説明

ラック軸支持構造及び操舵装置

【課題】構成簡素且つ低コストにて、より効果的に摺動抵抗の最小化及び打音の発生を抑制することのできるラック軸支持構造を提供すること。
【解決手段】ラックブッシュ4は、樹脂にて形成されてなり、ラック軸2が挿通される円筒状の筒体23と、同筒体23の外周において径方向外側に突設されエンドハウジング8側の装着部21に形成された係合溝22と係合する係合突部24と、筒体23の内周において係合突部24の背面から同筒体23の内側に突設された支持突部25と有する。そして、係合突部24の基端部には、筒体23の外周とエンドハウジング8側の装着部21内周との間に空隙を形成する凹部27が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラック軸支持構造及び操舵装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ラックアンドピニオン式の操舵装置において、ラック軸は、ハウジングに挿通され同ハウジングとの間に介装されたラックブッシュにより摺動可能に支持される。ラックブッシュは、ラック軸が挿通される筒体を有しており、同筒体は、その外周に形成された係合突部がハウジング内周に形成された係合溝と係合することにより軸方向の移動が規制される。そして、ラック軸は、筒体の内周面(又は同内周面に設けられた支持突部)と摺接することにより、軸方向に沿って摺動可能に支持される。
【0003】
ところで、こうしたラック軸支持構造を採用する操舵装置においては、ラックブッシュによるラック軸の支持力(所謂締め代)を適正に保ち摺動抵抗の最小化を図るとともに、その打音の発生を防止することが重要な課題となる。そこで、従来、ラック軸と摺接する支持部を係合突部の背面に設け、且つ係合溝の溝深さを係合突部の高さよりも深く設定するとともに、ハウジング内周に係合溝と隣接するテーパ面を形成したものがある(特許文献1参照)。
【0004】
即ち、このような構成とすることで、ラックブッシュは、テーパ面の範囲において径方向外側に弾性変形可能となり、これによりラック軸を弾性的に保持することができる。その結果、ラック軸支持力の適正化を図り、良好な摺動特性を確保することができるとともに、支持突部に作用する衝撃荷重をその弾性変形により吸収して打音の発生を効果的に抑制することができる。
【特許文献1】特開平6−115439号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の構成では、主として金属からなるハウジングへの追加工を要するためコスト増となる。また、図5に示すように、ラックブッシュ41が径方向外側に弾性変形する際に、係合突部42は係合溝43内に没入することになるが、このとき、筒体44は、ハウジング45の内周に形成されたテーパ面46の始端46aを支点として係合突部42が円弧状の軌跡を描くように弾性変形する。このため、係合突部42は係合溝43の壁面43aに押し付けられるように摺接しつつ同係合溝43内に没入することとなり、その摩擦に起因する引っ掛かりの発生によって円滑な弾性変形が妨げられるおそれがある。従って、こうした従来の構成では、上述の効果も限定的なものに留まるを得ず、この点になお、改善の余地を残すものとなっていた。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、構成簡素且つ低コストにて、より効果的に摺動抵抗の最小化及び打音の発生を抑制することのできるラック軸支持構造及び操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、ハウジングに装着されたラックブッシュによりラック軸を摺動可能に支持するラック軸支持構造において、前記ラックブッシュは、樹脂にて形成されてなるとともに、前記ラック軸が挿通される筒体と、前記筒体の外周に設けられ前記ハウジングの内周に形成された係合溝と係合する係合突部と、該係合突部の背面において前記筒体の内側に突設され前記ラック軸に摺接する支持突部とを有するものであって、前記係合溝の深さは、前記係合突部の高さよりも深く設定されるとともに、前記係合突部の基端部には、前記筒体の外周と前記ハウジングの内周との間に空隙を形成する凹部が設けられること、を要旨とする。
【0008】
上記構成によれば、凹部により形成される筒体の外周とハウジングの内周との間の空隙によって、筒体は、係合突部(及び支持突部)近傍において径方向に弾性変形可能となり、これにより、ラック軸を弾力的に支持して、その摺動抵抗の最小化を図るとともに、打音の発生を抑制することができる。また、ハウジング側に追加工を施す必要がなく、且つ、凹部の形成は、ラックブッシュの金型を変更するのみで対応できるため、低コストにて実施可能である。更に、凹部の厚みや形状等によってその弾性変化特性を容易に変更することが可能となる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記凹部は、前記基端部における前記筒体の厚みを薄肉とすることにより形成されること、を要旨とする。
上記構成によれば、筒体は、その薄肉部、即ち係合突部により近い位置において柔軟に弾性変形する。従って、係合突部は、係合溝の壁面に押し付けられることなく同壁面に沿うように滑らかに係合溝内に没入可能であり、これにより、係合突部と壁面との摩擦による引っ掛かり等を引き起こすことなく、より円滑に筒体を弾性変形させることができる。その結果、さらなる摺動抵抗の最小化及び一層の打音の抑制を図ることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、ラックブッシュには、アニーリング処理が施されること、を要旨とする。
上記構成によれば、ラックブッシュの形状(主として支持突部のラック軸摺接面)の歪みを低減することができ、これにより、ラック軸の支持力(締め代)及び摺動抵抗の安定化を図ることができる。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3の何れかに記載のラック軸支持構造を有する操舵装置であること、を要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、構成簡素且つ低コストにて、より効果的に摺動抵抗の最小化及び打音の発生を抑制することが可能なラック軸支持構造及び操舵装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の操舵装置は、ラックアンドピニオン式の操舵装置であり、周面にラック歯2aが形成されたラック軸2は、円筒状をなすハウジング3の筒内に挿通されるとともに、同ラック軸2とハウジング3との間に介装されたラックブッシュ4により摺動可能に支持されている。
【0014】
具体的には、本実施形態のハウジング3は、円筒状に形成されたラックチューブ5と、同ラックチューブ5の一端に設けられラック歯2aに噛合されたピニオン軸6を収容するギヤハウジング7と、同ギヤハウジング7の他端側に設けられるとともにその筒内にラックブッシュ4が装着されたエンドハウジング8とにより構成されている。そして、本実施形態では、ラック軸2は、そのラックブッシュ4、及びギヤハウジング7に設けられたラックホルダ9により、軸方向に沿って摺動可能に支持されている。
【0015】
また、ラック軸2の両端には、ボールジョイント10を介してタイロッド11が連結されており、これらラック軸2とタイロッド11との連結部分は、ギヤハウジング7及びエンドハウジング8の端部に装着された蛇腹状のブーツ12により包囲されている。そして、各タイロッド11の先端は、図示しないナックルアームと連結されている。
【0016】
即ち、ピニオン軸6と噛合されたラック軸2は、ステアリング操作に伴うピニオン軸6の回転により軸方向に沿って摺動する。そして、その往復動がタイロッド11を介してナックルアームに伝達されることにより図示しない操舵輪の舵角が変更されるようになっている。
【0017】
(ラック軸支持構造)
次に、本実施形態の操舵装置におけるラック軸支持構造(エンドハウジング側)について詳述する。
【0018】
図2に示すように、本実施形態では、エンドハウジング8の筒内には、ラックブッシュ4が装着される装着部21が形成されており、同装着部21には周方向に延びる環状の係合溝22が凹設されている。尚、本実施形態では、エンドハウジング8は、金属により形成されている。
【0019】
一方、本実施形態のラックブッシュ4は、ラック軸2が挿通される円筒状の筒体23と、同筒体23の外周において径方向外側に突設された係合突部24と、筒体23の内周において係合突部24の背面から同筒体23の内側に突設された支持突部25と有している。本実施形態では、係合突部24及び支持突部25は、筒体23の一端(ボールジョイント10側の端部、図1参照)に設けられるとともに、筒体23の周方向に沿って環状に延設されている。また、本実施形態では、ラックブッシュ4の筒体23の外径は、エンドハウジング8側の装着部21の内径と略等しく形成されており、同筒体23は、装着部21に装着されることにより、その外周面23aが装着部21の内周面21aと密着するように構成されている。そして、ラックブッシュ4は、その係合突部24がエンドハウジング8側の係合溝22に係合されることにより軸方向の移動が規制され、その筒体23に挿通されたラック軸2は、同筒体23の内側に突設された支持突部25により摺動可能に支持されるようになっている。
【0020】
また、本実施形態では、ラックブッシュ4は、樹脂(POM:polyoxymethylen)により形成されるとともに、長時間の高温加熱の後、徐々に冷却する熱処理、即ちアニーリング処理が施されている。そして、本実施形態では、係合溝22の深さ(径方向長さ)h0は、係合突部24の高さ(筒体23の外周面23aを基準とした径方向への突出量)h1よりも深く設定されるとともに(h0>h1)、筒体23には、同筒体23の径方向への拡径を可能とするスリット(図示略)が形成されている。尚、このスリットの構成は周知のものであり、その詳細については、上記特許文献1(第4図)、並びに特開2000−177606号公報(第8,10図)に開示のものを参照されたい。
【0021】
また、本実施形態では、係合突部24の基端部には、筒体23の外周とエンドハウジング8側の装着部21内周との間に空隙を形成する凹部27が形成されている。具体的には、本実施形態では、凹部27は、係合突部24の基端部に同係合突部24に沿って筒体23の他の部分の厚みd0よりもその厚みd1が薄く設定された薄肉部28(d0>d1)を設けることにより形成されている。
【0022】
以上、本実施形態によれば、以下のような作用効果を得ることができる。
(1)ラックブッシュ4は、樹脂にて形成されてなり、ラック軸2が挿通される円筒状の筒体23と、同筒体23の外周において径方向外側に突設されエンドハウジング8側の装着部21に形成された係合溝22と係合する係合突部24と、筒体23の内周において係合突部24の背面から同筒体23の内側に突設された支持突部25と有する。そして、係合突部24の基端部には、筒体23の外周とエンドハウジング8側の装着部21内周との間に空隙を形成する凹部27が形成される。
【0023】
上記構成によれば、凹部27により形成される筒体23の外周とエンドハウジング8の内周との間の空隙によって、筒体23は、係合突部24(及び支持突部25)近傍において径方向に弾性変形可能となり(図3参照)、これにより、ラック軸2を弾力的に支持して、その摺動抵抗の最小化を図るとともに、打音の発生を抑制することができる。また、エンドハウジング8側に追加工を施す必要がなく、且つ、凹部27の形成は、ラックブッシュ4の金型を変更するのみで対応できるため、低コストにて実施可能である。更に、凹部27の厚みや形状等によってその弾性変化特性を容易に変更することが可能となる。
【0024】
(2)凹部27は、係合突部24の基端部に同係合突部24に沿って筒体23の他の部分の厚みd0よりもその厚みd1が薄く設定された薄肉部28を設けることにより形成される。
【0025】
上記構成によれば、筒体23は、この薄肉部28、即ち係合突部24により近い位置において柔軟に弾性変形する(図3参照)。従って、係合突部24は、係合溝22の壁面22aに押し付けられることなく同壁面22aに沿うように滑らかに係合溝22内に没入可能であり、これにより、係合突部24と壁面22aとの摩擦による引っ掛かり等を引き起こすことなく、より円滑に筒体23を弾性変形させることができる。その結果、さらなる摺動抵抗の最小化及び一層の打音の抑制を図ることができる。
【0026】
(3)ラックブッシュ4には、アニーリング処理が施される。このような構成とすれば、その形状(主として支持突部25のラック軸摺接面)の歪みを低減することができ、これにより、ラック軸2の支持力(締め代)及び摺動抵抗の安定化を図ることができる。
【0027】
なお、本実施形態は以下のように変更してもよい。
・本実施形態では、ラックチューブ5、ギヤハウジング7及びエンドハウジング8によりハウジング3が構成された操舵装置に具体化した。しかし、これに限らず、一体式のハウジングを有するものに具体化してもよい。また、操舵装置は、マニュアル式のものに限らずパワーステアリング装置に具体化してもよく、その形式は、油圧式でも電動式であってもよい。
【0028】
・本実施形態では、係合突部24の基端部に同係合突部24に沿って筒体23の他の部分の厚みd0よりもその厚みd1が薄く設定された薄肉部28を設けることにより凹部27を形成した。しかし、これに限らず、凹部は、係合突部の基端部において筒体の外周を切り欠くことにより形成してもよい。更に、図4に示すラックブッシュ34ように、筒体23の壁部を径方向内側に屈曲させた変形部35を設けることにより凹部37を形成する構成としてもよい。尚、この場合、凹部37を形成する変形部35の厚みを筒体23の他の部分の厚みよりも薄くすることで上記(2)の効果を得ることができる。
【0029】
・本実施形態では、エンドハウジング8側の係合溝22及びラックブッシュ4側の係合突部24は、ともに周方向に沿って環状に形成されることとしたが、必ずしも環状である必要はなく、これ以外の形状のものを複数箇所に設ける等の構成であってもよい。また、支持突部25の形状も環状に限定されるものではない。
【0030】
・本実施形態では、ラックブッシュ4は、POM(polyoxymethylen)により形成されることとしたが、その他のエンジニアプラスチック等、これ以外の樹脂材により形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本実施形態の操舵装置の概略構成を示す断面図。
【図2】本実施形態のラック軸支持構造を模式的に示す断面図。
【図3】本実施形態のラック軸支持構造の作用説明図。
【図4】別例のラック軸支持構造を模式的に示す断面図。
【図5】従来のラック軸支持構造の課題を示す作用説明図。
【符号の説明】
【0032】
2…ラック軸、3…ハウジング、4,34…ラックブッシュ、8…エンドハウジング、21…装着部、21a…内周面、22…係合溝、22a…壁面、23…筒体、24…係合突部、25…支持突部、27,37…凹部、28…薄肉部、h0…深さ、h1…高さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに装着されたラックブッシュによりラック軸を摺動可能に支持するラック軸支持構造において、
前記ラックブッシュは、樹脂にて形成されてなるとともに、前記ラック軸が挿通される筒体と、前記筒体の外周に設けられ前記ハウジングの内周に形成された係合溝と係合する係合突部と、該係合突部の背面において前記筒体の内側に突設され前記ラック軸に摺接する支持突部とを有するものであって、
前記係合溝の深さは、前記係合突部の高さよりも深く設定されるとともに、
前記係合突部の基端部には、前記筒体の外周と前記ハウジングの内周との間に空隙を形成する凹部が設けられること、を特徴とするラック軸支持構造。
【請求項2】
請求項1に記載のラック軸支持構造において、
前記凹部は、前記基端部における前記筒体の厚みを薄肉とすることにより形成されること、を特徴とするラック軸支持構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のラック軸支持構造において、
ラックブッシュには、アニーリング処理が施されること、
を特徴とするラック軸支持構造。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れかに記載のラック軸支持構造を有する操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−131025(P2007−131025A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−323198(P2005−323198)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】