説明

レーザ加工装置

【課題】サブビームを使用することなく加工ビームのみを用いた簡素な構成で、レーザ照射効率が高く、加工時間の短縮化が図られるレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】レーザ加工装置は、レーザ光を発生するレーザ発振器1と、レーザ発振器1からのレーザ光を被加工物Wに照射するためのレーザ光学系6と、レーザ光および被加工物を相対移動させるためのステージ7と、レーザ光の照射時に被加工物Wからの反射光の強度を測定するための光強度測定器11と、ステージ7の動作を制御するための制御部12などで構成される。制御部12は、被加工物Wの加工中に光強度測定器11で測定された反射光強度に基づいて、レーザ光および被加工物Wの相対移動経路を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光の照射によって被加工物を加工するためのレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
IGBTなどのパワーデバイスでは、プレーナー型やトレンチ型のゲート構造やアルミ薄膜でエミッタ電極を作り込んだウエハ表面側の温度を上昇させずに、ウエハ裏面側にイオン注入などにより形成された不純物層のみを高温加熱し、不純物を電気的に活性化するアニール処理を行っている。アニール処理では、一般に、Nd:YLFレーザ装置(波長1053nm)やNd:YAGレーザ装置(波長1064nm)などを基本波レーザを光源として用いたパルスレーザビームを半導体基板に照射し、活性化を行うレーザ加工装置が広く用いられている。
【0003】
また、一枚のウエハから可能な限り多数のチップを取得するために、ウエハエッジから数mmまでのエッジ領域以外は全てチップ領域として利用している。さらに、チップ領域の不純物活性化率を安定させるために、ウエハエッジ近傍まで精度良くレーザビームを照射しなければならない。その際、レーザビームがウエハから大きくはみ出して照射されると、ウエハを設置しているステージがレーザビームのダメージを受け、変形・変質してしまう。
【0004】
特許文献1では、ヒートモード型の記録材料層が表面に形成された加工対象物に対してビームスポットを照射し、微小ピットを形成するためのレーザ加工装置が提案されている。光加工ヘッドとして、半導体レーザを含む光ピックアップを用いており、メインビームを用いたフォーカシング制御およびサブビームを用いたトラッキング制御を行い、さらにサブビームの反射光検出によって欠陥領域の位置情報を記憶している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−75992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のレーザ加工装置では、加工ビームとは別のサブビームが必要となる。また、加工ビームによる加工処理を行いながら、加工ビームの走査に先行してサブビームを走査するためには、サブビーム用の光学系が必要になり、部品点数が増加してしまうという課題がある。仮に、加工ビームと同一の光学系を用いた場合には、加工ビームとサブビームを同時に走査することができないため、サブビームによるウエハ全面の走査完了後に、加工ビームによるウエハ全面の走査を行わなければならず、ウエハあたりの加工時間が非常に長くなるという課題がある。
【0007】
本発明の目的は、サブビームを使用することなく加工ビームのみを用いた簡素な構成で、レーザ照射効率が高く、加工時間の短縮化が図られるレーザ加工装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係るレーザ加工装置は、レーザ光を発生するレーザ発振器と、
レーザ発振器からのレーザ光を被加工物に照射するための光学系と、
レーザ光および被加工物を相対移動させるための移動機構と、
レーザ光の照射時に被加工物からの反射光の強度を測定するための光強度測定器と、
移動機構の動作を制御するための制御部とを備え、
制御部は、被加工物の加工中に光強度測定器で測定された反射光強度に基づいて、レーザ光および被加工物の相対移動経路を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、レーザ光の照射時に被加工物からの反射光の強度を測定することによって、被加工物の加工状態を監視できるだけでなく、被加工物のエッジを検出することが可能になる。そのため被加工物のエッジ近傍まで効率良くレーザ加工を施すことができる。また、サブビームによる予備走査が不要になるため、装置構成の簡素化、加工時間の短縮化が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態を示す構成図である。
【図2】図2(a)は、被加工物の表面における光ビームの形状を示すグラフであり、図2(b)は、光ビームのラスター走査の様子を示す説明図である。
【図3】図3(a)は、走査線に沿った反射光強度の変化を示すグラフであり、図3(b)は、X方向に沿った被加工物の表面形状を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は、本発明の一実施形態を示す構成図である。レーザ加工装置は、レーザ発振器1と、レーザ光学系6と、ステージ7と、モニタ光学系10と、光強度測定器11と、制御部12などで構成される。
【0012】
レーザ発振器1は、筐体2の内部に収納され、被加工物Wの加工処理に適した出力および波長を有するレーザ光を発生する。本実施形態では、被加工物Wは、不純物がイオン注入された半導体ウエハであり、加工処理として、レーザ光の照射によって不純物を活性化するアニール処理を行う場合について説明するが、その他の加工処理についても本発明は適用可能である。
【0013】
ウエハアニールの場合、レーザ発振器1として、例えば、Nd:YLFレーザ(波長1053nm)やNd:YAGレーザ(波長1064nm)等のパルス発振レーザが使用できる。これらのパルス発振レーザは、励起用光源であるレーザダイオードと、ポンピングチャンバーと、光共振器と、Qスイッチ用のシャッターなどで構成され、シャッターの周期的開閉により高出力のレーザパルスを所定の周期で外部に出射する。こうした高出力レーザパルスを使用することによって、照射領域のみを局所的に高温加熱することが可能となる。
【0014】
レーザ光学系6は、分岐ミラー3と、ビームホモジナイザ4と、集光レンズ5などを備える。分岐ミラー3は、レーザ発振器1からのレーザ光を被加工物Wに向けて反射するとともに、レーザ光の照射時に被加工物Wからの反射光を通過させる機能を有する。ビームホモジナイザ4は、レーザ発振器1からのレーザ光を均一な光強度分布を持つビーム形状、例えば、略矩形断面の光ビームに造形する機能を有する。集光レンズ5は、ビームホモジナイザ4で造形された光ビームLBを集光して、ステージ7に搭載された被加工物Wに照射する。
【0015】
ステージ7は、いわゆるXYステージで構成され、光ビームの光軸と平行な方向をZ方向として、Z方向に垂直なX方向およびY方向に被加工物Wを移動したり、所望の位置に停止させる機能を有する。例えば、図2(b)に示すように、複数の走査線からなるラスター走査で被加工物Wを移動することによって、被加工物Wの表面全体にレーザ光照射を施すことができる。
【0016】
なお、レーザ光および被加工物の相対移動に関して、本実施形態では、光ビームLBを固定し、被加工物Wを移動させる場合を例示するが、被加工物Wを固定し、レーザ発振器1およびレーザ光学系6をステージに設置して光ビームLBを移動させることによっても同様なラスター走査を実現できる。
【0017】
被加工物Wに光ビームLBが照射されると、その表面から反射光(散乱光を含む)が発生する。反射光の一部は、光ビームLBの光軸に沿って逆行し、集光レンズ5、ビームホモジナイザ4、分岐ミラー3を通過する。モニタ光学系10は、集光レンズ等で構成され、分岐ミラー3を通過した反射光を光強度測定器11の受光面に集光する。
【0018】
光強度測定器11は、光検出器、増幅器などで構成され、被加工物Wからの反射光の強度を測定し、測定信号を制御部12へ出力する。
【0019】
制御部12は、マイクロプロセッサ等で構成され、所定のプログラムに従ってレーザ発振器1の動作およびステージ7の動作を制御するだけでなく、光強度測定器11からの測定信号を解析することによって、被加工物Wの加工状態を監視したり、被加工物Wのエッジを検出している。
【0020】
図2(a)は、被加工物Wの表面における光ビームLBの形状を示すグラフである。図2(b)は、光ビームLBのラスター走査の様子を示す説明図である。ビームホモジナイザ4で造形された光ビームLBは、XY面に沿って略矩形状の断面を有し、X方向およびY方向に沿って均一な光強度分布を示す。また、光ビームLBの移動方向をX方向として、X方向に垂直なY方向に沿って細長い矩形断面に設定することが好ましく、これにより被加工物Wへの照射密度を高くして高温加熱を達成しつつ、光ビームの走査効率を向上させている。
【0021】
ラスター走査に関して、図2(b)に示すように、最初に、光ビームLBは被加工物Wを横断するようにX方向に移動する(走査線SL1)。続いて、光ビームLBは所定ピッチPyだけY方向に移動した後、被加工物Wを横断するように−X方向に移動する(走査線SL2)。続いて、光ビームLBは所定ピッチPyだけY方向に移動した後、被加工物Wを横断するようにX方向に移動する(走査線SL3)。続いて、光ビームLBは所定ピッチPyだけY方向に移動した後、被加工物Wを横断するように−X方向に移動する(走査線SL4)。以下同様に、光ビームLBは往復走査することによって、被加工物Wの表面全体にレーザ光が照射される。
【0022】
図3(a)は、走査線に沿った反射光強度の変化を示すグラフであり、図3(b)は、X方向に沿った被加工物Wの表面形状を示す断面図である。被加工物Wであるウエハは、一般に、エッジ近傍で肩だれが生じたエッジ部Waと、半導体チップを取得するための平坦部Wbを有する。
【0023】
例えば、IGBT製造プロセスにて、イオン注入によってウエハ裏面側に注入されたボロンやリン、砒素などの不純物を活性化するためにレーザ加工を施すシリコンウエハ裏面は、導電性薄膜や絶縁性薄膜のパターンが形成されておらず、非常に平坦なミラー面である。例えば、ポリッシュ処理や混酸によるウエットエッチング処理にて、シリコンミラー面が形成可能である。
【0024】
この平坦なミラー面に光ビームLBを照射した場合、グラフ中央部に示すように、平坦部Wbの照射時には反射光強度は強く、非常にばらつきが小さい安定した値を示す。しかし、光ビームLBがエッジ部Waを照射した場合、光ビームLBの一部が肩だれに起因した斜めミラー面で反射されるため、グラフ両側に示すように、光強度測定器11に入射する反射光の割合が激減する。制御部12は、光強度測定器11で測定した反射光強度を解析し、例えば、反射光強度が所定の閾値を下回ったとき、光ビームLBがエッジ部Waを照射していると判定することができる。
【0025】
例えば、図2(b)の走査線SL3において、光ビームLBがウエハ右端を通過する際、制御部12は、反射光強度の低下を検出すると、平坦部Wbの照射が完了する時点を見計らってX方向の走査を直ちに停止する。続いて、光ビームLBを所定ピッチPyだけY方向に移動して走査線SL4に移行した後、−X方向の移動を開始する。なお、光ビームLBがウエハの一部だけを走査する場合(例えば、走査線SL1,SL2)、光強度測定器11で測定される反射光強度は常に変動するため、閾値処理による判定を行わずに、予め設定した移動経路に従って光ビーム走査を実行することが好ましい。
【0026】
こうした反射光モニタリングを利用した走査制御を実行することにより、簡素な構成で精度良くウエハエッジを検出でき、ウエハのみに光ビームLBを照射することが可能となる。その結果、ウエハエッジより外側に光ビームLBが照射されて、例えば、Al製のステージ7が損傷したり変形するといった事故を確実に防止できる。
【符号の説明】
【0027】
1 レーザ発振器、 2 筐体、 3 分岐ミラー、 4 ビームホモジナイザ、
5 集光レンズ、 6 レーザ光学系、 7 ステージ、 10 モニタ光学系、
11 光強度測定器、 12 制御部、 LB 光ビーム、
SL1〜SL4 走査線、 W 被加工物、 Wa エッジ部、 Wb 平坦部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を発生するレーザ発振器と、
レーザ発振器からのレーザ光を被加工物に照射するための光学系と、
レーザ光および被加工物を相対移動させるための移動機構と、
レーザ光の照射時に被加工物からの反射光の強度を測定するための光強度測定器と、
移動機構の動作を制御するための制御部とを備え、
制御部は、被加工物の加工中に光強度測定器で測定された反射光強度に基づいて、レーザ光および被加工物の相対移動経路を制御することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
被加工物は、不純物がイオン注入された半導体ウエハであり、
レーザ光の照射によって不純物を活性化するアニール処理を行うことを特徴とする請求項1記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
光学系は、ビーム移動方向に対して垂直な方向に細長い矩形断面を有する光ビームを被加工物に照射することを特徴とする請求項1記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
レーザ光および被加工物の相対移動は、複数の走査線からなるラスター走査で行われ、
制御部は、第1走査線の照射中に、測定された反射光強度が所定閾値未満に低下した場合、第2走査線の照射に変更することを特徴とする請求項3記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
レーザ発振器は、パルス発振レーザであることを特徴とする請求項1記載のレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−84620(P2012−84620A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228042(P2010−228042)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】