説明

ワイヤソー用ワイヤ

【課題】ワイヤソー用ワイヤの強度等は維持しつつ、そのコストの低廉化を図る。
【解決手段】0.68〜0.75質量%のCと、0.10〜0.50質量%のSiと、0.30〜0.90質量%のMnと、0.025質量%以下のPと、0.025質量%以下のSと、0.2質量%以下のCuと、を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる線材をパテンティング処理および伸線処理することで、線径が0.16mm以下であり、引張強さが3300〜3800MPaであるワイヤソー用ワイヤを得る。従来の高炭素ワイヤに比べて炭素量が少ないため、原材料コストを抑えられる。炭素量が少なく加工性が向上しているため、伸線工程での断線が少なく歩留まりが向上するとともに、仕上げ伸線前のパテンティング処理を太径で長さの短い状態でおこなえるため、処理コストも抑えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンインゴット等の硬質材料を切断するのに好適な切断装置としてのワイヤソーに用いられるワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンインゴットからシリコンウェハを切り出す作業など、硬質材料の切断作業に用いられる切断装置として、ワイヤソーが知られている。
ワイヤソーは、複数のロール間に多数のワイヤソー用ワイヤを巻き回し、そのロールの回転によりワイヤを高速で走行させ、その走行するワイヤに砥粒を供給しつつシリコンインゴットなどの被切断材料を押し付けることで、切断加工をおこなうしくみとなっている。
【0003】
上述のように、走行するワイヤに被切断材料を押し付けて切断することから、被切断材料の削り代の大きさはワイヤの径の大きさに依存することになる。
そのため、ワイヤを細径化するほど、切断時の歩留まりが向上することになる。このことから、ワイヤ細径化の要請が存在する。
【0004】
また、ワイヤに高い張力を加えるほど、ワイヤの振動が抑えられて被切断材料の切断面に凹凸ができにくくなり、切断面の面精度が向上する。このことから、ワイヤ高張力化の要請も存在する。
【0005】
その一方で、ワイヤを細径化するほどその強度が低下して断線の危険性が増す。そのうえに、ワイヤに高い張力を加えるとなると、さらに断線の危険性が増すことになる。
【0006】
したがって従来は、特許文献1および2に開示されているように、ワイヤソー用ワイヤとして、細径化および高張力化に耐えうる高強度を有する、炭素含有量が0.80質量%以上の高炭素ワイヤを用いるのが一般的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−225257号公報
【特許文献2】特開平7−136923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、高炭素ワイヤの原材料となる高炭素線材は高価であるため、ワイヤソー用ワイヤの原材料コストが嵩む問題がある。
【0009】
また高炭素線材は加工性が悪いため、ワイヤへの最終伸線工程前に既に相当に細径化がなされていなければならないが、伸線工程前のパテンティング処理を相当程度細径化された線材におこなうとなると、その長さが大きいため処理コスト(製造コスト)も嵩むことになる。
【0010】
さらに高炭素線材は加工性が悪いため、ワイヤへの伸線工程時に断線することが多く歩留まりが悪い。そのため、歩留まりの観点からも製造コストが嵩む問題がある。
【0011】
そこで本発明の解決すべき課題は、ワイヤソー用ワイヤの強度等は維持しつつ、そのコストの低廉化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した課題を解決するため、本発明のワイヤソー用ワイヤを、0.68〜0.75質量%のC(炭素)と、0.10〜0.50質量%のSi(ケイ素)と、0.30〜0.90質量%のMn(マンガン)と、0.025質量%以下のP(リン)と、0.025質量%以下のS(硫黄)と、0.2質量%以下のCu(銅)と、を含有し、残部がFe(鉄)および不可避不純物からなる線材をパテンティング処理および伸線処理することで得られるものとしたのである。
また本発明のワイヤソー用ワイヤを、線径が0.16mm以下であり、引張強さが3300〜3800MPaであるものとしたのである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のワイヤソー用ワイヤは、炭素含有量が従来の0.80質量%以上のワイヤに比べて少ないため、原材料コストの低減が実現できる。
【0014】
また、炭素含有量が少ないために加工性が向上しており、伸線工程前のパテンティング処理を従来よりも太径の状態、つまり長さの短い状態でおこなえるため、処理量を少なくでき、処理コストの低減も実現できる。
【0015】
同様に加工性が向上しているため、伸線工程での断線が少なく、歩留まりが向上し、製造コストの低減も実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ワイヤソー用ワイヤの製造工程の概略図
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1を参照して、実施形態のワイヤソー用ワイヤの製造工程の概略を説明する。伸線加工により、線材から実施形態のワイヤソー用ワイヤを製造する。
【0018】
まずS0で線径4.0〜6.0mmの線材を準備する。
この線材としては、0.68〜0.75質量%のCと、0.10〜0.50質量%のSiと、0.30〜0.90質量%のMnと、0.025質量%以下のPと、0.025質量%以下のSと、0.2質量%以下のCuと、を含有し、100質量%中のその残部がFeおよび不可避不純物からなるものを用いる。
従来のように、Cが0.80質量%以上含まれる線材からワイヤを製造する場合に比べて、炭素含有量が少ないため原材料コストが低廉である。
なお、この線材はあらかじめ酸洗等されることで適宜スケールが除去されているものとする。
【0019】
ここでCは、0.68質量%未満であるとワイヤが強度不足となり、0.75質量%を超えるとワイヤの靭性が低下しまた材料コストが嵩むため、以上の割合に限定している。ワイヤの強度と靭性の均衡上、0.68〜0.75質量%であればより好ましい。
また鋼材の溶解精錬時に脱酸剤として使用されるSiは、フェライト中に固溶して鋼の強度を向上させる効果があることから0.10質量%未満であるとワイヤが強度不足となり、0.50質量%を超えると靭性が低下するため、以上の割合に限定している。
同様に溶解精錬時の脱酸剤として使用されるMnは、0.30質量%未満であると脱酸剤に最低限必要な添加量を下回り、0.90質量%を超えるとパテンティング時にマルテンサイトが生成しやすくなり伸線時の断線が増えるため、以上の割合に限定している。
オ−ステナイト粒界、パ−ライトブロック粒界に不純物として偏析するPおよびSは、0.025質量%を超えるとワイヤの靭性が低下するため、以上の割合に限定している。
【0020】
つぎにS1で、この線材をたとえば乾式伸線機により、線径0.5〜1.5mmに一次伸線する。
さらにS2で、この伸線された線材を加熱および急速冷却してパテンティング処理をおこなう。
またS3で、このパテンティング処理された線材に、電気めっきによりCu(銅)、Zn(亜鉛)の順にめっき処理をしたうえで、拡散流動層炉で拡散処理することによりブラス(黄銅)めっきを施す。
線材の炭素含有量が少なく加工性が高いため、最終伸線前の線材の線径が0.5〜1.5mmと従来よりも太径でも構わない。したがってパテンティング処理およびめっき処理をする際の線材の長さを従来よりも短くすることができ、処理量を少なくすることができる。
【0021】
最後にS4で、このブラスめっきが施された線材をたとえば湿式伸線機により、線径0.16mm以下、好ましくは0.12〜0.15mmに仕上げ伸線(二次伸線)して、ワイヤソー用ワイヤが完成する。
線材の炭素含有量が少なく加工性が高いため、伸線工程でも断線がすくなく、歩留まりが向上している。
【0022】
ここで、仕上げ伸線加工における線材の減面率を調整することで、加工硬化の度合い等を調整可能である。
これにより、できあがったワイヤソー用ワイヤの引張強さが3300〜3800MPaとなり、その捻回試験における捻回値(ワイヤの両端をチャックでつかみ捻回させたときのワイヤが破断するまでの回数。ここでチャック間距離は、ワイヤの線径をDとしたとき100Dとする。)が25回以上となり、その伸びが2.0%以上になるように調整しておく。
【0023】
引張強さは、3300MPa未満であると上述した被切断材料の面精度向上の要請からワイヤに高い張力を負荷する場合にその張力に耐えられず、3800MPaを超えるとワイヤの靭性が低下して断線が生じやすくなるため、以上の範囲に限定している。
また捻回値は、25回未満であるとワイヤソーでの被切断材料の切断時にワイヤに生じるねじれ方向の張力に耐えられず断線が生じやすくなるため、以上の範囲に限定している。
さらに伸びは、2.0%未満であると、ワイヤソーでの切断時にはある程度の張力変動があると考えられ、その変動に耐えうるだけの靭性が確保できないため、以上の範囲に限定している。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例および比較例を挙げて、発明の内容を一層明確なものとする。
まず表1に示す組成を有する線径5.5mmの線材A〜Eを準備した。表中の各数値は、質量%を示す。また表1に示された以外の組成は、鉄と不可避不純物からなるものとする。
【0025】
【表1】

【0026】
つぎに実施形態で述べたように、線材A〜Eを、一次伸線加工、パテンティング処理、ブラスめっき処理、仕上げ伸線加工(二次伸線加工)して、線径0.15mmの実施例1〜6、比較例1〜5のワイヤを作製した。
ここで、最終伸線加工の減面率を調整し、まためっき線径を変化させることで、真歪等を調整した。
結果を表2に示す。表中の断線率は、比較例3を基準とした指数表示で表している。
表2のように、実施例のワイヤが比較例のワイヤよりも断線が少ないことがわかった。
【0027】
【表2】

【0028】
今回開示された実施形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は以上の実施形態と実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正と変形を含むものであることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.68〜0.75質量%のCと、0.10〜0.50質量%のSiと、0.30〜0.90質量%のMnと、0.025質量%以下のPと、0.025質量%以下のSと、0.2質量%以下のCuと、を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる線材をパテンティング処理および伸線処理することで得られる、
線径が0.16mm以下であり、
引張強さが3300〜3800MPaであるワイヤソー用ワイヤ。
【請求項2】
捻回試験における捻回値が25回以上である請求項1に記載のワイヤソー用ワイヤ。
【請求項3】
伸びが2.0%以上である請求項1または2に記載のワイヤソー用ワイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2013−865(P2013−865A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137160(P2011−137160)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(302061613)住友電工スチールワイヤー株式会社 (163)
【出願人】(504211429)栃木住友電工株式会社 (50)
【Fターム(参考)】