説明

乗客コンベア用移動手摺接続装置及びその接続方法

【課題】 移動手摺をエスカレータ実機で実用運転した際に掛かる移動手摺の引っ張り力によっても、移動手摺の接続部の当て布の接着力が低下しない乗客コンベア用移動手摺接続装置及びその接続方法を得る。
【解決手段】 上型200、下型300及び移動手摺3の内側に挿入される中型400から構成され、少なくとも2以上の型に電熱ユニットR1〜R5が設けられた金型100を備え、金型で加圧しつつ加熱することによって熱可塑性エラストマーからなる移動手摺を接続するものにおいて、金型を構成するそれぞれの型の加熱温度又は加熱開始時間又はその両方を可変とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はエスカレータや動く歩道などの乗客コンベアの欄干に設けられて踏段と同期して回転駆動される乗客コンベア用移動手摺接続装置及びその接続方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にエスカレータなどの乗客コンベアは、図4に示す如く、上下階側乗降口相互間において、無端状に配した踏段1と、その左右両サイドの欄干2の外周に配した無端状の移動手摺3とを、相互に同期させて同方向に回転移動させることで乗客を運搬するものである。そうしたエスカレータの移動手摺3は、一般に欄干2の下部内の移動手摺帰路途中に設けた複数の駆動ローラ4とその各駆動ローラ4の下側に転接すべく配設した加圧ローラ5との間に通されて、その両ローラ4、5間に図5(図4のC−C線に沿う断面図)に示す如く挟圧されて、その駆動ローラ4の回転による摩擦力で駆動されるようになっていると共に、その駆動される移動手摺3は欄干2の下部内帰路側では複数の案内ローラ(図示せず)により案内され、さらに欄干2の上部では欄干フレームに取付けた手摺ガイドレール10により案内されて、エンドレス状に回転移動するようになっている。
【0003】
図6は移動手摺3と手摺ガイドレール10を含む摺動機構の一部断面図であって、図4の移動手摺往路側の断面図である。
移動手摺3自体は図6に示す如く、全体としてC字型の横断面を有し、全体としてT字型の内側スロットを構成し、T字型スロットの周りに延びる芯体層31と、この芯体層31の外部の周りに延び、移動手摺3の外側輪郭を定める表面層32と、芯体層31の内側面に結合されたスライダー層33と、芯体層31内に延びる伸び防止手段(抗張体)34とを備えている。芯体層31、表面層32は熱可塑性エラストマーが使用されている。
【0004】
乗客コンベアの欄干2上部の手摺ガイドレール10は図6に示す如く、その両側凸状部に合成樹脂製ガイドクリップ10aが装着され、移動手摺3の内周面に摺接するようになっている。
【0005】
移動手摺3の最内側のスライダー層33には帆布が用いられているが、このスライダー層33の役目は手摺ガイドクリップ10aと摺動する時の摩擦係数を適切な値にするためと、移動手摺3の形状を所定の強度を持ってC字型に維持するためである。
【0006】
この移動手摺の製造方法は、芯体層用の熱可塑性エラストマーと金属製又は合成繊維製の抗張体及びスライダーを成形機から同時に押出して該抗張体及びスライダーを抱合した断面略C字状の芯体層を成形する工程と、透明を含み客先指定色等の所望の色に着色された表面層用の熱可塑性エラストマーを成形機から押出して断面略C字状の表面層を成形する工程を少なくとも具備している。
【0007】
乗客コンベアの移動手摺3は、エンドレス(環状)にして乗客コンベアに組込まれるので、直線状の移動手摺3を所定長さに切断しその両端部を接続してエンドレスに形成する。まず、所定の長さに切断された移動手摺3の両端部から、芯体層31、スライダー層33及び表面層32の端部を除去し、抗張体34を露出させる。次に、露出された抗張体34の両端部を、接着剤を介して互いに重ね合わせる。この後、接続部を図7に示す金型100内にセットする。金型100は、上型200と、下型300と、三分割されて下型300の凹部300a内に嵌合する中型400とからなる。さらに前記金型100内のキャビティに芯材用熱可塑性エラストマーを充填し、加熱後冷却硬化させる。これにより接続部の成形が完了する(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
移動手摺の接続部の詳細は図8、図9(図8のD−D線に沿う断面図)に示すように、接続される移動手摺本体部3同士の中間に充填部3aが存在する。この充填部3aにはスライダー部分が無いので、図8、図9のア〜エ部は手摺の屈曲により亀裂が生じ、長期間使用すると、この部分から移動手摺が破断する。したがって、移動手摺の破断を防止するため、図10、図11(図10のE−E線に沿う断面図)に示すように、充填部3aに補強のための当て布33aを設けている。当て布33aは、上記環状接続時にスライダー層33との間に熱硬化性接着剤を塗布して金型100内にセットされる。
【0009】
図7において、金型100内の発熱体としての電熱ユニットは、上型200に電熱ユニットR1、R2が設けられ、下型300に電熱ユニットR3、R4が設けられている。金型100は、更に上型200及び下型300を締結するための複数個の締め付けボルト60と、上型200内に設けられた冷却用流体が通る冷却穴70、70a、下型300内に設けられた冷却用流体が通る冷却穴80、80aを備えている。なお、図中、3は移動手摺である。
上記構成により、乗客コンベアの移動手摺3を接続する場合は、図7に示すように、移動手摺3を、上型200、中型400及び下型300で挟み込み、締め付けボルト60で上型200と下型300に加圧力を付与するようにすればよい。
上型200と下型300に加圧力を付与した状態で、電熱ユニットR1〜R4を発熱させれば、移動手摺3を熱融着によって接続することができる。
次に、接続が完了して、金型100を冷却する方法について述べる。
まず電熱ユニットR1〜R4の発熱を停止させ、次に、上型200内に設けられた冷却用流体が通る冷却穴70、70aと、下型300内に設けられた冷却用流体が通る冷却穴80、80aに、冷却用流体を注入して金型100を冷却するものである。
【0010】
【特許文献1】特開2000−211872号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、従来の移動手摺の接続装置では、接続時に熱可塑性エラストマーである熱可塑性ウレタンが金型100内で加熱され金型内の圧力が上昇すると、金型の両端は開放されているため、熱可塑性ウレタンが金型の両側に延びて行き、熱硬化性接着剤で接着した当て布33aと、スライダー33の間に引っ張り力が発生し、相対運動が発生するため、接着した当て布33aとスライダー33間の硬化しかかっている接着剤の接着力が低下する不具合があった。このため、移動手摺をエスカレータ実機で実用運転した際に掛かる移動手摺の引っ張り力によってこの接続部の当て布33aが剥がれるという問題点があった。
【0012】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、移動手摺をエスカレータ実機で実用運転した際に掛かる移動手摺の引っ張り力によっても、移動手摺の接続部の当て布の接着力が低下しない乗客コンベア用移動手摺接続装置及びその接続方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明に係る乗客コンベア用移動手摺接続装置においては、上型、下型及び移動手摺の内側に挿入される中型から構成され、少なくとも2以上の型に電熱ユニットが設けられた金型を備え、金型で加圧しつつ加熱することによって熱可塑性エラストマーからなる移動手摺を接続するものにおいて、金型を構成するそれぞれの型の加熱温度又は加熱開始時間又はその両方を可変としたものである。
【0014】
この発明に係る乗客コンベア用移動手摺接続方法においては、最内側にスライダー層を備えた熱可塑性エラストマーからなる移動手摺を所定長さに切断し、その両端部を接続しエンドレスに形成されるものであって、この接続部に所定長の当て布を当て、スライダー層と当て布の間に熱硬化性接着剤を塗布し、上型、下型及び移動手摺の内側に挿入される中型から構成され、少なくとも2以上の型に電熱ユニットが設けられた金型で加圧しつつ加熱することによって移動手摺の接続部を接続するものにおいて、金型を構成するそれぞれの型の加熱温度又は加熱開始時間又はその両方を可変とし、熱硬化性接着剤を加熱硬化させた後、熱可塑性エラストマー移動手摺を熱融着するものである。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、金型を構成するそれぞれの型の加熱温度又は加熱開始時間又はその両方を可変としたので、金型内部の圧力で熱可塑性エラストマーが金型の両端から延びて出ようとする圧力に耐えることができ、移動手摺の接続部の接着力が低下することが無いという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1における乗客コンベア用移動手摺接続装置を図1〜図3により説明する。
図1は乗客コンベア用移動手摺接続装置を示す金型の構造図、図2は金型を加熱する電熱ユニットの制御回路図、図3は金型の温度変化を示すタイムチャートである。
図1において、金型100は、上型200と、下型300と、三分割されて下型300の凹部300a内に嵌合する中型400とからなる。金型100内の発熱体としての電熱ユニットは、上型200に電熱ユニットR1、R2が設けられ、下型300に電熱ユニットR3、R4が設けられ、更に、三分割された中型400のうちの中央に位置する型に電熱ユニットR5が設けられている。また金型100は、上型200及び下型300を締結するための複数個の締め付けボルト60を備えている。更に、金型100は、上型200内に設けられた冷却用流体が通る冷却穴70、70a、下型300内に設けられた冷却用流体が通る冷却穴80、80a、及び三分割された中型400のうちの中央に位置する型内に設けられた冷却用流体が通る冷却穴90が設けられている。なお、図中、3は移動手摺であり、図示していないが、スライダー層33と当て布33aの間には弾力性のある熱硬化性接着剤が塗布されているものである。
【0017】
図2において、ACは交流電源、R1、R2は上型電熱ユニットのヒーター、R3、R4は下型電熱ユニットのヒーター、R5は中型電熱ユニットのヒーター、SW1は上型電熱ユニット用サイリスタ、SW2は下型電熱ユニット用サイリスタ、SW3は中型電熱ユニット用サイリスタ、S1は上型200に設けられた上型温度センサー、S2は下型300に設けられた下型温度センサー、S3は中型400に設けられた中型温度センサーである。500は制御装置であり、マイクロコンピュータCPU、ランダムアクセスメモリRAM、リードオンリーメモリROM、インターフェースI/F等から構成されている。
制御装置500は、予め設定されたプログラムによって、上型電熱ユニット用サイリスタSW1の点弧回路を制御することにより、上型電熱ユニットのヒーターR1、R2の加熱温度及び/又は加熱開始時間を可変制御する。この時、上型200の温度が設定値になるように上型温度センサーS1の信号が制御装置500にフィードバックされる。以下、制御装置500は、予め設定されたプログラムによって、下型電熱ユニット用サイリスタSW2の点弧回路を制御することにより、下型電熱ユニットのヒーターR3、R4の加熱温度及び/又は加熱開始時間を可変制御する。この時、下型300の温度が設定値になるように下型温度センサーS2の信号が制御装置500にフィードバックされる。また、制御装置500は、予め設定されたプログラムによって、中型電熱ユニット用サイリスタSW3の点弧回路を制御することにより、中型電熱ユニットのヒーターR5の加熱温度及び/又は加熱開始時間を可変制御する。この時、中型400の温度が設定値になるように中型温度センサーS3の信号が制御装置500にフィードバックされる。
【0018】
上記構成により、乗客コンベアの移動手摺3を接続する場合は、図3に示すように、まず初めに、時刻t1で中型電熱ユニット用サイリスタSW3に点弧信号が送られ、中型用電熱ユニットのヒーターR5が通電される。そして、中型400の温度が次第に上昇し第1の所定温度T1に達すると、当て布33aに塗布された熱硬化性接着剤が硬化し始め、当て布33aとスライダー33との間に強力な接着力を発揮する。
次いで、時刻t2−1にて上型電熱ユニット用サイリスタSW1及び下型電熱ユニット用サイリスタSW2が投入され、金型100全体を予熱する。更に、時刻t2−2で上型電熱ユニット用サイリスタSW1及び下型電熱ユニット用サイリスタSW2の導通角を大きくすることによって、第2の所定温度T2にまで加熱され、これによって移動手摺の接続が完了する。
接続が完了して、金型100を冷却する場合は、時刻t3で全てのサイリスタSW1〜SW3がオフされ、電熱ユニットR1〜R5の発熱を停止させ、上型200内に設けられた冷却用流体が通る冷却穴70、70aと、下型300内に設けられた冷却用流体が通る冷却穴80、80aと、中型400内に設けられた冷却用流体が通る冷却穴90に、冷却用流体を注入して金型100を冷却する(時刻t4)。
【0019】
なお、当て布33aに塗布された熱硬化性接着剤が硬化し始め、当て布33aとスライダー33との間の接着力が所定値以上になった後、金型100全体を予熱し、更に、時刻t2−2で上型電熱ユニット用サイリスタSW1及び下型電熱ユニット用サイリスタSW2の導通角を大きくすることによって、移動手摺が接続される温度に上昇させることもできる。
また、下型300又は中型400と下型300の両方の加熱開始温度を上型200の加熱開始時間よりも早めるようにしても実施の形態1とほぼ同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の実施の形態1における乗客コンベア用移動手摺接続装置を示す金型の構造図である。
【図2】この発明の実施の形態1における乗客コンベア用移動手摺接続装置の金型を加熱する電熱ユニットの制御回路図である。
【図3】この発明の実施の形態1における乗客コンベア用移動手摺接続装置の金型の温度変化を示すタイムチャートである。
【図4】一般の乗客コンベアの概略的な構成を示す側面図である。
【図5】図4のC−C線に沿った断面図である。
【図6】移動手摺と手摺ガイドレールを含む摺動機構の一部断面図である。
【図7】従来の乗客コンベア用移動手摺接続装置の一例を示す金型の構造図である。
【図8】従来の乗客コンベア用移動手摺の接続部の一例を示す内面側から見た図である。
【図9】図8のD−D線に沿った断面図である。
【図10】従来の乗客コンベア用移動手摺の接続部の他の例を示す内面側から見た図である。
【図11】図10のE−E線に沿った断面図である。
【符号の説明】
【0021】
1 踏段
2 欄干
3 移動手摺
3a 充填部
4 駆動ローラ
5 加圧ローラ
10 手摺ガイドレール
10a 手摺ガイドクリップ
31 芯体層
32 表面層
33 スライダー層(帆布)
33a 当て布
34 抗張体
60 締め付けボルト
70、70a、80、80a、90 冷却穴
100 金型
200 上型
300 下型
300a 凹部
400 中型
500 制御装置
R1〜R5 電熱ユニット
SW1〜SW3 サイリスタ
S1〜S3 温度センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上型、下型及び移動手摺の内側に挿入される中型から構成され、少なくとも2以上の型に電熱ユニットが設けられた金型を備え、前記金型で加圧しつつ加熱することによって熱可塑性エラストマーからなる移動手摺を接続するものにおいて、
前記金型を構成するそれぞれの型の加熱温度又は加熱開始時間又はその両方を可変としたことを特徴とする乗客コンベア用移動手摺接続装置。
【請求項2】
最内側にスライダー層を備えた熱可塑性エラストマーからなる移動手摺を所定長さに切断し、その両端部を接続しエンドレスに形成されるものであって、この接続部に所定長の当て布を当て、前記スライダー層と前記当て布の間に熱硬化性接着剤を塗布し、上型、下型及び移動手摺の内側に挿入される中型から構成され、少なくとも2以上の型に電熱ユニットが設けられた金型で加圧しつつ加熱することによって前記移動手摺の接続部を接続するものにおいて、
前記金型を構成するそれぞれの型の加熱温度又は加熱開始時間又はその両方を可変とし、前記熱硬化性接着剤を加熱硬化させた後、前記熱可塑性エラストマー移動手摺を熱融着することを特徴とする乗客コンベア用移動手摺接続方法。
【請求項3】
スライダー層と当て布間の熱硬化性接着剤の接着力が所定値以上になった後、金型全体の温度を移動手摺が接続される温度に上昇させることを特徴とする請求項2記載の乗客コンベア用移動手摺接続方法。
【請求項4】
中型又は下型又はその両方の加熱開始時間を上型の加熱開始時間よりも早めたことを特徴とする請求項2又は請求項3記載の乗客コンベア用移動手摺接続方法。
【請求項5】
熱硬化性接着剤が弾力性を有することを特徴とする請求項2記載の乗客コンベア用移動手摺接続方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−327763(P2006−327763A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−154053(P2005−154053)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【出願人】(591040122)株式会社トーカン (15)
【Fターム(参考)】