説明

ロール・ツー・ロール型のマグネトロン・スパッタ装置およびそれを用いた積層体並びに光学機能性フィルタおよび光学表示装置

【課題】ロール・ツー・ロールの積層体製造装置およびその製造装置を用いて成膜された積層体と、この積層体を前面に用いた光学機能性フィルタおよび光学表示装置に関する。
【解決手段】
プラスチック・フィルム上に薄膜層を成膜するために、少なくとも1つ以上のマグネトロン電極を有し、該マグネトロン電極毎に個別に真空度を設定でき、該マグネトロン電極に対し十分に大きな成膜ローラーを備えているロール・ツー・ロール型のマグネトロン・スパッタ装置において、前記成膜ローラーの直前および直後に、該成膜ローラーと比較して小さなローラーを設置し、該小さなローラーを搬送中に、該マグネトロン電極において発生するカソード−とアノード間のプラズマ流により、膜質を緻密化することが可能であることを特徴とするロール・ツー・ロール型のマグネトロン・スパッタ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロール・ツー・ロールの積層体製造装置およびその製造装置を用いて成膜された積層体と、この積層体を前面に用いた光学機能性フィルタおよび光学表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロール・ツー・ロール型成膜装置を用いて、プラスチック基板上に積層体を成膜する技術が開発されている。そして、開発され発展した当初は、蒸着法、イオンプレーティング法による多層成膜が主流であった。
【0003】
しかし、反射防止積層体のような、ピンホール等の膜欠陥による積層体の不良に対する判定レベルが高いものに関しては、この判定レベルをクリアする方法として蒸着法、イオンプレーティング法からスパッタリング法へと成膜方法が置き換わりつつある。
【0004】
また、前記スパッタリング法を用いたロール・ツー・ロール型成膜装置を用いる場合、1パスにおいて多層膜を全層成膜する技術などが用いられるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このようなスパッタ法を用いたロール・ツー・ロールでの連続成膜は、1対の電極にそれぞれ薄膜層形成材料をターゲットとして配置したマグネトロン・スパッタリング法である。そして、その電極間に交流電圧を印加し、その各々の電極が交互にカソード、アノードの役割を果たす放電方法、通称デュアル・マグネトロン・スパッタリング法(以下DMS法)が主流となりつつある。
【0006】
前記DMS法は、1対の電極に交互に等しく電圧印加されるため、成膜中の高エネルギー粒子による基板側へのボンバードメントが大きく、通常のDCスパッタリング、RFスパッタリングと比較して、プラズマのアシスト効果が大きく、緻密で、膜硬度、膜応力が強い膜が成膜される。
【0007】
このため、通常のスパッタ膜、蒸着薄膜などと比較して耐擦傷性など種々の機械特性に優れた薄膜の形成が可能である。また、交互にアノード、カソードが入れ替わるため、通常のDC、RFスパッタと比べてチャージアップが起き難く、安定した成膜が長時間にわたって可能である。
【0008】
しかし、膜が緻密であるため、蒸着膜や通常のマグネトロン・スパッタリング法と比較して膜硬度が高い反面、膜応力の強い薄膜となり、フィルムの反りがきつい。そして、ハードコート処理が施されたプラスチック・フィルム上に積層体を設けた場合、積層膜、ハードコート共に、クラックが入りやすいなど、後加工以降での扱いが難しいという問題があった。
【0009】
また、一定の水蒸気透過性を必要とする場合などは、膜質が緻密すぎる故に逆に問題となることがあった。一方、蒸着法である場合、輝点に対する判定レベルだけでなく、膜硬度が低すぎるため、耐擦傷性に問題のある膜しか出来なかった。
【0010】
上記解決法として、DMS法成膜時の成膜気圧を高めに設定し、成膜する方法や、ターゲットと基板間距離を長くして成膜する方法等がある。前者は、アークが発生しやすく、
安定したスパッタ放電を長時間連続して起こすことが困難である。そして、後者は、成膜速度が極端に落ちるなどの問題があり、実際の生産には不向きであった。
【0011】
また、通常のマグネトロン・スパッタリングによる成膜の後、イオンビーム処理装置などにより、膜質の改善を図る方法もある。しかし、スパッタ装置内に余分なスペースを設けなければならないことや、価格的に高価であるなどの問題があった。
【0012】
以下に先行技術文献を示す。
【特許文献1】特開平8−188873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、プラスチック・フィルム基材に対し、膜欠陥の非常に少ない成膜が可能であり、また、スパッタ中のプラズマの衝突を利用して、DMS薄膜と通常のマグネトロン・スパッタ薄膜との間の膜硬度を自由に成膜出来るようにしたロール・ツー・ロール型のマグネトロン・スパッタ装置およびその製造装置を用いて成膜された積層体と、この積層体を前面に用いた光学機能性フィルタおよび光学表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記問題点を解決するために、本発明の請求項1に係る発明は、
プラスチック・フィルム上に薄膜層を成膜するために、少なくとも1つ以上のマグネトロン電極を有し、該マグネトロン電極毎に個別に真空度を設定でき、該マグネトロン電極に対し十分に大きな成膜ローラーを備えているロール・ツー・ロール型のマグネトロン・スパッタ装置において、
前記成膜ローラーの直前および直後、もしくはどちらか一方に、該成膜ローラーと比較して小さなローラーを設置し、該小さなローラーを搬送中に、該マグネトロン電極において発生するカソードとアノード間のプラズマ流により、膜質を緻密化することが可能であることを特徴とするロール・ツー・ロール型のマグネトロン・スパッタ装置である。
【0015】
次に、本発明の請求項2に係る発明は、
前記プラスチック・フィルムが、前記小さなローラーを搬送中に受けるプラズマの衝撃を、防着板の開度調整によって調整することが可能であることを特徴とした請求項1に記載のロール・ツー・ロール型のマグネトロン・スパッタ装置である。
【0016】
次に、本発明の請求項3に係る発明は
電源がDCパルス電源であることを特徴とする請求項1または2に記載のロール・ツー・ロール型のスパッタ装置である。
【0017】
次に、本発明の請求項4に係る発明は、
プラズマ・パラメーターを用いた遷移領域制御手段を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のロール・ツー・ロール型のマグネトロン・スパッタ装置である。
【0018】
次に、本発明の請求項5に係る発明は
1つの成膜室に2つのマグネトロン電極を備え、
ユニポーラ方式のスパッタと、バイポーラ方式のデュアル・マグネトロン・スパッタとが可能であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のロール・ツー・ロール型のマグネトロン・スパッタ装置である。
【0019】
次に、本発明の請求項6に係る発明は
請求項1〜5のいずれか1項に記載のロール・ツー・ロール型のマグネトロン・スパッタ装置を用いて成膜されたことを特徴とする積層体である。
【0020】
次に、本発明の請求項7に係る発明は
請求項6記載の積層体をフィルタに成形して用いることを特徴とした光学機能性フィルタである。
【0021】
次に、本発明の請求項8に係る発明は
請求項6記載の積層体を表示装置部材に成形して用いることを特徴とした光学表示装置である。
【発明の効果】
【0022】
本発明のロール・ツー・ロール型のマグネトロン・スパッタ装置によりプラスチック・フィルム上に成膜した積層体は、通常のマグネトロン・スパッタリング法と同等の膜応力の弱い、フレキシブルな膜質から、膜応力の高い高硬度な膜質まで、イオンビーム処理等の特別な処理装置を用いずに自由に成膜することが可能となる。
【0023】
また同時にスパッタ法であるため、蒸着法などと比較して輝点レベルが良好である。しかも長時間にわたり、成膜速度を損なうことがない。さらに、アーキングが少なく安定した状態での成膜が可能となる。
【0024】
また、本発明の光学機能性フィルタは、欠陥レベルが非常に良好であり、適度な擦傷性と膜応力を兼ね備えたフィルタである。
【0025】
また、本発明の光学表示装置は、欠陥レベルが非常に良好であり、適度な擦傷性と膜応力を兼ね備えた光学表示装置である。そして、これらの光学物品は、欠陥レベルが非常に良好であり、適度な擦傷性と膜応力を兼ね備えた光学物品である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明のロール・ツー・ロール型のマグネトロン・スパッタ装置を実施の形態に沿って以下に図面を参照にしながら詳細に説明する。
【0027】
図1は、本発明のロール・ツー・ロール型のマグネトロン・スパッタ装置の一実施例の概略を説明するための概略図である。
【0028】
<スパッタリング装置について>
図1に示すように本発明のロール・ツー・ロール型のマグネトロン・スパッタ装置は、巻き出しローラー1、巻き取りローラー2、成膜メインローラー3、成膜サブローラー4、成膜サブローラー5、成膜サブローラー6からなっている。
【0029】
前記成膜メインローラー3にスパッタ・ターゲット8と9、12と13、16と17をそれぞれ保持するスパッタリング・カソードが配置されている。また、成膜メインローラー3に対して備えるスパッタリング・カソードの数に制限は無い。そして、成膜メインローラー3の大きさとスパッタリング・カソードの大きさと比較して適宜判断すれば良い。
【0030】
また、スパッタ・ターゲット8、9−12、13間、12、13−16、17間、スパッタ・ターゲット16、17を保持するスパッタリング・カソードの直後にそれぞれ成膜サブローラー4、5、6が配置されている。
【0031】
また、スパッタ・ターゲット8、9でスパッタリング成膜されたフィルムは、成膜サブローラー4を通過した上で、スパッタ・ターゲット12、13で成膜される仕組みとなっている。そして、スパッタ・ターゲット12、13で成膜されたフィルムは、成膜サブローラー5を通過した上で、スパッタ・ターゲット16、17にて成膜される仕組みとなっている。
【0032】
前記スパッタ・ターゲット16、17で成膜されたフィルムは、成膜サブローラー6を通過した上で、巻き取りローラー2に巻き取られる仕組みとなっている。この際、それぞれの成膜サブローラーは、プラズマ側への開度を調整できる防着板25、26、27、28、29を備えている。
【0033】
また、成膜サブローラー4、5、6の数についても必ずしも全てのスパッタリング・カソードの直後に配置する必要は無いが、最低1つ以上は装備することが必要である。そして、スパッタ・ターゲット8と9、12と13、16と17をそれぞれ含む成膜室は、図1に示すように成膜サブローラー4、成膜サブローラー5、成膜サブローラー6を含む空間によって仕切られており、それぞれ別々に成膜気圧を設定出来る。また、ローラー2から巻き出しを開始しローラー1に巻き取る方向に成膜することも可能である。
【0034】
このスパッタ・ターゲット8と9、12と13、16と17を保持するスパッタリング・カソードは、それぞれ2対のカソード/アノードからなっており、カソードにターゲット材料が設置されている。
【0035】
また、電極は、回転カソードタイプであっても、平板タイプであっても、どちらでも良いが、平板タイプとして図1に示す。
【0036】
前記平板タイプは、成膜速度を高めるために2対のカソード/アノードを並べて配置しているが、必要成膜速度次第では、1対のカソード/アノードでも構わない。この2対のカソード/アノードを1つの成膜室内に配置する利点は、成膜速度だけでなく、膜質を最も緻密で、応力の強い膜を成膜したい場合にも対応できる。
【0037】
これは、それぞれのアノードをカソードとの配線から切り離し、2つのターゲットを電気的に接続し、この2つのターゲット間に交流電圧を印加する。
【0038】
または、2つのターゲットに対し交互にDCパルス電源で電圧印加を行う、所謂バイポーラ方式のDMS法としての利用も可能な点にある。
【0039】
また、図1に示すように、スパッタ・ターゲット8、9、12、13、16、17に対して、それぞれアノード7、10、11、14、15、18が設置されている。そして、これらのアノードにスパッタされた材料が付着するのを防止するため、カバー19、20、21、22、23、24がそれぞれ取り付けられている。
【0040】
前記カバーが無い場合、アノードはスパッタリング時に、次第にスパッタ粒子によって汚染され、アーキングが頻発するようになる。これを防ぐためにカバーが必要となる。
【0041】
また、カバーは電気的にアノード/カソードからフロートしていればよく、材質は耐熱性があれば特に限定されるものではない。そして、その形状についてもアノードの汚染を防げる形状であれば指定されるものではない。
【0042】
カソード、アノード間にスパッタを行うための電圧を印加する方法は、特に指定は無く
、ACでもDCでも良いが、DCパルス電源であることが望ましい。これは、印加する電圧波形をパルス波にした方が、電圧印加のオフタイムの際、アノードでのチャージアップの緩和に効果的であるためであり、安定したロングランが可能である。
【0043】
前記DCパルス電源の周波数は、0.1kHz〜500kHzが好ましく、1〜100kHzがより好ましい。デューティー・サイクルは適宜設定する必要があるが、チャージの緩和を考える場合0.1μsec以上のオフタイムを設定することが望ましい。
【0044】
また、電圧オフタイムの代わりに、電圧を反転させて、アノードだった電極に、スパッタ・ターゲットに印加する負電圧より十分に小さい負電圧を印加する。瞬間的にカソード化し、チャージアップを積極的に緩和しても良い。
【0045】
本発明のロール・ツー・ロール型のマグネトロン・スパッタ装置の最大の特徴として、スパッタリング・カソードでの成膜直後に、成膜サブローラーを搬送することである。これは、例えば、図1に示すスパッタ・ターゲット16、17を含むスパッタリング・カソードを例に挙げると、マグネトロン・カソードにおいて発生する電子が、アノードへ向かう際、磁界が密である空間を避けるため、ブリッジ状の経路を通る(図2)。
【0046】
このため、ブリッジ状に濃いプラズマ流が発生する。そして、電圧が印加されている際に発生したプラズマ流は、防着板28と成膜サブローラー5に、また防着板29と成膜サブローラー6に衝突する(図2)。
【0047】
これが、スパッタ・ターゲット12と13、16と17を含むスパッタリング・カソードにおいて成膜された薄膜に対し、膜質を密に改善することが出来る。この原理は基本的にバイポーラ方式のDMS法と同じである。
【0048】
前記バイポーラ方式のDMS法場合は、2つのターゲット間でアノード/カソードが交互に入れ替わるため、カソードで発生した電子はアノードに向かう過程で磁界が密である領域を避けるため、プラズマ流は常に成膜メインローラー3に衝突する。これにより、スパッタされフィルムに付着するターゲット材料に対し、薄膜の膜質の改善を促す。
【0049】
また、図2において、この成膜サブローラー5、6に衝突するプラズマ流を調整する方法として、防着板19、20の開口を調整することが可能である。
【0050】
前記開口の幅を広くすれば膜質はより密になり、開口の幅を狭くすれば膜質は粗になる。また、プラズマによるボンバーが必要で無い場合は、成膜サブローラーを通さず、直接次のスパッタリング・カソードにフィルムを流しても良いし、防着板の開度をゼロとしても良い。
【0051】
また、これにより、通常のマグネトロン・スパッタリング法と同等の膜応力の弱い、フレキシブルな膜質から、膜応力の高い高硬度な膜質まで自由に成膜することが可能となる。また、同時にスパッタ法であるため、蒸着法などと比較して輝点レベルが良好である。しかも長時間にわたり、成膜速度を損なうことなく、また、アーキングが少なく、安定した状態での成膜が可能となる。
【0052】
また、成膜メインローラー3は図1では1つであるが、2つ以上を備え付けた装置であってもよい。そして、プラスチック・フィルムに成膜したい積層体の積層数や、膜質、希望成膜速度次第により、適宜選択される。
【0053】
次に、図4は本発明の積層体の一実施例の構成断面を示す断面図である。
【0054】
<積層体について>
本発明のロール・ツー・ロール型のマグネトロン・スパッタ装置を用いて、本発明の積層体を成膜することが可能である。そして、本発明の積層体としては、例えば、反射防止膜、増反射膜、半反射半透過膜、ダイクロイックミラー、紫外線カットフィルター、赤外線カットフィルター、バンドパスフィルター、ガスバリア膜等が上げられる。
【0055】
図4は本発明の積層体の一つである、反射防止積層体の構成断面を示す。この反射防止積層体59は、基材60と、基材60上に設けられたハードコート層61と、ハードコート層61上に設けられたプライマー層62と、プライマー層62上に設けられた反射防止機能層63から形成されている。
【0056】
<基材について>
本発明の積層体に用いる基材60としては、透明性を有する有機化合物の成形物が挙げられる。前記透明性は、可視光領域の波長の光が透過すれものを意味する。そして、成形物の形状としては、ロール状である。
【0057】
また、基材60は、透明性を有する有機化合物の成形物が積層それている積層体であってもよい。
【0058】
前記透明性を有する有機化合物の成形物の樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセタール、ポリウレタン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンサルファイド、ポリエーテルスルフォン、ポリオレフィン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、トリアセチルセルロース等が挙げられる。
【0059】
また、基材60の厚さは、使用目的あるいは用途に応じて適宜選択され。そして、通常25〜300μm程度のものが用いられる。さらに、有機化合物の成形物は、公知の添加剤、例えば、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、酸化防止剤、難燃剤等が、使用目的あるいは用途等に応じて適宜選択含有されてもよい。
【0060】
<ハードコート層について>
本発明の積層体の1つである反射防止積層体63は、基材60と反射防止層63の間にハードコート層61を備えてもよい。
【0061】
前記ハードコート層61は、鉛筆等による引っ掻き傷、スチールウールによる擦り傷等の機械的外傷から各層を防護するための層である。ハードコート層61を形成する材料としては、透明性、適度な硬度および機械的強度を有するものであればよい。
【0062】
また、バインダマトリックスとしては、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂などの電離放射線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、金属アルコキシドを加水分解、脱水縮合して得られる無機系または有機無機複合系マトリックスなどを用いることができる。
【0063】
さらに、熱硬化性樹脂としては、アクリルポリオールとイソシアネートプレポリマーとからなる熱硬化型ウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコン系樹脂等があげられる。
【0064】
前記シリコン系樹脂として用いられるモノマーとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラペンタエトキシシラン
、テトラペンタイソプロキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、ジメチルメトキシシラン、ジメチルプロポキシシラン、ジメチルブトキシシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0065】
前記電離放射線硬化性樹脂としては、多価アルコールのアクリル酸またはメタクリル酸エステルのような多官能性のアクリレート樹脂、ジイソシアネート、多価アルコール及びアクリル酸またはメタクリル酸のヒドロキシエステル等から合成されるような多官能のウレタンアクリレート樹脂等が挙げられる。
【0066】
また、上記の他にも、アクリレート系の官能基を有するポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂等も使用することができる。
【0067】
電離放射線のうち、紫外線を用いる場合、光重合開始剤を加える。前記光重合開始剤は、どのようなものを用いても良いが、用いる樹脂にあったものを用いることが好ましい。
【0068】
また、光重合開始剤(ラジカル重合開始剤)としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルメチルケタールなどのベンゾインとそのアルキルエーテル類等が用いられる。そして、光増感剤の使用量は、樹脂に対して0.5〜20wt%である。好ましくは1〜5wt%である。
【0069】
また、熱可塑性樹脂としては、アセチルセルロース、ニトロセルロース、アセチルブチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース誘導体、酢酸ビニル及びその共重合体、塩化ビニル及びその共重合体、塩化ビニリデン及びその共重合体等のビニル系樹脂、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等のアセタール樹脂、アクリル樹脂及びその共重合体、メタクリル樹脂及びその共重合体等のアクリル系樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、線状ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂等が使用できる。
【0070】
前記アクリル系樹脂として用いられるモノマーとしては、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングロコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、3−メチルペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールビスβ−(メタ)アクリロイルオキシプロピオネート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリ(2−ヒドロキシエチル)イソシアネートジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、2,3−ビス(メタ)アクリロイルオキシエチルオキシメチル[2.2.1]ヘプタン、ポリ1,2−ブタジエンジ(メタ)アクリレート、1,2−ビス(メタ)アクリロイルオキシメチルヘキサン、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラデカンエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、10−デカンジオール(メタ)アクリレート、3,8−ビス(メタ)アクリロイルオキシメチルトリシクロ[5.2.10]デカン、水素添加ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、1,4−ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)シクロヘキサン、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジ(メ
タ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、エポキシ変成ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0071】
また、無機系または有機無機複合系マトリックスとしては、珪素アルコキシド系の材料を原料とする酸化珪素系マトリックスを用いる材料が使用できる。
【0072】
また、基材60のプラスチッククフィルムは、機械強度を補うために、高硬度のバインダマトリックスを用いることが好ましい。具体的には硬化性の樹脂、金属アルコキシドを加水分解、脱水縮合して得られる無機系または有機無機複合系マトリックスが使用できる。特に膜厚が100μm以下であるプラスチック・フィルムを用いる場合、高硬度のバインダマトリックスを用いることが好ましい。
【0073】
また、ハードコート層61は、これら樹脂材料を基材60上に成膜し、熱硬化、紫外線硬化、または電離放射線硬化法によって硬化させることによって形成される。ハードコート層61の厚さは、物理膜厚で0.5μm以上、好ましくは3〜20μm、より好ましくは3〜6μmである。
【0074】
ハードコート層61に、平均粒子径が0.01〜3μmの透明微粒子を分散させて、アンチグレアと呼ばれる処理を施してもよい。ハードコート層61中の微粒子により表面が微細な凹凸状になって光の拡散性が向上し、光の反射をより低減できる。
【0075】
ハードコート層61は、表面処理が施されていることが好ましい。表面処理を施すことにより、隣接する層との密着性を向上させることができる。ハードコート層61の表面処理としては、例えば、コロナ処理法、蒸着処理法、電子ビーム処理法、高周波放電プラズマ処理法、スパッタリング処理法、イオンビーム処理法、大気圧グロー放電プラズマ処理法、アルカリ処理法、酸処理法等が挙げられる。
【0076】
<プライマー層について>
本発明の積層体の1つである反射防止積層体63は、ハードコート層と反射防止層との間の密着性を向上させる層ためにプライマー層62を設けてもよい。
【0077】
前記プライマー層62の材料としては、例えば、シリコン、ニッケル、クロム、錫、金、銀、白金、亜鉛、チタン、タングステン、ジルコニウム、パラジウム等の金属;これら金属の2種類以上からなる合金;これらの酸化物、弗化物、硫化物、窒化物等が挙げられる。酸化物、弗化物、硫化物、窒化物の化学組成は、密着性が向上するならば、化学量論的な組成と一致しなくてもよい。
【0078】
プライマー層62の厚さは、基材60の透明性を損なわない程度であればよく、好ましくは物理膜厚で0.1〜10nmである。
【0079】
また、プライマー層62は、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト法、化学蒸着(CVD)法、湿式塗工法等の従来公知の方法で形成できる。
【0080】
<反射防止層について>
反射防止層63としては、波長550nmにおける光の屈折率が1.6未満で且つ波長550nmにおける光の消衰係数が0.5以下の低屈折率透明薄膜層単層からなるものや、屈折率の異なる光学薄膜を複数積層したものがあげられる。
【0081】
前記屈折率の異なる光学薄膜を複数積層したものとしては、波長550nmにおける光
の屈折率が1.9以上でかつ波長550nmにおける光の消衰係数が0.5以下の高屈折率透明薄膜層、低屈折率透明薄膜層を交互に積層したものや、低屈折率透明薄膜層、高屈折率透明薄膜層、波長550nmにおける光の屈折率が1.6〜1.9程度の中屈折率透明薄膜層を積層したものがあげられる。
【0082】
また、高屈折率透明薄膜層、低屈折率透明薄膜層を交互に積層したものとしては、基材60側から順に、高屈折率透明薄膜層、低屈折率透明薄膜層、高屈折率透明薄膜層、低屈折率透明薄膜層から構成されるものが挙げられる。
【0083】
また、反射防止層63は、基本的に反射防止特性を付与するものであれば限定は無く、導電性、熱線カットなどの機能が更に付与されるものであっても良い。
【0084】
前記高屈折率透明薄膜層の材料としては、インジウム、錫、チタン、シリコン、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、マグネシウム、ビスマス、セリウム、クロム、タンタル、アルミニウム、ゲルマニウム、ガリウム、アンチモン、ネオジウム、ランタン、トリウム、ハフニウム等の金属;これらの金属の酸化物、弗化物、硫化物、窒化物;酸化物、弗化物、硫化物、窒化物の混合物等が挙げられる。また、酸化物、弗化物、硫化物、窒化物の化学組成は、透明性を保持した化学組成であれば、化学量論的な組成と一致しなくてもよい。
【0085】
前記高屈折率透明薄膜層を複数積層する場合、それぞれ高屈折率透明薄膜層は必ずしも同一の材料でなくてもよく、目的に合わせて適宜選択される。
【0086】
前記低屈折率透明薄膜層の材料としては、例えば、酸化シリコン、窒化チタン、弗化マグネシウム、弗化バリウム、弗化カルシウム、弗化セリウム、弗化ハフニウム、弗化ランタン、弗化ナトリウム、弗化アルミニウム、弗化鉛、弗化ストロンチウム、弗化イッテリビウム等が挙げられる。
【0087】
また、低屈折率透明薄膜層を複数積層する場合、それぞれ低屈折率透明薄膜層は必ずしも同一の材料でなくてもよく、目的に合わせて適宜選択される。
【0088】
中屈折率層の材料としては、例えば、酸化アルミニウム、フッ化セリウムなどが挙げられる。
【0089】
<光学機能性フィルタについて>
本発明の光学機能性フィルタは、本発明の積層体の1つである反射防止積層体以外に、増反射膜、半反射半透過膜、ダイクロイックミラー、紫外線カットフィルター、赤外線カットフィルター、バンドパスフィルター等を有するものである。
【0090】
また、本発明の光学機能性フィルタとしては、CRT用フィルタ、液晶表示装置用フィルタ、プラズマディスプレイパネル用フィルタ、エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ用フィルタ、フィールドエミッションディスプレイ(FED)用フィルタ、リアプロジェクションテレビ用フィルタ等が挙げられる。
【0091】
<光学表示装置>
本発明の光学表示装置は、光学機能性フィルタを有するものである。具体的には、CRT、液晶表示装置、プラズマディスプレイパネル等の光学表示装置の前面、または内部に、本発明の少なくとも1層以上の膜からなる積層体、または本発明の光学機能性フィルタを設けたものである。
【0092】
また、本発明の積層体は、光学機能性フィルタとして光学表示装置の前面に用いるだけ
でなく、液晶表示装置に用いる光源のリフレクター、窓材などにも適用できる。
【実施例】
【0093】
以下に、本発明の具体的実施例を挙げて、さらに詳しく説明するが、それに限定されるものではない。
【0094】
<実施に用いたロール・ツー・ロールの真空成膜装置について>
図5に示す真空成膜装置を用いて実施した。図5に示すように真空成膜装置は、成膜メインローラー32、33が備えられている。その成膜メインローラー32、33に対し、別々の成膜気圧を設定出来る成膜室が5つ配置されている。そして、1つの成膜室に、スパッタ・ターゲット40、41が2枚ずつ並べて装備されている。
【0095】
前記スパッタリング・ターゲット40、41にSi、スパッタリング・ターゲット42、43にTi、スパッタリング・ターゲット44、45にSi、スパッタリング・ターゲット46、47にTi、スパッタリング・ターゲット48、49にSiがそれぞれ装備されている。
【0096】
このため、巻き出しローラー30から巻き取りローラー31の間で、最大5層の積層成膜が1往路において実施することが出来る。
【0097】
またねそれぞれのスパッタ・ターゲット40、41と42、43と44、45と46、47と48、49が2枚ならべられているため、アノードを1つずつ備えている。
【0098】
また、バイポーラ型の所謂DMS法も可能であるし、ユニポーラ型のマグネトロン・スパッタ法も可能である。スパッタリング・ターゲット40、41と42、43と44、45と46、47と48、49が2枚並べられているため、それぞれのスパッタリング・カソードには、Fraunhofer Institut Elektronenstrahl−und Plasmatechnik製の高速スイッチング可能電源UBS−C2が設置してある。
【0099】
これはDMS法を用いる場合、DCパルス電源2台を交互に高速でスイッチングすることが可能である。そして、2つのターゲット間に交互に正負のDCパルス電圧を印加することが可能である。
【0100】
また、ユニポーラ型のマグネトロン・スパッタ法を用いる場合、2つの並んだスパッタ・ターゲットに負電圧を同時に印加することが可能である。同時に2枚のターゲットがスパッタされるため、高い成膜速度が得られるが、片方のターゲットにのみ負電圧を印加することもまた可能である。
【0101】
また、その際発生するアノード−カソード間のプラズマ流が成膜サブローラー34、35、36、37、38、39に衝突するようになっている。この成膜サブローラー34、35、36、37、38、39を囲う防着板50、51、52、53、54、55、56、57、58は、開閉が自由に出来、成膜サブローラー34、35、36、37、38、39に衝突するプラズマ流の量を調整することが可能である。
【0102】
そして、該成膜装置を用いることで、巻出しローラー30にTAC原反をセットし、巻き取りローラー31方向にTAC(トリアセチルセルロース)フィルムを搬送させることで、本発明の積層体の一つである反射防止積層59におけるプライマー層62、反射防止機能層63を全て1往路のみで積層することが可能である。
【0103】
<実施例1>
厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(富士写真フィルム社製TD80U 波長550nmの光の屈折率1.51)(以下、TACフィルムと記す)を基材60とし、その上に、紫外線硬化型樹脂(日本合成化学 UV−7605B)をウェットコーティング(マイクログラビア法)によって成膜し、物理膜厚5μmのハードコート層61を形成し、ハードコート層61上に、図5に示すロール・ツー・ロールの真空成膜装置で、プライマー層62、反射防止機能層63を形成し、図4に示した反射防止積層体59を作成した。
【0104】
また、図5に示すロール・ツー・ロールの真空成膜装置を用いて、TACフィルムを搬送させながら、Siターゲットが配置されたスパッタリング・ターゲット40、41で、ハードコート層61上に、SiOxをバイポーラ型DMS法により堆積させ、物理膜厚3nmのプライマー層62を形成した。
【0105】
この際、スパッタガスとしてAr、反応性ガスとしてO2を用い、流量はそれぞれ200sccm、30sccmであり、成膜気圧は0.3Pa、投入電力は0.5W/cm2として成膜を行なった。その際、防着板50、51の開口は、最低開口のゼロmmであった。
【0106】
次に、以下のようにして高屈折率透明薄膜層64、低屈折率透明薄膜層65、高屈折率透明薄膜層66、および低屈折率透明薄膜層67からなる反射防止機能層63を形成した。
【0107】
形成に際しては、図5に示すロール・ツー・ロールの真空成膜装置を用い、TACフィルムを搬送させながら、スパッタリング・ターゲット42、43にて、その2枚のターゲットを両方用いて、ユニポーラ方式のマグネトロン・スパッタ法によりプライマー層62上に、TiO2薄膜を堆積させた。
【0108】
そして、光学膜厚30nmの高屈折率透明薄膜層64を形成した。また、プラズマ・パラメーターを用いた遷移領域制御による高速成膜を行った。この際、スパッタガスとしてAr、反応性ガスとしてO2を用い、流量はそれぞれ180sccm、120sccmであり、成膜気圧は0.3Pa、投入電力は1.7W/cm2ずつとして成膜を行なった。
【0109】
この際、それぞれのターゲットに対し、周波数は50kHz、デューティー・サイクルは80%として、電圧印加を行った。その際、防着板52の開度は、最大開度の150mmであった。
【0110】
次に、図5に示すロール・ツー・ロールの真空成膜装置を用い、TACフィルムを搬送させながら、スパッタリング・ターゲット44、45にて、その2枚のターゲットを両方用いて、ユニポーラ方式のマグネトロン・スパッタ法により高屈折率透明薄膜層64上に、SiO2薄膜を堆積させ、光学膜厚35nmの低屈折率透明薄膜層65を形成した。
【0111】
また、プラズマ・パラメーターを用いた遷移領域制御による高速成膜を行った。この際、スパッタガスとしてAr、反応性ガスとしてO2を用い、流量はそれぞれ180sccm、120sccmであり、成膜気圧は0.3Pa、投入電力は2.4W/cm2ずつとして成膜を行なった。この際、それぞれのターゲットに対し、周波数は50kHz、デューティー・サイクルは80%として、電圧印加を行った。その際、防着板53、54の開口は、最大開口の150mmであった。
【0112】
さらに、図5に示すロール・ツー・ロールの真空成膜装置を用い、TACフィルムを搬
送させながら、スパッタリング・ターゲット46、47にて、その2枚のターゲットを両方用いて、ユニポーラ方式のマグネトロン・スパッタ法により低屈折率透明薄膜層65上に、TiO2薄膜を堆積させた。そして、光学膜厚220nmの高屈折率透明薄膜層66を形成した。
【0113】
また、プラズマ・パラメーターを用いた遷移領域制御による高速成膜を行った。この際、スパッタガスとしてAr、反応性ガスとしてO2を用い、流量はそれぞれ180sccm、120sccmであり、成膜気圧は0.3Pa、投入電力は11.2W/cm2ずつとして成膜を行なった。この際、それぞれのターゲットに対し、周波数は50kHz、デューティー・サイクルは80%として、電圧印加を行った。その際、防着板55、56の開口は、最大開口の150mmであった。
【0114】
さらに、図5に示すロール・ツー・ロールの真空成膜装置を用い、TACフィルムを搬送させながら、スパッタリング・ターゲット48、49にて、その2枚のターゲットを両方用いて、ユニポーラ方式のマグネトロン・スパッタ法により高屈折率透明薄膜層66上に、SiO2薄膜を堆積させた。そして、光学膜厚120nmの低屈折率透明薄膜層67を形成した。
【0115】
また、プラズマ・パラメーターを用いた遷移領域制御による高速成膜を行った。この際、スパッタガスとしてAr、反応性ガスとしてO2を用い、流量はそれぞれ180sccm、120sccmであり、成膜気圧は0.3Pa、投入電力は8.3W/cm2ずつとして成膜を行なった。この際、それぞれのターゲットに対し、周波数は50kHz、デューティー・サイクルは80%として、電圧印加を行った。その際、防着板57、58の開度は、最大開度の150mmであった。
【0116】
<実施例2>
防着板52、53、54、55、56、57、58の開口を75mmとした以外は実施例1と同様の手順で、ハードコート層61、プライマー層62、高屈折率透明薄膜層64、低屈折率透明薄膜層65、高屈折率透明薄膜層66、低屈折率透明薄膜層67の成膜を行なった。
【0117】
<実施例3>
実施例1と同様の手順で、ハードコート層61、プライマー層62、高屈折率透明薄膜層64、低屈折率透明薄膜層65、高屈折率透明薄膜層66の成膜を行なった。一方、最外層の低屈折率透明薄膜層67のみ防着板58の開口をゼロmmとして、2枚のターゲットを両方用いて、ユニポーラ方式のマグネトロン・スパッタ法により、成膜気圧は0.3Pa、投入電力は8.3W/cm2ずつとして成膜を行なった。この際、それぞれのターゲットに対し、周波数は50kHz、デューティー・サイクルは80%として、電圧印加を行った。
【0118】
<実施例4>
防着板52、53、54の開口は、150mmとし、防着板55、56、57、58の開口は、ゼロmmとした以外は実施例1と同様の手順で、ハードコート層61、プライマー層62、高屈折率透明薄膜層64、低屈折率透明薄膜層65、高屈折率透明薄膜層66、低屈折率透明薄膜層67の成膜を行なった。
【0119】
<実施例5>
プラズマ・パラメーターを用いた遷移領域制御による高速成膜は行わず、酸化物モードによるスパッタリングで成膜した以外は、実施例1と同様の手順で、ハードコート層61、プライマー層62、高屈折率透明薄膜層64、低屈折率透明薄膜層65、高屈折率透明薄膜層66、低屈折率透明薄膜層67の成膜を行なった。
【0120】
<比較例1>
防着板50、51、52、53、54、55、56、57、58の開口を、ゼロmmにした以外は実施例1と同様の手順で、ハードコート層61、プライマー層62、高屈折率透明薄膜層64、低屈折率透明薄膜層65、高屈折率透明薄膜層66、低屈折率透明薄膜層67の成膜を行なった。
【0121】
<比較例2>
全てのスパッタリング・カソードに対して、バイポーラ方式のDMS法を用いてスパッタリングを行った。また、ターゲット40、41のスパッタリング・カソードを除く全てのカソードに関して、プラズマ・パラメーターを用いた遷移領域制御による高速成膜を行った。そして、全てのスパッタリング・カソードの防着板50、51、52、53、54、55、56、57、58の開口をゼロmmにした以外は実施例1と同様の手順で、ハードコート層61、プライマー層62、高屈折率透明薄膜層64、低屈折率透明薄膜層65、高屈折率透明薄膜層66、低屈折率透明薄膜層67の成膜を行なった。
【0122】
<比較例3>
各スパッタリング・カソードの成膜気圧1.0Paとした以外の成膜条件に関しては、比較例2と同様の手順で、ハードコート層61、プライマー層62、高屈折率透明薄膜層64、低屈折率透明薄膜層65、高屈折率透明薄膜層66、低屈折率透明薄膜層67の成膜を行なった。
【0123】
<比較例4>
電源として、MF電源を用いて、ターゲットが交互にスパッタされるバイポーラ方式のDMS法を用い、防着板50、51、52、53、54、55、56、57、58の開口をゼロmmとした以外は実施例1と同様の手順で、ハードコート層61、プライマー層62、高屈折率透明薄膜層64、低屈折率透明薄膜層65、高屈折率透明薄膜層66、低屈折率透明薄膜層67の成膜を行なった。
【0124】
<比較例5>
防着板50、51、52、53、54、55、56、57、58の開口をゼロmmとした。また、プラズマ・パラメーターを用いた遷移領域制御による高速成膜は行わず、各スパッタ・カソードにおいて酸化物モードでのスパッタリングで成膜を行った以外は実施例1と同様の手順で、ハードコート層61、プライマー層62、高屈折率透明薄膜層64、低屈折率透明薄膜層65、高屈折率透明薄膜層66、低屈折率透明薄膜層67の成膜を行なった。
【0125】
<比較例6>
防着板50、51、52、53、54、55、56、57、58の開口をゼロmmとした。ただし、高屈折率透明薄膜層64、低屈折率透明薄膜層65、高屈折率透明薄膜層66、および低屈折率透明薄膜層67に関しては、ターゲットを、各成膜室において、それぞれスパッタリング・ターゲット42、44、46、48のみを使用して成膜を行った以外は実施例1と同様の手順で、ハードコート層61、プライマー層62、高屈折率透明薄膜層64、低屈折率透明薄膜層65、高屈折率透明薄膜層66、低屈折率透明薄膜層67の成膜を行なった。
【0126】
<比較例7>
実施例1、2、3、4、比較例1、2、3、4、5、6、7で用いた図5とは違うロール・ツー・ロール型電子ビーム蒸着装置により、プライマー層62、高屈折率透明薄膜層
64、低屈折率透明薄膜層65、高屈折率透明薄膜層66、低屈折率透明薄膜層67の成膜を行なった。
【0127】
<評価>
実施例1、2、3、4および比較例1、2、3、4、5で得られた反射防止積層体59について、以下の評価を行った。
【0128】
(1)押し込み硬度試験:
実施例1、2、3、4および比較例1、2、3、4、7によって成膜したサンプルに対し、NEC製 薄膜評価装置MHA−400を用いて、押し込み深さ100nmの押し込み硬度(GPa)を測定した。この際、圧子は、先端曲率半径100nm、稜角度80°の三角錐圧子を用い、押し込み速度は10.5nm/sとした。その結果を表1に示す。
【0129】
【表1】

表1は押し込み硬度試験の評価の結果を示す。
【0130】
(2)スチールウール擦傷試験:
実施例1、2、3、4および比較例1、2、3、4、7によって成膜したサンプルに対し、スチールウール♯0000を擦傷試験機(TESTER SANGYO CO.Ltd製 学振型摩擦堅牢度試験機AB−301)に固定し、2.45N、4.9Nの荷重を掛けて、それぞれ100往復の擦傷試験を各サンプルに対して、それぞれ行い、サンプルの磨耗状態(傷本数)を目視で観察した。その結果を表2に示す。
【0131】
【表2】

表2はスチールウール擦傷試験の目視による観察の結果を示す。
【0132】
(3)曲げ試験:
実施例1、2、3、4および比較例1、2、3、4、7によって成膜したサンプルを、6mmφ、8mmφ、10mmφ、14mmφのステンレス棒に、それぞれ半周分だけ巻いた。そして、その後、反射防止機能層、HC層にクラックが発生しているか否かについて、目視にて観察した。その結果を表3に示す。
【0133】
【表3】

表3は曲げ試験の目視による観察の結果を示す。
【0134】
(4)欠陥数測定:
実施例1、2、3、4および比較例1、2、3、4、7によって成膜したサンプルの100μmサイズ、50μmサイズの欠陥について、その欠陥数(個/m2)を光学顕微鏡にて観察・測定した。その測定結果を表4に示す。
【0135】
【表4】

表4は欠陥数(個/m2)を光学顕微鏡で観察・測定した結果を示す。
【0136】
(5)ロングランにおけるアーク発生調査:
実施例1、2、3、4および比較例1、2、3、4によって行った1000分にわたるロングラン中に、Siを装着したターゲット44、45と48、49のスパッタリング・カソードにおいて、放電中の発光分光測定を行い、発光の安定性、つまりアークが発生した瞬間の急激な発光の変動を観察し、発生回数を調査した。
【0137】
上記は、成膜条件における251.6nmのSiの発光について、発光キャリブレーシ
ョンを35%とし、アーク発生時の瞬間的な発光変動が5%以上の場合、10%以上の場合、20%以上の場合、40%以上の場合について、経過時間に対して調査したものである。その調査結果を表5に示す。
【0138】
【表5】

表5はロングランにおけるアーク発生の調査結果を示す。
【0139】
(6)成膜速度調査
実施例1、実施例5、比較例5、比較例6において、成膜する際の成膜速度を図5に示す装置の巻速度として表し、比較した。その結果を表6に示す。
【0140】
【表6】

表6は成膜速度の調査結果を示す。
【0141】
<綜合評価結果>
表1の押し込み硬度試験における測定結果より、通常のMF電源を用いたDMS法(比較例4)、バイポーラ方式を用いたDMS法(比較例2)と比較して本発明の反射防止積層体59(実施例1、実施例2、実施例3、実施例4)は、膜硬度の低い膜であり、且つ蒸着膜(比較例7)と比較して膜硬度の高い膜であることが分かる。
【0142】
また表2より、本発明の積層体の1つである反射防止積層体59は、パルス波を用いたバイポーラ方式のDMS法(比較例2)、サイン波を用いた通常のDMS法(比較例4)と比較して、耐擦傷性は劣るものの、蒸着法(比較例7)と比較すると耐擦傷性に優れるものであることが分かる。
【0143】
また、表3の結果より、曲げ試験における目視確認出来るクラックの発生は、バイポーラ方式のDMS法を用いた比較例2、比較例4のみであり、本発明の積層体の1つである反射防止積層体59は、断裁等の加工時においても蒸着膜のような加工しやすさを兼ね備えている。
【0144】
また、表4の結果より、輝点レベルにおいても、蒸着膜(比較例5)と比較して本発明の反射防止積層体59は、明らかに良好なレベルであることが分かる。
【0145】
また、表5の結果より、アークのカウントにおいて、本発明の実施例1〜4のアークカウント数は、通常のMF電源を用いたDMS法(比較例4)、バイポーラ方式を用いたDMS法(比較例2)と比較しても、全く遜色が無く、ロングランにおいて高い安定性を保持していることが分かる。一方、膜硬度において、本発明と同様の膜質を成膜することが可能であったバイポーラ方式によるDMS法の高気圧成膜(比較例3)は、アークがロングランにおいて頻発している。そして、安定したロングランが難しいことが分かる。
【0146】
また、表6の結果より、プラズマ・パラメーターを用いた遷移領域制御を行えば、2倍の成膜速度を得られることが分かる。さらに、DMSカソードとして設置している場合、それぞれのターゲットに、それぞれのアノードを用いて成膜を行なえば、ターゲット1枚で成膜を行なう場合と比較し、2倍の成膜速度が得られ、有効的であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明のロール・ツー・ロール型のマグネトロン・スパッタ装置を用いることにより、自在に膜質を変更出来ることはもとより、成膜速度を高めることが可能となり、且つ、でき欠陥が少なくフレキシブルな積層体が、高い生産性を保持して作製される。そして、その積層体を用いて、光学機能性フィルタや光学表示装置を作製することができる。さらに
、電気分野や精密機械分野、医療分野等、広い分野の部材に使用できる素晴らしい発明である。
【図面の簡単な説明】
【0148】
【図1】本発明の本発明のロール・ツー・ロール型のマグネトロン・スパッタ装置の一実施例の概略を説明するための概略図である。
【図2】図1の部分拡大図である。
【図3】図1の他の部分拡大図である。
【図4】本発明の積層体の一つである反射防止積層の構成の一実施例の断面を示す断面図である。
【図5】本発明の本発明のロール・ツー・ロール型のマグネトロン・スパッタ装置の他の一実施例の概略を説明するための概略図である。
【符号の説明】
【0149】
1…巻き出しローラー
2…巻き取りローラー
3…成膜メインローラー
4…成膜サブローラー
5…成膜サブローラー
6…成膜サブローラー
7…アノード
8…カソード
9…カソード
10…アノード
11…アノード
12…カソード
13…カソード
14…アノード
15…アノード
16…カソード
17…カソード
18…アノード
19…アノードカバー
20…アノードカバー
21…アノードカバー
22…アノードカバー
23…アノードカバー
24…アノードカバー
25…開閉型防着板
26…開閉型防着板
27…開閉型防着板
28…開閉型防着板
29…開閉型防着板
30…巻き出し巻き取りローラー
31…巻き出し巻き取りローラー
32…成膜メインローラー
33…成膜メインローラー
34…成膜サブローラー
35…成膜サブローラー
36…成膜サブローラー
37…成膜サブローラー
38…成膜サブローラー
39…成膜サブローラー
40…Siターゲット
41…Siターゲット
42…Tiターゲット
43…Tiターゲット
44…Siターゲット
45…Siターゲット
46…Tiターゲット
47…Tiターゲット
48…Siターゲット
49…Siターゲット
50…開閉型防着板
51…開閉型防着板
52…開閉型防着板
53…開閉型防着板
54…開閉型防着板
55…開閉型防着板
56…開閉型防着板
57…開閉型防着板
58…開閉型防着板
59…反射防止積層体
60…基材
61…ハードコート
62…プライマー層
63…反射防止層
64…高屈折率透明薄膜層
65…低屈折率透明薄膜層
66…高屈折率透明薄膜層
67…低屈折率透明薄膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック・フィルム上に薄膜層を成膜するために、少なくとも1つ以上のマグネトロン電極を有し、該マグネトロン電極毎に個別に真空度を設定でき、該マグネトロン電極に対し十分に大きな成膜ローラーを備えているロール・ツー・ロール型のマグネトロン・スパッタ装置において、
前記成膜ローラーの直前および直後、もしくはどちらか一方に、該成膜ローラーと比較して小さなローラーを設置し、該小さなローラーを搬送中に、該マグネトロン電極において発生するカソードとアノード間のプラズマ流により、膜質を緻密化することが可能であることを特徴とするロール・ツー・ロール型のマグネトロン・スパッタ装置。
【請求項2】
前記プラスチック・フィルムが、前記小さなローラーを搬送中に受けるプラズマの衝撃を、防着板の開度調整によって調整することが可能であることを特徴とした請求項1に記載のロール・ツー・ロール型のマグネトロン・スパッタ装置。
【請求項3】
電源がDCパルス電源であることを特徴とする請求項1または2に記載のロール・ツー・ロール型のスパッタ装置。
【請求項4】
プラズマ・パラメーターを用いた遷移領域制御手段を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のロール・ツー・ロール型のマグネトロン・スパッタ装置。
【請求項5】
1つの成膜室に2つのマグネトロン電極を備え、
ユニポーラ方式のスパッタと、バイポーラ方式のデュアル・マグネトロン・スパッタとが可能であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のロール・ツー・ロール型のマグネトロン・スパッタ装置。
パッタ装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のマグネトロン・スパッタ装置を用いて成膜されたことを特徴とする積層体。
【請求項7】
請求項6記載の積層体をフィルタに成形して用いることを特徴とした光学機能性フィルタ。
【請求項8】
請求項6記載の積層体を表示装置部材に成形して用いることを特徴とした光学表示装置。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−138229(P2008−138229A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323142(P2006−323142)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】