説明

ラックアンドピニオン式のステアリング装置およびブッシュ

【課題】ブッシュによってラック軸をピニオン軸へ付勢する構成においてブッシュの組み付け性の向上を図ることができるラックアンドピニオン式のステアリング装置、および、このブッシュを提供すること。
【解決手段】ステアリング装置においてラック軸を摺動可能に支持する第2ブッシュ12は、ブッシュ本体55とOリング56とを含む。ブッシュ本体55は、側面視C型であってラック軸とステアリング装置のハウジングとの間に配置されており、周方向に延びる第1溝57と、第1溝57を避けた位置で軸方向に延びる第2溝72とが外周面55Aに形成されている。Oリング56は、一部がブッシュ本体55の外周面55Aから突出するように第1溝57に嵌め込まれ、ブッシュ本体55とハウジングとに挟まれており、ブッシュ本体55を介してラック軸をピニオン軸に向けて付勢する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ラックアンドピニオン式のステアリング装置、および、このステアリング装置のラック軸を支持するブッシュに関する。
【背景技術】
【0002】
ラックアンドピニオン式の車両用ステアリング装置が知られている。特許文献1のステアリング装置では、ステアリングホイールに連結されたピニオン軸と、ピニオン軸に噛合し、ステアリングホイールの操舵に応じて車幅方向にスライドしながら車輪を転舵させるラック軸とを含んでいる。
このステアリング装置は、ラック軸を収容するハウジングと、ラック軸に対して外嵌された状態でハウジング内に収容されていて、この状態でラック軸を弾性的に支持する筒状のブッシュと、ラックガイドとをさらに含んでいる。ラックガイドは、プレッシャースプリングに付勢されることによって、ラック軸をピニオン軸へ付勢しており、これによって、ラック軸とピニオン軸との噛み合い部分におけるバックラッシが低減されている。そのため、当該噛み合い部分における、いわゆる歯打ち音の抑制を図ることができる。
【0003】
特許文献2では、構造の簡素化のために、ラックガイドを廃止し、ブッシュ(ラックブッシュ)によってラック軸をピニオン軸へ付勢する構成が提案されている。このブッシュは、特許文献1のブッシュと同様に筒状であり、ラック軸の軸方向両端側に1つずつ設けられている。ブッシュの外周面には、周方向に延びる環状溝が形成されていて、環状溝には、Oリングが嵌め込まれている。Oリングがブッシュとハウジングの内周面との間で圧縮されることによって、ラック軸は、ブッシュによって弾性的に支持されている。
【0004】
そして、ラック軸の軸方向両端側の1対のブッシュのうち、第1のブッシュは、別のブッシュ(第2のブッシュ)に比べてピニオン軸寄りに位置している。この第1のブッシュの外周面には、弾性部材が設けられていて、この弾性部材は、第1のブッシュに挿通されたラック軸を、第2のブッシュを支点として、ピニオン軸側へ付勢している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−161117号公報
【特許文献2】特開2008−74218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載の構成では、ブッシュが筒状であることから、このブッシュをハウジングの端部開口からハウジング内に挿入する際に、ブッシュに対して外嵌されたOリングを、全周に亘って、ブッシュとハウジングの内周面との間で圧縮しなければならない。この場合には、Oリング全体を圧縮させながらブッシュをハウジング内に押し込む作業が必要になることから、ハウジングに対するブッシュの組み付けは困難である。
【0007】
この発明は、かかる背景のもとでなされたもので、ブッシュによってラック軸をピニオン軸へ付勢する構成においてブッシュの組み付け性の向上を図ることができるラックアンドピニオン式のステアリング装置、および、このブッシュを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、ピニオン軸(7)と、前記ピニオン軸と交差方向に配置されたラック軸(8)と、これらの軸を収容するハウジング(9)と、前記ハウジング内において前記ピニオン軸を挟んで配置されて前記ラック軸を摺動可能に支持する2個のブッシュ(11、12)とを備えるラックアンドピニオン式のステアリング装置(1)であって、前記2個のブッシュの少なくとも一方は、側面視C型であって前記ハウジングの一端(92)において前記ラック軸と前記ハウジングとの間に配置され、周方向に延びる第1溝(57)と前記第1溝を避けた位置で軸方向に延びる第2溝(72)とが外周面(55A)に形成されたブッシュ本体(55)と、一部が前記ブッシュ本体の外周面から突出するように前記第1溝に嵌め込まれ、前記ブッシュ本体と前記ハウジングとに挟まれており、前記ブッシュ本体を介して前記ラック軸を前記ピニオン軸に向けて付勢する弾性部材(56)と、を含むことを特徴とする、ラックアンドピニオン式のステアリング装置である。
【0009】
請求項2記載の発明は、前記ブッシュ本体の内周面(55B)において周方向で前記第2溝と一致する位置には、第2溝側へ窪みつつ軸方向へ延びる第3溝(73)が形成されていることを特徴とする、請求項1記載のラックアンドピニオン式のステアリング装置である。
請求項3記載の発明は、ピニオン軸と、前記ピニオン軸と交差方向に配置されたラック軸と、これらの軸を収容するハウジングと、前記ハウジング内において前記ピニオン軸を挟んで配置されて前記ラック軸を摺動可能に支持する2個のブッシュとを備えるラックアンドピニオン式のステアリング装置であって、前記2個のブッシュの少なくとも一方は、側面視C型であって前記ハウジングの一端において前記ラック軸と前記ハウジングとの間に配置され、周方向に延びる嵌込溝が外周面に形成されているとともに軸方向に延びる切欠き(61)が形成されたブッシュ本体(57)と、一部が前記ブッシュ本体の外周面から突出するように前記嵌込溝に嵌め込まれ、前記ブッシュ本体と前記ハウジングとに挟まれており、前記ブッシュ本体を介して前記ラック軸を前記ピニオン軸に向けて付勢する弾性部材と、を含み、前記嵌込溝において前記切欠きと交差する角部(70)が面取りされていることを特徴とする、ラックアンドピニオン式のステアリング装置である。
【0010】
請求項4記載の発明は、前記側面視C型のブッシュ本体を有するブッシュ(12)は、前記ハウジングにおいて前記ピニオン軸側の端部(92)に配置されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のラックアンドピニオン式のステアリング装置である。
請求項5記載の発明は、ラックアンドピニオン式のステアリング装置のラック軸を支持するブッシュであって、側面視C型であって、周方向に延びる第1溝と前記第1溝を避けた位置で軸方向に延びる第2溝とが外周面に形成されており、内周面側にラック軸が挿通されるブッシュ本体と、一部が前記ブッシュ本体の外周面から突出するように前記第1溝に嵌め込まれる弾性部材と、を含むことを特徴とする、ラック軸用のブッシュである。
【0011】
請求項6記載の発明は、前記ブッシュ本体の内周面において周方向で前記第2溝と一致する位置には、第2溝側へ窪みつつ軸方向へ延びる第3溝が形成されていることを特徴とする、請求項5記載のラック軸用のブッシュである。
請求項7記載の発明は、ラックアンドピニオン式のステアリング装置のラック軸を支持するブッシュであって、側面視C型であって、周方向に延びる嵌込溝が外周面に形成されているとともに軸方向に延びる切欠きが形成されており、内周面側にラック軸が挿通されるブッシュ本体と、一部が前記ブッシュ本体の外周面から突出するように前記嵌込溝に嵌め込まれる弾性部材と、を含み、前記嵌込溝において前記切欠きと交差する角部が面取りされていることを特徴とする、ラック軸用のブッシュである。
【0012】
なお、上記において、括弧内の数字等は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【発明の効果】
【0013】
請求項1、3、5および7記載の発明によれば、側面視C型のブッシュ本体を有するブッシュでは、ブッシュ本体が筒状である場合に比べて、ステアリング装置のハウジングにブッシュを組み付けるときにブッシュにおいて抵抗になる部分(弾性部材においてブッシュ本体とハウジングの内周面との間で圧縮される部分)が少なくなる。よって、ハウジングに対してブッシュを容易かつ円滑に組み付けることができる。その結果、ブッシュの組み付け性の向上を図ることができる。
【0014】
請求項2および6記載の発明によれば、請求項1および5記載のブッシュのように第2溝がブッシュ本体の周壁を貫通する切欠きでなくても、ブッシュ本体の内周面において第2溝と一致する位置に第3溝を形成することによってブッシュを撓みやすくし、ハウジングに対してブッシュを容易かつ円滑に組み付けることができる。これにより、ブッシュの組み付け性の更なる向上を図ることができる。
【0015】
請求項4記載の発明によれば、側面視C型のブッシュ本体を有するブッシュは、自身を力点とし、別のブッシュを支点として、ラック軸とピニオン軸との噛み合い部分を、力点と支点との間の作用点とした「てこの原理」によって、ラック軸をピニオン軸に向けて必要十分に付勢することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の一実施形態におけるステアリング装置1の概略構成を示す模式図である。
【図2】図2は、ステアリング装置1からラックアンドピニオン機構10およびその周辺を抜き出して示した模式図である。
【図3】図3(a)は、図2における第1ブッシュ11周辺の拡大図であり、図3(b)は、図2における第2ブッシュ12周辺の拡大図である。
【図4】図4(a)は、図3(a)においてラック軸8に高負荷がかかった状態を示しており、図4(b)は、図3(b)においてラック軸8に高負荷がかかった状態を示している。
【図5】図5は、第1ブッシュ11の斜視図である。
【図6】図6は、第1ブッシュ11の分解斜視図である。
【図7】図7は、第1実施形態に係る第2ブッシュ12の斜視図である。
【図8】図8は、第1実施形態に係る第2ブッシュ12の分解斜視図である。
【図9】図9(a)は、第1実施形態に係る第2ブッシュ12に関し、図8とは別の方向から見たブッシュ本体55の斜視図であり、図9(b)は、径方向外側から見たブッシュ本体55の側面図であり、図9(c)は、軸方向外側から見たブッシュ本体55の側面図であり、図9(d)は、図9(b)のA−A線における断面図である。
【図10】図10(a)は、ハウジング9の断面図であって、第1ブッシュ11が組み付けられた直後の状態を示しており、図10(b)は、図10(a)のハウジング9に対して第2ブッシュ12を組み付ける様子を示す斜視図である。
【図11】図11(a)は、図10(a)においてハウジング9に対して第2ブッシュ12が組み付けられた直後の状態を示しており、図11(b)は、図11(a)のB−B線における断面図である。
【図12】図12は、図11(a)においてハウジング9に対してラック軸8が組み付けられた直後の状態を示している。
【図13】図13(a)は、第2実施形態に係る第2ブッシュ12のブッシュ本体55の斜視図であり、図13(b)は、径方向外側から見たブッシュ本体55の側面図であり、図13(c)は、図13(b)のC−C線における断面図である。
【図14】図14は、第3実施形態に係る第2ブッシュ12の斜視図である。
【図15】図15は、第3実施形態に係る第2ブッシュ12の分解斜視図である。
【図16】図16(a)は、第3実施形態に係る第2ブッシュ12に関し、図15とは別の方向から見たブッシュ本体55の斜視図であり、図16(b)は、径方向外側から見たブッシュ本体55の側面図であり、図16(c)は、軸方向外側から見たブッシュ本体55の側面図であり、図16(d)は、図16(b)のD−D線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施形態におけるステアリング装置1の概略構成を示す模式図である。
図1を参照して、ステアリング装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2と、ステアリングシャフト3と、第1自在継手4と、中間軸5と、第2自在継手6と、ピニオン軸7と、ラック軸8と、ハウジング9とを主に含んでいる。ステアリングシャフト3は、操舵部材2に連結されている。ステアリングシャフト3と中間軸5とは、第1自在継手4を介して連結されている。中間軸5とピニオン軸7とは、第2自在継手6を介して連結されている。
【0018】
ピニオン軸7の端部近傍には、ピニオン7Aが設けられている。ラック軸8は、車幅方向(図1における左右方向であり、「軸方向X」ともいうことがある)に延びる円柱状である。ラック軸8の外周面の周上1箇所において、軸方向Xにおける途中の領域には、ラック8Aが設けられている。ピニオン軸7は、軸方向Xに延びるラック軸8と交差方向(図1では上下方向)に配置されていて、ピニオン軸7のピニオン7Aとラック軸8のラック8Aとが噛み合っている。このようなピニオン軸7およびラック軸8によってラックアンドピニオン機構10が構成されている。そのため、このステアリング装置1は、ラックアンドピニオン式のステアリング装置である。
【0019】
ハウジング9は、たとえばアルミニウム等の金属で形成されてラック軸8(軸方向X)に沿って長手の中空円筒状であり、車体(図示せず)に固定されている。ラック軸8は、ハウジング9内に収容されており、この状態で、軸方向Xに沿って直線往復移動可能である。ピニオン軸7(ピニオン7A)は、ハウジング9において、軸方向Xにおける両端部の間(図1では右側へ偏った位置)に収容されている。ハウジング9の当該両端部のうち、第1端部91(図1における左端部)は、ピニオン軸7から相対的に遠く、第2端部92(図1における右端部)は、ピニオン軸7に相対的に近い。つまり、第2端部92は、ピニオン軸7側の端部である。第1端部91には、第1ブッシュ11が配置されており、第2端部92には、第2ブッシュ12が配置されている。
【0020】
第1ブッシュ11および第2ブッシュ12は、ステアリング装置1の一部であり、ハウジング9内において、軸方向Xからピニオン軸7を挟むように配置されている。ラック軸8は、第1ブッシュ11および第2ブッシュ12によって支持されており、これらのブッシュに対して軸方向Xへ摺動可能である。第1ブッシュ11および第2ブッシュ12については、以降で詳説する。
【0021】
ハウジング9に収容されたラック軸8の(軸方向Xにおける)両端部は、ハウジング9の両外側へ突出し、各端部には、継手13を介してタイロッド14が結合されている。各タイロッド14は、対応するナックルアーム(図示せず)を介して車輪15に連結されている。
操舵部材2が操作されてステアリングシャフト3が回転されると、この回転がピニオン7Aおよびラック8Aによって、軸方向Xに沿ってのラック軸8の直線運動(スライド)に変換される。これにより、各車輪15の転舵が達成される。
【0022】
図2は、ステアリング装置1からラックアンドピニオン機構10およびその周辺を抜き出して示した模式図である。図3(a)は、図2における第1ブッシュ11周辺の拡大図であり、図3(b)は、図2における第2ブッシュ12周辺の拡大図である。図4(a)は、図3(a)においてラック軸8に高負荷がかかった状態を示しており、図4(b)は、図3(b)においてラック軸8に高負荷がかかった状態を示している。
【0023】
図2では、前述したハウジング9、ラックアンドピニオン機構10(ピニオン軸7およびラック軸8)、第1ブッシュ11および第2ブッシュ12が示されている。以下では、これらのそれぞれについて説明する。
ハウジング9は、前述したように中空円筒状であり、その中空部分20は、軸方向Xに沿って延びる中心軸を有する円筒状をなしている。中空部分20の軸方向Xにおける一端は、第1端部91において、第1開口21として外側(図2では左外側)へ露出され、中空部分20の軸方向Xにおける他端は、第2端部92において、第2開口22として外側(図2では右外側)へ露出されている。第1開口21および第2開口22は、いずれも、ラック軸8より大径の丸穴である。
【0024】
ハウジング9において中空部分20を区画する内周面23は、第1端部91では、第1開口21に近い側から順に、外側内周面24と、環状凸部25と、環状溝26と、内側内周面27と、段付き28とを含んでいる。外側内周面24は、第1開口21と同じ内径を有する円周面であり、第1開口21から連続して、第2端部92側(図2における右側)へ延びている。環状凸部25は、外側内周面24の一端(第2端部92側の端)から全周に亘って径方向内側へ鍔状に突出した部分であり、全体として環状をなしている。環状溝26は、環状凸部25の一端(第2端部92側の端)から全周に亘って径方向外側へ窪んだ部分であり、全体として環状をなしている。内側内周面27は、環状溝26を一端(第2端部92側の端)側から区画しつつ、たとえば環状凸部25と同じ内径で第2端部92側へ延びている。段付き28は、内側内周面27の一端(第2端部92側の端)から全周に亘って径方向内側へ突出した環状部分である。
【0025】
内周面23は、第2端部92では、第2開口22に近い側から順に、外側内周面34と、環状凸部35と、環状溝36と、内側内周面37と、段付き38とを含んでいる。外側内周面34は、第2開口22と同じ内径を有する円周面であり、第2開口22から連続して、第1端部91側(図2における左側)へ延びている。環状凸部35は、外側内周面34の一端(第1端部91側の端)から全周に亘って径方向内側へ鍔状に突出した部分であり、全体として環状をなしている。環状溝36は、環状凸部35の一端(第1端部91側の端)から全周に亘って径方向外側へ窪んだ部分であり、全体として環状をなしている。内側内周面37は、環状溝36を一端(第1端部91側の端)側から区画しつつ、たとえば環状凸部35と同じ内径で第1端部91側へ延びている。段付き38は、内側内周面37の一端(第1端部91側の端)から全周に亘って径方向内側へ突出した環状部分である。
【0026】
また、内周面23において第1端部91側の段付き28と第2端部92側の段付き38とに挟まれた部分は、ほぼ一定の内径を有する円周面39になっている。円周面39において段付き38側に偏った位置には、ハウジング9の径方向外側(図2では上側)へ向けて窪む窪み40が形成されている。窪み40は、ハウジング9の中空部分20の一部をなしている。ハウジング9の周壁において窪み40と一致する部分は、窪み40に応じて径方向外側へ膨出している。
【0027】
ラックアンドピニオン機構10において、ピニオン軸7のピニオン7Aは、円筒状または円柱状であり、ピニオン軸7に対して同軸状となるように連結されている。ピニオン7Aの外周面には、複数のギヤ歯41が周方向に並んで形成されている。ピニオン7Aは、前述した窪み40に収容されている。
ラック軸8は、前述したように軸方向Xに延びる円柱状である。ラック軸8は、軸方向Xにおいてハウジング9よりも長手である。そのため、ラック軸8の一端部(図2における左端部)は、第1開口21からハウジング9の外側(図2では左外側)へはみ出ていて、ラック軸8の他端部(図2における右端部)は、第2開口22からハウジング9の外側(図2では右外側)へはみ出ている。そして、前述したラック8Aは、ラック軸8の外周面8Bの周上1箇所において、軸方向Xで第2開口22側へ偏った領域に設けられている。ラック8Aは、軸方向Xに並ぶ複数のギヤ歯42によって構成されている。ピニオン7Aのギヤ歯41と、ラック8Aのギヤ歯42とが噛み合っている。図2では、車輪15(図1参照)が転舵していない中立状態におけるラック軸8を示しており、このとき、ピニオン7Aは、ラック8Aの軸方向Xにおける中央部分と噛み合っている。なお、図3および図4の内容については、以降で説明する。
【0028】
次に、第1ブッシュ11について説明する。図5は、第1ブッシュ11の斜視図である。図6は、第1ブッシュ11の分解斜視図である。
図5および図6を参照して、第1ブッシュ11は、ブッシュ本体45と、複数本(ここでは2本)のOリング46とを含んでいる。
ブッシュ本体45は、樹脂製の中空円筒状であり、その中空部分は、軸方向における両側において開放されている。なお、第1ブッシュ11がステアリング装置1内に組み込まれた状態(図1および図2参照)では、ブッシュ本体45の軸方向は、前述した軸方向Xと一致している。そして、ブッシュ本体45の内径は、ラック軸8の外径よりも僅かに大きく、ブッシュ本体45の外径は、ハウジング9の第1端部91における内側内周面27の内径よりもある程度小さい(図2参照)。
【0029】
ブッシュ本体45の外周面45Aには、周方向に延びる嵌込溝47が、軸方向に間隔を隔てて2本形成されている。各嵌込溝47は、ブッシュ本体45の外周面45Aの周方向全域に亘って形成されており、環状をなしている。ブッシュ本体45の周方向に直交する平面で切断したときの各嵌込溝47の断面は、矩形の凹状になっている。嵌込溝47の数とOリング46の数とは一致しており、ここでは2本である。
【0030】
ブッシュ本体45の軸方向における一端(図5および図6における左端)には、ブッシュ本体45の径方向外側へ向かって鍔状に張り出したフランジ部48が一体的に設けられている。フランジ部48全体は、ブッシュ本体45と同軸状をなす環状に形成されている。フランジ部48の外径は、ハウジング9の内周面23において環状凸部25における内径よりも大きく、内周面23において環状溝26における内径よりも小さい(図2参照)。
【0031】
ブッシュ本体45には、ブッシュ本体45の軸方向に延びてフランジ部48側からフランジ部48およびブッシュ本体45を切り込む複数の切欠き49が形成されている。切欠き49は、ブッシュ本体45の周方向において所定の間隔を隔てて並んでいる。各切欠き49は、フランジ部48を径方向において切断するとともに、2本の嵌込溝47を横切りつつブッシュ本体45の周壁の一部を径方向において切断して、ブッシュ本体45の外周面45Aおよび内周面45Bの両側から露出されている。各切欠き49においてフランジ部48側とは反対側(図5および図6における右側)の端部は、当該反対側におけるブッシュ本体45の端縁まで達していない。
【0032】
Oリング46は、ゴム等の弾性材料で形成された環状である。Oリング46の周方向に直交する平面で切断したときのOリング46の断面は、円形状をなしている。2本のOリング46は、ブッシュ本体45に対して外嵌されており、この状態で、各嵌込溝47に対して、いずれか1本のOリング46が嵌め込まれている。このとき、各Oリング46には、ある程度のテンションがかかっている。
【0033】
このように完成された状態にある第1ブッシュ11では、図5に示すように、各Oリング46の一部(径方向外側部分)が嵌込溝47(ブッシュ本体45の外周面45A)から径方向外側へはみ出ている。そして、第1ブッシュ11は、各切欠き49の幅(周方向における幅)を狭めることによって、弾性的に縮径することができる。そのため、第1ブッシュ11を摘んで指に力を入れると第1ブッシュ11全体が縮径し、その力を緩めると第1ブッシュ11は元の大きさまで拡径する。
【0034】
次に、第2ブッシュ12について説明する。図7は、第1実施形態に係る第2ブッシュ12の斜視図である。図8は、第1実施形態に係る第2ブッシュ12の分解斜視図である。図9(a)は、第1実施形態に係る第2ブッシュ12に関し、図8とは別の方向から見たブッシュ本体55の斜視図であり、図9(b)は、径方向外側から見たブッシュ本体55の側面図であり、図9(c)は、軸方向外側から見たブッシュ本体55の側面図であり、図9(d)は、図9(b)のA−A線における断面図である。ここで、第2ブッシュ12には、図7〜図9に示す第1実施形態と、後述する第2実施形態(図13参照)および第3実施形態(図14〜図16参照)とがある。第1実施形態、第2実施形態および第3実施形態の各第2ブッシュ12では、細部が異なる。
【0035】
図7および図8を参照して、第2ブッシュ12は、ブッシュ本体55と、Oリング56(弾性部材)とを含んでいる。
ブッシュ本体55は、樹脂製であり、第2ブッシュ12の外郭をなしている。ブッシュ本体55は、図8において2点鎖線で示した基準線Yを曲率中心とするC型の円弧をなしている。基準線Yが延びる方向がブッシュ本体55の軸方向であり、当該軸方向から見たときを「側面視」とした場合、ブッシュ本体55は側面視C型である。ブッシュ本体55は、当該軸方向において所定の幅を有している。また、別の言い方をすると、ブッシュ本体55は、当該軸方向に延びる中心軸を有する円筒において周上1箇所を切断したものと同じ形状をなしている。このようなブッシュ本体55を含む第2ブッシュ12全体も、側面視C型をなしている。なお、第2ブッシュ12がステアリング装置1内に組み込まれた状態(図1および図2参照)では、ブッシュ本体55の軸方向は、前述した軸方向Xと一致している。
【0036】
ブッシュ本体55において、基準線Yを中心とする径方向における外側面を、外周面55Aといい、当該径方向における内側面を、内周面55Bということにする。外周面55Aおよび内周面55Bは、いずれも側面視C型である。また、ブッシュ本体55において、C型の周方向において途切れた部分を開放部分55Cとすると、ブッシュ本体55の内周面55B側は、軸方向における両側と、開放部分55C側(軸方向に直交する側)とにおいて、開放されている。
【0037】
ブッシュ本体55の(内周面55Bにおける)内径は、ラック軸8の外径よりも僅かに大きく、ブッシュ本体55の(外周面55Aにおける)外径は、ハウジング9の第2端部92における内側内周面37の内径よりもある程度小さい(図2参照)。
ブッシュ本体55の外周面55Aには、周方向に延びる嵌込溝57が、軸方向に間隔を隔てて2本形成されている。2本の嵌込溝57は、周方向に沿って平行に延びている。各嵌込溝57は、ブッシュ本体55の外周面55Aの周方向全域に亘って形成されており、ブッシュ本体55と同様に側面視C型をなしている。ブッシュ本体55の周方向に直交する平面で切断したときの各嵌込溝57の断面は、矩形の凹状になっている。
【0038】
外周面55Aでは、各嵌込溝57を凹部とみなすと、当該凹部以外の部分が凸部58になっている(図9(b)参照)。凸部58は、周方向に延びる筋状であり、軸方向において2本の嵌込溝57と交互に並ぶように3本設けられている。各凸部58は、外周面55Aの周方向におけるほぼ全域に亘って延びている。3本の凸部58のうち、軸方向において真ん中に位置する凸部58の周方向両端部のそれぞれは、係止部59をなしている。図8では、1対の係止部59のうち、図8では見えない位置にある係止部59を仮想線(点線)で示している。1対の係止部59は、各嵌込溝57の周方向における両端側に位置している。各係止部59は、径方向外側から見て、ブッシュ本体55の開放部分55C側へ向けて円弧状に膨出したブロック状である。
【0039】
ブッシュ本体55の軸方向における一端(図8および図9(b)における右手前側の端)には、ブッシュ本体55の径方向外側へ向かって鍔状に張り出したフランジ部60(位置決め部)が一体的に設けられている。フランジ部60全体は、ブッシュ本体55と同軸状をなす側面視C型に形成されている。径方向において、フランジ部60は、ブッシュ本体55の外周面55A(凸部58の先端も含む)よりも外側へ突出している(図9(b)参照)。フランジ部60の外径は、ハウジング9の内周面23において環状凸部35における内径よりも大きく、内周面23において環状溝36における内径よりも小さい(図2参照)。また、フランジ部60の外周面において、周方向における略中央には、径方向外側へ側面視で円弧状に膨出する突起62が一体的に設けられている。
【0040】
ブッシュ本体55には、ブッシュ本体55の軸方向に延びてフランジ部60側からフランジ部60およびブッシュ本体55を切り込む複数(ここでは、4つ)の切欠き61が形成されている。これらの切欠き61は、ブッシュ本体55の周方向において所定の間隔を隔てて並んでいる。各切欠き61は、フランジ部60を径方向において切断するとともに、2本の嵌込溝57を横切りつつブッシュ本体55の周壁の一部を径方向において切断して、ブッシュ本体55の外周面55Aおよび内周面55Bの両側から露出されている。各切欠き61においてフランジ部60側とは反対側(図8および図9(b)における左側)の端部は、当該反対側におけるブッシュ本体55の端縁まで達しておらず、詳しくは、当該反対側の凸部58の直前まで延びている(図9(b)参照)。切欠き61が形成されていることによって、当該反対側の凸部58以外の2本の凸部58は、周方向において途切れている。
【0041】
Oリング56は、ゴム等の弾性材料で形成された環状である。Oリング56の周方向に直交する平面で切断したときのOリング56の断面は、円形状をなしている。第2ブッシュ12において、Oリング56は、1本だけ設けられている。1本のOリング56は、図8に示すようにブッシュ本体55の軸方向において扁平となるように撓んだ状態(当初から撓んだ形状であってもよい)で、ブッシュ本体55の1対の係止部59に係止されている(図7および図9(d)参照)。また、Oリング56において、係止部59よりもフランジ部60側で周方向に延びている部分は、フランジ部60側の嵌込溝57に嵌め込まれ、残りの部分(係止部59よりもフランジ部60側とは反対側で周方向に延びている部分)は、残りの(当該反対側)の嵌込溝57に嵌め込まれている(図7および図9(b)参照)。つまり、1本のOリング56は、嵌込溝57の周方向における両端側において係止部59に係止されつつ、両方の嵌込溝57に嵌め込まれている。このとき、Oリング56には、ある程度のテンションがかかっている。
【0042】
なお、Oリング56において1対の係止部59に係止される部分は、係止部59に対して確実に係止されるように、円形状の断面でなく、係止部59の周面に面接触できる薄膜状の断面を有していてもよい。また、各係止部59は、Oリング56を確実に係止できるような形状(たとえば、フック形状)であることが好ましい。
このように完成された状態にある第2ブッシュ12では、図7に示すように、Oリング56の一部(径方向外側部分)が各嵌込溝57(ブッシュ本体55の外周面55A)から径方向外側へ突出している(図9(b)および図9(d)も参照)。そして、第2ブッシュ12は、各切欠き61の幅(周方向における幅)を狭めることによって、第1ブッシュ11と同様に、弾性的に縮径することができる。そのため、第2ブッシュ12を摘んで指に力を入れると第2ブッシュ12全体が縮径し、その力を緩めると第2ブッシュ12は元の大きさまで拡径する。
【0043】
次に、ハウジング9に対するラックアンドピニオン機構10、第1ブッシュ11および第2ブッシュ12の組み付けについて説明する。
図10(a)は、ハウジング9の断面図であって、第1ブッシュ11が組み付けられた直後の状態を示しており、図10(b)は、図10(a)のハウジング9に対して第2ブッシュ12を組み付ける様子を示す斜視図である。図11(a)は、図10(a)においてハウジング9に対して第2ブッシュ12が組み付けられた直後の状態を示しており、図11(b)は、図11(a)のB−B線における断面図である。図12は、図11(a)においてハウジング9に対してラック軸8が組み付けられた直後の状態を示している。
【0044】
まず、図10(a)を参照して、ハウジング9に対して第1ブッシュ11を組み付ける。具体的には、縮径前の状態にある第1ブッシュ11を、軸方向Xに沿ってハウジング9の第1開口21に対して挿入する。このとき、第1ブッシュ11では、ブッシュ本体45においてフランジ部48を除く部分がフランジ部48よりも先に第1開口21を通過するようにする。その後、第1ブッシュ11のブッシュ本体45においてフランジ部48を除く部分は、環状凸部25に囲まれた部分、および、環状溝26に囲まれた部分を、この順に通過して、内側内周面27の内側に挿通される。この際、第1ブッシュ11では、Oリング46が、内側内周面27に対して径方向内側から全周に亘って接触し、内側内周面27とブッシュ本体45との間である程度圧縮されるものの、内側内周面27とブッシュ本体45の外周面45Aとの間には、全周に亘って、ある程度の隙間(径方向の隙間)が確保されている。
【0045】
そして、ブッシュ本体45においてフランジ部48を除く部分を内側内周面27の内側に引き続き挿通すると、フランジ部48が環状凸部25に対して第1開口21側から当接し、これ以上第1ブッシュ11が進めなくなる。そこで、前述したように第1ブッシュ11(特にフランジ部48)を摘んで縮径させると、フランジ部48の外径が、ハウジング9の内周面23において環状凸部25における内径よりも小さくなるので、フランジ部48(つまり、第1ブッシュ11全体)は、環状凸部25に囲まれた部分を通過できる。フランジ部48が環状凸部25に囲まれた部分を通過してから、第1ブッシュ11を元の大きさまで拡径させると、フランジ部48が全周に亘って環状溝26に対して径方向内側から嵌まり込む。
【0046】
これにより、図10(a)に示すように、第1ブッシュ11がフランジ部48において軸方向Xに位置決めされ、ハウジング9に対する第1ブッシュ11の組み付けが完了する。この状態では、ブッシュ本体45の外周面45Aが、内側内周面27に対して径方向内側から対向している。そして、2本のOリング46のそれぞれが、内側内周面27とブッシュ本体45との間である程度圧縮されるものの、内側内周面27とブッシュ本体45の外周面45Aとの間には、全周に亘って、ある程度の隙間が確保されている。このように、第1ブッシュ11は、ハウジング9において第1開口21のすぐ近くの端部(第1端部91)にセットされるので、ハウジング9に対して組み付けやすい。
【0047】
なお、フランジ部48が環状溝26に嵌まり込んでいる以外に、ブッシュ本体45の先にハウジング9の段付き28が位置しているので、第1ブッシュ11がハウジング9の中空部分20において段付き28を超えて第2端部92側へずれることはない。
次いで、図10(b)に示すように、ハウジング9に対して第2ブッシュ12を組み付ける。具体的には、縮径前の状態にある第2ブッシュ12を、軸方向Xに沿ってハウジング9の第2開口22に対して挿入する(図10(b)の太線矢印参照)。このとき、第2ブッシュ12では、ブッシュ本体55においてフランジ部60を除く部分がフランジ部60よりも先に第2開口22を通過するようにする。その後、第2ブッシュ12のブッシュ本体55においてフランジ部60を除く部分は、環状凸部35に囲まれた部分、および、環状溝36(図10(b)で黒く塗り潰した部分)に囲まれた部分を、この順に通過して、内側内周面37の内側に挿通される。
【0048】
この際、第2ブッシュ12では、1本のOリング56において嵌込溝57に嵌め込まれた部分が、内側内周面37に対して径方向内側から接触する。ただし、第2ブッシュ12は、前述したように側面視C型であることから、ハウジング9における円筒状の中空部分20内において、ハウジング9(中空部分20)の径方向へある程度自由に動ける。よって、ブッシュ本体55を内側内周面37の内側に挿通する際において、Oリング56が内側内周面37に接触しても、その接触がブッシュ本体55の挿通に対する抵抗となることは、ほとんどない。
【0049】
つまり、側面視C型のブッシュ本体55を有する第2ブッシュ12では、ブッシュ本体55が筒状(側面視O型であり、第1ブッシュ11を参照)である場合に比べて、ハウジング9に第2ブッシュ12を組み付けるときに第2ブッシュ12において抵抗になる部分が少なくなる。当該部分とは、Oリング56において第2ブッシュ12のブッシュ本体55とハウジング9の内周面23(内側内周面37)との間で圧縮される部分のことである。よって、ハウジング9に対して第2ブッシュ12を容易かつ円滑に組み付けることができる。その結果、第2ブッシュ12の組み付け性の向上を図ることができる。
【0050】
そして、ブッシュ本体55においてフランジ部60を除く部分を内側内周面37の内側に引き続き挿通すると、フランジ部60が環状凸部35に対して第2開口22側から当接し、これ以上第2ブッシュ12が進めなくなる。そこで、前述したように第2ブッシュ12(特にフランジ部60)を摘んで縮径させると、フランジ部60の外径が、ハウジング9の内周面23において環状凸部35における内径よりも小さくなるので、フランジ部60(つまり、第2ブッシュ12全体)は、環状凸部35に囲まれた部分を通過できる。フランジ部60が環状凸部35に囲まれた部分を通過してから、第2ブッシュ12を元の大きさまで拡径させると、図11(a)に示すように、フランジ部60が全周に亘って環状溝36に対して径方向内側から嵌まり込み、これによって、ハウジング9に係合する。
【0051】
そして、フランジ部60がハウジング9に係合することにより、第2ブッシュ12が、フランジ部60においてハウジング9に対して(軸方向Xにおいて)位置決めされ、ハウジング9に対する第2ブッシュ12の組み付けが完了する。
前述したように側面視C型のブッシュ本体55を有する第2ブッシュ12では、ブッシュ本体55が筒状である場合(第1ブッシュ11の場合)に比べて、ハウジング9に第2ブッシュ12を組み付ける際に、第2ブッシュ12の姿勢をハウジング9内で比較的自由に変えることができる。これによって、ブッシュ本体55に設けられたフランジ部60をハウジング9の環状溝36にうまく係合させることができる。これにより、第2ブッシュ12を位置決めするための部材を第2ブッシュ12とは別に設け、第2ブッシュ12をハウジング9内にセットしてから当該部材で第2ブッシュ12を位置決めしなくても、第2ブッシュ12をハウジング9において位置決めすることができるので、部品点数の低減を図ることができる。また、このように、第2ブッシュ12は、ハウジング9において第2開口22のすぐ近くの端部(第2端部92)にセットされるので、ハウジング9に対して組み付けやすい。
【0052】
なお、フランジ部60が環状溝36に嵌まり込んでいる以外に、ブッシュ本体55の先にハウジング9の段付き38が位置しているので、第2ブッシュ12がハウジング9の中空部分20において段付き38を超えて第1端部91側へずれることはない。
このようにハウジング9に対する第2ブッシュ12の組み付けが完了した状態では、ブッシュ本体55の外周面55Aが、内側内周面37に対して径方向内側から対向している。また、この状態では、Oリング56が、内側内周面37に対して径方向内側から接触している。しかし、前述したように第2ブッシュ12がハウジング9内(中空部分20)において径方向へある程度自由に動けることから、Oリング56は、内側内周面37とブッシュ本体55との間でほとんど圧縮されていない。そのため、ブッシュ本体55の外周面55Aは、内側内周面37から径方向内側へ浮いた状態になっており、外周面55Aと内側内周面37との間には、全周に亘って、ある程度の隙間が確保されている。
【0053】
ここで、図11(b)に示すように、ハウジング9の環状溝36において、フランジ部60の外周面の突起62と一致する部分には、環状溝36から連続して環状溝36よりも深く窪む係止溝36Aが形成されている。フランジ部60の突起62は、この係止溝36Aに対して径方向内側から嵌まり込んでいる。これにより、第2ブッシュ12全体が周方向において位置決めされ、回転しなくなっている。なお、突起62を係止溝36A(ハウジング9の内周面23)に設けて、係止溝36Aをフランジ部60の外周面に設けても、第2ブッシュ12を周方向において位置決めできる。
【0054】
このように周方向において位置決めされた第2ブッシュ12は、図11(b)に示すように軸方向Xから見て、ブッシュ本体55において開放部分55Cがハウジング9の窪み40(図11(a)参照)側を向くように、ハウジング9の内周面23において窪み40から周方向に180°ずれた位置(窪み40から最も離れた位置)に沿って配置されている。そのため、軸方向Xから見て、ブッシュ本体55では、外周面55Aでなく、内周面55Bが窪み40側に位置している。
【0055】
なお、図11(b)では、説明の便宜上、Oリング56(図11(a)参照)の図示を省略する一方で、ラック軸8を点線で示している。
次いで、図12を参照して、ラック軸8を第1開口21または第2開口22からハウジング9内(中空部分20)に挿通する。ラック軸8を第1開口21からハウジング9内に挿通する場合には、ラック軸8は、軸方向Xに沿って、第1ブッシュ11のブッシュ本体45の中空部分、ハウジング9の円周面39および第2ブッシュ12のブッシュ本体55の内周面55B側に対して、この順番で挿通される。
【0056】
逆に、ラック軸8を第2開口22からハウジング9内に挿通する場合には、ラック軸8は、軸方向Xに沿って、第2ブッシュ12のブッシュ本体55の内周面55B側、ハウジング9の円周面39、および、第1ブッシュ11のブッシュ本体45の中空部分に対して、この順番で挿通される。
いずれにせよ、ラック軸8が第1ブッシュ11のブッシュ本体45の中空部分に挿通されると、第1ブッシュ11は、第1端部91においてラック軸8に対して径方向外側から嵌められるとともに、ラック軸8とハウジング9の内周面23との間に配置された状態になる。そして、ラック軸8が第2ブッシュ12のブッシュ本体55の内周面55B側に対して挿通されると、第2ブッシュ12は、第2端部92(ハウジング9の一端)においてラック軸8に対して径方向外側から嵌められるとともに、ラック軸8とハウジング9の内周面23との間に配置された状態になる。
【0057】
なお、第1ブッシュ11のブッシュ本体45の内周面45B、および、第2ブッシュ12のブッシュ本体55の内周面55Bのそれぞれにおいて、軸方向Xにおける両端縁には、面取り部分63が設けられている(図5および図7参照)。そのため、ラック軸8を、第1ブッシュ11のブッシュ本体45の中空部分、および、第2ブッシュ12のブッシュ本体55の内周面55B側のいずれに対しても、引っ掛かることなく円滑に挿通できる。
【0058】
ここで、第2ブッシュ12は、ラック軸8が挿通される前の状態ではハウジング9内で径方向へある程度自由に動けていたのだが(図11参照)、ラック軸8が挿通された状態では、ラック軸8によって内側内周面37側へ押し付けられており、ハウジング9内において単独で径方向へ自由に動くことはできない。このときの第2ブッシュ12は、ラック軸8によって、軸方向Xから見て窪み40から離れる方向(図12における下向き)へ押し付けられている。そして、このように第2ブッシュ12がラック軸8によって内側内周面37側へ押し付けられることによって、第2ブッシュ12では、Oリング56がブッシュ本体55と内側内周面37(ハウジング9)とに挟まれて圧縮されている。ただし、ブッシュ本体55の外周面55Aと内側内周面37との間には、全周に亘って、ある程度の隙間が確保されている。
【0059】
そして、図12に示すように、ラック軸8において第1開口21および第2開口22の一方に対して最初に挿通された端部が、第1開口21および第2開口22の他方から出てくると、ハウジング9内へのラック軸8の挿通(ハウジング9に対するラック軸8の組み付け)が完了する。組み付けが完了したラック軸8は、いずれの部分においてもハウジング9に接触していない。
【0060】
ここで、ラック軸8の外周面8Bにおいてハウジング9の窪み40側(図12における上側)領域の軸方向Xにおける1箇所(図12では、ラック8Aに対して第1端部91側から隣接する位置)には、ラック軸8の軸中心側へ窪む窪み部100(他の図では図示を省略)が形成されている。ハウジング9に対するラック軸8の組み付けが途中の場合(ラック軸8が挿通途中の場合)において、軸方向Xで窪み部100と窪み40とが一致する状態で、ラック軸8の挿通を一時停止する。このとき、窪み部100と窪み40とが合わさって、比較的大きなスペースが形成されるので、このスペースにピニオン軸7のピニオン7A(図2参照)を挿入し、その後、ラック軸8の挿通を再開する。すると、軸方向Xにおいて窪み部100が窪み40から離れるので、これに応じて、窪み40内のピニオン7Aが窪み部100から外れ、図2に示すように、ピニオン7Aのギヤ歯41とラック軸8のラック8Aのギヤ歯42とが噛み合うようになる。
【0061】
ギヤ歯41とギヤ歯42とが噛み合い始める直前では、ピニオン7Aが一瞬ラック8A(窪み部100側の端部)に乗り上げることで、ラック軸8が、窪み40から離れる方向(第2ブッシュ12側)へ若干撓む。このとき、ラック軸8は、第2ブッシュ12のOリング56がブッシュ本体55とハウジング9の内周面23(内側内周面37)との間で圧縮されるように、径方向へ若干ずれたことになる。その後、ギヤ歯41とギヤ歯42とが正しく噛み合うようになると、ラック軸8は、撓む前の状態(径方向へずれる前の位置)に速やかに戻る。そして、ハウジング9内へのラック軸8の挿通が完了すると(図12も参照)、ハウジング9に対するラック軸8の組み付けが完了するとともに、ラックアンドピニオン機構10が完成し、さらに、ハウジング9に対するラックアンドピニオン機構10の組み付けも完了する。なお、ここでのラック軸8の挿通方向は、窪み部100の位置の都合上、第2開口22から第1開口21へ向かう方向(左向きの方向)になる(図12参照)。
【0062】
次に、ステアリング装置1における第1ブッシュ11および第2ブッシュ12の役割について説明する。
図2および図3を参照して、前述したように、第1ブッシュ11および第2ブッシュ12は、いずれも、ラック軸8に対して径方向外側から嵌められた状態になっている。そのため、第1ブッシュ11では、ブッシュ本体45の内周面45Bが、ラック軸8の外周面8Bに対して面接触しており、第2ブッシュ12では、ブッシュ本体55の内周面55Bが、ラック軸8の外周面8Bに対して面接触している。これにより、第1ブッシュ11および第2ブッシュ12は、ラック軸8を、軸方向Xにおいて摺動可能に支持している。ここで、第1ブッシュ11は、フランジ部48においてハウジング9に位置決めされ、第2ブッシュ12は、フランジ部60においてハウジング9に位置決めされているので、操舵部材2の操作に伴ってラック軸8が軸方向Xにスライドしても、これらのブッシュの軸方向Xにおける位置がずれることはない。
【0063】
そして、第1ブッシュ11では、ブッシュ本体45に取り付けられた2本のOリング46が、ブッシュ本体45とハウジング9の内側内周面27とに圧縮されており、第2ブッシュ12では、ブッシュ本体55に取り付けられた1本のOリング56が、ブッシュ本体55とハウジング9の内側内周面37とに圧縮されている。これにより、第1ブッシュ11および第2ブッシュ12は、ラック軸8を径方向において弾性的に支持している。また、各Oリング46およびOリング56において径方向内側へ作用する弾性収縮力によって、切欠き49を有する第1ブッシュ11(図5参照)と、切欠き61を有する第2ブッシュ12(図7参照)とが若干縮径されている。これにより、第1ブッシュ11のブッシュ本体45の内周面45Bと第2ブッシュ12のブッシュ本体55の内周面55Bとが、ラック軸8の外周面8Bに対して隙間無く面接触している。
【0064】
ここで、車両の走行中において、ラック軸8から第1ブッシュ11および第2ブッシュ12に負荷される径方向の荷重(ラジアル荷重)が小さいとき(操舵部材2を操作してない低負荷時)には、第1ブッシュ11のブッシュ本体45の外周面45Aから各Oリング46の径方向外側部分がはみ出てハウジング9の内側内周面27に接触している。また、第2ブッシュ12のブッシュ本体55の外周面55AからOリング56の径方向外側部分がはみ出てハウジング9の内側内周面37に接触している。これにより、各Oリング46および56によって、前述した低負荷が吸収され、第1ブッシュ11のブッシュ本体45の外周面45Aとハウジング9の内側内周面27との間に、径方向における隙間Sが周方向全域に亘って確保されている(図3(a)参照)。また、第2ブッシュ12のブッシュ本体55の外周面55Aとハウジング9の内側内周面37との間にも、径方向における隙間Sが周方向全域に亘って確保されている(図3(b)参照)。
【0065】
したがって、前記ラジアル荷重が小さいときには、第1ブッシュ11のブッシュ本体45は、径方向においてハウジング9の内側内周面27から内側へ浮いた状態になるように、2本のOリング46によって弾性支持されている。また、このとき、第2ブッシュ12のブッシュ本体55は、径方向においてハウジング9の内側内周面37から内側へ浮いた状態になるように、1本のOリング56によって弾性支持されている。これにより、第1ブッシュ11および第2ブッシュ12に支持されたラック軸8も弾性支持されているので、ラック軸8のがたつきを防止できる。
【0066】
一方、走行中に操舵部材2を操作したり、車輪15(図1参照)が縁石にぶつかったりする等によって、ラック軸8から第1ブッシュ11に対するラジアル荷重が大きくなることがある。このような高負荷時には、第1ブッシュ11では、図4(a)に示すように、ブッシュ本体45が2本のOリング46を圧縮しながら径方向の外側(図4(a)では下側)へ変位する。そして、最終的には、各Oリング46が嵌込溝47内に完全に収まってしまって、第1ブッシュ11のブッシュ本体45の外周面45Aがハウジング9の内側内周面27に接触し、前述した隙間S(図3(a)参照)が周上1箇所においてなくなってしまう。
【0067】
また、ラック軸8から第2ブッシュ12へのラジアル荷重が大きくなると、第2ブッシュ12では、図4(b)に示すように、ブッシュ本体55が1本のOリング56を圧縮しながら径方向の外側(図4(b)では下側)へ変位する。そして、最終的には、Oリング56が各嵌込溝57内に完全に収まってしまって、第2ブッシュ12のブッシュ本体55の外周面55Aがハウジング9の内側内周面37に接触し、前述した隙間S(図3(b)参照)が周方向全域に亘ってなくなってしまう。
【0068】
つまり、高負荷時には、第1ブッシュ11のブッシュ本体45や第2ブッシュ12のブッシュ本体55といった樹脂部分がハウジング9の内周面23(内側内周面27や内側内周面37)に直接接触することによって、高負荷を吸収する。これにより、第1ブッシュ11や第2ブッシュ12が径方向の外側へこれ以上変位できなくなることから、ラック軸8の径方向への撓みが防止されるので、高負荷時におけるラック軸8の支持剛性を維持できる。
【0069】
なお、このように第1ブッシュ11や第2ブッシュ12が径方向の外側へ変位できなくなったときには、Oリング46やOリング56は、目一杯圧縮されていて、各Oリングの断面は、当初の真円形状(図3(a)および図3(b)参照)から、楕円形状(図4(a)および図4(b)参照)へと弾性変形している。
そして、図2を参照して、第2ブッシュ12は、以上のようにラック軸8を支持する機能の他に、ラック8Aおよびピニオン7Aの噛み合い部(ギヤ歯41および42)のバックラッシを除去する機能も有している。具体的に、第2ブッシュ12は、前述したように側面視C型であり、ハウジング9の内周面23において窪み40のピニオン軸7から最も離れた位置に配置されている。そして、第2ブッシュ12では、ブッシュ本体55の外周面55A(ブッシュ本体55においてピニオン軸7から最も離れた側面)にOリング56が取り付けられ、ブッシュ本体55とハウジング9の内周面23とに挟まれて圧縮されている。これにより、このOリング56が、自身の弾性力によって、ブッシュ本体55を介してラック軸8をピニオン軸7に向けて弾性的に付勢している。
【0070】
この場合、第2ブッシュ12は、軸方向Xにおいて、ラック軸8とピニオン軸7との噛み合い部分から第2端部92側へ離れた位置にある。そのため、第2ブッシュ12は、自身を力点とし、別のブッシュ(第1ブッシュ11)を支点として、ラック軸8とピニオン軸7との噛み合い部分を、力点と支点との間の作用点とした「てこの原理」によって、ラック軸8をピニオン軸7に向けて必要十分に付勢することができる。なお、ラック軸8をピニオン軸7に向けて力強く付勢するために、このように、第2ブッシュ12を、ラック軸8とピニオン軸7との噛み合い部分から軸方向Xにおいて極力離して、力点と作用点との距離を長くすることが望ましい。
【0071】
また、第2ブッシュ12では、1本のOリング56を2本の嵌込溝57に嵌め込んでいる(図7および図8参照)。これによって、Oリング56が1本しかないのに、実質的にOリング56が2本あるときの付勢力で、ラック軸8をピニオン軸7に向けて必要十分に付勢することができるので、部品点数の低減を図ることができる。
一方、このような側面視C型のブッシュ本体55を有する第2ブッシュ12でなく、側面視O型(筒状)のブッシュ本体45を有する第1ブッシュ11によってラック軸8をピニオン軸7に向けて付勢することも考えられる。ただし、その場合には、第1ブッシュ11がラック軸8を周上1箇所から押圧するように、第1ブッシュ11をラック軸8に対して偏心配置したり、内側内周面27の形状を変更したりしなければならず、そのための構成が複雑になる。しかし、第2ブッシュ12では、ブッシュ本体55を側面視C型にし、ブッシュ本体55の外周面55AにOリング56といった弾性部材を取り付けるといった簡素かつ安価な構成だけで、ラック軸8をピニオン軸7に向けて付勢することができる。
【0072】
次に、第2実施形態および第3実施形態の第2ブッシュ12について説明する。
図8を参照して、これまで説明してきた第1実施形態の第2ブッシュ12では、複数(ここでは、4つ)の切欠き61が、ブッシュ本体55の軸方向に延びてフランジ部60側からフランジ部60およびブッシュ本体55を切り込みつつ、2本の嵌込溝57を横切っている(図9(b)参照)。そのため、ブッシュ本体55の外周面55A(詳しくは、各嵌込溝57において周方向に延びる底面57A)には、各嵌込溝57において各切欠き61と交差する角部70が必然的に形成されている。
【0073】
角部70は、各嵌込溝57の底面57Aと、ブッシュ本体55において軸方向かつ径方向に延びて各切欠き61を区画する区画面55Dとの連結部分である(図9(d)参照)。第1実施形態の第2ブッシュ12では、各角部70が必然的に尖ってしまい、軸方向に直交する平面で切断したときの角部70の角度αが90°程度の鋭角になってしまう(図9(d)参照)。ここで、嵌込溝57に嵌め込まれたOリング56は、自身の付勢力によって縮径しようとすることで、底面57Aへ押し付けられている。そのため、Oリング56に対して、底面57Aの各角部70が食い込んでしまい、Oリング56における角部70との接触部分に応力が集中することで、Oリング56が当該接触部分で破断してしまうことが想定される。Oリング56が破断してしまうと、Oリング56がラック軸8をピニオン軸7に十分に付勢できなくなってしまい、これによって、前述したバックラッシが大きくなってしまうことで、異音が発生したり、操舵部材2(図1参照)の操作フィーリングが低下したりする虞がある。
【0074】
そこで、本発明の第2ブッシュ12では、以下の第2実施形態および第3実施形態の構成によって、角部70に起因するOリング56の破断を防いでいる。なお、第2実施形態および第3実施形態の第2ブッシュ12において、第1実施形態の第2ブッシュ12で説明した部分と同じ部分には、同一の参照符号を付し、その説明を省略する。第1実施形態と、第2実施形態および第3実施形態とは、Oリング56の破断を防ぐ構成以外は同じであり、第2実施形態および第3実施形態でも、ブッシュ本体55が側面視C型であるので、ハウジング9に対して第2ブッシュ12を容易かつ円滑に組み付けることができる。
【0075】
図13(a)は、第2実施形態に係る第2ブッシュ12のブッシュ本体55の斜視図であり、図13(b)は、径方向外側から見たブッシュ本体55の側面図であり、図13(c)は、図13(b)のC−C線における断面図である。
まず、図13に示す第2実施形態では、ブッシュ本体55において各角部70が面取りされている。つまり、第2実施形態の各角部70において、前述した第1実施形態で尖っていた部分(図8参照)に、面取り部分71が形成されている(図13(c)参照)。なお、ここでの面取り部分71には、いわゆるC面のほかに、前述した尖った部分を丸めたR面も含まれる。
【0076】
このように各角部70を面取りしておけば、各嵌込溝57に嵌め込まれたOリング56に対して角部70が食い込むこと(Oリング56における角部70との接触部分における応力集中)がないので、Oリング56の破断を防止してOリング56の耐久性の向上を図ることができる。その一方で、切欠き61が存在するので、第2ブッシュ12を縮径させてハウジング9に対して容易に組付けることができる(図10(b)参照)。
【0077】
図14は、第3実施形態に係る第2ブッシュ12の斜視図である。図15は、第3実施形態に係る第2ブッシュ12の分解斜視図である。図16(a)は、第3実施形態に係る第2ブッシュ12に関し、図15とは別の方向から見たブッシュ本体55の斜視図であり、図16(b)は、径方向外側から見たブッシュ本体55の側面図であり、図16(c)は、軸方向外側から見たブッシュ本体55の側面図であり、図16(d)は、図16(b)のD−D線における断面図である。
【0078】
そして、図14〜図16に示す第3実施形態の第2ブッシュ12では、ブッシュ本体55に、前述した切欠き61(図8および図13参照)が形成されていない。ここで、第3実施形態では、前述したOリング56が嵌め込まれる嵌込溝57を、第1溝57ということにする。第3実施形態のブッシュ本体55の外周面55Aには、(周方向に延びる)第1溝57と、軸方向に延びる第2溝72とが形成されている。第2溝72は、ブッシュ本体55の周方向において所定の間隔を隔てた複数の位置(たとえば、前述した切欠き61と一致する周上4箇所の位置)に設けられている。
【0079】
第2溝72は、ブッシュ本体55の外周面55Aにおける周上の同一箇所においては、各第1溝57を避けた位置、つまり、フランジ部60および3本の凸部58のそれぞれの外周面に形成されている。つまり、当該同一箇所においては、第2溝72は、フランジ部60および3本の凸部58のそれぞれの外周面といった合計4箇所に形成されている。第2溝72は、フランジ部60および各凸部58において軸方向における全域に亘って設けられているが、切欠き61(図8参照)とは異なり、ブッシュ本体55の周壁を径方向において貫通しておらず、ブッシュ本体55の内周面55Bから露出されていない。また、第2溝72は、第1溝57の底面57Aには設けられていない。第2溝72の底面72Aは、図15に示すように、第1溝57の底面57Aと面一になっていてもよいし、底面57Aよりも径方向において内側にあってもよいし、外側にあってもよい。要は、第2溝72がブッシュ本体55の外周面55Aにおいて第1溝57を避けた位置に設けられていればよい。
【0080】
また、ブッシュ本体55の内周面55Bにおいて周方向で各第2溝72と一致する位置には、第3溝73が形成されている(図16(c)参照)。第2溝72は、周方向(周上)における4箇所の位置に設けられているので、第3溝73も、周方向における4箇所の位置(各第2溝72の裏側の位置)に設けられている。各第3溝73は、周方向で同じ位置にある第2溝72側(径方向外側)へ窪みつつ軸方向へ延びていて、内周面55Bにおいて軸方向における全域に亘って設けられている(図16(a)参照)。このように、ブッシュ本体55における周方向で同じ位置において、外周面55Aには第2溝72を設けて、内周面55Bには第3溝73を設けているので、ブッシュ本体55の肉厚(径方向における寸法)は、当該位置では、当該位置以外に比べて小さくなっている(図16(d)参照)。
【0081】
そのため、第2溝72が、ブッシュ本体55の周壁を貫通する切欠き(図8の切欠き61を参照)でなくても、第2ブッシュ12を、撓みやすくし、前述した第1実施形態(図7参照)および第2実施形態(図13参照)の場合と同程度に、縮径させることができる。そのため、第2ブッシュ12を、ハウジング9に対して容易かつ円滑に組み付けることができる(図10(b)参照)。これにより、ブッシュの組み付け性の更なる向上を図ることができる。
【0082】
このような第3実施形態の第2ブッシュ12では、前述した角部70自体(図7〜図9および図13参照)が存在しない。つまり、Oリング56が嵌め込まれる第1溝57には、Oリング56に応力集中を発生させる部分が存在しない。よって、第3実施形態の場合には、第1実施形態や第2実施形態の場合よりも、Oリング56に応力集中が発生しないので、Oリング56の破断を一層防止してOリング56の耐久性の更なる向上を図ることができる。そして、前述したように、切欠き61がなくても、第2ブッシュ12を縮径させてハウジング9に対して容易に組付けることができる。
【0083】
前述したようにOリング56が各嵌込溝(第1溝)57の底面57Aへ押し付けられている構成上、Oリング56の破断は、Oリング56と底面57Aの各角部70との接触に起因しているので、以上の第2実施形態および第3実施形態によって、Oリング56の破断は確実に防止できる。ただし、万全を期すためにも、第2ブッシュ12のブッシュ本体55において、前述した角部70以外にも、Oリング56に接触する部分には、尖った部分(鋭角部分)が存在しないようにすることが好ましい。たとえば、各嵌込溝(第1溝)57において底面57Aと直交する側面57Bと切欠き61または第2溝72との角部74(図15参照)を面取りしておくとよい。
【0084】
この発明は、以上に説明した実施形態に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
例えば、第1ブッシュ11も、第2ブッシュ12と同じ構成(側面視C型の構成)を有していて、第1ブッシュ11および第2ブッシュ12の両方がラック軸8をピニオン7A側へ付勢していてもよい。また、第2ブッシュ12には、Oリング56を撓ませて取り付けたが、Oリング以外の形状(たとえばブロック状)の弾性体をブッシュ本体55の外周面55Aに取り付けても、第2ブッシュ12は、ラック軸8をピニオン軸7に向けて付勢できる。
【0085】
また、ピニオン軸7から遠い位置に配置されるラックブッシュ(ここでは、第1ブッシュ11)には、一般的なラックブッシュ(例えば、円筒型でOリング46なしのラックブッシュ)が用いられてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1…ステアリング装置、7…ピニオン軸、8…ラック軸、9…ハウジング、11…第1ブッシュ、12…第2ブッシュ、55…ブッシュ本体、55A…外周面、55B…内周面、56…Oリング、57…嵌込溝(第1溝)、61…切欠き、70…角部、72…第2溝、73…第3溝、92…第2端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピニオン軸と、前記ピニオン軸と交差方向に配置されたラック軸と、これらの軸を収容するハウジングと、前記ハウジング内において前記ピニオン軸を挟んで配置されて前記ラック軸を摺動可能に支持する2個のブッシュとを備えるラックアンドピニオン式のステアリング装置であって、
前記2個のブッシュの少なくとも一方は、
側面視C型であって前記ハウジングの一端において前記ラック軸と前記ハウジングとの間に配置され、周方向に延びる第1溝と前記第1溝を避けた位置で軸方向に延びる第2溝とが外周面に形成されたブッシュ本体と、
一部が前記ブッシュ本体の外周面から突出するように前記第1溝に嵌め込まれ、前記ブッシュ本体と前記ハウジングとに挟まれており、前記ブッシュ本体を介して前記ラック軸を前記ピニオン軸に向けて付勢する弾性部材と、
を含むことを特徴とする、ラックアンドピニオン式のステアリング装置。
【請求項2】
前記ブッシュ本体の内周面において周方向で前記第2溝と一致する位置には、第2溝側へ窪みつつ軸方向へ延びる第3溝が形成されていることを特徴とする、請求項1記載のラックアンドピニオン式のステアリング装置。
【請求項3】
ピニオン軸と、前記ピニオン軸と交差方向に配置されたラック軸と、これらの軸を収容するハウジングと、前記ハウジング内において前記ピニオン軸を挟んで配置されて前記ラック軸を摺動可能に支持する2個のブッシュとを備えるラックアンドピニオン式のステアリング装置であって、
前記2個のブッシュの少なくとも一方は、
側面視C型であって前記ハウジングの一端において前記ラック軸と前記ハウジングとの間に配置され、周方向に延びる嵌込溝が外周面に形成されているとともに軸方向に延びる切欠きが形成されたブッシュ本体と、
一部が前記ブッシュ本体の外周面から突出するように前記嵌込溝に嵌め込まれ、前記ブッシュ本体と前記ハウジングとに挟まれており、前記ブッシュ本体を介して前記ラック軸を前記ピニオン軸に向けて付勢する弾性部材と、
を含み、
前記嵌込溝において前記切欠きと交差する角部が面取りされていることを特徴とする、ラックアンドピニオン式のステアリング装置。
【請求項4】
前記側面視C型のブッシュ本体を有するブッシュは、前記ハウジングにおいて前記ピニオン軸側の端部に配置されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のラックアンドピニオン式のステアリング装置。
【請求項5】
ラックアンドピニオン式のステアリング装置のラック軸を支持するブッシュであって、
側面視C型であって、周方向に延びる第1溝と前記第1溝を避けた位置で軸方向に延びる第2溝とが外周面に形成されており、内周面側にラック軸が挿通されるブッシュ本体と、
一部が前記ブッシュ本体の外周面から突出するように前記第1溝に嵌め込まれる弾性部材と、
を含むことを特徴とする、ラック軸用のブッシュ。
【請求項6】
前記ブッシュ本体の内周面において周方向で前記第2溝と一致する位置には、第2溝側へ窪みつつ軸方向へ延びる第3溝が形成されていることを特徴とする、請求項5記載のラック軸用のブッシュ。
【請求項7】
ラックアンドピニオン式のステアリング装置のラック軸を支持するブッシュであって、
側面視C型であって、周方向に延びる嵌込溝が外周面に形成されているとともに軸方向に延びる切欠きが形成されており、内周面側にラック軸が挿通されるブッシュ本体と、
一部が前記ブッシュ本体の外周面から突出するように前記嵌込溝に嵌め込まれる弾性部材と、
を含み、
前記嵌込溝において前記切欠きと交差する角部が面取りされていることを特徴とする、ラック軸用のブッシュ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−79023(P2013−79023A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220742(P2011−220742)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】