説明

不審行動検知方法および不審行動検知装置

【課題】多様で複雑な行動パターンの監視対象においても客観的な基準でより信頼性の高い不審行動の検知を行うことのできる不審行動検知方法および不審行動検知装置を提供する。
【解決手段】カメラ11から入力される画像内の人物を追尾する追尾部21と、追尾中に、その追尾中の人物の動作が予め定めた基本動作らしさの度合いを示す信頼度を、複数種類の前記基本動作のそれぞれについて繰り返し導出する信頼度導出部25aと、導出された基本動作毎の信頼度を時系列にした基本動作信頼度時系列データを記憶する記憶部22と、記憶されている基本動作信頼度時系列データに基づいて、追尾している人の行動が不審行動であるか否かを判定する不審判定部25cとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラ画像に基づいて監視エリア内での不審行動を検知する不審行動検知方法および不審行動検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の監視システムとしては、監視対象の人物の行動を、予め定義した行動パターンや判定ルールと対比することで、異常行動を検出するものがある(特許文献1、2参照)。たとえば、異常行動パターンとして場所と動作とを定義付けておき、該定義した行動に類似する行動を異常行動として検出する監視システムがある(特許文献3参照)。この監視システムでは、危険領域(歩道や駅のプラットフォーム端部など)におけるふらつき歩行や千鳥足歩行などの動作を異常行動(異常歩行)として検出するようになっている。
【0003】
また、監視対象物を要素(人体の各部分の動き、外観的識別、視認行為回数)単位で解析し、監視対象物の監視項目を細分化した監視要素毎に所定の判定ルールに基づいて判定し、その総合的な判断により警報を出力するシステムがある(たとえば、特許文献4参照。)。また、歩く、屈むなど人の汎用的振る舞いを解析し、この汎用的振る舞いに関する時系列データに基づいて、特定の専用的振る舞いか否かを識別(たとえば、歩く動作から→屈む動作に遷移し、その後、屈む動作がN秒間以上継続すると病気と判定)する画像監視システムがある(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−328622号公報
【特許文献2】特開2006−285399号公報
【特許文献3】特開2007−89105号公報
【特許文献4】特開2006−287884号公報
【特許文献5】特開2006−272488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
先行技術文献にある予め定義した行動パターンや判定ルールとの照合によって不審(異常)行動を検出する方法では、比較的単純で場所・時間・動作が限定される行動パターンの監視には対応できるが、監視対象エリア内で様々な行動パターンが発生する場合にまで対応することは難しい。たとえば、駐車場のような監視エリアでは、人・車両等複数種類のオブジェクトが存在し、監視対象の出入りや動作の自由度が高く、起こり得る行動パターンはバリエーションに富み、個人差もあるため、定義した特定の行動パターンや判定ルールとの照合では、複雑で様々な種類の不審行動に対応することは難しい。
【0006】
また、先行技術文献にある発明では監視対象とする行動パターンの定義や判定ルールの設定はシステムの設計者などが行うので監視対象行動パターンの定義・判定ルールの設定がそのシステム設計者の主観に基づくものになりやすいことや、判定のための制御パラメータが多くてその設定具合にばらつきが出易いことなどから客観的かつ信頼性の高い不審行動の検出を行うことが難しいという問題があった。
【0007】
本発明は、上記の問題を解決しようとするものであり、場所・時間・動作による不審(異常)行動の定義が困難な広域エリアにおいて、多様で複雑な行動パターンの監視対象においても客観的な基準でより信頼性の高い不審行動の検知を行うことのできる不審行動検知方法および不審行動検知装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するための本発明の要旨とするところは、次の各項の発明に存する。
【0009】
[1]処理部が、カメラから入力される画像内の人物を追尾すると共に、前記追尾中に、その追尾中の人物の動作が予め定めた基本動作らしさの度合いを示す信頼度を、複数種類の前記基本動作のそれぞれについて繰り返し導出し、前記基本動作毎の信頼度を時系列にした基本動作信頼度時系列データに基づいて、前記人物の行動が不審行動であるか否かを判定する
ことを特徴とする不審行動検知方法。
【0010】
上記[1]および後述する[8]の発明では、追尾中の各時点で、追尾中の人物の動作が予め定めた基本動作らしさの度合いを示す信頼度を複数の基本動作のそれぞれについて求め、これを時系列にした基本動作信頼度時系列データを作成し、この基本動作信頼度時系列データに基づいて、その人物の行動が不審行動か否かを判定する。基本動作は、「佇む」、「歩く」、「走る」、「屈む」などで人の行動パターンの要素となる動作である。基本動作を時系列に繋ぐことで、人の行動パターンが形成される。
【0011】
各時刻での人の動作をいずれか1つの基本動作に特定する場合には、ある基本動作から別の基本動作へ遷移する間などにおいては基本動作特定精度が低くなる。本発明では、各時刻での人の動作をいずれか1つの基本動作に特定するのではなく、基本動作毎の信頼度を求め、これを時系列にした基本動作信頼度時系列データをもとに、行動パターンを分析して不審行動か否かを判定するので、基本動作遷移時の基本動作特定誤りの影響に左右されずに不審行動を検知することができる。
【0012】
[2]前記基本動作信頼度時系列データが複数人分登録されたデータベースを有し、
前記処理部は、判定対象の人物に関する基本動作信頼度時系列データと前記データベースに登録されている基本動作信頼度時系列データとに基づく統計的手法によって、前記人物の行動が不審行動であるか否かを判定する
ことを特徴とする[1]に記載の不審行動検知方法。
【0013】
上記[2]および後述する[9]の発明では、判定対象人物の追尾中に取得した基本動作信頼度時系列データと、予めデータベースに多数記憶されている基本動作信頼度時系列データとを統計的に対比することで、その人物の行動が不審行動であるか否かが判定される。データベースに記憶されているサンプルデータとの統計的手法による比較によって判定するので、不審行動の行動パターンをシステムの設計者などが定義する場合に比べて、客観的な判定が可能になる。また、不審行動パターンを定義する手間が不要になる。
【0014】
[3]前記データベースは、正常行動に関する前記基本動作信頼度時系列データを登録したものである
ことを特徴とする[2]に記載の不審行動検知方法。
【0015】
上記[3]および後述する[10]の発明では、多数のサンプルを採取可能な正常行動(例えば、人の日常的な行動)に関する基本動作信頼度時系列データをデータベースに登録し、この正常行動の行動パターンと追尾中の人物の行動とが統計的手法で対比されて不審行動か否かの判定が行われる。
【0016】
[4]前記処理部は、統計的手法により、判定対象の人物に関する基本動作信頼度時系列データの、前記データベースに登録されている正常行動に関する基本動作信頼度時系列データからの外れ度合いを導出し、該外れ度合いに基づいて前記人物の行動が不審行動であるか否かを判定する
ことを特徴とする[3]に記載の不審行動検知方法。
【0017】
上記[4]および後述する[11]の発明では、正常行動からの外れ度合いに基づいて、たとえば、外れ度合いが閾値以上の場合に、不審行動と判定する。
【0018】
[5]前記データベースは、不審行動に関する前記基本動作信頼度時系列データを登録したものである
ことを特徴とする[2]に記載の不審行動検知方法。
【0019】
上記[5]および後述する[12]の発明では、不審行動に関する基本動作信頼度時系列データをデータベースに登録し、この不審行動の行動パターンと追尾中の人物の行動とが統計的手法で対比されて不審行動か否かの判定が行われる。たとえば、不審行動パターンとの類似度が閾値以上の場合に、追尾中の人物の行動を不審行動と判定する。
【0020】
[6]前記データベースは、正常行動に関する前記基本動作信頼度時系列データを登録した第1データベースと、不審行動に関する前記基本動作信頼度時系列データを登録した第2データベースとを含み、
前記処理部は、判定対象の人物に関する基本動作信頼度時系列データと前記第1データベースに登録されている基本動作信頼度時系列データとに基づいて前記人物の行動が正常行動である度合いを示す正常度を導出し、前記判定対象の人物に関する基本動作信頼度時系列データと前記第2データベースに登録されている基本動作信頼度時系列データとに基づいて前記人物の行動が不審行動である度合いを示す不審度を導出し、前記正常度と前記不審度とに基づいて前記人物の行動が不審行動であるか否かを判定する
ことを特徴とする[2]に記載の不審行動検知方法。
【0021】
上記[6]および後述する[13]の発明では、正常行動に関する基本動作信頼度時系列データを登録した第1データベースと、不審行動に関する基本動作信頼度時系列データを登録した第2データベースとを備え、これらを併用して不審行動か否かが判定される。
【0022】
[7]前記正常度が第1閾値未満であること、もしくは、前記不審度が第2閾値以上であることの少なくとも一方が真であれば、前記人物の行動は不審行動であると判定する
ことを特徴とする[6]に記載の不審行動検知方法。
【0023】
上記[7]および後述する[14]の発明では、正常行動との類似度合いを示す正常度が第1閾値未満の場合(正常行動ではない場合)と、不審行動との類似度合いを示す不審度が第2閾値以上の場合(不審な行動である場合)とをいずれも不審行動と判定することで、不審行動の検知漏れを低減することができる。
【0024】
[8]カメラから入力される画像内の人物を追尾する追尾部と、
前記追尾部による追尾中に、その追尾中の人物の動作が予め定めた基本動作らしさの度合いを示す信頼度を、複数種類の前記基本動作のそれぞれについて繰り返し導出する導出部と、
前記導出部によって導出された前記基本動作毎の信頼度を時系列にした基本動作信頼度時系列データを記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶されている前記基本動作信頼度時系列データに基づいて、前記人物の行動が不審行動であるか否かを判定する不審判定部と、
を有する
ことを特徴とする不審行動検知装置。
【0025】
[9]前記基本動作信頼度時系列データが複数人分登録されたデータベースを有し、
前記不審判定部は、前記記憶部に記憶されている判定対象の人物に関する基本動作信頼度時系列データと前記データベースに登録されている基本動作信頼度時系列データとに基づく統計的手法によって、前記人物の行動が不審行動であるか否かを判定する
ことを特徴とする[8]に記載の不審行動検知装置。
【0026】
[10]前記データベースは、正常行動に関する前記基本動作信頼度時系列データを登録したものである
ことを特徴とする[9]に記載の不審行動検知装置。
【0027】
[11]前記不審判定部は、統計的手法により、判定対象の人物に関する基本動作信頼度時系列データの、前記データベースに登録されている正常行動に関する基本動作信頼度時系列データからの外れ度合いを導出し、該外れ度合いに基づいて前記人物の行動が不審行動であるか否かを判定する
ことを特徴とする[10]に記載の不審行動検知装置。
【0028】
[12]前記データベースは、不審行動に関する前記基本動作信頼度時系列データを登録したものである
ことを特徴とする[9]に記載の不審行動検知装置。
【0029】
[13]前記データベースは、正常行動に関する前記基本動作信頼度時系列データを登録した第1データベースと、不審行動に関する前記基本動作信頼度時系列データを登録した第2データベースとを含み、
前記不審判定部は、前記記憶部に記憶されている判定対象の人物に関する基本動作信頼度時系列データと前記第1データベースに登録されている基本動作信頼度時系列データとに基づいて前記人物の行動が正常行動である度合いを示す正常度と、前記記憶部に記憶されている前記判定対象の人物に関する基本動作信頼度時系列データと前記第2データベースに登録されている基本動作信頼度時系列データとに基づいて前記人物の行動が不審行動である度合いを示す不審度とを導出し、前記正常度と前記不審度に基づいて前記人物の行動が不審行動であるか否かを判定する
ことを特徴とする[9]に記載の不審行動検知装置。
【0030】
[14]前記不審判定部は、前記正常度が第1閾値未満であること、もしくは、前記不審度が第2閾値以上であることの少なくとも一方が真であれば、前記人物の行動は不審行動であると判定する
ことを特徴とする[13]に記載の不審行動検知装置。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る不審行動検知方法、不審行動検知装置によれば、不審行動について客観的な基準でより信頼性の高い検知を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態に係る不審行動検知装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】不審行動検知装置が行う処理を示す流れ図である。
【図3】オブジェクトデータテーブルを示す説明図である。
【図4】駐車場における人の基本動作を列挙した説明図である。
【図5】基本動作信頼度行列を示す説明図である。
【図6】信頼度導出部が有する、基本動作別信頼度導出部の構成例を示すブロック図である。
【図7】信頼度導出部での処理を示す流れ図である。
【図8】特徴量時系列データの蓄積状態を例示した説明図である。
【図9】特徴量時系列データの取り出し方を示す説明図である。
【図10】基本動作信頼度行列更新処理(図2のステップS14)の詳細を示す流れ図である。
【図11】行動不審度導出判定処理(図2のステップS16、S17)の概要を示す説明図である。
【図12】行動不審度導出判定処理(図2のステップS16、S17)の概要の他の例を示す説明図である。
【図13】不審行動の判定に使用する判定論理表を示す説明図である。
【図14】行動不審度導出部が行う不審度導出処理の一例を示す説明図である。
【図15】行動不審度導出処理(図2のステップS16)のうち不審度を求める部分の処理の詳細を示す流れ図である。
【図16】行動不審度導出処理(図2のステップS16)のうち正常度を求める部分の処理の詳細を示す流れ図である。
【図17】不審度から不審判定を行う行動不審度導出判定処理の詳細を示す流れ図である。
【図18】正常度から不審判定を行う行動不審度導出判定処理の詳細を示す流れ図である。
【図19】人の行動パターンと、その行動パターンに対して導出される正常度、不審度の遷移を例示した説明図である。
【図20】不審行動検知装置の処理部の追尾部が追尾するオブジェクトの状態遷移図である。
【図21】不審行動検知装置の処理部が行うオブジェクトの追尾判別処理の各処理フェーズを示す説明図である。
【図22】追尾判別処理を示す流れ図である。
【図23】探索ブロックによるオブジェクト探索の概略を示す説明図である。
【図24】処理対象の画像(1フレーム分の画像)を複数の分割ブロックに分割した状態の一例を示す説明図である。
【図25】オブジェクト追尾・探索処理(図22;ステップS105)を示す流れ図である。
【図26】探索ブロック発生処理(図25;ステップS122)を示す流れ図である。
【図27】探索ブロックの原点(px0,py0)と中心位置(px,py)との関係を示す説明図である。
【図28】探索ブロックデータテーブルを示す説明図である。
【図29】HSV色空間累積ヒストグラムの一例を示す説明図である。
【図30】適合度更新処理(図25:ステップS123)の詳細を示す流れ図である。
【図31】探索ブロック中心・追尾対象のオブジェクト重心間の距離と適合度との関係を示す説明図である。
【図32】分割ブロック領域ID割り当て処理(図25:ステップS124)の詳細を示す流れ図である。
【図33】探索ブロック消去処理(図25:ステップS125)の詳細を示す流れ図である。
【図34】探索ブロックリサンプリング処理(図25:ステップS128)の詳細を示す流れ図である。
【図35】探索ブロックリサンプリング処理で生成されるルーレットの一例を示す説明図である。
【図36】探索ブロックリサンプリング処理による探索ブロックの置き換え状況の一例を示す説明図である。
【図37】探索ブロック更新処理(図25:ステップS129)の詳細を示す流れ図である。
【図38】交差の前後での探索ブロックによるオブジェクトの追尾・探索状況の一例を示す説明図である。
【図39】人・車両判別処理(図22:ステップS111)の詳細を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態を説明する。
【0034】
図1は、本発明の実施の形態に係る不審行動検知装置10の概略構成を示している。本実施の形態の不審行動検知装置10は、複数の物体や人物が存在する広いエリア内で行動する不審人物を検知する監視カメラシステムである。本実施の形態では、広い駐車場内で不審人物の監視を行う監視カメラシステムを例に説明する。すなわち、カメラ画像内から検出された移動物体が人か車両かを判別し、人であると判別した場合にその行動を解析して不審行動か否かを判定し、不審行動を検知した場合は監視員に対して注意喚起する等の機能を果たす。カメラは広い範囲を撮影しており、その撮影領域内を通過する人の「見え方」は様々に変化し得る。
【0035】
不審行動検知装置10は、監視対象エリアを撮影して画像を取り込むためのカメラ部11と、カメラ部11によって取り込まれた画像を解析して物体を検出し、その物体の追尾・探索および物体の種類の判別、人の行動解析などの処理を行う処理部12と、処理部12の処理結果を出力する出力部14と、当該不審行動検知装置10に対する各種の設定や処理に関する指示の入力を受ける入力部13と、物体の種類の判別や人の行動を解析する際の参照データが蓄積されたデータベース部15とを備えて構成される。カメラ部11、出力部14、入力部13、データベース部15はそれぞれ処理部12に接続されている。以後、画像データにおいて認識された物体はオブジェクトと呼ぶ。
【0036】
カメラ部11は動画を撮影する。カメラ部11は、フレーム毎の画像(1画面分の静止画像)を1秒間に数十フレーム取り込むことで動画を撮影する機能を果たす。処理部12は、CPU(Central Processing Unit)と、このCPUが実行するプログラムやデータが記憶されたROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)などを主要部として構成される。
【0037】
処理部12は、カメラ部11から入力される画像内のオブジェクトを追尾・探索する追尾部21と、記憶部22と、追尾部21によるオブジェクトの追尾中に、そのオブジェクトの特徴情報を抽出し、該特徴情報を示す特徴量データを記憶部22に記憶することを繰り返し行う蓄積制御部23と、記憶部22に記憶されている所定時間長以上のオブジェクトの特徴量データに基づいてオブジェクトの種類を判別する人・車両判別部24と、人と判別されたオブジェクトの特徴量データに基づいてその人の行動を解析する基本動作・行動解析部25の機能を備えている。
【0038】
特徴量データは、たとえば、オブジェクトの形状、大きさ、縦横比、動き等である。特徴量データは時系列に記憶部22に記憶される。蓄積制御部23は、オブジェクトの追尾中は所定の時間間隔で特徴量データを記憶部22に記憶させる。ここでは、フレーム毎に行う。なお、時系列にされた特徴量データを特徴量時系列データとする。
【0039】
追尾部21は、追尾対象のオブジェクト同士の交差や追尾対象のオブジェクトの障害物の背後への一時的な隠れといった現象が発生した場合でも、その前後で同一オブジェクトを同一のオブジェクトとして追尾する機能を備えている。
【0040】
人・車両判別部24は、追尾対象のオブジェクトが人か車両かを判別する機能を果たす。人・車両の判別は公知の任意の手法により行えばよい。
【0041】
基本動作・行動解析部25は、追尾中の人の行動が不審行動であるか否かを判定する機能を果たす。詳細には、信頼度導出部25aと、行動不審度導出部25bと、不審判定部25cとしての機能を果たす。信頼度導出部25aは、人の追尾中の複数時点で、その追尾中の人の動作が予め定めた基本動作(「歩く」、「屈む」など)らしさの度合い(信頼度)を、予め定めた複数種類の基本動作のそれぞれについて導出する。行動不審度導出部25bは、信頼度導出部25aが導出した基本動作毎の信頼度を時系列にした基本動作信頼度時系列データと行動パターン信頼度時系列DB部15dに記憶されている基本動作信頼度時系列データとから、その人物の行動が日常行動(正常行動)である度合い(正常度)、もしくは該正常度に加えて、該人物の行動が不審行動である度合い(不審度)を導出する。不審判定部25cは、行動不審度導出部25bが導出した正常度や不審度に基づいてその人物の行動が不審行動か否かを判定する。
【0042】
データベース部15は、人に関する形状等の特徴量データが蓄積された人特徴DB部15aと、車両に関する形状等の特徴量データが蓄積された車両特徴DB部15bと、人の基本動作に関する特徴量時系列データ等が蓄積された基本動作特徴量時系列DB部15cと、行動パターン信頼度時系列DB部15dとを備えて構成される。行動パターン信頼度時系列DB部15dは、人の日常行動に関する行動パターン(日常行動に関する基本動作信頼度時系列データ)が蓄積された日常行動パターン関連信頼度時系列DB15d1と人の不審行動に関する行動パターン(不審行動に関する基本動作信頼度時系列データ)が蓄積された不審行動パターン関連信頼度時系列DB15d2とを備えて構成される。
【0043】
たとえば、駐車場内での日常行動の行動パターンとしては、車両の近くを通りすぎる、車両から降りて立ち去る、車両に近づきすぐに乗車する、などである。不審行動の行動パターンとしては、車上荒らしや車両盗難などの犯罪行為が行われる際の行動パターンである。たとえば、車両の周りを回ってから乗車する、車両の近くで一定時間以上屈んだ後に乗車する、などは不審行動の行動パターンとなる。
【0044】
人・車両判別部24は、人特徴DB部15aに蓄積されている特徴量データを参照比較してオブジェクトが人か否かの判別を行い、車両特徴DB部15bに蓄積されている特徴量データを参照比較してオブジェクトが車両か否かの判別を行う。
【0045】
信頼度導出部25aは、人と判別されたオブジェクトの過去所定時間における動き等特徴量時系列データと基本動作特徴量時系列DB部15cに蓄積されている予め定めた基本動作に関する特徴量時系列データとから統計的手法により、基本動作毎の信頼度を導出する。基本動作・行動解析部25が導出した基本動作毎の信頼度は、これらを時系列にした基本動作信頼度時系列データとして記憶部22などに記憶される。
【0046】
行動不審度導出部25bは、信頼度導出部25aにより導出される基本動作信頼度時系列データと、行動パターン信頼度時系列DB部15dの日常行動パターン関連信頼度時系列DB15d1に蓄積記憶されている日常行動に関する基本動作信頼度時系列データとから統計的手法により、その人の行動が正常行動である度合いを示す正常度を導出する。もしくは該正常度に加えて、信頼度導出部25aにより導出される基本動作信頼度時系列データと行動パターン信頼度時系列DB部15dの不審行動パターン関連信頼度時系列DB15d2に蓄積記憶されている不審行動に関する基本動作信頼度時系列データとから統計的手法により、その人の行動が不審行動である度合いを示す不審度を導出する。もしくは該不審度に関しては、信頼度導出部25aにより導出される基本動作信頼度時系列データと行動パターン信頼度時系列DB部15dの日常行動パターン関連信頼度時系列DB15d1に蓄積記憶されている日常行動に関する基本動作信頼度時系列データとから統計的手法により、その人の行動の日常行動からの外れ度合いとして、該不審度を導出する。
【0047】
出力部14は、処理結果のデータ信号を外部に出力するためのインターフェース回路、各種設定画面や操作画面、処理結果等を視覚的に表示するためのディスプレイ装置などで構成される。入力部13は、各種の設定や処理に関する指示に係る信号を入力するためのインターフェース回路のほか、各種の操作スイッチなどで構成される。
【0048】
次に、不審行動検知装置10が行う処理について説明する。
【0049】
図2は、不審行動検知装置10が行う処理の流れを示している。なお、追尾部21、記憶部22、蓄積制御部23、人・車両判別部24に関する処理の詳細例は後述する。ここでは、カメラ部11から入力された画像を解析してオブジェクトの追尾が行われ、それら各オブジェクトが人であるか車両であるかが判別されているものとし、基本動作・行動解析部25が行う処理を主として説明する。
【0050】
なお、追尾中の各オブジェクトについて、図3に示すオブジェクトデータテーブル30が作成される。オブジェクトデータテーブル30は、新たなオブジェクトが検出される毎に作成され、そのオブジェクトが消滅するまで1フレームの画像を処理する毎に更新される。
【0051】
オブジェクトデータテーブル30には、オブジェクトID(obj_id)と、オブジェクト種類(obj_typeobj_id)と、オブジェクト状態(obj_stateobj_id)と、オブジェクト不審判定フラグ(suspicious_flagobj_id)と、オブジェクト存在継続時間(obj_timeobj_id)と、オブジェクト領域左端位置(obj_lxobj_id)と、オブジェクト領域右端位置(obj_rxobj_id)と、オブジェクト領域上端位置(obj_tyobj_id)と、オブジェクト領域下端位置(obj_byobj_id)と、オブジェクト領域重心位置(水平方向)(obj_gxobj_id)と、オブジェクト領域重心位置(垂直方向)(obj_gyobj_id)と、オブジェクトの大きさ(obj_sizeobj_id)と、オブジェクトの縦横比(obj_aspectobj_id)と、オブジェクトの動きベクトル(水平方向)(obj_dxobj_id)と、オブジェクトの動きベクトル(垂直方向)(obj_dyobj_id)と、オブジェクト-最近傍車両間距離(obj_car_distobj_id)とが登録される。
【0052】
オブジェクトID(obj_id)は、当該オブジェクトに固有に割り当てられた識別子である。オブジェクト種類(obj_typeobj_id)は、当該オブジェクトが人と判別済みのオブジェクト(以下、人オブジェクトとも呼ぶ。)であるか車両と判別済みのオブジェクト(以下、車両オブジェクトとも呼ぶ。)であるか未判別のオブジェクトであるかを示す。オブジェクト状態(obj_stateobj_id)は、当該オブジェクトの状態が、追尾中(ACTIVE)か一時的な消失中(LOST)かなどを示す。不審判定フラグ(suspicious_flagobj_id)は、当該オブジェクトが人の場合にセットされ不審者(不審行動を行った人)と判定された人オブジェクトか否かを示す。オブジェクト-最近傍車両間距離(obj_car_distobj_id)は、当該オブジェクトが人の場合にセットされ、最も近い車両までの距離を示す。
【0053】
図2に戻って説明を続ける。処理部12は、フレーム時刻tを0に初期化した(ステップS1)後、追尾中のオブジェクトの中に人と判別されたオブジェクト(人オブジェクト)が存在するか否かを確認する(ステップS2)。追尾中の人オブジェクト(追尾人物)が存在しなければ(ステップS3;No)、フレーム時刻tを+1して(ステップS22)、ステップS2に移行して処理を継続する。なお、処理部12は、ステップS2〜S22の処理を、カメラ部11から1フレームの画像(もしくは所定の複数フレーム)を取り込む毎に実行する。
【0054】
追尾中の人オブジェクト(追尾人物)が存在すれば(ステップS3;Yes)、消滅した人オブジェクト(消滅人物)が存在するか否かを確認する(ステップS4)。消滅した人オブジェクトが存在しない場合は(ステップS4;No)、ステップS9へ移行する。消滅した人オブジェクトが存在する場合は(ステップS4;Yes)、消滅したすべての人オブジェクトのオブジェクトデータテーブル30をクリアして(ステップS5〜S8)、ステップS9へ移行する。
【0055】
ステップS9では、処理対象の人オブジェクトの番号を示す変数iを0にクリアし、追尾している人オブジェクトのそれぞれについてステップS10〜S21の処理を行う。すなわち、不審判定フラグ(suspicious_flagobj_id(i))がON状態(ONは不審者を示す)か否かを調べ(ステップS10)、ONでなければ(ステップS10;No)、当該人オブジェクトに関する特徴量時系列データを更新する(ステップS11)。ここでは、フレーム毎のオブジェクトデータテーブル30の内容(全部もしくは一部(上下左右の端位置、重心位置、動きベクトル、大きさ、縦横比、オブジェクト-最近傍車両間距離など))が、その人オブジェクトの特徴量データとされ、時系列にして(特徴量時系列データとして)記憶部22に保存される。
【0056】
次に、特徴量時系列データがT時間分以上蓄積されているか否かを調べ(ステップS12)、蓄積量がT時間分に満たない場合は(ステップS12;No)、ステップS20へ移行する。T時間分以上蓄積されている場合は(ステップS12;Yes)、T時間分以上蓄積された特徴量時系列データに基づいて、当該人オブジェクトの動きに関して、予め定めた基本動作毎の信頼度を導出する基本動作信頼度導出処理を行う(ステップS13)。
【0057】
図4は、駐車場における人の基本動作を列挙したものである。ここでは「佇む」、「歩く」、「走る」、「屈む」、「乗車(消失)」、「降車(出現)」を基本動作とする。基本動作「佇む」の信頼度をRstand、基本動作「歩く」の信頼度をRwalk、基本動作「走る」の信頼度をRrun、基本動作「屈む」の信頼度をRbend、基本動作「乗車(消失)」の信頼度をRinto_car、基本動作「降車(出現)」の信頼度をRoutof_car、とする。
【0058】
続いて、求めた基本動作毎の信頼度により、基本動作信頼度時系列データを更新する(図2、ステップS14)。ここでは、対象となる各基本動作の最新T時間分の信頼度を、図5に示すような基本動作信頼度行列にして記憶しかつ更新する。なお、T>Tとする。たとえば、Tは10秒、Tは1秒に設定される。
【0059】
続いて特徴量時系列データ(基本動作信頼度時系列データ)がT時間分以上蓄積されているか否かを調べ(ステップS15)、蓄積量がT時間分に満たない場合は(ステップS15;No)、ステップS20へ移行する。T時間分以上蓄積されている場合、すなわち、基本動作信頼度行列にT時間分の基本動作信頼度データが蓄積された場合は(ステップS15;Yes)、該基本動作信頼度行列として蓄積された基本動作信頼度時系列データに基づいて、当該人オブジェクトの行動に関する不審度(あるいは正常度と不審度)を導出する行動不審度導出処理を行う(ステップS16)。
【0060】
求めた不審度、あるいは正常度および不審度に基づいて不審行動か否かを判定し、不審行動であると判定した場合は(ステップS17;Yes)、不審判定フラグ(suspicious_flagobj_id(i))をONにし(ステップS18)、アラーム表示を行って(ステップS19)、ステップS20へ移行する。なお、ここでは、不審度に基づく判定の場合は、不審度が所定の閾値Th以上である場合に不審行動であると判定する。正常度と不審度に基づく判定では、正常度が所定の閾値Th未満であることと不審度が所定の閾値Th以上であることのいずれかが真の場合は不審行動であると判定する。
【0061】
不審判定フラグ(suspicious_flagobj_id(i))が既にONになっている場合は(ステップS10;Yes)、アラーム表示を行って(ステップS19)、ステップS20へ移行する。
【0062】
ステップS20では、変数iを+1し、加算後の変数iが追尾中の全人オブジェクトの数に等しいか否かを調べ(ステップS21)、等しくない場合は(ステップS21;No)、ステップS10に戻り、次の人オブジェクトについて処理を行う。等しい場合は(ステップS21;Yes)、フレーム時刻tを+1し(ステップS22)、ステップS2に戻って次フレーム画像に対する処理を行う。
【0063】
次に、基本動作信頼度導出処理(図2のステップS13)について説明する。
【0064】
図6は、信頼度導出部25aが有する、基本動作別信頼度導出部26の構成例を示している。図6の基本動作別信頼度導出部26は1つの基本動作に関する信頼度を求めるための構成であり、信頼度導出部25aは、対象とする基本動作の数だけ基本動作別信頼度導出部26を備えている。
【0065】
基本動作別信頼度導出部26は、複数個(ここではMf個)の判別器27と、これらMf個の判別器27の出力値にそれぞれ重み係数を乗じた値を加算(荷重和)する加算器28を備えている。加算器28の出力Rは予め定めた特定の基本動作に対する信頼度である。判別器27はそれぞれ、当該基本動作別信頼度導出部26が対象とする基本動作(たとえば、「屈む」)か否かの判別に寄与するいずれかの特徴量データに関して、所定時間分の特徴量時系列データセット(たとえば、T時間分(時系列にされたT個)の特徴量データセット)として入力し、該当の基本動作らしさの度合いを示す数値を信頼度Rとして出力する。たとえば、判別器27は、オブジェクトの形状、大きさ、移動速度、移動パターンなどの特徴量データ別に設けられ、各判別器27はその判別器27に寄与する特徴量の時系列データセットに基づいて基本動作らしさを判定する。各判別器27は、対象とする基本動作を行う人の動きの多数のサンプル等によってあらかじめチューニング(重み係数α〜αMfを調整)されている。ここでは、対象の基本動作である可能性が高いほど、Mf個の判別器27の出力の荷重和Rが大きな値となるようにされている。
【0066】
図7は、信頼度導出部25aでの処理を流れ図として示したものである。同図においてiは信頼度を求める基本動作の識別番号であり、mは各判別器27の識別番号である。図7では、1つの基本動作についての信頼度を求める処理(ステップS34〜S37)を、基本動作の個数分繰り返すようになっている。詳細には、変数iを1に初期化し(ステップS31)、i番目の基本動作に関する信頼度Rを0に初期化し(ステップS32)、変数mを1に初期化する(ステップS33)。S34〜S37では、Mf個の判別器27の出力値にそれぞれ重み係数を乗じた値を加算している。
【0067】
図8は、特徴量時系列データの蓄積状態を例示している。特徴量時系列データの記憶領域Fは、現在時刻から最大でLmax時間前までの特徴量データを時系列に保存するようになっている。なお、Lmax>T>Tとする。記憶領域Fは、たとえば、記憶部22に設けられる。同図(a)は、基本動作信頼度の導出に必要なT時間長の特徴量時系列データが蓄積された状態を示している。記憶領域Fは詰まっておらず、空き領域がある。同図(b)は、行動パターン不審判定に必要なT時間長の特徴量時系列データが蓄積された状態を示している。記憶領域Fはまだ詰まっておらず、空き領域がある。同図(c)は、記憶領域Fに特徴量時系列データが詰まった状態を示している。以後は、1つずつ左へシフトされて最も古いデータが廃棄され、右端の空いた領域に最新のデータが記憶される。すなわち、FIFO(First in First out)形式で記憶内容の更新が行われる。
【0068】
図9は、信頼度導出部25a(各基本動作別信頼度導出部26の判別器27)に入力する、時間長T分の特徴量時系列データを、図8の記憶領域Fから取り出す際の、取り出し方を例示している。図9(a)は、時間長Tの時系列区間毎に区切って入力する場合を、図9(b)は、時間長Tの時系列区間(ウィンドウ)をスライドさせて入力する場合を示している。
【0069】
図10は、基本動作信頼度行列更新処理(図2のステップS14)の詳細を示している。まず、記憶領域Fに保存されている時間長Tの時刻データの個数Nta_dataを確認する(ステップS51)。ここで、「時刻データ」とは、図2に記載されているフレーム時刻tを基準とする、該基準時刻tより過去T時間長分のデータ(基準時刻tにおける基本動作信頼度行列データ)である。ステップS51で時刻データの個数Nta_dataを確認した後、該Nta_data個分の時間長Tの基本動作信頼度行列データの更新を行う(ステップS52〜S62)。
【0070】
図11は、行動不審度導出判定処理(図2のステップS16、S17)に関する処理の概要を示している。図11では、行動不審度導出部25bは、日常行動パターン関連信頼度時系列DB15d1に保存されている多数の日常行動に関する行動パターンデータ(基本動作信頼度時系列データ(基本動作信頼度行列))をもとに所定の統計処理を行って代表となる日常行動パターン(代表日常行動パターン)を導出し、これと処理対象の時刻tにおける基本動作信頼度行列とを比較し、処理対象の基本動作信頼度行列が示す行動パターンの代表日常行動パターンからの外れ度合いを、不審度として導出する、といった処理を行う。不審判定部25cは、行動不審度導出部25bの出力する不審度が予め定めた閾値Th以上の場合は、不審行動であると判定する。
【0071】
図12は、行動不審度導出判定処理(図2のステップS16、S17)に関する処理の概要の他の例を示している。図12では、行動不審度導出部25bは正常度導出処理部25b1と不審度導出処理部25b2とから構成される。正常度導出処理部25b1には時刻tにおける基本動作信頼度行列と日常行動パターン関連信頼度時系列DB15d1に記憶されている基本動作信頼度時系列データ(基本動作信頼度行列)が入力され、不審度導出処理部25b2には時刻tにおける基本動作信頼度行列と不審行動パターン関連信頼度時系列DB15d2に記憶されている基本動作信頼度時系列データ(基本動作信頼度行列)が入力される。
【0072】
正常度導出処理部25b1は、日常行動パターン関連信頼度時系列DB15d1に保存されている多数の日常行動に関する行動パターンデータ(基本動作信頼度時系列データ(基本動作信頼度行列))をもとに所定の統計処理を行って代表となる日常行動パターン(代表日常行動パターン)を導出し、これと処理対象の時刻tにおける基本動作信頼度行列との比較から、代表日常行動パターンに対する処理対象の基本動作信頼度行列が示す行動パターンの類似度を、正常度として導出する、といった処理を行う。
【0073】
不審度導出処理部25b2は、不審行動パターン関連信頼度時系列DB15d2に保存されている不審行動に関する行動パターンデータ(基本動作信頼度時系列データ(基本動作信頼度行列))をもとに所定の統計処理を行って代表となる不審行動パターン(代表不審行動パターン)を導出し、これと処理対象の時刻tにおける基本動作信頼度行列との比較から、代表不審行動パターンに対する処理対象の基本動作信頼度行列が示す行動パターンの類似度を、不審度として導出する、といった処理を行う。
【0074】
不審判定部25cは、正常度導出処理部25b1が出力する正常度と不審度導出処理部25b2が出力する不審度に基づいて判定対象の人の行動が不審行動であるか否かを判定する。図13は、この判定に使用する判定論理表40を示している。不審度が閾値Th以上である条件と正常度が閾値Th未満である条件の少なくとも一方が満足される場合は不審行動であると判定する。
【0075】
図14は、行動不審度導出部25bが行う不審度導出処理の一例を示している。このうち図14(a)は、図11で説明した手法の概要を示している。すなわち、日常行動パターン関連信頼度時系列DB15d1に保存されている多数の日常行動に関する行動パターンデータに対して所定の統計処理を行って代表日常行動パターン(unormal:日常行動パターンDB代表行列)を導出し、基本動作信頼度行列(mtx_rel ref_t:時刻tにおける基本動作信頼度行列)が示す行動パターンの代表日常行動パターンからの外れ度合い(距離:dist (u normal,mtx_rel ref_t))を、不審度(S ref_tsuspicious)として導出する。図14(b)は、図12で説明した手法の概要を示している。すなわち、不審行動パターン関連信頼度時系列DB15d2に保存されている不審行動パターンデータに対して所定の統計処理を行って導出される代表不審行動パターンを示す代表行列と、時刻tにおける基本動作信頼度時系列データ(基本動作信頼度行列)との類似度を不審度として求めている。これらの手法は一例であり、他の手法により不審度や正常度を求めてもかまわない。
【0076】
図15、図16は、行動不審度導出処理(図2のステップS16)の詳細を示している。図15は不審度を、図16は正常度をそれぞれ導出する処理である。いずれの処理においても、まず、記憶領域Fに保存されている時間長Tの時刻データの個数Nta_dataを確認する(図15:ステップS71、図16:ステップS81)。そして、Nta_data個分の時間長Tの基本動作信頼度行列データが表わす行動パターンの不審度・正常度を導出する(図15:ステップS72〜S78、図16:ステップS82〜S88)。不審度についてはNta_data個のデータの中での最大値をサーチし、不審度最大値を最終的な不審度として導出している。正常度についてはNta_data個のデータの中での最小値をサーチし、正常度最小値を最終的な正常度として導出している。
【0077】
この場合は、図15、図16の処理で導出した不審度最大値、正常度最小値を以って、行動不審判定処理(図2のステップS17)において、図13の判定論理表に基づき、人の行動の不審・正常判定を行う。
【0078】
図17、図18は、図2の行動不審度導出処理(ステップS16)と行動不審判定処理(ステップS17)とを統合して処理の高速化を図った行動不審度導出判定処理を示している。図17は不審度から不審判定を行う処理を、図18は正常度から不審判定を行う処理をそれぞれ示している。図15、図16に示す処理と同一部分には同一のステップ番号を付してある。図15、図16に示す処理との相違点は、不審判定閾値Th・Thに基づく条件を1つでも満たす時刻データが存在した時点で(図17:ステップS75A;Yes、図18:ステップS85A;Yes)、「不審」と判定して(図17:ステップS75B、図18:ステップS85B)処理を終了させる点である。なお、図13の判定論理表40に従う場合には、不審度・正常度のどちらか一方のみでも不審判定閾値条件を満たせば「不審」と判定して図17、図18の両処理を終了させるようにすればよい。
【0079】
図17、図18に示す処理では、記憶領域Fに保存されている全時刻データを確認する図15、図16に示す処理方式と比較して、処理の高速化を図ることができる。一方、図15、図16に示す処理では全保存時刻データについて処理を行うため、図17、図18に示す処理方式と比較して、行動不審・正常判定の信頼性を高めることができる。
【0080】
図19は、人の行動パターンと、その行動パターンに対して導出される正常度、不審度の遷移を例示している。同図(a)は人がカメラ撮影エリア内(検出対象エリアシーン中)に出現した状態であり、このときの正常度は高く、不審度は低くなっている(時刻T1)。同図(b)は追尾中の人が車両を周回している場合であり、このとき不審度は高くなっている(時刻T2)。同図(c)は追尾中の人が車両のドア前に屈みドア鍵をこじ開けようとしている場合であり、このとき不審度が高くなっている(時刻T3)。同図(d)は追尾中の人がドアを開けた後、車両内へ侵入した場合であり、このとき不審度が高くなっている(時刻T4)。
【0081】
たとえば、Tを10秒に設定すれば、その10秒の間の行動パターンと日常行動パターンDBあるいは不審行動パターンDBとの対比から正常度・不審度が導出されて不審行動か否かが判定される。
【0082】
不審行動と判定した場合には、たとえば、モニタに表示される監視画像上の該当人物の部分に警告マークを表示するなどの処理が行われる。
【0083】
このように、駐車場内等での人の基本動作(「歩く」、「走る」、「屈む」、「佇む」など)に着目し、各時刻での人の動作をいずれか1つの基本動作に特定するのではなく、基本動作毎の信頼度を求め、これを時系列にした基本動作信頼度時系列データ(基本動作信頼度行列)をもとに、行動の不審度や正常度を導出するので、より信頼性の高い不審行動の検知ができる。なお、各時刻で、人の動作をいずれか1つの基本動作に特定する場合には、基本動作から別の基本動作へ遷移する間などにおいては基本動作特定精度が低くなるので、いずれか1つの基本動作に特定することが、その後の行動パターンの正常・不審判定精度を低下させてしまう。
【0084】
また、本発明では、蓄積された日常行動パターンデータや不審行動パターンデータ(事実としてのサンプルデータ)と、追尾中の人の行動パターンデータとから統計的手法によって不審度や正常度を導出して不審行動か否かを判定するので、判定ルールをシステム設計者などが設定する場合と異なり、主観的な要素が入り難く、客観的な判定が可能になる。 特に、日常行動に関する行動パターンのデータは多数採取することができるので、日常行動パターンとの対比による判定の信頼性は高い。
【0085】
また、判定ルールなどを定める場合と異なり、多くの条件(制御パラメータ)を設定する必要がなく、設定に関する手間が削減される。また設定する条件が少ないので、条件設定に基づく判定結果のばらつきが減り、判定の客観性も高まる。本実施の形態では、設定すべき制御パラメータは、図11の判定を行う場合はT,Tb、Thのみとなり、図12の判定を行う場合はT,Tb、Th、Thのみとなっている。
【0086】
次に、追尾部21、記憶部22、蓄積制御部23によるオブジェクトの追尾方法について説明する。
【0087】
この追尾方法では、追尾対象のオブジェクト同士の交差や追尾対象のオブジェクトの障害物の背後への一時的な隠れといった現象が発生した場合でも、その前後で同一オブジェクトを同一のオブジェクトとして追尾することができるようになっている。なお、以下に示す追尾方法は、一例であり、追尾方法はこれに限定されるものではない。
【0088】
図20は、不審行動検知装置10の追尾部21が追尾するオブジェクトの状態遷移を表している。オブジェクトの状態は、未検出であるUNDETECTEDと、UNDETECTEDの状態で検出されたオブジェクトが追尾対象たり得るオブジェクトか否かを判定中のPENDING、追尾対象のオブジェクトと認定されかつ追尾成功中のACTIVE、追尾対象のオブジェクトであるが追尾失敗中(消失中あるいは探索中)のLOST、の4状態で管理される。
【0089】
オブジェクト未検出の間はUNDETECTED状態が継続する(図中のE1)。UNDETECTED状態でオブジェクトが検出されるとPENDING状態に移行する(E2)。PENDING状態ではその継続時間を計時しており(E4)、PENDING状態で所定時間(PENDING_TIME)が経過するとそのオブジェクトはACTIVE状態に遷移する(E5)。PENDING状態からACTIVE状態に遷移する前に画像から消滅したオブジェクトはUNDETECTED状態に遷移し(E3)、追尾対象から外される。
【0090】
ACTIVE状態ではその継続時間を計時している(E6)。ACTIVE状態のオブジェクトの追尾に失敗(当該オブジェクトが消失)するとそのオブジェクトはLOST状態に遷移し、ACTIVE状態の継続時間はリセットされる(E7)。LOST状態でもその継続時間を計時しており(E9)、継続時間が所定時間(LOST_TIME)経過すると、該オブジェクトは追尾対象から外されUNDETECTED状態になる(E10)。LOST状態になってから所定時間(LOST_TIME)内に探索ブロックによる探索によって見出(検出)されたオブジェクトはACTIVE状態に戻る(E8)。
【0091】
図21は、不審行動検知装置10の処理部12が行うオブジェクトの追尾判別処理の各処理フェーズを示している。図22は追尾判別処理の流れを示している。追尾判別処理では、オブジェクトの追尾と各オブジェクトが車両か人かの判別とを行う。図21に示すように、追尾判別処理は、オブジェクト検出フェーズP1と、オブジェクト追尾・探索フェーズP2と、人・車両判別フェーズP3と、人オブジェクト抽出フェーズP4で構成される。オブジェクト検出フェーズP1は図22の流れ図のステップS102〜S104が対応し、オブジェクト追尾・探索フェーズP2はステップS105〜S110が対応し、人・車両判別フェーズP3はステップS111が対応し、人オブジェクト抽出フェーズP4はステップS112、S113が対応する。なお、図22の破線で示す処理SAにおいて、図2のステップS2からS21の処理を行うようにすれば、追尾と不審行動の検知とが1フレーム毎に行われるようになる。
【0092】
<オブジェクト検出フェーズP1>
まず、フレーム時刻tを0に初期化し(図22;ステップS101)、続いて、カメラ部11によって取り込まれた処理対象の画像内からオブジェクト候補領域を検出する(ステップS102)。オブジェクト候補領域の検出は、フレーム間の差分処理、二値化処理など公知の手法により行う。
【0093】
次に、処理対象の画像内においてオブジェクト候補領域が1つ以上検出されたかどうかを確認する(ステップS103)。1つ以上のオブジェクト候補領域が検出された場合は(ステップS103;Yes)、ステップS105へ移行する。オブジェクト候補領域が1つも検出されなかった場合は(ステップS103;No)、状態がLOSTのオブジェクト(以後、これをLOSTオブジェクトと呼ぶ。)が存在するか否かを確認する(ステップS104)。LOSTオブジェクトは、過去に追尾対象として検出されたオブジェクトが消失(追尾失敗)し、消失状態の継続時間が所定時間(LOST_TIME)未満のオブジェクトであり、後述する探索ブロックによって探索中のオブジェクトである。
【0094】
1つ以上のLOSTオブジェクトが存在する場合は(ステップS104;Yes)、ステップS110へ移行する。LOSTオブジェクトが1つも存在しない場合は(ステップS104;No)、フレーム時刻t=t+1として(ステップS114)、ステップS102に戻り、カメラ部11によって取り込まれる次のフレームの画像に対して同様の処理を行う。このように、オブジェクト検出フェーズP1は、オブジェクト候補領域が1つ以上存在するか否かを確認し、存在しない場合はオブジェクト候補領域が検出されるのを待つ状態である。
【0095】
<オブジェクト追尾・探索フェーズP2>
ステップS105では、オブジェクト検出フェーズP1にて検出されたオブジェクト候補領域に対する追尾・探索処理を行う。オブジェクト追尾・探索処理では、前時刻の画像内のオブジェクトと現在時刻の画像内のオブジェクトとの対応付けを行う追尾処理と、隠れや交差により消失したオブジェクトを探索する探索処理とが行われる。追尾処理は動きベクトルなど公知の手法により行う。
【0096】
消失したオブジェクトを探索するための探索処理は、新規に検出した追尾対象のオブジェクトに対して、その重心周辺に複数の探索ブロックを発生させ、その後は各探索ブロックを追尾対象のオブジェクトに追従させて移動させ、オブジェクト領域内の局所領域(ここでは、探索ブロック単位の領域)に着目して追尾を行う。探索ブロックは、オブジェクトを追尾・探索する際の単位領域である。消失したオブジェクトの探索が所定時間(LOST_TIME)内に成功しなかった場合は、探索しているオブジェクトは消滅したものとみなしてUNDETECTEDの状態にし、追尾対象から外す。オブジェクト追尾・探索処理の詳細は後述する。
【0097】
オブジェクト追尾・探索処理にて追尾・探索に成功したオブジェクト(ACTIVE状態のオブジェクト)については、形状、動き、テクスチャ等の特徴情報を抽出(算出)する(ステップS106)。形状や動きなどオブジェクトの特徴情報の抽出は公知の任意の手法で行えばよい。抽出したオブジェクトの特徴情報を示す特徴量データは順次、記憶部22に蓄積し、時系列データとして更新あるいは新規に生成する(ステップS107)。オブジェクト毎の時系列に蓄積された特徴量データは、そのオブジェクトが人か車両かの判別に利用される。
【0098】
その後、追尾対象のオブジェクトが既に車両と判別済みのオブジェクトであれば(ステップS108;Yes)、フレーム時刻t=t+1として(ステップS114)、ステップS102に戻り、カメラ部11によって取り込まれる次のフレームの画像について同様の処理を行う。追尾対象のオブジェクトが既に人と判別されており、かつそのオブジェクトが画像内に存在している(追尾・探索に成功している)場合は(ステップS109;Yes)、ステップS113の人オブジェクト抽出処理へ移行する。
【0099】
追尾しているオブジェクトが車両、人のいずれにも判別されていない場合は(ステップS109;No)、追尾オブジェクトに関して、図20の状態遷移に従って各オブジェクトの状態(ステータス)の更新と、オブジェクト継続時間obj_timeのインクリメント更新を行い(ステップS110)、人・車両判別処理(ステップS111)に移行する。
【0100】
<人・車両判別フェーズP3>
人・車両判別処理では、オブジェクト追尾・探索フェーズP2により蓄積記憶された追尾対象のオブジェクトの時系列の特徴量データ(特徴量時系列データ)をもとに、追尾対象オブジェクトが人であるか、車両であるかの判別を行う(ステップS111)。人・車両判別処理は適宜の公知の手法により行う。
【0101】
<人オブジェクト抽出フェーズP4>
人・車両判別フェーズP3にて追尾対象のオブジェクトが人であると判別した場合は(ステップS112;Yes)、人オブジェクト抽出処理(ステップS113)に移行し、人と判別できなかった場合は(ステップS112;No)、フレーム時刻tをインクリメント更新し(ステップS114)、ステップS102に戻り、カメラ部11によって取り込まれる次のフレームの画像に対して同様の処理を行う。
【0102】
人オブジェクト抽出処理では、監視員にその人物の所在位置を分かりやすい形式で伝え、監視注意を促す(ステップS113)。たとえば、カメラ部11からの画像を出力部14のディスプレイ装置に表示する際に、検出した人物の箇所を赤枠で囲って表示する等を行う。その後、フレーム時刻tをインクリメント更新し(ステップS114)、ステップS102に戻って処理を継続する。抽出された人オブジェクトに対して不審行動検知処理(図2のステップS2からS21の処理)が行われる。
【0103】
次に、図22のステップS105のオブジェクト追尾・探索処理の詳細を説明する。
【0104】
オブジェクト追尾・探索処理では、公知の手法によりオブジェクトの追尾と、追尾に失敗(消失)したオブジェクト(LOSTオブジェクト)の探索が行われる。探索は、消失した追尾対象のオブジェクトを追尾するように移動する複数の探索ブロックによって行われる。
【0105】
図23は、探索ブロックによる探索の概略を示している。新規に検出された追尾対象のオブジェクトA(図23の例では人物A)に対して、そのオブジェクトAを追尾対象とする所定サイズの探索ブロックDを複数発生させると共にこれらの各探索ブロックDにその追尾対象のオブジェクトAの特徴情報を対応付けて記憶する(t1)。図23では、斜線を施した各矩形領域が探索ブロックDである。なお、追尾対象の各オブジェクトにはそのオブジェクトを一意に特定する識別情報として固有のオブジェクトIDを割り当ててあり、各探索ブロックにその追尾対象のオブジェクトのオブジェクトIDを登録することで、追尾対象のオブジェクトと探索ブロックとを関連付けする。
【0106】
その後は、前時刻のフレームの画像と現在時刻のフレームの画像とのマッチング等の既存の手法によりオブジェクトの追尾を行うと共に、各探索ブロックDをその追尾対象のオブジェクトを追尾するように(オブジェクトの動きベクトルに追従するように)移動させる(図23;t2)。
【0107】
交差や隠れによってオブジェクトの追尾に失敗した場合(消失した場合)は(図23;t3)、そのオブジェクトを追尾対象とする探索ブロックDの移動を所定の移動ルールに従って継続させる。たとえば、ランダムに移動させる、あるいは消失前のオブジェクトの動きにランダムな動きを合成した動きで移動を継続させる。図23では、時刻t3においてオブジェクトAが障害物61の背後に隠れており、各探索ブロックDは、現在時刻までのオブジェクトAの動きとランダムな動きとを合成した動きで移動している。オブジェクトAの消失前の動きの影響は次第に少なくなりランダムな動きが支配的になり、探索ブロックは次第に広い範囲に分散するように移動する(t4)。なお、図23では、時刻t3における各探索ブロックに「t3」の文字を、時刻t4における各探索ブロックに「t4」の文字を付してある。
【0108】
このように、消失したオブジェクトを探索するように継続的に移動させている探索ブロックの位置(存在領域)にオブジェクトが存在する場合は、そのオブジェクトの特徴情報と各探索ブロックに対応付けて記憶されている追尾対象のオブジェクトの特徴情報とを比較し、該比較結果に基づいて、その探索ブロックの位置に存在するオブジェクトがその探索ブロックの追尾対象のオブジェクトであるか否かを判断する。追尾対象のオブジェクトであればそのオブジェクトに当該探索ブロックに登録されている追尾対象のオブジェクトのオブジェクトIDを割り当てる。これにより、消失の前後で同一オブジェクトを同一オブジェクトとして追尾するようになる。
【0109】
図23の例では時刻t4に探索ブロックD1によってオブジェクトAが見出(検出)される。追尾対象のオブジェクトが消失した後は、各探索ブロックはランダムな動きが支配的となって移動し拡散しているので、仮にオブジェクトAが破線で示したA’の位置に現れた場合は、その位置に移動していた探索ブロックD2によって発見されることになる。こうして、交差や障害物の背後への一時的な隠れが発生してもその前後で同一のオブジェクトを同一オブジェクトとして(同じオブジェクトIDで)追尾するようになっている。
【0110】
本実施の形態では、図24に示すように、処理対象の画像(1フレーム分の画像)を複数の小領域(分割ブロックBk)に分割し、オブジェクトを分割ブロック単位で捉える。これにより、追尾に係る計算量が軽減される。ここでは、各分割ブロックBkが矩形となるように処理対象の画像を格子状の境界線で分割している。
【0111】
図24の例では、オブジェクトAは、斜線を施した33個の矩形の分割ブロックBkに分けられる。オブジェクトAの追尾・探索は分割ブロックBk単位に行われる。これら33個の分割ブロックBkの集合体としてオブジェクトAは認識され、オブジェクトA全体としての形状や重心位置、動きなどの特徴情報が把握される。ここでは、分割ブロックBkの中に占めるオブジェクトの面積が所定の占有率以上(たとえば、50パーセント以上)の場合に、その分割ブロックをオブジェクトの存在する分割ブロックとみなしている。
【0112】
図25は、オブジェクト追尾・探索処理(図22;ステップS105)の流れを示している。オブジェクト追尾(図25;ステップS121)では、新規に検出されたオブジェクトについてオブジェクトIDを割り当てると共に図3に示すようなオブジェクトデータテーブル30を生成する。
【0113】
過去時刻において検出済みで既にオブジェクトIDが割り当てられているオブジェクトについては、動きベクトルなど公知の手法により、前時刻の画像内のオブジェクトと現在時刻の画像内のオブジェクトとの対応付け等の手法により追尾する。
【0114】
次に、新たに追尾対象となったオブジェクトについて探索ブロックを発生させる探索ブロック発生処理を行う(ステップS122)。探索ブロック発生処理の詳細は図26に示してある。処理対象の画像内に存在する、状態(ステータス)がACTIVEであって(ステップS142;Yes)当該オブジェクトを追尾対象とする探索ブロックが0個のオブジェクト(ステップS143;Yes)について、そのオブジェクト領域の重心周辺に複数の探索ブロックを発生させる(ステップS144〜S155)。
【0115】
探索ブロックは、追尾対象のオブジェクトを追尾・探索する際の単位領域であり、探索ブロックを単位として、その探索ブロックの存在領域に存在するオブジェクトがその探索ブロックが追尾対象としているオブジェクトか否かが判断される。探索ブロックは、追尾対象のオブジェクトが存在する分割ブロック毎に所定(BLOCKFACTOR)個ずつ発生させる。すなわち、追尾対象のオブジェクトのサイズに応じた数の探索ブロックを発生させる。BLOCKFACTOR個は1個以上で任意に設定変更可能な数であり、分割ブロックの領域サイズと探索ブロックの領域サイズとの比率等に基づいて適宜の個数に設定すればよい。たとえば、BLOCKFACTOR個は2〜5個に設定される。図27は、探索ブロックの原点(px0,py0)と中心位置(px,py)との関係を示している。探索ブロックはBLOCK_SIZE×BLOCK_SIZEの画素領域となっている(図27の例では5×5画素の領域)。ここでは、探索ブロックを矩形としたが、探索ブロックの形状はこれに限定されず、円など他の形状であってもかまわない。
【0116】
また、発生させた探索ブロック毎に図28に示すような探索ブロックデータテーブル70を生成する。探索ブロックデータテーブル70には、対応する探索ブロックの属性を示す情報が登録される。発生時に初期値として以下の値等を探索ブロックデータテーブル70に登録する。
【0117】
・オブジェクトID:obj_id → 追尾対象のオブジェクトID
・探索ブロックの状態(ステータス):stateobj_idn_block→ ON
・探索ブロックの位置(x座標):bxobj_idn_block→ x
・探索ブロックの位置(y座標):byobj_idn_block→ y
・探索ブロックの動きベクトル(水平方向):dxobj_idn_block → dx(gxobj_id,gyobj_id)
・探索ブロックの動きベクトル(垂直方向):dyobj_idn_block → dy(gxobj_id,gyobj_id)
・探索ブロックの適合度:corobj_idn_block→ 1.0
また、探索ブロックの存在領域内の各画素のHSV値(HSV色空間で表現した画素値)から図29に示すようなHSV色空間累積ヒストグラムを生成する。この累積ヒストグラムは、探索ブロック領域を画素単位で走査して導出する。画素値iの場合、j≧iであれば、
histH,S,V(t,j)obj_idn_block = histH,S,V(t, j)obj_idn_block+ 1
とする。すなわち、画素値の取り得る値を所定数の階級に区分し、当該画素の画素値がiであれば、iが属する階級以上の各階級の累積値をそれぞれ「1」加算する。この処理を探索ブロック内の全画素に対して行う。
【0118】
なお、HSV色空間は色相(Hue)、彩度(Saturation・Chroma)、明度(Brightness・Lightness・Value)の三つの成分からなる色空間であり、HSV色空間累積ヒストグラムは、H(色相)成分、S(彩度)成分、V(明度)成分のそれぞれについて生成される。これらのHSV色空間累積ヒストグラムに係る各値は、探索ブロックの位置(存在領域)におけるオブジェクト(画像)の特徴情報としてその探索ブロックに対応付けて記憶される。
【0119】
次に、全探索ブロックに関する適合度を更新する(図25:ステップS123、詳細は図30に示す)。適合度を更新する処理では、探索ブロックの状態(ステータス)がONとなっている(図30;ステップS163;Yes)すべての探索ブロックに関して、適合度の更新(図30;ステップS164〜S167)を行う。適合度は、探索ブロックの位置(存在領域)に存在するオブジェクトと当該探索ブロックの追尾対象のオブジェクトとの一致度を示す指標である。適合度は、探索ブロックの存在領域に存在するオブジェクトの特徴情報(色など画像としての特徴情報と重心位置に係る特徴情報)とその探索ブロックに対応付けて記憶されているオブジェクトの特徴情報(当該探索ブロックの前時刻の位置に存在していたオブジェクトの特徴情報)との比較に基づいて算出する。本実施の形態では、HSV色空間累積ヒストグラムを用いた場合について記述する。具体的には、探索ブロックの存在領域におけるHSV色空間累積ヒストグラムの時間差分と、当該探索ブロックが追尾対象とするオブジェクトの重心位置と該探索ブロックの中心との距離に基づく距離係数との積により導出する。適合度は1〜0の範囲をとる。具体的には以下の式の通りである。
【数1】

HSV色空間累積ヒストグラムの時間差分total_diffについては、たとえば下記の式で表わされる。
【数2】

距離係数に関しては、たとえば下記の式で表わされる。
【数3】

従って、探索ブロックの中心とオブジェクト領域の重心との距離が近い程、探索ブロックの適合度は高くなる。なお、消失中のオブジェクト(LOSTオブジェクト)についてはLOST状態になる直前のフレーム時刻における重心位置をオブジェクトの重心位置として距離係数を求める。
【0120】
図31は、探索ブロックの中心とその追尾対象のオブジェクトの重心との距離と適合度との関係を例示したものである。探索ブロックD1、D2は、追尾対象のオブジェクト上にないので、オブジェクト重心との距離が大きく(距離係数(dist_factor)→小)、かつオブジェクト(画像)の特徴情報の一致度(HSV色空間累積ヒストグラムの一致度)も低い(total_diff→小)ので、適合度は低くなる(0に近づく)。探索ブロックD3、D4は追尾対象のオブジェクト上にあるので、オブジェクト重心との距離が小さく(距離係数(dist_factor)→大)、かつオブジェクト(画像)の特徴情報の一致度(HSV色空間累積ヒストグラムの一致度)も高い(total_diff→大)ので、適合度は高くなる(1に近づく)。
【0121】
次に、分割ブロック領域ID割り当て処理を行う(図25:ステップS124、詳細は図32に示す)。当該処理では、分割ブロック領域内に何らかのオブジェクトが存在しかつ1個以上の探索ブロックが存在している分割ブロックBkに対して、それらの探索ブロックの中で最も優位な(最高適合度を有する)探索ブロックに登録されている追尾対象のオブジェクトIDを割り当てることでその分割ブロックBkに該オブジェクトIDを付与し、該オブジェクトIDのオブジェクトをACTIVE状態にする、ことを行う。元々ACTIVE状態であったオブジェクトはACTIVE状態が継続される。
【0122】
上記処理により、LOSTオブジェクトを追尾対象とする探索ブロックに登録されているオブジェクトIDがいずれかの分割ブロックBkに割り当てられた場合、LOST状態であったその追尾対象のオブジェクトが見出された(検出された)ことになる。なお、追尾対象のオブジェクトであるがいずれの分割ブロックBkにもオブジェクトIDが付与されなかったオブジェクトは、図22のオブジェクト状態更新処理(S110)においてLOSTオブジェクトと判定されて状態が保持あるいは更新される。
【0123】
次に、探索ブロック消去処理を行う(図25:ステップS125、詳細は図33に示す)。オブジェクトの状態(ステータス)がUNDETECTEDである場合、あるいは状態がLOSTでありかつオブジェクトの継続時間obj_timeがLOST_TIME以上である(LOST状態がLOST_TIME以上継続した)場合に、当該オブジェクトに属する(当該オブジェクトを追尾対象とする)すべての探索ブロックを削除する。削除は、当該オブジェクトに属するすべての探索ブロックデータテーブルをクリアすることで行う。
【0124】
次に、探索ブロックリサンプリング処理を行う(図25:ステップS128、詳細は図34に示す)。探索ブロックリサンプリング処理は、ACTIVE状態のオブジェクトに属するすべての探索ブロックについて行われる(図25;ステップS127;Yes)。探索ブロックリサンプリング処理では、追尾対象のオブジェクトが同一の複数の探索ブロック間で、適合度の低い探索ブロックを適合度の高い探索ブロックに確率的に置き換えることが行われる。
【0125】
ここでは、同一オブジェクト(たとえば、オブジェクトA)を追尾対象とするすべての探索ブロックの適合度の和に対する個々の探索ブロックの適合度の比率をその探索ブロックの出現確率とするルーレットを生成し、該オブジェクトを追尾対象とする探索ブロック毎に前記ルーレットに基づく乱数抽選を行い、その探索ブロックをその抽選結果の出目に対応する探索ブロックに置き換える。すなわち、当該オブジェクトを追尾対象とする全探索ブロックの個数と同じ回数の乱数抽選を前記ルーレットに基づいて行い、抽選毎にその当たりとなった出目に対応する探索ブロックに置き換えることによって、適合度の低い探索ブロックを適合度の高い探索ブロックに置き換わりやすいようにしている。
【0126】
より詳細には、処理対象の画像内に存在するオブジェクトの中で、状態(ステータス)がACTIVEであるオブジェクト毎に以下の処理を行う。まず、注目しているACTIVEオブジェクトobj_idに関して、そのオブジェクトに属する探索ブロックn_blockの適合度cor obj_idn_blockを基に、下記の通りルーレットを生成する。
【0127】
探索ブロックn_blockの状態(ステータス)stateobj_idn_blockがONであるならば、
rouletteobj_idn_block= rouletteobj_idn_block-1 + cor obj_idn_block
探索ブロックn_blockの状態(ステータス)stateobj_idn_blockがOFFであるならば、
rouletteobj_idn_block= rouletteobj_idn_block-1
次に、注目しているACTIVEオブジェクトobj_idに属する探索ブロック毎に乱数データを生成し、その乱数データをもとにその探索ブロックに関するルーレットの出目を決定した後、当該探索ブロックをその出目に対応する探索ブロックに置き換える。
【0128】
図35は、任意のオブジェクトについて生成したルーレットの一例を示している。このオブジェクトを追尾対象とする探索ブロックは全部でM個存在する。探索ブロック1からMまでの全探索ブロックの適合度の合計を360度としたルーレット上に、個々の探索ブロックの出目をその適合度の比率に応じた占有角度で配置してある。たとえば、探索ブロック1の出目の占有角度は、((探索ブロック1の適合度)/(全探索ブロックの適合度の合計))×360度となる。
【0129】
適合度の高い探索ブロックは出目の占有角度も大きいので、その分、乱数抽選で当たりになる確率は高い。一方、適合度の低い探索ブロックは出目の占有角度は小さく、当たりになる確率も低い。したがって、適合度の低い探索ブロックが適合度の高い探索ブロックに置き換えられ易くなる。
【0130】
ここで、探索ブロックを置き換えるとは、探索ブロックデータテーブル70の内容を、探索ブロックIDを除く項目について、ルーレットの出目に対応する探索ブロックデータテーブルで更新することである。
【0131】
先に説明したように、探索ブロックの適合度はその探索ブロックが追尾対象のオブジェクト上に存在する場合は高く、追尾対象のオブジェクトから外れた位置にある場合は低くなる。したがって、図36(a)に示すように、ACTIVEオブジェクトについて探索ブロックの置き換え(探索ブロックリサンプリング)を行うと、追尾対象のオブジェクトA上にある探索ブロックD5〜D7とオブジェクトA上にない探索ブロックD1〜D4との間で適合度に大きな差が生じる。したがって、探索ブロックリサンプリングにより生成されるルーレットは図36(b)のように(D1〜D4については占有角度が小さく、D5〜D7は占有角度が大きく)なる。
【0132】
このルーレットを使用して探索ブロック個数回分(ここでは7回)の乱数抽選を行った場合、その結果は、たとえば図36(c)に示すようになり、適合度の低い探索ブロックが適合度の高い探索ブロックに確率的に置き換えられる。図36(d)に示すように、追尾対象のオブジェクト上になかった探索ブロックの多くが追尾対象のオブジェクト上の探索ブロックに置き換えられ、探索ブロックが追尾対象のオブジェクト上に集約されやすくなる。
【0133】
次に、探索ブロック更新処理を行う(図25:ステップS129、詳細は図37に示す)。探索ブロック更新処理は、各探索ブロックの移動と各探索ブロックに対応付けて記憶してある追尾対象のオブジェクトに関する特徴情報の更新とを行う。画像内に存在する(ステータスがON状態である)すべての探索ブロックについて、その位置情報、動きベクトルの情報が更新される(ステップS248、S249)。さらに状態(ステータス)がACTIVEであるオブジェクトに属する(当該オブジェクトを追尾対象とする)探索ブロックであり、かつ追尾対象のオブジェクトのIDと当該探索ブロックの存在位置の分割ブロックに付与されているオブジェクトのIDとが一致する探索ブロックについては、HSV色空間累積ヒストグラムについても更新する(ステップS247)。
【0134】
位置情報の更新は以下の通りである。
【数4】

ここで、rnd_x、rnd_yはそれぞれx、y方向に関する乱数を示す。乱数を加えることで、探索ブロックにランダムな動きを加えることになる。
【0135】
動きベクトル情報の更新は以下の通りであり、前時刻の探索ブロックの動きベクトルと現在の探索ブロック存在位置の分割ブロックにおける動きベクトルの線形荷重和となっている。
【数5】

ここで、kは更新割合(慣性定数)を表す。kの値は設定変更可能となっている。追尾に成功している場合はオブジェクトの動きベクトルが支配的になり、追尾に失敗している(追尾対象のオブジェクトが消失している(LOST状態))場合は、乱数による移動が支配的になる。
【0136】
上記のようにしてオブジェクトの追尾・探索を行うことにより、図23に示すように追尾対象のオブジェクトが障害物61に一時的に隠れた場合でも、障害物61に隠れる前後で同一オブジェクトを同一オブジェクトとして、すなわち、障害物61に隠れる前後の同一オブジェクトに対して同一のオブジェクトIDを割り当てて、追尾することができる。
【0137】
同様に追尾対象のオブジェクト同士が交差した場合にも、交差の前後で同一のオブジェクトに対して同一のオブジェクトIDを付与して追尾することができる(図38(a)〜(d))。交差領域においては、適合度の高い探索ブロックに優位性がある。図38(b)では、オブジェクトAがオブジェクトBの背後を通過するので前面側のオブジェクトBを追尾している探索ブロックが優位となる。同図(c)に示すように、交差状態からオブジェクトAとBが互いに離れる際には、オブジェクトAに属する探索ブロックはオブジェクトAに追従し、オブジェクトBに属する探索ブロックはオブジェクトBを追従するように移動する(同図(d))。
【0138】
このように、本実施の形態に係るオブジェクト追尾・探索方法では、新規に追尾対象のオブジェクトを検出した場合に、そのオブジェクトの重心付近に複数の探索ブロックを生成しかつ各探索ブロックにその探索ブロックの存在領域における追尾対象オブジェクトの特徴情報を対応付けて記憶し、その後は、探索ブロックを追尾対象のオブジェクトに追従するように移動させると共に探索ブロックに記憶している追尾対象のオブジェクトの特徴情報の更新を行い、追尾に失敗した(オブジェクトが消失した)後はランダムな動きが支配的となるように探索ブロックの移動を継続させ、探索ブロックという局所領域を単位に適合度を判断して消失した追尾対象のオブジェクトを探索することで、交差や隠れの前後で同一オブジェクトを同一オブジェクトとして追尾する。
【0139】
なお、追尾しているオブジェクトから図22のステップS106で抽出した形状、動き等のオブジェクトの特徴量データは、図8に示すようなFIFO(First in First out)形式で記憶領域Fに特徴量時系列データとして保存される(図22、ステップS107)。記憶された特徴量時系列データは、図22の人・車両判別処理(ステップS111)で各追尾対象オブジェクトが人か車両かを判別する際に使用される。
【0140】
次に、人・車両判別処理(図22のS111)について詳細に説明する。図39は、人・車両判別処理の流れを示している。人・車両判別処理は追尾対象のオブジェクト毎に行われる。まず、追尾対象のオブジェクトの状態がACTIVE(追尾成功中)であるかどうかを確認し、ACTIVEでない場合は(ステップS301;No)、その追尾対象のオブジェクトに対する人・車両判別処理を終了する。
【0141】
追尾対象のオブジェクトの状態がACTIVEの場合は(ステップS301;Yes)、その追尾対象のオブジェクトに係る特徴量データが記憶領域Fに時系列に記憶されている時間長(L時間長とする)が、所定時間長(T時間長とする)以上か否かを確認する(ステップS302)。T時間長は記憶部22に記憶可能なLmax時間長以下の任意の時間長に設定することができる。
【0142】
L時間長がT時間長未満の場合は(ステップS302;No)、その追尾対象のオブジェクトに対する人・車両判別処理を終了する。
【0143】
L時間長がT時間長以上の場合は(ステップS302;Yes)、記憶されているL時間長分の特徴量時系列データを人・車両判別部24に入力し(ステップS303)、人・車両判別部24において、人・車両の判別を行う(ステップS304)。
【0144】
このように、オブジェクトを追尾し、追尾中にそのオブジェクトの特徴情報を示す特徴量データを時系列にある程度の時間長分サンプリングして蓄積記憶し、所定期間以上に渡る(T時間長以上の)特徴量時系列データに基づいてそのオブジェクトが人であるか車両であるかを判別するので、オブジェクトを検出した直後に人・車両を判別する場合に比べて、高い信頼性で人・車両を判別することができる。すなわち、人は動きの自由度が高くその「見え方」が様々となるので、ある時刻の画像のみに基づく判断では誤りが生じ易いが、本実施の形態の不審行動検知装置10では所定期間のオブジェクト追尾中に時系列に収集した複数時刻分の特徴量データに基づいて判別するので、高い信頼性で人・車両を判別することができる。
【0145】
また交差や隠れがあっても同一オブジェクトを同一オブジェクトとして追尾できるので、追尾中に交差や隠れがあってもその前後をつなげて同一オブジェクトの時系列の特徴量データを収集することができる。
【0146】
また、特徴量データが所定時間長(T時間長)未満の場合には追尾対象オブジェクトの種類(人・車両)を判別しないので、サンプリング時間長の短い特徴量データによって誤判別されることが防止され、判別の信頼性が確保される。
【0147】
以上、本発明の実施の形態を図面によって説明してきたが、具体的な構成は実施の形態に示したものに限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0148】
たとえば、基本動作は実施の形態に例示したものに限定されない。監視対象エリアにおける人の行動の基本となる動作であれば、任意のものでよく、適宜、監視対象・目的などに応じて選択すればよい。
【0149】
不審行動は、日常行動から外れた行動、あるいは、予め定めた特定種類の行動(たとえば、駐車場では車上荒らしや車両の盗難、車両への傷付けなど)である。実際には、日常行動パターン関連信頼度時系列DB15d1に登録される行動パターンが日常行動であり、この日常行動から外れた行動、あるいは不審行動パターン関連信頼度時系列DB15d2に登録される行動パターンが、検出対象の不審行動となる。
【0150】
日常行動パターン関連信頼度時系列DB15d1や不審行動パターン関連信頼度時系列DB15d2は、監視動作中に逐次、記憶内容を更新したり、データを追加記憶したりした構成でもよいし、予め十分な量のデータを蓄積した構成でもよい。また、統計的手法により代表日常行動パターンや代表不審行動パターンを導出する処理は、監視動作中に行われてもよいが、予め日常行動パターン関連信頼度時系列DB15d1や不審行動パターン関連信頼度時系列DB15d2の記憶内容に基づいて導出して記憶しておき、監視動作中はその記憶されている代表日常行動パターンや代表不審行動パターンを使用するように構成されてもよい。
【0151】
特徴量時系列データは、形、大きさなど実施の形態で例示した項目に限定されるものではなく、判別対象の物体の種類や、人の各種動きの特徴量を示すデータであれば任意に設定できる。
【0152】
また、実施の形態ではオブジェクトの追尾方法として、消失したオブジェクトを探索ブロックによって追尾・探索する方法を例示したが、これに限定されるものではなく任意の方法で追尾すればよい。交差や隠れの前後で同一オブジェクトを同一オブジェクトとして追尾可能な方法が好ましいが、このような機能のない追尾方法でもかまわない。
【0153】
実施の形態に示した追尾・探索では、分割ブロック単位にオブジェクトを追尾・探索するようにしたが、オブジェクト単位に追尾を行っても構わない。また実施の形態では、追尾対象のオブジェクトの動きとランダムな動き(乱数に基づく位置変更…数4)との合成によって探索ブロックを移動させることと、ACTIVEオブジェクトに属する探索ブロックを対象にした探索ブロックリサンプリング処理(適合度の低い探索ブロックを適合度の高い探索ブロックに確率的に置き換える処理)との組み合わせにより、追尾に成功している間は探索ブロックを追尾対象のオブジェクトを追尾するように移動させ、消失中はランダムな動きが支配的となるように探索ブロックを移動させたが、探索ブロックの移動方法は実施の形態に例示した方法に限定されない。すなわち、追尾成功中は追尾対象のオブジェクトを追尾し、消失中はランダムな動きが支配的となるという移動ルールで移動すればよく、たとえば、追尾成功中はランダム要素なしに追尾対象の動きベクトルに従って移動させ、消失中は慣性的な動きを排除しランダムな動きのみで移動させるように構成されてもかまわない。
【0154】
消失中の移動のルールは、消失直前のオブジェクトの動きにランダムな動きを加えることが好ましく、さらには時間の経過と共にランダムな動きがより支配的になるとよい。
【0155】
実施の形態では、HSV色空間累積ヒストグラムの時間差分とオブジェクトと探索ブロックとの間の距離による距離係数とに基づいて各探索ブロックの適合度を決定するようにしたが、他の基準で適合度を定めてもよい。適合度は、画像特徴量としての一致度と、オブジェクトと探索ブロックとの位置関係とを要素として決定されることが好ましい。
【0156】
実施の形態では人・車両判別方法として、オブジェクトの「見え方」変動への対応を考慮し、所定時間長オブジェクトを追尾した後に(追尾対象のオブジェクトに関して所定時間長以上の特徴量時系列データが蓄積された後に)、その特徴量時系列データをもとに、オブジェクトが人であるか車両であるかの判別を行っている。信頼性の高い人・車両判別方法が好ましいが、このような人・車両判別方法でなくても良い。
【0157】
実施の形態では、人、車両を判別する場合を例に説明したが、判別対象の物体の種類はこれらに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0158】
10…不審行動検知装置
11…カメラ部
12…処理部
13…入力部
14…出力部
15…データベース部
15a…人特徴DB部
15b…車両特徴DB部
15c…基本動作特徴量時系列DB部
15d…行動パターン信頼度時系列DB部
15d1…日常行動パターン関連信頼度時系列DB
15d2…不審行動パターン関連信頼度時系列DB
21…追尾部
22…記憶部
23…蓄積制御部
24…人・車両判別部
25…基本動作・行動解析部
25a…信頼度導出部
25b…行動不審度導出部
25b1…正常度導出処理部
25b2…不審度導出処理部
25c…不審判定部
26…基本動作別信頼度導出部
27…判別器
28…加算器
30…オブジェクトデータテーブル
40…判定論理表
61…障害物
70…探索ブロックデータテーブル
F…記憶領域
P1…オブジェクト検出フェーズ
P2…オブジェクト追尾・探索フェーズ
P3…人・車両判別フェーズ
P4…人オブジェクト抽出フェーズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理部が、カメラから入力される画像内の人物を追尾すると共に、前記追尾中に、その追尾中の人物の動作が予め定めた基本動作らしさの度合いを示す信頼度を、複数種類の前記基本動作のそれぞれについて繰り返し導出し、前記基本動作毎の信頼度を時系列にした基本動作信頼度時系列データに基づいて、前記人物の行動が不審行動であるか否かを判定する
ことを特徴とする不審行動検知方法。
【請求項2】
前記基本動作信頼度時系列データが複数人分登録されたデータベースを有し、
前記処理部は、判定対象の人物に関する基本動作信頼度時系列データと前記データベースに登録されている基本動作信頼度時系列データとに基づく統計的手法によって、前記人物の行動が不審行動であるか否かを判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の不審行動検知方法。
【請求項3】
前記データベースは、正常行動に関する前記基本動作信頼度時系列データを登録したものである
ことを特徴とする請求項2に記載の不審行動検知方法。
【請求項4】
前記処理部は、統計的手法により、判定対象の人物に関する基本動作信頼度時系列データの、前記データベースに登録されている正常行動に関する基本動作信頼度時系列データからの外れ度合いを導出し、該外れ度合いに基づいて前記人物の行動が不審行動であるか否かを判定する
ことを特徴とする請求項3に記載の不審行動検知方法。
【請求項5】
前記データベースは、不審行動に関する前記基本動作信頼度時系列データを登録したものである
ことを特徴とする請求項2に記載の不審行動検知方法。
【請求項6】
前記データベースは、正常行動に関する前記基本動作信頼度時系列データを登録した第1データベースと、不審行動に関する前記基本動作信頼度時系列データを登録した第2データベースとを含み、
前記処理部は、判定対象の人物に関する基本動作信頼度時系列データと前記第1データベースに登録されている基本動作信頼度時系列データとに基づいて前記人物の行動が正常行動である度合いを示す正常度を導出し、前記判定対象の人物に関する基本動作信頼度時系列データと前記第2データベースに登録されている基本動作信頼度時系列データとに基づいて前記人物の行動が不審行動である度合いを示す不審度を導出し、前記正常度と前記不審度とに基づいて前記人物の行動が不審行動であるか否かを判定する
ことを特徴とする請求項2に記載の不審行動検知方法。
【請求項7】
前記正常度が第1閾値未満であること、もしくは、前記不審度が第2閾値以上であることの少なくとも一方が真であれば、前記人物の行動は不審行動であると判定する
ことを特徴とする請求項6に記載の不審行動検知方法。
【請求項8】
カメラから入力される画像内の人物を追尾する追尾部と、
前記追尾部による追尾中に、その追尾中の人物の動作が予め定めた基本動作らしさの度合いを示す信頼度を、複数種類の前記基本動作のそれぞれについて繰り返し導出する導出部と、
前記導出部によって導出された前記基本動作毎の信頼度を時系列にした基本動作信頼度時系列データを記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶されている前記基本動作信頼度時系列データに基づいて、前記人物の行動が不審行動であるか否かを判定する不審判定部と、
を有する
ことを特徴とする不審行動検知装置。
【請求項9】
前記基本動作信頼度時系列データが複数人分登録されたデータベースを有し、
前記不審判定部は、前記記憶部に記憶されている判定対象の人物に関する基本動作信頼度時系列データと前記データベースに登録されている基本動作信頼度時系列データとに基づく統計的手法によって、前記人物の行動が不審行動であるか否かを判定する
ことを特徴とする請求項8に記載の不審行動検知装置。
【請求項10】
前記データベースは、正常行動に関する前記基本動作信頼度時系列データを登録したものである
ことを特徴とする請求項9に記載の不審行動検知装置。
【請求項11】
前記不審判定部は、統計的手法により、判定対象の人物に関する基本動作信頼度時系列データの、前記データベースに登録されている正常行動に関する基本動作信頼度時系列データからの外れ度合いを導出し、該外れ度合いに基づいて前記人物の行動が不審行動であるか否かを判定する
ことを特徴とする請求項10に記載の不審行動検知装置。
【請求項12】
前記データベースは、不審行動に関する前記基本動作信頼度時系列データを登録したものである
ことを特徴とする請求項9に記載の不審行動検知装置。
【請求項13】
前記データベースは、正常行動に関する前記基本動作信頼度時系列データを登録した第1データベースと、不審行動に関する前記基本動作信頼度時系列データを登録した第2データベースとを含み、
前記不審判定部は、前記記憶部に記憶されている判定対象の人物に関する基本動作信頼度時系列データと前記第1データベースに登録されている基本動作信頼度時系列データとに基づいて前記人物の行動が正常行動である度合いを示す正常度と、前記記憶部に記憶されている前記判定対象の人物に関する基本動作信頼度時系列データと前記第2データベースに登録されている基本動作信頼度時系列データとに基づいて前記人物の行動が不審行動である度合いを示す不審度とを導出し、前記正常度と前記不審度に基づいて前記人物の行動が不審行動であるか否かを判定する
ことを特徴とする請求項9に記載の不審行動検知装置。
【請求項14】
前記不審判定部は、前記正常度が第1閾値未満であること、もしくは、前記不審度が第2閾値以上であることの少なくとも一方が真であれば、前記人物の行動は不審行動であると判定する
ことを特徴とする請求項13に記載の不審行動検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図21】
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【図22】
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【図25】
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【図26】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図37】
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【図39】
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【図19】
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【図20】
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【図23】
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【図24】
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【図27】
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【図31】
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【図36】
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【図38】
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【公開番号】特開2011−107765(P2011−107765A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259014(P2009−259014)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(508338290)
【出願人】(390010054)小糸工業株式会社 (136)
【Fターム(参考)】