説明

リニアアクチュエータ駆動装置

【課題】可動子の自重により生じるオフセットズレを補正するリニアアクチュエータ駆動装置を提供する。
【解決手段】駆動装置1は、駆動指令Irefに応じて可動子23を往復させる電磁駆動部10と、通電がなされていない時、可動子23が自重により所定の移動可能範囲Dの中心Dcからズレて可動範囲Wが移動可能範囲Dよりも狭くなる場合に、可動子23の往復動中心Wcと移動可能範囲Dの中心Dcとの偏差を無くする方向へ可動子23の往復動中心Wcを移動させるオフセット通電をなすように駆動指令Irefを補正するオフセット補正部11とを有している。オフセット補正部11は、駆動指令Irefに応じた可動子23の振幅値Lpに対応する振幅情報を取得し、振幅情報に対応する振幅値Lpに対して可動振幅(W/2)が可動域不足状態となる場合に駆動指令Irefの補正する一方、可動域不足状態でない場合に駆動指令Irefの補正を解除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動子を往復移動させるリニアアクチュエータ駆動装置に係り、特に自重により可動子がオフセットズレして可動範囲が本来よりも狭くなる場合においてオフセットズレの補正を適正化したリニアアクチュエータ駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レシプロモータ等のリニアアクチュエータ駆動装置は、駆動指令に応じた通電を行うことにより可動子を電気的に往復移動させるドライバとも呼ばれる装置である。レシプロモータ等のリニアアクチュエータは、通電がなされていない状態において可動子の往復動中心が自重により所定の移動可能範囲の中心からズレて可動範囲が本来の移動可能範囲よりも狭くなる場合がある。この場合、可動子及び固定子を収納する図示しないケーシング等との衝突を避けるために、狭くなった可動範囲よりも広い範囲を必要とする振幅で可動子を往復移動させることができなくなるという不具合がある。
【0003】
この問題に対処するための一つの手段として特許文献1には、可動子の往復動中心と移動可能範囲の中心との偏差を無くする方向へ可動子の往復動中心を移動させるオフセット通電をなすように駆動指令を補正するオフセット補正部を設け、常時、オフセット通電を行って電気的に可動子のオフセットズレを補正する装置が開示されている。
【0004】
また、上記問題に対処するための他の手段として特許文献2及び3には、通電がなされていない状態で永久磁石の磁束に偏りが生じるように永久磁石の配置位置を設定又は各々の永久磁石の強さを異ならせることで、機械的にオフセットズレを補正する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−256109号公報
【特許文献2】特開2008−256110号公報
【特許文献3】特開2006−14464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示すように電気的に可動子のオフセットズレを補正する従来のリニアアクチュエータ駆動装置では、オフセット通電を常時行うので、電力を常に消費して電力効率を損なうという不具合がある。
【0007】
また、特許文献2及び3に示すように機械的に可動子のオフセットズレを補正する従来のリニアアクチュエータ駆動装置では、磁束の偏りによって通電により得られる推力が低下する部位が生じるので、所望の推力を得るためには、電気的にオフセット補正するものに比べてアクチュエータを大型化するか若しくは通電量を増大させなければならない問題がある。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、その目的は、可動子の自重により生じるオフセットズレを補正するにあたり、装置の大型化を伴うことなく消費電力を低減させて省電力化を実現した新たなリニアアクチュエータ駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0010】
すなわち、本発明のリニアアクチュエータ駆動装置は、駆動指令に応じた通電を行うことにより可動子を往復移動させる電磁駆動部と、通電がなされていない状態において前記可動子が自重により所定の移動可能範囲の中心からズレて可動範囲が前記移動可能範囲よりも狭くなる場合に、前記可動子の往復動中心と前記移動可能範囲の中心との偏差を無くする方向へ前記可動子の往復動中心を移動させるオフセット通電をなすように前記駆動指令を補正するオフセット補正部とを具備してなり、前記オフセット補正部は、前記駆動指令に応じて往復移動するために必要な可動子の振幅値に対応する振幅情報を取得し、取得した振幅情報に対応する振幅値に対して可動振幅が可動域不足状態となる場合に前記駆動指令の補正を実施する一方、前記可動域不足状態でない場合に前記駆動指令の補正を解除することを特徴とする。
【0011】
可動域不足状態は、駆動指令に応じて往復移動するために必要な可動子の振幅値に可動振幅が足りない状態だけでなく、駆動指令に応じて往復移動するために必要な可動子の振幅値に可動振幅が足りる場合でも所定の余裕度がない状態が含まれる。なお、可動振幅は可動範囲の半分の長さである。
【0012】
このように、駆動指令に応じて往復移動するために必要な可動子の振幅値に対応する振幅情報を取得し、取得した振幅情報に対応する振幅値に対して可動振幅が可動域不足状態となる場合に駆動指令の補正を実施してオフセット通電を行う一方、可動域不足状態でない場合に駆動指令の補正を解除してオフセット通電を停止するので、従来のように可動域不足状態であるか否かに拘わらず常時オフセット通電を行う場合に比べてオフセット通電を低減して省電力化を実現し、電力効率を向上させることができる。しかも、オフセット通電によりオフセットズレを電気的に補正するものであるので、オフセットズレを機械的に補正するもののように装置の大型化を伴うことがない。
【0013】
ワンパラメータに基づき可動子の振幅値を得るようにして装置を簡素化するためには、前記オフセット補正部は、前記振幅情報として前記可動子の往復移動に係る周波数を取得し、取得した周波数と当該周波数の下で前記駆動指令が取り得る最大値とから前記可動子の振幅値を得るように構成されていることが好ましい。
【0014】
精度の高いオフセット通電を行うためには、前記オフセット補正部は、前記振幅情報として前記可動子の往復移動に係る周波数及び前記駆動指令を取得し、取得した周波数及び前記駆動指令の値から前記可動子の振幅値を得るように構成されていることが望ましい。
【0015】
より一層省電力化を追求するためには、前記オフセット補正部は、前記振幅情報に対応する振幅値と予め設定される移動可能範囲及びオフセットズレ量とから決定される可動振幅の不足分に応じた距離、前記可動子の往復動中心が移動するように前記駆動指令を補正することが有効である。
【0016】
複雑な演算を要することなく簡易な構成で確実に可動範囲を確保するためには、前記オフセット補正部は、前記可動子の往復動中心が一定距離移動するように前記駆動指令を補正することが効果的である。
【0017】
上記オフセット補正部を簡易な構成で実現するためには、前記オフセット補正部は、前記オフセット通電により可動子の往復動中心を移動させる補正量と前記振幅情報とを関連付けた補正情報を予め記憶しており、前記補正情報において前記振幅情報に関連付けられている補正量を用いて前記駆動指令を補正することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、以上説明したように、駆動指令に応じて往復移動するために必要な可動子の振幅値に対応する振幅情報を取得し、この振幅情報に対応する振幅値に対して可動子の可動振幅が可動域不足状態である場合に駆動指令の補正を実施して、可動子の往復動中心と移動可能範囲の中心との偏差を無くする方向へ可動子の往復動中心を移動させるオフセット通電を行う一方、可動域不足状態でない場合に駆動指令の補正を解除して、オフセット通電を停止するので、従来のように可動域不足状態であるか否かに拘わらず常時オフセット通電を行う場合に比べてオフセット通電を低減して省電力化を実現し、電力効率を向上させることが可能となる。しかも、可動子のオフセットズレを電気的に補正するものであるので、オフセットズレを機械的に補正するもののように大型化を伴うことがない。したがって、小型化及び省電力化に適したリニアアクチュエータ駆動装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係るリニアアクチュエータ駆動装置が適用される制振システムの構成を模式的に示す構成図。
【図2】本実施形態に係るリニアアクチュエータ駆動装置の構成及び機能を模式的に示す構成図。
【図3】同駆動装置の動作に関する説明図。
【図4】同駆動装置の動作で用いる補正情報の作成手順を示すフローチャート。
【図5】駆動電流指令の最大電流値と周波数との関係を示す図。
【図6】本発明の他の実施形態に係るリニアアクチュエータ駆動装置の構成及び機能を模試的に示す構成図。
【図7】上記以外の実施形態に係るリニアアクチュエータ駆動装置の構成及び機能を模式的に示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係るリニアアクチュエータ駆動装置を、図面を参照して説明する。
【0021】
リニアアクチュエータの駆動装置1は、図1及び図2に示すように、振動発生源gnで生じる振動Vi1と加振手段2を通じて制振すべき位置posに発生させる相殺振動Vi2とを制振すべき位置posで相殺させて制振すべき位置posでの振動を低減する制振システムsyに適用され、加振手段2として用いられるリニアアクチュエータ20の可動子23を往復移動させる装置である。
【0022】
本実施形態のリニアアクチュエータ駆動装置1が適用される制振システムsyは、図1に示すように、自動車等の車両に搭載されるものであり、座席st等の制振すべき位置posに設けた加速度センサ等の振動検出部3と、この振動検出部3で検出される振動が小さくなるように適切な相殺振動Vi2を加振手段2に発生させる制振制御を行う制御部4(コントローラともいう)とを有している。この制御部4は、振動発生源gnであるエンジンの点火パルス信号shと振動検出部3からの検出信号sgとを入力し、これらの信号sh,sgに基づき加振手段2に相殺振動Vi2を発生させる指令である駆動指令を生成する制振アルゴリズム部4aを主体としている。
【0023】
リニアアクチュエータ駆動装置1は、図2に示すように、上記の制振アルゴリズム部4aが生成した駆動指令Irefを入力し、この駆動指令Irefに応じた通電を、リニアアクチュエータ20を構成するコイル(図示せず)に行うことによりリニアアクチュエータ20の可動子23を往復移動させる電磁駆動部10を主体とするもので、上記の制御部4(コントローラ)に設けられている。この電磁駆動部10自体のより具体的な構造や具体的な動作説明は特許文献1等にも開示されているように公知であるため、詳細は省略する。
【0024】
駆動対象となるリニアアクチュエータ20は、図2に示すように、永久磁石を備える固定子22を車体フレームfrmに固定し、抑制するべき振動方向と同方向の往復振動(図2の紙面で上下動)を可動子23に行わせるようにしたインナー型のレシプロタイプのものである。ここでは、車体フレームfrmの抑制するべき振動の方向と可動子23の往復動方向(推力方向)とが一致するように、リニアアクチュエータ20が車体フレームfrmに固定される。可動子23は補助質量21とともに軸25に取り付けられ、この軸25は可動子23及び補助質量21を推力方向に移動可能なように板バネ24を介して固定子22に支持されている。リニアアクチュエータ20と補助質量21によって、動吸振器が構成されていることになる。
【0025】
リニアアクチュエータ20を構成するコイル(図示せず)に交流電流(正弦波電流、矩形波電流)を流した場合、コイルに所定方向の電流が流れる状態では、磁束が、永久磁石においてS極からN極に導かれることにより、磁束ループが形成される。その結果、可動子23は、重力に逆らう方向(上方向)に移動する。一方、コイルに対して所定方向とは逆方向の電流を流すと、可動子23は、重力方向(下方向)に移動する。可動子23は、交流電流によるコイルへの電流の流れの方向が交互に変化することにより以上の動作を繰り返し、固定子22に対して軸25の軸方向に往復動することになる。これにより、軸25に接合されている補助質量21が上下方向に振動することになる。このリニアアクチュエータ20それ自体のより具体的な構造や動作説明は特許文献1等にも開示されているように公知であるため、詳細は省略する。
【0026】
図2に示すように、可動子23は図示しないストッパによって動作範囲が規制されることにより、所定の移動可能範囲Dが設定されている。この移動可能範囲Dの中心Dcと可動子23の往復動中心Wcとが一致している状態では可動子23の可動範囲が最大となる。しかし、図2に示すように、アクチュエータ20を構成するコイルに通電がなされていない状態において可動子23の往復動中心Wcが自重により移動可能範囲Dの中心Dcから距離Lm重力方向にズレて、可動振幅(W/2)で往復動させるために要する可動範囲Wが本来の移動可能範囲Dよりも狭くなる場合がある(W=D−2×Lm)。この場合、図3(b)に示すように、狭くなった可動範囲Wよりも広い範囲(2×L)となる振幅L(W<2L)で可動子23を往復移動させることができなくなる不具合がある。
【0027】
そこで、この不具合を解決すべく、本実施形態では、図2に示すように、可動子23の往復動中心Wcと移動可能範囲Dの中心Dcとの偏差を無くする方向へ可動子23の往復動中心Wcを移動させるオフセット通電をなすように駆動指令Irefを補正するオフセット補正部11を更に設けている。しかしながら、このオフセット補正部11による駆動指令Irefの補正が常にされてオフセット通電が常時なされると、電力を常に消費して電力効率を損なう。そこで、このオフセット補正部11を、駆動指令Irefに応じて往復移動するために必要な可動子23の振幅値Lpに対応する振幅情報を取得し、取得した振幅情報に対応する振幅値Lpに対して可動振幅(W/2)が可動域不足状態となる場合に駆動指令Irefの補正を実施する一方、可動域不足状態でない場合に駆動指令Irefの補正を解除するように構成している。
【0028】
具体的構成として、図2に示すように、オフセット補正部11は、周波数取得部12と、駆動指令補正部13と含んで構成されている。
【0029】
周波数取得部12は、振幅情報として可動子23の往復移動に係る周波数fを取得する。振幅情報は、駆動指令Irefに応じて往復移動するために必要な可動子23の振幅値Lpに対応する情報であり、例えば可動子23の振幅値Lp自体や、可動子23の振幅値Lpを得るための基礎となる要素を示す情報である。可動子23の振幅値Lpを得るための基礎となる要素としては、可動子23の往復移動に係る周波数fや駆動指令Irefの値が挙げられる。これは可動子23の振幅値Lpが、駆動指令Irefの値及び可動子23の往復移動に係る周波数fの二つのパラメータに基づき決定(算出)可能であることによる。本実施形態では、図1及び図2に示すように、可動子23の往復移動で発生させる振動Vi2の周波数と振動発生源gnで発生する振動Vi1の周波数とが一致していることを利用して、振動発生源gnであるエンジンの点火パルス信号shに基づき振動発生源gnで発生する振動Vi1の周波数を検出し、この周波数を可動子23の往復移動に係る周波数fとして取り扱っている。
【0030】
駆動指令補正部13は、オフセット通電により可動子23の往復動中心Wcを移動させる補正量Idと振幅情報である周波数fとを関連付けた補正情報14をメモリMeに予め記憶しており、この補正情報14のうち周波数取得部12で取得した周波数fに関連付けられている補正量Idを用いて駆動指令Irefを補正するものである。具体的には、駆動指令補正部13は、周波数取得部12で取得した周波数fをキーとして補正情報14から該当する補正量Idを取得し、この補正量Idを駆動指令Irefに加算器13aで加算することで、可動子23の往復動中心Wcと移動可能範囲Dの中心Dcとの偏差を無くする方向へ可動子23の往復動中心Wcを移動させるオフセット通電をなすように駆動指令Irefを補正する。この補正量Idには、可動子23の往復動中心Wcを移動させる距離自体や駆動指令を補正する量としての電流値が挙げられるが、本実施形態では駆動指令を補正する電流値として取り扱っている。
【0031】
補正情報14は、図4に示す各ステップS1〜S5を実行することにより生成される。すなわち、或る周波数の下で最大となる駆動指令を算出する駆動指令算出ステップS1を実行し、駆動指令の値及び周波数から可動子の振幅値を取得する振幅値取得ステップS2を実行し、取得した可動子の振幅値と予め設定される移動可能範囲及びオフセットズレ量とから可動振幅の不足分に応じた不足距離を算出する不足距離算出ステップS3を実行し、可動子の往復動中心を前記不足距離移動させるための駆動指令の補正量を算出する補正量算出ステップS4を実行し、算出した補正量と周波数とを関連付けて補正情報14として記憶する記憶ステップS5を実行し、これらステップS1〜S5を一連の処理として周波数毎に実行することにより補正情報14を生成する。以下、本実施形態では、電流を用いた駆動電流指令として駆動指令を説明する場合があるが、電圧を用いた駆動電圧指令として駆動指令を取り扱ってもよい。
【0032】
図4の駆動指令算出ステップS1では、或る周波数の下で最大となる駆動指令Iref(駆動電流指令)を算出する。この最大となる駆動電流指令Irefの値には、図5に示すモータ上限電流Ic(最大出力値)、位置上限電流Ip(衝突防止)又は電圧上限電流Iv(電圧飽和防止)のうち最も小さい値が採用される。なお、或る周波数の下で最大となる駆動指令Irefの値を周波数毎に関連付けた最大駆動指令情報を予め記憶しておき、この情報を用いて周波数fを入力すると駆動指令の値を出力する関数Iref(f)を構成するとよい。
【0033】
図5に示すモータ上限電流Icは、本実施形態の演算処理機能を具現する図2に示す制御部4(コントローラ)において出力できる最大電流値あるいはリニアアクチュエータ20に流すことができる(磁石が減磁しない程度の)最大電流のうちいずれか小さい方の値であり、周波数によらず一定である。
【0034】
一方、図5に示す位置上限電流Ipは、正弦波電流を通電することにより動作する可動子23が上記移動可能範囲Dを超えない電流の上限値であり、駆動電流指令Irefから可動子23に発生する加速度までの伝達ゲインをG(f)とし、許容振幅値Lmax(=移動可能範囲Dの半分の長さ)、周波数をf、ω=2πfとすると、下記の式で示される。
位置上限電流Ip(f)=ωLmax/G(f)…(1)
【0035】
一方、図5に示す電圧上限電流Ivは、周波数が大きくなるとレシプロモータの誘起電圧により電流が流せなくなるという電圧飽和が生じるのに対し、電圧飽和が起きない電流の上限値であり、モータのインピーダンスをZ(f)、FETのON抵抗をRfet、電源(バッテリ)の電圧をVbat、モータの誘起電圧定数をKm、可動子の質量をmとすると、下記の式で示される。
電圧上限電流Iv=Vbat/{Z(f)+2Rfet+(Km/mω)}…(2)
【0036】
図4に示す振幅値取得ステップS2では、駆動指令Iref(駆動電流指令)の値と周波数fとから可動子23の振幅値Lpを算出する。すなわち、駆動指令Iref(f)に対し、モータ推力定数をkt、ピーク加速度をAp、実効加速度をaとした場合に、下記の式(3)〜(6)から式(7)が得られ、この式(7)に周波数f及び駆動指令Iref(f)を入力することによって可動子の振幅値Lp(f)が得られる。
モータに発生可能な推力:F(f)=kt・Iref(f)…(3)
推力:F=ma…(4)
a=Ap/√2…(5)
可動子の振幅値:Lp=Ap/ω…(6)
可動子の振幅値:Lp(f)={√2・kt・Iref(f)}/m・ω…(7)
【0037】
図4に示す不足距離算出ステップS3では、可動子23の振幅値Lp(f)と予め設定される許容振幅値Lmax(=移動可能範囲Dの半分の長さ)及びオフセットズレ量Lmとから可動振幅(W/2)の不足距離Lcを算出する。
オフセットズレ量:Lm=m・g/k
Lc=Lmax−Lm−Lp(f)
mは可動子の質量、gは重力加速度、kはアクチュエータのバネ定数を示す。ここで、Lc<0であれば、図3(b)に示すように、駆動指令に応じた往復移動するために要する可動子23の振幅値Lp(=L)に対して可動振幅(W/2)が可動域不足状態である、すなわち必要振幅Lp(=L)>可動振幅(W/2)である場合、不足距離は|Lc|と算出される。一方、Lc≧0であれば、図3(a)に示すように、可動域不足状態ではない、すなわち必要振幅Lp(=L)<可動振幅(W/2)となる場合、不足距離Lcは0と算出される。
【0038】
図4に示す補正量算出ステップS4では、可動子23の往復動中心Wcを上記の不足距離Lc移動させるための駆動指令Irefの補正量Idを算出する。駆動指令Irefの補正量Idは、以下の式で算出される。
補正量Id=k・Lc/kt
kはアクチュエータを構成するバネのバネ定数、ktはモータ推力定数を示す。
【0039】
図4に示す記憶ステップS5では、図2に示すように、上記で求めた各々の補正量Id(例えばId(=0)Id(>0))と各々の周波数f(例えばf,f)とを関連付けて補正情報14として記憶する。
【0040】
上記構成のリニアアクチュエータ駆動装置の動作を説明すると、図3(b)に示すように、周波数fで可動域不足状態となる場合は、図2の周波数取得部12で取得した周波数fとこの周波数fの下で最大となる駆動指令Irefとの二つのパラメータから得られる可動子23の振幅値Lp(=L)での往復動に必要な範囲が可動子23の可動範囲Wよりも大きく、この振幅値Lp(=L)と移動可能範囲D及びオフセットズレ量Lmから決定される可動振幅(W/2)の不足距離LcがLc(Lc>0)となり、これに伴い駆動指令Irefを補正する補正量IdがId(Id>0)となる。そして、図2に示すように、この周波数fと補正量Idとを関連付けた補正情報14を用いているので、可動子23の振幅値Lpや不足距離Lcをリアルタイムに算出する機構や、可動域不足状態であるか否かを判定する機構等を設けることなく簡素な構成で補正量Idを取得し、この補正量Idを加算器13aで加算することで駆動指令Irefを補正し、結果、オフセット通電がなされて、図3(b)に示すように、可動子23の往復動中心が不足距離Lc上方へ移動してWc→Wc’となり、可動範囲がW→Wに拡大して、振幅値Lp(=L)での往復移動が可能となる。
【0041】
一方、図3(a)に示すように、周波数fで可動域不足状態ではない場合は、図2に周波数取得部12で取得した周波数fとこの周波数fの下で最大となる駆動指令Irefとの二つのパラメータから得られる可動子23の振幅値Lp(=L)での往復動に必要な範囲が可動子23の可動範囲Wよりも小さく、この振幅値Lp(=L)と移動可能範囲D及びオフセットズレ量Lmから決定される可動振幅(W/2)の不足距離Lcが0となり、これに伴い駆動指令Irefを補正する補正量がId(=0)となる。そして、図2に示すように、補正情報14から補正量Id(=0)を取得し、この補正量Id(=0)を加算器13aで加算するものの、補正量Idは0であるので、駆動指令の補正が実質的に停止され、結果、オフセット通電も停止する。
【0042】
以上のように本実施形態のリニアアクチュエータ駆動装置1は、駆動指令Irefに応じた通電を行うことにより可動子23を往復移動させる電磁駆動部10と、通電がなされていない状態において可動子23が自重により所定の移動可能範囲Dの中心Dcからズレて可動範囲Wが移動可能範囲Dよりも狭くなる場合に、可動子23の往復動中心Wcと移動可能範囲Dの中心Dcとの偏差を無くする方向へ可動子23の往復動中心Wcを移動させるオフセット通電をなすように駆動指令Irefを補正するオフセット補正部11とを具備してなり、オフセット補正部11は、駆動指令Irefに応じて往復移動するために必要な可動子23の振幅値Lpに対応する振幅情報を取得し、取得した振幅情報に対応する振幅値Lpに対して可動振幅(W/2)が可動域不足状態となる場合に駆動指令Irefの補正を実施する一方、可動域不足状態でない場合に駆動指令Irefの補正を解除するように構成されている。
【0043】
このように、駆動指令Irefに応じて往復移動するために必要な可動子23の振幅値Lpに対応する振幅情報を取得し、取得した振幅情報に対応する振幅値Lpに対して可動振幅(W/2)が可動域不足状態となる場合に駆動指令Irefの補正を実施してオフセット通電を行う一方、可動域不足状態でない場合に駆動指令Irefの補正を解除してオフセット通電を停止するので、従来のように可動域不足状態であるか否かに拘わらず常時オフセット通電を行う場合に比べてオフセット通電を低減して省電力化を実現し、電力効率を向上させることが可能となる。しかも、オフセット通電によりオフセットズレを電気的に補正するものであるので、オフセットズレを機械的に補正するもののように装置の大型化を伴うことがない。
【0044】
さらに、本実施形態では、オフセット補正部11は、振幅情報として可動子23の往復移動に係る周波数fを周波数取得部12で取得し、取得した周波数fと周波数fの下で駆動指令Irefが取り得る最大値とから可動子23の振幅値Lpを得るように構成されているので、駆動指令Irefが最大であると画一的に決めて、ワンパラメータの周波数fに基づき可動子23の振幅値Lpを得るように構成して装置を簡素化することが可能となる。特に、高周波数になるほど振幅値Lpが小さくなるので、高周波数であるときに消費電力を低減する効果を効果的に奏する事が可能となる。
【0045】
加えて、本実施形態では、オフセット補正部11は、振幅情報に対応する振幅値Lpと予め設定される移動可能範囲D及びオフセットズレ量Lmとから決定される可動範囲Wの不足分に応じた距離Lc、可動子23の往復動中心Wcが移動するように駆動指令Irefを補正するので、可動子23の往復動に要する可動範囲を確保するのに必要な限度までオフセット通電を抑制でき、より一層省電力化を追求することが可能となる。
【0046】
その他、本実施形態では、オフセット補正部11は、オフセット通電により可動子23の往復動中心Wcを移動させる補正量Idと振幅情報たる周波数fとを関連付けた補正情報14を予め記憶しており、補正情報14において振幅情報たる周波数fに関連付けられている補正量Idを用いて駆動指令Irefを補正するので、可動子23の振幅値Lpや不足距離Lcをリアルタイムに算出する機構や、可動域不足状態であるか否かを判定する機構等を省略して製造コストを低減させつつ、上記のオフセット補正部11を簡易な構成で実現することが可能となる。
【0047】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0048】
例えば、本実施形態では、予め設定した補正情報14を用いて駆動指令Irefに応じて必要となる振幅値Lpや不足距離Lc、補正量Idを演算する機構を省略しているが、以下に述べるようにこれらを演算する演算部を設けてもよい。すなわち、図6に示すように、オフセット補正部111を、上記と同一構成である周波数取得部12と、新たに設けたオフセット補正量演算部113とを含んで構成する。オフセット補正量演算部113は、振幅情報として上記の周波数取得部12で取得された可動子23の往復移動に係る周波数fを取得するとともに、振幅情報として制振アルゴリズム部4aで生成された駆動指令Irefを取得し、取得した周波数f及び駆動指令Irefの値から可動子23の振幅値Lpを演算により取得し、取得した振幅値Lpに基づき不足距離Lcを演算し、不足距離Lcに応じた補正量Idを加算器113aで加算することで駆動指令Irefを補正する。この演算は、上記の振幅値取得ステップS2、不足距離算出ステップS3及び補正量算出ステップS4で述べた各演算式を用いて演算する。このように構成すれば、実際にアクチュエータ20の駆動に用いられる駆動指令Irefに基づき可動子23の振幅値Lpを算出するので、本実施形態のように駆動指令が常に最大であると仮定して求めた可動子の振幅値を用いるものに比べて実際の可動子の振幅値を用いた精度の高いオフセット通電を行うことが可能となる。特に、高周波数では勿論のこと低周波数において可動子の振幅値が小さい場合に消費電力を低減する効果を有効に奏する事が可能となる。
【0049】
また、上記以外の構成としては、図7に示す構成が挙げられる。すなわち、オフセット補正部211を、上記と同一構成である周波数取得部12と、振幅演算部213と、判定部214と、選択部215とから構成する。振幅演算部213は、振幅情報として上記の周波数取得部12で取得された可動子23の往復移動に係る周波数fを取得するとともに、振幅情報として制振アルゴリズム部4aで生成された駆動指令Irefを取得し、取得した周波数f及び駆動指令Irefの値から上記の振幅値取得ステップS2で述べた演算式を用いて可動子23の振幅値Lpを算出する。判定部214は、振幅演算部213で算出された振幅値Lpに基づき可動域不足状態(衝突危険状態)であるか否かを判定し、判定結果信号saを選択部215に入力する。具体的には、オフセットズレにより狭くなった可動振幅(W/2)(許容振幅値Lmax−オフセットズレ量Lm)と余裕係数0.8とを乗算器214aで乗算して余裕度を持たせた可動振幅と、算出された振幅値Lpとを比較して振幅値Lpの方が大きい場合に可動域不足状態(衝突危険状態)と判定する。なお、可動振幅(W/2)は(許容振幅値Lmax−オフセットズレ量Lm)である。選択部215は、判定結果信号saが0である場合である場合(可動域不足状態でない場合)には、補正量Idを0とする、一方、判定結果信号saが1である場合(可動域不足状態である場合)には、補正量Idを予め定められた一定量Idfとして、補正量Idを加算器213aで加算することで駆動指令Irefを補正する。この予め定められた一定量Idは、例えばオフセットズレ量Lm分、可動子23の往復動中心Wcを移動させるように設定されている。このように構成すれば、オフセット通電により可動子23の往復動中心Wcが一定距離移動するので、不足距離Lcや補正量を演算するような複雑な演算を要することなく簡易な構成で確実に可動範囲を確保することが可能となる。しかも、判定部214は可動域不足状態であるか否かの判定の基準となる可動振幅(W/2)にある程度の余裕度を持たせているので、装置の信頼性及び安全性を向上させることが可能となる。
【0050】
加えて、上記で述べた実施形態では、駆動指令Irefを電流で構成した例について説明しているが、駆動指令を電圧で構成したものも同様に適用可能である。さらに、本実施形態では、インナー型のリニアアクチュエータを例に説明したが、アウター型のリニアアクチュエータにも適用可能である。また、本実施形態ではリニアアクチュエータ駆動装置1を加振手段2として制振システムsyに適用しているが、その他リニアアクチュエータを駆動させる装置又はシステムに適用可能である。また、図2、図6及び図7に示す各機能部は、所定のプログラムをプロセッサで実行することにより実現してもよく、各機能部を専用回路で構成してもよい。
【0051】
また、振幅情報として可動子の位置を検出する位置検出センサを設け、位置検出センサの検出結果に基づき可動子の振幅値を得るように構成してもよい。位置検出センサには、遮蔽センサや変位センサ等を用いることが挙げられる。このように構成すれば、可動子の位置を直接検出するので、複雑な演算を要することなく、より確実に且つ高精度で可動範囲を確保することが可能となる。
【0052】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0053】
10…電磁駆動部
11…オフセット補正部
14…補正情報
23…可動子
Iref…駆動指令
Id、Id、Id…補正量
f…周波数
D…移動可能範囲
Dc…移動可能範囲の中心
…可動子の可動範囲
(W/2)…可動子の可動振幅
Wc…可動子の往復動中心
Lp L…可動子の振幅値
Lm…オフセットズレ量
Lc…不足距離


【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動指令に応じた通電を行うことにより可動子を往復移動させる電磁駆動部と、
通電がなされていない状態において前記可動子が自重により所定の移動可能範囲の中心からズレて可動範囲が前記移動可能範囲よりも狭くなる場合に、前記可動子の往復動中心と前記移動可能範囲の中心との偏差を無くする方向へ前記可動子の往復動中心を移動させるオフセット通電をなすように前記駆動指令を補正するオフセット補正部とを具備してなり、
前記オフセット補正部は、前記駆動指令に応じて往復移動するために必要な可動子の振幅値に対応する振幅情報を取得し、取得した振幅情報に対応する振幅値に対して可動振幅が可動域不足状態となる場合に前記駆動指令の補正を実施する一方、前記可動域不足状態でない場合に前記駆動指令の補正を解除することを特徴とするリニアアクチュエータ駆動装置。
【請求項2】
前記オフセット補正部は、前記振幅情報として前記可動子の往復移動に係る周波数を取得し、取得した周波数と当該周波数の下で前記駆動指令が取り得る最大値とから前記可動子の振幅値を得るように構成されている請求項1に記載のリニアアクチュエータ駆動装置。
【請求項3】
前記オフセット補正部は、前記振幅情報として前記可動子の往復移動に係る周波数及び前記駆動指令を取得し、取得した周波数及び前記駆動指令の値から前記可動子の振幅値を得るように構成されている請求項1に記載のリニアアクチュエータ駆動装置。
【請求項4】
前記オフセット補正部は、前記振幅情報に対応する振幅値と予め設定される移動可能範囲及びオフセットズレ量とから決定される可動振幅の不足距離、前記可動子の往復動中心が移動するように前記駆動指令を補正する請求項1〜3のいずれかに記載のリニアアクチュエータ駆動装置。
【請求項5】
前記オフセット補正部は、前記可動子の往復動中心が一定距離移動するように前記駆動指令を補正する請求項1〜3のいずれかに記載のリニアアクチュエータ駆動装置。
【請求項6】
前記オフセット補正部は、前記オフセット通電により可動子の往復動中心を移動させる補正量と前記振幅情報とを関連付けた補正情報を予め記憶しており、前記補正情報において前記振幅情報に関連付けられている補正量を用いて前記駆動指令を補正する請求項1〜5のいずれかに記載のリニアアクチュエータ駆動装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−16224(P2012−16224A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152431(P2010−152431)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】