説明

モータ駆動装置

【課題】平滑コンデンサを使用することなくモータの絶縁抵抗の劣化を検出する。
【解決手段】平滑コンデンサが無充電状態となった際に、インバータ部21内の下アームスイッチング素子SW6と検出スイッチ32を接続することで、低電圧源33を起電部として、アースG、3相交流モータ4、インバータ部21の下アームスイッチング素子SW6、負側の直流バスN、検出抵抗31及びA/D変換器34の閉回路を形成でき、当該閉回路に流れる閉回路電流Icを検出抵抗31及びA/D変換器34で検出することで、3相交流モータ4の絶縁抵抗の劣化を検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの絶縁抵抗の劣化を検出可能なモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、モータの絶縁抵抗の劣化を検出可能なモータ駆動装置が記載されている。このモータ駆動装置では、DCリンク部のマイナス側ラインと大地との間に第1の接点を設け、DCリンク部のプラス側ラインとモータのコイル接続線のうちの一相の線との間に第2の接点と電流検出器を直列に設けている。絶縁抵抗の劣化を検出する際には、第1及び第2の接点を閉じることで、平滑コンデンサ、第2の接点、電流検出器、モータのコイル、大地、第1の接点、及び平滑コンデンサの閉回路を形成する。この閉回路には平滑コンデンサの充電電圧が印加されるため、閉回路に流れる電流を検出することで、モータの絶縁抵抗の劣化を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−226993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術では、モータの絶縁抵抗劣化の検出に平滑コンデンサを用いることに起因し、次のような課題が生じる。
【0005】
すなわち、形成した閉回路に平滑コンデンサの充電電圧を印加する必要があるため、一旦平滑コンデンサへの充電が必要であり、充電が完了するまでの間、モータの絶縁抵抗劣化の検出を開始することができない。また、平滑コンデンサから閉回路に対し、モータの交流電圧整流後の直流母線電圧に近似した高電圧が印加されることになるため、仮にモータの絶縁抵抗が劣化していた場合には、閉回路に大電流が流れることになり、閉回路上の他の部品の破損等の二次被害を招くおそれがある。さらに、平滑コンデンサの放電による電圧低下に伴って閉回路を流れる電流も変化することになるため、電流検出値と所定の閾値との比較によって絶縁抵抗劣化の有無を判断する場合には、モータの絶縁抵抗劣化の検出精度が低下してしまう。また、多軸モータ駆動装置への適用を考えた場合、閉回路をモータ駆動軸ごとに構成する必要があり、装置の大型化、価格の増大、メンテ部品増加に伴う信頼性の低下等を招く。
【0006】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、平滑コンデンサを使用することなくモータの絶縁抵抗の劣化を検出することができるモータ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本願第1発明は、直流電力源における正側直流母線および負側直流母線に対して平滑コンデンサと並列に接続したインバータ部を有し、直流電力を前記インバータ部で交流電力に変換して交流モータを駆動するモータ駆動ユニットと、前記正側直流母線又は前記負側直流母線のいずれか一方と大地との間に設けられた低電圧源と、前記平滑コンデンサが無充電状態で前記低電圧源、前記交流モータ、及び前記インバータ部の一部を含む閉回路に流れる閉回路電流を検出する電流検出部と、前記電流検出部が検出した前記閉回路電流の値と所定の閾値との比較に基づいて前記交流モータの絶縁抵抗の劣化を判定する絶縁抵抗劣化判定部と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
本願第1発明のモータ駆動装置は、モータ駆動ユニットを備えている。このモータ駆動ユニットは、正側直流母線及び負側直流母線を介して供給される直流電力をインバータ部で交流電力に変換して交流モータを駆動する。
【0009】
このとき、本願第1発明のモータ駆動装置は、正側直流母線又は負側直流母線と大地との間に設けられた低電圧源と、低電圧源、交流モータ、及びインバータ部の一部を含む閉回路に流れる閉回路電流を検出する電流検出部を備え、インバータ部内の所定のスイッチを導通させることで、インバータ部、正側直流母線又は負側直流母線、電流検出部、低電圧源、大地、交流モータ、及びインバータ部を経由する閉回路を形成できる。その結果、低電圧源の印加電圧により当該閉回路に流れる閉回路電流を電流検出部で検出し、絶縁抵抗劣化判定部が当該閉回路電流の値と所定の閾値とを比較することで、交流モータの絶縁抵抗の劣化を検出できる。
【0010】
このように、本願第1発明によれば、正側直流母線及び負側直流母線に直流電力を供給する直流電源を経由せずに上記閉回路を形成できる。この直流電源は、例えばAC−DCコンバータなどで構成されている場合、その出力側の2つの直流母線を渡すように平滑コンデンサが接続されている。しかし、本願第1発明の構成では、形成される閉回路で平滑コンデンサを経由することがなく、かつ平滑コンデンサが無充電状態となった際に電流検出部が閉回路電流を検出するため、例えばダイナミックブレーキを備えた構成などの場合であっても、当該平滑コンデンサの充電電力の影響を受けずに交流モータの絶縁抵抗の劣化を検出できるモータ駆動装置を実現することができる。その結果、例えば交流モータの絶縁抵抗劣化の検出に平滑コンデンサの充電電力を利用する場合のように平滑コンデンサの充電を待つことなく、交流モータの絶縁抵抗劣化の検出を開始することができる。また、低電圧源から閉回路に対して印加される電圧は低電圧であるため、平滑コンデンサの充電電力を利用する場合のように閉回路に大電流が流れることはなく、閉回路上の他の部品の破損等の二次被害を防止できる。さらに、低電圧源から閉回路に対して一定の電圧の印加を維持できるため、平滑コンデンサの充電電力を利用する場合のように電圧低下に伴って閉回路を流れる電流が変化するようなことがなく、交流モータの絶縁抵抗劣化の検出精度の低下を防止できる。
【0011】
第2発明は、上記第1発明において、前記モータ駆動ユニットは、複数相の交流モータを駆動するものであって、前記インバータ部は、前記正側直流母線又は前記負側直流母線のうち前記低電圧源に接続する方と、前記交流モータとの間の接続と遮断を切り換えるアームスイッチング素子を各相に対応して複数有し、各相のアームスイッチング素子のうち任意のものを選択して導通させることで、前記閉回路を当該アームスイッチング素子を経由して形成させる相選択部を備えたことを特徴とする。
【0012】
本願第2発明においては、このように、インバータ部が交流モータの各相に対応する複数のアームスイッチング素子を有し、相選択部がこれら複数のアームスイッチング素子のいずれか任意のものを選択して導通させることで、上記閉回路を交流モータ内における特定の相を経由させて形成できる。これにより、交流モータの絶縁抵抗劣化を各相別又は相の組み合わせで選択的に検出でき、交流モータの絶縁抵抗の状態をより詳細に検出できる。
【0013】
第3発明は、上記第1又は第2発明において、前記正側直流母線及び前記負側直流母線に対し、複数の前記モータ駆動ユニットが並列して設けられ、当該複数のモータ駆動ユニットがそれぞれ備える前記インバータ部は、前記正側直流母線又は前記負側直流母線のうち前記低電圧源に接続する方と、前記交流モータとの間の接続と遮断を切り換えるアームスイッチング素子を有し、前記複数のモータ駆動ユニットのうち任意のものの前記アームスイッチング素子を選択して導通させることで、前記閉回路を当該アームスイッチング素子を経由して形成させる軸選択部を備えたことを特徴とする。
【0014】
本願第3発明においては、このように、複数のモータ駆動ユニットのそれぞれのインバータ部がアームスイッチング素子を有し、軸選択部がこれら複数のアームスイッチング素子のいずれか任意のものを選択して導通させることで、上記閉回路を特定の交流モータを経由させて形成できる。これにより、複数の交流モータのうちいずれかの絶縁抵抗劣化を選択的に検出できる。また、このように多軸モータ駆動装置に適用した場合、各軸用の既存のインバータ部並びに共通の直流母線、電流検出部及び低電圧源を用いて閉回路を構成することが可能であり、電流検出部及び低電圧源を交流モータごとに構成する必要がない。したがって、装置の大型化、価格の増大、メンテ部品増加に伴う信頼性の低下等を招くことなく、多軸モータ駆動装置への適用が可能である。
【0015】
第4発明は、上記第3発明において、電流検出部は、前記アームスイッチング素子を全て遮断した状態で、前記閉回路のオフセット電流を検出し、前記相選択部又は軸選択部がいずれかの前記アームスイッチング素子を選択して導通させた状態で前記電流検出部が検出した閉回路電流の値と、前記オフセット電流の値との間の差分値を求めるオフセット除去部を備え、前記絶縁抵抗劣化判定部は、前記閉回路電流の値に基づく前記差分値と所定の閾値との比較により前記交流モータの絶縁抵抗の劣化を判定する判定部と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
多軸モータ駆動装置においては、インバータ部21におけるスイッチング素子を含む回路構成が軸数に比例累積して大きくなるため、アームスイッチング素子を全て遮断した状態でもある程度大きなオフセット電流が流れてしまう。これに対して、本願第3発明においては、電流検出部がオフセット電流を検出し、オフセット除去部が閉回路電流の値からオフセット電流の値を除外することで、相選択部又は軸選択部が選択導通させたアームスイッチング素子を経由する閉回路だけに流れる閉回路電流を、高い精度で検出できる。これにより、絶縁抵抗劣化判定部は、閉回路電流の値とオフセット電流の値との間の差分値に基づいて、当該交流モータが近いうちに漏電が生じる程度に絶縁抵抗が劣化しているか否かを明確に判定し報知できる。
【0017】
第5発明は、上記第1から第4の発明のいずれかにおいて、電流検出部が、閉回路を継続的に形成した際に定常的に流れる閉回路電流を検出し、絶縁抵抗劣化判定部が、定常的な閉回路電流と所定の閾値との比較により、交流モータの絶縁抵抗の劣化を判定することを特徴とする。
【0018】
交流モータ自体の浮遊容量、及びインバータ部と交流モータとの間のケーブルの浮遊容量が十分小さく、これら浮遊容量に起因する絶縁劣化検出に与える影響を無視できる場合には、閉回路を継続的に形成して定常的に流した閉回路電流によっても交流モータの絶縁抵抗劣化を十分正確に判定できる。したがってこの場合に本第5発明を適用することで、最も簡易かつ短時間で絶縁抵抗劣化を判定できる。
【0019】
第6発明は、上記第1から第4の発明のいずれかにおいて、電流検出部が、閉回路を断続的に形成した際に過渡的に流れる閉回路電流を検出し、絶縁抵抗劣化判定部が、過渡的な閉回路電流を所定の回数サンプリングした平均値と所定の閾値との比較により、交流モータの絶縁抵抗の劣化を判定することを特徴とする。
【0020】
交流モータ自体の浮遊容量、及びインバータ部と交流モータとの間のケーブルの浮遊容量が大きい場合には、交流モータが絶縁劣化したとしても閉回路電流は過渡的な短い時間に上記浮遊容量に充電されるだけで閉回路上に定常的な電流として流れなくなり、このため絶縁劣化を正確に判定できない可能性がある。そこで本第6発明のように、閉回路を断続的に形成させた際には、上記浮遊容量に対して充電、放電を繰り返させ、これにより上記浮遊容量が大きい場合であっても上記閉回路に閉回路電流を過渡的に流すことができる。そして絶縁抵抗劣化判定部が、この過渡的な閉回路電流のサンプリング平均値と所定の閾値と比較して絶縁抵抗が劣化したか否かを判定することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、平滑コンデンサを使用することなくモータの絶縁抵抗の劣化を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係るモータ駆動装置の構成を模式的に示したブロック図である。
【図2】絶縁劣化検出ユニットの一部、モータ駆動ユニット、及び3相交流モータの回路構成を示す図である。
【図3】検出制御部のCPUで行われる制御処理の内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態によるモータ駆動装置の構成を模式的に示したブロック図である。
【0025】
この図1において、モータ駆動装置100は、3相交流モータ4を駆動するものであり、コンバータ部1と、モータ駆動ユニット2と、絶縁劣化検出ユニット3とを備えている。
【0026】
コンバータ部1は、例えば、整流器11と平滑コンデンサ12を備えており、この例の交流電源13から供給された交流電力を整流器11で整流し、その出力電力を平滑コンデンサ12で平滑して直流バスP,Nに直流電力を出力する。なお、図示する2本の直流バスP,Nのうち、上方の直流バスPが正側直流母線、下方の直流バスNが負側直流母線であり、平滑コンデンサ12はこれら2本の直流バスP,Nに渡って接続されている。
【0027】
モータ駆動ユニット2は、この例では半導体で構成する6つのスイッチング素子(図1中では1つに略記)をブリッジ接続したインバータ部21と、このインバータ部21中の各スイッチング素子の切り替え制御を行う駆動制御部22とを備えている。インバータ部21は上記2本の直流バスP,Nに接続して直流電力が供給されており、駆動制御部22がインバータ部21の6つのスイッチング素子をそれぞれ適宜の順序で導通と遮断を繰り返すことで、所定の周波数の3相交流電力が出力される。本実施形態では、2本の直流バスP,Nに対して3つのモータ駆動ユニット2を並列に接続しており、各インバータ部21がそれぞれ個別の3相交流モータ4に3相交流電力を出力して駆動する3軸駆動の構成である。各駆動制御部22によるインバータ部21の駆動制御は、特に図示しない上位制御装置からの指令に基づいて行われる。また、この駆動制御部22は、3相交流モータ4の絶縁抵抗劣化を検出する際において、後述する検出制御部からの指令に基づく所定のスイッチング素子の導通と遮断の切り替え制御も行う。なお、インバータ部21及び3相交流モータ4の詳細な回路構成については後述の図2で説明する。
【0028】
絶縁劣化検出ユニット3は、検出抵抗31と、検出スイッチ32と、低電圧源33と、A/D変換器34と、検出制御部35とを備えている。検出抵抗31は、既知の抵抗値を有する抵抗器である。検出スイッチ32は、検出制御部35からの制御信号によって2端子間の導通と遮断を切り替え可能な素子である。低電圧源33は、上記交流電源13と比較して出力電圧が十分低い直流電源であり、例えば低電圧バッテリで構成したり、当該絶縁劣化検出ユニット3自体の駆動電源(特に図示せず)から降圧した直流電圧を供給してもよい。この例では、検出抵抗31、検出スイッチ32、及び低電圧源33の順で直列に接続し、この直列回路全体が上記負側の直流バスNとアースGとの間を渡すように接続している。低電圧源33の極性は、アースG側に正極を接続するよう配置されている。なお、図示する例では、負側の直流バスNから検出抵抗31、検出スイッチ32、及び低電圧源33の順で接続しているが、直列接続であれば他の順序でもよい。
【0029】
A/D変換器34は、上記検出抵抗31に並列に接続してその両端間電圧をアナログ値で計測し、デジタル信号に変換して検出制御部35に出力する。なお、上述したように検出抵抗31の抵抗値は既知であるため、当該検出抵抗31の両端間電圧を検出することは電流を検出することと同等である。
【0030】
検出制御部35は、特に図示しないCPU、RAM、及びROMなどで構成される。この検出制御部35は、特に図示しない上位制御装置からの指令に基づいて、いずれか所定のモータ駆動ユニット2の駆動制御部22に対し、対応するインバータ部21内の所定のスイッチング素子の導通と遮断を切り替えるよう指令する。またその際には、検出スイッチ32の導通と遮断の切替も制御し、上記A/D変換器34から入力される両端間電圧の情報に基づいて、上記所定のモータ駆動ユニット2に対応する3相交流モータ4の絶縁抵抗の劣化を判定する。
【0031】
なお、上記アースGが各請求項記載の大地に相当し、上記検出抵抗31及び上記A/D変換器34が各請求項記載の電流検出部に相当する。
【0032】
図2は、絶縁劣化検出ユニット3の一部、モータ駆動ユニット2、及び3相交流モータ4の回路構成を示す図である。
【0033】
この図2において、モータ駆動ユニット2のインバータ部21は、上述したように半導体(図示する例ではIGBT)で構成する6つのスイッチング素子SW1〜SW6を備えており、そのうち直列に接続した2つのスイッチング素子を3組並列に2本の直流バスP,Nに渡すようブリッジ接続している。2本の直流バスP,Nに直流電力を供給し、駆動制御部22が6つのスイッチング素子SW1〜SW6をそれぞれ適宜の順序により導通と遮断を繰り返すことで、各組における直列接続の2つのスイッチング素子の間から3相交流電力U,V,Wがインバータ出力として出力される。なお、図示する例において、正側の直流バスPに接続する3つのスイッチング素子SW1,SW3,SW5を特に上アームスイッチング素子といい、負側の直流バスNに接続する3つのスイッチング素子SW2,SW4,SW6を特に下アームスイッチング素子という。なお、この例の3つの下アームスイッチング素子SW2,SW4,SW6が、各請求項記載のアームスイッチング素子に相当する。
【0034】
また、駆動制御部22は、上述したように、インバータ部21から3相交流電力U,V,Wを出力させる通常の駆動制御時には、図示しない上位制御装置からの指令に従ってスイッチング素子SW1〜SW6の切り替え制御を行う。また、駆動制御部22は、3相交流モータ4の絶縁抵抗劣化を検出する際には、絶縁劣化検出ユニット3の検出制御部35からの指令に従ってスイッチング素子SW1〜SW6の切り替え制御を行う。
【0035】
3相交流モータ4は、上記インバータ部21から出力された3相交流電力により駆動されるモータであり、図中には電機子として界磁制御を行う巻線41U,41V,41Wのみ示している。本実施形態において用いる3相交流モータ4は、同じ巻数である3つの電機子巻線41U,41V,41Wを3相交流の各相U,V,Wに対応させてY結線し、それら3つの電機子巻線41U,41V,41Wの外周側端子にインバータ部21の各相U,V,Wの出力端子を接続している。また、当該3相交流モータ4は、上記3つの電機子巻線41U,41V,41Wで構成する固定子の他に、永久磁石を備えた回転子と、これら固定子及び回転子を収容するケーシングとを備えている(固定子とケーシングについては不図示)。ケーシングは、上記絶縁劣化検出ユニット3と共通のアースGに接地されている。なお、この3相交流モータ4が各請求項記載の複数相の交流モータに相当する。
【0036】
ここで、上記3つの電機子巻線41U,41V,41Wはそれぞれモールドされていることで、ケーシングとの間に電気的な絶縁性が構造的に付与されているが、長期の使用や経年変化又は使用環境によってこの絶縁抵抗が劣化してしまう。このように3相交流モータ4の絶縁抵抗が劣化した場合には、各電機子巻線41U,41V,41Wに流れる電流がケーシングを介してアースGに漏電してしまい、その結果、定格性能を損なうばかりでなく、当該3相交流モータ4を損傷させる原因となる。
【0037】
そこで、本実施形態では、インバータ部21から3相交流電力U,V,Wを出力させる通常の駆動制御前もしくは通常の駆動制御間において、上記の絶縁劣化検出ユニット3により当該3相交流モータ4の絶縁抵抗を検出し、その劣化を判定する。具体的には、上記コンバータ部1からの給電を停止し、平滑コンデンサが無充電状態となった状態で、検出制御部35が、いずれかのモータ駆動ユニット2の駆動制御部22に指令して対応するインバータ部21の下アームスイッチング素子SW2,SW4,SW6のいずれかを導通(図中ではSW6を「ON」と記載)させ、その後に絶縁劣化検出ユニット3の検出スイッチ32を導通させる。これにより、絶縁劣化検出ユニット3の低電圧源33を起電部として、図示する例の順で、アースG、3相交流モータ4、インバータ部21の導通された下アームスイッチング素子SW6、負側の直流バスN、検出抵抗31、及び検出スイッチ32の経路で電流が流れる閉回路が形成される。このとき、閉回路に流れる電流を閉回路電流Icという。
【0038】
そして、この閉回路電流Icが流れている検出抵抗31の両端間電圧をA/D変換器34が検出し、検出制御部35がこの両端間電圧の情報に基づいて当該インバータ部21に接続する3相交流モータ4の絶縁抵抗を検出する。3相交流モータ4の絶縁抵抗が大きい場合には閉回路電流Icは小さく、絶縁抵抗の劣化が進行するにつれて閉回路電流Icは増大する。検出制御部35は、この閉回路電流Icに比例する上記両端間電圧が所定の閾値を超えた場合に、絶縁抵抗が劣化したものと判定して報知する。なお、この所定の閾値は、3相交流モータ4の設計時、もしくは3相交流モータ4単体の試験時に既知となる絶縁抵抗値に基づいて、予め決定されるものである。すなわち、絶縁抵抗の劣化が十分に進行した場合で閉回路電流Icが流れた際に、検出抵抗31の両端間電圧が取り得る値に設定されている。
【0039】
なお、図2に示す例では、インバータ部21のW相に対応する下アームスイッチング素子SW6だけを導通させているため、上記閉回路電流Icは、3相交流モータ4内において主にW相の電機子巻線41Wとケーシングとの間における仮想的な絶縁抵抗Rwを介して流れる。元々、3相交流モータ4内における絶縁抵抗はケーシング全体に対する構造的な抵抗ではあるが、上記のような仮想的な絶縁抵抗Ru,Rv,Rwが各相U,V,Wごとに関連して生じる傾向があり、それぞれの劣化の進行は相違しやすい。特に、漏電を生じる直前の状態では各相の間で劣化の差が大きくなる。これに対して、検出制御部35は、同一のインバータ部21における3つの下アームスイッチング素子SW2,SW4,SW6のいずれか任意のものを選択して導通させることで、同一の3相交流モータ4内で対応する相に関連する絶縁抵抗Ru,Rv,Rwを選択的に検出できる。また、同一のインバータ部21における3つの下アームスイッチング素子SW2,SW4,SW6のうちの1つだけに限らず、3つ全てを導通させた場合や、いずれか2つを組み合わせて導通させた場合の閉回路電流Icも検出できる。このように、下アームスイッチング素子SW2,SW4,SW6の選択を多様に行えることにより、1つの3相交流モータ4における絶縁抵抗の劣化の状態を多面的かつ詳細に検出できる。
但し、3相交流モータ4内における絶縁劣化した相の特定をも考慮すれば、1相毎に順に、3つの下アームスイッチング素子SW2,SW4,SW6のいずれか任意のものを選択して導通させることが望ましい。
【0040】
また、例えば、上記閉回路の経路上に少なくとも、インバータ部21におけるスイッチング素子を含む回路構成を用いた場合には、それらの閉回路上において微弱な電流が流通する。つまり、インバータ部21の全ての下アームスイッチング素子SW2,SW4,SW6を遮断している状態でも、絶縁劣化検出ユニット3の検出スイッチ32を導通させた際には、上記閉回路の経路上において、ある電圧がかかればたとえ絶縁されていても、例えば漏れ電流に相当する微弱な電流が流れ得る。この電流は、上記閉回路におけるオフセット電流に相当し、これが絶縁抵抗を検出する際の電流検出誤差となるため、影響を無視できない。また、モータ駆動ユニット2及び3相交流モータ4を1組だけ備える構成においては微弱であっても、多数組を備える多軸駆動の構成では大きく累積するため、絶縁抵抗を検出する際の更なる影響を無視できない。本実施形態では、図示しない上位制御装置の指令によって、この微弱な電流(以下、オフセット電流という)だけを検出するモードを備えており、これにより多軸駆動構成の回路全体において流れ得るオフセット電流を検出できる。そして、各3相交流モータ4の絶縁抵抗を個別に検出する際には、それぞれ上記オフセット電流の影響を除外して検出する。
【0041】
また、各3相交流モータ4の絶縁抵抗や上記オフセット電流の検出を行う際には、上述したようにコンバータ部1からの給電を停止した状態で行うことが前提である。また、このときにコンバータ部1の平滑コンデンサ12において電荷が充電されていても、各インバータ部21の全ての上アームスイッチング素子SW1,SW3,SW5が遮断されていれば、絶縁抵抗やオフセット電流の検出には直接影響を与えない。しかし、実際の駆動回路では、特に図示しないダイナミックブレーキなどを介した影響が生じるため、絶縁抵抗やオフセット電流の検出は平滑コンデンサ12が十分に放電されて無充電となった状態で行う必要がある。
【0042】
以上のような機能を実現するために、検出制御部35のCPUで行われる制御処理の内容を、図3により順を追って説明する。
【0043】
図3において、このフローに示す処理は、例えば上位制御装置から絶縁劣化の検出処理を実行する指令を受信した場合に開始される。なお、このフローの処理を開始させる際には、上述したように、例えば前回のコンバータ部1の給電停止から十分に時間を経過させるなどによって平滑コンデンサ12が無充電状態となっている必要がある。
【0044】
まずステップS5で、フラグFの値を0に初期化する。
【0045】
そして、ステップS10に移り、全てのモータ駆動ユニット2の駆動制御部22に対して、それぞれのインバータ部21における上アーム及び下アームも含めた全てのスイッチング素子SW1〜SW6(図中では上下アームと略記)を遮断するよう指令する。
【0046】
そして、ステップS15に移り、オフセット電流の検出指令が上位制御装置から受信しているか否かを判定する。上位制御装置から検出指令を受信している場合には、判定が満たされ、ステップS20へ移る。
【0047】
ステップS20では、絶縁劣化検出ユニット3の検出スイッチ32を導通させ、上記閉回路を形成して当該閉回路を経由したオフセット電流が検出抵抗31に流れる。
【0048】
そして、ステップS25に移り、検出抵抗31にオフセット電流が流れている状態での両端間電圧をA/D変換器34で検出し、この検出電圧をE0として保存する。ここで、上述したように検出抵抗31の抵抗値は既知であるため、当該検出抵抗31の両端間電圧E0を検出することはオフセット電流を検出することと同等である。
【0049】
そして、ステップS30に移り、絶縁劣化検出ユニット3の検出スイッチ32を遮断する。
【0050】
そして、ステップS35に移り、フラグFの値を1にした後、ステップS40へ移る。
【0051】
一方、上記ステップS15での判定において、上位制御装置からオフセット電流の検出指令を受信していない場合には、判定は満たされず、そのままステップS40へ移る。
【0052】
ステップS40では、上位制御装置からの指令に基づいて、絶縁抵抗を検出すべき3相交流モータ4(図中では検出軸と略記)及びその検出すべき相(図中では検出相と略記)を設定する。なお、このとき設定する検出軸は1つであるが、検出相については上述したように1つでも複数でもよい。
【0053】
そして、ステップS45に移り、絶縁劣化検出ユニット3の検出スイッチ32を導通させる。
【0054】
そして、ステップS50に移り、上記ステップS40で設定した検出軸に対応するモータ駆動ユニット2の駆動制御部22に対し、同じく設定した検出相に対応するいずれかの下アームスイッチング素子SW2,SW4,SW6を導通させるよう指令する。これにより、設定した検出軸の検出相に対応した閉回路が形成され、当該閉回路を経由した閉回路電流Icが検出抵抗31に流れる。
【0055】
そして、ステップS55に移り、検出抵抗31に上記閉回路電流Icが流れている状態での両端間電圧E1をA/D変換器34で検出する。この場合においても、当該検出抵抗31の両端間電圧E1を検出することは閉回路電流Icを検出することと同等である。
【0056】
そして、ステップS60に移り、フラグFの値が1であるか否かを判定する。言い換えると、上位制御装置からの指令によってオフセット電流及びそれに伴う両端間電圧E0を検出済みであるか否かを判定する。フラグFの値が1である場合、判定が満たされ、ステップS65へ移る。
【0057】
ステップS65では、上記ステップS55で検出した両端間電圧E1から、上記ステップS25で検出した両端間電圧E0を差し引く。つまり、閉回路電流Icに潜在するオフセット電流を除去するようオフセットを差し引く処理を行う。これにより、その時点で閉回路を形成している検出軸及び検出相を経由する閉回路電流Icのみを検出し、上記閉回路に流れるオフセット電流からの影響を除去できる。そして、ステップS70へ移る。なお、このステップS65で算出した新たな両端間電圧E1が、各請求項記載の差分値に相当する。
【0058】
一方、上記ステップS60の判定において、フラグFの値が1でない場合、判定は満たされず、そのままステップS70へ移る。
【0059】
ステップS70では、両端間電圧E1が所定の閾値より小さいか否かを判定する。この閾値は、絶縁抵抗の劣化が十分に進行した場合で閉回路電流Icが流れた際に検出抵抗31の両端間電圧が取り得る値に設定されている。両端間電圧E1が所定の閾値以上である場合、判定は満たされず、すなわちその時点で閉回路を形成している当該3相交流モータ4の当該相において絶縁抵抗が十分に劣化しているものとみなされ、ステップS75へ移る。
【0060】
ステップS75では、上記ステップS40で設定した検出軸に対応するモータ駆動ユニット2の駆動制御部22に対し、同じく設定した検出相に対応する下アームスイッチング素子SW2,SW4,SW6を遮断するよう指令する。
【0061】
そして、ステップS80に移り、絶縁劣化検出ユニット3の検出スイッチ32を遮断する。
【0062】
そして、ステップS85に移り、別途設けた表示部での表示や発音部での発音によって絶縁抵抗の劣化を報知したり、または上位制御装置にその旨の情報を送信する劣化報知処理を行う。そして、このフローを終了する。
【0063】
一方、上記ステップS70の判定において、両端間電圧E1が所定の閾値より小さい場合、判定が満たされ、すなわちその時点で閉回路を形成している当該3相交流モータ4の当該相において絶縁抵抗がまだ劣化していないものとみなされ、ステップS90へ移る。
【0064】
ステップS90では、上記ステップS40で設定した検出軸に対応するモータ駆動ユニット2の駆動制御部22に対し、同じく設定した検出相に対応する下アームスイッチング素子SW2,SW4,SW6を遮断するよう指令する。
【0065】
そして、ステップS95に移り、絶縁劣化検出ユニット3の検出スイッチ32を遮断する。
【0066】
そして、ステップS100に移り、上位制御装置から、他の検出軸又は他の検出相で絶縁抵抗を再検出すべきとの指令を受信しているか否かを判定する。上位制御装置から再検出の指令を受信している場合には、判定が満たされ、上記ステップS40に戻って同様の手順を繰り返す。一方、上位制御装置から再検出の指令を受信していない場合には、判定は満たされず、このフローを終了する。
【0067】
以上において、上記図3のフローにおけるステップS40とステップS50の手順が、各請求項記載の相選択部及び軸選択部に相当し、ステップS65の手順がオフセット除去部に相当し、ステップS70の手順が絶縁抵抗劣化判定部に相当する。
【0068】
以上説明したように、本実施形態のモータ駆動装置100によれば、検出スイッチ32を導通させた際に形成される閉回路に平滑コンデンサ12が含まれておらず、かつ当該平滑コンデンサ12が無充電状態となった際に検出抵抗31及び上記A/D変換器34が閉回路電流Icを検出するため、例えばダイナミックブレーキを備えた構成などの場合であっても、当該平滑コンデンサ12の充電電力の影響を受けずに3相交流モータ4の絶縁抵抗の劣化を検出できるモータ駆動装置100を実現することができる。その結果、3相交流モータ4の絶縁抵抗劣化の検出に平滑コンデンサ12の充電電力を利用する場合のように平滑コンデンサ12の充電を待つことなく、3相交流モータ4の絶縁抵抗劣化の検出を開始することができる。また、低電圧源33から閉回路に対して印加される電圧は低電圧であるため、平滑コンデンサ12の充電電力を利用する場合のように閉回路に大電流が流れることはなく、閉回路上の他の部品の破損等の二次被害を防止できる。さらに、低電圧源33から閉回路に対して一定の電圧の印加を維持できるため、平滑コンデンサ12の充電電力を利用する場合のように電圧低下に伴って閉回路を流れる電流が変化するようなことがなく、3相交流モータ4の絶縁抵抗劣化の検出精度の低下を防止できる。
【0069】
また、この実施形態では特に、インバータ部21が3相交流モータ4の各相に対応する複数の下アームスイッチング素子SW2,SW4,SW6を有し、上記図3のフローにおけるステップS40とステップS50の手順がこれら複数の下アームスイッチング素子SW2,SW4,SW6のいずれか任意のものを選択して導通させることで、上記閉回路を3相交流モータ4内における特定の相を経由させて形成できる。これにより、3相交流モータ4の絶縁抵抗劣化を各相別又は相の組み合わせで選択的に検出でき、3相交流モータ4の絶縁抵抗の状態をより詳細に検出できる。
【0070】
また、この実施形態では特に、複数のモータ駆動ユニット2のそれぞれのインバータ部21が下アームスイッチング素子を有し、ステップS40とステップS50の手順がこれら複数の下アームスイッチング素子SW2,SW4,SW6のいずれか任意のものを選択して導通させることで、上記閉回路を特定の3相交流モータ4を経由させて形成できる。これにより、複数の3相交流モータ4のうちいずれかの絶縁抵抗劣化を選択的に検出できる。また、このように多軸モータ駆動装置に適用した場合、各軸用の既存のインバータ部21並びに共通の直流母線、検出抵抗31、A/D変換器34及び低電圧源33を用いて閉回路を構成することが可能であり、検出抵抗31、A/D変換器34及び低電圧源33を3相交流モータ4ごとに構成する必要がない。したがって、装置の大型化、価格の増大、メンテ部品増加に伴う信頼性の低下等を招くことなく、多軸モータ駆動装置への適用が可能である。
【0071】
また、この実施形態では特に、多軸モータ駆動装置においては、インバータ部21におけるスイッチング素子を含む回路構成が軸数に比例累積して大きくなるため、下アームスイッチング素子SW2,SW4,SW6を全て遮断した状態でもある程度大きなオフセット電流が流れてしまう。これに対して、ステップS25の手順で検出抵抗31及び上記A/D変換器34がオフセット電流を検出し、ステップS65の手順が閉回路電流Icの値(初期の両端間電圧E1に対応)からオフセット電流の値(両端間電圧E0に対応)を除外することで、ステップS40とステップS50の手順が選択導通させた下アームスイッチング素子SW2,SW4,SW6を経由する閉回路だけに流れる閉回路電流Ic(差し引き後の両端間電圧E1に対応)を、高い精度で検出できる。また、ステップS70の手順は、閉回路電流Icの値とオフセット電流の値との間の差分値(差し引き後の両端間電圧E1に対応)に基づいて、当該3相交流モータ4が近いうちに漏電が生じる程度に絶縁抵抗が劣化しているか否かを明確に判定し報知できる。または、インバータ部21から3相交流電力U,V,Wを出力させる通常の駆動制御前もしくは通常の駆動制御間に、上記図3のフローによる絶縁抵抗劣化検出処理を逐次行って絶縁抵抗を検出、記録することで、劣化を予測することもできる。
【0072】
また、3相交流モータ4毎または相毎に、前回以前の絶縁劣化検出における閉回路電流Icを適宜記憶しておき、今回の絶縁劣化検出における閉回路電流Icとの差分を取り、次回以後の絶縁劣化検出の際に絶縁劣化が予想される場合は、この予想時点で絶縁劣化を検出したとしても良い。
<閉回路電流の検出精度を向上させる手法について>
ここで、上述した閉回路電流Icの検出精度を向上させるために適用可能な2つの手法を、以下に詳述する。
【0073】
まず第1の手法として、3相交流モータ4自体の浮遊容量、又はインバータ部21と3相交流モータ4との間のケーブルの浮遊容量が大きい場合、これら浮遊容量に起因する絶縁劣化検出に与える影響を低減するための手法について説明する。
【0074】
上記実施形態(絶縁劣化検出1)では、インバータ部21の所定の下アームスイッチング素子SW2,SW4,SW6と検出スイッチ32の両方の導通を維持した状態で、上記閉回路に定常的に流れる閉回路電流Icに基づいて絶縁劣化検出を行なった。しかしながら、3相交流モータ4自体の浮遊容量、又はインバータ部21と3相交流モータ4との間のケーブルの浮遊容量が大きい場合、3相交流モータ4が絶縁劣化したとしても閉回路電流Icは過渡的な短い時間に上記浮遊容量に充電されるだけで上記閉回路上に定常的な電流として流れなくなる。このため、上記実施形態の検出方法のままでは絶縁劣化を正確に検出できない可能性がある。
【0075】
そこで、本第1の手法(絶縁劣化検出2)では、インバータ部21の所定の下アームスイッチング素子SW2,SW4,SW6と、検出スイッチ32のいずれか一方を常に導通させたまま、他方を所定の回数で導通と遮断を繰り返させ、上記閉回路を断続的に形成させる。そして、その際の過渡的に流れる電流を数回サンプリングし、それらを平均化して平均値を検出する。すなわち、上記浮遊容量はコンデンサの静電容量と同等にみなせるため、検出スイッチ32又はインバータ部21の所定の下アームスイッチング素子SW2,SW4,SW6のいずれか一方で接続、遮断を繰り返すことは、上記浮遊容量に対して充電、放電を繰り返させることに相当する。これにより、上記浮遊容量が大きい場合であっても上記閉回路に閉回路電流Icを過渡的に流すことができ、この過渡的な閉回路電流Icの平均値と所定の閾値と比較して絶縁抵抗が劣化したか否かを判定することができる。
【0076】
次に第2の手法として、電流検出系の誤差調整に関する手法について説明する。
【0077】
本第2の手法においては、検出抵抗31、検出スイッチ32、及び低電圧源33の直列体に対して、既知の抵抗値を有する調整用抵抗器と調整用スイッチとの直列体を並列接続する構成を設ける(特に図示せず)。本第2の手法では、上記実施形態(絶縁劣化検出1もしくは絶縁劣化検出2)による絶縁劣化検出の前に、インバータ部21の下アームスイッチング素子SW2,SW4,SW6を全て遮断した状態で、検出スイッチ32と上記調整用スイッチの両方を導通させることで、検出抵抗31、検出スイッチ32、低電圧源33、調整用抵抗器、及び調整用スイッチを経由する調整用閉回路を形成し、この調整用閉回路に流れる調整用閉回路電流を検出抵抗31で検出する。この調整用閉回路電流は、実際には、調整用抵抗器と低電圧源33の電圧値で決定される既知の電流値で流れる。なお、調整用抵抗器の抵抗値は、非劣化状態の3相交流モータ4の絶縁抵抗値と同程度に大きく設定されており、これと比較して検出抵抗31の抵抗値は非常に小さいため、調整用閉回路電流の決定に対して当該検出抵抗31の抵抗値は十分無視できる。
【0078】
このように、調整用抵抗器と低電圧源33の電圧値で決定される、実際に調整用閉回路上に流れる既知の大きさの調整用閉回路電流の実電流値と、検出抵抗31で検出した調整用閉回路電流の検出電流値との間の差が、電流検出系の検出誤差に相当する。本第2の手法において、低電圧源33の起動前(調整用閉回路電流はゼロ)と、起動後(調整用閉回路電流は上記実電流値)に調整すれば、電流検出系のオフセット検出誤差(起動前)と、電流検出系のゲイン検出誤差とを調整することができる。
上記オフセット検出誤差があれば、上記実施形態(絶縁劣化検出1)もしくは第1の手法(絶縁劣化検出2)による絶縁劣化検出の前に、絶縁劣化検出値から上記オフセット検出誤差を予め差し引いておけば、より精度が高い検出を行なうことができる。また、上記ゲイン検出誤差があれば、上記実施形態(絶縁劣化検出1もしくは絶縁劣化検出2)による絶縁劣化検出の後に、絶縁劣化検出値に対してゲイン補正すれば、より精度が高い検出を行なうことができる。
【0079】
以上説明した2つの手法により、閉回路電流Icの検出精度を向上させることができる。すなわち、上記実施形態でのオフセット電流の検出と、上記第2の手法による電流検出系の検出誤差の検出をあらかじめ実施しておき、上記実施形態(絶縁劣化検出1)での閉回路電流Ic(定常的な電流)からオフセット電流と上記オフセット検出誤差を差し引いた後、所定の閾値と比較して絶縁抵抗の劣化を判定すればよい(上記ゲイン検出誤差があれば、上記実施形態(絶縁劣化検出1)による絶縁劣化検出の後に、絶縁劣化検出値に対してゲイン補正すればよい)。または、3相交流モータ4自体の浮遊容量、又はインバータ部21と3相交流モータ4との間のケーブルの浮遊容量が大きい場合、上記第1の手法(絶縁劣化検出2)で検出した閉回路電流Ic(過渡的な電流)の平均値からオフセット電流と検出誤差を差し引いた後、所定の閾値と比較して絶縁抵抗の劣化を判定すればよい(上記ゲイン検出誤差があれば、上記実施形態(絶縁劣化検出1)による絶縁劣化検出の後に、絶縁劣化検出値に対してゲイン補正すればよい)。
【0080】
なお、上記実施形態に用いる3相交流モータ4は、上述したY結線のものに限られず、他にもデルタ結線のものを適用してもよい。また、3相交流モータ4は、誘導型または同期型、あるいは回転型または直動型のいずれにも適用可能であり、特に図示しないが、3つの電機子巻線はそれら種別の違いに応じて適切に構成・配置すればよい。また、3相以外の複数相の交流モータへの適用も可能であり、この場合にはインバータ部21のスイッチング素子の配置も相数の違いに応じて適切に構成・配置すればよい。
【0081】
また、上記実施形態では、絶縁劣化検出ユニット3を負側の直流バスNとアースGとの間に渡すように接続したが、本発明はこれに限られない。他にも、絶縁劣化検出ユニット3を正側の直流バスPとアースGとの間に渡すように接続してもよく、この場合には上アームスイッチング素子SW1,SW3,SW5の極性に合わせて、低電圧源33の負極をアースG側に接続するよう配置すればよい。この場合、3つの上アームスイッチング素子SW1,SW3,SW5が、各請求項記載のアームスイッチング素子に相当する。
【0082】
また、絶縁劣化検出ユニット3において、上記実施形態のように検出抵抗31で閉回路電流Icを検出する構成に限らず、他にも、電流検出用トランス(いわゆるカレントトランス)を用いて閉回路電流Icを検出する構成としてもよい。
【0083】
また、AC−DCコンバータとして機能するコンバータ部1を設けずに、外部の直流電力源の出力部に2本の直流バスP,Nを接続して直流電力を供給する構成としてもよい。
【0084】
また、以上既に述べた以外にも、上記実施形態や各変形例による手法を適宜組み合わせて利用しても良い。
【0085】
その他、一々例示はしないが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0086】
1 コンバータ部
2 モータ駆動ユニット
3 絶縁劣化検出ユニット
4 3相交流モータ(複数相の交流モータ)
11 整流器
12 平滑コンデンサ
13 交流電源
21 インバータ部
22 駆動制御部
31 検出抵抗(電流検出部)
32 検出スイッチ
33 低電圧源
34 A/D変換器(電流検出部)
35 検出制御部
41U,41V, 電機子巻線
41W
100 モータ駆動装置
P 正側直流バス(直流母線)
N 負側直流バス(直流母線)
G アース(大地)
SW1,SW3, 上アームスイッチング素子
SW5
SW2,SW4, 下アームスイッチング素子(アームスイッチング素子)
SW6
Ic 閉回路電流


【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力源における正側直流母線および負側直流母線に対して平滑コンデンサと並列に接続したインバータ部を有し、直流電力を前記インバータ部で交流電力に変換して交流モータを駆動するモータ駆動ユニットと、
前記正側直流母線又は前記負側直流母線のいずれか一方と大地との間に設けられた低電圧源と、
前記平滑コンデンサが無充電状態で、前記低電圧源、前記交流モータ、及び前記インバータ部の一部を含む閉回路に流れる閉回路電流を検出する電流検出部と、
前記電流検出部が検出した前記閉回路電流の値と所定の閾値との比較に基づいて前記交流モータの絶縁抵抗の劣化を判定する絶縁抵抗劣化判定部と、を備えた
ことを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項2】
前記モータ駆動ユニットは、
複数相の交流モータを駆動するものであって、
前記インバータ部は、
前記正側直流母線又は前記負側直流母線のうち前記低電圧源に接続する方と、前記交流モータとの間の接続と遮断を切り換えるアームスイッチング素子を各相に対応して複数有し、
各相のアームスイッチング素子のうち任意のものを選択して接続することで、前記閉回路を当該アームスイッチング素子を経由して形成させる相選択部を備えた
ことを特徴とする請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記正側直流母線及び前記負側直流母線に対し、複数の前記モータ駆動ユニットが並列して設けられ、
当該複数のモータ駆動ユニットがそれぞれ備える前記インバータ部は、
前記正側直流母線又は前記負側直流母線のうち前記低電圧源に接続する方と、前記交流モータとの間の接続と遮断を切り換えるアームスイッチング素子有し、
前記複数のモータ駆動ユニットのうち任意のものの前記アームスイッチング素子を選択して接続することで、前記閉回路を当該アームスイッチング素子を経由して形成させる軸選択部を備えた
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記電流検出部は、
前記アームスイッチング素子を全て遮断した状態で、前記閉回路のオフセット電流を検出し、
前記相選択部又は前記軸選択部がいずれかの前記アームスイッチング素子を選択して接続した状態で前記電流検出部が検出した閉回路電流の値と、前記オフセット電流の値との間の差分値を求めるオフセット除去部を備え、
前記絶縁抵抗劣化判定部は、前記閉回路電流の値に基づく前記差分値と所定の閾値との比較により前記交流モータの絶縁抵抗の劣化を判定する
ことを特徴とする請求項2又は3に記載のモータ駆動装置。
【請求項5】
前記電流検出部は、前記閉回路を継続的に形成した際に定常的に流れる閉回路電流を検出し、
前記絶縁抵抗劣化判定部は、前記定常的な閉回路電流と所定の閾値との比較により、前記交流モータの絶縁抵抗の劣化を判定する
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項6】
前記電流検出部は、前記閉回路を断続的に形成した際に過渡的に流れる閉回路電流を検出し、
前記絶縁抵抗劣化判定部は、前記過渡的な閉回路電流を所定の回数サンプリングした平均値と所定の閾値との比較により、前記交流モータの絶縁抵抗の劣化を判定する
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のモータ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−177695(P2012−177695A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−67205(P2012−67205)
【出願日】平成24年3月23日(2012.3.23)
【分割の表示】特願2011−39055(P2011−39055)の分割
【原出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】