説明

レーザ加工方法、レーザ加工装置

【課題】パルスレーザにおける干渉領域の制限を受けず、被加工物表面に均一なグレーティングを製作することができるレーザ加工方法及び装置を提供する。
【解決手段】レーザ加工において、レーザが格子面に対して垂直に入射するように配置された回折格子と、回折角θで回折された±1次回折光を被加工物の加工面上で交差させるように配置されたミラーと、
回折格子を格子の周期方向に移動させる手段と、被加工物を干渉の周期方向に移動させる手段と、前記各移動手段を制御するための移動制御装置と、を有し、 前記移動制御装置を、V=U×sinθ/sinθ’を満たすように前記各移動手段を制御する。
但し、θ:±1次の回折光の回折角、θ’:レーザの干渉角、U:回折格子に入射するレーザの光軸の移動速度、V:被加工物における表面の±1次の回折光の交差点の移動速度。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工方法、レーザ加工装置に関し、特に超短パルスレーザを用いた干渉によるレーザ加工方法、レーザ加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フェムト秒レーザの干渉を応用した加工技術は、これまでのレーザでは難しかったサブミクロンの加工を行える技術として注目を集めている。
例えば、フェムト秒レーザによるサブミクロン加工の例として、フェムト秒レーザを透明材料に照射することによる、透明材料の屈折率を干渉のピッチと同じ周期で変化させる方法が挙げられる(例えば、非特許文献1参照)。
フェムト秒レーザの照射により屈折率が周期的に変化した透明材料は、レーザに対して複屈折結晶と同等に作用するため、光学材料としての利用価値が非常に高い。
【0003】
また、干渉光のフルエンスをさらに上げて加工を行うと、アブレーションにより、サブミクロンピッチのグレーティングを短時間で製作することもできる(例えば、非特許文献2参照)。
グレーティングの製作は、アブレーションを行わなくても、アブレーションを引き起こさない程度のフルエンスの干渉光を透明材料に照射したあと、その照射面を適当なエチャントでエッチングすることによっても製作できる(例えば、非特許文献2参照)。これは、レーザが照射されることにより透明材料の構造が変化して、そのレーザのフルエンス強度に応じてエッチングレートが局所的に変わるためである。
【0004】
これらのいずれの方法を用いても、透明材料表面に製作されたグレーティングは、回折格子やビームスプリッターとして有用である。
さらに、十分なフルエンス強度をもつフェムト秒レーザの干渉光を金属表面に照射すれば、アブレーション工程によって、金属表面にもグレーティングを製作することができる。
このように製作された金属表面のグレーティングは、それ自体が回折格子およびビームスピリッターとして有用であるだけでなく、ナノインプリントの基板などとしてもその利用価値が高い。
【0005】
ところで、フェムト秒レーザを用いた干渉加工においては、加工領域が非常に狭いことから、干渉角を大きくして周期の短い周期構造物を製作するためには、加工領域を拡大するための方法が必要とされる。
そのため、このような加工の領域を拡大する方法として、非加工物を乗せたステージの移動速度と、レーザパルスの照射周期を同期させて、干渉ピッチの整数倍だけずらしながら干渉光を照射する方法が知られている(例えば、非特許文献3参照)。
また、より広い領域でフェムト秒レーザを干渉させるために、例えば、特許文献1のように回折格子と集光レンズの組み合わせによる方法が提案されている。
また、例えば、特許文献2のように、Fiber Bragg Gratingの加工においては、光ファイバーの直上に置かれた透過型回折格子の上からレーザを照射し、そのレーザの照射位置を移動させる方法が提案されている。これにより、ファイバーの長手方向に加工を延長することが可能とされる。
【非特許文献1】J.H.Si,J.R.Qiu,and K.Hirao,¨Photofabrication of periodic microstructures in azodye−doped polymers by interference of laser beams¨,Appl.Phys.B 75,847−851(2002)
【非特許文献2】河村賢一,平野正浩,細野秀雄:¨フェムト秒レーザのシングルパルス干渉露光による無機材料の微細加工とその応用¨,レーザ研究 第30巻第5号 P244−250(2002)
【非特許文献3】K.Kawamura,T.Ogawa,N.Sarukura,M.Hirano,and H.Hosono,¨Fabrication of surface relief gratings on transparent dielectric materials by two−beam holographic method using infrared femtosecond laser pulses¨,Appl.Phys.B71、119−121 (2000)
【特許文献1】特開2003−334683号公報
【特許文献2】特開2001−183535号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フェムト秒レーザを用いた干渉加工技術は、容易に材料表面に周期構造を製作できる利点の一方で、前述したように加工領域が非常に狭いという問題を有している。
例えば、図5で示されるように、干渉領域52の幅は、パルス幅と干渉角θを用いて(パルス幅)/sinθと表すことができ、パルス幅100fsのフェムト秒レーザ51をレーザの干渉角θ=45°で干渉させた場合、その干渉領域は40μm程度しかない。
干渉角θと干渉のピッチdとはd=λ/2sin(θ)の関係にあり、干渉ピッチは干渉角を大きくすることにより容易に小さくすることができが、干渉領域の幅はレーザの干渉角θを大きくするほど狭くなる。
【0007】
したがって、フェムト秒レーザを用いた干渉加工においては、干渉角を大きくして周期の短い周期構造物を製作するためには、加工領域をひろげるための方法が必要とされていた。
その際、上記した非特許文献3の非加工物を乗せたステージの移動速度と、レーザパルスの照射周期を同期させて、干渉ピッチの整数倍だけずらしながら干渉光を照射する方法により、加工の領域を拡大することができる。
しかし、非特許文献3によっても、現実には、干渉のピッチがミクロンオーダーになると、正確に干渉ピッチの整数倍だけずらして干渉光を照射することは容易ではない。
【0008】
また、特許文献1のように、回折格子と集光レンズを組み合わせる方法を用いても、干渉領域は幅数mm程度であり、必ずしも現実の要請を満たすことは困難である。
また、特許文献2のように、光ファイバーの直上に置かれた透過型回折格子の上からレーザを照射し、そのレーザの照射位置を移動させることにより、ファイバーの長手方向に加工を延長する方法は、アブレーション加工に応用することが困難である。
すなわち、この方法では光ファイバーと回折格子を離すことができないため、Fiber Bragg Gratingなどの屈折率変化には有効ではあるが、被加工物質が飛散するアブレーション加工に応用することは困難である。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑み、パルスレーザにおける干渉領域の制限を受けることなく、被加工物表面に均一なグレーティングを製作することが可能となるレーザ加工方法、レーザ加工装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するため、次のように構成したレーザ加工方法、レーザ加工装置を提供するものである。
本発明のレーザ加工方法は、レーザを回折格子に照射することにより複数の回折光に分割し、その回折光を交差させることにより干渉パターンを発生させ、前記干渉パターンの光強度分布に応じた形状を被加工物に加工するレーザ加工方法において、
前記レーザを回折格子の格子面に対して垂直に入射させ±1次の回折光に分割する第1のステップと、
前記回折格子による±1次の回折光をそれぞれミラーで折り返し、加工面の法線が該±1次の回折光の交差角を二等分するように該±1次の回折光を前記被加工物の加工面上で交差させる第2のステップと、
前記回折格子をその格子の周期方向に移動させる一方、前記被加工物をその表面の干渉の周期方向に移動させる第3のステップと、を有し、
前記第3のステップにおいて、次式(1)を満たすようにして前記被加工物を加工することを特徴とする。
V1=U1×sinθ/sinθ’………(1)
但し、
θ:前記±1次の回折光の回折角
θ’:前記レーザの干渉角
U1:前記回折格子の移動速度
V1:前記被加工物の移動速度
また、本発明のレーザ加工方法は、レーザを回折格子に照射することにより複数の回折光に分割し、その回折光を交差させることにより干渉パターンを発生させ、前記干渉パターンの光強度分布に応じた形状を被加工物に加工するレーザ加工方法において、
前記レーザを回折格子の格子面に対して垂直に入射させ±1次の回折光に分割する第1のステップと、
前記回折格子による±1次の回折光をそれぞれミラーで折り返し、加工面の法線が該±1次の回折光の交差角を二等分するように該±1次の回折光を前記被加工物の加工面上で交差させる第2のステップと、
前記回折格子に入射させるレーザの光軸を格子の周期方向に移動させる一方、前記±1次の回折光の交差点が被加工物表面の干渉の周期方向に移動するように該±1次の回折光の光軸を移動させる第3のステップと、を有し、
前記第3のステップにおいて、次式(2)を満たすようにして前記被加工物を加工することを特徴とする。
V2=U2×sinθ/sinθ’………(2)
但し、
θ:前記±1次の回折光の回折角
θ’:前記レーザの干渉角
U2:前記回折格子に入射するレーザの光軸の移動速度
V2:前記被加工物における表面の±1次の回折光の交差点の移動速度
また、本発明のレーザ加工方法は、レーザを回折格子に照射することにより複数の回折光に分割し、その回折光を交差させることにより干渉パターンを発生させ、前記干渉パターンの光強度分布に応じた形状を被加工物に加工するレーザ加工方法において、
二枚のミラーを平行に対面させ、前記回折格子をその格子面と前記ミラーのミラー面が直角を成すように配置すると共に、前記被加工物をその加工面と前記ミラーのミラー面が直角を成すように配置し、
前記回折格子の格子面に垂直に前記レーザを照射し、前記回折格子上のレーザの照射位置を前記レーザの光軸と前記回折格子の格子面の成す角度が直角に保たれるように移動させ、前記被加工物を加工することを特徴とする。
また、本発明のレーザ加工方法は、前記回折格子上のレーザの照射位置の移動が、前記レーザをガルバノミラーにより反射させ、
その反射されたレーザをテレセントリックfθレンズに通過させ、前記ガルバノミラーの角度を変えることにより回折格子上の任意の位置にビームを照射させることにより行われることを特徴とする。
また、本発明のレーザ加工方法は、前記回折格子上のレーザの照射位置の移動が、前記平行に対面させた二枚のミラーと、該ミラーに対して配置された前記回折格子および前記被加工物とを、
それらの相対的な位置関係を保ったまま、格子の周期面に対して平行に等しい速度で移動させることにより行われることを特徴とする。
また、本発明のレーザ加工方法は、前記回折格子に照射するレーザは、1fs以上10ps以下のパルス幅であることを特徴とする。
また、本発明のレーザ加工装置は、
レーザ発振器を備え、該レーザ発振器から発振されたレーザを回折格子に照射することにより複数の回折光に分割し、その回折光を光学系を介して被加工物の加工面上で交差させることにより干渉を発生させ、前記被加工物を加工するレーザ加工装置において、
前記レーザが格子面に対して垂直に入射するように配置された回折格子と、
前記回折格子により回折角θで回折された±1次回折光をそれぞれ反射させ、加工面の法線が該±1次の回折光の交差角を二等分するように該±1次の回折光を前記被加工物の加工面上で交差させるように配置されたミラーと、
前記回折格子を格子の周期方向に移動させる移動手段と、
前記被加工物を干渉の周期方向に移動させる移動手段と、
前記回折格子の移動手段および前記被加工物の移動手段を制御するための移動制御装置と、を有し、
前記移動制御装置が、次式(3)を満たすように前記回折格子の移動手段および前記被加工物の移動手段を制御することを特徴とする。
V3=U3×sinθ/sinθ’………(3)
但し、
θ:前記±1次の回折光の回折角
θ’:前記レーザの干渉角
U3:前記回折格子に入射するレーザの光軸の移動速度
V3:前記被加工物における表面の±1次の回折光の交差点の移動速度
また、本発明のレーザ加工装置は、
レーザ発振器を備え、該レーザ発振器から発振されたレーザを回折格子に照射することにより複数の回折光に分割し、その回折光を光学系を介して被加工物の加工面上で交差させることにより干渉を発生させ、前記被加工物を加工するレーザ加工装置において、
前記レーザが格子面に対して垂直に入射するように配置された回折格子と、
前記回折格子により回折角θで回折された±1次回折光をそれぞれ反射させ、加工面の法線が該±1次の回折光の交差角を二等分するように該±1次の回折光を前記被加工物の加工面上で交差させるように配置されたミラーと、
前記回折格子に入射させるレーザの光軸を格子の周期方向に移動させる移動手段と、
前記±1次の回折光の交差点が被加工物表面の干渉の周期方向に移動するように該±1次の回折光の光軸を移動させる移動手段と、
前記回折格子に入射させるレーザの光軸の移動手段および前記被加工物における表面の±1次の回折光の交差点の移動手段を制御するための移動制御装置と、を有し、
前記移動制御装置が、次式(4)を満たすように前記回折格子に入射させるレーザの光軸の移動手段および前記被加工物における表面の±1次の回折光の交差点の移動手段を制御することを特徴とする。
V4=U4×sinθ/sinθ’………(4)
但し、
θ:前記±1次の回折光の回折角
θ’:前記レーザの干渉角
U4:前記回折格子に入射するレーザの光軸の移動速度
V4:前記被加工物における表面の±1次の回折光の交差点の移動速度
また、本発明のレーザ加工装置は、
レーザ発振器を備え、該レーザ発振器から発振されたレーザを回折格子に照射することにより複数の回折光に分割し、その回折光を光学系を介して被加工物の加工面上で交差させることにより干渉を発生させ、前記被加工物を加工するレーザ加工装置において、
前記回折格子の格子面と直角を成すように配置されると共に、前記被加工物の加工面と直角を成すように配置された二枚の対面するミラーと、
前記レーザの光軸と前記回折格子の格子面との成す角が直角となるように前記回折格子上にレーザを照射するレーザ照射手段と、
を有することを特徴とする。
また、本発明のレーザ加工装置は、前記レーザ照射手段が、ガルバノミラーとテレセントリックfθレンズによって構成されていることを特徴とする。
また、本発明のレーザ加工装置は、
レーザ発振器を備え、該レーザ発振器から発振されたレーザを回折格子に照射することにより複数の回折光に分割し、その回折光を光学系を介して被加工物の加工面上で交差させることにより干渉を発生させ、前記被加工物を加工するレーザ加工装置において、
前記回折格子の格子面と直角を成すように配置されると共に、前記被加工物の加工面と直角を成すように配置された二枚の対面するミラーと、
前記ミラーと前記回折格子と前記被加工物とを固定するための共通のハウジングと、
前記ハウジングを固定するための移動ステージと、
前記ステージの移動を、前記回折格子の格子面と平行に移動させるための移動ステージ制御手段と、
前記レーザの光軸と前記回折格子の格子面との成す角が直角となるように前記回折格子上にレーザを照射するレーザ照射手段と、
を有することを特徴とする。
また、本発明のレーザ加工装置は、前記レーザ発振器は、パルス幅が1fs以上10ps以下のパルス発振器であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、パルスレーザにおける干渉領域の制限を受けることなく、被加工物表面に均一なグレーティングを製作することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施の形態を説明する前に、まず、図1を用いて本発明の原理について説明する。
図1において、回折格子3にレーザを垂直に照射し、それにより生じた+1次の回折光1と、−1次の回折光2を光学系を介して再び交差させて干渉させる。
この際、回折格子3と照射レーザの光軸6を相対速度U=Δ×/Δtで移動させた場合、レーザが回折格子に入射するまでの光路および回折から干渉するまでの光路に関わらず、干渉の縞はV=Δ×/Δt=U×sinθ/sinθ’の速さで連続的に移動する。
ここで、θは回折角、θ’は干渉角である。
したがって、回折格子3とそれに入射するレーザの光軸6とを速度Uで相対的に移動させたとき、被加工物5を速度Vで干渉の縞の移動方向と同方向に移動させれば、その干渉縞のコントラストを損なわずに干渉縞を被加工物の表面に照射することができ、干渉パターンの光強度分布に応じた形状を被加工物に加工することができる。
このような構成によれば、パルスレーザを用いた干渉アブレーション加工において、レーザの干渉領域よりも広い領域に、干渉のピッチと同ピッチの微細グレーティングまたは周期的屈折率変化を製作することができる。
また、ピッチおよび深さが均一なグレーティングまたは周期的屈折率変化を製作することができる。
【実施例】
【0013】
本発明を実施するための最良の形態を、以下の実施例により説明する。
なお、以下の実施例を説明するための図2、図3及び図4には、図が煩雑になることを避けるため、これら実施例の構成には直接寄与しない、レーザのパワー調整器、シャッター、アパチャー等の光学部品は省略されている。
[実施例1]
実施例1においては、本発明を適用したレーザ加工について説明する。
図2に、本実施例におけるレーザ加工を説明するための模式図を示す。
図2において、まず、発振器13から出射されたレーザは、格子の周期方向が紙面横方向となるように置かれた反射型回折格子3に垂直に照射され、複数の回折光に分割される(第一のステップ)。
反射型回折格子3で回折された±1次光26、27は、それぞれ2枚のミラー4、12で折り返された後、干渉角θ’で交差する(第二のステップ)。このとき干渉の周期方向は、紙面横方向となる。
ミラー4、12は+1次光26および−1次光27と平行に移動するステージ11に乗っており、このステージ11を移動させることにより、回折格子3からレーザの交差位置14までの光路長を調整することができる。
【0014】
この装置をフェムト秒レーザに適用した場合、この光路長調整用のステージ11を移動させることによって、回折格子3からレーザの交差位置14までの±1次光の光路長を一致させ、レーザの交差点14で干渉を発生させることができる。
レーザの交差位置14における干渉領域は、紙面横方向に制約を受けており、パルス幅が100フェムト秒、交差角θ’が45°の場合、その幅は40μm程度である。ここではパルス幅100fs(フェムト秒)のものを用いたが、パルス幅は1fs(10-15秒)以上、10ps(10-11秒)以下のレーザーであればよい。1fs(10-15秒)以上であれば、加工に必要なエネルギーが得られ、パルス幅が10ps以下であれば、これまでのレーザでは難しかったサブミクロンの加工を行なうことができる。
レーザの交差位置14には加工面の法線がビームの交差角を二等分するように被加工物5が置かれている。また、レーザの交差位置14が、前記被加工物の加工面上となるように調整されている。
回折格子3と被加工物5は、移動速度が制御可能なピエゾステージ15、16上に固定されている。
ピエゾステージ15、16は、それぞれピエゾコントローラ17、18に接続されており、ピエゾコントローラ17、18は共通の移動制御装置19により制御されている。
ピエゾステージ15と16は、ピエゾコントローラ17、18からの信号を受け、それぞれ速さUおよび速さVで紙面に平行な矢印の方向に移動している。
【0015】
制御装置19はピエゾステージ15とピエゾステージ16の速さがV=U×sinθ/sinθ’の関係を保つようにプログラムされている。
ピエゾステージ15および16の移動に伴い回折格子3および被加工物5は、それぞれ速さUおよびVで矢印方向に移動する(第三のステップ)。
本発明の原理の説明で述べたように、回折格子3が速さUで紙面右側に移動してゆくと、レーザの交差位置14における干渉縞は速さU×sinθ/sinθ’で紙面左側に移動してゆく。
したがって、本実施例の構成を用いて、被加工物5を速さV=U×sinθ/sinθ’で紙面左側に移動させることによって、干渉領域の制約を受けずに紙面横方向に加工領域を延長することができる。
【0016】
レーザのパワーを、干渉のフルエンスがアブレーション閾値よりも大きくなるように設定すれば、本実施例の構成により、広い加工領域にアブレーションによるグレーティングを製作することができる。
その際、回折格子3と被加工物5との距離は任意に大きくすることができるため、回折格子3と被加工物5の距離を十分にとることによって、アブレーションによる蒸発物が回折格子3に付着することを防ぐことができる。
また、レーザのパワーを、干渉のフルエンスがアブレーション閾値よりも小さくなるように設定すれば、干渉領域の制約を受けることなく、任意の広さの被加工物表面に周期的な屈折率変化を引き起こすことが可能となる。
【0017】
[実施例2]
実施例2においては、透過型回折格子を用いた実施例1とは別の形態によるレーザ加工について説明する。
図3に、本実施例におけるレーザ加工を説明するための模式図を示す。
図3において、二枚のミラー4、12は平行に対面させられており、透過型回折格子23はその格子面とミラーのミラー面とが直角を成すように配置されている。
また、被加工物5の加工面は回折格子23の格子面と平行に対面しており、その加工面とミラーのミラー面とは直角を成している。
回折格子23の前にはテレセントリックなfθレンズ7が設置されており、ガルバノミラー8により反射されたレーザは、fθレンズ7を透過した後、格子面に対して垂直に回折格子23に入射する。
【0018】
ガルバノミラー8は、ガルバノミラーコントローラ20によってその傾きを連続的に変化させることが可能であり、ガルバノミラーコントローラ20は制御装置19によって制御されている。
制御装置19を適当にプログラムすることによって、ガルバノミラーの角度を連続的に変化させ、レーザを回折格子23の格子面上で任意の速度で移動させることができる。
fθレンズ7と回折格子23との距離Lは、被加工物5の表面でレーザが焦点を結ぶように調整されている。
【0019】
図3で示される本実施例の構成を用いれば、回折格子23上のレーザ照射位置25によらず、常に、+1次光と−1次光との光路長は一致する。
すなわち、図3の実線で表された光路長と破線で表された光路長は、レーザ照射位置25によらず、常に一致する。
したがって、図3で示される本実施例の構成をフェムト秒レーザに適用した場合、回折格子23に照射されるフェムト秒レーザは、ガルバノミラー8の角度によらず、常にレーザの交差位置14で干渉する。
またミラー4、12のミラー面、回折格子23の格子面、被加工物5の被加工面は長方形を成すために、本実施例の構成においては、レーザの回折角θと干渉角θ’は常に一致する。
さらに、ガルバノミラー8の角度を連続的に変化させてレーザを回折格子23上で移動させる際、レーザの光軸6に対する回折格子23および被加工物5の移動速度も常に一致する。
すなわち、図3に示される構成は、本発明におけるUとVの関係式(V=U×sinθ/sinθ’)を常に満たしている。
したがって、被加工物5の加工面がレーザの交差位置14と一致するように被加工物を配置する。そして、ガルバノミラー8の角度を連続的に変化させて回折格子23上でレーザをスキャンすれば、干渉領域の大きさに関わらず、連続的に均一なグレーティングを製作することができる。
【0020】
[実施例3]
実施例3においては、透過型回折格子用いた実施例2とは別の形態によるレーザ加工について説明する。
図4に、本実施例におけるレーザ加工を説明するための模式図を示す。
図4において、透過型回折格子23、ミラー4、12および被加工物5は、実施例2と同様にミラー4、12のミラー面、回折格子23の格子面、被加工物5の被加工面が長方形を成すように配置され、同一のハウジング9上に固定させている。
ハウジング9は移動ステージ10上に固定されている。移動ステージ10はステージコントローラ24に、ステージコントローラ24は制御装置19にそれぞれ接続されている。
移動ステージ10は制御装置19の制御により、紙面横方向(矢印の方向)に移動する。この移動の際、回折格子23の格子面とレーザの光軸6とは常に直角に保たれている。
【0021】
図4で示される本実施例の構成を用いれば、レーザの回折角θと干渉角θ’は常に一致する。
また、移動ステージ10を紙面横方向に移動させた場合、光軸6に対する回折格子23の移動速度Uと被加工物5の移動速度Vも常に一致する。
すなわち、図4で示される本実施例の構成によれば、本発明におけるUとVの関係式を常に満たしている。
したがって、被加工物5の加工面とレーザの交差位置14が一致するように被加工物5を配置し、それらの相対的な位置関係を保ったまま、格子の周期面に対して平行に等しい速度で、ハウジング9を紙面横方向(矢印方向)に移動させれば、干渉領域の制約を受けずに、紙面横方向に加工領域を延長することができる。
【0022】
上記した各実施例の構成を用いれば、パルスレーザの干渉領域の制約を受けずに、干渉している領域よりも広い領域に、干渉のピッチと同ピッチの微細グレーティングを製作することができる。
また、製作したグレーティングのピッチ、幅、深さを、パルスレーザ加工よりも均一にすることができる。
したがって、アブレーションン加工による回折格子、および微細反射防止構造(SWS)の製作、またはそれらのマスター型の製作に応用できる。
また、上記した各実施例の構成を透明物質の屈折率変化に対して用いれば、ビームスピリッターなどの光学素子製作に応用することができる。
また、上記した各実施例の構成を用いて、機械の接触面に微細な凹凸形状を製作すれば、広い面積の面粗さを容易に変えることができるため、ギアーなどの接触部材の摩擦係数を変化させることにも応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の原理を説明するための模式図。
【図2】本発明の実施例1におけるレーザ加工を説明するための模式図。
【図3】本発明の実施例2におけるレーザ加工を説明するための模式図。
【図4】本発明の実施例3におけるレーザ加工を説明するための模式図。
【図5】フェムト秒レーザの干渉領域を説明するための模式図。
【符号の説明】
【0024】
1:+1次光
2:−1次光
3:回折格子
4、12:ミラー
5:被加工物
6:レーザ軸
7:テレセントリックfθレンズ
8:ガルバノミラー
9:ハウジング
10:駆動ステージ
11:光路長調整用ステージ
13:パルスレーザ発振器
14:レーザの交差位置
15、16:ピエゾステージ
17:18、ピエゾコントローラ
19:制御装置
20:ガルバノミラーコントローラ
23:透過型回折格子
24:ステージコントローラ
25:レーザ照射位置
26:+1次光
27:−1次光
51:フェムト秒パルスレーザ
52:干渉領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザを回折格子に照射することにより複数の回折光に分割し、その回折光を交差させることにより干渉パターンを発生させ、前記干渉パターンの光強度分布に応じた形状を被加工物に加工するレーザ加工方法において、
前記レーザを回折格子の格子面に対して垂直に入射させ±1次の回折光に分割する第1のステップと、
前記回折格子による±1次の回折光をそれぞれミラーで折り返し、加工面の法線が該±1次の回折光の交差角を二等分するように該±1次の回折光を前記被加工物の加工面上で交差させる第2のステップと、
前記回折格子をその格子の周期方向に移動させる一方、前記被加工物をその表面の干渉の周期方向に移動させる第3のステップと、を有し、
前記第3のステップにおいて、次式(1)を満たすようにして前記被加工物を加工することを特徴とするレーザ加工方法。
V1=U1×sinθ/sinθ’………(1)
但し、
θ:前記±1次の回折光の回折角
θ’:前記レーザの干渉角
U1:前記回折格子の移動速度
V1:前記被加工物の移動速度
【請求項2】
レーザを回折格子に照射することにより複数の回折光に分割し、その回折光を交差させることにより干渉パターンを発生させ、前記干渉パターンの光強度分布に応じた形状を被加工物に加工するレーザ加工方法において、
前記レーザを回折格子の格子面に対して垂直に入射させ±1次の回折光に分割する第1のステップと、
前記回折格子による±1次の回折光をそれぞれミラーで折り返し、加工面の法線が該±1次の回折光の交差角を二等分するように該±1次の回折光を前記被加工物の加工面上で交差させる第2のステップと、
前記回折格子に入射させるレーザの光軸を格子の周期方向に移動させる一方、前記±1次の回折光の交差点が被加工物表面の干渉の周期方向に移動するように該±1次の回折光の光軸を移動させる第3のステップと、を有し、
前記第3のステップにおいて、次式(2)を満たすようにして前記被加工物を加工することを特徴とするレーザ加工方法。
V2=U2×sinθ/sinθ’………(2)
但し、
θ:前記±1次の回折光の回折角
θ’:前記レーザの干渉角
U2:前記回折格子に入射するレーザの光軸の移動速度
V2:前記被加工物における表面の±1次の回折光の交差点の移動速度
【請求項3】
レーザを回折格子に照射することにより複数の回折光に分割し、その回折光を交差させることにより干渉パターンを発生させ、前記干渉パターンの光強度分布に応じた形状を被加工物に加工するレーザ加工方法において、
二枚のミラーを平行に対面させ、前記回折格子をその格子面と前記ミラーのミラー面が直角を成すように配置すると共に、前記被加工物をその加工面と前記ミラーのミラー面が直角を成すように配置し、
前記回折格子の格子面に垂直に前記レーザを照射し、前記回折格子上のレーザの照射位置を前記レーザの光軸と前記回折格子の格子面の成す角度が直角に保たれるように移動させ、前記被加工物を加工することを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項4】
前記回折格子上のレーザの照射位置の移動が、前記レーザをガルバノミラーにより反射させ、その反射されたレーザをテレセントリックfθレンズに通過させ、前記ガルバノミラーの角度を変えることにより回折格子上の任意の位置にビームを照射させることにより行われることを特徴とする請求項3に記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
前記回折格子上のレーザの照射位置の移動が、前記平行に対面させた二枚のミラーと、該ミラーに対して配置された前記回折格子および前記被加工物とを、
それらの相対的な位置関係を保ったまま、格子の周期面に対して平行に等しい速度で移動させることにより行われることを特徴とする請求項3に記載のレーザ加工方法。
【請求項6】
前記回折格子に照射するレーザは、1fs以上10ps以下のパルス幅であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のレーザ加工方法。
【請求項7】
レーザ発振器を備え、該レーザ発振器から発振されたレーザを回折格子に照射することにより複数の回折光に分割し、その回折光を光学系を介して被加工物の加工面上で交差させることにより干渉を発生させ、前記被加工物を加工するレーザ加工装置において、
前記レーザが格子面に対して垂直に入射するように配置された回折格子と、
前記回折格子により回折角θで回折された±1次回折光をそれぞれ反射させ、加工面の法線が該±1次の回折光の交差角を二等分するように該±1次の回折光を前記被加工物の加工面上で交差させるように配置されたミラーと、
前記回折格子を格子の周期方向に移動させる移動手段と、
前記被加工物を干渉の周期方向に移動させる移動手段と、
前記回折格子の移動手段および前記被加工物の移動手段を制御するための移動制御装置と、を有し、
前記移動制御装置が、次式(3)を満たすように前記回折格子の移動手段および前記被加工物の移動手段を制御することを特徴とするレーザ加工装置。
V3=U3×sinθ/sinθ’………(3)
但し、
θ:前記±1次の回折光の回折角
θ’:前記レーザの干渉角
U3:前記回折格子に入射するレーザの光軸の移動速度
V3:前記被加工物における表面の±1次の回折光の交差点の移動速度
【請求項8】
レーザ発振器を備え、該レーザ発振器から発振されたレーザを回折格子に照射することにより複数の回折光に分割し、その回折光を光学系を介して被加工物の加工面上で交差させることにより干渉を発生させ、前記被加工物を加工するレーザ加工装置において、
前記レーザが格子面に対して垂直に入射するように配置された回折格子と、
前記回折格子により回折角θで回折された±1次回折光をそれぞれ反射させ、加工面の法線が該±1次の回折光の交差角を二等分するように該±1次の回折光を前記被加工物の加工面上で交差させるように配置されたミラーと、
前記回折格子に入射させるレーザの光軸を格子の周期方向に移動させる移動手段と、
前記±1次の回折光の交差点が被加工物表面の干渉の周期方向に移動するように該±1次の回折光の光軸を移動させる移動手段と、
前記回折格子に入射させるレーザの光軸の移動手段および前記被加工物における表面の±1次の回折光の交差点の移動手段を制御するための移動制御装置と、を有し、
前記移動制御装置が、次式(4)を満たすように前記回折格子に入射させるレーザの光軸の移動手段および前記被加工物における表面の±1次の回折光の交差点の移動手段を制御することを特徴とするレーザ加工装置。
V4=U4×sinθ/sinθ’………(4)
但し、
θ:前記±1次の回折光の回折角
θ’:前記レーザの干渉角
U4:前記回折格子に入射するレーザの光軸の移動速度
V4:前記被加工物における表面の±1次の回折光の交差点の移動速度
【請求項9】
レーザ発振器を備え、該レーザ発振器から発振されたレーザを回折格子に照射することにより複数の回折光に分割し、その回折光を光学系を介して被加工物の加工面上で交差させることにより干渉を発生させ、前記被加工物を加工するレーザ加工装置において、
前記回折格子の格子面と直角を成すように配置されると共に、前記被加工物の加工面と直角を成すように配置された二枚の対面するミラーと、
前記レーザの光軸と前記回折格子の格子面との成す角が直角となるように前記回折格子上にレーザを照射するレーザ照射手段と、
を有することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項10】
前記レーザ照射手段が、ガルバノミラーとテレセントリックfθレンズによって構成されていることを特徴とする請求項9に記載のレーザ加工装置。
【請求項11】
レーザ発振器を備え、該レーザ発振器から発振されたレーザを回折格子に照射することにより複数の回折光に分割し、その回折光を光学系を介して被加工物の加工面上で交差させることにより干渉を発生させ、前記被加工物を加工するレーザ加工装置において、
前記回折格子の格子面と直角を成すように配置されると共に、前記被加工物の加工面と直角を成すように配置された二枚の対面するミラーと、
前記ミラーと前記回折格子と前記被加工物とを固定するための共通のハウジングと、
前記ハウジングを固定するための移動ステージと、
前記ステージの移動を、前記回折格子の格子面と平行に移動させるための移動ステージ制御手段と、
前記レーザの光軸と前記回折格子の格子面との成す角が直角となるように前記回折格子上にレーザを照射するレーザ照射手段と、
を有することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項12】
前記レーザ発振器は、パルス幅が1fs以上10ps以下のパルス発振器であることを特徴とする請求項7乃至11のいずれかに記載のレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−12546(P2008−12546A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−183753(P2006−183753)
【出願日】平成18年7月3日(2006.7.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】