説明

乗用型田植機における走行操作装置

【課題】エンジン7にて駆動の走行車輪5,6を有する走行機体2と,後部に装着される苗植え装置3と,前記走行車輪に対する走行変速ミッション8と,前記走行機体における運転操作部9に設けた変速ペダル12とから成る乗用型田植機において,その走行速度の変速操作の容易性を図る。
【解決手段】前記走行変速ミッションを変速操作するアクチエータ28と,前記変速ペダルの踏み込み操作及び踏み込み解除操作を検出する検出手段24とを備え,前記アクチエータ28は,前記検出手段による前記変速ペダルにおける踏み込み操作の検出にて前記走行変速ミッションを増速に作動し,前記検出手段による前記変速ペダルにおける踏み込み解除操作の検出にて前記走行変速ミッションを減速に作動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,走行機体の後部に苗植え装置を装着して成る構成の乗用型田植機において,その走行速度を,足踏み式の変速ペダルにて変速操作するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
先行技術としての特許文献1には,前記した構成の乗用型田植機において,その走行の変速を行う走行変速ミッションにおける変速レバーと,運転操作部に設けた足踏み式の変速ペダルとの間を,ロッド等にて機械的に連動連結することにより,前記変速ペダルの踏み込み操作で,前記変速ミッションが走行速度を増速に作動し,前記変速ペダルの踏み込み操作解除で,前記変速ミッションが走行速度を減速に作動するように構成して,その操作性の向上を図ることが記載されている。
【特許文献1】特開2003−220933号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし,前記先行技術のように,走行変速ミッションにおける変速レバーと,足踏み式の変速ペダルとを,ロッド等にて機械的に連結するという構成にした場合においては,その構造が簡単であるが,その反面,前記変速ペダルの操作動きが遅れなく直ちに走行変速ミッションに伝達するという構造であるから,走行機体が,前記変速ペダルの踏み込み操作によって急発進又は急加速し,前記変速ペダルの踏み込み解除操作によって急減速又は急停止する。
【0004】
前記急発進又は急加速した場合には,走行機体の前部が浮き上がり,後部の苗植え装置が下がることにより,圃場面に対する苗の植付け深さが所定値よりも深くなるという問題を招来し,また,前記急減速又は急停止した場合には,走行機体が横ずれ蛇行するという問題を招来するのであった。
【0005】
また,前記先行技術の構成においては,走行変速ミッションにおける変速レバーと変速ペダルとがロッド等による機械的な連結構造であるから,前記変速ペダルにおける踏み込む操作が重くなるばかりか,前記変速レバーを変速作動するときの衝撃又は負荷が,前記変速ペダルに,いわゆるキックバックとして伝わり,これらが変速操作性及び操作フィリングを低下するという問題もあった。
【0006】
本発明は,これらの問題を解消した走行操作装置を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この技術的課題を達成するため請求項1は,
「エンジンにて駆動の走行車輪を有する走行機体と,後部に装着される苗植え装置と,前記走行車輪に対する走行変速ミッションと,前記走行機体における運転操作部に設けた足踏み式の変速ペダルとから成る乗用型田植機において,
前記走行変速ミッションを変速操作するアクチエータと,前記変速ペダルの踏み込み操作及びこの踏み込んだ状態からの踏み込み解除操作を検出する検出手段とを備え,前記アクチエータは,前記検出手段による前記変速ペダルにおける踏み込み操作の検出にて前記走行変速ミッションを増速に作動し,前記検出手段による前記変速ペダルにおける踏み込み解除操作の検出にて前記走行変速ミッションを減速に作動する構成である。」
ことを特徴としている。
【0008】
請求項2は,
「前記請求項1の記載において,前記検出手段による検出を入力として前記アクチエータを作動制御するコントローラを備え,前記変速ペダルにおける単位操作量に対する走行速度の単位変速量が,前記コントローラにて変更可能に構成されている。」
ことを特徴としている。
【0009】
請求項3は,
「前記請求項1又は2の記載において,前記走行車輪に対するブレーキ機構及びクラッチ機構を備え,更に,一つの作動部材にて,前記ブレーキ機構をONにして前記クラッチ機構をOFFにする停止状態と,前記ブレーキ機構をOFFにして前記クラッチ機構をONにする走行状態とに切り換え作動するように構成されており,この作動部材は,前記変速ペダルを踏み込まない状態のとき前記停止状態になり,当該変速ペダルを踏み込んだ状態のとき前記走行状態になる構成である。」
ことを特徴としている。
【0010】
請求項4は,
「前記請求項3の記載において,前記作動部材は,前記走行機体における運転操作部に設けられている足踏み式のブレーキペダルに,当該ブレーキペダルの踏み込み操作により,前記変速ペダルに優先して,前記停止状態になるように関連している。」
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
前記請求項1の記載によると,前記変速ペダルを踏み込み操作すると,この踏み込み操作が検出手段にて検出され,この検出に応じてアクチエータが作動し,このアクチエータの作動により走行変速ミッションが増速作動する一方,前記変速ペダルを踏み込みを戻すように踏み込み解除操作すると,この踏み込み解除操作が検出手段にて検出され,この検出に応じてアクチエータが作動し,このアクチエータの作動により走行変速ミッションが減速作動する。
【0012】
つまり,前記変速ペダルと,これによって作動する走行変速ミッションとの間には,前記検出手段による検出と,この検出に基づく前記アクチエータの作動との両方が存在し,これにより,前記変速ペダルの踏み込み操作に際しての急加速又は急発進,及び,前記変速ペダルの踏み込み解除操作に際しての急減速又は急停止を回避することができるから,発進又は加速の際に,圃場面に対する苗植え付けが深植えになることを低減できることに加えて,減速又は停止の際に,走行機体が横ずれ蛇行することを低減できる。
【0013】
しかも,前記変速ペダルにおける踏み込み操作は,前記走行変速ミッションをアクチエータにて変速作動する分だけ軽減されることに加えて,前記変速ペダルには前記走行変速ミッションの変速レバーを変速作動するときの負荷及び衝撃がいわゆるキックバックとして伝わることがないから,変速操作性及び操作フィリングを大幅に向上できる。
【0014】
次に,請求項2の記載によると,前記変速ペダルにおける単位操作量に対する走行速度の単位変速量を,前記コントローラにて変更可能であることにより,例えば,前記変速ペダルの踏み込み操作の初期(発進に際して)において,走行速度の増速度を緩やかにしたり,前記変速ペダルの踏み込み解除操作の終期(停止に際して)において,走行速度の減速度を緩やかにすることが任意に設定できるから,発進に際しての深植え防止,及び,停止に際しての横ずれ蛇行防止の効果を一層に助長できる利点がある。
【0015】
また,請求項3の記載によると,前記変速ペダルから足を離して,前記変速ペダルを踏み込まない状態にすると,クラッチ機構がOFFになって走行車輪への動力伝達が切れると同時にブレーキ機構がONになって走行車輪が停止するから,走行機体の確実な走行停止が行われ,操作性の向上に寄与できる。
【0016】
更にまた,請求項4の記載によると,前記走行機体の走行停止が,前記変速ペダルによる操作にかかわらず,換言すると,前記変速ペダルによる操作とは関係なく,ブレーキペダルによって任意に行うことができるから,操作性をより向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下,本発明の実施の形態を,図1〜図7の図面について説明する。
【0018】
図1及び図2において,符号1は,乗用型の田植機を示し,この乗用型田植機1は,走行機体2と,この後部に昇降可能に装着した従来周知の多条植え式の苗植え装置3とから成り,前記走行機体2は,車体フレーム4を左右一対の前車輪5と同じく左右一対の後車輪6とで支持するという構成である。
【0019】
また,前記走行機体2における車体フレーム4には,エンジン7が搭載されるとともに,このエンジン7から動力を適宜変速して前記各車輪5,6に伝達するようにようにした走行変速ミッション8が搭載されており,これにより,前記走行機体2は,四輪駆動にて矢印A方向に前進走行される。
【0020】
更にまた,前記走行機体2における車体フレーム4の上面には,操縦ハンドル10及び座席11を備えた運転操作部9が設けられ,この運転操作部9における床面のうち前記操縦ハンドル10の右側の部位には,前方向への足踏み式の変速ペダル12と,同じく前方向への足踏み式のブレーキペダル13とが左右に並べて設けられ,これらペダル12,13は,前記車体フレーム4に枢着されている。
【0021】
前記走行変速ミッション8には,図3に示すように,前記エンジン7からの動力を入力とする可変式の油圧ポンプ15と,この油圧ポンプ15からの油圧にて駆動される油圧モータ16とから成るHST式の無段変速機構14を備え,この無段変速機構14は,前記油圧ポンプ15における斜板15aの傾斜角度を変速レバー17にて変更することにより,前記走行機体2の走行速度を無段変速するように構成して成るものであり,前記変速レバー17には,図示していないが,当該変速レバー17を減速方向に付勢するばね手段が設けられている。
【0022】
また,前記走行変速ミッション8には,図3に示すように,前記各車輪5,6への動力伝達をON・OFF(断続)するためのクラッチ機構18を備えているとともに,前記各車輪5,6に対するブレーキ機構19とを備えている。
【0023】
更に,前記走行変速ミッション8には,前記ブレーキ機構19に対する回転式の操作軸20が設けられ,この操作軸20に固着した一つの作動部材21には,前記クラッチ機構18をワイヤー等を介して連結することにより,前記一つの作動部材21は,図4及び図7に実線で示す位置にあるときにおいて,前記ブレーキ機構19がONで前記クラッチ機構18がOFFの停止状態になっているが,図7に矢印Bで示す後ろ方向に回動して二点鎖線の位置になったとき前記ブレーキ機構19がOFFで前記クラッチ機構18がONの走行状態になるように構成されており,この一つの作動部材21又は前記操作軸20には,当該作動部材21を前記矢印Bの方向に回動するように付勢するばね手段(図示せず)が設けられている。
【0024】
前記車体フレーム4のうち前部の部分には,横方向に延びる変速操作軸22が軸受け23にて回転自在に軸支されており,この変速操作軸22の右端には,前記変速ペダル12の踏み込み操作及び踏み込み解除操作(詳しくは後述する)を検出するための検出手段24が設けられている一方,前記変速操作軸22の左端には,扇形歯車25が固着されている。
【0025】
また,前記変速操作軸22にはアーム26が固着され,このアーム26の先端には,後方に延びる変速ロッド杆27の前端が枢着され,この変速ロッド杆27の後端に設けた適宜長さLの長溝孔27aには,前記走行変速ミッション8の無段変速機構14における変速レバー17の先端に設けたピン17aが摺動自在に嵌まり係合しており,これにより,前記無段変速機構14は,前記変速操作軸22が回転することなく,ひいては前記変速ロッド杆27が後方に移動しない状態では,殆ど動力伝達しない状態にあるが,前記変速操作軸22における図5及び図6に矢印Cで示す反時計方向への回転に伴う前記変速ロッド杆27の後方への移動が前記長溝孔27aの長さLを越えた時点から前記変速ロッド杆27の後方への移動に比例して,走行速度を無段に増速する一方,前記変速操作軸22における図5及び図6に矢印Dで示す時計方向への回転に伴う前記変速ロッド杆27の前方への移動に比例して,走行速度を無段に減速するように構成されている。
【0026】
前記扇形歯車25には,電動式アクチェータ28にて回転駆動されるピニオン29が噛合しており,前記電動式アクチェータ28にて,前記扇形歯車25を介して前記変速操作軸22を,前記矢印Cで示す反時計方向と,前記矢印Dで示す時計方向とに回転するように構成している。
【0027】
前記変速操作軸22の右端の部分には,これに平行する変速用ペダル軸30が回転自在に軸支され,この変速用ペダル軸30は,前記変速ペダル12に連動機構31を介して連動されていることにより,前記変速ペダル12を図示しないばね手段に抗して起立した状態から倒すように踏み込むという踏み込み操作にて矢印Eで示す時計方向に回転し,前記変速ペダル12をその踏み込みの解除にて前記踏み込んだ位置からそのばね手段にて元の起立姿勢の方向に戻すという踏み込み解除操作にて矢印Fで示す反時計方向に回転するように構成されている。
【0028】
そして,前記変速操作軸22の右端における前記検出手段24は,前記変速操作軸22に固着したボックス24aと,このボックス24aに回転自在に設けたロータ24bと,このロータ24bから半径方向外向きに突出する二股状アーム24cと,前記前記ボックス24a内のうち前記二股状アーム24cの両側に設けた一対のスイッチ24d,24eとから成り,前記二股状アーム24cには,前記変速用ペダル軸30から突出するアーム32の先端が係合していることにより,この二股状アーム24c及びロータ24bは,前記変速ペダル12における踏み込み操作にて矢印E′で示すように反時計方向に回動して,一方のスイッチ24dがOFFからONに切り換わり,前記変速ペダル12における前記踏み込んだ状態からの踏み込み解除操作にて矢印F′で示すように時計方向に回動して,他方のスイッチ24eがOFFからONに切り換わるように構成されている。
【0029】
図4に符号33で示すコントローラは,前記検出手段24の両スイッチ24d,24eにおける信号を入力として,この入力を適宜変更して前記電動式アクチェータ28に出力するものであり,前記両スイッチ24d,24eのうち一方のスイッチ24dがOFFからONになると,前記電動式アクチェータ28が前記変速操作軸22を扇形歯車25を介して矢印Cの方向に回転することにより,前記変速ロッド杆27が,図4,図6及び図7に実線矢印Gで示すように,後方に移動し,前記両スイッチ24d,24eのうち他方のスイッチ24eがOFFからONになると,前記変速ロッド杆27が,図4,図6及び図7に点線矢印Hで示すように,前方に移動するように構成している。
【0030】
前記クラッチ機構18及びブレーキ機構19の両方に対する一つの作動部材21には,図8に示すように,受け片21aが一体に設けられ,この受け片21aには,前記変速ロッド杆27が摺動自在に貫通しており,この変速ロッド杆27の後端部には,前記受け片21aに接当するストッパー片27bを設けて,前記変速操作軸22が回転することなくひいては前記変速ロッド杆27が後方に移動しない状態,つまり,前記変速ペダル12を踏み込み操作しない状態のとき,前記ストッパー片27bにて,前記一つの作動部材21を,前記ブレーキ機構19がONで前記クラッチ機構18がOFFの停止状態に保持し,前記変速ロッド杆27の後方への移動により,前記一つの作動部材21が,そのばね手段に抗して図7に二点鎖線で示すように矢印Bの後方に回動し,前記ブレーキ機構19がOFFで前記クラッチ機構18がONの走行状態になるように構成されている。
【0031】
前記変速ペダル12に並設されているブレーキペダル13は,前記車体フレーム4に回転自在に軸支したブレーキ軸34に,当該ブレーキペダル13の踏み込み操作にて,このブレーキ軸34を回転するように連結されており,このブレーキ軸34に固着したアーム35の先端に,後方に延びるブレーキロッド杆36を連結し,このブレーキロッド杆35における後端の部分を,図7に示すように,前記一つの作動部材21に設けた係止片21bを摺動自在に貫通させて,その後端にストッパー36aを設けることにより,前記ブレーキペダル13を踏み込み操作しない状態では,前記一つの作動部材21における停止状態(図7に実線で示す位置)から走行状態(図7に二点鎖線で示す位置)への自由な作動を許容しているが,前記一つの作動部材21が前記走行状態にあるとき,前記ブレーキペダル13をそのばねに抗して踏み込み操作することにより,前記一つの作動部材21を,前記変速ロッド杆27にかかわらず,換言すると,前記変速ペダル12における操作に優先して,強制的に前記停止状態にすることができるように構成している。
【0032】
この構成において,前記変速ペダル12を踏み込まないときには,前記変速操作軸22が回転することはなく,前記変速ロッド杆27も後方に移動しないから,前記走行変速ミッション8のHST式無段変速機構14における変速レバー17は回動されない。
【0033】
しかも,前記変速ペダル12を踏み込まないときには,前記一つの作動部材21は,各図に実線で示す停止状態の位置にあって,ブレーキ機構19がONでクラッチ機構18がOFFの動力伝達遮断になっているから,走行機体2は,走行しない。
【0034】
次いで,前記変速ペダル12を踏み込み操作すると,先ず,前記変速用ペダル軸30が矢印Eの方向に回転し,この回転に基づいて前記検出手段24における二股状アーム24c及びロータ24bが矢印E′の方向に回転することにより,前記検出手段24における両スイッチ24d,24eのうち一方のスイッチ24dが,OFFからONに切り換わることにより,前記電動式アクチェータ28が,前記コントローラ33の指示にて,前記変速操作軸22を矢印Cの方向に回転するから,前記変速ロッド杆27は,実線矢印Gで示すように後方に移動を始める。
【0035】
前記変速ロッド杆27における後方への初期の移動が,その後端における長溝孔27aの長さLになると,そのストッパー27bが,前記一つの作動部材21における受け片21aから後方に離れることにより,前記一つの作動部材21は,二点鎖線で走行状態に回動するから,ブレーキ機構19がOFFでクラッチ機構18がONの動力伝達になる。
【0036】
前記変速ロッド杆27の後方への移動は,前記変速ペダル12の踏み込み操作の継続により続行され,その後方への移動が前記長溝孔27aの長さLを越えた段階で,前記変速レバー17は後方に回動し,前記HST式無段変速機構14が動力伝達に作動するから,走行機体2は走行を始める。
【0037】
この走行に際しての走行速度は,前記変速ロッド杆27の更なる後方への移動,ひいては,前記変速ペダル12の踏み込み操作に比例して行われる。
【0038】
前記変速ペダル12の踏み込み操作を止めると,前記コントローラ33により電動式アクチェータ28による前記変速操作軸22の矢印Cへの方向に回転が継続されることで,前記検出手段24における一方のスイッチ24dがONからOFFになり,前記コントローラ33の指示にて,電動式アクチェータ28による前記変速操作軸22の矢印Cへの方向に回転が停止し,ひいては,前記変速ロッド杆27の後方への移動がその位置において停止するから,前記変速ペダル12の踏み込み位置に対応した走行速度に維持することができる。
【0039】
次に,前記変速ペダル12から足を外すことによって,当該変速ペダル12を,前記変速位置に踏み込んだ状態からそのばね手段にて元の起立位置まで戻すという踏み込み解除操作を行うと,前記変速用ペダル軸30が矢印Fの方向に回転し,この回転に基づいて前記検出手段24における二股状アーム24c及びロータ24bが矢印F′の方向に回転することにより,前記検出手段24における両スイッチ24d,24eのうち他方のスイッチ24eが,OFFからONに切り換わることにより,前記電動式アクチェータ28が,前記コントローラ33の指示にて,前記変速操作軸22を矢印Dの方向に回転するから,前記変速ロッド杆27は,点線矢印Hで示すように前方に移動する。
【0040】
この変速ロッド杆27の点線矢印Hで示す前方への移動により,前記変速レバー17が後方に回動し,前記HST式無段変速機構14が減速に作動するから,走行機体2の走行速度は減速される。
【0041】
前記した踏み込み解除操作を途中で止める状態に前記変速ペダル12を保持することで,前記コントローラ33により電動式アクチェータ28による前記変速操作軸22の矢印Dへの方向に回転が継続されることで,前記検出手段24における他方のスイッチ24eがONからOFFになり,前記コントローラ33の指示にて,電動式アクチェータ28による前記変速操作軸22の矢印Dへの方向に回転が停止し,ひいては,前記変速ロッド杆27の前方への移動がその位置において停止するから,走行速度を,前記した減速した状態に維持することができる。
【0042】
前記変速ペダル12が,元の起立位置にまで戻った時点で,前記変速レバー17が元に戻って,前記HST式無段変速機構14が殆ど動力伝達しない状態になることに加えて,前記一つの作動部材21が,前記ブレーキ機構19がONで前記クラッチ機構18がOFFの停止状態になるから,前記走行機体2の走行は停止する。
【0043】
このように,前記変速ペダル12を踏み込み操作しての発進及び加速に際しては,前記変速ペダル12の踏み込みを検出手段24で検出し,この検出に基づいてコントローラ33を介してアクチェータ28が走行変速ミッション8を増速に作動することによって行う一方,前記変速ペダル12を踏み込み解除操作しての減速及び停止に際しても,この踏み込み解除操作を検出手段24で検出し,この検出に応じてアクチエータ28が走行変速ミッション8を減速に作動することによって行うもので,前記変速ペダル12と,これによって作動する走行変速ミッション8との間には,前記検出手段24による検出と,この検出に基づく前記アクチエータ28の作動との両方が存在し,これにより,前記変速ペダル12の踏み込み操作に際しての急加速又は急発進,及び,前記変速ペダルの踏み込み解除操作に際しての急減速又は急停止を回避することができる。
【0044】
これに加えて,前記変速ペダル12における踏み込み操作力を,前記走行変速ミッション8をアクチエータ28にて変速作動する分だけ軽減できるほか,前記変速ペダル12に,前記走行変速ミッション8の変速レバー17を変速作動するときの負荷及び衝撃がいわゆるキックバックとして伝わることを回避できる。
【0045】
ところで,前記コントローラ33には,前記変速ペダル12における単位操作量に対する走行速度における単位変速量を変更できるようにした機能を備えている。
【0046】
すなわち,図8は,前記変速ペダル12における操作量Sと,走行速度の変速量Wとの関係を示す図であり,その関係を,実線で示す一次直線Xとすることにより,前記変速ペダル12における単位操作量ΔSに対する走行速度における単位変速量ΔWを,全領域にわたって直線的に比例するように設定したり,或いは,二点鎖線で示す下向き凸の二次曲線Yとすることにより,前記変速ペダル12における単位操作量ΔSに対する走行速度における単位変速量を,前記変速ペダル12の踏み込み操作の初期の領域において,前記直線比例のときのΔWからΔW′に小さくし,以後変速ペダル12の踏み込み操作量に比例して大きくするように設定したりすることができる。
【0047】
後者のように設定することにより,前記変速ペダル12の踏み込み操作の初期(発進に際して)において,走行速度の増速度を緩やかにし,前記変速ペダル12の踏み込み解除操作の終期(停止に際して)において,走行速度の減速度を緩やかにすることができるから,発進に際しての深植え防止,及び,停止に際しての横ずれ蛇行防止の効果を一層に助長できる。
【0048】
また,前記コントローラ33による前記変速ペダル12における操作量Sと走行速度の変速量Wとの関係設定に際しては,前記一次直線X又は下向き凸の二次曲線Yにすること以外に,前記一次直線Xの傾きを代えたり,前記下向き凸の二次曲線Yの形状を代えたり,上向き凸の二次曲線にしたりすることができるほか,一次直線又は二次曲線を,前記変速ペダル12における踏み込み操作のときと,踏み込み解除操作のときとで代えるように設定することができる。
【0049】
前記した実施の形態においては,前記エンジン7の駆動回転数を,前記走行変速ミッション8における変速作動に応じて自動的に変更するように構成している。
【0050】
すなわち,図6に示すように,前記扇形歯車25に,円周方向に延びるカム溝37を設けるに際し,このカム溝37を,その始端37aが前記扇形歯車25の中心である前記変速操作軸22から大きい半径R1の部位に位置する一方,終端37bが前記変速操作軸22から小さい半径R2の部位に位置するというように,前記扇形歯車25の矢印Cへの回転方向,つまり,走行速度を増速する回転方向につれて次第に回転中心に近づくように傾斜するという構成にする。
【0051】
このカム溝37に,前記車体フレーム4に回転自在に軸支した横軸38から突出する第1アーム39の先端を摺動自在に係合する一方,前記横軸38に固着した第2アーム40と,前記エンジン7におけるアクセルレバー7aとの間を,ワイヤー41等にて連結するという構成である。
【0052】
この構成において,前記扇形歯車25の矢印Cへの回転方向,つまり,走行速度の増速に応じて,前記カム溝37にて,前記アクセルレバー7aがその戻しばね手段7bに抗しして矢印Jで示す方向に回転するから,前記エンジン7における回転数は,アイドル回転から走行速度の増速に比例して自動的に増速される。
【0053】
一方,前記扇形歯車25の矢印Dへの回転方向,つまり,走行速度の減速に応じて,前記カム溝37にて,前記アクセルレバー7aがその戻しばね手段7bにて前記とは逆の矢印Kで示す方向に戻り回転するから,前記エンジン7における回転数は,走行速度の減速に比例して自動的に減速され,走行が停止したときにアイドル回転になる。
【0054】
なお,前記エンジン7の回転数は,前記アクセルレバー7aを手動にて回動操作することによっても,任意に変更できるように構成されていることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】乗用型田植機の側面図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】走行変速ミッションを示す概略図である。
【図4】走行操作装置を示す平面図である。
【図5】図4のV−V視拡大断面図である。
【図6】図4のVI−VII 視拡大断面図である。
【図7】図4の要部拡大図である。
【図8】変速ペダルの操作量と走行速度の変速量との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1 乗用型田植機
2 走行機体
3 苗植え装置
4 車体フレーム
5 前輪
6 後輪
7 エンジン
8 走行変速ミッション
9 運転操作部
12 変速ペダル
13 ブレーキペダル
14 HST式無段変速機構
17 変速レバー
18 クラック機構
19 ブレーキ機構
21 作動部材
22 変速操作軸
24 検出手段
25 変速用扇形歯車
27 変速ロッド杆
28 アクチェータ
33 コントローラ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにて駆動の走行車輪を有する走行機体と,後部に装着される苗植え装置と,前記走行車輪に対する走行変速ミッションと,前記走行機体における運転操作部に設けた足踏み式の変速ペダルとから成る乗用型田植機において,
前記走行変速ミッションを変速操作するアクチエータと,前記変速ペダルの踏み込み操作及びこの踏み込んだ状態からの踏み込み解除操作とを検出する検出手段とを備え,前記アクチエータは,前記検出手段による前記変速ペダルにおける踏み込み操作の検出にて前記走行変速ミッションを増速に作動し,前記検出手段による前記変速ペダルにおける踏み込み解除操作の検出にて前記走行変速ミッションを減速に作動する構成であることを特徴とする乗用型田植機における走行操作装置。
【請求項2】
前記請求項1の記載において,前記検出手段による検出を入力として前記アクチエータを作動制御するコントローラを備え,前記変速ペダルにおける単位操作量に対する走行速度の単位変速量が,前記コントローラにて変更可能に構成されていることを特徴とする乗用型田植機における走行操作装置。
【請求項3】
前記請求項1又は2の記載において,前記走行車輪に対するブレーキ機構及びクラッチ機構を備え,更に,一つの作動部材にて,前記ブレーキ機構をONにして前記クラッチ機構をOFFにする停止状態と,前記ブレーキ機構をOFFにして前記クラッチ機構をONにする走行状態とに切り換え作動するように構成されており,この作動部材は,前記変速ペダルを踏み込まない状態のとき前記停止状態になり,当該変速ペダルを踏み込んだ状態のとき前記走行状態になる構成であることを特徴とする乗用型田植機における走行操作装置。
【請求項4】
前記請求項3の記載において,前記作動部材は,前記走行機体における運転操作部に設けられている足踏み式のブレーキペダルに,当該ブレーキペダルの踏み込み操作により,前記変速ペダルに優先して,前記停止状態になるように関連していることを特徴とする乗用型田植機における走行操作装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−210063(P2009−210063A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55169(P2008−55169)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】