるオイル温度TFが高くなるほど、電動オイルポンプ10(ブラシレスモータ11)の負荷が低下するので、モータのロータ位置決めに必要とされる上記相巻線への通電量も低下する。
【0041】
しかしながら、仮にオイル温度TFが不明である場合には、オイル温度TFが低温であると想定して(すなわち、オイルの高粘度及び高フリクションを想定して)上記相巻線への通電量を設定しなければならないので、特にオイル高温時に上記相巻線への通電が過多となり、この結果、消費電流をロスする虞がある。
【0042】
この点、本実施形態では、油温センサ12によりオイル温度TFを検出することが可能である。このため、本実施形態では、図7に示すロータ位置決め時の相巻線への通電量(電流)とオイル温度TFとの関係に基づいて、オイル温度TFが高くなるほど、上記相巻線への通電量を低下させる。これにより、オイル高温時に上記相巻線への通電が過多となることを抑制することができるので、消費電流を押さえたロータ位置決めを実現することができる。
【0043】
尚、本実施形態では、電動オイルポンプ10内のオイル温度として、オイルパン7内のオイル温度TFを採用している。しかしながら、電動オイルポンプ10の駆動停止時には電動オイルポンプ10内にてオイルが流動せずに留まっていること、また、電動オイルポンプ10及び/又はそれに接続されるオイル配管が変速装置3のケース外部に露出している場合等を勘案すると、電動オイルポンプ10内のオイル温度とオイルパン7内のオイル温度TFとの間には温度差が生じる可能性がある。この温度差が比較的大きい場合、又は温度差が不明である場合には、モータのロータの位置決め時に、電動オイルポンプ10内のオイル温度が低温であると想定して(すなわち、オイルの高粘度及び高フリクションを想定して)上記相巻線への通電量を予め設定する。
【0044】
図4に戻り、ステップS106でのロータの位置決め処理が完了すると、ステップS107に進んで回転許可フラグをONにして、本ルーチンを終了する。
尚、図4のステップS104〜S107により、本発明におけるロータ位置決め手段の機能が実現される。
【0045】
次に、モータ始動ルーチンについて説明する。
制御ユニット20は、フィードバック制御器22に回転指令が伝達されると、図5に示すモータ始動ルーチンを実行する。
【0046】
図5に示すように、ステップS111にてフィードバック制御器22に回転指令が伝達されたことを確認すると、ステップS112に進み、回転許可フラグがONかOFFかを判定する。
回転許可フラグがOFFである場合には、上述のモータ初期診断ルーチン(図4)に戻って回転許可フラグをリセット(OFF)した後に、初期診断等を行う。
【0047】
一方、回転許可フラグがONである場合には、ステップS113に進んで、始動制御を行う。この始動制御では、例えば、上述の位置センサレス駆動制御を行う。または、この代わりとして、始動制御では、まず、ステータ側の回転磁界を強制的に駆動し、ロータを引き摺るようにして回転させ始めるモータ強制同期駆動制御を行い、これにより、モータの回転を徐々に加速させ、モータの実回転数が所定の回転数に達した後に、上述の位置センサレス駆動制御を行ってもよい。
ステップS113にて始動制御に入ったことを確認した後に、本ルーチンを終了する。
【0048】
次に、モータ駆動停止ルーチンについて説明する。
制御ユニット20は、フィードバック制御器22に停止指令が伝達されると、図6に示すモータ駆動停止ルーチンを実行する。
【0049】
図6に示すように、ステップS121にてフィードバック制御器22に停止指令が伝達されたことを確認すると、ステップS122に進み、今回の停止指令が通常の停止指令であるか否かを判定する。
【0050】
ステップS122にて今回の停止指令が通常の停止指令ではないと判定されると、ステップS123に進み、緊急停止制御を実行する。ここで、通常の停止指令ではない場合としては、例えば、モータ駆動制御系において断線や過電流などが発生してフェール状態になった場合や、過温度や電圧異常などが発生してプロテクション機能(保護機能)が作動した場合を挙げることができる。また、緊急停止制御では、例えば、指令・目標値演算部21からフィードバック制御器22に入力される目標モータ回転数を0rpmにすることによりモータの実回転数Nを急激に低下させてモータを緊急停止させる。尚、本実施形態では、緊急停止時に回転数制御にて目標回転数を0rpmにする手法を用いて説明しているが、緊急停止時の停止手法はこれに限らず、モータ駆動制御を停止する手法や、電源リレーを切る手法等を採用することも可能である。
【0051】
緊急停止の後には、ステップS124に進み、回転許可フラグをOFFにして、本ルーチンを終了する。
【0052】
一方、ステップS122にて今回の停止指令が通常の停止指令であると判定されると、ステップS125に進み、通常停止制御を実行する。ここで、通常停止制御では、例えば、指令・目標値演算部21からフィードバック制御器22に入力される目標モータ回転数を停止指令伝達時の値から徐々に減少させることにより回転数制御を継続しつつモータの実回転数Nを徐々に低下させる。
【0053】
ステップS126では、モータの実回転数Nと所定回転数Nsとを比較し、N≦Nsか否かを判定する。ここで、所定回転数Nsとは、モータの実回転数Nがロータ位置決め処理可能な程度まで低下したか否かを判定するための閾値であり、例えば0rpm付近の値が予め設定されている。
【0054】
N>Nsの場合はステップS125及びステップS126に戻って通常停止制御と判定とを続け、N≦Nsとなった時点で、ステップS127に進む。
ステップS127では、モータのロータの位置決め処理が行われる。このロータの位置決め処理では、上述のステップS106と同様に、例えば、特定の相巻線に通電してロータをわずかに回転させることにより、ロータ磁極位置を予め定めた位置まで移動させる。また、上述のステップS106と同様に、図7に示すロータ位置決め時の相巻線への通電量(電流)とオイル温度TFとの関係に基づいて、オイル温度TFが高くなるほど、上記相巻線への通電量を低下させることが可能である。
【0055】
ステップS127でのロータの位置決め処理が完了すると、ステップS128に進んで回転許可フラグをONにして、本ルーチンを終了する。
尚、図6のステップS122〜S128により、本発明におけるロータ位置決め手段の機能が実現される。
【0056】
次に本実施形態の作用について説明する。
モータ始動時において、回転指令が伝達される前に(すなわち、図5のS111より前に)、ロータの位置決め処理(図4のS106、又は、図6のS127)が完了している場合には、回転指令伝達後に、ロータの位置決め処理を行うことなく、回転許可フラグONを確認して(図5のS112)スムーズに始動制御(図5のS113)を開始することができる。従って、モータの始動に先立ってロータの位置決め処理を完了させることができるので、モータ始動時の立ち上がりの応答性を向上させることができる。
【0057】
尚、本実施形態では、オイルパン7から機械式オイルポンプ8を介して調圧機構9に向かうオイル供給経路と、オイルパン7から電動オイルポンプ10を介してクラッチ4に向かうオイル供給経路とが相互に独立している。このため、機械式オイルポンプ8にて加圧されたオイルが、電動オイルポンプ10のポンプロータに作用する可能性は極めて低い。また、ブラシレスモータ11については、電動オイルポンプ10の電源投入後に、各相巻線への通電が行われていない状態では、コキングトルクによりロータの回転が抑制され得る。従って、本実施形態では、ロータの位置決め処理後に、各相巻線への通電が行われていない状態であっても、モータのロータが回転する可能性は極めて低く、それゆえ、ロータの位置決め処理(図4のS106、又は、図6のS127)から始動制御(図5のS113)までの間において、ロータ磁極位置を予め定めた位置で保持することが可能である。
【0058】
また、本実施形態では、ロータの位置決め処理(図4のS106、又は、図6のS127)を行って回転許可フラグをONにした時点(つまり、図4のS107、又は、図6のS128を処理した時点)からの経過時間を測定するタイマーを制御ユニット20に予め設けておき、このタイマーにて所定の時間の経過を検出した場合には、回転許可フラグをONからOFFに切換え、この後に、図4のステップS106及びステップS107と同様にロータの位置決め処理を行って回転許可フラグをOFFからONに切換えるように構成することが可能である。このように構成することにより、ロータの位置決め処理を間欠的に実施することができるので、例えば、電動オイルポンプ10の電源投入後にブラシレスモータ11への停止指令が長時間にわたる場合であっても、ロータの位置決め状態を定期的に更新することができ、それゆえ、経時に起因するロータの位置ズレの発生を抑制することができる。
【0059】
本実施形態によれば、ブラシレスモータ11の位置センサレス駆動制御を行う制御ユニット20(モータ制御装置)は、3相巻線への通電を制御することによりロータの位置決めを行うロータ位置決め手段を備え、このロータ位置決め手段は、ブラシレスモータ11の駆動停止時から始動までの間にロータの位置決めを行う。これにより、ブラシレスモータ11の始動に先立ってロータの位置決めを完了させることができるので、モータ始動時の立ち上がりの応答性を向上させることができる。ここで、本実施形態における「始動」とは、制御ユニット20(モータ制御装置)がそれまでの停止指令状態から回転指令状態に切り替わる段階を意味する。
【0060】
尚、モータ駆動開始時にロータの位置決め処理を行う従来型のモータ駆動開始制御に、本実施形態のロータ位置決め処理を組み合わせた場合には、従来型のモータ駆動開始制御におけるロータ位置決め処理と本実施形態のロータ位置決め処理とで使われる処理部位が基本的に共通であるので、これら処理を並行に行うことができない。このため、本実施形態のロータ位置決め処理が行われている途中で回転指令された場合には、本実施形態のロータ位置決め処理を継続するか、それとも、この処理を中断して従来型のモータ駆動開始制御におけるロータ位置決め処理を行うかを決定するように構成するとよい。この場合において、本実施形態のロータ位置決め処理を継続する決定を行うことにより、上記中断を決定した場合に比べて、位置決めに要するトータル時間を抑制することができるので、早期始動を実現することができる。
【0061】
また本実施形態によれば、ブラシレスモータ11の駆動停止時に、ロータの位置決め(図6のS127)を行うので、通常停止制御(図6のS125)と一体的にロータの位置決めを行うことができる。
【0062】
また本実施形態によれば、電動オイルポンプ10の電源投入後の初期診断時に(換言すれば、電動オイルポンプ10の電源投入後、1度も電動オイルポンプ10を作動させていない場合に)、ロータの位置決め(図4のS106)を行うので、初期診断(図4のS103)と一体的にロータの位置決めを行うことができる。
【0063】
また本実施形態によれば、フィードバック制御器22に停止指令が伝達された後に(図6のS121)、モータ実回転数Nが所定回転数Ns以下になった場合に、ロータの位置決め処理を行う(図6のS127)。これにより、ロータ位置を把握しつつ行われる回転数制御からロータの位置決め処理に連続的に移行することができるので、ロータの位置決めに要する時間を比較的短時間に抑えることができる。
【0064】
また本実施形態によれば、ブラシレスモータ11は、車両用変速装置3にオイルを供給する電動オイルポンプ10の駆動源である。従って、ブラシレスモータ11の始動に先立ってロータの位置決めを完了させてモータ始動時の立ち上がりの応答性を向上させることにより、電動オイルポンプ10の起動時の応答性も向上させることができる。従って、クラッチ4が高温になり冷却が必要である場合には迅速に電動オイルポンプ10を起動させてクラッチ4に冷却用オイルを供給することができるので、冷却遅れによるクラッチ4の破損等を抑制することができる。
【0065】
また本実施形態によれば、ロータの位置決め時に、オイル温度TFが高いほど相巻線への通電量を低下させる。これにより、オイル高温時に相巻線への通電が過多となることを抑制することができるので、消費電流を押さえたロータ位置決めを実現することができる。
【0066】
また本実施形態のモータ駆動停止制御において、ロータの位置決め処理(図6のS127)の直前(実回転数が0rpm付近)にてロータ位置を検出又は推定することが可能である場合には、この検出又は推定したロータ位置に基づいて、ロータの位置決め処理時の通電相(通電される相巻線)を決定するようにしてもよい。この場合には、ロータの位置決め処理時におけるロータの移動距離(回転角)を最小限に抑えるように通電相を決定することにより、ロータの位置決めに要する時間を最小限に抑えることができる。
【0067】
次に、本発明の第2実施形態について図8を用いて説明する。
図8は、本発明の第2実施形態におけるモータ駆動停止ルーチンを示すフローチャートである。
図6に示した第1実施形態におけるモータ駆動停止ルーチンと異なる点について説明する。
【0068】
ステップS122にて今回の停止指令が通常の停止指令であると判定されると、ステップS131に進み、停止時間を算出する。この停止時間は、フィードバック制御器22に停止指令が伝達された時点からモータの回転停止までの時間である。また、この停止時間については、フィードバック制御器22に停止指令が伝達された時点におけるモータ目標回転数Nt(又は実回転数)が高回転数であるほど、停止時間が長くなるように算出される。
【0069】
停止時間が算出されると、ステップS132に進み、通常停止制御を実行する。ここで、通常停止制御では、例えば、指令・目標値演算部21からフィードバック制御器22に入力される目標モータ回転数Ntを停止指令伝達時の値から徐々に減少させることにより回転数制御を継続しつつモータの実回転数を徐々に低下させる。
【0070】
ステップS133では、算出された停止時間が経過したか否かを判定する。
停止時間が経過していない場合はステップS132に戻って通常停止制御を続け、停止時間が経過した時点で、ステップS127に進み、上述のようにロータの位置決め処理を行う。
【0071】
尚、図8のステップS122〜S124、ステップS131〜S133、ステップS127、及び、ステップS128により、本発明におけるロータ位置決め手段の機能が実現される。
【0072】
次に、本実施形態における通常停止制御及び緊急停止制御について、図9を用いて説明する。
図9(A)は、緊急停止制御(図8のS122,S123)における目標回転数Ntと停止時間との関係を示している。
図9(A)に示すように、停止指令伝達前に目標回転数Nt=N10rpmにて回転数制御されていたブラシレスモータ11は、緊急停止制御に対応する停止指令が伝達されると、緊急停止制御に移行する。緊急停止制御では、目標回転数Ntを0rpmに急激に低下させる。このため、ロータが惰性で回転し続けた後にフリクションにより停止するので、ロータ回転停止時におけるロータ磁極位置が不明となる。従って、次回のモータ始動時には、上述のモータ初期診断ルーチン(図4)に戻って初期診断及びロータの位置決め処理を行う。
【0073】
図9(B),(C)は、通常停止制御(図8のS122,S131〜S133,S127)における目標回転数Ntと停止時間との関係を示している。また、図9(B)は、停止指令伝達時における目標回転数NtがN11rpm(低回転数)である場合を示す一方、図9(C)は、停止指令伝達時における目標回転数NtがN12rpm(高回転数;N11<N12)である場合を示す。
【0074】
図9(B)に示すように、停止指令伝達前に目標回転数Nt=N11rpmにて回転数制御されていたブラシレスモータ11は、通常停止制御に対応する停止指令が伝達されると、停止指令伝達時における目標回転数Nt=N11rpmに基づいて停止時間t1を算出し、通常停止制御に移行する。図9(B)における通常停止制御では、目標モータ回転数Ntを停止指令伝達時の値(N11rpm)から徐々に減少させることにより回転数制御を継続しつつモータの実回転数を徐々に低下させる。そして、停止時間t1が経過すると、ロータの位置決め処理を行う。
【0075】
図9(C)に示すように、停止指令伝達前に目標回転数Nt=N12rpmにて回転数制御されていたブラシレスモータ11は、通常停止制御に対応する停止指令が伝達されると、停止指令伝達時における目標回転数Nt=N12rpmに基づいて停止時間t2を算出し、通常停止制御に移行する。ここで、目標回転数Ntについては、N12>N11であるので、停止時間については、t2>t1となる。すなわち、停止時間については、停止指令伝達時における目標回転数Ntが高回転数であるほど、停止時間が長くなるように算出される。図9(C)における通常停止制御では、目標モータ回転数Ntを停止指令伝達時の値(N12rpm)から徐々に減少させることにより回転数制御を継続しつつモータの実回転数を徐々に低下させる。そして、停止時間t2が経過すると、ロータ位置決め処理を行う。
【0076】
特に本実施形態によれば、停止指令伝達時より所定時間経過後にロータの位置決め処理を行うので、通常停止制御(図8のS132)と一体的にロータの位置決めを行うことができる。
【0077】
また本実施形態によれば、停止指令伝達時における目標回転数Ntが高回転数であるほど、通常停止制御における停止時間が長いので、ロータの位置決め処理前における回転数制御の確実性を確保することができる。
【0078】
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
図10は、本発明の第3実施形態を示す車両用変速装置におけるオイル供給システムの概略図である。
【0079】
図1に示した第1実施形態における車両用変速装置のオイル供給システムと異なる点について説明する。
マイクロコンピュータを内蔵する制御ユニット(C/U)25は、車両の運転状態を示す各種のセンサ出力信号を入力し、これらセンサ出力信号に基づいて変速制御信号を演算し、演算した変速制御信号を調圧機構9に出力する。
【0080】
調圧機構9にオイルを供給するオイルポンプとして、エンジン1で駆動する機械式オイルポンプ8と、機械式オイルポンプ8をバイパスする通路に設けた電動オイルポンプ30とを備えている。
【0081】
機械式オイルポンプ8及び電動オイルポンプ30は、オイルパン7内のオイルを吸い上げ、調圧機構9に供給し、調圧機構9を介してクラッチ4及び無段変速機5に供給したオイルは、オイルパン7に戻されて循環する。
【0082】
また、調圧機構9を介して、変速装置3の冷却・潤滑系にもオイルを供給する。
電動オイルポンプ30は、ブラシレスモータ31を備え、このブラシレスモータ31によってポンプ部を回転駆動するオイルポンプである。
【0083】
電動オイルポンプ30のポンプ部は、いわゆる内接歯車式ポンプ(例えばトロコイドポンプ)であり、インナーロータとアウターロータとからなるポンプロータをハウジングに収納して構成される。尚、本実施形態では、電動オイルポンプ30のポンプ部として内接歯車式ポンプを用いて説明しているが、当該ポンプ部はこれに限らず、あらゆる形式のポンプを用いることが可能である。
【0084】
ブラシレスモータ31は、3相永久磁石ブラシレスモータであり、複数の永久磁石の磁極を有するロータと3相巻線(複数の相巻線)を有するステータとにより構成される。
制御ユニット25は、ブラシレスモータ31の3相巻線への通電を制御することで、電動オイルポンプ30の吐出量・吐出圧を制御する。また、制御ユニット25は、本発明に係るモータ制御装置として機能して、ブラシレスモータ31の駆動制御を行う。
【0085】
電動オイルポンプ30出口のオイル通路30aには、機械式オイルポンプ8の吐出圧の逆流を抑制する逆止弁32が介装されている。
機械式オイルポンプ8はエンジン1で駆動されるため、アイドルストップなどによってエンジン1が一時的に運転を停止した場合、機械式オイルポンプ8も運転を停止し、変速装置3に対するオイルの供給が途絶えてしまい、発進時に変速装置3が動力伝達可能な圧力状態になるまでの応答遅れによって、発進ショックが発生する場合がある。
【0086】
そこで、アイドルストップなどによってエンジン1が一時的に運転を停止した場合に、電動オイルポンプ30によって変速装置3へのオイル供給を行い、油圧応答の遅れによる発進ショックの発生を抑制する。
【0087】
尚、エンジン1の運転中であっても、機械式オイルポンプ8による冷却用オイル又は潤滑用オイルの供給不足を補うために、電動オイルポンプ30を作動させる場合もあり、電動オイルポンプ30の作動要求の発生を、エンジン1の停止中に限定するものではない。
【0088】
本実施形態におけるオイル供給システムでは、電動オイルポンプ30出口のオイル通路30aに逆止弁32を介装し、これにより、機械式オイルポンプ8の吐出圧の逆流を抑制しているが、例えば逆止弁32が作動不良になった場合には、機械式オイルポンプ8の吐出圧の逆流が逆止弁32を介して電動オイルポンプ30のポンプロータに作用する可能性がある。従って、本実施形態では、上述の第1及び第2実施形態のようにロータの位置決め処理を行った後に各相巻線への通電が行われていない場合には、モータのロータが回転する可能性がある。このため、本実施形態では、ロータの位置決め処理を行った後に、ブラシレスモータ11の始動までの間、ロータの位置保持制御を行うことにより、ロータの位置ズレを抑制する。
【0089】
図11は、本実施形態におけるロータの位置保持ルーチンを示すフローチャートである。
制御ユニット25では、ステップS141にてモータのロータの位置決め処理(図6,図8のS127、又は、図4のS106)が完了したことを確認すると、ステップS142にて、ロータ位置保持制御を行う。ここで、ロータ位置保持制御としては、例えば、以下2つの手法を挙げることができる。
(1)ロータの位置決め処理が完了した後に、モータの各相巻線に微小電流を流すことにより、ロータの位置を保持させる。
(2)ロータの位置決め処理が完了した後に、回転数制御により微小回転数にてロータを回転させることでロータ位置(ロータ磁極位置)の捕捉を継続する。
【0090】
ステップS143では、制御ユニット25にて回転指令が伝達されたか否かを判定する。
回転指令が伝達されていない場合はステップS142に戻ってロータ位置保持制御を続け、回転指令が伝達された時点で本ルーチンを終了して、図5に示したモータ始動制御に移行する。
【0091】
尚、図11のステップS141〜S143により、本発明におけるロータ位置保持手段の機能が実現される。
また、本実施形態において、例えばオイル通路30aに油圧センサを予め設け、ブラシレスモータ31の駆動停止時に所定の閾値以上の油圧変化が検出された場合に、制御ユニット25にてモータのロータ回転の可能性が有ると判定して、ロータの位置決め処理を実施することも可能である。
【0092】
ここで、上記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下に効果と共に記載する。
請求項1又は請求項2記載のモータ制御装置において、前記ロータの位置決めを行った後に、前記ブラシレスモータの始動までの間、前記ロータの位置を保持させるロータ位置保持手段を備えることを特徴とするモータ制御装置。
【0093】
上記構成によると、ロータの位置決めを行った後にロータの位置が保持されるので、ロータの位置決め後におけるロータの位置ズレを抑制することができる。
尚、上記実施形態では、本発明に係るモータ制御装置により駆動制御されるブラシレスモータの駆動対象を車載の電動オイルポンプとした場合について説明したが、当該ブラシレスモータの駆動対象はこれに限らず、例えば、車載の冷却水循環用の電動ウォーターポンプ、エアコン用コンプレッサ、その他の電動アクチュエータ等を駆動対象とすることが可能である。
【符号の説明】
【0094】
1 エンジン(内燃機関)
2 トルクコンバータ
3 変速装置
4 クラッチ
5 無段変速機
5a プライマリプーリ
5b セカンダリプーリ
5c ベルト
6 温度センサ
7 オイルパン
8 機械式オイルポンプ
9 調圧機構
10,30 電動オイルポンプ
11,31 ブラシレスモータ
12 油温センサ
13 駆動回路
13a 電源ライン
13b アースライン
13u U相アーム
13v V相アーム
13w W相アーム
20,25 制御ユニット(モータ制御装置)
21 指令・目標値演算部
22 フィードバック制御器
23 電流センサ
24 位置検出回路
32 逆止弁
Du1,Du2,Dv1,Dv2,Dw1,Dw2 整流素子
Tu1,Tu2,Tv1,Tv2,Tw1,Tw2 スイッチング素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石を有するロータと複数の相巻線を有するステータとを備えるブラシレスモータの位置センサレス駆動制御を行うモータ制御装置であって、
前記相巻線への通電を制御することにより前記ロータの位置決めを行うロータ位置決め手段を備え、
このロータ位置決め手段は、前記ブラシレスモータの駆動停止時から始動までの間に前記ロータの位置決めを行うことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記ロータ位置決め手段は、前記ブラシレスモータの駆動停止時に、前記ロータの位置決めを行うことを特徴とする請求項1記載のモータ制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−196063(P2012−196063A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58649(P2011−58649)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】