説明

中空体成形装置

【課題】三次元曲面形状の接合面を有する樹脂部材の接合面を均一に加熱溶融可能な加熱体を備えた中空体成形装置を提供する。
【解決手段】中空体成形装置は、第1凸部と第2凹部とを有する第1金型と、第1凹部と第2凸部とを有する第2金型とを対向して当接することで、第1凸部と第1凹部とにより第1キャビティを、また第2凹部と第2凸部とにより第2キャビティを形成し、この第1キャビティと第2キャビティに溶融樹脂を注入して各々接合面を有する第1半中空部材と第2半中空部材とを形成し、第1凹部に保持された第1中空部材と、第2凹部に保持された第2中空部材とを隙間を持って対向配置するとともに、加熱手段により各々の接合面を加熱溶融して圧接することで第1半中空部材と第2半中空部材とを溶着する中空体成形装置であって、前記加熱手段は、所定形状の基板の両面に複数の赤外線照射体を隣接して配置した加熱体を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成型した半中空部材同士を加熱溶着して中空体を成形する中空体成形装置に関する。さらに詳しくは、接合面が三次元曲面形状を有する樹脂部材の中空体成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリタンク、ブレーキ液タンク、スプレータンク、ブイなどの剛性樹脂製の中空体製品の製造方法としては、射出成形機による成形方法が知られている。射出成形機により中空体製品を製造する場合は、一次形成において中空体を二つ割りの半中空体あるいは分割体として形成し、二次形成においてその分割面を突き合わせ、そして突き合わせた部分を加熱あるいは溶着して一個の中空体製品を製造している。この射出成形機を用いた成形方法によると、完全に密封された中空体製品を作ることができるとともに、均一な肉厚の中空体製品を得ることもでき、また、複雑な形状にも対処できるので多用されており、中空体成形装置や中空成形体の製造方法に関しては従来から多くの提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、一次成形で半中空部材をセット成形した後、これらの半中空体をその接合部が対向するように重ね、各々の接合部の内面側を加熱して加圧溶着して中空体製品を得る成形方法が開示されている。ここでは、電熱コイルや抵抗ヒータなどの電気発熱体を接合部内部に埋設して溶着する、あるいは接合部の内面側を熱風で加熱して溶着することを特徴としている。
【0004】
しかし、接合部に電熱コイルを埋設したり、熱風を送通する流路を形成する必要があり、複雑な構成となり、中空体の量産には適当ではない。特に、接合面が三次元曲面形状を有する中空体には不向きである。
【0005】
また、特許文献1と同様の方法で半中空部材を成形し、対向配置した半中空部材同士の空間部に熱板を挿入するとともに、この熱板を半中空部材に押し付けてその接合面を加熱溶融させる中空体の成形装置が提案されている(特許文献2、3参照)。
【0006】
しかし、この成形装置では、熱板を樹脂からなる半中空部材の接合面に直接押し付けるため、例えばPA6のようなエンジニアプラスティック材料によっては、熱板に加熱溶融された樹脂が焦げ付いて付着したり、糸引きするなどの不具合を生じて良好な溶着接合部を確保できない虞がある。つまり、熱板を直接接合部に押し付けて加熱するという接合面の溶融方法は、生産に使用できる樹脂材料の種類が制約されるという問題がある。
【0007】
また、提案されている熱板は平板形状であるので、溶着面が二次元平面の場合には接合面の全面に密着させて接合部を加熱溶融させることが可能であり、製品毎に異なる形状の熱板を準備する必要がなく共通性を持たせることができる。しかし、接合面が三次元曲面形状で製品毎に接合面形状が異なる場合には、熱板を三次元曲面化する必要があると同時に製品毎に異なる形状の熱板を準備する必要がある。このためコスト高となる。
【0008】
上記のように熱板を直接接合面に押し付けることなく、熱板を接合面と適切な隙間を設けて配置して輻射熱で接合面を溶融させることも可能である。しかし、この場合には、熱板と接合面との隙間を1〜2mm程度に制御する必要がある。このため成形寸法バラツキや熱源位置のバラツキを考慮すると、接合面が三次元曲面形状を有する製品では、接合面全体にわたって熱板との隙間を1〜2mm程度に制御して、接合面の全面に均一に熱量を与えて溶融させることは困難である。
【0009】
以上のように、特に、接合面が三次元曲面形状を有する中空体において、接合面を適切に加熱できる加熱体を備えた中空体成形装置の開発が望まれていた。
【特許文献1】特開平7−16945号公報
【特許文献2】実用新案第3007166号公報
【特許文献3】特開平10−166449号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、三次元曲面形状の接合面を有する樹脂部材の接合面を均一に加熱溶融可能な加熱体を備えた中空体成形装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の中空体成形装置は、所定の間隔を隔てて第1凸部と第2凹部とを有する第1金型と、所定の間隔を隔てて第1凹部と第2凸部とを有する第2金型とを備え、第1金型と第2金型とを対向して当接することで、第1凸部と第1凹部とにより第1キャビティを、また第2凹部と第2凸部とにより第2キャビティを形成し、この第1キャビティと第2キャビティに溶融樹脂を注入して各々接合面を有する第1半中空部材と第2半中空部材とを形成し、第1凹部に保持された第1中空部材と、記第2凹部に保持された第2中空部材とを隙間を持って対向配置するとともに、加熱手段により各々の接合面を加熱溶融して圧接することで第1半中空部材と第2半中空部材とを溶着する中空体成形装置であって、前記加熱手段は、所定形状の基板の両面に複数の赤外線照射体を隣接して配置した加熱体を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の中空体成形装置において、加熱手段は、赤外線照射体の出力を個別に制御する制御装置を有することができる。
【0013】
また、本発明の中空体成形装置において、赤外線照射体は、通電により赤外線を発生する赤外線ランプと、この赤外線ランプを支持し発生した赤外線を反射する反射面を有する支持部材と、照射する赤外線を収斂するレンズとを備えることが望ましく、赤外線ランプはハロゲンランプを用いることができる。
【0014】
本発明の中空体成形装置においては、半中空部材の接合面は三次元曲面形状であることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の中空体成形装置は、接合(以後、溶着ともいう)面を加熱溶融する加熱手段の加熱体(熱板ともいう)に赤外線照射体(赤外線発熱体ともいう)を用いているので、接合部が数十mm離れた位置でも接合面を溶融することが可能である。このため、加熱体に樹脂材料が付着したり糸引きの心配がないため、中空体の適切な溶着状態を確保できる。
【0016】
また、加熱体に設けられた複数の赤外線照射体の出力をそれぞれ個別に制御することができるので、溶着曲面形状と赤外線の照射距離に合わせて赤外線出力を赤外線照射体毎に変化可能である。これ故、三次元曲面形状を有する中空品を容易に且つ高品質で製造できる。
【0017】
さらに、加熱体は、平板治具へ赤外線照射体を隣接して多数埋め込んだ構成であるから、溶着形状毎に品番切り替えすることでその形状に見合った赤外線照射体が点灯し、溶着面形状が異なる製品でも加熱体の共通化が可能でありコストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図を参照しながら説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施の一形態を示す主要部概略構成図であり、型締め前の状態を示している。
【0020】
本態様の中空体成形装置1は、可動金型(第1金型)10と、固定金型(第2金型)20とを備えており、固定金型20はシリンダ30により基盤40に沿って上下方向にスライド可能なスライド金型である。可動金型10には所定の間隔を隔てて第1凸部12と第2凹部14とが形成されている。また、固定金型20には所定の間隔を隔てて第2凸部22と第1凹部24とが形成されている。
【0021】
上記の構成を有する中空体成形装置1の動作を中空体の製造手順に沿って説明する。
【0022】
まず、可動金型10を固定金型20に対して型締めすることで、第1凸部12は第1凹部24と協働して第1キャビティを形成し、第2凸部22は第2凹部14と協働して第2キャビティを形成する。
【0023】
そして、このようにして形成された第1キャビティと第2キャビティに、スライド金型20の略中央部に設けられたスプール26を介して射出機のノズル(図示しない)から射出される溶融樹脂を充填することで第1半中空部材Aと第2半中空部材Bとを形成する。
【0024】
図2は、キャビティに樹脂を充填した状態を示している。
【0025】
次いで、可動金型10を後退させ、続いてスライド金型20を第1半中空部材Aが保持されている状態で上方にスライドさせる。この時、第1半中空部材Aの接合部(溶着面)が、第2半中空部材Bの接合部(溶着面)に対向するまでスライドさせる。
【0026】
第1半中空部材Aの接合部と第2半中空部材Bの接合部とは隙間を持って対向しているので、この隙間に加熱体Hを配置して各接合部表面が溶融するまで加熱する。接合部表面が均一に溶融されたら加熱体Hを金型外部へ後退させて、可動金型10を固定金型20に対して型締めし、第1半中空部材Aの接合部(溶着面)と第2半中空部材Bの接合部(溶着面)とを当接させて圧接する。図3は半中空部材A、Bの接合面A1、B1を加熱体Hで加熱している状態を示している。
【0027】
半中空部材A、Bを溶着して接合部が冷却したら可動金型10を後退させて成形された中空体を取り出し、スライド金型20を下方にスライドさせて図1の状態に戻す。これにより中空体成形の1サイクルが完了する。
【0028】
次に、本発明の中空体成形装置1における加熱手段2について説明する。
【0029】
図4に示すように、加熱手段2は、多数の赤外線照射体Rを有する加熱体Hと、加熱体Hを金型に対して進退可能な油圧シリンダなどの駆動手段Sと、加熱体Hの電源Eと、赤外線照射体Rの出力を個別に制御する制御装置Cとで構成されている。
【0030】
図5に加熱体Hの一例を斜視図で示す。加熱体Hは対向している半中空部材Aと半中空部材Bとの間に進出して配置されている。そして基板50に埋設された赤外線照射体Rにより接合面A1と接合面B1とを加熱することができる。なお、図5では金型を省略して示している。
【0031】
また、図6には図3の円Iの部分を拡大して加熱体Hの断面を模式的に示す。赤外線照射体Rは基板50の両面にそれぞれ隣接して埋設されており、赤外線Lを発生する赤外線ランプ52と、赤外線ランプ52を支持し赤外線Lを反射する反射面54aを有する支持部材54と、照射する赤外線Lを収斂するレンズ56とを備えている。
【0032】
この赤外線照射体Rの出力は制御装置Cによって個別に制御することができる。制御方法について図7及び図8を用いて説明する。
【0033】
図7は加熱体Hの正面概念図であり、多数の赤外線照射体Rが碁盤目状に配置されている。図7で曲線aと曲線bとで囲まれた範囲は、例えば、半中空部材Aの接合面A1の投影面A1´である。このような形状の半中空部材Aを加熱する場合には、投影面A1´が領有する図7の斜線で示す赤外線照射体R1を通電して点灯する。しかし、その他の赤外線照射体R0は通電しないので点灯しない。つまり、加熱手段は、第1半中空部材及び第2半中空部材の接合面に対応する投影面に配置された赤外線照射体を通電させることができる。
【0034】
図8は図7のX−X´断面を示す模式図である。接合面A1は三次元曲面であるので対向する各々の赤外線照射体Rの接合面A1までの照射距離dが異なる。このため、各赤外線照射体Rから照射した赤外線の受熱量が接合面A1でほぼ均一になるように、各赤外線照射体r1〜r12の出力を個別に制御する。
【0035】
まず、半中空部材Aの投影面A1´が領有しない範囲の赤外線照射体r1、r2、r9〜r12は通電しない。そして半中空部材Aの接合面A1に対向する赤外線照射体r3〜r8は照射距離dによって出力を変化させる。例えば、赤外線照射体r3とr8とに負荷する電圧をV1、赤外線照射体r4とr7とに負荷する電圧をV2、赤外線照射体r5とr6とに負荷する電圧をV3とし多場合には、V1<V2<V3となるようにするとよい。ここで赤外線照射体r3〜r8の出力をそれぞれの照射距離に従って全く個別に制御してよいことは勿論である。
【0036】
なお、照射距離dは数mm〜数十mmとすることができるが、5〜30mm程度とすることが好ましい。また、加熱時間は半中空部材の樹脂材料にもよるが、概ね5〜25秒程度が好ましい。赤外線ランプ52は赤外線(赤外線波長:0.8〜1000μm)を発生できるものであれば特に制約はないが、ハロゲンランプ、カーボンランプ、あるいは半導体やYAGなどのレーザ光線などを好適に用いることができる。
【0037】
以上のように、本態様の加熱体Hを用いることにより赤外線Lの接合面A1における受熱量を均一にすることができるので、樹脂部材である中空体の変形や溶着不足による接合部の強度低下といった不具合を生じることがない。また、接合面に対応する部位の赤外線照射体のみを通電して加熱することができるので、加熱体のエネルギ効率を向上することができる。
【0038】
本態様の加熱手段によれば、形状や樹脂材料の異なる中空体製品毎に好適な赤外線照射体の出力を制御装置にマトリックスとして設定することができる。すなわち、異なる三次元曲面形状を有する半中空部材についても加熱体を変更することなく同一の加熱体Hを用いて適切な加熱溶融を施し、良好な溶着中空体を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の中空体成形装置は、分割した半中空樹脂部材を金型中で溶着する中空体の成形装置として好適である。特に溶着部が三次元曲面形状を有する中空体の成形装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】中空体成形装置の主要部構成を示す概略断面図である。
【図2】型締めしてキャビティに溶融樹脂を充填した状態を示す概略断面図である。
【図3】対向配置した半中空部材の接合部を加熱する状態を示す概略断面図である。
【図4】加熱手段の構成を説明する説明図である。
【図5】加熱体の一例を示す斜視図である。
【図6】加熱体の断面を示す部分模式図である。
【図7】接合面と赤外線照射体との関係を説明する説明図である。
【図8】図7のX−X´断面模式図である。
【符号の説明】
【0041】
10:可動金型 20:固定(スライド)金型 14:第1凹部 24:第2凹部 26:スプール 50:基板 52:赤外線ランプ 54:支持部材 56:レンズ
A、B:半中空部材 C:制御装置 H:加熱体 L:赤外線 R:赤外線照射体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔を隔てて第1凸部と第2凹部とを有する第1金型と、所定の間隔を隔てて第1凹部と第2凸部とを有する第2金型とを備え、
前記第1金型と前記第2金型とを対向して当接することで、前記第1凸部と第1凹部とにより第1キャビティを、また前記第2凹部と前記第2凸部とにより第2キャビティを形成し、
前記第1キャビティと前記第2キャビティとに溶融樹脂を注入して各々接合面を有する第1半中空部材と第2半中空部材とを形成し、
前記第1凹部に保持された前記第1中空部材と、前記第2凹部に保持された前記第2中空部材とを隙間を持って対向配置するとともに、加熱手段により各々の前記接合面を加熱溶融して圧接することで前記第1半中空部材と前記第2半中空部材とを溶着する中空体成形装置において、
前記加熱手段は、所定形状の基板の両面に複数の赤外線照射体を隣接して配置した加熱体を備えることを特徴とする中空体成形装置。
【請求項2】
前記加熱手段は、前記赤外線照射体の出力を個別に制御する制御装置を有する請求項1に記載の中空体成形装置。
【請求項3】
前記赤外線照射体は、赤外線を発生する赤外線ランプと、該赤外線ランプを支持し発生した前記赤外線を反射する反射面を有する支持部材と、照射する赤外線を収斂するレンズとを備える請求項1又は2に記載の中空体成形装置。
【請求項4】
前記赤外線ランプはハロゲンランプである請求項3に記載の中空体成形装置。
【請求項5】
前記半中空部材の接合面は三次元曲面形状である請求項1に記載の中空体成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−296700(P2007−296700A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−125730(P2006−125730)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】