説明

不審者検知装置

【課題】押込み強盗のように重要監視物の周辺において賊と従業員とがひとつの移動物体像として検出されても、不審者である賊の存在を精度よく検知できる不審者検知装置を提供する。
【解決手段】重要監視物が設置された監視空間において不審者を検知する不審者検知装置を用いた画像監視システム1は、重要監視物である金庫10が設置された監視空間を所定時間おきに撮像して監視画像を出力する画像センサ2と、監視画像内の移動物体像を追跡する移動物体像追跡部220と、追跡の結果から、重要監視物周辺に予め設定された重点監視領域12における移動物体像の分離を検出する分離検出部221と、移動物体像の分離が検出されたことに基づいて不審者ありと判定する不審者判定部223を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理により不審者の存在を検知する不審者検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、防犯を目的として監視画像を画像処理して人物の像を検出することにより不審者の存在を検知することが行われている。
特許文献1には、監視映像から機器周辺の人数を計測し、2人以上が計測されると正規利用者以外が存在するとして警告する利用者監視システムが記載されている。この従来技術によれば単独利用されるべき設備周辺における不審者の存在が検知される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−334618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、画像処理にて人物像を検出する場合、複数人がひとつの物体像として検出されることがある。特に、押込み強盗のように、賊が従業員に刃物を押し付けて脅している場合は、2人が極めて近づいているために、ひとつの物体像として検出されることがあり得る。
このような場合に、押込み強盗事案が発生している異常状態であるか、或いは従業員単独で金庫を正規利用している正常状態であるかを区別することが困難であった。
【0005】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、押込み強盗のように賊と従業員とがひとつの移動物体像として検出される場合であっても、不審者である賊の存在を精度よく検知できる不審者検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するために、本発明は、重要監視物が設置された監視空間において不審者を検知する不審者検知装置であって、監視空間を所定時間おきに撮像して監視画像を出力する撮像部と、監視画像内の移動物体像を追跡する追跡部と、追跡の結果から、重要監視物周辺に予め設定された重点領域における移動物体像の分離を検出する分離検出部と、分離が検出されたことに基づいて不審者ありと判定する不審者判定部と、を備えたことを特徴とする不審者検知装置を提供する。
【0007】
かかる不審者検知装置において、重要監視物の操作が可能な範囲として重点領域内に予め設定された操作領域において追跡された移動物体像を操作者像と判定する操作者像判定部、をさらに備え、不審者判定部は、操作者像に対して分離が検出されると不審者ありと判定することが好ましい。
【0008】
かかる不審者検知装置において、操作を検知する操作検知部、をさらに備え、操作者像判定部は、操作検知部が検知したときに操作領域にて追跡されている移動物体像を操作者像と判定することが好ましい。
【0009】
かかる不審者検知装置において、操作者像判定部は、操作に要する時間として予め設定された操作時間を超えて操作領域にて追跡されている移動物体像を操作者像と判定することが好ましい。
【0010】
かかる不審者検知装置において、重点領域は重要監視物に対する操作が可能な領域に設定されることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、押込み強盗のように重要監視物の周辺において従業員と不審者である賊とがひとつの移動物体像として検出されていた場合であっても、当該移動物体像を追跡して分離を検出することにより不審者の存在を精度よく検知できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】画像監視システム1の全体構成を示す図である。
【図2】画像センサ2の構成を示す図である。
【図3】領域情報210である操作領域11及び重点監視領域12を例示する図である。
【図4】第一の不審者判定処理に係るデータ例を示す図である。
【図5】第二の不審者判定処理に係るデータ例を示す図である。
【図6】第二の不審者判定処理に係る別のデータ例を示す図である。
【図7】第三の不審者判定処理に係るデータ例を示す図である。
【図8】不審者が存在しない場面での処理にデータ例を示す図である。
【図9】画像監視処理全体のフローチャートを示す図である。
【図10】不審者判定処理のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る不審者検知装置を用いた画像監視システムについて図を参照しつつ説明する。
【0014】
不審者検知装置は、重要監視物である金庫が設置された金庫室を監視空間とし、監視空間を撮像した監視画像から不審者である押込み強盗の賊の存在を検知する。特に、この不審者検知装置は、監視画像中に撮像された移動物体の像(移動物体像)を追跡するとともに、移動物体像の分離を検出することで不審者の存在を検知する。
【0015】
[画像監視システム1の構成]
図1に画像監視システム1の全体構成を示す。画像監視システム1は、画像センサ2、設定入力部4、金庫錠センサ5、威嚇装置6及び警備センター装置7等がコントローラ3に接続されてなる。
【0016】
コントローラ3は、金庫室を備えた建物内の事務室等に設置される。コントローラ3に接続された各部はコントローラ3を介して各種信号の送受信を行う。また、コントローラ3に接続された各部は必要に応じてコントローラ3から動作制御される。
【0017】
画像センサ2は、金庫10の真上の天井部に金庫室を俯瞰して設置され、監視画像の撮像及び当該監視画像を用いた不審者の検知を行う。画像センサ2は、不審者を検知すると検知信号をコントローラ3に出力する。
【0018】
監視画像として撮像される範囲には、一点鎖線で図示された領域11,12が含まれる。これらの領域は、監視画像上の一部領域として予め設定され、画像センサ2による不審者検知処理において参照される。領域11は、重要監視物に対する操作が可能な操作領域である。本実施形態において操作領域11は、金庫10の利用者が金庫10の錠に手が届く距離範囲であり、具体的には金庫10を中心とする半径1.5m程度の距離範囲に設定される。領域12は、押込み強盗に係る賊の不審行動を観測可能な重点監視領域である。具体的には、重点監視領域12は金庫10を中心とする半径5m程度の領域に設定される。重点監視領域12は、操作領域11を内包する。好適には、重点監視領域12は出入口を含まないように設定される。
【0019】
設定入力部4は、画像監視システム1の運用前にコントローラ3と一時的に接続され、画像監視システム1の運用者が操作領域11及び重点監視領域12の設定を入力するインターフェース装置である。接続時に、画像センサ2からの監視画像がコントローラ3に中継されて設定入力部4に表示される。表示中の監視画像に対して操作領域11及び重点監視領域12が設定入力されると、当該設定がコントローラ3を介して画像センサ2に入力され、画像センサ2は当該設定を記憶する。
【0020】
金庫錠センサ5は、金庫10内に設置され、金庫10の錠が施錠状態であるか解錠状態であるかを表す錠状態信号をコントローラ3に出力する。錠状態信号はコントローラ3に中継されて画像センサ2に入力される。
【0021】
威嚇装置6は、金庫室内に設置され、賊に対する警告音声や警報等を再生する音響装置である。コントローラ3は画像センサ2から検知信号が入力されると威嚇装置6に起動信号を出力し、威嚇装置6は起動信号が入力されると動作して賊を威嚇する。
【0022】
警備センター装置7は、遠隔地にある警備センターに設置され、公衆電話回線などの広域通信ネットワークを介してコントローラ3と接続される。コントローラ3は画像センサ2から検知信号が入力されると警備センター装置7に異常信号を送信し、警備センター装置7は異常信号を受信すると警備センターに常駐する警備員に対して異常の発生を報知する。
【0023】
図2に画像センサ2の構成を示す。画像センサ2は、撮像部20、記憶部21及び通信部23が制御部22に接続されてなる。
【0024】
撮像部20は、いわゆる監視カメラであり、操作領域11及び重点監視領域12を含む監視空間を所定時間おきに撮像して監視画像を制御部22に順次出力する。監視画像が撮像される時間間隔は例えば1/5秒である。以下、この時間間隔で刻まれる時間の単位を時刻と称する。
【0025】
記憶部21は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等のメモリ装置である。記憶部21は、各種プログラムや各種データを記憶し、制御部22との間でこれらの情報を入出力する。各種データには、領域情報210、追跡用情報211、移動軌跡212、分離情報213及び操作者情報214が含まれる。
【0026】
領域情報210は、監視画像の座標系で表現された操作領域11及び重点監視領域12の情報である。図3は、監視画像100と領域情報210の一例である。監視画像100の中心には金庫10が撮像されており、操作領域11及び重点監視領域12はそれぞれ金庫10を中心とする円形の領域に設定されている。領域情報210として各領域と対応する円の中心座標と半径のデータが記憶される。
【0027】
追跡用情報211は、移動物体像を追跡するために生成され、参照される画像情報である。具体的には、追跡用情報211は、人が居ないときに撮像された監視画像を基に生成された背景画像と、各移動物体像から抽出された特徴量である。特徴量としては移動物体像の輝度ヒストグラム、テクスチャ情報等を用いることができる。追跡は、前後する時刻における移動物体像のうち特徴量が類似するものを同一移動物体の像として同定することにより移動物体像ごとの移動軌跡を求める処理である。同定された移動物体像には共通の識別子(像ID)が付与され、特徴量は同定された移動物体像ごとに像IDと対応付けて記憶される。
【0028】
移動軌跡212は、監視画像における移動物体像の位置の履歴であり、追跡結果として生成される。移動軌跡212は、同定された移動物体像ごとにその像IDと対応付けて記憶される。図5の画像125,126に示される黒丸は移動軌跡212を例示したものである。図中の各黒丸は各時刻における移動物体像の重心と対応し、移動物体像ごとにその重心の座標が時系列に並べられたデータが移動軌跡212である。この例では、時刻T2において移動物体像A2の移動軌跡212−a2、移動物体像B2の移動軌跡212−b2及び移動物体像C2の移動軌跡212−c2がそれぞれ記憶されている。
【0029】
分離情報213は、後述する分離検出部221により検出された移動物体像の分離状況を記録した情報である。分離元の移動物体像の像IDと分離先の移動物体像の像IDと分離位置が対応付けて記憶される。図5の表213−2は分離情報213の一例である。この例では、監視画像中の位置(x2,y2)にて移動物体像A2が移動物体像B2とC2に分離したことが分離情報213−2に記録されている。
【0030】
操作者情報214は、後述する操作者像判定部222により重要監視物に対する操作を行った操作者の像であると判定された移動物体像の情報であり、当該移動物体像の像IDが記録される。図5の表214−2は操作者情報214の一例である。この例では、移動物体像A2が操作者の像と判定されたことが操作者情報214−2に記録されている。
【0031】
通信部23は、コントローラ3と制御部22との間で各種信号の送受信を行なうためのインターフェース回路及びそのドライバソフトウェアである。例えば、金庫錠センサ5からの錠状態信号は、通信部23にて受信されて制御部22により読み出される。また制御部22からの検知信号は通信部23を介してコントローラ3に送信される。
【0032】
制御部22は、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、MCU(Micro Control
Unit)等の演算装置である。制御部22は、移動物体像追跡部220、分離検出部221、操作者像判定部222、不審者判定部223等の動作を記述したプログラムを記憶部21から読み出して実行することによりこれら各部として機能する。
【0033】
移動物体像追跡部220は、監視画像内の移動物体像を追跡して各移動物体像の移動軌跡212を記憶部21に記憶させる。そのために移動物体像追跡部220は、各時刻において監視画像から移動物体像を抽出する移動物体像抽出処理と、前後する時刻における移動物体像を同定する同定処理を繰り返し、同定された移動物体像ごとにその重心位置を移動軌跡212として記憶させる。
【0034】
移動物体像抽出処理を具体的に説明する。移動物体像追跡部220は、監視空間に人が居ないときに撮像された監視画像を追跡用情報211の背景画像として記憶させ、新たな監視画像と背景画像との間で背景差分処理を行なって背景差分領域を検出して背景差分領域をラベリングし、当該監視画像のうち各ラベルと対応する部分を移動物体像として抽出する。抽出後、移動物体像追跡部220は、監視画像のうち移動物体像が抽出されなかった部分を背景画像に合成することで背景画像を更新する。尚、背景差分処理に代えて監視画像と背景画像との間で相関処理を行ない、相関の低い領域の像をラベリングして移動物体像を抽出することもできる。
【0035】
同定処理を具体的に説明する。移動物体像追跡部220は、新たな監視画像から抽出された各移動物体像を分析して移動物体像ごとの特徴量を抽出し、抽出された特徴量と追跡用情報211として記憶されている像IDごとの特徴量との類似度を算出して予め設定された同定閾値と比較し、類似度が同定閾値を超えた移動物体像と像IDを同定する。そして移動物体像追跡部220は、移動物体像の重心位置を演算し、当該移動物体像と同定された像IDの移動軌跡212に当該重心位置を追記する。
【0036】
このとき同定が得られなかった移動物体像があると、移動物体像追跡部220は新規物体の像が出現したとして当該移動物体像の特徴量に新規の像IDを付与して追跡用情報211に追記する。新規の像IDの付与に伴って移動物体像追跡部220は当該像IDと対応する移動軌跡212を新たに作成する。
【0037】
また同定が得られなかった像IDがあると、移動物体像追跡部220は当該像IDが表す移動物体像が消失したとして当該像IDと対応する特徴量を記憶部21から削除する。
【0038】
分離検出部221は、移動物体像追跡部220の追跡結果として生成された移動軌跡212と領域情報210を参照して、重点監視領域12における移動物体像の分離を検出し、検出結果を分離情報213として記録する。検出結果は、当該分離が検出された分離位置、当該分離が検出された移動物体像の像IDである。
【0039】
具体的には、分離検出部221は、重点監視領域12において新規の移動物体像が追跡開始されたときに分離を検出する。すなわち分離検出部221は、重点監視領域12内を起点とする移動軌跡212が生成されたときに分離を検出する。
【0040】
このとき、分離元の移動物体像の一時刻前の位置と分離後の移動物体像の現時刻の位置の間の距離は1時刻当たりに人が移動可能な距離内に収まっている。そこで分離検出部221は、移動軌跡212を参照して、新規に追跡開始された移動物体像の位置とその他の移動物体像の一時刻前の位置との距離を算出して、人の移動可能距離以下である距離が算出された移動物体像を分離元の移動物体像として検出し、その一時刻前の位置を分離位置とする。移動可能距離は例えば3m程度に予め設定しておく。
【0041】
尚、分離のパターンには、分離元の移動物体像が分離先の移動物体像のいずれとも同定されず分離元の移動物体像の追跡が継続されないパターンと、分離元の移動物体像が分離先の移動物体像のいずれかと同定されて分離元の移動物体像の追跡が継続されるパターンとがあるが、どちらのパターンも上記処理により検出可能である。
【0042】
操作者像判定部222は、重要監視物に対する盗難関連の操作を検知して、当該操作が検知されたときに操作領域11内にて追跡されている移動物体像を操作者像と判定し、操作者像と判定された移動物体像の像IDを操作者情報214として記録する。具体的には、検知する操作は保管物の取り出しのために行なわれる金庫10の解錠である。操作者像判定部222は、各時刻において通信部23に受信される金庫錠センサ5からの錠状態信号を確認し、錠が施錠状態から解錠状態に変化したときに当該操作を検知する。そのために操作者像判定部222は、錠状態を記憶部21に記憶させ、一時刻前に記憶させた錠状態と現時刻に受信した錠状態とを比較して変化を検知する。
【0043】
不審者判定部223は、分離情報213及び必要に応じて操作者情報214と移動軌跡212を参照し、少なくとも重点監視領域12内における分離が検出された場合に、監視空間に不審者が存在していると判定して通信部23に検知信号を出力する。
【0044】
以下、不審者判定部223による3種類の判定処理を典型例とともに説明する。
【0045】
<第一の判定処理>
第一の判定処理において、不審者判定部223は、操作領域11内における分離が検出されたときに不審者ありと判定する。
【0046】
図4は第一の判定処理により不審者ありと判定される典型的なケースのデータ例である。本ケースでは、従業員14−1を脅して金庫10を解錠させようとした賊13−1が時刻T1において検知される。画像110は時刻(T1−1)に撮像された監視画像の一部、画像115は時刻(T1−1)の時点で記憶されている移動物体像A1の移動軌跡212−a1を操作領域11及び重点監視領域12とともに監視画像の座標系にプロットした説明用画像、画像111は時刻T1に撮像された監視画像の一部、画像116は時刻T1の時点で記憶されている移動物体像A1,B1,C1それぞれの移動軌跡212−a1,212−b1,212−c1を操作領域11及び重点監視領域12とともに監視画像の座標系にプロットした説明用画像である。
【0047】
時刻(T1−1)までは賊13−1と従業員14−1が密着して移動していたため、移動物体像追跡部220は、2人の像を一体化したひとつの移動物体像A1として追跡する。移動軌跡212−a1は重点監視領域12に進入し、操作領域11まで到達している。時刻T1において従業員14−1に解錠を指示した賊13−1は従業員14−1から少し離れて作業を見張り始める。2人の像は一定以上離れるので移動物体像追跡部220によりこれらは異なる2つの移動物体像として抽出される。また、特徴量が各像に分散するためこれらは移動物体像追跡部220により移動物体像A1と同定されない。移動物体像追跡部220は、賊13−1の像を新規の移動物体像B1として追跡し始めて移動軌跡212−b1を生成し、従業員14−1の像を新規の移動物体像C1として追跡し始めて移動軌跡212−c1を生成する。移動軌跡212−a1の終端は(x1,y1)となる。
【0048】
同時刻T1において、分離検出部221は、これら3つの移動軌跡212−a1,212−b1,212−c1が分離検出基準を満たすとして、分離元を移動物体像A1、分離先を移動物体像B1及びC1、分離位置を(x1,y1)とする分離情報213−1を記録する。
【0049】
尚、時刻T1までに金庫10は解錠されず、操作者像判定部222は操作者情報214を生成しない。
【0050】
同時刻T1において不審者判定部223は、新たに記録された分離情報213−1の分離位置(x1,y1)を操作領域11と比較し、分離位置(x1,y1)が操作領域11内であることから不審者ありと判定する。
【0051】
このように移動物体像の一体化により重要監視物の正規利用者との区別が困難な場合であっても、当該移動物体像を追跡して操作領域11における分離を検出することで不審者の存在を精度よく判定することができる。
【0052】
<第二の判定処理>
第二の判定処理において、不審者判定部223は、操作者像と判定された移動物体像からの分離が検出されたときに不審者ありと判定する。
【0053】
図5は第二の判定処理により不審者ありと判定される典型的なケースのデータ例である。本ケースでは、従業員14−2を脅して金庫10を解錠させた賊13−2が時刻T2において検知される。画像120は時刻(T2−1)に撮像された監視画像の一部、画像125は時刻(T2−1)の時点で記憶されている移動物体像A2の移動軌跡212−a2を操作領域11及び重点監視領域12とともに監視画像の座標系にプロットした説明用画像、画像121は時刻T2に撮像された監視画像の一部、画像126は時刻T2の時点で記憶されている移動物体像A2,B2,C2それぞれの移動軌跡212−a2,212−b2,212−c2を操作領域11及び重点監視領域12とともに監視画像の座標系にプロットした説明用画像である。
【0054】
時刻(T2−1)まで密着していた賊13−2と従業員14−2の像は、移動物体像追跡部220によりひとつの移動物体像A2として追跡される。その移動軌跡212−a2は操作領域11まで到達し、解錠操作のために操作領域11内での滞留を示す。
【0055】
滞留の間に金庫10の錠が解錠状態となり、操作者像判定部222は移動物体像A2が操作者像であるとの操作者情報214−2を記録する。
【0056】
時刻T2において、金庫10内の金品を従業員14−2から受け取った或いは金庫10内の金品を自ら取り出そうとした賊13−2は、従業員14−2を突き飛ばし、2人の像は分離する。移動物体像追跡部220は、賊13−2の像を新規の移動物体像B2として追跡し始めて移動軌跡212−b2を生成し、従業員14−2の像を新規の移動物体像C2として追跡し始めて移動軌跡212−c2を生成する。移動軌跡212−a2の終端は(x2,y2)となる。
【0057】
同時刻T2において、分離検出部221は、これら3つの移動軌跡212−a2,212−b2,212−c2が分離検出基準を満たすとして、分離元を移動物体像A2、分離先を移動物体像B2及びC2、分離位置を(x2,y2)とする分離情報213−2を記録する。
【0058】
同時刻T2において不審者判定部223は、新たに生成された分離情報213−2の分離元である移動物体像A2が、操作者情報214−2において操作者像とされていることから不審者ありと判定する。
【0059】
図6は図5のケースに類似する別の典型例である。図6のケースでは図5のケースと異なり、解錠後にも密着したまま移動し、金庫10から少し離れた重点監視領域12内で操作者像と判定された移動物体像からの分離が検出される。このケースでも図5の例と同様に分離時点で不審者ありと判定される。
【0060】
尚、図5のケースは第二の判定処理により不審者ありが判定されることに加え、第一の判定処理によっても不審者ありと判定できる。一方、図6ケースは第二の判定処理により不審者ありと判定されるが、第一の判定処理では判定されない。このことから、不審者判定部223は、いずれの判定処理によって不審者ありが判定されたかの判定種別を検知信号に含ませることで図5のケースと図6のケースを識別可能な検知信号を出力する。
【0061】
このように移動物体像の一体化により重要監視物の正規利用者との区別が困難な場合であっても、当該移動物体像を追跡して操作者像からの分離を検出することで不審者の存在を精度よく判定することができる。
【0062】
<第三の判定処理>
第三の判定処理において、不審者判定部223は、分離が検出された移動物体像が操作者像と判定されたときに不審者ありと判定する。
【0063】
図7は第三の判定処理により不審者ありと判定される典型的なケースのデータ例である。本ケースでは、従業員14−3を脅して金庫10を解錠させた賊13−3が時刻T3において検知される。画像130は時刻(T3−1)に撮像された監視画像の一部、画像135は時刻(T3−1)の時点で記憶されている移動物体像A3の移動軌跡212−a3を操作領域11及び重点監視領域12とともに監視画像の座標系にプロットした説明用画像、画像131は時刻T3に撮像された監視画像の一部、画像136は時刻T3の時点で記憶されている移動物体像A3,B3,C3それぞれの移動軌跡212−a3,212−b3,212−c3を操作領域11及び重点監視領域12とともに監視画像の座標系にプロットした説明用画像である。
【0064】
時刻(T3−1)まで密着していた賊13−3と従業員14−3の像は、移動物体像追跡部220によりひとつの移動物体像A3として追跡される。その移動軌跡212−a3は重点監視領域12内に進入する。賊13−3は操作領域11の手前で従業員14−3に解錠を指示する。時刻T3において、賊13−3が操作領域11の手前に留まった状態で、従業員14−3は解錠操作のために操作領域11へ進み、2人の像は分離する。
【0065】
時刻T3以降、移動物体像追跡部220は、賊13−3の像を新規の移動物体像B3として追跡し始めて移動軌跡212−b3を生成し、従業員14−3の像を新規の移動物体像C3として追跡し始めて移動軌跡212−c3を生成する。移動軌跡212−a3の終端は(x3,y3)となる。
【0066】
時刻T3において、分離検出部221は、これら3つの移動軌跡212−a3,212−b3,212−c3が分離検出基準を満たすとして、分離元を移動物体像A3、分離先を移動物体像B3及びC3、分離位置を(x3,y3)とする分離情報213−3を生成する。
【0067】
その後、解錠操作中の従業員14−3に係る移動軌跡212−c3は操作領域11内での滞留を示す。これを見張っている賊13−3に係る移動軌跡212−b3は重点監視領域12内での滞留を示す。
【0068】
時刻T3からΔTが経過した時刻(T3+ΔT)において金庫10の錠が解錠状態となり、操作者像判定部222は移動物体像C3が操作者像であるとの操作者情報214−3を生成する。
【0069】
不審者判定部223は、同時刻(T3+ΔT)において分離情報213−3の分離先である移動物体像C3が、操作者情報214−3において操作者像とされていることから不審者ありと判定する。
【0070】
このように移動物体像の一体化により重要監視物の正規利用者との区別が困難な場合であっても、当該移動物体像を追跡して分離した操作者像を検出することで不審者の存在を精度よく判定することができる。
【0071】
ここで、正規利用者である従業員と別の従業員とが一時的に近接して重点監視領域12内にてひとつの移動物体像として追跡される場合がある。このような場合の誤判定を防止するために、不審者判定部223は、分離情報213に記録されている移動物体像の移動軌跡が重点監視領域12外に到達したときに当該移動物体像に係る分離情報213を削除する。こうすることで正規利用者に対する誤判定を防止することができる。
【0072】
図8に誤判定が防止される一例のデータ138を示す。この例では重点監視領域12内で移動物体像A4から移動物体像B4,C4の分離が検出され、当該分離に関する分離情報213−4が一時的に記録されるが、移動物体像B4の移動軌跡212−b4が重点監視領域12に到達した時点で分離情報213−4は削除される。その後、正規利用者の像である移動物体像C4が操作者像と判定されたとしても移動物体像C4に係る分離情報213はないため不審者判定部223は不審者ありと誤判定しない。
【0073】
[画像監視システム1の動作]
図9のフローチャートを参照して、画像センサ2による不審者検知処理を中心に画像監視システム1の動作を説明する。
【0074】
動作に先立ち、画像監視システム1の運用者により設定入力部4を用いた領域情報210の設定が行なわれている。
【0075】
金庫室が無人であることを確認した運用者が画像センサ2を起動すると、制御部22の移動物体像追跡部220は起動後の所定時間に撮像された監視画像を用いて背景画像を生成し、追跡用情報211として記憶部21に記憶させる。
【0076】
初期化が終わると不審者検知処理がスタートし、撮像部20から制御部22へ新たな監視画像が入力されるたびにステップS1〜S12の処理が繰り返される。
【0077】
新たな監視画像が入力されると(S1)、まず、移動物体像追跡部220は追跡用情報211を利用して当該監視画像から移動物体像を抽出するとともに抽出された移動物体像の同定を行って移動物体像の追跡を一時刻分進捗させる(S2)。
【0078】
移動物体像が抽出されたとき移動物体像追跡部220は、追跡結果として移動物体像ごとの移動軌跡212が生成・更新され、追跡用情報211として移動物体像ごとの特徴量が生成・更新される。特徴量が記憶部21に記憶されている間は移動物体像の追跡中であり、制御部22は処理をステップS4へ進める(S3にてYES)。
【0079】
他方、追跡中でない場合、制御部22はステップS4以降の処理を省略して処理をステップS1へ戻す(S3にてNO)。尚、ステップS3において、制御部22の分離検出部221は分離元と分離先の全てが追跡中ではなくなった分離情報213が記憶されていれば当該分離情報213を削除し、制御部22の操作者像判定部222は追跡中ではなくなった操作者情報214が記憶されていれば当該操作者情報214を削除する。
【0080】
追跡中の移動物体像がある場合、制御部22の分離検出部221は移動軌跡212及び領域情報210を参照して、重点監視領域12内における移動物体像の分離を検出する(S4)。重点監視領域12内での分離が検出されると(S5にてYES)、分離検出部221は当該分離の分離元、分離先、分離位置の情報からなる分離情報213を新たに生成して記憶部21に記憶させる(S6)。一方、分離が検出されない場合、ステップS6はスキップされる。
【0081】
続いて、制御部22の操作者像判定部222は錠状態信号を確認して解錠操作の検知を行う(S7)。解錠操作が検知されると(S8にてYES)、操作者像判定部222は移動軌跡212及び領域情報210を参照して現時刻の位置が操作領域11内である移動物体像の像IDを操作者情報214に記録する。
【0082】
移動物体像追跡部220、分離検出部221及び操作者像判定部222による現時刻の処理が行われると、制御部22の不審者判定部223はこれらの処理結果を基に不審者が存在するか否かを判定する(S10)。
【0083】
図10のフローチャートを参照して不審者判定処理を説明する。
【0084】
まず、不審者判定部223は、分離情報213と移動軌跡212と領域情報210を参照し、現時刻の位置が重点監視領域12外である移動物体像が分離先として記録されている分離情報があれば当該分離情報を記憶部21から削除する(S90)。
【0085】
ステップS90の処理の後、不審者判定部223は、分離情報213が記憶部21に記憶されているか否かを確認する(S91)。分離情報213が記憶されていなければ(S91にてNO)、不審者判定部223は不審者が存在しないとして図9のステップS11へ処理を進める。
【0086】
他方、分離情報213が記憶されていれば(S91にてYES)、不審者判定部223は分離情報213の分離位置が操作領域11内であるか否かを判定する(S92)。分離情報213が複数ある場合はそれぞれについて判定を行なう。分離位置が操作領域11内である分離情報213があれば(S92にてYES)、不審者判定部223は不審者の存在を判定したとして監視画像等を含めた不審者情報を生成して記憶部21に一時記憶させる(S93)。ステップS92の判定は前述した第一の判定処理である。ステップS93において不審者判定部223は、ステップS92の判定にて該当した分離情報213及び第一の判定処理の結果であることを識別する識別子を含めた不審者情報を生成する。一方、分離位置が操作領域11内である分離情報213がなければ(S92にてNO)、ステップS93はスキップされる。
【0087】
続いて不審者判定部223は分離情報213の分離元として記録されている像IDが操作者情報214に記録されているか否かを判定する(S94)。分離情報213が複数ある場合はそれぞれについて判定を行なう。分離元が操作者像の分離情報213があれば(S94にてYES)、不審者判定部223は不審者の存在を判定したとして不審者情報を生成して記憶部21に一時記憶させる(S95)。ステップS94の判定は前述した第二の判定処理である。ステップS95において不審者判定部223は、ステップS94にて判定された分離情報213及び第二の判定処理の結果であることを識別する識別子を含めた不審者情報を生成する。一方、分離元が操作者像である分離情報213がなければ(S94にてNO)、ステップS95はスキップされる。
【0088】
続いて不審者判定部223は分離情報213の分離先として記録されている像IDが操作者情報214に記録されているか否かを判定する(S96)。分離情報213が複数ある場合はそれぞれについて判定を行なう。分離先が操作者像の分離情報213があれば(S96にてYES)、不審者判定部223は不審者の存在を判定したとして監視画像等を含めた不審者情報を生成して記憶部21に一時記憶させる(S97)。ステップS96の判定は前述した第三の判定処理である。ステップS97において不審者判定部223は、ステップS96にて判定された分離情報213及び第三の判定処理の結果であることを識別する識別子を含めた不審者情報を生成する。一方、分離先が操作者像である分離情報213がなければ(S96にてNO)、ステップS97はスキップされる。
【0089】
以上の処理を終えると処理は図9のステップS11へ進められる。
【0090】
図9に戻り、不審者情報が記憶されていれば(S11にてYES)、不審者判定部223は当該不審者情報に基づく検知信号を生成し、通信部23を介して検知信号をコントローラ3に送信する(S12)。検知信号には、不審者情報に含まれている判定処理の種別、不審者情報に含まれている分離情報213が表す分離元・分離先の移動物体像の移動軌跡、監視画像などを含める。複数の不審者情報が記憶されている場合はこれらの情報を含めた検知信号を生成する。尚、検知信号の生成に伴って現時刻に生成された不審者情報は削除される。検知信号を受信したコントローラ3は、威嚇装置6を動作させ、検知信号の内容を含めた警備センター装置7に異常信号を送信する。警備センター装置7では検知信号の内容が警備員に対して表示され、これを視認した警備員は金庫室での状況を迅速に把握して適切な対処を講じることが可能となる。
【0091】
不審者情報が記憶されていない場合(S11にてNO)、ステップS12はスキップされる。
【0092】
以上の処理を終えると処理はステップS1へ戻され、次時刻の監視画像に対する処理が行われる。
【0093】
以上では重要監視物を金庫とする実施形態について説明したが、別の実施形態において重要監視物はショーケース、薬品庫など、金品や危険物の保管庫としてもよい。
【0094】
また、上記実施形態においては重要監視物に対する錠操作を検知して操作者像を判定したが、検知する操作は扉を開ける扉開放操作であってもよい。この場合、操作者像判定部222は錠センサの代わりにマグネットセンサ等の出力に基づいて扉開放を検知することができる。また、別の実施形態においては外部信号に代えて画像処理により操作を検知する。すなわち、操作者像判定部222は移動軌跡212を参照して操作領域11内に予め設定された操作判定時間以上滞留している移動物体像があるときに当該移動物体像を操作者像として検知する。操作判定時間は例えば十秒〜数十秒程度の値に設定される。

【符号の説明】
【0095】
1・・・画像監視システム
10・・・金庫
11・・・操作領域
12・・・重点監視領域
2・・・画像センサ
20・・・撮像部
21・・・記憶部
210・・・領域情報
211・・・追跡用情報
212・・・移動軌跡
213・・・分離情報
214・・・操作者情報
22・・・制御部
220・・・移動物体像追跡部
221・・・分離検出部
222・・・操作者像判定部
223・・・不審者判定部
23・・・通信部
3・・・コントローラ
4・・・設定入力部
5・・・金庫錠センサ
6・・・威嚇装置
7・・・警備センター装置



【特許請求の範囲】
【請求項1】
重要監視物が設置された監視空間において不審者を検知する不審者検知装置であって、
前記監視空間を所定時間おきに撮像して監視画像を出力する撮像部と、
前記監視画像内の移動物体像を追跡する追跡部と、
前記追跡の結果から、前記重要監視物周辺に予め設定された重点領域における前記移動物体像の分離を検出する分離検出部と、
前記分離が検出されたことに基づいて不審者ありと判定する不審者判定部と、
を備えたことを特徴とする不審者検知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の不審者検知装置において、
前記重要監視物の操作が可能な範囲として前記重点領域内に予め設定された操作領域において前記追跡された移動物体像を操作者像と判定する操作者像判定部、
をさらに備え、
前記不審者判定部は、前記操作者像に対して前記分離が検出されると不審者ありと判定すること、
を特徴とする不審者検知装置。
【請求項3】
請求項2に記載の不審者検知装置において、
前記操作を検知する操作検知部、をさらに備え、
前記操作者像判定部は、前記操作検知部が検知したときに前記操作領域にて前記追跡されている移動物体像を前記操作者像と判定すること、
を特徴とする不審者検知装置。
【請求項4】
請求項2に記載の不審者検知装置において、
前記操作者像判定部は、前記操作に要する時間として予め設定された操作時間を超えて前記操作領域にて前記追跡されている移動物体像を前記操作者像と判定すること、
を特徴とする不審者検知装置。
【請求項5】
請求項1に記載の不審者検知装置において、
前記重点領域は前記重要監視物に対する操作が可能な領域に設定されたことを特徴とする不審者検知装置。


【図3】
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【図6】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−227648(P2011−227648A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95869(P2010−95869)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000108085)セコム株式会社 (596)
【Fターム(参考)】