説明

ヤマブドウから醸造されるワインビネガー、その製造法及び用途

【課題】従来より国内で販売されているワインビネガーは茶褐色又はくすんだ黄色を示し、鮮やかで濃厚な色調、風味を持つものではない。現在、一般の消費者や食品産業界から強く求められている食品の多様化、個性化、さらには安全・健康プラス志向の傾向に対応するためには、栽培から加工までの実態が把握できる地域の特産物を原料として用い、外観や風味の点で強い個性のある他との差別化のできるワインビネガーの製造が求められている。
【解決手段】蒜山ヤマブドウはアントシアニン色素、その光安定化物質及びポリフェノール化合物等の機能性成分を豊富に含んでいる。この特性を活用することにより、従来のワインビネガーには見られない鮮やかな赤紫色の濃厚な色調とコクと風味の良いヤマブドウからなるワインビネガーを製造する。本発明で得られるワインビネガーはこれまでのものには見られない商品価値を顕し、ワインビネガーの市場開拓を促進する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヤマブドウを原料として醸造されるワインビネガー、その製造法及び用途に関する。さらに詳しくは、岡山県北部の蒜山地方で収穫されるヤマブドウ(蒜山ヤマブドウ)を原料とする濃厚な赤紫色のコクのある風味を持つワインビネガー、その製造法及び用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ワインビネガーはポリフェノール類、クエン酸、酒石酸、酢酸等の有機酸等ヒトの美容と健康の維持に有用な多くの成分を含むことから、近年健康飲料、健康食品、美容製品、化粧品、医薬品、作物栄養補助品等幅広い分野への応用展開が図られている。具体的には、ワインビネガーは天然果汁飲料、栄養飲料、スポーツ飲料、お菓子、デザート食品、漬物、ソース、ドレッシング、調味料、食酢等に使用され、若しくは使用が検討されており、また様々な生理活性作用、例えば殺菌作用、抗酸化作用、動脈硬化防止作用、高血圧防止作用、抗潰瘍作用等が期待されることから、医薬としての研究にも盛んに取り上げられている。
【0003】
現在、わが国で販売されているワインビネガーは、ほとんどのものがヨーロッパ諸国で製造されたものの輸入品、又は輸入ワインを酢酸発酵させて製造されたものであり、国内で栽培されるブドウを使用して製造される物は極めてまれである。わが国においては、ワインビネガーの用途が確立されたものは殆どなく、パスタ料理や飲食物への添加等極限られている。わが国でワインビネガーがまだ普及していない理由としては、欧米との食文化の相違だけでなく、ワインビネガーの有する強い刺激臭や鮮やかさに欠ける着色にも大きな要因があると考えられる。
【0004】
欧米でワインビネガーの原料として使用されているブドウの種属には、主にヨーロッパで栽培されているヴィッチス・ビニフェラ(Vitis vinifera)とアメリカで栽培されているヴィッチス・ラブラスカ(Vitis labraska)がある。これらのブドウの果実には、いろいろの色素、ポリフェノール類、酒石酸、リンゴ等の有機酸、アミノ酸、糖質、ミネラル等の多くの成分が含まれている。ところが、これらの成分のなかにはブドウ果汁からアルコール発酵、酢酸発酵によりビネガーを製造する過程で分解又は変質するものが多くあり、ワインビネガーの成分は出発原料のブドウ果汁から大きく変化する。この変化の程度はブドウの種属によっても異なる。このためワインビネガーの商品化には必要に応じて各種の添加物を補充して一定の品質を保持する調整が行われる。これらの添加物として色づけ用の天然又は合成着色剤、味付け用のある種の糖質、香り付け用に香料等が使用される。
【0005】
植物の果実、花弁、葉や茎等にはアントシアニン色素を含むものが多くある。このアントシアニン色素は優れた着色性と鮮やかな色調から、多くの植物由来のものが食品着色料として使用されている。しかし現在使用されているアントシアニン色素は光安定性が乏しく飲料、菓子類等の着色に利用する際にはアスコルビン酸などの酸化防止剤を併用して光安定性を保つ工夫が図られている。
【0006】
ブドウには多種類のアントシアニン色素が含まれており、ブドウワインはこれらの色素により鮮やかなオレンジ色、赤色や赤紫色を呈する。しかしワインビネガーでは、アルコール発酵及び酢酸発酵等の製造過程において相当量が分解し又は変質する。このため、ワインビネガーは茶褐色又はくすんだ黄色となり、とても美麗とは言い難く、味覚を刺激する効果は期待できない。この改善のため天然色素や合成色素を加えて調色が図られるが、天然色素は耐久性に欠けるものが多く、一方合成色素には安全性の問題があるものが多い。またこれらの色素添加による改質は原材料や製造コストが大きくなるという問題もある。
【0007】
現在市販されているワインビネガーは、前述した一般的な欧米系のワインブドウから製造されたものが殆どであり、味覚、色調や風味の点から、そのまま商品とすることができず、熟成法、添加剤などの工夫をして使用に供されている(特開2002−218939、特表2004−520053など)。一般の消費者や食品産業界からは、食品の多様化、個性化、さらには安全・健康プラス志向が強く求められている。この傾向に対応するためには、栽培から加工までの実態が把握できる地域の特産物を原料として用い、味覚、色調や風味の点で強い個性のある他との差別化のできるワインビネガーの製造提供が求められている。
【特許文献1】特開2002−218939号公報
【特許文献2】特表2004−520053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者はワインビネガーの原料として最適なブドウ品種を見出すために、各種の栽培品種や野生ブドウを取り上げ、これらの果皮の色素含量とその組成、果汁成分について鋭意検討した。その結果、岡山県蒜山地方の特産物である蒜山ヤマブドウ(Vitis coignetiae Pulliat)の果実は、豊富なアントシアニン系色素、ポリフェノール化合物、糖質、更にアントシアニン色素の安定化物質を含むことが分析の結果判った。表1はこの事実の一例を表している。表1から明らかなように、蒜山ヤマブドウはピオーネやカベルネなどの一般的な栽培品種に比べて、アントシアニン系色素は約1.7〜4倍、ポリフェノール化合物は約1.5〜3.3倍であり、糖質含量は一般には12〜14%とされているが、これより多い15〜22%であり、リンゴ酸及び酒石酸を主成分とする有機酸の含量は1.5〜2.0%とブドウとしては非常に高い(本発明では、含量は100ml中に含まれるグラム数で表す)。また本発明者はアントシアニン色素の光分解を阻害するある種の配糖体フェノール化合物を多量に含むことも見出した。本発明者はこの蒜山ヤマブドウ(Vitis coignetiae Pulliat)に含まれる豊富な成分を活用することによリ濃厚な味覚、美麗な色調や芳醇な風味を有する他と差別化のできるワインビネガーの製造について鋭意研究を重ねた。その結果、従来のワインビネガーには見られない鮮やかな赤紫色の色調とコクのある濃厚な味覚と芳醇な風味の蒜山ヤマブドウからなるワインビネガーを製造することに成功するとともに、得られたワインビネガーが種々の有用な作用効果を現すものであることを見出し本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(1)原料ブドウに共存するアントシアニン色素及び光安定化物質を含んでなるワインビネガー、(2)アントシアニン色素に対して約1%(HPLC上のピーク面積の比率から求められる)以上の光安定化物質を含むことを特徴とする(1)に記載のワインビネガー、(3)糖度が約15%以上、アントシアニン色素の含量がOD525値で8.5以上であるヤマブドウ果汁を原料とする(1)に記載のワインビネガー、(4)アントシアニン色素の含量がOD525値で7.0以上である(1)に記載のワインビネガー、(5)原料ブドウが完熟蒜山ヤマブドウであることを特徴とする(1)から(4)に記載のワインビネガー、(6)完熟蒜山ヤマブドウの果汁をアルコール発酵し、引き続き酢酸発酵させることを特徴とする鮮やかで濃厚な赤紫色を呈するワインビネガーの製造法、(7)発酵過程を備前焼製の容器で行うことを特徴とする蒜山ヤマブドウから醸造される(6)に記載のワインビネガーの製造法、(8)ワインビネガーに含まれるアントシアニン含量がOD525値で7.0以上であり、当該色素に対して約1%以上の光安定化物質を含み、アントシアニン色素と光安定化物質とは原料に共存するものであることを特徴とする(6)に記載のヤマブドウから醸造されるワインビネガーの製造法、(9)完熟蒜山ヤマブドウ果実から醸造されるワインビネガーを主成分とする飲食物添加剤、(10)完熟蒜山ヤマブドウ果実から醸造されるワインビネガーを含有してなる飲食物、(11)完熟蒜山ヤマブドウ果実から製造されるワインビネガーを有効成分として含有する抗酸化作用剤、(12)完熟蒜山ヤマブドウ果実から製造されるワインビネガーの乾燥粉末を成分として含有する皮膚化粧料、(13)完熟蒜山ヤマブドウ果実から製造されるワインビネガーの乾燥粉末を有効成分とする抗変異原性作用剤、(14)完熟蒜山ヤマブドウ果実から製造されるワインビネガーの乾燥粉末を有効成分とする発癌抑制剤、を提供することを目的とする。
【表1】

【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、機能性成分を豊富に含み、鮮やかで濃厚な赤紫色を呈し、しかもかかる着色の保存性に優れたワインビネガーを提供することができる。このビネガーは原液を希釈しても透明な赤紫色を示す。また色素の耐光性が強く、変色しにくい。飲料、ドレッシングやマヨネーズ等の食品加工に用いる場合には製品の用途に合わせて味付けをする際にわずかに添加物を加えるだけで目的とする製品を作ることが可能となる。本発明で得られるワインビネガーは食欲増進作用、殺菌作用、抗酸化作用、動脈硬化防止作用、高血圧防止作用、抗潰瘍作用等が期待されることから、健康飲料、健康食品、医薬、医薬部外品、化粧品等の新しい商品開発を可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明になるワインビネガーは、基本的には常法に基づいて製造することができる。即ち、ブドウの果実を室温乃至は60℃程度に加熱してから果汁を搾汁し、これにアルコール発酵酵母や酵素を加えて醸造し、アルコール濃度が約10%に達したら、酢酸発酵酵母を加え、酢酸濃度が6%になるまで発酵させ、必要に応じて濾過を行いワインビネガーを製造する。糖度が15%以上の完熟したヤマブドウの果汁を使用すると加熱をする必要なく室温で搾汁することができ、風味や香りの良いワインビネガーを作ることが出来る。これは加熱による各種成分の変質や分解が防がれ、風味や香りの成分をより豊富に含んでいることによると思われる。また発酵過程を備前焼の醸造容器で行うとプラスチック容器などに比べてワインビネガーはアントシアニン色素や有機酸の含量が大きく、光安定化物質の残存量も高い。従って備前焼容器を用いると一層赤色と風味の濃厚なワインビネガーが得られ、赤色の退色や変色の少ない、品質が長く保たれる製品が得られる。また抗酸化活性も高い。しかしアミノ酸類は発酵過程で酵母の栄養源となり消化されて殆どが消費されてしまい、ビネガーには殆ど含まれていない。また、かかるワインビネガーは常法により
凍結乾燥やスプレードライして粉末化して使用することもできる。
【0012】
表2は備前焼容器とプラスチック容器を用いた場合、醸造前後における蒜山ヤマブドウとピオーネの原料果汁の代表的成分の含量(%)とラジカル消去活性値を表している。11月20日に醸造を開始し約1週間後にアルコール濃度が10%になったときに酢酸発酵に切り替えて1月24日に醸造を終えた。本発明になるヤマブドウにおいては醸造容器が備前焼の場合、醸造後の有機酸量(表2ではリンゴ酸と酒石酸の総量)や酢酸量はプラスチック容器に比して大きく、かつ抗酸化性の尺度となるラジカル消去能が大きい。一方、ピオーネでは有機酸量は逆の傾向が見られる。なお、本発明で用いた備前焼は、岡山県の香登産の地下1〜2mの粘土層で、50〜150万年前の地層から得られる「ひよせ粘土」を原料土として、初め数日間は1000〜1100℃で、引き続き1150〜1,200℃で約12日間焼き締めて作られたものを使用した。
【表2】

【0013】
蒜山ヤマブドウの完熟した果汁には極めて高濃度の赤色を中心とする多種類のアントシアニン色素と酒石酸及びリンゴ酸を含む有機酸が含まれている。さらに無色のフェノール性化合物の配糖体が特異的に含まれており、本発明者はこの化合物の共存がアントシアニン色素の光分解を抑制する重要な働きをしていることを突き止めた。蒜山ヤマブドウの果汁はアルコール発酵と、これに続く酢酸発酵の過程を通じ活性ラジカルなどの作用による分解や変質が効果的に抑えられる。その結果最終的なワインビネガーにおいて、本発明に含まれる赤色色素は国内の一般的栽培品種であるピオーネから得られるワインビネガーに比べて、約10倍の色素量、約3倍の有機酸量を示す。従って色調は鮮やか、かつ濃厚であり、風味も著しく濃厚である。光安定化物質は原料果汁での濃度の約60〜約75%がビネガーに残存しており、ビネガー製造後のアントシアニン色素の退色や変質は少なく、ビネガーは一定の品質を長期に亘り維持する。
【0014】
蒜山ヤマブドウは岡山県北部の蒜山地方の高原で栽培されている。蒜山高原では夏季は涼しく、夏から晩秋にかけて、ブドウが完熟するのに十分な日照時間があり、従ってこの地方は他のどの産地より、ヤマブドウの高い糖度とアントシアニン色素の極めて高い含量を合わせ保有し、かつ光安定化物質を有する特徴あるブドウの生育に適している。
【0015】
本発明の光安定化物質は、ESI−LC−MS及びNMR解析よりフェノール系化合物に糖が2個結合した配糖体で、分子量194のアグリコンに2分子のグルコースがβ結合している分子量518を示す新規物質であることが明らかとなった。図1は蒜山ヤマブドウとカベルネ・ソービニヨン(カベルネと略称する)の果汁から抽出した赤色色素部分のHPLCを示し、ピークAは無色のフェノール化合物であり、ピークBは本発明の光安定化物質である。ヤマブドウ果汁(原料)のピークB物質含有量(ピーク面積)は、アントシアニン色素の合計ピーク面積(下記のHPLC条件で12分〜51分に出るピークの総面積)の約1.24%である。HPLC条件としては、直径40mmのガラス製カラムにODS細孔形を高さ14cmに充填し、溶媒A(0.4%リン酸水溶液)と溶媒B(80%アセトニトリル水溶液)を用いてグラジエント溶出し、254nmの紫外光で吸光度を測定したときに、ピークBは保持時間が約7.5分で得られる。なお、溶出条件は溶媒B濃度で、0分、10%;0−30分、18%;30−60分、50%;60−65分、100%である。
【0016】
なお、光安定化物質の単離を以下のように行い、HPLC測定試料とした。即ちTSSが15°Brixに達した蒜山ヤマブドウの果皮から1%HCL−CH3OHでアントシアニン色素を含むフェノール性化合物を抽出した。この抽出液からイオン交換樹脂ダイアイオンHP−20(三菱化学製)を充填したカラムクロマトグラフィーによって糖類を除き、ODS(細孔径60Å)カラムクロマトグラフィーで無色のフェノール成分(光安定化物質)を単離し、この無色のフェノール性物質を測定試料とした。なお、この無色物質は254nmでは検出されるが525nmでは検出されない分子量が518のフェノール性配糖体である。この物質の光安定化効果は図3で明らかにされている。
【0017】
本発明になる実施例1に記載のワインビネガー、比較例1で記載のピオーネより製造されたワインビネガー及び一般に現在市販されているイタリアから輸入したワインを国内でビネガー加工した製品(ポンティ・ワインビネガー・アロマアンティコ(赤))(比較例2)と、イタリア産ワインビネガー製品(商品名バルサミコ))(比較例3)の外観を比較すると、本発明品は鮮やかで濃厚な赤紫色を表し、ピオーネ品は薄い赤色、比較例2は茶色、バルサミコは濃褐色を現している。図2はこれらのビネガーの525nmにおけるOD値が同じになるように調整した可視吸収スペクトルを比較したものである。図から明らかなようにヤマブドウワインビネガーは600nm以上の黄色、オレンジ色、赤色の吸収率が大きく低下し、また、500nm以下の青色〜紫色の吸収も比較的低いために、赤色や紫色が強く感じられる。しかし、ピオーネ品、比較例2及び3の市販品はともに、600nm以上の赤色の吸収率が高く、青色の吸収率も高いため、各波長の光が混在し、茶色系統の色調になる。吸収波長525nmにおける光学的密度(OD)から見て、バルサミコは非常に濃い色で、比較例2はバルサミコの10分の1の濃さであると推定される。
【0018】
表3はこれら4種類のワインビネガーの成分比較表である。この表から本発明品は赤色色素、ポリフェノール及び有機酸を極めて豊富に含んでいることが判る。本発明品は比較例3のバルサミコと比較すると赤色色素についてはほぼ同じであるが、ポリフェノール類は1.4倍強、有機酸は約1.5倍多く含有している。酢酸量は醸造後にビネガー中に含まれる量を表す。また表中のDPPHはジフェニルピクリルヒドラジルを意味しており、DPPH還元活性はこの物質が持つラジカルを試料サンプルがどれだけ消去するかを比色法で測定する。表3において数値が小さいほうが試料のラジカル消去能が高いことを表す。
【表3】

【0019】
なお、本発明においては
ブドウ中の成分は以下のようにして測定された。サンプルビネガーpHをリン酸で2.5に調製してから、ODSカラムのHPLC(高速液体クロマトグラフィー)に乗せ、0.1MのNH4H2PO3(リン酸二水素アンモニウム)を移動層として分析、純品の酢酸、酒石酸、リンゴ酸のピーク位置、ピーク面積からこれらを定量した。ポリフェノールは、全自動ポリフェノール分析装置を用い、色素は、サンプル液をメタノールで8倍希釈し、ベックマン比色計で525nmにおける吸光度を測定し、原液のODに換算した。
【0020】
表4は本発明品と比較例1のビネガーに含まれるアントシアニン色素の濃度、組成、及び光安定化物質の含量を示している。本発明品は全アントシアニン色素量と光安定化物質が極めて多く含まれている。主成分の色素の種類も異なっている。
【表4】

【0021】
図3は蒜山ヤマブドウ及び他のヤマブドウ以外の栽培ブドウ3品種の果皮抽出色素の耐光性を示す。耐光性は、各試料のOD525値がいずれも0.4になるように調製してから、ポリエチレン製のチューブに入れて密栓し、日中太陽光線が当たる場所に放置(夜間も)、ODの変化を記録し、吸光度の経時変化を見て色素残存率(OD525の比数から算出)で表わされている。蒜山ヤマブドウは他の品種に比べて耐光性が良いことが明らかである。
【0022】
図4はヤマブドウの耐光性に及ぼす光安定化物質の効果を示す。図においてB物質×1は原液を意味し、B物質×1.5は原液にB物質をさらに50%添加したこと、B物質×0.5は原液からB物質を取り除き、その半量を再び添加したことを意味する。B物質(光安定化物質)は本発明品であるヤマブドウだけでなく、他品種のブドウの色素の耐光性も改善している。
【0023】
光安定化物質は安定に単離することができるのでワインビネガー醸造後に必要に応じて添加して含有量を調整し、製品の光安定性、耐久性を更に増強することも可能である。
【0024】
図5は本発明の原料であるヤマブドウと一般によく栽培されているピオーネ果汁を用
いてワインビネガーを醸造する際に備前焼瓶とプラスチック容器を用いた場合の製造過程(11月20日から1月24日まで)における赤色色素と耐光性物質の変化を示す。ヤマブドウにおいて備前焼瓶の場合プラスチックに比して赤色色素及び光安定化物質の残存量が大きい。
【0025】
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
ワインビネガーの製造(本発明品1)
完熟した蒜山ヤマブドウの果実(果皮、果肉、種子)から搾汁した果汁60Lを備前焼容器に仕込み、室温(約20℃)でワイン酵母としてラルバン71Bを7.2g加えてアルコール発酵を行った。発酵速度が緩やかであったため、発酵室の温度調節(発酵液槽内部が25〜28℃になるように暖房)を行った。またアルコールが6%に達した段階で純粋培養した産幕酵母バストリアヌス100cm2を表面移植し、酵母菌膜の途中移植を行って、発酵を促進した。これらの操作によって、1週間のアルコール発酵と、それに続く2ヶ月間の酢酸発酵で、総酸含量が約6%(酢酸含量は約5.1%)に達し、目的のワインビネガーを得た。
【実施例2】
【0027】
ワインビネガーの製造(本発明品2)
実施例1において備前焼容器の代わりにプラスチック容器を用いるほかは同じ条件で製造した。
【実施例3】
【0028】
ワインビネガーの凍結乾燥物の製造
本発明品1の1Lを保持する3Lのナス型フラスコごと液体窒素につけて凍結させ、減圧乾燥機で内容物が粉末になるまで水分及び酢酸などの揮発成分を取り除き、凍結乾燥物11gを得た。
【実施例4】
【0029】
ドレッシング1の製造
本発明になる実施例1に記載のヤマブドウワインビネガー100mlにヤマブドウ果汁原液を50ml加えて十分混合する。
これによって色調がさらに鮮やかになり,風味も一層まろやかな好まれるドレッシングになる。
【実施例5】
【0030】
ドレッシング2の製造
本発明になる実施例1に記載のヤマブドウワインビネガー100mlにヤマブドウ果汁原液の4倍濃縮液を100ml加えて十分混合する。
これによって色調がさらに鮮やかになり,風味も一層まろやかな好まれるドレッシングが得られる。
【0031】
このドレッシングについて20〜70歳の男女170人に味覚テストをしたところ、57%が「とても良い」、38%が「良い」の評価であった。またドレッシング1については、28%が「とても良い」、39%が「良い」の評価であった。
【実施例6】
【0032】
飲用ワインビネガー1
本発明になる実施例1に記載のヤマブドウワインビネガー100mlに水300mlを加え、しょ糖を最終濃度で3〜5%になるように加える。
これによって美しい赤紫〜ピンク色のヤマブドウの風味を備えたドリンクになる。
【実施例7】
【0033】
飲用ワインビネガー2
本発明になる実施例1に記載のヤマブドウワインビネガー100mlに同種のブドウ果汁300mlを加えて、よく混合する。これにより、ブドウに含まれる成分のみで美しい赤紫〜ピンク色のヤマブドウの風味を備えたドリンク剤が得られる。
このドリンクについて、ドレッシングの場合と同じ味覚テストをしたところ、52%が「とても良い」、45%が「良い」との評価であった。このドリンクにおいて、ブドウ果汁を200mlにしたものは、70%の者が「良い」以上の評価であった。ブドウ果汁が100mlのドリンクでは「良い」という評価以上が40数%であり、好ましくないことが示唆された。
【比較例1】
【0034】
ワインビネガーの製造(比較例1)
実施例1において蒜山ヤマブドウの代わりに岡山産ピオーネを用いるほかは同じ条件で製造した。
【実施例8】
【0035】
発癌動物試験
センカー(Sencar)マウス(メス6週)の背部の毛を剃り、1群の4匹の背部皮膚に発癌物質DMBA(ジメチルベンゾ(a)アンスラセン)(390nmol/アセトン0.1ml)を1回塗布し、その1週後より発癌促進物質TPA(1.7nmol/アセトン0.1ml)を週2回塗布する。2群4匹の背部皮膚にはDMBA及びTPA塗布の30分前に、本発明ヤマブドウワインビネガー(本発明品1)の凍結乾燥物10gを溶媒(水とアセトンの1対2混液)20mlに溶かした溶液0.1mlを塗布した。3群3匹には水アセトン混液0.1mlのみを塗布し、1週後より週2回上記のTPA液を塗布した。4群4匹には、背部に本発明品1の凍結乾燥物溶液(2群で使用と同じもの)0.1mlを塗布し、1週後より週2回0.1mlを塗布し、30分後にアセトン0.1mlを塗布した。20週終了までに、1群4匹全てに皮膚の良性腫瘍ができたが、2群4匹には全く腫瘍は認められず、きれいな皮膚を保っていた。図7は13週目の状態を示している。また3群及び4群の全マウスには全く異常は認められなかった。なお、実験中餌及び水は自由に与えた。
【実施例9】
【0036】
変異原性試験
PHIP(2-Amino-1-methyl-6-phenylimidazo[4,5-b]pyridine)に対する本発明になる凍結乾燥物の抗変異原性をサルモネラ菌を用いるエイムス試験で調べた。
実験条件:
PHIP 1nmolの50μlメタノール溶液
ワインビネガー凍結乾燥物の蒸留水溶液(凍結物1mg/蒸留水0.1ml)0〜100μlと滅菌水100μl〜0μlの合計を100μlとする溶液
サルモネラ菌液 100μl
S9入り緩衝液 500μl
を混ぜて、37℃で20分しんとうする。これを寒天培地にまいて、37℃で48時間置いた後突然変異を起こしたサルモネラ菌数を数える。この結果、本発明になるワインビネガー凍結乾燥物は抗変異原性があることが判った。このことは、図6からも明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明になる蒜山ヤマブドウを原料とするワインビネガーは鮮やかな赤紫色で濃厚な色調とコクと風味も良く、しかも光安定化物質を共有しているため長期にわたって鮮やかな色を保つことが出来る。また本発明ワインビネガーは他の品種のブドウから製造されるものと比較してポリフェノール含量も非常に多く、かつ有機酸も多く含んでいる。従って飲食品業界は勿論のこと医薬、医薬部外品業界、美容・化粧品業界等にも利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】蒜山ヤマブドウとカベルネ・ソービニヨンの果汁から抽出した赤色色素部分のHPLCを示す図。
【図2】各種ワインビネガーの可視吸収スペクトルを示す図。
【図3】蒜山ヤマブドウ及び栽培ブドウ3品種の果皮抽出色素の耐光性を示す図。
【図4】蒜山ヤマブドウに含まれる光安定化物質の耐光性の効果を示す図。
【図5】ワインビネガーの製造過程における赤色色素と光安定化物質の変化を示す図。
【図6】ワインビネガー凍結乾燥物の抗変異原性を示す図。
【図7】ワインビネガー凍結乾燥物の発癌性動物実験の状態を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ブドウに共存するアントシアニン色素及び光安定化物質を含んでなるワインビネガー
【請求項2】
アントシアニン色素に対して約1%以上の光安定化物質を含むことを特徴とする請求項1に記載のワインビネガー
【請求項3】
糖度が約15%以上、アントシアニン色素の含量がOD525値で8.5以上であるヤマブドウ果汁を原料とする請求項1に記載のワインビネガー
【請求項4】
アントシアニン色素の含量がOD525値で7.0以上である請求項1に記載のワインビネガー
【請求項5】
原料ブドウが完熟蒜山ヤマブドウであることを特徴とする請求項1から4に記載のワインビネガー
【請求項6】
完熟蒜山ヤマブドウの果汁をアルコール発酵し、引き続き酢酸発酵させることを特徴とする鮮やかで濃厚な赤紫色を呈するワインビネガーの製造法
【請求項7】
発酵過程を備前焼製の容器で行うことを特徴とする蒜山ヤマブドウから醸造される請求項6に記載のワインビネガーの製造法
【請求項8】
ワインビネガーに含まれるアントシアニン含量がOD525値で7.0以上であり、当該色素に対して約1%以上の光安定化物質を含み、アントシアニン色素と光安定化物質とは原料に共存するものであることを特徴とする請求項6に記載のヤマブドウから醸造されるワインビネガーの製造法
【請求項9】
完熟蒜山ヤマブドウ果実から醸造されるワインビネガーを主成分とする飲食物添加剤
【請求項10】
完熟蒜山ヤマブドウ果実から醸造されるワインビネガーを含有することを特徴とする飲食物
【請求項11】
完熟蒜山ヤマブドウ果実から製造されるワインビネガーを有効成分として含有する抗酸化作用剤
【請求項12】
完熟蒜山ヤマブドウ果実から製造されるワインビネガーの乾燥粉末を成分として含有する皮膚化粧料
【請求項13】
完熟蒜山ヤマブドウ果実から製造されるワインビネガーの乾燥粉末を有効成分とする抗変異原性作用剤
【請求項14】
完熟蒜山ヤマブドウ果実から製造されるワインビネガーの乾燥粉末を有効成分とする発癌抑制剤


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−325449(P2006−325449A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−151642(P2005−151642)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】