説明

レーダ装置

【課題】陸や物標からのエコーを残し、雨雪反射のみを良好に抑圧することができるレーダ装置を提供する。
【解決手段】レーダ装置は、自動利得制御部10を備えている。自動利得制御部10は、データ抽出部11と、閾値算出部12と、利得制御部13と、を備えている。データ抽出部11は、受信信号をサンプリングした受信データ系列の中から、信号レベルが距離方向でランダムに変動する受信データを、陸及び物標からのエコーを含まない受信データである雨雪/ノイズデータとして抽出する。閾値算出部12は、前記雨雪/ノイズデータに基づいて、雨雪反射及び受信機雑音を除去するための雨雪反射等除去閾値を算出する。利得制御部13は、前記受信データの信号レベルと、雨雪反射等除去閾値と、を比較し、信号レベルが雨雪反射等除去閾値以上の受信データのみを選択して出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置において、雨雪反射を除去するための構成に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置においては、陸や物標からのエコー(反射波)のほか、波からのエコー(海面反射)や、雨や雪からのエコー(雨雪反射)がアンテナで受信される。特に雨雪反射は、自船位置からの距離だけでなく、天候により受信データの信号レベルが大きく変動するため抑圧が困難であり、従来から雨雪反射の抑圧技術が各種提案されている。例えばこの雨雪反射を抑圧する従来技術として、CFAR(Constant False Alarm Rate)とFTC(Fast Time Constant)が良く知られている。これらの技術は、「物標(船やブイなど)が孤立して存在するのに対して、雨は連続的に分布する」という性質を利用している。
【0003】
一方、特許文献1は、入力信号を所定の閾値(クランプレベル)でクランプし、相関処理を施すことによりランダム性の高い信号を取り除き、物標からの反射信号のみを抽出する構成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−243842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、陸地もまた、雨と同様に連続的に分布する。従って、CFARやFTCといった技術では、雨雪反射だけでなく陸地からのエコーも抑圧してしまう。また、特許文献1の構成は、入力信号をクランプするための閾値が不適切な場合に、陸や物標からのエコーを抑圧してしまう場合があると考えられる。
【0006】
しかし、特に船舶用レーダにおいては、安全な航海を支援するために、陸地、例えば半島や人工島などからのエコーを明瞭に表示することが求められる。
【0007】
本願発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、陸や物標からのエコーを残し、雨雪反射のみを良好に抑圧することができる自動利得制御装置及びパルスレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0009】
本発明の観点によれば、以下の構成のレーダ装置が提供される。即ち、このレーダ装置は、受信信号をサンプリングした受信データ系列の中から、信号レベルが距離方向でランダムに変動する受信データを、陸及び物標からのエコーを含まない受信データである雨雪データとして抽出するデータ抽出部を備える。
【0010】
即ち、陸や物標からのエコーを示す受信データは、信号レベルが穏やかに変動する傾向がある。一方、雨雪反射を示す受信データは、信号レベルが細かくランダムに変動する傾向がある。このため、上記のように、信号レベルが距離方向でランダムに変動する受信データを抽出することにより、陸や物標からのエコーを含まない受信データを取り出すことができる。
【0011】
前記のレーダ装置においては、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記データ抽出部は、前記受信データに対して2次微分フィルタ処理を行った結果に基づいて、当該受信データを前記雨雪データとして抽出するか否かを判断する。
【0012】
これにより、細かくランダムに変動している受信データを雨雪データとして抽出することができる。また、1次微分フィルタ処理とは異なり、2次微分フィルタ処理は波形のエッジの立ち上がり(又は立ち下がり)を検出しない。従って、陸や物標からのエコーのエッジを検出することなく、ランダムに変動している部分だけを確実に抽出することができる。
【0013】
前記のレーダ装置においては、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記2次微分フィルタ処理は、演算結果をρ[n]、受信データの信号レベルをx[n]、送信パルス幅に比例した自然数のパラメータをΔn、サンプリング時刻を示す整数をnとおくと、以下の式(1)で表される。そして、前記データ抽出部は、演算結果ρ[n]が所定範囲を超えたときの受信データを、前記雨雪データとして抽出する。
【数1】

【0014】
これにより、2次微分フィルタ処理の演算結果が所定範囲を超えた受信データを、雨雪データとして抽出することができる。また、演算においては、上記式(1)の右辺で示すように、受信データの信号レベルで除算することにより、その結果が受信データの信号レベルで規格化されている。従って、2次微分フィルタ処理の演算結果として、信号レベルに依存しない値を得ることができる。また、パラメータΔnが送信パルス幅に比例するので、2次微分フィルタ処理を行う際に考慮する受信データの範囲を、送信パルス幅に応じて変更することができる。従って、2次微分フィルタ処理の演算結果として、パルス幅に依存しない値を得ることができる。
【0015】
上記のレーダ装置においては、以下のように構成されることが好ましい。即ち、このレーダ装置は、閾値算出部と、利得制御部と、を備える。前記利得制御部は、前記受信データの信号レベルと、閾値と、を比較し、信号レベルが前記閾値以上の受信データのみを選択して出力する。前記閾値算出部は、前記雨雪データに基づいて、前記閾値を算出する。
【0016】
このように、雨雪反射を除去するための閾値を雨雪データの信号レベルに基づいて算出することにより、雨雪反射を適切に除去することができる。一方、陸や物標からのエコーは、雨雪反射に比べて信号レベルが強い傾向がある。言い換えれば、雨雪データの信号レベルは、陸や物標からのエコーの信号レベルに比べて弱い。従って、陸や物標からのエコーの信号レベルよりも確実に小さい閾値を、雨雪データの信号レベルに基づいて算出することができる。これにより、雨雪反射のみを除去し、陸や物標からのエコーは確実に残すような閾値を決定することができる。
【0017】
前記のレーダ装置においては、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記閾値算出部は、前記雨雪データとして抽出された受信データであって、所定領域内で検出された受信データの信号レベルの平均値に基づいて、当該所定領域についての前記閾値を算出する。
【0018】
これにより、所定領域内の雨雪データに基づいて閾値を算出できるので、各領域ごとにそれぞれ適切な値を閾値として採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係るレーダ装置の受信系の主要構成を示すブロック図。
【図2】受信データ系列の例を示す図。
【図3】図2の受信データ系列に対して2次部分フィルタ処理を施した結果をプロットした図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る船舶用レーダ装置の主要構成を示すブロック図である。なお、本実施形態では船舶用のパルスレーダ装置として説明するが、本発明のレーダ装置の用途が船舶用に限られるものではない。
【0021】
本実施形態のレーダ装置が備えるレーダアンテナ1は、鋭い指向性を持った放射信号(パルス状電波)を放射可能であるとともに、自装置周囲にある陸や物標からのエコー(反射信号)を受信するように構成されている。また、レーダアンテナ1は、所定の回転周期で水平面内で回転しながら、前記信号の送受信を繰り返し行うように構成されている。
【0022】
表示器8は、CRT、LCD等であり、グラフィック表示可能なラスタスキャン式の表示装置として構成されている。
【0023】
ここで、放射信号を放射してからエコーが返ってくるまでに掛かる時間は、レーダアンテナ1から陸又は物標までの距離に比例する。従って、放射信号を放射してから受信信号を受信するまでの時間を動径R、当該信号の送受信を行ったときのアンテナ角度を偏角θとすることにより、陸又は物標の位置をレーダアンテナ1を中心とした極座標系で取得することができる。この極座標系で取得された陸又は物標の位置を平面上にプロットすることにより、レーダ映像を得ることができる。本実施形態のレーダ装置は、前記レーダ映像を前記表示器8に表示することにより、自装置周囲の陸又は物標の様子を確認できるように構成したものである。
【0024】
なお、レーダアンテナ1は、陸や物標からのエコー以外にも、雨や雪からのエコー(以下、雨雪反射という)を受信する。また、当該レーダアンテナ1が受信した信号には受信機雑音(ランダムノイズ)が含まれる。従って、仮にレーダアンテナ1で受信した信号を表示器8にそのまま表示する構成とすると、陸や物標とともに雨雪反射等もプロットされたレーダ映像が表示されてしまう。なお本明細書では、雨雪反射及び受信機雑音をまとめて「雨雪反射等」と称する場合がある。
【0025】
本実施形態のレーダ装置は、このような雨雪反射等を抑圧するための自動利得制御部10を備えており、陸及び物標の位置のみを表示器8に表示することが可能に構成されている。これにより、パルスレーダ装置のオペレータは、雨天時等においても陸及び物標を容易に認識することができる。なお、前記雨雪反射等を抑圧するための構成については後に詳述する。
【0026】
次に、各構成について詳しく説明する。
【0027】
受信回路2は、レーダアンテナ1が受信した信号を検波して対数増幅し、A/D変換部3に出力する。A/D変換部3は、このアナログ型式の受信信号をサンプリングし、複数ビットからなるデジタルデータ(受信データ)に変換する。ここで、前記受信データが示す値は、レーダアンテナ1が受信した信号の強度(信号レベル)に対応している。A/D変換部3は、前記受信データをスイープメモリ4に出力する。
【0028】
スイープメモリ4は、前記受信データを1スイープ分リアルタイムで記憶することができるバッファである。ここで、「スイープ」とは、放射信号を放射してから次の放射信号を放射するまでの一連の動作をいい、「1スイープ分の受信データ」とは、放射信号を放射した後、次の放射信号を放射するまでの期間にサンプリングした受信データ系列をいう。バッファであるスイープメモリ4は、A/D変換部から受信データが新たに書き込まれると、次のスイープによって当該受信データが上書きされてしまう前に、自動利得制御部10に対して受信データを順次出力する。
【0029】
自動利得制御部10は、CPU、RAM、ROMなどのハードウェアと、前記ROMに記憶されたプログラム等のソフトェアと、から構成される。そして、自動利得制御部10は、前記ハードウェアとソフトウェアとが協働することにより、後述のデータ抽出部11、閾値算出部12等として機能するように構成されている。自動利得制御部10は、スイープメモリ4から受信データが順次入力されると、当該受信データに対して所定の処理を行うことにより、雨雪反射及び受信機雑音を除去するための閾値である雨雪反射等除去閾値を決定する(詳細は後述)。
【0030】
また、自動利得制御部10は、利得制御部13としても機能する。利得制御部13には、前記雨雪反射等除去閾値と、スイープメモリ4からの受信データと、が入力される。利得制御部13は、入力された受信データの信号レベルが雨雪反射等除去閾値以上の場合は、受信データをそのまま画像メモリ7に出力する。一方、受信データの信号レベルが雨雪反射等除去閾値未満の場合、利得制御部13は、例えば信号レベルの値をゼロとして画像メモリ7に出力する。これにより、雨雪反射等を除去した受信データが画像メモリ7に出力される。なお、以降の説明では、このように雨雪反射等を除去された受信データのことを、特に「雨雪反射等除去済みデータ」と称することがある。
【0031】
前記画像メモリ7には、表示器8に表示するレーダ映像の画像データが記憶されている。この画像データは、複数の画素からなるラスタデータであり、表示器8のラスタ走査に同期して高速で読み出される。
【0032】
前記画像データにおいて、各画素は、例えば船首方向をY軸、船幅方向をX軸とするXY直交座標系で配列して記憶されている。各画素には、当該画素の位置の信号レベルを示すデータ(前記雨雪反射等除去済みデータ)が記憶されている。表示器8のラスタ走査に同期してこの画像データを読み出す際に、例えば、信号レベルが強い画素は濃い色で表示し、信号レベルが弱い画素は薄い色で表示することにより、水平面上における自装置周囲の陸又は物標の様子(レーダ映像)を表示器8に表示することができる。
【0033】
描画アドレス発生部5には、所定方向(例えば船首方向)を基準としたスイープ角度データ(レーダアンテナ1の角度θを示すデータ)がレーダアンテナ1から入力されている。描画アドレス発生部5は、レーダアンテナ1の角度θと、放射信号を放射してからエコーを受信するまでの時間に対応する距離データRと、に基づいて、対応する画素を指定するアドレスを生成する。即ち、描画アドレス発生部5は、極座標系(R,θ)で取得される陸又は物標の位置をXY直交座標系に変換し、当該陸又は物標の位置に対応する画素のアドレス(X,Y)を生成する。
【0034】
雨雪反射等除去済みデータが利得制御部13から画像メモリ7に出力される際には、当該画像メモリ7のアドレス指定部に、描画アドレス発生部5が算出したアドレス(X,Y)が入力される。これにより、雨雪反射等除去済みデータを、対応する画素に記憶することができる。結果として、陸又は物標の位置に応じて信号レベルを平面上にプロットした画像データが生成されるので、これに基づいて表示器8にレーダ映像を表示することができる。
【0035】
次に、自動利得制御部10について説明する。前述のように、自動利得制御部10は、データ抽出部11と、閾値算出部12と、利得制御部13と、を備えている。
【0036】
閾値算出部12は、受信データの信号レベルに基づいて雨雪反射等除去閾値を求め、利得制御部13に出力するように構成されている。なお、雨雪反射除去閾値を固定値とすることも考えられるが、この場合、雨量の変化等に適切に対応することができない。そこで本実施形態では、上記のように閾値算出部12が実際の受信データの信号レベルに基づいて雨雪反射等除去閾値を求めることにより、そのとき発生している雨雪反射等を適切に抑圧できる閾値を自動的に決定するように構成している。
【0037】
次に、図2を参照して説明する。図2は、あるスイープでサンプリングされた受信データ系列の一部をグラフにプロットしたものである。図2において、横軸はレーダアンテナ1からの距離、縦軸は受信データの信号レベルである。
【0038】
陸や物標からのエコーは、船舶、鉄塔、ビル、岸や壁といった「孤立した大きな対象物」からのエコーで構成されるため、陸や物標からのエコーの信号レベルは、距離方向で相対的に緩やかに変化する傾向がある。図2において、例えば、符号90a,91a,92a等の「信号レベルが距離方向で緩やかに変化している部分」は、陸又は物標からのエコーを示していると考えられる。また図2からも分かるように、陸や物標からのエコーにおいては、信号レベルが大きい部分(信号レベルがピークの部分)での当該信号レベルの変動が特に緩やかであるという傾向がある。
【0039】
一方、雨雪反射は「ランダムに分布した多数の小さな散乱体(雨滴)」からのエコーで構成されるため、雨雪反射の信号レベルは距離方向で細かく(ランダムに)変動する傾向がある。また、受信機雑音のみを含む受信データは、雨雪反射を示す受信データよりも更にランダムに変動する。図2において、例えば符号93a,94a等の「細かくランダムに変動している部分」は、雨雪反射又は受信機雑音が現れたものと考えられる。
【0040】
このように、スイープメモリ4から入力される実際の受信データ系列には、雨雪反射等と、陸や物標からのエコーと、が混在している。一般的に、雨雪反射等の信号レベルに比べて陸や物標からのエコーの信号レベルの方が強いため、陸や物標からのエコーを含んだ受信データに基づいて雨雪反射等除去閾値を求めると、当該雨雪反射等除去閾値が大きくなりがちである。
【0041】
ここで、雨雪反射等除去閾値が大き過ぎると、陸や物標からのエコーまでも消してしまうおそれがある。一方、雨雪反射等の信号レベルに対して雨雪反射等除去閾値が小さ過ぎると、雨雪反射等を抑圧する効果を十分に発揮することができない。このように、受信データ系列に陸や物標からのエコーが含まれていると、当該陸や物標からのエコーを残しつつ雨雪反射等のみを除去できるような閾値を適切に決定することが困難である。
【0042】
しかしながら、以上で説明したように、陸や物標からのエコーの大レベルの部分は距離方向での変動が緩やかであり、それ以外の部分(主に雨雪反射等)は距離方向で細かく変動する傾向がある。このことに着目すれば、例えば、細かく変動している部分の平均値を雨雪反射等除去閾値として採用することにより、雨雪反射等の大部分を抑圧しつつ、陸や物標からのエコーの大レベルの部分(変動が緩やかな部分)を確実に残すことができると考えられる。
【0043】
そこで、データ抽出部11は、信号レベルが距離方向で細かく(ランダムに)変動する受信データを抽出するように構成されている。
【0044】
以下、データ抽出部11が行う処理の内容について詳しく説明する。データ抽出部11には、スイープメモリ4から受信データが順次入力されている。データ抽出部11は、スイープメモリ4から順次入力される受信データからなる受信データ系列に対して、所定の処理を施すことにより、距離方向で細かく(ランダムに)変動する受信データを抽出する。なお、上記のように、雨雪反射及び受信機雑音は細かく変動する傾向があるので、データ抽出部11が抽出した「細かく変動する受信データ」のことを、本明細書中では「雨雪データ」又は「雨雪/ノイズデータ」と称することがある。
【0045】
ここで、距離方向で変動している成分を検出する方法として、例えば受信データの信号レベルを距離で微分する処理(1次微分フィルタ処理)がある。
【0046】
ただし、1次微分フィルタ処理では、陸や物標からのエコーの立ち上がり(又は立ち下がり)の部分も、距離方向で変動している部分として検出してしまう。図2に示すように、陸や物標からのエコーの立ち上がり(又は立ち下がり)の部分(例えば符号95,96等)は、信号強度も大きいので、雨雪反射等として検出するのは好ましくない。そこで、エコーの立ち上がり(又は立ち下がり)の部分を検出しないようにするため、受信データの信号レベルを距離で2階微分する2次微分フィルタ処理を行うことが考えられる。
【0047】
2次微分フィルタ処理は、以下の式(2)で表すことができる。ここで、ρ´[n]は演算結果、x[n]は現在処理している受信データの信号レベルである。また、nはサンプリング時刻を示す整数である。なお、x[n−2]は、受信データ系列の中で、現在処理している受信データよりも2つ前の受信データの信号レベルを示す。また、x[n+2]は、受信データ系列の中で、現在処理している受信データよりも2つ後の受信データの信号レベルを示す。
【数2】

【0048】
式(2)に示した2次微分フィルタ処理においては、演算結果ρ´[n]の絶対値が小さい場合、現在処理している受信データの信号レベルx[n]は距離方向で緩やかに変化していることを示す。一方、演算結果ρ´[n]の絶対値が大きい場合、現在処理している受信データの信号レベルx[n]が距離方向で急激に変動していることを示す。従って、演算結果ρ´[n]は、現在処理している受信データの変動の細かさ(ランダム性)の指標であると考えることができる。
【0049】
ところで、式(2)から明らかなように、受信データの信号レベルが大きいと、演算結果ρ´[n]も大きくなる。しかしながら、変動の細かさの指標としては、信号レベルに依存しない値が得られることが好ましい。
【0050】
また、パルスレーダ装置において、パルス状電波(放射信号)の送信パルス幅を変更すると、受信エコーの幅も変化する。受信エコーの幅が変化すると、信号レベルが変動する頻度も変化するため、同じ対象からのエコーであっても演算結果ρ´[n]が変わってくる。変動の細かさの指標としては、パルス幅によらず同一の値の指標を用いることができた方が統一的な取扱いが可能となって有利であるため、パルス幅に依存しないことが好ましい。
【0051】
以上の点を考慮して、本実施形態のデータ抽出部11では、前掲の式(1)を用いた演算を行っている。式(1)は、上記の式(2)を変形したものである。式(1)において、パラメータΔnは、送信パルス幅に略比例する自然数である。
【0052】
式(1)においては、右辺を受信データの信号レベルx[n]によって除算することにより、信号レベルで規格化しているので、信号レベルに依存しない値を得ることができる。
【0053】
また、式(1)においては、パラメータΔnをパルス幅に応じて変更することにより、ρ[n]を算出する際に考慮する受信データの位置を変えることができる(言い換えれば、演算の際に考慮する受信データ系列の幅を、パルス幅に応じて変更することができる)。従って、送信パルス幅に依存しない値を得ることができる。
【0054】
なお、式(1)は2次微分フィルタ処理の一種であるから、式(1)の演算結果は、距離方向の変動の細かさの指標であるといえる。即ち、信号レベルが距離方向で緩やかに変化している部分は演算結果の絶対値が小さく、細かく変化している部分は演算結果の絶対値が大きくなる。従って、演算結果=0の近傍に演算結果の所定の範囲(基準変動範囲)を設定し、演算結果がこの基準変動範囲外であるか否かを見ることにより、受信データの信号レベルが細かく変動しているか否かを判断することができる。
【0055】
データ抽出部11は、演算結果ρ[n]が前記基準変動範囲を超えていることを検出すると、当該演算結果を算出した際に注目していた受信データ(信号レベルが細かく変動している受信データ、雨雪/ノイズデータ)を、閾値算出部12に出力する。以上の処理により、受信データ系列の中から、雨雪/ノイズデータを選択して出力することができる。
【0056】
ここで、例として図3を参照して説明する。図3は、図2に示した受信データ系列に対して、上記式(3)の処理を施したときの演算結果ρ[n]をプロットしたグラフである。
【0057】
図3において符号90b,91b,92bで示す部分は、図2において陸又は物標からのエコーを示していた部分(符号90a,91a,92a)に対応している。図3に示すように、符号90b,91b,92bで示す部分(陸又は物標からのエコーに対応する部分)は、演算結果が基準変動範囲の中にほぼ収まっている。これは、前述のように、陸や物標からのエコーは、信号レベルが緩やかに変動するためである。
【0058】
一方、図3において符号93b,94bで示す部分は、図2において雨雪反射又は受信機雑音を示していた部分(符号93a,94a)に対応している。図3に示すように、符号93b,94bで示す部分(雨雪反射又は受信機雑音に対応する部分)は、演算結果が基準変動範囲を超える頻度が高い。これは、前述のように、雨雪/ノイズデータは、信号レベルが細かく変動するためである。
【0059】
このように、式(1)の演算結果を基準変動範囲と比較することにより、演算結果が基準変動範囲を超えている受信データを、信号レベルが細かく変動している受信データ(雨雪/ノイズデータ)として抽出することができる。
【0060】
次に、閾値算出部12について説明する。
【0061】
閾値算出部12には、雨雪/ノイズデータとして抽出された受信データが、データ抽出部11から次々と入力される。閾値算出部12は、この雨雪/ノイズデータ群に基づいて、雨雪反射等除去閾値を算出する。また、閾値算出部12は、雨雪/ノイズデータ群をレーダアンテナ1からの距離の所定の周期で分割し、当該周期ごとに(即ち、所定の距離範囲ごとに)雨雪反射等除去閾値を算出するように構成されている。
【0062】
具体的には、閾値算出部12は、所定の距離範囲ごとに、「当該距離範囲内でデータ抽出部11が雨雪/ノイズデータとして抽出した受信データ」の信号レベルの平均値を算出する。そして、この平均値に所定の値(閾値補正値)を加算した値を、当該距離範囲における雨雪反射等除去閾値として出力する。
【0063】
即ち、データ抽出部11から入力される雨雪/ノイズデータ群は、信号レベルが細かく変動している受信データ(雨雪/ノイズデータ)からなるから、雨雪反射等を示す受信データを多く含み、陸や物標からのエコーの大レベル部分(緩やかに変動する部分)を示す受信データは含んでいない。よって、前記雨雪/ノイズデータ群の平均値は、陸や物標からのエコーにおける大レベルの部分の信号レベルよりも小さい。従って、この平均値に基づいて雨雪反射等除去閾値を決定することにより、陸や物標からのエコーの大レベルの部分を確実に残すことができる。
【0064】
また、上記のように、主に雨雪反射等を示す受信データ(雨雪/ノイズデータ)の信号レベルの平均値に、閾値補正値を加算した値を雨雪反射等除去閾値としているので、当該雨雪反射等を確実に抑圧することができる。
【0065】
また、所定の距離範囲ごとに雨雪反射等除去閾値を求めることにより、それぞれの距離範囲内で雨雪反射等を良好に抑圧することができる。
【0066】
そして、閾値算出部12は、以上のようにして求めた雨雪反射等除去閾値を、利得制御部13に出力する。
【0067】
以上で説明したように、本実施形態のレーダ装置は、レーダアンテナ1が受信した信号をサンプリングした受信データ系列の中から、信号レベルが距離方向でランダムに変動する受信データを、陸及び物標からのエコーを含まない受信データである雨雪/ノイズデータとして抽出するデータ抽出部11を備えている。
【0068】
即ち、陸や物標からのエコーを示す受信データは、信号レベルが穏やかに変動する傾向がある。一方、雨雪反射又は受信機雑音のみを示す受信データは、信号レベルがランダムに細かく変動する傾向がある。このため、上記のように、信号レベルが距離方向でランダムに変動する受信データを抽出することにより、陸や物標からのエコーを含まない受信データを取り出すことができる。
【0069】
また、本実施形態のレーダ装置は、以下のように構成されている。即ち、データ抽出部11は、受信データに対して2次微分フィルタ処理を行った結果に基づいて、当該受信データを雨雪/ノイズデータとして抽出するか否かを判断している。
【0070】
これにより、ランダムに細かく変動している受信データを雨雪/ノイズデータとして抽出することができる。また、1次微分フィルタ処理とは異なり、2次微分フィルタ処理は波形のエッジの立ち上がり(又は立ち下がり)を検出しない。従って、陸や物標からのエコーのエッジを検出することなく、ランダムに変動している部分だけを確実に抽出することができる。
【0071】
また、本実施形態のレーダ装置は、以下のように構成されている。即ち、前記2次微分フィルタ処理は、演算結果をρ[n]、受信データの信号レベルをx[n]、送信パルス幅に比例した自然数のパラメータをΔn、サンプリング時刻を示す整数をnとおくと、前記の式(1)で表される。そして、データ抽出部11は、演算結果ρ[n]が所定範囲を超えたときの受信データを、雨雪/ノイズデータとして抽出する。
【0072】
これにより、2次微分フィルタ処理の演算結果が所定範囲を超えた受信データを、雨雪/ノイズデータとして抽出することができる。また、演算にあたっては前記式(1)の右辺に示すように、受信データの信号レベルで除算することにより、その結果が受信データの信号レベルで規格化されている。従って、2次微分フィルタ処理の演算結果として、信号レベルに依存しない値を得ることができる。また、パラメータΔnを送信パルス幅に比例させることにより、2次微分フィルタ処理を行う際に考慮する受信データの範囲を、送信パルス幅に応じて変更することができる。従って、2次微分フィルタ処理の演算結果として、パルス幅に依存しない値を得ることができる。
【0073】
また、本実施形態のレーダ装置は、以下のように構成されている。即ち、レーダ装置は、閾値算出部12と、利得制御部13と、を備えている。利得制御部13は、前記受信データの信号レベルと、雨雪反射等除去閾値と、を比較し、信号レベルが雨雪反射等除去閾値以上の受信データのみを選択して出力する。閾値算出部12は、前記雨雪/ノイズデータに基づいて、雨雪反射等除去閾値を算出する。
【0074】
このように、雨雪反射等を除去するための閾値を雨雪/ノイズデータの信号レベルに基づいて算出することにより、雨雪反射又は受信機雑音のみを適切に除去することができる。一方、陸や物標からのエコーは、雨雪反射及び受信機雑音に比べて信号レベルが強い傾向がある。言い換えれば、雨雪/ノイズデータの信号レベルは、陸や物標からのエコーの信号レベルに比べて弱い。従って、陸や物標からのエコーの信号レベルよりも確実に小さい閾値を、雨雪/ノイズデータの信号レベルに基づいて算出することができる。これにより、雨雪反射又は受信機雑音のみを除去し、陸や物標からのエコーは確実に残すような閾値を決定することができる。
【0075】
また、本実施形態のレーダ装置は、以下のように構成されている。即ち、閾値算出部12は、雨雪/ノイズデータとして抽出された受信データであって、所定の距離範囲で検出された受信データの信号レベルの平均値に基づいて、当該距離範囲についての前記閾値を算出する。
【0076】
これにより、所定の距離範囲内の雨雪/ノイズデータに基づいて閾値を算出できるので、各距離範囲ごとにそれぞれ適切な値を閾値として採用することができる。
【0077】
以上に本発明の好適な実施の形態について説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0078】
上記実施形態では、自動利得制御部10はハードウェア及びソフトウェアからなるとしたが、専用のハードウェアから構成されていても良い。
【0079】
閾値補正値を、送信パルス幅に応じて変えるように構成することもできる。これにより、送信パルス幅に応じて、より適切な雨雪反射等除去閾値を得ることができる。
【0080】
上記実施形態では、「所定の距離範囲内でデータ抽出部11が雨雪/ノイズデータとして抽出した受信データ」に基づいて、当該距離範囲について雨雪反射等除去閾値を求める構成としている。しかし、距離範囲内の受信データの大部分が陸又は物標からのエコーを示している場合、当該距離範囲内の受信データの中からランダムに変動するデータ(雨雪/ノイズデータ)を十分に得ることができず、当該距離範囲については正確な雨雪反射等除去閾値を算出できない場合も考えられる。このように、陸又は物標からのエコーが支配的な距離範囲については、当該距離範囲内の受信データからは雨雪反射等除去閾値を算出せずに、例えば当該距離範囲に対して前後に隣接する他の距離範囲についての雨雪反射等除去閾値に基づいて、当該距離範囲についての雨雪反射等除去閾値を補間により求めるように構成しても良い。
【0081】
上記実施形態では、所定の距離範囲ごとに雨雪反射等除去閾値を求める構成としたが、距離範囲ごとに閾値を算出した後、当該距離範囲内で閾値を補間してから出力しても良い。即ち、上記の構成では、距離範囲内の受信データに対しては同じ閾値を一律に適用するような構成であるが、距離範囲内で閾値が変化するようにして出力しても良い。例えば、ある距離範囲で得られた雨雪反射等除去閾値は当該距離範囲における中心地点での閾値とし、距離範囲の境界近傍での閾値は、隣接する距離範囲についての閾値も使用して、線形補間して出力するように構成することが考えられる。この場合、距離範囲の境界で閾値が不連続にならないため、滑らかなレーダ映像を得ることができる。
【0082】
また、連続する複数回の送受信において算出した閾値の平均値を求め、この平均値を閾値として出力しても良い。多数の受信データを用いることで、より適正な閾値を得ることができる。
【0083】
雨雪/ノイズデータの平均値を求める範囲である「所定領域」としては、所定の距離範囲(即ち、線状の領域)としたが、これに限らない。例えば、隣接するスイープにおいて雨雪/ノイズデータとして抽出された受信データを考慮することにより、面状の領域内で平均値を求めても良い。
【0084】
信号レベルが細かく変動する受信データを抽出する方法としては、様々な方法が考えられる。例えば、受信データ系列に対して、2次微分フィルタ処理以外のハイパスフィルタ処理、或いはバンドパスフィルタ処理を施す構成とすることもできる。
【0085】
受信回路2は、レーダアンテナ1が受信した信号を対数増幅する構成に代えて、線形増幅する構成としても良い。ただし、上記実施形態のように対数増幅することにより、量子化ビット数が小さいA/D変換器でも、広い強度範囲のエコーに対応することができる。
【符号の説明】
【0086】
10 自動利得制御部(自動利得制御装置)
11 データ抽出部
12 閾値算出部
13 利得制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号をサンプリングした受信データ系列の中から、信号レベルが距離方向でランダムに変動する受信データを、陸及び物標からのエコーを含まない受信データである雨雪データとして抽出するデータ抽出部を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーダ装置であって、
前記データ抽出部は、前記受信データに対して2次微分フィルタ処理を行った結果に基づいて、当該受信データを前記雨雪データとして抽出するか否かを判断することを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のレーダ装置であって、
前記2次微分フィルタ処理は、演算結果をρ[n]、受信データの信号レベルをx[n]、送信パルス幅に比例した自然数のパラメータをΔn、サンプリング時刻を示す整数をnとおくと、以下の式(1)で表され、
前記データ抽出部は、演算結果ρ[n]が所定範囲を超えたときの受信データを、前記雨雪データとして抽出することを特徴とするレーダ装置。
【数1】

【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載のレーダ装置であって、
前記受信データの信号レベルと、閾値と、を比較し、信号レベルが前記閾値以上の受信データのみを選択して出力する利得制御部と、
前記閾値を前記雨雪データに基づいて算出する閾値算出部と、
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
請求項4に記載のレーダ装置であって、
前記閾値算出部は、前記雨雪データとして抽出された受信データであって、所定領域内で検出された受信データの信号レベルの平均値に基づいて、当該所定領域についての前記閾値を算出することを特徴とするレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−2426(P2011−2426A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147746(P2009−147746)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】