説明

リニアガイド

【課題】潤滑剤を介在させなくても円滑な作動を維持できる滑り式リニアガイドを提供する。
【解決手段】軌道面12、13を有するレール11と、この軌道面12、13に摺接する摺動面を有するスライダ1とを備え、スライダ1がレール11に沿って移動可能に支持される滑り式リニアガイド10において、スライダ1の摺動面に炭素を主成分としたアモルファス構造体からなるDLCコーティング膜を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば工作機械のテーブル等を移動可能に支持するのに用いられるリニアガイドの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のリニアガイドは、軌道面を有するレールと、この軌道面に摺接する摺動面を有するスライダとを備え、スライダがレールに沿って移動可能に支持されるようになっている。
【特許文献1】特開昭60−263724号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来のリニアガイドにあっては、リニアガイドの摺接部に潤滑剤の介在が不可欠であり、頻繁に給油等を行う必要があり、例えばクリーンルーム内で使用する場合に潤滑剤が周囲に飛散して汚れが生じるという問題点があった。
【0004】
従来、滑り式リニアガイドの摺動面をセラミック材で形成するものがあったが、この場合も例えば米ぬか等の潤滑剤が使用されていた。
【0005】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、潤滑剤を介在させなくても円滑な作動を維持できる滑り式リニアガイドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、軌道面を有するレールと、この軌道面に摺接する摺動面を有するスライダとを備え、このスライダがレールに沿って移動可能に支持される滑り式リニアガイドにおいて、摺動面に炭素を主成分としたアモルファス構造体からなるDLCコーティング膜を形成したことを特徴とするものとした。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、スライダの摺動面に高硬度のDLCコーティング膜を形成する構造のため、摩擦係数が低い平滑なDLCコーティング膜によってリニアガイドの摺接部に働く摩擦力を低減し、リニアガイドが動力を伝達する機械効率を高められるとともに、リニアガイドの寿命延長がはかれる。さらに、リニアガイドから生じる騒音を減らすことができる。
【0008】
さらに、リニアガイドは潤滑油を供給しなくても円滑な作動性が確保されるため、無給油状態で作動させることが可能となる。この結果、リニアガイドは潤滑油が飛散したり、潤滑油から塵埃が発生することを回避し、例えばクリーンルーム内で使用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0010】
図1に示すように、リニアガイド10は、軌道面12を有するレール11と、この軌道面12に摺接する摺動面を有する鞍状のスライダ1とを備え、スライダ1がレール11に沿って移動可能に支持される。
【0011】
レール11は、その両側部に溝状の軌道面12がそれぞれ形成されるとともに、その上部に軌道面13が形成され、各軌道面12、13がレール11の長手方向に延びている。
【0012】
各軌道面12は垂直面に対して傾斜し、下方を向くように、互いに対称的に形成される。軌道面13は水平に延びている。
【0013】
スライダ1は、鞍状の本体5と、この本体5とレール11の左右軌道面12の間に介装される摺動部材2と、本体5とレール11の上部軌道面13の間に介装される摺動部材3とを備える。
【0014】
スライダ1は、左右摺動部材2が各軌道面12、13にそれぞれ摺接し、上部摺動部材3がレール11の軌道面13に摺接することにより、レール11に沿って移動するようになっている。
【0015】
そして本発明の要旨とするところであるが、レール11に対するスライダ1の各摺動面に炭素を主成分としたアモルファス構造体からなるDLCコーティング膜20を形成する。DLCコーティング膜20の厚さは、例えば数μ程度以下の寸法である。
【0016】
DLCコーティング膜20は、アンバランスマグネトロンスパッタ法(以下、「UBMスパッタ法」と称する)によって形成される。
【0017】
スパッタの原理は、図3に示すように、アルゴン等の不活性ガスを導入した真空中でターゲット41を陰極として陽極の間でグロー放電させてプラズマを形成し、このプラズマ中のイオンをターゲット41に衝突させてターゲット41の原子を弾き飛ばし、この原子をターゲット41と対向して配置されたワーク(各摺動部材2、3)21上に堆積させて皮膜を形成するようになっている。
【0018】
UBMスパッタ法は、スパッタ蒸発源40a〜40dにターゲット41の中心部と周辺部で異なる磁気特性を有する磁場42,43が配置されて、プラズマを形成しつつ強力な磁場42により発生する磁力線の一部がワーク21の近傍に達し、ワーク21にバイアス電圧を印加することによって、ターゲット材41を構成する物質がワーク21上に堆積される。
【0019】
図4は、UBMスパッタ装置50の基本構成を示す。真空チャンバ51に4つのスパッタ蒸発源40a〜40dが設けられ、その中央に配置された自公転式ワークテーブル56上にワーク21が置かれ、ワーク21にコーティングが行われる。スパッタ蒸発源40a〜40dには皮膜材料となる平板状ターゲットが取り付けられる。真空チャンバ51にはアルゴン等の不活性ガスとメタンガス等の炭化水素ガスが所定量充填される。
【0020】
スパッタ蒸発源40a,40cにはターゲットとしてグラファイトを使用し、スパッタ蒸発源40b,40dにはターゲットとして金属を使用する。
【0021】
DLCコーティング膜20は、図2に示すように、ステンレス製ワーク21の表面にニッケルメッキ層61を形成し、このニッケルメッキ層61の表面にボンド層62、中間層63、トップ層64が順に積層して形成される。
【0022】
図5は、上記DLCコーティング膜20を形成するのにあたって、ターゲット出力が変化する様子を示している。
【0023】
ボンド層62は、金属ターゲット40b,40dのみをスパッタして、金属膜として形成される。このボンド層62を形成するのにあたって、図5に示すように、スパッタ蒸発源40b,40dの金属ターゲット出力を100%とし、スパッタ蒸発源40a,40cのグラファイトターゲット出力を0%と一定にして、所定時間だけスパッタが行われる。
【0024】
中間層63は、スパッタ蒸発源40b,40dの金属ターゲットとスパッタ蒸発源40a,40cのグラファイトターゲットを同時にスパッタし、ターゲット出力を次第に変化させて金属と炭素の傾斜組成膜として形成される。この中間層63を形成するのにあたって、図5に示すように、スパッタ蒸発源40b,40dの金属ターゲット出力を100%から一次的に減少させる一方、スパッタ蒸発源40a,40cのグラファイトターゲット出力を0%から一次的に増加させて、所定時間だけスパッタが行われる。
【0025】
トップ層64は、スパッタ蒸発源40b,40dの金属ターゲットとスパッタ蒸発源40a,40cのグラファイトターゲットを同時にスパッタし、ターゲット出力を略一定にしてスパッタ蒸発源40b,40dの金属ターゲットとスパッタ蒸発源40a,40cのグラファイトターゲットのスパッタ率を所定範囲に保って、所定時間だけスパッタが行われる。
【0026】
このトップ層64を形成するのにあたって、図5に示すように、スパッタ蒸発源40b,40dの金属ターゲット出力を10%程度とし、スパッタ蒸発源40a,40cのグラファイトターゲット出力を90%程度と一定にして、トップ層64に含まれる金属の比率は3〜18%の範囲に設定する。さらに望ましくは、トップ層64に含まれる金属の比率を3〜12%の範囲に設定する。
【0027】
以上のように構成されて、次に作用について説明する。
【0028】
ステンレス製のワーク21の表面にニッケルメッキ層61を形成した後、金属の比率を100%にしたボンド層62を設けることにより、母材に対するDLCコーティング膜20の結合強度を高められる。
【0029】
金属の比率を100%にしたボンド層62上に金属の比率を次第に減らす金属と炭素の傾斜組成膜からなる中間層63を設け、中間層63の上に炭素を主成分とするトップ層64を設けることにより、DLCコーティング膜20におけるトップ層64の結合強度を高められる。
【0030】
トップ層64の金属の比率を3〜18%の範囲に設定することにより、トップ層64の密着性や靱性を高められ、高荷重によってワーク21が変形するような場合、割れや、剥離が生じることを防止できる。そして、トップ層64の硬度の低下を抑えられ、耐摩耗性を確保できる。
【0031】
図6にトップ層64に含まれる金属の比率と靱性及び硬度の関係を示すように、金属の比率を3〜18%の範囲に設定することにより、トップ層64の靱性と硬度の両方を高められる。さらにトップ層64に含まれる金属の比率を3〜12%の範囲に設定することにより、トップ層64の靱性と硬度の両方を著しく高められる。
【0032】
これに対して従来は、トップ層に含まれる金属の比率が0%になっていたため、密着性や靱性が不足し、トップ層に割れや剥離が生じやすいという問題点があった。
【0033】
この結果、高荷重を受けるワーク21の表面にDLCコーティング膜20を形成しても、DLCコーティング膜20の割れや剥離が生じることを回避し、実用化が可能となる。
【0034】
リニアガイド10はスライダ1の摺動面に高硬度のDLCコーティング膜20を形成する構造のため、摩擦係数が低い平滑なDLCコーティング膜20によって摺接部に働く摩擦力を低減し、リニアガイド10が動力を伝達する機械効率を高められるとともにリニアガイド10の寿命延長がはかれる。さらに、リニアガイド10の噛み合い部から生じる騒音を減らすことができる。
【0035】
さらに、リニアガイド10は潤滑剤を供給しなくても円滑な作動性が確保されるため、無給油状態で作動させることが可能となる。この結果、スライダ1とレール11の間から潤滑剤が飛散したり、塵埃が発生することを回避し、例えばクリーンルーム内で使用することが可能となる。
【0036】
他の実施の形態として、レール11の軌道面12の表面に前記のDLCコーティング膜20を形成しても良く、同様の効果が得られる。
【0037】
本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、搬送装置、工作機械、他の機械に用いられるリニアガイドに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態を示し、リニアガイドの斜視図。
【図2】同じくDLCコーティング膜の断面図。
【図3】同じくスパッタ法の原理を示す説明図。
【図4】同じくUBMスパッタ装置の構成図。
【図5】同じくターゲット出力が変化する様子を示す特性図。
【図6】同じくトップ層に含まれる金属の比率と靱性及び硬度の関係を示す特性図。
【符号の説明】
【0040】
1 スライダ
2、3 摺動部材
10 リニアガイド
11 レール
12、13 軌道面
20 DLCコーティング膜
21 ワーク
40a〜40d スパッタ蒸発源
50 UBMスパッタ装置
61 メッキ層
62 ボンド層
63 中間層
64 トップ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道面を有するレールと、この軌道面に摺接する摺動面を有するスライダとを備え、このスライダがレールに沿って移動可能に支持される滑り式リニアガイドにおいて、
前記摺動面に炭素を主成分としたアモルファス構造体からなるDLCコーティング膜を形成したことを特徴とするリニアガイド。
【請求項2】
前記摺動面にニッケルメッキ層を形成し、このニッケルメッキ層の表面に前記DLCコーティング膜を形成したことを特徴とする請求項1に記載のリニアガイド。
【請求項3】
前記DLCコーティング膜は、前記摺動面に金属ターゲットのみをスパッタしてボンド層を形成し、このボンド層上に金属ターゲットとグラファイトターゲットを同時にスパッタしかつターゲット出力を次第に変化させることにより中間層を形成し、この中間層上に金属ターゲットとグラファイトターゲットを同時にスパッタしかつターゲット出力を略一定にすることにより金属の比率を3〜18%の範囲にしたトップ層を形成したことを特徴とする請求項1または2に記載のリニアガイド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−127154(P2007−127154A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−318321(P2005−318321)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】