説明

ロータ用の不安定性緩和システム

ロータの動作中にロータの不安定性の開始を検出する検出システムと、検出システムが不安定性の開始を検出したときに、ロータの安定性の改善を促進する緩和システムと、検出システム及び緩和システムの動作を制御する制御システムとを備える不安定性緩和システムを開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、ガスタービンエンジンに関し、より詳細には、ガスタービンエンジンで使用されるファンや圧縮機などの圧縮システムにおける失速などの不安定性を検出するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機のターボファンガスタービンエンジンでは、運転時に、ファンモジュール、ブースタモジュール、及び圧縮モジュールを備えた圧縮システムで空気を圧縮する。大型のターボファンエンジンでは、ファンモジュールを通過する空気は、大部分がバイパス流となり、飛行する航空機を前進させるのに必要な推力の大部分を発生させるために使用される。ブースタモジュール及び圧縮モジュールを流れる空気は、燃焼器で燃料と混合され、点火して高温の燃焼ガスを発生させ、この燃焼ガスが、ファン、ブースタ、及びコンプレッサのロータに給電するためのエネルギーを抽出するタービン段を流れる。ファンモジュール、ブースタモジュール、及び圧縮モジュールは、一連のロータ段及びステータ段を有する。ファン及びブースタのロータは、一般に低圧タービンで駆動され、圧縮機のロータは、高圧タービンで駆動される。ファン及びブースタのロータは、圧縮機のロータと空気力学的に結合されているが、通常は、これらは異なる機械的速度で動作する。
【0003】
ファンやブースタ、圧縮機などの圧縮システムの設計において、幅広い動作条件での運用性は、基本要件の1つである。現代の先進航空機の開発では、機体に埋め込んだエンジンを使用することが必要になっており、空気は、吸気流に深刻なディストーションを引き起こす特異な幾何学的形状を有する入口からエンジンに流入するようになっている。こうしたエンジンの中には、エンジンの運用性を制限する固定面積排気ノズルを有するものもある。これらの圧縮システムの設計の基本は、離陸から巡航、着陸に至るまでの飛行動作エンベロープ全体にわたって十分な失速マージンを確保しながら空気を圧縮する効率である。しかし、圧縮効率と失速マージンは、通常は逆相関の関係にあり、普通は、効率を上げると、それに応じて失速マージンが小さくなる。失速マージンと効率という相反する要件は、深刻な入口ディストーション、固定面積ノズル、補助動力の抽出量増加など、厳しい動作条件下で運用される高性能ジェットエンジンでは特に厳しくなるが、飛行エンベロープ全体にわたって高水準の安定性マージンもやはり必要とされる。
【0004】
失速などの不安定性は、一般に、ファンや圧縮機、ブースタなどの圧縮システムのロータブレードの先端で流れが破壊されることによって生じる。ガスタービンエンジンの圧縮システムのロータでは、回転しているブレード先端と、ブレード先端を取り囲む静止ケーシング又はシュラウドとの間に、先端隙間がある。エンジンの動作中には、ブレードの圧力側から先端隙間を通って吸引側に向かって、空気が漏れる。これらの漏れ流によって、ブレードの先端領域に渦が形成される可能性がある。先端渦は、圧縮システムに流入する空気に深刻な入口ディストーションがあるとき、又はエンジンのスロットルを絞ったときに、成長して拡散し、圧縮機を失速させ、有意な運用性の問題及び性能低下を引き起こす可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】英国特許第2191606号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、圧縮システムの流れの不安定性などの動力学的プロセスを測定及び制御できることが望ましい。また、ブレード先端付近の動圧など、流れの不安定性の始まりに関係のある圧縮システムのパラメータを測定し、測定したデータを処理して、ファンやブースタ、圧縮機などの圧縮システムの失速などの不安定性の始まりを検出することができる検出システムがあることが望ましい。また、飛行エンベロープ中の臨界点における特定の飛行運動について、上記検出システムの出力に基づいて圧縮システムの不安定性を緩和し、失速やサージなどの不安定性を生じることなくそれらの運動を完了できるようにする緩和システムがあることが望ましい。また、上記検出システム及び緩和システムを制御及び管理することができる不安定性緩和システムがあることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の1つ又は複数の必要は、各ブレードがブレード先端を有する周方向ブレード列を有するロータと、ブレード先端から径方向外側に離間して位置する静止構成要素と、ロータの動作中にロータの不安定性を検出する検出システムと、検出システムが不安定性を検出したときに、ロータの安定性の改善を促進する緩和システムとを備える圧縮システムを提供する例示的な実施形態によって満たすことができる。
【0008】
1つの例示的な実施形態では、ファン部分と、ファン部分の動作中に不安定性を検出する検出システムと、ファン部分の安定性の改善を促進する緩和システムとを備えるガスタービンエンジンを開示する。
【0009】
別の例示的な実施形態では、ロータブレード列の先端を取り囲むケーシング上に位置する圧力センサを備える多段圧縮システムの不安定性の開始を検出する検出システムであって、圧力センサが、ロータブレード先端付近の位置における動圧に対応する入力信号を生成することができる、検出システムを開示する。
【0010】
別の例示的な実施形態では、圧縮システムの不安定性を緩和して、圧縮システムの安定動作範囲を拡大する緩和システムであって、圧縮システムのブレードの先端を取り囲む静止構成要素上に位置する1以上のプラズマ発生器を備える緩和システムを提供する。プラズマ発生器は、誘電材料によって分離された第1の電極及び第2の電極を備える。プラズマ発生器は、第1の電極と第2の電極の間にプラズマを形成するように動作することができる。
【0011】
別の例示的な実施形態では、プラズマアクチュエータは、環状の構成を有する。別の例示的な実施形態では、プラズマアクチュエータは、離散プラズマ発生器を備える。
【0012】
本発明と見なされる主題については、本明細書の最後に特に示し、明示的に主張する。しかし、本発明は、添付の図面と関連付けて以下の説明を読むことにより、最もよく理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の例示的な実施形態を備えたガスタービンエンジンを示す概略的な断面図である。
【図2】図1に示すガスタービンエンジンのファン部分の一部を示す拡大断面図である。
【図3】図1に示すガスタービンエンジンの圧縮システムの例示的な動作マップである。
【図4a】動作線より上の位置で圧縮機のスロットルを絞ったときに、圧縮段のブレード先端渦中に逆流領域が形成される様子を示す図である。
【図4b】動作線より上の位置で圧縮機のスロットルを絞ったときに、図4aに示すブレード先端渦中で逆流領域が拡大していく様子を示す図である。
【図4c】失速中のブレード先端領域の渦中の逆流を示す図である。
【図5】不安定性検出システム内のセンサ、及び緩和システム内のプラズマアクチュエータの例示的な配列を示す概略図である。
【図6】不安定性緩和システム内のセンサ及びプラズマアクチュエータの例示的な配列を示す概略図である。
【図7】不安定性緩和システム内の複数のセンサ及び複数のプラズマアクチュエータの例示的な配列を示す概略図である。
【図8】本発明の例示的な実施形態におけるプラズマ発生器の例示的な配列を備えた圧縮システムのロータ段のブレード先端を示す概略上面図である。
【図9】本発明の例示的な実施形態におけるプラズマ発生器の例示的な配列を備えた圧縮システムのロータ段のブレード先端を示す概略上面図である。
【図10】本発明の例示的な実施形態におけるプラズマ発生器の例示的な配列を備えた圧縮システムのシュラウドセグメントを示す等角図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
全ての図面で、同じ参照番号は同じ要素を示している。図1は、本発明の例示的な実施形態を組み込んだ、例示的なターボファンガスタービンエンジン10を示す図である。ターボファンガスタービンエンジン10は、エンジン中心線軸8、周囲空気を受けるファン部分12、高圧圧縮機(HPC)18、HPC18が加圧した空気を燃料に混合して、高圧タービン(HPT)22を通って下流に流れる燃焼ガス又はガス流を生成する混合燃焼器20、及びエンジン10から燃焼ガスを排出する低圧タービン(LPT)24を備える。多くのエンジンでは、ファン部分とHPCの間に、ブースタ又は低圧圧縮機(図1には図示せず)が取り付けられている。ファン部分12を通過する空気の一部は、高圧圧縮機18を迂回して、ファン部分12と高圧圧縮機18の間に入口又はスプリッタ23を有するバイパスダクト21を流れる。HPT22は、HPC18と接合されて、実質的に高圧ロータ29を形成する。低圧シャフト28が、LPT24を、ファン部分12と、ブースタが使用されている場合にはブースタとに接合する。第2の、又は低圧シャフト28は、第1の、又は高圧ロータと同軸に、且つこれより径方向内側に、回転可能に配置される。図1及び図2に示す本発明の例示的な実施形態では、多くのガスタービンエンジンと同様に、ファン部分12は、第1のファンロータ段12a、第2のファンロータ段12b、及び第3のファンロータ段12cとして示す多段ファンロータを有する。
【0015】
その中を流れる空気を加圧するファン部分12は、長手方向の中心線軸8について軸対称である。ファン部分12は、複数の入口案内翼(IGV)30、及び長手方向中心線軸8の周りに周方向に配列された複数のステータベーン31を含む。ファン部分12の複数のロータ段12a、12b、及び12cは、任意の従来の方法で別個のディスク、一体のブリスク、又は環状のドラムの形態を有する対応するロータハブ39a、39b、及び39cから径方向外向きに延びる対応するファンロータブレード40a、40b、及び40cを有する。
【0016】
ファンロータ段12a、12b、12cと協働するのは、複数の周方向に離間したステータベーン31a、31b、31cを含む、対応するステータ段31である。ステータベーン及びロータブレードの例示的な構成を、図2に示す。ロータブレード40及びステータベーン31a、31b、31cは、複数の軸方向段で連続的に空気流を加圧するための、対応する空気力学的プロフィル又は輪郭を有するエーロフォイルを有する。各ファンロータブレード40は、ブレード付け根部45からブレード先端46まで径方向外向きに延びるエーロフォイル34と、凹側面(「圧力側」とも呼ぶ)43と、凸側面(「吸引側」とも呼ぶ)44と、前縁41と、後縁42とを備える。エーロフォイル34は、前縁41と後縁42の間を、翼弦方向に延びる。エーロフォイル34の翼弦Cは、ブレードの各径方向断面における前縁41と後縁42の間の長さである。エーロフォイル34の圧力側43は、ほぼファンロータの回転方向に向いており、吸引側44はエーロフォイルの反対側にある。
【0017】
ステータ段31は、例えば要素12bなど、ロータの軸方向近傍に位置する。要素31a、31b、31cとして図2に示すような、ステータ段31の各ステータベーンは、ブレード付け根部45とブレード先端46の間の翼幅に対応する、ほぼ翼幅方向に径方向に延びるエーロフォイル35を備える。要素31aなどの各ステータベーンは、ベーン凹側面(「圧力側」とも呼ぶ)57と、ベーン凸側面(「吸引側」とも呼ぶ)58と、ベーン前縁36と、ベーン後縁37とを有する。ベーンエーロフォイル35は、前縁36と後縁37の間を、翼弦方向に延びる。エーロフォイル35の翼弦は、ステータベーンの各径方向断面における前縁36と後縁37の間の長さである。ファン部分12など、圧縮システムの前部に、圧縮システムに入る空気流を受ける1組の入口案内翼30(IGV)を有するステータ段がある。入口案内翼30は、空気流を第1のロータ段12aに案内するのに適した形状の空気力学的プロフィルを有する。空気流を適切に圧縮システム中に向けるために、入口案内翼30は、その後端部付近に位置する、可動のIGVフラップ32を有することもある。図2では、IGVフラップ32は、IGV30の後端部に示してある。IGVフラップ32は、圧縮システムの運転中に可動となるように、径方向内側端部と径方向外側端部にある2つのヒンジの間に支持される。
【0018】
図2に示すように、ロータブレードは、ケーシングやシュラウドなど、ブレード先端を取り囲むようにブレード先端から径方向に離間して位置する静止構造内で回転する。前段のロータブレード40は、ロータブレード先端を取り囲む環状ケーシング50内で回転する。図1に要素18として示す高圧圧縮機など、多段圧縮システムの後段のロータブレードは、通常は、ブレード先端46の周囲に周方向に配列されたシュラウドセグメント51が形成する環状通路内で回転する。動作時には、空気が減速され、ステータエーロフォイル及びロータエーロフォイルを通って拡散するにつれて、空気の圧力が高くなる。
【0019】
例示的なガスタービンエンジン10のファン部分12などの例示的な圧縮システムの動作マップを、図3に示す。入口補正流量を横軸に、圧力比を縦軸に示す。例示的な動作線114、116、及び失速線112、並びに例示的な等速線122、124を示す。線124は低速線を表し、線122は高速線を表す。等速線124に示すように、一定の速度で圧縮システムのスロットルを絞ると、入口補正流量が低下する一方で圧力比は増大し、圧縮システムの動作は、失速線112に近づく。各動作条件には、それぞれ対応する圧縮システム効率がある。圧縮システム効率は、所与の圧力比を達成するために必要とされる圧縮機の実際の仕事入力に対する理想的な(等エントロピーの)仕事入力の比として従来定義されている。図3の動作マップでは、各動作条件の圧縮機効率は、要素118、120として示すように、一定効率の等高線としてプロットしてある。この性能マップは、図3では最小の等高線120として示す、ピーク効率領域を有する。圧縮システムは、可能な限りこのピーク効率領域内で動作させることが望ましい。ファン部分12に入る吸気流14のディストーションは、ファンブレード(及び圧縮システムのブレード)が空気を圧縮するにつれて流れを不安定にする傾向があり、失速線112は下がっていく傾向がある。以下でさらに説明するように、本発明の例示的な実施形態は、流れのディストーションなど、ファン部分の流れの不安定性を検出し、ファン部分から得た情報を処理して、ファンロータが失速寸前であることを予測するシステムを提供するものである。本明細書に示す本発明の実施形態は、必要に応じて、エンジン内のその他のシステムが、図3に要素113として示すように失速線を引き上げることによってファンロータ及びその他の圧縮システムの失速マージンを管理することも可能にする。
【0020】
吸気流ディストーションによるファンロータの失速、及びスロットルを絞ったその他の圧縮システムの失速は、図2に示すファンロータ12a、12b、12cなどのロータの先端領域52における流れの破壊によって引き起こされることがわかっている。先端流破壊は、先端漏れ渦と関連があり、この先端漏れ渦を、図4a、図4b、及び図4cに、計算流体力学解析に基づく負の軸方向速度を有する領域の等高線プロットとして概略的に示す。先端漏れ渦200は、主として前縁41付近のロータブレード先端46で始まる。この渦200の領域には、負の軸方向速度を有する流れが存在する。すなわち、この領域の流れは、流れの本体と反対であり、きわめて望ましくない。先端渦200は、妨げられない限り、図4bに示すように、軸方向後方に、且つブレードの吸引表面44に対して接線方向に、隣接するブレードの圧力表面43まで伝搬する。この流れは、圧力表面43に到達すると、図4cに示すようにブレードとブレードの間で先端の閉塞領域に集まる傾向があり、大きな損失を生じる。吸気流ディストーションが深刻になるにつれ、又は圧縮システムのスロットルを絞るにつれて、隣接するブレード間の流路内で、閉塞領域は大きくなっていき、最終的にはロータの圧力比を設計レベル未満に低下させるほど大きくなり、ファンロータを失速させる。失速付近では、ブレード通路の流れ場の構造、特にブレード先端隙間の渦の軌道は、軸方向に対して直交しており、先端隙間の渦200は、図4cに要素201として示すように、隣り合うブレード40の前縁41の間に存在している。渦200は、図4cに示すように、ブレード40の吸引表面44の前縁41から始まり、隣接するブレード40の圧力側の前縁41に向かって移動する。
【0021】
圧縮システムにおける流れの不安定性などの動力学的プロセスを制御できるようにするには、連続的な測定方法を用いて、又は十分な数の離散測定値のサンプルを用いて、当該プロセスの特性を測定することが必要である。安定性マージンが小さい又は負である飛行エンベロープの臨界点における特定の飛行運動のファン失速を緩和するためには、最初に、図2に示す多段ファン内の段の失速の開始を予測するのに直接又は何らかの処理をさらに加えて使用することができる、エンジンの流れパラメータを測定する。
【0022】
図2は、失速やサージなど、ガスタービンエンジン10の圧縮段の空気力学的不安定性の開始を検出するシステム500の例示的な実施形態を示す図である。図2に示す例示的な実施形態では、ファン部分12は、ロータ12a、12b、及び12cを有する3段ファンを備えるものとして示してある。本発明の実施形態は、単段ファンでも使用することができるし、或いは高圧圧縮機18や低圧圧縮機、ブースタなど、ガスタービンエンジン内のその他の圧縮システムで使用することもできる。本明細書に示す例示的な実施形態では、圧力センサ502を使用して、エンジン動作中に、ファンブレード先端46の先端領域52付近の局所動圧を測定する。流れパラメータの測定に単一のセンサ502を使用してもよいが、エンジンの動作時間が長くなると動作しなくなるセンサが出てくる可能性もあるので、2つ以上のセンサ502を使用することが好ましい。図2に示す例示的な実施形態では、ファンロータ12a、12b、及び12cの先端の周りで複数の圧力センサ502を使用している。
【0023】
図5に示す例示的な実施形態では、圧力センサ502は、ファンブレード先端46から径方向外側に離間したケーシング50上に位置する。或いは、圧力センサ502は、ブレード先端46から径方向外側に離間したシュラウド51(図10参照)上に位置していてもよい。ケーシング50、又は複数のシュラウド51は、一列のブレード47の先端を取り囲む。圧力センサ502は、図7に示すように、ケーシング50又はシュラウド51上に周方向に配列される。ロータ段で複数のセンサを使用する例示的な実施形態では、センサ502は、図7に示すように、ケーシング又はシュラウドの径方向にほぼ反対の位置に配置される。
【0024】
エンジン動作中には、ファンブレード先端とケーシング50又はシュラウド51との間に有効隙間CLがある(図5及び図6参照)。センサ502は、ブレード先端46付近のブレード先端領域52の動圧などの流れパラメータに対応する入力信号504を、実時間で生成することができる。ブレードの通過周波数より高い応答能力を有する、適当な高応答性変換器を使用する。通常は、これらの変換器は、1000Hzより高い応答能力を有する。本明細書に示す例示的な実施形態では、使用するセンサ502は、Kulite Semiconductor Products社製のものである。変換器は、直径が約0.1インチ、長さが約0.375インチである。変換器は、1平方インチ当たり約50ポンドの圧力に対して約0.1ボルトの出力電圧を有する。従来の信号調節装置を使用して、この信号を約10ボルトに増幅する。動圧の測定では、ブレードの通過周波数の約10倍など、高周波数のサンプリングを使用することが好ましい。
【0025】
センサ502による流れパラメータの測定により、相関プロセッサ510が入力信号504として使用する信号を生成する。図1、図2、及び図5に示すように、相関プロセッサ510には、ファンロータ12a、12b、12cの回転速度に対応するファンロータ速度信号506も入力される。本明細書に示す例示的な実施形態では、ファンロータ速度信号506は、ガスタービンエンジン内で使用されるエンジン制御システム74によって供給される。或いは、ファンロータ速度信号506は、デジタル電子制御システム、又は航空機のエンジンで使用される全自動デジタル電子制御(FADEC)システムによって供給することもできる。
【0026】
相関プロセッサ510は、センサ502から入力信号504を受信し、制御システム74からロータ速度信号506を受信して、従来の数値的方法を用いて実時間で安定性相関信号512を生成する。公開されている文献に記載されている自己相関方法を、この目的のために使用することができる。本明細書に示す例示的な実施形態では、相関プロセッサ510のアルゴリズムでは、エンジン制御装置74から受信した既存の速度信号を、サイクル同期に使用する。ロータ12a、12b、12cのロータブレード先端46の上の個々の圧力変換器502、及び入力信号504a、504b、504cについて、相関測度を計算する。本明細書で述べる例示的な実施形態における自己相関システムは、圧力センサ502からの信号を、200KHzの周波数でサンプリングする。この比較的高いサンプリング周波数の値により、ファンブレード40の通過周波数の10倍以上の速度で、データが確実にサンプリングされる。窓サイズを72サンプルとして、動作線116に沿ってほぼ単位値を有し、動作が失速/サージ線112(図3参照)に接近するとゼロに向かって低下する自己相関を計算した。特定のファン段12a、12b、12cでは、安定性マージンがゼロに近づくと、当該特定のファン段は失速寸前であり、相関速度は最小になる。本明細書に開示する、圧縮システムの失速やサージなどの不安定性を回避するようになされた例示的な不安定性緩和システム700(図7参照)では、相関速度が選択した既定のしきい値レベルを下回ったときに、不安定性制御システム600が、安定性相関信号512を受信し、FADECシステムなどのエンジン制御システム74に電気信号602を送信し、電子制御装置72に電気信号606を送信し、電気制御装置72は、利用可能な制御デバイスを用いて補正措置を行って、本明細書で述べるように失速線を引き上げることによって失速やサージなどの不安定状態からエンジンを離脱させることができる。本明細書に示す例示的な実施形態で空気力学的安定性レベルを評価するために相関プロセッサ510が使用する方法は、「Development and Demonstration of a Stability Management System for
Gas Turbine Engines」、Proceedings of GT2006 ASME Turbo Expo 2006、GT2006−90324に記載されている。
【0027】
図5は、ブレード40のブレード先端の翼弦中央付近のケーシング50内に位置するセンサ52を使用する、本発明の例示的な実施形態を概略的に示す図である。センサは、ファンブレード先端46とケーシング50の内面53との間の隙間48中の空気の動圧を測定することができるように、ケーシング50内に位置している。1つの例示的な実施形態では、センサ502は、ケーシング50の環状溝54内に位置する。他の例示的な実施形態では、ケーシング50に複数の環状溝54を形成して、例えば先端流を修正して安定性を高めたりすることも可能である。溝が複数ある場合にも、圧力センサ502は、本明細書に開示するのと同じ原理及び実施例を用いて、それらの溝の1つ以上の中に位置する。図5では、センサはケーシング50内に位置するものとして示してあるが、他の実施形態では、圧力センサ502は、図10に示すように、ブレード先端46から径方向外側に離間したシュラウド51内に位置していてもよい。また、ケーシング50(又はシュラウド51)内に位置する圧力センサ502は、ブレードの前縁41付近にあってもよいし、ブレード40の後縁42付近にあってもよい。
【0028】
図7は、図2の要素40aなどのファン段に複数のセンサ502を使用する、本発明の例示的な実施形態を概略的に示す図である。複数のセンサ502は、ケーシング50(又はシュラウド51)中に周方向に配列され、センサ502の対がほぼ径方向に対向して位置するようになっている。相関プロセッサ510は、これらのセンサ対から入力信号504を受信し、それらのセンサ対から得た信号をまとめて処理する。対になった径方向に対向するセンサからの測定データに差があれば、安定性相関信号512を発生させてエンジンの吸気流ディストーションによるファン失速の開始を検出するのに特に有用である可能性がある。
【0029】
図5及び図6は、上述のように検出システム500が不安定性を検出したときの圧縮システムの安定性の改善を容易にする緩和システム300の例示的な実施形態を示す図である。本発明のこれらの例示的な実施形態では、図4a、図4b、及び図4cに示すように、本明細書に開示のプラズマアクチュエータを使用して、ロータブレードの先端漏れ渦200による閉塞の開始及び成長を遅らせる。本発明の例示的な実施形態で適用し、動作させるプラズマアクチュエータは、先端領域52中の流体に、より大きな軸方向運動量を与える。以下で述べるように、先端領域で発生したプラズマは、流体の軸方向運動量を強化し、負の流れの領域200を最小にして、この領域が大きな閉塞領域に成長するのを妨げる。本発明の例示的な実施形態に示すように使用したプラズマアクチュエータは、イオンの流れと、先端渦領域中の流体に作用して、この流体を所望の流体流の方向にブレード通路に通す体積力とを生み出す。本明細書で使用する「プラズマアクチュエータ」という用語及び「プラズマ発生器」という用語は、同じ意味であり、入れ換え可能である。
【0030】
図6は、圧縮システムの安定性を改善するプラズマアクチュエータシステム100の例示的な実施形態を示す、概略的な断面図である。本明細書に示す例示的な実施形態は、失速マージンの増大を容易にし、且つ/又は図1に断面図で示す航空機のガスタービンエンジンなどのガスタービンエンジン10の圧縮システムの効率を向上させる。図6に示す例示的なガスタービンエンジンのプラズマアクチュエータシステム100は、回転可能なブレード先端46を取り囲む、環状ケーシング50又は環状シュラウドセグメント51(図10参照)を備える。ケーシング50又はシュラウドセグメント51には、ブレード先端46から径方向外側に離間した環状溝54又は溝セグメント56中に、環状プラズマ発生器60が位置している。図6に示す例示的な実施形態は、ブレード40の前縁41の先端46付近でケーシング50内に位置するプラズマアクチュエータ60を備える。或いは、プラズマアクチュエータ60は、ケーシング中で、ほぼブレードの翼弦中央など、ブレードの前縁の先端から軸方向後方寄りの位置に位置していてもよい。
【0031】
図6は、失速マージンを増大し、且つ/又は圧縮システムの効率を向上させるプラズマアクチュエータシステム100を有する緩和システム300の例示的な実施形態を示す図である。本明細書で使用する「圧縮システム」という用語は、その中を流れる流体の圧力を増大させるために使用される装置も含み、図1に示すガスタービンエンジンで使用される高圧圧縮機18、ブースタ、及びファン12なども含む。図6に示す例示的な実施形態は、環状プラズマ発生器60がケーシング50に取り付けられており、誘電材料63で分離された第1の電極62及び第2の電極64を含む。誘電材料63は、ケーシング50の径方向内向き表面53に形成された環状溝54内に配置される。ガスタービンエンジンの設計によっては、ファン12又は圧縮機18の複数の段の一部が、ブレード先端を取り囲む環状シュラウドセグメント51を有することもある。図10は、プラズマアクチュエータをシュラウドセグメント51内で使用する例示的な実施形態を示す図である。図10に示すように、各シュラウドセグメント51は、環状溝セグメント56を含み、その環状溝セグメント56内に誘電材料63が配置されている。この誘電材料63、第1の電極62、及び第2の電極64が環状溝セグメント56内に配置された溝セグメント56の環状配列が、環状プラズマ発生器60を構成する。
【0032】
交流(AC)電源70を電極に接続して、約3〜20kVの範囲内の高圧AC電位を電極62、64に供給する。AC振幅が十分に大きいときには、最大電位領域で空気がイオン化して、プラズマ68を形成する。プラズマ68は、一般に、空気にさらされている第1の電極62の縁部65付近で発生し、誘電材料63で覆われた第2の電極64の裏の領域104に拡散していく。電場勾配がある状態では、プラズマ68(イオン化空気)は、プラズマ68より径方向内側に位置する周囲空気に加わる力を生み出し、仮想的な空気力学的形状を誘導し、これが環状ケーシング50又はシュラウドセグメント51の径方向内向き表面53上の圧力分布を変化させる。電極付近の空気はイオン化が小さいので、通常は、空気の加熱はほとんど、又は全く起こらない。
【0033】
図7は、本発明による不安定性緩和システム700の例示的な実施形態を概略的に示す図である。この例示的な不安定性緩和システム700は、検出システム500と、緩和システム300と、不安定性制御システム600など、検出システム500及び緩和システム300を制御する制御システム74とを備える。ブレード先端付近の動圧などの流れパラメータを測定するための1つ以上のセンサ502、及び相関プロセッサ510を有する検出システム500については、本明細書では既に述べた。相関プロセッサ510は、失速などの不安定性の開始が特定のロータ段で検出されたか否かを示す相関信号512を不安定性制御システム600に送信し、不安定性制御システム600は、状態信号604を制御システム74にフィードバックする。制御システム74は、ロータ速度など圧縮システムの動作に関係がある情報信号506を、相関プロセッサ510に供給する。不安定性の開始が検出され、緩和システム300を起動する必要があると制御システム74が判定したときには、コマンド信号602が不安定性制御システム600に送信され、不安定性制御システム600は、実行する不安定性緩和動作の位置、種類、程度、持続時間などを決定し、それに応じた不安定性制御システム信号606を電子制御装置72に送信して実行させる。電子制御装置72は、プラズマアクチュエータシステム100及び電源70の動作を制御する。上述の動作は、不安定性の緩和が達成されたと検出システム500が確認するまで続く。緩和システム300の動作は、制御システム74が決定する所定の動作点で終了することもできる。
【0034】
図1に示すガスタービンエンジン10の例示的な不安定性緩和システム700では、エンジン動作中に、不安定性制御システム600及び電子制御装置72から命令を受けたときに、プラズマアクチュエータシステム100が、プラズマ発生器60(図6及び図7参照)をオンにし、環状ケーシング50又はシュラウド51とブレード先端46との間に、環状プラズマ68を形成させる。電子制御装置72は、例えば全自動デジタル電子制御(FADEC)などの、エンジンのファン速度、圧縮機及びタービンの速度、並びに燃料システムを制御するエンジン制御システム74とリンクすることもできる。電子制御装置72を使用して、プラズマ発生器60をオン/オフすることによって、又は必要に応じてその他の方法でプラズマ発生器60を変調することによってプラズマ発生器60を制御して、失速マージンを増大する、又は圧縮システムの効率を向上させることにより、圧縮システムの安定性を向上させる。電子制御装置72を使用して、電極に接続されて電極に高圧AC電位を供給するAC電源70の動作を制御することもできる。
【0035】
動作中、プラズマアクチュエータシステム100は、オンになると、プラズマ68を形成するイオン流と、空気を押して環状ケーシング50の径方向内向き表面53上のブレード先端付近の圧力分布を変化させる体積力とを発生させる。プラズマ68は、上述のように、また図4a、図4b、図4cに示すように従来の圧縮システムでは渦200が形成され易いブレード先端領域52中の流体に正の軸方向運動量を与える。プラズマ68に与えられる正の軸方向運動量によって、空気は、所望の正の流れの方向に隣り合うブレード間の通路を通過し、従来のエンジンの図4cに示すタイプの流れの閉塞が回避される。これにより、ファン又は圧縮機のロータ段の安定性が向上し、それにより圧縮システムの安定性が向上する。例えば図6に示すようなプラズマ発生器60は、失速が起きる可能性の高いファン又は圧縮機のロータ段をいくつか選択し、それらの先端の周りに配置することもできる。或いは、プラズマ発生器は、全ての圧縮段の先端の周りに配置し、エンジン動作中にエンジン制御システム74又は電子制御装置72を用いて不安定性制御システム600によって選択的に活動化してもよい。
【0036】
プラズマ発生器60は、ブレードの前縁41の先端に対して、軸方向の様々な位置に配置することができる。プラズマ発生器60は、ブレードの前縁41より軸方向上流側に配置することができる(例えば図6参照)。また、プラズマ発生器60は、ブレードの前縁41より軸方向下流側に配置してもよい(図8及び図9の符号「S」参照)。プラズマ発生器は、ブレード先端翼弦の約10%だけ前縁41より上流側の軸方向位置から、ブレード先端翼弦の約50%だけ前縁41より下流側の軸方向位置までに配置すると効果的である。プラズマ発生器は、例えば図4aに示すような先端渦200と関連する低運動量流体に直接作用することができるときに、最も効果的である。図4aに示すように、渦が成長し始めると考えられるブレード先端翼弦の約10%のところで、プラズマ68の流れの影響が出始めるように、プラズマ発生器を配置することが好ましい。前縁41より翼弦の約10%後方の位置から約50%後方の位置までに、複数のプラズマ発生器を配置することが、より好ましい。
【0037】
本発明のその他の例示的な実施形態では、圧縮機のケーシング50又はシュラウドセグメント51内の複数の位置に配置された複数のプラズマアクチュエータ101、102を備えることができる。複数の位置に複数のプラズマアクチュエータを備えた本発明の例示的な実施形態を、図8及び図9に示す。図8は、前縁41の付近に位置する環状前縁プラズマアクチュエータ101、及びブレード先端46の翼弦中央付近に位置する環状部分翼弦プラズマアクチュエータ102を概略的に示す図である。図8に示す例示的な実施形態では、プラズマアクチュエータ101、102は、ケーシング50内に連続的な環状ループ103を形成している。第1の電極62及び第2の電極64も、連続的なループを形成しており、図4a及び図4bに示すようなCFD解析を用いた渦形成の解析に基づいて選択した距離A及びBだけ軸方向に離間して位置している。ブレード前縁先端位置からの前縁プラズマアクチュエータ101の軸方向位置(「S」)、及びブレード先端位置からの部分翼弦アクチュエータ102の軸方向位置(「H」)も、先端渦形成のCFD解析に基づいて選択される。本明細書に開示の例示的な実施例では、前縁プラズマアクチュエータ101は、ブレード前縁先端から軸方向にロータブレード先端翼弦の約10%の位置に配置するのが最もよいと述べた(「S」)。部分翼弦プラズマアクチュエータ102は、ブレード前縁先端から軸方向にロータブレード先端翼弦の約20%から50%の位置に配置することができる(「H」)。好ましい実施形態では、「S」の値は、ロータブレード先端翼弦の約10%、「H」の値は、ロータブレード先端翼弦の約50%である。
【0038】
図9に示す別の例示的な実施形態では、離散プラズマアクチュエータ105、106が、ケーシング50又はシュラウドセグメント51内に周方向に配列される。特定の圧縮段で必要となる離散プラズマアクチュエータ105及び106の数は、当該圧縮段で使用されるブレードの数によって決まる。1つの例示的な実施形態では、使用する離散アクチュエータ105、106の数は、圧縮段内のブレードの数と同じであり、プラズマアクチュエータ間の周方向間隔は、ブレードの列ピッチと同じである。プラズマアクチュエータの軸方向の位置及び距離S、H、A、及びBは、連続的なプラズマアクチュエータの場合について上記で述べたように選択される。図9に示すような離散プラズマアクチュエータは、プラズマ68がエンジンの中心線軸8に対して角度を有するように、配列することもできる。これは、例えば、生成されるプラズマ68がエンジンの中心線軸8に対して角度を有するように離散プラズマアクチュエータの第2の電極64を第1の電極62に対して配置することによって、実現することができる。いくつかの動作状態では、ブレード先端46付近の流れを、ブレード通路を通る流れの本体とほぼ同じロータに対する方向に向かせるように、プラズマアクチュエータを配向すると有利であることもある。1つの例示的な実施形態では、これは、プラズマアクチュエータ60の第2の電極64を、第1の電極62よりも軸方向下流側に、且つ周方向にずらして配置して、選択した動作状態において、2つの電極が、平均的なロータに対する流れの方向とほぼ同じ角度で並ぶようにすることにより、実施される。
【0039】
本明細書に開示する本発明及びその例示的な実施形態の別の態様では、プラズマアクチュエータを使用して、圧縮システムの効率を改善することもできる。一般に、圧縮機のロータブレード40の先端46の漏れ流に伴って、きわめて高い程度の運動量の損失及びエントロピーの増大があることは、当業者には既知である。このような先端漏れを減少させれば、損失を低減し、圧縮システムの効率を改善するのに役立つはずである。さらに、先端漏れ流の方向を修正し、圧縮機中の主流体流とその主流の方向に近い角度で混合させれば、損失を低減させ、圧縮機の効率を改善させるのに役立つはずである。圧縮機のケース50又はシュラウドセグメント51に取り付けられ、本明細書に開示するように使用されるプラズマアクチュエータは、こうしたブレード先端の漏れ流を低減し、再配向するという目的を達成する。先端漏れを低減するために、プラズマアクチュエータ60は、ブレードの圧力側43と吸引側44の静圧の差が最大となる、ブレード先端の翼弦方向の点付近に取り付けられる。本明細書に示す例示的な実施形態では、この位置は、ブレード先端の翼弦の約10%のところである。ブレード先端で静圧の差が最大になる点の位置は、当技術分野では周知のように、CFDを用いて決定することができる。プラズマアクチュエータは、オンになると、先端漏れ流に対して3通りの影響を有する。第1に、失速マージンを増大する場合と同様に、プラズマ発生器60が発生させたプラズマが、先端漏れ流にかかる正の軸方向体積力を誘導し、それにより、損失の大きな閉塞が生じる前に先端漏れ流をロータ先端領域52から出す。第2に、プラズマ発生器60は、先端漏れ流を再配向し、より好ましい角度で主流体流と混合させて、損失を低減する。圧縮システムの損失レベルが、混合する流体の流れの角度によって決まることは既知である。第3に、プラズマ発生器60は、先端漏れ流の有効流れ面積を減少させ、それにより、漏れ流量を減少させる。図6、図8、及び図9に示すように、ケーシング50又はシュラウドセグメント51上のプラズマアクチュエータ101、102、105、106を、圧縮機のロータブレード先端46の上方で動作させることにより、軸方向並びにロータのケーシング51及びシュラウドセグメント51から離れる方向の両方に、先端領域中の空気を押す力が生じる。プラズマ68がケーシング51及びシュラウドセグメント51上の境界層を下向きに先端隙間領域へ押し込む効果によって、ロータブレード40は、さらに狭い有効先端隙間CL(図6参照)で動作するようになり、有効漏れ流面積が減少する。これは、先端領域の低運動量流体が逆圧力勾配と反対に作用し、空気が軸方向圧縮機の内部に進むほど静圧が上昇する、軸流圧縮機で特に有用である。従来の圧縮機では、この逆圧力勾配は、先端渦領域の低運動量流体と反対に作用し、低運動量流体を反対方向に流れさせるので、損失が大きくなり、効率が低下する。本明細書に開示したように設置して使用するプラズマアクチュエータは、このようなブレード先端における逆圧力勾配の悪影響を減少させるのに役立つ。
【0040】
本明細書に開示のプラズマアクチュエータシステムは、例えば図3に引き上げた失速線113として示すように、失速線を上昇させることによって、エンジンの圧縮システムの失速マージンを増加させるように動作させることができる。エンジン動作中に、プラズマアクチュエータを連続的に動作させることは可能であるが、必ずしも、失速マージンを改善するためにプラズマアクチュエータを連続的に動作させることが必要であるわけではない。通常の動作状態では、ブレード先端渦及び小さな逆流領域200(図4a参照)は、依然としてロータ先端領域52に存在している。第1に必要なことは、失速が起こる可能性の高いファン又は圧縮機の動作点を識別することである。これは、従来の解析及び試験方法で行うことができ、結果は、例えば図3に示すように、動作マップ上に表すことができる。図3を参照すると、例えば動作線116上の通常動作点では、失速線112に対する失速マージンは十分であり、プラズマアクチュエータをオンにする必要はない。しかし、例えば一定速度線122に沿って圧縮システムのスロットルを絞ると、或いは深刻な吸気流ディストーションが起きている間には、ブレード付け根部45からブレード先端46までのブレード翼幅全体にわたる圧縮システムの段の空気の軸方向速度が低下し、特に先端領域52において低下する。この軸方向速度の低下と、ロータブレード先端46における圧力上昇とが相まって、ロータブレード先端の流れが増加し、先端渦が強さを増し、失速が起こる状態を生み出す。圧縮システムの動作が、失速線112で示す通常は失速付近である状態に近づくと、プラズマアクチュエータがオンになる。プラズマアクチュエータは、検出システム500による測定及び相関解析が失速やサージなどの不安定性の開始を示しているときに、検出システム500の入力に基づいて不安定性制御システム600がオンにする。制御システム74及び/又は電子制御装置は、圧縮機が失速する可能性が高い失速線112に動作点が近づくよりかなり前に、プラズマアクチュエータシステムをオンにするように設定される。失速線112に達するよりかなり前に、プラズマアクチュエータを早期にオンにすることは、それにより絶対スロットルマージン能力が増大するので、好ましい。ただし、動作線116上にあるときなど、圧縮機が健康的な定常状態で動作しているときには、電力を使ってアクチュエータを動作させる必要はない。
【0041】
或いは、上述のようにプラズマアクチュエータ101、102、104、105を連続モードで動作させる代わりに、プラズマアクチュエータをパルスモードで動作させることもできる。パルスモードでは、プラズマアクチュエータ101、102、105、106の一部又は全てを、いくつかの所定の(「パルス」)周波数でパルス状にオン/オフする。圧縮機の失速につながる先端渦が、一般に、流れの中に配置した円柱の渦発生周波数にある程度近い、いくつかの固有周波数を有することは既知である。所与のロータの幾何学的形状で、これらの固有周波数は、解析的に計算する、又は非定常流センサを用いて試験中に測定することができる。これらは、FADEC又はその他のエンジン制御システム74、或いはプラズマアクチュエータの電子制御装置72の動作ルーチンに、プログラムすることができる。その場合には、プラズマアクチュエータ101、102、105、106を、例えば圧縮機の様々な段の渦発生周波数又はブレード通過周波数に関係する選択した周波数で、制御システムによって迅速にパルス状にオン/オフすることができる。或いは、プラズマアクチュエータは、渦発生周波数の「倍数」又はブレード通過周波数の「倍数」に対応する周波数で、パルス状にオン/オフすることもできる。本明細書で使用する「倍数」という用語は、任意の数又は分数とすることができ、1に等しい値、1超の値、又は1未満の値を有することができる。プラズマアクチュエータのパルス化は、渦周波数と同相で行うことができる。或いは、プラズマアクチュエータのパルス化は、選択した位相角だけ渦周波数から位相をずらして行うこともできる。位相角は、約0度から180度まで変化させることができる。約180度渦周波数から位相をずらしてプラズマアクチュエータをパルス化して、ブレード先端渦が形成されるときに迅速にこれを破壊することが好ましい。プラズマアクチュエータの位相角及び周波数は、上述のようにブレード先端付近に取り付けられたプローブを用いた検出システム500の先端渦信号の測定に基づいて選択することができる。
【0042】
エンジン動作中に、プラズマブレード先端隙間制御システム90が、プラズマ発生器60をオンにして、環状ケーシング50(又はシュラウドセグメント51)とブレード先端46との間にプラズマ68を形成する。電子制御装置72を使用して、発生器60の制御並びにプラズマ発生器60のオン/オフを制御することもできる。電子制御装置72を使用して、電極62、64に接続された電極62、64に高圧AC電位を供給するAC電源70の動作を制御することもできる。プラズマ68により、環状ケーシング50(又はシュラウドセグメント51)の径方向内向き表面53付近の空気は、その表面から離れる方向に押される。これにより、環状ケーシング50(又はシュラウドセグメント51)とブレード先端46との間に、環状ケーシング50(又はシュラウドセグメント51)とブレード先端46との間の冷間隙間より小さな有効隙間48が生じる。冷間隙間は、エンジンが動作していないときの隙間である。環状ケーシング50(又はシュラウドセグメント51)とブレード先端46との間の実際の、又は動作中の隙間は、エンジン動作中に、熱膨張及び遠心荷重により変化する。プラズマ発生器60がオンであるとき、環状ケーシング表面53とブレード先端46の間の有効隙間48(CL)(図5参照)は、アクチュエータがオフであるときより小さい。
【0043】
環状ケーシング50(又はシュラウドセグメント51)とブレード先端46との間の冷間隙間は、ブレードディスク及びブレードが高温及び遠心荷重のために膨張する離陸時など、エンジンの高出力動作中に、ブレード先端が環状ケーシング50(又はシュラウドセグメント51)をこすらないように設計される。本明細書に示すプラズマアクチュエータシステムの例示的な実施形態は、深刻な吸気流ディストーションが生じている状態にあるとき、ファン又は圧縮機の失速を回避するために失速マージンの増大が必要となって動作線を引き上げたことでエンジンが過渡的状態にあるとき、或いは例えばエンジンによって動力を得ている航空機が巡航状態にあるときのように隙間48を制御しなければならない飛行レジームにあるときに、プラズマ発生器60を起動して環状プラズマ68を形成するように設計され、そのように動作することができる。船舶用のガスタービンエンジンや場合によっては工業用のガスタービンエンジンなど、その他のタイプのガスタービンエンジンで、本明細書に示す例示的なプラズマアクチュエータシステムのその他の実施形態を使用することができる。
【0044】
セグメント型シュラウド51の設計では、セグメント型シュラウド51が、ファン、ブースタ又は圧縮機ブレード40を取り囲み、圧縮機ブレード40の径方向外側のブレード先端46の周囲の流れの漏れを減少させるのに役立つ。プラズマ発生器60は、ブレード先端46から径方向外側に離間している。この応用例では、セグメント型シュラウド51上で、環状プラズマ発生器60はセグメント化され、セグメント化された環状溝56と、セグメント化された環状溝56内に配置されたセグメント化された誘電材料63とを有する。シュラウドの各セグメントは、環状溝のセグメントと、環状溝のセグメント内に配置された誘電材料のセグメントと、環状溝のセグメント内に配置された誘電材料のセグメントによって分離された第1及び第2の電極とを有する。
【0045】
本明細書の本発明の例示的な実施形態は、ブースタ、低圧圧縮機(LPC)、高圧圧縮機(HPC)18、ファン12など、環状ケーシング又はシュラウド及びロータブレード先端を有するエンジン10の任意の圧縮部分で使用することができる。
【0046】
本明細書では、最良の形態も含むいくつかの例を用いて、本発明を開示し、当業者が本発明を作成及び使用することを可能にする。本発明の特許範囲は、特許請求の範囲によって規定されるものであり、当業者が思いつくその他の例も含むことができる。そうしたその他の例は、特許請求の範囲の表現と同じ構造要素を有する場合、又は特許請求の範囲の表現と多少の相違はあっても等価である構造要素を含む場合には、特許請求の範囲に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0047】
10 ガスタービンエンジン
12 ファン部分
18 高圧圧縮機
40 ファンブレード
50 ケーシング
51 シュラウド
502 圧力センサ
510 相関プロセッサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータの動作中に前記ロータの不安定性の開始を検出する検出システムと、
前記検出システムが不安定性の開始を検出したときに、前記ロータの安定性の改善を促進する緩和システムと、
前記検出システム及び前記緩和システムの動作を制御する制御システムとを備える不安定性緩和システム。
【請求項2】
前記検出システムが、センサから入力信号を受信し、安定性相関信号を生成することができる相関プロセッサを備える、請求項1記載の不安定性緩和システム。
【請求項3】
前記検出システムが、前記ロータ上に周方向に配列されたブレード列の先端から径方向外側に離間した静止構成要素上に位置するセンサを備える、請求項1記載の不安定性緩和システム。
【請求項4】
前記センサが、ブレードの先端付近の位置における流れパラメータに対応する入力信号を生成することができる、請求項3記載の不安定性緩和システム。
【請求項5】
前記流れパラメータが、ブレード先端付近の位置における動圧である、請求項4記載の不安定性緩和システム。
【請求項6】
前記制御システムが、制御装置に不安定性制御信号を送信することによって前記制御装置の動作を制御する不安定性制御システムを備える、請求項1記載の不安定性緩和システム。
【請求項7】
前記緩和システムが、第1の電極及び第2の電極を有するプラズマアクチュエータの動作を制御する制御装置を備える、請求項1記載の不安定性緩和システム。
【請求項8】
前記制御装置が、前記プラズマアクチュエータへの電力の供給を制御する、請求項7記載の不安定性緩和システム。
【請求項9】
前記緩和システムが、第1の電極及び第2の電極を有するプラズマアクチュエータに接続されたAC電源の動作を制御する制御装置を備える、請求項1記載の不安定性緩和システム。
【請求項10】
前記相関プロセッサが、前記入力信号及び回転速度信号に基づいて安定性相関信号を生成する、請求項2記載の不安定性緩和システム。
【請求項11】
前記ロータ上に周方向に配列されたブレード列の先端から径方向外側に離間した静止構成要素上に位置するセンサを備え、前記センサが、ブレードの先端付近の位置の流れパラメータに対応する入力信号を生成することができる、検出システムと、
前記検出システムが不安定性の開始を検出したときに、前記ロータの安定性の改善を促進する緩和システムと、
前記検出システム及び前記緩和システムを制御する制御システムと、
前記入力信号及びロータ速度信号を受信し、安定性相関信号を生成する相関プロセッサとを備える、ロータ用の不安定性緩和システム。
【請求項12】
前記検出システムが、前記静止構成要素上に周方向に、前記ロータの回転軸の周りに配列され、前記ブレード列の先端から径方向外側に離間している、複数のセンサをさらに備える、請求項11記載の不安定性緩和システム。
【請求項13】
前記緩和システムが、前記静止構成要素上に位置する複数のプラズマアクチュエータをさらに備える、請求項11または12記載の不安定性緩和システム。
【請求項14】
前記制御システムが、前記静止構成要素上に位置するプラズマ発生器の第1の電極及び第2の電極に印加されるAC電位を制御する制御装置を備える、請求項11乃至13のいずれか1項記載の不安定性緩和システム。
【請求項15】
前記制御装置が、前記AC電位を選択した周波数でパルス化することによって前記AC電位を制御する、請求項14記載の不安定性緩和システム。
【請求項16】
前記制御装置が、前記ブレード列のブレード数の倍数となる周波数で前記AC電位をパルス化することによって前記AC電位を制御する、請求項14記載の不安定性緩和システム。
【請求項17】
前記制御装置が、前記ブレード先端における渦発生周波数の倍数と同相で前記AC電位をパルス化する、請求項14記載の不安定性緩和システム。
【請求項18】
前記制御装置が、前記ブレード先端における渦発生周波数の倍数と位相をずらして前記AC電位をパルス化する、請求項14記載の不安定性緩和システム。
【請求項19】
前記静止構成要素上に中心線軸の周りに周方向に配列された複数のプラズマ発生器をさらに備える、請求項14記載の不安定性緩和システム。
【請求項20】
前記静止構成要素上の複数の軸方向位置に位置する複数のプラズマ発生器をさらに備える、請求項14記載の不安定性緩和システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2011−508156(P2011−508156A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−540867(P2010−540867)
【出願日】平成20年12月23日(2008.12.23)
【国際出願番号】PCT/US2008/088182
【国際公開番号】WO2009/086387
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】