説明

リチウムイオン二次電池

【課題】工程数を増大すること無く、正極電極の湾曲の程度を小さくし、電池出力の増大を図ったリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】正極電極11は、アルミニウム合金からなる金属箔11aの両面に、長手方向に沿う一側縁を正極合剤未処理部11cとして露出して、他の領域に塗布された正極合剤層11bを有する。正極合剤未処理部11cの連続領域部の幅をa、正極合剤層11bの幅をbとしたとき、下記の式(1)に示す関係を満足するようにする。Y>19.6×(a/b)+35.0----(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、リチウムイオン二次電池に関し、より詳細には、正極活物質を含む正極合剤が形成された正極電極の性能を向上することができるリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池には、正極合剤層を有する正極電極と、負極合剤層を有する負極電極と、両電極間に介在されたセパレータとを捲回した捲回型の電極群を備えたものがある。
正極合剤層はリチウム酸化物からなる正極活物質を含み、負極合剤層は黒鉛等のリチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極活物質を含む。セパレータは、リチウムイオンを透過する空孔を有する。充電時には正極合剤層と負極合剤層との間にリチウムがイオンの状態で蓄えられる。
【0003】
正・負極電極の合剤層は、シート状の金属箔の両面に、塗工、乾燥して形成される。合剤層は、シート状の金属箔の両面において、長手方向に沿う一側縁を合剤未処理部として露出するように塗工される。角形のリチウムイオン二次電池では、合剤未処理部に電極集電板が溶接される。また、円筒形のリチウムイオン二次電池では、合剤未処理部に軸方向に延出された多数の電極リードが形成され、この電極リードが電極集電体に溶接される。
【0004】
正・負極電極は、合剤層を熱プレスして乾燥させた後、所定幅の合剤未処理部が形成されるように金属箔が裁断される。
正・負極電極の金属箔を裁断後、各電極の表面にしわや波うち等の変形を有していると、捲回する工程で、正・負極電極の端部の位置がずれ、充放電において、ずれた端部に電流が集中するため、デンドライト析出による内部短絡が生じたたり、電池性能が低下したりする。
【0005】
しかし、正・負極電極の合剤層を熱プレスする工程において、金属箔に歪が生じ、この歪のために正・負極電極の端部に位置ずれが生じることが避けられない。
この対応として、正・負極電極の金属箔の一面に、合剤層を塗工、乾燥した後、金属箔に不連続の切り込みを入れ、その後、金属箔の他面に合剤層を形成し、ローラープレス機で加圧成型して正・負極電極を形成する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−192726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記先行文献1においては、正・負極電極の金属箔の一面に合剤層を形成した後、金属箔に不連続の切り込みを入れるため、工程数が増加する。このため、コストを増大する要因となる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記状況に鑑みてなされたものであり、電池容器内に、リチウム酸化物を含む正極合剤層を有する正極電極と、リチウムイオンを吸蔵・放出する負極合剤層を有する負極電極と、正極電極と負極電極の内外周に配されたセパレータとを有する捲回型の電極群が収容され、非水電解液が注入されたリチウムイオン二次電池において、正極電極は、アルミニウム合金からなる金属箔の両面に、長手方向に沿う一側縁を正極合剤未処理部として露出して、他の領域に塗布された正極合剤層を有し、正極合剤未処理部の連続領域部の幅をa、正極合剤層の幅をbとしたとき、下記の式(1)に示す関係を満足するものである。
Y>19.6×(a/b)+35.0----(1)
但し、Yは、応力−歪特性曲線において、0.2%耐力とそのときの歪との交点と、歪=0、応力=0の点を結ぶ直線の傾きである。
また、本発明のリチウムイオン二次電池は、電池容器内に、リチウム酸化物を含む正極合剤層を有する正極電極と、リチウムイオンを吸蔵・放出する負極合剤層を有する負極電極と、正極電極と負極電極の内外周に配されたセパレータとを有する捲回型の電極群が収容され、非水電解液が注入されたリチウムイオン二次電池において、正極電極は、アルミニウム合金からなる金属箔の両面に、長手方向に沿う一側縁を正極合剤未処理部として露出して、他の領域に塗布された正極合剤層を有し、正極合剤未処理部の連続領域部の幅をa、正極合剤層の幅をbとしたとき、下記の条件(I)または条件(II)を満足するものである。
Yが36.7GPa以上であり、かつ、(a/b)が0.09以下----条件(I)
Yが35.7Gpa以上であり、かつ、(a/b)が0.04以下----条件(II)
但し、Yは、応力−歪特性曲線において、0.2%耐力とそのときの歪との交点と、歪=0、応力=0の点を結ぶ直線の傾きである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のリチウムイオン二次電池によれば、工程数を増大すること無く、正極電極の湾曲の程度を小さくすることができる。
ここで、湾曲とは、具体的には、正極電極を平面視した状態で、正極合剤未処理部側を内周側とし、正極合剤層側を外周側とする扇形に変形することを指す。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明のリチウムイオン二次電池の一実施の形態の断面図。
【図2】図1に図示されたリチウムイオン二次電池の分解斜視図。
【図3】図1に図示された電極群の詳細を示すための一部を切断した状態の斜視図。
【図4】図3に図示された電極群の正・負極電極、セパレータを一部展開した状態の平面図。
【図5】正極電極を形成する方法を説明するための最初の工程を示す斜視図。
【図6】図5に続く工程を説明するための平面図。
【図7】図6に続く工程を説明するための平面図。
【図8】図7に続く工程を説明するための斜視図。
【図9】図8に続く工程を説明するための図であり、(A)は正極電極を長手方向に沿って切断する前の平面図、(B)は正極電極を長手方向に沿って切断した状態の平面図。
【図10】正極電極が扇形に湾曲する理由を説明するための図であり、(A)は正極合剤の塗布工程における状態、(B)は正極電極を長手方向に沿って切断する前の状態、(C)は正極電極を長手方向に沿って切断した状態、の各状態における残留応力または歪を示す。
【図11】図8の一部における断面図。
【図12】正極電極を1枚取りとした場合の残留応力または歪を示す平面図。
【図13】応力―歪特性曲線から傾きYを求める方法を説明するための図。
【図14】各実施例と比較例における測定結果を示す図。
【図15】傾きY−a/b特性図。
【図16】応力−歪特性曲線における傾きYの上限を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(二次電池の全体構成)
以下、この発明のリチウムイオン二次電池を、円筒形電池を一実施の形態として図面と共に説明する。
図1は、この発明のリチウムイオン二次電池の断面図であり、図2は、図1に示された円筒形二次電池の分解斜視図である。
円筒形のリチウムイオン二次電池1は、例えば、外形40mmφ、高さ100mmの寸法を有する。
このリチウムイオン二次電池1は、有底円筒形の電池缶2とハット型の電池蓋3とを、通常、ガスケットと言われるシール部材43を介在してかしめ加工を行い、外部から密封された構造の電池容器4を有する。有底円筒形の電池缶2は、鉄等の金属板をプレス加工して形成され、内面および外面の表面全体にニッケル等のめっき層形成されている。電池缶2は、その開放側である上端部側に開口部2bを有する。電池缶2の開口部2b側には、電池缶2の内側に突き出した溝2aが形成されている。電池缶2の内部には、以下に説明する発電用の各構成部材が収容されている。
【0012】
10は、電極群であり、中央部に軸芯15を有し、軸芯15の周囲に正極電極および負極電極が捲回されている。図3は電極群10の構造の詳細を示し、一部を切断した状態の斜視図である。また、図4は、図3に図示された電極群の正・負極電極、セパレータを一部展開した状態の平面図である。
図3に図示されるように、電極群10は、軸芯15の周囲に、正極電極11、負極電極12、および第1、第2のセパレータ13、14が捲回された構造を有する。
軸芯15は、中空円筒状を有し、軸芯15には、負極電極12、第1のセパレータ13、正極電極11および第2のセパレータ14が、この順に積層され、捲回されている。最内周の負極電極12の内側には第1のセパレータ13および第2のセパレータ14が数周(図3では、1周)捲回されている。電極群10の最外周は負極電極12およびその外周に捲回された第1のセパレータ13および第2のセパレータ14の順となっている(図4参照)。最外周の第2のセパレータ14が接着テープ19で留められる(図2参照)。
なお、図4では、負極電極12と第1のセパレータ13は中間部が切り取られ、この切り取られた部分では、正極電極11および第2のセパレータ14が露出した状態を示す。
【0013】
正極電極11は、アルミニウム箔により形成され長尺な形状を有し、正極金属箔(金属箔)11aと、この正極金属箔11aの両面に正極合剤層11bが形成された正極処理部を有する。正極金属箔11aの長手方向に沿う上方側の一側縁は、正極合剤層11bが形成されずアルミニウム箔が露出した正極合剤未処理部11cとなっている。この正極合剤未処理部11cには、軸芯15と平行に上方に突き出す多数の正極リード16が等間隔に一体的に形成されている。
【0014】
正極合剤層11bは正極活物質と、正極導電材と、正極バインダとから構成される。正極活物質はリチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。例として、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、リチウム複合酸化物(コバルト、ニッケル、マンガンから選ばれる2種類以上を含むリチウム遷移金属複合酸化物)などが挙げられる。正極導電材は、正極合剤中におけるリチウムの吸蔵放出反応で生じた電子の正極電極への伝達を補助できるものであれば制限は無い。しかし中でも上述の材料である、コバルト酸リチウムとマンガン酸リチウムとニッケル酸リチウムとからなるリチウム遷移金属複合酸化物を使用することにより良好な特性が得られる。
【0015】
正極バインダは、正極活物質と正極導電材を結着させ、また正極合剤と正極金属箔を結着させることが可能であり、非水電解液との接触により、大幅に劣化しなければ特に制限はない。正極バインダの例としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)やフッ素ゴムなどが挙げられる。正極合剤層の形成方法は、正極金属箔11a上に正極合剤層11bが形成される方法であれば制限はない。正極合剤層11bの形成方法の例として、正極合剤の構成物質の分散溶液を正極金属箔11a上に塗布する方法が挙げられる。このような方法で製造することにより特性の優れた正極合剤が得られる。
【0016】
正極合剤層11bを正極金属箔11aに形成する方法の例として、ロール塗工法、スリットダイ塗工法などが挙げられる。正極合剤に分散溶液の溶媒例としてN−メチルピロリドン(NMP)や水等を添加し、混練したスラリを、厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に均一に塗布し、乾燥させた後、ダイカット等により裁断する。正極合剤の塗布厚さの一例としては片側約40μmである。正極金属箔11aを裁断する際、正極リード16を一体的に形成する。すべての正極リード16の長さは、ほぼ同じである。裁断により正極リード16を形成した後、正極合剤をプレスロールにより熱プレスし、正極合剤の粒子間および正極金属箔11aとの接触面を増大し、直流抵抗を低減する。また、熱プレスにより、正極合剤層11bの厚みが低減するので、同じ直径の電極群10を形成する場合、正極合剤層11bの長さが大きくなり電池容量が増大する。
正極電極11を形成する具体的な方法については、後述する。
【0017】
負極電極12は、銅箔により形成され長尺な形状を有し、負極金属箔12aと、この負極金属箔12aの両面に負極合剤層12bが形成された負極処理部を有する。負極金属箔12aの長手方向に沿う下方側の側縁は、負極合剤層12bが形成されず銅箔が表出した負極合剤未処理部12cとなっている。この負極合剤未処理部12cには、正極リード16とは反対方向に延出された、多数の負極リード17が等間隔に一体的に形成されている。この構造により電流を略均等に分散して流すことができ、リチウムイオン二次電池の信頼性の向上に繋がっている。
【0018】
負極合剤層12bは、負極活物質と、負極バインダと、増粘剤とから構成される。負極合剤は、アセチレンブラックなどの負極導電材を有しても良い。負極活物質としては、黒鉛炭素を用いること、特に人造黒鉛を使用することが好ましい。しかしその中でも次に記載する方法により優れた特性の負極合剤層12bが得られる。黒鉛炭素を用いることにより、大容量が要求されるプラグインハイブリッド自動車や電気自動車向けのリチウムイオン二次電池が作製できる。負極合剤層12bの形成方法は、負極金属箔12a上に負極合剤層12bが形成される方法であれば制限はない。負極合剤を負極金属箔12aに塗布する方法の例として、負極合剤の構成物質の分散溶液を負極金属箔12a上に塗布する方法が挙げられる。塗布方法の例として、ロール塗工法、スリットダイ塗工法などが挙げられる。
【0019】
負極合剤層12bを負極金属箔12aに形成する方法の例として、負極合剤に分散溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンや水を添加し、混練したスラリを、厚さ10μmの圧延銅箔の両面に均一に塗布し、乾燥させた後、裁断する。負極合剤の塗布厚さの一例としては片側約40μmである。負極金属箔12aを裁断する際、負極リード17を一体的に形成する。すべての負極リード17の長さは、ほぼ同じである。裁断により負極リード17を形成した後、負極合剤をプレスロールにより熱プレスし、負極合剤の粒子間および負極金属箔12aとの接触面を増大し、直流抵抗を低減する。また、熱プレスにより、負極合剤層12bの厚みが低減するので、同じ直径の電極群10を形成する場合、負極合剤層12bの長さが大きくなり電池容量が増大する。
【0020】
第1のセパレータ13および第2のセパレータ14の幅WSは、負極金属箔12aに形成される負極合剤層12bの幅WCより大きく形成される。また、負極金属箔12aに形成される負極合剤層12bの幅WCは、正極金属箔11aに形成される正極合剤層11bの幅WAより大きく形成される。
負極合剤層12bの幅WCが正極合剤層11bの幅WAよりも大きいことにより、異物の析出による内部短絡を防止する。これは、リチウムイオン二次電池の場合、正極活物質であるリチウムがイオン化してセパレータを浸透するが、負極側に負極活物質が形成されておらず負極金属箔12aが露出していると負極金属箔12aにリチウムが析出し、内部短絡を発生する原因となるからである。
【0021】
第1、第2のセパレータ13、14は、例えば、厚さ40μmのポリエチレン製多孔膜である。
図1および図3において、中空な円筒形状の軸芯15は軸方向(図面の上下方向)の上端部の内面に径大の溝15aが形成され、この溝15aに正極集電部材が圧入されている。
【0022】
正極集電部材27は、例えば、アルミニウムにより形成され、円盤状の基部27a、この基部27aの内周部において軸芯15側に向かって突出し、軸芯15の内面に圧入される下部筒部27b、および外周縁において電池蓋3側に突き出す上部筒部27cを有する。正極集電部材27の基部27aには、過充電等によって、電池内部で発生するガスを放出するための開口部27d(図2参照)が形成されている。また、正極集電部材27には開口部27eが形成されているが、開口部27eの機能については後述する。
【0023】
正極金属箔11aの正極リード16は、すべて、正極集電部材27の上部筒部27cに溶接される。この場合、図2に図示されるように、正極リード16は、正極集電部材27の上部筒部27c上に重なり合って接合される。各正極リード16は大変薄いため、1つでは大電流を取りだすことができない。このため、軸芯15への巻き始めから巻き終わりまでの全長に亘り、多数の正極リード16が所定間隔に形成されている。
【0024】
正極集電部材27の上部筒部27cの外周には、正極金属箔11aの正極リード16および押え部材28が溶接されている。多数の正極リード16を、正極集電部材27の上部筒部27cの外周に密着させておき、正極リード16の外周に押え部材28をリング状に巻き付けて仮固定し、この状態で溶接される。
【0025】
軸芯15の下端部の外周には、外径が径小とされた段部15bが形成され、この段部15bに負極集電部材21が圧入されて固定されている。負極集電部材21は、例えば、抵抗値の小さい銅により形成され、円盤状の基部21aに軸芯15の段部15bに圧入される開口部21bが形成され、外周縁に、電池缶2の底部側に向かって突き出す外周筒部21cが形成されている。
負極金属箔12aの負極リード17は、すべて、負極集電部材21の外周筒部21cに超音波溶接等により溶接される。各負極リード17は大変薄いため、大電流を取りだすために、軸芯15への巻き始めから巻き終わりまで全長にわたり、所定間隔で多数形成されている。
【0026】
負極集電部材21の外周筒部21cの外周には、負極金属箔12aの負極リード17および押え部材22が溶接されている。多数の負極リード17を、負極集電部材21の外周筒部21cの外周に密着させておき、負極リード17の外周に押え部材22をリング状に巻き付けて仮固定し、この状態で溶接される。
負極集電部材21の下面には、ニッケルからなる負極通電リード23が溶接されている。
負極通電リード23は、鉄製の電池缶2の底部において、電池缶2に溶接されている。
【0027】
ここで、正極集電部材27に形成された開口部27eは、負極通電リード23を電池缶2に溶接するための電極棒(図示せず)を挿通するためのものである。電極棒を正極集電部材27に形成された開口部27eから軸芯15の中空部に差し込み、その先端部で負極通電リード23を電池缶2の底部内面に押し付けて抵抗溶接を行う。負極集電部材21に接続されている電池缶2は一方の出力端として作用し、電極群10に蓄電された電力を電池缶2から取り出すことができる。
【0028】
多数の正極リード16が正極集電部材27に溶接され、多数の負極リード17が負極集電部材21に溶接されることにより、正極集電部材27、負極集電部材21および電極群10が一体的にユニット化された発電ユニット20が構成される(図2参照)。但し、図2においては、図示の都合上、負極集電部材21、押え部材22および負極通電リード23は発電ユニット20から分離して図示されている。
【0029】
また、正極集電部材27の基部27aの上面には、複数のアルミニウム箔が積層されて構成されたフレキシブルな接続部材33が、その一端を溶接されて接合されている。接続部材33は、複数枚のアルミニウム箔を積層して一体化することにより、大電流を流すことが可能とされ、且つ、フレキシブル性を付与されている。
【0030】
正極集電部材27の上部筒部27c上には、円形の開口部34aを有する絶縁性樹脂材料からなるリング状の絶縁板34が配置されている。
絶縁板34は、開口部34a(図2参照)と下方に突出す側部34bを有している。絶縁板34の開口部34a内には接続板35が嵌合されている。接続板35の下面には、フレキシブルな接続部材33の他端が溶接されて固定されている。
【0031】
接続板35は、アルミニウム合金で形成され、中央部を除くほぼ全体が均一で、かつ、中央側が少々低い位置に撓んだ、ほぼ皿形状を有している。接続板35の中心には、薄肉でドーム形状に形成された突起部35aが形成されており、突起部35aの周囲には、複数の開口部35b(図2参照)が形成されている。開口部35bは、過充電等により電池内部に発生するガスを放出する機能を有している。
【0032】
接続板35の突起部35aはダイアフラム37の中央部の底面に抵抗溶接または摩擦拡散接合により接合されている。ダイアフラム37はアルミニウム合金で形成され、ダイアフラム37の中心部を中心とする円形の切込み37aを有する。切込み37aはプレスにより上面側をV字またはU字形状に押し潰して、残部を薄肉にしたものである。
【0033】
ダイアフラム37は、電池の安全性確保のために設けられており、電池内部に発生したガスの圧力が上昇すると、第1段階として、上方に反り、接続板35の突起部35aとの接合を剥離して接続板35から離間し、接続板35との導通を絶つ。第2段階として、それでも電池内圧が上昇する場合は切込み37aにおいて開裂し、内部のガスを放出する機能を有する。
【0034】
ダイアフラム37は周縁部において電池蓋3の周縁部3aを固定している。ダイアフラム37は図2に図示されるように、当初、周縁部に電池蓋3側に向かって垂直に起立する側部37bを有している。この側部37b内に電池蓋3を収容し、かしめ加工により、側部37bを電池蓋3の上面側に屈曲して固定する。
電池蓋3は、炭素鋼等の鉄で形成され、外側および内側の表面全体にニッケル等のめっき層が施されている。電池蓋3は、ダイアフラム37に接触する円盤状の周縁部3aとこの周縁部3aから上方に突出す有頭無底の筒部3bを有するハット型を有する。筒部3bには開口部3cが形成されている。この開口部3cは、電池内部に発生するガス圧によりダイアフラム37が開裂した際、ガスを電池外部に放出するためのものである。
【0035】
電池蓋3、ダイアフラム37、絶縁板34および接続板35は、一体化され電池蓋ユニット30を構成する。
上述したように、電池蓋ユニット30の接続板35は接続部材33により正極集電部材27と接続されている。従って、電池蓋3は正極集電部材27と接続されている。このように、正極集電部材27と接続されている電池蓋3は他方の出力端として作用し、この他方の出力端として作用する電池蓋3と一方の出力端として作用する電池缶2より電極群10に蓄えられた電力を出力することが可能となる。
【0036】
ダイアフラム37の側部37bの周縁部を覆って、通常、ガスケットと言われるシール部材43が設けられている。シール部材43は、ゴムで形成されており、限定する意図ではないが、1つの好ましい材料の例として、フッ素系樹脂をあげることができる。
【0037】
シール部材43は、当初、図2に図示されるように、リング状の基部43aの周側縁に、上部方向に向けてほぼ垂直に起立して形成された外周壁部43bを有する形状を有している。
【0038】
そして、プレス等により、電池缶2と共にシール部材43の外周壁部43bを屈曲して基部43aと外周壁部43bにより、ダイアフラム37と電池蓋3を軸方向に圧接するようにかしめ加工される。これにより、電池蓋3、ダイアフラム37、絶縁板34および接続板35が一体に形成された電池蓋ユニット30がシール部材43を介して電池缶2に固定される。
【0039】
電池缶2の内部には、非水電解液6が所定量注入されている。非水電解液6の一例としては、リチウム塩がカーボネート系溶媒に溶解した溶液を用いることが好ましい。リチウム塩の例として、フッ化リン酸リチウム(LiPF)、フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、などが挙げられる。また、カーボネート系溶媒の例として、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート(PC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、或いは上記溶媒の1種類以上から選ばれる溶媒を混合したものが挙げられる。
【0040】
(正極電極の製造方法)
次に、図5〜図9を参照して、正極電極を形成する方法について説明する。
図5は、正極金属箔11aに正極合剤層11bを形成する方法を説明するための平面図である。なお、以下の説明では、1枚の正極金属箔11Aから2枚の正極電極11を形成する2枚取りの場合で説明する。すなわち、正極金属箔11Aは、1枚の正極金属箔11aの幅の2倍以上の幅を有しており、後述する如く、幅方向の中心部分を長手方向に沿って切断され、2枚の正極電極11が得られる。
予め、正極活物質と、正極導電材と正極バインダとを、例えば、プラネタリーミキサ等を用いて混練し、正極合剤スラリ63を形成しておく。正極活物質、正極導電材、正極バインダの材料は、上述したようなものを用いる。
正極金属箔11Aは、アルミニウム合金により形成されており、一端を巻装ローラ(図示せず)から引出し、バックアップローラ62に巻き付けたたうえ、巻装ローラから引出した一端を巻取ローラ(図示せず)に巻き付けておく。
【0041】
次に、正極合剤スラリ63を正極金属箔11Aに塗工する。ここでは、塗工方法の一例として、スリットダイ塗工法による場合で説明する。
正極合剤スラリ63を所定幅のスリットを有するダイヘッド61に供給し、図示しない送りローラにより正極金属箔11Aを移送しながら、正極金属箔11Aの一面にダイヘッド61のスリットから正極合剤スラリ63を吐出し、正極合剤スラリ63を正極金属箔11Aの中央領域に塗工する。
この場合、正極金属箔11Aに塗工される正極合剤層11Bの幅は、1枚の正極電極11の正極合剤層11bの幅の2倍以上の大きさを有する。また、正極合剤層11Bの長手方向に沿う両側縁には、それぞれ、1枚の正極電極11の正極合剤未処理部11cの幅よりも大きい幅の正極合剤未処理部11c’が形成されるようにする。正極合剤未処理部11c’は、正極合剤が塗工されない領域であり、正極金属箔11Aの材料であるアルミニウム合金が露出している領域である。但し、この段階では、正極合剤未処理部11c’に正極リード16は形成されていない。
【0042】
正極合剤層11Bを正極金属箔11Aの両面に塗工したら、熱風乾燥路内に入れ、100℃〜150℃の温度で乾燥する。
図6は、乾燥が完了した状態の正極合剤層11Bを有する正極電極11’を示す平面図である。上述の如く、正極電極11’は、中央領域に、1枚の正極電極11の正極合剤層11bの幅の2倍以上の大きさを有する正極合剤層11Bと、正極合剤層11Bの長手方向に沿う両側縁に、それぞれ、正極合剤未処理部11cの幅よりも大きい幅の正極合剤未処理部11c’が形成されている。
【0043】
正極金属箔11Aの一面に、正極合剤層11Bを塗工し、乾燥したら、正極金属箔11Aの他面に、上述の工程と同様に、正極合剤層11Bを塗工し、乾燥する。
次に、この正極電極11の両側縁に正極リード16を形成する。
【0044】
図7は、正極リード16を形成する方法を説明するための平面図である。
例えばダイカット機を用いて、正極金属箔11Aの両側部に形成された正極合剤未処理部11c’に、それぞれ、多数の正極リード16を有する正極合剤未処理部11cを形成する。この場合、各正極合剤未処理部11cは、正極金属箔11Aの長手方向に沿って連続する幅aの連続領域部11c1と、この連続領域部11c1から、長手方向に垂直な方向に延出された正極リード16とから構成されるようにダイカットにする。
【0045】
図7に図示された如く、正極リード16および連続領域部11c1から構成される正極合剤未処理部11cを正極金属箔11Aに形成した後、正極金属箔11Aを熱プレスして、正極合剤を乾燥する。
熱プレスは、例えば、図8に図示されるように、熱プレスロールにより行う。この方法では、図100〜120℃に昇温した一対のローラ65を用い、各ローラ65を正極電極11’の移送方向Xに対して、図示の方向に回転して行う。
【0046】
この塗工後の乾燥により、正極合剤に含まれる溶媒が蒸発し、正極合剤層11Bに形成されていた空隙が減少する。また、熱プレス時の圧力により、正極活物質の粒子相互の接触面積および正極金属箔11Aと正極活物質の粒子との接触面積が増大し、電池の直流抵抗が減少する。さらに、熱プレスをすることにより、体積当りの正極合剤の比率が増大し、電極群10全体の正極合剤層11Bの体積が増加するので電池容量も増加する。この熱プレスにより、正極合剤層11Bの厚さは、プレス前の60〜80%に圧縮される(但し、正極金属箔11Aの厚みを含まない値である)。
【0047】
図9(A)は、熱プレスを完了した状態の正極電極11’の平面図である。
正極電極11’を図9(A)の状態とした後は、この正極電極11’を幅方向の中央部において長手方向に沿って切断し、中央部に金属片11dが形成され、金属片11dの両側に、それぞれ、正極電極11が得られるように3分割する。
この場合、中央部の金属片11dは、その両側に正極電極11を形成する際の位置ずれを調整するために配置されるもので、この部分を設けることにより、歩留まりが向上し、かつ、生産性も向上する。
【0048】
このように、正極電極11’を長手方向に沿って切断し、分離すると、図9(B)に図示されるように、各正極電極11は、正極合剤未処理部11c側が内周側とし、正極合剤層11bを外周側とする扇形に湾曲する。この湾曲の程度は、扇度というパラメータで比較する。
本発明において、扇度を、図9(B)を参照して、次のように定義する。
扇度とは、正極電極11が正極合剤未処理部11c側を内側にして扇形に湾曲している状態で、正極合剤層11bの両側端部における最も内周側の部分イを結んだ直線に対して、正極合剤層11bの最外周側に位置する部分ロ(通常は、扇形の中心線上に位置する)を通る直線の垂直方向の長さd1(d2)とする。
上記において、本実施の形態では、扇度は、正極電極11の長さL1およびL2を、それぞれ、1mとした時の長さd1(d2)を単位mmで示す。正極電極11の長さL1=L2(=L)であれば、d1=d2(=d)となる。
【0049】
以下の説明で明らかになるが、扇度dは、正極合剤未処理部11cにおける連続領域部11c1の幅a(すなわち、正極リード16の長さは含まない)と、正極合剤層11bの幅bとの比、(a/b)により変化し、(a/b)が小さくなると扇度dが小さくなる傾向がある。
【0050】
次に、図10および図11を参照して、正極電極11が正極合剤未処理部11c側を内側とする扇形に湾曲する理由を説明する。
図8に図示されるように、正極電極11’の正極合剤層11Bを熱ロールプレスする工程において、正極金属箔11Aは、ローラ65により、正極合剤層11Bを介して加圧される領域と、加圧されない領域とが存在する。
図11は、図8の一部拡大断面図である。
正極金属箔11Aの正極合剤層11B直下の領域は、正極合剤層11Bの上面にローラ65が接触するため、正極合剤層11Bを介して、ローラ65の圧力を受ける。一方、正極金属箔11Aの正極合剤未処理部11cの領域は、ローラ65の圧力を受けることはない。
【0051】
このため、図10(A)および(B)に白抜き矢印で示されるように、正極金属箔11Aには、ローラ65の回転と共に、幅方向の中央部から圧延方向に沿って側縁方向に向かう残留応力が生じる。一方、正極合剤未処理部11cには残留応力が存在しないため、正極合剤層11Bと正極合剤未処理部11cとの境界では残留応力の差が極大となる。このため、正極金属箔11Aに、正極合剤未処理部11c側を内周側とし、正極合剤層11B側を外周側とする扇形に湾曲させる作用が生じる。
従って、正極電極11’を図10(C)に図示するように、中央部の金属片11dの両側に正極電極11が形成されるように3分割すると、各正極電極11は、応力の均衡が崩れて、それぞれ、同図に図示されるように、正極合剤未処理部11c側を内周側とし、正極合剤層11B側を外周側とする扇形に湾曲することになる。
【0052】
図12は、正極電極11を、1枚取りのサイズとして、正極合剤層11bおよび正極合剤未処理部11cを形成した場合の平面図を示す。この場合には、正極合剤未処理部11cは、正極金属箔11aの一側縁側にしか形成されておらず、正極金属箔11aにおける残留応力が残存する領域と、残留応力が残存していない正極合剤未処理部11cとの境界は、正極金属箔11aの一側縁側のみである。従って、ローラ65の回転と共に、幅方向の中央部から圧延方向に沿って生じる残留応力により、一側縁側の正極合剤未処理部11c側を内周側とし、正極合剤層11b側を外周側とする扇形に湾曲させる作用が生じる。このため、熱ロールプレスが進行し、正極合剤層11bの温度が低下すると共に、正極金属箔11aは、正極合剤未処理部11c側を内周側とし、正極合剤層11b側を外周側とする扇形に湾曲する。
【0053】
図13は、アルミニウム合金において、残留応力―歪特性曲線から、その特性曲線の傾きYを求める方法を示す図である。
所定寸法(例えば、長さ100mm×幅10mm)のアルミニウム合金からなる試験片を、例えば、万能試験機により引張力を与え、引張力を徐々に増大して破断に至るまでの歪を与える。このときの応力(σ)と歪(ε)を測定し、図13に太い実線で図示されるような、応力(σ)―歪(ε)特性曲線を描画する。
【0054】
歪(ε)が0.2%の点から、応力(σ)―歪(ε)特性曲線の根元付近の領域と平行な直線(図13において点線で示す)を引き、応力(σ)―歪(ε)特性曲線との交点Z(ε0.2,σ0.2)を求める。このときの応力σ0.2が0.2%耐力であり、歪ε0.2が0.2%耐力での歪である。
【0055】
点Z(ε0.2、σ0.2)と原点(歪ε=0、応力σ=0)とを、図13に細い実線で示すように、直線で結び、この直線の傾きをYとした。
【0056】
[実施例1]
正極金属箔11aとしてMnを1%含んだアルミニウム合金を用いて、正極合剤未処理部11cにおける連続領域部11c1の幅aと正極合剤層11bの幅bとの比、(a/b)=0.025の正極電極11を作製した。このアルミニウム合金の0.2%耐力は246MPaであり、0.2%耐力での歪は0.0067であった。また、傾きYは36.7GPaであった。
この正極電極11を熱プレスロールにより正極合剤層11bを加圧した後の扇度dは1mmであった。この場合、上述した如く扇度dは、正極金属箔11aの長さL=1mの場合の変形量である。なお、以下の説明において、扇度dは、正極金属箔11aの長さL=1mの場合である
【0057】
[実施例2]
実施例1と同様、0.2%耐力が246MPa、0.2%耐力での歪が0.0067、傾きYが36.7GPaのアルミニウム合金を用いて、正極合剤未処理部11cにおける連続領域部11c1の幅aと正極合剤層11bの幅bとの比、(a/b)=0.040の正極電極11を作製した。
この正極電極11を熱プレスロールにより正極合剤層11bを加圧した後の扇度dは2mmであった。
【0058】
[実施例3]
実施例1と同様、0.2%耐力が246MPa、0.2%耐力での歪が0.0067、傾きYが36.7GPaのアルミニウム合金を用いて、正極合剤未処理部11cにおける連続領域部11c1の幅aと正極合剤層11bの幅bとの比、(a/b)=0.070の正極電極11を作製した。
この正極電極11を熱プレスロールにより正極合剤層11bを加圧した後の扇度dは2mmであった。
【0059】
[実施例4]
実施例1と同様、0.2%耐力が246MPa、0.2%耐力での歪が0.0067、傾きYが36.7GPaのアルミニウム合金を用いて、正極合剤未処理部11cにおける連続領域部11c1の幅aと正極合剤層11bの幅bとの比、(a/b)=0.090の正極電極11を作製した。
この正極電極11を熱プレスロールにより正極合剤層11bを加圧した後の扇度dは2mmであった。
【0060】
[実施例5]
正極金属箔11aとしてMnを1%含んだアルミニウム合金を用いて、正極合剤未処理部11cにおける連続領域部11c1の幅aと正極合剤層11bの幅bとの比、(a/b)=0.040の正極電極11を作製した。このアルミニウム合金の0.2%耐力は218MPaであり、0.2%耐力での歪は0.0061であった。また、傾きYは35.7GPaであった。
この正極電極11を熱プレスロールにより正極合剤層11bを加圧した後の扇度dは2mmであった。
【0061】
[比較例]
実施例5と同様、0.2%耐力が218MPa、0.2%耐力での歪が0.0061、傾きYが35.7GPaのアルミニウム合金を用いて、正極合剤未処理部11cにおける連続領域部11c1の幅aと正極合剤層11bの幅bとの比、(a/b)=0.090の正極電極11を作製した。
この正極電極11を熱プレスロールにより正極合剤層11bを加圧した後の扇度dは6mmであった。
【0062】
(効果の確認)
上記実施例1〜5および参照例の測定結果を図14に示す。
実施例1〜4では、すべて傾きYが36.7GPaであるが、これらの場合には、(a/b)=0.025〜0.090のすべての場合において、扇度dが2mm以下であり、正極電極11に歪やしわは無く、平滑であった。
実施例5では、傾きYが35.5GPaであり、(a/b)=0.040であるが、正極電極11に歪は無く、平滑であった。
比較例では、傾きYが35.5GPaであるが、(a/b)=0.090であり、この場合には、扇度dが6mmと大きく、正極電極11に歪、しわがみられた。
なお、扇度による正極電極11の変形に関する判断は、正極金属箔11aに両側から10MPaの引張力を与え、正極金属箔11aに波打ちやしわがみられるか否かを基準とした。
この判断基準では、正極金属箔11aの長さL=1mの場合、扇度dが3mm以下の場合は合格と判断される。
上記判断基準に徴すれば、比較例のみが不合格であり、実施例1〜5は、いずれも合格である。
【0063】
図15は、図14に示された測定結果を、傾きY−a/b特性図として示したものである。
二点鎖線で囲まれた、細かい多数の点のハッチングが施された領域I内は、実施例1〜4の測定結果に対応する。すなわち、この領域I内では、傾きYが36.7GPa以上で、かつ、(a/b)が0.090以下であって、正極電極11は扇度が小さく、平滑な面を有する。
点線で囲まれた、縦線のハッチングが施された領域II内は、実施例5の測定結果に対応する。すなわち、この領域II内では、傾きYが35.7GPa以上で、かつ、(a/b)が0.040以下であって、正極電極11はしわや歪は無く、平滑な面を有する。
【0064】
このように、領域IおよびII内は、扇度d=2mm以下となる合格領域である。しかし、傾きYまたは扇度が実施例と異なる場合においても、扇度d=2mm以下となる合格領域は存する。
このことについて説明する。
図14および図15において、傾きYが大きい場合には扇度dが小さくなる。また、傾きYが同一の場合には、正極合剤未処理部11cにおける連続領域部11c1の幅aと正極合剤層11bの幅bとの比、(a/b)が小さいほど扇度dは小さくなる。
従って、扇度を小さくすることに関して、傾きYが36.7GPaである実施例1〜4の中では、(a/b)が最大である実施例4が最も条件が悪い。また、傾きYが35.7GPaである実施例5は、実施例1〜4よりも条件が悪い。
従って、実施例4(図15に示すY1)と実施例5(図15に示すY2)とを結ぶ直線は、測定結果における合格と不合格の境界を示し、少なくとも、この直線の上部側が扇度は小さくなる合格領域である。図15には、この直線の上部側を斜めのハッチングを施した領域IIIとして示している。
【0065】
上記領域IIIの範囲は、図15におけるY1、Y2を通る直線を求めることにより、下記の式(1)により示される。
Y≧ 19.6 × (a/b) + 35.0----式(1)
ここで、領域IIIの範囲内は、比較例に対する閾値ではないが、少なくとも、扇度d=2mm以下であることが保証される領域である。
【0066】
図16は、応力(σ)−歪(ε)特性図における傾きYに関する上限を説明するための図である。
上述した如く、傾きYは大きいほど熱プレスによる歪は小さくなる。扇度を、限りなくゼロに近くするためには、正極金属箔11aが弾性体として挙動する範囲で製造する必要がある。すなわち、傾きYは、使用材料のヤング率に等しくなる。正極金属箔11aとしてアルミニウム合金を用いる場合、アルミニウム合金単結晶のヤング率70GPaを超えることはない。従って、アルミニウム合金を用いた正極金属箔11aの場合には下記の式(2)を満足する。
70.0 >Y≧ 19.6 × (a/b) + 35.0----式(2)
【0067】
しかし、ヤング率70GPaは単結晶状態の理想的アルミニウムの場合の値である。工業的に使用するマンガンやマグネシウムを含むアルミニウム合金では、応力−歪特性曲線から求められるヤング率(弾性限界までの勾配)は、70GPaより小さく、51GPaである。従って、実用的な傾きYの値は、下記の式(3)を満足する。
51.0 >Y≧ 19.6 × (a/b) + 35.0----式(3)
【0068】
上記の式(1)〜(3)によれば、正極合剤未処理部11cの連続領域部11c1の幅a=0であれば、傾きYは最低35.0でよい。すなわち、最も変形しやすい材料でもよい。
しかし、a=0では、図7に図示するダイカット機を用いて正極リード16を形成する工程において、正極合剤の塗工のばらつきにより、長手方向に沿う側縁部において正極合剤の一部を切断してしまい、切断時の応力により、正極合剤に剥離が生じる。剥離した正極合剤は、電極群10に付着し、内部短絡や性能劣化の要因となる。従って、現実的には、正極合剤未処理部11cの連続領域部11c1の幅aは、相応の値が必要である。
現在の技術水準では、(a/b)≧0.010であることが望ましく、(a/b)≧0.030であることが一層望ましい。
【0069】
また、(a/b)の上限については、図15を参照して明らかな如く、原則的には、傾きYの値が大きくなるに対応して(a/b)を大きくすれば、上記の式(1)〜(3)を満足する。
しかし、(a/b)が大きくなると、抵抗値の増大を抑制するために正極金属箔11aの厚さが大きくなり、体積当りの正極活物質の量が低減することから電池性能が低下する。また、(a/b)の増大は、正極金属箔11aの露出面積が増大することであるから、正極リード16を形成する工程あるいは正極リード16を正極集電部材27に溶接する工程等において、正極リード16が折損する可能性が大きくなる。このため、現在の技術水準では、(a/b)は、0.090程度よりも小さくすることが望ましい。
【0070】
以上説明した如く、本発明のリチウムイオン二次電池は、正極電極11は、アルミニウム合金からなる正極金属箔11aの両面に、長手方向に沿う一側縁を正極合剤未処理部11cとして露出して、他の領域に塗布された前記正極合剤層11bを有し、前記正極合剤未処理部11cの連続領域部11c1の幅をa、前記正極合剤層の幅をbとしたとき、下記式(1)に示す関係を満足するようにした。
Y>19.6×(a/b)+35.0----式(1)
但し、Yは、応力−歪特性曲線において、0.2%耐力とそのときの歪との交点と、歪=0、応力=0の点を結ぶ直線の傾きである。
このため、工程数を増大すること無く、正極電極の湾曲の程度を小さくするという効果を奏する。
【0071】
なお、上記一実施の形態では、正極電極の場合で説明した。しかし、本発明は、負極電極に対しても同様に適用をすることができる。但し、負極電極を構成する負極電極箔は、通常、ヤング率が130GPa程度の大きい銅箔により形成する。このように大きな降伏応力を有する材料においては、湾曲の程度が小さいので、リチウムイオン二次電池を作製する上で内部短絡や電池性能の低下の面で左程大きな課題とはなっていない。
従って、負極電極側に関しては、本発明の適用は必須という程でもなく、少なくとも、アルミニウム金属箔により形成される正極電極に対して適用すればよい。
【0072】
また、上記一実施の形態では、リチウムイオン二次電池1を円筒形の場合で説明した。
しかし、本発明は、捲回型の電極群を有する角形のリチウムイオン二次電池に対しても適用が可能である。但し、角形のリチウムイオン二次電池の場合、正・負極電極には、合剤未処理部に導電リードを形成せず、直接、集電板を溶接する構造が一般的である。このような構造では、正極金属箔の正極合剤未処理部全体が連続領域部である。
【0073】
その他、本発明のリチウムイオン二次電池は、発明の趣旨の範囲内において、種々、変形して適用することが可能であり、要は、電池容器内に、リチウム酸化物を含む正極合剤層を有する正極電極と、リチウムイオンを吸蔵・放出する負極合剤層を有する負極電極と、正極電極と負極電極の内外周に配されたセパレータとを有する捲回型の電極群が収容され、非水電解液が注入されたリチウムイオン二次電池において、正極電極は、アルミニウム合金からなる金属箔の両面に、長手方向に沿う一側縁を正極合剤未処理部として露出して、他の領域に塗布された正極合剤層を有し、正極合剤未処理部の連続領域部の幅をa、正極合剤層の幅をbとしたとき、下記の式(1)に示す関係を満足するものであればよい。
Y>19.6×(a/b)+35.0----(1)
但し、Yは、応力−歪特性曲線において、0.2%耐力とそのときの歪との交点と、歪=0、応力=0の点を結ぶ直線の傾きである。
また、本発明のリチウムイオン二次電池は、電池容器内に、リチウム酸化物を含む正極合剤層を有する正極電極と、リチウムイオンを吸蔵・放出する負極合剤層を有する負極電極と、正極電極と負極電極の内外周に配されたセパレータとを有する捲回型の電極群が収容され、非水電解液が注入されたリチウムイオン二次電池において、正極電極は、アルミニウム合金からなる金属箔の両面に、長手方向に沿う一側縁を正極合剤未処理部として露出して、他の領域に塗布された正極合剤層を有し、正極合剤未処理部の連続領域部の幅をa、正極合剤層の幅をbとしたとき、下記の条件(I)または条件(II)を満足するものであればよい。
Yが36.7GPa以上であり、かつ、(a/b)が0.09以下----条件(I)
Yが35.7Gpa以上であり、かつ、(a/b)が0.04以下----条件(II)
但し、Yは、応力−歪特性曲線において、0.2%耐力とそのときの歪との交点と、歪=0、応力=0の点を結ぶ直線の傾きである。
【0074】
なお、本発明のリチウムイオン二次電池の主たる用途は、例えば、ハイブリッド自動車用、電気自動車用、バックアップ電源用等の大型二次電池用である。すなわち、本発明のリチウムイオン二次電池は、数Ah〜数十Ah級として適している。
【符号の説明】
【0075】
1 リチウムイオン二次電池
4 電池容器
10 電極群
11 正極電極
11a、11A 正極金属箔
11b、11B 正極合剤層
11c 正極合剤未処理部
11c1 連続領域部
12 負極電極
12a 負極金属箔
12b 負極合剤層
12c 負極合剤未処理部
13、14 セパレータ
20 発電ユニット
30 電池蓋ユニット




【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池容器内に、リチウム酸化物を含む正極合剤層を有する正極電極と、リチウムイオンを吸蔵・放出する負極合剤層を有する負極電極と、前記正極電極と前記負極電極の内外周に配されたセパレータとを有する捲回型の電極群が収容され、非水電解液が注入されたリチウムイオン二次電池において、前記正極電極は、アルミニウム合金からなる金属箔の両面に、長手方向に沿う一側縁を正極合剤未処理部として露出して、他の領域に塗布された前記正極合剤層を有し、前記正極合剤未処理部の連続領域部の幅をa、前記正極合剤層の幅をbとしたとき、下記の式(1)に示す関係を満足するものであればよい。
Y>19.6×(a/b)+35.0----(1)
但し、Yは、応力−歪特性曲線において、0.2%耐力とそのときの歪との交点と、歪=0、応力=0の点を結ぶ直線の傾きである。
【請求項2】
電池容器内に、リチウム酸化物を含む正極合剤層を有する正極電極と、リチウムイオンを吸蔵・放出する負極合剤層を有する負極電極と、前記正極電極と前記負極電極の内外周に配されたセパレータとを有する捲回型の電極群が収容され、非水電解液が注入されたリチウムイオン二次電池において、前記正極電極は、アルミニウム合金からなる金属箔の両面に、長手方向に沿う一側縁を正極合剤未処理部として露出して、他の領域に塗布された前記正極合剤層を有し、前記正極合剤未処理部の連続領域部の幅をa、前記正極合剤層の幅をbとしたとき、下記の条件(I)または条件(II)を満足するリチウムイオン二次電池。
Yが36.7GPa以上であり、かつ、(a/b)が0.09以下----条件(I)
Yが35.7Gpa以上であり、かつ、(a/b)が0.04以下----条件(II)
但し、Yは、応力−歪特性曲線において、0.2%耐力とそのときの歪との交点と、歪=0、応力=0の点を結ぶ直線の傾きである。
【請求項3】
請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池において、前記正極合剤未処理部の連続領域部の幅aと前記正極合剤層の幅bとの比が、0.01≦(a/b)≦0.09を満足するリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池において、前記正極合剤未処理部の連続領域部の幅aと前記正極合剤層の幅bとの比が、0.03≦(a/b)≦0.09を満足するリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
請求項1乃至4に記載のリチウムイオン二次電池において、前記金属箔の厚さは、10〜20μmであるリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
請求項1乃至5に記載のリチウムイオン二次電池において、前記捲回型の電極群は、円筒形状であり、前記正極合剤未処理部は、連続領域部から外側に延出された正極リードを有するリチウムイオン二次電池。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−138194(P2012−138194A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288258(P2010−288258)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(505083999)日立ビークルエナジー株式会社 (438)
【Fターム(参考)】