説明

ランキンサイクル装置

【課題】 エンジンの運転状態が変化して排気ガスのエネルギーが急増しても、蒸発器において発生する蒸気の温度が目標温度をオーバーシュートしないように応答性良く制御する。
【解決手段】 ランキンサイクル装置Rの蒸発器11から膨張機12に供給される蒸気温度を目標温度に一致させるべく、蒸発器11への給水量を操作する分配装置15が、蒸発器11の入口へのメイン給水量と蒸発器11の途中への途中給水量との分配比率を制御するので、排気ガスの熱エネルギーの急増による蒸気温度のオーバーシュートを途中給水により抑制することができる。特に、空燃比がリッチの場合にはストイキの場合に比べて排気ガスの温度が下がって熱エネルギーが減少するが、その際に途中給水量を減少させることで、蒸発器11から膨張機12に供給される蒸気の温度が過度に低下するのを抑制し、蒸気温度を目標温度に精度良く一致させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排気ガスの熱エネルギーで液相作動媒体を加熱して気相作動媒体を発生させる蒸発器と、蒸発器で発生した気相作動媒体の熱エネルギーを機械エネルギーに変換する膨張機と、蒸発器から膨張機に供給される気相作動媒体の温度を目標温度に一致させるべく、蒸発器への液相作動媒体の供給量を操作する温度制御手段とを備えたランキンサイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一定速度で回転するエンジンの排気ガスを熱源とする廃熱貫流ボイラが発生する蒸気の温度を目標温度と比較し、その偏差から得た給水信号により廃熱貫流ボイラへの給水量をフィードバック制御する際に、エンジンのスロットル開度信号を蒸気圧力で補正して得たフィードフォワード信号を前記フィードバック信号に加算することで、エンジンの負荷変動を補償して制御精度の向上を図るものが、下記特許文献1により公知である。
【特許文献1】実公平2−38162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで上記従来のものは、蒸発器への給水量の操作のみで蒸気温度を制御するため、エンジンの負荷が急変して排気ガスの熱エネルギーが急激に増加したような場合に、蒸発器の給水管の長さやヒートマスの影響によって蒸気温度の応答に遅れが生じ、蒸気温度が目標温度をオーバーシュートして膨張機の運転効率が低下してしまう可能性があった。
【0004】
エンジンの負荷の急変時に蒸気温度が目標温度をオーバーシュートしないようにする他の手法として、エンジンを気筒休止することが考えられる。しかしながら、気筒休止を行うとエンジンの出力自体も変化してしまうため、このランキンサイクル装置を自動車に搭載した場合にはドライバーに違和感を与えてしまう問題がある。
【0005】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、エンジンの運転状態が変化して排気ガスのエネルギーが急増しても、蒸発器において発生する蒸気の温度が目標温度をオーバーシュートしないように応答性良く制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、エンジンの排気ガスの熱エネルギーで液相作動媒体を加熱して気相作動媒体を発生させる蒸発器と、蒸発器で発生した気相作動媒体の熱エネルギーを機械エネルギーに変換する膨張機と、蒸発器から膨張機に供給される気相作動媒体の温度を目標温度に一致させるべく、蒸発器への液相作動媒体の供給量を操作する温度制御手段とを備えたランキンサイクル装置において、前記温度制御手段は、蒸発器の入口への液相作動媒体の供給量と、蒸発器の途中への液相作動媒体の供給量との分配比率を制御することを特徴とするランキンサイクル装置が提案される。
【0007】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記温度制御手段は、エンジンの負荷変化に伴って排気ガスの熱エネルギーに急激な変化が生じ、蒸発器の入口からだけの液相作動媒体の供給では気相作動媒体の温度を目標温度に制御できない場合に、液相作動媒体を蒸発器の途中に所定の分配比率で供給することを特徴とするランキンサイクル装置が提案される。
【0008】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記温度制御手段は、蒸発器から膨張機に供給される気相作動媒体の温度が目標温度よりも高い場合に、液相作動媒体を蒸発器の途中に所定の分配比率で供給することを特徴とするランキンサイクル装置が提案される。
【0009】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項1〜請求項3の何れか1項の構成に加えて、前記温度制御手段は、空燃比に応じて液相作動媒体を蒸発器(11)の途中に所定の分配比率で供給することを特徴とするンキンサイクル装置が提案される。
【0010】
また請求項5に記載された発明によれば、請求項4の構成に加えて、前記温度制御手段は、少なくとも空燃比がストイキの場合に、他の空燃比の場合に比べて、蒸発器の途中からの液相作動媒体の分配比率を増加させることを特徴とするランキンサイクル装置が提案される。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の構成によれば、ランキンサイクル装置の蒸発器から膨張機に供給される気相作動媒体の温度を目標温度に一致させるべく、蒸発器への液相作動媒体の供給量を操作する温度制御手段が、蒸発器の入口への液相作動媒体の供給量と蒸発器の途中への液相作動媒体の供給量との分配比率を制御するので、排気ガスの熱エネルギーの急増による気相作動媒体の温度のオーバーシュートを蒸発器の途中に供給される液相作動媒体により抑制することができる。
【0012】
請求項2の構成によれば、排気ガスの熱エネルギーが急激に変化して蒸発器の入口からだけの液相作動媒体の供給では気相作動媒体の温度を目標温度に制御できないときに、それまで蒸発器の入口に供給していた液相作動媒体の一部を蒸発器の途中に供給するので、気相作動媒体の温度を低下させてオーバーシュートの発生を確実に防止することができる。
【0013】
請求項3の構成によれば、蒸発器から膨張機に供給される気相作動媒体の温度が目標温度よりも高い場合に、それまで蒸発器の入口に供給していた液相作動媒体の一部を蒸発器の途中に供給するので、気相作動媒体の温度を低下させてオーバーシュートの発生を確実に防止することができる。
【0014】
請求項4および請求項5の構成によれば、空燃比がストイキの場合にはリッチあるいはリーンの場合に比べて排気ガスの温度が上がって熱エネルギーが増加するが、その際に空燃比に応じて液相作動媒体を蒸発器の途中に所定の分配比率で供給するので、即ち、少なくとも空燃比がストイキの場合に他の空燃比の場合に比べて蒸発器の途中からの液相作動媒体の分配比率を増加させるので、蒸発器から膨張機に供給される気相作動媒体の温度が過度に上昇するのを抑制することができ、更には空燃比がリッチおよびリーンの場合には蒸発器から膨張機に供給される気相作動媒体の温度が過度に低下するのを抑制することができるので、気相作動媒体の温度を目標温度に精度良く一致させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、添付の図面に示した本発明の実施例に基づいて説明する。
【0016】
図1〜図10は本発明の一実施例を示すもので、図1はランキンサイクル装置の全体構成を示す図、図2は温度制御手段の制御ブロック図、図3は最適蒸気温度と蒸発器および膨張機の最高効率との関係を示すグラフ、図4は蒸気温度制御のフローチャート、図5は排気ガスエネルギーから総給水量を検索するマップ、図6は空燃比から途中給水量分配比を検索するマップ、図7は排気ガスエネルギー、途中給水量分配比および空燃比の関係を示すグラフ、図8は途中給水の効果を説明するタイムチャート、図9は蒸発器の蒸気流れ方向の温度分布を示すグラフ、図10はエンジンの運転状態が変化したときの各パラメータの変化を示すグラフである。
【0017】
図1には本発明が適用されるランキンサイクル装置Rの全体構成が示される。エンジンEの排気ガスの熱エネルギーを回収して機械エネルギーに変換するランキンサイクル装置Rは、エンジンEが排出する排気ガスで水を加熱して高温・高圧蒸気を発生させる蒸発器11と、蒸発器11で発生した高温・高圧蒸気により作動して機械エネルギーを発生する膨張機12と、膨張機12で仕事を終えた降温・降圧蒸気を冷却して水に戻す凝縮器13と、凝縮器13から排出された水を加圧して再度蒸発器11に供給する給水ポンプ14と、給水ポンプ14から蒸発器11に供給する水の分配装置15とを備える。蒸発器11への給水は、その上流端からのメイン給水だけでなく、その下流端に近い途中位置からの途中給水も可能であり、分配装置15はデューティー制御される分配弁でメイン給水の水量と途中給水の水量との比率を任意に制御することができる。
【0018】
尚、途中給水はメイン給水から独立して、別の経路およびポンプ等から給水することも任意である。
【0019】
図2にはランキンサイクル装置Rに含まれる温度制御手段21の構成が示される。温度制御手段21は、フィードフォワード給水量演算手段22と、フィードバック給水量演算手段23と、比較手段24と、途中給水量演算手段25とを備える。フィードフォワード給水量演算手段22は、エンジン回転数、吸気負圧、燃料噴射量、排気ガス温度等のパラメータに基づいて蒸発器11に対するフィードフォワード給水量を演算する。フィードバック給水量演算手段23は、膨張機12の入口での蒸気の目標温度と、蒸発器11の出口での蒸気温度との偏差に所定のゲインを乗算してフィードバック給水量を演算する。そしてフィードフォワード給水量演算手段22で演算したフィードフォワード給水量から、フィードバック給水量演算手段23で演算したフィードバック給水量を減算することで、メイン給水量と途中給水量との合算値である総給水量を演算する。
【0020】
蒸気の目標温度は、次のようにして求められる。即ち、図3に示すように、ランキンサイクル装置Rの蒸発器11の効率および膨張機12の左縦軸の各要素効率で示した効率は蒸気温度によって変化し、蒸気温度が増加すると蒸発器の効率が減少して膨張機の効率が増加し、逆に蒸気温度が減少すると蒸発器の効率が増加して膨張機の効率が減少することから、右縦軸の総合効率で示した両者の効率を合わせた総合効率が最大になる最適蒸気温度(目標温度)が存在する。
【0021】
図2に戻り、比較手段24は、膨張機12の入口での蒸気の目標温度と蒸発器11の出口での蒸気温度とを比較し、その結果、蒸発器11の出口での蒸気温度が膨張機12の入口での蒸気の目標温度よりも高い場合に、途中給水量演算手段25はマップ検索により途中給水量を演算する。このようにして途中給水量が算出されると、総給水量から途中給水量を減算することでメイン給水量を演算する。そして総吸水量を維持しながらメイン給水量および途中給水量が所定の比率になるように、分配装置15の分配弁をデューティー制御する。
【0022】
次に、上記作用を図4のフローチャートに基づいて更に詳細に説明する。
【0023】
先ず、ステップS1でメイン給水量、途中給水量および総給水量を全て0にセットする。続くステップS2でエンジン回転数、吸気負圧、燃料噴射量、排気ガス温度を検出し、ステップS3でエンジン回転数、吸気負圧、燃料噴射量から空燃比A/Fを演算し、ステップS4で排気ガスエネルギーを推定する。続いて、ステップS5で、図5のマップに基づいて、排気ガスエネルギーから総給水量(フィードフォワード値)を検索する。総給水量は排気ガスエネルギーの増加に応じて増加するように設定される。
【0024】
続くステップS6で蒸発器11の出口での蒸気温度を計測し、ステップS7で出口蒸気温度が目標蒸気温度を上回っていれば、ステップS8で、図6のマップに基づいて、空燃比A/Fから途中給水量の分配比(途中給水量/総給水量)を検索する。尚、図6に示した分配比の切り換えは階段状(実線参照)に限定されず、急激な蒸気温度の変化を緩和するために曲線状(破線参照)であっても良い。
【0025】
空燃比A/Fがリッチの場合にはストイキ(理論空燃比)の場合に比べて排気ガスの温度が低下し、蒸発器11の出口蒸気温度も低下するため、出口蒸気温度を低下させるための途中給水量の比率(途中給水量分配比)が小さく設定される。またリーンの場合もリッチの場合と同じく排気ガス温度がストイキの場合に比べて低下することから、リッチの場合と同じく途中給水量の比率が小さく設定される。従って、ストイキの場合は途中給水量の比率は大きく設定される。そしてステップS9で総給水量に途中給水量分配比を乗算することで途中給水量(フィードフォワード値)を算出する。
【0026】
途中給水量分配比を空燃比に基づいて設定するのは、以下のような理由による。図7に示すように、排気ガスエネルギーと途中給水量分配比との間には相関が認められず、空燃比がストイキかリッチか(または不図示であるがリーンか)によって途中給水量分配比が略一定になるという結果が得られたからである。途中給水量分配比を空燃比により設定すると、燃料噴射量や吸入空気量から瞬時に途中給水量分配比を算出することができるため、排気ガス温度や蒸気温度を用いて途中給水量分配比を算出する場合に比べて応答性が向上するという利点がある。
【0027】
図4のフローチャートに戻り、ステップS10で目標蒸気温度と出口蒸気温度との偏差にゲインを乗算してPID制御量(フィードバック値)を算出し、ステップS11でフィードフォワード値からフィードバック値を減算して総給水量を算出し、ステップS12で総給水量から途中給水量を減算してメイン給水量を算出し、ステップS13で総給水量に基づいて給水ポンプ14の給水量を制御するとともに、メイン給水量および途中給水量に基づいて分配装置15の分配弁の作動を制御する。
【0028】
図8(A)に示すように、途中給水を行わない場合には、ドライバーがアクセルペダルを踏み込んで排気ガスエネルギーが増加したとき、その排気ガスエネルギーから算出したメイン給水量のみを制御するので、蒸気温度がオーバーシュートして目標温度に収束し難くなる。それに対して、図8(B)に示すように、メイン給水量および途中給水量の両方を制御すると、蒸気温度のオーバーシュートを抑制して目標温度に速やかに収束させることができる。その際に、気筒休止のようにエンジンEの出力を変化させないので、ランキンサイクル装置Rを自動車に搭載した場合でもドライバーに違和感を与えることがない。
【0029】
図9には、蒸発器11の蒸気(水)供給方向の上流端から下流端までの各位置に対応する蒸気(水)温度の変化を示すもので、途中給水を行うことで蒸発器11の出口において蒸気温度が目標温度に収束していることが分かる。
【0030】
図10は、エンジンEの運転状態がアイドリング、高負荷、フュエルカットと変化したときの、エンジン回転数、総給水量、途中給水量分配比および蒸気温度の変化を示すもので、高負荷状態になったときに途中給水量分配比を増加させることで蒸気温度の変動が小さく抑えられていることが分かる。
【0031】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】ランキンサイクル装置の全体構成を示す図
【図2】温度制御手段の制御ブロック図
【図3】最適蒸気温度と蒸発器および膨張機の最高効率との関係を示すグラフ
【図4】蒸気温度制御のフローチャート
【図5】排気ガスエネルギーから総給水量を検索するマップ
【図6】空燃比から途中給水量分配比を検索するマップ
【図7】排気ガスエネルギー、途中給水量分配比および空燃比の関係を示すグラフ
【図8】途中給水の効果を説明するタイムチャート
【図9】蒸発器の蒸気流れ方向の温度分布を示すグラフ
【図10】エンジンの運転状態が変化したときの各パラメータの変化を示すグラフ
【符号の説明】
【0033】
11 蒸発器
12 膨張機
21 温度制御手段
E エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(E)の排気ガスの熱エネルギーで液相作動媒体を加熱して気相作動媒体を発生させる蒸発器(11)と、蒸発器(11)で発生した気相作動媒体の熱エネルギーを機械エネルギーに変換する膨張機(12)と、蒸発器(11)から膨張機(12)に供給される気相作動媒体の温度を目標温度に一致させるべく、蒸発器(11)への液相作動媒体の供給量を操作する温度制御手段(21)とを備えたランキンサイクル装置において、
前記温度制御手段(21)は、蒸発器(11)の入口への液相作動媒体の供給量と、蒸発器(11)の途中への液相作動媒体の供給量との分配比率を制御することを特徴とするランキンサイクル装置。
【請求項2】
前記温度制御手段(21)は、エンジン(E)の負荷変化に伴って排気ガスの熱エネルギーに急激な変化が生じ、蒸発器(11)の入口からだけの液相作動媒体の供給では気相作動媒体の温度を目標温度に制御できない場合に、液相作動媒体を蒸発器(11)の途中に所定の分配比率で供給することを特徴とする、請求項1に記載のランキンサイクル装置。
【請求項3】
前記温度制御手段(21)は、蒸発器(11)から膨張機(12)に供給される気相作動媒体の温度が目標温度よりも高い場合に、液相作動媒体を蒸発器(11)の途中に所定の分配比率で供給することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のランキンサイクル装置。
【請求項4】
前記温度制御手段(21)は、空燃比に応じて液相作動媒体を蒸発器(11)の途中に所定の分配比率で供給することを特徴とする、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のランキンサイクル装置。
【請求項5】
前記温度制御手段(21)は、少なくとも空燃比がストイキの場合に、他の空燃比の場合に比べて、蒸発器(11)の途中からの液相作動媒体の分配比率を増加させることを特徴とする、請求項4に記載のランキンサイクル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−250074(P2006−250074A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−69366(P2005−69366)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】