説明

ローダ作業機の油圧回路及びその油圧制御方法

【課題】ブームシリンダに供給可能な作動油をブーム制御弁から作業具制御弁へ一部短絡させて、作業具の掬い動作を全速で行いながらブームの下降速度を遅くする。
【解決手段】ブーム2を昇降させるブームシリンダ3用のブーム制御弁4と、ブーム制御弁4の下流側であって作業具5を掬い・ダンプさせる作業具シリンダ6用の作業具制御弁7とを備え、制御弁4、7に、水平線に対する作業具5の姿勢を維持しながらブーム2を上昇させる平行制御手段8と、作業具5を底面接地姿勢にすべく掬い動作させながらブーム2を下降させる水平接地制御手段9とを設け、ブーム制御弁4は、水平接地制御手段9の作動時にブームシリンダ3に供給可能な作動油の一部を、ブーム制御弁4のバイパスラインPB1から作業具制御弁7のメインラインPP2へ短絡させ且つブームシリンダ3を作動させた後の作動油に合流させて作業具制御弁7に供給する分流手段10を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントローダ、トラックローダ等のローダ作業機の油圧回路及びその油圧制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、フロントローダのバケットをダンプした後に、バケットを掬い動作させながらブームを下降させ、接地したときにバケットの底面が水平状態になる水平制御を行うフロントローダのバケット水平制御装置が知られている。
このバケット水平制御装置は、ブームシリンダ用の電磁弁の下流側にバケットシリンダ用の電磁弁が接続され、水平線に対するバケット底面の傾きを検出する検出器を備えており、この検出器からの信号を利用することによって、水平制御を開始した後は、ブーム下降中であっても常にバケット底面を水平に保つように構成されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平6−102906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のバケット水平制御装置は、ブーム高さやバケットのダンプ角にかかわらず、各シリンダに供給される作動油が全量確保されるため、ブーム及びバケットは、それぞれ全速で動くこととなる。
したがって、バケットが大きくダンプ側へ傾斜していると、ブームを下降させてバケット底面が前傾状態から接地時に略水平状態となる前に、ブームが最下位置に到達してしまい、前傾したバケットが地面に突っ込む虞がある。
【0005】
本発明は、このような点に鑑みて、ブームを下降して水平接地制御をする際にブームシリンダに供給可能な作動油の一部をブーム制御弁から作業具制御弁へ短絡させる分流手段を設けることで、作業具に全速で掬い動作させながらブームの下降速度を遅くして、接地するときの作業具の突っ込みを防ぐことができるローダ作業機の油圧回路を提供することを目的とする。
【0006】
また、本発明は、ブームを下降して水平接地制御をする際にブームを上昇位置から最下位置まで下降させる時間を、作業具をダンプ姿勢から底面接地姿勢にするまでの時間と略同一にすることで、接地時に前傾した作業具が地面に突っ込むことを防止するができるローダ作業機の油圧制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、以下の技術的手段を採用した。
第1に、ブーム2を昇降させるブームシリンダ3用のブーム制御弁4と、このブーム制御弁4の下流側に接続されていてブーム2先端の作業具5を掬い・ダンプさせる作業具シリンダ6用の作業具制御弁7とを備え、前記ブーム制御弁4と作業具制御弁7とに、水平線に対して作業具5を一定姿勢に維持しながらブーム2を上昇させる平行制御手段8と、上昇位置でダンプした作業具5を底面接地姿勢にするべく掬い動作させながらブーム2を最下位置まで下降させる水平接地制御手段9とを設けており、
前記ブーム制御弁4は、前記水平接地制御手段9の作動時にブームシリンダ3に供給可能な作動油の一部を、前記ブーム制御弁4のバイパスラインPB1から作業具制御弁7のメインラインPP2へ短絡させ且つ前記ブームシリンダ3を作動させた後の作動油に合流させることで作業具制御弁7に供給する分流手段10を有している特徴とする。
【0008】
第2に、前記分流手段10は、前記水平接地制御手段9の作動開始時における作業具5のダンプ側への傾斜角度βが大きいほど、前記作業具制御弁7へ短絡させる作動油の油量を多く設定していることを特徴とする。
第3に、ブーム制御弁4でブームシリンダ3を介してブーム2を昇降させ、前記ブーム制御弁4の下流側に接続されている作業具制御弁7で作業具シリンダ6を介してブーム2先端の作業具5を掬い・ダンプさせ、前記ブーム制御弁4と作業具制御弁7とで、水平線に対して作業具5を一定姿勢に維持しながらブーム2を上昇させる平行制御を行い、上昇位置でダンプした作業具5を底面接地姿勢にするべく掬い動作させながらブーム2を最下位置まで下降させる水平接地制御を行うローダ作業機の油圧制御方法であって、
前記水平接地制御時に、前記ブーム2を上昇位置から最下位置まで下降させる時間T1を、前記作業具5をダンプ姿勢から底面接地姿勢にするまでの時間T2と略同一にすることを特徴とする。
【0009】
第4に、前記水平接地制御の開始時における作業具5のダンプ側への傾斜角度βが大きいほど、前記ブーム2を上昇位置から最下位置まで下降させる時間T1を長くすることを特徴とする。
前記特徴を有するローダ作業機の油圧回路及びその油圧制御方法は次のような作用を奏する。
【0010】
ブーム制御弁4に、水平接地制御手段9の作動時にブームシリンダ3に供給可能な作動油の一部をブーム制御弁4から作業具制御弁7へ短絡させる分流手段10を設けることで、作動油がブーム制御弁4のバイパスラインPB1から作業具制御弁7のメインラインPP2へ短絡し、作業具シリンダ6に供給可能な作動油を全量確保しながら、ブームシリンダ3に供給する油量を抑えることができ、作業具5の掬い動作は全速で行うと同時にブーム2の下降速度を遅くすることが可能となり、作業具5が底面接地姿勢となる前にブーム2が最下位置に到達することを防いで、作業具5の突っ込みをなくすことができる。
【0011】
また、水平接地制御手段9の作動開始時における作業具5の傾斜角度βが大きいほど、作業具制御弁7へ短絡させる作動油の油量を多くすることで、作業具5の傾斜角度βに応じて、作業具シリンダ6に供給する作動油を全量確保しつつブームシリンダ3に供給する油量を調節することができ、様々な作業具5の傾斜角度βに対しても、作業具5が突っ込むことがないようにブーム2の下降速度をコントロールできる。
【0012】
さらに、水平接地制御時におけるブーム2の最下位置までの時間T1と作業具5の底面接地姿勢までの時間T2とを略同一にすることで、作業具5が前傾(ダンプ)した状態で接地することがなくなり、作業具5が地面に突っ込むことを防止できる。
そして、水平接地制御の開始時における作業具5の傾斜角度βが大きいほど、ブーム2の最下位置までの下降時間T1を長くすることで、様々な大きさの傾斜角度βに対しても、作業具5の突っ込み防止が実現できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るローダ作業機の油圧回路によれば、ブームを下降して水平接地制御をする時にブームシリンダに供給可能な作動油をブーム制御弁から作業具制御弁へ一部短絡させることで、作業具制御弁に流す作動油を全量確保して作業具の掬い動作をたえず同じ速度で行いながら、ブームの下降速度のコントロールを容易に実現できる。
本発明に係るローダ作業機の油圧制御方法によれば、ブームを下降させて水平接地制御をする時にブームの最下位置までの下降時間と作業具の底面接地姿勢にするまでの時間と略同一にすることで、接地するときの作業具の突っ込みを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るローダ作業機の油圧回路の概要図である。
【図2】油圧回路のローダ油圧制御部の説明図である。
【図3】ローダ油圧制御部の要部の断面図である。
【図4】作業具角度とブーム角度との関係を表すグラフである。
【図5】ローダ作業機の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図5は、本発明に係る油圧回路1を適用したフロントローダ付きトラクタ(ローダ作業機21)を示すものであって、ローダ作業機21は、トラクタ22の前部にフロントローダ23が装着されている。
前記トラクタ22は、エンジン、クラッチハウジング、ミッションケース等を直結して車体24が構成され、この車体24に左右一対の前輪25及び後輪(図示省略)が設けられて走行可能とされている。また、車体24の前部には、エンジン等を覆うボンネット26が設けられている。
【0016】
このボンネット26の後方の車体24上にキャビン(図示省略)が搭載され、このキャビン内には、図示しない運転席やハンドル、操作レバー等の操縦部が配備されている。
図5に示された如く、前記フロントローダ23は、左右一対の取付フレーム27と、この取付フレーム27に基端(後端)側がブーム支軸28でそれぞれ枢支された左右一対のブーム2と、このブーム2の中途部と前記取付フレーム27との間に介装され且つブーム2を昇降させる左右一対のブームシリンダ3と、前記左右のブーム2の先端(前端)間に亘ってバケット支軸(作業具支軸)29で枢支されたバケット(作業具)5と、このバケット5と前記ブーム2中途部との間に介装され且つバケット5を掬い・ダンプ(掬い動作とダンプ動作とを)させる左右一対のバケットシリンダ(作業具シリンダ)6とを有している。
【0017】
前記ローダ作業機21は、バケット5の水平線(水平方向)に対する傾斜角度β(絶対角度)を検出するバケット傾斜角度検出手段(作業具傾斜角度検出手段)30を有している。
このバケット傾斜角度検出手段30は、ブーム2の取付フレーム27に対する相対揺動角度を検知するブーム角度センサ31と、バケット5のブーム2に対する相対揺動角度を検出するバケット角度センサ(作業具角度センサ)32とを備え、ブーム角度センサ31で検出した揺動角度とバケット角度センサ32で検出した傾斜角度とから、バケット5の絶対角度βを算出する。
【0018】
なお、ブーム角度センサ31はブーム支軸28に、バケット角度センサ32はバケット支軸29に取り付けられたロータリエンコーダによって構成されている。
前記取付フレーム27は、車体24に設けられたブーム支持部材であり、それぞれ車体24から左右方向外方に突設された支持台33と、この支持台33の左右方向外端部に上方突出状に取り付けられたメインフレーム34とを備えており、これらは、車体24の左右両側に設置されている。
【0019】
前記ブーム2は、その基端側(後端側)が前記取付フレーム27上部に左右方向のブーム支軸28廻りに回動自在に枢支連結されていて昇降(上下揺動)自在とされている。左右一対のブーム2は、ボンネット26の左右両側に配置されており、ブーム2はその中途部が円筒状等のブーム連結体35によって相互に連結されている。
前記ブームシリンダ3は、ブーム2下面側の中途部と取付フレーム27の上下方向中途部とにわたって左右それぞれに介装されている。この左右ブームシリンダ3の伸縮によってブーム2が上下に揺動可能とされている。
【0020】
詳しくは、ブームシリンダ3は、複動式油圧シリンダであって、図5に示すように、シリンダロッド側のシリンダ室3aに作動油が流入して、ブームシリンダ3が収縮したときにはブーム2を下降させる(図5中の実線参照)。一方、シリンダロッドとは反対側(ボトム側)のシリンダ室3bに作動油が流入した場合にはブームシリンダ3は伸張し、このときにはブーム2は上昇する(図5中の1点鎖線参照)。
【0021】
前記バケット5は、背面下部がブーム2の先端側(前端側)にバケット支軸29廻りに揺動自在に枢支連結されており、前記バケットシリンダ6の伸縮によって前後傾自在(掬い動作とダンプ動作とが可能)とされている。
このバケットシリンダ6は、ブーム2上面側の中途部とバケット5の背面上部とにわたって左右それぞれに介装されている。この左右バケットシリンダ6の伸縮によってバケット5が掬い・ダンプ可能とされている。
【0022】
ここでバケットシリンダ6も、ブームシリンダ3と同様に複動式油圧シリンダであって、図5に示すように、シリンダロッド側のシリンダ室6aに作動油が流入して、バケットシリンダ6が収縮したときにはブーム2を掬い動作(つまり、後傾)させる(図5中の2点鎖線参照)。
また、ボトム側のシリンダ室6bに作動油が流入した場合にはバケットシリンダ6は伸張し、このときにはバケット5はダンプ(前傾)する(図5中の1点鎖線参照)。
【0023】
図1は、ブーム2及びバケット5を動作させるためのローダ作業機の油圧回路1を示しており、この油圧回路1は、フロントローダ23用のローダ油圧制御部41と、後述のブームスプール44及びバケットスプール47の切り換え位置を調整するコントローラ43とを有している。
前記ローダ油圧制御部41は、図示省略の操作レバーの操作に応じてブームシリンダ3とバケットシリンダ6とを制御するもので、ブームシリンダ3用のオープンセンタ式ブーム制御弁4と、このブーム制御弁4の下流側に接続されたバケットシリンダ6用のオープンセンタ式バケット制御弁(作業具制御弁)7と、電磁比例減圧弁51〜54とを備えている(図1参照)。
【0024】
なお、ローダ油圧制御部41は、ブーム2やバケット5等の駆動用第1ポンプ45と、パイロット用第2ポンプ46とを有しており、この第2ポンプ46から供給されるパイロット用の作動油は、前記電磁比例減圧弁51〜54によって適切な油量に調整された後、前記ブーム制御弁4及びバケット制御弁7を流れる作動油の向きや油量をコントロールする。
【0025】
前記ブーム制御弁4は、ブームスプール44をスライドさせて下げ位置4a、ニュートラル位置4b、上げ位置4cに切換可能であって、ブームスプール44のスライド量は、前記コントローラ43によって電磁比例減圧弁51、52を制御し、任意の位置に調整できるように構成されている。このブームスプール44がニュートラル位置4bに切り換わったときは、ポートPからの作動油をバイパスラインPB1を経てそのままバケット制御弁7側に供給する。
【0026】
前記ブームスプール44が下げ位置4aに切り換わったときには、作動油は、逆止弁を有するメインラインPP1を通り、ポートA1を介してブームシリンダ3のロッド側シリンダ室3aに供給され、ブームシリンダ3のロッドが引っ込む。ロッドが引っ込んだ際にボトム側シリンダ室3bから流出する戻り油は、ポートB1とを通ってバケット制御弁7側に供給される。
【0027】
逆に、ブームスプール44が上げ位置4cにあるときは、作動油は、メインラインPP1を通り、ブームシリンダ3のボトム側シリンダ室3bに供給され、ブームシリンダ3のロッドが延出することとなる。その際の戻り油は、ロッド側シリンダ室3aから出た後にバケット制御弁7側に供給される。
前記バケット制御弁7も、ブーム制御弁4と同様に、バケットスプール(作業具スプール)47をスライドさせてダンプ位置7a、ニュートラル位置7b、掬い位置7cに切換可能であり、バケットスプール47のスライド量も、コントローラ43によって電磁比例減圧弁53、54を制御し、任意の位置に調整できるように構成されている。このバケットスプール47がニュートラル位置7bのときは、ブーム制御弁4からの作動油はバイパスラインPB2を経てそのままポートPBへ流れる。
【0028】
バケットスプール47がダンプ位置7aのときは、作動油が逆止弁を有するメインラインPP2を通るとともに、バケットシリンダ6内でピストン接触面積の違いによって圧力差が生じるため、作動油は、ロッド側シリンダ室6aからポートB2、A2を経てボトム側シリンダ室6bに流れ込む。
一方、バケットスプール47が掬い位置7cのときは、作動油がメインラインPP2を通り、ポートB2を介してバケットシリンダ6のロッド側シリンダ室6aに供給される。
【0029】
図1、2に示された前記コントローラ43は、ブーム角度センサ31及びバケット角度センサ32からの出力信号に基づいて、ローダ油圧制御部41のブームスプール44及びバケットスプール47のそれぞれのスライド量をコントロールするものであって、マイコン等によって構成されている。
つまり、このコントローラ43が、ブームシリンダ3及びバケットシリンダ6へ供給される作動油(流入出するシリンダ室や油量)を制御しており、バケット5を水平線に対して一定姿勢(絶対角度βを所定値)に維持しながらブーム2を上昇させる平行制御と、上昇位置でダンプしたバケット5を底面接地姿勢(接地したバケット5の底面が略水平となる姿勢)にするべく掬い動作させながらブーム2を最下位置まで下降させる水平接地制御とを行っている。
【0030】
平行制御を行う際には、バケット5の姿勢を操作せずにブーム2の上昇させれば、バケット5は自然と後傾するため、バケット5の絶対角度βを一定に保つためには、ローダ油圧制御部41のブームスプール44を上げ位置4cにセットし、バケットスプール47をダンプ位置7aにセットすることとなる。
このとき、コントローラ43は、ブーム2のブーム角度α(ブーム角度センサ31の出力信号)に応じてバケットスプール47のスライド量を調整し、バケットシリンダ6のボトム側シリンダ室6bに適切な量の作動油を供給する。
【0031】
作動油の油量調整は、バケットスプール47のスライド量を変化させることによって、バケットスプール47のダンプ位置7aの太軸部分に形成されたノッチ(溝)から作動油が一部漏れて、バケットシリンダ6側へ流れ込む油量を調節することができる。
このようにコントローラ43は、バケット傾斜角度検出手段30によって検出されるバケット5の絶対角度βを一定に維持するように、適切な量の作動油をバケットシリンダ6へ供給して平行制御を実現する。
【0032】
なお、コントローラ43、ブーム制御弁4の上げ位置4c、バケット制御弁7のダンプ位置7a、バケット傾斜角度検出手段30等で平行制御手段8を構成している。
上述の水平接地制御を行うのは、図4に示したように、バケット5を、スタート位置S(バケット5がダンプ姿勢で且つブーム2が上昇位置)からゴール位置G(ブーム2が下降してバケット5が底面接地姿勢となる位置)まで操作するためである。
【0033】
このとき、バケット操作なしにブーム2を下降させると、バケット5はさらに前傾するため、バケット5が底面接地姿勢になるように掬い動作をさせなくてはならない。
そこで、水平接地制御時には、ローダ油圧制御部41のブームスプール44を下げ位置4a(又は後述する中間位置4M)に、バケットスプール47を掬い位置7cにセットする(図1参照)。
【0034】
なお、図1拡大図の記号中の点線は、ブームスプール44を下げ位置4a(ブームスプール44を、下げ位置4aとニュートラル位置4bの中間位置4M)にした際に、コントローラ43のスライド量によって、ポートPからの作動油の一部がバイパスラインPB1から漏れ、ブームシリンダ3を経由せず、そのままバケット制御弁7のメインラインPP2へ流れる状態とすることができることを示している。
【0035】
水平接地制御時でも同様に、コントローラ43は、バケットスプール47をスライドさせてノッチから漏れる作動油を調整し、バケットシリンダ6のロッド側シリンダ室6aに供給する油量(バケット5の掬い動作)を制御している。つまり、コントローラ43、ブーム制御弁4の下げ位置4a、バケット制御弁7の掬い位置7c、バケット傾斜角度検出手段30等で水平接地制御手段9を構成している。
【0036】
ここでコントローラ43は、上述したように、ブームスプール44のスライド量もコントロール可能となっており、ブームシリンダ3に供給する油量も同時に制御できる。
前記ブームスプール44は、ブーム制御弁4のメインラインPP1とポートA1とを連通する部分(図2、3中のXで示す太軸部分)で作動油の一部をポートA1へ流すためのノッチ4Xと、バイパスラインPB1とバケット制御弁7への油路であるメインラインPP2とを連通する部分(図2、3中のYで示す太軸部分)でバイパスラインPB1からの作動油の一部をそのままバケット制御弁7へ流すためのノッチ4Yがそれぞれ形成されている。
【0037】
Xで示す太軸部分のノッチ4Xは、ブームスプール44の軸方向に沿って形成された溝であって、ブームスプール44が中間位置4Mにあるときに、メインラインPP1と軸方向でオーバラップする溝長さとされている。
よって、図3中の矢印N1に示す如く、ブームスプール44の中間位置4Mにおいて、作動油は、ノッチ4Xを通ってメインラインPP1からポートA1に流入し、その流入量は、ブームスプール44が下げ位置4aにあるときよりも抑えられている。
【0038】
また、Yで示す太軸部分のノッチ4Yも、前記ノッチ4Xと同様に、軸方向に沿った溝であり、ブームスプール44の中間位置4MではバイパスラインPB1と軸方向でオーバラップする溝長さに形成されている。
よって図3中の矢印N2に示す如く、ブームスプール44が中間位置4Mであるとき、作動油は、ノッチ4Yを通ってバイパスラインPB1からバケット制御弁7のメインラインPP2(及びバイパスラインPB2)に流入する。
【0039】
このような流入は、ブームスプール44が下げ位置4aにある場合には起こっていなかったが、ブームスプール44が中間位置4Mにある場合は、バイパスラインPB1からの作動油の一部が漏れて、ブームシリンダ3に供給されずに、そのままバケット制御弁7のメインラインPP2へ短絡され、ブームシリンダ3を作動させた後の作動油(図3中の矢印N3で示す)に合流する。
【0040】
この合流によって、バケット制御弁7へ供給される作動油は、全量確保されながら、ブームシリンダ3に供給される作動油を抑えることができ、バケット5の掬い動作をたえず同じ速度で行いながら、ブーム2の下降速度のコントロールを容易に実現できる。
つまり、水平接地制御時において、バケット5の掬い動作を全速で行いながら、ブーム2の下降速度を遅くすることが可能となる。
【0041】
さらに、コントローラ43は、入力される各角度センサ31、32の角度データから、バケット5の絶対角度βを算出するように構成されており、この絶対角度βが大きいほど、バケット制御弁7へ短絡させる作動油の油量を多くするように、ブームスプール44のスライド量を調整可能に設定されている。
なお、前記ノッチ4X、4Y、コントローラ43、ブームスプール44、バケット傾斜角度検出手段30等によって、分流手段10が構成されている。
【0042】
ローダ作業機の油圧回路1の使用態様、つまりローダ作業機の油圧制御方法を説明する。
ローダ作業機21が土砂を掻き入れたバケット5の開口縁を略水平に保ったままブーム2を上昇させてトラック等に土砂を積み込むダンプ動作をするなどの際、バケット5から土砂をこぼさないように、バケット5を水平線に対して一定姿勢に維持しながらブーム2を上昇させる平行制御を平行制御手段8によって行う。
【0043】
土砂をダンプさせ終えた後、再びローダ作業機21が土砂をバケット5内に掻き入れるために、ブーム角度αが所定値である上昇位置で、絶対角度βが所定値であるダンプしたバケット5を底面接地姿勢にするべく掬い動作させながら、ブーム2を最下位置(つまりブーム角度αが0となる)まで下降させる水平接地制御を水平接地制御手段9によって行う。
【0044】
このときコントローラ43が、水平接地制御の開始時におけるバケット5の絶対角度βを算出し、この絶対角度βに対応して中間位置4Mにあるブームスプール44のスライド量を調整する。
このスライド量に応じた量の作動油は、分流手段10によって全量がブームシリンダ3に供給されずに、バイパスラインPB1から一部が漏れてそのままバケット制御弁7のメインラインPP2へ短絡する。したがって、バケット制御弁7へ供給される作動油を全量確保しながら、ブームシリンダ3に供給される作動油を抑えることができる。
【0045】
このとき、ブームスプール44のスライド量は、前記ブーム2をブーム角度αの上昇位置から最下位置(ブーム角度αが0となる)まで下降させるのにかかる時間T1が、前記バケット5をダンプ姿勢(ダンプ側に絶対角度βだけ傾斜した姿勢)から底面接地姿勢にするまでにかかる時間T2と略同一になるように決められる。
これは、図4中のスタート位置Sからゴール位置Gまで、ブーム2及びバケット5を動かす際に、同一時間内に、ブーム2は角度αだけ下降するが、バケット5は角度(α+β)だけの掬い動作をすることを意味している。
【0046】
これによって、水平接地制御時に、バケット5の全速の掬い動作をしながらブーム2の下降速度を遅くすることができ、バケット5が底面接地姿勢となる前にブーム2が最下位置に到達することを防いで、バケット5の地面への突っ込みをなくすことができる。
さらに、コントローラ43は、水平接地制御の開始時の絶対角度βが大きいほど底面接地姿勢にするまでの時間T2が長くなるため、ブーム2の最下位置までの下降時間T1を長くするように、ブームスプール44のスライド量を設定する。
【0047】
よって、様々な大きさの絶対角度βに対しても、バケット5の突っ込みを防止できる。
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。ローダ作業機の油圧回路1等の各構成又は全体の構造、形状、寸法などは、本発明の趣旨に沿って適宜変更することができる。
作業具5は、土砂や鉱石などを入れて運搬するバケットでなくともよく、フォーク、ハンドラー、グレーダー等であってもよい。
【0048】
ローダ油圧制御部41は、作業具5を水平線に対して一定姿勢に維持しながらブーム2を上昇させる平行制御だけでなく、作業具5を水平線に対して一定姿勢に維持しながらブーム2を下降させる制御も行えることとしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 ローダ作業機の油圧回路
2 ブーム
3 ブームシリンダ
4 ブーム制御弁
5 作業具(バケット)
6 作業具シリンダ(バケットシリンダ)
7 作業具制御弁(バケット制御弁)
8 平行制御手段
9 水平接地制御手段
10 分流手段
21 ローダ作業機
β 作業具の絶対角度
T1 ブームを上昇位置から最下位置まで下降させる時間
T2 作業具をダンプ姿勢から底面接地姿勢にするまでの時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブーム(2)を昇降させるブームシリンダ(3)用のブーム制御弁(4)と、このブーム制御弁(4)の下流側に接続されていてブーム(2)先端の作業具(5)を掬い・ダンプさせる作業具シリンダ(6)用の作業具制御弁(7)とを備え、前記ブーム制御弁(4)と作業具制御弁(7)とに、水平線に対して作業具(5)を一定姿勢に維持しながらブーム(2)を上昇させる平行制御手段(8)と、上昇位置でダンプした作業具(5)を底面接地姿勢にするべく掬い動作させながらブーム(2)を最下位置まで下降させる水平接地制御手段(9)とを設けており、
前記ブーム制御弁(4)は、前記水平接地制御手段(9)の作動時にブームシリンダ(3)に供給可能な作動油の一部を、前記ブーム制御弁(4)のバイパスライン(PB1)から作業具制御弁(7)のメインライン(PP2)へ短絡させ且つ前記ブームシリンダ(3)を作動させた後の作動油に合流させることで作業具制御弁(7)に供給する分流手段(10)を有している特徴とするローダ作業機の油圧回路。
【請求項2】
前記分流手段(10)は、前記水平接地制御手段(9)の作動開始時における作業具(5)のダンプ側への傾斜角度(β)が大きいほど、前記作業具制御弁(7)へ短絡させる作動油の油量を多く設定していることを特徴とする請求項1に記載のローダ作業機の油圧回路。
【請求項3】
ブーム制御弁(4)でブームシリンダ(3)を介してブーム(2)を昇降させ、前記ブーム制御弁(4)の下流側に接続されている作業具制御弁(7)で作業具シリンダ(6)を介してブーム(2)先端の作業具(5)を掬い・ダンプさせ、前記ブーム制御弁(4)と作業具制御弁(7)とで、水平線に対して作業具(5)を一定姿勢に維持しながらブーム(2)を上昇させる平行制御を行い、上昇位置でダンプした作業具(5)を底面接地姿勢にするべく掬い動作させながらブーム(2)を最下位置まで下降させる水平接地制御を行うローダ作業機の油圧制御方法であって、
前記水平接地制御時に、前記ブーム(2)を上昇位置から最下位置まで下降させる時間(T1)を、前記作業具(5)をダンプ姿勢から底面接地姿勢にするまでの時間(T2)と略同一にすることを特徴とするローダ作業機の油圧制御方法。
【請求項4】
前記水平接地制御の開始時における作業具(5)のダンプ側への傾斜角度(β)が大きいほど、前記ブーム(2)を上昇位置から最下位置まで下降させる時間(T1)を長くすることを特徴とする請求項3に記載のローダ作業機の油圧制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−214263(P2011−214263A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81650(P2010−81650)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】