説明

ヤトイ治具

【課題】成膜面を下にして上下を逆にして載置したウエハ上の堆積膜にクラック、バリ、剥がれの発生を防止する。
【解決手段】蒸着設備において、下から受けてウエハ2を支えて搭載するウエハ搭載用のヤトイ治具3において、ヤトイ治具3の内周側の先端部に庇状の段差部3aが平面視リング状に設けられている。リング状のヤトイ治具3の段差部3b上にはウエハ2が搭載され、さらに外周側のヤトイ治具3の段差部3c上には、その下面がウエハ2の上面にと当接してウエハ2を自重で固定するための蓋4が搭載されている。段差部3c上に搭載された蓋4の下面は、段差部3b上に搭載されたウエハ2の上面を多少押圧する段差部3b、3cの段差高さ関係を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置の蒸着装置などに使用され、ウエハを囲って保持するウエハ搭載用のヤトイ治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より半導体製造装置の蒸着装置に使用されているウエハ搭載用のヤトイ治具について図4を用いて説明する。
【0003】
図4は、蒸着装置に使用されている従来のウエハ固定用のヤトイ治具の要部構成例を簡略化して示す縦断面図である。
【0004】
図4において、ウエハ搭載用のヤトイ治具110の先端部の切り欠き上に、成膜面を下にしてウエハ111が載置され、蒸着装置の蒸着源により下方から、ヤトイ治具110およびウエハ111上に堆積膜112を堆積させる。
【0005】
一方、従来より半導体製造装置に使用され、成膜面を上にして上面より押圧してウエハを保持する従来のウエハクランパが実用新案文献1に提案されている。
【0006】
図5は、実用新案文献1に開示されている従来のウエハクランパの要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【0007】
図5において、ウエハクランパ101は、その爪102により、サセプタ103上に載置される図示しないウエハを上から押圧して保持するものである。
【0008】
図6は、図5のウエハクランパ101の爪102がウエハをクランプするクランプ部分を模式的に示す縦断面図である。
【0009】
図6において、従来のウエハクランパ101の爪102がサセプタ103上のウエハ104をクランプして保持している。その爪102の先端部には、その先端部の下面に切り欠き部105が設けられており、ウエハ104を保持したときに、爪102の先端部とウエハ104との間に隙間が生じるように為されている。通常、スパッタによりウエハ104上に堆積される堆積膜の膜厚は0.5μm〜1μmであるので、切り欠き部105の削り落とし量は数μm〜数10μmで十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】実開平4−105544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記従来のウエハ搭載用のヤトイ治具110では、堆積膜112がヤトイ治具110とウエハ111との間に連続して堆積されてしまうため、ヤトイ治具110からウエハ111を取り出すときまたは、蒸着中にウエハ111がずれたときに、堆積膜112がヤトイ治具110とウエハ111との間の位置Aで剥がされて、ウエハ111上の堆積膜112にもクラック、バリ、剥がれが発生するという問題があった。
【0012】
図5のように、成膜面を上にして上面よりウエハクランパ101の爪102で一部押圧してウエハを保持する上記従来技術の実用新案文献1のウエハクランパと、図4のように、ヤトイ治具110の先端部の切り欠き上に、成膜面を下にしてウエハ111を上下を逆にして載置し、上下を逆にしたウエハ111の下側の成膜面に、蒸着装置の蒸着源により下方から、ヤトイ治具110およびウエハ111上に堆積膜112を堆積させる構成とは前提構成が全く異なっている。
【0013】
このような上記従来技術のウエハクランパでは、ウエハ111の外周端のほんの一部分を上から押さえてクランプしているだけであるから、ウエハ111の外周端縁部に渡って堆積膜が成膜されてしまうことから、ウエハ搬送時やウエハ処理時などに他の部材とウエハ外周端縁部とが接触して発塵することは避けられない。
【0014】
本発明は、上記従来の問題を解決するもので、成膜面を下にして上下を逆にして載置したウエハ上の堆積膜にクラック、バリ、剥がれの発生さらに発塵を防止することができるヤトイ治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のヤトイ治具は、蒸着設備において下から受けて、成膜面を下にした基板を搭載する基板搭載用のヤトイ治具において、堆積膜が該基板との間に連続して堆積しないように内径側の先端部に庇状の段差部が平面視リング状に設けられているものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0016】
また、好ましくは、本発明のヤトイ治具における段差部の庇と前記基板とのクリアランスは、該基板上に成膜する堆積膜の膜厚の2倍以上20倍以下である。
【0017】
さらに、好ましくは、本発明のヤトイ治具における段差部の庇の奥行きは、該基板上に成膜する堆積膜の膜厚の2倍以上20倍以下である。
【0018】
さらに、好ましくは、本発明のヤトイ治具における段差部の庇の奥側に周りよりも広い空間部が設けられている。
【0019】
さらに、好ましくは、本発明のヤトイ治具において、前記基板におけるリング状の外周端縁部を下方から受けて支持すると共に、この支持された該基板の外周端縁部に沿って前記庇状の段差部が平面視リング状に設けられている。
【0020】
さらに、好ましくは、本発明のヤトイ治具において、前記内径側の先端部に設けられた庇状の段差部の外周側に前記基板を下から受けて搭載するための段差部が設けられている。
【0021】
さらに、好ましくは、本発明のヤトイ治具において、前記基板を下から受けて搭載する段差部には、圧縮ばねが穴内に複数箇所セットされており、該基板上の蓋部を取り去ったときに、該圧縮ばねにより該基板を段差部から浮かせる構成としている。
【0022】
さらに、好ましくは、本発明のヤトイ治具において、前記基板を搭載するための段差部の外周側に蓋部の外周縁部を下から受けて搭載するための段差部が設けられ、該蓋部の下面が該基板の上面に当接して該基板を押さえる当該段差部の高さを有している。
【0023】
上記構成により、以下、本発明の作用を説明する。
【0024】
本発明においては、蒸着設備において下から受けて、成膜面を下にした基板を搭載する基板搭載用のヤトイ治具において、堆積膜が該基板との間に連続して堆積しないように内径側の先端部に庇状の段差部が平面視リング状に設けられている。
【0025】
これによって、内径側の先端部に庇状の段差部が平面視リング状に設けられているので、庇状の段差部により堆積膜が基板とヤトイ治具との間で途切れることから、成膜面を下にして上下を逆にして載置した基板上の堆積膜にクラック、バリ、剥がれの発生さらに発塵を防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
以上により、本発明によれば、内径側の先端部に庇状の段差部が平面視リング状に設けられているため、庇状の段差部により堆積膜の成膜時に基板とヤトイ治具との間で堆積膜が途切れることから、成膜面を下にして上下を逆にして載置した基板上の堆積膜にクラック、バリ、剥がれの発生さらに発塵を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態におけるヤトイ治具を含む周辺構成の要部構成例を模式的に示す縦断面図である。
【図2】図1のドームに装着されたヤトイ治具にウエハが搭載された状態を下方から見た背面図である。
【図3】図1のヤトイ治具およびウエハ上に堆積膜を蒸着させた場合を概略的に示す要部縦断面図である。
【図4】蒸着装置に使用されている従来のウエハ固定用のヤトイ治具の要部構成例を簡略化して示す縦断面図である。
【図5】実用新案文献1に開示されている従来のウエハクランパの要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【図6】図5のウエハクランパの爪がウエハをクランプするクランプ部分を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明のヤトイ治具の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図における構成部材のそれぞれの厚みや長さなどは図面作成上の観点から、図示する構成に限定されるものではない。
【0029】
図1は、本発明の実施形態におけるヤトイ治具を含む周辺構成の要部構成例を模式的に示す縦断面図である。図2は、図1のドームに装着されたヤトイ治具にウエハが搭載された状態を下方から見た背面図である。
【0030】
図1および図2において、本実施形態の蒸着装置10には、なべのふた状の複数の円形穴が開いたドーム1に、成膜面を下側にしてウエハ2がその穴にそれぞれ各ヤトイ治具3を介して載置されている。ドーム1は、蒸着中はその円形中心を中心として回動するようになっている。ドーム1には図2のように複数の穴が開いており、その穴の段差部1aに対してリング状のヤトイ治具3のリング外周側の段差部3dが着脱自在に嵌合して装着されている。3dは無くても良い。リング状のヤトイ治具3の内周側の先端部には、ウエハ2側から見て庇状の段差部3aが形成されている。リング状のヤトイ治具3の庇状の段差部3aからリング外周側に段差部3b,3cが順次形成されている。リング状のヤトイ治具3の段差部3b上にはウエハ2が搭載され、ヤトイ治具3の段差部3bの外周側には段差部3cが形成されており、リング状のヤトイ治具3の段差部3c上には、その下面がウエハ2の上面にと当接してウエハ2を自重で固定するための蓋部4(裏板)が搭載されている。段差部3c上に搭載された蓋部4(裏板)の下面は、段差部3b上に搭載されたウエハ2の上面を多少押圧する段差部3b、3cの段差高さ関係を有している。3cは無くても良い。蓋部4(裏板)は、ここでは図示していないがドーム1に取り付けられた板バネで押さえられており、ここでは図示していないが、円形の蓋部4(裏板)の中央部には取り外し用の取っ手が設けられている。
【0031】
蒸着設備(蒸着装置10)において、下から受けてウエハ2を支えて搭載するウエハ搭載用のヤトイ治具3において、堆積膜がヤトイ治具3の裏面3eとウエハ2との間に連続して堆積しないように、ヤトイ治具3の内周側の先端部に庇状の段差部3aが平面視リング状に設けられている。この場合、ウエハ2におけるリング状の外周端縁部を下方からヤトイ治具3の段差部3bで受けて支持すると共に、この支持されたウエハの外周端縁部の内周側に沿って庇状の段差部3aが平面視リング状に設けられている。このように、ヤトイ治具3の先端部には庇状の段差部3aが設けられたことにより、図3に示すように、成膜面を下にして載置されたウエハ2上および、ヤトイ治具3の裏面3e上に、蒸着装置10により下方の蒸着源から、堆積膜5が堆積されるときに、ウエハ2からの段差部3aの庇の高さが高ければ高いほど、堆積膜5がヤトイ治具3とウエハ2の間に連続して堆積することを防止することができる。段差部3aの庇とウエハ2とのクリアランスが堆積膜5の膜厚よりも小さければ、当然、堆積膜5がヤトイ治具3とウエハ2の間に連続して堆積することになる。段差部3aの庇とウエハ2とのクリアランス(高さ)と段差部3aの庇の奥行きがあるが、段差部3aの庇とウエハ2とのクリアランス(高さ)は堆積膜5の膜厚の2倍以上20倍以下(堆積膜5の膜厚が1μmとした場合にクリアランス(高さ)は2μm以上20μm以下)で、段差部3aの庇の奥行きも堆積膜5の膜厚の2倍以上20倍以下(堆積膜5の膜厚が1μmとした場合に庇の奥行きは2μm以上20μm以下)を必要とする。ここでは、段差部3aの庇とウエハ2とのクリアランス(高さ)は堆積膜5の膜厚の10倍程度で、段差部3aの庇の奥行きも堆積膜5の膜厚の10倍としている。
【0032】
堆積膜5は、蒸着膜であって、電極や配線に用いる金属、例えばAu、Pt、Al、Ti、Mo、Wなどの金属膜または合金膜または複合膜であるが、金属膜以外の材料膜であってもよい。また、ヤトイ治具3の段差部3bには所々に圧縮ばね(図示せず)が穴内にセットされており、蓋部4(裏板)を取り去ったときに、圧縮ばね(図示せず)がウエハ2を上に付勢してウエハ2を浮かせるように構成することもできる。即ち、ウエハ2を下から受けて搭載する段差部3bには、圧縮ばねが穴内にセットされており、ウエハ2上の蓋部4を取り去ったときに、圧縮ばねによりウエハ2を段差部3b上から浮かせるようになっている。要するに、圧縮ばねはウエハ2と蓋部4の自重および板バネによって、段差部3bに複数形成された穴内に押されて入っており、ウエハ2上の蓋部4を取り去ると、圧縮ばねによりウエハ2を段差部3b上に浮かせるようになっている。
【0033】
ヤトイ治具3の先端部に庇状の段差部3aを設けているが、段差部3aの庇の奥に周りよりも広い空間部(部屋)を設けてもよく、斜めから飛んできた材料が回り込んで段差部3aの庇下に積もり難くなって、先端部に庇状の段差部3aの掃除期間を長くできる。
【0034】
以上により、本実施形態によれば、ヤトイ治具3の先端部に庇状の段差部3aを設けたことにより、堆積膜5が庇状の段差部3aで途切れてヤトイ治具3とウエハ2の間に連続して堆積することがなく、ドーム回転時の信号によるウエハずれ発生時または、リング状のヤトイ治具3からウエハ2を外すときなどに、ウエハ2上の堆積膜5のクラック、バリ、剥がれを防止することができて、これによる発塵をも防止することができる。
【0035】
ウエハ2におけるリング状の外周端縁部はヤトイ治具3で下方から受けて支持されていることから、ウエハ2の外周端縁部には堆積膜5が成膜されておらず、しかも、ヤトイ治具3の先端部に庇状の段差部3aにより堆積膜5が徐々に薄くなっていることから、堆積膜5が剥がれ難く、ウエハ2の外周端縁部がウエハ搬送時やウエハ処理時などに他の部材と接触して発塵することを抑制することができる。これに対して、図5の上記従来技術のウエハクランパでは、ウエハの外周のほんの一部分を上から押さえてクランプしているだけであるから、ウエハ2の外周端縁部に渡って堆積膜が成膜されることから、ウエハ搬送時やウエハ処理時などに他の部材とウエハ外周端縁部とが接触して発塵することは避けられない。
【0036】
以上のように、本発明の好ましい実施形態1〜3を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態1〜3に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態1〜3の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、半導体製造装置の蒸着装置に使用されているウエハ搭載用のヤトイ治具の分野において、内径側の先端部に庇状の段差部が平面視リング状に設けられているため、庇状の段差部により堆積膜の成膜時に基板とヤトイ治具との間で堆積膜が途切れることから、成膜面を下にして上下を逆にして載置した基板上の堆積膜にクラック、バリ、剥がれの発生さらに発塵を防止することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 ドーム
1a、3a、3b、3c、3d 段差部
2 ウエハ
3 ヤトイ治具
3e 裏面
4 蓋部
5 堆積膜
10 蒸着設備(蒸着装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着設備において下から受けて、成膜面を下にした基板を搭載する基板搭載用のヤトイ治具において、堆積膜が該基板との間に連続して堆積しないように内径側の先端部に庇状の段差部が平面視リング状に設けられているヤトイ治具。
【請求項2】
前記段差部の庇と前記基板とのクリアランスは、該基板上に成膜する堆積膜の膜厚の2倍以上20倍以下である請求項1に記載のヤトイ治具。
【請求項3】
前記段差部の庇の奥行きは、該基板上に成膜する堆積膜の膜厚の2倍以上20倍以下である請求項1に記載のヤトイ治具。
【請求項4】
前記段差部の庇の奥側に周りよりも広い空間部が設けられている請求項1に記載のヤトイ治具。
【請求項5】
前記基板におけるリング状の外周端縁部を下方から受けて支持すると共に、この支持された該基板の外周端縁部に沿って前記庇状の段差部が平面視リング状に設けられている請求項1に記載のヤトイ治具。
【請求項6】
前記内径側の先端部に設けられた庇状の段差部の外周側に前記基板を下から受けて搭載するための段差部が設けられている請求項1に記載のヤトイ治具。
【請求項7】
前記基板を下から受けて搭載する段差部には、圧縮ばねが穴内に複数箇所セットされており、該基板上の蓋部を取り去ったときに、該圧縮ばねにより該基板を段差部から浮かせる構成としている請求項6に記載のヤトイ治具。
【請求項8】
前記基板を搭載するための段差部の外周側に蓋部の外周縁部を下から受けて搭載するための段差部が設けられ、該蓋部の下面が該基板の上面に当接して該基板を押さえる当該段差部の高さを有している請求項6に記載のヤトイ治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−140681(P2012−140681A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−294315(P2010−294315)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】