説明

モータ駆動ユニット

【課題】軸が軸受異常で大きく傾斜した時におけるギヤの噛み合い不良を確実に吸収して、ギヤの歯面干渉および騒音を防止し得るようにしたモータ駆動ユニットを提供する。
【解決手段】ロータ7の回転は入力軸8から遊星歯車式減速歯車組5を介し出力軸9に達し、その後ホイールハブ21(車輪15)に至って車両を走行させる。軸受部18の異常時は、その周りに出力軸9が大きく傾斜し、入力軸8との相対変位で歯車組5の噛合ギヤ組(サンギヤ11およびピニオン大径ギヤ部13a)が噛み合い不良を生ずる傾向となる。ところでギヤ11,13aを、噛み合い不良の吸収に優れた平歯車組により構成するため、上記の噛み合い不良を防止して歯面干渉および騒音を防止することができる。他の噛合ギヤ組(リングギヤ12およびピニオン小径ギヤ部13b)は、静粛性に優れたはすば歯車で構成するため、平歯車組の使用による静粛性の犠牲を最小限にとどめて、噛み合い不良の問題解決を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪を個々の電動モータにより駆動して走行可能な電気自動車に用いられる車輪ごとの駆動ユニット(インホイールモータ駆動ユニットと俗称される)等に有用なモータ駆動ユニットに関し、特に、
当該モータ駆動ユニット内における出力軸の軸受部周りにおける変位による悪影響を回避する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
かかるモータ駆動ユニットとしては従来、インホイールモータ駆動ユニットとして構成した例えば特許文献1に記載のようなものが提案されている。
このインホイールモータ駆動ユニットは、電動モータおよびこの電動モータで駆動される入力軸を内蔵し、軸受部を介し回転自在に支持して外部に突出するよう設けた出力軸を具え、これら入力軸および出力軸間を遊星歯車式の減速機により駆動結合し、上記出力軸の突出端部に車輪を結合したものである。
【0003】
かかるインホイールモータ駆動ユニットを駆動車輪ごとに具える電気自動車にあっては、電動モータを駆動するとき、その回転が減速機による減速下で車輪へ伝達され、車両を走行させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−037355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、かかるモータ駆動ユニットにあっては、出力軸の軸受部と、減速機と、電動モータとが軸線方向に近接配置されていることもあり、出力軸の軸受部が摩耗したり、劣化などによりガタが大きくなって、出力軸が軸受部の周りに大きく傾斜(変位)するようになったとき、その影響が減速機などに及んで連鎖し、減速機のギヤが噛み合い不良を生じて、異音や振動の原因となるだけでなく、歯車が損傷されたり、歯面干渉が発生することにより、急減速されることがある。
【0006】
特にモータ駆動ユニットをインホイールモータ駆動ユニットとして電気自動車に用いる場合、当該インホイールモータ駆動ユニットが車輪を個別に駆動するため、上記の急減速が車両挙動を不自然にして運転者を戸惑わせる。
【0007】
本発明は、上記の減速機が通常は静粛性を考慮してはすば歯車により構成されており、また当該はすば歯車が、出力軸の軸受部周りにおける変位に伴うギヤの噛み合い不良を吸収する能力に欠け、上記異音や振動の問題や、歯車の損傷や歯面干渉の問題を顕著にしているとの事実認識に基づき、ギヤの噛み合い不良を吸収する能力に優れた平歯車を用いることで上記の問題を解消したモータ駆動ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的のため、本発明のモータ駆動ユニットは、以下のごとくにこれを構成する。
先ず、本発明の前提となるモータ駆動ユニットを説明するに、これは、
電動モータおよびこの電動モータで駆動される入力軸を内蔵し、軸受部を介し回転自在に支持して外部に突出するよう設けた出力軸を具え、前記入力軸および出力軸間を歯車変速機構により駆動結合して、上記電動モータの回転を前記出力軸から取り出すようにしたものである。
【0009】
本発明は、かかるモータ駆動ユニットにおいて、上記歯車変速機構の相互に噛合する歯車組のうち、上記軸受部周りにおける上記出力軸の変位に応動して噛合歯車が相互に相対変位する少なくとも一の歯車組を平歯車組で構成した点に特徴づけられる。
【発明の効果】
【0010】
かかる本発明のモータ駆動ユニットによれば、歯車変速機構の相互に噛合する歯車組のうち、平歯車組で構成した上記一の歯車組がギヤの噛み合い不良を吸収する能力に優れているため、出力軸の軸受部周りにおける変位に伴うギヤの噛み合い不良を確実に吸収することができる。
【0011】
このため、出力軸が軸受部の周りで大きく変位した場合においても、これに伴う歯車変速機構の噛み合い不良を生ずることがなく、この噛み合い不良によって生ずる問題、つまり歯車変速機構が異音や振動を発生するという問題や、歯車の損傷や歯面干渉を生じて急減速が発生するという問題を回避することができる。
【0012】
更に上記の急減速は、モータ駆動ユニットをインホイールモータ駆動ユニットとして電気自動車に用いた場合、前記した通り車両挙動を不自然にするが、本発明によれば上記の急減速が生じないことにより、この問題をも回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】インホイールモータ駆動ユニットとして構成した本発明の第1実施例になるモータ駆動ユニットを示す縦断側面図である。
【図2】図1におけるインホイールモータ駆動ユニットの遊星歯車式減速歯車組に係わるギヤ間噛合関係を示す正面図である。
【図3】図1におけるインホイールモータ駆動ユニットの電動モータおよび遊星歯車式減速歯車組を、出力軸の軸受部が正常である場合の状態で示す模式図である。
【図4】図1におけるインホイールモータ駆動ユニットの電動モータおよび遊星歯車式減速歯車組を、本発明の対策を施さないまま、出力軸の軸受部が異常を生じた場合の状態で示す模式図である。
【図5】図1におけるインホイールモータ駆動ユニットの要部を抽出して示す概略縦断側面図である。
【図6】図1におけるインホイールモータ駆動ユニットの遊星歯車式減速歯車組を構成する噛合歯車組のうち、平歯車組として構成したサンギヤおよび大径プライネタリギヤ部の歯を示し、 (a)は、図2のB−B線上で断面とし、矢の方向に見て、サンギヤおよび大径プライネタリギヤ部の歯を示す詳細断面図、 (b)は、図2の矢Cの方向に見て、サンギヤおよび大径プライネタリギヤ部の歯を示す詳細側面図である。
【図7】インホイールモータ駆動ユニットとして構成した本発明の第2実施例になるモータ駆動ユニットを示す、図5と同様な概略縦断側面図である。
【図8】インホイールモータ駆動ユニットとして構成した本発明の第3実施例になるモータ駆動ユニットを示す、図5と同様な概略縦断側面図である。
【図9】インホイールモータ駆動ユニットとして構成した本発明の第4実施例になるモータ駆動ユニットを示す、図5と同様な概略縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
<第1実施例の構成>
図1は、インホイールモータ駆動ユニットとして構成した本発明の第1実施例になるモータ駆動ユニットを示す縦断側面図である。
この図において、1は、インホイールモータ駆動ユニットのケース本体、2は、該ケース本体1のリヤカバーで、これらケース本体1およびリヤカバー2により、インホイールモータ駆動ユニットのユニットケース3を構成する。
【0015】
図1に示すインホイールモータ駆動ユニットは、ユニットケース3内に電動モータ4および遊星歯車式減速歯車組5(本発明における歯車変速機構に相当する)を収納して構成する。
電動モータ4は、ケース本体1の内周に嵌合して固設した円環状のステータ6と、かかる円環状ステータ6の内周にラジアルギャップを持たせて同心に配したロータ7とで構成する。
【0016】
減速歯車組5は、同軸に突き合わせて対向配置した入力軸8および出力軸9間を駆動結合するためのもので、
サンギヤ11と、このサンギヤ11に対し出力軸9寄りに軸線方向へずらせて同心配置した固定のリングギヤ12と、これらサンギヤ11およびリングギヤ12に噛合する段付きプラネタリギヤ(段付きピニオン)13と、かかる段付きプラネタリギヤ13を回転自在に支持したキャリア14a,14bとにより構成する。
【0017】
サンギヤ11は、減速歯車組5の入力回転メンバとして機能させ、出力軸9に近い入力軸8の内端に一体成形し、この入力軸8をサンギヤ11からリヤカバー2に向かう後方へ延在させる。
出力軸9は、減速歯車組5から反対方向(外方)に延在させて、ケース本体1の前端(図の右側)開口より突出させ、この突出箇所において出力軸9に後述のごとく車輪15を結合する。
【0018】
これら入力軸8および出力軸9は、両者の同軸突き合わせ端部を相互に相対回転可能に貫入させ合って、両者間にローラベアリングを可とするベアリング16を介在させることにより、入出力軸間軸受嵌合部を設定する。
この入出力軸間軸受嵌合部を成すベアリング16から軸線方向に離間した入力軸8および出力軸9の箇所をそれぞれ、ボールベアリングを可とするベアリング17、および複列アンギュラベアリングを可とするベアリング18でユニットケース3に軸受する。
【0019】
なおベアリング18は、ケース本体1の前端開口を塞ぐ端蓋19の内周と、ケース本体1の前端開口から突出する出力軸9の突出部に嵌着したホイールハブ21の外周との間に介在させて、出力軸9をユニットケース3に軸受する用をなし、
これらベアリング18、端蓋19、およびホイールハブ21で、ユニットケース3に対する出力軸9の軸受部が構成される。
【0020】
前記の電動モータ4は、そのロータ7を入力軸8に結合し、この結合位置を、減速歯車組5とベアリング17との間における軸線方向位置とする。
【0021】
ケース本体1の前端開口内に前記のリングギヤ12を廻り止め、且つ抜け止めして固設し、この抜け止めに際しては、ケース本体1の前端開口を塞ぐシールアダプタ22により当該リングギヤ12の抜け止めを行う。
このシールアダプタ22は、上記の端蓋19と共に、ケース本体1の前端開口を塞ぐよう該ケース本体1の前端に共締めして取着する。
【0022】
段付きプラネタリギヤ13は、入力軸8上のサンギヤ11に噛合する大径ギヤ部13a、およびリングギヤ12に噛合して段付きプラネタリギヤ13をリングギヤ12の内周に沿い転動させる小径ギヤ部13bを一体に有した段付きピニオンとする。
この段付きプラネタリギヤ13は、大径ギヤ部13aが出力軸9から遠い側に位置し、小径ギヤ部13bが出力軸9に近い側に位置するような向きに配置する。
【0023】
段付きプラネタリギヤ13は、図2に明示するごとく例えば4個一組として円周方向等間隔に配置し、この円周方向等間隔配置を保って段付きプラネタリギヤ13を共通なキャリア14により回転自在に支持する。
キャリア14は一対1組のキャリア14a,14bを同軸に対向させて構成し、これらキャリア14a,14bは、減速歯車組5の出力回転メンバとして機能させ、入力軸8に近い出力軸9の内端に一体的に設ける。
このため、キャリア14a,14bおよび段付きプラネタリギヤ13は、出力軸9の内端から入力軸8側へ張り出して出力軸9に一体化されることとなる。
【0024】
次に、車輪15の出力軸9への結合要領を詳述する。
ホイールハブ21に同心に、ブレーキディスク20を一体結合して設け、これらホイールハブ21およびブレーキディスク20を貫通して軸線方向に突出するよう複数個のホイールボルト23を植設する。
車輪15の取り付けに際しては、そのホイールディスクに穿ったボルト孔にホイールボルト23が貫通するよう当該ホイールディスクをブレーキディスク22の側面に密接させ、この状態でホイールボルト23にホイールナット24を緊締螺合することにより、出力軸9に対する車輪15の取り付けを行う。
【0025】
<第1実施例の作用>
電動モータ4のステータ6に通電すると、これからの電磁力で電動モータ4のロータ7が回転駆動される。
この際、ロータ7の回転位置をレゾルバ26等のロータ回転位置センサで検出し、これにより検出したロータ回転位置に基づき電動モータ4を同期下に駆動制御する。
ロータ7の回転駆動力は入力軸8を介して減速歯車組5のサンギヤ11に伝達される。
これによりサンギヤ11は、大径ギヤ部13aを介して段付きプラネタリギヤ13を回転させるが、このとき固定のリングギヤ12が反力受けとして機能するため、段付きプラネタリギヤ13は、小径ギヤ部13bがリングギヤ12に沿って転動するような遊星運動を行う。
かかる段付きプラネタリギヤ13の遊星運動はキャリア14(14a,14b)を介して出力軸9に伝達され、出力軸9を入力軸8と同方向に回転させる。
【0026】
上記の伝動作用により減速歯車組5は、電動モータ4から入力軸8への回転を、サンギヤ11の歯数およびリングギヤ12の歯数により決まる比で減速して出力軸9に伝達する。
出力軸9への回転は、これに結合したホイールハブ21およびホイールボルト23を介して車輪15に伝達され、車両を走行させることができる。
なお車両の制動に際しては、ブレーキディスク20を軸線方向両側からブレーキパッド25で挟圧することにより車輪15を摩擦制動させて所期の目的を達成し得る。
【0027】
<出力軸支承軸受部の摩耗時における動作および問題点>
上記した型式のインホイールモータ駆動ユニットにおいては、入力軸8および出力軸9の同軸突き合わせ端部をベアリング16により相互に相対回転可能に軸受嵌合させ、
この入出力軸間軸受嵌合部(ベアリング16)から軸線方向に離間した入力軸8および出力軸9の箇所をそれぞれベアリング17,18によりユニットケース3に軸受するため、
ユニットケース3に対する出力軸9の軸受部(ベアリング18、端蓋19、およびホイールハブ21)が摩耗したり、劣化などによりガタが大きくなって、出力軸9が軸受部(18,19,21)の周りに大きく傾斜するようになったとき、その影響が減速歯車組5や電動モータ4に及び、減速歯車組5のギヤが噛み合い不良を生じて、異音や振動の原因となるだけでなく、歯車が損傷されたり、歯面干渉が発生することにより、急減速されることがある。
【0028】
特にモータ駆動ユニットを図1のごとくインホイールモータ駆動ユニットとして電気自動車に用いる場合、当該インホイールモータ駆動ユニットが車輪15を個別に駆動するため、上記の現象が車両挙動を不自然にして運転者を戸惑わせる。
【0029】
図3,4により詳述するに、図3は、ユニットケース3に対する出力軸9の軸受部(18)が摩耗しておらず、且つ、劣化などによる大きなガタを有していない正常時における減速歯車組5および電動モータ4の状態を模式的に示したものである。
【0030】
この場合、出力軸9がユニットケース3に対する軸受部(18)の周りに大きく傾斜されることがなく、入力軸8および出力軸9が略一直線上に延在し、ほとんど軸交角を持たない。
そのため、減速歯車組5を構成する噛合歯車組のうち、サンギヤ11およびピニオン大径ギヤ部13a間の軸間距離、並びに、リングギヤ12およびピニオン小径ギヤ部13b間の軸間距離は、それぞれ略正規の軸間距離を保つ。
【0031】
しかし、ユニットケース3に対する出力軸9の軸受部(18)が摩耗したり、劣化などによる大きなガタを有している異常時は、減速歯車組5および電動モータ4の状態を模式的に示す図4から明らかなとおり、出力軸9がユニットケース3に対する軸受部(18)の周りに大きく傾斜され、入力軸8および出力軸9間に軸交角(相対変位)を生じさせる。
【0032】
かかる出力軸9の大きな傾斜は、入力軸8との間の軸交角(相対変位)によって、減速歯車組5や電動モータ4に影響を及ぼし、減速歯車組5のギヤが噛み合い不良を生じて、異音や振動の原因となるだけでなく、歯車が損傷されたり、歯面干渉が発生することにより、車輪15を急減速させることがある。
【0033】
上記した入力軸8および出力軸9間の軸交角(相対変位)に伴う軸間距離変化が最も大きくなるサンギヤ11およびピニオン大径ギヤ部13aの噛合部、例えば図2のA部におけるサンギヤ11とピニオン大径ギヤ部13aとの噛合箇所につき代表的に説明すると、図4に同符号Aを付して示すごとく、サンギヤ11とピニオン大径ギヤ部13aとが、入力軸8および出力軸9間の軸交角(相対変位)に伴う偏心により噛み合い不良を生じ、異音や振動の原因となるだけでなく、歯車が損傷されたり、歯面干渉が発生することにより、車輪15を急減速されることとなる。
【0034】
かかる車輪15の急減速は、モータ駆動ユニットを図1のごとくインホイールモータ駆動ユニットとして電気自動車に用いる場合、当該インホイールモータ駆動ユニットが車輪15を個別に駆動するため、車両の挙動を不安定にしたり、不自然にして運転者を戸惑わせる。
【0035】
<出力軸支承軸受部の摩耗時における問題解決策>
本実施例は、上記した軸受部(18)の異常時もその周りにおける出力軸9の傾斜(入力軸8との相対変位)が、上記の問題を生ずるほど大きくなることのないよう制限すべく、モータ駆動ユニットを以下のごとくに改良したものである。
【0036】
このため本実施例おいては、図1を更に容易に理解し得るよう概略断面として示した図5をも参照しつつ説明すると、
減速歯車組5を構成する噛合歯車組のうち、上記した入力軸8および出力軸9間の軸交角(相対変位)に伴う軸間距離変化が最も大きくなるサンギヤ11および4個のピニオン大径ギヤ部13aを、ギヤ噛み合い不良吸収能力に優れた平歯車組により構成する。
【0037】
しかして、減速歯車組5を構成する他の噛合歯車組、つまりリングギヤ12および4個のピニオン小径ギヤ部13bは、ギヤノイズが少なく静粛性に優れたはすば歯車によりこれを構成する。
【0038】
そして、平歯車組により構成したサンギヤ11およびピニオン大径ギヤ部13aには、図2のB−B断面である図6(a)に示すごとく、歯先に所定曲率R1のクラウニングを施し、
また図2のC矢視図である図6(b)に示すごとく、歯すじに所定曲率R2のクラウニングを施す。
【0039】
なお、サンギヤ11およびピニオン大径ギヤ部13aの歯先に設定する所定曲率R1のクラウニングと、歯すじに設定する所定曲率R2のクラウニングとは、必ずしも併用するひつようはなく、そのいずれか一方のみでもよい。
またクラウニング曲率R1,E2は、前記した軸受部(18)の異常で入出力軸8,9間に相対変位が発生した時におけるサンギヤ11およびピニオン大径ギヤ部13a間の面圧を許容範囲内の値に抑制し得る曲率とする。
【0040】
<第1実施例の効果>
上記した第1実施例のモータ駆動ユニットにおいては、遊星歯車式減速歯車組5の相互に噛合する歯車組のうち、サンギヤ11およびピニオン大径ギヤ部13aを平歯車組で構成したため、
これらサンギヤ11およびピニオン大径ギヤ部13aがギヤの噛み合い不良を吸収する能力に優れることとなり、以下の効果を達成することができる。
【0041】
つまり、出力軸9の軸受部(18)が摩耗したり、劣化すると、この軸受部(18)周りにおける出力軸9の変位が大きくなり、当該大きな変位で入出力軸8,9間の相対変位が大きくなって、遊星歯車式減速歯車組5がギヤの噛み合い不良を生じようとするが、
遊星歯車式減速歯車組5の噛合歯車組のうち、平歯車組で構成したサンギヤ11およびピニオン大径ギヤ部13aが、遊星歯車式減速歯車組5の上記したギヤ噛み合い不良を確実に吸収することができる。
【0042】
このため、出力軸9が上記のごとく軸受部(18)の周りに大きく変位した場合においても、これに伴う遊星歯車式減速歯車組5の上記したギヤ噛み合い不良を生ずることがなく、この噛み合い不良によって生ずる問題、つまり遊星歯車式減速歯車組5が異音や振動を発生するという問題や、歯車の損傷や歯面干渉を生じて急減速(車両の不自然な挙動)が発生するという問題を回避することができる。
【0043】
更に、入力軸8および出力軸9間の軸交角(相対変位)に伴う軸間距離変化が最も大きくなるサンギヤ11およびピニオン大径ギヤ部13aのみを平歯車組により構成して上記の効果が得られるようにしため、上記の効果を最も効率よく達成することができる。
【0044】
そして、それ以外の噛合歯車組(リングギヤ12およびピニオン小径ギヤ部13b)は静粛性に優れるはすば歯車により構成したため、
平歯車組を用いたことによる静粛性の犠牲を最小限にとどめつつ、前記の特異な効果を達成することができる。
【0045】
また、上記のごとく平歯車組により構成したサンギヤ11およびピニオン大径ギヤ部13aの歯先および/または歯すじに、所定曲率R1,R2のクラウニングを施したため、
出力軸9が軸受部(18)の摩耗や経時劣化で軸受部(18)の周りに大きく変位した場合におけるサンギヤ11およびピニオン大径ギヤ部13aの面圧増加を抑制することができ、遊星歯車式減速歯車組5の上記したギヤ噛み合い不良を更に確実に防止して、上記の効果を一層顕著なものにし得る。
【0046】
<第2実施例の構成>
図7は、本発明の第2実施例になるモータ駆動ユニットで、図7中、図1,5におけると同様に機能する部分には同一符号を付して示した。
前記した第1実施例では図1,5に示すごとく、遊星歯車式減速歯車組5を出力軸9の軸受部(18)と、電動モータ4との間における軸線方向位置に配置したが、
本実施例においては、図7と、図1,5との対比から明らかなように、電動モータ4を挟んで、出力軸9の軸受部(18)から遠い側の軸線方向位置に遊星歯車式減速歯車組5を配置する。
【0047】
そのため図7に示すように、電動モータ4のロータ7に結合した入力軸8を中空とし、出力軸9は入力軸8の中空孔内に遊嵌すると共に、外端をホイールハブ21によりユニットケース3に回転自在に支持する。
ホイールハブ21に近い入力軸8の端部をベアリング31でユニットケース3に回転自在に支持し、ホイールハブ21から遠い出力軸9の端部をベアリング32でユニットケース3に回転自在に支持する。
【0048】
また、ロータ7をベアリング33によりユニットケース3に対し回転自在に支持することで、ベアリング33がロータ7を介し入力軸8をユニットケース3に回転自在に支持する用もなすようにし、入力軸8を結局はベアリング31,33でユニットケース3に回転自在に支持することとする。
【0049】
ホイールハブ21から遠い入力軸8および出力軸9の隣接端同士を駆動結合するに際しては、この駆動結合を第1実施例と同様、遊星歯車式減速歯車組5を介して行うが、この減速歯車組5を、軸線方向両端が第1実施例とは逆位置となる向きに配置する。
【0050】
従って減速歯車組5のサンギヤ11を、ホイールハブ21から遠い入力軸8の端部外周に一体成形し、リングギヤ12をサンギヤ11に対しホイールハブ21から遠ざかる軸線方向へずらせて同心配置する。
そして、これらサンギヤ11およびリングギヤ12にそれぞれ噛合する大径ギヤ部13aおよび小径ギヤ部13bを有した段付きプラネタリギヤ13をキャリア14により回転自在に支持する。
キャリア14は、大径ギヤ部13aに近い一端14bにおいて入力軸8上に回転自在に支持し、小径ギヤ部13bに近い他端14aにおいて出力軸9に駆動結合する。
【0051】
本実施例においては、ホイールハブ21から遠い出力軸9の端部をベアリング32によりユニットケース3に支持するため、軸受部(18)の摩耗や経時劣化で出力軸9が軸受部(18)の周りに傾斜されるとき出力軸9は、ベアリング32による出力軸支承点32aの周りで入力軸8に対し相対変位する。
【0052】
この相対変位に伴って、減速歯車組5の噛合歯車組を成す、サンギヤ11とピニオン大径ギヤ部13aは相互に、また、リングギヤ12とピニオン小径ギヤ部13bは相互に軸間距離を変化される。
ところで出力軸9が、ベアリング32による出力軸支承点32aの周りで入力軸8に対し相対変位するため、この相対変位によるサンギヤ11およびピニオン大径ギヤ部13aの軸間距離変化は、リングギヤ12およびピニオン小径ギヤ部13bの軸間距離変化よりも大きい。
【0053】
そのため本実施例においては、減速歯車組5を成す噛合歯車組のうち、サンギヤ11およびピニオン大径ギヤ部13aを、ギヤ噛み合い不良の吸収能力に優れた平歯車組で構成し、リングギヤ12およびピニオン小径ギヤ部13bは、静粛性に優れたはすば歯車組によりこれを構成する。
そして、平歯車組で構成したサンギヤ11およびピニオン大径ギヤ部13aには、歯先および/または歯すじに、図6につき前述したごとき所定曲率R1,R2のクラウニングを施す。
【0054】
<第2実施例の作用・効果>
本実施例においても、電動モータ4(ロータ7)からの回転が、入力軸8から減速歯車組5および出力軸9を経て減速下にホイールハブ21(車輪)へ伝達され、車両を走行させることができる。
【0055】
出力軸9の軸受部(18)が摩耗したり、劣化などによる大きなガタを有している異常時は、出力軸9が軸受部(18)の周りに大きく傾斜されて入力軸8との間に大きな相対変位を生じる。
この相対変位に伴って減速歯車組5のギヤが噛み合い不良を生じ、異音や振動の原因となるだけでなく、歯車が損傷されたり、歯面干渉が発生することにより、車輪15を急減速させることがある。
【0056】
ところで上記入力軸8および出力軸9間の相対変位に伴う軸間距離変化が最も大きくなるサンギヤ11およびピニオン大径ギヤ部13aを平歯車組で構成したため、
これらギヤの噛合部において、減速歯車組5の上記した噛み合い不良を確実に吸収することができ、この噛み合い不良による異音や振動の発生を防止し得ると共に、歯車の損傷や歯面干渉による急減速(車両の挙動不安定)を防止することができる。
【0057】
更に、入力軸8および出力軸9間の相対変位に伴う軸間距離変化が最も大きくなるサンギヤ11およびピニオン大径ギヤ部13aのみを平歯車組により構成して上記の効果が得られるようにし、それ以外の噛合歯車組(リングギヤ12およびピニオン小径ギヤ部13b)は静粛性に優れるはすば歯車により構成したため、
平歯車組を用いたことによる静粛性の犠牲を最小限にとどめつつ、上記の特異な効果を達成することができる。
【0058】
また、上記のごとく平歯車組により構成したサンギヤ11およびピニオン大径ギヤ部13aの歯先および/または歯すじに、所定曲率のクラウニングを施したため、
出力軸9が軸受部(18)の摩耗や経時劣化で軸受部(18)の周りに大きく変位した場合におけるサンギヤ11およびピニオン大径ギヤ部13aの面圧増加を抑制することができ、遊星歯車式減速歯車組5の上記したギヤ噛み合い不良を更に確実に防止して、上記の効果を一層顕著なものにし得る。
【0059】
加えて本実施例では、電動モータ4を挟んで、出力軸支承軸受部(18)から遠い側の軸線方向位置に遊星歯車式減速歯車組5を配置したため、
出力軸9が軸受部(18)の摩耗や経時劣化で軸受部(18)の周りに変位する時における出力軸9の揺動中心32aが、ホイールハブ21から遠く離れた位置となる結果、出力軸9の傾斜角を小さくすることができる。
【0060】
このため出力軸9の傾斜に伴う、サンギヤ11およびピニオン大径ギヤ部13aの軸間距離変化、および、リングギヤ12およびピニオン小径ギヤ部13bの軸間距離変化が小さくなり、遊星歯車式減速歯車組5の噛み合い不良を更に確実に回避し得て、前記の効果を一層顕著なものにすることができる。
【0061】
<第3実施例の構成>
図8は、本発明の第3実施例になるモータ駆動ユニットで、図8中、図1,5におけると同様に機能する部分には同一符号を付して示した。
前記した第1実施例および第2実施例では図1,5,7に示すごとく、遊星歯車式減速歯車組5により入力軸8および出力軸9間を駆動結合したが、
本実施例においては平行軸式減速歯車組41により入力軸8および出力軸9間を駆動結合する。
【0062】
このため、入力軸8を出力軸9に同軸配置とせず、出力軸9に対し平行となるよう並置する。
電動モータ4は、前記した第1実施例および第2実施例と同様に、ステータ6およびロータ7より成るラジアルギャップ式電動モータとして構成するが、入力軸8に同心配置して設ける。
【0063】
入力軸8は、その両端においてベアリング42,43によりユニットケース3内に回転自在に支持し、
出力軸9は、その両端においてベアリング44,45によりユニットケース3内に回転自在に支持する。
【0064】
電動モータ4は、ステータ6およびロータ7が入力軸8を包囲するよう配してユニットケース3内に収納し、ステータ6をユニットケース3に固着し、ロータ7を入力軸8に結合する。
【0065】
平行軸式減速歯車組41は、入力軸8と共に回転するようその一端に結合したドライブピニオン41pと、出力軸9と共に回転するようその一端に結合したドライブリングギヤ41rとより成り、これらドライブピニオン41pおよびドライブリングギヤ41rを相互に噛合させて構成する。
かくして平行軸式減速歯車組41は、入力軸8および出力軸9の隣接端同士を駆動結合する用をなし、ドライブピニオン41pは、平行軸式減速歯車組41の入力回転メンバとして機能し、またドライブリングギヤ41rは、平行軸式減速歯車組41の出力回転メンバとして機能する。
【0066】
ドライブリングギヤ41rから遠い出力軸9の他端をユニットケース3から突出させ、該出力軸9の突出他端にホイールハブ21を固着し、このホイールハブ21に車輪15およびブレーキディスク20を取着する。
なお本実施例におけるモータ駆動ユニットは車輪15と共に、キングピン軸線Kpの周りに転舵可能にして車体に取り付ける。
【0067】
本実施例においては、ホイールハブ21から遠い出力軸9の端部をベアリング44でユニットケース3に回転自在に支持し、出力軸9の他端をホイールハブ21と共にベアリング45でユニットケース3に回転自在に支持するため、
出力軸9およびホイールハブ21の軸受部を提供するベアリング45の摩耗や経時劣化で出力軸9が軸受部(45)の周りに傾斜されるとき出力軸9は、ベアリング44による出力軸支承点44aの周りで入力軸8に対し相対変位する。
【0068】
この相対変位に伴って、平行軸式減速歯車組41の噛合歯車組を成す、ドライブピニオン41pとドライブリングギヤ41rは相互に軸間距離を変化される。
そこで本実施例においては、平行軸式減速歯車組41の噛合歯車組を成す、ドライブピニオン41pおよびドライブリングギヤ41rを、ギヤ噛み合い不良の吸収能力に優れた平歯車組で構成する。
そして、平歯車組で構成したドライブピニオン41pおよびドライブリングギヤ41rには、歯先および/または歯すじに、図6につき前述したごとき所定曲率R1,R2のクラウニングを施す。
【0069】
<第3実施例の作用・効果>
本実施例においては、電動モータ4(ロータ7)からの回転が、入力軸8から平行軸式減速歯車組41および出力軸9を経て減速下にホイールハブ21(車輪)へ伝達され、車両を走行させることができる。
【0070】
出力軸9のホイールハブ側軸受部(45)が摩耗したり、劣化などによる大きなガタを有している異常時は、出力軸9が軸受部(45)の周りに大きく傾斜されて入力軸8との間に大きな相対変位を生じる。
この相対変位に伴って減速歯車組41(ドライブピニオン41pおよびドライブリングギヤ41r)のギヤが噛み合い不良を生じ、異音や振動の原因となるだけでなく、歯車が損傷されたり、歯面干渉が発生することにより、車輪15を急減速させることがある。
【0071】
ところで上記入力軸8および出力軸9間の相対変位に伴って軸間距離変化が発生するドライブピニオン41pおよびドライブリングギヤ41rを平歯車組で構成したため、
これらギヤの噛合部において、減速歯車組41の上記した噛み合い不良を確実に吸収することができ、この噛み合い不良による異音や振動の発生を防止し得ると共に、歯車の損傷や歯面干渉による急減速(車両の挙動不安定)を防止することができる。
【0072】
また、上記のごとく平歯車組により構成したドライブピニオン41pおよびドライブリングギヤ41rの歯先および/または歯すじに、所定曲率のクラウニングを施したため、
出力軸9がホイールハブ側軸受部(45)の摩耗や経時劣化で軸受部(45)の周りに大きく変位した場合におけるドライブピニオン41pおよびドライブリングギヤ41rの面圧増加を抑制することができ、平行軸式減速歯車組41の上記したギヤ噛み合い不良を更に確実に防止して、上記の効果を一層顕著なものにし得る。
【0073】
加えて本実施例では、上記の構成に起因して、出力軸9がホイールハブ側軸受部(45)の摩耗や経時劣化で軸受部(45)の周りに変位する時における出力軸9の揺動中心44aが、ホイールハブ21から最も遠く離れた位置となる結果、出力軸9の傾斜角を小さくすることができる。
【0074】
このため出力軸9の傾斜に伴う、ドライブピニオン41pおよびドライブリングギヤ41rの軸間距離変化が小さくなり、平行軸式減速歯車組41の噛み合い不良を更に確実に回避して、前記の効果を一層顕著なものにすることができる。
【0075】
<第4実施例の構成>
図9は、本発明の第4実施例になるモータ駆動ユニットで、図9中、図1,5,7,8におけると同様に機能する部分には同一符号を付して示した。
本実施例においても第3実施例と同様に、入力軸8および出力軸9間を平行軸式減速歯車組51により駆動結合するが、この平行軸式減速歯車組51を図8における平行軸式減速歯車組41とは、以下のごとくに異ならせる。
【0076】
先ず、電動モータ4のロータ7に結合した入力軸8を中空とし、出力軸9は入力軸8の中空孔内に遊嵌すると共に、外端をホイールハブ21によりユニットケース3に回転自在に支持する。
入力軸8は、ホイールハブ21に近い端部をベアリング52でユニットケース3に回転自在に支持し、ホイールハブ21から遠い端部をベアリング53でユニットケース3に回転自在に支持する。
ホイールハブ21から遠い出力軸9の端部をベアリング54でユニットケース3に回転自在に支持する。
【0077】
平行軸式減速歯車組51は、ホイールハブ21から遠い入力軸8の端部に設けたドライブピニオン55と、ホイールハブ21から遠い出力軸9の端部に設けたドライブリングギヤ56と、これらドライブピニオン55およびドライブリングギヤ56にそれぞれ噛合する大径の中間ギヤ部57aおよび小径の中間ギヤ部57bを一体化した段付きアイドラギヤ57とから成り、段付きアイドラギヤ57をユニットケース3内に回転自在に支持して構成する。
【0078】
以上により平行軸式減速歯車組51は、ホイールハブ21から遠い入力軸8および出力軸9の端部を駆動結合し、ドライブピニオン55が平行軸式減速歯車組51の入力回転メンバとして機能し、またドライブリングギヤ56が平行軸式減速歯車組51の出力回転メンバとして機能する。
【0079】
本実施例においては、ホイールハブ21から遠い出力軸9の端部をベアリング54によりユニットケース3に支持するため、軸受部(18)の摩耗や経時劣化で出力軸9が軸受部(18)の周りに傾斜されるとき出力軸9は、ベアリング54による出力軸支承点54aの周りで入力軸8に対し相対変位する。
この相対変位に伴って、平行軸式減速歯車組51の噛合歯車組を成す、ドライブリングギヤ56とアイドラ小径ギヤ部57bは相互に軸間距離を変化されるものの、ドライブピニオン55とアイドラ大径ギヤ部57aは軸間距離を変化されない。
【0080】
そのため本実施例においては、平行軸式減速歯車組51を成す噛合歯車組のうち、前者のドライブリングギヤ56およびアイドラ小径ギヤ部57bを、ギヤ噛み合い不良の吸収能力に優れた平歯車組で構成し、後者のドライブピニオン55およびアイドラ大径ギヤ部57aは、静粛性に優れたはすば歯車組によりこれを構成する。
そして、平歯車組で構成したドライブリングギヤ56およびアイドラ小径ギヤ部57bには、歯先および/または歯すじに、図6につき前述したごとき所定曲率R1,R2のクラウニングを施す。
【0081】
<第4実施例の作用・効果>
本実施例においては、電動モータ4(ロータ7)からの回転が、入力軸8から平行軸式減速歯車組51および出力軸9を経て減速下にホイールハブ21(車輪)へ伝達され、車両を走行させることができる。
【0082】
出力軸9の軸受部(18)が摩耗したり、劣化などによる大きなガタを有している異常時は、出力軸9が軸受部(18)の周りに大きく傾斜されて入力軸8との間に大きな相対変位を生じる。
この相対変位に伴い減速歯車組51のドライブリングギヤ56およびアイドラ小径ギヤ部57bが軸間距離を変化されて噛み合い不良を生じ、異音や振動の原因となるだけでなく、歯車が損傷されたり、歯面干渉が発生することにより、ホイールハブ21(車輪)を急減速させることがある。
【0083】
ところで上記入力軸8および出力軸9間の相対変位に伴って軸間距離変化が変化するドライブリングギヤ56およびアイドラ小径ギヤ部57bを平歯車組で構成したため、
これらギヤの噛合部において、減速歯車組51の上記した噛み合い不良を確実に吸収することができ、この噛み合い不良による異音や振動の発生を防止し得ると共に、歯車の損傷や歯面干渉による急減速(車両の挙動不安定)を防止することができる。
【0084】
しかして、入力軸8および出力軸9間の相対変位に伴う軸間距離変化を生じないドライブピニオン55およびアイドラ大径ギヤ部57aは、静粛性に優れるはすば歯車により構成したため、
平歯車組を用いたことによる静粛性の犠牲を最小限にとどめつつ、上記の特異な効果を達成することができる。
【0085】
また、上記のごとく平歯車組により構成したドライブリングギヤ56およびアイドラ小径ギヤ部57bの歯先および/または歯すじに、所定曲率のクラウニングを施したため、
出力軸9が軸受部(18)の摩耗や経時劣化で軸受部(18)の周りに大きく変位した場合におけるドライブリングギヤ56およびアイドラ小径ギヤ部57bの面圧増加を抑制することができ、平行軸式減速歯車組51の上記したギヤ噛み合い不良を更に確実に防止して、上記の効果を一層顕著なものにし得る。
【0086】
加えて本実施例では、電動モータ4を挟んで、出力軸支承軸受部(18)から遠い側の軸線方向位置に平行軸式減速歯車組51を配置したため、
出力軸9が軸受部(18)の摩耗や経時劣化で軸受部(18)の周りに変位する時における出力軸9の揺動中心32aが、ホイールハブ21から遠く離れた位置となる結果、出力軸9の傾斜角を小さくすることができる。
このため出力軸9の傾斜に伴う、ドライブリングギヤ56およびアイドラ小径ギヤ部57bの軸間距離変化が小さくなり、平行軸式減速歯車組51(ドライブリングギヤ56およびアイドラ小径ギヤ部57b)の噛み合い不良を更に確実に回避し得て、前記の効果を一層顕著なものにすることができる。
【符号の説明】
【0087】
1 ケース本体
2 リヤカバー
3 ユニットケース
4 電動モータ
5 遊星歯車式減速歯車組
6 ステータ
7 ロータ
8 入力軸
9 出力軸
11 クラウニング付きサンギヤ(平歯車)
12 リングギヤ(はすば歯車)
13 段付きプラネタリギヤ
13a クラウニング付きピニオン大径ギヤ部(平歯車)
13b ピニオン小径ギヤ部(はすば歯車)
14 キャリア
15 車輪
16 ローラベアリング
17 ボールベアリング
18 複列アンギュラベアリング(軸受部)
19 端蓋(軸受部)
21 ホイールハブ(軸受部)
23 ホイールボルト
24 ホイールナット
25 ブレーキパッド
31,32,33 ベアリング
41 平行軸式減速歯車組
41P ドライブピニオン(入力回転メンバ:平歯車)
41R ドライブリングギヤ(出力回転メンバ:平歯車)
42,43,44 ベアリング
51 平行軸式減速歯車組
52,53,54 ベアリング
55 ドライブピニオン(入力回転メンバ:はすば歯車)
56 ドライブリングギヤ(出力回転メンバ:平歯車)
57 段付きアイドラギヤ
57a 大径中間ギヤ部(はすば歯車)
57b 小径中間ギヤ部(平歯車)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータおよびこの電動モータで駆動される入力軸を内蔵し、軸受部を介し回転自在に支持して外部に突出するよう設けた出力軸を具え、前記入力軸および出力軸間を歯車変速機構により駆動結合して、前記電動モータの回転を前記出力軸から取り出すようにしたモータ駆動ユニットにおいて、
前記歯車変速機構の相互に噛合する歯車組のうち、前記軸受部周りにおける前記出力軸の変位に応動して噛合歯車が相互に相対変位する少なくとも一の歯車組を平歯車組で構成したことを特徴とするモータ駆動ユニット。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ駆動ユニットにおいて、
前記一の歯車組を成す平歯車の歯先および/または歯すじに、所定曲率のクラウニングを施したことを特徴とするモータ駆動ユニット。
【請求項3】
請求項1または2に記載のモータ駆動ユニットにおいて、
前記電動モータを挟んで、前記軸受部から遠い側の軸線方向位置に前記歯車変速機構を配置したことを特徴とするモータ駆動ユニット。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のモータ駆動ユニットにおいて、
前記一の歯車組は、前記軸受部周りにおける前記出力軸の変位に伴う噛合歯車間相対変位量が最も大きな歯車組であることを特徴とするモータ駆動ユニット。
【請求項5】
前記歯車変速機構が、前記入力軸上のサンギヤを入力回転メンバとし、キャリアを出力回転メンバとして前記出力軸に結合した遊星歯車式歯車変速機構である、請求項4に記載のモータ駆動ユニットにおいて、
前記遊星歯車式歯車変速機構のサンギヤおよび該サンギヤに噛合するプラネタリギヤより成る歯車組を前記一の歯車組として平歯車組で構成し、
前記遊星歯車式歯車変速機構の他の歯車組をはすば歯車組で構成したことを特徴とするモータ駆動ユニット。
【請求項6】
前記歯車変速機構が、前記入力軸上のギヤを入力回転メンバとし、前記出力軸上のギヤを出力回転メンバとする平行軸式歯車変速機構である、請求項4に記載のモータ駆動ユニットにおいて、
前記出力軸上のギヤおよびこのギヤに噛合するギヤより成る歯車組を前記一の歯車組として平歯車組により構成し、
前記平行軸式歯車変速機構の他の歯車組をはすば歯車組で構成したことを特徴とするモータ駆動ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−72528(P2013−72528A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213642(P2011−213642)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】