説明

二脚型移動装置

【課題】人間が暮らす住環境に存在する障害物をスムースに跨ぎ越すことのできる二脚型移動装置を提供する。
【解決手段】角度自在に屈折可能な膝関節を有する第1および第2の脚と、第1および第2の脚の根元の関節(腿関節)をそれぞれ回動自在に支持する臀部10と、前記膝関節の屈折角度および前記腿関節の回転角度をそれぞれ制御して、進行方向の床上に設けられた凸状の障害物を跨ぎ越す跨ぎ越し制御手段と、を備える。跨ぎ越し制御手段は、第2の脚を障害物の後方側に接地させた状態で第1の脚を前記障害物の上方へ振り出して該障害物を跨ぐ場合に、第2の脚の膝関節を後方へ突出させた姿勢(逆膝の姿勢)に制御する。好ましくは、第1および第2の脚の先端に設けられた第1および第2の車輪機構による走行を併用することにより、等速で走行しながらのスムースな跨ぎ越しを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、二脚型移動装置に係り、特に、脚の先端に車輪を備え、二脚による歩行動作と車輪による走行動作とを行うことのできる二脚型移動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人間と共生できるサービスロボットが盛んに研究されているが、現時点ではなかなか産業として成り立ち難い状況にある。この要因として、サービスされる人間側のメンタル面や各種規制等の法制度面などの問題も指摘されているが、最たる要因は人間と共生でき、また満足の行くサービスを提供できるロボットを、そのサービスの対価に相当する適当な価格で供給できる産業技術が創造されていない点と思われる。
【0003】
人間と共生するという点に関しては、様々な面から捉えた課題があるが、大きな技術課題の一つが、人間が暮らしている住環境を人間と同じように自在に移動できる技術が達成されていないことが挙げられる。同じ住環境での共生という点から、ロボットを移動可能とすべき床の条件としては、通常人間が移動できる床の条件なら同様に移動できるようにするという点が重要である。すなわち、平面だけでなく、平均的な人間が移動できる程度の段差、スロープ、障害物、或いは階段等を人間と同程度に移動し、跨ぎ、或いは昇降する機能を有していることが必要である。
【0004】
特に、この中で障害物を跨ぐという動作は軽視されがちであるが、一般家庭内、一般道路においては、跨ぎ越さなければならない障害物、例えば、生き物、汚物、壊れ物、備品等が移動予定のルート上に出現する状況は多々想像でき、人間が跨ぎ越せる程度のものは同様にスムースに跨ぎ越せることが重要である。
【0005】
また、サービスという点からは、食事、小物類、或いは書類等に代表される貨物を運搬する運搬サービスにおいて、衝撃や急激な負荷がかからないように極めてスムースに移動することが望まれる。このスムースで衝撃のない移動は、運搬する貨物が等速運動、あるいは等加速度運動を続けることを意味し、旋回運動、昇降等の運動から他の等速運動への移行時もなるべく急激な加速度の変化は抑え、連続してスムースな移行がなされることを意味している。このように、スムースな運搬サービスおよび人間並みの移動手段を廉価に実現することが、サービスロボット産業の創生の基本要素技術として強く望まれている。
【0006】
従来のロボットの移動手段としては、2足歩行による移動手段、車輪による移動手段、或いはそれらの複合型の移動手段が多く試みられてきている。例えば、特開2009−154256号公報には、上記複合型の移動手段に相当する従来技術として、先端に車輪を備えた2脚の車輪付脚を備え、脚式歩行と車輪走行とを切り替えて動作する車輪付脚式移動装置が提案されている。この車輪付脚式移動装置は、より具体的には、車輪付脚の脚部にいわゆる膝関節を備え、車輪走行時において地面の凸凹からの衝撃吸収や、加速減速時の重心にかかる横方向荷重の吸収、更には旋回時の回転経路の中心方向への本体の傾斜などによる遠心力の吸収を、該膝関節の屈伸動作で実現することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−154256号公報
【特許文献2】特開2003−266337号公報
【特許文献3】特開2008−126349号公報
【特許文献4】特開2006−247802号公報
【特許文献5】特開2007−290054号公報
【特許文献6】特開2009−113135号公報
【特許文献7】特開2006−95648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した従来の技術では、脚式歩行動作について明示的に記載されてはいないが、通常は人間の歩行動作と同様に膝関節を進行方向に突出するように屈折させて歩行するのが一般的である。図44は、このような従来の二脚型移動装置の構造を示す図である。尚、図44aは該移動装置の背面図を、図44bは該移動装置の側面図をそれぞれ示している。また、図中の10は臀部、11,12は一対の腿部、13,14は一対の脚部、15,16は一対の車輪機構を示している。各腿部11,12は、臀部10に対して関節様の仕組みで結合され、独立した駆動機構で少なくとも前後に回転動作が可能である。脚部13,14は、対応する腿部11,12といわゆる膝関節様の仕組みで結合され、前後方向にのみ回転動作が可能である。また、一対の車輪機構15,16は、対応する脚部13,14と少なくとも前後に回転動作できるように結合され、独立に回転駆動される。
【0009】
このような二脚型移動装置の利点は、階段や障害物のある経路では脚式歩行動作に切り替え、比較的平坦な路面では効率のよい車輪走行動作に切り替えることができる点にある。しかしながら、上述した従来の技術のように膝関節を進行方向に突出するように屈折させて脚式歩行動作を行うと、床上の大きな障害物を跨ぎこすことができないことが想定される。図45は、従来の二脚型移動装置が一定速度で障害物を跨ぐ際の動作を連続的に示す図である。この図に示すとおり、2脚歩行によって障害物を跨ぎ越す動作では、進行方向に膝関節部が突出するため、跨ぎ越え可能な障害物の大きさは図中の三角の小領域に限定されてしまう。
【0010】
また、階段の昇動作の際にも同様の困難性が想定される。図46は、従来の二脚型移動装置が一定速度で階段を昇る際の動作を連続的に示す図である。この図に示すとおり、2脚歩行によって階段を昇る動作では、階段の段差に向かって膝関節部が突出するため、脚部13,14の側面が当該階段の段差に接触してしまうことが想定される。このように、上述した従来の技術では、障害物の跨ぎ越し能力或いは階段昇降能力に関して、通常の人間並みの能力を発揮することができず、改善が望まれていた。
【0011】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、人間が暮らす住環境において存在する障害物をスムースに跨ぎ越すことのできる二脚型移動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、二脚型移動装置であって、
角度自在に屈折可能な膝関節を有する第1および第2の脚と、
前記第1および第2の脚の根元の関節(以下、腿関節)をそれぞれ回動自在に支持する臀部と、
前記膝関節の屈折角度および前記腿関節の回転角度をそれぞれ制御して、進行方向の床上に設けられた凸状の障害物を跨ぎ越す跨ぎ越し制御手段と、を備え、
前記跨ぎ越し制御手段は、前記第2の脚を前記障害物の後方側に接地させた状態で前記第1の脚を前記障害物の上方へ振り出して該障害物を跨ぐ場合に、前記第2の脚の膝関節を後方へ突出させた姿勢に制御することを特徴としている。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、
前記跨ぎ越し制御手段は、
前記第1の脚を前記障害物の上方へ振り出して該障害物を跨ぐ場合に、前記第1の脚の膝関節を前方へ突出させた姿勢で該第1の脚を前記障害物の前方側へ接地させることを特徴としている。
【0014】
第3の発明は、第1または第2の発明において、
前記第1および第2の脚は、その先端に配置された第1および第2の車輪機構をそれぞれ含み、該第1および/または第2の車輪機構を駆動することにより床面上の走行を可能とし、
前記跨ぎ越し制御手段は、
前記臀部の重心の水平位置を前記第2の脚の接地点に一致させた状態で、前記第2の車輪機構を駆動して所定の等速度で走行しつつ前記第1の脚を持ち上げて前記障害物を跨ぎ、該第1の脚を前記障害物の前方側へ接地させる第1の動作を行う手段と、
前記第1の動作により前記第1の脚が接地したときに前記第2の車輪機構を停止して、前記膝関節および前記腿関節を制御して前記重心の水平位置を前記第2の脚の接地点から前記第1の脚のそれに前記所定の等速度で移動させる第2の動作を行う手段と、
前記第2の動作により前記重心の水平位置が前記第1の脚の接地点に一致したときに、前記第1の車輪機構を駆動して前記所定の等速度で走行しつつ前記第2の脚を持ち上げて前記障害物を跨ぎ越える第3の動作を行う手段と、
を含むことを特徴としている。
【0015】
第4の発明は、第1乃至第3の何れか1つの発明において、
前記跨ぎ越し制御手段は、前記障害物を跨ぎ越える場合に、前記臀部の重心の上下方向の位置を一定に維持するように前記膝関節および前記腿関節を制御することを特徴としている。
【0016】
第5の発明は、第1乃至第4の何れか1つの発明において、
前記跨ぎ越し制御手段の実行に先立って、前記第2の脚の膝関節を後方へ突出させる姿勢に制御する手段を更に備えることを特徴としている。
【0017】
第6の発明は、第1乃至第5の何れか1つの発明において、
前記膝関節の屈折角度および前記腿関節の回転角度をそれぞれ制御して、階段の段差を順に昇る階段昇降制御手段を更に備え、
前記階段昇降制御手段は、前記第1および第2の脚の膝関節を後方に突出させた姿勢で前記階段の段差を昇ることを特徴としている。
【0018】
第7の発明は、第6の発明において、
前記階段昇降制御手段は、
前記臀部の重心の水平位置を前記第2の脚の接地点に一致させた状態で前記第1の脚を持ち上げて、前記第1の脚が接地している面よりも上の段差面へ接地させる第1の昇動作を行う手段と、
前記第1の昇動作により前記第1および第2の脚がそれぞれ接地した状態で、前記膝関節および前記腿関節を制御して前記重心の水平位置を前記第2の脚の接地点から前記第1の脚のそれに移動させる第2の昇動作を行う手段と、を含み、
前記第1の昇動作および前記第2の昇動作を、前記第1の脚と前記第2の脚とを入れ替えて交互に実行することにより前記階段の段差を順に昇ることを特徴としている。
【0019】
第8の発明は、第7の発明において、
前記第1および第2の脚は、その先端に配置された第1および第2の車輪機構をそれぞれ含み、該第1および/または第2の車輪機構を駆動することにより床面上の走行を可能とし、
前記階段昇降制御手段は、
前記第1の昇動作において、前記車輪機構を用いて水平方向へ移動しつつ前記膝関節および前記腿関節を制御して前記臀部を鉛直方向へ持ち上げることにより、前記臀部の重心を所定の第2の等速度で前記階段の傾斜に平行な方向に移動させる手段と、
前記第2の昇動作において、前記膝関節および前記腿関節を制御して前記臀部の重心を前記第2の等速度で前記階段の傾斜に平行な方向に移動させる手段と、
を更に含むことを特徴としている。
【0020】
第9の発明は、第6乃至第8の何れか1つの発明において、
前記階段昇降制御手段の実行に先立って、前記第1および第2の脚の膝関節を後方へ突出させる姿勢に制御する手段を更に備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
第1の発明によれば、第1の脚を上方に振り出して凸状の障害物を跨ぎ越す場合に、障害物の後方側に接地している第2の脚が、膝関節を後方へ突出させる姿勢に制御される。このため、本発明によれば、第2の脚の膝関節が該障害物側に突出して該障害物に接触することを有効に抑止することができるので、より大きな障害物を越えることが可能となる。
【0022】
第2の発明によれば、第1の脚部を上方に振り上げて凸状の障害物を跨ぐ場合に、第1の脚の膝関節が前方に突出した姿勢で該第1の脚が該障害物の前方に接地される。このため、本発明によれば、第1の脚の膝関節が該障害物側に突出して該障害物に接触することを有効に抑止することができるので、より大きな障害物を跨ぎ越えることが可能となる。
【0023】
第3の発明によれば、臀部の重心を水平方向に等速度で移動させつつ障害物を跨ぎ越すことができる。このため、本発明によれば、安定したスムースな跨ぎ越しを行うことができる。
【0024】
第4の発明によれば、臀部の重心の上下方向の移動を伴わずに跨ぎ越しの動作が行われる。このため、本発明によれば、安定したスムースな跨ぎ越しを行うことができる。
【0025】
第5の発明によれば、跨ぎ越し動作に先立って、第2の脚が膝関節を後方に突出させた姿勢に制御される。このため、本発明によれば、跨ぎ越し動作にスムースに移行することができる。
【0026】
第6の発明によれば、第1および第2の脚の膝関節を後方に突出させた姿勢で階段の昇り動作が行われる。このため、本発明によれば、第1および第2の脚の膝関節が階段側に突出して段差に接触することを有効に抑止することができる。
【0027】
第7の発明によれば、第1または第2の脚を1つ上の段差へ接地させる動作と第1および第2の脚の膝関節および腿関節を制御することにより第1の脚と第2の脚との間で重心の水平方向の移動を行う動作とを繰り返し行うことにより、階段の段差を順に昇ることができる。
【0028】
第8の発明によれば、階段の傾斜に平行な方向に等速度で臀部重心を移動させることができるので、スムースな階段の昇動作を行うことができる。
【0029】
第9の発明によれば、階段の昇り動作に先立って、第2の脚が膝関節を後方に突出させた姿勢に制御される。このため、本発明によれば、階段の昇り動作にスムースに移行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明による二脚型移動装置の構成を説明するための全体図である。
【図2】本発明による二脚型移動装置の腿関節部分の構成を説明するための図である。
【図3】本発明による二脚型移動装置の膝関節部分の構成を説明するための図である。
【図4】本発明による二脚型移動装置の車輪部分の構成を説明するための図である。
【図5】本発明による二脚型移動装置のいわゆる一脚支持による第一のポジションを示す図である。
【図6】本発明による二脚型移動装置のいわゆる一脚支持による第二のポジションの側面図を示す図である。
【図7】本発明による二脚型移動装置のいわゆる一脚支持による第一および第二のポジションにおいて、臀部10を最も低い位置にした場合の側面図を示す図である。
【図8】本発明による二脚型移動装置のいわゆる二脚支持による第一および第二のポジションの側面図を示す図である。
【図9】本発明による二脚型移動装置のいわゆる二脚支持による第一および第二のポジションにおいて、臀部10を最も低い位置にした場合の側面図を示す図である。
【図10】本発明による二脚型移動装置のいわゆる二脚支持による他のポジションの側面図を示す図である。
【図11】本発明による二脚型移動装置のいわゆる休止時のポジションの一例を示す側面図である。
【図12】静止時に第二のポジションから第一のポジションへ移行する動作を連続的に示す側面図である。
【図13】一定速度で走行している場合に第二のポジションから第一のポジションへ移行する動作を連続的に示す側面図である。
【図14】静止時に第二のポジションから第一のポジションへ移行する動作の他の例として、臀部10の上下方向の重心移動を更に伴う場合の移行動作を連続的に示す側面図である。
【図15】本発明による二脚型移動装置において、断面が正方形の障害物を一定の速度で跨ぎ越す動作を連続的に示す側面図である。
【図16】図15における時点t3〜t5までの姿勢の変化を示す側面図である。
【図17】本発明による二脚型移動装置によって、第二のポジションから障害物を跨ぎ越す動作を連続的に示す側面図である。
【図18】本発明による二脚型移動装置において、障害物を跨ぎ越した後に第二のポジションとなる動作を連続的に示す側面図である。
【図19】本発明による二脚型移動装置において、薄く平坦で比較的広い面積の障害物を一定の速度で跨ぎ越す動作を連続的に示す側面図である。
【図20】図19における時点t3〜t6までの姿勢の変化を示す側面図である。
【図21】本発明による二脚型移動装置において、断面形状が三角形となる障害物を一定の速度で跨ぎ越す動作を連続的に示す側面図である。
【図22】本発明による二脚型移動装置が一定の速度で階段を昇る動作を連続的に示す側面図である。
【図23】図22における時点t4〜t8までの姿勢の変化を詳細に示す側面図である。
【図24】図23における時点t4〜t5までの姿勢の変化を詳細に示す側面図である。
【図25】図23における時点t5〜t6までの姿勢の変化を詳細に示す側面図である。
【図26】図23における時点t6〜t7までの姿勢の変化を詳細に示す側面図である。
【図27】図23における時点t7〜t8までの姿勢の変化を詳細に示す側面図である。
【図28】本発明による二脚型移動装置が一定の速度で急勾配の階段を昇る動作を連続的に示す側面図である。
【図29】本発明による二脚型の移動装置の構成を説明するための全体図である。
【図30】本発明による二脚型の移動装置において、断面が正方形の障害物を跨ぎ越す動作を連続的に示す側面図である。
【図31】本発明による二脚型の移動装置が階段を昇る動作を連続的に示す側面図である。
【図32】二脚型移動装置の発進、加速、停止、或いは減速の原理を説明するための図である。
【図33】本実施の形態の二脚型移動装置の旋回動作について説明するための図である。
【図34】より大きな遠心力に対しても転倒しないで旋回できるように、重心側方移動手段を搭載した本発明の別の実施例を示す背面図である。
【図35】図34の一点鎖線で囲まれた領域(ホ)の部分を詳細に説明するための図である。
【図36】重心側方移動手段を搭載した本発明による二脚型移動装置の動作を説明するための図である。
【図37】本発明の実施例の他の変形例を説明するための図である。
【図38】図37に示す二脚型移動装置に重心側方移動手段を搭載した場合の、一脚支持による静止或いは移動時の状態を説明するための図である。
【図39】本発明の実施例の更なる変形例を説明するための図である。
【図40】図39に示す二脚型移動装置に重心側方移動手段を搭載した場合の、一脚支持による静止或いは移動時の状態を説明するための図である。
【図41】本発明の実施例の更なる変形例を説明するための図である。
【図42】本発明の実施例の更なる変形例を説明するための図である。
【図43】本発明の実施例の更なる変形例を説明するための図である。
【図44】従来の二脚型移動装置の構造を示す図である。
【図45】従来の二脚型移動装置が一定速度で障害物を跨ぐ際の動作を連続的に示す図である。
【図46】従来の二脚型移動装置が一定速度で階段を昇る際の動作を連続的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面に基づいてこの発明の実施の形態について説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。また、以下の実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0032】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
先ず、本発明の実施の形態の構成を説明する。図1は、本発明による二脚型移動装置の構成を説明するための全体図である。尚、図1aは二脚型移動装置を背面から俯瞰した図を、図1bは図1aを側面から俯瞰した図を、それぞれ示している。
【0033】
図1に示すとおり、二脚型移動装置は臀部10を備えている。臀部10には、第一の腿部11および第二の腿部12の一端が回動自在に固定されている。また、第一の腿部11および第二の腿部12の他端には、第一の脚部13および第二の脚部14の一端がそれぞれ回動自在に固定されている。また、第一の脚部13および第二の脚部14の他端には、第一の車輪機構15および第二の車輪機構16がそれぞれ固定されている。以下、第一の腿部11、第一の脚部13、および第一の車輪機構15で構成される脚を「第一の脚」と称し、第二の腿部12、第二の脚部14、および第二の車輪機構16で構成される脚を「第二の脚」と称することとする。
【0034】
また、図2は、本発明による二脚型移動装置の腿関節部分の構成を説明するための図である。尚、図2aは二脚型移動装置を背面から俯瞰した図を、図2bは図2a中の一点鎖線の囲み(イ)の部分を拡大表示した詳細図を、それぞれ示している。
【0035】
図2に示すとおり、臀部10には、各駆動機構を制御するための制御機構20が設けられている。また、臀部10と第一の腿部11とでなす腿関節には、関節軸aを軸に第一の腿部11を回転駆動する第一の腿駆動機構21が、臀部10と第二の腿部12とでなす腿関節には、関節軸bを軸に第二の腿部12を回転駆動する第二の腿駆動機構22が、それぞれ設けられている。各腿部11,12は臀部10に対して腿関節様の仕組みで結合され、対応した腿駆動機構21,22で少なくとも前後に独立に回転動作がなされる。
【0036】
また、図3は、本発明による二脚型移動装置の膝関節部分の構成を説明するための図である。尚、図3aは二脚型移動装置を背面から俯瞰した図を、図3bは図3a中の一点鎖線の囲み(ロ)の部分を拡大表示した詳細図を、それぞれ示している。
【0037】
図3に示すとおり、第一の腿部11と第一の脚部13とでなす膝関節には、関節軸cを軸に第一の脚部13を回転駆動する第一の脚駆動機構23が、第二の腿部12と第二の脚部14とでなす膝関節には、関節軸dを軸に第二の脚部14を回転駆動する第二の脚駆動機構24が、それぞれ設けられている。脚部13,14は、対応する腿部11,12といわゆる膝関節様の仕組みでそれぞれ結合され、対応した脚駆動機構により独立に前後方向に回転動作がなされる。尚、膝関節は片側に膝を突出する動作に限定されることなく、反対側にも同様の回転稼動が可能である。以下、膝関節を屈折させた姿勢について、当該移動装置の進行方向(或いは前方)に膝を突出する姿勢を「正膝」、進行方向と逆方向(或いは後方)に膝を突出する姿勢を「逆膝」、とそれぞれ称することとする。
【0038】
更に、図4は、本発明による二脚型移動装置の車輪部分の構成を説明するための図である。尚、図4aは二脚型移動装置を背面から俯瞰した図を、図4bは図4a中の一点鎖線の囲み(ハ)の部分の第一の脚部を拡大表示した詳細図を、図4cは図4a中の一点鎖線の囲み(ニ)の部分の第二の脚部を拡大表示した詳細図を、それぞれ示している。
【0039】
図4に示すとおり、第一の脚部13には、軸eを中心に第一の車輪機構15を回転駆動する第一の車輪駆動機構25が、第二の脚部14には、軸fを中心に第二の車輪機構16を回転駆動する第二の車輪駆動機構26が、それぞれ設けられている。一対の車輪機構15,16は、対応する脚部13,14と少なくとも前後に回転動作できるように結合され、対応した車輪駆動機構25,26により独立に回転駆動される。また図に示すように、各セットの車輪駆動機構25,26は左右に分離した車輪を持つ場合、旋回動作などの際に左右の車輪が別の回転動作ができるような構造になっている。
【0040】
尚、図2では腿駆動機構21,22が臀部10に固定されるような構造について説明したが、要は腿部11,12が臀部10に対して前後に回転動作できればよく、腿駆動機構21,22が腿部11,12側に固定される構造でもよい。
【0041】
また、図3では脚駆動機構23,24が脚部13,14に固定されるような構造について説明したが、要は脚部13,14がそれぞれ腿部11,12に対して前後に回転動作できればよく、脚駆動機構23,24が脚部13,14側に固定される構造でもよい。
【0042】
尚、本実施の形態の移動装置は、人間の男性に近いサイズを模擬して、車輪機構15,16の車輪サイズを8cm、脚部13,14のサイズ(車輪軸中心から膝関節軸の中心まで)を41cm(直立時の床面から膝関節中心高までを45cm)、腿部11,12のサイズ(膝関節軸の中心から腿関節の中心軸まで)を45cm(結果として、膝を伸ばして直立した際の床面から腿関節軸までの高さが90cm)、脚部13,14および腿部11,12の短手方向の部材幅を10cm、障害物や階段等と該移動装置の構造材との必要マージン(接地点を除く)を1cmと仮定して、以下の説明を行うこととする。
【0043】
[実施の形態1の動作]
次に、本発明の実施の形態1の基本動作について説明する。本発明の移動装置は、いわゆる車輪型の倒立振子の仕組みで移動する。尚、車輪型の倒立振子の基本制御については、種々の文献で公知となっているため、その詳細な説明は省略することとする。
【0044】
本発明の二脚型移動装置は、その動作姿勢として、第一の脚および第二の脚の膝関節を同じ方向に屈折させた第一のポジションと、第一の脚の膝関節と第二の脚のそれとを互いに異なる方向へ屈折させた第二のポジションとを実現することができる。また、本発明の二脚型移動装置は、何れのポジションにおいても、車輪機構15,16の何れか一方を接地させた状態で走行或いは静止する一脚支持と、車輪機構15,16の双方を接地させた状態で走行或いは静止する二脚支持と、を採ることができる。
【0045】
図5は、本発明による二脚型移動装置のいわゆる一脚支持による第一のポジションを示す図である。尚、図中の図5aは該移動装置の背面図を、図5bは該移動装置の側面図を、それぞれ示している。この図に示すとおり、第一のポジションでは、床面に接している車輪機構(この図では第一の車輪機構15)の接地点に、重心にかかる合成力のベクトル方向が一致するように車輪の回転を前後に制御しバランスを維持することとなる。
【0046】
尚、当該二脚型移動装置では、水平方向の重心位置が臀部10の中心(すなわち、腿関節の軸中心)にあることとして、以下の説明を行うこととする。このため、当該二脚型移動装置が等速度で走行(或いは静止)している場合には、重心にかかる合成力のベクトル方向が臀部10の中心(腿関節の軸中心)から鉛直下方向となる。
【0047】
また、この図では、床面に接している第一の車輪機構15を支える第一の脚部13の上に、床面に接していない他方の第二の車輪機構16を支える第二の脚部14を乗せることで、臀部10を強固に支えていることとしているが、支える重量に対して十分な保持力があれば第一の脚のみで臀部10を支えていても問題はない。
【0048】
図6は、本発明による二脚型移動装置のいわゆる一脚支持による第二のポジションの側面図を示す図である。この第二のポジションの場合も同様に、床面に接している車輪機構(この図では第一の車輪機構15)の接地点に重心にかかる合成力のベクトル方向が一致するように、車輪の回転を制御しバランスを維持することとなる。
【0049】
また、図7は、本発明による二脚型移動装置のいわゆる一脚支持による第一および第二のポジションにおいて、臀部10を最も低い位置にした場合の側面図を示す図である。尚、この図において、図7aは第一のポジションにおいて臀部10を最も低い位置にした場合の側面図を、図7bは第二のポジションにおいて臀部10を最も低い位置にした場合の側面図を、それぞれ示している。
【0050】
図8は、本発明による二脚型移動装置のいわゆる二脚支持による第一および第二のポジションの側面図を示す図である。尚、この図において、図8aは二脚支持による第一のポジションの側面図を、図8bは二脚支持による第二のポジションの側面図を、それぞれ示している。二脚支持による静止或いは走行時には、床面に接している前後2軸の車輪機構15,16の前後の接地点を結ぶ線と、重心にかかる合成力のベクトルが交差するように車輪の回転を制御すればよく、前後の車輪機構15,16の開き具合にもよるが、一脚支持による走行に比べるとバランスの制御は相当容易くなっている。但し、前後の車輪機構を離すに従って、走行に必要な接地面積が大きくなる。このため、当該移動装置の床面に対する占有面積が広がり、移動可能な場所が制約されてくるというというトレードオフがある。
【0051】
また、図9は、本発明による二脚型移動装置のいわゆる二脚支持による第一および第二のポジションにおいて、臀部10を最も低い位置にした場合の側面図を示す図である。尚、この図において、図9aは第二のポジションにおいて臀部10を最も低い位置にした場合の側面図を、図9bは第一のポジションにおいて臀部10を最も低い位置にした場合の側面図を、それぞれ示している。
【0052】
図10は、本発明による二脚型移動装置のいわゆる二脚支持による他のポジションの側面図を示す図である。この図に示すとおり、このポジションでは、第二のポジションにおいて第一の脚部13と第二の脚部14とをX状に交差させたポジション(以下、「第三のポジション」と称する)となっている。第三のポジションにおいても、上記二脚支持による第一および第二のポジションの場合と同様に、床面に接している前後2軸の車輪機構の前後の接地点を結ぶ線と、重心にかかる合成力のベクトル方向が交差するように車輪の回転を制御すればよい。
【0053】
図11は、本発明による二脚型移動装置のいわゆる休止時のポジションの一例を示す側面図である。この図に示すとおり、二脚型移動装置の休止時においては、腿部11,12の膝関節部が床に接地した状態で休止される。これにより、電源が切断されて駆動機構が脱力状態になった場合でも一定の安定した姿勢を保ち続けることができる。尚、かかる姿勢において床と接することとなる腿部11,12の膝関節部には、滑りにくいゴムなどの部材を使うことで、より安定した休止姿勢を保つことができる。
【0054】
このように、本発明による二脚型移動装置は、膝関節を進行方向の前方にも後方にも屈折可能にしたことで、静止時、走行時ともに多彩な姿勢(ポジション)を選択することができる。これにより、状況に応じた最適な姿勢の選択範囲を広げることができるので、より広範囲の条件の環境を走行することが可能となる。
【0055】
尚、ポジションの変更の一例として、第二のポジションから第一のポジションへの変更は、以下の手順で行うことができる。図12は、静止時に第二のポジションから第一のポジションへ移行する動作を連続的に示す側面図である。尚、図12aは、第二の脚を前方に振って、第二のポジションから第一のポジションへ移行する動作を、図12bは、第二の脚を後方に振って、第二のポジションから第一のポジションへ移行する動作を、それぞれ示している。また、図13は、一定速度で走行している場合に第二のポジションから第一のポジションへ移行する動作を連続的に示す側面図である。
【0056】
これらの図に示すとおり、第二のポジションから第一のポジションへ移行は、静止時であろうと走行時であろうと、また、第二の脚を前方に振り上げようとも後方に振り上げようとも、臀部10すなわち重心の移動を伴わずになめらかに行うことが可能であることがわかる。尚、これらの図では、第一の車輪機構15による一脚支持走行(或いは静止)時にポジションの入れ替え動作を行っているが、二脚支持による走行時(或いは静止時)には、先ず一脚支持の走行姿勢に移行して、その後に上述したポジション変更動作を実施することとすればよい。
【0057】
図14は、静止時に第二のポジションから第一のポジションへ移行する動作の他の例として、臀部10の上下方向の重心移動を更に伴う場合の移行動作を連続的に示す側面図である。尚、図14aは、第二の脚を前方に振って、第二のポジションから第一のポジションへ移行する動作を、図12bは、第二の脚を後方に振って、第二のポジションから第一のポジションへ移行する動作を、それぞれ示している。この図に示すポジション移行動作では、臀部10すなわち重心の上下動を伴う代わりに、移行動作に必要な前後の床スペースを、上述した図12および図13に示す動作の場合よりも小さくすることができる。
【0058】
[実施の形態1の特徴的動作]
次に、図15乃至図21を参照して、本実施の形態1の特徴的動作について説明する。本実施の形態の二脚型移動装置は、床面に存在する凸状の障害物を跨ぐ動作に特徴がある。図15は、本発明による二脚型移動装置において、断面が正方形の障害物を一定の速度で跨ぎ越す動作を連続的に示す側面図である。尚、この図に示す障害物は、正方形断面を有する障害物の中で、跨ぎ越すことが可能な最大サイズのものを図示している。また、この図においては、視認性の観点から、時点t2、t4、およびt6の姿勢の図示を省略して示している。また、図16は、図15における時点t3〜t5までの姿勢の変化を示す側面図である。以下、図15および図16を参照して、一連の跨ぎ越し動作を、順を追って説明する。
【0059】
先ず、図15に示すとおり、時点t0では、跨ぎ越しのアプローチの姿勢として、第一の車輪機構15を接地させた一脚支持において、第一および第二の脚の膝関節を何れも逆膝の姿勢とした第一のポジションに制御されている。時点t0からt3までの動作は、この一脚支持による第一のポジションにおいて一定速度で走行している状態から、第二の車輪機構16、第二の脚部14、および第二の腿部12で構成される第二の脚を前方に持ち上げるように制御する。そして、第二の車輪機構16が障害物を跨ぎ越した後に障害物に触れないように制御しつつ第二の脚が逆膝から正膝の姿勢へ移行するように、膝関節部を徐々に回転させていく。
【0060】
時点t3では、障害物に触れないように第一の車輪機構15を該障害物の約1cm程度手前で静止させ、同時に第二の車輪機構16を該障害物の奥側から1cm程度背離した地点に着地させて静止させる。時点t0〜t3の動作によって、時点t3では、第一の脚および第二の脚の膝関節をそれぞれ該障害物から背離する方向に屈折させた状態で、第一の車輪機構15を障害物の後方に、第二の車輪機構16を該障害物の前方に、それぞれ障害物に触れないように静止させた状態となる。
【0061】
次に、時点t3からt5までの期間は、図16に示すように、重心にかかる合成力のベクトルの方向(臀部10の中心)の水平位置が、時点t0〜t3までの移動速度と同じ等速度で、第一の車輪機構15の接地点から第二の車輪機構16の接地点まで移動される。この際、鉛直方向の重心移動が行われないように、すなわち臀部10が所定の鉛直位置に維持されるように、腿駆動機構21,22および脚駆動機構23,24が制御される。
【0062】
その後、図15における時点t5以降に示すように、障害物の前方(奥側)の第二の車輪機構16による一脚支持走行に移行し、障害物の後方(手前側)に残った第一の車輪機構15および第一の脚部13は、該第一の車輪機構15を後方に蹴り上げるように膝関節を回転させて、障害物に触れないように跨ぎ越してゆく。そして、第一の脚が障害物を跨ぎ越すまで第二の車輪機構16が移動したら、第一の脚の膝関節を前方に突き出すように回転させてゆく。
【0063】
このような一連の動作により、本実施の形態の二脚型移動装置では、両膝関節を進行方向に突出させる従来の姿勢によって跨ぎ越すことのできた障害物のサイズ(一辺が18cm角の正方形断面形状の障害物)の1.5倍以上に相当する一辺30cm角の断面形状の障害物を、一定の等速度でスムースに跨ぎ越すことが可能となった。
【0064】
ところで、上述した実施の形態1の移動装置では、第一のポジションにおいて一定速度で走行している状態から障害物を跨ぎ越すこととしているが、第二のポジションから障害物を跨ぎ越すこととしてもよい。図17は、本発明による二脚型移動装置によって、第二のポジションから障害物を跨ぎ越す動作を連続的に示す側面図である。尚、この図に示す障害物は、図15における障害物と同様のサイズのものを図示している。また、この図においては、視認性の観点から、時点t−1、t2、およびt4の姿勢の図示を省略して示している。
【0065】
この図に示すように、第二の脚が正膝となる姿勢で走行している場合、時点t−3から第二の腿部12を前方に振り上げ、膝関節を前方に振り上げつつ、第二の車輪機構16を地面に触れないように前方に振り出す。そして、第二の脚の膝関節を逆膝の姿勢に移行しつつ、第二の車輪機構16を障害物に触れることなく必要な高さまで振り上げる。このように多少手間はかかるが、第二のポジションによる走行からでも、一定速度で障害物を跨ぎ越すことが可能である。
【0066】
また、上述した実施の形態1の移動装置では、障害物を跨ぎ越して第一の車輪機構15を着地させると、第一および第二の脚が何れも正膝となる第一のポジションとなるため、次の障害物の跨ぎ動作にそのままスムースに移行することができない。そこで、例えば、以下の手順によって、障害物を跨ぎこした後の姿勢が第二のポジションとなるようにしてもよい。図18は、本発明による二脚型移動装置において、障害物を跨ぎ越した後に第二のポジションとなる動作を連続的に示す側面図である。尚、この図に示す障害物は、図12における障害物と同様のサイズのものを図示している。また、この図においては、視認性の観点から、時点t6の姿勢の図示を省略して示している。
【0067】
ここでは、時点t5以降において第一の脚が障害物を跨ぎ越す際に、該第一の脚の膝関節を逆膝に保ちつつ第一の腿部11を第一の脚部13および第一の車輪機構15と共に後方に振り上げる。そして、第二の車輪機構16での走行により障害物を跨ぎ越し、第一の脚の逆膝を維持しながら第一の腿部11を前方に振り下ろし、第一の車輪機構15を床に着地させている。
【0068】
この一連の動作により、障害物を跨ぎ越した後、第二のポジションに速やかに移行できるので、連続した障害物や、階段の昇り動作などが、素早く連続して実施できるようになる。
【0069】
また、上述した実施の形態1の移動装置では、断面形状が正方形となる障害物を跨ぎ越えることとしているが、他の障害物として、例えば薄く平坦で比較的広い面積の障害物も跨ぎ越えることもできる。図19は、本発明による二脚型移動装置において、薄く平坦で比較的広い面積の障害物を一定の速度で跨ぎ越す動作を連続的に示す側面図である。尚、この図に示す障害物は、2cm程度の薄く平坦な障害の中で、跨ぎ越すことが可能な最大幅のものを図示している。また、この図においては、視認性の観点から、時点t2、t4、およびt5の姿勢の図示を省略して示している。また、図20は、図19における時点t3〜t6までの姿勢の変化を示す側面図である。以下、図19および図20を参照して、一連の跨ぎ越し動作を、順を追って説明する。
【0070】
先ず、図19に示すとおり、時点t0では、跨ぎ越しのアプローチの姿勢として、第一の車輪機構15を接地させた一脚支持において、第一および第二の脚の膝関節を何れも逆膝の姿勢とした第一のポジションに制御されている。時点t0からt3までの動作は、この一脚支持による第一のポジションにおいて一定速度で走行している状態から、第二の車輪機構16、第二の脚部14、および第二の腿部12で構成される第二の脚を前方にわずかに持ち上げつつ膝関節を伸ばすように制御する。そして、第二の車輪機構16が障害物を跨ぎ越した後に障害物に触れないように制御しつつ、膝関節を略一直線状に伸ばした第二の脚を障害物に触れないように下降させてゆく。
【0071】
時点t3では、障害物に触れないように第一の車輪機構15を該障害物の約1cm程度手前で静止させ、同時に第二の車輪機構16を該障害物の奥側から1cm程度背離した地点に着地させて静止させる。時点t0〜t3の動作によって、時点t3では、第一の脚の膝関節を該障害物から背離する方向に屈折させ、且つ第二の脚の膝関節を略一直線上に伸ばした状態で、第一の車輪機構15を障害物の後方に、第二の車輪機構を該障害物の前方に、それぞれ障害物に触れないように静止させた状態となる。
【0072】
次に、時点t3からt6までの期間は、図20に示すように、重心にかかる合成力のベクトルの方向(臀部10の中心)の水平位置が、時点t0〜t3までの移動速度と同じ等速度で、第一の車輪機構15の接地点から第二の車輪機構16の接地点まで移動される。この際、鉛直方向の重心移動が行われないように、すなわち腿関節が所定の鉛直位置に維持されるように、腿駆動機構21,22および脚駆動機構23,24が制御される。
【0073】
その後、図19における時点t6以降に示すように、障害物の前方(奥方)の第二の車輪機構16による一脚支持走行に移行し、障害物の後方(手前側)に残った第一の車輪機構15および第一の脚部13は、該第一の車輪機構15を後方にやや持ち上げるように膝関節を回転させて、障害物に触れないように跨ぎ越してゆく。そして、第一の脚が障害物を跨ぎ越すまで第二の車輪機構16が移動したら、第一の車輪機構15および第一の脚部13を下ろすように第一の腿部11を回転させてゆく。この図では時点t8において第一の車輪機構15が着地し、車輪機構15,16の双方が接地した二脚支持の第二のポジションでの走行を開始している。
【0074】
このような一連の動作により、本実施の形態の二脚型移動装置では、約50cm超の幅を有する高さ2cm程度の平坦な障害物を一定の等速度でスムースに跨ぎ越すことが可能となった。
【0075】
また、上述した実施の形態1の移動装置では、断面形状が正方形となる障害物を跨ぎ越えることとしているが、他の障害物として、例えば断面形状が三角形となる障害物も跨ぎ越えることもできる。図21は、本発明による二脚型移動装置において、断面形状が三角形となる障害物を一定の速度で跨ぎ越す動作を連続的に示す側面図である。尚、この図に示す障害物は、三角形断面を有する障害物の中で、跨ぎ越すことが可能な最大サイズのものを図示している。また、この図においては、視認性の観点から、時点t4およびt5の姿勢の図示を省略して示している。一連の動作についての記載は省略するが、本実施の形態の二脚型移動装置では、底辺33cmおよび高さ25cm程度の断面を有する三角形の障害物を一定の等速度でスムースに跨ぎ越すことが可能となった。
【0076】
実施の形態2.
[実施の形態2の特徴]
次に、図22乃至図28を参照して、本実施の形態2の特徴的動作について説明する。 本実施の形態2の二脚型移動装置は、階段を昇る動作に特徴がある。図22は、本発明による二脚型移動装置が一定の速度で階段を昇る動作を連続的に示す側面図である。尚、この図に示す階段は、ステップ高20cm、ステップ前後幅20cm、昇降角度45°のいわゆる人間の住環境に一般的に存在するサイズのものを図示している。また、この図における水平方向への移動は一定速度とし、各時点間の水平移動距離は10cm、すなわち時速3.6km/hを想定している。また、この図においては、視認性の観点から臀部10の図示を適宜省略して示している。
【0077】
図22に示すとおり、階段を昇る場合には、先ず、第一および第二の脚の膝関節を何れも逆膝とした第一のポジションを採って、時点t0まで水平方向へ一定速度で走行する。次に、時点t0〜t3では、水平方向へ移動しつつ第一の脚の膝関節を徐々に伸ばすことで、階段の傾斜角度(45°)に平行な方向への昇運動にスムースに移行し、その後の時点t3〜t8までの階段昇り運動につなげている。更に、時点t8〜t12では、4段目のステップを昇る動作から第一の車輪機構15を接地させた第一のポジションでの等速走行へスムースに移行している。このように、膝関節を段差の後方に突出させた逆膝の姿勢を採ることで、水平走行から、階段を昇って再び水平走行をするまでの一連の走行をスムースに実行できるようになった。
【0078】
図23は、図22における時点t4〜t8までの姿勢の変化を詳細に示す側面図である。また、図24は図23における時点t4〜t5までの姿勢の変化を、図25は図23における時点t5〜t6までの姿勢の変化を、図26は図23における時点t6〜t7までの姿勢の変化を、図27は図23における時点t7〜t8までの姿勢の変化を、それぞれ詳細に示す側面図である。以下、図23乃至図27を参照して、一周期分(時点t4〜t8の期間)の階段昇り動作を、順を追って説明する。
【0079】
先ず、図24を参照して、時点t4〜t5までの動作を最初のフェーズとして説明する。この期間は、第二の車輪機構16で階段の手前から奥まで一脚での等速車輪走行を行いつつ、臀部10すなわち重心を階段の傾斜に平行な昇方向に一定速度で昇らせるように、第二の脚の膝関節を徐々に伸ばすこととしている。また、この間に第一の脚は、階段に各部が衝突しないように股関節および膝関節の回転角度を調整しながら、該第二の脚のステップより一段下となるステップから一段上となるステップ上へ運ばれる。
【0080】
次に、図25を参照して、時点t5〜t6までの動作を二番目のフェーズとして説明する。この期間は、第二の車輪機構16が階段のステップの奥まで走行して静止し、且つ第一の車輪機構15が階段の一段上のステップの手前側に着地した時点(時点t5)から、臀部10すなわち重心を階段の傾斜に平行な昇方向に一定速度で昇らせるように、第一および第二の脚の膝関節および腿関節を制御している。この間に、臀部10すなわち重心に対する合成力のベクトルの水平位置は、第二の車輪機構16の接地点から、第一の車輪機構15の接地点まで移動することになる。
【0081】
次に、図26を参照して、時点t6〜t7までの動作を三番目のフェーズとして説明する。この期間は、最初のフェーズと脚の動作が入れ替わり、第一の車輪機構15で階段の手前から奥まで一脚での等速車輪走行を行いつつ、臀部10すなわち重心を階段の傾斜に平行な昇方向に一定速度で昇らせるように、第一の脚の膝関節を徐々に伸ばすこととしている。また、この間に第二の脚は、階段に各部が衝突しないように股関節および膝関節の回転角度を調整しながら、該第一の脚のステップよりも一段下となるステップから一段上となるステップ上へ運ばれる。
【0082】
次に、図27を参照して、時点t7〜t8までの動作を四番目のフェーズとして説明する。この期間は、二番目のフェーズと脚の動作が入れ替わり、第一の車輪機構15が階段のステップの奥まで走行して静止し、且つ第二の車輪機構16が階段の一段上のステップの手前側に着地した時点(時点t7)から、臀部10すなわち重心を階段の傾斜に平行な昇方向に一定速度で昇らせるように、第一および第二の脚の膝関節および腿関節を制御している。この間に、臀部10すなわち重心に対する合成力のベクトルの水平位置は、第一の車輪機構15の接地点から、第二の車輪機構16の接地点まで移動することになる。
【0083】
これらの一番目から四番目までのフェーズを繰り返し実行することで、臀部10すなわち重心を階段の傾斜に沿ってスムースに一定速度で昇らせつつ階段を昇る一連の動作が、必要なだけ継続されることとなる。
【0084】
ところで、上述した実施の形態2の移動装置では、人間の住環境に一般的に存在するサイズの階段(ステップ高20cm、ステップ前後幅20cm、昇降角度45°)を例にとって、その昇動作について説明したが、更に急勾配の階段を昇ることもできる。図28は、本発明による二脚型移動装置が一定の速度で急勾配の階段を昇る動作を連続的に示す側面図である。尚、この図に示す階段は、ステップ高20cm、ステップ前後幅12cmのものを図示している。この図に示す階段の昇動作では、一番目および三番目のフェーズで移動する水平距離は5cm、二番目および四番目で水平移動する距離は7cmとなる。このため、一番目および三番目のフェーズに要する時間と、二番目および四番目のフェーズ要する時間との比率を、そのフェーズで移動する水平移動距離と同じ比率(この場合5:7)にすることで、臀部10すなわち重心を階段の傾斜に沿って平行に一定速度で昇らせることができる。このように、本発明による二脚型移動装置によれば、人間が生活する住環境における現実的な様々な傾斜の階段を、一定速度で臀部10すなわち重心を傾斜に沿ってスムースに移動させながら昇ることが可能である。
【0085】
実施の形態3.
[実施の形態3の特徴]
次に、図29乃至図31を参照して、本実施の形態3の特徴的動作について説明する。 本実施の形態3の二脚型移動装置は、車輪機構を持たない二脚型の移動装置において、障害物を跨ぐ或いは階段を昇る動作に特徴がある。図29は、本発明による二脚型の移動装置の構成を説明するための全体図である。尚、図29aは当該移動装置を背面から俯瞰した図を、図29bは図29aを側面から俯瞰した図を、それぞれ示している。
【0086】
この図に示すとおり、図29に示す移動装置は、図1に示す車輪機構15,16に替えて、第一および第二の足部17,18を備えている点、および図4に示す車輪駆動機構25,26を備えていない点以外は、図1に示す移動装置と同様の構成を有している。足部17,18は、脚部13,14が床面上で滑ることを防止するために設けられた部材であって、ゴム等で構成されている。このため、脚部13,14自体が滑りにくい部材で構成されている場合等には、足部17,18を設けないこととしてもよい。
【0087】
次に、図30を参照して、本実施の形態3の二脚型の移動装置が障害物を跨ぎ越す動作について説明する。図30は、本発明による二脚型の移動装置において、断面が正方形の障害物を跨ぎ越す動作を連続的に示す側面図である。尚、この図に示す障害物は、図15に示す正方形断面を有する障害物と同様のサイズのものを図示している。
【0088】
先ず、図30に示すとおり、時点t0では、跨ぎ越しのアプローチの姿勢として、第一および第二の脚の膝関節を何れも後方に突出させて逆膝の姿勢とした第一のポジションに制御されている。また、この時点において、重心にかかる合成力のベクトルの方向(ここでは、臀部10の中心)の水平位置は、第二の足部18の接地点に位置している。
【0089】
時点t0からt1までの期間は、図30に示すように、重心にかかる合成力のベクトルの方向(臀部10の中心)の水平位置が第二の足部18の接地点から第一の足部17の接地点まで移動される。この際、鉛直方向の重心移動が行われないように、すなわち腿関節が所定の鉛直位置に維持されるように、腿駆動機構21,22および脚駆動機構23,24が制御される。
【0090】
時点t1からt2までの期間は、図30に示すように、第二の脚を一歩前に踏み出した後に、重心にかかる合成力のベクトルの方向(臀部10の中心)の水平位置が第一の足部17の接地点から第二の足部18の接地点まで移動される。この際、時点t0からt1までの期間と同様に、鉛直方向の重心移動が行われないように、すなわち腿関節が所定の鉛直位置に維持されるように、腿駆動機構21,22および脚駆動機構23,24が制御される。
【0091】
時点t2からt3までの期間は、図30に示すように、第一の脚を一歩前に踏み出した後に、重心にかかる合成力のベクトルの方向(臀部10の中心)の水平位置が第二の足部18の接地点から第一の足部17の接地点まで移動される。この際、第一の脚の膝関節を伸ばすことにより臀部10を一旦持ち上げて、その間に膝関節が屈折した第二の脚を前方に持ち上げるように制御する。そして、第二の足部18が障害物を跨ぎ越した後に障害物に触れないように制御しつつ第二の脚が逆膝から正膝の姿勢へ移行するように、膝関節部を徐々に回転させていく。
【0092】
時点t3からt5までの期間は、図30に示すように、重心にかかる合成力のベクトルの方向(ここでは、臀部10の中心)の水平位置が、第一の足部17の接地点から第二の足部18の接地点まで移動される。この際、鉛直方向の重心移動が行われないように、すなわち腿関節が所定の鉛直位置に維持されるように、腿駆動機構21,22および脚駆動機構23,24が制御される。
【0093】
このような一連の動作により、本実施の形態の二脚型の移動装置では、鉛直方向の重心移動および移動速度の変化を伴うこととなるが、上述した実施の形態1における障害物と同等の大きさの障害物を跨ぐことができる。
【0094】
次に、図31を参照して、本実施の形態3の二脚型の移動装置が階段を昇る動作について説明する。図31は、本発明による二脚型の移動装置が階段を昇る動作を連続的に示す側面図である。尚、この図に示す階段は、図22に示す階段と同じサイズのものを図示している。以下、この図を参照し一周期分(時点t4〜t8の期間)の階段昇り動作を、順を追って説明する。
【0095】
図31に示すとおり、時点t4では、階段を昇る姿勢として、第一および第二の脚の膝関節を何れも逆膝とした第一のポジションに制御されている。また、この時点において、第二の脚が第一の脚よりも一段上となるステップ上に接地し、且つ、重心にかかる合成力のベクトルの方向(臀部10の中心)の水平位置は、第二の足部18の接地点に位置している。
【0096】
時点t4からt5までの期間は、階段に各部が衝突しないように股関節および膝関節の回転角度を調整しながら、第一の脚が第二の脚のステップより一段上となるステップ上へ運ばれる。次に、時点t5からt6までの期間は、臀部10すなわち重心を階段の傾斜に平行な昇方向に一定速度で昇らせるように、第一および第二の脚の膝関節および腿関節が制御される。この間に、臀部10すなわち重心に対する合成力のベクトルの水平位置は、第二の足部18の接地点から、第一の足部17の接地点まで移動することになる。時点t6からt8の期間は、第一の脚と第二の脚との動作を入れ替えて、上述した時点t4からt6までの期間と同様の動作が実行される。
【0097】
このように、時点t4〜t8までの動作を繰り返し実行することで、移動速度の変化を伴うこととなるが、上述した実施の形態1における階段と同サイズの階段を臀部10すなわち重心を階段の傾斜に沿って昇らせることができる。
【0098】
実施の形態4.
[実施の形態4の特徴]
次に、図32および図33を参照して、本実施の形態4の特徴的動作について説明する。本実施の形態4の二脚型移動装置は、発進、停止、および旋回する動作に特徴がある。先ず、図32を参照して、二脚型移動装置が発進および停止するための動作について説明する。
【0099】
本発明の移動装置で静止姿勢から移動する場合には、接地している車輪機構により前進することになる。ところが、全体の重心は車輪機構の遥か上方(およそ1m程度上方)にあり、倒立振子なので支持点(車輪機構が床と接地している点)を前に移動することで、重心には重力の後方への分力が働き、結果としてバランスを失い後方へ倒れてしまうことになる。
【0100】
このことより、車型の倒立振子移動機構では、発進ないしは加速時には、先ず一端車輪機構をわずかに後に移動させ(走行時は速度を一瞬わずかに減速し)、等速運動中の重心に重力による前方への水平分力を発生させる。その後、この前方への分力により重心が前方へ倒れようとする速度が発生するので、それを打ち消す程度の速度で車輪機構を前方へ移動(加速)させ、丁度所望の速度を得た時点で、重心にかかる合成力のベクトルが、支持している車輪機構の支持点を指すように制御する必要がある。
【0101】
停止あるいは減速時には、その逆に、先ず一端車輪機構の速度を一瞬わずかに加速し、等速運動中の重心に重力による後方への水平分力を発生させる。その後、この後方への分力により重心が後方へ倒れようとする加速度が発生するので、それを打ち消す程度の加速度で車輪機構を減速させ、丁度所望の速度(静止は速度0)を得た時点で、重心にかかる合成力のベクトルが、支持している車輪機構の支持点を指すように制御する必要がある。
【0102】
これに対して、2脚での走行姿勢を取り入れることで、車輪機構に逆方向の動作をさせることなく、二脚型移動装置の発進、加速、停止、或いは減速を行うこともできる。図32は、二脚型移動装置の発進、加速、停止、或いは減速の原理を説明するための図である。尚、図32aは、貨物を搭載した二脚型移動装置が、2脚が接地した第一のポジションでの定速度走行(静止状態も含む)をしている状態の重心と重力による力ベクトルを図示した側面図を、図32bは当該移動装置が図15aの状態から、第二の車輪機構16(進行方向の前側の車輪機構)を少し持ち上げて、第二の脚をいわゆる遊脚状態にした直後の重心と重力による力ベクトルを図示した側面図を、図32cは当該移動装置が図32aの状態から、第一の車輪機構15(進行方向の後側の車輪機構)を少し持ち上げて、第一の脚をいわゆる遊脚状態にした直後の重心と重力による力ベクトルを図示した側面図を、それぞれ示している。
【0103】
図32aに示すように、2脚が接地した第一のポジションでの安定走行乃至静止している時においては、重心に対する合成力のベクトルが、第一の車輪機構15の接地点と第二の車輪機構16の接地点とのほぼ中間点を指している。この状態で、図32bに示すようにわずかに第二の車輪機構16(前方の車輪機構)を持ち上げると、支持点は第一の車輪機構15(後方の車輪機構)の接地点に移るため、結果として重心には重力の合成力の前方への水平分力が発生する。この前方への分力を打ち消すように利用することで、加速乃至発進動作が実現される。そして、所望の速度に達した時点で浮かせておいた前方の車輪機構を床に設置させることで、重心にかかる合成力のベクトルが前後の車輪機構の接地点の間を指している限り、安定した等速運動が実現される。
【0104】
一方、図32aの状態での等速走行中に第一の車輪機構15(後方の車輪機構)をわずかに持ち上げると、支持点が第二の車輪機構16(前方の車輪機構)の接地点に移動するため、重心には重力により後方への水平分力が発生する。この後方への分力を打ち消すように利用することで、減速ないしは停止の動作が実現される。そして、車輪機構の速度を減速して所望の速度になった時点で浮かせておいた後方の車輪機構を床に接地させることで、重心にかかる合成力のベクトルが、前後の車輪機構の設置点の間を指している限り、安定した等速運動ないしは静止姿勢が実現される。
【0105】
このように、本発明による二脚型移動装置では、一輪の倒立振子型の移動手段に比べると、より許容範囲が広い制御範囲で発進停止、加減速が実現される。
【0106】
次に、図33を参照して、二脚型移動装置の旋回動作について説明する。図33は、本実施の形態の二脚型移動装置の旋回動作について説明するための図である。尚、図33aは、貨物を搭載した二脚型移動装置が、その重心を半径rの曲線軌道に沿って一定速度で旋回しようとしている様子を上方から俯瞰し重心にかかる遠心力を併せて示した図である。また、図33bは図33aの状態を後方から重心にかかる遠心力と重力の合成力を併せて示した図である。
【0107】
この図に示したように、旋回動作自体は、床に接している外輪と内輪との速度差を作ることで任意の半径の重心の旋回軌道を実現することができる。つまり外輪軌道の半径と内輪軌道の半径との比はそれぞれの速度の比となる。このように、任意の半径の旋回軌道は実現されるが、実際の旋回時には、重心の旋回軌道の半径に応じて重心に遠心力が働き、その大きさは、おおよそ速度の2乗と軌道半径rの逆数に比例することが知られている。
【0108】
この旋回時に重心に働く遠心力とその他の力すなわち等角速度走行では、主に重力が形成する重心にかかる合成力のベクトルの指し示す方角が、内側と外側の車輪機構が床と設置している点を結んだ直線上の範囲内に入っていれば、問題なく旋回動作が実行できる。
【0109】
以上のように、本発明に基づく二脚型移動装置により、同一サイズの従来品と比較してコストを増やすことなく、平面、階段、段差、より大きなサイズの跨ぎこすべき障害物などが存在しても、積載する貨物の重心を一定の速度で滑らかにスムースに発進、加速、減速、停止、旋回などの動作を含めて移動することが達成できる。これにより、人間が生活する住空間のより広範囲な条件の中で自由に移動できる装置が低コストに実現できる。
【0110】
[本発明の他の変形例]
次に、図34乃至図43を参照して、本発明の実施例の変形例について説明する。本発明において、旋回行動中に、速度が速かったり、軌道半径が小さかったりすると、遠心力の成分が大きくなり、この合成力の指し示す方角が外側の車輪機構が床と接地している点の外側になってしまい、結果としてこの移動装置は旋回軌道の外側に転倒してしまうことになる。
【0111】
図34は、より大きな遠心力に対しても転倒しないで旋回できるように、重心側方移動手段を搭載した本発明の別の実施例を示す背面図である。また、図35は、図34の一点鎖線で囲まれた領域(ホ)の部分を詳細に説明するための図である。尚、図35中の図35aは領域(ホ)の部分を拡大した側面図を、図35bは領域(ホ)の部分を拡大した背面図を、図35cは一点鎖線で囲まれた領域(ヘ)の部分を拡大した背面図および該背面図のA−A´線で切断した断面図を、それぞれ示している。
【0112】
これらの図において、30は貨物を搭載するベースとなるステージ、31は第一の平歯車、32は第二の平歯車、33は螺旋状の歯車、34は歯車33と螺合する板歯の構造物、35は重心側方移動用の駆動機構である。駆動機構35は臀部10に固定されている。また、ステージ30は臀部10に切ってある溝と噛み合って、側面方向にのみ移動できるようにはめ込まれている。また、板歯の構造物34はステージ30の裏側に固定されている。更に、螺旋歯車33と第二の平歯車32とは互いに固定され、必要な回転のみ許されるように臀部10に装着されている。
【0113】
この図において、駆動機構35を回転させるとそれに接続された平歯車31が回転しその回転が螺合先の平歯車32へ伝わり、それと固着されている螺旋歯車33を回転させることになる。螺旋歯車33が回転することでステージ30に固着され螺旋歯車33と噛み合っている板歯34は図35bの左右方向へ移動することになり当然それに固着されているステージも左右方向に移動されることになる。このように駆動機構35の回転を制御することでステージ30の側面方向への移動を実現している。
【0114】
尚、図34,35では、板歯34がステージ30に固定され、それ以外の構成要素である第一の平歯車31,第二の平歯車32,螺旋状の歯車33,駆動機構35が臀部10に固定される例について説明したが、要はステージ30が臀部10に対して側面方向に移動動作できればよく、板歯34を臀部10に固定し、第一の平歯車31,第二の平歯車32,螺旋状の歯車33,駆動機構35がステージ30側に固定される構造でもよい。
【0115】
図36は、重心側方移動手段を搭載した本発明による二脚型移動装置の動作を説明するための図である。尚、この図中の図36aは、重心側方移動手段を搭載した本発明による二脚型移動装置が貨物を搭載し、半径r’の曲線軌道に沿って一定速度で旋回しようとしている様子を上方から俯瞰し重心にかかる遠心力を併せて示した図である。また、図36bは、図36aの状態を後方から俯瞰し重心にかかる遠心力と重力の合成力を併せて示した図である。この図に示すように、重心側方移動手段を備えることで、旋回動作時にステージ30を旋回軌道の内側へスライドさせることができる。これにより、重心にかかる合成力のベクトルも内側に平行移動し、結果として外側の車輪の更に外側の方向を指していた合成力のベクトルの方向を、外側の車輪の床との接地点の内側に移動させられるケースが出現する。このように、重心側方移動手段を搭載することで、より速い速度、より小さい半径の旋回軌道での旋回動作が可能となる。
【0116】
図37は、本発明の実施例の他の変形例を説明するための図である。尚、この図中の図37aおよび図37bは、本発明の変形例としての二脚型移動装置の背面図および側面図をそれぞれ示している。この変形例では、車輪機構15,16の外輪と内輪との距離がぐっと短くなり、結果として脚部の両側に接近して車輪機構が配置されている構造になる。この構造では、一脚支持での走行時或いは静止時において、重心にかかる重力による合成力のベクトル方向が支持している車輪機構の外輪と内輪との間から外れてしまい、結果として転倒することになってしまう。このため、重心の側方移動手段の搭載が必要である。
【0117】
図38は、図37に示す二脚型移動装置に重心側方移動手段を搭載した場合の、一脚支持による静止或いは移動時の状態を説明するための図である。尚、この図中の図38aおよび図38bは、当該二脚型移動装置の背面図および側面図を、それぞれ示している。この図からも分かるとおり、重心側方移動手段を駆動することにより安定した立位を保つことができる。これにより、様々な必要な動作が可能な上に、車輪機構間の距離が短いことで立位に必要な設置床面積も狭くて良く、結果として人間の片足立ちと同様のスペースがあれば障害物を跨ぎ越して移動することができる。結果としてより広い条件下での移動を可能にするという利点が生じる。
【0118】
図39は、本発明の実施例の更なる変形例を説明するための図である。尚、この図中の図39aおよび図39bは、本発明の変形例としての二脚型移動装置の背面図および側面図をそれぞれ示している。この図に示す移動装置では、車輪機構15,16の車輪が完全に一輪になるので、立位の姿勢を保つためには重心を側方に移動させるための方策が必須になる。
【0119】
図40は、図39に示す二脚型移動装置に重心側方移動手段を搭載した場合の、一脚支持による静止或いは移動時の状態を説明するための図である。尚、この図中の図40aおよび図40bは、当該二脚型移動装置の背面図および側面図を、それぞれ示している。この図からも分かるとおり、重心測方移動手段を搭載することで、上述した図37および図38に示す二脚型移動装置と同様の効果を奏することが可能である。
【0120】
図41は、本発明の実施例の更なる変形例を説明するための図である。尚、この図中の図41aおよび図41bは、本発明の変形例としての二脚型移動装置の背面図および側面図をそれぞれ示している。この変形例の移動装置は一輪での走行なので装置全体を側方に傾けることができる。これにより、傾かせた形で重心をつりあわせることができるので、上記重心側方移動手段を搭載した移動装置と同様の効果を奏することが可能である。また、この図41に示す実施例では着床している面積が最も小さいので、立位における必要な床面積は最も小さくなるという利点がある。
【0121】
図42は、本発明の実施例の更なる変形例を説明するための図である。尚、この図中の図42aおよび図42bは、本発明の変形例としての移動装置の背面図および側面図をそれぞれ示している。この変形例の移動装置は、図40に示す二脚型移動装置の車輪機構15,16を足部17,18に入れ替えた構造を有している。このように、車輪機構15,16を有していなくても、重心測方移動手段を搭載することで、上述した図40に示す二脚型移動装置と同様の効果を奏することが可能である。
【0122】
図43は、本発明の実施例の更なる変形例を説明するための図である。尚、この図中の図43aおよび図43bは、本発明の変形例としての移動装置の背面図および側面図をそれぞれ示している。この変形例の移動装置は、図41に示す二脚型移動装置の車輪機構15,16を足部17,18に入れ替えた構造を有している。このように、車輪機構15,16を有していなくても、装置全体を傾けることで、上述した図41に示す二脚型移動装置と同様の効果を奏することが可能である。
【符号の説明】
【0123】
10 臀部
11 第一の腿部
12 第二の腿部
13 第一の脚部
14 第二の脚部
15 第一の車輪機構
16 第二の車輪機構
17 第一の足部
18 第二の足部
20 制御機構
21 第一の腿駆動機構
22 第二の腿駆動機構
23 第一の脚駆動機構
24 第二の脚駆動機構
25 第一の車輪駆動機構
26 第二の車輪駆動機構
30 ステージ
31 第一の平歯車
32 第二の平歯車
33 螺旋状の歯車
34 板歯の構造物
35 駆動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
角度自在に屈折可能な膝関節を有する第1および第2の脚と、
前記第1および第2の脚の根元の関節(以下、腿関節)をそれぞれ回動自在に支持する臀部と、
前記膝関節の屈折角度および前記腿関節の回転角度をそれぞれ制御して、進行方向の床上に設けられた凸状の障害物を跨ぎ越す跨ぎ越し制御手段と、を備え、
前記跨ぎ越し制御手段は、前記第2の脚を前記障害物の後方側に接地させた状態で前記第1の脚を前記障害物の上方へ振り出して該障害物を跨ぐ場合に、前記第2の脚の膝関節を後方へ突出させた姿勢に制御することを特徴とする二脚型移動装置。
【請求項2】
前記跨ぎ越し制御手段は、
前記第1の脚を前記障害物の上方へ振り出して該障害物を跨ぐ場合に、前記第1の脚の膝関節を前方へ突出させた姿勢で該第1の脚を前記障害物の前方側へ接地させることを特徴とする請求項1記載の二脚型移動装置。
【請求項3】
前記第1および第2の脚は、その先端に配置された第1および第2の車輪機構をそれぞれ含み、該第1および/または第2の車輪機構を駆動することにより床面上の走行を可能とし、
前記跨ぎ越し制御手段は、
前記臀部の重心の水平位置を前記第2の脚の接地点に一致させた状態で、前記第2の車輪機構を駆動して所定の等速度で走行しつつ前記第1の脚を持ち上げて前記障害物を跨ぎ、該第1の脚を前記障害物の前方側へ接地させる第1の動作を行う手段と、
前記第1の動作により前記第1の脚が接地したときに前記第2の車輪機構を停止して、前記膝関節および前記腿関節を制御して前記重心の水平位置を前記第2の脚の接地点から前記第1の脚のそれに前記所定の等速度で移動させる第2の動作を行う手段と、
前記第2の動作により前記重心の水平位置が前記第1の脚の接地点に一致したときに、前記第1の車輪機構を駆動して前記所定の等速度で走行しつつ前記第2の脚を持ち上げて前記障害物を跨ぎ越える第3の動作を行う手段と、
を含むことを特徴とする請求項1または2記載の二脚型移動装置。
【請求項4】
前記跨ぎ越し制御手段は、前記障害物を跨ぎ越える場合に、前記臀部の重心の上下方向の位置を一定に維持するように前記膝関節および前記腿関節を制御することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の二脚型移動装置。
【請求項5】
前記跨ぎ越し制御手段の実行に先立って、前記第2の脚の膝関節を後方へ突出させる姿勢に制御する手段を更に備えることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の二脚型移動装置。
【請求項6】
前記膝関節の屈折角度および前記腿関節の回転角度をそれぞれ制御して、階段の段差を順に昇る階段昇降制御手段を更に備え、
前記階段昇降制御手段は、前記第1および第2の脚の膝関節を後方に突出させた姿勢で前記階段の段差を昇ることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項記載の二脚型移動装置。
【請求項7】
前記階段昇降制御手段は、
前記臀部の重心の水平位置を前記第2の脚の接地点に一致させた状態で前記第1の脚を持ち上げて、前記第1の脚が接地している面よりも上の段差面へ接地させる第1の昇動作を行う手段と、
前記第1の昇動作により前記第1および第2の脚がそれぞれ接地した状態で、前記膝関節および前記腿関節を制御して前記重心の水平位置を前記第2の脚の接地点から前記第1の脚のそれに移動させる第2の昇動作を行う手段と、を含み、
前記第1の昇動作および前記第2の昇動作を、前記第1の脚と前記第2の脚とを入れ替えて交互に実行することにより前記階段の段差を順に昇ることを特徴とする請求項6記載の二脚型移動装置。
【請求項8】
前記第1および第2の脚は、その先端に配置された第1および第2の車輪機構をそれぞれ含み、該第1および/または第2の車輪機構を駆動することにより床面上の走行を可能とし、
前記階段昇降制御手段は、
前記第1の昇動作において、前記車輪機構を用いて水平方向へ移動しつつ前記膝関節および前記腿関節を制御して前記臀部を鉛直方向へ持ち上げることにより、前記臀部の重心を所定の第2の等速度で前記階段の傾斜に平行な方向に移動させる手段と、
前記第2の昇動作において、前記膝関節および前記腿関節を制御して前記臀部の重心を前記第2の等速度で前記階段の傾斜に平行な方向に移動させる手段と、
を更に含むことを特徴とする請求項7記載の二脚型移動装置。
【請求項9】
前記階段昇降制御手段の実行に先立って、前記第1および第2の脚の膝関節を後方へ突出させる姿勢に制御する手段を更に備えることを特徴とする請求項6乃至8の何れか1項記載の二脚型移動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【公開番号】特開2011−255426(P2011−255426A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129014(P2010−129014)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(506209422)地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター (134)
【Fターム(参考)】