説明

ロール状の位相差フィルム、ロール状の位相差フィルムの製造方法および円偏光板

【課題】本発明の目的は、黒味に優れた位相差フィルムを提供することにある。
【解決手段】長尺方向に対して遅相軸が45±5°をなし、かつゴニオフォトメーターの散乱光プロファイルの入射光90°のフィルムの散乱光強度測定であって、光源から130°の位置における散乱光強度を検出する測定する場合において、フィルム遅相軸を水平に試料台へ設置した場合と垂直に設置した場合の散乱光強度差が、0.05以下であることを特徴とする位相差フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子に用いられる位相差フィルムに関し、透明性が高く生産性の高いロール状の位相差フィルム、ロール状の位相差フィルムの製造方法および円偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイ装置の大型化、薄型化の技術開発、製品化が盛んに進められている。
【0003】
代表的なディスプレイ装置として液晶テレビ、プラズマテレビ、有機ELテレビなどが挙げられ、その中でも、特に、有機EL素子は、発光効率、低電圧駆動、軽量、低コストという点で優れており、極めて注目を浴びている素子である。
【0004】
有機EL素子は、陰極から電子を、陽極から正孔を注入し、両者が発光層で再結合することにより、発光層の発光特性に対応した可視光線の発光を生じさせるものであり、通常、陽極には透明導電性材料、陰極には通常金属電極が使用されている。
【0005】
即ち有機ELディスプレイは、その構造上陰極が光反射性の強い金属鏡面となっているため、発光していない状態では外光反射が著しく目立つことになり黒味が劣化する。
【0006】
外光反射を防止するために、従来よりλ/4板(またはλ/2)と呼ばれる位相差フィルムと直線偏光板を積層した円偏光板が用いられている。
【0007】
この黒味に対しては位相差フィルムの透明性が相関し、ヘイズが比較的低いポリカーボネート樹脂やノルボルネン系樹脂が好ましく用いられている(特許文献1)。
【0008】
しかしながら、これらの樹脂は、波長分散性が不十分のため、その調整に位相差フィルムを複数使用することとなり、結局、満足な黒味が得られる程にはヘイズを低くすることはできていない。
【0009】
もともと円偏光板の使用は、ディスプレイの斜め方向からの視認性を劣化させる原因ともなっており、今後の大型化において増加する様々な角度から見られるケースに対して、斜めからの視認性の改良も必要とされている。
【0010】
この斜めからの視認性の改良のために、位相差フィルムに塗設する配向液晶層からの検討もあったが、結局その基材となるフィルムが満足のいくものではなかったため、課題の解決にはいたっていない(特許文献2)。
【0011】
一方、前記円偏光板を作成するにあたっては、従来、透明樹脂フィルムを製膜した後、これをフィルムの長尺方向または幅手方向に延伸して光学的にフィルム面内に遅相軸を出現させ、必要な面積だけ切り出してから、遅相軸と直線偏光板の透過軸が斜め45°付近になるように配置し、直線偏光板と貼り合わせるという方法が採られてきた。
【0012】
この方法には、位相差フィルムの切り出し時のロスや切り出し作業自体の手間などで生産性を上げることができないという課題や、個々の位相差フィルムと直線偏光板との貼合軸調整バラツキに起因する性能変動が生じやすいなどの課題があった。
【0013】
この課題に対して斜方延伸方法(特許文献3)や、前記特許文献2の配向液晶層の塗布が試みられたが、これらの技術だけでは、生産性という点では改善があったものの、画質の黒味を十分には改善することができなかった。
【特許文献1】特開2007−94007号公報
【特許文献2】特開2006−243653号公報
【特許文献3】特開2005−284024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、有機ELディスプレイにおいて、黒味の表現に優れた位相差フィルム、生産性の高い位相差フィルムの製造方法をおよびこの位相差フィルムを使用した偏光板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の上記課題は以下の構成により達成される。
(1)長尺方向に対して遅相軸が45±5°をなし、かつゴニオフォトメーターの散乱光プロファイルの入射光90°のフィルムの散乱光強度測定であって、光源から130°の位置における散乱光強度を検出する測定をする場合において、フィルム遅相軸を水平に試料台へ設置した場合と垂直に設置した場合の散乱光強度差が、0.05以下であることを特徴とするロール状の位相差フィルム。
(2)前記位相差フィルムが、アクリル系重合体、およびピラノース構造またはフラノース構造の少なくとも1種を1個以上12個以下有しその構造のOH基のすべてもしくは一部をエステル化したエステル化合物を、少なくとも一種含有するセルロースエステルフィルムであることを特徴とする前記(1)記載のロール状の位相差フィルム。
(3)偏光子と前記(1)または(2)に記載の位相差フィルムを有することを特徴とする円偏光板。
(4)前記(1)または(2)に記載のロール状の位相差フィルムの製造方法であって、長尺方向に対して傾斜方向に延伸し、または収縮を規制する工程を有することを特徴とするロール状の位相差フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、有機ELディスプレイにおいて、黒味の表現に優れた位相差フィルム、生産性の高い位相差フィルムの製造方法をおよびこの位相差フィルムを使用した偏光板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0018】
本発明のロール状の位相差フィルムにおいて、遅相軸がフィルム面内に存在し、長尺方向とのなす角をθ1とするとθ1は45°±5°であり、好ましくは、45°±3°である。
【0019】
本発明のロール状の位相差フィルムにおいて、長尺方向は、製膜方向に一致する。
【0020】
本発明の位相差フィルムは、一般的には、面内方向のレターデーションRoが20〜200nmの範囲であり、かつ厚み方向のレターデーションRtが70〜400nmの範囲であることが好ましいとされており、本発明の位相差フィルムであるセルロースエステルフィルムも、この範囲であることが好ましい。
【0021】
円偏光板として使用する場合、下記式(1)〜式(3)を同時に満たすレターデーションを有することが好ましい。
(1) 130≦Ro≦160
(2) −30≦Rt≦30
(3)0.78≦Ro(480)/Ro(650)≦0.96
なお、Ro=(nx−ny)×d
Rt=((nx+ny)/2−nz)×d
(式中、nxは位相差フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率を、nyは面内で遅相軸に直交する方向の屈折率を、nzは厚み方向の屈折率を、dは位相差フィルムの厚み(nm)をそれぞれ表す。屈折率の測定波長は590nmである。Ro(480)、Ro(650)はそれぞれ波長480nm、650nmで測定したときのRoを表す。)
上記屈折率は、例えばKOBRA−21ADH(王子計測機器(株))を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長が590nmで求めることができる。
<ゴニオフォトメーターにより測定される散乱光>
本発明の位相差フィルムは、前記レターデーションを得るために延伸処理をしても、ゴニオフォトメーターによって測定された散乱光が、一定の範囲にあることを特徴とする。
【0022】
黒味を改良させるためには、セルロースエステルフィルムのヘイズを低下させることが必要であるとされてきたが、直進光に対応するヘイズを低減するだけでは、必ずしも黒味を所望の値にすることはできないというということが判ってきた。
【0023】
これに対し本発明者らは、異方性散乱を排除することが必要であることを見出した。異方性散乱とは、フィルムの遅相軸方向とそれに直行する方向での散乱光強度の差をいう。この異方性散乱は、ゴニオフォトメーターにより測定される。
【0024】
〈異方性散乱の測定装置〉
図1にゴニオフォトメーター(型式:GP−1−3D、オプテック(株)製)の概略を示す。G1.光源ランプ、G2.分光器、G3.試料台(ステージともいう)、G4.試料(不記載)、G5.受光部分である。
【0025】
光源は、12V50Wハロゲン球、受光部は、光電子増倍管(フォトマル 浜松フォトニクス R636−10)を用いている。
【0026】
(a)は基準光を測定するリファレンス測定或は透過率測定時における、光源ランプ、分光器、試料台(ステージ)、光の強度を計測する積分球の配置を示す。
【0027】
(b)は測定サンプルを試料台に載せてその反射率測定時における、光源ランプ、分光器、試料台、積分球の配置を示す。
【0028】
試料台は通常は測定サンプル縦掛け式となっていて押え金具で測定サンプルを固定し、その台の下部は角度割出回転テーブルとなっており、試料面と入射面の角度を変えて透過率、反射率を測定することができる構造である。
【0029】
本発明に係る異方性散乱光強度は、(a)の配置で測定することができる。つまり、ゴニオフォトメーターの散乱光プロファイルの入射光90°のフィルムの散乱光強度測定とは、ゴニオフォトメーターの光源からサンプルに対して垂直に光が与えられた時の散乱光強度をいう。
【0030】
光源から130°の位置における散乱光強度を検出する測定する場合とは、(a)の配置状態において、図1に示す、光源の法線方向と、サンプルの観察点と積分球とを結ぶ方向とがなす角θを130°とした場合に測定される散乱光強度をいう。
【0031】
本発明においては、このθが130°の位置における散乱光強度の測定において、フィルム遅相軸を水平に試料台へ設置した場合と垂直に設置した場合の散乱光強度差が、0.05以下であることを特徴とする。
【0032】
水平および垂直の条件をとるためには、通常の水準器を使用することができる。
【0033】
θとしては、色々な角度を選択することができるが、本発明では、液晶表示装置としての最終評価である黒味との相関が最も高かった130°とした。
【0034】
水平にした場合、垂直にした場合の散乱光強度は0.01〜0.25であり、0.20以下が好ましく、0.10以下がさらに好ましい。
【0035】
散乱光強度差は、小さいければ小さい方がよい。
【0036】
本発明の散乱光強度を達成するためには、本発明の位相差フィルムが、アクリル系重合体、およびピラノース構造またはフラノース構造の少なくとも1種を1個以上12個以下有しその構造のOH基のすべてもしくは一部をエステル化したエステル化合物を、少なくとも一種含有するセルロースエステルフィルムであることが好ましい。
【0037】
〈セルロースエステル〉
本発明のセルロースエステルとしては特に限定はないが、セルロースエステルとして炭素数2〜22程度のカルボン酸エステルであり、芳香族カルボン酸のエステルでもよく、特に炭素数が6以下の低級脂肪酸エステルであることが好ましい。
【0038】
水酸基に結合するアシル基は、直鎖であっても分岐してもよく、また環を形成してもよい。更に別の置換基が置換してもよい。同じ置換度である場合、前記炭素数が多いと複屈折性が低下するため、炭素数としては炭素数2〜6のアシル基の中で選択することが好ましい。前記セルロースエステルとしての炭素数が2〜4であることが好ましく、炭素数が2〜3であることがより好ましい。
【0039】
具体的には、セルロースエステルとしては、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、またはセルロースアセテートプロピオネートブチレートのようなアセチル基の他にプロピオネート基またはブチレート基が結合したセルロースの混合脂肪酸エステルを用いることができる。
【0040】
尚、ブチレートを形成するブチリル基としては、直鎖状でも分岐していてもよい。本発明において好ましく用いられるセルロースエステルとしては、特にセルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートフタレートが好ましく用いられる。
【0041】
本発明に好ましいセルロースアセテートフタレート以外のセルロースエステルとしては、下記式(1)及び(2)を同時に満足するものが好ましい。
【0042】
式(1) 2.0≦X+Y≦3.0
式(2) 0≦Y≦1.5
式中、Xはアセチル基の置換度、Yはプロピオニル基またはブチリル基、もしくはその混合物の置換度である。
【0043】
また、目的に叶う光学特性を得るために置換度の異なる樹脂を混合して用いても良い。混合比としては10:90〜90:10(質量比)が好ましい。
【0044】
この中で特にセルロースアセテートプロピオネートが好ましく用いられる。セルロースアセテートプロピオネートでは、1.0≦X≦2.5であり、0.1≦Y≦1.5、2.0≦X+Y≦3.0であることが好ましい。アシル基の置換度の測定方法はASTM−D817−96に準じて測定することができる。
【0045】
本発明に用いられるセルロースエステルの数平均分子量は、60000〜300000の範囲が、得られるフィルムの機械的強度が強く好ましい。更に70000〜200000のものが好ましく用いられる。
【0046】
セルロースエステルの重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。
【0047】
測定条件は以下の通りである。
【0048】
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
【0049】
本発明に用いられる、セルロースエステルの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどを挙げることができる。またそれらから得られたセルロースエステルはそれぞれ任意の割合で混合使用することができる。
【0050】
本発明のセルロースアセテートフタレート等のセルロースエステルは、公知の方法により製造することができる。具体的には特開平10−45804号に記載の方法を参考にして合成することができる。
【0051】
〈アクリル系重合体〉
本発明では、アクリル系重合体をセルロースエステルフィルムに添加する。なお、ここでアクリル系重合体にはメタクリル系重合体も含まれる。
【0052】
本発明に用いられるアクリル系重合体としては、セルロースエステルフィルムに含有させた場合、機能として延伸方向に対して負の複屈折性を示すことが好ましく、特に構造が限定されるものではないが、エチレン性不飽和モノマーを重合して得られた重量平均分子量が500以上30000以下である重合体であることが好ましい。
【0053】
(アクリル系重合体の複屈折性試験法)
アクリル系重合体を溶媒に溶解しキャスト製膜した後、加熱乾燥し、透過率80%以上のフィルムについて複屈折性の評価を行った。
【0054】
アッベ屈折率計−4T((株)アタゴ製)に多波長光源を用いて屈折率測定を行った。延伸方向の屈折率ny及び直交する面内方向の屈折率をnxとした。550nmの各々の屈折率について(ny−nx)<0であるフィルムについて、アクリル系重合体は延伸方向に対して負の複屈折性であると判断する。
【0055】
本発明に用いられる重量平均分子量が500以上30000以下であるアクリル系重合体は、芳香環を側鎖に有するアクリル系重合体またはシクロヘキシル基を側鎖に有するアクリル系重合体であってもよい。
【0056】
該重合体の重量平均分子量が500以上30000以下のもので該重合体の組成を制御することにより、例えばセルロースエステルフィルムが本発明において特に好ましいセルロースエステルフィルムである場合、該セルロースエステルと該重合体との相溶性を良好にすることができる。
【0057】
芳香環を側鎖に有するアクリル系重合体またはシクロヘキシル基を側鎖に有するアクリル系重合体について、好ましくは重量平均分子量が500以上10000以下のものであれば、上記に加え、製膜後のセルロースエステルフィルムの透明性が優れ、透湿度も極めて低く、偏光板用保護フィルムとして優れた性能を示す。
【0058】
該重合体は、重量平均分子量が500以上30000以下であるから、オリゴマーから低分子量重合体の間にあると考えられるものである。このような重合体を合成するには、通常の重合では分子量のコントロールが難しく、分子量を余り大きくしない方法でできるだけ分子量を揃えることのできる方法を用いることが望ましい。
【0059】
特に、本発明のセルロースエステルフィルムに用いられるアクリル系重合体としては、分子内に芳香環と水酸基を有しないエチレン性不飽和モノマーXaと、分子内に芳香環を有せず、水酸基を有するエチレン性不飽和モノマーXbと、Xa、Xbを除く共重合可能なエチレン性不飽和モノマーとを共重合して得られた重量平均分子量2000以上30000以下の重合体X、または芳香環を有さないエチレン性不飽和モノマーYaと、Yaと共重合可能なエチレン性不飽和モノマーとを重合して得られた重量平均分子量500以上3000以下の重合体Yであることが好ましい。
【0060】
[重合体X、重合体Y]
本発明に係るセルロースエステルフィルムのRo及びRtを調整する方法としては、分子内に芳香環と水酸基を有しないエチレン性不飽和モノマーXaと、分子内に芳香環を有せず、水酸基を有するエチレン性不飽和モノマーXbとXa、Xbを除く共重合可能なエチレン性不飽和モノマーとを共重合して得られた重量平均分子量2000以上30000以下の高分子量の重合体X、そして、より好ましくは、芳香環を有さないエチレン性不飽和モノマーYaと、Yaと共重合可能なエチレン性不飽和モノマーとを重合して得られた重量平均分子量500以上3000以下の低分子量の重合体Yを含有することが好ましい。
【0061】
本発明に用いられる重合体Xは、分子内に芳香環と水酸基を有しないエチレン性不飽和モノマーXaと分子内に芳香環を有せず、水酸基を有するエチレン性不飽和モノマーXbとXa、Xbを除く共重合可能なエチレン性不飽和モノマーとを共重合して得られた重量平均分子量2000以上、30000以下の重合体である。
【0062】
好ましくは、Xaは分子内に芳香環と水酸基を有しないアクリルまたはメタクリルモノマー、Xbは分子内に芳香環を有せず水酸基を有するアクリルまたはメタクリルモノマーである。
【0063】
本発明に用いられる重合体Xは、下記一般式(X)で表される。
【0064】
一般式(X)
−[Xa]m−[Xb]n−[Xc]p
上記一般式(X)において、Xaは分子内に芳香環と水酸基とを有しないエチレン性不飽和モノマーを表し、Xbは分子内に芳香環を有せず、水酸基を有するエチレン性不飽和モノマーを表し、XcはXa、Xbを除く共重合可能なエチレン性不飽和モノマーを表す。m、n及びpは、各々モル組成比を表す。ただし、m≠0、m+n+p=100である。
【0065】
更に、重合体Xとして好ましくは、下記一般式(X−1)で表される重合体である。
【0066】
一般式(X−1)
−[CH2−C(−R1)(−CO22)]m−[CH2−C(−R3)(−CO24−OH)−]n−[Xc]p
上記一般式(X−1)において、R1、R3は、それぞれ水素原子またはメチル基を表す。R2は炭素数1〜12のアルキル基またはシクロアルキル基を表す。R4は−CH2−、−C24−または−C36−を表す。Xcは、[CH2−C(−R1)(−CO22)]または[CH2−C(−R3)(−CO24−OH)−]に重合可能なモノマー単位を表す。m、n及びpは、モル組成比を表す。ただしm≠0、m+n+p=100である。
【0067】
本発明に係る重合体Xを構成するモノマー単位としてのモノマーを下記に挙げるが、これに限定されない。
【0068】
Xにおいて、水酸基とは、水酸基のみならずエチレンオキシド連鎖を有する基をいう。
【0069】
分子内に芳香環と水酸基を有しないエチレン性不飽和モノマーXaは、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、等、または上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたものを挙げることができる。
【0070】
中でも、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル(i−、n−)であることが好ましい。
【0071】
分子内に芳香環を有せず、水酸基を有するエチレン性不飽和モノマーXbは、水酸基を有するモノマー単位として、アクリル酸またはメタクリル酸エステルが好ましく、例えば、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、またはこれらアクリル酸をメタクリル酸に置き換えたものを挙げることができ、好ましくは、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)及びメタクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)である。
【0072】
Xcとしては、Xa、Xb以外のモノマーで、かつ共重合可能なエチレン性不飽和モノマーであれば、特に制限はないが、芳香環を有していないものが好ましい。
【0073】
Xa及びXbのモル組成比m:nは99:1〜65:35の範囲が好ましく、更に好ましくは95:5〜75:25の範囲である。Xcのpは0〜10である。Xcは複数のモノマー単位であってもよい。
【0074】
Xaのモル組成比が多いと、セルロースエステルとの相溶性が良化するがフィルム厚み方向のレターデーション値Rtが大きくなる。Xbのモル組成比が多いと上記相溶性が悪くなるが、Rtを低減させる効果が高い。
【0075】
また、Xbのモル組成比が上記範囲を超えると製膜時にヘイズが出る傾向があり、これらの最適化を図りXa、Xbのモル組成比を決めることが好ましい。
【0076】
高分子量の重合体Xの分子量は、重量平均分子量が5000以上30000以下であることがより好ましく、更に好ましくは8000以上25000以下である。
【0077】
重量平均分子量を5000以上とすることにより、セルロースエステルフィルムの高温高湿下における寸法変化が少ない等の利点が得られ好ましい。
【0078】
重量平均分子量が30000以下とした場合は、セルロースエステルとの相溶性がより向上し、高温高湿下においてのブリードアウト、更に製膜直後でのヘイズの発生が抑制される。
【0079】
本発明に係る重合体Xの重量平均分子量は、公知の分子量調節方法で調整することができる。そのような分子量調節方法としては、例えば、四塩化炭素、ラウリルメルカプタン、チオグリコール酸オクチル等の連鎖移動剤を添加する方法等が挙げられる。
【0080】
また、重合温度は、通常、室温から130℃、好ましくは50℃から100℃で行われるが、この温度または重合反応時間を調整することで可能である。
【0081】
なお、重量平均分子量等は、前述の方法に準じて求めることができる。
【0082】
本発明に用いられる低分子量の重合体Yは、芳香環を有さないエチレン性不飽和モノマーYaを重合して得られた重量平均分子量500以上3000以下の重合体である。重量平均分子量500以上であれば重合体の残存モノマーが減少し好ましい。
【0083】
また、3000以下とすることは、レターデーション値Rt低下性能を維持するために好ましい。Yaは、好ましくは芳香環を有さないアクリルまたはメタクリルモノマーである。
【0084】
本発明に用いられる重合体Yは、下記一般式(Y)で表される。
【0085】
一般式(Y)
−[Ya]k−[Yb]q
上記一般式(Y)において、Yaは芳香環を有しないエチレン性不飽和モノマーを表し、YbはYaと共重合可能なエチレン性不飽和モノマーを表す。k及びqは、各々モル組成比を表す。ただし、k≠0、k+q=100である。
【0086】
本発明に係る重合体Yにおいて、更に好ましくは下記一般式(Y−1)で表される重合体である。
【0087】
一般式(Y−1)
−[CH2−C(−R5)(−CO26)]k−[Yb]q
上記一般式(Y−1)において、R5は、それぞれ水素原子またはメチル基を表す。R6は炭素数1〜12のアルキル基またはシクロアルキル基を表す。Ybは、[CH2−C(−R5)(−CO26)]と共重合可能なモノマー単位を表す。k及びqは、それぞれモル組成比を表す。ただしk≠0、k+q=100である。
【0088】
Ybは、Yaである[CH2−C(−R5)(−CO26)]と共重合可能なエチレン性不飽和モノマーであれば特に制限はない。Ybは複数であってもよい。k+q=100、qは好ましくは0〜30である。
【0089】
芳香環を有さないエチレン性不飽和モノマーを重合して得られる重合体Yを構成するエチレン性不飽和モノマーYaは、アクリル酸エステルとして、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、メタクリル酸エステルとして、上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたもの;不飽和酸として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸等を挙げることができる。
【0090】
Ybは、Yaと共重合可能なエチレン性不飽和モノマーであれば特に制限はないが、ビニルエステルとして、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、オクチル酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、桂皮酸ビニル等が好ましい。Ybは複数であってもよい。
【0091】
重合体X、Yを合成するには、通常の重合では分子量のコントロールが難しく、分子量を余り大きくしない方法で、かつ出来るだけ分子量を揃えることのできる方法を用いることが望ましい。
【0092】
かかる重合方法としては、クメンペルオキシドやt−ブチルヒドロペルオキシドのような過酸化物重合開始剤を使用する方法、重合開始剤を通常の重合より多量に使用する方法、重合開始剤の他にメルカプト化合物や四塩化炭素等の連鎖移動剤を使用する方法、重合開始剤の他にベンゾキノンやジニトロベンゼンのような重合停止剤を使用する方法、更に特開2000−128911号または同2000−344823号公報にあるような一つのチオール基と2級の水酸基とを有する化合物、或いは、該化合物と有機金属化合物を併用した重合触媒を用いて塊状重合する方法等を挙げることができ、何れも本発明において好ましく用いられる。
【0093】
特に、重合体Yは、分子中にチオール基と2級の水酸基とを有する化合物を連鎖移動剤として使用する重合方法が好ましい。この場合、重合体Yの末端には、重合触媒及び連鎖移動剤に起因する水酸基、チオエーテルを有することとなる。この末端残基により、Yとセルロースエステルとの相溶性を調整することができる。
【0094】
重合体X及びYの水酸基価は、30〜150[mgKOH/g]であることが好ましい。
【0095】
なお、水酸基価の測定は、JIS K 0070(1992)に準ずる。この水酸基価は、試料1gをアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数と定義される。
【0096】
具体的には試料Xg(約1g)をフラスコに精秤し、これにアセチル化試薬(無水酢酸20mlにピリジンを加えて400mlにしたもの)20mlを正確に加える。フラスコの口に空気冷却管を装着し、95〜100℃のグリセリン浴にて加熱する。
【0097】
1時間30分後、冷却し、空気冷却管から精製水1mlを加え、無水酢酸を酢酸に分解する。
【0098】
次に電位差滴定装置を用いて0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液で滴定を行い、得られた滴定曲線の変曲点を終点とする。
【0099】
更に空試験として、試料を入れないで滴定し、滴定曲線の変曲点を求める。水酸基価は、次の式によって算出する。
【0100】
水酸基価={(B−C)×f×28.05/X}+D
式中、Bは空試験に用いた0.5mol/Lの水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)、Cは滴定に用いた0.5mol/Lの水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)、fは0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液のファクター、Dは酸価、また、28.05は水酸化カリウムの1mol量56.11の1/2を表す。
【0101】
上述の重合体X、重合体Yは何れもセルロースエステルとの相溶性に優れ、蒸発や揮発もなく生産性に優れ、偏光板用保護フィルムとしての保留性がよく、透湿度が小さく、寸法安定性に優れている。
【0102】
重合体Xと重合体Yのセルロースエステルフィルム中での含有量は、下記式(i)、式(ii)を満足する範囲であることが好ましい。重合体Xの含有量をXg(質量%=(重合体Xの質量
/セルロースエステルの質量)×100)、重合体Yの含有量をYg(質量%)とすると、
式(i) 5≦Xg+Yg≦35(質量%)
式(ii) 0.05≦Yg/(Xg+Yg)≦0.4
式(i)の(Xg+Yg)の好ましい範囲は、10〜35質量%である。重合体Xと重合体Yは、セルロースエステル全質量に対し、総量として5質量%以上であれば、レターデーション値Rtの調整に十分な作用をする。
【0103】
重合体Xと重合体Yは、後述するドープ液を構成する素材として直接添加、溶解するか、もしくはセルロースエステルを溶解する有機溶媒に予め溶解した後ドープ液に添加することができる。
【0104】
〈ピラノース構造またはフラノース構造の少なくとも1種を1個以上12個以下有しその構造のOH基のすべてもしくは一部をエステル化したエステル化合物〉
本発明のセルロースエステルフィルムは、ピラノース構造またはフラノース構造の少なくとも1種を1個以上12個以下有しその構造のOH基のすべてもしくは一部をエステル化したエステル化合物を含むことを特徴とする。
【0105】
エステル化の割合としては、ピラノース構造またはフラノース構造内に存在するOH基の70%以上であることが好ましい。
【0106】
本発明においては、エステル化合物を総称して、糖エステル化合物とも称す。
【0107】
本発明のエステル化合物の例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0108】
グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロース、或いはアラビノース、ラクトース、スクロース、ニストース、1F−フラクトシルニストース、スタキオース、マルチトール、ラクチトール、ラクチュロース、セロビオース、マルトース、セロトリオース、マルトトリオース、ラフィノース或いはケストース挙げられる。
【0109】
このほか、ゲンチオビオース、ゲンチオトリオース、ゲンチオテトラオース、キシロトリオース、ガラクトシルスクロースなども挙げられる。
【0110】
これらの化合物の中で、特にピラノース構造とフラノース構造を両方有する化合物が好ましい。
【0111】
例としてはスクロース、ケストース、ニストース、1F−フラクトシルニストース、スタキオースなどが好ましく、更に好ましくは、スクロースである。
【0112】
本発明ピラノース構造またはフラノース構造中のOH基のすべてもしくは一部をエステル化するのに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。
【0113】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、オクテン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0114】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、酢酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
【0115】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基、アルコキシ基を導入した芳香族モノカルボン酸、ケイ皮酸、ベンジル酸、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができ、より、具体的には、キシリル酸、ヘメリト酸、メシチレン酸、プレーニチル酸、γ−イソジュリル酸、ジュリル酸、メシト酸、α−イソジュリル酸、クミン酸、α−トルイル酸、ヒドロアトロパ酸、アトロパ酸、ヒドロケイ皮酸、サリチル酸、o−アニス酸、m−アニス酸、p−アニス酸、クレオソート酸、o−ホモサリチル酸、m−ホモサリチル酸、p−ホモサリチル酸、o−ピロカテク酸、β−レソルシル酸、バニリン酸、イソバニリン酸、ベラトルム酸、o−ベラトルム酸、没食子酸、アサロン酸、マンデル酸、ホモアニス酸、ホモバニリン酸、ホモベラトルム酸、o−ホモベラトルム酸、フタロン酸、p−クマル酸を挙げることができるが、特に安息香酸が好ましい。
【0116】
オリゴ糖のエステル化合物を、本発明に係るピラノース構造またはフラノース構造の少なくとも1種を1〜12個を有する化合物として適用できる。
【0117】
オリゴ糖は、澱粉、ショ糖等にアミラーゼ等の酵素を作用させて製造されるもので、本発明に適用できるオリゴ糖としては、例えば、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖が挙げられる。
【0118】
また、前記エステル化合物は、下記一般式(A)で表されるピラノース構造またはフラノース構造の少なくとも1種を1個以上12個以下縮合した化合物である。ただし、R11〜R15、R21〜R25は、炭素数2〜22のアシル基または水素原子を、m、nはそれぞれ0〜12の整数、m+nは1〜12の整数を表す。
【0119】
【化1】

【0120】
11〜R15、R21〜R25は、ベンゾイル基、水素原子であることが好ましい。ベンゾイル基は更に置換基R26(pは0〜5)を有していてもよく、例えばアルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、フェニル基が挙げられ、更にこれらのアルキル基、アルケニル基、フェニル基は置換基を有していてもよい。オリゴ糖も本発明のエステル化合物と同様な方法で製造することができる。
【0121】
以下に、本発明に係るエステル化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0122】
【化2】

【0123】
【化3】

【0124】
【化4】

【0125】
【化5】

【0126】
【化6】

【0127】
【化7】

【0128】
【化8】

【0129】
【化9】

【0130】
本発明のセルロースエステルフィルムは、位相差値の変動を抑制して、表示品位を安定化する為に、本発明のエステル化合物を、セルロースエステルフィルムの1〜30質量%含むことが好ましく、特には、5〜30質量%含むことが好ましい。
〈その他の添加剤〉
(可塑剤)
本発明のセルロースエステルフィルムは、本発明の効果を得る上で必要に応じて可塑剤を含有することができる。
【0131】
可塑剤は特に限定されないが、好ましくは、多価カルボン酸エステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤及び多価アルコールエステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、アクリル系可塑剤等から選択される。
【0132】
そのうち、可塑剤を2種以上用いる場合は、少なくとも1種は多価アルコールエステル系可塑剤であることが好ましい。
【0133】
多価アルコールエステル系可塑剤は2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなる可塑剤であり、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有することが好ましい。好ましくは2〜20価の脂肪族多価アルコールエステルである。
【0134】
本発明に好ましく用いられる多価アルコールは次の一般式(a)で表される。
【0135】
一般式(a) R1−(OH)n
但し、R1はn価の有機基、nは2以上の正の整数、OH基はアルコール性、及び/またはフェノール性水酸基を表す。
【0136】
好ましい多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0137】
アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることができる。
【0138】
特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
【0139】
多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
【0140】
好ましいモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0141】
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数は1〜20であることが更に好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有させるとセルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0142】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0143】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
【0144】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基、メトキシ基或いはエトキシ基などのアルコキシ基を1〜3個を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。特に安息香酸が好ましい。
【0145】
多価アルコールエステルの分子量は特に制限はないが、300〜1500であることが好ましく、350〜750であることが更に好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
【0146】
多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は、全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
【0147】
以下に、多価アルコールエステルの具体的化合物を例示する。
【0148】
【化10】

【0149】
【化11】

【0150】
【化12】

【0151】
【化13】

【0152】
グリコレート系可塑剤は特に限定されないが、アルキルフタリルアルキルグリコレート類が好ましく用いることができる。
【0153】
アルキルフタリルアルキルグリコレート類としては、例えばメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が挙げられる。
【0154】
フタル酸エステル系可塑剤としては、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルテレフタレート等が挙げられる。
【0155】
クエン酸エステル系可塑剤としては、クエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等が挙げられる。
【0156】
脂肪酸エステル系可塑剤として、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル等が挙げられる。
【0157】
リン酸エステル系可塑剤としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等が挙げられる。
【0158】
多価カルボン酸エステル化合物としては、2価以上、好ましくは2価〜20価の多価カルボン酸とアルコールのエステルよりなる。また、脂肪族多価カルボン酸は2〜20価であることが好ましく、芳香族多価カルボン酸、脂環式多価カルボン酸の場合は3価〜20価であることが好ましい。
【0159】
多価カルボン酸は次の一般式(b)で表される。
【0160】
一般式(b)R2(COOH)m(OH)n
(但し、R2は(m+n)価の有機基、mは2以上の正の整数、nは0以上の整数、COOH基はカルボキシル基、OH基はアルコール性またはフェノール性水酸基を表す)
好ましい多価カルボン酸の例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0161】
トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸のような3価以上の芳香族多価カルボン酸またはその誘導体、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、テトラヒドロフタル酸のような脂肪族多価カルボン酸、酒石酸、タルトロン酸、リンゴ酸、クエン酸のようなオキシ多価カルボン酸などを好ましく用いることができる。特にオキシ多価カルボン酸を用いることが、保留性向上などの点で好ましい。
【0162】
本発明に用いることのできる多価カルボン酸エステル化合物に用いられるアルコールとしては特に制限はなく公知のアルコール、フェノール類を用いることができる。
【0163】
例えば炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪族飽和アルコールまたは脂肪族不飽和アルコールを好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることが更に好ましく、炭素数1〜10であることが特に好ましい。
【0164】
また、シクロペンタノール、シクロヘキサノールなどの脂環式アルコールまたはその誘導体、ベンジルアルコール、シンナミルアルコールなどの芳香族アルコールまたはその誘導体なども好ましく用いることができる。
【0165】
多価カルボン酸としてオキシ多価カルボン酸を用いる場合は、オキシ多価カルボン酸のアルコール性またはフェノール性の水酸基をモノカルボン酸を用いてエステル化しても良い。好ましいモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0166】
脂肪族モノカルボン酸としては炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることが更に好ましく、炭素数1〜10であることが特に好ましい。
【0167】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸などの飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などの不飽和脂肪酸などを挙げることができる。
【0168】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
【0169】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸などの安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸などのベンゼン環を2個以上もつ芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。特に酢酸、プロピオン酸、安息香酸であることが好ましい。
【0170】
多価カルボン酸エステル化合物の分子量は特に制限はないが、分子量300〜1000の範囲であることが好ましく、350〜750の範囲であることが更に好ましい。保留性向上の点では大きい方が好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
【0171】
本発明に用いることのできる多価カルボン酸エステルに用いられるアルコール類は一種類でも良いし、二種以上の混合であっても良い。
【0172】
本発明に用いることのできる多価カルボン酸エステル化合物の酸価は1mgKOH/g以下であることが好ましく、0.2mgKOH/g以下であることが更に好ましい。酸価を上記範囲にすることによって、レターデーションの環境変動も抑制されるため好ましい。
【0173】
なお、酸価とは、試料1g中に含まれる酸(試料中に存在するカルボキシル基)を中和するために必要な水酸化カリウムのミリグラム数をいう。酸価はJIS K0070に準拠して測定したものである。
【0174】
特に好ましい多価カルボン酸エステル化合物の例を以下に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0175】
例えば、トリエチルシトレート、トリブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート(ATEC)、アセチルトリブチルシトレート(ATBC)、ベンゾイルトリブチルシトレート、アセチルトリフェニルシトレート、アセチルトリベンジルシトレート、酒石酸ジブチル、酒石酸ジアセチルジブチル、トリメリット酸トリブチル、ピロメリット酸テトラブチル等が挙げられる。
【0176】
ポリエステル系可塑剤は特に限定されないが、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有するポリエステル系可塑剤を用いることができる。ポリエステル系可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、下記一般式(c)で表せる芳香族末端エステル系可塑剤を用いることができる。
【0177】
一般式(c) B−(G−A)n−G−B
(式中、Bはベンゼンモノカルボン酸残基、Gは炭素数2〜12のアルキレングリコール残基または炭素数6〜12のアリールグリコール残基または炭素数が4〜12のオキシアルキレングリコール残基、Aは炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸残基または炭素数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表し、またnは1以上の整数を表す。)
一般式(c)中、Bで示されるベンゼンモノカルボン酸残基とGで示されるアルキレングリコール残基またはオキシアルキレングリコール残基またはアリールグリコール残基、Aで示されるアルキレンジカルボン酸残基またはアリールジカルボン酸残基とから構成されるものであり、通常のポリエステル系可塑剤と同様の反応により得られる。
【0178】
本発明で使用されるポリエステル系可塑剤のベンゼンモノカルボン酸成分としては、例えば、安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ1種または2種以上の混合物として使用することができる。
【0179】
本発明に用いることのできるポリエステル系可塑剤の炭素数2〜12のアルキレングリコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、2−メチル1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル1,3−ペンタンジオール、2−エチル1,3−ヘキサンジオール、2−メチル1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用される。
【0180】
特に炭素数2〜12のアルキレングリコールがセルロースエステルとの相溶性に優れているため、特に好ましい。
【0181】
また、上記芳香族末端エステルの炭素数4〜12のオキシアルキレングリコール成分としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用できる。
【0182】
芳香族末端エステルの炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フマール酸、グルタール酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等があり、これらは、それぞれ1種または2種以上の混合物として使用される。炭素数6〜12のアリーレンジカルボン酸成分としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5ナフタレンジカルボン酸、1,4ナフタレンジカルボン酸等がある。
【0183】
本発明で使用されるポリエステル系可塑剤は、数平均分子量が、好ましくは300〜1500、より好ましくは400〜1000の範囲が好適である。また、その酸価は、0.5mgKOH/g以下、水酸基価は25mgKOH/g以下、より好ましくは酸価0.3mgKOH/g以下、水酸基価は15mgKOH/g以下のものである。
【0184】
以下に、本発明に用いることのできる芳香族末端エステル系可塑剤の具体的化合物を示すが、本発明はこれに限定されない。
【0185】
【化14】

【0186】
【化15】

【0187】
(紫外線吸収剤)
本発明に係るセルロースエステルフィルムは、紫外線吸収剤を含有することもできる。紫外線吸収剤は400nm以下の紫外線を吸収することで、耐久性を向上させることを目的としており、特に波長370nmでの透過率が10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下である。
【0188】
本発明に用いられる紫外線吸収剤は特に限定されないが、例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体等が挙げられる。
【0189】
例えば、5−クロロ−2−(3,5−ジ−sec−ブチル−2−ヒドロキシルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、(2−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2,4−ベンジルオキシベンゾフェノン等があり、また、チヌビン109、チヌビン171、チヌビン234、チヌビン326、チヌビン327、チヌビン328等のチヌビン類があり、これらはいずれもチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製の市販品であり好ましく使用できる。
【0190】
本発明で好ましく用いられる紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤であり、特に好ましくはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、である。
【0191】
この他、1,3,5トリアジン環を有する化合物等の円盤状化合物も紫外線吸収剤として好ましく用いられる。
【0192】
本発明に係わる偏光板保護フィルムは紫外線吸収剤を2種以上を含有することが好ましい。
【0193】
また、紫外線吸収剤としては高分子紫外線吸収剤も好ましく用いることができ、特に特開平6−148430号記載のポリマータイプの紫外線吸収剤が好ましく用いられる。
【0194】
紫外線吸収剤の添加方法は、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコールやメチレンクロライド、酢酸メチル、アセトン、ジオキソラン等の有機溶媒或いはこれらの混合溶媒に紫外線吸収剤を溶解してからドープに添加するか、または直接ドープ組成中に添加してもよい。
【0195】
無機粉体のように有機溶剤に溶解しないものは、有機溶剤とセルロースエステル中にデゾルバーやサンドミルを使用し、分散してからドープに添加する。
【0196】
紫外線吸収剤の使用量は、紫外線吸収剤の種類、使用条件等により一様ではないが、偏光板保護フィルムの乾燥膜厚が30〜200μmの場合は、偏光板保護フィルムに対して0.5〜10質量%が好ましく、0.6〜4質量%が更に好ましい。
【0197】
(酸化防止剤)
酸化防止剤は劣化防止剤ともいわれる。高湿高温の状態に液晶画像表示装置などがおかれた場合には、セルロースエステルフィルムの劣化が起こる場合がある。
【0198】
酸化防止剤は、例えば、セルロースエステルフィルム中の残留溶媒量のハロゲンやリン酸系可塑剤のリン酸等によりセルロースエステルフィルムが分解するのを遅らせたり、防いだりする役割を有するので、前記セルロースエステルフィルム中に含有させるのが好ましい。
【0199】
このような酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等を挙げることができる。
【0200】
特に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また、例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。
【0201】
これらの化合物の添加量は、セルロース誘導体に対して質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmが更に好ましい。
【0202】
(微粒子)
本発明に係るセルロースエステルフィルムは、微粒子を含有することが好ましい。
【0203】
本発明に使用される微粒子としては、無機化合物の例として、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。
【0204】
微粒子は珪素を含むものが濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。
【0205】
微粒子の一次粒子の平均粒径は5〜400nmが好ましく、更に好ましいのは10〜300nmである。
【0206】
これらは主に粒径0.05〜0.3μmの2次凝集体として含有されていてもよく、平均粒径100〜400nmの粒子であれば凝集せずに一次粒子として含まれていることも好ましい。
【0207】
セルロースエステルフィルム中のこれらの微粒子の含有量は0.01〜1質量%であることが好ましく、特に0.05〜0.5質量%が好ましい。共流延法による多層構成の偏光板保護フィルムの場合は、表面にこの添加量の微粒子を含有することが好ましい。
【0208】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0209】
酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0210】
ポリマーの例として、シリコーン樹脂、フッ素樹脂及びアクリル樹脂を挙げることができる。シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120及び同240(以上東芝シリコーン(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0211】
これらの中でもアエロジル200V、アエロジルR972Vが偏光板保護フィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数を下げる効果が大きいため特に好ましく用いられる。本発明で用いられる偏光板保護フィルムにおいては、少なくとも一方の面の動摩擦係数が0.2〜1.0であることが好ましい。
【0212】
各種添加剤は製膜前のセルロースエステル含有溶液であるドープにバッチ添加してもよいし、添加剤溶解液を別途用意してインライン添加してもよい。特に微粒子は濾過材への負荷を減らすために、一部または全量をインライン添加することが好ましい。
【0213】
添加剤溶解液をインライン添加する場合は、ドープとの混合性をよくするため、少量のセルロースエステルを溶解するのが好ましい。好ましいセルロースエステルの量は、溶剤100質量部に対して1〜10質量部で、より好ましくは、3〜5質量部である。
【0214】
本発明においてインライン添加、混合を行うためには、例えば、スタチックミキサー(東レエンジニアリング製)、SWJ(東レ静止型管内混合器 Hi−Mixer)等のインラインミキサー等が好ましく用いられる。
<ロール状の位相差フィルムの製造方法>
次に、本発明のロール状の位相差フィルムであるセルロースエステルフィルムの製造方法について説明する。
【0215】
本発明に係るセルロースエステルフィルムは溶液流延法で製造されたフィルムであっても溶融流延法で製造されたフィルムであっても好ましく用いることができる。
【0216】
本発明のセルロースエステルフィルムの製造は、セルロースエステル及び添加剤を溶剤に溶解させてドープを調製する工程、ドープを無限に移行する無端の金属支持体上に流延、乾燥する工程、金属支持体から剥離する工程、延伸工程、更に乾燥する工程、仕上がったフィルムを巻取る工程により行われる。
【0217】
<溶液流延法>
〈ドープ調整工程〉
ドープを調製する工程について述べる。ドープ中のセルロースエステルの濃度は、濃い方が金属支持体に流延した後の乾燥負荷が低減できて好ましいが、セルロースエステルの濃度が濃過ぎると濾過時の負荷が増えて、濾過精度が悪くなる。これらを両立する濃度としては、10〜35質量%が好ましく、更に好ましくは、15〜25質量%である。
【0218】
ドープで用いられる溶剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよいが、セルロースエステルの良溶剤と貧溶剤を混合して使用することが生産効率の点で好ましく、良溶剤が多い方がセルロースエステルの溶解性の点で好ましい。
【0219】
良溶剤と貧溶剤の混合比率の好ましい範囲は、良溶剤が70〜98質量%であり、貧溶剤が2〜30質量%である。良溶剤、貧溶剤とは、使用するセルロースエステルを単独で溶解するものを良溶剤、単独で膨潤するかまたは溶解しないものを貧溶剤と定義している。
【0220】
そのため、セルロースエステルの平均酢化度(アセチル基置換度)によっては、良溶剤、貧溶剤が変わり、例えばアセトンを溶剤として用いる時には、セルロースエステルの酢酸エステル(アセチル基置換度2.4)、セルロースアセテートプロピオネートでは良溶剤になり、セルロースの酢酸エステル(アセチル基置換度2.8)では貧溶剤となる。
【0221】
本発明に用いられる良溶剤は特に限定されないが、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物やジオキソラン類、アセトン、酢酸メチル、アセト酢酸メチル等が挙げられる。特に好ましくはメチレンクロライドまたは酢酸メチルが挙げられる。
【0222】
また、本発明に用いられる貧溶剤は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、n−ブタノール、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等が好ましく用いられる。また、ドープ中には水が0.01〜2質量%含有していることが好ましい。
【0223】
また、セルロースエステルの溶解に用いられる溶媒は、フィルム製膜工程で乾燥によりフィルムから除去された溶媒を回収し、これを再利用して用いられる。
【0224】
回収溶剤中に、セルロースエステルに添加されている添加剤、例えば可塑剤、紫外線吸収剤、ポリマー、モノマー成分などが微量含有されていることもあるが、これらが含まれていても好ましく再利用することができるし、必要であれば精製して再利用することもできる。
【0225】
上記記載のドープを調製する時の、セルロースエステルの溶解方法としては、一般的な方法を用いることができる。加熱と加圧を組み合わせると常圧における沸点以上に加熱できる。
【0226】
溶剤の常圧での沸点以上でかつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら攪拌溶解すると、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止するため好ましい。
【0227】
また、セルロースエステルを貧溶剤と混合して湿潤或いは膨潤させた後、更に良溶剤を添加して溶解する方法も好ましく用いられる。
【0228】
加圧は窒素ガス等の不活性気体を圧入する方法や、加熱によって溶剤の蒸気圧を上昇させる方法によって行ってもよい。加熱は外部から行うことが好ましく、例えばジャケットタイプのものは温度コントロールが容易で好ましい。
【0229】
溶剤を添加しての加熱温度は、高い方がセルロースエステルの溶解性の観点から好ましいが、加熱温度が高過ぎると必要とされる圧力が大きくなり生産性が悪くなる。
【0230】
好ましい加熱温度は45〜120℃であり、60〜110℃がより好ましく、70℃〜105℃が更に好ましい。また、圧力は設定温度で溶剤が沸騰しないように調整される。
【0231】
もしくは冷却溶解法も好ましく用いられ、これによって酢酸メチルなどの溶媒にセルロースエステルを溶解させることができる。
【0232】
次に、このセルロースエステル溶液を濾紙等の適当な濾過材を用いて濾過する。濾過材としては、不溶物等を除去するために絶対濾過精度が小さい方が好ましいが、絶対濾過精度が小さ過ぎると濾過材の目詰まりが発生し易いという問題がある。
【0233】
このため絶対濾過精度0.008mm以下の濾材が好ましく、0.001〜0.008mmの濾材がより好ましく、0.003〜0.006mmの濾材が更に好ましい。
【0234】
濾材の材質は特に制限はなく、通常の濾材を使用することができるが、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック製の濾材や、ステンレススティール等の金属製の濾材が繊維の脱落等がなく好ましい。
【0235】
濾過により、原料のセルロースエステルに含まれていた不純物、特に輝点異物を除去、低減することが好ましい。
【0236】
輝点異物とは、2枚の偏光板をクロスニコル状態にして配置し、その間に光学フィルム等を置き、一方の偏光板の側から光を当てて、他方の偏光板の側から観察した時に反対側からの光が漏れて見える点(異物)のことであり、径が0.01mm以上である輝点数が200個/cm2以下であることが好ましい。
【0237】
より好ましくは100個/cm2以下であり、更に好ましくは50個/m2以下であり、更に好ましくは0〜10個/cm2以下である。また、0.01mm以下の輝点も少ない方が好ましい。
【0238】
ドープの濾過は通常の方法で行うことができるが、溶剤の常圧での沸点以上で、かつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら濾過する方法が、濾過前後の濾圧の差(差圧という)の上昇が小さく、好ましい。
【0239】
好ましい温度は45〜120℃であり、45〜70℃がより好ましく、45〜55℃であることが更に好ましい。
【0240】
濾圧は小さい方が好ましい。濾圧は1.6MPa以下であることが好ましく、1.2MPa以下であることがより好ましく、1.0MPa以下であることが更に好ましい。
【0241】
ここで、ドープの流延について説明する。
【0242】
〈流延、乾燥工程〉
流延(キャスト)工程における金属支持体は、表面を鏡面仕上げしたものが好ましく、金属支持体としては、ステンレススティールベルトもしくは鋳物で表面をメッキ仕上げしたドラムが好ましく用いられる。
【0243】
キャストの幅は1〜4mとすることができる。流延工程の金属支持体の表面温度は−50℃〜溶剤の沸点未満の温度で、温度が高い方がウェブの乾燥速度が速くできるので好ましいが、余り高過ぎるとウェブが発泡したり、平面性が劣化する場合がある。
【0244】
好ましい支持体温度は0〜40℃であり、5〜30℃が更に好ましい。或いは、冷却することによってウェブをゲル化させて残留溶媒を多く含んだ状態でドラムから剥離することも好ましい方法である。
【0245】
金属支持体の温度を制御する方法は特に制限されないが、温風または冷風を吹きかける方法や、温水を金属支持体の裏側に接触させる方法がある。温水を用いる方が熱の伝達が効率的に行われるため、金属支持体の温度が一定になるまでの時間が短く好ましい。温風を用いる場合は目的の温度よりも高い温度の風を使う場合がある。
【0246】
〈剥離工程〉
セルロースエステルフィルムが良好な平面性を示すためには、金属支持体からウェブを剥離する際の残留溶媒量は10〜150質量%が好ましく、更に好ましくは20〜40質量%または60〜130質量%であり、特に好ましくは、20〜30質量%または70〜120質量%である。
【0247】
本発明においては、残留溶媒量は下記式で定義される。
【0248】
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
尚、Mはウェブまたはフィルムを製造中または製造後の任意の時点で採取した試料の質量で、NはMを115℃で1時間の加熱後の質量である。
【0249】
また、セルロースエステルフィルムの乾燥工程においては、ウェブを金属支持体より剥離し、更に乾燥し、残留溶媒量を1質量%以下にすることが好ましく、更に好ましくは0.1質量%以下であり、特に好ましくは0〜0.01質量%以下である。剥離張力は300N/m以下で剥離することが好ましい。
【0250】
〈延伸工程〉
本発明で目標とするレターデーション値Ro、Rtを得るには、セルロースエステルフィルムが本発明の構成をとり、更に延伸操作により屈折率制御を行うことが好ましい。
【0251】
本発明においては、長尺方向に対して遅相軸が45±5°をなすことを特徴とし、そのためには角度を調整して延伸する方法が採用される。
【0252】
角度を調整する方法としては、製膜方向に延伸し又は収縮を規制してから、前記製膜方向に対して傾斜方向に延伸し又は収縮を規制することが好ましく、例えば、特開2003−340916号公報実施例1に使用された延伸装置を用いた方法、図4に示す特開2005−284024号公報図1、製造例2に記載の延伸装置を用いた方法、特開2007−30466号公報に記載の延伸方法、特開2007−94007号公報実施例1に使用された延伸装置を用いた方法等を好ましく用いることができ、流延後オンラインで延伸製膜されてもよいし、製膜後改めて延伸してもよい。
【0253】
特開2005−30466号に記載の方法を使用することが最も好ましい。
【0254】
更に以下の方法を併用してもよい。
(1)搬送を屈曲させて左右の行路差をつける方法
(2)スピンドルにより左右クリップ速度差をつける方法
(3)左右独立の屈曲角を持たせて左右の速度差をつける方法
以下、本発明の実施形態について、斜方延伸する場合について図面を参照しながら説明する。
【0255】
図2および図3に、本発明の一実施形態であるフィルム延伸装置(伸縮装置)1の平面および断面を示す。フィルム延伸装置1は、フィルム2を供給する供給装置3と、フィルムを加熱する縦延伸装置4と、フィルム2を下流に搬送する中間搬送装置5とからなる縦延伸工程(縦伸縮工程)6と、フィルム2を搬送しながら搬送方向に対して傾斜し方向に延伸する斜方延伸機7と、斜方延伸機7の中央部を覆うように設けられ、フィルム2を加熱する斜方延伸加熱装置8とからなる斜方延伸工程(斜方伸縮工程)9と、フィルム2を巻き取る巻取装置10とからなっている。
【0256】
供給装置3は、フィルム2を巻き付けた原反リール11が装着され、フィルム2を基準ロール12とニップロール13で挟み込んで所定の搬送速度で送り出す。縦延伸装置4は、フィルム2に上下から互い違いに熱風を吹きかける熱風ダクト(加熱手段)14を有する断熱材で構成した箱体である。中間搬送装置5は、フィルム2を比率ロール15とニップロール16で挟み込んで搬送し、搬送方向と平行なE1方向に延伸する。
【0257】
斜方延伸機7は、フィルム2の両側に配した延伸チェイン17でフィルム2を搬送しながら、搬送方向に対して角度αだけ傾斜したE2方向に延伸するものであるが詳細は後述する。斜方延伸炉8は、フィルム2に上下から熱風を吹きかける熱風ダクト18を有する断熱材で構成した箱体である。
【0258】
巻取装置10は、テンションロール19で張力を調整しながら、フィルム2を製品リール20に巻き取る。
【0259】
2軸方向の延伸倍率は、それぞれ最終的には流延方向に0.8〜1.5倍、幅方向に1.1〜2.5倍の範囲とすることが好ましく、流延方向に0.8〜1.0倍、幅方向に1.2〜2.0倍に範囲で行うことが好ましい。
【0260】
延伸温度は120℃〜210℃が好ましく、さらに好ましくは160℃〜200℃であり、さらに好ましくは170℃を超えて200℃以下で延伸するのが好ましい。
【0261】
フィルム中の残留溶媒は20〜0%が好ましく、さらに好ましくは15〜0%で延伸するのが好ましい。
【0262】
具体的には175℃で残留溶媒が11%で延伸する、あるいは175℃で残留溶媒が2%で延伸するのが好ましい。もしくは185℃で残留溶媒が11%で延伸するのが好ましく、あるいは185℃で残留溶媒が1%未満で延伸するのが好ましい。
【0263】
本発明のセルロースエステルフィルムの遅相軸または進相軸がフィルム面内に存在し、製膜方向とのなす角をθ1とするとθ1は45°±5°であることが好ましく、45°±3°であることがより好ましい。
【0264】
このθ1は配向角として定義でき、θ1の測定は、自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器)を用いて行うことができる。θ1が各々上記関係を満たすことは、表示画像において高い輝度を得ること、光漏れを抑制または防止することに寄与でき、カラー液晶表示装置においては忠実な色再現を得ることに寄与できる。
【0265】
〈乾燥工程〉
フィルム乾燥工程では一般にロール乾燥方式(上下に配置した多数のロールにウェブを交互に通し乾燥させる方式)やテンター方式でウェブを搬送させながら乾燥する方式が採られる。
【0266】
乾燥させる手段は特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行うことができるが、簡便さの点で熱風で行うことが好ましい。
【0267】
乾燥工程における乾燥温度は40〜200℃で段階的に高くしていくことが好ましい。
【0268】
セルロースエステルフィルムの膜厚は、特に限定はされないが10〜200μmが用いられる。特に膜厚は10〜100μmであることが特に好ましい。更に好ましくは20〜60μmである。
【0269】
本発明のセルロースエステルフィルムは、幅1〜4mのものが用いられる。特に幅1.4〜4mのものが好ましく用いられ、特に好ましくは1.6〜3mである。4mを超えると搬送が困難となる。
【0270】
<溶融流延法>
本発明のセルロースエステルは、通常パウダー状で入手される。本発明のセルロースエステルフィルムの製造方法においては、パウダー状セルロースエステルを用いてもよいが、パウダーをペレット状に成形して使用することが取り扱いの観点から好ましい。
【0271】
パウダーをペレット状に成形する際には、公知の単軸押出機や2軸押出機を用いることができる。例えばパウダー状セルロースエステルを押出機のホッパーより投入し、セルロースエステルの(Tg+100)℃程度の温度で溶融混練してダイスからストランド状物を押出し、該ストランド状物を水冷などの方法により冷却した後、ペレタイザーにて切断し、ペレットを得ることができる。
【0272】
パウダー状セルロースエステルをホッパーに投入する際に、必要に応じてフェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤などの各種酸化防止剤や、高級脂肪酸アミドや高級脂肪残金属塩などの滑剤などを添加してペレット化してもよい。
【0273】
パウダーは予めTg付近の温度で乾燥することが好ましい。またペレット状に成形する際にはベント付きの押出機を用いて押出機中を吸引しながら成形することが好ましい。
【0274】
セルロースエステルからなるペレットは、Tg付近の温度で十分乾燥して用いることが好ましい。乾燥時に重合体が酸化されて劣化することを抑制するためには、窒素下で乾燥することが望ましい。
【0275】
セルロースエステルは、単軸または2軸押出機中で溶融混練されて流延ダイよりシート状に押出される。通常押出機の温度は、樹脂温度が(Tg+100)℃〜(Tg+200)℃の範囲となるように設定される。
【0276】
また、押出機内でのセルロースエステルの劣化を抑制するために押出機ホッパー部分を窒素シールしたり、フィッシュアイなどの異物の発生を抑制するためにリーフディスクフィルターを使用したり、押出変動を抑制するためにギアポンプを用いてもよい。
【0277】
流延ダイは先端部がシャープエッジ(曲率半径R=0.1μm以下)に加工された形状のものを用いることが、メヤニ発生を抑制する観点から好ましい。
【0278】
流延ダイからシート状に押し出された溶融状セルロースエステルは、本発明の回転支持体である冷却キャスティングロールと、該キャスティングロールにその周方向に沿って圧接するよう設けられた本発明に係る挟圧回転体である金属製の弾性タッチロールまたは無端ベルトとによりニップが形成され、そのニップ部にシート状の溶融状セルロースエステルを通過させることにより、前記キャスティングロールと弾性タッチロールまたは無端ベルトとで挟圧され所望の表面形状、厚みおよび光学性能を有するセルロースエステルフィルムが形成される。
【0279】
本発明の弾性タッチロールとしては、特開平03−124425号、特開平08−224772号、特開平07−100960号、特開平10−272676号、WO97−028950、特開平11−235747号、特開2002−36332号、特開2005−172940号や特開2005−280217号に記載されているような表面が薄膜金属スリーブ被覆シリコンゴムロールを使用することができるが、弾性を有するタッチロールであることが好ましい。
【0280】
本発明の無端ベルトとは、前記キャスティングロールの周方向に該キャスティングロールと平行に配置された複数のロールによって保持されてなる可撓性の金属スリーブベルトであり、その厚みは100〜1500μmであることが好ましい。
【0281】
無端ベルトの厚みが薄すぎるとベルトの強度が弱く、溶融状セルロースエステルを挟圧する際にベルトが変形するおそれがある。無端ベルトの厚みが厚すぎると、溶融状セルロースエステルを挟圧する圧力が強くなりすぎて、バンクが形成されてしまうことがある。
【0282】
無端ベルトは、直径100〜300mmの二本以上のロールで保持されてなることが好ましい。前記のようなロールで無端ベルトを保持することにより、安定した圧力で溶融状セルロースエステルを挟圧することができる。
【0283】
また無端ベルトの表面温度は50℃以上(Tg−5)℃以下であることが、剥離故障の観点から好ましい。
【0284】
本発明の製造装置において、流延ダイのリップから押し出された溶融状セルロースエステルが弾性タッチロール無端ベルトまたはキャスティングロールに接触するまでの長さ(エアーギャップ)は30〜300mmであり、好ましくは70〜200mmである。
【0285】
このような条件で製造することにより、無配向で光学的に均一なフィルムを得ることができる。エアーギャップは、流延ダイのリップから、溶融状セルロースエステルが無端ベルトまたはキャスティングロールのいずれかと接触するまでの最も短い長さである。
【0286】
例えば溶融状セルロースエステルが無端ベルトと先に接触する場合には、流延ダイリップから、無端ベルトと溶融状セルロースエステルとが接触を開始した地点までの最も短い長さである。
【0287】
溶融状セルロースエステルがキャスティングロールと先に接触する場合のエアーギャップも同様にして求められる。エアーギャップは、無端ベルトおよびキャスティングロールの大きさ、流延ダイ先端部の形状、キャスティングロール、無端ベルトおよび流延ダイの位置関係によりその値を決めることができる。
【0288】
エアーギャップを150mm以下とするためには、200〜400mmφのキャスティングロールを用いることが好ましい。キャスティングロールの表面は、平滑性の高い鏡面仕上げであることが好ましい。
【0289】
キャスティングロールの表面温度の下限値は、波状の皺の発生を抑制および剥離の観点から、弾性タッチロールまたは無端ベルトの表面温度以上であって、かつ50℃以上であることが好ましく、上限値は(Tg−5)℃以下であることが好ましい。
【0290】
また本発明の製造方法において、キャスティングロールと弾性タッチロールまたは無端ベルトとの間で溶融状セルロースエステルを挟圧する距離は、ダイラインなどの外観不良を改良する効果の点から50〜150mmであり、好ましくは70〜130mmである。
【0291】
弾性タッチロールまたは無端ベルトとキャスティングロールにより挟圧されて冷却固化されたセルロースエステルフィルムは、更に少なくとも1方向に1.01〜5.0倍延伸することが好ましい。延伸によりスジの鋭さが緩やかになり高度に矯正することができるのである。
【0292】
延伸装置は、溶液流延法と同様のものを使用することが好ましい。
【0293】
その後引取機にて引き取られ、フィルムの端部をスリットして取り除いた後巻取り機にてロール状に巻き取られる。
【0294】
引取機のニップロールを利用して、保護フィルムを貼合することもできる。保護フィルムとしては市販のエチレン−酢酸ビニル共重合体からなるフィルムなどが使用することができ、セルロースエステルフィルムの片面、または両面に貼合することができる。
【0295】
本発明で得られるセルロースエステルからなるフィルムは、多層フィルムであってもよい。多層フィルムである場合、セルロースエステルからなる層を一層以上有していればよい。
【0296】
本発明で得られるフィルムを光学製品に用いる場合には、全ての層がセルロースエステルからなる多層フィルムであることが好ましい。本発明によって多層フィルムを製造する場合には、マルチマニホールド式の流延ダイやフィードブロック式の流延ダイを用いることができる。各層の厚みを正確に制御しやすいため、マルチマニホールド方式の流延ダイを用いることが好ましい。
<セルロースエステルフィルムの物性>
本発明のセルロースエステルフィルムの透湿度は、40℃、90%RHで10〜1200g/m2・24hが好ましく、更に20〜1000g/m2・24hが好ましく、20〜850g/m2・24hが特に好ましい。透湿度はJIS Z 0208に記載の方法に従い測定することができる。
【0297】
本発明に係るセルロースエステルフィルムは破断伸度は10〜80%であることが好ましく20〜50%であることが更に好ましい。
【0298】
本発明に係るセルロースエステルフィルムの可視光透過率は90%以上であることが好ましく、93%以上であることが更に好ましい。
【0299】
また、本発明のセルロースエステルフィルムにさらに液晶層を塗布することにより、さらに広い範囲にわたるレターデーション値を得ることが出来る。
<垂直配向液晶層>
本発明の位相差フィルムは、フィルムの上にフィルムの厚み方向に配向する液晶分子を塗布し固定化した層(垂直配向液晶層)を有することができる。
【0300】
この垂直配向液晶層は、位相差フィルムの位相差をさらに調整する際に設けることが好ましい。
【0301】
本発明の垂直配向液晶層は、液晶材料もしくは液晶の溶液を、本発明の基材であるロール状のセルロースエステルフィルム上に塗布し、乾燥と熱処理(配向処理ともいう)を行い紫外線硬化もしくは熱重合などで液晶配向の固定化を行い、垂直方向に配向した棒状液晶によるロール状の位相差フィルムとし、適宜裁断して使用することが好ましい。
【0302】
ここで垂直方向に配向するとは、棒状液晶分子がフィルム面に対して70〜90°(厳密亜な垂直方向を90°とする)の範囲内に配向していることをいう。棒状液晶は、斜め配向しても、配向角を徐々に変化していてもよい。好ましくは80〜90°の範囲である。
【0303】
本発明の垂直配向液晶層は面内方向の位相差値Roが0〜10nm、厚み方向の位相差値Rtが−50〜−400nmの範囲にある垂直方向に配向した棒状液晶による位相差フィルムであることが好ましい。更にRoは0〜5nmの範囲がより好ましい。
【0304】
ここでRtは下記式で定義される。
【0305】
Rt={(nx+ny)/2−nz}×d
(式中、nxは、位相差フィルム面内の遅相軸方向の屈折率(面内の最大屈折率)であり、nyは、位相差フィルム面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率であり、nzはフィルムの厚み方向の屈折率であり、dは位相差フィルムの厚み(nm)である。)
位相差値の測定には自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測器(株)製)等を用いることができる。
【0306】
垂直配向液晶層のRtは、基材フィルムのRtを相殺するような設定にして、円偏光フィルムの視角特性をよくする意図があり、従って、基材フィルムのRtに応じて垂直配向液晶層の塗布条件(液晶分子の種類、塗布液中の液晶分子濃度、乾燥後の膜厚など)を適切に選択することが重要である。例えば、基材フィルムのRtが互いに異なるものを用いて、同一液晶分子、同一塗布液条件で垂直配向液晶層を形成する場合は、円偏光フィルムとしていずれも優れた視角特性を与えるには、基材フィルムのRtの値に応じて、垂直配向液晶層の厚みを変えることで目的は達成できる。
【0307】
棒状液晶を配向させて棒状液晶層を形成する際には、いわゆる液晶材料が垂直方向に配列するような垂直配向剤を塗布した配向膜を用い、液晶材料を垂直配向したのち固定する方法をとることができる。
【0308】
液晶材料自身が空気界面で垂直方向に配向する場合には、その配向規制力が空気界面と反対の界面まで及び、該配向膜は特に必要ではなく、構成が簡素化できる観点からもその方が好ましい。
【0309】
液晶材料を垂直に配向する具体的な方法としては、特開2005−148473号公報などに記載されている(メタ)アクリル系ブロックポリマーを含有するブロックポリマー組成物の架橋体からなる配向膜等を用いる方法、同2005−265889号公報に記載されている垂直配向膜を使用する方法、空気界面垂直配向剤を使用する方法等公知の方法を使用することができる。
【0310】
棒状液晶層を上記範囲とするためには、棒状液晶層の配向、膜厚制御、紫外線硬化時の温度、チルト角制御、および支持体と空気界面でのプレチルト角の制御を行うことが好ましい。
【0311】
前記液晶層は、所定の温度で液晶相となり得る液晶材料が、所定の液晶規則性を有して硬化することにより形成されたものである。液晶相を示す温度の上限は、例えば基材のセルロースエステルフィルムがダメージを受けない温度であれば特に限定されるものはない。
【0312】
具体的には、プロセス温度のコントロールの容易性と寸法精度維持の観点から120℃以下が好ましく、より好ましくは100℃以下の温度で液晶相となる液晶材料が好適に用いられる。一方、液晶相を示す温度の下限は、偏光板として用いる際に、液晶材料が配向状態を保持し得る温度であるといえる。
【0313】
本発明の棒状液晶層に用いられる液晶材料としては、重合性液晶材料を用いることが好ましい。重合性液晶材料は、所定の活性放射線を照射することにより重合させて用いることができ、重合させた状態では垂直の配向状態は固定化される。
【0314】
重合性液晶材料としては、重合性液晶モノマー、重合性液晶オリゴマー、もしくは重合性液晶ポリマーのいずれかを用いることができ、相互に混合して用いることもできる。
【0315】
重合性液晶材料としては、上記のうちでも、配向に際しての感度が高く垂直に配向させることが容易であることから重合性液晶モノマーが好適に用いられる。
【0316】
例えば、重合性棒状液晶性化合物としては、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4683327号明細書、同5622648号明細書、同5770107号明細書、国際公開WO95/22586号公報、同95/24455号公報、同97/00600号公報、同98/23580号公報、同98/52905号公報、特開平1−272551号公報、同6−16616号公報、同7−110469号公報、同11−80081号公報、特開2001−328973号公報、特開2004−240188号公報、特開2005−99236号公報、特開2005−99237号公報、特開2005−121827号公報、特開2002−30042号公報などに記載の化合物を用いることができる。
【0317】
市販の化合物としてはUCL−018(大日本インキ化学工業(株)製)、パリオカラーLC242(BASF(株)製)等を使用することができる。
【0318】
本発明の垂直配向液晶層は、公知の方法を使用して作製することができる。
【0319】
〈直線偏光フィルム〉
直線偏光フィルムとしては、吸収型の直線偏光フィルムである限りにおいて限定されるものではなく、公知の種々の形態のものを適用可能である。一般的には、ポリビニルアルコールのような親水性高分子からなるフィルムを、ヨウ素のような二色性染料で処理して延伸したものや、ポリ塩化ビニルのようなプラスチックフィルムを処理してポリエンを配向させたもの等からなる偏光フィルムの他、当該偏光フィルムを封止フィルムでカバーして保護したもの等が用いられる。
【0320】
〈円偏光フィルムの構成〉
本発明の円偏光フィルムの断面構成を図で示す。図7〜図9は、本発明の実施態様の概略図であるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0321】
図5は、通常の偏光板(TAC(セルローストリアセテート)/偏光子/TACの構成を有する)に、本発明の垂直配向液晶層を有する位相差フィルムの片面を、粘着剤または接着剤を用いて貼り合せた円偏光板である。この場合、偏光板は市販の偏光板をそのまま使用することができる。
【0322】
図6は、本発明の垂直配向液晶層を塗設した位相差フィルム(λ/4)1枚と、従来の斜め延伸のみによって形成された位相差フィルム(λ/2)1枚と、通常の直線偏光板とを図にあるような軸角度で貼合した円偏光板である。
【0323】
図7は、本発明の位相差フィルムを片側の偏光板保護フィルムとして、もう一つ別の偏光板保護フィルムとともに直線偏光子フィルムを挟む形で積層、貼合した円偏光板である。この際、本発明の位相差フィルムの貼合面は、垂直配向液晶層を設けた面と反対の面である。
【0324】
〈有機EL素子の構成〉
図8は、本発明の円偏光素子を有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子に使用した場合の、好ましい実施態様の概略図である。
【0325】
図8に示すように、本実施形態に係るEL素子300は、吸収型直線偏光板301と、本発明の位相差フィルム302との積層体である本発明の円偏光フィルム、から切り出した本発明の円偏光板303を具備している。
【0326】
吸収型直線偏光板301を透過した直線偏光は、位相差フィルム302によって円偏光に変換されることになる。
【0327】
また、EL素子300は、円偏光板303に対向配置された透明基板304と、透明基板304上に形成された陽極305と、陽極305に対向配置された陰極306と、陽極305及び陰極306の間に配置された発光層307とを備えている。
【0328】
このような構成を有するEL素子300において、陰極306から電子を、陽極305から正孔を注入し、両者が発光層307で再結合することにより、発光層307の発光特性に対応した可視光線の発光が生じる。発光層307で生じた光は、直接又は陰極306で反射した後、陽極305、透明基板304、本発明の円偏光板303を介して外部に取り出されることになる。
【0329】
一方、室内照明等によりEL素子300の外部から入射した外光I1(吸収型直線偏光板301の面に垂直な方向から入射した外光)は、吸収型直線偏光板301によって半分は吸収され、残りの半分は直線偏光として透過し、位相差フィルム302に入射する。
【0330】
位相差フィルム302に入射した光は、前述のように、吸収型直線偏光板301と位相差フィルム302との光軸が45度又は135度で交差するように配置されているため、円偏光板303を透過することにより円偏光に変換される。
【0331】
円偏光板303を出射した円偏光は、陰極306で鏡面反射する際に、位相が180度反転し、逆廻りの円偏光として反射される。
【0332】
当該反射光R1は、再度円偏光板303に入射することにより、吸収型直線偏光板301の吸収軸(光軸に直交する軸)に平行な直線偏光に変換されるため、吸収型直線偏光板301で全て吸収され、外部に出射されないことになる。
【0333】
本発明の円偏光板は、ボトムエミッション方式だけでなく、トップエミッション方式に対しても使用することが可能である。
【実施例】
【0334】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
〈ロール状の位相差フィルム−1の作製〉
ロール状の位相差フィルム−1を溶液流延法により下記の通り作製した。
【0335】
〈微粒子分散液〉
微粒子 11質量部
エタノール 89質量部
以上をディゾルバーで50分間攪拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行った。
【0336】
〈微粒子添加液〉
メチレンクロライド 99質量部
セルロースエステルA 4質量部
微粒子分散液 11質量部
メチレンクロライドを入れた溶解タンクにセルロースエステルAを添加し、加熱して完全に溶解させた後、これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過した。
【0337】
濾過後のセルロースエステル溶液を充分に攪拌しながら、ここに微粒子分散液をゆっくりと添加した。更に、二次粒子の粒径が所定の大きさとなるようにアトライターにて分散を行った。これを日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し、上記組成の微粒子添加液を調製した。
【0338】
下記組成の主ドープ液を調製した。まず加圧溶解タンクにメチレンクロライドとエタノールを添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクにセルロースエステルAを攪拌しながら投入した。これを加熱し、攪拌しながら、完全に溶解し、更に可塑剤及び紫外線吸収剤を添加、溶解させた。これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、主ドープ液を調製した。使用した素材は、表1に示す。
【0339】
【表1】

【0340】
〈主ドープ液の組成〉
メチレンクロライド 300質量部
エタノール 57質量部
セルロースエステルA 100質量部
本発明のアクリル系重合体 表2記載
本発明の糖エステル化合物 表2記載
可塑剤(A)、(B)、(C) 1:1:1の質量比 0.5質量部
トリメチロールプロパントリス(3,4,5−トリメトキシベンゾエート)
5.5質量部
主ドープ液100質量部と微粒子添加液2質量部となるように加えて、インラインミキサー(東レ静止型管内混合機 Hi−Mixer、SWJ)で十分に混合し、次いでベルト流延装置を用い、幅2mのステンレスバンド支持体に均一に流延した。
【0341】
ステンレスバンド支持体上で、残留溶媒量が110%になるまで溶媒を蒸発させ、ステンレスバンド支持体から剥離した。
【0342】
その後、特開2007−94007号公報の実施例1に記載の装置(延伸装置1)を用い、温度185℃、倍率1.5倍で遅相軸がフィルム幅方向と45°をなす様に斜め方向に行い、乾燥させてロール状の位相差フィルム−1を得た。
【0343】
〈ロール状の位相差フィルム−2の作製〉
前記ロール状の位相差フィルム−1の作製において、延伸装置を特開2003−340916号公報実施例1に記載の装置(延伸装置2)に変更し、温度185℃、倍率1.5倍で遅相軸がフィルム幅方向と45°をなす様に斜め方向に行った。
【0344】
〈ロール状の位相差フィルム−3の作製〉
前記ロール状の位相差フィルム−1の作製において、延伸装置を特開2007−30466号公報に記載の装置(延伸装置3)に変更し、温度185℃、倍率1.5倍で遅相軸がフィルム幅方向と45°をなす様に斜め方向に行った。
【0345】
〈ロール状の位相差フィルム−4、5の作製〉
前記ロール状の位相差フィルム−1の作製において、本発明のアクリル系重合体、糖エステル化合物を表2記載のように変更し作製した。
【0346】
〈ロール状の位相差フィルム−6の作製〉
前記ロール状の位相差フィルム−1の作製において、本発明のアクリル系重合体、糖エステル化合物の代わりに可塑剤(A)、(B)、(C)の総量を5.5質量部に変更し作製した。
【0347】
得られたロール状の位相差フィルムを一部切り出し、ヘイズ、散乱光強度の評価を行った。結果を表2に示す。
【0348】
《レターデーションRo、Rtの測定》
得られたフィルムから試料35mm×35mmを切り出し、25℃,55%RHで2時間調湿し、自動複屈折計(KOBRA21DH、王子計測(株))で、590nmにおける垂直方向から測定した値とフィルム面を傾けながら同様に測定したレターデーション値の外挿値より算出した。
【0349】
《ヘイズ》
ヘイズメーター1001DP型、日本電色工業(株)製を使用してJIS K−6714に準じて測定した。
【0350】
《散乱光強度》
ゴニオフォトメーター型式:GP−1−3D、オプテック(株)製(光源は、12V50Wハロゲン球、受光部は、光電子増倍管(フォトマル 浜松フォトニクス R636−10))を用いて測定した。
【0351】
なお、測定時の光量は、θ=180°での光量にて補正し(フォトマル受光感度:−185V)、この光量での測定値を散乱光強度とした。
【0352】
試料は、フィルムの遅相軸を水平、垂直に試料台に固定してそれぞれ測定した。
【0353】
【表2】

【0354】
実施例2
〈ロール状の位相差フィルム−7の作製〉
ロール状の位相差フィルム−7を溶融流延法により図9に記載の装置を使用し下記の通り作製した。
【0355】
(ペレット作製)
セルロースエステルB 100質量部
本発明のアクリル系重合体 表3記載
本発明の糖エステル化合物 表3記載
(温度130℃で5時間乾燥、ガラス転移点:Tg=174℃)
トリメチロールプロパントリス(3,4,5−トリメトキシベンゾエート)
1質量部
IRGANOX−1010(チバスペシャルティケミカルズ社製) 1質量部
SumilizerGP(住友化学(株)製) 0.5質量部
上記材料に、シリカ粒子(平均粒径0.1μm)0.05質量部を加え、窒素ガスを封入したV型混合機で30分混合した後、ストランドダイを取り付けた2軸押出し機(PCM30(株)池貝社製)を用いて240℃で溶融させ、長さ4mm、直径3mmの円筒形のペレットを作製した。このとき、せん断速度は、25(mm/s)に設定した。
【0356】
得られたペレットを100度5時間乾燥させ、含水率100ppmとし、幅300mmのTダイを取り付けた単軸押出し機(GT−50;(株)プラスチック工学研究所社製)に供給して押出し機およびTダイを250℃に設定して製膜を行った。
【0357】
Tダイ表面にはハードクロムメッキを施し面粗度0.1Sの鏡面仕上げを行った。Tダイから出たフィルムは110℃に温度調整したクロムメッキ鏡面の第1冷却ロールに落下させた。
【0358】
第1冷却ロールに密着したフィルムは、第1冷却ロールの円周部分を中心角10°搬送された後、弾性タッチロールで押圧した。このとき、フィルムの幅手250mmの全面に対し、4N/mmの圧力で接触した。
【0359】
押圧されたフィルムは第1冷却ロール5中心角150°の円周部分で接触した後、さらに、第2冷却ロール(温度110℃)、第3冷却ロール(温度80℃)の合計3本の冷却ロールに順に外接させて、冷却固化してフィルムとし、剥離ロールによって剥離した。
【0360】
その後、延伸装置1を用い、温度170℃、倍率1.25倍で遅相軸がフィルム幅方向と45°をなす様に斜め方向に行い、乾燥させてロール状の位相差フィルム−7を得た。
【0361】
本発明のアクリル系重合体および糖エステル化合物を表3に記載のように変更して同様の位相差フィルム−8〜19を作製した。
【0362】
位相差フィルム−12ではセルロースエステルCを、位相差フィルム−15ではセルロースエステルDを位相差フィルム−7と同量使用した。
【0363】
位相差フィルムー17では、本発明のアクリル系重合体、糖エステル化合物の代わりに、トリメチロールプロパントリス(3,4,5−トリメトキシベンゾエート)を5質量部使用した。
【0364】
得られたロール状の位相差フィルムを一部切り出し、ヘイズ、散乱光強度の評価を行った。結果を表3に示す。
【0365】
【表3】

【0366】
本発明の試料は、ヘイズと散乱光強度差が小さく良好である。
実施例3
前記ロール状の位相差フィルムを用いて円偏光板を作製した。
【0367】
(円偏光板の作製)
実施例1および2の試料−1〜19の一方の面に下記垂直配向液晶化合物を含有する塗布液D−1を塗布し、温風を当てて乾燥後、UV照射して層全体を硬化させた。垂直配向液晶層の厚みはRt=0±3nmとなるよう各々調整した。
【0368】
垂直配向液晶化合物:大日本インキ化学工業株式会社製UCL−018
16質量部
メチルエチルケトン 16.8質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 67.2質量部
次に、厚さ120μmのポリビニルアルコールの長尺フィルムを、MD方向に一軸延伸(温度110℃、延伸倍率5倍)した。これをヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g、水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し、次いでヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、水100gからなる68℃の水溶液に浸漬した。これを水洗、乾燥しロール状の偏光子を得た。
【0369】
次いで、下記工程1〜5に従って前記偏光子と、実施例1、2に記載のロール状の位相差フィルム−1〜19と、裏面側にはロール状のコニカミノルタタックKC4UY(コニカミノルタオプト(株)製)を偏光板保護フィルムとして長尺方向で貼り合わせ、円偏光板1〜19を作製した。
【0370】
工程1:60℃の2モル/Lの水酸化ナトリウム溶液に90秒間浸漬し、次いで水洗し乾燥して、偏光子と貼合する側(垂直配向液晶層を塗布していない方の面)を鹸化した位相差フィルムを得た。
【0371】
工程2:前記偏光子を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1〜2秒浸漬した。
【0372】
工程3:工程2で偏光子に付着した過剰の接着剤を軽く拭き除き、これを工程1で処理したセルロースエステルフィルムの上にのせて配置した。
【0373】
工程4:工程3で積層した位相差フィルムと偏光子と裏面側セルロースエステルフィルムを圧力20〜30N/cm2、搬送スピードは約2m/分で貼合した。
【0374】
工程5:80℃の乾燥機中に工程4で作製した偏光子と位相差フィルムと裏面側セルロースエステルフィルムとを貼り合わせた試料を2分間乾燥し、円偏光板−1〜19を作製した。
【0375】
また、比較試料として特開2007−94007号公報実施例1に記載の延伸フィルム(A)を作製し、同様に垂直配向液晶層を塗設した円偏光板−20を作製した。延伸フィルム(A)は、ウレタン系接着剤を使用し偏光子と貼り合わせた。
【0376】
(有機EL素子の作製)
特開2003−332068号公報に記載の方法に準じて、有機EL素子を作製した。
【0377】
ガラス基板の片面に、ITOセラミックターゲット(In23:SnO2=90質量%:10質量%)から、DCスバッタリング法を用いて、厚み120nmのITO透明膜からなる陽極を形成した。その後、超音波洗浄を行った後、紫外線オゾン方式で洗浄した。
【0378】
次に、ITO面上に、抵抗加熱式真空蒸着装置内のモリブデン製ボートに配置したN,N’−ジフェニルーN,N’−ビス−(3−メチルフェニル)−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジアミン(TPD)と、別のモリブデン製加工ボートに配置したトリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)を介して、真空チャンバー内を1×10-4Paの減圧状態としてTPDを220℃に加熱し、厚み60nmのTPD膜からなる正孔輸送層を形成後、その上にAlqを275℃に加熱して厚み60nmのAlq膜を形成した。
【0379】
ついで、更にその上にモリブデン製ボートに配置したマグネシウムと、別のモリブデン製加工ボートに配置した銀とを介して、真空チャンバー内を2×10-4Paの減圧状態として2元同時蒸着方式により、Mg・Ag合金(Mg/Ag=9/1)からなる厚み100nmの陰極を形成して、緑色(主波長513nm)に発光する有機EL素子1を作成した。
【0380】
作成した有機EL素子の発光面積は2cm×3cmであった。また、この有機EL素子1に6Vの直流電圧を印加した際の正面輝度は1200cd/m2であった。
【0381】
有機EL素子のガラス基板に、本発明の円偏光板1〜20をアクリル系粘着剤を介して貼付け試料とした。
【0382】
なお、円偏光板は、有機EL素子1のガラス基板と直線偏光板の間に本発明の位相差フィルムが位置するように貼り合わせた。
【0383】
《外光反射防止効果である黒味の角度依存性評価》
円偏光板を貼り合わせた有機EL素子を23℃55%RHの部屋に48時間保存(状態1)後、電圧を印加せず、発光していない状態にして、照度約100lxの環境下に置き、正面と斜め45度の方向から反射色の黒味レベルを視感評価し、その差を比較した。
【0384】
なお、比較結果は、以下の状態の何れに該当するかによって評価した。
【0385】
◎:正面と斜視で外光反射の違いが見られない状態
○:正面と斜視で僅かに外光反射の違いが見られるが、気にならない状態
△:正面と斜視で外光反射の違いが異なり気になる状態
×:正面と斜視で外光反射の違いが異なり極めて気になる状態
【0386】
【表4】

【0387】
表4から、本発明の試料は外光反射の黒味が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0388】
【図1】ゴニオフォトメーターの概略図である。
【図2】本発明の延伸装置の一つの概略図である(延伸装置3)。
【図3】本発明の延伸装置の一つの概略図である(延伸装置2)。
【図4】本発明の延伸装置の一つの概略図である(延伸装置1)。
【図5】本発明の円偏光板の実施態様の一つである。
【図6】本発明の円偏光板の実施態様の一つである。
【図7】本発明の円偏光板の実施態様の一つである。
【図8】本発明の有機EL素子の実施態様の概略図である。
【図9】本発明の溶融流延製膜装置の概略図である。
【符号の説明】
【0389】
G1 光源ランプ
G2 分光器
G3 試料台(ステージ)
G5 受光部分
G6 サンプル押さえバネ
G7 角度割り出し回転テーブル
θ 光源の法線方向と、サンプルの観察点と積分球とを結ぶ方向とがなす角
1 延伸装置
2 フィルム
3 フィルム供給装置
4 縦延伸装置
5 中間搬送装置
6 縦延伸工程
7 斜方延伸装置
8 斜方延伸加熱装置
9 斜方延伸工程
10 巻き取り装置
11 原反リール
12 基準ロール
13 ニップロール
14 熱風ダクト
15 比率ロール
16 ニップロール
17 延伸チェイン
18 熱風ダクト
19 テンションロール
20 巻き取り装置
E1 搬送方向(製膜方向)と平行な方向
E2 搬送方向(製膜方向)に対して角度αだけ傾斜した方向
101 フィルム
102 予熱ゾーン
103 加熱延伸ゾーン
104 冷却ゾーン
105 延伸フィルム
106,107 スクリュー
161,171 フライト
108,181 クリップ
109,191 ベルト
A 搬送方向(製膜方向)
31 フィルム
32 チェイン
33 クリップ
300 有機EL素子
301 吸収型直線偏光子
302 本発明の位相差フィルム
303 本発明の円偏光素子
304 透明基板
305 陽極
306 陰極
307 発光層
I1 垂直入射外光
I2 斜め入射外光
401 押し出し機
402 フィルター
403 スタチックミキサー
404 ダイ(厚み調整手段含む)
405 タッチロール
406 第1冷却ロール
407 第2冷却ロール
408 剥離ロール
409 ダンサーロール
410 延伸機
411 スリッター
412 厚み測定手段
413 エンボスリング及びバックロール
414 巻き取り機
415 巻き取られたフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺方向に対して遅相軸が45±5°をなし、かつゴニオフォトメーターの散乱光プロファイルの入射光90°のフィルムの散乱光強度測定であって、光源から130°の位置における散乱光強度を検出する測定をする場合において、フィルム遅相軸を水平に試料台へ設置した場合と垂直に設置した場合の散乱光強度差が、0.05以下であることを特徴とするロール状の位相差フィルム。
【請求項2】
前記位相差フィルムが、アクリル系重合体、およびピラノース構造またはフラノース構造の少なくとも1種を1個以上12個以下有しその構造のOH基のすべてもしくは一部をエステル化したエステル化合物を、少なくとも一種含有するセルロースエステルフィルムであることを特徴とする請求項1記載のロール状の位相差フィルム。
【請求項3】
偏光子と前記請求項1または2に記載の位相差フィルムを有することを特徴とする円偏光板。
【請求項4】
請求項1または2に記載のロール状の位相差フィルムの製造方法であって、長尺方向に対して傾斜方向に延伸し、または収縮を規制する工程を有することを特徴とするロール状の位相差フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−139812(P2009−139812A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318215(P2007−318215)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】