説明

ロボットおよびその制御装置

【課題】 関節の姿勢角度と剛性を独立に制御し、良好な安全性と優れた制御性能を共に達成することができる関節ロボットおよびその制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 基部と、基部に設置された4つのモータと、4つのモータに各々取り付けられた4つの巻取装置と、基部の表面に軸中心線が垂直するように設置された支持柱と、支持柱の上端に取り付けられた球面ジョイントと、球面ジョイントに取り付けられた可動プレートと、可動プレートの底部に設置された4つの自在継手と、4つの前記巻取装置と4つの前記自在継手とを一対一に連結する非線形バネが組み込まれた4本のワイヤと、可動プレートの上面に軸中心線が垂直するように固定された出力軸とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤと非線形バネを介して駆動剛性と3自由度姿勢を変えることができる関節ロボットおよびその制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、サービスロボットおよび人協調産業ロボットの研究は盛んに行われている。これらのロボットは人間と直接に接するため、安全性の保証は重要になっている。ロボット全体の安全性を保つため、ロボットの各関節は柔軟かつ軽量であることが要求される。そこで、従来技術は、センタロッドの周囲に圧縮コイルを配置すると共にワイヤ駆動を用いることにより、装置の柔軟化および軽量化を図っている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−77577号公報(第5−8頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来は、装置の剛性は圧縮コイルのバネ係数によって決められる。バネ係数を小さくすると、剛性が低くなり安全性が良くなるがエンドエフェクターの位置制御精度が落ちる。一方、バネ係数を大きくすると、エンドエフェクターの位置制御精度を向上することができるが剛性が高くなり安全性が悪くなる。すなわち、安全性と制御性能を両立させることが困難であるという問題があった。
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、ワイヤに非線形バネ要素を組み込み、姿勢のフィードバック制御に必要なトルク指令と剛性の目標指令とに応じてワイヤの張力指令を与えてワイヤの張力を制御し、関節の姿勢角度と剛性を目標指令に独立かつ正確に追従させ、良好な安全性と優れた制御性能を共に達成することができる関節ロボットおよびその制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題を解決するため、本発明は、次のように構成したのである。
請求項1に記載の発明は、基部と、前記基部に設置された4つのモータと、4つの前記モータに各々取り付けられた4つの巻取装置と、前記基部の表面に軸中心線が垂直するように設置された支持柱と、前記支持柱の上端に取り付けられた球面ジョイントと、前記球面ジョイントに取り付けられた可動プレートと、前記可動プレートの底部に設置された4つの自在継手と、4つの前記巻取装置と4つの前記自在継手とを一対一に連結する非線形バネが組み込まれた4本のワイヤと、前記可動プレートの上面に軸中心線が垂直するように固定された出力軸とを備え、前記球面ジョイントの球体部の球面中心点を原点Oとし、前記出力軸の軸中心線をZ軸として前記可動プレートの上面から離れる方向をZ軸の正方向とし、前記可動プレートと一緒に移動するような移動直交座標系XYZOを設け、前記支持柱の軸中心線と前記基部の表面との交点を原点oとし、前記支持柱の軸中心線をz軸として前記基部の表面から離れる方向をz軸の正方向とし、前記出力軸の軸中心線が前記支持柱の軸中心線と一致した際にx軸およびy軸がそれぞれX軸およびY軸と平行となるように固定直交座標系xyzoを設け、4つの前記巻取装置がxoy座標系の異なる象限にあるように4つの前記モータを配置し、4つの前記自在継手をXOY座標系における位相が各々4つの前記巻取装置の前記xoy座標系における位相と同じ値になるように配置し、そして前記xoy座標系の第1象限にある前記巻取装置と前記XOY座標系の第2象限にある前記自在継手を、前記xoy座標系の第2象限にある前記巻取装置と前記XOY座標系の第1象限にある前記自在継手を、前記xoy座標系の第3象限にある前記巻取装置と前記XOY座標系の第4象限にある前記自在継手を、前記xoy座標系の第4象限にある前記巻取装置と前記XOY座標系の第3象限にある前記自在継手を4本の前記ワイヤで各々連結するものである。
また、請求項2に記載の発明は、基部と、固定子が前記基部の上方に固定され回転子の軸中心線が前記基部の表面に平行する3つの巻取モータおよび回転子の軸中心線が基部420の表面に垂直する1つの旋回モータと、3つの前記巻取モータに各々取り付けられた3つの巻取装置と、前記旋回モータの可動子に連結された旋回伝動軸と、前記旋回伝動軸の上端に取り付けられたユニバーサルジョイントと、可動プレートと、前記可動プレートの上面の中央に固定された支持台と、2つ以上のスラスト軸受と、3つの自在継手と、3つの前記巻取装置と3つの前記自在継手とを一対一に連結する非線形バネが組み込まれた3本のワイヤと、前記ユニバーサルジョイントに取り付けられた出力軸とを備え、前記旋回モータが前記基部の中央に設置され、3つの前記巻取モータが前記基部の上方の中心とする円周上の互いに等角度をなす3箇所に設置され、3つの前記自在継手が前記可動プレートの下面の中心とする円周上の互いに等角度をなす3箇所に設置され、前記出力軸と前記支持台との間に2つ以上のスラスト軸受によって拘束されるものである。
また、請求項3に記載の発明は、姿勢角度の目標指令と剛性の目標指令とを生成する目標指令生成部と、前記各モータの回転角度を検出するエンコーダーと、前記各ワイヤの張力を検出する張力センサーとを備え、各ワイヤの張力指令と前記各ワイヤの張力信号とに基づいて張力の制御を行いながら、前記姿勢角度の目標指令と前記剛性の目標指令および前記各モータの回転角度信号に基づいて前記各ワイヤの張力指令を生成し前記関節ロボットの姿勢角度および剛性を制御し、前記各モータの回転角度信号および前記各ワイヤの張力信号に基づいて姿勢角度の推定値を算出する姿勢角度推定部と、前記姿勢角度の目標指令と前記姿勢角度の推定値との偏差を入力しトルク指令を出力する姿勢角度制御部と、前記トルク指令と前記剛性の目標指令および前記姿勢角度の推定値に基づいて張力指令を算出する張力指令計算部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0006】
関節の自由度からみると冗長なモータと、モータと可動プレートとを連結して力を伝達する非線形バネを取り込んだワイヤとを有する関節ロボットを構成すると共に、姿勢のフィードバック制御に必要なトルク指令と剛性の目標指令とに応じてワイヤの張力指令を与えてワイヤの張力を制御する関節ロボットの制御装置を構築することによって、3自由度の姿勢角度を目標指令に正確に追従させながら、機械の剛性も制御することができる。また、剛性の目標指令を高速度変位時小さい値、高加減速かつ低速度変位時大きい値に与えることにより良好な安全性と優れた制御性能を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の第1実施例を示す関節ロボットの構成図
【図2】関節ロボットの制御装置を示すブロック線図
【図3】第2実施例を示す関節ロボットの構成図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【実施例1】
【0009】
図1は、本発明の第1実施例を示す関節ロボットの構成図である。図において、モータ101、102、103および104は、回転子の軸中心線が基部121の表面に平行するように固定子が基部121の上方に設置されている。巻取装置105、106、107および108は、それぞれモータ101、102、103および104の回転軸に連結され、各々モータの回転子と一緒に回転しながらワイヤの巻取りをする。ワイヤ111、112、113および114は、それぞれ非線形バネ115、116、117および118が組み込まれている。ここで、非線形バネとは、バネ定数が一定な値ではなく変位によって変わるものである。たとえば、ピッチを段階的に変化させたコイルばねを用いている。これに限らず、2つのモータと各々のモータにワイヤで連結された2つの静滑車の間に動滑車を組み合せた構成を取ることができる。支持柱122は、基部121の上面に軸中心線が垂直するように設置されている。可動プレート124は、上方の中央には出力軸125が垂直に固定されている。球面ジョイント123は、球体部が支持柱122の先端に、受部材が可動プレート124に繋げられている。支持柱122の軸中心線と基部121の上面との接点を原点oとし、支持柱122の中心線をz軸として基部121の上面から離れる方向をz軸の正方向とするように固定直交座標系xyzoを設ける。また、球面ジョイント123の球体部の球面中心点を原点Oとし、出力軸125の軸中心線をZ軸として可動プレート124の上面から離れる方向をZ軸の正方向とし、初期位置においてX軸、Y軸およびZ軸がそれぞれx軸、y軸およびz軸に平行となり、可動プレート124と一緒に移動するような移動直交座標系XYZOを設ける。モータ101と巻取装置105が固定平面座標系xoyの第1象限に、モータ102と巻取装置106が固定平面座標系xoyの第2象限に、モータ103と巻取装置107が固定平面座標系xoyの第4象限に、モータ104と巻取装置108が固定平面座標系xoyの第3象限にあるように設置される。移動平面座標系XOYにおける位相がそれぞれ巻取装置105、106、107、108のワイヤ出入口a、b、c、d点が固定平面座標系xoyにおける位相と同じである可動プレート124下面のA、B、C 、D点に自在継手131、132、133、134が設置される。また、巻取装置106と自在継手131の間、巻取装置105と自在継手132の間、巻取装置107と自在継手133の間および巻取装置108と自在継手134の間にそれぞれ非線形バネ115が取り込まれたワイヤ111、非線形バネ116が取り込まれたワイヤ112、非線形バネ117が取り込まれたワイヤ113および非線形バネ118が取り込まれたワイヤ114が取り付けられている。
図2は関節ロボットの制御装置を示すブロック線図である。図において、目標指令生成部201は、出力軸の姿勢角度の目標指令値α、β、γおよび剛性の目標指令値ηを生成する。エンコーダー141、142、143および144は、それぞれモータ101、102、103および104の回転角度θ、θ、θおよびθを検出する。張力センサー151、152、153および154は、それぞれワイヤ111、112、113および114の張力F、F、FおよびFを検出する。姿勢角度推定部204は、エンコーダー141、142、143および144の出力と張力センサー151、152、153および154の出力とを入力して姿勢角度α、βおよびγの推定値α、βおよびγを出力する。姿勢角度制御部202は、それぞれ姿勢角度αの目標指令値αと推定値αとの偏差eα、姿勢角度βの目標指令値βと推定値βとの偏差eβおよび姿勢角度γの目標指令値γと推定値γとの偏差eγを入力してトルク指令TXc、YcおよびTZcを出力する。張力指令計算部204は、トルクTXc、Yc、TZc、剛性の目標指令値ηおよび姿勢角度の推定値α、β、γをに基づいて張力指令F1c、F2c、F3cおよびF4cを計算する。張力制御部211、212、213および214は、それぞれワイヤ111の張力指令F1cと張力Fとの偏差、ワイヤ112の張力指令F2cと張力Fとの偏差、ワイヤ113の張力指令F3cと張力Fとの偏差およびワイヤ114の張力指令F4cと張力Fとの偏差を入力してモータ101、102、103および104の電流指令I1c、I2c、I3cおよびI4cを出力する。また、モータ駆動部221、222、223および224は、それぞれモータ101、102、103および104の電流指令I1c、I2c、I3cおよびI4cに基づいて各モータを駆動制御する。
【0010】
以下、制御装置の各補償部の実現方法について説明する。
まず、姿勢角度推定部204の実現方法を説明する。
可動プレート124のX−Y−Zオイラ−角(ここで姿勢角度と称す)をα、β、γとし、それに対応する姿勢変換行列Rは式(1)で表される。
【0011】
【数1】

【0012】
ただし、Rの要素は式(2)〜式(10)で表される。
【0013】
【数2】

【0014】
a、b、c、d点の絶対座標をそれぞれ(x,y,z)、(x,y,z)、(x,y,z)、(x,y,z)とし、また、O点の絶対座標を(x,y,z)とすると、a、b、c、d点の相対座標は式(11)〜式(14)のように与えられる。
(X,Y,Z)={(x,y,z)−(x,y,z)}R−1 (11)
(X,Y,Z)={(x,y,z)−(x,y,z)}R−1 (12)
(X,Y,Z)={(x,y,z)−(x,y,z)}R−1 (13)
(X,Y,Z)={(x,y,z)−(x,y,z)}R−1 (14)
そして、A、B、C、D点の相対座標をそれぞれ(X,Y,Z)、(X,Y,Z)、(X,Y,Z)、(X,Y,Z)とすると、ベクトル
【0015】
【数3】

【0016】
ただし、I、J、KはそれぞれX軸、Y軸、Z軸方向を向く単位ベクトルである。
従って、A点とb点との間の距離L、B点とa点との間の距離L、C点とd点との間の距離LおよびD点とc点との間の距離Lは式(19)〜式(22)のように与えられる。
【0017】
【数4】

【0018】
関節ロボットの機構は定まると、a、b、c、d、O点の絶対座標とA、B、C、D点の相対座標は既知なものとなり、式(1)〜式(14)より式(19)〜式(22)は姿勢角度α、β、γの関数となる。
一方、非線形バネが発生する力Fと対応する伸縮量σとの関係を式(53)で表されるものとする。
F=f(σ) (23)
また、巻取装置のプーリの半径をrとすると、式(24)〜式(27)が成り立つ。
=f−1(F)+θr (24)
=f−1(F)+θr (25)
=f−1(F)+θr (26)
=f−1(F)+θr (27)
ただし、F、F、FおよびFはそれぞれワイヤ111、112、113および114の張力、θ、θ、θおよびθはそれぞれモータ101、102、103および104の回転角度(モータと巻取装置との間にギヤがあった場合にモータの回転角度にギア比を掛けた値)である。
張力センサー151、152、153および154が検出した張力F、F、FおよびFの値と、エンコーダー141、142、143および144が検出した回転角度θ、θ、θおよびθの値とを式(24)〜式(27)に代入し、L、L、LおよびLを計算する。そして、L、L、LおよびLの値を式(19)〜式(22)に代入して連立方程式を解くと、姿勢角度α、β、γを求めることができる。このように求めた姿勢角度α、βおよびγの値を姿勢角度α、βおよびγの推定値α、βおよびγとする。
次に、姿勢角度制御部202の実現方法を説明する。
姿勢角度の指令値α、βおよびγからそれぞれ姿勢角度の推定値α、βおよびγを差し引いて得た偏差eα、eβおよびeγに各々PID補償を掛けてトルク指令TXc、YcおよびTZcが得られる。
次に、張力指令計算部204の実現方法を説明する。
すべてのワイヤが常に完全に伸びている(ワイヤの張力が0以上である)ように制御されるとすると、各ワイヤが可動プレート124に働く力のベクトルは式(28)〜式(31)のように表される。
【0019】
【数5】

【0020】
また、A、B、C、D点の相対座標を用いてベクトル
【0021】
【数6】

【0022】
が発生するトルクのベクトルは式(36)〜式(39)のように表される。
【0023】
【数7】

【0024】
従って、可動プレート124に働く総トルクTのX、Y、Z方向の分量は式(40)〜式(42)のように表される。
【0025】
【数8】

【0026】
ただし、
【0027】
【数9】

【0028】
X、、Tの代わりにそれぞれTXc、Yc、TZcを、F、F、F、Fの代わりにそれぞれF1c、F2c、F3c、F4cを式(40)〜式(42)に代入すると、式(55)〜式(57)となる。
【0029】
【数10】

【0030】
姿勢角度α、βおよびγの代わりに姿勢角度推定部204で計算した姿勢角度の推定値α、βおよびγを式(2)〜式(10)に代入して姿勢変換行列Rの各要素を計算し、また、式(11)〜式(14)のようにa、b、c、d点の相対座標を計算する。a、b、c、dおよびA、B、C、D点の相対座標を、式(19)〜式(22)に代入して得たL、L、LおよびLと一緒に式(43)〜式(54)に代入してkX1〜4、kY1〜4およびkZ1〜4を計算する。そして、姿勢角度制御部202から入って来たトルク指令TXc、YcおよびTZcを式(55)〜式(57)に代入すると、式(55)〜式(57)がF1c、F2c、F3c、F4cの線形方程式となる。
一方、非線形バネは変形量が大きくなるほどばね定数が大きくなるものとすると、剛性が高く要求される場合に各ワイヤの張力を大きくすれば良い。それで、剛性の目標指令値ηに対応する各ワイヤの張力の和Fの指令値Fを式(58)のように与える。
=g(η) (58)
ただし、g(・)単調増加関数である。
一般的に、式(55)〜式(57)に式(59)を加えて連立方程式を解くと、F1c、F2c、F3c、F4cを一意的に決められる。
1c+F2c+F3c+F4c=F (59)
ところが、式(55)〜式(57)と式(59)の連立方程式が特異になることもある。その場合に、各変数F1c、F2c、F3c、F4cの前に各々適当な重み係数k、k、k、kを掛け、式(59)を式(60)のように書き直せば良い。
1c+k2c+k3c+k4c=F (60)
また、ある向きの安全性をより重視したい場合は、その向きの剛性を低くするため、その向きに近いワイヤに対応する重み係数を大きく設定すれば良い。
なお、連立方程式を解いて得た張力指令の値が負になった場合に、関数g(・)を式(61)のように修正を行う。
g(η)=g(η)+F (61)
ただし、Fが適当な正の数である。式(59)を連立方程式に取り込んだ場合は、Fを負になった変数の和の絶対値の2倍より少し大きい値に与えれば良い。また、修正後の連立方程式は依然負の解が存在する場合に、連立方程式の解がすべて正になるまで以上の修正方法で繰り返して行えば良い。
最後に、張力制御部の実現方法を説明する。
張力制御部にはPI補償器を込みこめば良い。
【0031】
以下、関節ロボットの動作原理について説明する。
一般的に、姿勢制御のメインループと較べ、張力制御マイナーループには位相遅れが小さいので、張力制御部のゲインを大きく上げられ、張力制御マイナー閉ループの応答特性が高い。すなわち、張力指令の通りにワイヤの張力が制御される。
一方、張力指令が式(55)〜式(57)に基づいて求められたので、式(55)〜式(57)と式(40)〜式(42)とを比較することで移動座標系の各軸まわりのトルクTX、、Tがそれらの指令TXc、TYc、TZcに追従することが分かる。すなわち、剛性制御は姿勢制御に影響を与えず、剛性と姿勢を独立かつ正確に制御できる。
また、剛性の制御性能に対する影響が大きく現れるのは出力軸125が高加減速かつ低速度で変位する時である。一方、安全性に配慮すべきは出力軸125が高速度変位する時である。よって、剛性の目標指令は高速度変位時小さい値、高加減速かつ低速度変位時大きい値に与えれば良い。
【0032】
このように、関節の自由度からみると冗長なモータと、モータと可動プレートとを連結して力を伝達する非線形バネを取り込んだワイヤとを有する関節ロボットを構成すると共に、姿勢のフィードバック制御に必要なトルク指令と剛性の目標指令とに応じてワイヤの張力指令を与えてワイヤの張力を制御する関節ロボットの制御装置を構築することによって、3自由度の姿勢角度を目標指令に正確に追従させながら、機械の剛性も制御することができる。また、剛性の目標指令を高速度変位時小さい値、高加減速かつ低速度変位時大きい値に与えることにより良好な安全性と優れた制御性能を両立させることができる。
【実施例2】
【0033】
図3は第2実施例を示す関節ロボットの構成図である。図において、旋回モータ320は、回転子の軸中心線が基部321の表面に垂直するように固定子が基部321の中央に設置されている。巻取モータ301、302、303は、固定子が基部321の上方の中心とする円周上の互いに等角度をなす3箇所に設置されている。巻取装置304、305、306は、巻取モータの回転子と一緒に回転しながらワイヤの巻取りをする。ワイヤ311、312、313は、それぞれ非線形バネ314、315、316が組み込まれている。旋回伝動軸322は、旋回モータ320の回転子に連結されている。可動プレート324は、上面の中央には円筒型支持台326が設置されている。ユニバーサルジョイント323は、旋回伝動軸322と出力軸325とを連結する。スラスト軸受327と328は、出力軸325を支持台326に拘束する。基部321の中心を原点oとし、旋回伝動軸322の中心線をz軸として基部321の上面から離れる方向をz軸の正方向とするように固定直交座標系xyzoを設ける。また、ユニバーサルジョイントの中心を原点Oとし、出力軸419の軸中心線をZ軸として可動プレート324の上面から離れる方向をZ軸の正方向とし、可動プレート324の下面が基部321の上面と平行になった際にX軸およびY軸がそれぞれx軸およびy軸と平行になるように、可動プレート324と一緒に移動するような移動直交座標系XYZOを設ける。移動平面座標系XOYにおける位相がそれぞれ巻取装置304、305、306のワイヤ出入口a、b、c点が固定平面座標系xoyにおける位相と同じであり可動プレート324下面の中心とする円周上の互いに等角度をなすA、B、C点に自在継手317、318、319が設置されている。また、巻取装置304と自在継手317の間、巻取装置305と自在継手318の間および巻取装置306と自在継手319の間にそれぞれ非線形バネ314が取り込まれたワイヤ311、非線形バネ315が取り込まれたワイヤ312および非線形バネ316が取り込まれたワイヤ313が取り付けられている。
【0034】
以下、動作原理について説明する。
旋回伝動軸322が旋回モータ320の可動子に固定されたため、その先端に連結されたユニバーサルジョイント323の中心位置が変わらないので、ユニバーサルジョイント323に連結された出力軸325はユニバーサルジョイント323の中心点を中心に変位しかできない。すなわち、出力軸325の先端はユニバーサルジョイント323の中心点を中心に3自由度の球面運動をする。また、支持台326と出力軸325とはスラスト軸受327および328によってに拘束されたため、両者の相対運動は出力軸325の軸中心の回転運動しかない。よって、支持台326および支持台326が固定された可動プレート324もユニバーサルジョイント323の中心点を中心に変位しかできない。
スラスト軸受の摩擦力が十分小さい場合は出力軸325と支持台326とのZ軸まわりの回転運動は互いに影響しない。出力軸325のX軸およびY軸方向の姿勢は可動プレート324の姿勢に定められるが、Z軸方向の姿勢は完全に旋回モータ320の回転角度に決められる。すなわち、3本のワイヤを用いて出力軸325の2自由度の運動を操作する。そのため、X軸およびY軸方向の姿勢と剛性を独立に調整できる。一方、Z軸まわりの剛性を調整できないが、Z軸中心の回転の最大半径が小さいため大きなトルクを出力しないので、外部のものに大きな被害を与えない。
【0035】
以上のように、3本のワイヤを用いて出力トルクが大きくなる方向の姿勢と剛性を独立に調整するため、関節ロボットに良好な安全性と優れた制御性能を両立させることができる。
第1実施例と較べ、本実施例の技術を用いた場合は、構造が若干複雑になるが、可動範囲が広くなる。
【符号の説明】
【0036】
100 関節ロボット
101、102、103、104 モータ
105、106、107、108 巻取装置
111、112、113、114、311、312、313 ワイヤ
115、116、117、118、315、316、317 非線形バネ
131、132、133、134、317、318、319 自在継手
121、321 基部
122 支持柱
123 球面ジョイント
124、324 可動プレート
125、325 出力軸
141、142、143、144 エンコーダー
151、152、153、154 張力センサー
201 目標指令生成部
202 姿勢角度制御部
203 張力指令計算部
204 姿勢角度推定部
211、212、213、214 張力制御部
221、222、223、224 モータ駆動部
301、302、303 巻取モータ
304、305、306 巻取装置
320 旋回モータ
322 旋回伝動軸
323 ユニバーサルジョイント
327、328 スラスト軸受


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と、前記基部に設置された4つのモータと、4つの前記モータに各々取り付けられた4つの巻取装置と、前記基部の表面に軸中心線が垂直するように設置された支持柱と、前記支持柱の上端に取り付けられた球面ジョイントと、前記球面ジョイントに取り付けられた可動プレートと、前記可動プレートの底部に設置された4つの自在継手と、4つの前記巻取装置と4つの前記自在継手とを一対一に連結する非線形バネが組み込まれた4本のワイヤと、前記可動プレートの上面に軸中心線が垂直するように固定された出力軸とを備え、 前記球面ジョイントの球体部の球面中心点を原点Oとし、前記出力軸の軸中心線をZ軸として前記可動プレートの上面から離れる方向をZ軸の正方向とし、前記可動プレートと一緒に移動するような移動直交座標系XYZOを設け、
前記支持柱の軸中心線と前記基部の表面との交点を原点oとし、前記支持柱の軸中心線をz軸として前記基部の表面から離れる方向をz軸の正方向とし、前記出力軸の軸中心線が前記支持柱の軸中心線と一致した際にx軸およびy軸がそれぞれX軸およびY軸と平行となるように固定直交座標系xyzoを設け、
4つの前記巻取装置がxoy座標系の異なる象限にあるように4つの前記モータを配置し、4つの前記自在継手をXOY座標系における位相が各々4つの前記巻取装置の前記xoy座標系における位相と同じ値になるように配置し、そして前記xoy座標系の第1象限にある前記巻取装置と前記XOY座標系の第2象限にある前記自在継手を、前記xoy座標系の第2象限にある前記巻取装置と前記XOY座標系の第1象限にある前記自在継手を、前記xoy座標系の第3象限にある前記巻取装置と前記XOY座標系の第4象限にある前記自在継手を、前記xoy座標系の第4象限にある前記巻取装置と前記XOY座標系の第3象限にある前記自在継手を4本の前記ワイヤで各々連結することを特徴とするロボット。
【請求項2】
基部と、固定子が前記基部の上方に固定され回転子の軸中心線が前記基部の表面に平行する3つの巻取モータおよび回転子の軸中心線が基部420の表面に垂直する1つの旋回モータと、3つの前記巻取モータに各々取り付けられた3つの巻取装置と、前記旋回モータの可動子に連結された旋回伝動軸と、前記旋回伝動軸の上端に取り付けられたユニバーサルジョイントと、可動プレートと、前記可動プレートの上面の中央に固定された支持台と、2つ以上のスラスト軸受と、3つの自在継手と、3つの前記巻取装置と3つの前記自在継手とを一対一に連結する非線形バネが組み込まれた3本のワイヤと、前記ユニバーサルジョイントに取り付けられた出力軸とを備え、前記旋回モータが前記基部の中央に設置され、3つの前記巻取モータが前記基部の上方の中心とする円周上の互いに等角度をなす3箇所に設置され、3つの前記自在継手が前記可動プレートの下面の中心とする円周上の互いに等角度をなす3箇所に設置され、前記出力軸と前記支持台との間に2つ以上のスラスト軸受によって拘束されることを特徴とするロボット。
【請求項3】
姿勢角度の目標指令と剛性の目標指令とを生成する目標指令生成部と、前記各モータの回転角度を検出するエンコーダーと、前記各ワイヤの張力を検出する張力センサーとを備え、各ワイヤの張力指令と前記各ワイヤの張力信号とに基づいて張力の制御を行いながら、前記姿勢角度の目標指令と前記剛性の目標指令および前記各モータの回転角度信号に基づいて前記各ワイヤの張力指令を生成し前記関節ロボットの姿勢角度および剛性を制御し、
前記各モータの回転角度信号および前記各ワイヤの張力信号に基づいて姿勢角度の推定値を算出する姿勢角度推定部と、
前記姿勢角度の目標指令と前記姿勢角度の推定値との偏差を入力しトルク指令を出力する姿勢角度制御部と、
前記トルク指令と前記剛性の目標指令および前記姿勢角度の推定値に基づいて張力指令を算出する張力指令計算部とを備えたことを特徴とするロボットの制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−101938(P2011−101938A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258558(P2009−258558)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】