説明

二フッ化キセノンガス供給装置

【課題】二フッ化キセノン(XeF)を効率よく確実に供給することができるXeF供給装置を提供する。
【解決手段】XeFの固体を内蔵した容器の加熱手段と、配管加熱手段と、配管内圧力検出手段と、XeFの固体の蒸気圧と温度との関係を記憶した第1記憶手段と、容器加熱手段の加熱温度と配管加熱手段の加熱温度との関係を記憶した第2記憶手段と、各加熱手段を制御する制御手段とを備え、入力された初期設定圧力に所定の圧力を加算して設定圧力を求め、第1記憶手段の蒸気圧と温度との関係から設定圧力が得られる容器加熱温度目標値として求め、第2記憶手段に記憶された両加熱手段の加熱温度の関係から配管加熱温度目標値を求め、容器加熱温度目標値に基づいて容器加熱手段を、配管加熱温度目標値に基づいて配管加熱手段を制御するとともに、測定圧力が設定圧力に一致する方向に容器加熱温度目標値を調節する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二フッ化キセノンガス供給装置に関し、詳しくは、シリコンをエッチング加工する基板加工装置などの真空処理装置に二フッ化キセノンガスを供給するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シリコンの微小構造体を用いた様々なデバイスが製造されている。この分野は、マイクロエレクトロマシンシステム(MEMS)といわれ、自動車のエアバックシステムにおける加速度センサーなど、用途も多様化している。前記加速度センサーの製造において、シリコン酸化膜で囲われたシリコンを選択的に除去して構造体を形成するプロセスがあり、その際に二フッ化キセノン(XeF)が好適に用いられている。二フッ化キセノンは、シリコンやタングテン、モリブデンなどをフッ素化して揮発性化合物を生成するが、酸化シリコン、ガラス、窒化シリコンなどとは殆ど反応しないため、選択的エッチングを行うことができる。
【0003】
二フッ化キセノンによるエッチング反応は、自発的な化学反応であり、一般には、二フッ化キセノンの圧力増加に応じてエッチング速度も増加する傾向となる。同じように、温度依存性もあるが、耐熱性の低い材料が含まれる物質をエッチングする場合には、温度は上げずにガス圧力を上げることでエッチング速度を上昇させることができる。エッチング処理工程でエッチング速度を増加させることは、スループットの向上に直接的に寄与するため、より高い圧力で二フッ化キセノンを扱える装置が求められている。一方、二フッ化キセノンは常温で固体であるため、一旦ガス化させてもガス供給系において再固化して配管を閉塞するおそれがあるため、容器の取り扱いは加熱禁止とされているものが多い。
【0004】
二フッ化キセノンは常温で固体の昇華性の物性を有している。例えば、24℃では555Paの蒸気圧となることから、供給圧力は555Pa以下に制限される。したがって、消費する装置の内容積が大きい場合や瞬間的に相当量のガスを導入しなくてはならない場合、昇華速度が遅いことが問題となる。この問題を回避するため、二フッ化キセノンの固体が内蔵された容器と消費装置との間に中間タンクを設け、直接的には中間タンクに蓄積されたガスを圧力差により消費装置へ移送する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、近年、プラズマCVDやエッチング装置において、プラズマ生成ガスとしてキセノンガスを用いるプロセスが開発され、量産展開されているが、一部のケースではキセノンガスを回収する装置を配置し、回収したキセノンを再利用するプロセスが開発されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2002−361596号公報
【特許文献2】特開2006−326553号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
二フッ化キセノンを取り扱う装置で必要とするガス圧力が高くなると、そのガス圧力に応じた温度に固体を加熱する必要がある。しかしながら、二フッ化キセノンガスは固化し易く、容器弁を始めとするガス供給ラインに配置された部品や配管内を閉塞する危険性が極めて高い。また、ガスを連続して消費する場合、1系統の原料ガス容器を配置するだけでは、交換中にガスを供給できなくなるため、複数の容器を配置するとともに、使用済容器を適宜交換することが必要となる。容器を交換するタイミングは、二フッ化キセノンの容器内残量を把握して行うことが必要である。
【0007】
一般に、液化ガスの場合は、容器をロードセルに載せた状態で重量を測定することで行われるが、二フッ化キセノンの場合、材料の価格が非常に高価であるため、1g程度の測定精度が必要となる。容器や配管の温度を制御するシステムを有し、かつ、容器を含めた総重量は数kg以上となるため、重量制御は極めて困難となる。容器内の残量を知るもう一つの方法として、所定圧力以下の蒸気圧しか得られなくなった時点とすることも考えられるが、一般的な圧力計の精度はフルスケールの0.25〜0.5%程度であり、例えば、133kPaがフルスケールの圧力計を用いた場合は、333〜665Paの精度レベルとなり、常温での二フッ化キセノンの蒸気圧に相当するため、繰り返し精度を考慮すると確実な方法とはいえない。また、二フッ化キセノンは人体に対する毒性が強く(許容濃度:2.5mg/m)、かつ、大気と反応して危険性物質を生成することから、容器交換時に大気に暴露される部分にガスが残留したり、固化した二フッ化キセノンが存在しないように完全に窒素置換することが必要となる。
【0008】
一方、二フッ化キセノンは大変高価で希少な材料であり、大量消費する用途としては課題がある。これは、原料となるキセノンの希少性が大きく影響している。キセノンガスは、ヘリウムやアルゴンと同様に希ガスといわれる。大気中における各ガスの存在比は、ヘリウムが5ppm、アルゴンが9300ppmなのに対し、キセノンガスは0.087ppmしか存在せず、その希少性は際立っている。キセノンガスを得るためには空気分離装置で分離して濃縮する方法以外ないが、このように存在量の少ないキセノンガスを濃縮するに相当する性能を有する空気分離装置は、ガス処理量が10万Nm/h規模以上の超大型装置でしか採算が取れないといわれており、対象装置は極めて限定される。
【0009】
さらに、加工基板の大面積化や用途の拡大により、二フッ化キセノンのガス処理量も増加する傾向であり、今後、その消費量は大幅に増加するものと考えられる。現状の消費方法のままでは、キセノンガスの枯渇が予想され、プロセス性能に優れた二フッ化キセノンの生成も困難となることが予想される。
【0010】
そこで本発明は、二フッ化キセノンを効率よく確実に供給することができる二フッ化キセノンガス供給装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の二フッ化キセノンガス供給装置は、二フッ化キセノンの固体を内蔵した容器を加熱して前記二フッ化キセノンを昇華させ、昇華した二フッ化キセノンのガスを加熱した配管を通して二フッ化キセノンを減圧下で使用する真空処理装置へ供給する二フッ化キセノンガス供給装置において、前記容器を加熱する容器加熱手段と、前記配管を加熱する配管加熱手段と、前記配管内の圧力を測定する圧力検出手段と、前記二フッ化キセノンの固体の蒸気圧と温度との関係を記憶した第1記憶手段と、前記容器加熱手段の加熱温度と前記配管加熱手段の加熱温度との関係を記憶した第2記憶手段と、前記容器加熱手段及び前記配管加熱手段を制御する制御手段とを備え、該制御手段は、制御手段に入力された初期設定圧力にあらかじめ設定された圧力を加算して設定圧力を求め、前記第1記憶手段に記憶された二フッ化キセノンの固体の蒸気圧と温度との関係から前記設定圧力が得られる温度を容器加熱温度目標値として求め、前記第2記憶手段に記憶された容器加熱手段の加熱温度と配管加熱手段の加熱温度との関係から前記容器加熱温度目標値に応じた配管加熱温度目標値を求め、前記容器加熱温度目標値に基づいて前記容器加熱手段を、前記配管加熱温度目標値に基づいて前記配管加熱手段をそれぞれ制御するとともに、前記圧力検出手段で測定した測定圧力が前記設定圧力に一致する方向に前記容器加熱温度目標値を調節することを特徴とし、特に、前記配管加熱手段が前記配管に対して複数に区画されて設けられ、前記制御手段が区画された各配管加熱手段毎にそれぞれ制御を行うこと、また、前記設定圧力が555Pa以上2700Pa以下であることを特徴としている。
【0012】
さらに、本発明の二フッ化キセノンガス供給装置は、前記容器及び配管を含む供給系統を2系統以上備え、前記制御手段は、一つの供給系統から二フッ化キセノンガスを前記真空処理装置に供給しているときに、該供給系統に設けられた前記圧力検出手段が測定した測定圧力が前記設定圧力に対して低い状態があらかじめ設定した時間経過したときに容器交換信号を発信し、使用中の供給系統を閉止し、他の供給系統から二フッ化キセノンガスを供給する状態に切り替える系統切替手段を備えるとともに、閉止した供給系統の配管内に残留した二フッ化キセノンガスをパージガスで置換し、該供給系統の容器交換を可能な状態とするガス置換手段を備えていることを特徴としている。
【0013】
また、前記ガス置換手段を備えた二フッ化キセノンガス供給装置において、前記ガス置換手段によるガス置換操作で前記配管内から排出された二フッ化キセノンガスを、前記真空処理装置の後段に設けられた除害装置で分解処理して排出することを特徴とし、前記除害装置がフッ化物に対して反応性を有する固体反応剤を用いていること、前記除害装置の後段に、除害装置から排出されるガス中に含まれるキセノンを分離して回収するキセノン回収手段が設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の二フッ化キセノンガス供給装置によれば、高圧力の二フッ化キセノンのガスを連続して安定に供給することができる。また、消費したキセノンガスを高効率に回収するため、二フッ化キセノンの合成原料も安定して得ることができ、結果として、総合的な安定供給が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は本発明の二フッ化キセノンガス供給装置の一形態例を示す概略系統図、図2は制御システムを示す概略図である。
【0016】
本形態例に示す二フッ化キセノンガス供給装置は、二フッ化キセノンの固体を内蔵した2本の容器11a、11bを備えた2系統のガス供給系統12a,12bを有するもので、各ガス供給系統12a,12bは、系統切替手段を構成する容器弁13a,13b、ガス供給弁14a、14bを経て弁15の上流で合流する金属配管で形成されており、容器弁13a,13bとガス供給弁14a、14bとの間には、ガス置換手段を構成するパージガス導入弁16a,16bを備えたパージガス導入管17a,17bと、ガス導出弁18a,18bを備えたガス導出管19a,19bが設けられている。
【0017】
さらに、弁15の下流側の金属配管には、中間タンク20を介して供給元弁21と排気弁22とが設けられ、供給元弁21の下流側が二フッ化キセノンガスの使用先である真空処理装置に接続され、排気弁22の下流側及び前記ガス導出弁18a,18bの下流側が真空ポンプ(図示せず)に接続されている。また、容器弁13a,13bとガス供給弁14a、14bとの間には、ガス供給系統12a,12b内のガスの圧力を測定するための圧力検出手段としてキャパシタンスマノメータ23a,23bが設けられ、中間タンク20には、タンク内のガスの圧力を測定するためのキャパシタンスマノメータ24が設けられている。
【0018】
また、温度制御エリアとして、容器11a、11bが第1温度制御エリアT1、容器弁13a,13bの前後が第2温度制御エリアT2、容器弁13a,13bの下流側から弁15までが第3温度制御エリアT3、弁15から供給元弁21までが第4温度制御エリアT4に区画されており、各区画毎に図示しないヒータなどの加熱手段が設けられている。各加熱手段の加熱量を制御する制御手段25は、前記二フッ化キセノンの固体の蒸気圧と温度との関係を、例えば計算式として記憶した第1記憶手段と、前記容器加熱手段の加熱温度と前記配管加熱手段の加熱温度との関係を記憶した第2記憶手段とを備えており、制御盤26から入力される初期設定圧力と、前記各キャパシタンスマノメータ23a,23b,24で測定した測定圧力(P1,P2)と、各温度制御エリアT1〜T4における各加熱手段の加熱温度と、前記第1記憶手段に記憶された二フッ化キセノンの固体の蒸気圧と温度との関係と、前記第2記憶手段に記憶された容器加熱手段の加熱温度と配管加熱手段の加熱温度との関係とに基づいて演算処理を行い、各温度制御エリアT1〜T4に設けられた各加熱手段の加熱量の制御、例えばヒータに供給する電圧を調節するなどの制御をそれぞれ行う。
【0019】
以下、この装置を用いて二フッ化キセノンガスを使用先に連続供給する手順の一例を具体的に説明する。
【0020】
まず、制御手段25の制御盤26に初期設定圧力、例えば、24℃における二フッ化キセノンの固体の蒸気圧である555Paを入力する。制御手段25は、入力された初期設定圧力に対してあらかじめ設定した圧力を加算して設定圧力を求める。例えば、初期設定圧力の555Paに、あらかじめ設定した圧力、例えば665Paを加算し、算出した1220Paを設定圧力とする。次に、この設定圧力と等しくなる二フッ化キセノンの固体の蒸気圧が得られる温度を前記第1記憶手段に記憶した内容、例えば計算式を用いて算出し、得られた温度を容器加熱温度目標値とする。例えば、二フッ化キセノンの固体の蒸気圧が前記1220Paとなる温度は35℃となるので、この35℃を、温度制御エリアT1における容器加熱手段の容器加熱温度目標値とする。
【0021】
さらに、前記第2記憶手段に記憶された容器加熱手段の加熱温度と配管加熱手段の加熱温度との関係から、容器加熱温度目標値である温度制御エリアT1の加熱温度に対する配管の各温度制御エリアT2〜T4における各配管加熱温度目標値をそれぞれ求める。例えば、容器加熱温度目標値が前記35℃の場合、この温度にあらかじめ設定された温度、例えば10℃高い温度の45℃を温度制御エリアT2における配管加熱温度目標値とし、温度制御エリアT3,T4は、この温度制御エリアT2における配管加熱温度目標値より更に10℃高い温度の55℃を温度制御エリアT3,T4における配管加熱温度目標値とする。このようにして各温度制御エリアT1〜T4における加熱温度目標値を設定した後、制御手段25は、最初に温度制御エリアT3,T4の温度制御を開始し、このエリアT3,T4の配管加熱温度目標値である55℃になるように配管加熱手段の加熱量を制御して金属配管をそれぞれ加熱する。
【0022】
また、一方のガス供給系統12aに二フッ化キセノンの固体を内蔵した容器11aを取り付け、ガス供給系統12aに容器11aを取り付けたことを制御盤26に入力する。制御手段25は、ガス供給系統12aのリークテストを周知のガス供給装置におけるリークテストと同様の手順で行い、リークが有った場合にはリークが有ったことを信号表示して動作を終了する。リークが無かった場合は、ガス供給系統12aにリークが無かったことを信号表示して次に進む。
【0023】
ガス供給系統12aにリークが無いことを確認した制御手段25は、温度制御エリアT2の配管加熱温度目標値である45℃に基づいて、このエリアT2に設けられた配管加熱手段の温度制御を開始するとともに、ガス置換手段を作動させて容器弁13aとガス供給弁14aとの間の金属配管内に含まれる大気をパージガス、例えば窒素で置換した後、該金属配管内を真空排気する。容器弁13aを開き、キャパシタンスマノメータ23aで測定した初期圧力があらかじめ設定された初期圧力以上であること、例えば、環境温度における二フッ化キセノンの蒸気圧のマイナス10%以上であることを確認する。初期圧力が前記蒸気圧のマイナス10%未満の場合は、充填量不足の信号を表示するとともに、温度制御エリアT2の温度制御を停止し、容器弁13aを閉じて容器弁13aとガス供給弁14aとの間の金属配管内を窒素置換する。
【0024】
初期圧力が前記蒸気圧のマイナス10%以上のときは、温度制御エリアT1の温度が前記容器加熱温度目標値である35℃になるように容器加熱手段の温度制御を開始する。温度制御エリアT1の温度が制御手段25で設定した温度に到達したら、キャパシタンスマノメータ23aの測定圧力を確認し、設定圧力に対して測定圧力が一致しない場合、例えばプラスマイナス1%以上異なる場合は、温度制御エリアT1の容器加熱温度目標値を1℃単位で増減させ、制御盤26に入力された設定圧力に対して測定圧力が一致する方向、すなわち、プラスマイナス1%以内になるように調節する。また、設定圧力に対して測定圧力が低い状態が続いた場合、例えば圧力が10%以上低い状態が5分以上経過した場合は、残量不足の信号表示を行って温度制御エリアT1の温度制御を停止し、容器弁13aを閉じて容器弁13aとガス供給弁14aとの間の金属配管内を窒素置換した後、温度制御エリアT2の温度制御を停止する。
【0025】
設定圧力と測定圧力とがあらかじめ設定した範囲内で一致したとき、例えば設定圧力のプラスマイナス1%以内で一致した時点で、ガス供給系統12aの準備完了を信号表示する。なお、他方のガス供給系統12bへの容器11bの取り付けや、ここまでの準備段階は、ガス供給系統12aと並行して進めることができる。
【0026】
供給装置の系内に二フッ化キセノンガスが封入されていない場合は、制御盤26に初回封入の入力を行い、ガス供給弁14a及び弁15を開いてガス供給系統12aから中間タンク20を含む系内にガスを充圧する。中間タンク20及びその下流側に対しては、キャパシタンスマノメータ24で中間タンク20の圧力を測定し、測定圧力が初期設定圧力の555Pa以上になるまでガスの充圧を行う。このようにして容器11aを取り付けてから系内へのガスの充圧が終了すると、使用先への二フッ化キセノンガスの供給が可能となり、この時点で初回封入の信号は解除される。そして、供給元弁21を開くことによって使用先への二フッ化キセノンガスの供給が開始され、ガス供給中であるとの表示が出力される。
【0027】
ガス供給中は、ガス供給系統12aの圧力をキャパシタンスマノメータ23aで常時測定し、測定圧力が設定圧力よりも低い状態が続いた場合、例えば測定圧力が設定圧力よりも10%以上低い状態が1分以上経過した場合は、容器11a内の二フッ化キセノンの固体が残量不足状態になったと判定し、容器交換メッセージを発信するとともに、容器弁13aの閉止、第1温度制御エリアT1の温度制御停止、ガス供給弁14aの閉止、容器弁13aとガス供給弁14aとの間の金属配管内の窒素置換、温度制御エリアT2の温度制御停止の各ステップを順次行い、全てのステップが終了した時点でガス供給系統12aの容器交換可能というメッセージを発信する。
【0028】
ガス供給系統12aから二フッ化キセノンガスを供給している間、他方のガス供給系統12bは、前記準備完了状態を保持して待機しており、ガス供給系統12aの前記容器交換メッセージを受信したときにガス供給弁14bを開き、ガス供給系統12bからの二フッ化キセノンガスの供給を開始する。これにより、二フッ化キセノンガスを連続供給することができる。
【0029】
また、容器交換可能な状態になったガス供給系統12aの容器11aを交換する場合は、制御盤26にガス供給系統12aの容器交換作業中の入力を行い、使用済み容器を取り外した後に新容器を取り付ける。その後、前述のように、リークテスト、温度制御エリアT2の温度制御、窒素置換、真空排気、初期圧力の確認、温度制御エリアT1の温度制御、圧力確認及び温度調節の各ステップを行い、ガス供給系統12aを準備完了状態とする。
【0030】
制御手段25の第1記憶手段に記憶した二フッ化キセノンの固体の蒸気圧(P)と温度(T)との関係は、表形式で記憶することもできるが、F.Schreiner,G.N.McDonald,C.L.Chernick,J.Phys.Chem.,72,1162(1968)に記載されている関数、
LogPmmHg = -3057.67/T - 1.23521LogT + 13.969736
に基づいて、圧力単位のmmHgを、1mmHg=133.322Paとして単位変換して使用することができる。
【0031】
このようにして二フッ化キセノンガスを供給する際に、第1温度制御エリアT1の温度を、二フッ化キセノンの蒸気圧が設定圧力よりも所定圧力高くなるように、例えば665Pa高くなるように設定することにより、キャパシタンスマノメータ23a,23bの測定圧力が設定圧力よりも低い状態がある程度続いても、中間タンク20内の圧力が設定圧力未満に低下することがなく、使用先への二フッ化キセノンガスの供給を継続することができる。したがって、中間タンク20の容積を適正に設定するとともに、キャパシタンスマノメータの精度が確保されるレベルで、好ましくは、555Pa以上2700Pa以下の範囲で圧力勾配を設けることが望ましい。
【0032】
また、各温度制御エリアの制御温度おいて、第1温度制御エリアT1の温度に対して第2温度制御エリアT2以降の温度を高くして温度勾配を設定することにより、各部での二フッ化キセノンの固化を防止することができる。このとき、加熱手段であるヒーターなどの温度と金属配管や弁などの機器の内表面の温度とで差があるため、温度差が10℃未満では二フッ化キセノンが固化して閉塞が生じるおそれがある。したがって、第1温度制御エリアT1の温度に対する第2温度制御エリアT2以降の温度は、+10℃以上の温度差を設けることが好ましく、+20℃以上、特に+30℃の温度差を設けることが望ましい。一方、通常のガス供給系統に用いられる弁などの耐熱温度は70℃であり、この温度から逆算される二フッ化キセノンの圧力は約2700Paとなるが、二フッ化キセノンを消費する真空処理装置のプロセスで用いる圧力として十分な圧力で二フッ化キセノンを供給することができる。また、各部材、各機器の耐熱温度を高くすることにより、第2温度制御エリアT2以降の温度を更に高く設定することが可能となる。
【0033】
なお、説明中の各数値は、二フッ化キセノンガスの供給量、容器の容積や構造、配管長さ、その他の条件に応じて適宜最適な条件を設定することが可能である。また、供給系統を3系統以上とすることも可能であり、1系統のみとすることもできる。さらに、配管の温度制御エリアを3区画としたが、供給系統の構成によっては1〜2区画としてもよく、4区画以上とすることも可能である。
【0034】
図3は、二フッ化キセノン供給装置51で容器交換を行う際のガス置換手段によるガス置換で排出される二フッ化キセノンの除害処理を効率よく行うための一形態例を示すブロック図である。
【0035】
二フッ化キセノンを減圧下で使用する真空処理装置52では、通常、チャンバー内に二フッ化キセノンガスを一定圧力で封入し、チャンバー内に配置されるシリコン基板などの材料と二フッ化キセノンとを反応させ、四フッ化ケイ素などを生成させることでエッチング反応を進行させる。被エッチング物には、シリコンの他、タングステン、モリブデン、チタンなどの金属をはじめ、エッチング加工対象外の部分には、酸化シリコンや炭素や水素原子を有するレジストが存在するため、排出ガスの成分は、これらと二フッ化キセノンとが反応した有毒、有害なフッ化物や反応によって生成したキセノンガスが存在し、さらに、未反応の二フッ化キセノンが小量存在する状態となっている。
【0036】
このような有毒、有害な成分を含む排ガスを無害化するため、真空処理装置52から真空ポンプを介して排出されたガスは、除害装置53で無害化処理されてから大気に放出される。さらに、容器交換時に二フッ化キセノン供給装置51から排出されるガスは、ガス経路54を通して除害装置53に導入され、真空処理装置52からの排ガスと一緒に無害化処理される。
【0037】
除害装置53は、適宜な構成の処理手段を選択することができるが、反応槽内に乾式の固体反応剤を充填した構成とすることが好ましい。前記固体反応剤は、フッ化物に対して反応性を有するものであって、前記真空処理装置52から排出される排ガス中の未反応の二フッ化キセノンや反応性フッ化物と速やかに反応し、蒸気圧のない固体物質を生成するものが適しており、例えば、カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウムなどを含むカルシウム剤が好適であり、特に、水酸化カルシウムを含む酸化カルシウム材が最適である。未反応の二フッ化キセノンを始めとする反応性のフッ化物は、これらのカルシウム剤の表面に存在する水酸基と反応し、フッ化カルシウム(蛍石)となってフッ素分を固定化することができる。これらの固体反応剤は、室温以上の温度で用いることが可能であるが、剤の表面が多量の水酸基で覆われており、120℃以上に加熱した場合、剤から大量の水分が放出されるため、室温から100℃までの温度範囲で用いることが好ましい。さらに、固体反応剤を充填した反応槽の前段にプラズマ源などのガス励起装置を配置し、排ガスを励起した後に固体反応剤とフッ化物とを反応させることもできる。
【0038】
また、真空処理装置52から除害装置53を経て排出される排ガス中には、反応生成物として小量のキセノンガスが含まれているため、図4のブロック図に示すように、除害装置53の後段にキセノン回収装置55を設け、排ガス中に存在するキセノンガスを回収することにより、希少資源であるキセノンを、例えば二フッ化キセノンの合成原料などとして有効利用することができる。キセノン回収装置55の分離方式は、膜分離式、圧力変動式の双方の原理を用いることが可能であるが、除害装置53から排出される排ガスには、真空ポンプのシールドや希釈用に窒素などの不活性ガスが添加され、キセノンガスを含有するこれらの合成成分となっていることから圧力変動式分離機が好適である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の二フッ化キセノンガス供給装置の一形態例を示す概略系統図である。
【図2】二フッ化キセノンガス供給装置の制御システムの一例を示す概略図である。
【図3】二フッ化キセノンガス供給装置から排出される二フッ化キセノンの除害処理を行う一形態例を示すブロック図である。
【図4】除害処理後のガスからキセノンを回収するキセノン回収装置を設けたブロック図である。
【符号の説明】
【0040】
11a、11b…容器、12a,12b…ガス供給系統、13a,13b…容器弁、14a、14b…ガス供給弁、15…弁、16a,16b…パージガス導入弁、17a,17b…パージガス導入管、18a,18b…ガス導出弁、19a,19b…ガス導出管、20…中間タンク、21…供給元弁、22…排気弁、23a,23b,24…キャパシタンスマノメータ…、25…制御手段、26…制御盤、51…二フッ化キセノン供給装置、52…真空処理装置、53…除害装置、54…ガス経路、55…キセノン回収装置、T1〜T4…温度制御エリア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二フッ化キセノンの固体を内蔵した容器を加熱して前記二フッ化キセノンを昇華させ、昇華した二フッ化キセノンのガスを加熱した配管を通して二フッ化キセノンを減圧下で使用する真空処理装置へ供給する二フッ化キセノンガス供給装置において、前記容器を加熱する容器加熱手段と、前記配管を加熱する配管加熱手段と、前記配管内の圧力を測定する圧力検出手段と、前記二フッ化キセノンの固体の蒸気圧と温度との関係を記憶した第1記憶手段と、前記容器加熱手段の加熱温度と前記配管加熱手段の加熱温度との関係を記憶した第2記憶手段と、前記容器加熱手段及び前記配管加熱手段を制御する制御手段とを備え、該制御手段は、制御手段に入力された初期設定圧力にあらかじめ設定された圧力を加算して設定圧力を求め、前記第1記憶手段に記憶された二フッ化キセノンの固体の蒸気圧と温度との関係から前記設定圧力が得られる温度を容器加熱温度目標値として求め、前記第2記憶手段に記憶された容器加熱手段の加熱温度と配管加熱手段の加熱温度との関係から前記容器加熱温度目標値に応じた配管加熱温度目標値を求め、前記容器加熱温度目標値に基づいて前記容器加熱手段を、前記配管加熱温度目標値に基づいて前記配管加熱手段をそれぞれ制御するとともに、前記圧力検出手段で測定した測定圧力が前記設定圧力に一致する方向に前記容器加熱温度目標値を調節することを特徴とする二フッ化キセノンガス供給装置。
【請求項2】
前記配管加熱手段は、前記配管に対して複数に区画されて設けられ、前記制御手段は、区画された各配管加熱手段毎にそれぞれ制御を行うことを特徴とする請求項1記載の二フッ化キセノンガス供給装置。
【請求項3】
前記設定圧力は、555Pa以上2700Pa以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の二フッ化キセノンガス供給装置。
【請求項4】
前記容器及び配管を含む供給系統を2系統以上備え、前記制御手段は、一つの供給系統から二フッ化キセノンガスを前記真空処理装置に供給しているときに、該供給系統に設けられた前記圧力検出手段が測定した測定圧力が前記設定圧力に対して低い状態があらかじめ設定した時間経過したときに容器交換信号を発信し、使用中の供給系統を閉止し、他の供給系統から二フッ化キセノンガスを供給する状態に切り替える系統切替手段を備えるとともに、閉止した供給系統の配管内に残留した二フッ化キセノンガスをパージガスで置換し、該供給系統の容器交換を可能な状態とするガス置換手段を備えていることを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項記載の二フッ化キセノンガス供給装置。
【請求項5】
前記ガス置換手段によるガス置換操作で前記配管内から排出された二フッ化キセノンガスを、前記真空処理装置の後段に設けられた除害装置で分解処理して排出することを特徴とする請求項4記載の二フッ化キセノンガス供給装置。
【請求項6】
前記除害装置は、フッ化物に対して反応性を有する固体反応剤が用いられていることを特徴とする請求項5記載の二フッ化キセノンガス供給装置。
【請求項7】
前記除害装置の後段に、除害装置から排出されるガス中に含まれるキセノンを分離して回収するキセノン回収手段が設けられていることを特徴とする請求項5又は6記載の二フッ化キセノンガス供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−22936(P2009−22936A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191527(P2007−191527)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】