説明

不審船の判定方法

【課題】 一般海域などのように国際的なテロリズムの標的となる特定の領域において航行する船舶が不審船の疑いがあるか否かを適格に判定するための方法を提供する。
【解決手段】 一般海域を航行する船舶全般について船舶自身の属性を基に算出される一般海域におけるテロ発生蓋然性および航行船舶の挙動から算出される問題性(一般海域における問題船の発生確率)と、船舶の一般海域における保安事項に関する想定事態の重大度とにより算出した一般海域における問題船関心度により、不審船であるか否かを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般海域において問題船であるか否かを判断して、テロ行為などを未然に防ぐ目的で設置される不審船判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般海域は国際的なテロリズムの標的となる1つの領域であり、安全のために問題船の進入や行動を有効に阻止するセキュリティシステムが必要である。
【0003】
そして、例えば港湾において安全を確保するためのセキュリティシステムが特開2004−178258号公報、特開2005−55257号公報、特開2005−96674号公報などに提示されている。
【0004】
ところが、前記公報に提示されているセキュリティシステムは、何れも港湾や監視領域における行動をカメラや、赤外線などを用いて監視したり、行動パターンを作成して最終的に異常な行動をする船を特定するものである。
【0005】
そのため、一般海域内における船舶の行動パターンを正確に追尾する必要があり、しかも各船舶について行う必要があり、時間的、人的、設備的にも費用が掛かり、現実的でない。また、不審船であると判定された場合には既にテロ行為が行われている場合が少なくなく、更に、行動パターンを追尾していることが察知された場合には不審な行動パターンを意識的にとらないようにすることも可能であり、的確な判断をすることはできない、という問題がある。
【0006】
特に、不審船は国際テロなどに発展する危険性もあり、1隻でも判定を誤ることは許されないという観点から前記公報に提示されている不審船の判定手段は充分でなく、また、現実的でない。
【特許文献1】特開2004−178258号公報
【特許文献2】特開2005−55257号公報
【特許文献3】特開2005−96674号公報報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記の実情に鑑みてなされたものであり、一般海域などのように国際的なテロリズムの標的となる特定の領域において航行する船舶が不審船の疑いがあるか否かを適格に判定するための方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、一般海域を航行する船舶全般について船舶自身の属性を基に算出される一般海域におけるテロ発生蓋然性および航行船舶の挙動から算出される問題性(一般海域における問題船の発生確率)と、船舶の一般海域における保安事項に関する想定事態の重大度とにより算出した一般海域における問題船関心度により、問題船であるか否かを判定することを特徴とする。
【0009】
以上の手段を有する本発明によれば、一般海域を航行する船舶についてテロが発生する蓋然性に関する情報により算出される一般海域におけるテロ発生蓋然性および一般海域における船舶の挙動から算出される問題性(一般海域における問題船の発生確率)と、一般海域における保安事項に関する想定事態の重大度とにより求めた一般海域における問題船関心度により総合的に勘案して判定するので容易且つ簡単に、問題船か否かが判断できるとともに不審船を特定できる。また、全ての船を最後までチェックする必要もない。
【0010】
また、前記問題船関心度がその大きさにより、一般海域におけるテロ発生蓋然性、問題性(一般海域における問題船の発生確率)および一般海域における保安事項に関する想定事態の重大度決定を経て算出されるようにしたので、段階的に問題船を判断することが可能で、問題度に応じて船舶を選択的に追尾することが可能で、経済的にも優れている。
【0011】
加えて、前記問題性(一般海域における問題船の発生確率)が船の行為の違法性、船の挙動、船の属性により算出される場合には正確な発生確率を容易に求めることができる。
【0012】
更に、前記予め想定した問題性(一般海域における問題船の発生確率)を算出するための船舶の違法性、挙動、属性についての具体的事例およびそれらの事例における問題船として認定するための重要度が海域、船舶、国際情勢の少なくとも1つによって変更可能とした場合には更に船舶に適した不審船の判定を行うことができる。
【0013】
更にまた、前記一般海域におけるテロ発生蓋然性、問題性(一般海域における問題船の発生確率)および一般海域における保安事項に関する想定事態の重大度が経時的に変化する場合には、最新の情報によりより正確且つ信頼性に富んだ判定をすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明である不審船の判定方法を実施するためのシステムの概念図であり、本発明は例えば陸地に配置された危機管理センター1に設置されたコンピュータ2を用いて判定結果が算出される。
【0015】
そして、航路3の湾口付近の陸上に設置された監視センター4および航路保全船5に設置されたカメラ、レーダ、AIS(船舶自動識別装置)などの入港する船舶6についての情報を取得する監視機器7,8,9からの情報信号が前記コンピュータ2に送られる。
【0016】
また、前記コンピュータ2は問題船の情報を有している港湾事務所10および不審船を取り締まる保安庁や海事局などの取締機関11に接続されている。
【0017】
図2は前記コンピュータ2の概略を示すものであり、コンピュータ2は通常使用されるものと同じく、各種の情報を記憶しておくデータベースである記録装置21、外部から情報を受信するとともに外部へ情報を送信するための送受信装置22、前記送受信装置22により受信した各種情報を前記記録装置21に記録されている所定の演算式により演算するための演算装置23、ディスプレイのような表示装置24、キーボードやマウスなどの入力装置25、並びに前記各装置を制御する制御装置26等を有している。
【0018】
そして、本発明である不審船の判定において、算出の基礎となるものは、一般海域を航行する船舶についてのテロ行為に関する情報を基にして算出される一般海域におけるテロ発生蓋然性および一般海域における船舶の行為から算出される問題性(一般海域における問題船の発生確率)と、船舶の一般海域における保安事項に関する想定事態の重大度とにより算出した一般海域における問題船関心度が挙げられる。
【0019】
ここで、一般海域を航行する船舶についてのテロ行為に関する情報を基にして算出される一般海域におけるテロ発生蓋然性は、基本的に船舶が現時点で有している各種のテロに関する情報を基にして判断されることになり、例えば船名、所有者、運航者、過去の履歴、国籍、船籍港などの船舶基本情報に基づいて確認が可能な基礎的情報、外国船に対する監督による情報(PSC)や各種項目についてのブラックリストなどに基づいて確認される具体的な情報、船舶の保安レベル、寄港情報、入港予定などの船舶保安情報や施設利用情報に基づいて確認される運航情報の単一項目および組み合わせ項目に基づいて予めテロの蓋然性を数値により定めて前記コンピュータ2の記録装置21に記録しておき、航路3の湾口付近の陸上に設置された監視センター4および航路保全船5に設置されたカメラ、レーダ、AIS(船舶自動識別装置)などの入航する船舶6についての情報を取得する監視機器から送受信装置22を介して受信される具体的な情報信号と演算装置23において比較してテロに対する蓋然性の確率(Ps)が算出される。
【0020】
尚、前記一般海域におけるテロ発生蓋然性の判断に用いられる項目の具体例を表1に掲載する。
【0021】
【表1】

【0022】
次に、一般海域における船舶の行為から算出される問題性(一般海域における問題船の発生確率)について詳述する。
【0023】
問題性(一般海域における問題船の発生確率)は一般海域における船舶の行為の違法性、海域における船舶の挙動、船舶の属性についての単一項目および組み合わせ項目に基づいて予め問題性(一般海域における問題船の発生確率)を定めて前記コンピュータ2の記録装置21に記録しておき、前記図1に示した港湾事務所7および保安庁などの取締機関11から入手した具体的情報と前記監視センター4および航路保全船5に設置されたカメラ、レーダ、AIS(船舶自動識別装置)などの入港する船舶6についての情報を取得する監視機器から送受信装置22を介して受信される具体的な情報信号とを比較して演算処理されることで問題性(Pd)が算出される。
【0024】
問題性の判断に用いられる項目の具体例を表2に掲載する。
【0025】
【表2】

【0026】
更に、本発明において、不審船を判定するための算出の基となる船舶の一般海域における保安事項に関する想定事態の重大度について説明する。この想定事態の重大度は、テロ行為などの目的に関するものと、テロ行為などの手段に関するものとが挙げられる。
【0027】
テロ行為などの目的に関する想定事態の重大度としては、一般航路や航行船の船員や乗客、沿岸の重要施設、航路自体、沿岸の市街地などのように危害を加えることが本来の目的ではなく、招来される結果によって更なる影響を広範に及ぼすことが目的である直接的目的と、直接的な危害行為の結果が沿岸の自治体や地域社会、国家のような対象に対して経済的、社会的損失或いは社会不安並びに国際的な信用の失墜を生起させることを目的とする間接的目的とがあり、手段としては、テロ行為を行う船舶、車両、人の種類や武器の種類等が挙げられ、これらの具体的な想定により評価される重要度により船舶の一般海域における保安事項に関する想定事態の重要度(IT)が算出される。
【0028】
船舶の一般海域における保安事項に関する想定事態の重大度についての項目の具体例を表3に掲載する。
【0029】
【表3】

【0030】
このように、本発明である問題船関心度(R)は、テロに対する蓋然性の確率(Ps)、問題性(Pd)および想定事態の重大度(IT)を用いて次式により求められる。
【0031】
(数1)
(R)=(Ps)×(Pd)×(IT
【0032】
次に、本発明における不審船の判定方法についてのシステムの動作を図3に示すフローチャートを用いて説明する。
【0033】
図3は前記図1及び図2に示したコンピュータの2の記録装置21に内蔵されたプログラムにより実施されるものであり、最初に、図1に示した一般海域3において入航してくる船舶6について問題船の判断を行う一般海域におけるテロ発生蓋然性設定フローを用いて一般海域におけるテロ発生蓋然性設定を行うもので、船舶6が入航する際に、或いは入航時に、本システムを開始(スタート)し、プレスクリーニング(事前の篩い分け)が行われる。
【0034】
プレスクリーニングにおいて問題がある場合にはコンピュータ2を介して図1に示す不審船を取り締まる保安庁や海事局などの取締機関11に報告するべき不審船として判定する必要がある船舶6が入航することを通報しておく。
【0035】
そして、前記船舶6についてテロ発生の蓋然性についての確率を予め発生確率が設定された具体的事項につき監視情報と比較することにより算出してテロ発生の蓋然性を設定して一般海域におけるテロ発生蓋然性設定フローを終了する。
【0036】
一方、一般海域におけるテロ発生蓋然性設定フローとは別に、或いは一般海域におけるテロ発生蓋然性設定フローのプレスクリーニングの終了後、問題性算出フローをスタートする。
この問題性算出フローでは最初に前述の如く、前記図1に示した港湾事務所10や保安庁などの取締機関11から入手した具体的情報と前記監視センター4および航路保全船5に設置されたカメラ、レーダ、AIS(船舶自動識別装置)などの監視機器7,8,9により入航する船舶6についての情報をリアルタイムで監視し、予めコンピュータ2の記憶装置22に記録してある一般海域における船舶6の行為の違法性、海域における船舶の挙動、船舶の属性についての単一項目および組み合わせ項目について比較・照合し、問題があるか否かを判断し、問題がある場合にはコンピュータ2を介して図1に示す不審船を取り締まる保安庁や海事局などの取締機関11に問題船としての問題性確率が高いことを通報するとともに問題性確率設定をして問題性確率算出フローを終了する。
【0037】
次に、想定事態の重大度決定・問題船関心度算出フローを用いて、問題船の関心度、即ち、船舶6が不審船であるか否かの最終的な判定を行う。
【0038】
想定事態の重大度決定・問題船関心度算出フローでは、初めに、前記一般海域におけるテロ発生蓋然性設定フローにおいて設定された船舶6についてのテロ発生の蓋然性の大きさと、前記問題性算出フローにより設定された問題性の大きさとを前提にして、前記船舶の一般海域における保安事項に関する想定事態の重大度を算出し、更に、一般海域における問題船関心度を決定してその値の大きさにより問題船であるか否かを判断し、闘値を超えた場合には不審船として判断した旨の情報を取締機関11に通報して終了する。
【0039】
更に、具体的に説明すると、例えば船舶6が前記一般海域におけるテロ発生蓋然性設定フローにおいて設定された前記表1に示した事前の具体的情報に対比して一般海域におけるテロ発生蓋然性を設定する。このとき、例えば、船舶保安情報などに該当する場合には1項目該当すると10%、2項目該当すると20%、3項目該当すると30%、4項目該当すると40%のようにして蓋然性を設定し、特に、ブラックリストに該当する場合は50%、事前の具体的テロ情報に該当する場合には100%となる。
【0040】
従って、本発明は、前記一般海域におけるテロ発生蓋然性設定フローにおいて設定された船舶6についてのテロ発生の蓋然性の大きさと、前記問題性算出フローにより設定された問題性の大きさとを前提にして、前記船舶の一般海域における保安事項に関する想定事項とにより想定事態の重大度を算出し、更に、一般海域における問題船関心度を決定してその値の大きさにより問題船であるか否かを判断し、闘値を超えた場合には不審船として判定するものであり、例えば、最初に決定される前記一般海域におけるテロ発生蓋然性設定フローにおいて設定された船舶6についての設定されたテロ発生の蓋然性の大きさ(例えば100%を越えた場合)だけで想定事態の重大度決定・問題船関心度算出フローにおいて判断される問題船であるか否かの判断における闘値を超える場合にはその一般海域におけるテロ発生蓋然性設定フローにおいて蓋然性の大きさだけの設定で問題船関心度が闘値を超えたとして不審船と判定される。勿論、その後の追跡やフローでの算定は不要である。
【0041】
このように、本発明では、前記一般海域におけるテロ発生蓋然性設定フローにおいて設定された船舶6についてのテロ発生の蓋然性の大きさと、前記問題性算出フローにより設定された問題性の大きさと、船舶の一般海域における保安事項に関する想定事態の重大度を算出し、更に、一般海域における問題船関心度を決定してその値の大きさにより問題船であるか否かを判断するものであり、何れかの時点で予め定めた問題船の関心度の闘値を超えた時点で想定事態の重大度決定・問題船関心度算出フローにおいて判断されるので、その時点で不審船であるとの判定情報を各機関に通報することになる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の形態を行うための好ましいシステム例を示す概略図
【図2】図1に示した本発明の実施の形態を行うためのシステムに使用されるコンピュータのブロック概略図。
【図3】図1に示した本発明の実施の形態を行うためのシステムに使用されるコンピュータの動作を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0043】
1 危機管理センター、2 コンピュータ、3 港湾、4 監視センター、5 航路保全船、6 船舶、7 監視機器、8 監視機器、9 監視機器、10 港湾事務所、11 取締機関


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般海域を航行する船舶全般について船舶自身の属性を基に算出される一般海域におけるテロ発生蓋然性および航行船舶の挙動から算出される問題性(一般海域における問題船の発生確率)と、船舶の一般海域における保安事項に関する想定事態の重大度とにより算出した一般海域における問題船関心度により、問題船であるか否かを判定することを特徴とする不審船の判定手段。
【請求項2】
前記一般海域における航行船舶の挙動から算出される問題性(一般海域における問題船の発生確率)を船舶の違法性、挙動、属性により算出する請求項1記載の不審船の判定手段。
【請求項3】
前記予め想定した前記一般海域における航行船舶の挙動から算出される問題性(一般海域における問題船の発生確率)を算出するための船舶の違法性、挙動、属性についての具体的事例およびそれらの事例における問題船として認定するための重要度を海域、船舶、国際情勢の少なくとも1つによって変更可能とした請求項1または2記載の不審船の判定方法。
【請求項4】
前記一般海域におけるテロ発生蓋然性、問題性(一般海域における問題船の発生確率)および一般海域における保安事項に関する想定事態の重大度が経時的に変化する請求項1,2または3記載の不審船の判定手段。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−206880(P2007−206880A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−23523(P2006−23523)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(505274597)社団法人 日本港湾協会 (7)
【出願人】(505164542)特定非営利活動法人 港湾保安対策機構 (9)
【出願人】(505199913)株式会社シオ政策経営研究所 (9)
【出願人】(506035865)
【出願人】(505199924)
【出願人】(505200046)
【出願人】(505199935)
【Fターム(参考)】