説明

レジスト剥離用組成物

【課題】 半導体製造における基板工程(Front End of Line)におけるレジスト、反射防止膜の剥離は、従来は硫酸と過酸化水素水からなる混合溶液(SPM洗浄液)により行われてきたが、生産性が低く、コスト的にも不利であり、なおかつ濃厚で高温処理が必要であった。特にイオン注入されたレジストは、イオン注入していないレジストよりもレジスト除去が困難であり、SPM洗浄液でも剥離性が不十分であった。
【解決手段】 水酸化テトラメチルアンモニウム、アンモニア、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド及び水を含んでなるレジスト剥離用組成物では、レジスト剥離性に優れ、特にイオン注入されたレジストの剥離性に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレジスト剥離用組成物に関する。さらに詳しくは、剥離し難いイオン注入されたレジストの剥離に適したレジスト剥離用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
基板工程(Front End of Line)におけるレジスト剥離は、従来は、バッチ式洗浄装置において硫酸と過酸化水素水からなる混合溶液(SPM洗浄液)により行われてきた。典型的な使用条件としてはSPM洗浄液(硫酸:過酸化水素水=4:1)で10分間、100〜120℃で処理することにより行われている。
【0003】
しかしながら、このような条件では、生産性が低く、コスト的にも不利であることからSPM洗浄液のような濃厚で高温の溶液の代替が望まれていた。
【0004】
一方、半導体製造プロセスにおいては、p/n接合を形成するため、イオン化したp型又はn型の不純物元素はSi基板に注入されるが、イオン注入されたレジストは、イオン注入していないレジストよりもはるかにレジスト除去が困難であった。
【0005】
レジスト剥離剤としては、これまで、過酸化水素と四級アンモニウム塩を含むレジスト剥離液(例えば、特許文献1、2参照)、酸化剤、キレート剤、水溶性フッ素化合物、有機溶媒を含むレジスト剥離液(例えば、特許文献3参照)、過酸化水素、アンモニウムイオン、燐酸及び/又は炭酸イオンを含み、pH5以上のレジスト剥離液(例えば、特許文献4参照)等が提案されている。
【0006】
しかしながら、これらいずれのレジスト剥離剤も上記基板工程で使用されるものではなく、また上記した剥離し難いイオン注入されたレジストについて適用できるものではなく、さらにはそれらについての開示もなかった。
【0007】
そのため、本発明者らは基板工程用のレジスト剥離剤について鋭意検討を行い、これまで特許出願を行なっている(例えば、特許文献5〜7参照)。
【0008】
しかしながら、最近では、レジスト剥離剤の性能として、他の半導体材料にダメージを与えないことが要求されており、特許文献5、6に記載の方法は、過酸化水素等の酸化剤を使用するため、工業的に満足できるものではなかった。
【0009】
また、特許文献7に記載の方法では、剥離性能が十分ではなく、特に砒素やホウ素等がイオン注入されたレジストの剥離が困難なため、工業的に満足できるものではなかった。
【0010】
【特許文献1】特開2002−202617号公報
【特許文献2】特開2003−5383号公報
【特許文献3】特開2000−258924号公報
【特許文献4】特開2003−330205号公報
【特許文献5】特開2005−62260号公報
【特許文献6】特開2005−189660号公報
【特許文献7】特開2005−62259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように、基板工程において、低温かつ短時間で、イオン注入された剥離性の悪いレジストを剥離できるレジスト剥離剤が要望されている。
【0012】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、比較的低温でかつ短時間に、イオン注入された剥離性の悪いレジストを剥離することができる剥離用組成物を提供することである。すなわち、本発明の目的は、露出しているSi酸化膜(SiO)にダメージを与えることなく、比較的低温(例えば、80℃以下の温度)及び短時間(例えば、2分以内)の条件下で、特にイオン注入された剥離性の悪いレジスト及び反射防止膜を除去することのできるレジスト剥離用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、レジスト剥離用組成物について鋭意検討した結果、水酸化テトラメチルアンモニウム、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド及び水の混合溶液では、SiOにダメージを与えることなく、比較的低温(例えば、80℃以下の温度)なおかつ短時間(例えば、2分程度)で、レジスト及び/又は反射防止膜(特にひ素又はホウ素をイオン注入されることによって剥離性が悪くなったレジスト及び/又は反射防止膜)を除去することができることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0014】
すなわち、本発明は、以下に示すとおりのレジスト剥離用組成物、及びそれを用いたレジスト及び/又は反射防止膜の剥離方法である。
【0015】
[1]水酸化テトラメチルアンモニウム、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド及び水を含むレジスト剥離用組成物であって、水酸化テトラメチルアンモニウムの濃度が0.01〜20重量%、アセトニトリルの濃度が0.01〜30重量%、ジメチルスルホキシドの濃度が0.01〜80重量%、及び水の濃度が1〜99重量%であること(但し、フッ化物の濃度が5重量%を超えること、又はアンモニアの濃度が15重量%を超えることはない。)を特徴とするレジスト剥離用組成物。
【0016】
[2]水酸化テトラメチルアンモニウム、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、水、並びにフッ化物及び/又はアンモニアを含むレジスト剥離用組成物であって、水酸化テトラメチルアンモニウムの濃度が0.01〜20重量%、アセトニトリルの濃度が0.01〜30重量%、ジメチルスルホキシドの濃度が0.01〜80重量%、水の濃度が1〜99重量%、フッ化物の濃度が5重量%以下、及びアンモニアの濃度が15重量%以下であることを特徴とするレジスト剥離用組成物。
【0017】
[3]フッ化物が、フッ化水素酸及びその塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のレジスト剥離用組成物。
【0018】
[4]上記[1]及至[3]のいずれかに記載のレジスト剥離用組成物により、レジスト及び/又は反射防止膜を剥離することを特徴とする剥離方法。
【0019】
[5]基板工程(Front End of Line)におけるレジスト及び/又は反射防止膜を剥離することを特徴とする上記[4]に記載の剥離方法。
【0020】
[6]レジスト及び/又は反射防止膜が、ひ素又はホウ素をイオン注入されたものであることを特徴とする[4]又は[5]に記載の剥離方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明のレジスト剥離用組成物は、Si酸化膜(SiO)にダメージを与えることなく、比較的低温(例えば、80℃以下の温度)なおかつ短時間(例えば、2分程度)で、レジスト及び/又は反射防止膜が剥離できる。
【0022】
また、本発明のレジスト剥離用組成物は、ひ素又はホウ素をイオン注入して剥離性の悪くなったレジストの剥離性能に特に優れるため、基板工程におけるレジスト及び/又は反射防止膜を剥離する際に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0024】
本発明において、レジスト剥離用組成物とは、レジスト及び/又は反射防止膜を基板上に塗布した後、露光、現像し、エッチング、イオン注入等の処理を施し回路を形成した後、残ったレジスト及び/又は反射防止膜を除去するために用いる組成物をいう。
【0025】
また、本発明において、レジスト及び/又は反射防止膜としては、特に限定するものではないが、例えば、ヒドロキシスチレン系ポリマー、ノボラック系ポリマー等が挙げられる。
【0026】
本発明のレジスト剥離用組成物は水酸化テトラメチルアンモニウム、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド及び水をその必須成分として含む。
【0027】
本発明のレジスト剥離用組成物に使用する水酸化テトラメチルアンモニウムは、レジスト及び/又は反射防止膜を剥離除去する作用がある。水酸化テトラメチルアンモニウムは一般的に市販されており容易に入手することができるが、ウエハの清浄度を保つためには、高純度品を使用するのが好ましい。
【0028】
本発明のレジスト剥離用組成物に使用するアセトニトリルはレジスト及び/又は反射防止膜の溶解剥離を促進する作用がある。アセトニトリルは工業的に一般的に市販されており容易に入手することができる。
【0029】
本発明のレジスト剥離用組成物に使用するジメチルスルホキシドはレジスト及び/又は反射防止膜の溶解剥離を促進する作用がある。ジメチルスルホキシドは工業的に一般的に市販されており容易に入手することができる。
【0030】
本発明のレジスト剥離用組成物における、水酸化テトラメチルアンモニウム、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド及び水の濃度は、レジスト剥離用組成物の使用条件により大きく変動するため、限定することは困難ではあるが、SiOの侵食を低減させるとともに十分な剥離効果を得るため、水酸化テトラメチルアンモニウムの濃度は、通常0.01〜20重量%の範囲、好ましくは0.1〜15重量%の範囲、アセトニトリルの濃度は、通常0.01〜30重量%の範囲、好ましくは0.1〜20重量%の範囲、ジメチルスルホキシドの濃度は、通常0.01〜80重量%の範囲、好ましくは0.1〜50重量%の範囲、及び水の濃度は、通常1〜99重量%の範囲、好ましくは5〜90重量%の範囲である(但し、フッ化物の濃度が5重量%を超えること、又はアンモニアの濃度が15重量%を超えることはない。)。
【0031】
本発明のレジスト剥離用組成物には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、フッ化物及び/又はアンモニアを添加することができる。
【0032】
本発明のレジスト剥離用組成物に使用できるフッ化物としては、フッ化水素酸及びその塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物が好ましく、これらは単独で使用しても良いし、混合して使用しても良い。フッ化水素酸の塩としてはフッ化アンモニウムが好ましい。フッ化水素酸やフッ化アンモニウムは一般的に市販されており容易に入手することができるが、ウエハの清浄度を保つためには、高純度品を使用するのが好ましい。本発明のレジスト剥離用組成物におけるフッ化物の濃度は、SiO等の他の半導体材料へのダメージを低減するため、通常5重量%以下、好ましくは1重量%以下である。
【0033】
本発明のレジスト剥離用組成物において、アンモニアは、レジスト及び/又は反射防止膜を剥離除去を促進する作用がある。アンモニアは一般的にアンモニア水として市販されており、アンモニア水として使用することができる。これは、容易に入手することができるが、ウエハの清浄度を保つためには、高純度品を使用するのが好ましい。本発明のレジスト剥離用組成物におけるアンモニアの濃度は、SiO等の他の半導体材料へのダメージを低減するため、通常15重量%以下、好ましくは10重量%以下である。この範囲を超えてアンモニアの濃度を増加させても剥離効果は向上せず、アンモニア蒸気が多量に発生して取り扱いが困難となるおそれがある。
【0034】
本発明のレジスト剥離用組成物は、レジスト及び/又は反射防止膜を剥離する際に上記した各成分を添加して使用してもよいし、予め各成分を混合しておいてから使用してもよい。
【0035】
本発明のレジスト剥離用組成物は、無機質基体上に塗布されたレジスト膜の中でも特にイオン注入等の処理をして剥離性の悪くなったレジスト層、反射防止膜を剥離する際に最も好適に用いられる。
【0036】
本発明におけるレジスト剥離用組成物は、例えば、基板工程において用いることができる。ここで基板工程とは半導体製造工程の配線構造形成前までのいわゆるFEOL(Front End of Line)工程のことである。
【0037】
本発明のレジスト剥離用組成物は、ネガ型、ポジ型を含めて、アルカリ性水溶液で現像できるi線用、KrFエキシマレーザー用等のレジストの剥離、さらにはひ素又はホウ素等のイオン注入を施されたレジストの剥離において特に高い剥離性を発揮する。
【0038】
本発明の剥離方法は、上記した本発明のレジスト剥離用組成物により、レジスト及び/又は反射防止膜を剥離することをその特徴とする。
【0039】
本発明の剥離方法においては、基板工程(Front End of Line)におけるレジスト及び/又は反射防止膜を、比較的低温(例えば、80℃以下の温度)なおかつ短時間(例えば、2分程度)で剥離することができる。
【0040】
また、本発明の剥離方法においては、ひ素又はホウ素をイオン注入されたレジスト及び/又は反射防止膜を、比較的低温(例えば、80℃以下の温度)なおかつ短時間(例えば、2分程度)で剥離することができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の方法を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお表記を簡潔にするため、以下の略記号を使用した。
【0042】
TMAH:水酸化テトラメチルアンモニウム
NH:アンモニア
MeCN:アセトニトリル
DMSO:ジメチルスルホキシド
NHF:フッ化アンモニウム。
【0043】
実施例1〜実施例5、比較例1〜比較例3
イオン種としてひ素を1016個/cmイオン注入したKrFレジストを塗布したシリコンウエハを、表1に示す剥離用組成物に35℃、2分浸漬し、その後水洗いし、乾燥した。
【0044】
処理したシリコンウエハは、その表面を走査型電子顕微鏡で観察し、レジストの剥離性を調べた。また、Siの侵食性については、SiO膜被膜を形成したシリコンウエハを35℃、5分間浸漬し、その表面観察によって評価した。
【0045】
表1に剥離用組成物組成及び評価結果を示す。
【0046】
なお、レジストの剥離性、侵食性は以下のように評価した。
【0047】
<レジストの剥離性>
○:完全剥離、△:一部残存、×:全面に残存
<Siの侵食性>
○:侵食なし、△:一部侵食有り、×:激しい侵食有り。
【0048】
【表1】

【0049】
表1から明らかなとおり、水酸化テトラメチルアンモニウム、フッ化物、又はアンモニアの濃度が本発明の範囲を逸脱する組成物は、レジストの剥離性とSiOの侵食性をともに満足させることができない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化テトラメチルアンモニウム、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド及び水を含むレジスト剥離用組成物であって、水酸化テトラメチルアンモニウムの濃度が0.01〜20重量%、アセトニトリルの濃度が0.01〜30重量%、ジメチルスルホキシドの濃度が0.01〜80重量%、及び水の濃度が1〜99重量%であること(但し、フッ化物の濃度が5重量%を超えること、又はアンモニアの濃度が15重量%を超えることはない。)を特徴とするレジスト剥離用組成物。
【請求項2】
水酸化テトラメチルアンモニウム、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、水、並びにフッ化物及び/又はアンモニアを含むレジスト剥離用組成物であって、水酸化テトラメチルアンモニウムの濃度が0.01〜20重量%、アセトニトリルの濃度が0.01〜30重量%、ジメチルスルホキシドの濃度が0.01〜80重量%、水の濃度が1〜99重量%、フッ化物の濃度が5重量%以下、及びアンモニアの濃度が15重量%以下であることを特徴とするレジスト剥離用組成物。
【請求項3】
フッ化物が、フッ化水素酸及びその塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のレジスト剥離用組成物。
【請求項4】
請求項1及至請求項3のいずれかに記載のレジスト剥離用組成物により、レジスト及び/又は反射防止膜を剥離することを特徴とする剥離方法。
【請求項5】
基板工程(Front End of Line)におけるレジスト及び/又は反射防止膜を剥離することを特徴とする請求項4に記載の剥離方法。
【請求項6】
レジスト及び/又は反射防止膜が、ひ素又はホウ素をイオン注入されたものであることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の剥離方法。

【公開番号】特開2008−3291(P2008−3291A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−172530(P2006−172530)
【出願日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】