説明

レーザ加工装置

【課題】加工径を一定の大きさにできるレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】基本波レーザ光2を高調波レーザ光に変換し変換ビーム5として出力する波長変換素子4と、変換ビーム5を加工ビーム10として集光する集光レンズ9と、波長変換素子4の初期設定温度と加工ビーム10の設定ビーム径とが格納されるメモリ18と、変換ビーム5の一部を光量情報12として検出する光量検出手段11と、変換ビーム5の照射時間を測定し照射時間情報15を測定する照射時間測定手段13と、光量情報12と照射時間情報15とから加工ビーム10の予測ビーム径を計算するビーム径予測手段19と、ビーム径予測手段19によって算出した予測ビーム径とメモリ18に格納された設定ビーム径との差分に応じたビーム径調整温度を計算する。このビーム径調整温度になるように波長変換素子4の温度調整を行う温度調整手段40とを有するレーザ加工装置とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント基板に貫通孔やマーキングを施す、波長変換素子を使ったレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーザ加工装置は、以下のようになっていた。
すなわち、レーザ加工装置は、基本波レーザ光を波長変換素子に入射させ、基本波レーザ光の一部が、波長変換素子によって波長変換され変換ビームとして出力される。例えば、発振波長が1064nmの基本波レーザ光は、第2高調波レーザ光に変換する波長変換素子によって波長変換され、発振波長が532nmの変換ビームとして出射する。
【0003】
そして、この変換ビームは、集光レンズによって加工ビームとなり、例えばプリント基板に向けて照射される。
【0004】
この時、効率良い波長変換を行うため、波長変換素子は、基本波レーザ光を変換ビームへ最大効率で変換する位相整合条件に合うように、ペルチェ素子などで温度調整される。また、部分反射ミラーで分光された変換ビームの一部は、光量検出器で検出され、マイクロコンピュータ等によって加工ビームの出力パワー(光量)が一定になるように調整されている。
【0005】
特に、SHGレーザ光源の加工ビームが高パワーで短波長の場合、プリント基板のビアホール等を加工するレーザ加工装置などに使用されていた(例えば、参考文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−307940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の構成では、加工ビームとして1W程度以上の出力を、例えば、数千時間以上照射すると、加工ビームのビーム径が2割程度変わることがわかった。
【0008】
すなわち、長時間使用により波長変換素子の屈折力が徐々に変動するので、長期間高出力の加工ビームを出力すると、プリント基板のビアホール等の加工径が変わってしまうのであった。
【0009】
本発明は、加工ビームを高出力で長時間照射しても、加工径を一定の大きさにするレーザ加工装置を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、この目的を達成するために本発明は、基本波レーザ光を高調波レーザ光に変換し変換ビームとする波長変換素子と、前記変換ビームを加工ビームとして集光する集光レンズと、前記波長変換素子の初期設定温度と前記加工ビームの設定ビーム径とが格納されるメモリと、前記変換ビームの一部を光量情報として検出する光量検出手段と、前記変換ビームの照射時間を測定し照射時間情報を測定する照射時間測定手段と、前記光量情報と前記照射時間情報とから前記加工ビームの予測ビーム径を計算するビーム径予測手段と、前記予測ビーム径と前記設定ビーム径との差分に応じたビーム径調整温度を計算し、このビーム径調整温度になるように前記波長変換素子の温度調整を行う温度調整手段とを有するものとし、これにより所期の目的を達成するものである。
【発明の効果】
【0011】
以上のように本発明は、基本波レーザ光を高調波レーザ光に変換し変換ビームとする波長変換素子と、前記変換ビームを加工ビームとして集光する集光レンズと、前記波長変換素子の初期設定温度と前記加工ビームの設定ビーム径とが格納されるメモリと、前記変換ビームの一部を光量情報として検出する光量検出手段と、前記変換ビームの照射時間を測定し照射時間情報を測定する照射時間測定手段と、前記光量情報と前記照射時間情報とから前記加工ビームの予測ビーム径を計算するビーム径予測手段と、前記予測ビーム径と前記設定ビーム径との差分に応じたビーム径調整温度を計算し、このビーム径調整温度になるように前記波長変換素子の温度調整を行う温度調整手段とを有するものとしたので、プリント基板の加工径を一定にできる。
【0012】
すなわち、本発明において、ビーム径予測手段が、加工ビームの光量情報と照射時間情報から、加工ビームの予測ビーム径を計算する。さらに、加工ビームのビーム径が波長変換素子の温度で変わることから、予測ビーム径に基づき、加工ビームのビーム径を一定にするビーム径調整温度を求める。温度調整手段が、このビーム径調整温度に基づいて、波長変換素子の温度調整を行う。その結果、加工ビームのビーム径が変更でき加工ビームを高出力で長時間照射し続けても、加工ビームのビーム径が一定の大きさとなることが図れるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】同実施の形態におけるレーザ加工装置の構成を表すブロック図
【図2】本発明の一実施の形態における照射エネルギー積算値と基準パワーのビーム径を表す特性図
【図3】同実施の形態における加工ビーム出力値とビーム径割合を表す特性図
【図4】同実施の形態における補正サイズとビーム径補正温度を表す特性図
【図5】同実施の形態におけるビーム径予測手段とビーム径調整温度算出手段を説明するブロック図
【図6】同実施の形態と従来例の加工ビーム径を比較する図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明のレーザ加工装置について実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態におけるレーザ加工装置の構成を示す図である。
【0016】
図1において、基本波レーザ1は、波長が1064nmの基本波レーザ光2を出力する。第1の集光レンズ3は、基本波レーザ1が出力した基本波レーザ光2を受け集光する。ここで、第1の集光レンズ3の集光開口数(以下、集光NAという)は、0.011で、第1の集光レンズ3と波長変換素子4の入射端との距離を25mmとした。
【0017】
波長変換素子4は、第1の集光レンズ3が集光した基本波レーザ光2を第2高調波レーザ光に変換し、変換ビーム5として出力する。例えば、波長変換素子4は、波長が1064nmの基本波レーザ光2を、波長が532nmの第2高調波レーザ光である変換ビーム5に変換して出力する。また、波長変換素子4は、基本波レーザ光2と位相整合する分極反転構造をした非線形光学結晶である。さらに、波長変換素子4は、Mg、Zn、Sc、Inの少なくともいずれかを含有するため、基本波レーザ光2または変換ビーム5の少なくとも一方の一部を吸収し発熱する。さらにまた、波長変換素子4は、変換ビーム5に変換できなかった基本波レーザ光2を透過させ出力するが、加工に不要な場合は、光学フィルタ(図示せず)により除去している。
【0018】
部分反射ミラー6は、加工ビーム(下記、加工ビーム10)の光量を検出する光を生成するため、波長変換素子4で変換された変換ビーム5の一部、例えば1%を分岐光7として分岐して反射する。また、部分反射ミラー6は、波長変換素子4で変換された変換ビーム5のうち分岐光7として反射せずに透過した残り99%を、透過した変換ビーム8として出力する。
【0019】
第2の集光レンズ9は、部分反射ミラー6を透過した変換ビーム8を加工ビーム10として集光し、プリント基板等の加工位置に出力する。このとき、第2の集光レンズ9の集光NAは、0.015で、波長変換素子4の出力端との距離を148mmとした。また、部分反射ミラー6と第2の集光レンズ9の間にビームエキスパンダ(図示せず)を、製造時のビーム径調整用として設けてもよい。なお、第2の集光レンズ9は、複数の光学素子(図示せず)、加工ビーム10の照射位置を移動させるビーム位置移動手段(図示せず)を含んでいても良い。
【0020】
光量検出手段11は、波長変換素子4から出力された変換ビーム5の一部である分岐光7を光量情報12として検出し出力する。この光量情報12は、加工ビーム10の出力パワー(以下、光量)を計算するためのものである。例えば、光量検出手段11が出力する光量情報12は、分岐光7の光量に対応したデジタル値である。なお、この光量情報12の1デジットが、分岐光7の光量の何W(ワット)になるかを表すものとした。すると、分岐光7と加工ビーム10の光量が比例関係なので、光量情報12から加工ビーム10の光量のW数(ワット数)が、計算できるのである。
【0021】
照射時間測定手段13は、波長変換素子4から出力された変換ビーム5の照射時間を測定し、照射時間情報15を出力する。この照射時間測定手段13は、変換ビームON信号14を受け、この変換ビームON信号14が有効になっている間、一定時間毎にカウントアップするカウンタによって照射時間を測定する。すると、照射時間は、このカウンタのカウントアップする単位時間に、カウンタのカウント値を乗じて求めることができる。また、変換ビームON信号14は、ユーザーが加工ビーム10の照射をONにしたときに有効になる信号である。そのため、照射時間測定手段13は、加工ビーム10の照射時間に対応する情報を測定できる。また、照射時間測定手段13は、変換ビームON信号14が無効になると照射時間情報15をゼロとして出力する。
【0022】
ビーム径予測手段19は、光量検出手段11で検出した光量情報12と照射時間測定手段13で測定した照射時間情報15から、照射エネルギー積算値を計算する。さらに、ビーム径予測手段19は、照射エネルギー積算値から加工ビーム10の予測ビーム径21を計算するものである。詳細は、後述の図5で説明する。なお、照射エネルギー積算値は、光量情報12と照射時間情報15の乗算結果を、照射エネルギーに変換し積算することで計算できる。ただし、本実施の形態では、光量情報12に基づく加工ビーム出力値と照射時間情報15に基づく照射時間の乗算結果(照射エネルギー)を積算して、照射エネルギー積算値を計算する構成で説明する。
【0023】
ビーム径調整温度算出手段32は、ビーム径予測手段19によって算出した加工ビーム10の予測ビーム径21と、メモリ18に予め格納された設定ビーム径33との差分を計算する。さらに、ビーム径調整温度算出手段32は、この計算した差分とメモリ18に予め格納された波長変換素子4の初期設定温度38とから、ビーム径調整温度39を計算し出力する。詳細は、後述の図5で説明する。
【0024】
温度調整手段40は、温度センサ(下記、温度センサ41)の示す波長変換素子4の温度情報41aがビーム径調整温度算出手段32の出力したビーム径調整温度39になるようにペルチェ駆動電流46を出力する。また、温度調整手段40は、周知の温度コントローラ(図示せず)とペルチェ駆動回路(図示せず)、温度センサ回路(図示せず)等で構成される。この温度調整手段40は、波長変換素子4の設定温度であるビーム径調整温度39と温度センサ41の温度情報41aから、温度センサ41が取り付けられた波長変換素子4の温度がビーム径調整温度39になるようペルチェ駆動電流46を一般的なPID制御などで計算し出力する。
【0025】
ペルチェ42は、接続された波長変換素子4の温度を、排熱と吸熱によって調整するためのものである。このペルチェ42は、温度調整手段40が出力したペルチェ駆動電流46の駆動方向および電流値によって、排熱と吸熱の切り替えとその駆動量を調整できる。
【0026】
温度センサ41は、波長変換素子4に装着され、波長変換素子4の温度情報41aを検知するためのものである。この温度センサ41が、サーミスタの場合、波長変換素子4の温度情報41aをサーミスタの抵抗値で検知する。
【0027】
マイクロコンピュータ16は、ビーム径予測手段19とビーム径調整温度算出手段32の設定を行うためのものである。また、マイクロコンピュータ16は、加工ビーム10の照射時間、光量を算出し光量を一定にする制御やメモリ18へアクセスするためのものである。
【0028】
まず、マイクロコンピュータ16は、加工ビーム10の光量を計算するため、光量検出手段11が出力した光量情報12を受ける。マイクロコンピュータ16は、この光量情報12を照射時間測定手段13のカウントアップ時間(例えば、10msec)より短い時間(例えば、1msec)毎に取得する。マイクロコンピュータ16は、光量情報12の検出ノイズを除くため、光量情報12を10msec間に10回取得し積算後、平均化する。この平均化した光量情報12は、加工ビーム10の光量と比例関係にあるので、マイクロコンピュータ16によって加工ビーム10の光量に変換できる。また、この加工ビーム10の光量は、マイクロコンピュータ16が加工ビーム出力値17として、マイクロコンピュータ16内のRAM(図示せず)に保持し出力する。
【0029】
さらに、マイクロコンピュータ16は、加工ビーム10の照射時間20を計算するため、照射時間測定手段13が出力した照射時間情報15を受ける。マイクロコンピュータ16は、照射時間情報15に照射時間測定手段13のカウントアップ時間(10msec)を乗じて、照射時間20を計算し出力する。
【0030】
さらにまた、マイクロコンピュータ16は、ビーム径予測手段19の遅延器(下記、遅延器25)を初期化するため、レーザ加工装置の電源(図示せず)のON/OFFで以下の処理を行う。まず、電源をOFFする場合には、マイクロコンピュータ16は、遅延器(下記、遅延器25)に格納された照射エネルギー積算値26を読み取り、EEPROMなどの不揮発性のメモリ18に記憶する。また、レーザ加工装置の電源をONした直後には、一度だけメモリ18に記憶した照射エネルギー積算値26を読みとり、遅延器(下記、遅延器25)に照射エネルギー積算値26を書き込む。ここでは、電源をOFFする時に照射エネルギー積算値26をメモリ18に書き込んだが、計算毎に書き込んでも良い。また、メモリ18は、一番初めに電源をONする前は、ゼロで初期化している。さらに、遅延器(下記、遅延器25)は、電源がOFFされても、照射エネルギー積算値26を保持する構成にしても良い。
【0031】
さらにまた、マイクロコンピュータ16は、加工ビーム10の光量を一定にするためのものである。マイクロコンピュータ16は、ユーザーが設定する加工ビーム出力設定値43と加工ビーム出力値17を一致させる計算を行う。この計算は、例えば、一般的な比例積分制御に基づいて行われ、マイクロコンピュータ16は、比例積分制御の計算結果をレーザ駆動値44として出力する。このように、マイクロコンピュータ16は、光量情報12に基づく加工ビーム出力値17を一定にすることで、加工ビーム10の光量を一定にできる。また、マイクロコンピュータ16は、メモリ18内に格納した波長変換素子4の初期設定温度38と設定ビーム径33を、ビーム径調整温度算出手段32へ出力する。ここでは、初期設定温度38と設定ビーム径33、照射エネルギー積算値26を、メモリ18に格納する構成にしたが、マイクロコンピュータ16上の図示しないROM上に格納する構成にしてもよい。
【0032】
次に、レーザ駆動回路45は、加工ビーム10の光量が一定になるようマイクロコンピュータ16が計算したレーザ駆動値44を受け、レーザ駆動電流47を基本波レーザ1に出力する。すると、基本波レーザ1は、加工ビーム10の光量を一定にする基本波レーザ光2を出力するものである。
【0033】
次に、本発明の実施の形態において、加工ビーム10を長期間高出力で照射すると変換ビーム5に作用する屈折力が徐々に変化する波長変換素子4の特性を、図2から図4を用いて説明する。
【0034】
図2は、本発明の実施の形態におけるレーザ加工装置の加工ビーム10の電力量(以下、照射エネルギー積算値26)と、加工ビーム径の関係を表す図である。以下、加工ビーム径は、加工位置における加工ビーム10の直径を示す。
【0035】
図2において、縦軸は加工ビーム径、横軸は照射エネルギー積算値26を表す。加工ビーム径は、加工ビーム10の光量によっても変化するので、図2の加工ビーム径は、加工ビーム10の光量を基準光量(以後、基準出力パワー)としたときの値である。この基準出力パワーは、本実施の形態では、1.5Wとするが、照射エネルギー積算値26から加工ビーム径を予測できるため、それ以外の値でもよい。ただし、この場合は、後述の図3で、加工ビーム出力値17が、基準出力パワーになったときのビーム径割合が、1になるようにする。また、照射エネルギー積算値26が増加すると、加工ビーム径が大きくなるのは、波長変換素子4の光損傷による屈折率の変化が一因である。
【0036】
図3は、加工ビーム10の光量(以後、加工ビーム出力値17)と、加工ビーム10のビーム径割合の関係を表す図である。図3において、横軸は加工ビーム出力値17、縦軸はビーム径割合を表す。このビーム径割合は、加工ビーム出力値17を変化させたときに、加工ビーム径が、基準出力パワー(1.5W)時の加工ビーム径の何倍かを表している。図3より、加工ビーム出力値17が大きくなると、ビーム径割合も大きくなることがわかる。これは、加工ビーム出力値17が大きくなると、波長変換素子4内部で吸収される変換ビーム5も大きくなる。すると、波長変換素子4は、変換ビーム5の吸収によって、内部の温度が上昇する。波長変換素子4内部の温度上昇により、波長変換素子4内部の屈折率が変化する。このとき、変換ビーム5の光強度分布は、ビームの中央部が大きい。そのため、波長変換素子4の屈折率は、変換ビーム5が通過する光路の中央部の方が周辺部よりも大きくなる。すると、変換ビーム5の進行方向は、屈折率の高い光路の中央部に集まるようになる。その結果、変換ビーム5の拡がり角が小さくなり、第2の集光レンズ9で集光された加工ビーム10のビーム径は、集光位置で大きくなる。また、図3の関係は、長時間、加工ビーム10を照射し、照射エネルギー積算値26が変わっても一定であった。
【0037】
図4は、設定と実測の加工ビーム径とのビーム径誤差を補正する補正サイズと、ビーム径補正温度の関係を表す図である。図4において、横軸は補正サイズ、縦軸はビーム径補正温度を表す。ビーム径補正温度は、加工ビーム径を設定ビーム径33に調整する、波長変換素子4の補正温度を表している。これは、加工ビーム径が、波長変換素子4の温度を変更すると変わるという現象を利用している。波長変換素子4の温度によって加工ビーム径が変化する主な原因は、以下のように説明できる。まず、波長変換素子4の温度変更により、基本波レーザ光2の光量が一定の場合、光量の変換効率(=変換ビーム5の光量/基本波レーザ光2の光量)が変わる。すると、変換ビーム5の光量が変わるので、変換ビーム5の光量つまり加工ビーム10の光量を一定に保つため、マイクロコンピュータ16とレーザ駆動回路45によって、基本波レーザ光2の光量を調整する。すると、波長変換素子4の温度を変更する前に比べて、基本波レーザ光2の光量が変わり、波長変換素子4に吸収される基本波レーザ光2の光量も変わる。そのため、基本波レーザ光2が通過する波長変換素子4内の光路の温度が、基本波レーザ光2を吸収した変化分だけ変わる。その結果、波長変換素子4の光路の温度変化分だけ光路の屈折率が変わり、この屈折率の変化は光路の中央部が周辺部分よりも大きいので、波長変換素子4から出射される変換ビーム5の拡がり角が変わる。これにより、加工位置での加工ビーム径が変わるのである。
【0038】
以上のように構成されたレーザ加工装置について、図1から図5を用い、加工ビーム径を設定ビーム径33に一致させることを詳細に説明する。このとき、加工ビーム出力値17は1.5W(ワット)、設定ビーム径33は50μm、初期設定温度38は50.24℃、照射時間20は1分と仮定する。また、照射エネルギー積算値26は、10000Whとして、遅延器(下記、遅延器25)に保存されていると仮定する。
【0039】
図5は、本発明の特徴部分であるビーム径予測手段19とビーム径調整温度算出手段32の構成を示す図である。
【0040】
図5において、ビーム径予測手段19は、加工ビーム径を予測するため、第1の乗算器22と加算器24、遅延器25、基準ビーム径出力部27、ビーム径割合出力部29、第2の乗算器31で構成される。
【0041】
第1の乗算器22は、照射エネルギー23を計算するため、加工ビーム出力値17の1.5Wと照射時間20の1分(=1/60hour)を乗算する。さらに、第1の乗算器22は、この乗算結果の0.025Wh(=1.5W×(1/60)h)を、照射エネルギー23として出力する。
【0042】
加算器24は、照射エネルギー積算値26を計算するため、照射エネルギー23と遅延器25に保存された過去の照射エネルギー積算値を加算し出力する。このとき、第1の乗算器22が出力した照射エネルギー23は0.025Wh、遅延器25に保存された過去の照射エネルギー積算値は10000Whである。そのため、加算器24は、照射エネルギー積算値26を10000.025Wh(=10000Wh+0.025Wh)として出力する。
【0043】
遅延器25は、加算器24の出力した現在の照射エネルギー積算値26の10000.025Whを保持する。さらに、遅延器25は、この保持した照射エネルギー積算値26を加算器24が次の計算をする前に出力する。
【0044】
基準ビーム径出力部27は、基準出力パワー(1.5W)での加工ビーム径を予測し出力するためのものである。この基準ビーム径出力部27は、加算器24が出力した照射エネルギー積算値26に対応した基準出力パワーのビーム径28を図2に従い出力する。このとき、照射エネルギー積算値26は、10000.025Whであるので、図2から基準出力パワーのビーム径28は60μmとなる。照射エネルギー積算値26と基準出力パワーのビーム径28の関係は、基準ビーム径出力部27にあるROM27aに保存している。この時、基準ビーム径出力部27は、照射エネルギー積算値26に、一対一で対応づけたデータもしくは近似式に基づいて基準出力パワーのビーム径28を出力する。
【0045】
次に、ビーム径割合出力部29は、図3の関係により、現在の光量での加工ビーム径が基準出力パワー(1.5W)の加工ビーム径の何倍かを、ビーム径割合30として出力するものである。すると、図3より、ビーム径割合出力部29は、図1のマイクロコンピュータ16が出力した加工ビーム出力値17が1.5Wなので、ビーム径割合30を1倍として出力する。加工ビーム出力値17とビーム径割合30の関係は、ビーム径割合出力部29にあるROM29aに保存している。ビーム径割合出力部29は、加工ビーム出力値17に、一対一で対応づけたデータもしくは近似式に基づいてビーム径割合30を出力する。
【0046】
第2の乗算器31は、基準出力パワーのビーム径28とビーム径割合30から加工ビーム径を予測する予測ビーム径21を計算するためのものである。この時、第2の乗算器31は、基準出力パワーのビーム径28である60μmと、ビーム径割合33の1倍を乗算し、乗算結果の60μmを予測ビーム径21として出力する。
【0047】
ビーム径調整温度算出手段32は、予測ビーム径21から、加工ビーム径を設定ビーム径33にする温度(波長変換素子4の温度)を、図4から求め出力するものである。このビーム径調整温度算出手段32は、減算器35と補正温度出力部36、加算器37で構成される。まず、減算器35は、設定ビーム径33の50μmから、ビーム径予測手段19が出力した予測ビーム径21の60μmを減じ、−10μmを補正サイズとして出力する。
【0048】
すると、図4より、補正温度出力部36は、補正サイズが−10μmなので、ビーム径補正温度34を+0.24℃で出力する。補正サイズとビーム径補正温度34との関係は、補正温度出力部36にあるROM36aに保存している。補正温度出力部36は、補正サイズに、一対一で対応づけられたデータもしくは近似式に基づいてビーム径補正温度34を出力する。
【0049】
ビーム径調整温度算出手段32の加算器37は、加工ビーム径を設定ビーム径33に保つ波長変換素子4の温度を、ビーム径補正温度34から計算するものである。そのため、加算器37は、図1のマイクロコンピュータ16が出力した初期設定温度38とビーム径補正温度34を加算し、ビーム径調整温度39として出力する。すると、初期設定温度38が50.24℃、ビーム径補正温度34が+0.24℃なので、加工ビーム径を設定ビーム径33に保つビーム径調整温度39を50.48℃(=50.24+0.24)として出力する。
【0050】
次に、図1の温度センサ41が、例えばサーミスタならば、サーミスタの抵抗値から波長変換素子4の温度がわかる。ペルチェ42は、温度調整手段40が出力するペルチェ駆動電流46により排熱または吸熱し、波長変換素子4の温度を調整する。すると、波長変換素子4の温度がビーム径調整温度39の50.48℃になると、加工ビーム10のビーム径が、設定ビーム径33である50μmになる。
【0051】
図6は、加工ビーム10の照射時間とビーム径の関係を、従来例と本実施の形態で比較した図である。加工ビーム10の光量は、1.5Wとしている。従来例では、照射時間20の経過とともに加工ビーム径が増加し、ビーム径は一定にならない。一方、本実施の形態によると、加工ビーム径は、照射時間20が二万時間経過しても、設定ビーム径33の50μm近傍で一定となっている。
【0052】
以上のように、本実施の形態によると、ビーム径予測手段19で加工ビーム10のビーム径を予測する。ビーム径調整温度算出手段32は、ビーム径が設定ビーム径33になるような波長変換素子4の温度を計算する。温度調整手段40は、波長変換素子4の温度をビーム径調整温度算出手段32で計算された温度に基づいて温度を調整した。すると、図6のように、従来例では、加工ビーム10のビーム径が変化したのに対し、本実施の形態によると、加工ビーム10のビーム径は一定になる。その結果、プリント基板のビアホール等の加工径を一定の大きさにすることができる。
【0053】
なお、メモリ18に格納された設定ビーム径33は、ユーザーの設定によって、変更できる構成にしてもよい。すなわち、ユーザーが、外部の入力インターフェースを介して、設定したいビーム径をマイクロコンピュータ16に入力する。マイクロコンピュータ16は、ユーザーが設定したビーム径で、メモリ18に格納された設定ビーム径33を書き換える構成にしても良い。
【0054】
また、加工ビーム10の光量が、加工ビーム出力設定値43に一致する場合がある。このとき、予測ビーム径21の計算で、加工ビーム出力値17のかわりに加工ビーム出力設定値43を用いる構成にしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明にかかるレーザ加工装置は、波長変換素子の温度を変更し、加工ビーム径を調整したので、プリント基板のビアホール等の加工径を一定の大きさにできる。特に、加工ビーム径が変わるとビアホールの開口面積は、その変化の2乗で変化する。そのため、プリント基板の電気特性のバラツキを抑えることが期待されるものである。また、半導体パッケージなどに高解像度の記号をマーキングする用途にも期待できるものである。
【符号の説明】
【0056】
1 基本波レーザ
2 基本波レーザ光
3 第1の集光レンズ
4 波長変換素子
5 変換ビーム
6 部分反射ミラー
7 分岐光
8 透過した変換ビーム
9 第2の集光レンズ
10 加工ビーム
11 光量検出手段
12 光量情報
13 照射時間測定手段
14 変換ビームON信号
15 照射時間情報
16 マイクロコンピュータ
17 加工ビーム出力値
18 メモリ
19 ビーム径予測手段
20 照射時間
21 予測ビーム径
22 第1の乗算器
23 照射エネルギー
24 加算器
25 遅延器
26 照射エネルギー積算値
27 基準ビーム径出力部
27a ROM
28 基準出力パワーのビーム径
29 ビーム径割合出力部
29a ROM
30 ビーム径割合
31 第2の乗算器
32 ビーム径調整温度算出手段
33 設定ビーム径
34 ビーム径補正温度
35 減算器
36 補正温度出力部
36a ROM
37 加算器
38 初期設定温度
39 ビーム径調整温度
40 温度調整手段
41 温度センサ
41a 温度情報
42 ペルチェ
43 加工ビーム出力設定値
44 レーザ駆動値
45 レーザ駆動回路
46 ペルチェ駆動電流
47 レーザ駆動電流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本波レーザ光を高調波レーザ光に変換し変換ビームとする波長変換素子と、
前記変換ビームを加工ビームとして集光する集光レンズと、
前記波長変換素子の初期設定温度と前記加工ビームの設定ビーム径とが格納されるメモリと、
前記変換ビームの一部を光量情報として検出する光量検出手段と、
前記変換ビームの照射時間を測定し照射時間情報を測定する照射時間測定手段と、
前記光量情報と前記照射時間情報とから前記加工ビームの予測ビーム径を計算するビーム径予測手段と、
前記予測ビーム径と前記設定ビーム径との差分に応じたビーム径調整温度を計算し、このビーム径調整温度になるように前記波長変換素子の温度調整を行う温度調整手段とを有するレーザ加工装置。
【請求項2】
前記ビーム径予測手段は、前記光量情報と前記照射時間情報の乗算結果を積算した値に基づいて計算された照射エネルギー積算値と、この照射エネルギー積算値によって変化するビーム径と前記光量情報によって変化するビーム径割合とから前記加工ビームの予測ビーム径を計算する請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記照射時間測定手段は、前記波長変換素子から出力された変換ビームが照射される期間に0からカウントアップするカウンタで、前記照射時間情報を測定する請求項1に記載のレーザ加工装置。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−24829(P2012−24829A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−167973(P2010−167973)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】