説明

リリーフバルブ

【課題】閉弁時のシール性を向上させると共に、組立作業性も良好なリリーフバルブを提供する。
【解決手段】このリリーフバルブは、燃料蒸気の排出通路に配置されて、燃料タンク内の圧力が所定値以上になったときに、燃料タンク内の燃料蒸気を排出通路に排出させるものであって、弁体収容部70と、この弁体収容部の一端に形成された開口部76と、この開口部76を開閉するように弁体収容部70にスライド可能に配置された弁体80と、弁体80を開口部76に向けて押圧し、常時は開口部76を閉じるように弾性付勢するスプリング90とを備え、弁体80は、金属製の基体81と、基体81の開口部76側の面に、加硫接着により固着されたゴム膜83とからなり、ゴム膜83が開口部76に当接することにより開口部76が閉じられるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料蒸気の排出通路に配置されて、燃料タンク内の圧力が所定値以上になったときに、燃料タンク内の燃料蒸気を排出通路に排出して、燃料タンク内の圧力を調製することができる、リリーフバルブに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、燃料タンクには、燃料タンク内の圧力が所定値以上に高まったときに、燃料蒸気をキャニスタに排出して、燃料タンク内の圧力を調整するための、リリーフバルブが設けられている。このリリーフバルブとしては、合成樹脂、ゴム、金属等からなる弁体をスプリング等の弾性手段によって、燃料蒸気の排出通路と燃料タンク内とを連通させる開口部に向けて押し付ける構造のものが一般に採用されている。
【0003】
一方、下記特許文献1には、保持部材に保持され、ゴム状弾性材料から形成されて、上面若しくは下面に略環状に突設され頂部を所定のシール部位に圧接されるリップ部を供える弁体において、前記リップ部の頂部裏面側にあたる下面若しくは上面で、前記リップ部が形成されている環状の幅内の位置に環状の肉抜き部が形成されている弁体が開示されている。この弁体は、その裏面中央部に先端が膨出した突起が形成されており、この突起を保持部材の組付孔に挿入することにより、保持部材に取付けられるようになっている。
【特許文献1】実公平6−48213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、前記リリーフ弁においては、燃料の外部漏出をできるだけ防ぐ要求から、よりシール性の高いものが求められている。
【0005】
しかしながら、合成樹脂や金属からなる弁体においては、閉弁時におけるシール性を向上させようとした場合には、シール面の精度を向上させる必要があり、技術的に難しいだけでなく、製造コストも高くなるという問題点があった。
【0006】
また、ゴムからなる弁体においては、シール性は高くすることができるが、燃料に接触して膨潤する傾向があるため、膨潤したときの外径を予測して、弁体収容部の内周と弁体外周との隙間を大きくとる必要があり、弁体が弁体収容部においてスライドするときにガタ付いたり、傾いたりする可能性があった。更に、燃料タンク内の圧力が高くなって開弁直前の状態では、弾性手段の付勢力が十分に作用しなくなるため、ゴムからなる弁体であっても面精度が高くないとシール性を維持できなくなるが、上記のように膨潤によって面精度を維持しにくいので、開弁直前の状態でのシール性を高めることができなかった。
【0007】
一方、特許文献1には、保持部材にゴム状弾性材料からなる弁体を取付けたものが開示されているが、弁体の裏面側に設けた突起を保持部材の組付孔に挿入して取付けるようにしているため、組立作業性が悪く、弁体と保持部材とが別体であるため、弁体の膨潤による面精度の低下を防ぐことができなかった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、閉弁時のシール性を向上させると共に、組立作業性も良好なリリーフバルブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の第1は、燃料タンク内と該燃料タンクの外部に配設されたキャニスタとを連通させる燃料蒸気の排出通路に配置されて、前記燃料タンク内の圧力が所定値以上になったときに、前記燃料タンク内の燃料蒸気を前記排出通路に排出させるリリーフバルブにおいて、前記排出通路内に設けられた弁体収容部と、この弁体収容部の一端に形成された前記燃料タンク内と前記排出通路とを連通させる開口部と、この開口部を開閉するように前記弁体収容部にスライド可能に配置された弁体と、同じく前記弁体収容部に配置され、前記弁体を前記開口部に向けて押圧し、常時は前記開口部を閉じるように弾性付勢するスプリングとを備え、前記弁体は、金属製の基体と、該基体の前記開口部側の面に、加硫接着により固着されたゴム膜とからなり、前記ゴム膜が前記開口部に当接することにより前記開口部が閉じられるように構成されていることを特徴とするリリーフバルブを提供するものである。
【0010】
上記発明によれば、燃料タンク内の圧力が高まると、弁体がスプリングの付勢力に抗してスライドして開口部から離れるので、燃料タンク内の燃料蒸気が開口部から排出通路内に流入し、排出通路を通って外部に配設されたキャニスタに送られる。このため、燃料タンク内の圧力が所定値以上になることを抑制し、燃料タンクの内圧上昇による破裂等を防止できる。
【0011】
そして、本発明のリリーフバルブにおいては、弁体が、金属製の基体と該基体に加硫接着されたゴム膜とから形成され、該ゴム膜が前記開口部に当接することにより開口部が閉じられるように構成されているので、シール性が良好に維持されると共に、ゴムのみで形成された弁体と比べて、燃料に接触したときの膨潤量を小さく抑えることができる。
【0012】
その結果、弁体の膨潤量を見込んで、弁体収容部内径に対して比較的小さい外径で、弁体を形成しておく必要がなくなり、弁体収容部内周と弁体外周との隙間をできるだけ小さくして、弁体のスライド時における傾き等を抑制し、弁体のスライド動作を安定して行わせることができる。
【0013】
また、金属製の基体にゴム膜を加硫接着することにより固着したので、弁体の寸法精度を高めることができ、開口部に対して弁体を密着性よく当接させることができ、開口部に対する弁体のシール性を高めることができる。
【0014】
更に、基体とゴム膜とは加硫接着によって固着されているので、両者が別体である場合に必要な組み付け作業が不要となり、組立作業性を向上させることができる。
【0015】
更にまた、弁体の膨潤量が小さく、弁体を大きく形成することができる結果、開口部の内径を大きくすることが可能となり、弁体の燃料蒸気に押される部分の面積を広くすることができるので、開弁圧力を同一とした場合、スプリングの付勢力を強くすることができる。したがって、弁体を開口部に向けて強く押圧することができるので、シール性を高めることができる。また、開口部の内径を大きくすることができるので、燃料蒸気の流量を増やせ、流量特性に優れる。加えて弁体の膨潤による押圧力の変動も少なくなるので、弁体の応答特性を向上させることができる。
【0016】
本発明の第2は、前記第1の発明において、前記弁体のゴム膜は、その厚さが0.5〜1mmとされているリリーフバルブを提供するものである。
【0017】
上記発明によれば、燃料によって膨潤するゴム膜の厚さを0.5〜1mmとし、開口部とのシール性を損なうことがない範囲で、ゴム膜をなるべく薄く形成したので、燃料による膨潤による影響をより少なくすることができる。その結果、弁体の膨潤による押圧力の変動がより少なくなり、弁体の外径変化もより少なくなるので、スムーズなスライド動作が維持されると共に、弁体の開弁応答性をより向上させることができる。
【0018】
本発明の第3は、前記第1又は2の発明において、前記弁体の外径は、前記弁体収容部の内径に対して、0.95〜0.98倍の外径とされているリリーフバルブを提供するものである。
【0019】
上記発明によれば、弁体収容部内周と弁体外周との隙間を小さくして、弁体のスライド時における傾き等を抑制し、弁体のスライド動作をより安定して行わせることができる。また、弁体を大きくすることによって、開口部の内径をできるだけ大きくすることが可能となり、弁体の応答特性を向上させることができる。
【0020】
本発明の第4は、前記第1〜3の発明のいずれか1つにおいて、前記弁体を構成する前記基体の前記ゴム膜とは反対側の面には、前記スプリング内周に挿入される突部が形成されており、この突部が前記スプリングの端部に固着されているリリーフバルブを提供するものである。
【0021】
上記発明によれば、弁体が、該弁体を構成する基体に形成された突部を介してスプリングの端部に固着されていることにより、弁体がより傾きにくくなり、弁体のスライド動作を安定させて、弁体の開閉応答性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のリリーフバルブによれば、弁体が、金属製の基体及び基体に加硫接着されたゴム膜から形成されているので、燃料に対する膨潤量を小さく抑えることができ、弁体収容部内周と弁体外周との隙間をできるだけ小さくさせ、弁体のスライド動作を安定して行わせることができる。また、基体にゴム膜が加硫接着により固着されているので、弁体の寸法精度が高められ、開口部に対して弁体を密着性よく当接でき、開口部に対する弁体のシール性を高めることができ、更に、基体及びゴム膜が別体でないので、組立作業性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図1〜10を参照して、本発明のリリーフバルブの一実施形態について説明する。
【0024】
本発明におけるリリーフバルブは、この実施形態の場合、車両が旋回したり大きく傾いたりしたときに、燃料タンク内の燃料が外部に漏れるのを防止するための、カットバルブが設けられたバルブ装置10に、一体的に設けられている。
【0025】
図1,2を参照して説明すると、このバルブ装置10は、フロート弁40をスライド可能に収容するケース本体20と、該ケース本体20の下方開口部に装着される下部キャップ30と、ケース本体20の上方に装着される上部キャップ50とを有しており、前記ケース本体20の上部側方に、本発明のリリーフバルブを構成する弁体80がスライド可能に収容された弁体収容部70が設けられた構造をなしている。
【0026】
前記ケース本体20は、円筒状の周壁21と、その上面を閉塞する上壁23とを有しており、前記上壁23の中央には連通孔25が貫通して形成されている。前記周壁21には、燃料及び燃料蒸気の通路となる、複数の透孔21aが形成されており、また、周壁21の下方には、後述する下部キャップ30の係合孔33aに係合する爪部21bが、周方向に沿って複数個形成されている。
【0027】
また、ケース本体20の下方開口部に装着される下部キャップ30は、前記ケース本体20の周壁21と同様に、燃料の通過を許す透孔31aが形成された円形状の底板31と、該底板31の周縁から立設して、前記ケース本体20の周壁21の下方外周に被さるカバー壁33とから形成されている。前記底板31の中央には、フロート弁用スプリング45の一端部を安定して支持するための、支持突起34が形成されている。また、前記カバー壁33には、前記ケース本体20の周壁21に形成された爪部21bが係合する、係合孔33aが形成されており、これによりケース本体20の下方開口部に、下部キャップ30が装着されようになっている。
【0028】
更に、カバー壁33の外周一箇所には、上方に立ち上がる立壁35が形成されていて、この立壁35の上部外側にストッパ壁37が形成されている。このストッパ壁37は、下部キャップ30をケース本体20に装着したときに、図2に示すように、ケース本体20に形成された弁体収容部70の下方に位置するようになっていて、弁体収容部70に設けた開口部76(後述する)への異物混入等を防止する役割をなしている。また、ストッパ壁37には、燃料を通過させるための通孔37aが形成されている。
【0029】
前記ケース本体20内にスライド可能に収容される、フロート弁40は略円柱形状をなしていて、その上面中央から弁頭41が突設しており、この弁頭41が、前記ケース本体20に形成された連通孔25に接離するようになっている。また、フロート弁41の外周には、周方向に沿って均等な間隔で上下に伸びるリブ43が複数形成されており、このリブ43がケース本体20の周壁21の内周に摺接して、フロート弁40の上下スライド動作をガイドする部分となっている。
【0030】
そして、フロート弁40の底面から所定高さで設けられた凹部44内に、フロート弁用スプリング45を挿入した状態で、フロート弁40を前記ケース本体20内に収容し、その後、下部キャップ30の係合孔33aに、周壁21の下方外周に形成された爪部21bを係合させることにより、ケース本体20の下方に下部キャップ30が装着される。こうして、フロート弁40と下部キャップ30の底板31との間に、フロート弁40に上向きの付勢力を与える、フロート弁用スプリング45が介装される。
【0031】
また、前記フロート弁40は、燃料に浸漬されない状態では、その自重によりフロート弁用スプリング45を圧縮させて、下部キャップ30の底板31に載置された状態となっている。そして、車両の傾き等により燃料が上昇し、フロート弁40が燃料に浸漬されると、その浮力と前記フロート弁用スプリング45の付勢力とによって、フロート弁40が浮き上がり、前記弁頭41がケース本体20の連通孔25の下方内周縁に当接し、図8に示すように、連通孔25を閉塞するようになっている。以上で説明した部分が、この実施形態におけるバルブ装置10のカットバルブを構成している。
【0032】
また、ケース本体20の上壁23の上方には、燃料タンク1内に固着された固定金具5に固定されて、バルブ装置10を燃料タンク内に固定するための、ブラケット60が設けられている。このブラケット60は、ケース本体20の上壁23の上面から立設した、枠状の外壁部61を有している。図1に示すように、この外壁部61は、一方向に長く伸びており、その前方部分がケース本体20の外方に突出している。また、外壁部61の中間部から後方に至る部分であって、その上部周縁からは、上壁23から所定隙間を設けて平行にフランジ部63が広がっており、このフランジ部63の後端部からは、ケース本体20の外方に向かって係合爪65が延出している。
【0033】
そして、図1に示すような、固定金具5の底板7に形成されたU字状の切欠き部7aに、ブラケット60を差し込むことにより、フランジ部63及び上壁23の隙間に、固定金具5の底板7が入り込むと共に、フランジ部63が切欠き部7aの周縁に係合し、更に、係合爪65が底板7の後方の一側辺に係合して、固定金具5にバルブ装置10が抜け止め固定されるようになっている。
【0034】
前述したように、ブラケット60の外壁部61の前方部分は、ケース本体20の外方に突出しているが、この外壁部61の前方部分の下方に、枠状をなした弁体収容部70が設けられている。この弁体収容部70が、本発明のリリーフバルブを構成する一部となっている。すなわち、この弁体収容部70内に、弁体80がスライド可能に収容されると共に、該弁体80を後述する開口部76に向けて押圧し、常時は開口部76を閉じるように弾性付勢するスプリング90が収容されていて、燃料タンク内の圧力が所定値以上に高まったときに、燃料蒸気を燃料タンク外へ排出する機能を果たす、リリーフバルブが構成されている。
【0035】
図2及び図3を併せて参照すると、前記弁体収容部70は、外壁部61の前方部下方から互いに平行に延出する一対の側壁71,71と、各側壁71,71の一側部に連結された前壁73と、一対の側壁71,71の下方に連結された底壁75とで囲まれた略角筒状をなし、また、各側壁71,71の他側部は前記ケース本体20の周壁21前面に連結されて、弁体収容部70の背面側が閉塞されていると共に、その上方部分は開口した形状をなしている。
【0036】
また、図3に示すように、前記底壁75の中央には、円形状の開口部76が形成されており、更に、底壁75の上面側であって、前記開口部76の外周縁には、環状のシール突起77が形成されている。この環状のシール突起77に弁体80が接離して、開口部76を開閉させる部分となっている。なお、本発明において、弁体80が開口部76を閉じる場合とは、開口部76周縁に弁体80が直接当接して閉じる場合だけではなく、この実施形態のように、シール突起77を介して間接的に開口部76を閉じる場合も含む意味である。また、弁体収容部70の前壁73には、図示しないキャニスタに連結される配管を接続するための、接続管79が一体的に突設されている。この接続管79は、図2に示すように、弁体収容部70の内部空間に連通しており、燃料タンク1の内外を連通させる燃料蒸気の排出通路の一部を構成している。
【0037】
更に、弁体収容部70の内側には、上下に伸びるガイドリブ78が、周方向に沿って複数形成されている。より具体的には、図3に示すように、弁体収容部70を構成する各壁部の4つの角部内側から、内方に向かってやや長く突出した角リブ78aが形成されていると共に、各角リブ78aの間には、それよりも短い長さで突出した中間リブ78bが形成されており、円形状をなした弁体80のスライド動作をガイドするようになっている。更に、このガイドリブ78により、弁体80の外周と、弁体収容部70の内周との間に、隙間が形成されることとなり、この隙間が弁体80が開いたとき、燃料蒸気を通過させる部分となっている。
【0038】
また、前記ブラケット60の外壁部61の内側には、外壁部61に対して同心的に、枠状壁67が形成されている。この枠状壁67の後端部内側に、前述した上壁23に形成された連通孔25が位置していて、ケース本体20の内部と枠状壁67の内部とが連通した状態となっている。更に、枠状壁67の前方部分の内側は、弁体収容部70の開口部周縁に連結していて、その内周には、弁体収容部70内周に形成されたガイドリブ78が更に延設されていて、枠状壁67の内部空間と弁体収容部70の内部空間とが連通した状態となっている。
【0039】
そして、上記のブラケット60の上方開口部に、上部キャップ50が装着される。この上部キャップ50は、ブラケット60の外壁部61の外形に適合する形状をなす帯状の天井板51と、該天井板51の下方から、外壁部61の内周に適合するように延設された外周リブ53とから構成されており、ブラケット60の上方開口部に、超音波溶着、熱板溶着等の固着手段により装着される。また、この上部キャップ50によりブラケット60は閉塞されるが、前述したように、枠状壁67の内部空間は、その前方下方に設けた弁体収容部70の内部空間に連通した状態となっているため、上壁23の連通孔25から流れ込んだ燃料蒸気は、上壁23と枠状壁67とキャップ50とで囲まれた空間を通って、弁体収容部70内にまで流入するようになっている。
【0040】
更に、上部キャップ50の天井板51の下面には、ブラケット60に装着されときに、弁体収容部70内に入り込む、円柱状の支持突起55が突設している。具体的には、この支持突起55は、その軸中心が、弁体収容部70の開口部76の中心に位置するように設けられており、更に、下方に向かってやや縮径する形状をなして、所定長さで伸びている。この支持突起55は、弁体80を押圧するスプリング90の内周に挿入され、その基部周縁の天井板51にスプリング90の一端部が当接し、これによりスプリング90が安定して支持されるようになっている。また、スプリング90の付勢力に抗して、弁体80が所定距離だけ上方にスライドしたときに、その上部に支持突起55の先端部が突き当たって、弁体80がそれ以上スライドしないように規制し、弁体80のスライド動作を安定させる部分ともなっている。
【0041】
以上、バルブ装置10の各構成部分について説明したが、本発明のリリーフバルブにおける特徴は、前記弁体収容部70内にスライド可能に配置される弁体80が、金属とゴムとの加硫接着品とされた点にある。
【0042】
図4を参照して具体的に説明すると、この弁体80は、この実施形態の場合、所定厚さの円盤形状をなしており、円形状をなした金属製の基体81と、該基体81の前記開口部76側の面に、加硫接着により固着されたゴム膜83とからなっている。ここで、加硫接着とは、金属材料と、それとは異なる異種材料であるゴム材料とを接着させるための技術であり、金属材料と未加硫状態のゴム材料との間に接着剤を介在させて、その状態で加熱加圧してゴム材料を加硫すると共に、金属材料とゴム材料とを接着させる技術である。
【0043】
また、図4(a),(b)に示すように、ゴム膜83は、金属製の基体81の、開口部76方向に向いた面に接着された面接着部83aと、この面接着部83aの外周縁から延出して、基体81の外周に接着される外周接着部83bとからなっており、金属製の基体81は、その背面側だけが露出した状態となっている。上記のように外周接着部83bを設けることにより、ゴム膜83の基体81に対する密着性が向上し、ゴム膜83が基体81から剥離することを防止できる。なお、金属製の基体81としては、ステンレスや、SGHC(熱延原板),SGCC(冷延原板)などの亜鉛メッキ鋼板等の腐食に強く、耐燃料性のある金属材料が好ましく用いられ、一方、ゴム膜83の材質としては、フッ素系ゴム、フロロシリコンゴム、H−NBR(水素化ニトリルゴム)、NBR(ニトリルゴム)等のゴム材料が好ましく用いられる。
【0044】
図2及び図7に示すように、スプリング90は、その一端部を上部キャップ50の天井板51の裏面側に支持させ、その他端部を上記弁体80の金属製の基体81に支持させて配置されており、弁体80のゴム膜83が弁体収容部70の開口部76側に向けて押圧されるように弁体80を付勢している。その結果、弁体80のゴム膜83が開口部76の周縁のシール突起77に当接して、開口部76が閉じられた状態となっている。そして、燃料タンク1内の圧力が所定値以上に高まると、弁体80がスプリング90の付勢力に抗して上方にスライドして、開口部76を開くようになっている。
【0045】
なお、金属製の基体81と、未加硫のゴム膜83とを加硫接着する前段階において、例えば、基体81の裏面側を、ショットブラスト等を施すことにより、故意に粗い面としてから、ゴム膜83を加硫接着させるようにしてもよい。このようにすると、基体81の粗面化によって表面積が増大するので、基体81に対するゴム膜83の密着性を向上させることができる。
【0046】
以上説明したように、本発明においては、弁体80を、金属製の基体81と、これに加硫接着されたゴム膜83とから形成したので、ゴムのみで形成された弁体と比べて、燃料に接触したときの膨潤量を小さく抑えることができる。
【0047】
また、この実施形態における弁体80のゴム膜83は、その厚さが0.5〜1mmとなるように形成されている。このように、燃料によって膨潤するゴム膜83の厚さを0.5〜1mmとし、開口部76とのシール性を損なうことがない範囲で、ゴム膜83をなるべく薄く形成したので、燃料による膨潤による影響をより少なくすることができる。その結果、弁体80の膨潤による押圧力の変動がより少なくなり、弁体80の外径変化もより少なくなるので、スムーズなスライド動作が維持されると共に、弁体80の開弁応答性をより向上させることができる。なお、ゴム膜83の厚さが0.5mmよりも薄いと、開口部76に対するシール性の確保が難しくなり、一方、厚さが1mmよりも厚くなると、燃料による膨潤量が大きくなる。
【0048】
更に、この実施形態においては、弁体80の外径は、弁体収容部70の内径に対して、0.95〜0.98倍の外径となるように形成されている。これにより、弁体収容部70内周と弁体80外周との隙間を小さくして、弁体80のスライド時における傾き等を抑制し、弁体80のスライド動作をより安定して行わせることができる。また、弁体80を大きくすることによって、開口部76の内径をできるだけ大きくすることが可能となり、弁体80の応答特性を向上させることができる。
【0049】
また、この実施形態では、前記弁体80は、所定厚さの円盤形状をなしているが、この態様に限定されるものではない。例えば、図5(a)に示すように、円板状の基体81に対して、半球状に突出したゴム膜83cを加硫接着させてもよい。この場合には、半球状のゴム膜83cが、シール突起77に当接するので、弁体80aが多少傾いてもシール性を確保することができる。
【0050】
また、図5(b)に示すように、所定高さの円柱部85aと、該円柱部85aの下面から半球状に突出した突出部85bとからなる、金属製の基体85を形成し、この基体85の突出部85bの外周に、半球形状をなす薄膜状のゴム膜83dを加硫接着して、これを弁体80bとしてもよい。この場合、弁体収容部70の開口部76の上部内周縁を、円弧状にカットしてテーパ面76aを形成しておき、このテーパ面76aに、前記弁体80bのゴム膜83dを当接シールさせる。この態様の弁体80bの場合は、ゴム膜83dをより薄く形成することができるので、燃料による膨潤を更に効果的に抑えることができる。
【0051】
更に、図6(a),(b)に示すように、弁体を構成する金属製の基体の、ゴム膜とは反対側の面に、スプリング90の内周に挿入される突部を形成しておき、この突部をスプリング90の下端部に固着させるようにしてもよい。
【0052】
すなわち、図6(a)に示す弁体80cでは、金属製の基体81の表面側から、スプリング90の内周に挿入される円筒状の突部87が、所定高さで立設されている。そして、この円筒状の突部87の外周にスプリング90を装着させ、突部87の上部内周を外方に向かって押圧して、かしめることにより係合爪部87aを突設させる。その結果、この係合爪部87aが、スプリング90を構成する線材に係合し、それにより円筒状の突部87に、スプリング90の下端部が固着されるようになっている。
【0053】
また、図6(b)に示す弁体80dの場合は、金属製の基体81の表面側から、円柱状の突部88が突設されている。更に、この突部88の基部外周は、スプリング90の内周よりもやや拡径して形成されていると共に、上方に突出するにつれて次第に縮径するように、突部88の外周にテーパ面88aが形成されている。これによれば、スプリング90を弁体80に組み付けるべく、突部88の上方からスプリング90を被せるように挿入していくと、突部88の拡径した基部外周に、スプリング90の下端部内周が圧接し、図6(b)に示すように、スプリング90の下端部が突部88に固着される。
【0054】
上記のように、図6(a),(b)に示すような突部87,88を設けることにより、該突部87,88を介して、各弁体80c,80dがスプリング90の端部に固着されるようになるので、各弁体80c,80dがより傾きにくくなり、弁体のスライド動作を安定させて、弁体の開閉応答性を向上させることができる。
【0055】
次に、上記構成からなるバルブ装置10の作用について、図2及び図8〜10を参照して説明する。
【0056】
このバルブ装置10は、前述したように、固定金具5を介して燃料タンク1の上方に固着されている。
【0057】
そして、図2に示すように、車両が揺れず、燃料タンク1内の燃料Fの液面が傾かずに、フロート弁40が燃料に浸漬されていない状態では、フロート弁40の重さによってフロート弁用スプリング45が圧縮されて、フロート弁40の弁頭41が連通孔25から離れて、連通孔25が開かれている。この状態で、車両の走行等によって燃料タンク1内の圧力が高まり、燃料蒸気が発生した場合には、この燃料蒸気は、連通孔25から枠状壁67の内部空間を通り、更に、弁体収容部70の内部空間、接続管79を通って、図示しないキャニスタに送られて、燃料タンク1の外部に排出される。
【0058】
上記状態で、車両が旋回したり大きく傾いたりして、燃料Fの液面が上昇して、フロート弁40に燃料が所定高さ以上浸漬すると、フロート弁40に浮力が作用すると共に、フロート弁用スプリング45の付勢力によって、フロート弁40が浮き上がり、図8に示すように、弁頭41が連通孔25の下方内周縁に当接して、連通孔25を閉塞する。その結果、燃料Fが連通孔25を通って、枠状壁67の内部空間に流入することが阻止されて、燃料タンク1の外部への、燃料Fの漏れを確実に防止することができる。
【0059】
上記の燃料Fの液面が上昇して、フロート弁40により連通孔25が閉塞された状態で、なおも燃料タンク1内の圧力が高まる場合がある。この実施形態のバルブ装置10に設けられた、本発明のリリーフバルブは、このような場合に機能するようになっている。すなわち、図8に示す状態で、更に燃料タンク1内の圧力が所定値以上に高まると、弁体収容部70の開口部76周縁のシール突起77に当接して、開口部76を閉じている弁体80が、図9に示すように、スプリング90の付勢力に抗して上方にスライドして、シール突起77から離れて、開口部76を開かせる。すると、開口部76から流入した燃料蒸気が、弁体収容部70内周のガイドリブ78により設けられた、弁体80外周と弁体収容部70内周との間の隙間を通って、弁体収容部70内に流れ込んでいき、更に、弁体収容部70の内部空間に連通した接続管79内を通って、図示しないキャニスタに送られて、燃料タンク1の外部に排出される。その結果、燃料タンク1内の圧力が所定値以上になることを抑制し、燃料タンク1の内圧上昇による破裂等を防止できる。
【0060】
そして、本発明のリリーフバルブにおいては、弁体80が、前述したように、金属製の基体81と、この基体81に加硫接着されたゴム膜83とから形成され、ゴム膜83が開口部76周縁のシール突起77に当接することにより、開口部76が閉じられるように構成されているので、弁体80と開口部76とのシール性を良好に維持されると共に、ゴムのみで形成された弁体と比べて、燃料Fに接触したときの膨潤量を小さく抑えることができる。
【0061】
これについて、図7を参照して説明すると、従来のゴムのみから形成された弁体の場合、燃料Fに対する膨潤量が大きかったので、弁体の膨潤量を見込んで、弁体収容部70の内径に対して比較的小さい外径で形成する必要があり、更にこれに伴って、図7中、想像線で示すように、開口部76の内径を小さく形成せざるを得なかった。
【0062】
これに対して本発明のリリーフバルブにおいては、弁体80の膨潤量が小さく、弁体80を大きく形成することができる結果、図7に示すように、従来のものと比べて、開口部76の内径を大きくすることが可能となり、弁体80の燃料蒸気に押される部分の面積を広くすることができるので、開弁圧力を同一とした場合、スプリング90の付勢力を強くすることができる。したがって、弁体80を開口部76に向けて強く押圧することができるので、シール性を高めることができる。すなわち、図7に示すように、弁体80のシール突起77に当接する部分であるシール面の外径bを、従来の弁体のシール突起77に対するシール面の外径aと比べて、大きく設定することができる(b>a)。加えて弁体80の膨潤による押圧力の変動も少なくなるので、弁体80の応答特性を向上させることができる。
【0063】
また、本発明のリリーフバルブの弁体80は、弁体の膨潤量を見込んで小さく形成する必要がなく、なるべく大きく形成することができるので、弁体収容部70の内周と弁体80の外周との隙間をできるだけ小さくすることができ、その結果、弁体80のスライド時における傾き等を抑制し、弁体80のスライド動作を安定して行わせることができる。
【0064】
また、弁体80は、金属製の基体81にゴム膜83を加硫接着することにより固着したので、弁体80の寸法精度を高めることができ、開口部76周縁のシール突起77に対して弁体80を密着性よく当接させることができ、開口部76に対する弁体80のシール性を高めることができる。
【0065】
更に、弁体80は、基体81とゴム膜83とが加硫接着によって固着されているので、両者が別体である場合に必要な組み付け作業が不要となり、組立作業性を向上させることができる。
【0066】
なお、この実施形態におけるバルブ装置10のリリーフバルブは、所定値以上に高まった燃料蒸気によってのみ、開口部76を開くようになっている。したがって、例えば、図8に示す、フロート弁40が上昇し弁頭41が連通孔25を閉塞した状態で、図10に示すように、車両の転倒等により燃料Fの液面が大きく傾いて、弁体収容部70の開口部76に燃料Fの液面が浸漬した場合でも、弁体80がスプリング90の付勢力によってシール突起77にしっかりと当接し、開口部76が確実に閉塞されているので、燃料Fが燃料タンク1の外部へ漏れることを防止できるようになっている。
【0067】
図11には、本発明のリリーフバルブの他の実施形態が示されている。なお、前記実施形態と実質的に同一部分には同符号を付してその説明を省略する。
【0068】
この実施形態では、前記実施形態のバルブ装置10のように、リリーフバルブがカットバルブと一体ではなく、リリーフバルブが単独の部品として作られ、図示しない燃料蒸気配管の途中に取付けられるようになっている点が異なっている。
【0069】
すなわち、このリリーフバルブ10aは、両側に図示しない燃料蒸気配管が接続される接続管79を有し、各接続管79の間に 弁体80を収容する弁体収容部70が形成されている。弁体収容部70は、ほぼ円筒状のケーシングからなり、その下端面に開口部76が形成され、上端面にはキャップ50が装着されている。キャップ50は、弁体収容部70内に入り込む、円柱状の支持突起55を有し、この支持突起55の外周にスプリング90が装着され、スプリング90の一端はキャップ50の内面に当接し、他端は上記開口部76を開閉する弁体80の背面側に当接している。弁体80は、前記実施形態と同様に、金属製の基体81と、この基体81に加硫接着されたゴム膜83とから形成されている。
【0070】
このリリーフバルブ10aは、一方の接続管79に、燃料タンクに連結された燃料蒸気配管が接続され、他方の接続管79に、図示しないキャニスタに連結される燃料蒸気配管が接続されて、燃料蒸気配管の途中に配設される。そして、燃料タンク内の圧力が所定値を超えて上昇すると、スプリング90の付勢力に抗して弁体80が開口部76から離れて開弁され、燃料蒸気を図示しないキャニスタに逃がすことができる。
【0071】
このリリーフバルブ10aにおいても、弁体80は、前記実施形態と同様に、金属製の基体81と、この基体81に加硫接着されたゴム膜83とから形成されるので、燃料Fに接触したときの膨潤量を小さく抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明のリリーフバルブが設けられたバルブ装置を示す分解斜視図である。
【図2】同バルブ装置の断面図である。
【図3】図1のA−A矢視線における拡大断面図である。
【図4】本発明のリリーフバルブを構成する弁体を示しており、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【図5】同弁体の他の形状を示しており、(a)は第1の形状を示す断面図、(b)は第2の形状を示す断面図である。
【図6】同弁体の更に他の形状を示しており、(a)は第1の形状を示す断面図、(b)は第2の形状を示す断面図である。
【図7】本発明のリリーフバルブを構成する弁体の効果を説明するための説明図である。
【図8】本発明のリリーフバルブが設けられたバルブ装置の、第1の作動状態を示す断面図である。
【図9】同バルブ装置の、第2の作動状態を示す断面図である。
【図10】同バルブ装置の、第3の作動状態を示す断面図である。
【図11】本発明のリリーフバルブの他の実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0073】
1 燃料タンク
10 バルブ装置
10a リリーフバルブ
20 ケース本体
30 下部キャップ
40 フロート弁
45 フロート弁用スプリング
50 上部キャップ
60 ブラケット
70 弁体収容部
76 開口部
78 ガイドリブ
80,80a,80b,80c,80d 弁体
81,85 基体
83,83c,83d ゴム膜
87,88 突部
90 スプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンク内と該燃料タンクの外部に配設されたキャニスタとを連通させる燃料蒸気の排出通路に配置されて、前記燃料タンク内の圧力が所定値以上になったときに、前記燃料タンク内の燃料蒸気を前記排出通路に排出させるリリーフバルブにおいて、
前記排出通路内に設けられた弁体収容部と、この弁体収容部の一端に形成された前記燃料タンク内と前記排出通路とを連通させる開口部と、この開口部を開閉するように前記弁体収容部にスライド可能に配置された弁体と、同じく前記弁体収容部に配置され、前記弁体を前記開口部に向けて押圧し、常時は前記開口部を閉じるように弾性付勢するスプリングとを備え、
前記弁体は、金属製の基体と、該基体の前記開口部側の面に、加硫接着により固着されたゴム膜とからなり、前記ゴム膜が前記開口部に当接することにより前記開口部が閉じられるように構成されていることを特徴とするリリーフバルブ。
【請求項2】
前記弁体のゴム膜は、その厚さが0.5〜1mmとされている請求項1記載のリリーフバルブ。
【請求項3】
前記弁体の外径は、前記弁体収容部の内径に対して、0.95〜0.98倍の外径とされている請求項1又は2記載のリリーフバルブ。
【請求項4】
前記弁体を構成する前記基体の前記ゴム膜とは反対側の面には、前記スプリング内周に挿入される突部が形成されており、この突部が前記スプリングの端部に固着されている、請求項1〜3のいずれか1つに記載のリリーフバルブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−138732(P2008−138732A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323969(P2006−323969)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000124096)株式会社パイオラックス (331)
【Fターム(参考)】