説明

乾燥装置

【課題】本発明は、防爆層内の換気用空気による乾燥効率を向上し、かつ、簡易な構成で防爆構造を実現する乾燥装置を提供することを課題とする。
【解決手段】乾燥装置1は、遠赤外線IRを発生する遠赤外線ヒーター10を含む加熱層5と、加熱層5に対して独立して設けられる防爆層7と、を備え、防爆層7に加熱層5で発生させた遠赤外線IRを導入して、油系溶媒を含むペースト3を乾燥させる乾燥装置である。加熱層5と防爆層7との間に、加熱層5の熱が防爆層7に伝達されることを防止するとともに、遠赤外線IRを透過する断熱層6を備え、防爆層7内の加熱層5側と反対側に、防爆層7内の雰囲気を換気する給排気システム30が設けられ、給排気システム30は、防爆層7内でペースト3の塗工面と平行に空気を流す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、箔の表面に塗工されたペーストを乾燥する乾燥装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気式の遠赤外線ヒーターを利用した乾燥装置の技術は公知となっている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1の乾燥装置は、乾燥炉内に配置された遠赤外線ヒーターに通電することによって遠赤外線を発生させて、箔上に塗工されたペーストを乾燥する。この遠赤外線ヒーターは、セラミックコーティングされた金属の内部にシーズヒーターを配置し、シーズヒーターを加熱して金属を内部から熱することにより、セラミックを加熱して遠赤外線を発生させる構成であり、シーズヒーターの通電端子を乾燥炉外の独立した領域に設けることによって乾燥炉の防爆構造を実現している。
このような乾燥装置を用いて油系の溶媒を含むペースト乾燥する場合は、乾燥炉内を換気して、油雰囲気を排気する必要がある。また、気化油を含んだ排気は冷却され、油分を分離した後に、換気として再利用又は大気開放される。
【0003】
しかしながら、特許文献1の乾燥装置は、乾燥炉内に遠赤外線ヒーターを配置する構成を採用しているため、ヒーターを遠赤外線が効果的に発生する温度近傍(例えば、セラミックは400℃程度)まで加熱する場合に乾燥炉内の温度が不可避的に上昇してしまう。これに伴い、換気のために炉内に供給される空気の温度も上昇し、飽和蒸気圧も上昇するため、換気用空気の乾燥エネルギーが低下してしまい、エネルギー効率が悪くなる。
さらには、防爆層として構成される乾燥炉内の温度の上昇を抑制する必要があるため、換気時に供給する空気の温度、風量等を厳密に管理する必要が生じ、装置構成及び制御構成が煩雑になってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−251252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、防爆層内の換気用空気による乾燥効率を向上し、かつ、簡易な構成で防爆構造を実現する乾燥装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の乾燥装置は、遠赤外線を発生する遠赤外線ヒーターを含む加熱層と、前記加熱層に対して独立して設けられる防爆層と、を備え、前記防爆層に前記加熱層で発生させた遠赤外線を導入して、油系溶媒を含むペーストを乾燥させる乾燥装置であって、前記加熱層と防爆層との間に、前記加熱層の熱が防爆層に伝達されることを防止するとともに、前記遠赤外線を透過する断熱層を備え、前記防爆層内の加熱層側と反対側に、当該防爆層内の雰囲気を換気する給排気システムが設けられ、前記給排気システムは、前記防爆層内でペースト塗工面と平行に空気を流す。
【0007】
前記断熱層の内部には、当該断熱層内を換気するための空気が流通され、前記断熱層内を通過した後の空気は、前記給排気システムの給気側に用いられることが好ましい。
【0008】
上方から加熱層、断熱層、防爆層の順に位置することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、防爆層内の換気用空気による乾燥効率を向上でき、かつ、簡易な構成で防爆構造を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】乾燥装置の側面図である。
【図2】乾燥装置の正面図である。
【図3】給排気システムの換気用空気の給気側に断熱層からの空気を利用する場合の実施形態を示す図である。
【図4】乾燥装置の別実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である乾燥装置1について説明する。乾燥装置1は、箔2の表面に塗工されたペースト3を乾燥するための設備である。ペースト3が上面に塗工された状態の箔2が乾燥装置1内に連続的に搬送され、乾燥装置1を通過した後にペースト3が十分に乾燥するように装置内で所定の熱量が加えられる。
乾燥装置1は、上方から順に加熱層5、断熱層6、防爆層7を備える三層構造に構成される。加熱層5、断熱層6及び防爆層7は、それぞれ隔離され、独立した空間(領域)として形成されている。ペースト3が上面に塗工された箔2は防爆層7に搬送され、防爆層7内でペースト3の乾燥が行われる。
本実施形態のペースト3は、例えば電池の電極材料等の油系溶媒を含むペースト材料であり、乾燥炉として構成される防爆層7は、火種を含まない、換気設備を有する、溶媒の発火温度以上に昇温させない等、適宜の防爆構造を有する。
【0012】
図1及び図2に示すように、乾燥装置1は、遠赤外線ヒーター10を備える。遠赤外線ヒーター10は、遠赤外線IRを放射する電気式のヒーターであり、加熱層5に配置される。遠赤外線ヒーター10は、通電端子11・11、シーズヒーター12、発熱体13、セラミック14を具備する。
通電端子11・11、シーズヒーター12、発熱体13は、加熱層5内に配置され、セラミック14は、加熱層5から断熱層6に臨んで配置される。つまり、加熱層5から断熱層6内にセラミック14の下面の一部が突出した状態で固定されている。
【0013】
シーズヒーター12は発熱体13内に設けられ、通電端子11・11に通電することにより加熱される電気式のヒーターである。発熱体13は適宜の金属材料によって構成される構造体であり、その下面にプレート状のセラミック14が接触した状態で固定される。このように、発熱体13の一面にセラミック14を接触させているので、発熱体13の熱を効率的にセラミック14に伝達可能である。
遠赤外線ヒーター10では、通電端子11・11に通電することによりシーズヒーター12が熱せられ、シーズヒーター12によって発熱体13が加熱されてセラミック14が加熱されることによって、セラミック14から遠赤外線IRが放射される。なお、セラミック14は、ペースト3の塗工幅と同等の幅を有するように形成されており、乾燥装置1内においては、セラミック14とペースト3とが略全域において対向し、遠赤外線IRを良好にペースト3に伝達可能に構成される。
また、発熱体13とセラミック14とを一体的に構成しても良い。すなわち、発熱体13の下面にセラミックコーティングすることによって、発熱体13の下面にセラミック14をコーティング層として存在させる構成としても良く、遠赤外線ヒーター10の下面から遠赤外線IRが放射される構成であれば採用可能である。
【0014】
加熱層5にて発生する遠赤外線IRは、断熱層6を介して防爆層7に導入される。
断熱層6の内部には空気が流通されており、層内が換気されている。つまり、断熱層6の内部に熱伝達率の小さい空気を充填することによって、加熱層5から受ける熱影響を低減し、断熱層6内の温度が所定温度以上に上昇しないように調整している。また、加熱層5と防爆層7との間に断熱層6を設けることによって、加熱層5の熱が防爆層7に伝達されることを抑制し、防爆層7の昇温を防止している。
【0015】
断熱層6と防爆層7との境界部分(断熱層6と防爆層7とを隔てる隔壁)には、石英ガラス等の遠赤外線IRを透過する材料からなる窓20が設けられる。すなわち、加熱層5と断熱層6の境界部分に配置されるセラミック14から放射された遠赤外線IRは、窓20を透過して防爆層7内に伝達される。
また、断熱層6には空気が充填されているため、遠赤外線IRは、断熱層6内では吸収されにくく、加熱層5での強度を保持したまま、防爆層7に導入される。防爆層7に導入された遠赤外線IRは、ペースト3に吸収される。これにより、ペースト3が内部から暖められて乾燥する。
【0016】
防爆層7には、ペースト3が塗工された箔2が、ペースト3の塗工面が上面となるように搬送され、防爆層7内でペースト3に乾燥が行われている。
上述のように、防爆層7内には、遠赤外線ヒーター10にて発生する遠赤外線IRが導入されており、防爆層7内に搬送される箔2上のペースト3に遠赤外線IRを照射することによって、ペースト3に遠赤外線IRを吸収させて内側から暖めている。ペースト3を暖めることによって溶媒等が蒸発(気化)し、ペースト3の乾燥が行われる。
【0017】
防爆層7は、給排気システム30を備える。給排気システム30は、防爆層7に空気を給気・排気させて流通させることによって、ペースト3を乾燥させる際に発生する気化溶媒を排気し、防爆層7内の油雰囲気を換気する。
給排気システム30は、給気ダクト31及び排気ダクト32を含む。給気ダクト31から空気を供給し、排気ダクト32から排気することによって、防爆層7内を換気する。給気ダクト31及び排気ダクト32は、防爆層7の下部(乾燥装置1の底部)に配置されており、乾燥装置1の長手方向に沿って設けられている。言い換えれば、給気ダクト31と排気ダクト32は、防爆層7内において加熱層5及び断熱層6と反対側に設けられ、その延出長は防爆層7の長手方向略全域に及んでいる。
また、給気ダクト31は、乾燥装置1の外部まで延出され、空気を供給するための適宜の送風装置(不図示)と接続される。排気ダクト32は、乾燥装置1の外部まで延出され、空気を排出するための適宜の吸引装置(不図示)と接続される。
【0018】
給気ダクト31は、その一部が防爆層7の壁面に沿って上方に延出されており、その延出部分に給気口群33を有する。排気ダクト32は、その一部が給気ダクト31の延出部分とは反対側の壁面に沿って(言い換えれば、給気ダクト31の延出部分と対向するように)上方に延出されており、その延出部分に排気口群34を有する。
給気口群33は、給気ダクト31の長手方向に沿って形成される開口群であり、排気口群34は、排気ダクト32の長手方向に沿って形成される開口群である。給気口群33を介して、給気ダクト31と防爆層7の内部が連通し、排気口群34を介して、排気ダクト32と防爆層7の内部が連通している。
【0019】
給気口群33及び排気口群34は、防爆層7の長手方向に沿って対向する両壁面にそれぞれ配置され、乾燥対象であるペースト3を挟んで互いに向き合うように設けられることから、換気用空気は、防爆層7の幅方向(防爆層7内を搬送される箔2の短手方向)に流れる、すなわち防爆層7内を最短経路で直線的に流れることとなり、換気効率を向上できる。
また、ペースト3からの気化油分を含む排気が流通する排気ダクト32を、乾燥装置1の底部に設け、乾燥装置1の中で最も昇温される加熱層5と最大限に離れた位置に配置することにより、防爆層7(特に排気ダクト32内の油分を含んだ排気)の昇温を抑制でき、乾燥装置1の防爆性をより確実なものにできる。
【0020】
以上のように構成される給排気システム30において、給気ダクト31を介して防爆層7内に供給される空気は、防爆の範囲内(例えば100℃程度)で熱せられ、十分に乾燥した状態で供給される。つまり、乾燥した空気を換気用の空気として用いることで、防爆層7内の雰囲気に含まれる気化溶媒の油分及び水分を良好に吸収し、防爆層7を換気するとともに、湿り度を調整してペースト3の乾燥を促進している。
また、排気ダクト32から排出される排気は、ペースト3の油分を含んでいるため、一度20℃程度まで冷却して油分を凝縮させて回収した後に、給気として再利用又は大気開放される。このように、給排気システム30では、十分に乾燥した状態(100℃程度に熱せられた状態)の空気を給気として用い、排気後に油分の凝縮温度(20℃程度)にまで冷却するサイクルを経ることから、乾燥エネルギーを最大限に利用でき、効率的な乾燥を実現できる。
【0021】
さらに、図2に示すように、給排気システム30による換気用空気が、給気ダクト31の給気口群33から箔2の延在方向に沿って(防爆層7の幅方向に沿って)流れ、層の反対側に位置する排気口群34を通じて排気ダクト32に向かうように構成される。
すなわち、防爆層7内での換気用空気が、箔2におけるペースト3の塗工面と平行の流れとなるように設定され、ペースト3の塗工表面に対して大きい角度で吹き当たる(衝突する)ことがないように設定されている。このように、防爆層7において、換気用空気をペースト3の塗工面と平行な方向に流すことによって、ペースト3の表面での乾燥を促進することを抑制し、ペースト3内でのマイグレーションの発生を防止している。
また、乾燥装置1は遠赤外線式の乾燥炉として構成されることから、ペースト3を内部から暖めて乾燥させることができ、ペースト3内のマイグレーションの発生をより確実に防止できる。
【0022】
また、乾燥装置1において、上方から加熱層5、断熱層6、防爆層7の順に配置し、防爆層7を加熱層5から離れた位置に配置するとともに、防爆層7の下部に給排気システム30を配置することによって、簡易な構成で効果的な防爆構造を実現できるとともに、従来デッドスペースとして利用されていなかった乾燥装置1の下方の空間を有効利用でき、乾燥装置1の設備高さを抑制できる。
【0023】
図3に示すように、断熱層6内を流通する空気を、防爆層7の給排気システム30の給気側に用いることが好ましい。
具体的には、断熱層6内に供給される空気を排気するための排気通路40を給排気システム30の給気ダクト31に連結することによって、給排気システム30の給気の一部又は全部として利用することが好ましい。
【0024】
上述のように、断熱層6内には、層内の温度上昇を抑制するべく断熱用空気が供給されて充填されている。このように断熱層6内に供給される空気は、遠赤外線ヒーター10の熱によって、つまり発熱体13及びセラミック14の発熱の影響(熱伝達)を受けて、温度が上昇する。そして、断熱層6から排出される際には、供給時の温度よりも上昇することとなる。
温度上昇した空気を給排気システム30の給気の一部又は全部として利用することによって、給排気システム30の給気昇温時にかかるエネルギーコストを低減できる。
【0025】
乾燥装置1は、その内部に複数列の箔2・2・・・を搬送する構成としても良い。
例えば、図4に描かれる実施形態は、二列の箔2・2を防爆層7に搬送し、箔2・2上に塗工されたペースト3・3を乾燥する乾燥装置1を示している。乾燥装置1では、遠赤外線ヒーター10を含む加熱層5、並びに、窓20を含む断熱層6を乾燥装置1の長手方向に沿って並列し、それぞれの箔2(ペースト3)と対向するように遠赤外線ヒーター10を用意するとともに、ペースト3がそれぞれ上面に塗工された箔2・2を共通の防爆層7に搬送している。つまり、図4に示す乾燥装置1は、搬送される箔2の列数に応じた二つの加熱層5・5及び断熱層6・6と、一つの防爆層7とを備える構造である。
すなわち、本実施形態の乾燥装置1においても、防爆層7を、通電端子を含む加熱層5・5から離れた位置に配置することで、防爆層7から通電端子の火種を排除して引火性を考慮するとともに、防爆層7内の過剰な昇温を防止して発火性に配慮することができる。
【0026】
また、図4に示す乾燥装置1の給排気システム30では、防爆層7の下部中央に給気ダクト31を配置し、防爆層7の下部の両壁面側に排気ダクト32・32を配置し、中央から両側端へ向けた空気の流れを形成している。
このように、複数列搬送の乾燥装置1においても同様に、給排気システム30によって形成される防爆層7内の空気の流れをペースト3・3・・・の塗工面と平行に流すことによって、換気用空気による衝突流によるペースト3のマイグレーションの発生を抑制でき、塗工品質を担保できる。
【0027】
以上のように、複数列の箔2・2・・・を搬送し、それぞれの箔2上に塗工されるペースト3を乾燥する乾燥装置1についても、上述の一列搬送の実施形態と同様の作用効果が得られる。
【符号の説明】
【0028】
1 乾燥装置
2 箔
3 ペースト
5 加熱層
6 断熱層
7 防爆層
10 遠赤外線ヒーター
20 窓
30 給排気システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠赤外線を発生する遠赤外線ヒーターを含む加熱層と、前記加熱層に対して独立して設けられる防爆層と、を備え、前記防爆層に前記加熱層で発生させた遠赤外線を導入して、油系溶媒を含むペーストを乾燥させる乾燥装置であって、
前記加熱層と防爆層との間に、前記加熱層の熱が防爆層に伝達されることを防止するとともに、前記遠赤外線を透過する断熱層を備え、
前記防爆層内の加熱層側と反対側に、当該防爆層内の雰囲気を換気する給排気システムが設けられ、前記給排気システムは、前記防爆層内でペースト塗工面と平行に空気を流す乾燥装置。
【請求項2】
前記断熱層の内部には、当該断熱層内を換気するための空気が流通され、
前記断熱層内を通過した後の空気は、前記給排気システムの給気側に用いられる請求項1に記載の乾燥装置。
【請求項3】
上方から加熱層、断熱層、防爆層の順に位置する請求項1又は2に記載の乾燥装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−154584(P2012−154584A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15495(P2011−15495)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】