説明

ワイヤソー

【課題】張力調整装置や複数のガイドローラを設置する必要がなく、ワイヤソーを簡単かつ小型にすることができ、ガイドローラによりワイヤに捩れが生じるのを抑制することができるとともに、ガイドローラによるイナーシャの問題をなくし、ワイヤの断線率を低減することができるワイヤソーを提供する。
【解決手段】ワイヤ12を掛け渡す複数の加工ローラ11A,11Bと、加工ローラ11A,11B間にワイヤ12を供給する供給側のボビン13A,13Bと、使用済みワイヤ12を巻き取る巻き取り側のボビン13B,13Aとを備える。両ボビン13A,13Bを軸線方向に沿ってトラバース動作させるトラバース機構16と、加工ローラ11A,11Bと両ボビン13A,13Bとの間のワイヤ12の張力を検出するセンサ18と、そのセンサ18の検出に基づいて、ワイヤ12の張力を調整する方向に、ボビン13A,13Bを移動させる張力調整機構17とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば半導体材料、磁性材料、セラミックス等の脆性材料よりなるワークをワイヤにより切断するようにしたワイヤソーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のワイヤソーとしては、例えば特許文献1に開示されるような構成が提案されている。この従来構成においては、ワイヤが掛け渡される複数の加工ローラと、その加工ローラ間にワイヤを供給するための供給側のボビンと、加工ローラ間の使用済みワイヤを巻き取るための巻き取り側のボビンとを備えている。供給側のボビン及び巻き取り側のボビンには、それらのボビンを軸線方向に沿ってトラバース動作させるためのトラバース機構が設けられている。加工ローラと各ボビンとの間には、ワイヤの張力を調整するためのダンサローラ式の張力調整装置、及びワイヤの走行を案内するための複数のガイドローラがそれぞれ設けられている。そして、加工ローラ間でワイヤが周回走行されながら、そのワイヤ上に砥粒を含むスラリが供給される。この状態で、ワイヤに対してワークが押し付けられて、ワークがスライス状に切断加工される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4-135158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この従来構成においては、両ボビンをトラバース機構により軸線方向に沿ってトラバース動作させるようになっている。このため、両ボビンと対向する位置に、ボビンの軸線方向に沿ってトラバース動作可能なトラバースローラを含むトラバース機構を設ける必要がない。
【0005】
しかしながら、この従来構成においては、加工ローラと両ボビンとの間に、ワイヤの張力を調整する張力調整装置、及びワイヤの走行を案内する複数のガイドローラがそれぞれ設けられている。このため、部品点数が多くなって構造が複雑になるばかりでなく、加工ローラと両ボビンとの間に、張力調整装置及び複数のガイドローラを配置するためのスペースが必要になって、ワイヤソー全体が大型になるという問題があった。また、ワイヤが加工ローラと両ボビンとの間で、複数のガイドローラを介して走行方向の転換をともないながら案内走行されるため、ワイヤに捩れが生じやすく、イナーシャの問題が生じたり、ワイヤの断線率が高くなったりするという問題もあった。
【0006】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、張力調整装置や複数のガイドローラを配置するためのスペースを確保する必要がなく、ワイヤソー全体を小型にすることができ、ガイドローラによりワイヤに捩れが生じるのを抑制することができるとともに、ガイドローラによるイナーシャの問題やワイヤの断線率を低減することができるワイヤソーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明は、複数の加工ローラ間にワイヤを掛け渡すとともに、そのワイヤを加工ローラ間に供給するための供給側のボビン及び加工ローラ間の使用済みワイヤを巻き取るための巻き取り側のボビンを備えたワイヤソーにおいて、前記両ボビンをその軸線方向に沿ってトラバース動作させるトラバース手段と、前記加工ローラと両ボビンとの間のワイヤの張力を検出するための張力検出手段と、その張力検出手段の検出に基づいて、ワイヤの張力を調整する方向にボビンを移動させる張力調整手段とを備えたことを特徴としている。
【0008】
従って、この発明のワイヤソーにおいては、ボビンを軸線方向にトラバース動作させるトラバース手段と、ワイヤの張力を検出する張力調整手段とを一体型にした状態で各ボビンに付設することができる。よって、従来構成とは異なり、加工ローラと両ボビンとの間に、ダンサローラ式の張力調整装置や複数のガイドローラを設ける必要がなく、従って、それらを配置するためのスペースを確保する必要がなく、両ボビンを加工ローラに近接して配置することができて、ワイヤソーの構成を簡素化できるとともに、ワイヤソー全体を小型にすることができる。また、加工ローラと両ボビンとの間の複数のガイドローラを省略することができるため、ガイドローラによるワイヤの案内走行にともなって、ワイヤに捩れが生じるのを抑制することができるとともに、ガイドローラによるイナーシャの問題やワイヤの断線率を低減することができる。
【0009】
前記の構成において、前記張力検出手段は、ワイヤから発生される音波を感知して張力を検出するように構成するとよい。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、この発明によれば、ワイヤソーの構成を簡素化できるとともに、小型にすることができ、しかも、ワイヤに捩れが生じるのを抑制することができるとともに、ガイドローラによるイナーシャの問題や、ワイヤの断線率を低減することができるという効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】一実施形態のワイヤソーを示す正面図。
【図2】図1のワイヤソーの平面図。
【図3】図1の3−3線における断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、この発明を具体化したワイヤソーの一実施形態を図面に従って説明する。
図1及び図2に示すように、この実施形態のワイヤソーにおいては、図示しないフレーム上に複数(実施形態では一対)の加工ローラ11A,11Bが水平面内において間隔を設けて平行に延びる軸線を中心に回転可能に支持されている。両加工ローラ11A,11Bの外周面には複数の環状溝11aが所定のピッチで形成され、この加工ローラ11A,11Bの環状溝11a間にはワイヤ12が掛け渡されている。加工ローラ11A,11Bの両側近傍の下方位置におけるフレーム上には、一対のボビン13A,13Bが支持装置14A,14Bを介して、加工ローラ11A,11Bの軸線と平行に延びる軸線を中心に回転可能に支持されている。
【0013】
そして、前記加工ローラ11A,11B及びボビン13A,13Bの所定サイクルの往復回転にともなって、いずれか一方のボビン13A,13Bが交互に供給側のボビンとなって、加工ローラ11A,11B間にワイヤ12を供給するとともに、他方のボビン13B,13Aが交互に巻き取り側のボビンとなって、加工ローラ11B,11A間から使用済みワイヤ12を巻き取るようになっている。図1及び図2に示す状態では、矢印から理解されるように、左側のボビン13Aが供給側のボビンとなり、右側のボビン13Bが巻き取り側のボビンとなっている。
【0014】
前記両加工ローラ11A,11B間のワイヤ12の上方には図示しないサドルが昇降可能に配置され、そのサドルの下面にはワークWが支持板15に貼着した状態で着脱可能に装着される。そして、加工ローラ11A,11B及びボビン13A,13Bの回転にともなって、加工ローラ11A,11B間でワイヤ12が延長方向に走行されながら、そのワイヤ12上に砥粒を含むスラリが供給される。この状態で、サドルの下降によりワークWがワイヤ12に押し付けられて、そのワークWに切断加工が施される。
【0015】
図1〜図3に示すように、前記両ボビン13A,13Bの支持装置14A,14Bには、両ボビン13A,13Bをその軸線方向に沿ってトラバース動作させるためのトラバース手段としてのトラバース機構16と、ボビン13A,13Bをワイヤ12の延長方向に沿って移動させてワイヤ12の張力を調整するための張力調整手段としての張力調整機構17とがそれぞれ設けられている。加工ローラ11A,11Bと両ボビン13A,13Bとの間のワイヤ12に対向配置されるようにフレーム上には、ワイヤ12の張力を検出するための張力検出手段としてのセンサ18がワイヤ12から間隔をおいて配置されている。これらのセンサ18は、ワイヤ12の振動にともなって発生される音波を感知して、ワイヤ12の張力を検出する音波センサから構成されている。そして、このセンサ18の検出結果に基づいて、張力調整機構17によりボビン13A,13Bが加工ローラ11A,11Bに対して接近・離間する方向に移動されて、ワイヤ12の張力が所定値となるように調整される。
【0016】
次に、前記両支持装置14A,14Bのトラバース機構16及び張力調整機構17の構成について詳細に説明する。図1〜図3に示すように、張力調整機構17においては、フレーム上に支持台21が図示しないガイドレールを介して上下動可能に支持され、その支持台21上にトラバース機構16を介してボビン13A,13Bが支持されている。フレーム上には調整用モータ22が配置され、このモータ22の回転により、ボールネジ23及びナット24を介して支持台21が上下方向に移動されて、ボビン13A,13Bがワイヤ12の張力を調整する方向に移動される。
【0017】
前記トラバース機構16においては、支持台21上に支持板25が図示しないガイドレールを介して加工ローラ11A,11Bの軸線方向へ移動可能に支持されている。支持板25上には、ボビン13A,13Bを両端より着脱可能に支持するための一対のスピンドル装置26,27、及び一方のスピンドル装置26を介してボビン13A,13Bを回転させるための回転用モータ28が支持されている。支持台21上にはトラバース用モータ29が配置され、このモータ29の回転により、ボールネジ30及びナット31を介して支持板25が往復移動されて、ボビン13A,13Bが軸線方向に沿ってトラバース動作される。
【0018】
次に、前記のように構成されたワイヤソーの作用を説明する。
このワイヤソーの運転時には、加工ローラ11A,11B及びボビン13A,13Bの所定サイクルで往復回転され、一方の供給側ボビン13Aから加工ローラ11A,11B間にワイヤ12が供給されるとともに、他方の巻き取り側ボビン13Bに対して使用済みワイヤ12を巻き取られる。このとき、各ボビン13A,13Bの支持装置14A,14Bにおいて、トラバース機構16のトラバース用モータ29により、ボビン13A,13Bが軸線方向に沿ってトラバース動作される。このトラバース動作により、供給側のボビン13Aからワイヤ12が張力変動を抑制しつつ繰り出されるとともに、巻き取り側のボビン13Bに対して使用済みワイヤ12が均一の巻きピッチとなるように巻き取られる。
【0019】
そして、前記加工ローラ11A,11B及びボビン13A,13Bの回転にともない、加工ローラ11A,11B間に掛け渡されたワイヤ12がその延長方向に走行されて、ワイヤ12上に砥粒を含むスラリが供給される。この状態で、サドルの下降によりワークWがワイヤ12に押し付けられて、そのワークWに切断加工が施される。このとき、加工ローラ11A,11Bと両ボビン13A,13Bとの間において、センサ18によりワイヤ12の張力が検出される。そして、そのセンサ18の検出結果に基づいて、各ボビン13A,13Bの支持装置14A,14Bにおいて、張力調整機構17の調整用モータ22により、ボビン13A,13Bが加工ローラ11A,11Bに対して接近または離間されて、ワイヤ12の張力が所定値となるように調整される。
【0020】
従って、この実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1) このワイヤソーにおいては、供給側のボビン13A,13B及び巻き取り側のボビン13B,13Aをその軸線方向に沿ってトラバース動作させるトラバース機構16と、加工ローラ11A,11Bと両ボビン13A,13Bとの間のワイヤ12の張力を検出するためのセンサ18と、そのセンサ18の検出に基づいてボビン13A,13Bを移動させて、ワイヤ12の張力を調整する張力調整機構17とが設けられている。
【0021】
このため、トラバース機構16と張力調整機構17とを一体型にした状態で、両ボビン13A,13Bの支持装置14A,14B等に設けることができる。よって、従来構成とは異なり、加工ローラ11A,11Bと両ボビン13A,13Bとの間に、ダンサローラ式の張力調整装置や複数のガイドローラを配置したり、その配置のためのスペースを確保したりする必要はない。このため、部品点数を減らして構成を簡素化できるとともに、両ボビン13A,13Bを加工ローラ11A,11Bに近接して配置することができて、ワイヤソー全体を小型にすることができる。また、加工ローラ11A,11Bと両ボビン13A,13Bとの間の複数のガイドローラを省略することができるため、ワイヤ12の走行方向転換箇所がなくなる。従って、ガイドローラによってワイヤ12に捩れが生じるのを抑制することができるとともに、ガイドローラによるイナーシャの問題やワイヤ12の断線率を低減することができる。
【0022】
(2) このワイヤソーにおいては、前記センサ18が、ワイヤ12と間隔をおいて配置され、ワイヤ12から発生される音波を感知してワイヤ12の張力を検出する音波センサより構成されている。このため、センサ18の設置位置の制約をあまり受けることがなく、非接触状態でワイヤ12の張力を適正に検出することができる。しかも、センサ18がワイヤ12から間隔をおいて配置されるため、センサ18がスラリによって汚されることを回避することが可能になり、メンテナンス負担を軽減できる。
【0023】
(3) このワイヤソーにおいては、両ボビン13A,13Bの軸線が加工ローラ11A,11Bの軸線と平行に延びるように配置されている。このため、加工ローラ11A,11Bと両ボビン13A,13Bとの間のガイドローラを省略できて、部品点数を低減でき、ガイドローラによるイナーシャの問題をなくし、ワイヤ断線を抑制できる。また両ボビン13A,13Bを加工ローラ11A,11Bに近接して配置できて、配置スペースを小さくでき、ワイヤソーを小型化できる。
【0024】
(変更例)
なお、本発明は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 両ボビン13A,13Bの軸線を加工ローラ11A,11Bの軸線と異なった方向に延びるように配置すること。この場合には、必要に応じて、両ボビン13A,13Bと加工ローラ11A,11Bとの間にガイドローラを介装してもよい。
【0025】
・ 前記実施形態において、センサ18として音波センサとは異なったセンサ,例えば光学センサを使用すること。
【符号の説明】
【0026】
11A,11B…加工ローラ、12…ワイヤ、13A,13B…ボビン、14A,14B…支持装置、16…トラバース手段としてのトラバース機構、17…張力調整手段としての張力調整機構、18…張力検出手段としてのセンサ、21…支持台、22…調整用モータ、25…支持板、26,27…スピンドル装置、28…回転用モータ、29…トラバース用モータ、W…ワーク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の加工ローラ間にワイヤを掛け渡すとともに、そのワイヤを加工ローラ間に供給するための供給側のボビン及び加工ローラ間の使用済みワイヤを巻き取るための巻き取り側のボビンを備えたワイヤソーにおいて、
前記両ボビンをその軸線方向に沿ってトラバース動作させるトラバース手段と、
前記加工ローラと両ボビンとの間のワイヤの張力を検出するための張力検出手段と、
その張力検出手段の検出に基づいて、ワイヤの張力を調整する方向にボビンを移動させる張力調整手段と
を備えたことを特徴とするワイヤソー。
【請求項2】
前記張力検出手段は、ワイヤから発生される音波を感知して張力を検出することを特徴とする請求項1に記載のワイヤソー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−27965(P2013−27965A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167025(P2011−167025)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000152675)コマツNTC株式会社 (218)
【Fターム(参考)】