説明

レーダの軸ずれ量決定装置

【課題】 静止物標の分布に基づくレーダの水平方向軸ずれ量決定において、直線走行からカーブ走行に移行する際にも正確に軸ずれ量を決定する。
【解決手段】 検出された静止物標の2次元的な分布のデータおよび直線走行かカーブ走行かを示すフラグを現在から所定時間前まで時系列的に保持することによって(ステップ1002〜1018)、所定時間前の分布データおよびフラグをそれぞれT_Map(4)およびT_Flag(4)として保持する。現在および所定時間前のいずれにおいても直線走行していたと判定されるときのみ(ステップ1020)所定時間前の分布データT_Map(4)をA_Mapに積算し(ステップ1022)、積算値A_Mapに基いて軸ずれ量を演算する(ステップ1026)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輌に搭載されたレーダの水平方向の軸ずれ量を決定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載用レーダには、ターゲットとの距離R、ターゲットの相対速度Vのほかに、電波の発射方向を電子的または機械的に走査することによってターゲットの方位角度θを検出し、X=R・sinθによりターゲットの横位置Xを検出し得るものがある。横位置Xを検出することにより、自車の進行方向前方を走行する車輌の距離および相対速度に基いて車間距離を制御することが可能になる。
【0003】
この様な車載用レーダが車輌に設置された後、何らかの原因で加わった外力により水平方向の軸ずれが発生すると、レーダが認識する車輌の進行方向と車輌の実際の進行方向にずれを生じる。このため、レーダが検出するターゲットの方位角度θに実際の方位角度からのずれを生じることになり、車間制御の対象となるターゲットの位置を誤って認識することになる。
【0004】
下記特許文献1には、道路の両側に設けられているガードレールなどの多数の静止物体の検出位置が道路の左右の仮想的な直線に沿って分布することを利用して、静止していると認識された物体の位置の分布から最小2乗法により仮想直線を求め、この仮想直線の傾きを水平方向軸ずれ量とする手法が開示されている。
【0005】
レーダを搭載している車輌がカーブを走行しているときは、前方のガードレール等の静止物体の並ぶ方向が自車の進行方向に対して傾斜しているため軸ずれ量の誤認識を起こすことになる。特許文献1には、これを避けるため、ヨートレートセンサの出力に基いて自車が直線走行しているかどうかを検出し、直線走行しているときのみ軸ずれ角θを検出することが開示されている。
【0006】
しかしながら、図1に示すように、車輌20が直線走行からカーブ走行に移行する直前においては、センサの出力が直線走行を示しているにもかかわらず、前方の静止物体22の分布から得られる仮想直線24が車輌の進行方向26に対して傾斜する状況が生じ、このため、軸ずれ量を誤って認識するという問題を生じる。
【0007】
【特許文献1】特開2001−166051号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって本発明の目的は、軸ずれ量を正確に決定することの可能な軸ずれ量決定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、検出された静止物標の2次元的な分布のデータを現在から所定時間前まで時系列的に保持することによって所定時間前の分布データを保持する保持手段と、該保持手段が保持する所定時間前の分布データを積算する積算手段と、該積算された分布データに基いて軸ずれ量を算出する軸ずれ量算出手段とを具備し、前記積算手段は、現在または所定時間前においてレーダを搭載する車輌の回転半径が所定値以下であるとき、前記所定時間前の分布データに所定の比率を乗じて積算するレーダの軸ずれ量決定装置が提供される。
本発明によれば、検出された静止物標の分布のデータを現在から所定時間前まで時系列的に保持する保持手段と、該保持手段が保持する所定時間前の分布データを積算する積算手段と、該積算された分布データに基いて軸ずれ量を算出する軸ずれ量算出手段とを具備し、前記積算手段は、現在または該所定時間前においてレーダを搭載する車輌の回転半径が所定値以下であるとき、該所定時間前の分布データを前記積算に使用しないレーダの軸ずれ量決定装置もまた提供される。
【0010】
上記の構成において、積算手段は通常は所定時間前に得られた分布データを積算しており、それに基いて軸ずれ量が算出される。レーダを搭載する車輌がカーブに差し掛かって回転半径が所定値以下になると、それ以降は所定時間前の分布データに所定の比率、好ましくはゼロを乗じたものが積算されるので、カーブに入る所定時間前からの分布データの寄与は小さくなるかまたはゼロになり、図1を参照して述べた問題は解消される。
【0011】
一方、カーブを曲がり終わって直線走行に移った直後では、所定時間前の分布データはカーブ走行中の分布データであるということになるので、これをそのまま積算すると不正確な軸ずれ量が得られることになる。そこで、「現在または所定時間前において」回転半径が所定値以下であるとき分布データに所定の比率、好ましくはゼロを乗じて積算する構成とすることでこの問題を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図2は本発明が適用されるレーダの一例としての、車間制御用レーダの構成を示す。
【0013】
図2において、ECU10はヨーレートセンサ12からの信号および車速センサ14からの信号に基づき自車の回転半径を算出し、車速のデータと共にFM−CWレーダ16へ送る。ヨーレートセンサ12の出力の代わりにステアリングセンサ(図示せず)の出力を用いても回転半径を算出することができる。FM−CWレーダ16は、三角波で周波数変調されたミリ波帯の電波を自車の前方へ発射し、反射波を解析することにより、前方に存在する物標との距離および物標の相対速度を算出する。FM−CWレーダ16はまた、前述したように、電波の発射方向を走査し、そのときの反射波のパワーの分布に基いて物標の横位置を算出し、距離および相対速度のデータとともにECU10へ送る。ECU10はそれらのデータに基づき、前方を走行する車輌との距離を一定に保つための制御信号を生成して出力する。
【0014】
本発明の一実施形態では、水平方向の軸ずれ量を算出するため、ECU10はまずFM−CWレーダ16が検出した物標の中で相対速度が車速に実質的に一致するものを静止物標として特定する。そして、横軸を静止物標の横位置、たて軸を静止物標の距離とする2次元平面を横軸およびたて軸に平行な等間隔の直線で区切り、区切られた各区域に入る静止物標の数をカウントすることによって、図3に示すような分布データを作成する。以下この分布データをTemp_MapあるいはT_Mapと称することとする。図3に示した例は、100msec周期で得られた静止物標のデータを10回加算して得られたものである。
【0015】
このようなT_Mapを一定周期(例えば100sec×10=1sec周期)で作成し、所定時間前(例えば4sec前)のT_Mapを保持するために、現在から所定時間前までのT_Mapを例えばT_Map(I)(I=0,1…4)として時系列的に保持する。ここでT_Map(I)は例えばI秒前のT_Mapを意味するものとする。
【0016】
自車の回転半径が所定値(例えば2000m)よりも大きくて直線走行していると判断される間はこの所定時間前の分布データ(例えばT_Map(4))を積算していくことにより水平方向軸ずれ量の計算に必要な分布データを得る。この積算された分布データを以下A_Mapと称することとする。A_Mapからの水平方向軸ずれ量の計算は、例えば前述の特許文献1に記載されているように、最小2乗法によって求められた仮想直線の傾きを軸ずれ量とする。
【0017】
自車の回転半径が所定値よりも小さくなってカーブに進入したと判断されるときは直ちにT_Map(4)のA_Mapへの積算を停止する。これによって、カーブに進入するよりも所定時間前からの分布データはA_Mapへの積算から除外され、軸ずれ量の精度を向上させることができる。
【0018】
一方、カーブ走行から直線走行に移行した直後においては所定時間前の分布データはカーブによる傾斜を含むことになる。そこで、回転半径が所定値以上であったか否かを示すフラグT_Flag(I)をT_Map(I)とともに時系列的に保持することによって所定時間前の分布データが直線走行中のものであったか否かを示す情報を保持する。T_Map(4)をA_Mapに積算する際には、現在および所定時間前の双方において直線走行中であるときのみ積算することとすれば、この問題を回避することができる。
【0019】
図4はECU10のプログラムにより実現される軸ずれ量決定処理の第1の例を示すフローチャートである。図4に示す処理は一定周期、例えば1秒周期で起動される。最初にレーダを搭載する車輌の速度Vが所定値V0(例えば36km/h)を超えているかが判定され、車速VがV0以上であるときのみこの処理が実行される。
【0020】
ステップ1002,1004,1006および1008において、時系列的に格納されている過去の分布データT_Map(I)およびフラグT_Flag(I)(I=1,2…4)を更新するため、I=4,3,2,1について、T_Map(I−1)のデータがT_Map(I)に移され、T_Flag(I−1)の値がT_Flag(I)に移される。
【0021】
次に、FM−CWレーダ16が検出した物標の中で相対速度が自車の速度に実質的に一致するものが静止物標と特定され(ステップ1010)、その2次元的な分布がT_Map(0)に保存される(ステップ1012)。前述したように、例えば100msec周期で分布を決定し、その10回分を加算してT_Map(0)としても良い。ステップ1014において、ヨートレートセンサ12の出力から決定される自車の回転半径Rの絶対値が所定値R0(例えば2000m)と比較され、RがR0以上であるときはT_Flag(0)をゼロに(ステップ1016)、RがR0以下であるときはT_Flag(0)が1に設定される(ステップ1018)。そして、T_Flag(0)またはT_Flag(4)がゼロであるか否かが判定され(ステップ1020)、両者がいずれもゼロであるときはT_Map(4)がA_Mapに積算され(ステップ1022)、少なくとも一方がゼロでないときは、この処理はバイパスされる。最後に、ステップ1024において軸ずれ値の演算条件、例えばA_Mapに値が100を超える領域が10ヶ所以上存在するか、が判定され、演算条件が成立しないときはステップ1000の処理に戻り、演算条件が成立するときは、A_Mapから軸ずれ量が計算され(ステップ1026)、A_Mapの値がクリアされる(ステップ1028)。
図5はA_Mapの一例を示す。例えば値が150を超えた領域が縦に(距離方向に)4箇所以上並んだとき、この縦の各エリアについての直線を最小2乗法により演算して180/πで近似することによりその傾きを求める。傾きと進行方向とのなす角度が軸ずれ量となる。すなわち、4つの領域(図中、四角で囲んで示す)の横方向の位置をxi(i=1〜4)、たて方向の値をyiとして、軸ずれ角θは、式
θ=(4*Σxii−Σyi)/(4*Σxi2−(Σxi2)*(180/π)
により算出される。算出された軸ずれ量が例えば5°以上のとき異常と判定され、5°未満のとき正常と判定される。
【0022】
図6は本発明の軸ずれ量演算処理の第2の例を示すフローチャートである。図4の例と異なる点は、T_Flag(0)またはT_Flag(4)が1であるとき、T_Map(4)に所定の比率、例えば0.5を乗じたものをA_Mapに加算する(ステップ1023)点である。レーダを搭載する車輌が一般道路を走行する際には直線走行時のデータがなかなか得られないので、このようにすることで早期に軸ずれ量を算出することができる。
【0023】
積算に使用する分布データ(ステップ1022,1023)を前述したように「所定時間」という固定時間前の分布データとする代わりにこれを車速に応じて変更することにより「所定の距離」だけ前のデータを積算するようにしても良い。また、前述の「所定の比率」を車輌の回転半径に応じて変更するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の課題を説明するための図である。
【図2】本発明が適用されるレーダの一例の構成を示すブロック図である。
【図3】T_Mapの一例を示す図である。
【図4】本発明の軸ずれ量決定処理の一例のフローチャートである。
【図5】A_Mapの一例を示す図である。
【図6】本発明の軸ずれ量決定処理の他の例のフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出された静止物標の分布のデータを現在から所定時間前まで時系列的に保持する保持手段と、
該保持手段が保持する所定時間前の分布データを積算する積算手段と、
該積算された分布データに基いて軸ずれ量を算出する軸ずれ量算出手段とを具備し、
前記積算手段は、現在または該所定時間前においてレーダを搭載する車輌の回転半径が所定値以下であるとき、該所定時間前の分布データに所定の比率を乗じて積算するレーダの軸ずれ量決定装置。
【請求項2】
前記所定の比率はゼロである請求項1記載のレーダの軸ずれ量決定装置。
【請求項3】
前記所定の比率は前記車輌の回転半径に応じて変更される請求項1のレーダの軸ずれ量決定装置。
【請求項4】
検出された静止物標の分布のデータを現在から所定時間前まで時系列的に保持する保持手段と、
該保持手段が保持する所定時間前の分布データを積算する積算手段と、
該積算された分布データに基いて軸ずれ量を算出する軸ずれ量算出手段とを具備し、
前記積算手段は、現在または該所定時間前においてレーダを搭載する車輌の回転半径が所定値以下であるとき、該所定時間前の分布データを前記積算に使用しないレーダの軸ずれ量決定装置。
【請求項5】
前記所定時間は前記車輌の速度に応じて変更される請求項1〜4のいずれか1項記載のレーダの軸ずれ量決定装置。
【請求項6】
前記車輌の速度が所定値以下のとき、前記保持手段が保持する分布データの更新および前記積算手段による分布データの積算が停止される請求項1〜5のいずれか1項記載のレーダの軸ずれ量決定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−275748(P2006−275748A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−94848(P2005−94848)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】