説明

モータ駆動力伝達装置

【課題】NVの発生を抑制することができるモータ駆動力伝達装置を提供する。
【解決手段】モータ駆動力伝達装置1は、差動機構部を作動させるためのモータ回転力を発生させて出力する偏心部付きのモータ軸42を有する電動モータ4と、ハウジング2の軸線方向一方側端部とデフケース30の軸線方向一方側端部との間に介在する玉軸受34、デフケース30の軸線方向他方側端部とモータ軸42の軸線方向一方側端部との間に介在する玉軸受35、及びハウジング2の軸線方向他方側端部とモータ軸42の軸線方向他方側端部との間に介在する玉軸受46を有する軸受機構とを備え、軸受機構は、スプリング48によって玉軸受34,35,46にアキシアル荷重が付与されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば駆動源として電動モータを有する電気自動車に用いて好適なモータ駆動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のモータ駆動力伝達装置には、モータ回転力を発生させる電動モータ、及びこの電動モータのモータ回転力に基づく駆動力を差動機構に伝達する減速伝達機構を備え、自動車に搭載されたものがある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
電動モータは、車載バッテリの電力によって回転するモータ軸を有し、減速伝達機構の軸線上に配置されている。
【0004】
減速伝達機構は、電動モータのモータ軸にスプライン嵌合する軸部(回転軸)、及びこの回転軸の周囲に一対の減速伝達部を有し、電動モータと差動機構(デフケース)との間に介在して配置され、かつモータ軸及びデフケースに連結されている。そして、減速伝達機構は、電動モータ及び差動機構と共にハウジング内に収容されている。一方の減速伝達部はモータ軸に、また他方の減速伝達部はデフケースにそれぞれ連結されている。
【0005】
以上の構成により、電動モータのモータ軸が車載バッテリの電力によって回転し、これに伴いモータ回転力が電動モータから減速伝達機構を介して差動機構に伝達され、この差動機構から左右の車輪に配分される。
【0006】
ところで、この種のモータ駆動力伝達装置において、電動モータはモータ軸の一方側端部(減速伝達機構の回転軸とスプライン嵌合する連結部側の端部)及び他方側端部が玉軸受を介してハウジングに回転可能に支持されている。
【0007】
差動機構は、デフケースの一方側端部がハウジングに、またデフケースの他方側端部が減速伝達機構の回転軸にそれぞれ玉軸受を介して回転可能に支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−218407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に示すモータ駆動力伝達装置によると、電動モータのモータ軸と減速伝達機構の回転軸との間に径方向すきまが、また玉軸受にラジアルすきまのみならずアキシアルすきまがそれぞれ存在し、これらすきまに基づいてノイズ・バイブレーション(NV:Noise Vibration)が発生する虞がある。
【0010】
従って、本発明の目的は、NVの発生を抑制することができるモータ駆動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するために、(1)〜(8)のモータ駆動力伝達装置を提供する。
【0012】
(1)モータ回転力に基づく駆動力を配分する差動機構部、及び前記差動機構部を収容するデフケースを有する差動機構と、前記差動機構の軸線上に配置され、前記差動機構部を作動させるための前記モータ回転力を発生させて出力する偏心部付きのモータ軸を有する電動モータと、前記電動モータの前記モータ軸における偏心部の外周囲に配置され、前記モータ回転力を減速して前記駆動力を前記差動機構に伝達する減速伝達機構と、
前記減速伝達機構,前記電動モータ及び前記差動機構を収容するハウジングと、前記ハウジングの軸線方向一方側端部と前記デフケースの軸線方向一方側端部との間に介在する第1の転がり軸受、前記デフケースの軸線方向他方側端部と前記モータ軸の軸線方向一方側端部との間に介在する第2の転がり軸受、及び前記ハウジングの軸線方向他方側端部と前記モータ軸の軸線方向他方側端部との間に介在する第3の転がり軸受を有する軸受機構とを備え、前記軸受機構は、前記第1の転がり軸受,前記第2の転がり軸受及び前記第3の転がり軸受にアキシアル荷重が付与されている。
【0013】
(2)上記(1)に記載のモータ駆動力伝達装置において、前記軸受機構は、前記第1の転がり軸受,前記第2の転がり軸受及び前記第3の転がり軸受にそれぞれ転動体を転動させる外輪を有し、前記第1の転がり軸受の外輪と前記ハウジングとの間,前記第2の転がり軸受の外輪と前記デフケースとの間又は前記第3の転がり軸受の外輪と前記ハウジングとの間に前記アキシアル荷重となるばね力をもつスプリングが介在して配置されている。
【0014】
(3)上記(1)に記載のモータ駆動力伝達装置において、前記軸受機構は、前記第1の転がり軸受,前記第2の転がり軸受及び前記第3の転がり軸受にそれぞれ転動体を転動させる内輪を有し、前記第1の転がり軸受の内輪と前記デフケースとの間,前記第2の転がり軸受の内輪と前記モータ軸との間又は前記第3の転がり軸受の内輪と前記モータ軸との間に前記アキシアル荷重となるばね力をもつスプリングが介在して配置されている。
【0015】
(4)上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のモータ駆動力伝達装置において、前記ハウジングは、その軸線方向に並列する少なくとも2つのハウジングエレメントからなり、前記少なくとも2つのハウジングエレメントの締め付けによる軸線方向長の調整によって前記アキシアル荷重が付与されている。
【0016】
(5)上記(1)に記載のモータ駆動力伝達装置において、減速伝達機構は、前記モータ回転力を受けて所定の偏心量をもって円運動を行う外歯歯車からなる入力部材、前記入力部材にその歯数よりも大きい歯数をもって噛合する内歯歯車からなる自転力付与部材、及び前記自転力付与部材によって前記入力部材に付与された自転力を受けて前記デフケースにその回転力として出力する出力部材を有し、
前記ハウジングは、前記差動機構を収容する第1のハウジングエレメント、及び前記電動モータを収容する第2のハウジングエレメントを有し、前記第1のハウジングエレメント及び前記第2のハウジングエレメントが前記自転力付与部材を介して前記電動モータの軸線方向に並列して配置されている。
【0017】
(6)上記(5)に記載のモータ駆動力伝達装置において、前記減速伝達機構は、前記自転力付与部材の線膨張係数が前記第1のハウジングエレメント及び前記第2のハウジングエレメントの線膨張係数よりも前記入力部材の線膨張係数に近い線膨張係数に設定されている。
【0018】
(7)上記(5)又は(6)に記載のモータ駆動力伝達装置において、前記減速伝達機構は、前記入力部材,前記自転力付与部材及び前記出力部材の線膨張係数が前記デフケースの線膨張係数と同等の線膨張係数に設定されている。
【0019】
(8)上記(5)乃至(7)のいずれかに記載のモータ駆動力伝達装置において、前記減速伝達機構は、前記自転力付与部材が前記入力部材に噛合する内歯、及び前記内歯の軸線に沿って互いに並列する一対の嵌合部を有し、前記ハウジングは、前記第1のハウジングエレメントが前記一対の嵌合部のうち一方の嵌合部に嵌合する円周面を有し、前記第2のハウジングエレメントが前記一対の嵌合部のうち他方の嵌合部に嵌合する円周面を有する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、NVの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るモータ駆動力伝達装置が搭載された車両の概略を説明するために示す平面図。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るモータ駆動力伝達装置を説明するために示す断面図。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係るモータ駆動力伝達装置の減速伝達機構を説明するために模式化して示す断面図。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るモータ駆動力伝達装置のM部分を拡大して示す断面図。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係るモータ駆動力伝達装置を説明するために示す断面図。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係るモータ駆動力伝達装置のN部分を拡大して示す断面図。
【図7】本発明の第3の実施の形態に係るモータ駆動力伝達装置を説明するために示す断面図。
【図8】本発明の第4の実施の形態に係るモータ駆動力伝達装置の減速伝達機構における自転力発生部材とハウジングとの嵌合状態を示す断面図。
【図9】(a)及び(b)は、本発明の他の実施の形態(第4の実施の形態の変形例)に係るモータ駆動力伝達装置の減速伝達機構における自転力発生部材とハウジングとの嵌合状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の第1の実施の形態に係るモータ駆動力伝達装置につき、図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
図1は四輪駆動車の概略を示す。図1に示すように、四輪駆動車101は、駆動源をエンジンとする前輪側の動力系、及び駆動源を電動モータとする後輪側の動力系が用いられ、モータ駆動力伝達装置1,エンジン102,トランスアクスル103,一対の前輪104及び一対の後輪105を備えている。
【0024】
モータ駆動力伝達装置1は、四輪駆動車101における後輪側の動力系に配置され、かつ四輪駆動車101の車体(図示せず)に支持されている。
【0025】
そして、モータ駆動力伝達装置1は、電動モータ4(後述)のモータ回転力に基づく駆動力を一対の後輪105に伝達し得るように構成されている。これにより、電動モータ4のモータ回転力が減速伝達機構5及びリヤディファレンシャル3(共に後述)を介してリヤアクスルシャフト106に出力され、一対の後輪105が駆動される。モータ駆動力伝達装置1等の詳細については後述する。
【0026】
エンジン102は、四輪駆動車101における前輪側の動力系に配置されている。これにより、エンジン102の駆動力がトランスアクスル103を介してフロントアクスルシャフト107に出力され、一対の前輪104が駆動される。
【0027】
(モータ駆動力伝達装置1の全体構成)
図2はモータ駆動力伝達装置の全体を示す。図2に示すように、モータ駆動力伝達装置1は、リヤアクスルシャフト106(図1に示す)の軸線を軸線Oとするハウジング2と、モータ回転力に基づく駆動力を後輪105(図1に示す)に配分するリヤディファレンシャル3と、リヤディファレンシャル3を作動させるためのモータ回転力を発生させる電動モータ4と、電動モータ4のモータ回転力を減速して駆動力をリヤディファレンシャル3に伝達する減速伝達機構5とから大略構成されている。
【0028】
(ハウジング2の構成)
ハウジング2は、後述する自転力付与部材52の他、リヤディファレンシャル3を収容する第1のハウジングエレメント20、電動モータ4を収容する第2のハウジングエレメント21、及び第2のハウジングエレメント21の片側開口部(第1のハウジングエレメント20側の開口部とは反対側の開口部)を閉塞する第3のハウジングエレメント22を有し、車体に配置されている。ハウジング2の材料としては、自転力付与部材52(ハウジング2の構成部材)を除き、例えば線膨張係数を約21.5×10−6/℃とするAl(アルミニウム)系のダイカスト材(ADC12)が用いられる。これにより、ハウジング2の構成部材に全て例えば鉄系のダイカスト材を用いる場合と比べて装置全体の軽量化を図ることができる。
【0029】
第1のハウジングエレメント20は、ハウジング2の軸線方向一方側(図1の左側)に配置され、全体が第2のハウジングエレメント21側に開口する段状の有底円筒部材によって形成されている。第1のハウジングエレメント20の底部には、リヤアクスルシャフト106(図1に示す)を挿通させるシャフト挿通孔20a、及びシャフト挿通孔20aの内周面でその径方向に突出する内フランジ20bが設けられている。内フランジ20bには、両フランジ端面のうち第2のハウジングエレメント21側のフランジ端面及びシャフト挿通孔20aの内部に開口する円環状の切り欠き20cが設けられている。第1のハウジングエレメント20の開口端面には、第2のハウジングエレメント21側に突出する円環状の凸部23が一体に設けられている。凸部23の外周面は、第1のハウジングエレメント20の最大外径よりも小さい外径をもち、かつ軸線Oを中心軸線とする円周面で形成されている。第1のハウジングエレメント20の内周面は、リヤアクスルシャフト106の外周面との間にシャフト挿通孔20aを封止するシール部材24が介在して配置されている。
【0030】
第2のハウジングエレメント21は、ハウジング2の軸線方向中間部に配置され、全体が軸線Oの両方向に開口する無底円筒部材によって形成されている。第2のハウジングエレメント21の片側開口部(第1のハウジングエレメント20側の開口部)には、電動モータ4と減速伝達機構5との間に介在する段状の内フランジ21aが一体に設けられている。内フランジ21aの内周面には、レース取付用の円環部材25が円環状のスペーサ26を介して取り付けられている。第2のハウジングエレメント21の片側開口端面(第1のハウジングエレメント20側の開口端面)には、第1のハウジングエレメント20側に突出する円環状の凸部27が一体に設けられている。凸部27の外周面は、第2のハウジングエレメント21の最大外径よりも小さく、かつ凸部23の外径と略同一の外径をもち、軸線Oを中心軸線とする円周面で形成されている。
【0031】
第3のハウジングエレメント22は、ハウジング2の軸線方向他方側に配置され、全体が第2のハウジングエレメント21側に開口する段状の有底円筒部材によって形成されている。第3のハウジングエレメント22の底部には、リヤアクスルシャフト106を挿通させるシャフト挿通孔22aが設けられている。シャフト挿通孔22aの内側開口周縁には、電動モータ4側に突出するステータ取付用の円筒部22bが一体に設けられている。第3のハウジングエレメント22の内周面は、リヤアクスルシャフト106の外周面との間にシャフト挿通孔22aを封止するシール部材28が介在して配置されている。第3のハウジングエレメント22には、玉軸受34,35と共に本発明の軸受機構を構成する第3の転がり軸受としての玉軸受46(外輪461)の減速伝達機構5と反対側への移動を規制する円環状の段差面22cが設けられている。
【0032】
(リヤディファレンシャル3の構成)
リヤディファレンシャル3は、デフケース30,ピニオンギヤシャフト31,一対のピニオンギヤ32及び一対のサイドギヤ33を有するベベルギヤ式の差動機構からなり、モータ駆動力伝達装置1の一方側に配置されている。
【0033】
これにより、デフケース30の回転力がピニオンギヤシャフト31からピニオンギヤ32を介してサイドギヤ33に配分され、さらにリヤアクスルシャフト106(図1に示す)から左右の後輪105(図1に示す)に伝達される。
【0034】
一方、左右の後輪105間に駆動抵抗差が発生すると、デフケース30の回転力がピニオンギヤ32の自転によって左右の後輪105に差動配分される。
【0035】
デフケース30は、軸線O上に配置され、かつ第1のハウジングエレメント20に玉軸受34(第1の転がり軸受)を介して、また電動モータ4のモータ軸42に玉軸受35(第2の転がり軸受)を介してそれぞれ回転可能に支持されている。そして、デフケース30は、電動モータ4のモータ回転力に基づく駆動力を減速伝達機構5から受けて軸線Oの回りに回転するように構成されている。デフケース30の材料としては、例えば線膨張係数を約12×10−6/℃とする鉄系のダイカスト材(FCD450)が用いられる。また、例えば線膨張係数を約12×10−6/℃とする機械構造用炭素鋼等の鋼材(S35C)を用いた材料からなるデフケースとしてもよい。
【0036】
デフケース30には、差動機構部(ピニオンギヤシャフト31,ピニオンギヤ32及びサイドギヤ33)を収容する収容空間30a、及び収容空間30aに連通して左右のリヤアクスルシャフト106をそれぞれ連結する一対のシャフト挿通孔30bが設けられている。
【0037】
また、デフケース30には、減速伝達機構5に対向する円環状のフランジ30cが一体に設けられている。フランジ30cには、軸線Oの回りに等間隔をもって並列する複数(本実施の形態では6個)のピン取付孔300cが設けられている。デフケース30の軸線方向一方側端部には玉軸受34(内輪340)のモータ軸42側への移動を規制する円環状の段差面30dが、また軸線方向他方側端部には減速伝達機構5側に開口する円環状の凹孔30eがそれぞれ設けられている。凹孔30e内には、玉軸受35(外輪351)のデフケース30側への移動を規制する円環状の段差面300eが設けられている。
【0038】
玉軸受34は、その内外周部で互いに並列する内外2つの軌道輪340,341(内輪340,外輪341)、及び内輪340と外輪341との間で転動する転動体342を有し、第1のハウジングエレメント20におけるシャフト挿通孔20aの内周面とデフケース30における軸線方向一方側端部の外周面との間に介在して配置されている。
【0039】
内輪340は、一方側端面を第1のハウジングエレメント20におけるシャフト挿通孔20a内に露出させるとともに、他方側端面をデフケース30の段差面30dに当接させ、デフケース30における軸線方向一方側端部の外周面にしまりばめによって取り付けられている。
【0040】
外輪341は、一方側端面を第1のハウジングエレメント20における切り欠き20cの底面(内フランジ20bにおけるモータ軸42側のフランジ端面)にスプリング48を介して当接させるとともに、他方側端面を第1のハウジングエレメント20におけるシャフト挿通孔20a内に露出させ、シャフト挿通孔20aの内周面にすきまばめによって取り付けられている。
【0041】
転動体342は、内輪340と外輪341との間に介在して配置され、かつ保持器(図示せず)に転動可能に保持されている。
【0042】
同様に、玉軸受35は、その内外周部で互いに並列する内外2つの軌道輪350,351(内輪350,外輪351)、及び内輪350と外輪351との間で転動する転動体352を有し、第1のハウジングエレメント20における凹孔30eの内周面とモータ軸42における軸線方向一方側端部の外周面との間に介在して配置されている。
【0043】
内輪350は、一方側端面をデフケース30における凹孔30e内に露出させるとともに、他方側端面をモータ軸42における段差面42c(後述)に当接させ、モータ軸42における軸線方向一方側端部の外周面にしまりばめによって取り付けられている。
【0044】
外輪351は、一方側端面をデフケース30における凹孔30eの段差面300eに当接させるとともに、他方側端面をハウジング2における自転力付与部材52内に露出させ、デフケース30における凹孔30eの内周面にすきまばめによって取り付けられている。
【0045】
転動体352は、内輪350と外輪351との間に介在して配置され、かつ保持器(図示せず)に転動可能に保持されている。
【0046】
スプリング48は、例えば皿ばねからなり、第1のハウジングエレメント20における切り欠き20cの底面と玉軸受34における外輪341の一方側端面との間に介在して配置されている。そして、スプリング48は、そのばね力Pを玉軸受34,35,46(玉軸受46は後述)に例えば図2に矢印で示す方向(ばね力Pの方向)にアキシアル荷重として玉軸受34,35,46に付与する。すなわち、玉軸受34,35,46に対するアキシアル荷重が定圧予圧によって付与される。スプリング48としては、皿ばねに代えて例えば波ばねを用いてもよい。
【0047】
ピニオンギヤシャフト31は、デフケース30の収容空間30aで軸線Oに直交する軸線L上に配置され、かつ軸線L回りの回転及び軸線L方向の移動がピン36によって規制されている。
【0048】
一対のピニオンギヤ32は、ピニオンギヤシャフト31に回転可能に支持され、かつデフケース30の収容空間30aに収容されている。
【0049】
一対のサイドギヤ33は、デフケース30の収容空間30aに収容され、かつシャフト挿通孔30bを挿通するリヤアクスルシャフト106(図1に示す)にスプライン嵌合によって連結されている。そして、一対のサイドギヤ33は、そのギヤ軸を一対のピニオンギヤ32のギヤ軸に直交させ、一対のピニオンギヤ32に噛合するように構成されている。
【0050】
(電動モータ4の構成)
電動モータ4は、ステータ40,ロータ41及びモータ軸42(偏心部付きのモータ軸)を有し、軸線O上でリヤディファレンシャル3に減速伝達機構5を介して連結され、かつステータ40がECU(Electronic Control Unit:図示せず)に接続されている。そして、電動モータ4は、ステータ40がECUから制御信号を入力してリヤディファレンシャル3を作動させるためのモータ回転力をロータ41との間で発生させ、ロータ41をモータ軸42と共に回転させるように構成されている。
【0051】
ステータ40は、電動モータ4の外周側に配置され、かつ第2のハウジングエレメント21における内フランジ21aに取付ボルト43によって取り付けられている。
【0052】
ロータ41は、電動モータ4の内周側に配置され、かつモータ軸42の外周面に取り付けられている。
【0053】
モータ軸42は、軸線O上に配置され、かつ一方側端部が円環部材25の内周面に玉軸受44及びスリーブ45を介して、また他方側端部が第3のハウジングエレメント22の内周面に玉軸受46を介してそれぞれ回転可能に支持され、全体がリヤアクスルシャフト106(図1に示す)を挿通させる円筒状の軸部材によって形成されている。
【0054】
モータ軸42の軸線方向一方側端部には、その軸線(軸線O)に偏心量δをもって偏心する軸線Oをもつ平面円形状の偏心部42a、及び軸線Oに偏心量δ(δ=δ=δ)をもって偏心する軸線Oをもつ平面円形状の偏心部42bが一体に設けられている。また、モータ軸42の軸線方向一方側端部には、玉軸受35(内輪350)の減速伝達機構5側への移動を規制する円環状の段差面42cが設けられている。そして、一方の偏心部42aと他方の偏心部42bとは、軸線Oの回りに等間隔(180°)をもって並列する位置に配置されている。すなわち、一方の偏心部42aと他方の偏心部42bとは、軸線Oから軸線Oまでの距離と軸線Oから軸線Oまでの距離とを等しく、かつ軸線Oと軸線Oとの間の軸線O回りの距離を等しくするようにモータ軸42の外周面に配置されている。また、偏心部42aと偏心部42bとは、軸線Oの方向に沿って並列する位置に配置されている。
【0055】
モータ軸42の軸線方向他方側端部には、その外周面と円筒部22bの内周面との間に介在する回転角度検出器としてのレゾルバ47が配置されている。また、モータ軸42の軸線方向他方側端部には、玉軸受46(内輪460)の減速伝達機構5側への移動を規制する円環状の段差面42dが設けられている。レゾルバ47は、ステータ470及びロータ471を有し、第3のハウジングエレメント22内に収容されている。ステータ470は円筒部22bの内周面に、ロータ471はモータ軸42の外周面にそれぞれ取り付けられている。
【0056】
玉軸受46は、その内外周部で互いに並列する内外2つの軌道輪460,461(内輪460,外輪461)、及び内輪460と外輪461との間で転動する転動体462を有し、モータ軸42における軸線方向他方端部の外周面と第3のハウジングエレメント22の段差面22cとの間に介在して配置されている。
【0057】
内輪460は、一方側端面をモータ軸42における段差面42dに当接させるとともに、他方側端面を第3のハウジングエレメント22のシャフト挿通孔22a内に露出させ、モータ軸42における軸線方向他方側端部の外周面にしまりばめによって取り付けられている。
【0058】
外輪461は、一方側端面を第3のハウジングエレメント22におけるシャフト挿通孔22a内に露出させるとともに、他方側端面を第3のハウジングエレメント22における段差面22cに当接させ、第3のハウジングエレメント22におけるシャフト挿通孔22aの内周面にすきまばめによって取り付けられている。
【0059】
転動体462は、内輪460と外輪461との間に介在して配置され、かつ保持器(図示せず)に転動可能に保持されている。
【0060】
(減速伝達機構5の構成)
図3は減速伝達機構を示す。図2及び3に示すように、減速伝達機構5は、一対の入力部材50・51,自転力付与部材52及び出力部材53を有し、リヤディファレンシャル3と電動モータ4との間に介在して配置されている。そして、減速伝達機構5は、前述したように、電動モータ4のモータ回転力を減速して駆動力をリヤディファレンシャル3に伝達するように構成されている。
【0061】
一方の入力部材50は、軸線Oを中心軸線とする中心孔50aを有する外歯歯車からなり、他方の入力部材51のリヤディファレンシャル3側に配置され、かつ中心孔50aの内周面と偏心部42aとの間に玉軸受54を介して回転可能に支持されている。そして、一方の入力部材50は、電動モータ4からモータ回転力を受けて偏心量δをもつ矢印m,m方向の円運動(軸線O回りの公転運動)を行うように構成されている。一方の入力部材50の材料としては、デフケース30の材料と同一の材料が用いられる。また、一方の入力部材50の材料には、デフケース30の線膨張係数と同等の線膨張係数をもつ材料を用いてもよい。
【0062】
一方の入力部材50には、軸線O回りに等間隔をもって並列する複数(本実施の形態では6個)のピン挿通孔50bが設けられている。ピン挿通孔50bの孔径は、出力部材53の外径に針状ころ軸受55(後述)の外径を加えた寸法よりも大きい寸法に設定されている。一方の入力部材50の軸線Oを中心軸線とする外周面には、インボリュート歯形をもつ外歯50cが設けられている。外歯50cの歯数Zは例えばZ=195に設定されている。
【0063】
他方の入力部材51は、軸線Oを中心軸線とする中心孔51aを有する外歯歯車からなり、一方の入力部材50の電動モータ4側に配置され、かつ中心孔51aの内周面と偏心部42bとの間に玉軸受56を介して回転可能に支持されている。そして、他方の入力部材51は、電動モータ4からモータ回転力を受けて偏心量δをもつ矢印m,m方向の円運動(軸線O回りの公転運動)を行うように構成されている。他方の入力部材51の材料としては、デフケース30の材料と同一の材料が用いられる。また、他方の入力部材51の材料には、デフケース30の線膨張係数と同等の線膨張係数をもつ材料を用いてもよい。
【0064】
他方の入力部材51には、軸線O回りに等間隔をもって並列する複数(本実施の形態では6個)のピン挿通孔51bが設けられている。ピン挿通孔51bの孔径は、出力部材53の外径に針状ころ軸受57(後述)の外径を加えた寸法よりも大きい寸法に設定されている。他方の入力部材51の軸線Oを中心軸線とする外周面には、インボリュート歯形をもつ外歯51cが設けられている。外歯51cの歯数Z(Z=Z)は例えばZ=195に設定されている。
【0065】
自転力付与部材52は、軸線Oを中心軸線とする内歯歯車からなり、第1のハウジングエレメント20と第2のハウジングエレメント21との間に介在して配置され、全体が軸線Oの両方向に開口してハウジング2の一部を構成する無底円筒部材によって形成されている。そして、自転力付与部材52は、一対の入力部材50,51に噛合し、電動モータ4のモータ回転力を受けて公転する一方の入力部材50に矢印n,n方向の自転力を、また他方の入力部材51に矢印l,l方向の自転力をそれぞれ付与するように構成されている。自転力付与部材52の材料としては、デフケース30の材料すなわち入力部材50,51の材料と同一の材料が用いられる。
【0066】
なお、本実施の形態における自転力付与部材52は、その材料が入力部材50,51の材料と同一である場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、デフケース30の線膨張係数と同等の線膨張係数をもつ材料を用いてもよく、線膨張係数が第1のハウジングエレメント20及び第2のハウジングエレメント21の線膨張係数よりも入力部材50,51の線膨張係数に近い材料であればよい。
【0067】
ここで、モータ駆動力伝達装置1を構成する各部材(デフケース30,第1のハウジングエレメント20,第2のハウジングエレメント21,入力部材50・51,自転力付与部材52)間における材料の線膨脹係数について纏めると、次に示す関係がある。
【0068】
入力部材50,51の材料の線膨張係数と自転力付与部材52の材料の線膨張係数との差の絶対値は、入力部材50,51の材料の線膨張係数と第1のハウジングエレメント20の材料の線膨張係数との差の絶対値よりも小さく、入力部材50,51の材料の線膨張係数と第2のハウジングエレメント21の材料の線膨張係数との差の絶対値よりも小さい。
【0069】
そして、入力部材50,51の材料の線膨張係数と自転力付与部材52の材料の線膨張係数との差の絶対値は、自転力付与部材52の材料の線膨張係数と第1のハウジングエレメント20の材料の線膨張係数との差の絶対値よりも小さいことが好ましく、自転力付与部材52の材料の線膨張係数と第2ハウジングエレメント21の材料の線膨張係数との差の絶対値よりも小さいことが好ましい。
【0070】
また、デフケース30の材料の線膨張係数と自転力付与部材52の材料の線膨張係数との差の絶対値は、デフケース30の材料の線膨張係数と第1のハウジングエレメント20の材料の線膨張係数との差の絶対値よりも小さいことが好ましく、デフケース30の材料の線膨張係数と第2のハウジングエレメント21の材料の線膨張係数との差の絶対値よりも小さいことが好ましく、自転力付与部材52の材料の線膨張係数と第1のハウジングエレメント20の材料の線膨張係数との差の絶対値よりも小さいことが好ましく、自転力付与部材52の材料の線膨張係数と第2のハウジングエレメント21の材料の線膨張係数との差の絶対値よりも小さいことが好ましい。
【0071】
さらに、入力部材50,51の材料の線膨張係数とデフケース30の材料の線膨張係数との差の絶対値は、入力部材50,51の材料の線膨張係数と第1のハウジングエレメント20の材料の線膨張係数との差の絶対値よりも小さいことが好ましく、入力部材50,51の材料の線膨張係数と第2のハウジングエレメント21の材料の線膨張係数との差の絶対値よりも小さいことが好ましく、デフケース30の材料の線膨張係数と第1のハウジングエレメント20の材料の線膨張係数との差の絶対値よりも小さいことが好ましく、デフケース30の材料の線膨張係数と第2のハウジングエレメント21の材料の線膨張係数との差の絶対値よりも小さいことが好ましい。
【0072】
このような各部材間における材料の線膨脹係数についての関係は、モータ駆動力伝達装置1の使用される環境の温度である−40℃から150℃の間までの少なくとも一部の範囲で成り立っていることが好ましく、−40℃から150℃までの間の全ての範囲で成り立っていることが好ましい。
【0073】
自転力付与部材52の内周面には、凸部23の外周面に嵌合する第1の嵌合部52a、及び凸部27の外周面に嵌合する第2の嵌合部52bが軸線Oの方向に所定の間隔をもって設けられている。また、自転力付与部材52の内周面には、第1の嵌合部52aと第2の嵌合部52bとの間に介在して一方の入力部材50の外歯50c及び他方の入力部材51の外歯51cに噛合するインボリュート歯形の内歯52cが設けられている。内歯52cの歯数Zは例えばZ=208に設定されている。減速伝達機構5の減速比αはα=(Z−Z)/Zから算出される。
【0074】
出力部材53は、一方側端部にねじ部53aを有するとともに、他方側端部に頭部53bを有する複数(本実施の形態では6個)のボルトからなり、一方の入力部材50のピン挿通孔50b及び他方の入力部材51のピン挿通孔51bを挿通してデフケース30のピン取付孔300cにねじ部53aが取り付けられている。また、出力部材53は、頭部53bと他方の入力部材51との間に介在する円環状のスペーサ58を挿通し、軸線Oの回りに等間隔をもって配置されている。そして、出力部材53は、自転力付与部材52によって付与された自転力を一対の入力部材50,51から受けてデフケース30にその回転力として出力するように構成されている。出力部材53の材料としては、デフケース30の材料と同一の材料が用いられる。また、出力部材53の材料には、デフケース30の線膨張係数と同等の線膨張係数をもつ材料を用いてもよい。
【0075】
出力部材53の外周面であって、ねじ部53aと頭部53bとの間に介在する部位には、一方の入力部材50におけるピン挿通孔50bの内周面との接触抵抗を低減するための針状ころ軸受55が、また他方の入力部材51におけるピン挿通孔51bとの接触抵抗を低減するための針状ころ軸受57がそれぞれ取り付けられている。
【0076】
このように構成されたモータ駆動力伝達装置においては、図2に示すように、第1のハウジングエレメント20の切り欠き20cの底面と玉軸受34の外輪341の一方側端面との間に介在するスプリング48のばね力Pが玉軸受34,35,46にアキシアル荷重(定圧予圧)として作用する。
【0077】
上記した定圧予圧を玉軸受34,35,46に与えるには、第3のハウジングエレメント22における段差面22cに外輪461を当接させて玉軸受46をモータ軸42と第3のハウジングエレメント22との間に、デフケース30における凹孔30eの段差面300eに外輪351を当接させて玉軸受35をデフケース30とモータ軸42との間に、また第1のハウジングエレメント20における切り欠き20cの底面にスプリング48を介して外輪341を当接させて玉軸受34を第1のハウジングエレメント20とデフケース30との間にそれぞれ組み込む。そして、これら状態を維持し、締付ボルト84を用いた第3のハウジングエレメント22に対する第1のハウジングエレメント20及び第2のハウジングエレメント21の締め付けによって第1のハウジングエレメント20における切り欠き20cの底面と第3のハウジングエレメント22における段差面22cとの間の軸線方向の長さを調整し、スプリング48を軸線方向に圧縮させる。これにより、各玉軸受34,35,46のアキシアル方向のすきまがなくなり、あるいは各玉軸受34,35,46のアキシアル方向のすきまが負すきまとされる。
【0078】
この場合、スプリング48のばね力Pは、玉軸受34の外輪341に作用し、これに伴い転動体342を介して内輪340に伝達され、内輪340から段差面30dを介してデフケース30に作用する。
【0079】
一方、玉軸受34の内輪340がデフケース30から段差面30dを介してばね力Pの反力P´(|P|=|P´|)を受け、内輪340及び外輪341が図4に示すように玉軸受34の軸線に沿って互いに離間する方向に、すなわち玉軸受34のアキシアルすきまを低減する方向に相対移動する。本実施の形態では、外輪341が内輪340に対し玉軸受34の軸線に沿って減速伝達機構5側に移動する。
【0080】
デフケース30では、玉軸受34の内輪340から段差面30dを介してばね力Pを受けると、ばね力Pが玉軸受35の外輪351に作用する。これに伴い、ばね力Pが外輪351から転動体352を介して内輪350に伝達され、さらに内輪350から段差面42cを介してモータ軸42に作用する。
【0081】
一方、玉軸受35の内輪350がモータ軸42から段差面42cを介してばね力Pの反力P´を受け、内輪350及び外輪351が玉軸受35の軸線に沿って互いに離間する方向に、すなわち玉軸受35のアキシアルすきまを低減する方向に相対移動する。本実施の形態では、外輪351が内輪350に対し玉軸受35の軸線に沿って減速伝達機構5側に移動する。
【0082】
モータ軸42では、玉軸受35の内輪350から段差面42cを介してばね力Pを受けると、ばね力Pが玉軸受46の内輪460に段差面42dを介して作用する。これに伴い、ばね力Pが転動体462を介して外輪461に伝達され、さらに外輪461から段差面22cを介して第3のハウジングエレメント22に作用する。
【0083】
一方、玉軸受46の外輪461が第3のハウジングエレメント22から段差面22cを介してばね力Pの反力P´を受け、内輪460及び外輪461が玉軸受46の軸線に沿って互いに離間する方向に、すなわち玉軸受46のアキシアルすきまを低減する方向に相対移動する。本実施の形態では、内輪460が外輪461に対し玉軸受46の軸線に沿って電動モータ4側と反対側にモータ軸42と共に移動する。
【0084】
従って、本実施の形態においては、ハウジング2の軸線方向長の調整時に内輪340及び外輪341が玉軸受34のアキシアルすきまを、内輪350及び外輪351が玉軸受35のアキシアルすきまを、また内輪460及び外輪461が玉軸受46のアキシアルすきまをそれぞれ低減する方向に相対移動するため、玉軸受34,35,46のアキシアルすきまを低減することができる。
【0085】
また、本実施の形態においては、モータ軸42が偏心部42a,42bを有する偏心部付きのモータ軸であるため、従来のようには電動モータのモータ軸と減速伝達機構の回転軸との間に径方向すきまや軸方向すきまが存在しない。
【0086】
(モータ駆動力伝達装置1の動作)
次に、本実施の形態に示すモータ駆動力伝達装置の動作につき、図1〜図3を用いて説明する。
【0087】
図2において、モータ駆動力伝達装置1の電動モータ4に電力を供給して電動モータ4を駆動すると、この電動モータ4のモータ回転力がモータ軸42を介して減速伝達機構5に付与され、減速伝達機構5が作動する。
【0088】
このため、減速伝達機構5において、入力部材50,51が例えば図3に示す矢印m方向に偏心量δをもって円運動を行う。
【0089】
これに伴い、入力部材50が外歯50cを自転力付与部材52の内歯52cに噛合させながら軸線Oの回り(図3に示す矢印n方向)に、また入力部材51が外歯51cを自転力付与部材52の内歯52cに噛合させながら軸線Oの回り(図3に示す矢印l方向)にそれぞれ自転する。この場合、入力部材50,51の自転によって図2に示すようにピン挿通孔50bの内周面が針状ころ軸受55のレース550に、またピン挿通孔51bの内周面が針状ころ軸受57のレース570にそれぞれ当接する。
【0090】
このため、出力部材53には入力部材50,51の公転運動が伝達されず、入力部材50,51の自転運動のみが伝達され、この自転運動による自転力が出力部材53からデフケース30にその回転力として出力される。
【0091】
これにより、ディファレンシャル3が作動し、電動モータ4のモータ回転力に基づく駆動力が図1におけるリヤアクスルシャフト106に配分され、左右の後輪105に伝達される。
【0092】
ここで、モータ駆動力伝達装置1において、その動作に伴う温度上昇が生じると、各構成部材が熱膨張する。例えば、ハウジング2(第1のハウジングエレメント20及び第2のハウジングエレメント21),減速伝達機構5及びデフケース30が熱膨張したとする。
【0093】
この場合、自転力付与部材52と第1のハウジングエレメント20,第2のハウジングエレメント21及び第3のハウジングエレメント22とが別部材であり、かつデフケース30の線膨張係数と減速伝達機構5の構成部材(入力部材50・51,自転力付与部材52,出力部材53)の線膨張係数とが同一の線膨張係数に設定されているため、デフケース30及び減速伝達機構5がモータ駆動力伝達装置1の動作に伴う温度上昇によってそれぞれ同一の熱膨張量で、第1のハウジングエレメント20,第2のハウジングエレメント21及び第3のハウジングエレメント22の熱膨張量よりも小さい熱膨張量をもって熱膨張し、自転力付与部材52が第1のハウジングエレメント20及び第2のハウジングエレメント21に、また出力部材53がデフケース30にそれぞれ拘束されることはない。
【0094】
一方、デフケース30及び減速伝達機構5が温度降下した場合にはそれぞれ同一の熱収縮量で、第1のハウジングエレメント20,第2のハウジングエレメント21及び第3のハウジングエレメント22の熱収縮量よりも小さい熱収縮量をもって熱収縮し、自転力付与部材52が第1のハウジングエレメント20及び第2のハウジングエレメント21に、また出力部材53がデフケース30にそれぞれ拘束されることはない。
【0095】
なお、上記実施の形態においては、入力部材50,51を矢印m方向に円運動させてモータ駆動力伝達装置1を作動させる場合について説明したが、入力部材50,51を矢印m方向に円運動させてもモータ駆動力伝達装置1を上記実施の形態と同様に作動させることができる。この場合、入力部材50の自転運動は矢印n方向に、また入力部材51の自転運動は矢印l方向にそれぞれ行われる。
【0096】
[第1の実施の形態の効果]
以上説明した第1の実施の形態によれば、次に示す効果が得られる。
【0097】
(1)従来のようには電動モータのモータ軸と減速伝達機構の回転軸との間に径方向すきまが存在せず、また玉軸受34,35,46のアキシアルすきまを低減することができるため、NVの発生を抑制することができる。
【0098】
(2)モータ駆動力伝達装置1の動作に伴う温度変化によって自転力付与部材52及び出力部材53の熱膨張・熱収縮が拘束されず、入力部材50,51と自転力付与部材52との間での寸法変化及び出力部材53と入力部材50,51との間での寸法変化の発生を抑制することができる。
【0099】
(3)自転力付与部材52がハウジング2の一部を構成する円筒部材によって形成されているため、自転力付与部材52をハウジング2内に収容する場合と比べて自転力付与部材52の外径を大きい寸法に設定することができ、自転力付与部材52の機械的強度を高めることができる。また、自転力付与部材52がハウジング2の一部を構成することは、装置全体の径方向寸法を短縮して小型化を図ることができる。
【0100】
(4)自転力付与部材52の第1の嵌合部52aを凸部23の外周面に、また第2の嵌合部52bを凸部27の外周面にそれぞれ嵌合させて芯合わせを行うことができ、自転力付与部材52の製造加工を簡単に行うことができる。
【0101】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態に係るモータ駆動力伝達装置につき、図5及び図6を用いて説明する。図5はモータ駆動力伝達装置の全体を示す。図6はモータ駆動力伝達装置の要部を示す。図5及び図6において、図2及び図4と同一又は同等の機能をもつ部材については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0102】
図5及び図6に示すように、本発明の第2の実施の形態に係るモータ駆動力伝達装置10は、玉軸受34,35,46に付与されるアキシアル荷重となるばね力P,−Pがデフケース30及び玉軸受34の内輪340にスプリング85によって付与されている点に特徴がある。
【0103】
このため、スプリング85は、内輪340の端面(減速伝達機構5側の端面)とデフケース30の軸線方向中央部(段差面30d)との間に介在し、デフケース30における軸線方向一方側端部の外周囲に配置されている。スプリング85には、玉軸受34,35,46に付与されるアキシアル荷重となるばね力をもつ皿ばねが用いられる。なお、スプリング85としては、皿ばねに代えて波ばねを用いてもよい。
【0104】
また、スプリング85は、玉軸受34の内輪340側において円環状のスペーサ86が配置されている。スペーサ86は、デフケース30における軸線方向一方側端部の外周囲に配置されている。
【0105】
このように構成されたモータ駆動力伝達装置においては、図5に示すように、玉軸受34の内輪340(スペーサ86)とデフケース30の段差面30dとの間に介在するスプリング85のばね力P,−Pが玉軸受34,35,46にアキシアル荷重(定圧予圧)として作用する。
【0106】
上記した定圧予圧を玉軸受34,35,46に与えるには、第3のハウジングエレメント22における段差面22cに外輪461を当接させて玉軸受46をモータ軸42と第3のハウジングエレメント22との間に、デフケース30における凹孔30eの段差面300eに外輪351を当接させて玉軸受35をデフケース30とモータ軸42との間に、また第1のハウジングエレメント20における切り欠き20cの底面に外輪341を当接させるとともに、内輪340とデフケース30の段差面30dとの間にスプリング85を介在させて玉軸受34を第1のハウジングエレメント20とデフケース30との間にそれぞれ組み込む。そして、これら状態を維持し、締付ボルト84を用いた第3のハウジングエレメント22に対する第1のハウジングエレメント20及び第2のハウジングエレメント21の締め付けによって第1のハウジングエレメント20における切り欠き20cの底面と第3のハウジングエレメント22における段差面22cとの間の軸線方向の長さを調整し、スプリング85を軸線方向に圧縮させる。これにより、各玉軸受34,35,46のアキシアル方向のすきまがなくなり、あるいは各玉軸受34,35,46のアキシアル方向のすきまが負すきまとされる。
【0107】
この場合、スプリング85のばね力−Pは、玉軸受34の内輪340に作用し、これに伴い転動体342を介して外輪341に伝達され、外輪341から切り欠き20cの底面を介して第1のハウジングエレメント20に作用する。また、スプリング85のばね力Pは、デフケース30の軸線方向中央部(段差面30d)に作用する。
【0108】
一方、玉軸受34の外輪341が第1のハウジングエレメント20から切り欠き20cの底面を介してばね力−Pの反力−P´(|−P|=|−P´|)を受け、内輪340及び外輪341が図6に示すように玉軸受34の軸線に沿って互いに離間する方向に、すなわち玉軸受34のアキシアルすきまを低減する方向に相対移動する。本実施の形態では、内輪340が外輪341に対し玉軸受34の軸線に沿って減速伝達機構5側と反対側に移動する。
【0109】
デフケース30では、玉軸受34の内輪340から段差面30dを介してばね力Pを受けると、ばね力Pが玉軸受35の外輪351に作用する。これに伴い、ばね力Pが外輪351から転動体352を介して内輪350に伝達され、さらに内輪350から段差面42cを介してモータ軸42に作用する。
【0110】
一方、玉軸受35の内輪350がモータ軸42から段差面42cを介してばね力Pの反力P´(|P|=|P´|)を受け、内輪350及び外輪351が玉軸受35の軸線に沿って互いに離間する方向に、すなわち玉軸受35のアキシアルすきまを低減する方向に相対移動する。本実施の形態では、外輪351が内輪350に対し玉軸受35の軸線に沿って減速伝達機構5側に移動する。
【0111】
モータ軸42では、玉軸受35の内輪350から段差面42cを介してばね力Pを受けると、ばね力Pが玉軸受46の内輪460に段差面42dを介して作用する。これに伴い、ばね力Pが転動体462を介して外輪461に伝達され、さらに外輪461から段差面22cを介して第3のハウジングエレメント22に作用する。
【0112】
一方、玉軸受46の外輪461が第3のハウジングエレメント22から段差面22cを介してばね力Pの反力P´を受け、内輪460及び外輪461が玉軸受46の軸線に沿って互いに離間する方向に、すなわち玉軸受46のアキシアルすきまを低減する方向に相対移動する。本実施の形態では、内輪460が外輪461に対し玉軸受46の軸線に沿って電動モータ4側と反対側にモータ軸42と共に移動する。
【0113】
従って、本実施の形態においては、ハウジング2の軸線方向長の調整時に内輪340及び外輪341が玉軸受34のアキシアルすきまを、内輪350及び外輪351が玉軸受35のアキシアルすきまを、また内輪460及び外輪461が玉軸受46のアキシアルすきまをそれぞれ低減する方向に相対移動するため、玉軸受34,35,46のアキシアルすきまを低減することができる。
【0114】
また、本実施の形態においては、モータ軸42が偏心部42a,42bを有する偏心部付きのモータ軸であるため、従来のようには電動モータのモータ軸と減速伝達機構の回転軸との間に径方向すきまや軸方向すきまが存在しない。
【0115】
[第2の実施の形態の効果]
以上説明した第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態の効果と同様の効果が得られる。
【0116】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3実施の形態に係るモータ駆動力伝達装置につき、図7を用いて説明する。図7はモータ駆動力伝達装置の全体を示す。図7において、図2と同一又は同等の機能をもつ部材については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0117】
図7に示すように、本発明の第3の実施の形態に係るモータ駆動力伝達装置100は、玉軸受34,35,46に対するアキシャル荷重が定位置予圧により付与されている点に特徴がある。
【0118】
玉軸受34の内輪340は、一方側端面を第1のハウジングエレメント20におけるシャフト挿通孔20a内に露出させるとともに、他方側端面をデフケース30の段差面30dに当接させ、デフケース30における軸線方向一方側端部の外周面にしまりばめによって取り付けられている。
【0119】
玉軸受34の外輪341は、一方側端面を第1のハウジングエレメント20における切り欠き20cの底面に当接させるとともに、他方側端面を第1のハウジングエレメント20におけるシャフト挿通孔20a内に露出させ、シャフト挿通孔20aの内周面にすきまばめによって取り付けられている。
【0120】
転動体342は、内輪340と外輪341との間に介在して配置され、かつ保持器(図示せず)に転動可能に保持されている。
【0121】
玉軸受35の内輪350は、一方側端面をデフケース30における凹孔30e内に露出させるとともに、他方側端面をモータ軸42における段差面42cに当接させ、モータ軸42における軸線方向一方側端部の外周面にしまりばめによって取り付けられている。
【0122】
玉軸受35の外輪351は、一方側端面をデフケース30における凹孔30eの段差面300eに当接させるとともに、他方側端面をハウジング2における自転力付与部材52内に露出させ、デフケース30における凹孔30eの内周面にすきまばめによって取り付けられている。
【0123】
転動体352は、内輪350と外輪351との間に介在して配置され、かつ保持器(図示せず)に転動可能に保持されている。
【0124】
玉軸受46の内輪460は、一方側端面をモータ軸42における段差面42dに当接させるとともに、他方側端面を第3のハウジングエレメント22のシャフト挿通孔22a内に露出させ、モータ軸42における軸線方向他方側端部の外周面にしまりばめによって取り付けられている。
【0125】
玉軸受46の外輪461は、一方側端面を第3のハウジングエレメント22におけるシャフト挿通孔22a内に露出させるとともに、他方側端面を第3のハウジングエレメント22における段差面22cに当接させ、第3のハウジングエレメント22におけるシャフト挿通孔22aの内周面にすきまばめによって取り付けられている。
【0126】
転動体462は、内輪460と外輪461との間に介在して配置され、かつ保持器(図示せず)に転動可能に保持されている。
【0127】
このように構成されたモータ駆動力伝達装置100においては、図7に示すように、締付ボルト84を用いた第3のハウジングエレメント22に対する第1のハウジングエレメント20及び第2のハウジングエレメント21の締め付けによる締付力Pが玉軸受34,35,46にアキシアル荷重(定位置予圧)として作用する。
【0128】
上記した定位置予圧を玉軸受34,35,46に与えるには、第3のハウジングエレメント22における段差面22cに外輪461を当接させて玉軸受46をモータ軸42と第3のハウジングエレメント22との間に、デフケース30における凹孔30eの段差面300eに外輪351を当接させて玉軸受35をデフケース30とモータ軸42との間に、また第1のハウジングエレメント20における切り欠き20cの底面に外輪341を当接させて玉軸受34を第1のハウジングエレメント20とデフケース30との間にそれぞれ組み込む。そして、これら状態を維持し、締付ボルト84を用いた第3のハウジングエレメント22に対する第1のハウジングエレメント20及び第2のハウジングエレメント21の締め付けによって第1のハウジングエレメント20における切り欠き20cの底面と第3のハウジングエレメント22における段差面22cとの間の軸線方向の長さを調整する。これにより、各玉軸受34,35,46のアキシアル方向のすきまがなくなり、あるいは各玉軸受34,35,46のアキシアル方向のすきまが負すきまとされる。
【0129】
この場合、締付ボルト84による締付時に発生する締付力Pは、第1のハウジングエレメント20の切り欠き20cの底面から玉軸受34の外輪341に作用し、これに伴い転動体342を介して内輪340に伝達され、内輪340から段差面30dを介してデフケース30に作用する。
【0130】
一方、玉軸受34の内輪340がデフケース30から段差面30dを介して締付力Pの反力P’(|P|=|P´|)を受け、内輪340及び外輪341が玉軸受の軸線に沿って互いに離間する方向に、すなわち玉軸受34のアキシアルすきまを低減する方向に相対移動する。本実施の形態では、外輪341が内輪340に対して玉軸受34の軸線に沿って減速伝達機構5側に移動する。
【0131】
デフケース30では、玉軸受34の内輪340から段差面30dを介して締付力Pを受けると、締付力Pが玉軸受35の外輪351に作用する。これに伴い、締付力Pが外輪351から転動体352を介して内輪350に伝達され、さらに内輪350から段差面42cを介してモータ軸42に作用する。
【0132】
一方、玉軸受35の内輪350がモータ軸42から段差面42cを介して締付力Pの反力P´を受け、内輪350及び外輪351が玉軸受35の軸線に沿って互いに離間する方向に、すなわち玉軸受35のアキシアルすきまを低減する方向に相対移動する。本実施の形態では、外輪351が内輪350に対し玉軸受35の軸線にそって減速伝達機構5側に移動する。
【0133】
モータ軸42では、玉軸受35の内輪350から段差面42cを介して締付力Pを受けると、締付力Pが玉軸受46の内輪460に段差面42dを介して作用する。これに伴い、締付力Pが転動体462を介して外輪461に伝達され、さらに外輪461から段差面22cを介して第3のハウジングエレメント22に作用する。
【0134】
一方、玉軸受46の外輪461が第3のハウジングエレメント22から段差面22cを介して締付力Pの反力P´を受け、内輪460及び外輪461が玉軸受46の軸線に沿って互いに離間する方向に、すなわち玉軸受46のアキシアルすきまを低減する方向に相対移動する。本実施の形態では、内輪460が外輪461に対し玉軸受46の軸線に沿って電動モータ4側と反対側にモータ軸42とともに移動する。
【0135】
従って、本実施の形態においては、ハウジング2の軸線方向長の調整時に内輪340及び外輪341が玉軸受34のアキシアルすきまを、内輪350及び外輪351が玉軸受35のアキシアルすきまを、また内輪460及び外輪461が玉軸受46のアキシアルすきまをそれぞれ低減することができる。
【0136】
また、本実施の形態においては、モータ軸42が偏心部42a,42bを有する偏心部付きのモータ軸であるため、従来のようには電動モータのモータ軸と減速伝達機構の回転軸との間に径方向すきまや軸方向すきまが存在しない。
【0137】
[第3の実施の形態の効果]
以上説明した第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態の効果と同様の効果が得られる。
【0138】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4実施の形態に係るモータ駆動力伝達装置につき、図8を用いて説明する。図8は減速伝達機構における自転力付与部材の嵌合状態を示す。図8において、図2と同一又は同等の機能をもつ部材については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0139】
図8示すように、本発明の第4の実施の形態に係るモータ駆動力伝達装置70は、減速伝達機構71の自転力付与部材72が第1のハウジングエレメント20の内周面に嵌合する第1の嵌合部72aと第2のハウジングエレメント21の内周面に嵌合する第2の嵌合部72bとを有する点に特徴がある。
【0140】
このため、第1のハウジングエレメント20の開口端面には、第2のハウジングエレメント21側に突出する円環状の凸部73が一体に設けられている。凸部73の内周面は、第1のハウジングエレメント20における最大内径よりも大きい内径をもち、軸線Oを中心軸線とする円周面で形成されている。
【0141】
第2のハウジングエレメント21の片側開口端面(第1のハウジングエレメント20側の開口端面)には、第1のハウジングエレメント20側に突出する円環状の凸部74が一体に設けられている。凸部74の内周面は、第2のハウジングエレメント21の最大内径よりも大きく、かつ凸部73の内径と略同一の内径をもち、軸線Oを中心軸線とする円周面で形成されている。
【0142】
自転力付与部材72の内周面には、第1の嵌合部72aと第2の嵌合部72bとの間に介在し、かつ入力部材50の外歯50c及び入力部材51の外歯51cに噛合する内歯72cが設けられている。
【0143】
このように構成されたモータ駆動力伝達装置70においては、第1の実施の形態に示すモータ駆動力伝達装置1と同様に、動作に伴う温度上昇が生じると、各構成部材(入力部材50・51,自転力付与部材72及び出力部材53,デフケース30)が同一の熱膨張量で、第1のハウジングエレメント20,第2のハウジングエレメント21及び第3のハウジングエレメント22(図2に示す)の熱膨張量よりも小さいを熱膨張量をもって熱膨張し、自転力付与部材72が第1のハウジングエレメント20及び第2のハウジングエレメント21に、また出力部材53がデフケース30にそれぞれ拘束されることはない。
【0144】
一方、デフケース30及び減速伝達機構71が温度降下した場合には各構成部材が同一の熱収縮量で、第1のハウジングエレメント20,第2のハウジングエレメント21及び第3のハウジングエレメント22の熱収縮量よりも小さい熱収縮量をもって熱収縮し、自転力付与部材72が第1のハウジングエレメント20及び第2のハウジングエレメント21に、また出力部材53がデフケース30にそれぞれ拘束されることはない。
【0145】
[第4の実施の形態の効果]
以上説明した第4の実施の形態によれば、第1の実施の形態の効果と同様の効果が得られる。
【0146】
以上、本発明のモータ駆動力伝達装置を上記の実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば次に示すような変形も可能である。
【0147】
(1)上記の実施の形態(第1の実施の形態及び第4の実施の形態)では、玉軸受34の外輪341の端面(外輪341における減速伝達機構5側の端面と反対側の端面)と第1のハウジングエレメント20の切り欠き20cの底面との間にスプリング48が介在して配置されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、玉軸受35の外輪351の端面(外輪351における減速伝達機構5側の端面と反対側の端面)とデフケース30の凹孔30eの段差面300eとの間に玉軸受35のアキシアル荷重となるばね力をもつスプリングを、又は玉軸受46の外輪461の端面(外輪461における電動モータ4側の端面と反対側の端面)と第3のハウジングエレメント22の段差面22cとの間に玉軸受46のアキシアル荷重となるばね力をもつスプリングをそれぞれ介在して配置してもよい。
【0148】
(2)上記の実施の形態(第2の実施の形態)では、玉軸受34の内輪340の端面(内輪340における減速伝達機構5側の端面)とデフケース30の段差面30dとの間にスプリング85が介在して配置されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、玉軸受35の内輪350の端面(内輪350における減速伝達機構5側の端面)とモータ軸42の段差面42cとの間に玉軸受35のアキシアル荷重となるばね力をもつスプリングを、又は玉軸受46の内輪460の端面(内輪460における電動モータ4側の端面)とモータ軸42の段差面42dとの間に玉軸受46のアキシアル荷重となるばね力をもつスプリングをそれぞれ介在して配置してもよい。
【0149】
(3)上記の実施の形態では、自転力付与部材52が第1のハウジングエレメント20の外周面(凸部23の外周面)に嵌合する第1の嵌合部52aと第2のハウジングエレメント21の外周面(凸部27の外周面)に嵌合する第2の嵌合部52bとを有する場合(第1の実施の形態)、及び自転力付与部材72が第1のハウジングエレメント20の内周面(凸部73の内周面)に嵌合する第1の嵌合部72aと第2のハウジングエレメント21の内周面(凸部74の内周面)に嵌合する第2の嵌合部72bとを有する場合(第2の実施の形態)について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば図9(a)及び(b)に示すような嵌合構造であってもよい。
【0150】
図9(a)において、自転力付与部材80には、その両開口端面に開口する円環状の凹溝80a,80bが設けられている。第1のハウジングエレメント81には、第2のハウジングエレメント82側の開口端面に突出し、かつ凹溝80aに嵌合する円環状の凸部81aが設けられている。第2のハウジングエレメント82には、第1のハウジングエレメント81側の開口端面に突出し、かつ凹溝80bに嵌合する円環状の凸部82aが設けられている。
【0151】
図9(b)において、第1のハウジングエレメント90には第2のハウジングエレメント91側の開口する円環状の凹溝90aが、また第2のハウジングエレメント91には第1のハウジングエレメント90側に開口する円環状の凹溝91aがそれぞれ設けられている。自転力付与部材92には、凹溝90aに嵌合する凸部92a、及び凹溝91aに嵌合する凸部92bが設けられている。
【0152】
(4)上記の実施の形態では、ハウジング2(自転力部材52を除く),入力部材50・51及び自転力付与部材52が互いに異なる線膨張係数をもつ材料で形成されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、同一の線膨張係数をもつ材料でハウジング,入力部材及び自転力付与部材を形成してもよい。
【0153】
(5)上記実施の形態では、軸線Oから軸線Oまでの距離と軸線Oから軸線Oまでの距離とを等しく、かつ軸線Oと軸線Oとの軸線O回りの距離を等しくするように一方の偏心部42aと他方の偏心部42bとがモータ回転軸42の外周囲に配置されているとともに、軸線O回りに互いに等間隔(180°)をもって離間する部位で一対の入力部材50,51が配置されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、入力部材の個数は適宜変更することができる。
【0154】
すなわち、入力部材がn(n≧3)個の場合には、電動モータ(モータ軸)の軸線に直交する仮想面において、第1の偏心部の軸線,第2の偏心部の軸線,…,第nの偏心部の軸線がモータ軸の軸線回りの一方向に順次配置されているものとすると、各偏心部の軸線からモータ軸の軸線までの距離を等しく、かつ第1の偏心部,第2の偏心部,…,第nの偏心部のうち互いに隣り合う2つの偏心部の軸線とモータ軸の軸線とを結ぶ線分でつくる挟角を360°/nとするように各偏心部がモータ軸の外周囲に配置されるとともに、軸線O回りに360°/nの間隔をもって離間する部位でn個の入力部材が配置される。
【0155】
例えば、入力部材が3個の場合には、モータ軸の軸線に直交する仮想面において、第1の偏心部の軸線,第2の偏心部の軸線,第3の偏心部の軸線がモータ軸の軸線回りの一方向に順次配置されているものとすると、各偏心部の軸線からモータ軸の軸線までの距離を等しく、かつ第1の偏心部,第2の偏心部,第3の偏心部のうち互いに隣り合う2つの偏心部の軸線とモータ軸の軸線とを結ぶ線分でつくる挟角を120°とするように各偏心部がモータ軸の外周囲に配置されるとともに、その軸線回りに120°の間隔をもって離間する部位で3個の入力部材が配置される。
【0156】
(6)上記実施の形態では、駆動源としてエンジン102及び電動モータ4を併用した四輪駆動車101に適用する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、電動モータのみを駆動源とした四輪駆動車又は二輪駆動車である電気自動車にも適用することができる。また、本発明は、エンジン,電動モータによる第1の駆動軸と電動モータによる第2の駆動軸とを有する四輪駆動車にも上記実施の形態と同様に適用可能である。
【0157】
(7)上記実施の形態では、入力部材50,51の中心孔50a,51aの内周面と偏心部42a,42bの外周面との間にそれぞれ深溝玉軸受である玉軸受54,56を用い、偏心部42a,42bに対して入力部材50,51が回転可能に支持されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、深溝玉軸受に換えて深溝玉軸受以外の玉軸受やころ軸受を用いてもよい。このような玉軸受やころ軸受は、例えばアンギュラ玉軸受,針状ころ軸受,棒状ころ軸受,円筒ころ軸受,円錐ころ軸受,自動調心ころ軸受などが挙げられる。また、本発明は、転がり軸受に代えて滑り軸受を用いてもよい。
【0158】
(8)上記実施の形態では、出力部材53の外周面であって、ねじ部53aと頭部53bとの間に介在する部位には、入力部材50のピン挿通孔50bの内周面に接触可能な針状ころ軸受55が、また入力部材51のピン挿通孔51bの内周面に接触可能な針状ころ軸受57がそれぞれ取り付けられている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、針状ころ軸受に代えて針状ころ軸受以外のころ軸受や玉軸受を用いてもよい。このような玉軸受やころ軸受は、例えば深溝玉軸受,アンギュラ玉軸受,円筒ころ軸受,棒状ころ軸受,円錐ころ軸受,自動調心ころ軸受などが挙げられる。また、本発明は、転がり軸受に代えて滑り軸受を用いてもよい。
【0159】
(9)上記実施の形態では、第1の転がり軸受,第2の転がり軸受,第3の転がり軸受としてそれぞれアキシアル方向に予圧を与えられる深溝玉軸受を用いたが、本発明はこれに限定されず、第1の転がり軸受,第2の転がり軸受,第3の転がり軸受のうち1個,2個又は3個の軸受がアキシアル方向に予圧を与えられる軸受として例えばアンギュラ玉軸受,円錐ころ軸受,スラストアンギュラ玉軸受,スラスト円錐ころ軸受,スラスト玉軸受,スラストころ軸受を用いてもよい。また、第1の転がり軸受,第2の転がり軸受,第3の転がり軸受は、同じ種類の軸受であっても、互いに異なる種類の軸受であってもよい。
【0160】
(10)上記の実施の形態では、第1の転がり軸受の内輪がデフケースの外周面にしまりばめで取り付けられ、第1の転がり軸受の外輪が第1のハウジングエレメントのシャフト挿通孔の内周面にすきまばめで取り付けられ、第2の転がり軸受の内輪がモータ軸の外周面にしまりばめで取り付けられ、第2の転がり軸受の外輪がデフケースの内周面にすきまばめで取り付けられ、第3の転がり軸受の内輪がモータ軸の外周面にしまりばめで取り付けられ、第3の転がり軸受の外輪が第3のハウジングエレメントの内周面にすきまばめで取り付けられていたが、いずれの内輪も、いずれの外輪も、それらが取り付けられる周面に対して、しまりばめであっても、すきまばめであっても、とまりばめであってもよい。
【符号の説明】
【0161】
1,10,70,100…モータ駆動力伝達装置、2…ハウジング、20…第1のハウジングエレメント、20a…シャフト挿通孔、20b…内フランジ、20c…切り欠き、21…第2のハウジングエレメント、21a…内フランジ、22…第3のハウジングエレメント、22a…シャフト挿通孔、22b…円筒部、22c…段差面、23…凸部、24…シール部材、25…円環部材、26…スペーサ、27…凸部、28…シール部材、3…リヤディファレンシャル、30…デフケース、30a…収容空間、30b…シャフト挿通孔、30c…フランジ、300c…ピン取付孔、30d…段差面、30e…凹孔、300e…段差面、31…ピニオンギヤシャフト、32…ピニオンギヤ、33…サイドギヤ、34…玉軸受、340…内輪、341…外輪、342…転動体、35…玉軸受、350…内輪、351…外輪、352…転動体、36…ピン、4…電動モータ、40…ステータ、41…ロータ、42…モータ軸、42a,42b…偏心部、42c,42d…段差面、43…取付ボルト、44…玉軸受、45…スリーブ、46…玉軸受、47…レゾルバ、470…ステータ、471…ロータ、48…スプリング、5…減速伝達機構、50,51…入力部材、50a,51a…中心孔、50b,51b…ピン挿通孔、50c,51c…外歯、52…自転力付与部材、52a…第1の嵌合部、52b…第2の嵌合部、52c…内歯、53…出力部材、53a…ねじ部、53b…頭部、54…玉軸受、55…針状ころ軸受、550…レース、56…玉軸受、57…針状ころ軸受、570レース、58…スペーサ、70…モータ駆動力伝達装置、71…減速伝達機構、72…自転力付与部材、72a…第1の嵌合部、72b…第2の嵌合部、72c…内歯、73,74…凸部、80…自転力付与部材、80a,80b…凹溝、81…第1のハウジングエレメント、81a…凸部、82…第2のハウジングエレメント、82a…凸部、84…締付ボルト、85…スプリング、86…スペーサ、90…第1のハウジングエレメント、90a…凹溝、91…第2のハウジングエレメント、91a…凹溝、92…自転力付与部材、92a,92b…凸部、101…四輪駆動車、102…エンジン、103…トランスアクスル、104…前輪、105…後輪、106…リヤアクスルシャフト、107…フロントアクスルシャフト、L,O,O,O…軸線、P…ばね力(締付力)、−P…ばね力、P´,−P´…反力、δ,δ,δ…偏心量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ回転力に基づく駆動力を配分する差動機構部、及び前記差動機構部を収容するデフケースを有する差動機構と、
前記差動機構の軸線上に配置され、前記差動機構部を作動させるための前記モータ回転力を発生させて出力する偏心部付きのモータ軸を有する電動モータと、
前記電動モータの前記モータ軸における偏心部の外周囲に配置され、前記モータ回転力を減速して前記駆動力を前記差動機構に伝達する減速伝達機構と、
前記減速伝達機構,前記電動モータ及び前記差動機構を収容するハウジングと、
前記ハウジングの軸線方向一方側端部と前記デフケースの軸線方向一方側端部との間に介在する第1の転がり軸受、前記デフケースの軸線方向他方側端部と前記モータ軸の軸線方向一方側端部との間に介在する第2の転がり軸受、及び前記ハウジングの軸線方向他方側端部と前記モータ軸の軸線方向他方側端部との間に介在する第3の転がり軸受を有する軸受機構とを備え、
前記軸受機構は、前記第1の転がり軸受,前記第2の転がり軸受及び前記第3の転がり軸受にアキシアル荷重が付与されている
モータ駆動力伝達装置。
【請求項2】
前記軸受機構は、前記第1の転がり軸受,前記第2の転がり軸受及び前記第3の転がり軸受にそれぞれ転動体を転動させる外輪を有し、前記第1の転がり軸受の外輪と前記ハウジングとの間,前記第2の転がり軸受の外輪と前記デフケースとの間又は前記第3の転がり軸受の外輪と前記ハウジングとの間に前記アキシアル荷重となるばね力をもつスプリングが介在して配置されている請求項1に記載のモータ駆動力伝達装置。
【請求項3】
前記軸受機構は、前記第1の転がり軸受,前記第2の転がり軸受及び前記第3の転がり軸受にそれぞれ転動体を転動させる内輪を有し、前記第1の転がり軸受の内輪と前記デフケースとの間,前記第2の転がり軸受の内輪と前記モータ軸との間又は前記第3の転がり軸受の内輪と前記モータ軸との間に前記アキシアル荷重となるばね力をもつスプリングが介在して配置されている請求項1に記載のモータ駆動力伝達装置。
【請求項4】
前記ハウジングは、その軸線方向に並列する少なくとも2つのハウジングエレメントからなり、前記少なくとも2つのハウジングエレメントの締め付けによる軸線方向長の調整によって前記アキシアル荷重が付与されている請求項1乃至3のいずれか1項に記載のモータ駆動力伝達装置。
【請求項5】
減速伝達機構は、前記モータ回転力を受けて所定の偏心量をもって円運動を行う外歯歯車からなる入力部材、前記入力部材にその歯数よりも大きい歯数をもって噛合する内歯歯車からなる自転力付与部材、及び前記自転力付与部材によって前記入力部材に付与された自転力を受けて前記デフケースにその回転力として出力する出力部材を有し、
前記ハウジングは、前記差動機構を収容する第1のハウジングエレメント、及び前記電動モータを収容する第2のハウジングエレメントを有し、前記第1のハウジングエレメント及び前記第2のハウジングエレメントが前記自転力付与部材を介して前記電動モータの軸線方向に並列して配置されている請求項1に記載のモータ駆動力伝達装置。
【請求項6】
前記減速伝達機構は、前記自転力付与部材の線膨張係数が前記第1のハウジングエレメント及び前記第2のハウジングエレメントの線膨張係数よりも前記入力部材の線膨張係数に近い線膨張係数に設定されている請求項5に記載のモータ駆動力伝達装置。
【請求項7】
前記減速伝達機構は、前記入力部材,前記自転力付与部材及び前記出力部材の線膨張係数が前記デフケースの線膨張係数と同等の線膨張係数に設定されている請求項5又は6に記載のモータ駆動力伝達装置。
【請求項8】
前記減速伝達機構は、前記自転力付与部材が前記入力部材に噛合する内歯、及び前記内歯の軸線に沿って互いに並列する一対の嵌合部を有し、
前記ハウジングは、前記第1のハウジングエレメントが前記一対の嵌合部のうち一方の嵌合部に嵌合する円周面を有し、前記第2のハウジングエレメントが前記一対の嵌合部のうち他方の嵌合部に嵌合する円周面を有する請求項5乃至7のいずれか1項に記載のモータ駆動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−29195(P2013−29195A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−48065(P2012−48065)
【出願日】平成24年3月5日(2012.3.5)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】