説明

モータ制御装置

【課題】安定性を確保した位置センサレスの正弦波通電が可能なモータ制御装置を提供する。
【解決手段】モータ制御装置は、単相交流電源を入力とする整流回路と、整流回路と接続され、整流回路で得られた直流電力を三相交流電力に変換し、接続されるモータを駆動するインバータと、小容量のコンデンサと、インバータを制御する制御装置と、単相交流電源のゼロクロス点を検出するゼロクロス点検出回路とを備え、制御装置は、モータの回転数を設定する回転数設定手段と、モータの回転数を補正する第1の回転数補正手段と、第1の回転数補正手段とは異なる方式でモータの回転数を補正する第2の回転数補正手段と、ゼロクロス点の検出からの経過時間に応じて第1および第2の回転数補正手段の一方を選択する回転数補正選択手段とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はモータ制御装置に関し、例えば複数相のコイルを備えた同期モータに対してセンサを用いることなく駆動できるようなモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数相のコイルを備えた同期モータを駆動する場合、モータロータに対して適切なタイミングでモータ電流を流すことおよびコイル端子に電圧を印加することのいわゆる通電タイミングの最適化が重要となっていた。この通電タイミングの基準を検出するために、逆起電圧を検出する方式や、ゼロクロス電流位相を検出する方式等、種々の方式が存在する。
【0003】
例えば、モータロータ位置センサを用いずにモータを制御・駆動するいわゆるセンサレス駆動においては、モータコイルへの通電を行なう際に、モータの回転によってモータコイルに発生する逆起電圧をモータコイル端子から検出する方式がある。
【0004】
また、本願出願人による、特開2001−112287号公報(特許文献1)には、2ヶ所の交流電圧の位相期間ごとに各交流電流検出値を積算して交流電流信号面積とし、両交流電流信号面積の面積比を交流電圧/電流位相差情報として検出することにより、ゼロクロス時における電圧位相を検出する場合よりも精度の高い位相制御が可能な方式が示されている。
【0005】
図4は、従来の一般的なモータ制御装置の構成である。
図4を参照して、ステータに複数相(3相)のコイル、モータロータに永久磁石を備えた同期モータ100を駆動するために、モータ制御装置は、インバータ150と、コンバータ回路130と、AC電源160と、コイル170と、電流センサ180と、コントローラ110とから構成されている。
【0006】
同期モータ100は、インバータ150によって駆動され、インバータ150にはコンバータ回路130からAC電源160を直流に変換して与えられる。
【0007】
具体的には、コンバータ回路130は、ダイオード全波整流回路120と、母線間に接続された平滑コンデンサ140とを含み、平滑コンデンサの容量は直流電圧波形のリップルを改善できる程度に十分大きいものとする。
【0008】
このコンバータ回路130により、AC電源160の交流電圧が直流電圧に変換されてインバータ150に供給される。
【0009】
コイル170は、コンバータ回路130に供給される交流電源の力率を改善する目的で設けられたものである。
【0010】
一方で、上記のような従来の構成においては、入力電流波形の改善と、高力率化が得にくいという問題があるため、特開2002−51589号公報(特許文献2)においては、コイル170を用いず、また、インバータの母線間には従来の平滑コンデンサの1/100程度の小容量のコンデンサを用いることで意図的に直流電圧に電源の2倍の周波数のリプルを発生させ、簡易な方式で入力電流波形の改善と、高力率化を実現する方式が提案されている。
【0011】
特許文献2のようにインバータの母線間には従来の平滑コンデンサの1/100程度の小容量のコンデンサを用いて、特許文献1の方式でモータを駆動した場合、直流電圧に大きなリプルが発生する。これにより、インバータ出力側のモータ電流に大きな脈動が発生し、モータの回転が不安定となるため、振動、騒音が増大し、効率が悪化するとともに、最悪の場合は脱調停止に至る。
【0012】
このようは直流電圧に大きなリプルが発生する場合においてもモータ駆動の安定化を図る方式として、特開平1−202168号公報(特許文献3)および特開2011−78153公報(特許文献4)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2001−112287号公報
【特許文献2】特開2002−51589号公報
【特許文献3】特開平1−202168号公報
【特許文献4】特開2011−78153公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
図5および図6を用いて、直流電圧に大きな脈動が発生する場合において、直流電圧のリプルに応じてモータの回転数を補正することでモータ駆動の安定化を図る特許文献3の方式の課題について説明する。
【0015】
図5は、特許文献2のようにインバータの母線間には従来の平滑コンデンサの1/100程度の小容量のコンデンサを用いて、特許文献1の方式でモータを駆動した場合の動作結果を示す図であり、交流電圧に対する直流電圧と直流電流との関係が示されている。
【0016】
図5に示されるように、平滑コンデンサの容量が小さいため、直流電圧は電源電圧周波数の2倍の周期で大きなリプルが発生する。ここで、直流電流が負となる状態は、モータからの電気エネルギーがコンバータ回路のコンデンサに戻される回生状態であり、コンデンサの容量が極めて小さいと直流電圧はゼロ付近に落ち込まず跳ね上がる。
【0017】
図6は、特許文献2のようにインバータの母線間には従来の平滑コンデンサの1/100程度の小容量のコンデンサを用いて、特許文献1の方式でモータを駆動し、特許文献3の方式で回転数補正を行った場合の動作結果を示す図であり、交流電圧に対する直流電圧と補正前回転数と補正後回転数との関係が示している。
【0018】
図6に示されるように、特許文献3の方式を用いて回転数の補正を行なうと回生エネルギーにより跳ね上がった直流電圧検出値により回転数の補正を行なうことになり、補正後回転数は補正前回転数よりも大きくなる。しかしながら、この直流電圧が跳ね上がる期間(図6中の期間TA)に関しては、交流電源の電源電圧はゼロクロス付近であり、交流電源から入力可能な電力は小さくなるためモータを安定に駆動するためには、補正後回転数は補正前回転数よりも小さくしなければならない。このように特許文献3の方式では、回生エネルギーにより直流電圧が跳ね上がった場合に適切なモータの回転数の補正ができず、充分なモータ駆動の安定化が図れないという課題が発生する。
【0019】
次に、図7を用いて、単相交流電源のゼロクロス点の検出からの経過時間に応じて、モータの回転数を補正することでモータ駆動の安定化を図る特許文献4の方式の課題について説明する。
【0020】
図7は、特許文献2のようにインバータの母線間には従来の平滑コンデンサの1/100程度の小容量のコンデンサを用いて、特許文献1の方式でモータを駆動し、特許文献4の方式で回転数補正を行った場合の動作結果を示す図であり、交流電圧に対するゼロクロス点検出信号と直流電圧と補正前回転数と補正後回転数との関係が示されている。
【0021】
図7に示されるように、通常の直流電圧のピーク値が280Vの場合に、単相交流電源の交流電圧に変動が生じた場合、たとえば、図7の期間TBから期間TCへの変化のように直流電圧のピーク値が280Vから200Vに低下した場合について説明する。特許文献4の方式では、ゼロクロス点の検出からの経過時間に応じて、直流電圧のピーク値が280Vであることを想定して予め設定された補正値を用いて回転数を補正する。期間TBでは問題はないが、直流電圧のピーク値が小さくなる期間TCではモータを安定に駆動するためには、補正後回転数を期間TBの場合よりもより小さくする必要があるが、ゼロクロス点の検出からの経過時間に応じた補正であるため期間TBと同じ値となってしまう。このように特許文献4の方式を用いると電源電圧の変動が発生した場合に、適切なモータの回転数の補正ができず、充分なモータ駆動の安定化が図れないという課題が発生する。
【0022】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたもので、直流電圧のリプルが大きく、かつ、モータからの回生が発生し直流電圧はゼロ付近に落ち込まず跳ね上がるような期間や単相交流電源に変動がある場合においても、安定性を確保した位置センサレスの正弦波通電が可能なモータ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明のある局面に従うモータ制御装置は、単相交流電源を入力とする整流回路と、整流回路と接続され、整流回路で得られた直流電力を三相交流電力に変換し、接続されるモータを駆動するインバータと、インバータの母線間に接続される小容量のコンデンサと、インバータを制御する制御装置と、単相交流電源のゼロクロス点を検出するゼロクロス点検出回路とを備え、制御装置は、モータの回転数を設定する回転数設定手段と、モータの回転数を補正する第1の回転数補正手段と、第1の回転数補正手段とは異なる方式でモータの回転数を補正する第2の回転数補正手段と、ゼロクロス点の検出からの経過時間に応じて第1および第2の回転数補正手段の一方を選択する回転数補正選択手段とを含む。
【0024】
好ましくは、第1の回転数補正手段は、ゼロクロス点検出回路のゼロクロス点の検出からの経過時間に応じて、回転数設定手段により設定されるモータの回転数を補正する。
【0025】
好ましくは、インバータに入力される直流電圧を検出する直流電圧検出回路を備え、第2の回転数補正手段は、直流電圧検出回路により検出された直流電圧に応じて、回転数設定手段により設定されるモータの回転数を補正する。
【0026】
好ましくは、回転数補正選択手段は、モータの回生が発生し、直流電圧が跳ね上がると想定される期間において第1の回転数補正手段を選択する。
【0027】
好ましくは、回転数補正選択手段は、前期第1の回転数補正手段を選択する期間よりも長い期間、第2の回転数補正手段を選択する。
【発明の効果】
【0028】
単相交流電源の高力率化と、回路の小型軽量化を図れ、かつ、安定にモータを駆動でき、振動、騒音を低減し、効率の悪化も抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態に従うモータ制御装置のブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態に従う交流電圧と回転数等との関係について説明する図である。
【図3】回転数補正率データテーブル17の具体的な値を説明する図である。
【図4】従来の一般的なモータ制御装置の構成である。
【図5】特許文献2のようにインバータの母線間には従来の平滑コンデンサの1/100程度の小容量のコンデンサを用いて、特許文献1の方式でモータを駆動した場合の動作結果を示す図である。
【図6】特許文献2のようにインバータの母線間には従来の平滑コンデンサの1/100程度の小容量のコンデンサを用いて、特許文献1の方式でモータを駆動し、特許文献3の方式で回転数補正を行った場合の動作結果を示す図である。
【図7】特許文献2のようにインバータの母線間には従来の平滑コンデンサの1/100程度の小容量のコンデンサを用いて、特許文献1の方式でモータを駆動し、特許文献4の方式で回転数補正を行った場合の動作結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を附してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0031】
図1は、本発明の実施の形態に従うモータ制御装置のブロック図である。
図1を参照して、本発明の実施の形態に従うモータ制御装置は、ステータに複数相(3相)のコイルとロータに永久磁石とを備えた同期モータ1と、インバータ2と、コンバータ回路3と、交流電源4と、電流センサ5と、モータ電流検出アンプ部6と、ゼロクロス点検出部30と、第1の電圧センサ31と、第2の電圧センサ32とマイクロコンピュータであるコントローラ7とから構成されている。
【0032】
同期モータ1は、インバータ2によって駆動され、インバータ2にはコンバータ回路3から交流電源4の交流電圧を直流に変換して与えられる。
【0033】
具体的には、コンバータ回路3は、ダイオード全波整流回路33と、母線間のコンデンサ34を含む。このコンバータ回路3により、交流電源4の交流電圧が直流電圧に変換されてインバータ2に供給される。
【0034】
電流センサ5は、モータコイル端子U,V,W各相の中で特定相(図1ではU相)に流れるモータ電流aを検出する。電流センサ5で検出されたモータ電流は、モータ電流検出アンプ部6に与えられる。
【0035】
そして、モータ電流検出アンプ部6において、所定量増幅し、そして、オフセット加算したモータ電流信号bがコントローラ7に与えられる。
【0036】
また、第1の電圧センサ31は、交流電源4の電圧を検出する。第1の電圧センサ31で検出された交流電圧は、ゼロクロス点検出部30に与えられる。
【0037】
そして、ゼロクロス点検出部30は、第1の電圧センサ31で検出された交流電圧をモニタリングして0Vを跨ぐ際にゼロクロス点信号を生成してコントローラ7に与える。
【0038】
さらに、第2の電圧センサ32は、コンバータ回路3からインバータ2に供給される直流電源の直流電圧を検出する。第2の電圧センサ32で検出された直流電圧は、コントローラ7の直流電圧検出部18に与えられる。
【0039】
コントローラ7は、位相差検出部8と、目標位相差情報格納部9と、加算部10と、PI演算部11と、回転数設定部12と、正弦波データテーブル13と、正弦波データ作成部14と、PWM作成部15と、第1の回転数補正部16と、回転数補正率データテーブル17と、直流電圧検出部18と、第2の回転数補正部19と、回転数補正選択部20との各処理をソフト的に行なう。
【0040】
位相差検出部8は、モータ電流検出アンプ部6から与えられたモータ電流信号を所定のタイミングでA/D変換して取り込み、2個所のモータ駆動電圧位相期間ごとにサンプリングした各電流サンプリングデータを積算してモータ電流信号面積とし、両モータ電流信号面積の面積比を位相差情報として出力する。
【0041】
目標とする位相差情報は目標位相差情報格納部9に格納される。目標位相差情報と位相差情報との誤差データは加算部10によって算出される。PI演算部11は算出された誤差データに対して 比例誤差データおよび積分誤差データを算出してデューティ基準値を出力する。なお、加算部10とPI演算部11とによって位相差制御部が構成される。
【0042】
回転数設定部12は、同期モータ1の目標とする回転数指令を設定し、正弦波データテーブル13は所定のデータ個数のテーブルを含む。
【0043】
回転数補正選択部20は、ゼロクロス点検出部30により生成されたゼロクロス点信号の立ち上がりエッジが発生した時点を0として、経過時間を計測し、回転数補正選択部20により、ゼロクロス点の検出からの経過時間に応じて第1の回転数補正部16あるいは第2の回転数補正部19の一方を選択する。
【0044】
回転数補正率データテーブル17は、ゼロクロス点の検出からの経過時間に応じた目標とする回転数に対する補正率データを格納したものである。回転数補正選択部20により、第1の回転数補正部16が選択されている場合、第1の回転数補正部16は、回転数補正率データテーブル17からゼロクロス点検出部30により生成されたゼロクロス点信号の経過時間に応じた補正率データを抽出して、これを用いて回転数設定部12により設定された回転数を補正して、補正後回転数を正弦波データ作成部14に出力する。
【0045】
回転数補正選択部20により、第2の回転数補正部19が選択されている場合、第2の回転数補正部19は、直流電圧検出部18でA/D変換により検出した直流電圧検出値に応じて回転数設定部12により設定された補正前回転数を補正して、補正後回転数を正弦波データ作成部14に出力する。
【0046】
正弦波データ作成部14は、第1の回転数補正部16あるいは第2の回転数補正部19から出力された補正後回転数と時間経過に従って正弦波データテーブル13からモータコイル端子U,V,W各相に対応した正弦波データを読出すとともに、U相の正弦波データからU相のモータ駆動電圧位相情報cを出力する。
【0047】
PWM作成部15は正弦波データとデューティ基準値とから各相ごとにインバータ2の駆動素子にPWM波形を出力する。
【0048】
なお、電流センサ5はコイルとホール素子で構成されたいわゆる電流センサでもよく、カレントトランスでもよい。
【0049】
また、本例においては、U相について検出する場合について説明するが、V相、あるいはW相でも良い。また、1相だけでなく各相のモータ電流を検出するとさらに高精度にすることができる。さらに、正弦波データの作成は正弦波データテーブル13をもとに作成せずに、演算によって作成してもかまわない。
【0050】
さらに、各構成要素8〜20の構成要素はコントローラ7でソフト的に処理されるようにしたが、特にこれに限ることなく同様の処理をしていればハード構成で構成してもよい。
【0051】
なお、モータの駆動波形は正弦波とした場合についての構成であるが、正弦波形にすることで滑らかなモータ電流の供給が可能となるために振動、騒音が少なくできる。しかしながら、これに限らず、モータロータの磁束に合せたモータ電流が得られるような駆動波形を通電すれば、より高効率な駆動が可能となる。
【0052】
2個所のモータ駆動電圧位相期間で検出された2つのモータ電流信号面積は、位相差検出部8で面積比が計算され、この結果が位相差情報とされる。この位相差情報と目標位相差情報との誤差量に対してPI演算部11でPI演算が行なわれ、PWM作成部15はその出力であるデューティ基準値と別途回転指令から求まる正弦波データとから、その都度の出力デューティ比を計算してPWM信号を作成し、インバータ2を介してモータコイルに印加することで同期モータ1が駆動される。
【0053】
すなわち、モータ駆動電圧(出力デューティ)に対するモータ電流位相差を一定に制御するための位相差制御フィードバックループによって駆動電圧の大きさ(PWMデューティのデューティ幅)を決定し、同期モータ1を所望の回転数で回転させるために所望の周波数で出力される正弦波データによって回転数を決定する。これによって、所望の位相差,所望の回転数でモータを駆動・制御することができる。
【0054】
なお、モータ起動時は各相に強制的に通電し、回転磁界を与えていき、強制励磁で行ない、通常駆動時に上記方式で制御を行なえばよい。
【0055】
ここで、この発明の位相差制御によって同期モータが駆動・制御できることは特開2001−112287号公報(特許文献1)に記載される通りである。
【0056】
次に、図2及び図3を用いて、本実施の形態における回転数を補正する方式について説明する。
【0057】
図2は、本発明の実施の形態に従う交流電圧と回転数等との関係について説明する図である。
【0058】
図2(a)を参照して、ここでは、交流電圧波形が示されている。なお、交流電源4は200V、周波数は50Hzである。モータの回転数指令値(補正前回転数)は2800rpmとしている。
【0059】
図2(b)には、図2(a)の交流電圧波形に対するゼロクロス点信号が示されている。具体的には、ゼロクロス点検出部30が交流電源4をモニタリングして交流電圧波形において、交流電圧が0を跨ぐゼロクロス点信号を出力する。
【0060】
図2(c)には、図2(a)の直流電圧波形が示されている。本例においてはコンデンサ34の容量が極めて小さいため、直流電圧波形には交流電源の2倍の周波数100Hzのリプルが発生する。また、回生エネルギーにより直流電圧が跳ね上がる現象が発生している。
【0061】
図2(d)には、以下で説明する方式により第1の回転数補正部16および第2の回転数補正部19に従って回転数を補正した場合が実線で示されている。補正前回転数は、基準となる2800rpmとして破線で示されている。
【0062】
本実施の形態においては、回転数補正選択部20は、このゼロクロス点信号の立ち上がりエッジが発生した時点を0(図2中の時間T0)として、この時点からの経過時間を計測する。さらに、回転数補正選択部20は、この経過時間に応じて、時間T0から時間T1までの期間は第1の回転数補正部16を選択し、時間T1から時間T2までの期間は第2の回転数補正部19を選択し、さらに時間T2から次のゼロクロス点の検出までの期間は第1の回転数補正部16を選択する。
【0063】
図2では、第1の回転数補正部16を選択する期間を実線矢印、第2の回転数補正部19を選択する期間を破線矢印で示している。
【0064】
まず、第1の回転数補正部16での回転数補正方式について説明する。
図3は、回転数補正率データテーブル17の具体的な値を説明する図である。
【0065】
第1の回転数補正部16は、回転数補正率データテーブル17からゼロクロス点検出部30により生成されたゼロクロス点信号の経過時間に応じた補正率データを抽出して、これを用いて回転数設定部12により設定された回転数を補正して、補正後回転数を正弦波データ作成部14に出力する。
【0066】
なお、回転数補正率データテーブルの値は、モータが安定して駆動できる値を予め実験を行ない決定する。なお、当該値は一例であり、モータ特性および目標回転数等に応じて適宜変更することが可能である。以下の値等についても同様である。
【0067】
例えば、補正前回転数が2800rpmで、経過時間1.0msの場合は、図3より回転数補正率が−16.38%であるため、回転数補正値は、2800rpm×(−16.38%)≒−459rpmとなり、補正後回転数は、2800rpm−459rpm=2341rpmとなる。
【0068】
次に、第2の回転数補正部19での回転数補正方式について説明する。
第2の回転数補正部19は、直流電圧検出部18でA/D変換により検出した直流電圧検出値と基準直流電圧とにより、式(1)を用いて、回転数設定部12により設定された補正前回転数を補正して、補正後回転数を正弦波データ作成部14に出力する。
【0069】
補正後回転数=補正前回転数+補正前回転数×(直流電圧検出値−基準直流電圧)/基準直流電圧×係数K・・・式(1)
例えば、補正前回転数が2800rpmで、直流電圧検出値が280V、基準直流電圧が177V、係数Kが0.31の場合は、2800rpm+2800rpm×(280V−177V)/177V×0.31≒3305rpmとなり、補正後回転数は3305rpmとなる。
【0070】
なお、第1の回転数補正部16を選択する期間は、モータの回生が発生し、直流電圧が跳ね上がると想定される期間であり、予め実験により確認し、時間T1及びT2を決定するものとする。モータの回生が発生し直流電圧が跳ね上がると想定される期間は、第1の回転数補正部16を選択するため、補正後回転数は補正前回転数よりも小さくなり、適切なモータの回転数の補正ができ、充分なモータ駆動の安定化が図れる。
【0071】
また、第1の回転数補正部16を選択する期間は、特許文献4の方式と同様の交流電圧変動時の課題が残るが、第2の回転数補正部を選択する期間は交流電圧変動に対して適切な回転数の補正が可能である。そのため、第2の回転数補正部19を選択する期間は、第1の回転数補正部16を選択する期間よりも長い時間とすることで、よりモータ駆動の安定化が図れる。
【0072】
上述の如く、本実施の形態に方式では、直流電圧のリプルが大きく、かつ、モータからの回生が発生し直流電圧はゼロ付近に落ち込まず跳ね上がるような期間や単相交流電源に変動がある場合においても、安定性を確保した位置センサレスの正弦波通電が可能であり、振動、騒音を低減し、効率の悪化も抑制できる。
【0073】
また、インバータの母線間には従来の平滑コンデンサの1/100程度の小容量のコンデンサを用いることが可能となり、簡易な方式で、入力電流波形の改善と高力率化を実現することが可能である。
【0074】
また、インバータの母線間に従来の平滑コンデンサの1/100程度の小容量のコンデンサを用いることで、小型、軽量、低コストなモータ制御装置を実現することが可能である。
【0075】
また、このモータ制御装置は、同期モータについて、ロータ位置センサを用いることなく駆動できるため、空気調和機や冷蔵庫などに搭載される圧縮機のモータ制御装置として使用することか可能である。
【0076】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0077】
1 モータ、2 インバータ、3 コンバータ回路、4 交流電源、5 電流センサ、6 モータ電流検出アンプ部、7 コントローラ、8 位相差検出部、9 目標位相差情報格納部、10 加算部、11 PI演算部、12 回転数設定部、13 正弦波データテーブル、14 正弦波データ作成部、15 PWM作成部、16 第1の回転数補正部、17 回転数補正率データテーブル、18 直流電圧検出部、19 第2の回転数補正部、20 回転数補正選択部、30 ゼロクロス点検出部、31 第1の電圧検出部、32 第2の電圧検出部、33 全波整流回路、34 小容量コンデンサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単相交流電源を入力とする整流回路と、
前記整流回路と接続され、前記整流回路で得られた直流電力を三相交流電力に変換し、接続されるモータを駆動するインバータと、
前記インバータの母線間に接続される小容量のコンデンサと、
前記インバータを制御する制御装置と、
前記単相交流電源のゼロクロス点を検出するゼロクロス点検出回路とを備え、
前記制御装置は、
前記モータの回転数を設定する回転数設定手段と、
前記モータの回転数を補正する第1の回転数補正手段と、
前記第1の回転数補正手段とは異なる方式で前記モータの回転数を補正する第2の回転数補正手段と、
前記ゼロクロス点の検出からの経過時間に応じて前記第1および第2の回転数補正手段の一方を選択する回転数補正選択手段とを含む、モータ制御装置。
【請求項2】
前記第1の回転数補正手段は、前記ゼロクロス点検出回路の前記ゼロクロス点の検出からの経過時間に応じて、前記回転数設定手段により設定される前記モータの回転数を補正する、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記インバータに入力される直流電圧を検出する直流電圧検出回路を備え、
前記第2の回転数補正手段は、前記直流電圧検出回路により検出された直流電圧に応じて、前記回転数設定手段により設定される前記モータの回転数を補正する、請求項1または2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記回転数補正選択手段は、前記モータの回生が発生し、直流電圧が跳ね上がると想定される期間において前記第1の回転数補正手段を選択する、請求項1〜3のいずれかに記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記回転数補正選択手段は、前期第1の回転数補正手段を選択する期間よりも長い期間、前記第2の回転数補正手段を選択する、請求項1〜4のいずれかに記載のモータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−78221(P2013−78221A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217208(P2011−217208)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】